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特開2024-16251微小粒子回収方法、微小粒子分取用マイクロチップ、微小粒子回収装置、エマルションの製造方法、及びエマルション
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016251
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】微小粒子回収方法、微小粒子分取用マイクロチップ、微小粒子回収装置、エマルションの製造方法、及びエマルション
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/1429 20240101AFI20240130BHJP
   G01N 15/1409 20240101ALI20240130BHJP
   G01N 15/14 20240101ALI20240130BHJP
【FI】
G01N15/14 K
G01N15/14 A
G01N15/14 C
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023194077
(22)【出願日】2023-11-15
(62)【分割の表示】P 2019198494の分割
【原出願日】2019-10-31
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
2.SPAN
(71)【出願人】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】松本 真寛
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 達巳
(57)【要約】
【課題】
1つの微小粒子を含むエマルション粒子をより効率的に生成するための新たな手法を提供すること。
【解決手段】
本技術は、微小粒子が通流される主流路と、前記微小粒子のうち、回収対象粒子が回収される回収流路と、前記主流路と前記回収流路とを接続する接続流路と、前記接続流路に液体を供給可能に接続されている液体供給流路と、を含む流路構造を有する微小粒子分取機構において、微小粒子を含む第一液体を前記主流路に流す通流工程と、前記主流路を流れる微小粒子が回収対象粒子であるかを判定する判定工程と、回収対象粒子を前記回収流路内へと回収する回収工程とを含み、且つ、前記回収工程において、前記回収対象粒子は、前記第一液体に含まれた状態で、前記回収流路内の、前記第一液体と非混和性である第二液体中に回収される、微小粒子回収方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小粒子が通流される主流路と、
前記微小粒子のうち、回収対象粒子が回収される回収流路と、
前記主流路と前記回収流路とを接続する接続流路と、
前記接続流路に液体を供給可能に接続されている液体供給流路と、を含む流路構造を有する微小粒子分取機構において、微小粒子を含む第一液体を前記主流路に流す通流工程と、
前記主流路を流れる微小粒子が回収対象粒子であるかを判定する判定工程と、
回収対象粒子を前記回収流路内へと回収する回収工程とを含み、且つ、
前記回収工程において、前記回収対象粒子は、前記第一液体に含まれた状態で、前記回収流路内の、前記第一液体と非混和性である第二液体中に回収される、
微小粒子回収方法。
【請求項2】
前記微小粒子回収方法を実施することによって、前記回収流路内に、前記第二液体を分散媒とし且つ前記第一液体を分散質とするエマルションが形成される、請求項1に記載の微小粒子回収方法。
【請求項3】
前記微小粒子回収方法を実施することによってエマルションが形成され、且つ、当該エマルションを構成する液滴の少なくとも一部が、前記回収対象粒子を1つ含む、請求項1に記載の微小粒子回収方法。
【請求項4】
前記第一液体が親水性であり、且つ、前記第二液体が疎水性である、請求項1に記載の微小粒子回収方法。
【請求項5】
前記第二液体の動粘度が、前記第一液体の動粘度の1/100倍~100倍である、請求項1に記載の微小粒子回収方法。
【請求項6】
前記通流工程、前記判定工程、及び前記回収工程は、前記第二液体を前記液体供給流路から前記接続流路へと供給しながら行われる、請求項1に記載の微小粒子回収方法。
【請求項7】
前記主流路が、前記接続流路及び回収対象粒子以外の微小粒子が流れる少なくとも一つの廃棄流路へと分岐し、
前記液体供給流路が、前記接続流路へ液体を供給する、
請求項1に記載の微小粒子回収方法。
【請求項8】
前記接続流路に、前記第一液体が前記回収流路へと進行することを防ぐバルブが設けられている、請求項1に記載の微小粒子回収方法。
【請求項9】
前記通流工程において、前記微小粒子が前記主流路内を略一列に並んで前記接続流路に向かって流れる、請求項1に記載の微小粒子回収方法。
【請求項10】
前記微小粒子分取機構は、微小粒子を含有する液体が流れるサンプル流路及び微小粒子を含有しない液体が流れるシース流路が合流部で主流路へ連結し、合流部後の主流路に微小粒子が主流路内を略一列に並び流れるようにする流路構造を有し、
当該流路構造によって、略一列に並んで流れる微小粒子を含む層流が形成される、
請求項1に記載の微小粒子回収方法。
【請求項11】
前記判定工程において、前記主流路中を流れる微小粒子に光が照射され、当該照射により生じた光に基づき当該微小粒子が回収対象粒子であるかが判定される、請求項1に記載の微小粒子回収方法。
【請求項12】
前記回収工程において、前記回収流路内の圧力変動により、前記回収対象粒子が前記接続流路を通って前記回収流路内へと回収される、請求項1に記載の微小粒子回収方法。
【請求項13】
前記主流路、前記接続流路、及び前記回収流路が直線状に並んでいる、請求項1に記載の微小粒子回収方法。
【請求項14】
前記微小粒子が細胞又は細胞塊であり、且つ、前記第一液体が当該微小粒子の培養液である、請求項1に記載の微小粒子回収方法。
【請求項15】
前記微小粒子が細胞、細胞塊、又は合成粒子であり、且つ、前記回収工程後に当該微小粒子が破壊される、請求項1に記載の微小粒子回収方法。
【請求項16】
前記回収流路内の回収された微小粒子が、さらなる微小粒子分取処理に付される、請求項1に記載の微小粒子回収方法。
【請求項17】
前記微小粒子分取機構が、前記流路構造を一つ又は二つ以上含む、請求項1に記載の微小粒子回収方法。
【請求項18】
微小粒子が通流される主流路と、
前記微小粒子のうち、回収対象粒子が回収される回収流路と、
前記主流路と前記回収流路とを接続する接続流路と、
前記接続流路に液体を供給可能に接続されている液体供給流路と、を含む流路構造を有し、
前記主流路は、第一液体に含まれた状態で流れる微小粒子が回収対象粒子であるかを判定するために用いられる判定領域を有し、
回収対象粒子であると判定された微小粒子は、前記第一液体に含まれた状態で、前記回収流路内の前記第一液体と非混和性である第二液体中に回収される、
微小粒子分取用マイクロチップ。
【請求項19】
微小粒子が通流される主流路と、
前記微小粒子のうち、回収対象粒子が回収される回収流路と、
前記主流路と前記回収流路とを接続する接続流路と、
前記接続流路に液体を供給可能に接続されている液体供給流路と、
を含む流路構造を有する微小粒子分取用マイクロチップと、
前記主流路に、微小粒子を含む第一液体を供給する第一液体供給部と、
前記液体供給流路に、前記第一液体と非混和性である第二液体を供給する第二液体供給部と、
前記主流路内を流れる微小粒子が回収対象粒子であるかを判定する判定部と、
を備えている微小粒子回収装置。
【請求項20】
前記微小粒子分取用マイクロチップが、前記微小粒子回収装置から取り外し可能である、請求項19に記載の微小粒子回収装置。
【請求項21】
微小粒子が通流される主流路と、
前記微小粒子のうち、回収対象粒子が回収される回収流路と、
前記主流路と前記回収流路とを接続する接続流路と、
前記接続流路に液体を供給可能に接続されている液体供給流路と、を含む流路構造を有する微小粒子分取機構において、微小粒子を含む第一液体を前記主流路に流す通流工程と、
前記主流路を流れる微小粒子が回収対象粒子であるかを判定する判定工程と、
回収対象粒子を前記回収流路内へと回収する回収工程とを含み、且つ、
前記回収工程において、前記回収対象粒子は、前記第一液体に含まれた状態で、前記回収流路内の、前記第一液体と非混和性である第二液体中に回収される、
微小粒子含有エマルション粒子を含むエマルションの製造方法。
【請求項22】
1つの微小粒子を含むエマルション粒子の数の割合が、エマルション粒子全数に対して70%以上である、微小粒子含有エマルション粒子を含むエマルション。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、微小粒子回収方法、微小粒子分取用マイクロチップ、微小粒子回収装置、エマルションの製造方法、及びエマルションに関する。より詳細には、本技術は、エマルション内に微小粒子を回収するための微小粒子回収方法、微小粒子分取用マイクロチップ、及び微小粒子回収装置、当該回収方法において行われる工程を含むエマルション製造方法、並びにエマルションに関する。
【背景技術】
【0002】
単一細胞解析(Single cell analysis)を行うために、各エマルション粒子中に一つの細胞を含むエマルションを用いることが検討されている。このようなエマルションを形成するための技術がこれまでにいくつか開発されてきている。
【0003】
例えば、下記非特許文献1には、ランダムに粒子をエマルション内に捕獲する方法が記載されている。この方法では、1つのエマルションが1つの細胞を含むようにするために、細胞を含む溶液を~100cells/μl以下に希釈している。この方法において、1つの細胞を含むエマルション粒子が生成される効率はポアソン分布に従うため、空のエマルション粒子(細胞を含まないエマルション粒子)の割合が高く、非効率である。そこで、下記非特許文献1には、空のエマルション粒子に対する細胞含有エマルション粒子の割合を高めるために、例えば電場、誘電泳動、又は局所加熱などにより粒子又は流体を制御してエマルションをソーティングすることが提案されている。また、生成されるエマルション中の1細胞含有エマルション粒子の割合を高めるために、例えば下記非特許文献1に記載されるとおり、細胞により誘発されるプラトー-レイリー不安定性を利用すること、又は、高密度懸濁物がマイクロチャネルを素早く通過させられるときに生じる自己組織化を利用することが提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Agata Rakszewska et al., One drop at a time: toward droplet microfluidics as a versatile tool for single-cell analysis, NPG Asia Materials (2014) 6, e133
【非特許文献2】Linas Mazutis et al., Single-cell analysis and sorting using droplet-based microfluidic, Nat Protoc. 2013 May ; 8(5): 870-891
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エマルションを用いて単一細胞解析を行うためには、エマルション中の1細胞含有エマルション粒子の割合を高めることが望ましい。本技術は、1つの微小粒子を含むエマルション粒子をより効率的に生成するための新たな手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の微小粒子回収方法によって上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本技術は、微小粒子が通流される主流路と、
前記微小粒子のうち、回収対象粒子が回収される回収流路と、
前記主流路と前記回収流路とを接続する接続流路と、
前記接続流路に液体を供給可能に接続されている液体供給流路と、を含む流路構造を有する微小粒子分取機構において、微小粒子を含む第一液体を前記主流路に流す通流工程と、
前記主流路を流れる微小粒子が回収対象粒子であるかを判定する判定工程と、
回収対象粒子を前記回収流路内へと回収する回収工程とを含み、且つ、
前記回収工程において、前記回収対象粒子は、前記第一液体に含まれた状態で、前記回収流路内の前記第一液体と非混和性である第二液体中に回収される、
微小粒子回収方法を提供する。
前記微小粒子回収方法を実施することによって、前記回収流路内に、前記第二液体を分散媒とし且つ前記第一液体を分散質とするエマルションが形成されうる。
前記微小粒子回収方法を実施することによってエマルションが形成され、且つ、当該エマルションを構成する液滴の少なくとも一部が、前記回収対象粒子を1つ含みうる。
前記第一液体が親水性であり且つ前記第二液体が疎水性であってよい。
前記第二液体の動粘度が、前記第一液体の動粘度の1/100倍~100倍でありうる。
前記通流工程、前記判定工程、及び前記回収工程は、前記第二液体を前記液体供給流路から前記接続流路へと供給しながら行われうる。
前記主流路が、前記接続流路及び回収対象粒子以外の微小粒子が流れる少なくとも一つの廃棄流路へと分岐してよく、
前記液体供給流路が、前記接続流路へ液体を供給しうる。
前記接続流路に、前記第一液体が前記回収流路へと進行することを防ぐバルブが設けられていてよい。
前記通流工程において、前記微小粒子が前記主流路内を略一列に並んで前記接続流路に向かって流れうる。
前記微小粒子分取機構は、微小粒子を含有する液体が流れるサンプル流路及び微小粒子を含有しない液体が流れるシース流路が合流部で主流路へ連結し、合流部後の主流路に微小粒子が主流路内を略一列に並び流れるようにする流路構造を有してよく、
