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2024-162504ポリウレタン弾性繊維、並びにそれを含む布帛、及び衛生材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162504
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】ポリウレタン弾性繊維、並びにそれを含む布帛、及び衛生材料
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/70 20060101AFI20241114BHJP
   D06P 1/44 20060101ALI20241114BHJP
   D06P 3/24 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
D01F6/70 Z
D06P1/44 E
D06P3/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078061
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】梅野 聖斗
(72)【発明者】
【氏名】森 孝正
【テーマコード(参考)】
4H157
4L035
【Fターム(参考)】
4H157AA01
4H157BA15
4H157CA38
4L035AA04
4L035BB02
4L035BB11
4L035CC11
4L035FF04
4L035JJ21
4L035JJ28
4L035KK01
4L035KK10
4L035MH02
4L035MH09
4L035MH13
(57)【要約】
【課題】光照射、汗、NOxガスによる変色、褪色を起こしにくい(すなわち耐変色性能に優れた)、黒色以外のポリウレタン弾性繊維の提供。
【解決手段】金属成分を含まない顔料(但し、黒色顔料を除く。)を含有することを特徴とするポリウレタン弾性繊維、並びに該ポリウレタン弾性繊維を含有する布帛、及び衛生材料、例えば、おむつ又は生理用品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属成分を含まない顔料(但し、黒色顔料を除く。)を含有することを特徴とするポリウレタン弾性繊維。
【請求項2】
前記金属成分を含まない顔料が、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、及び縮合多環顔料からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1に記載のポリウレタン弾性繊維。
【請求項3】
不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、及び縮合多環顔料からなる群より選択される少なくとも1つの顔料(但し、黒色顔料を除く。)を含むことを特徴とするポリウレタン弾性繊維。
【請求項4】
前記金属成分を含まない顔料、又は前記不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、及び縮合多環顔料からなる群より選択される少なくとも1つの顔料が、下記一般式(1):
【化1】
又は下記一般式(2):
【化2】
{一般式(1)及び(2)中、Y~Yは、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、フェニル基、フェノキシ基、フェノキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルアミド基、フェニルアミド基、又はハロゲン化アルキル基である。}で表される化合物を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリウレタン弾性繊維。
【請求項5】
前記金属成分を含まない顔料、又は前記不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、及び縮合多環顔料からなる群より選択される少なくとも1つの顔料が、C.I.ピグメントイエロー93、94、95、128、及び166、並びにC.I.ピグメントレッド139、144、166、214、220、221、242、248、及び262からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリウレタン弾性繊維。
【請求項6】
前記金属成分を含まない顔料、又は前記不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、及び縮合多環顔料からなる群より選択される少なくとも1つの顔料の、DMAc中での湿式粒度分布計による粒度分布における、累積体積頻度が50%となる粒子径(D50)が、10μm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリウレタン弾性繊維。
【請求項7】
前記金属成分を含まない顔料、又は前記不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、及び縮合多環顔料からなる群より選択される少なくとも1つの顔料の含有量が、ポリウレタン弾性繊維100質量部に対し、0.01~5質量部である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリウレタン弾性繊維。
