(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162563
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】溶解設備および溶解設備の操業方法
(51)【国際特許分類】
F27D 11/08 20060101AFI20241114BHJP
F27B 3/08 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
F27D11/08 G
F27B3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078187
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】堀 哲
(72)【発明者】
【氏名】山内 貴司
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 雅之
(72)【発明者】
【氏名】北林 庄治
(72)【発明者】
【氏名】水谷 航太
(72)【発明者】
【氏名】加藤 正士
【テーマコード(参考)】
4K045
4K063
【Fターム(参考)】
4K045AA04
4K045BA02
4K045DA02
4K045RB02
4K063AA03
4K063AA04
4K063AA12
4K063BA02
4K063BA13
4K063CA04
4K063CA06
4K063FA51
4K063FA73
(57)【要約】
【課題】2基の大型直流アーク炉に対して効率良く電力供給を行うことができる溶解設備を提供する。
【解決手段】溶解設備1は、2本の黒鉛電極6,7を有する2基の直流アーク炉2A,2Bと、6台の電源装置20を有する給電手段15と、電源装置20を直流アーク炉2A,2Bへ選択的に接続する接続切替手段29と、各電源装置20から直流アーク炉2A,2Bへの給電を制御する給電制御部50と、を備えている。溶解設備1は、2基の直流アーク炉2A,2Bの何れか一方のみへの給電と、両方への同時給電とが選択可能とされており、同時給電時、何れか一方の直流アーク炉に全電源装置の50%容量を超えて給電可能とされている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本以上の黒鉛電極を有する2基の直流アーク炉と、
4台以上の電源装置を有する給電手段と、
前記各電源装置を前記各直流アーク炉へ選択的に接続する接続切替手段と、
前記各電源装置から前記各直流アーク炉への給電を制御する給電制御部と、
を備え、
前記2基の直流アーク炉の何れか一方のみへの給電と、両方への同時給電とが選択可能とされており、同時給電時、何れか一方の直流アーク炉に全電源装置の50%容量を超えて給電可能とされている、溶解設備。
【請求項2】
前記給電手段が有する前記電源装置の台数は、前記2基の直流アーク炉が有する前記黒鉛電極の合計数よりも多い、請求項1に記載の溶解設備。
【請求項3】
前記2基の直流アーク炉はそれぞれ前記黒鉛電極を2本有し、前記給電手段は前記電源装置を6台以上有している、請求項2に記載の溶解設備。
【請求項4】
前記直流アーク炉1基当りの最大投入電力を供給するのに必須の前記電源装置以外に、バックアップ用の電源装置が前記直流アーク炉に対し給電可能に接続されている、請求項1に記載の溶解設備。
【請求項5】
給電時、前記必須の電源装置に加えて、前記バックアップ用の電源装置からも前記直流アーク炉に対し電力供給を行なう、請求項4に記載の溶解設備。
【請求項6】
前記複数の電源装置が2つ以上の機械室に分かれて設置されている、請求項1に記載の溶解設備。
【請求項7】
請求項1に記載の溶解設備を用い、前記2基の直流アーク炉でそれぞれ鋼を溶製するに際し、
前記直流アーク炉の炉期を、最大投入電力が供給される最大電力期間を含む溶解期と、前記最大投入電力よりも小さい電力が供給される精錬期と、スラグの排滓期と、金属溶湯の出鋼期と、金属原料の装入期とに分けて、
前記溶解期における1炉当りの最大投入電力をSd、各電源装置の容量値の合計をSeqipとしたとき、Seqip≧Sdとなるように前記最大投入電力を設定し、