当該流路構造によって、略一列に並んで流れる微小粒子を含む層流が形成されうる。
前記判定工程において、前記主流路中を流れる微小粒子に光が照射され、当該照射により生じた光に基づき当該微小粒子が回収対象粒子であるかが判定されうる。
前記回収工程において、前記回収流路内の圧力変動により、前記回収対象粒子が前記接続流路を通って前記回収流路内へと回収されうる。
前記主流路、前記接続流路、及び前記回収流路は直線状に並んでいてよい。
前記微小粒子が細胞又は細胞塊であり、且つ、前記第一液体が当該微小粒子の培養液であってよい。
前記微小粒子が細胞、細胞塊、又は合成粒子であり、且つ、前記回収工程後に当該微小粒子が破壊されてよい。
前記回収流路内の回収された微小粒子が、さらなる微小粒子分取処理に付されてもよい。
前記微小粒子分取用マイクロチップは、前記流路構造を一つ又は二つ以上含みうる。
【0007】
また、本技術は、微小粒子が通流される主流路と、
前記微小粒子のうち、回収対象粒子が回収される回収流路と、
前記主流路と前記回収流路とを接続する接続流路と、
前記接続流路に液体を供給可能に接続されている液体供給流路と、を含む流路構造を有し、
前記主流路は、第一液体に含まれた状態で流れる微小粒子が回収対象粒子であるかを判定するために用いられる判定領域を有し、
回収対象粒子であると判定された微小粒子は、前記第一液体に含まれた状態で、前記回収流路内の前記第一液体と非混和性である第二液体中に回収される、
微小粒子分取用マイクロチップも提供する。
【0008】
また、本技術は、微小粒子が通流される主流路と、
前記微小粒子のうち、回収対象粒子が回収される回収流路と、
前記主流路と前記回収流路とを接続する接続流路と、
前記接続流路に液体を供給可能に接続されている液体供給流路と、
を含む流路構造を有する微小粒子分取用マイクロチップと、
前記主流路に、微小粒子を含む第一液体を供給する第一液体供給部と、
前記液体供給流路に、前記第一液体と非混和性である第二液体を供給する第二液体供給部と、
前記主流路内を流れる微小粒子が回収対象粒子であるかを判定する判定部と、
を備えている微小粒子回収装置も提供する。
前記微小粒子分取用マイクロチップは、前記微小粒子回収装置から取り外し可能であってよい。
【0009】
また、本技術は、微小粒子が通流される主流路と、
前記微小粒子のうち、回収対象粒子が回収される回収流路と、
前記主流路と前記回収流路とを接続する接続流路と、
前記接続流路に液体を供給可能に接続されている液体供給流路と、を含む流路構造を有する微小粒子分取機構において、微小粒子を含む第一液体を前記主流路に流す通流工程と、
前記主流路を流れる微小粒子が回収対象粒子であるかを判定する判定工程と、
回収対象粒子を前記回収流路内へと回収する回収工程とを含み、且つ、
前記回収工程において、前記回収対象粒子は、前記第一液体に含まれた状態で、前記回収流路内の、前記第一液体と非混和性である第二液体中に回収される、
微小粒子含有エマルション粒子を含むエマルションの製造方法も提供する。
【0010】
また、本技術は、1つの微小粒子を含むエマルション粒子の数の割合が、エマルション粒子全数に対して70%以上である、微小粒子含有エマルション粒子を含むエマルションも提供する
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本技術の微小粒子回収方法において用いられる微小粒子分取用マイクロチップの構成例を示す図である。
図2】本技術の微小粒子回収方法のフローの一例を示す図である。
図3】粒子分取部の一例の拡大図である。
図4】制御部の一例のブロック図である。
図5】容器が接続された微小粒子分取用マイクロチップの構成例を示す図である。
図6A】接続流路部分の拡大図である。
図6B】接続流路部分の拡大図である。
図7A】接続流路部分の拡大図である。
図7B】接続流路部分の拡大図である。
図8A】1つの微小粒子を含むエマルション粒子が回収流路内に形成されることを示す写真である。
図8B】ピエゾ素子の異なる駆動条件によって異なるサイズを有するエマルション粒子が形成されることを示す写真である。
図9】微小粒子分取用マイクロチップの一例の模式図である。
図10】微小粒子分取用マイクロチップの一例の模式図である。
図11】微小粒子分取用マイクロチップの一例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本技術を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態を示したものであり、本技術の範囲がこれらの実施形態のみに限定されることはない。なお、本技術の説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施形態(微小粒子回収方法)
(1)第1の実施形態の説明
(2)第1の実施形態の第1の例
(2-1)通流工程
(2-2)判定工程
(2-3)回収工程
(2-4)他の工程
(2-4-1)培養工程
(2-4-2)破壊工程
(2-4-3)検出工程
(2-4-4)合成工程
(2-5)微小粒子分取機構及び微小粒子
(3)流路構造の他の例
(3-1)主流路と廃棄流路とが直線状に並んでいる流路構造
(3-2)複数の回収流路を有する流路構造
2.第2の実施形態(微小粒子分取用マイクロチップ)
3.第3の実施形態(微小粒子回収装置)
4.第4の実施形態(エマルションの製造方法)
5.第5の実施形態(エマルション)
【0013】
1.第1の実施形態(微小粒子回収方法)
【0014】
(1)第1の実施形態の説明
【0015】
本技術の微小粒子回収方法は、微小粒子が通流される主流路と、前記微小粒子のうち、回収対象粒子が回収される回収流路と、前記主流路と前記回収流路とを接続する接続流路と、前記接続流路に液体を供給可能に接続されている液体供給流路と、を含む流路構造を有する微小粒子分取機構を用いて行われる。本技術の微小粒子回収方法は、当該微小粒子分取機構において微小粒子を含む第一液体を前記主流路に流す通流工程と、前記主流路を流れる微小粒子が回収対象粒子であるかを判定する判定工程と、前記回収対象粒子を前記回収流路内へと回収する回収工程とを含み、且つ、前記回収工程において、前記回収対象粒子は、前記第一液体に含まれた状態で、前記回収流路内の、前記第一液体と非混和性である第二液体中に回収される。
【0016】
本技術によって、回収対象粒子は、前記第一液体に含まれた状態で、前記回収流路内の前記第一液体と非混和性である第二液体中に回収される。これにより、例えば回収対象粒子を含むエマルション粒子を前記回収流路内に形成することができる。
また、本技術において、回収流路内へと回収される微小粒子は、前記判定工程において回収対象粒子であると判定されたものであり、且つ、適切なタイミングで回収動作が実施される。さらに、微小粒子が流れて来ない時又は前記判定工程で回収対象粒子でないと判断された微小粒子が来た時には回収動作が行われないため、回収流路内に微小粒子を含まないエマルション粒子又は回収対象粒子以外の粒子を含むエマルション粒子が形成されない。そのため、エマルション粒子中に1つの回収対象粒子が含まれる確率は極めて高い。例えば、本技術に従う方法によって、1つの微小粒子(特には回収対象粒子)を含むエマルション粒子を例えば70%以上、特には80%以上、より特には90%以上、さらには95%以上の成功率で生成することができる。本技術において、回収対象粒子は、前記判定工程において回収すると判定された微小粒子をいう。
【0017】
エマルションを利用した単一細胞解析にとって、エマルション中の1細胞含有エマルション粒子の含有割合を高めることが重要である。当該含有割合を高めることは、細胞数が少ないサンプルに対して単一細胞解析を行う場合においては、特に重要である。
しかしながら、例えば、上記非特許文献2に記載されるとおり、1つのエマルション粒子中に或る数の細胞が入る確率はポアソン分布に従うと考えられる。従来のエマルション形成技術では、1つのエマルション粒子中に1つの細胞が含まれる確率は、最大でも約65%程度であると言われている。
また、当該割合を高めるためには、サンプル中の細胞の数を増やすことが考えられる。しかしながら、例えばクリニカルサンプルに含まれる解析対象細胞の数はしばしば少なく、例えば1サンプル中の解析対象細胞数は例えば104~105でありうる。また、例えばCTC(血中循環腫瘍細胞)などの希少細胞を解析対象とする場合において、入手可能な細胞の数は限られる。
本技術により、上記のとおり、1つの微小粒子(例えば細胞)を含むエマルション粒子の割合を高めることができる。そのため、本技術は、エマルションを用いて単一細胞解析を行うために極めて有効である。
【0018】
また、各エマルション粒子中に一つの細胞を含むエマルションを用いた単一細胞解析において、一般的には、当該エマルションを形成する前に、例えばセルソータなどの細胞分取装置を用いて単一細胞解析のターゲット細胞群をソートしてターゲット細胞が精製される。そのため、当該単一細胞解析を行うためには、エマルション化装置に加えてセルソータが必要である。使用する装置が増えることは、例えばコストの観点から望ましくない。また、当該エマルションを形成するためには、エマルション形成工程に加えて、セルソート工程も必要になる。工程数が増えることは、例えば時間及びコストの観点から望ましくない。
セルソータを用いて、検出シグナルに基づきウェルプレートにシングルセルソートする技術もあるが、当該ウェルプレートのウェルの数は384が上限であり、解析スケール及びスループットが低い。また、ソートノズルがウェル間を移動する間はソートできないので、この間に流れてきたターゲット細胞はロスすることになる。
本技術の方法において、前記判定工程において回収対象粒子であると判定された微小粒子をエマルションの状態で回収することができる。そのため、本技術によって、セルソート工程を別途行うことなく、エマルションを形成することができる。また、本技術の方法によって、回収対象粒子の回収率を高められる。
【0019】
本技術の好ましい実施態様において、前記微小粒子回収方法を実施することによってエマルションが形成され、且つ、当該エマルションを構成する液滴(以下、「エマルション粒子」ともいう)の少なくとも一部が、前記回収対象粒子を1つ含む。より好ましくは、当該エマルションを構成する全液滴のうち、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%以上の数の液滴が1つの回収対象粒子を含む。本技術に従う微小粒子回収方法はこのように1つの回収対象粒子を含むエマルション粒子の割合が高いエマルションを形成することができる。
以上のとおりであるので、本技術は、1つの微小粒子を含むエマルション粒子を含むエマルションの製造方法も提供する。当該製造方法に含まれる工程は、前記微小粒子回収方法の工程と同じであってよい。
また、本技術は、1つの細胞を含むエマルション粒子の数の割合がエマルション粒子全数に対して70%以上であるエマルションも提供する。前記割合は、好ましくは75%以上、さらにより好ましくは80%以上、85%以上、又は90%以上であってもよい。このように、本技術によって、1つのエマルション粒子を極めて高い含有割合で含むエマルションが提供される。
【0020】
本技術の方法において用いられる前記微小粒子分取機構に含まれる流路構造において、前記主流路と前記回収流路とが前記接続流路を介して接続されており、当該接続流路には前記液体供給流路が接続されている。当該液体供給流路から前記第二液体を当該接続流路へと供給することによって、前記主流路を流れる前記第一液体が前記回収流路へと侵入することを防ぐことができ、且つ、必要に応じて回収流路内に前記第一液体を導くことができる。例えば、前記回収対象粒子が前記接続流路付近に到達した場合にだけ前記第一液体を回収流路内へ導くことで、前記回収対象粒子を、前記第一液体に含まれた状態で前記回収流路内に導くことができる。
【0021】
本技術の好ましい実施態様に従い、本技術に従う微小粒子回収方法を実施することによって、前記回収流路内に、前記第二液体を分散媒とし且つ前記第一液体を分散質とするエマルションが形成される。本技術に従う微小粒子回収方法により形成されるエマルションは、全エマルション粒子に占める、1つの回収対象粒子を含むエマルション粒子の含有割合が高い。そのため、本技術は、解析対象となる細胞の数が少ない場合にも適用可能である。
【0022】
前記第二液体の動粘度は、好ましくは前記第一液体の動粘度の1/1000倍~1000倍であり、より好ましくは1/100倍~100倍であり、さらにより好ましくは1/10倍~10倍であり、さらにより好ましくは1/5倍~5倍であり、特に好ましくは1/2倍~2倍である。本技術において、前記第一液体及び前記第二液体の動粘度は同程度であることが好ましい。これによりエマルションが形成されやすくなる。
前記第一液体及び前記第二液体の25℃における密度はいずれも、例えば0.5g/cm~5g/cm、好ましくは0.6g/cm~4g/cm、より好ましくは0.7g/cm~3g/cmでありうる。
また、前記第二液体の密度は、好ましくは前記第一液体の密度の1/100倍~100倍であり、より好ましくは1/10倍~10倍であり、さらにより好ましくは1/5倍~5倍であり、特に好ましくは1/2倍~2倍である。本技術において、前記第一液体及び前記第二液体の密度は同程度であることが好ましい。これによりエマルションが形成されやすくなる。
前記第一液体及び前記第二液体の25℃における動粘度は、例えば0.3cSt~5cSt、好ましくは0.4cSt~4cSt、より好ましくは0.5cSt~3cStでありうる。
前記第一液体及び前記第二液体が以上の物性を有することによって、前記回収流路内にエマルションが形成されやすくなる。また、このような物性によって、マイクロ流路内をこれら液体が流れやすくなる。
【0023】