【請求項8】
ポリウレタン弾性繊維100質量部に対し、0.01~5質量部の紫外線吸収剤をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリウレタン弾性繊維。
【請求項9】
前記紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤である、請求項8に記載のポリウレタン弾性繊維。
【請求項10】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリウレタン弾性繊維を含有する、布帛。
【請求項11】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリウレタン弾性繊維を含有する、衛生材料。
【請求項12】
おむつ又は生理用品である、請求項11に記載の衛生材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン弾性繊維、並びにそれを含む布帛、及び衛生材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン弾性繊維は、伸縮性に富み、かつ優れた弾性機能を有する繊維であり、その特性を活かし、インナーウェアやマスク、スポーツウェア、オムツ等の衛生材料等の用途に幅広く利用されている。特に衛材用途においては、近年、種類・サイズ等の判別を容易にするために、着色した繊維が使用されている。
【0003】
着色した繊維を得る方法としては、繊維化後、染料を用いて染色する後染色法や、紡糸原液に顔料を添加した後に繊維化する原着法が知られている。
【0004】
後染色法の例として、以下の特許文献1がある。
【0005】
また、原着法の例として、以下の特許文献2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014―95162号公報
【特許文献2】特開2006―63461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されるポリウレタン弾性繊維は、染色堅牢度が不十分であり、光や温度、湿度によって色素が脱落し易く、変色や褪色を起こすという欠点を有している。
また、特許文献2では、ポリウレタン弾性繊維の実使用時に重要となる、繊維化後の光照射や汗、NOxガスによる変色性、褪色性に触れられておらず、また、黒色以外の原着糸の開示はない。
【0008】
以上の従来技術の問題点に鑑み、本発明で解決しようとする課題は、光照射、汗、NOxガスによる変色、褪色を起こしにくい(すなわち、耐変色性能に優れた)、黒色以外のポリウレタン弾性繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、前記課題を解決すべく、鋭意検討し実験を重ねた結果、金属成分を含まない顔料(但し、黒色顔料を除く。)を含有する、又は不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、及び縮合多環顔料からなる群より選択される少なくとも1つの顔料(但し、黒色顔料を除く。)を含むポリウレタン弾性繊維であれば、上記課題を解決できることを予想外に見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1]金属成分を含まない顔料(但し、黒色顔料を除く。)を含有することを特徴とするポリウレタン弾性繊維。
[2]前記金属成分を含まない顔料が、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、及び縮合多環顔料からなる群より選択される少なくとも1つである、前記[1]に記載のポリウレタン弾性繊維。
[3]不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、及び縮合多環顔料からなる群より選択される少なくとも1つの顔料(但し、黒色顔料を除く。)を含むことを特徴とするポリウレタン弾性繊維。
[4]前記金属成分を含まない顔料、又は前記不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、及び縮合多環顔料からなる群より選択される少なくとも1つの顔料が、下記一般式(1):
【化1】
又は下記一般式(2):
【化2】
{一般式(1)及び(2)中、Y~Yは、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、フェニル基、フェノキシ基、フェノキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルアミド基、フェニルアミド基、又はハロゲン化アルキル基である。}で表される化合物を含む、前記[1]~[3]のいずれかに記載のポリウレタン弾性繊維。