一方の直流アーク炉における前記最大電力期間が、他方の直流アーク炉における前記排滓期、前記出鋼期および前記装入期の少なくともいずれかと重複し、且つ、一方の直流アーク炉における前記最大電力期間を除く溶解期および精錬期が、他方の直流アーク炉における前記最大電力期間を除く溶解期および精錬期と重複するように、それぞれの直流アーク炉に対し電力を供給する、溶解設備の操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は溶解設備およびこの溶解設備の操業方法に関し、特に2基の直流アーク炉を用いて鋼を溶製する溶解設備およびこの溶解設備の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク炉は、電極間にアークを発生させ、アーク熱によってスクラップ等の金属材料を溶解する。
アークを発生させる電源としての直流電源と直流アーク炉を含む溶解設備の基本構成は、直流アーク炉1基に対して電源装置1台の組み合わせであるが、鋼を溶製するプロセスでは、電力を使用する溶解期や精錬期以外に、排滓期、装入期、出鋼期といった電力を基本的に使用しない時期も存在するため、電源装置の稼働率を一定以上に高めることが難しい問題があった。
【0003】
電源装置の稼働率を高めるための手段を備えた溶解設備としては、50%容量の電源装置2台を切替装置を介して2基の直流アーク炉に対し選択的に接続可能に構成したツインタイプの直流アーク炉溶解設備が知られている(例えば下記特許文献1)。
しかしながら下記特許文献1で記載された溶解設備は、各炉が1本の電極を有する構成であるため、例えば溶解のために200MW以上の電力を必要とするような大型の炉に対応することは難しい。また電源装置が2台であるため両方の炉に同時に給電した際、各炉に供給できる電力は、最大で50%容量(各電源装置の容量値の合計の半分)に限定されてしまい、効率的な電力配分が難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上のような事情を背景とし、2基の大型直流アーク炉に対して効率良く電力供給を行うことができる溶解設備およびこの溶解設備の操業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
而してこの発明の第1の局面の溶解設備は次のように規定される。即ち、
2本以上の黒鉛電極を有する2基の直流アーク炉と、
4台以上の電源装置を有する給電手段と、
前記各電源装置を前記各直流アーク炉へ選択的に接続する接続切替手段と、
前記各電源装置から前記各直流アーク炉への給電を制御する給電制御部と、
を備え、
前記2基の直流アーク炉の何れか一方のみへの給電と、両方への同時給電とが選択可能とされており、同時給電時、何れか一方の直流アーク炉に全電源装置の50%容量を超えて給電可能とされている。
【0007】
このように規定された第1の局面の溶解設備によれば、各炉が2本以上の黒鉛電極を有する構成であり、大きな電力を必要とする大きな炉容量の炉(大型炉)にも対応することができる。
また、2基の炉で4台以上の電源装置が共用されており、必要に応じて各電源装置の電力を融通することで、電源装置の稼動率を高めることができる。更にこの第1の局面の溶解設備では、同時給電時、一方の炉に全電源装置の50%超の給電が可能とされるため、例えば2基の炉で、大電力を必要とする溶解期と小電力で足りる精錬期が重複した場合でも、それぞれの炉期に応じた適正な電力をそれぞれの炉に供給することができる。
従って、第1の局面の溶解設備によれば、2基の大型直流アーク炉に対して効率良く電力供給を行うことができる。
【0008】
ここで、前記給電手段が有する前記電源装置の台数は、前記2基の直流アーク炉が有する前記黒鉛電極の合計数よりも多くすることができる(第2の局面)。
例えば、前記2基の直流アーク炉がそれぞれ前記黒鉛電極を2本有し、前記給電手段が前記電源装置を6台有する構成とすれば、同時給電時に電源装置からの電力を、67%(4台分の容量)と33%(2台分の容量)の比率で各炉に分配することができる(第3の局面)。
【0009】
またこの溶解設備では、直流アーク炉1基当りの最大投入電力を供給するのに必須の前記電源装置以外に、バックアップ用の電源装置を前記直流アーク炉に対し給電可能に接続することができる(第4の局面)。
このようにすれば、何れかの電源装置が故障した場合でも、給電に用いる電源装置を、故障した電源装置からバックアップ用の電源装置に短時間で切り替えて操業を再開することができる。
【0010】
また、給電時、前記必須の電源装置に加えて、前記バックアップ用の電源装置からも前記直流アーク炉に対し電力供給を行なえば、給電時における電源装置の稼働台数が増え各電源装置を余裕を持たせた状態で(出力を抑えた状態で)稼働させることができ、電源装置の故障率を抑え長寿命化を図ることができる(第5の局面)。
【0011】
また、前記複数の電源装置は2つ以上の機械室に分かれて設置することも可能である。