本技術の一つの実施態様において、前記第一液体が親水性の液体であり、且つ、前記第二液体が疎水性の液体であってよい。この実施態様において、前記回収流路内に、疎水性の液体を分散媒とし且つ親水性の液体を分散質とするエマルションが形成されうる。例えば細胞などの生体粒子は、例えばバッファー又は培養液などの親水性の液体に含まれた状態で存在することが望ましい。そのため、この実施態様は、親水性の液体中に存在することが望ましい微小粒子、特には生体粒子、より特には細胞を回収するために適している。
【0024】
前記親水性の液体は、例えば水及び水と混和性の液体を包含する。例えば、前記親水性の液体は、水、親水性アルコール、親水性エーテル、ケトン、ニトリル系溶媒、ジメチルスルホキシド、及びN,N-ジメチルホルムアミドからなる群より選択される1つ又は2以上の混合物を主成分とする液体であってよい。本明細書内において、主成分とは、当該液体の例えば50質量%以上、特には60質量%以上、より特には70質量%以上、さらにより特には80質量%以上、85質量%以上、又は90質量%以上を占める成分をいう。前記親水性アルコールとしては、例えばエタノール、メタノール、プロパノール、及びグリセリンなどを挙げることができる。前記親水性エーテルとしては、例えばテトラヒドロフラン、ポリエチレンオキサイド、及び1,4-ジオキサンなどを挙げることができる。前記ケトンとしては、例えばアセトン及びメチルエチルケトンなどが挙げられる。前記ニトリル系溶媒としては、例えばアセトニトリルなどが挙げられる。
【0025】
前記親水性の液体は、好ましくは、水を主成分とする液体であってよく、例えば水、水溶液、又は、水分散物であってよい。前記親水性の液体は、例えばシース液及び/又はサンプル液であってよい。前記親水性の液体は、好ましくは微小粒子(例えば生体粒子、特には細胞)に悪影響を及ぼさない親水性の液体である。
前記親水性の液体は、例えば生体分子を含む液体であってよい。当該生体分子は、例えば、アミノ酸、ペプチド、及びタンパク質から選ばれる1種又は2種以上の組合せであってよい。
また、前記親水性の液体は、例えば界面活性剤、特には非イオン性界面活性剤を含んでもよい。非イオン界面活性剤の例として、例えばポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシドとのトリブロック共重合体を挙げることができ、当該トリブロック共重合体は、ポロキサマー又はプルロニック系界面活性剤とも呼ばれる。プルロニック系界面活性剤のより具体的な例は、Pluronic(商標)F68である。
【0026】
前記親水性の液体として、例えば培養液及びバッファーを挙げることができるがこれらに限定されない。前記バッファーは、好ましくはグッドバッファーである。
当該親水性の液体として培養液を用いることで、回収対象粒子として回収された細胞を、エマルション粒子中に保持されたまま培養することができる。
また、当該親水性の液体(特には当該シース液)が細胞刺激性成分を含むことによって、回収対象粒子として回収された細胞を、エマルション粒子中に保持されたまま刺激することができる。さらに、刺激された細胞の特徴(例えば形態など)を顕微鏡などによって観察することもできる。
また、当該親水性の液体(例えば当該シース液又は当該サンプル液)が、細胞刺激の応答を観察することを可能とするアッセイ系を含んでもよい。当該アッセイ系によって、回収対象粒子として回収された細胞からの当該応答を、エマルション粒子中に保持されたまま、例えば光学的に検出することができる。当該アッセイ系は、好ましくはwash freeのアッセイ系であり、例えば蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)又は生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)などを利用した系が好ましい。
以上のとおり、本技術において微小粒子が生体粒子(特には細胞)である場合、種々の単一の生体粒子の解析(特には単一細胞解析、例えば単一細胞イメージングなど)を行うことができる。
【0027】
前記親水性の液体の25℃における密度は、例えば0.5g/cm~5g/cm、好ましくは0.6g/cm~4g/cm、より好ましくは0.7g/cm~3g/cmでありうる。
前記親水性の液体の25℃における動粘度は、例えば0.3cSt~5cSt、好ましくは0.4cSt~4cSt、より好ましくは0.5cSt~3cStでありうる。
前記親水性の液体が以上の物性を有することによって、マイクロ流路内を流れやすくなり、また、前記回収流路内にエマルションが形成されやすくなる。
【0028】
前記疎水性の液体は、前記親水性の液体と非混和性である液体から選択されるいずれかの液体であってよい。前記疎水性の液体は、例えば脂肪族炭化水素、フッ素系油、フッ素原子を含む低分子又は高分子、シリコーンオイル、芳香族系炭化水素、脂肪族一価アルコール(例えばn-オクタノールなど)、及びフッ化多糖類からなる群より選択される1つ又は2以上の混合物を主成分とする液体であってよい。
前記脂肪族炭化水素は、好ましくは炭素原子数が7以上30以下の脂肪族炭化水素である。炭素原子数が7以上30以下であることで、疎水性液体の動粘度がマイクロ流路内を流れるために適している。脂肪族炭化水素の例として、ミネラルオイル;例えばスクワランオイル及びオリーブオイルなどの動植物由来のオイル;例えばデカン及びヘキサデカンなどの炭素原子数10~20のパラフィン系炭化水素;及び、炭素原子数10~20のオレフィン系炭化水素を挙げることができる。
本技術において、前記親水性の液体との良好な非混和性の観点から、前記疎水性の液体は好ましくはフッ素系油である。前記フッ素系油として、例えばパーフルオロカーボン(PFC)、パーフルオロポリエーテル(PFPE)、及びハイドロフルオロエーテル(HFE)を挙げることができる。パーフルオロカーボンとして例えばフロリナート(商標)FC40及びフロリナートFC-770(3M社製)などが挙げられる。パーフルオロポリエーテルとして例えばKrytox(DuPont社製)を挙げることができる。ハイドロフルオロエーテルとして例えばHFE7500(3M社製)を挙げることができる。
【0029】
前記疎水性の液体の25℃における密度は、例えば0.5g/cm~5g/cm、好ましくは0.6g/cm~4g/cm、より好ましくは0.7g/cm~3g/cmでありうる。
前記疎水性の液体の25℃における動粘度は、例えば0.3cSt~5cSt、好ましくは0.4cSt~4cSt、より好ましくは0.5cSt~3cStでありうる。
前記疎水性の液体が以上の物性を有することによって、前記回収流路内にエマルションが形成されやすくなる。例えば密度又は動粘度が高すぎる場合は、前記接続流路内をスムーズに流れなくなる可能性が高まる。
【0030】
本技術の好ましい実施態様において、前記第一液体及び前記第二液体のうちの一方又は両方が界面活性剤を含みうる。特には、前記疎水性の液体及び前記親水性の液体のうちの一方又は両方が界面活性剤を含み、より特には前記疎水性の液体が界面活性剤を含む。界面活性剤によって、エマルション粒子が形成されやすくなり、エマルション粒子が安定的に維持することもできる。界面活性剤として、例えば、非イオン性界面活性剤及びフッ素系界面活性剤を挙げることができる。非イオン性界面活性剤としては、例えばSpan80及びAbil EMを挙げることができるが、これらに限定されない。界面活性剤の種類は当業者により適宜選択されてよい。前記フッ素系界面活性剤として、例えばパーフルオロポリエーテルベースの界面活性剤及び偽相界面活性剤(pseudosurfactant)を挙げることができる。前者として例えばKrytox(DuPont社製)を挙げることができ、後者として例えばパーフルオロオクタノールを挙げることができる。
【0031】
前記界面活性剤は、例えば前記疎水性の液体中に当該界面活性剤の臨界ミセル濃度以上で存在しうる。当該臨界ミセル濃度は、例えば1μM~1000μM、特には10μM~100mMでありうる。また、前記界面活性剤の界面張力は、例えば40mN/m以下であり、特には20mN/m以下であってよい。
【0032】
本技術の他の実施態様において、前記第一液体が疎水性の液体であり、且つ、前記第二液体が親水性の液体であってよい。
この実施態様において、前記回収流路内に、親水性の液体を分散媒とし且つ疎水性の液体を分散質とするエマルションが形成されうる。本技術は、当該エマルション中に微小粒子を回収するために用いられてもよい。当該疎水性の液体及び当該親水性の液体の例は、上記で述べたとおりである。
また、この実施態様は、例えば分散媒及び分散質がそれぞれ疎水性液体及び親水性液体であり且つエマルション粒子が微小粒子を含むエマルションから、さらに目的とする微小粒子だけを回収する場合に適用されうる。
また、本技術において用いられうるアッセイ系として、微小粒子が蛍光を発する系だけでなく、エマルション粒子が蛍光を発する系も用いられうる。そのため、微小粒子を含むエマルション粒子を回収するために、前記判定工程において、微小粒子に対する判定が行われてよく、エマルション粒子に対する判定が行われてよく、又は、微小粒子及びエマルション粒子の両方に対する判定が行われてもよい。このように、本技術において、微小粒子且つ/又はエマルション粒子から得られる情報に基づき、微小粒子又はエマルション粒子が回収対象であるかが判定されてよい。
【0033】
本技術の好ましい実施態様に従い、前記通流工程、前記判定工程、及び前記回収工程は、前記第二液体を前記液体供給流路から前記接続流路へと供給しながら行われる。これにより、前記接続流路が前記第二液体によって満たされ、前記第一液体が不必要に前記回収流路へ進行することを防ぐことができる。
【0034】
(2)第1の実施形態の第1の例
【0035】
本技術の微小粒子回収方法は、微小粒子分取機構を用いて行われる。以下で、本技術の微小粒子回収方法において用いられる微小粒子分取機構の構成例である微小粒子分取用マイクロチップを示す図1及び本技術の微小粒子回収方法のフローの一例を示す図2を参照しながら、本技術の方法の一実施形態の例を説明する。
【0036】
図1に示されるとおり、本技術の方法において用いられる微小粒子分取用マイクロチップ150は、微小粒子が通流される主流路155と、前記微小粒子のうち回収対象粒子が回収される回収流路159とを含む。微小粒子分取用マイクロチップ150には、粒子分取部157が設けられている。粒子分取部157の拡大図が図3に示されている。図3のAに示されるとおり、粒子分取部157は、主流路155と回収流路159とを接続する接続流路170を含む。接続流路170には、接続流路170に液体を供給可能である液体供給流路161が接続されている。以上のとおり、微小粒子分取用マイクロチップ150は、主流路155、回収流路159、接続流路170、及び液体供給流路161を含む流路構造を有する。
【0037】
また、図1に示されるとおり、微小粒子分取用マイクロチップ150は、当該マイクロチップに加えて、光照射部101、検出部102、及び制御部103を含む微小粒子回収装置100の一部を構成する。制御部103は、図4に示されるとおり、信号処理部104、判定部105、及び分取制御部106を含みうる。
【0038】
図2に示されるとおり、本技術の方法は、微小粒子分取用マイクロチップ150において、微小粒子を含む第一液体を主流路155に流す通流工程S101と、主流路155を流れる微小粒子が回収対象粒子であるかを判定する判定工程S102と、回収対象粒子を回収流路159内へと回収する回収工程S103とを含む。
以下で各工程について説明する。
【0039】
(2-1)通流工程
【0040】
通流工程S101において、微小粒子を含む第一液体が主流路155に通流される。前記第一液体は、主流路155内を、合流部162から粒子分取部157へ向かって流れる。前記第一液体は、微小粒子を含むサンプル液とシース液とから形成される層流であってよく、特には、前記サンプル液の周囲が前記シース液によって囲まれた層流であってよい。前記層流を形成するための流路構造について以下で説明する。
【0041】
微小粒子分取用マイクロチップ150には、サンプル液インレット151及びシース液インレット153が設けられている。これらインレットから微小粒子を含むサンプル液及び微小粒子を含まないシース液が、それぞれサンプル液流路152及びシース液流路154に導入される。
【0042】
微小粒子分取用マイクロチップ150は、前記サンプル液が流れるサンプル流路142及び前記シース液が流れるシース液流路154が合流部162で合流して主流路155となる流路構造を有する。当該サンプル液及び当該シース液が合流部162で合流して、例えばサンプル液の周囲がシース液で囲まれた層流が形成される。好ましくは、層流中には微小粒子が略一列に並んでいる。このように、本技術において前記流路構造によって、略一列に並んで流れる微小粒子を含む層流が形成される。
【0043】
当該層流は、主流路155を、粒子分取部157に向かって流れる。好ましくは、微小粒子は、主流路155内を一列に並んで流れている。これにより、以下で説明する検出領域156における光照射において、1つの微小粒子への光照射により生じた光と他の微小粒子への光照射により生じた光とを区別しやすくなる。
【0044】
(2-2)判定工程
【0045】
判定工程S102において、主流路155を流れる微小粒子が回収対象粒子であるかが判定される。当該判定は、判定部105により行われうる。判定部105は、当該判定を、光照射部101による微小粒子への光照射によって生じた光に基づき行いうる。判定工程S102の例について、以下でより詳細に説明する。
【0046】
判定工程S102において、光照射部101が、微小粒子分取用マイクロチップ150中の主流路155(特には検出領域156)を流れる微小粒子に光(例えば励起光など)を照射し、当該光照射により生じた光を検出部102が検出する。検出部102により検出された光の特徴に応じて、制御部103に含まれる判定部105が、微小粒子が回収対象粒子であるかを判定する。例えば、判定部105は、散乱光に基づく判定、蛍光に基づく判定、又は、画像(例えば暗視野画像若しくは/且つ明視野画像など)に基づく判定を行いうる。後述の回収工程S103において、制御部103が、微小粒子分取用マイクロチップ150中の流れを制御することによって、回収対象粒子が回収流路159内へ回収される。