[5]前記金属成分を含まない顔料、又は前記不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、及び縮合多環顔料からなる群より選択される少なくとも1つの顔料が、C.I.ピグメントイエロー93、94、95、128、及び166、並びにC.I.ピグメントレッド139、144、166、214、220、221、242、248、及び262からなる群から選択される少なくとも1つである、前記[1]~[4]のいずれかに記載のポリウレタン弾性繊維。
[6]前記金属成分を含まない顔料、又は前記不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、及び縮合多環顔料からなる群より選択される少なくとも1つの顔料の、DMAc中での湿式粒度分布計による粒度分布における、累積体積頻度が50%となる粒子径(D50)が、10μm以下である、前記[1]~[5]のいずれかに記載のポリウレタン弾性繊維。
[7]前記金属成分を含まない顔料、又は前記不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、及び縮合多環顔料からなる群より選択される少なくとも1つの顔料の含有量が、ポリウレタン弾性繊維100質量部に対し、0.01~5質量部である、前記[1]~[6]のいずれかに記載のポリウレタン弾性繊維。
[8]ポリウレタン弾性繊維100質量部に対し、0.01~5質量部の紫外線吸収剤をさらに含む、前記[1]~[7]のいずれかに記載のポリウレタン弾性繊維。
[9]前記紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤である、前記[8]に記載のポリウレタン弾性繊維。
[10]前記[1]~[9]のいずれかに記載のポリウレタン弾性繊維を含有する、布帛。
[11]前記[1]~[9]のいずれかに記載のポリウレタン弾性繊維を含有する、衛生材料。
[12]おむつ又は生理用品である、前記[11]に記載の衛生材料。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光照射や汗、NOxガス等の環境要因に対して変色・褪色が起こりにくい黒色以外のポリウレタン弾性繊維を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本願発明の実施形態を詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0013】
本発明の一実施形態は、金属成分を含まない顔料(但し、黒色顔料を除く。)を含有することを特徴とするポリウレタン弾性繊維である。金属成分を含まない顔料を含有することで、顔料中の金属成分がキレート形成を初めとする化学変化を起こさず、光照射や汗、NOxガスに対してポリウレタン弾性繊維の変色や褪色を抑制することができる。
【0014】
金属成分を含まない顔料とは、金属元素(金属単体や金属イオン)が構造式中に存在しない顔料、又は金属が担持されていない顔料のいずれかに該当する顔料のことである。
【0015】
前記金属成分を含まない顔料は、耐薬品性、光に対する耐変色性が優れることから、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、及び縮合多環顔料からなる群より選択される少なくとも1つの顔料(但し、黒色顔料を除く。)であることが好ましい。
【0016】
不溶性アゾ顔料とは、スルホン酸基、カルボン酸基、及びヒドロキシル基などに例示される水溶性の置換基を有していないアゾ化合物のことをいう。不溶性アゾ顔料の具体的な例としては、C.I.ピグメントレッド1、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、15、17、18、22、23、31、112、114、146、147、150、170、171、175、176、185、208、及び238等が挙げられる。
【0017】
縮合アゾ顔料とは、不溶性ジスアゾ顔料であり、例えば、極性基を含有するものや、縮合反応により分子量が大きいものが挙げられる。縮合アゾ顔料のより具体的な例としては、C.I.ピグメントイエロー93、94、及び95、並びにC.I.ピグメントレッド144、166、214、220、221、242、248、及び262等が挙げられる。
【0018】
縮合多環顔料とは、ベンゼン環や複素環からなる芳香族環状構造を有する顔料のことをいう。縮合多環顔料の具体的な例としては、C.I.ピグメントオレンジ40、43、及び51、C.I.ピグメントレッド88、122、123、149、168、177、178、179、190、194、206、207、及び209、並びにC.I.ピグメントヴァイオレット19、36、及び38等が挙げられる。
【0019】
本発明の別の実施形態は、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、及び縮合多環顔料からなる群より選択される少なくとも1つの顔料(但し、黒色顔料を除く。)を含むポリウレタン弾性繊維である。
【0020】
前記不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、及び縮合多環顔料からなる群より選択される少なくとも1つの顔料は、耐溶剤性、耐薬品性が特に優れることから、下記一般式(1)又は(2):
【化3】
【化4】
