(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162529
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】環境DNAを採取する容器、及び、環境DNAの採取方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/10 20060101AFI20241114BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20241114BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
G01N1/10 N
G01N1/10 D
C12M1/00 A
C12N15/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078111
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 真依子
(72)【発明者】
【氏名】高畑 陽
【テーマコード(参考)】
2G052
4B029
【Fターム(参考)】
2G052AA28
2G052AB20
2G052AC03
2G052AC05
2G052AD09
2G052BA17
2G052CA02
2G052DA23
2G052DA27
2G052ED03
2G052ED16
4B029AA09
4B029BB01
4B029CC01
4B029GA02
4B029HA10
(57)【要約】
【課題】本発明は、コンタミネーションの発生を出来る限り排除しつつ、環境DNAをコンパクトな状態で保存できる容器、及び、環境DNAの採取方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係る容器は、環境水における環境DNAを採取する容器10であって、環境水を収容する本体部11と、前記本体部11の下方に設けられ、沈降する環境DNAを保存する保存部13と、前記本体部11と前記保存部13との間に両者を連通するように設けられ、内部を閉じることが可能な止水部12と、を備える。また、本発明に係る環境DNAの採取方法は、環境水に対して凝集剤及び吸着剤の少なくとも一方を添加する添加工程と、環境水を本体部11に注入する注入工程と、環境DNAを保存部13に沈降させる沈降工程と、止水部12において止水する止水工程と、本体部11と保存部13とを分離する分離工程と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境水における環境DNAを採取する容器であって、
環境水を収容する本体部と、
前記本体部の下方に設けられ、沈降する環境DNAを保存する保存部と、
前記本体部と前記保存部との間に両者を連通するように設けられ、内部を閉じることが可能な止水部と、
を備えることを特徴とする容器。
【請求項2】
前記止水部の内部を開閉する止水機構を備えることを特徴とする請求項1に記載の容器。
【請求項3】
前記本体部は、前記止水部に向かうに従って内空断面積が漸減する絞り部を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の容器。
【請求項4】
前記本体部を支持する架台を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の容器。
【請求項5】
前記本体部の内側面と前記止水部の内側面とに沿うように設けられるとともに、環境水を前記本体部と前記止水部とに接触させることなく前記保存部に導入するプラスチックフィルムを備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の容器。
【請求項6】
前記本体部と前記止水部と前記保存部とがプラスチックフィルムで一体として形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の容器。
【請求項7】
前記本体部の上方に、保持部を備えることを特徴とする請求項6に記載の容器。
【請求項8】
環境DNAを含む環境水を収容する本体部と、前記本体部の下方に設けられ、沈降する環境DNAを保存する保存部と、前記本体部と前記保存部との間に両者を連通するように設けられ、内部を閉じることが可能な止水部と、を備える容器を用いて、環境水における環境DNAを採取する方法であって、