このようにすれば、複数の電源装置をグループごとにそれぞれ異なるエリア(機械室)に配置することができ、設備レイアウトの自由度を高めることができる(第6の局面)。
【0012】
この発明の第7の局面の溶解設備の操業方法は次のように規定される。即ち、
第1の局面に記載の溶解設備を用い、前記2基の直流アーク炉でそれぞれ鋼を溶製するに際し、
前記直流アーク炉の炉期を、最大投入電力が供給される最大電力期間を含む溶解期と、前記最大投入電力よりも小さい電力が供給される精錬期と、スラグの排滓期と、金属溶湯の出鋼期と、金属原料の装入期とに分けて、
前記溶解期における1炉当りの最大投入電力をSd、各電源装置の容量値の合計をSeqipとしたとき、Seqip≧Sdとなるように前記最大投入電力を設定し、
一方の直流アーク炉における前記最大電力期間が、他方の直流アーク炉における前記排滓期、前記出鋼期および前記装入期の少なくともいずれかと重複し、且つ、一方の直流アーク炉における前記最大電力期間を除く溶解期および精錬期が、他方の直流アーク炉における前記最大電力期間を除く溶解期および精錬期と重複するように、それぞれの直流アーク炉に対し電力を供給する。
【0013】
このように規定された第7の局面の操業方法によれば、2基の直流アーク炉において最大投入電力が供給される最大電力期間が重複しないため、電源装置の容量を節約(小さく)して設備コストを抑えることができる。また、互いの直流アーク炉における最大電力期間を除く溶解期および精錬期を重複させることで、電源装置の稼働率を高めて効率的な電力供給を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態の溶解設備の概略構成を示した図である。
【
図2】
図1の直流アーク炉における操業時の投入電力の推移の一例を示した図である。
【
図3】2基の炉における溶解期が互いに重複しない操業パターンにおける各電源装置の接続先を示した図である。
【
図4】
図3の状態Aにおける直流アーク炉と各電源装置との接続状態を示した図である。
【
図5】
図3の状態Bにおける直流アーク炉と各電源装置との接続状態を示した図である。
【
図6】2基の炉における溶解期が一部重複する操業パターンでの各電源装置の接続先を示した図である。
【
図7】本発明の他の実施形態の溶解設備の要部を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1は本発明の一実施形態の溶解設備の概略構成を示した図である。同図で示すように、本実施形態の溶解設備1は、2基の直流アーク炉2A,2Bが1組として設置された溶解設備で、給電手段15と、接続切替手段29と、給電制御部50と、を更に備えている。
【0016】
直流アーク炉2A,2Bは、炉体3と、その上部を覆う炉蓋4と、炉蓋4の中心部近傍から昇降自在に突入する2本の黒鉛電極6,7と、炉体3の底部略中央に設けられた炉底電極9を備えており、炉体3内に装入されたスクラップ等の金属材料と黒鉛電極6,7の先端との間でアークを発生させて、金属材料を溶融加熱する。なお以下の説明においては、直流アーク炉2Aの黒鉛電極を6A,7A、炉底電極を9Aとし、直流アーク炉2Bの黒鉛電極を6B,7B、炉底電極を9Bとする。
【0017】
これら直流アーク炉2A,2Bでは、炉体3内に装入された金属材料を溶解して溶鋼を生成する溶解期と、生成された溶鋼の昇熱および成分調整を行う精錬期と、スラグの少なくとも一部を炉外に排出する排滓を経て、炉体3内の溶鋼(金属溶湯)を出鋼する。
【0018】
図2は、直流アーク炉における金属材料の装入から溶鋼を出鋼するまでの操業の手順に沿った投入電力の推移の一例を示した図である。
同図の例によれば、投入電力が大きいのは溶解期で、特にその後期が、最大投入電力Sd(390MW)が供給される最大電力期間とされている。溶解期終了後引き続き実施される精錬期の投入電力は、溶解期よりも小さくこの例では130MWである。精錬に続いて実施される排滓、出鋼および装入については電極への電力供給は基本的に不要である。
【0019】
給電手段15は、
図1で示すように、主開閉器17を介して三相交流電源16に接続されている受電変圧器18と、受電変圧器18の二次側に並列に接続された6台の電源装置20(20-1~20-6)とを含んで構成され、直流アーク炉2A,2Bの黒鉛電極6,7および炉底電極9に直流電力を供給する。
各電源装置20は、副開閉器21と、交流電力を所定の電圧に降圧する炉用変圧器22と、炉用変圧器22から供給された交流電力を直流電力に変換するサイリスタ23とを備えている。サイリスタ23には陰極用ケーブルおよび陽極用ケーブルが接続されており、サイリスタ23で変換された直流電力は、陰極用ケーブルを介してアーク炉2Aまたは2Bの黒鉛電極6,7に供給され、また陽極用ケーブルを介してアーク炉2Aまたは2Bの炉底電極9に供給される。