{一般式(1)及び(2)中、Y~Yは、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、フェニル基、フェノキシ基、フェノキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルアミド基、フェニルアミド基、又はハロゲン化アルキル基である。}で表される化合物であることが好ましい。
【0021】
一般式(1)で表される顔料の具体的な例としては、C.I.ピグメントブラウン23、並びにC.I.ピグメントレッド144、166、221、242、248、及び262が挙げられる。
【0022】
一般式(2)で表される顔料の具体的な例としては、C.I.ピグメントオレンジ31、並びにC.I.ピグメントレッド139が挙げられる。
【0023】
一般式(1)及び(2)中、Y~Yで表される基は、相互に独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン化アルキル基であることが好ましく、中でもポリウレタン重合体との相溶性、分散性の観点から水素原子、フッ素原子、塩素原子、ヒドロキシ基、炭素数2~6のアルコキシカルボニル基、炭素数1~3のフッ化アルキル基であることがより好ましい。一般式(1)及び(2)中、Y~Yで表される基が、相互に独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン化アルキル基である顔料の具体的な例としては、C.I.ピグメントブラウン23、C.I.ピグメントオレンジ31、並びにC.I.ピグメントレッド139、144、166、221、242、248、及び262が挙げられる。一般式(1)及び(2)中、Y~Yで表される基が、相互に独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、ヒドロキシ基、炭素数2~6のアルコキシカルボニル基、炭素数1~3のフッ化アルキル基である顔料の具体的な例としては、C.I.ピグメントオレンジ31、並びにC.I.ピグメントレッド139、144、166、221、及び242が挙げられる。
【0024】
本実施形態のポリウレタン弾性繊維は、より良好な耐変色性、耐褪色性を発揮するという観点から、C.I.ピグメントイエロー93、94、95、128、及び166、並びにC.I.ピグメントレッド139、144、166、214、220、221、242、248、及び262からなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましく、C.I.ピグメントレッド139、144、166、214、220、221、242、248、及び262からなる群から選択される少なくとも1つを含むことがより好ましく、C.I.ピグメントレッド166を含むことが特に好ましい。
【0025】
本実施形態のポリウレタン弾性繊維は、ポリウレタン重合体を紡糸することによる得られる繊維である。前記ポリウレタン重合体は、高分子ポリオールとジイソシアネートとの反応により得られるプレポリマーに、鎖伸長剤として多官能性活性水素含有化合物で鎖伸長反応を行う公知のウレタン化反応の技術を採用することで得られる。
【0026】
前記高分子ポリオールとして、ホモ又は共重合体からなる各種ジオール、例えば、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリアクリルジオール、ポリチオエステルジオール、ポリエステルアミドジオール、これらの混合物、これらの共重合体等を挙げることができ、好ましくはポリエーテルジオールである。
【0027】
高分子ポリオールの水酸基価から算出される数平均分子量は、ポリウレタン弾性繊維の優れた伸縮性能を発現するために1000以上であることが好ましく、より好ましくは1500以上である。一方で、製品糸の耐熱性や耐摩耗性の観点から3000以下が好ましく、より好ましくは2500以下である。
【0028】
前記ジイソシアネートとしては、分子内に2つのイソシアネート基を有する、脂肪族、脂環族、芳香族のジイソシアネートが挙げられる。例えば、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4′-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、これらの混合物、これらの共重合体等が挙げられる。
【0029】
ゲルの少ない、均一なポリウレタン重合体を得られるという観点から、前記ジイソシアネートと高分子ポリオールのモル比(ジイソシアネート/高分子ポリオール)は、1.80以下であることが好ましく、より好ましくは1.70以下である。
【0030】
前記鎖伸長剤である多官能性活性水素含有化合物としては、低分子ジアミン類や、低分子ジオール類が挙げられ、これらは単独で又は混合して用いてもよい。
【0031】
単官能性活性水素原子を有する末端停止剤としては、ジアルキルアミン類や、モノアルコール類が挙げられ、これらの末端停止剤は単独で又は混合して用いてもよい。
【0032】
ポリウレタン重合体の合成に関しては、高分子ポリオールとジイソシアネートからなるウレタンプレポリマー合成時やウレタンプレポリマーと活性水素含有化合物との反応時に、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒を用いることができ、好ましくはジメチルアセトアミド(DMAc)である。
