(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162485
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】キャンバー角測定器
(51)【国際特許分類】
G01B 5/255 20060101AFI20241114BHJP
G01M 17/04 20060101ALI20241114BHJP
B62D 17/00 20060101ALN20241114BHJP
【FI】
G01B5/255
G01M17/04
B62D17/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078026
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】515086908
【氏名又は名称】株式会社トヨタプロダクションエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】西地 和馬
【テーマコード(参考)】
2F062
3D203
【Fターム(参考)】
2F062AA71
2F062AA77
2F062BC42
2F062CC27
2F062EE01
2F062EE62
3D203DA12
3D203DA13
3D203DA15
3D203DA71
3D203DA85
3D203DA87
(57)【要約】
【課題】 懸架ユニットのキャンバー角の測定を他の場所に移し替えることなく行うことができるキャンバー角測定器を提供する。
【解決手段】 本発明のキャンバー角測定器は、緩衝器と軸受を備える懸架ユニットにおける緩衝器の軸中心と車輪の回転中心とのなす角であるキャンバー角を測定するキャンバー角測定器であって、軸受の軸穴に挿通されるシャフト部と、シャフト部の第1先端部に設けられ、軸受の一方の端面に当接して係止されるストッパ部と、シャフト部に挿通されて、軸受の他方の端面に当接する当接面を有する軸受当て部と、軸受当て部の当接面に対して垂直方向に延びるガイドレールを備え、当接面とは反対側の軸受当て部の端面に固定されるフレーム部と、ガイドレールに案内され垂直方向に移動するスライダに取り付けられ、緩衝器の側面の傾きに沿って当接させることで傾く測定片を備える角度計と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の路面からの衝撃を吸収する緩衝器と、車輪を支持する軸受と、を備える車輪の懸架ユニットにおける前記緩衝器の軸中心と前記車輪の回転中心とのなす角であるキャンバー角を測定するキャンバー角測定器であって、
前記軸受の軸穴に挿通されるシャフト部と、
前記シャフト部の第1先端部に設けられ、前記軸受の一方の端面に当接して係止されるストッパ部と、
前記シャフト部に挿通されて、前記軸受の他方の端面に当接する当接面を有する軸受当て部と、
前記軸受当て部の前記当接面に対して垂直方向に延びるガイドレールを備え、前記当接面とは反対側の前記軸受当て部の端面に固定されるフレーム部と、
前記ガイドレールに案内され前記垂直方向に移動するスライダに取り付けられ、前記緩衝器の側面の傾きに沿って当接させることで傾く測定片を備える角度計と、
を備えることを特徴とするキャンバー角測定器。
【請求項2】
前記測定片は、前記軸受当て部の前記当接面に対して平行に予め調整され、
前記角度計は、前記測定片を前記緩衝器の側面の傾きに沿って当接させることで傾く前記測定片の傾きを測定することを特徴とする請求項1に記載のキャンバー角測定器。
【請求項3】
前記調整は、第1基準面と前記第1基準面に平行となる第2基準面とを備える治具を用いて行われ、
前記軸受当て部の前記当接面は、前記第1基準面に当接し、
前記測定片は、前記第2基準面に当接することで、前記軸受当て部の前記当接面に対して平行に調整されることを特徴とする請求項2に記載のキャンバー角測定器。
【請求項4】
前記フレーム部は、前記シャフト部が貫通する貫通穴を備え、
前記シャフト部は、前記第1先端部とは異なる第2先端部に雄ねじ部を形成するとともに、前記フレーム部の前記貫通穴から突出した前記雄ねじ部に螺着して前記フレーム部を押圧し、前記ストッパ部と共に、前記軸受、前記軸受当て部、及び前記フレーム部とを挟持して締め付けるナット部を、さらに備えることを特徴とする請求項1に記載のキャンバー角測定器。
【請求項5】
前記ストッパ部は前記シャフト部の前記第1先端部に取り付けられた閂棒部材であることを特徴とする請求項1に記載のキャンバー角測定器。
【請求項6】
前記閂棒部材は、前記シャフト部に回転自在に取り付けられ、重心が一方の端部に偏っていることを特徴とする請求項5に記載のキャンバー角測定器。