環境水に対して凝集剤及び吸着剤の少なくとも一方を添加する添加工程と、
環境水を前記本体部に注入する注入工程と、
前記添加工程と前記注入工程の後に、環境DNAを前記保存部に沈降させる沈降工程と、
前記沈降工程の後に、前記止水部において止水する止水工程と、
前記止水工程の後に、前記本体部と前記保存部とを分離する分離工程と、
を含むことを特徴とする環境DNAの採取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境DNAを採取する容器、及び、環境DNAの採取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境DNA(environmental DNA)とは、河川や海水などの環境水に含まれる生物由来の組織片(細胞片、皮膚片、排泄物など)である。そして、この環境DNAを分析することにより、生物の有無、生物の個体種、生物の個体数といった多様な情報が得られることから、環境DNA分析は、環境を把握するための新たな方法として注目されている。
一般的な環境DNA分析は、現地で環境水を試料として採取し、これをろ紙等でろ過して、ろ紙等に捕捉した残渣物から抽出した環境DNAをリアルタイムPCRや次世代シーケンサーなどで分析する。分析処理には環境水のろ過が必要となるとともに、ろ過には時間がかかるため、現地で採取した大量の環境水を分析施設に搬送した後、ろ過処理、分析処理を実施することとなる。
【0003】
現在、環境DNA分析に関する技術として、環境DNAを迅速に濃縮し回収する技術が提案されている。例えば、非特許文献1には、SGF(Suspended Glass Fiber)法として、細かく砕いたガラス繊維に環境DNAを吸着させた後、ナイロンメッシュなどのフィルターを用いてガラス繊維を回収し、市販の試薬で環境DNAを抽出するという方法が提案されている。
また、環境DNA分析に関する技術として、前記のような分析施設でろ過処理を実施するのではなく、現地でろ過処理を実施する技術も提案されている。例えば、特許文献1には、環境DNA調査水域に設置する装置であって、環境水用の貯留容器とろ過装置を備えた装置が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Suzuki R., Kawamura K & Mizukami Y. (2023) Simple extraction and analysis of environmental DNA using glass fibers in suspension form. Limnology 24: 25-36
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記のとおり、一般的な環境DNA分析では、現地で採取した大量の環境水を分析施設に持ち帰ることになるが、採取すべき環境水(試料)の数の増加に応じて、運搬作業の労力やコストが飛躍的に増大してしまう。
ここで、非特許文献1のSGF法によって運搬作業の負担の軽減を図ろうとした場合、浮遊し易いガラス繊維を環境水に混合する処理とろ過処理(ガラス繊維の回収処理)とを少なくとも現場で実施しなければならない。しかしながら、これらの処理を現場で行う場合、環境DNA分析において懸念すべきコンタミネーション(特に、外部の物質の試料への混入)が生じるおそれがある。
また、特許文献1の技術によると、運搬作業の負担の軽減というメリットは享受できるものの、特定の環境の調査を前提とした技術であることから、調査対象となる環境が多数存在する場合は、環境ごとに装置を設置しなければならない。
よって、本発明者らは、コンタミネーションの発生を出来る限り排除しつつ、環境水に含まれる環境DNAをコンパクトな状態で保存することで、運搬作業の負担の軽減を図りたいと考えた。
【0007】
このような観点から、本発明は、コンタミネーションの発生を出来る限り排除しつつ、環境DNAをコンパクトな状態で保存できる容器、及び、環境DNAの採取方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
本発明に係る容器は、環境水における環境DNAを採取する容器であって、環境水を収容する本体部と、前記本体部の下方に設けられ、沈降する環境DNAを保存する保存部と、前記本体部と前記保存部との間に両者を連通するように設けられ、内部を閉じることが可能な止水部と、を備える。