【0033】
ポリウレタン重合体には、各種安定剤などが含有されていてもよい。例えば、ヒンダードフェノール系、及びベンゾトリアゾール系等の酸化防止剤、ステアリン酸マグネシウムに代表されるような金属石鹸、各種薬剤、酸化亜鉛、及び酸化チタン等の無機物、銀や亜鉛やこれらの化合物などを含む抗菌剤や消臭剤、帯電防止剤、酸化窒素捕捉剤、熱酸化安定剤、光安定剤等を併用して含有してもよい。
【0034】
本実施形態のポリウレタン弾性繊維は、ポリウレタン重合体を公知の乾式紡糸、湿式紡糸、溶融紡糸等で繊維状に成形することで製造することができる。
【0035】
本実施形態のポリウレタン弾性繊維は、解舒時の抵抗や使用時の摩擦性を低減させるために任意の滑剤及び表面処理剤を含有させて使用することができる。前記滑剤及び表面処理剤の塗布方法は、特に限定されず、紡糸時に糸管に巻き取る前に追いリングローラー等により糸に塗布する方法が挙げられる。
【0036】
滑剤及び表面処理剤としては、以下に限定されないが、例えば、ジメチルシリコーンなどのシリコーン系オイル、鉱物油系オイル等が挙げられ、これらを単独、又は任意の組合せで付与してもよい。
【0037】
顔料は、フィルター詰まりや凝集の抑制、及び糸中での分散性向上による発色性の斑の抑制という観点から、粒度分布計によって測定される粒子径D50が、10μm以下であることが好ましく、より好ましくは8μm以下であり、さらに好ましくは5μm以下である。
【0038】
顔料の含有量としては、ポリウレタン弾性繊維100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上、さらに好ましくは0.05質量部以上であり、また、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下である。顔料の含有量が0.01質量部以上であれば、色の発色性が十分であり、布帛や衛生材料等に使用した際に色の視認がしやすい。他方、顔料の含有量が5質量部以下であれば、顔料が均一に分散した糸を得やすい。
【0039】
本実施形態のポリウレタン弾性繊維は、ポリウレタン弾性繊維100質量部に対して、紫外線吸収剤を、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、また、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは2質量部で、さらに含有することが好ましい。紫外線吸収剤の含有量が0.01質量部以上であれば、紫外線に対する糸の耐脆化性や耐黄変性を十分に発揮できる。他方、紫外線吸収剤の含有量が5質量部以下であれば、紡糸中の糸切れが発生しにくくなる。
【0040】
前記紫外線吸収剤とは、波長約200~400nmの光を吸収し、熱や赤外線などのエネルギーに変化させて放出させる効能を有する化合物である。具体的には、無機系紫外線吸収剤として、二酸化チタン、酸化セリウム、酸化タリウム、酸化鉛、酸化ジルコニウム等の金属酸化物微粒子が挙げられる。また有機系紫外線吸収剤として、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾオキサジン系、サリチル酸エステル系、ジフェニルメタノン系、アントラニレート系、ケイヒ酸誘導体系、レゾルシノール系、オキザリニド系、及びクマリン誘導体系等の紫外線吸収剤が挙げられる。
【0041】
前記紫外線吸収剤は、糸の耐熱性や紡糸原液との相溶性、耐候(光)安定性の観点から、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤であることがより好ましい。
【0042】
本実施形態のポリウレタン弾性繊維は、裸糸として、又は他の繊維により被覆された、他の繊維と交絡された、若しくは他の繊維と合撚された、加工糸として、他の繊維と交編織されることによって、斑のない高品位な布帛を得ることができる。前記他の繊維としては、綿、絹、羊毛等の天然繊維、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート等のポリエステル繊維、カチオン可染ポリエステル繊維、銅アンモニア再生レーヨン、ビスコースレーヨン、アセテートレーヨン等が例示される。
【0043】
本実施形態の布帛は、水着、ガードル、ブラジャー、タイツ、パンティストッキング、ウェストバンド、ボディースーツ、スパッツ、スポーツウェア、ストレッチアウター、医療用ウェア、ストレッチ裏地等の用途に用いることができる。
【0044】
本実施形態のポリウレタン弾性繊維は、平滑性が良好であり、摩擦性の変動が小さいため、おむつや生理用品等の衛生材料に用いられることで、高い生産性と製品の安定性が得られる。
【実施例0045】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本発明には衣料品や衛生材料等の製品から単離したポリウレタン弾性繊維も含まれる。
【0046】
(1)ポリウレタン弾性繊維中の顔料の同定
ポリウレタン弾性繊維をジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解し、得られた溶液を遠心分離することによって残渣を分離し、該残渣をろ過により回収することで顔料を単離する。単離された顔料について、熱分解GC/MS測定を行い、得られたクロマトグラムをデータベースと照合することにより、ポリウレタン弾性繊維中に含有する顔料の化学組成を同定する。