【請求項7】
前記ナット部は、座面が円錐形状であり、前記シャフト部の前記雄ねじ部に螺着して前記座面が前記フレーム部の前記貫通穴に嵌合することにより前記シャフト部の軸心のずれを補正することを特徴とする請求項4に記載のキャンバー角測定器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のホイールアライメントの一つであるキャンバー角の測定器に関し、特に自動車の生産における途中の工程で行うキャンバー角の測定に適したキャンバー角測定器に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の生産では、複数のパーツを組み合わせてユニットにしてから車台に組み付ける。車輪の懸架ユニットは、例えば、緩衝器(ショックアブソーバー)、ブレーキユニット、車輪の軸受、ナックルなどから構成される。この車輪の懸架ユニットは、キャンバー角を所定の値にしてから車台に取り付けられる。キャンバー角の測定器としては、例えば特許文献1に開示のものが提案されている。
【0003】
従来、自動車の生産の途中の工程で行うキャンバー角の測定は、ユニットとして組み立てられて搬送コンベアに載置された車輪の懸架ユニットをキャンバー角の測定のための専用の場所に移し替えて行われていた。そして、キャンバー角の測定が終わると、この懸架ユニットは搬送コンベアに再び戻された。
【0004】
この懸架ユニットは重いため(例えば50kg以上)、作業員が二人がかりで持ち上げて移し替えていた。この作業は、懸架ユニット1台当たりに例えば120秒以上かかるため作業効率の悪化が懸念されていた。また、この作業の際中に誤って懸架ユニットの一部が破損され、又は作業員が怪我をするなどの虞があった。
【0005】
このため、複数のパーツを組み合わせてユニットとなった車輪の懸架ユニットのキャンバー角の測定を、他の場所に移し替えることなく行うことができるキャンバー角測定器が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、車輪の懸架ユニットのキャンバー角の測定を他の場所に移し替えることなく行うことができるキャンバー角測定器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、第1の態様に係るキャンバー角測定器は、車両の路面からの衝撃を吸収する緩衝器と、車輪を支持する軸受と、を備える車輪の懸架ユニットにおける緩衝器の軸中心と車輪の回転中心とのなす角であるキャンバー角を測定するキャンバー角測定器であって、軸受の軸穴に挿通されるシャフト部と、シャフト部の第1先端部に設けられ、軸受の一方の端面に当接して係止されるストッパ部と、シャフト部に挿通されて、軸受の他方の端面に当接する当接面を有する軸受当て部と、軸受当て部の当接面に対して垂直方向に延びるガイドレールを備え、当接面とは反対側の軸受当て部の端面に固定されるフレーム部と、ガイドレールに案内され垂直方向に移動するスライダに取り付けられ、緩衝器の側面の傾きに沿って当接させることで傾く測定片を備える角度計と、を備えることを特徴とする。
【0009】
第2の態様は、第1の態様に係るキャンバー角測定器であって、測定片は、軸受当て部の当接面に対して平行に予め調整され、角度計は、測定片を緩衝器の側面の傾きに沿って当接させることで傾く測定片の傾きを測定することとしてもよい。
【0010】
第3の態様は、第2の態様に係るキャンバー角測定器であって、調整は、第1基準面と第1基準面に平行となる第2基準面とを備える治具を用いて行われ、軸受当て部の当接面は、第1基準面に当接し、測定片は、第2基準面に当接することで、軸受当て部の当接面に対して平行に調整されることとしてもよい。
【0011】
第4の態様は、第1の態様に係るキャンバー角測定器であって、フレーム部は、シャフト部が貫通する貫通穴を備え、シャフト部は、第1先端部とは異なる第2先端部に雄ねじ部を形成するとともに、フレーム部の貫通穴から突出した雄ねじ部に螺着してフレーム部を押圧し、ストッパ部と共に、軸受、軸受当て部、及びフレーム部とを挟持して締め付けるナット部を、さらに備えることとしてもよい。
【0012】
第5の態様は、第1の態様に係るキャンバー角測定器であって、ストッパ部はシャフト部の第1先端部に取り付けられた閂棒部材であることとしてもよい。
【0013】
第6の態様は、第5の態様に係るキャンバー角測定器であって、閂棒部材は、シャフト部に回転自在に取り付けられ、重心が一方の端部に偏っていることとしてもよい。
【0014】