【0047】
光照射部101は、微小粒子分取用マイクロチップ150中の流路内を流れる微小粒子に光(例えば励起光など)を照射する。光照射部101は、光を出射する光源と、検出領域を流れる微小粒子に対して励起光を集光する対物レンズとを含みうる。光源は、分析の目的に応じて当業者により適宜選択されてよく、例えばレーザダイオード、SHGレーザ、固体レーザ、ガスレーザ、高輝度LED、若しくはハロゲンランプであってよく、又は、これらのうちの2つ以上の組み合わせであってもよい。光照射部は、光源及び対物レンズに加えて、必要に応じて他の光学素子を含んでいてもよい。
【0048】
(蛍光信号或いは/及び散乱光信号に基づく分取対象の判別)
【0049】
本技術の一つの実施態様において、検出部102は、光照射部101による光照射によって前記微小粒子から生じた散乱光及び/又は蛍光を検出する。検出部102は、微小粒子から生じた蛍光及び/又は散乱光を集光する集光レンズと検出器とを含みうる。当該検出器として、PMT、フォトダイオード、CCD、及びCMOSなどが用いられうるがこれらに限定されない。検出部102は、集光レンズ及び検出器に加えて、必要に応じて他の光学素子を含んでいてもよい。検出部102は、例えば分光部をさらに含みうる。分光部を構成する光学部品として、例えばグレーティング、プリズム、及び光フィルターを挙げることができる。分光部によって、例えば検出されるべき波長の光を、他の波長の光から分けて検出することができる。検出部102は、検出された光を光電変換によって、アナログ電気信号に変換しうる。検出部102は、さらに当該アナログ電気信号をAD変換によってデジタル電気信号に変換しうる。
【0050】
制御部103に含まれる信号処理部104は、検出部102により得られたデジタル電気信号の波形を処理して、判定部105による判定のために用いられる光の特徴に関する情報(データ)を生成しうる。当該光の特徴に関する情報として、信号処理部104は、デジタル電気信号の波形から、例えば当該波形の幅、当該波形の高さ、及び当該波形の面積のうちの1つ、2つ、又は3つを取得しうる。また、当該光の特徴に関する情報には、例えば、当該光が検出された時刻が含まれていてよい。以上の信号処理部104による処理は、特には、前記散乱光及び/又は蛍光が検出される実施態様において行われうる。
【0051】
制御部103に含まれる判定部105は、流路中を流れる微小粒子への光照射により生じた光に基づき、当該微小粒子が回収対象粒子であるかを判定する。
前記散乱光及び/又は蛍光が検出される実施態様において、検出部102により得られたデジタル電気信号の波形が制御部103によって処理され、そして、当該処理によって生成された光の特徴に関する情報に基づき、判定部105が、当該微小粒子が回収対象粒子であるかを判定する。例えば、散乱光に基づく判定において、微小粒子の外形及び/又は内部構造の特徴が特定され、当該特徴に基づき微小粒子が回収対象粒子であるかが判定されてよい。さらに、例えば細胞などの微小粒子に対して予め前処理を施しておくことで、フローサイトメトリーにおいて用いられる特徴と同様の特徴に基づき、当該微小粒子が回収対象粒子であるかを判定することもできる。また、例えば細胞などの微小粒子を抗体又は色素(特には蛍光色素)で標識を行っておくことで、当該微小粒子の表面抗原の特徴に基づき、当該微小粒子が回収対象粒子であるかを判定することもできる。
【0052】
(明視野画像に基づく分取対象の判別)
【0053】
本技術の他の実施態様において、検出部102は、光照射部101による光照射により生成される明視野画像を取得してもよい。この実施態様において、光照射部101は例えばハロゲンランプを含み、検出部102は、CCD又はCMOSを含みうる。例えば、ハロゲンランプによって微小粒子へ光が照射され、当該照射された微小粒子の明視野画像をCCD又はCMOSが取得しうる。
【0054】
前記明視野画像が取得される実施態様において、制御部103に含まれる判定部105は、取得された明視野画像に基づき、微小粒子が回収対象粒子であるかを判定する。例えば、微小粒子(特には細胞)の形態、サイズ、及び色のうちの一つ又は二つ以上の組合せに基づき、微小粒子が回収対象粒子であるかが判定されうる。
【0055】
(暗視野画像に基づく分取対象の判別)
【0056】
本技術のさらに他の実施態様において、検出部102は、光照射部101による光照射により生成される暗視野画像を取得してもよい。この実施態様において、光照射部101は例えばレーザ光源を含み、検出部102は、CCD又はCMOSを含みうる。例えば、レーザによって微小粒子へ光が照射され、当該照射された微小粒子の暗視野画像(例えば蛍光画像)をCCD又はCMOSが取得しうる。
【0057】
前記暗視野画像が取得される実施態様において、制御部103に含まれる判定部105は、取得された暗視野画像に基づき、微小粒子が回収対象粒子であるかを判定する。例えば、微小粒子(特には細胞)の形態、サイズ、及び色のうちの一つ又は二つ以上の組合せに基づき、微小粒子が回収対象粒子であるかが判定されうる。
【0058】
上記で述べた、「蛍光信号或いは/及び散乱光信号に基づく分取対象の判別」、「明視野画像に基づく分取対象の判別」、及び「暗視野画像に基づく分取対象の判別」のいずれにおいても、検出部102は、例えばCMOSセンサが組み込まれた基板とDSP(Digital Signal Processor)を組み込まれた基板とが積層された撮像素子であってもよい。当該撮像素子のDSPを機械学習部として動作させることによって、当該撮像素子はいわゆるAIセンサとして動作することができる。当該撮像素子を含む検出部102は、微小粒子が回収対象粒子であるかを、例えば学習モデルに基づき判定しうる。また、当該学習モデルは、本技術に従う方法が行われている間に、リアルタイムで更新されてもよい。例えば、CMOSセンサ中の画素アレイ部のリセット中、当該画素アレイ部の露光中、又は当該画素アレイ部の各単位画素からの画素信号の読出中に、DSPが機械学習処理を行いうる。AIセンサとして動作する撮像素子の例として、例えば、国際公開第2018/051809号に記載された撮像装置を挙げることができる。AIセンサを撮像素子として用いる場合、画像アレイから取得された生データがそのまま学習されるので、分取判別処理のスピードが速い。
【0059】
前記判定は、例えば、当該光の特徴に関する情報が予め指定された基準を満たすかによって行われうる。当該基準は、微小粒子が回収対象粒子であることを示す基準でありうる。当該基準は、当業者により適宜設定されてよく、例えばフローサイトメトリーなどの技術分野において用いられる基準のような、光の特徴に関する基準でありうる。
【0060】
検出領域156中の1つの位置に1つの光が照射されてよく、又は、検出領域156中の複数の位置のそれぞれに光が照射されてもよい。例えば、検出領域156中の2つの異なる位置のそれぞれに光が照射されるようにマイクロチップ150は構成されうる(すなわち、検出領域156中に、光が照射される位置が2つある。)。この場合において、例えば、1つの位置での微小粒子への光照射によって生じた光(例えば蛍光及び/又は散乱光など)に基づき当該微小粒子が回収対象粒子であるかが判定されうる。さらに、当該1つの位置での前記光照射によって生じた光の検出時刻ともう一つの位置での光照射によって生じた光の検出時刻との差に基づき、流路内における微小粒子の速度を算出することもできる。当該算出のために、予め、2つの照射位置の間の距離が決定されていてよく、前記2つの検出時刻の差と前記距離に基づき微小粒子の速度が決定されうる。さらに、当該速度に基づき、以下で述べる粒子分取部157への到達時刻を正確に予測することができる。当該到達時刻が正確に予測されることで、回収流路159へ入る流れの形成のタイミングを最適化することができる。また、或る微小粒子の粒子分取部157への到達時刻と当該或る微小粒子の前又は後の微小粒子の粒子分取部157への到達時刻との差が所定の閾値以下である場合は、当該或る微小粒子を回収しないと判定することもできる。当該或る微小粒子とその前又は後の微小粒子との間の距離が狭い場合に、当該或る微小粒子の吸引の際に当該前又は後の微小粒子が一緒に回収される可能性が高まる。当該一緒に回収される可能性が高い場合には当該或る微小粒子を回収しないと判定することによって、当該前又は後の微小粒子が回収されることを防ぐことができる。これにより、回収された微小粒子のうちの目的とする微小粒子の純度を高めることができる。検出領域156中の2つの異なる位置のそれぞれに光が照射されるマイクロチップ及び当該マイクロチップを含む装置の具体例は、例えば特開2014-202573号公報に記載されている。
【0061】
なお、制御部103は、光照射部101による光照射及び/又は検出部102による光の検出を制御してもよい。また、制御部103は、微小粒子分取用マイクロチップ150内に流体を供給するためのポンプの駆動を制御しうる。制御部103は、例えば、本技術に従う微小粒子回収方法を微小粒子回収装置に実行させるためのプログラムとOSとが格納されたハードディスク、CPU、及びメモリにより構成されてよい。例えば汎用のコンピュータにおいて制御部103の機能が実現されうる。前記プログラムは、例えばmicroSDメモリカード、SDメモリカード、又はフラッシュメモリなどの記録媒体に記録されていてもよい。当該記録媒体に記録された前記プログラムを、微小粒子回収装置100に備えられているドライブ(図示されていない)が読み出し、そして、制御部103が、当該読み出されたプログラムに従い、微小粒子回収装置100に本技術に従う微小粒子回収方法を実行させてもよい。
【0062】
(2-3)回収工程
【0063】
回収工程S103において、判定工程S102において回収対象粒子であると判定された微小粒子が、回収流路159内へ回収される。回収工程S103において、前記回収対象粒子は、前記第一液体に含まれた状態で、前記回収流路内の前記第一液体と非混和性である第二液体中に回収される。これにより、回収流路159内に前記第二液体を分散媒とし且つ前記第一液体を分散質とするエマルションを形成することができ、当該エマルションの各エマルション粒子中には1つの回収対象粒子が含まれている。そのため当該エマルションは、単一細胞解析のために適している。
以下で回収工程についてより詳細に説明する。
【0064】
回収工程S103は、マイクロチップ150中の粒子分取部157において行われる。粒子分取部157において、主流路155を流れてきた前記層流は、2つの廃棄流路158へと別れて流れる。図1に記載の粒子分取部157は2つの廃棄流路158を有するが、分岐流路の数は2つに限られない。粒子分取部157には、例えば1つ又は複数(例えば2つ、3つ、又は4つなど)の分岐流路が設けられうる。分岐流路は、図1におけるように1平面上でY字状に分岐するように構成されていてよく、又は、三次元的に分岐するように構成されていてもよい。
【0065】
粒子分取部157において、回収対象粒子が流れてきた場合にのみ、主流路155から接続流路170を通って回収流路159へ入る流れが形成されて、回収対象粒子が回収流路159内へ回収される。粒子分取部157の拡大図を図3に示す。図3Aに示されるとおり、主流路155と回収流路159とは、主流路155と同軸上にある接続流路170を介して連通されている。回収対象粒子は、図3Bに示されるとおり、接続流路170を通って、回収流路159へと流れる。回収対象粒子でない微小粒子は、図3Cに示されるとおり、廃棄流路158へと流れる。
【0066】
接続流路170付近の拡大図を図6A及び6Bに示す。図6Aは、接続流路170付近の模式的な斜視図である。図7Bは、液体供給流路161の中心線と接続流路170の中心線とを通る平面における模式的な断面図である。接続流路170は、検出領域156側の流路170a(以下、上流側接続流路170aともいう)と、回収流路159側の流路170b(以下、下流側接続流路170bともいう)と、接続流路170と液体供給流路161との接続部170cとを含む。液体供給流路161は、接続流路170の流路の軸に対して略垂直になるように設けられている。図6A及び6Bにおいて、2つの液体供給流路161が、接続流路170の略中心位置にて向かい合うように設けられているが、1つの液体供給流路だけが設けられていてもよい。
【0067】
上流側接続流路170aの横断面の形状及び寸法は、下流側接続流路170bの形状及び寸法と、同じであってよい。例えば、図6A及び6Bに示されるとおり、上流側接続流路120aの横断面及び下流側接続流路120bの横断面のいずれもが、同じ寸法を有する略円形であってよい。代替的には、これら2つの横断面のいずれもが同じ寸法を有する矩形(例えば正方形又は長方形など)であってもよい。
【0068】
2つの液体供給流路161から、図6B中に矢印に示されるとおりに第二液体が接続流路170へと供給される。当該第二液体は、接続部170cから、上流側接続流路170a及び下流側接続流路170bの両方へ流れる。
【0069】
回収工程が行われない場合は、当該第二液体は以下のとおりに流れる。
上流側接続流路170aへ流れた当該第二液体は、接続流路170の主流路155との接続面から出たのち、2つの廃棄流路158へと別れて流れる。このように当該第二液体が当該接続面から出ていることによって、回収流路159内へ回収される必要のない第一液体及び微小粒子が接続流路170を通って回収流路159へ入ることを防ぐことができる。
下流側接続流路170bへ流れた当該第二液体は、回収流路159内へと流れる。これによって、回収流路159内が当該第二液体によって満たされ、当該第二液体は例えばエマルション形成のための分散媒となる。