【0047】
(2)DMAc中での湿式粒度分布計による粒度分布における、累積体積頻度が50%となる粒子径(D50)
顔料を0.1g秤量し、ジメチルアセトアミド(DMAc)49.9gを加え、室温で24時間攪拌し、0.2質量%の顔料分散液を作製する。作製した顔料分散液を用いて、ベックマンコールター社製のLS13320(湿式のレーザー回折散乱法粒度分布測定装置、PIDS搭載)を用いて、分散溶媒屈折率を1.439に設定して測定する。サンプルは検出器の相対強度が7~12%の範囲になるように注入する。この測定によって得られる粒度分布チャートにおいて、累積体積頻度が50%となる粒子径(D50)を算出する。
【0048】
(3)発色性の評価方法
発色性を表す指標として、分光測色計CM-5(コニカミノルタ製)、D65光源を用いて、各実施例及び比較例のポリウレタン弾性繊維(顔料含有糸)と、顔料を添加しないこと以外は、各実施例及び比較例と同様に作製したポリウレタン弾性繊維(顔料不含糸)との色差ΔEabを下記式:
ΔEab={(顔料含有糸のL-顔料不含糸のL)+(顔料含有糸のa-顔料不含糸のa)+(顔料含有糸のb-顔料不含糸のb)1/2
{式中、L値は明るさを表す明度であり、0に近いと黒、100に近いと白を表す。a値は緑~赤を表し、マイナスは緑、プラスは赤を表す。b値は青~黄を表し、マイナスは青、プラスは黄を表す。}により算出する。
ΔEabの値が大きいほど顔料不含糸に対する色変化が大きく、ポリウレタン弾性繊維の発色性が良好であることを意味しており、ΔEabが10以上となるものが好ましい。
【0049】
(4)NOxガス、光照射、及び汗に対する耐変色性能の評価方法
変色、褪色度合いを表す指標として、分光測色計CM-5(コニカミノルタ製)、D65光源を用いて、後述する各試験前後の色差ΔEabを下記式:
ΔEab={(試験後のL-試験前のL)+(試験後のa-試験前のa)+(試験後のb-試験前のb)1/2
{式中、L値は明るさを表す明度であり、0に近いと黒、100に近いと白を表す。a値は緑~赤を表し、マイナスは緑、プラスは赤を表す。b値は青~黄を表し、マイナスは青、プラスは黄を表す。}により算出する。
ΔEabの値が小さいほど試験前後での色変化が小さく、耐変色性、耐褪色性が良好であることを意味しており、ΔEabが3以下となるものが好ましい。
【0050】
<NOx暴露試験>
ポリウレタン弾性繊維について、JIS L 0855に準拠し、標準染色布が規定の変退色等級に達するまで、窒素酸化ガス雰囲気下での暴露試験を3回繰り返した。
【0051】
<紫外線照射試験>
ポリウレタン弾性繊維について、紫外線フェードメーターU48AU(スガ試験機株式会社製)で紫外線を24時間照射した。
【0052】
<汗液浸漬試験>
ポリウレタン弾性繊維200mgを人工汗液S(酸性)(林純薬工業株式会社製、SDSコード:Z8-15)50mLに浸漬させた後、取り出し、室温下で2週間保管した。
【0053】
(5)紡糸安定性評価
紡糸機にて、以下実施例及び比較例に記載の条件で24時間の紡糸を行い、糸切れが発生せず、紡糸用口金パック当たりの紡糸圧力変動が5kg/cm以下であったものについて紡糸安定性が良好であると判断した。
【0054】
[実施例1]
数平均分子量1800のポリテトラメチレンエーテルグリコール2000g、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート445gを乾燥窒素雰囲気下、60℃において3時間、攪拌下で反応させて、末端がイソシアネートでキャップされたポリウレタンプレポリマーを得た。これを室温まで冷却した後、ジメチルアセトアミドを加え、溶解してポリウレタンプレポリマー溶液とした。
一方、エチレンジアミン38g及びジエチルアミン6gを乾燥ジメチルアセトアミドに溶解した溶液を用意し、これを前記プレポリマー溶液に室温下添加して、ポリウレタン固形分濃度30質量%、粘度450Pa・s(30℃)のポリウレタンウレア溶液を得た。
【0055】
ポリウレタン弾性繊維中での含有率が、それぞれポリウレタン弾性繊維100質量部に対し、顔料としてC.I.ピグメントレッド168が0.3質量部、紫外線吸収剤として2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾールが0.5質量部、及び酸化防止剤として4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)が1.0質量部になるように秤量し、そこへジメチルアセトアミドを加え、ホモミキサーで分散させ、15質量%の分散液を作製した。この分散液を上述のポリウレタンウレア溶液と混合して、均一な溶液とした後、室温、減圧下で脱泡し、これを紡糸原液とした。
この紡糸原液を、巻き取り速度800m/分、熱風温度300℃で、真円形状の孔2個からなる紡糸用口金パックを用いて乾式紡糸し、圧縮空気による仮撚装置で集束した後、表面処理剤をポリウレタン弾性繊維100質量部に対して3.0質量部付与し、紙管に巻き取り、22dtex/2フィラメントのポリウレタン弾性繊維の巻き取りパッケージを得た。尚、表面処理剤としては、ポリジメチルシロキサン67質量%、鉱物油30質量%、アミノ変性シリコーン3.0質量%からなる油剤を用いた。