【0020】
上述の最大投入電力Sdは、各電源装置20-1~20-6からの電力供給によって賄われる必要があり、電源装置6台分の容量値の合計Seqipは、最大投入電力Sd以上である必要がある(Seqip≧Sd)。本例においては、電源装置1台当りの容量が70MWであればSeqipは420MWとなり、上記最大投入電力Sd(390MW)以上である。
【0021】
全電源装置の容量Seqipは最大投入電力Sdと同じでもよいが、SeqipをSdよりもやや大きくし、電源装置20の100%能力に対し余裕を持たせて稼働させることで電源装置20の故障率を低下させることができる。したがって、Seqip≧Sdであることが好ましく、より好ましくはSeqip>Sdである。
【0022】
一方で、Seqipが過度に大きいと設備コストの増大を招く。電源容量を節約する観点から2×Sd>Seqipであることが好ましい。
【0023】
接続切替手段29は、各電源装置20と直流アーク炉2A,2Bとの間に配設された12種の切替装置30(30-1~30-6),32(32-1~32-6)を含んで構成されている。各切替装置30,32は1つの共通接点xと2つの切替接点a,bを備えており、共通接点xがケーブルを介してサイリスタ23の直流出力端子に接続されるとともに、切替装置30の切替接点a,bがそれぞれケーブルを介して直流アーク炉2A,2Bの黒鉛電極6または7に接続され、また切替装置32の切替接点a,bがそれぞれケーブルを介して直流アーク炉2A,2Bの炉底電極9に接続されている。
即ち、各電源装置20は接続切替手段29を構成する切替装置30.32によって何れかの直流アーク炉に選択的に接続可能とされている。
【0024】
給電制御部50は、予め設定された電力供給パターンに基づいて直流アーク炉2A,2Bへの給電を制御する。給電制御部50には、上述した各電源装置20-1~20-6および切替装置30(30-1~30-6),32(32-1~32-6)が接続されており、各電源装置20-1~20-6に対しては、その給電開始及び給電停止の制御を行なうとともに、給電時における各電源装置からの出力を制御する。
また各切替装置30,32に対しては、各電源装置20が予定するアーク炉と接続されるように、内部接点x,a,b間での導通を切替制御する。なおこの際、共通の電源装置20に接続されている一対の切替装置(例えば、共に電源装置20-1に接続されている切替装置30-1と32-1)については、互い同じアーク炉が接続先として選択されるように切替制御される。
【0025】
次に、本実施形態の溶解装置1における操業時の給電動作について説明する。
ここでは先ず、
図3で示すように、直流アーク炉2Aと2Bにおけるそれぞれの溶解期が互いに重複しない場合について説明する。
【0026】
直流アーク炉2Aにスクラップが装入されると、
図3で示す状態Aにおいて、接続切替手段29によって溶解期初期の投入電力(260MW)に対応する4台の電源装置20-2,20-3,20-5,20-6の接続先が直流アーク炉2A側に切り替えられて給電回路が形成され、直流アーク炉2Aの黒鉛電極6Aおよび7Aからのアークにより炉内のスクラップの加熱が開始される。
一方、直流アーク炉2Bについては、この状態Aの間、精錬期となり、残る2台の電源装置20-1,20-4からの電力供給を受けて投入電力130MWで溶鋼を加熱する。
図4は、この状態Aにおける直流アーク炉2A,2Bと各電源装置20-1~20-6との接続状態を示した図である。
【0027】
続く、
図3で示す状態Bにおいて、直流アーク炉2Aが溶解期の後期になると電源装置20-1,20-4が更に直流アーク炉2A側に切り替えられ、直流アーク炉2Aは電源装置の6台全てからの電力供給を受けて最大投入電力Sd(390MW)でスクラップの溶解を促進させる。
一方、直流アーク炉2Bは、この状態Bの間、非通電状態となり、排滓、出鋼および新たなスクラップの装入が実行される。
図5は、この状態Bにおける直流アーク炉2A,2Bと各電源装置20-1~20-6との接続状態を示した図である。
【0028】
続く、
図3で示す状態Cにおいて、溶解期が終了した直流アーク炉2Aでは電源装置20-1,20-4からの電力供給を受けて引き続き精錬が行われる。
一方、残り4台の電源装置20-2,20-3,20-5,20-6の接続先が直流アーク炉2B側に切り替えられて給電回路が形成され、直流アーク炉2Bでは黒鉛電極6B,7Bからのアークにより炉内に装入されたスクラップの加熱が開始される。