第7の態様は、第4の態様に係るキャンバー角測定器であって、ナット部は、座面が円錐形状であり、シャフト部の雄ねじ部に螺着して座面がフレーム部の貫通穴に嵌合することによりシャフト部の軸心のずれを補正することとしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るキャンバー角測定器は、車両の路面からの衝撃を吸収する緩衝器と、車輪を支持する軸受と、を備える車輪の懸架ユニットにおける緩衝器の軸中心と車輪の回転中心とのなす角であるキャンバー角を測定するキャンバー角測定器であって、軸受の軸穴に挿通されるシャフト部と、シャフト部の第1先端部に設けられ、軸受の一方の端面に当接して係止されるストッパ部と、シャフト部に挿通されて、軸受の他方の端面に当接する当接面を有する軸受当て部と、軸受当て部の当接面に対して垂直方向に延びるガイドレールを備え、当接面とは反対側の軸受当て部の端面に固定されるフレーム部と、ガイドレールに案内され垂直方向に移動するスライダに取り付けられ、緩衝器の側面の傾きに沿って当接させることで傾く測定片を備える角度計と、を備えることを特徴とするので、車輪の懸架ユニットのキャンバー角の測定を他の場所に移し替えることなく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は本実施形態に係るキャンバー角について説明するための図である。
【
図2】
図2は本実施形態に係るキャンバー角測定器の構成を説明するための分解斜視図である。
【
図3】
図3は本実施形態に係るキャンバー角測定器のシャフト部の回転位置とストッパ部の動作との関係について説明するための図である。
【
図4】
図4は本実施形態に係る調整治具の構成を説明するための斜視図である。
【
図5】
図5は本実施形態に係る調整治具を用いて行うキャンバー角測定器の調整について説明するための斜視図である。
【
図6】
図6は本実施形態に係るキャンバー角測定器を用いて行うキャンバー角の測定について説明するための正面図(a)と側面図(b)である。
【
図7】
図7は本実施形態に係るキャンバー角測定器を用いて行うキャンバー角の測定について説明するための部分拡大した断面図である。
【
図8】
図8は本実施形態に係るキャンバー角測定器を用いて行うキャンバー角の測定の手順について説明するための斜視図である。
【
図9】
図9は本実施形態に係るキャンバー角測定器のシャフト部の構成及び動作について説明するための部分的に拡大した斜視図である。
【
図10】
図10は本実施形態に係るキャンバー角測定器を用いて行うキャンバー角の測定の手順について説明するための斜視図である。
【
図11】
図11は本実施形態に係るキャンバー角測定器を用いて行うキャンバー角の測定の手順について説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(キャンバー角θについて)
図1を参照し、キャンバー角測定器10の測定対象であるキャンバー角θについて説明する。
図1は本実施形態に係るキャンバー角θについて説明するための図である。キャンバー角は、本来、車両状態の特性値であり、車両の車輪によって作られる角度の一つである。具体的には、前もしくは後ろから車両を見た時の車輪の中心軸と鉛直線とのなす角であるが、本実施形態におけるキャンバー角θは、緩衝器160の軸中心160aと車輪の回転中心180aとのなす角のことをいう。
【0018】
さらに、緩衝器160の外形は直円柱であり、緩衝器160の軸中心160aと緩衝器160の母線とは平行であるとみなす。そして、緩衝器160の側面の傾きは、緩衝器160の母線の傾きのことをいう。即ち、緩衝器160の軸中心160aと車輪の回転中心180aとのなす角と、緩衝器160の側面160bと車輪の回転中心180aとのなす角とは等しいものとする。従って、キャンバー角測定器10は、緩衝器160の側面160bと車輪の回転中心180aとのなす角を測定し、この測定した角度をキャンバー角θとする。
【0019】
本実施形態に係るキャンバー角測定器10は、車両の路面からの衝撃を吸収する緩衝器160と、車輪を支持する軸受180と、を備える車輪の懸架ユニット150における緩衝器160の軸中心160aと車輪の回転中心180aとのなす角であるキャンバー角θを測定する。
【0020】
懸架ユニット150は、複数のパーツ及びユニットが組み合わされて構成されたユニットであり、緩衝器160、ブレーキユニット170、軸受180、ダストカバー172、及びナックル173などを備える。緩衝器160は、ショックアブソーバー、若しくはダンパーとも呼ばれ、コイルスプリング161と共に用いて自動車の路面からの振動を減衰し吸収する。
【0021】
ブレーキユニット170は、ブレーキロータ171とブレーキキャリパ174を備える。軸受180(