本発明によれば、保存部に環境DNAが沈降した後、止水部で止水することで、本体部に収容された大量の環境水と保存部に保存された環境DNAとを分断することができる。そして、保存部に環境DNAが沈降する過程や本体部と保存部を分離する過程において、外部の物質が混入するといった事態は生じ難いことから、コンタミネーションの発生を出来る限り排除しつつ、環境DNAをコンパクトな状態で保存部に保存することができる。そのため、現場から分析施設への環境DNAの運搬作業の負担を軽減することができる。また、本発明によれば、環境DNA調査水域に装置を常設する必要もないことから、調査対象となる環境が多数存在する場合にも対応することができる。
本発明に係る容器は、前記止水部の内部を開閉する止水機構を備えることが好ましい。
本発明によれば、止水機構を備えることによって、止水部を止めるためのクリップなどを別途使用することなく止水することができる。
本発明に係る容器は、前記本体部が、前記止水部に向かうに従って内空断面積が漸減する絞り部を有することが好ましい。
本発明によれば、環境水における環境DNAが適切に保存部に沈降するため、環境DNAの回収効率を向上させることができる。
本発明に係る容器は、前記本体部を支持する架台を備えることが好ましい。
本発明によれば、環境DNAが保存部に沈降する間、人が容器を支える必要がなくなる。
本発明に係る容器は、前記本体部の内側面と前記止水部の内側面とに沿うように設けられるとともに、環境水を前記本体部と前記止水部とに接触させることなく前記保存部に導入するプラスチックフィルムを備えるのが好ましい。
本発明によれば、採取作業ごとにプラスチックフィルム(及び、保存部)を取り換えることで、前の採取作業で使用した環境水とのコンタミネーションを防止することができる。
本発明に係る容器は、前記本体部と前記止水部と前記保存部とがプラスチックフィルムで一体として形成されていることが好ましい。
本発明によれば、容器を折りたたんで持ち運びすることができる。また、本発明は1回の採取作業ごとに使い切りの容器となることから、各採取作業で使用した環境水とのコンタミネーションを確実に防止することもできる。
本発明に係る容器は、前記本体部の上方に、保持部を備えることが好ましい。
本発明によれば、保持部において容器を吊下げた状態や手で持ち上げた状態で環境DNAを保存部に保存する採取作業を行うことができる。
本発明に係る環境DNAの採取方法は、環境DNAを含む環境水を収容する本体部と、前記本体部の下方に設けられ、沈降する環境DNAを保存する保存部と、前記本体部と前記保存部との間に両者を連通するように設けられ、内部を閉じることが可能な止水部と、を備える容器を用いて、環境水における環境DNAを採取する方法であって、環境水に対して凝集剤及び吸着剤の少なくとも一方を添加する添加工程と、環境水を前記本体部に注入する注入工程と、前記添加工程と前記注入工程の後に、環境DNAを前記保存部に沈降させる沈降工程と、前記沈降工程の後に、前記止水部において止水する止水工程と、前記止水工程の後に、前記本体部と前記保存部とを分離する分離工程と、を含む。添加工程と注入工程の順は、特に限定されない。
本発明によれば、コンタミネーションの発生を出来る限り排除しつつ、環境DNAをコンパクトな状態で保存部に保存することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る容器、及び、環境DNAの採取方法によれば、コンタミネーションの発生を出来る限り排除しつつ、環境DNAをコンパクトな状態で保存することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る容器の全体模式図である。
【
図3】第2実施形態に係る容器の全体模式図である。
【
図4】第3実施形態に係る容器の全体模式図である。
【
図5A】第3実施形態に係る容器の止水部を止水する態様を説明する模式図である。
【
図5B】第3実施形態に係る容器の止水部で分離する態様を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る容器、及び、環境DNAの採取方法を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
