(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162566
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】積層体、その製造方法、および成形体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/10 20060101AFI20241114BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
B32B27/10
B32B27/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078194
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】村島 健介
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AH02B
4F100AH02C
4F100AH03B
4F100AJ04A
4F100AK01B
4F100AK01C
4F100AK12B
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4F100AK13B
4F100AK13C
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4F100AK28C
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4F100AL01B
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4F100JL11B
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4F100YY00B
4F100YY00C
(57)【要約】 (修正有)
【課題】紙基材層と、接着性樹脂層と、接着性成分を含みポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂を含む樹脂層とをこの順で含む積層体であって、接着性樹脂層を形成する際の乾燥性が良好であり、かつ紙基材層と樹脂層との接着強度が高い積層体を提供すること。
【解決手段】紙基材層(A)2の少なくとも片面に、目付量が、0.1g/m
2以上3.0g/m
2未満の第1の接着性樹脂層(B)3と、平均厚みが20μm以上100μm未満の熱可塑性樹脂層(C)4とがこの順に積層し、熱可塑性樹脂層(C)は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂100重量部に対して第2の接着性樹脂(D)を0.1重量部以上10重量部未満含む、積層体に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層体であって、紙基材層(A)の少なくとも片面に第1の接着性樹脂層(B)と、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂層(C)とがこの順に積層しており、
前記第1の接着性樹脂層(B)の目付量は、0.1g/m2以上3.0g/m2未満であり、
前記熱可塑性樹脂層(C)の平均厚みは、20μm以上100μm未満であり、
前記熱可塑性樹脂層(C)は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂100重量部に対して第2の接着性樹脂(D)を0.1重量部以上10重量部未満含む、積層体。
【請求項2】
前記第1の接着性樹脂層(B)がエステル系樹脂、アクリル系或いはメタクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、スチレン-イソプレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、尿素樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ウレタン系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、イミン系樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種類以上の樹脂を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記第2の接着性樹脂(D)がエステル系樹脂、アクリル系或いはメタクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、スチレン-イソプレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、尿素樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ウレタン系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、イミン系樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種類以上の樹脂を含む、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記第1の接着性樹脂層(B)は、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、エチレン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、アルキルフェノール-ホルムアルデヒド系樹脂、アルキルフェノール-アセチレン系樹脂、クマロン-インデン系樹脂、スチレン系樹脂、及び、キシレン-ホルムアルデヒド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の粘着性付与樹脂(E)を含む、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項5】
前記粘着性付与樹脂(E)は、重量平均分子量(Mw)が100以上5,000未満である、請求項4に記載の積層体。
【請求項6】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項7】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の積層体の製造方法であって、
前記基材層(A)の少なくとも片面に、前記第1の接着性樹脂層(B)を形成する工程、
前記第1の接着性樹脂層(B)の表面に、押出ラミネート法または熱ラミネート法により前記熱可塑性樹脂層(C)を形成する工程を含む、積層体の製造方法。