図7、
図9参照)は、車輪(タイヤ)を回転可能に支持する。ダストカバー172は、ブレーキロータ171の摩擦面を覆うカバーであり、塵、土砂などの付着を抑制して、ブレーキパッドの損傷及び摩耗を防ぐ。
【0022】
ナックル173(
図7、
図9参照)は、車輪を支持し車体を懸架するとともに、ステアリングユニット(不図示)と連結されており、ハンドル操作をすることにより、車輪に舵角を付け、自動車の方向を変える役割を担う。緩衝器160はナックル173にロアブラケット162を介して連結される。軸受180は、ボルト締結によりナックル173に装着される。ダストカバー172は、ナックル173の車両の外側に向く端面に取り付けられる。
【0023】
懸架ユニット150は、複数のパーツ及びユニットを用いて組み立てられる。組み立てられた懸架ユニット150は、搬送用テーブル200に載置されて搬送用コンベア(不図示)の上を搬送される。搬送用テーブル200は、ハンドル200a、搬送用固定台201、及び搬送用固定ブラケット202を備える。
【0024】
ハンドル200aは、搬送用テーブル200を引き寄せたり持ち上げたりする際に作業者等によって用いられる。搬送用固定台201は、懸架ユニット150を搬送用テーブル200に載置する際にハブ175(
図6、
図8参照)を保持し固定する。搬送用固定ブラケット202は、懸架ユニット150を搬送用テーブル200に載置する際に、懸架ユニット150に取り付けられた固定金具202aを係止するために用いられる。キャンバー角測定器10を用いるキャンバー角θの測定は、懸架ユニット150が搬送用テーブル200に載置された状態で行われる。
【0025】
(キャンバー角測定器10の構成について)
図2を参照して、本実施形態に係るキャンバー角測定器10の構成について説明する。
図2は本実施形態に係るキャンバー角測定器10の構成を説明するための分解斜視図である。
【0026】
キャンバー角測定器10は、シャフト部20、ストッパ部30、軸受当て部40、フレーム部50、ガイドレール60、スライダ70、角度計80、及びナット部90などを備える。
【0027】
シャフト部20は、軸受180の軸穴181(
図7参照)に挿通される。
シャフト部20は、SS材(一般構造用圧延鋼材)を用いるが、これに限定されるものでは無く、機械構造用炭素鋼、SPCC(冷間圧延鋼板)などを用いてもよい。シャフト部20は、円柱形状であり、第1先端部20aにおいて軸線に直交するピン穴20dと軸線方向に延設される隙間20eが形成される。シャフト部20は、軸方向の中央部辺りから第2先端部20b側に雄ねじ部20cが設けられる。
【0028】
ピン穴20dはピン30aが挿通され、ピン30aを回転中心として隙間20e内を回動するストッパ部30が設けられる。ピン30aは、例えば極低頭六角穴付きボルトを用いる。ピン30aは、ストッパ部30の回転軸となる。
【0029】
ピン30aを用いてストッパ部30を隙間20eに留める際に、ストッパ部30と隙間20eとの間にスラストワッシャ(不図示)を挿入し、スラストワッシャでストッパ部30を挟んでからピン30aをストッパ部30に挿通する。スラストワッシャは、摺動摩擦を低減するため潤滑油が不要となる。
【0030】
ストッパ部30は、シャフト部20の第1先端部20aに設けられ、軸受180の一方の端面180b(
図9参照)に当接して係止される。
ストッパ部30は、シャフト部20の第1先端部20aに取り付けられた閂棒(かんぬきぼう)部材であり、シャフト部20に回転自在に取り付けられ、重心が一方の端部に偏っている。ストッパ部30は、一方の端部に錘30bが形成され、他方の端部に切り欠き部30cが形成される。これにより、ストッパ部30の重心は、錘30bが形成された側の端部に偏る。
【0031】
シャフト部20の最大径は、軸受180の軸穴181(
図7参照)に通すため、この軸穴181の内径よりも小さい。例えば、軸受180の軸穴181の内径が25.6mmである場合、シャフト部20の最大径は24mmとする。
【0032】
シャフト部20の全長は210mmである。シャフト部20の全長は、作業性を考慮して決定され、210mmに限るものではない。キャンバー角測定器10の使用は、懸架ユニット150の外側、即ち、懸架ユニット150が車台に組み付けられた状態における車台(車両)の外側に作業員が立ち、懸架ユニット150の内側(即ち、軸受180の端面180b(
図9参照)が向く側)に作業員が手を回すことなく行う。従って、ストッパ部30が軸受180の端面180bに係止された状態で、軸受180の端面180c(