なお、第2実施形態、第3実施形態を説明するに際して、既に説明した実施形態と共通する構成については説明を省略し、相違する構成を中心に説明する。また、本明細書における「上、下」は、図面に示す方向のとおりである。
【0012】
[第1実施形態]
まず、第1実施形態に係る容器の構成について、
図1、2を用いて説明する。
図1は、第1実施形態に係る容器の全体模式図である。
図2は、第1実施形態に係る容器の縦断面図である。
第1実施形態に係る容器10は、本体部11と止水部12と保存部13と架台14とを備えた容器であるとともに、環境水から環境DNAを採取するための容器である。
ここで、「環境水」とは、調査対象となる河川水、海水、湖沼水などの水である。また、「環境DNA」(environmental DNA)とは、前記した環境水に含まれる生物由来の組織片(細胞片、皮膚片、排泄物など)である。
【0013】
(本体部)
本体部11は、内側の空間に環境水を収容する部位である。
本体部11は、下方向(止水部12)に向かうに従って内空断面積が漸減する絞り部11aと、絞り部11aの上端部から上方向に延びる円筒部11bと、円筒部11bの上側の開口を閉じる蓋部11cと、を備える。また、絞り部11aの下側の中央が開口しており、下側に延びる円筒状の開口筒部11dが設けられている。
なお、絞り部11aの内側面の傾斜角度は特に限定されないが、鉛直方向に対して30~45°の範囲であれば、環境水中の環境DNAが止水部12を介して保存部13に適切に沈降するため、環境DNAの回収効率を更に向上させることができる。
【0014】
(止水部)
止水部12は、本体部11と保存部13との間に両者を連通するように設けられる部材であって、内部を閉じることが可能な部材である。第1実施形態の止水部12は、変形可能な材料からなり、内部が空洞であって管状を呈している。
そして、止水部12の上端部は、本体部11の開口筒部11dを覆うように下方向から開口筒部11dに嵌め込まれ、固定リングr1で開口筒部11dに固定される。固定リングr1は、開口筒部11dに対して着脱可能である。また、止水部12の下端部には、保存部13の上端部が下方向から差し込まれ、固定リングr2で保存部13に固定される。固定リングr2は、保存部13に対して着脱可能である。
なお、止水部12が変形可能な材料(例えば、一般的な樹脂製のチューブ)で構成されることから、止水部12に対してホースピンチやクリップなどで外力を加えて内部を閉塞することによって、止水部12で止水することができる。
【0015】
(保存部)
保存部13は、沈降する環境DNAを保存する部材であって、有底筒状を呈している。
そして、保存部13には、容器10に注入された環境水に存在する環境DNAが沈降することとなる。保存部13に環境DNAが沈降した後は、止水部12で止水する(すなわち、止水部12の内部空間を閉塞する)とともに保存部13を止水部12から取り外し、保存部13の上端部の開口をキャップ(図示せず)などで閉じればよい。
【0016】
(架台)
架台14は、本体部11を支持する部材であり、設置場所(地面など)に対して、本体部11を自立させる。
そして、架台14は、本体部11の円筒部11bから下方に延びる2つの柱14aと、2つの柱14aの下端を繋ぐ輪状の土台14bと、を備える。
【0017】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る容器の構成について、
図3を用いて説明する。
図3は、第2実施形態に係る容器の全体模式図である。
(止水部)
止水部22は、内部が空洞であって管状を呈しており、長手方向の中央付近に止水機構22aを備えている。
そして、止水部22の上端部は、本体部21の開口部21dの下端部と接続している。また、止水部22の下端部の内周には雌ネジが形成され、保存部23の上端部の外周には雄ネジが形成されている。止水部22の雌ネジは、保存部23の雄ネジに螺合可能である。すなわち、保存部23は、止水部22に対して着脱可能に接続される。
止水機構22aは、止水部22の内部を開閉する機構である。具体的には、止水機構22aは、止水部22の内部に設けられた、穴の開いた球状の弁体を回転させることで、止水部22の内部を開閉するバルブ(いわゆるボールバルブ)である。
【0018】
(プラスチックフィルム)