【0056】
[実施例2]
顔料をC.I.ピグメントレッド214に代えた以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン弾性繊維を得た。
【0057】
[実施例3]
顔料をC.I.ピグメントレッド166に代えた以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン弾性繊維を得た。
【0058】
[実施例4]
顔料をC.I.ピグメントオレンジ5に代えて、顔料の含有量がポリウレタン弾性繊維100質量部に対して0.05質量部となるようにした以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン弾性繊維を得た。
【0059】
[実施例5]
顔料をC.I.ピグメントイエロー93に代えて、顔料の含有量がポリウレタン弾性繊維100質量部に対して3.0質量部となるようにした以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン弾性繊維を得た。
【0060】
[実施例6]
紫外線吸収剤の含有量がポリウレタン弾性繊維100質量部に対して0.1質量部となるようにした以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン弾性繊維を得た。
【0061】
[実施例7]
顔料をC.I.ピグメントブラウン32に代えて、紫外線吸収剤の含有量がポリウレタン弾性繊維100質量部に対して4.5質量部となるようにした以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン弾性繊維を得た。
【0062】
[実施例8]
顔料をC.I.ピグメントレッド144に代えて、顔料の含有量がポリウレタン弾性繊維100質量部に対して0.009質量部となるようにした以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン弾性繊維を得た。
【0063】
[実施例9]
紫外線吸収剤の含有量がポリウレタン弾性繊維100質量部に対して0.5質量部となるようにした以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン弾性繊維を得た。
【0064】
[比較例1]
顔料をC.I.ピグメントレッド48-2に代えた以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン弾性繊維を得た。
【0065】
[比較例2]
顔料をC.I.ピグメントレッド48-1に代えた以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン弾性繊維を得た。
【0066】
[比較例3]
顔料をC.I.ピグメントレッド48-4に代えた以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン弾性繊維を得た。
【0067】
[比較例4]
顔料をC.I.ピグメントレッド57-1に代えて、紫外線吸収剤の含有量がポリウレタン弾性繊維100質量部に対して5.5質量部となるようにした以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン弾性繊維を得た。
【0068】
[比較例5]
顔料をC.I.ピグメントレッド48-2に代えて、顔料の含有量がポリウレタン弾性繊維100質量部に対して0.006質量部となるようにした以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン弾性繊維を得た。
【0069】
[比較例6]
顔料をC.I.ピグメントレッド48-2に代えて、顔料の含有量がポリウレタン弾性繊維100質量部に対して0.01質量部となるようにし、かつ紫外線吸収剤を添加しなかった以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン弾性繊維を得た。
【0070】
[比較例7]
顔料をC.I.ピグメントオレンジ17に代えた以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン弾性繊維を得た。
【0071】
以上の各実施例および比較例における製造条件、得られたポリウレタン弾性繊維の各種評価解析結果を、以下の表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1から、実施例1~9のポリウレタン弾性繊維は、光照射、汗、NOxガスに対する耐変色・褪色性能に優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明に係るポリウレタン弾性繊維を用いれば、ポリウレタン弾性繊維の変色や褪色を抑えることができ、色味が安定した製品の生産が可能となることから、紙おむつ、水着、タイツ、パンティストッキング、靴下留め、口ゴム、コルセット、紙おむつ、包帯、インナー、アウター、レッグ、スポーツウェア、ジーンズ、又はその他衛生材料等として好適に利用可能である。