図7参照)より90mm以上のシャフト部20が突出されていることが必要とされる。この90mmは、軸受当て部40の厚さ30mm、フレーム部50の厚さ40mm、及びナット部90の厚さ20mmの合計値に基づいて算出されている。ただし、これらの数値は、キャンバー角測定器10の測定対象となる懸架ユニット150のサイズ変更によって適宜変更されるものである。
【0033】
図3をも参照して、シャフト部20の回転位置とストッパ部30の動作との関係について説明する。
図3は本実施形態に係るキャンバー角測定器10のシャフト部20の回転位置とストッパ部30の動作との関係について説明するための図である。
【0034】
図3(a)は、シャフト部20を軸受180の軸穴181(
図7参照)を通す際の状態を示している。シャフト部20は、
図3(a)に示す様に、ピン30aが鉛直方向となる。この状態では、ストッパ部30の回転位置は重力による影響を受けない。シャフト部20を軸受180の軸穴181に挿入する前に、作業員は、シャフト部20の軸方向にストッパ部30の長手方向を合わせ、この状態を維持して軸受180の軸穴181を通す。ストッパ部30の長手方向をシャフト部20の軸方向に合せた状態において、ストッパ部30の最大径はシャフト部20の最大径を超えないよう形成される。
【0035】
図3(b)は、ストッパ部30が軸受180の軸穴181(
図7参照)を通過した後、
図3(a)に示す状態からシャフト部20を90度回転させた状態を示す。ピン30aは水平方向となり、ストッパ部30の回転位置は重力による影響を受けて、切り欠き部30cが上昇するとともに錘30bが下降し、ストッパ部30の長手方向は鉛直方向となり、ストッパ部30はシャフト部20と直交する。ストッパ部30の全長は軸受180の軸穴181の内径より大きく形成されているため、ストッパ部30は閂棒部材となり、ストッパ部30は軸受180の端面180bに係止し、シャフト部20は軸受180から抜けなくなる。
【0036】
ピン30aの軸方向がシャフト部20の第2先端部20b側から判るように、第2先端部20b側のシャフト部20の端面にピン30aの軸方向を示す矢印のマーク(不図示)を入れる。このマークの矢印の向きを上向き若しくは下向きにすることで、ピン30aの軸方向は鉛直方向となる。このマークの矢印の向きを水平方向に向けることで、ピン30aの軸方向は水平方向となり、ストッパ部30は重力の影響を受けて閂棒部材となる。これにより、作業者は懸架ユニット150の内側(即ち、軸受180の端面180b(
図9参照)が向く側)に手を回すことなく、マークの矢印の向きを90°回転させることでストッパ部30を閂棒部材とすることができる。
【0037】
軸受当て部40は、シャフト部20に挿通されて、軸受180の他方の端面180c(
図7参照)に当接する当接面40bを有する。
軸受当て部40は、貫通穴40aを有する円筒形状であり、一方の端面を当接面40bとし、他方の端面を端面40dとする。当接面40bは軸受180の端面180c(
図7参照)と当接する。端面40dにはねじ穴40e(
図7参照)が設けられ、フレーム部50は貫通穴50bに通されたねじによりねじ止めされる。
【0038】
軸受当て部40は、当接面40b側の外周縁と内周縁とにC面取り部40cが形成される。C面取り部40cは、当接面40bと当接する軸受180のR部を逃がすために形成される。軸受当て部40の材質は鉄であり、耐久性を確保するために焼き入れ及びメッキが施される。軸受当て部40は、当接面40bと端面40dとは平行に形成される。
【0039】
フレーム部50は、軸受当て部40の当接面40bに対して垂直方向に延びるガイドレール60を備え、当接面40bとは反対側の軸受当て部40の端面40dに固定される。フレーム部50の形状は中空の四角柱であり、角パイプ鋼材が用いられる。
【0040】
フレーム部50の断面は、それぞれの角が直角である四辺形となる。フレーム部50の側面は平面に形成される。フレーム部50の側面が平面で有るか否かの確認方法は、例えば、定盤にフレーム部50の側面を押し当てて、隙間、ガタ、反りが無いことを確認する。定盤は機械加工及び測定の基準となる理想平面を提供する。
【0041】
フレーム部50は、シャフト部20が貫通する貫通穴50aを備え、貫通穴50aの周りにはフレーム部50を軸受当て部40に固定するためのねじが貫通する貫通穴50bを備える。フレーム部50と軸受当て部40とは貫通穴50bを貫通するねじにより一体に締結される。
【0042】