プラスチックフィルムfは、環境水などの液体を通さない薄膜状のフィルムであって、環境水を上方から注水できる入口部と、環境水を下方(保存部23の内部)に流し出す出口部と、を備える。
そして、プラスチックフィルムfは、本体部21の内側面と止水部22の内側面とに沿うように設けられるとともに、環境水を本体部21および止水部22に接触させることなく保存部23に導入する。プラスチックフィルムfは、止水部22に保存部23が接続されている状態において、出口部の下端部が保存部23の内部に位置するように配置する。すなわち、本体部21の上方からプラスチックフィルムfを本体部21に挿入し、プラスチックフィルムfの出口部(下端部)を止水部22の下側に突出させ、プラスチックフィルムfの出口部を保存部23に入り込ませつつ、保存部23を止水部22に接続する。
プラスチックフィルムfは、前回の採取作業で容器20(本体部21、止水部22)の内側面に付着した環境水が、次回の採取作業における環境水に混じらないようにするためのものである。よって、プラスチックフィルムfは、1回の採取作業ごとに使い捨てすることから、プラスチックフィルムfは、当然、容器20に対して着脱可能に設けられる。
(その他の構成)
第2実施形態に係る容器20の本体部21、保存部23、架台24は、其々、第1実施形態に係る容器10の本体部11、保存部13、架台14と、略同じ構成である。
【0019】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態に係る容器の構成について、
図4を用いて説明する。
図4は、第3実施形態に係る容器の全体模式図である。
第3実施形態に係る容器30は、本体部31と止水部32と保存部33とが一体成形されたプラスチックフィルムで構成されている。つまり、容器30は、容積の大きな部分と、当該部分の下端の中央から下に延びるように設けられる容積の小さな有底円筒状の部分と、を有する一つの袋体であると言える。そして、容積の大きな部分が本体部31に相当し、有底円筒状の部分における上側の約半分が止水部32に相当し、円筒状の部分における下側の約半分が保存部33に相当する。
そして、止水部32は、プラスチックフィルムで構成されていることから、止水部32に対してクリップなどで外力を加えて内部を閉じることによって、止水部32で止水することができる。
【0020】
(保持部、注入部)
容器30は、本体部31の上端部に保持部hと注入部pとを備えている。保持部hは、フックなどに引っ掛けたり手で保持したりするための把手である。注入部pは、容器30の内部に環境水を注ぎ入れる開口部である。
【0021】
以上のような第1、2、3実施形態に係る容器10、20、30によれば、
図1~4に示すように、保存部13、23、33に環境DNAが沈降した後、止水部11、21、31で止水することで、本体部11、21、31に収容された大量の環境水と、保存部13、23、33に保存された環境DNAとを分断することができる。そして、保存部13、23、33に環境DNAが沈降する過程や本体部11、21、31と保存部13、23、33を分離する過程において、外部の物質が混入するといった事態は生じ難いことから、コンタミネーションの発生を出来る限り排除しつつ、環境DNAをコンパクトな状態で保存部13、23、33に保存することができる。
【0022】
[変形例]
以上、本発明の3つの実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更が可能である。
第1実施形態に係る容器10において、第2実施形態に係る容器20に使用したプラスチックフィルムfを適用してもよい。
第2実施形態に係る容器20のプラスチックフィルムfの素材は、液体を通さない素材であれば特に限定されないものの、1回の採取作業ごとに使い捨てできるように、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニール樹脂、ポリアミド、ナイロンなどの安価な材料であるのが好ましい。また、プラスチックフィルムfの材質としては、クリップなどで止水しやすい材質、例えば、柔らかい材質や表面が滑らかな材質のものが好ましい。また、プラスチックフィルムfは、滅菌処理が可能な素材(具体的には、加熱処理や放射線照射などの滅菌処理によって変性し難い素材)であるのが好ましい。なお、第3実施形態に係る容器30の素材や材質は、プラスチックフィルムfと同様である。