【0070】
回収工程が行われる場合においても、当該第二液体は、2つの液体供給流路161から接続流路170へと供給されうる。しかしながら、回収流路159内の圧力変動により、特には回収流路159内に負圧を発生させることによって、主流路155から接続流路170を通って回収流路159へと流れる流れが形成される。すなわち、主流路155から、上流側接続流路170a、接続部170c、及び下流側接続流路170bをこの順に通って回収流路159へと流れる流れが形成される。これにより、回収対象粒子が、当該第一液体に包まれた状態で、回収流路159内の当該第二液体中に回収される。当該回収工程を行うことによって、回収流路159内に又は回収流路末端163に例えば流路を介して接続されている容器内に、例えばエマルションが形成されうる。
【0071】
上流側接続流路120aの横断面の形状及び/又は寸法は、下流側接続流路120bの形状及び/又は寸法と異なっていてもよい。これら2つの流路の寸法が異なる例を図7A及び7Bに示す。図7A及び7Bに示されるとおり、接続流路180は、検出領域156側の流路180a(以下、上流側接続流路180aともいう)と、回収流路159側の流路180b(以下、下流側接続流路180bともいう)と、接続流路180と液体供給流路161との接続部180cとを含む。上流側接続流路180aの横断面及び下流側接続流路180bの横断面はいずれも略円形の形状を有するが、後者の横断面の直径は、前者の横断面の直径よりも大きい。後者の横断面の直径を前者のものよりも大きくすることによって、両者の直径が同じ場合と比べて、上記で述べた負圧による微小粒子分取動作の直後に回収流路159内に既に分取された回収対象粒子が接続流路180を通って主流路155へと放出されることをより効果的に防ぐことができる。
例えば、上流側接続流路180aの横断面及び下流側接続流路180bの横断面がいずれも矩形である場合は、後者の横断面の面積を前者の横断面の面積よりも大きくすることによって、上記で述べたように、既に回収された微小粒子が接続流路180を通って主流路155へと放出されることをより効果的に防ぐことができる。
【0072】
回収工程S103において、回収流路159内の圧力変動により、前記回収対象粒子が前記接続流路を通って前記回収流路内へと回収される。当該回収は、例えば、上記で述べた通り、回収流路159内に負圧を発生させることによって行われてよい。当該負圧は、例えばマイクロチップ150の外部に取り付けられているアクチュエータ107(特にはピエゾアクチュエータ)により、回収流路159を規定する壁が変形されることにより生じうる。当該負圧によって、回収流路159へ入る当該流れが形成されうる。当該負圧を発生させるために、例えば、回収流路159の壁を変形させることができるように、アクチュエータ107がマイクロチップ150外部に取り付けられうる。当該壁の変形によって、回収流路159の内空が変化されて、負圧が発生されうる。アクチュエータ107は、例えばピエゾアクチュエータでありうる。回収対象粒子が回収流路159へと吸い込まれる際には、前記層流を構成するサンプル液又は前記層流を構成するサンプル液及びシース液も、回収流路159へと流れうる。このようにして、回収対象粒子は、粒子分取部157において分取されて、回収流路159へと回収される。
【0073】
回収対象粒子は、第一液体に包まれた状態で、回収流路159内の前記第一液体と非混和性である第二液体中に回収される。これにより、上記で述べたとおり、回収流路159内に前記第二液体を分散媒とし且つ前記第一液体を分散質とするエマルションが形成される。
【0074】
回収対象粒子でない微小粒子が接続流路170を通って回収流路159へと入ることを防ぐために、接続流路170には液体供給流路161が備えられている。接続流路170には、液体供給流路161から、主流路155を流れる液体(サンプル液及びシース液)と非混和性の第二液体が導入される。
接続流路170に導入された第二液体の一部によって接続流路170から主流路155に向かう流れが形成されることで、回収対象粒子以外の微小粒子が回収流路159へ入ることが防がれる。接続流路170から主流路155に向かう流れが形成する第二液体は、主流路155を流れる第一液体が廃棄流路158へと流れる流れによって、主流路155内を流れることなく、第一液体と同様に廃棄流路158を流れる。
なお、接続流路170に導入された第二液体の残りは、回収流路159へと流れる。これにより、回収流路159内は第二液体によって満たされうる。
【0075】
回収流路159内には、前記第一液体を非混和性である第二液体が充填されていてよい。当該第二液体によって回収流路159内を充填するために、前記液体供給流路161から接続流路170へ当該第二液体が供給されうる。当該供給によって、当該第二液体は接続流路170から回収流路159へと流れ、これにより回収流路159内が当該第二液体によって充填されうる。
【0076】
廃棄流路158へと流れた層流は、廃棄流路末端160にて、マイクロチップの外部へと吐出されうる。また、回収流路159へと回収された回収対象粒子は、回収流路末端161にて、マイクロチップの外部へと吐出されうる。
【0077】
回収流路末端163には、例えば図5に示されるとおり、チューブ172などの流路を介して容器171が接続されうる。同図に示されるとおり、容器171に、回収対象粒子を含む前記第一液体を分散質とし且つ前記第二液体を分散媒とするエマルションが容器171内に回収される。このように、本技術の一つの実施態様に従い、微小粒子回収装置100は、回収対象粒子を含むエマルションを容器に回収するための流路を備えていてよい。
また、回収流路末端163を閉じて回収動作を行うと、回収流路159内に複数のエマルション粒子を保持することができる。当該回収動作の終了後に回収流路159内で、継続して、例えば単一細胞解析などのアッセイを行うこともできる。
【0078】
以上のとおり、本技術において、前記主流路は、前記接続流路と前記少なくとも一つの廃棄流路へと分岐していてよい。前記少なくとも一つの廃棄流路は、回収対象粒子以外の微小粒子が流れる流路である。
【0079】
また、図1及び2に示されるように、本技術の方法において用いられる微小粒子分取用マイクロチップにおいて、前記主流路、前記接続流路、及び前記回収流路が直線状に並んでいてよい。これら3つの流路が直線状(特には同軸上)に並んでいる場合、例えば前記接続流路及び前記回収流路が前記主流路に対して角度を有して配置されている場合と比べて、回収工程をより効率的に行うことができる。例えば、回収対象粒子を接続流路へと導くために要する吸引量をより少なくすることができる。
また、図1及び2に示されるように、本技術の方法において用いられる微小粒子分取用マイクロチップにおいて、微小粒子は、主流路内を略一列に並び、接続流路へ向かって流れる。そのため、回収工程における吸引量を少なくすることもできる。
【0080】
また、本技術の方法において、前記液体供給流路が、前記接続流路へ液体(特には第二液体)を供給する。これにより、前記接続流路内に、前記液体供給流路と前記接続流路との接続位置から前記主流路に向かって流れる流れが形成されて、前記主流路を流れる液体が前記接続流路へと侵入することを防ぐことができ、回収対象粒子以外の微小粒子が接続流路を通って回収流路へ流れることを防ぐこともできる。前記回収工程を行う際には、上記で述べたとおり、例えば回収流路内に生じた負圧によって、1つの回収対象粒子を含む第一液体が、前記接続流路を通って、前記回収流路の第二液体中に回収される。これにより、1つの回収対象粒子を含むエマルション粒子が第二液体中に形成される。
【0081】
また、本技術において、前記判定工程において回収対象粒子であると判定された微小粒子が、例えばピエゾアクチュエータを適切なタイミングで(例えば粒子分取部157に到達した時点で)駆動させることで、回収対象粒子を含む親水性溶液が回収流路159内に回収されてエマルション粒子が形成される。前記判定工程において例えばピークシグナル及び面積シグナルを利用して回収対象粒子であるかを判定することによって、1つの微小粒子(singlet)であるか、2つの微小粒子が結合したもの(doublet)であるか、又は3つの微小粒子が結合したもの(triplet)であるかの判定も可能である。そのため、1つのエマルション粒子中に2つ以上の微小粒子が含まれるエマルション粒子が形成されることを回避することができる。そのため、1つの微小粒子を含むエマルション粒子を高確率且つ高効率で形成することができる。また、このように2つ以上の微小粒子が結合したものが含まれるエマルション粒子が形成されることを回避することができるので、例えばセルソータなどによってエマルション形成操作前に2つ以上の微小粒子の結合物を除去する操作を省略することができる。
逆に、1回の回収動作で同時に接続流路へ引き込まれ得るほど近接した二つ以上の微小粒子の各々の特徴も判断することができる。例えば同一の特徴を持つ二つの微小粒子を一つのエマルション粒子内に閉じ込めることができ、又は、指定した異なる特徴を持つ微小粒子の組合せを一つのエマルジョン粒子内に閉じ込めることもできる。
【0082】
(実施例)
図1に示される微小粒子分取用マイクロチップ150と同じ流路構造を有する微小粒子分取用マイクロチップを用いて、以下のとおりに、1つの微小粒子を含むエマルション粒子の形成を行った。以下当該エマルション粒子の形成のための操作について、図1を参照しながら説明する。
【0083】
微小粒子分取用マイクロチップ150には、回収流路159内の容積を変動させることができるようにピエゾ素子(ピエゾアクチュエータ)が、前記マイクロチップの外側表面(特には回収流路159のうち接続流路170との接続部分に近い、膨らんでいる部分に対応する外側表面)に取り付けられていた。
直径10μmのビーズを含む親水性サンプル液を、サンプル液インレット151からサンプル液流路152へと導入し、且つ、親水性シース液を、シース液インレット153からシース液流路154へと導入した。導入された当該親水性サンプル液及び当該親水性シース液は合流部162で合流し、そして、当該親水性サンプル液が当該親水性シース液によって囲まれた層流が形成された。当該層流は、略一列に並んでいるビーズを含み、当該層流は主流路155内を接続流路170へと向かって流れた。
また、当該親水性サンプル液及び当該親水性シース液の導入と並行して、液体供給流路161から接続流路170へと疎水性の液体が供給された。前記疎水性の液体が液体供給流路161から接続流路170へと供給されることによって、前記層流が接続流路170を通って回収流路159へと侵入することが防がれ、且つ、回収流路159は前記疎水性の液体によって満たされていた。
主流路155のうちの検出領域156へと照射されているレーザ光の照射位置をビーズが通過することで、当該ビーズへレーザ光が照射されて光が生じる。当該生じた光が検出され、検出された光の特徴に基づき、各ビーズを回収するかが判定された。
【0084】
回収すると判定されたビーズが接続流路170付近に到達するタイミングで前記ピエゾ素子が駆動されて回収流路159の内腔が変形し、これにより当該ビーズが、接続流路170を通って回収流路159内へと回収された。当該回収のための操作は、以下のとおりであった:(i)10μ秒かけて回収流路159を変形して回収流路159内に負圧を与える、(ii)10μ秒間当該変形後の状態を保持する、そして、(iii)10μ秒かけて当該負圧を解消して当該変形を元に戻す。以上の(i)~(iii)の操作を繰り返すことによって、回収流路159内に、前記疎水性の液体中に1つのビーズを含むエマルション粒子を含むエマルションが形成された。当該エマルションは、前記疎水性の液体を分散媒とし且つ親水性の液体を含むエマルション粒子を分散質とするものであった。
【0085】
以上の(i)~(iii)の操作を行うことによって、1つのビーズを含むエマルション粒子が回収流路159内に形成されることが、図8Aに示されている。図8Aについて以下に説明する。
図8Aの(a)は、ビーズ(白の矢印により示されている)が接続流路170に向かって流れている状態を示す写真である。図8Aの時点において、主流路155を親水性の液体が粒子分取部157へ向かって流れ、そして、接続流路170へ流れることなく、主流路155から分岐する2つの廃棄流路158へと流れている。疎水性の液体が液体供給流路161から接続流路170へと供給され、主流路155及び回収流路159の両方へと流れる。主流路155へ流れた当該疎水性の液体は、接続流路170から出た直後に、前記親水性の液体の流れによって、2つの廃棄流路158へと別れて流れている(図8A中のaにより示される付近を、廃棄流路158の壁に沿って流れている)。
図8Aの(b)は、ビーズがさらに接続流路に近づいた時点での写真である。この時点において、ビーズ回収のための操作が開始される。すなわち、前記ピエゾ素子を駆動することによって、回収流路159内腔の変形が開始される。
図8Aの(c)は、親水性の液体が回収流路159内へと進行している状態を示す写真である。当該写真から、図8Cの時点において、ビーズは親水性の液体によって包まれており、さらに当該親水性の液体が疎水性の液体によって囲まれていることが分かる。すなわち、ビーズを1つ含むエマルション粒子Pが形成されている。
図8Aの(d)は、当該エマルション粒子Pが、接続流路170から回収流路159へと入る直前の写真である。
図8Aの(e)は、当該エマルション粒子Pが、回収流路159へ入った直後の写真である。当該エマルション粒子P内にビーズが1つ含まれていることが確認できる。
図8Aの(f)は、当該エマルション粒子Pが、海流流路159内をさらに下流へと流れたことを示す写真である。
以上のとおり、本技術に従う方法によって、1つのビーズを含むエマルション粒子が形成された。
【0086】