フレーム部50は、軸受当て部40が取り付けられる面に長辺を介して隣接する面にガイドレール60を取り付け、さらに、同じ面にガイドレール60を取り付けるための目印となる位置決めブロック50cを備える。位置決めブロック50cは、フレーム部50の長手方向に対して直交する方向に延設される。ガイドレール60は、その側面を位置決めブロック50cの側壁にあてた状態でフレーム部50に取り付けられる。これにより、ガイドレール60は、軸受当て部40が取り付けられる面に対して垂直にフレーム部50に取り付けられる。軸受当て部40において端面40dと当接面40bとは平行に形成されているため、ガイドレール60は軸受当て部40の当接面40bに対して垂直にフレーム部50に取り付けられる。
【0043】
シャフト部20は、第1先端部20aとは異なる第2先端部20bに雄ねじ部20cを形成するとともに、フレーム部50の貫通穴50aから突出した雄ねじ部20cに螺着してフレーム部50を押圧し、ストッパ部30と共に、軸受180、軸受当て部40、及びフレーム部50とを挟持して締め付けるナット部90を備える。
【0044】
ナット部90は、座面90bが円錐形状であり、シャフト部20の雄ねじ部20cに螺着して座面90bがフレーム部50の貫通穴50aに嵌合することによりシャフト部20の軸心のずれを補正する(
図7参照)。
【0045】
ナット部90は、シャフト部20と同様に、SS材(一般構造用圧延鋼材)を用いるが、これに限定されるものでは無く、機械構造用炭素鋼、SPCC(冷間圧延鋼板)などを用いてもよい。ナット部90の座面90bは丸棒材をC面取りすることで形成される。ナット部90の中心部には、シャフト部20の雄ねじ部20cに螺合するねじ穴90aが形成される。ナット部90の円周面には持ち手とするためローレット処理が施される。
【0046】
ガイドレール60とスライダ70は、例えば、THK株式会社のLMガイド(登録商標)等が適用される。LMガイドは、レール部分(ガイドレール60)とブロック部分(スライダ70)の2つの主要部品で構成され、高精度の直線案内を実現する機械要素部品であり、レール部分上をブロック部分がスライドすることにより直線運動を案内する。従って、スライダ70は、軸受当て部40の当接面40bに対して垂直となる直線方向に沿って案内され移動する。
【0047】
フレーム部50は、先端にスライダ70を保持するための保持ブラケット51を備える。保持ブラケット51は、ボールプランジャーを挿入するための貫通穴51aを備える。ボールプランジャーは、ばねを内蔵し、このばねにより付勢されたボールを先端部に備える。ボールは、ボールプランジャーの先端部に保持され、外部からの荷重に応じて出入りする。ボールがスライダ70のねじ穴70aに嵌合することにより、スライダ70の位置決めをし、所定位置においてスライダ70を保持する。キャンバー角測定器10の不使用時又は収納時に、スライダ70を保持ブラケット51により保持する。ガイドレール60の先端部には、スライダ70のガイドレール60からの抜けを防止するための鋼板(不図示)が取り付けられる。
【0048】
スライダ70のねじ穴70aには、取付けアーム82を介して角度計80が取り付けられる。
角度計80は、スライダ70に取り付けられてガイドレール60に案内され、軸受当て部40の当接面40bに対して垂直方向に移動し、緩衝器160の側面160bの傾きに沿って当接させることで傾く測定片81を備える。
【0049】
角度計80、測定片81、及び取付けアーム82は、丸井計器株式会社のデジタルプロトラクターを用いる。デジタルプロトラクターは、高精度角度計であり、ブレード(測定片81)の角度の変化の大きさを測定する。
測定片81は、角度計80が取り付けられたスライダ70の移動と共に軸受当て部40の当接面40bに対して垂直となる直線方向に沿って案内され移動する。
取付けアーム82は、角度計80に固定され、角度計80のスライダ70への固定に用いられる。
【0050】
(調整治具100の構成について)
図4を参照して、調整治具100の構成について説明する。
図4は本実施形態に係る調整治具100の構成を説明するための斜視図である。
【0051】
調整治具100は、キャンバー角測定器10を用いて懸架ユニット150のキャンバー角θを測定する前に、軸受当て部40の当接面40bと角度計80の測定片81とを平行に調整する為の治具である。
【0052】
測定片81は、軸受当て部40の当接面40bに対して平行に予め調整され、角度計80は測定片81を緩衝器160の側面160bの傾きに沿って当接させることで傾く測定片81の傾きを測定する。
角度計80の測定片81を緩衝器160の側面160bの傾きに沿って当接させることで傾く測定片81の傾きは、緩衝器160の母線の傾きに等しい。従って、角度計80は、測定片81を緩衝器160の側面160bの傾きに沿って当接させることで傾く測定片81の傾きを測定することは、緩衝器160の母線の傾きを測定することとなる。
【0053】