【0029】
直流アーク炉2Aの精錬期が終了すると、
図3の状態Dにおいて、直流アーク炉2Aでは排滓に続いて溶鋼の出鋼が行われる。その後、新たなスクラップが炉内に装入される。
一方、直流アーク炉2Bは溶解期の後期となり、電源装置20-1,20-4が更に直流アーク炉2B側に切り替えられて、直流アーク炉2Bは電源装置の6台全てからの電力供給を受けて最大投入電力Sd(390MW)でスクラップの溶解を促進させる。
【0030】
以上のような
図3の例によれば、2基の直流アーク炉において最大投入電力Sdが供給される最大電力期間が重複しないため、電源装置20の容量を節約(小さく)して設備コストの抑えることができる。また、一方の直流アーク炉における最大電力期間を除く溶解期と、他方の直流アーク炉における精錬期を重複させることで、電源装置20の稼働率を高めて効率的な電力供給を行なうことができる。
【0031】
次に、
図6で示すように、直流アーク炉2Aの溶解期と直流アーク炉22Bの溶解期の一部が重複する場合について説明する。
【0032】
図6で示す状態A´およびこれに続く状態B´は、
図3で示す状態Aおよび状態Bと同じである。
続く
図6で示す状態C´においては、直流アーク炉2Aの溶解期が継続する一方、直流アーク炉2Bでも溶解期が始まり、直流アーク炉2Aの溶解期と直流アーク炉2Bの溶解期の一部が重複する。このため状態C´においては、電源装置20-2,20-5,20-6の接続先が直流アーク炉2B側に切り替えられて、直流アーク炉2Aについては電源装置3台からの電力供給を受けて溶解期の加熱を継続し、直流アーク炉2Bについても電源装置3台からの電力供給を受けて溶解期の加熱を開始する。
【0033】
直流アーク炉2Aの溶解期が終了すると、続く
図6で示す状態D′において、直流アーク炉2Aでは電源装置20-1,20-4からの電力供給を受けて引き続き精錬が行われる。
一方、電源装置20-3の接続先が直流アーク炉2B側に切り替えられて、直流アーク炉2Bでは計4台の電源装置20からの電力供給を受けてスクラップの溶解を促進させる。
【0034】
直流アーク炉2Aの精錬期が終了すると、続く
図6の状態F′において、直流アーク炉2Aでは排滓に続いて溶鋼の出鋼が行われる。その後新たなスクラップが炉内に装入される。
一方、電源装置20-1,20-4が更に直流アーク炉2B側に切り替えられて、直流アーク炉2Bは電源装置6台全てからの電力供給を受けて最大投入電力Sd(390MW)でスクラップの溶解を更に促進させる。
【0035】
この
図6の例においても、2基の直流アーク炉において最大投入電力Sdが供給される最大電力期間が重複しないため、電源装置20の容量を節約(小さく)して設備コストの抑えることができる。また、互いの最大電力期間を除く溶解期と精錬期もしくは最大電力期間を除く溶解期同士を重複させることで、電源装置20の稼働率を高めて効率的な電力供給を行なうことができる。
【0036】
以上のように本実施形態の溶解設備1によれば、各炉が2本の黒鉛電極6,7を有する構成であり、大きな電力を必要とする大きな炉容量の炉(大型炉)にも対応することができる。
また、2基の炉2A,2Bで6台の電源装置20-1~20-6が共用されており、必要に応じて各電源装置の電力を融通することで非通電時間を最小として、電源装置の稼動率を高めることができる。
更に、本実施形態の溶解設備1では、6台の電源装置の容量値の合計を100%容量としたとき、同時給電時におけるそれぞれの炉に対し供給電力を50:50の他に、33:67の比率で配分することができる。このため例えば2基の炉で、大電力を必要とする溶解期と小電力で足りる精錬期が重複した場合でも、それぞれの炉期に応じた適正な電力をそれぞれの炉に供給することができる。
【0037】
次に、
図7は本発明の他の実施形態の要部を示した図である。なお、
図7では各電源装置とアーク炉の炉底電極とを繋ぐケーブルおよび切替装置42の記載を省略している。
本例の溶解設備1Bは、2基の直流アーク炉2A,2Bと、給電手段15Bと、接続切替手段29Bとを備えており、基本的な構成は上記の溶解設備1と同じである。なお、溶解設備1Bの構成各部のうち、上記の溶解設備1と共通する構成については同じ符号を用いて示すとともに、その説明を省略する。
【0038】
本例の給電手段15Bは、直流アーク炉1基当りの最大投入電力Sdを供給するのに必須の電源装置20-1~20-6以外に、2台のバックアップ用の電源装置40(40-1,40-2)を含んで構成されている。ここでバックアップ用の電源装置40は、一方または他方のアーク炉の炉期が最大電力期間であるときに、電力投入に用いられない電源装置である。電源装置40の1台当りの容量は、例えば、電源装置20と同様の70MWとすることができる。