以上の(i)~(iii)のそれぞれの操作の時間及び変形量を制御することで、エマルション粒子のサイズを調整することができる。すなわち、回収流路内のエマルション粒子のサイズは回収流路が変形し膨張する流路容積で制御できる。そのため、ピエゾ素子の変形量、すなわちピエゾ素子の電気的な駆動波形によって、容易に制御することができる。
例えば、ピエゾ素子による回収流路内腔の変形量を大きくすることによって、回収流路159内に吸い込まれる親水性の液体の量が多くなり、これによりエマルション粒子のサイズを大きくすることができる。反対に、当該変形量を小さくすることによって、回収流路159内に吸い込まれる親水性の液体の量が少なくなり、これによりエマルション粒子のサイズを小さくすることができる。
また、上記(ii)の保持時間をより長くする又はより短くすることによって、エマルション粒子のサイズをより大きくする又はより小さくすることもできる。このことを図8Bに示す。図8Bは、上記(ii)の保持時間が10μ秒間、15μ秒間、25μ秒間、及び35μ秒間である場合のエマルション粒子のサイズを示す写真である。この写真から、上記(ii)の保持時間の変更により、エマルション粒子のサイズを調整することができることが分かる。
また、接続流路170の容積(特には上流側接続流路170a、接続部170c、及び下流側接続流路170bのそれぞれ)を調整することによって、エマルション粒子の製図を調整することもできる。
【0087】
以上で説明した例では、前記液体供給流路から接続流路へ第二液体を供給することによって、主流路を流れる第一液体が前記接続流路内に入ることが防がれる。本技術において、主流路を流れる第一液体が前記接続流路内に入ることを防ぐために、前記接続流路に、前記第一液体が前記回収流路へと進行することを防ぐバルブが設けられてよい。前記回収工程が行われるときにのみ、当該バルブが解放されて、前記第一液体が前記接続流路を通って前記回収流路へと流れうる。
【0088】
(2-4)他の工程
【0089】
本技術の微小粒子回収方法は、以上で述べた通流工程、判定工程、及び回収工程に加えて、さらに他の工程を含んでもよい。当該他の工程の例について以下で説明する。
【0090】
(2-4-1)培養工程
【0091】
本技術の一つの好ましい実施態様に従い、前記微小粒子は細胞又は細胞塊であり、且つ、前記第一液体が当該微小粒子の培養液である。この実施態様において、培養液を分散質とし且つ培養液と非混和性である第二液体を分散媒とするエマルションが形成されうる。当該分散質により形成される各エマルション粒子中に1つの細胞又は細胞塊が含まれていてよい。これにより、各エマルション粒子内で、1つの細胞又は細胞塊を培養することができる。以上のとおり、この実施態様において、前記微小粒子回収方法はさらに、前記回収工程において回収された回収対象粒子(すなわち細胞又は細胞塊)を、当該培養液から形成されたエマルション粒子中で培養する培養工程を含みうる。培養液の種類は、培養される細胞に応じて当業者により適宜選択されうる。この実施態様は、例えば単一細胞解析において1つ1つの細胞又は細胞塊を別々に培養することが求められる場合に適している。
【0092】
(2-4-2)破壊工程
【0093】
本技術の一つの好ましい実施態様に従い、前記微小粒子が細胞、細胞塊、又は合成粒子であり、且つ、前記回収工程後に当該微小粒子が破壊されうる。この実施態様において、前記回収工程によってエマルションが形成され、当該エマルションを構成するエマルション粒子内のそれぞれの細胞、細胞塊、又は合成粒子が破壊されうる。以上のとおり、本技術の微小粒子回収方法は、前記回収工程後に、回収された微小粒子を破壊する破壊工程を含みうる。
本技術の他の好ましい実施態様に従い、細胞、細胞塊、及び合成粒子以外の粒子が破壊されてもよい。すなわち、本技術の微小粒子回収方法は、前記回収工程後に、回収された回収対象粒子を破壊する破壊工程を含みうる。
【0094】
当該破壊は、好ましくはエマルション粒子を維持したまま行われうる。これにより、例えば細胞成分(例えば細胞内成分、細胞膜成分、及び細胞壁成分など)又は合成粒子が有する成分がエマルション粒子内に放出され、当該細胞成分又は当該成分を、他の微小粒子の成分と区別して処理することができる。当該処理は、例えば当該細胞成分又は当該成分の分析、分離、又は増幅などでありうる。当該細胞成分又は当該成分として、例えばDNA、RNA、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、脂質、糖類、又は細胞内器官を挙げることができるが、これらに限定されない。例えば、当該細胞成分又は当該成分がDNAである場合、当該破壊工程によって、又は、当該破壊工程によって得られたエマルション粒子にさらに処理を行うことによって、DNAバーコーディングのための試料を調製することができる。
【0095】
(2-4-3)検出工程
【0096】
本技術の一つの好ましい実施態様に従い、前記回収工程後に、回収対象粒子が有する成分の検出若しくは分析、又は、回収対象粒子が有する成分と他の成分との反応が行われうる。
前記検出又は前記反応を行うために、例えば本技術に従い形成されたエマルション粒子が、他のエマルション粒子とマージされうる。そして、当該マージ後に、当該回収対象粒子が有する成分の検出若しくは分析、又は、当該成分と他の成分との反応が、マージ後のエマルション粒子内において行われうる。
当該マージにより、例えばCellular Indexing of Transcriptomes and Epitopes by Sequencing(CITE-seqともいう)が可能となる。例えば、回収対象粒子が、poly-A配列を有するオリゴバーコードが結合した抗体を結合した細胞である場合を想定する。前記回収工程において、当該細胞を含むエマルション粒子が形成される。そしてその後、当該エマルション粒子が、バーコード配列を有するビーズ又はゲルを含むエマルション粒子とマージされる。当該マージによって、当該細胞の細胞表面タンパク質又は細胞内mRNAを検出することができる。
また、エマルション化した細胞又は細胞塊(例えばスフェロイド又はオルガノイドなど)と薬剤とが反応されてもよい。これにより、当該薬剤に対する当該細胞又は細胞塊の応答を検出又は分析することができる。
また、当該検出において、生体分子が検出されてよい。生体分子の検出は、例えばwash free assayにより行われうる。wash free assayでは、例えばLOCI、FRET、BRET、又はFlimPIA法が用いられうる。
【0097】
(2-4-4)合成工程
【0098】
本技術の一つの好ましい実施態様に従い、前記回収工程後に、回収対象粒子による化学物質の合成が行われうる。例えば、当該合成は、前記回収工程において形成されたエマルション粒子内で行われてよい。例えば、当該エマルション粒子内に、無細胞発現用試薬を封入することで、in vitro抗体作製が可能となる。前記無細胞発現用試薬として、例えば直鎖DNA及びE.coli S30 Extract system for linear DNA(promega)を挙げることができる。また、例えば当該エマルション粒子内において、無細胞タンパク質合成系によるタンパク質合成が行われてもよい。
【0099】
(2-5)微小粒子分取機構及び微小粒子
【0100】
本技術の微小粒子分取方法において用いられる微小粒子分取機構は、上記で述べた流路構造を有する構造体又はデバイスであってよく、例えばマイクロ流路を有するチップであり、特には微小粒子分取用マイクロチップであってよい。
本技術において、「マイクロ」とは、微小粒子分取用マイクロチップに含まれる流路の少なくとも一部が、μmオーダの寸法を有すること、特にはμmオーダの横断面寸法を有することを意味する。すなわち、本技術において、「マイクロチップ」とは、μmオーダの流路を含むチップ、特にはμmオーダの横断面寸法を有する流路を含むチップをいう。例えば、μmオーダの横断面寸法を有する流路から構成されている粒子分取部を含むチップが、本技術に従うマイクロチップと呼ばれうる。例えば、粒子分取部157のうち、主流路155の横断面は例えば矩形であり、主流路155の幅は、粒子分取部157内において例えば100μm~500μmであり、特には100μm~300μmでありうる。主流路155から分岐する分岐流路の幅は、主流路155の幅よりも小さくてよい。接続流路170の横断面は例えば円形であり、接続流路170と主流路155との接続部における接続流路170の直径は例えば10μm~60μm、特には20μm~50μmでありうる。流路に関するこれらの寸法は、微小粒子のサイズ、特には回収対象粒子のサイズに応じて適宜変更されてよい。
【0101】
微小粒子分取用マイクロチップ150は、当技術分野で既知の方法により製造されうる。例えば、当該生体粒子分取用マイクロチップ150は、所定の流路が形成された2枚以上の基板を貼り合わせることにより製造することができる。流路は、例えば2枚以上の基板(特には2枚の基板)の全てに形成されていてもよく、又は、2枚以上の基板の一部の基板(特には2枚の基板のうちの一枚)にのみ形成されていてもよい。基板を貼り合わせる時の位置の調整をより容易にするために、流路は、一枚の基板にのみ形成されていることが好ましい。
【0102】
微小粒子分取用マイクロチップ150を形成する材料として、当技術分野で既知の材料が用いられうる。例えば、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリプロピレン、PDMS(polydimethylsiloxane)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリエチレン、ポリスチレン、ガラス、及びシリコンが挙げられるがこれらに限定されない。特に、加工性に優れており且つ成形装置を使用して安価にマイクロチップを製造することができることから、例えばポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、及びポリプロピレンなどの高分子材料が特に好ましい。
【0103】
微小粒子分取用マイクロチップ150は、好ましくは透明である。例えば、微小粒子分取用マイクロチップ150は、少なくとも光(レーザ光及び散乱光)が通過する部分が透明であり、例えば検出領域が透明でありうる。微小粒子分取用マイクロチップ150全体が透明であってもよい。
【0104】
なお、以上では、使い捨て可能な微小粒子分取用マイクロチップ150に上記流路群が形成されている実施態様を説明したが、本技術において、上記流路群はマイクロチップ150に形成されていなくてもよい。例えば、上記流路群は、例えばプラスチック又はガラスなどの基板内に形成されてもよい。また、上記流路群は、2次元的又は3次元的な構造を有していてもよい。
【0105】
本技術において、微小粒子は、前記微小粒子分取機構(例えば微小粒子分取用マイクロチップ)中の流路内を流れることができる寸法を有する粒子であってよい。本技術において、微小粒子は当業者により適宜選択されてよい。本技術において、微小粒子には、細胞、細胞塊、微生物、及びリポソームなどの生物学的微小粒子、並びに、ゲル粒子、ビーズ、ラテックス粒子、ポリマー粒子、及び工業用粒子などの合成微小粒子などが包含されうる。
生物学的微小粒子(生体粒子ともいう)には、各種細胞を構成する染色体、リポソーム、ミトコンドリア、オルガネラ(細胞小器官)などが含まれうる。細胞には、動物細胞(血球系細胞など)および植物細胞が含まれうる。細胞は、特には血液系細胞又は組織系細胞でありうる。前記血液系細胞は、例えばT細胞及びB細胞などの浮遊系細胞であってよい。前記組織系細胞は、例えば接着系の培養細胞又は組織からばらされた接着系細胞などであってよい。細胞塊には、例えばスフェロイド及びオルガノイドなどが含まれうる。微生物には、大腸菌などの細菌類、タバコモザイクウイルスなどのウイルス類、イースト菌などの菌類などが含まれうる。さらに、生物学的微小粒子には、核酸、タンパク質、これらの複合体などの生物学的高分子も包含されうる。これら生物学的高分子は、例えば細胞から抽出されたものであってよく又は血液サンプル若しくは他の液状サンプルに含まれるものであってもよい。
合成微小粒子は、例えば有機若しくは無機高分子材料又は金属などからなる微小粒子でありうる。有機高分子材料には、ポリスチレン、スチレン・ジビニルベンゼン、及びポリメチルメタクリレートなどが含まれうる。無機高分子材料には、ガラス、シリカ、及び磁性体材料などが含まれうる。金属には、金コロイド及びアルミなどが含まれうる。前記合成微小粒子は、例えばゲル粒子又はビーズなどであってよく、より特にはオリゴヌクレオチド、ペプチド、タンパク質、及び酵素から選ばれる1つ又は2つ以上の組合せが結合されたゲル粒子又はビーズであってよい。
微小粒子の形状は、球形若しくは略球形であってよく、又は非球形であってもよい。微小粒子の大きさ及び質量は、マイクロチップの流路のサイズによって当業者により適宜選択されうる。他方で、マイクロチップの流路のサイズも、微小粒子の大きさ及び質量によって適宜選択されうる。本技術において、微小粒子には、必要に応じて化学的又は生物学的な標識、例えば蛍光色素又は蛍光タンパクなど、が取り付けられうる。当該標識によって、当該微小粒子の検出がより容易になりうる。取り付けられるべき標識は、当業者により適宜選択されうる。当該標識には、微小粒子に特異的に反応する分子(例えば抗体、アプタマー、DNA、又はRNAなど)が結合しうる。
本技術の一つの実施態様に従い、前記微小粒子は生体粒子であり、特には細胞でありうる。
【0106】
本技術において、前記回収流路内に回収された微小粒子が、さらなる微小粒子分取処理に付されてもよい。当該さらなる微小粒子分取処理は、例えば、上記で説明した微小粒子分取用マイクロチップ150を用いて行われてよく、又は、他の微小粒子分取用マイクロチップを用いて行われてもよい。