第2実施形態に係る容器20の止水機構22aは、止水部22の内部を開閉する機構であれば特に限定されず、ボールバルブ以外にも、ゲートバルブ(仕切弁によって止水部22の内部を開閉するバルブ)、バタフライバルブ(円板状の弁体によって止水部22の内部を開閉するバルブ)など、一般的なバルブを適用してもよい。
第1実施形態に係る容器10の本体部11や架台14、第2実施形態に係る容器20の本体部21や架台24は、其々、分解や組み立てが可能な複数の部材で構成され、持ち運びの際に分解してコンパクトにできる態様でもよい。
なお、各容器10、20、30の内側の容積や、形状などは、適宜、変更してもよい。また、容器10、20における止水部12、22と保存部13、23とを接続する構成は、着脱可能に接続できれば、特に限定されない。そして、容器10、20における架台14、24の構成も、容器10、20を自立させることができれば、特に限定されない。
【0023】
[環境DNAの採取方法]
次に、本実施形態に係る環境DNAの採取方法を説明する。
本実施形態に係る環境DNAの採取方法は、添加工程と、注入工程と、沈降工程と、止水工程と、分離工程と、を含む。
以下、第1実施形態に係る容器10を用いる場合を想定して採取方法を説明するが、他の容器20、30を用いて説明する場合は、適宜、その旨を明示する。
【0024】
(添加工程)
添加工程では、環境水に対して凝集剤及び吸着剤の少なくとも一方を添加する。そして、添加工程では、凝集剤や吸着剤が適切に環境水中に混ざるように、適宜、攪拌処理を施してもよい。
凝集剤とは、環境水に含まれる環境DNAを凝集させるための物質であり、吸着剤(吸着媒)とは、環境水に含まれる環境DNAを吸着させるための物質である。そして、凝集剤や吸着剤は、一般的なものを使用すればよいが、環境DNAが分解しない中性域で作用するものが好ましく、また、環境DNAの抽出や分析において各作業を阻害しないものが好ましい。よって、凝集剤は、例えば、ポリグルタミン酸系凝集剤(生活衛生Vol.53 No.4(2009))などが挙げられ、固形化するもの、例えば、水ガラス系などはあまり好ましくない。また、吸着剤は、例えば、各種イオン交換樹脂、多孔質ガラス発泡体、ポリマービーズ、ゼオライトなどが挙げられる。
凝集剤や吸着剤の添加量は、特に限定されず、添加量が少ない場合は、後記の沈降工程における放置の時間を長くすればよく、添加量が多い場合は、放置の時間を短くすればよい。
【0025】
(注入工程)
注入工程では、環境水を本体部11に注入する。なお、環境水を本体部11に注入する際、保存部13は止水部12に接続されているとともに、止水部12は止水されていない。よって、注入工程において本体部11に注入した環境水は、本体部11、止水部12、保存部13の全体に行き渡ることとなる。
【0026】
(添加工程と注入工程の順)
添加工程と注入工程の順は、特に限定されない。例えば、第1実施形態に係る容器10や第2実施形態に係る容器20を使用する場合は、まず、別の容器内で環境水に凝集剤や吸着剤を添加し攪拌した後、環境水を容器10、20に注入してもよい(添加工程→注入工程)。また、第3実施形態に係る容器30を使用する場合は、容器30に環境水を注入した後、容器30内の環境水に凝集剤や吸着剤を添加して攪拌してもよく(注入工程→添加工程)、容器30に凝集剤や吸着剤を事前に投入した後、容器30に環境水を注入して攪拌してもよい(添加工程と注入工程とが略同時)。
【0027】
(沈降工程)
沈降工程は、添加工程と注入工程の後に実施する工程であって、環境DNAを保存部13に沈降させる工程である。具体的には、凝集剤により凝集した環境DNAや吸着剤に吸着した環境DNAが、保存部13の内部に沈降するまで放置する。なお、放置の時間は、前記のとおり、凝集剤や吸着剤の添加量などによって適宜設定すればよい。
【0028】
(止水工程)
止水工程は、沈降工程の後に実施する工程であって、止水部12において止水する工程である。具体的には、ホースピンチやクリップなどで止水部12を挟み、止水部12の内部を閉塞する。
第2実施形態に係る容器20を使用する場合は、止水機構22a(ボールバルブ22a)の穴の開いた球状の弁体を回転させて、止水部22の内部を閉塞する。
第3実施形態に係る容器30を使用する場合は、クリップなどで止水部32を挟み、止水部32の内部を閉塞する。
【0029】
(分離工程)