電源装置40(40-1,40-2)と直流アーク炉2A,2Bとの間には、接続切替手段29Bを構成する切替装置41(41-1,41-2)と42(42-1,42-2、共に図示省略)が配設されている。切替装置41,42は1つの共通接点xと2つの切替接点a,bを備えており、共通接点xがケーブルを介してサイリスタ23の直流出力端子に接続されるとともに、切替装置41の切替接点a,bがそれぞれケーブルを介して直流アーク炉2A,2Bの黒鉛電極6または7に接続され、また切替装置42の切替接点a,bがそれぞれケーブルを介して直流アーク炉2A,2Bの炉底電極9に接続されている。
即ち、各電源装置40は接続切替手段29Bを構成する切替装置41,42によって何れかの直流アーク炉に選択的に接続可能とされている。
【0039】
このように構成された溶解設備1Bでは、操業時(少なくとも一方または他方のアーク炉の炉期が最大電力期間にあるとき)、バックアップ用の電源装置40(40-1,40-2)は使用せず、溶解設備1の場合と同様に電源装置20-1~20-6のみを用いてそれぞれの直流アーク炉に対し所定の電力供給を行うことができる。一方、電源装置20-1~20-6の何れかが故障した場合には、給電に用いる電源装置を、故障した電源装置からバックアップ用の電源装置40(40-1,40-2)に短時間で切り替えて操業を再開することができる。
【0040】
また溶解設備1Bでは、一方または他方のアーク炉の炉期が最大電力期間にないときに限り、電源装置20-1~20-6に加えて、バックアップ用の電源装置40-1,40-2からも直流アーク炉に対し電力供給を行なうことも可能である。例えば、一方の直流アーク炉が最大電力期間を除く溶解期であり、他方の直流アーク炉が精錬期である場合において、6つの電源装置を用いて一方の直流アーク炉に270MWの電力を給電し、他方の直流アーク炉には2つの電源装置を用いて130MWの電力を給電することができる。
このようにすれば、給電時における電源装置の稼働台数が6台から8台に増え、各電源装置に余裕を持たせた状態で(1台当たりの出力を抑えた状態で)稼働させることができ、電源装置の長寿命化を図ることができる。
【0041】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれらはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【0042】
(1)例えば、本発明の溶解設備を構成する黒鉛電極や電源装置の数は、上記実施形態に限定されるものではなく適宜変更可能である。上記実施形態は、6台の電源装置を用いて2基の直流アーク炉に対し給電を行なう例であったが、上記実施形態において給電を行なう電源装置を5台もしくは7台以上とすることも可能である。電源装置の台数を増やすことで、同時給電時にそれぞれの炉に供給される電力をより細かな比率で配分することができる。
【0043】
(2)また、直流アーク炉の炉底電極の構造は特に限定されるものではなく、比較的小径の棒鋼(コンタクトピン)を多数用いたタイプ(マルチピン方式)、比較的大径の棒鋼(ビレット)を1~3本用いたタイプ(ビレット方式)、棒鋼を用いず、レンガ自体の導電性を利用したタイプ(コンタクトボディータイプ)等を適宜採用することができる。
【0044】
(3)また、
図1で示す上記実施形態の溶解設備が有する複数(6台)の電源装置は、2つのグループに分けて、それぞれ別の機械室に設置することができる。複数の電源装置をグループごとにそれぞれ異なるエリア(機械室)に配置することで、設備レイアウトの自由度を高めることができる。
【0045】
(4)また、本発明において、電源装置の容量値の合計Seqipは、最大投入電力Sd以上であればよいため、電源装置の容量を全て用いることができる。例えば、
図3で示す操業パターンの例において、状態Aにおける直流アーク炉2Aへの投入電力を280MW、状態Bにおける直流アーク炉2Aへの投入電力を420MW、状態Cにおける直流アーク炉2Aへの投入電力を140MW、にそれぞれ変更することができる。
【符号の説明】
【0046】
1,1B 溶解設備
2A,2B 直流アーク炉
6,6A,6B,7,7A,7B 黒鉛電極
15,15B 給電手段
20,20-1~20-6 電源装置
29,29B 接続切替手段
30,30-1~30-6 切替装置
32,32-1~32-6 切替装置
40,40-1,40-2 電源装置
41,41-1,41-2 切替装置
42,42-1,42-2 切替装置
50 給電制御部