調整治具100は、土台101、支柱102、及び測定片当て部103を備える。
土台101、支柱102、及び測定片当て部103の材質は鉄とし、測定片当て部103及び支柱102には、耐久性を確保するために焼入れ及びメッキを施す。
【0054】
土台101の表面に、支柱102が立設され、測定片当て部103が固定される。
支柱102の先端部は、キャンバー角測定器10を調整治具100に固定する際に用いられるナット部90が螺着するためのねじ部102bが形成される。
【0055】
図4に示す様に、支柱102には軸受当て部40の仮置きが出来るように、支え部102aを設ける。支え部102aの外径は、軸受当て部40に挿入した際にすき間ばめとなる大きさとする。すき間ばめは、支え部102aの外径のほうが軸受当て部40の貫通穴40aの穴径より常に小さい状態のことをいう。
【0056】
支柱102の端面は、軸受当て部40の当接面40bが当接する基準面(第1基準面)102cとなる。測定片当て部103の上面は、角度計80の測定片81が当接する基準面(第2基準面)103aとなる。基準面103aから基準面102cまでの距離は、ガイドレール60の長さ及び角度計80の長さなどを考慮して決定される。本実施形態では基準面103aから基準面102cまでの距離を130mmとしている。
【0057】
基準面(第1基準面)102cと基準面(第2基準面)103aとは平行に形成される。本実施形態では、基準面102cと基準面103aとの平行度は幾何公差0.02として規定され、基準面102cを基準として、基準面103aは基準面102cから130mm離れたデータム平面と更に0.02mm離れた平面の間に収まっていることが条件となる。
【0058】
(キャンバー角測定器10の調整について)
次に
図5を参照して、調整治具100を用いて行うキャンバー角測定器10の調整について説明する。
図5は本実施形態に係る調整治具100を用いて行うキャンバー角測定器10の調整について説明するための斜視図である。
【0059】
調整は、第1基準面102cと第1基準面102cに平行となる第2基準面103aとを備える治具を用いて行われ、軸受当て部40の当接面40bは、第1基準面102cに当接し、測定片81は、第2基準面103aに当接することで、軸受当て部40の当接面40bに対して平行に調整される。
【0060】
図5(a)に示す様に、まず調整治具100の支柱102のねじ部102bをキャンバー角測定器10の軸受当て部40を貫通穴40aに通し、次に支え部102aを貫通穴40aに通す。次に、軸受当て部40の当接面40bを調整治具100の基準面102cに当接させる。この状態において、作業員は角度計80の測定片81を調整治具100の基準面103aと対向する位置に移動させる。
【0061】
次に、
図5(b)に示す様に、ナット部90を調整治具100の支柱102のねじ部102bに螺合させてフレーム部50を上方から押圧して、キャンバー角測定器10を調整治具100に固定させる。次に、スライダ70をガイドレール60の案内方向に沿って移動させて角度計80の測定片81を下げて調整治具100の基準面103aに当接させる。この状態において、角度計80のゼロセットボタン(不図示)を押して表示値をゼロにして、キャンバー角測定器10の調整が完了する。
【0062】
調整治具100を用いた調整が完了したキャンバー角測定器10のナット部90を支柱102のねじ部102bから外して、キャンバー角測定器10を調整治具100から外す。
【0063】
図6、
図7を参照して、キャンバー角測定器10を用いて懸架ユニット150のキャンバー角θを測定する様子について説明する。
図6は本実施形態に係るキャンバー角測定器10を用いて行うキャンバー角θの測定について説明するための正面図(a)と側面図(b)であり、
図7は部分拡大した断面図である。
【0064】
キャンバー角測定器10は、搬送用テーブル200に載置された懸架ユニット150の軸受180をストッパ部30と軸受当て部40とにより挟持することで、懸架ユニット150に固定される。この状態において、軸受当て部40の当接面40bは、軸受180の端面180cに当接している。
【0065】
キャンバー角測定器10が懸架ユニット150に固定された状態において、角度計80をスライダ70と共に、ガイドレール60の案内方向に沿って移動させて、角度計80の測定片81を緩衝器160の側面160bに当接させる。測定片81は、緩衝器160の側面160bに当接されたことにより傾きが変化する。この測定片81の傾きの変化は角度計80の表示値となり、表示値に90度を加算した数値がキャンバー角θとなる。
【0066】
(キャンバー角θの測定の手順について)
次に、