例えば、当該さらなる微小粒子分取処理において、上記(2-1)~(2-4)において述べた工程のいずれか1つ又は2つ以上の組合せが行われてもよい。例えば、前記さらなる微小粒子分取処理において上記(2-2)で述べた判定工程が行われる場合において、微小粒子を含むエマルション粒子を回収するために、前記判定工程において、微小粒子に対する判定が行われてよく、エマルション粒子に対する判定が行われてよく、又は、微小粒子及びエマルション粒子の両方に対する判定が行われてもよい。このように、当該さらなる微小粒子分取処理においても、微小粒子且つ/又はエマルション粒子から得られる情報に基づき、微小粒子又はエマルション粒子が回収対象であるかが判定されてよい。
また、前記さらなる微小粒子分取処理において、微小粒子含有エマルション粒子を含むエマルションが、当該分取処理に付されてよい。
【0107】
(3)流路構造の他の例
【0108】
(3-1)主流路と廃棄流路とが直線状に並んでいる流路構造
【0109】
本技術の一つの実施態様において、前記接続流路及び前記回収流路は、前記主流路と直線状に並んでいなくてもよい。この実施態様における微小粒子分取用マイクロチップの例を以下で図9を参照しながら説明する。
【0110】
図9は、本技術に従う微小粒子分取用マイクロチップのうちの検出領域及び粒子分取部を含む領域の模式図を示す。図9に示される微小粒子分取用マイクロチップ350は、図1を参照して説明した微小粒子分取用マイクロチップ150と同様に、サンプル液流路352及びシース液流路354が合流部362で合流して主流路355となり、主流路355に検出領域356が設けられているという流路構造を有する。主流路355には微小粒子Pを含むサンプル液がシース液に囲まれている層流が流れる。
【0111】
微小粒子分取用マイクロチップ350は、主流路355に加えて、回収対象粒子が回収される回収流路359と、主流路355と回収流路359とを接続する接続流路370と、接続流路370に液体を供給可能に接続されている液体供給流路361とを含む。
【0112】
主流路355は、さらに、回収対象粒子でない微小粒子が流れる廃棄流路358を含む。図1を参照して説明した微小粒子分取用マイクロチップ150は、2つの廃棄流路158が主流路155から分岐しており、且つ、接続流路170、回収流路159、主流路155と直線状に並んでいる。これに対し、図9の微小粒子分取用マイクロチップ350は、主流路355と廃棄流路358とが直線状に並んでおり、接続流路370及び回収流路359が主流路355から分岐しているという流路構造を有する。
このように、本技術の微小粒子回収方法において用いられる微小粒子分取用マイクロチップは、前記接続流路及び前記回収流路が、前記主流路と直線状に並んでいなくてもよい。例えば、前記主流路と前記廃棄流路とが直線状に並んでおり、且つ、前記接続流路及び前記回収流路が前記主流路から分岐する流路構造を有していてよい。
【0113】
(3-2)複数の回収流路を有する流路構造
【0114】
本技術の他の実施態様において、微小粒子分取用マイクロチップは、微小粒子が通流される主流路と、前記微小粒子のうち、回収対象粒子が回収される回収流路と、前記主流路と前記回収流路とを接続する接続流路と、前記接続流路に液体を供給可能に接続されている液体供給流路と、を含む流路構造を一つ又は二つ以上含んでよい。上記で図1を参照して説明した微小粒子分取用マイクロチップは、当該流路構造を1つ有する。これに対し、以下で図10及び11を参照して説明するように、本技術の微小粒子回収方法において用いられる微小粒子分取用マイクロチップは、当該流路構造を2つ以上有していてもよい。
【0115】
図10は、本技術に従う微小粒子分取用マイクロチップのうちの検出領域及び粒子分取部を含む領域の模式図を示す。図10に示される微小粒子分取用マイクロチップ450は、図1を参照して説明した微小粒子分取用マイクロチップ150と同様に、サンプル液流路452及びシース液流路454が合流部462で合流して主流路455となり、主流路455に検出領域456が設けられているという流路構造を有する。主流路455には微小粒子Pを含むサンプル液がシース液に囲まれている層流が流れる。
【0116】
微小粒子分取用マイクロチップ450は、主流路455に加えて、回収対象粒子が回収される回収流路459-1と、主流路455と回収流路459-1とを接続する接続流路470-1と、接続流路470-1に液体を供給可能に接続されている液体供給流路461-1とを含む。微小粒子分取用マイクロチップ450は、さらに、回収対象粒子が回収される回収流路459-2と、主流路455と回収流路459-2とを接続する接続流路470-2と、接続流路470-2に液体を供給可能に接続されている液体供給流路461-2とを含む。すなわち、微小粒子分取用マイクロチップ450は、前記流路構造を2つ有する。微小粒子分取用マイクロチップ450において、主流路455は、この2つの流路構造によって共有されている。また、接続流路470-1は、接続流路470-2よりも下流で、主流路455と接続されている。
【0117】
微小粒子分取用マイクロチップ450によって、例えば、互いに異なる回収対象粒子を含む2つのエマルションを形成することができる。
この場合、前記判定工程において、微小粒子が、例えば2種の回収対象粒子A及びBのいずれかであるか又は当該2種の回収対象粒子のいずれでもないかが判定される。回収対象粒子A又はBに属するかに関する基準は、ユーザによって適宜選択されてよい。
前記回収工程において、微小粒子が回収対象粒子Aである場合は、当該微小粒子は、接続流路470-1を通って、回収流路459-1へと回収される。回収対象粒子Aである当該微小粒子は、第一液体に含まれた状態、回収流路459-1内の第二液体中に回収される。
前記回収工程において、微小粒子が回収対象粒子Bである場合は、当該微小粒子は、接続流路470-2を通って、回収流路459-2へと回収される。回収対象粒子Bである当該微小粒子は、第一液体に含まれた状態、回収流路459-2内の第二液体中に回収される。
前記回収工程において、微小粒子が回収対象粒子A及びBのいずれでもない場合は、当該微小粒子は、廃棄流路458へと流れる。
以上のとおりにして、回収対象粒子Aを含むエマルション及び回収対象粒子Bを含むエマルションが形成される。
【0118】
図11は、本技術に従う微小粒子分取用マイクロチップのうちの検出領域及び粒子分取部を含む領域の模式図を示す。図11に示される微小粒子分取用マイクロチップ550は、図10を参照して説明した微小粒子分取用マイクロチップ450と、2つの接続流路570-1及び570-2が主流路555の同じ位置で接続されていること以外は、図10を参照して説明した微小粒子分取用マイクロチップ450と同じである。すなわち、微小粒子分取用マイクロチップ550は、前記流路構造を2つ有し、主流路555は、この2つの流路構造によって共有されている。
【0119】
微小粒子分取用マイクロチップ550によっても、互いに異なる回収対象粒子を含む2つのエマルションを形成することができる。
この場合においても、前記判定工程において、微小粒子が、例えば2種の回収対象粒子A及びBのいずれかであるか又は当該2種の回収対象粒子のいずれでもないかが判定される。回収対象粒子A又はBに属するかに関する基準は、ユーザによって適宜選択されてよい。
前記回収工程において、微小粒子が回収対象粒子Aである場合は、当該微小粒子は、接続流路570-1を通って、回収流路559-1へと回収される。回収対象粒子Aである当該微小粒子は、第一液体に含まれた状態、回収流路559-1内の第二液体中に回収される。
前記回収工程において、微小粒子が回収対象粒子Bである場合は、当該微小粒子は、接続流路570-2を通って、回収流路559-2へと回収される。回収対象粒子Bである当該微小粒子は、第一液体に含まれた状態、回収流路559-2内の第二液体中に回収される。
前記回収工程において、微小粒子が回収対象粒子A及びBのいずれでもない場合は、当該微小粒子は、廃棄流路558へと流れる。
以上のとおりにして、回収対象粒子Aを含むエマルション及び回収対象粒子Bを含むエマルションが形成される。
【0120】
2.第2の実施形態(微小粒子分取用マイクロチップ)
【0121】
本技術は、微小粒子が通流される主流路と、前記微小粒子のうち、回収対象粒子が回収される回収流路と、前記主流路と前記回収流路とを接続する接続流路と、前記接続流路に液体を供給可能に接続されている液体供給流路と、を含む流路構造を有する微小粒子分取用マイクロチップも提供する。当該マイクロチップ中の前記主流路は、第一液体に含まれた状態で流れる微小粒子が回収対象粒子であるかを判定するために用いられる判定領域を有し、回収対象粒子であると判定された微小粒子は、前記第一液体に含まれた状態で、前記回収流路内の前記第一液体と非混和性である第二液体中に回収される。当該微小粒子分取用マイクロチップは、上記1.において述べた微小粒子分取用マイクロチップと同じであり、その説明が本実施形態においても当てはまる。
【0122】
3.第3の実施形態(微小粒子回収装置)
【0123】
本技術は、微小粒子が通流される主流路と、前記微小粒子のうち、回収対象粒子が回収される回収流路と、前記主流路と前記回収流路とを接続する接続流路と、前記接続流路に液体を供給可能に接続されている液体供給流路と、を含む流路構造を有する微小粒子分取用マイクロチップと、前記主流路に、微小粒子を含む第一液体を供給する第一液体供給部と、前記液体供給流路に、前記第一液体と非混和性である第二液体を供給する第二液体供給部と、前記主流路内を流れる微小粒子が回収対象粒子であるかを判定する判定部と、を備えている微小粒子回収装置も提供する。当該微小粒子回収装置は、上記1.において述べた微小粒子回収装置と同じであり、その説明が本実施形態においても当てはまる。
【0124】
前記微小粒子分取用マイクロチップも、上記1.において述べた微小粒子分取用マイクロチップと同じであり、その説明が本実施形態においても当てはまる。
前記第一液体供給部は、例えば、上記1.の(2)で述べた層流を形成するための少なくとも一つの構成要素であってよく、例えばサンプル液流路152及びシース液流路154を含みうる。また、前記第一液体供給部は、サンプル液インレット151及びシース液インレット153へそれぞれサンプル液及びシース液を導入するためにこれらインレットにそれぞれ接続される流路(例えばチューブなど)及び当該流路に接続されているサンプル液含有容器及びシース液含有容器も含みうる。
前記第二液体供給部は、例えば、上記1.の(2)において述べた液体供給流路161へ第二液体を供給するための少なくとも一つの構成要素であってよく、例えば液体供給流路161へ供給される第二液体を収容する容器、及び、当該容器と液体供給流路とを接続する流路(例えばチップと当該容器とを接続するチューブなど)を含みうる。
前記判定部は、上記1.において述べた判定部と同じであり、その説明が本実施形態においても当てはまる。
【0125】
また、前記微小粒子分取用マイクロチップは、前記微小粒子回収装置から取り外し可能であってよい。前記微小粒子分取用マイクロチップが前記装置から取り外し可能であることによって、試料毎に新しい微小粒子分取用マイクロチップを使用することができ、これにより、試料間でのコンタミネーションを防ぐことができる。
【0126】
4.第4の実施形態(エマルションの製造方法)
【0127】
本技術は、上記「1.第1の実施形態(微小粒子回収方法)」において述べた通流工程、判定工程、及び回収工程を含む、エマルションの製造方法も提供する。当該製造方法は、上記「(2-4)他の工程」において述べた他の工程を含んでもよい。上記「1.第1の実施形態(微小粒子回収方法)」において述べた説明が、本技術のエマルション製造方法にも当てはまる。
【0128】
本技術のエマルション製造方法によって、1つの微小粒子(特には回収対象粒子)を含むエマルション粒子を高い含有割合で含むエマルションを製造することができる。例えば、本技術の製造方法によって、1つの微小粒子を含むエマルション粒子の数の割合が、エマルション粒子全数に対して、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上であるエマルションが製造されうる。エマルションを利用した単一細胞解析において、1つの細胞を含むエマルションの含有割合を高めることが重要であり、分析対象となる細胞の数が少ない場合においては、当該含有割合を高めることが特に重要である。本技術の製造方法は、1つの微小粒子を含むエマルション粒子の数の割合が高いエマルションを製造できるので、前記単一細胞解析のために極めて有用である。
【0129】
5.第5の実施形態(エマルション)
【0130】
本技術は、1つの微小粒子を含むエマルション粒子の数の割合が、エマルション粒子全数に対して70%以上である、微小粒子含有エマルション粒子を含むエマルションも提供する。前記割合は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上である。本技術のエマルションは、このように高い含有割合で、1つの微小粒子を含むエマルション粒子を含むので、例えば単一細胞解析のために適している。
当該1つの微小粒子を含むエマルション粒子は、上記「1.第1の実施形態(微小粒子回収方法)」において述べたとおりにして形成されうる。また、当該エマルションは、例えば上記「1.第1の実施形態(微小粒子回収方法)」又は「4.第4の実施形態(エマルションの製造方法)」において述べたとおりに製造されうる。
【0131】
前記エマルションは、例えば前記第二液体を分散媒とし且つ前記第一液体を分散質とするエマルションであってよい。これらの液体について、上記「1.第1の実施形態(微小粒子回収方法)」における説明が当てはまる。前記エマルション粒子に含まれる微小粒子についても、上記「1.第1の実施形態(微小粒子回収方法)」における説明が当てはまり、当該微小粒子は例えば細胞、細胞塊、又は合成粒子などであってよい。
【0132】
なお、本技術は、以下のような構成をとることもできる。
〔1〕微小粒子が通流される主流路と、