分離工程は、止水工程の後に実施する工程であって、本体部11と保存部13とを分離する工程である。具体的には、固定リングr2を緩め、保存部13を止水部12から下方向に抜き取る。
第2実施形態に係る容器20を使用する場合は、ネジを緩める方向に保存部23を軸中心に回転させ、保存部23を止水部22から下方向に抜き取る。
第3実施形態に係る容器30を使用する場合の分離処理について、
図5A、5Bを用いて説明する。
図5Aは、第3実施形態に係る容器の止水部を止水する態様を説明する模式図である。
図5Bは、第3実施形態に係る容器の止水部で分離する態様を説明する模式図である。
まず、止水部32にクリップS1を差し込み、止水する(止水工程)。その後、クリップS1の僅か上の部分にクリップS2を差し込み、クリップS2を上方向にスライドさせることで、
図5Aに示す状態とする。この
図5Aの状態において、クリップS1とクリップS2との間の止水部32は内部が閉塞され、ほとんど環境水が存在しない。その後、クリップS1とクリップS2との間を切断することで、
図5Bに示すように、保存部33が止水部32から分離する。
【実施例0030】
次に、凝集剤、吸着剤を用いて環境水から環境DNAを適切に採取できるか否かの試験を実施した。
[試験内容]
まず、冷凍保存していたアマモ草体を蒸留水に48時間浸漬させた溶液から上澄みを採取し、この上澄みを試験液(環境水を模擬した溶液)とした。
そして、試験液100mLに対して、表1に示す凝集剤(ポリグルタミン酸系凝集剤)又は吸着剤(イオン交換樹脂)を添加し、30分間振とうさせた。なお、比較例であるサンプル1のみ、凝集剤及び吸着剤は添加しなかった。
その後、粒子保持能20μmのろ紙で凝集剤や吸着剤を回収した後、さらに、ろ液に対して粒子保持能0.7μmのろ紙でろ過を行った。なお、サンプル1も同様のろ過(最大孔径20μmと0.7μmのろ紙での2回ろ過)を行った。
各サンプルについて、2つのろ紙を通過したろ液における「全DNA量」(アマモ以外の微生物等も含めたDNA量)と「アマモの環境DNA量」を測定した。なお、「全DNA量」は、Qubit Fluorometer(ThermoFisher製Qubit dsDNA HS Assay Kit)によって測定した。また、「アマモの環境DNA量」は、qPCR法(定量リアルタイムPCR法)によって測定した。そして、qPCR法の詳細な測定条件は、赤塚真依子,高山百合子,ムチェブエエドウィン,伊藤一教,渡辺謙太,桑江朝比呂,源利文「藻場モニタリングのための環境DNA分析プロトコル作成に向けた検討」(土木学会論文集B2(海岸工学),2021年77巻2号p.I_895-I_900)に記載のとおりであった。
【0031】
表1に示す凝集剤、吸着剤は、詳細には、以下のとおりである。
ポリグルタミン酸系凝集剤:日本ポリグル株式会社製Poly-Glu Rescue
強陽イオン交換樹脂:和光純薬工業株式会社製ダウエックスTM50W×2 50-100メッシュ(322-97561)
強陰イオン交換樹脂I型:和光純薬工業株式会社製ダウエックスTM1×2 50-100メッシュ(323-97471)
強陰イオン交換樹脂II型:和光純薬工業株式会社製ダウエックスTM22(353-14471)
弱陰イオン交換樹脂:和光純薬工業株式会社製ダウエックスTM66(350-14481)
【0032】
【0033】
[結果の検討]
比較例であるサンプル1は、全DNA量が10.4ng/μl、アマモの環境DNA量が247copies/μlであったのに対して、サンプル2~8は、両測定項目ともに低下するとの結果が得られた。
特に、凝集剤を添加したサンプル2~4は、アマモの環境DNA量が0copies/μlとなり、試験液中に浮遊していた環境DNAが凝集物として適切に回収されたことが確認できた。
また、吸着剤を添加したサンプル5~8でも、アマモの環境DNA量は、サンプル1と比較して半分程度や半分以下となり、試験液中に浮遊していた環境DNAが吸着剤に吸着し適切に回収されたことが確認できた。
以上の結果から、凝集剤や吸着剤を環境水に添加することによって、本発明に係る容器内で環境DNAが凝集体の状態や吸着剤に吸着した状態で適切に濃縮され、保存部に沈降することがわかった。そして、保存部を本体部から分離することで、コンタミネーションの発生を出来る限り排除しつつ、環境DNAをコンパクトな状態で保存できることがわかった。