図8乃至
図11を参照して、キャンバー角測定器10を用いて行うキャンバー角θの測定の手順について説明する。
図8、10、11は本実施形態に係るキャンバー角測定器10を用いて行うキャンバー角θの測定の手順について説明するための斜視図であり、
図9は本実施形態に係るキャンバー角測定器10のシャフト部20の構成及び動作について説明するための部分的に拡大した斜視図である。
【0067】
図8に示す様に、作業員は、懸架ユニット150が車台に組み付けられた状態における車台(車両)の外側に立ち、シャフト部20を懸架ユニット150の軸受180の軸穴181に挿入する。作業員は、シャフト部20の軸方向にストッパ部30の長手方向を合わせ、シャフト部20のピン30aの軸方向は鉛直方向の状態を維持する。作業員は、シャフト部20の第2先端部20bの端面に入れられたマークの矢印の向きを上向き若しくは下向きにすることで、シャフト部20のピン30aの軸方向は鉛直方向となる。
【0068】
次に、
図9に示す様に、シャフト部20の第1先端部20aが、軸受180の端面180bの外側に出たら、作業員はシャフト部20を90度回転させてピン30aの軸方向を水平方向に合わせる。作業員は、シャフト部20の第2先端部20bの端面に入れられたマークの矢印の向きを水平方向に向けることで、シャフト部20のピン30aの軸方向は水平方向となる。ストッパ部30は、錘30bが下がると共に切り欠き部30cが上昇して閂棒部材となり、ストッパ部30は軸受180の端面180bに係止する。
【0069】
次に、
図10に示す様に、作業員は、懸架ユニット150の軸受180の端面180cから突出したシャフト部20の雄ねじ部20cに、軸受当て部40、フレーム部50、及びナット部90を通す。そして、ナット部90を進めてフレーム部50を押圧することで、ストッパ部30とナット部90とにより、軸受180、軸受当て部40、フレーム部50を締め付けて挟持することで、キャンバー角測定器10を懸架ユニット150に固定する。
【0070】
次に、
図11に示す様に、角度計80を緩衝器160に近づけて、測定片81を緩衝器160の側面160bに当接させる。この状態における角度計80の表示値に90度を加算した値がキャンバー角θとなる。
【0071】
上記した本実施形態によれば、キャンバー角測定器10を用いたキャンバー角θの測定は、懸架ユニット150を搬送用テーブル200に載置した状態で行うことができ、さらに、作業員は懸架ユニット150が車台に組み付けられた状態における車台(車両)の外側に立ち、懸架ユニット150の内側(即ち、軸受180の端面180b(
図9参照)が向く側)に作業員が手を回すことなく行うことができる。
【0072】
従って、懸架ユニット150のキャンバー角θの測定は、キャンバー角測定器10を用いることで、搬送用テーブル200に載置したままの状態で行うことができ、他の場所に懸架ユニット150を移動させるといった作業を省くことができる。
【0073】
なお、本発明は上記した本実施形態に係るキャンバー角測定器10に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、その他種々の変形例、若しくは応用例により実施可能である。
【符号の説明】
【0074】
10 キャンバー角測定器
20 シャフト部
20a 第1先端部
20b 第2先端部
20c 雄ねじ部
20d ピン穴
20e 隙間
30 ストッパ部
30a ピン
30b 錘
30c 切り欠き部
40 軸受当て部
40a 貫通穴
40b 当接面
40c C面取り部
40d 端面
40e ねじ穴
50 フレーム部
50a 貫通穴
50b 貫通穴
50c 位置決めブロック
51 保持ブラケット
51a 貫通穴
60 ガイドレール
70 スライダ
70a ねじ穴
80 角度計
81 測定片
82 取付けアーム
90 ナット部
90a ねじ穴
90b 座面
100 調整治具
101 土台
102 支柱
102a 支え部
102b ねじ部
102c 基準面(第1基準面)
103 測定片当て部
103a 基準面(第2基準面)
150 懸架ユニット
160 緩衝器
160a 緩衝器の軸中心
160b 緩衝器の側面
161 コイルスプリング
162 ロアブラケット
170 ブレーキユニット
171 ブレーキロータ
172 ダストカバー
173 ナックル
174 ブレーキキャリパ
175 ハブ
175a ハブボルト
180 軸受
180a 車輪の回転中心
180b (一方の)端面
180c (他方の)端面
181 軸穴
200 (搬送コンベアの)搬送用テーブル
201 搬送用固定台
202 搬送用固定ブラケット
202a 固定金具
θ キャンバー角