前記微小粒子のうち、回収対象粒子が回収される回収流路と、
前記主流路と前記回収流路とを接続する接続流路と、
前記接続流路に液体を供給可能に接続されている液体供給流路と、を含む流路構造を有する微小粒子分取機構において、微小粒子を含む第一液体を前記主流路に流す通流工程と、
前記主流路を流れる微小粒子が回収対象粒子であるかを判定する判定工程と、
回収対象粒子を前記回収流路内へと回収する回収工程とを含み、且つ、
前記回収工程において、前記回収対象粒子は、前記第一液体に含まれた状態で、前記回収流路内の、前記第一液体と非混和性である第二液体中に回収される、
微小粒子回収方法。
〔2〕前記微小粒子回収方法を実施することによって、前記回収流路内に、前記第二液体を分散媒とし且つ前記第一液体を分散質とするエマルションが形成される、〔1〕に記載の微小粒子回収方法。
〔3〕前記微小粒子回収方法を実施することによってエマルションが形成され、且つ、当該エマルションを構成する液滴の少なくとも一部が、前記回収対象粒子を1つ含む、〔1〕又は〔2〕に記載の微小粒子回収方法。
〔4〕前記第一液体が親水性であり、且つ、前記第二液体が疎水性である、〔1〕~〔3〕のいずれか一つに記載の微小粒子回収方法。
〔5〕前記第二液体の動粘度が、前記第一液体の動粘度の1/100倍~100倍である、〔1〕~〔4〕のいずれか一つに記載の微小粒子回収方法。
〔6〕前記通流工程、前記判定工程、及び前記回収工程は、前記第二液体を前記液体供給流路から前記接続流路へと供給しながら行われる、〔1〕~〔5〕のいずれか一つに記載の微小粒子回収方法。
〔7〕前記主流路が、前記接続流路及び回収対象粒子以外の微小粒子が流れる少なくとも一つの廃棄流路へと分岐し、
前記液体供給流路が、前記接続流路へ液体を供給する、
〔1〕~〔6〕のいずれか一つに記載の微小粒子回収方法。
〔8〕前記接続流路に、前記第一液体が前記回収流路へと進行することを防ぐバルブが設けられている、〔1〕~〔7〕のいずれか一つに記載の微小粒子回収方法。
〔9〕前記通流工程において、前記微小粒子が前記主流路内を略一列に並んで前記接続流路に向かって流れる、〔1〕~〔8〕のいずれか一つに記載の微小粒子回収方法。
〔10〕前記微小粒子分取機構は、微小粒子を含有する液体が流れるサンプル流路及び微小粒子を含有しない液体が流れるシース流路が合流部主流路へ連結し、合流部後の主流路に微小粒子が主流路内を略一列に並び流れるようにする流路構造を有し、
当該流路構造によって、一列に並んで流れる微小粒子を含む層流が形成される、
〔1〕~〔9〕のいずれか一つに記載の微小粒子回収方法。
〔11〕前記判定工程において、前記主流路中を流れる微小粒子に光が照射され、当該照射により生じた光に基づき当該微小粒子が回収対象粒子であるかが判定される、〔1〕~〔10〕のいずれか一つに記載の微小粒子回収方法。
〔12〕前記回収工程において、前記回収流路内の圧力変動により、前記回収対象粒子が前記接続流路を通って前記回収流路内へと回収される、〔1〕~〔11〕のいずれか一つに記載の微小粒子回収方法。
〔13〕前記主流路、前記接続流路、及び前記回収流路が直線状に並んでいる、〔1〕~〔12〕のいずれか一つに記載の微小粒子回収方法。
〔14〕前記微小粒子が細胞又は細胞塊であり、且つ、前記第一液体が当該微小粒子の培養液である、〔1〕~〔13〕のいずれか一つに記載の微小粒子回収方法。
〔15〕前記微小粒子が細胞、細胞塊、又は合成粒子であり、且つ、前記回収工程後に当該微小粒子が破壊される、〔1〕~〔14〕のいずれか一つに記載の微小粒子回収方法。〔16〕前記回収流路内の回収された微小粒子が、さらなる微小粒子分取処理に付される、〔1〕~〔13〕のいずれか一つに記載の微小粒子回収方法。
〔17〕前記微小粒子分取用マイクロチップが、前記流路構造を一つ又は二つ以上含む、〔1〕~〔6〕のいずれか一つに記載の微小粒子回収方法。
〔18〕微小粒子が通流される主流路と、
前記微小粒子のうち、回収対象粒子が回収される回収流路と、
前記主流路と前記回収流路とを接続する接続流路と、
前記接続流路に液体を供給可能に接続されている液体供給流路と、を含む流路構造を有し、
前記主流路は、第一液体に含まれた状態で流れる微小粒子が回収対象粒子であるかを判定するために用いられる判定領域を有し、
回収対象粒子であると判定された微小粒子は、前記第一液体に含まれた状態で、前記回収流路内の、前記第一液体と非混和性である第二液体中に回収される、
微小粒子分取用マイクロチップ。
〔19〕微小粒子が通流される主流路と、
前記微小粒子のうち、回収対象粒子が回収される回収流路と、
前記主流路と前記回収流路とを接続する接続流路と、
前記接続流路に液体を供給可能に接続されている液体供給流路と、
を含む流路構造を有する微小粒子分取用マイクロチップと、
前記主流路に、微小粒子を含む第一液体を供給する第一液体供給部と、
前記液体供給流路に、前記第一液体と非混和性である第二液体を供給する第二液体供給部と、
前記主流路内を流れる微小粒子が回収対象粒子であるかを判定する判定部と、
を備えている微小粒子回収装置。
〔20〕前記微小粒子分取用マイクロチップが、前記微小粒子回収装置から取り外し可能である、〔19〕に記載の微小粒子回収装置。
〔21〕微小粒子が通流される主流路と、
前記微小粒子のうち、回収対象粒子が回収される回収流路と、
前記主流路と前記回収流路とを接続する接続流路と、
前記接続流路に液体を供給可能に接続されている液体供給流路と、を含む流路構造を有する微小粒子分取機構において、微小粒子を含む第一液体を前記主流路に流す通流工程と、
前記主流路を流れる微小粒子が回収対象粒子であるかを判定する判定工程と、
回収対象粒子を前記回収流路内へと回収する回収工程とを含み、且つ、
前記回収工程において、前記回収対象粒子は、前記第一液体に含まれた状態で、前記回収流路内の、前記第一液体と非混和性である第二液体中に回収される、
微小粒子含有エマルション粒子を含むエマルションの製造方法。
〔22〕1つの微小粒子を含むエマルション粒子の数の割合が、エマルション粒子全数に対して70%以上である、微小粒子含有エマルション粒子を含むエマルション。
【符号の説明】
【0133】
100 微小粒子回収装置
150 微小粒子分取用マイクロチップ
155 主流路
159 回収流路
161 液体供給流路
170 接続流路

図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2023-12-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小粒子を含む第一液体を主流路に流す通流工程と、
前記主流路を流れる微小粒子が回収対象粒子であるかを判定する判定工程と、
前記回収対象粒子を回収流路内へと回収する回収工程とを含み、且つ、
前記回収工程において、複数の回収対象粒子を含む液滴を回収する、
微小粒子回収方法。
【請求項2】
前記複数の回収対象粒子は、前記第一液体に含まれた状態で、前記回収流路内の、第二液体中に回収される、請求項1に記載の微小粒子回収方法。
【請求項3】
前記回収工程において、前記複数の回収対象粒子は、前記主流路と前記回収流路とを接続する接続流路を通って、前記回収流路内へと回収される、請求項1又は2に記載の微小粒子回収方法。
【請求項4】
前記微小粒子回収方法において、前記接続流路に液体を供給可能に接続されている液体供給流路から、前記接続流路内へ前記第二液体が供給される、請求項3に記載の微小粒子回収方法。
【請求項5】
前記液体供給流路から前記接続流路内への前記第二液体の供給によって、前記液体供給流路と前記接続流路との接続位置から前記主流路に向かって流れる流れが形成される、請求項4に記載の微小粒子回収方法。
【請求項6】
前記第二液体は、前記第一液体と非混和性である、請求項2に記載の微小粒子回収方法。
【請求項7】
前記回収流路内において、前記第二液体が分散媒となり且つ前記第一液体が分散質となる、請求項6に記載の微小粒子回収方法。
【請求項8】
前記微小粒子回収方法を実施することによって複数の液滴が形成され、且つ、前記複数の液滴の少なくとも一部が、前記複数の回収対象粒子を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の微小粒子回収方法。
【請求項9】
前記通流工程において、前記微小粒子が前記主流路内を略一列に並んで前記接続流路に向かって流れる、請求項1~8のいずれか一項に記載の微小粒子回収方法。
【請求項10】
前記通流工程において、前記微小粒子は、層流に含まれた状態で前記主流路内を前記接続流路に向かって流れる、請求項1~9のいずれか一項に記載の微小粒子回収方法。
【請求項11】
前記判定工程において、前記主流路中を流れる微小粒子に光が照射され、当該照射により生じた光に基づき当該微小粒子が回収対象粒子であるかが判定される、請求項1~10のいずれか一項に記載の微小粒子回収方法。
【請求項12】
前記回収工程において、前記回収流路内の圧力変動により、前記回収対象粒子が前記接続流路を通って前記回収流路内へと回収される、請求項1~11のいずれか一項に記載の微小粒子回収方法。
【請求項13】
微小粒子を含む第一液体を主流路に流す通流工程と、
前記主流路を流れる前記微小粒子が回収対象粒子であるかを判定する判定工程と、
前記回収対象粒子を回収流路内へと回収する回収工程とを含み、且つ、
前記回収工程において、複数の回収対象粒子を含む液滴を回収する、
液滴製造方法。
【請求項14】
微小粒子が通流される主流路と、前記微小粒子のうち回収対象粒子が回収される回収流路と、を含む流路構造を有する微小粒子分取用マイクロチップ内の前記主流路に、微小粒子を含む第一液体を供給する第一液体供給部と、
前記主流路内を流れる微小粒子が回収対象粒子であるかを判定する判定部と、
を備えており、
複数の回収対象粒子を含む液滴を前記回収流路内へ回収する、
液滴回収装置。
【請求項15】
微小粒子が通流される主流路と、前記微小粒子のうち回収対象粒子が回収される回収流路と、を含む流路構造を有する微小粒子分取用マイクロチップであって、
前記マイクロチップは、微小粒子を含む第一液体を前記主流路に流す通流工程と、前記主流路を流れる前記微小粒子が回収対象粒子であるかを判定する判定工程と、前記回収対象粒子を前記回収流路内へと回収する回収工程とを含み、且つ、前記回収工程において、複数の回収対象粒子を含む液滴が回収される微小粒子回収方法を実行するために用いられる、
前記マイクロチップ。

【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
また、本技術は、1つの微小粒子を含むエマルション粒子の数の割合が、エマルション粒子全数に対して70%以上である、微小粒子含有エマルション粒子を含むエマルションも提供する
また、本技術は、
微小粒子を含む第一液体を主流路に流す通流工程と、
前記主流路を流れる微小粒子が回収対象粒子であるかを判定する判定工程と、
前記回収対象粒子を回収流路内へと回収する回収工程とを含み、且つ、
前記回収工程において、複数の回収対象粒子を含む液滴を回収する、
微小粒子回収方法も提供する。
前記複数の回収対象粒子は、前記第一液体に含まれた状態で、前記回収流路内の、第二液体中に回収されうる。
前記回収工程において、前記複数の回収対象粒子は、前記主流路と前記回収流路とを接続する接続流路を通って、前記回収流路内へと回収されうる。
前記微小粒子回収方法において、前記接続流路に液体を供給可能に接続されている液体供給流路から、前記接続流路内へ前記第二液体が供給されうる。
前記液体供給流路から前記接続流路内への前記第二液体の供給によって、前記液体供給流路と前記接続流路との接続位置から前記主流路に向かって流れる流れが形成されうる。
前記第二液体は、前記第一液体と非混和性であってよい。
前記回収流路内において、前記第二液体が分散媒となり且つ前記第一液体が分散質となりうる。
前記微小粒子回収方法を実施することによって複数の液滴が形成され、且つ、前記複数の液滴の少なくとも一部が、前記複数の回収対象粒子を含みうる。
前記通流工程において、前記微小粒子が前記主流路内を略一列に並んで前記接続流路に向かって流れうる。
前記通流工程において、前記微小粒子は、層流に含まれた状態で前記主流路内を前記接続流路に向かって流れうる。
前記判定工程において、前記主流路中を流れる微小粒子に光が照射され、当該照射により生じた光に基づき当該微小粒子が回収対象粒子であるかが判定されうる。
前記回収工程において、前記回収流路内の圧力変動により、前記回収対象粒子が前記接続流路を通って前記回収流路内へと回収されうる。
また、本技術は、
微小粒子を含む第一液体を主流路に流す通流工程と、
前記主流路を流れる前記微小粒子が回収対象粒子であるかを判定する判定工程と、
前記回収対象粒子を回収流路内へと回収する回収工程とを含み、且つ、
前記回収工程において、複数の回収対象粒子を含む液滴を回収する、
液滴製造方法も提供する。
また、本技術は、
微小粒子が通流される主流路と、前記微小粒子のうち回収対象粒子が回収される回収流路と、を含む流路構造を有する微小粒子分取用マイクロチップ内の前記主流路に、微小粒子を含む第一液体を供給する第一液体供給部と、
前記主流路内を流れる微小粒子が回収対象粒子であるかを判定する判定部と、
を備えており、
前記回収対象粒子を前記回収流路内へ回収するように構成されており、且つ、複数の回収対象粒子を含む液滴を前記回収流路内に生成する、
液滴回収装置も提供する。
また、本技術は、
微小粒子が通流される主流路と、前記微小粒子のうち回収対象粒子が回収される回収流路と、を含む流路構造を有する微小粒子分取用マイクロチップであって、
前記マイクロチップは、微小粒子を含む第一液体を前記主流路に流す通流工程と、前記主流路を流れる前記微小粒子が回収対象粒子であるかを判定する判定工程と、前記回収対象粒子を前記回収流路内へと回収する回収工程とを含み、且つ、前記回収工程において、複数の回収対象粒子を含む液滴が回収される微小粒子回収方法を実行するために用いられる、
前記マイクロチップも提供する。