【請求項9】
前記押出ラミネート法で前記熱可塑性樹脂層(C)を形成する際に、T型ダイスの先端から溶融押出された直後の樹脂温度が、前記熱可塑性樹脂層(C)中に主成分として含まれるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の融点以上165℃未満である、請求項8に記載の積層体の製造方法。
【請求項10】
前記熱ラミネート法において、前記熱可塑性樹脂層(C)を構成するフィルムを使用し、前記フィルムは、T型ダイスの先端から溶融押出された直後の樹脂温度が、前記熱可塑性樹脂層(C)中に主成分として含まれるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の融点以上165℃未満で形成されたフィルムである、請求項8に記載の積層体の製造方法。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の積層体を含む、成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙基材層の少なくとも片面に、樹脂層が積層してなる積層体、その製造方法、および成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄プラスチックによる環境問題がクローズアップされている。中でも、廃棄プラスチックによる海洋汚染は深刻であり、自然環境下で分解する生分解性プラスチックの普及が期待されている。
【0003】
そのような生分解性プラスチックとしては、種々のものが知られているが、中でも、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系共重合体(以下、「P3HA」と称することがある。)は、多くの微生物種の細胞内にエネルギー貯蔵物質として生産、蓄積される熱可塑性ポリエステルであり、土中だけでなく、海水中でも生分解が進行しうる材料である。そのため、上記の問題を解決する素材として注目されている。
【0004】
特に、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系共重合体である、3-ヒドロキシブチレート(以下、「3HB」と称することがある。)と3-ヒドロキシヘキサノエート(以下、「3HH」と称することがある。)との共重合体(以下、「PHBH」と称することがある。)は、多くの微生物種の細胞内にエネルギー貯蔵物質として生産、蓄積される熱可塑性ポリエステルであり、土中だけでなく、海水中でも生分解が進行しうる材料である。そのため、上記の問題を解決する素材として注目されている。
【0005】
中でも、PHBHを紙等の基材層と一体化させたPHBH/紙複合材は、環境負荷の小さい食品接触容器等に応用できることから、社会的な関心が特に高い。
【0006】
PHBHと紙とを一体化させる手段としては押出ラミネート法や水系スラリーのコーティング法などが挙げられるが、コーティング法では樹脂層の機械強度が十分には得られにくいことなどから、押出ラミネート法が好まれる。しかし、PHBHは一般的に溶融粘度が高く紙への食い込みが悪いため、溶融押出したPHBHと紙とを十分な強度で接着することは容易ではなかった。その結果、飲料用コップなどのカップ成形体の製造工程においてラミネート層が紙から剥離してしまい、内容物を充填した際に漏れ出してしまう問題が生じていた。
【0007】
特許文献1では、PHBHは開示されていないが、生分解性樹脂の紙への食い込みを改善してラミネート強度を向上させることを目的に、ポリカプロラクトンのディスパージョンまたはエマルジョンを、紙の上に10g/m2の目付量(層の乾燥重量)で塗布、乾燥した後に、押出ラミネートにて、3-ヒドロキシ酪酸・3-ヒトロキシ吉草酸共重合体(PHBV)を積層する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の方法によれば紙と樹脂層の接着性は改善される傾向にあるものの、ポリカプロラクトンのディスパージョンまたはエマルジョンを10g/m2という大きな目付量で塗布した後、乾燥させるため、当該乾燥に長時間を要し生産性が高くない、また、当該乾燥によって紙基材層が劣化したり、紙が乾燥しすぎてしまい積層体に反りを生じたりしてしまう等といった課題があった。
【0010】
乾燥を容易にするため接着層の目付量を10g/m2より少なくする方法があるが、その場合には紙基材層と樹脂層との間の接着性が不十分になるといった課題があった。
【0011】
本発明は、上記現状に鑑み、紙基材層と、接着性樹脂層と、接着性成分を含みポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂を含む樹脂層とをこの順で含む積層体であって、接着性樹脂層を形成する際の乾燥性が良好であり、かつ紙基材層と樹脂層との接着強度が高い積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、基材層と、接着性樹脂層と、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂を含む樹脂層とをこの順で含む積層体において、接着性樹脂層の目付量を十分に小さくしつつも、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂層にも特定の接着性樹脂成分を特定の範囲内で配合し、かつ樹脂層の厚みを特定範囲に設定することで、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち本発明は、積層体であって、紙基材層(A)の少なくとも片面に第1の接着性樹脂層(B)と、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂層(C)とがこの順に積層しており、
前記第1の接着性樹脂層(B)の目付量は、0.1g/m2以上3.0g/m2未満であり、
前記熱可塑性樹脂層(C)の平均厚みは、20μm以上100μm未満であり、
前記熱可塑性樹脂層(C)は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂100重量部に対して第2の接着性樹脂(D)を0.1重量部以上10重量部未満含む、積層体に関する。
【0014】
また本発明は、積層体の製造方法であって、基材層(A)の少なくとも片面に、第1の接着性樹脂層(B)を 形成する工程、
第1の接着性樹脂層(B)の表面に、押出ラミネート法または熱ラミネート法によりポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂層(C)を形成する工程を含む、積層体の製造方法にも関する。
【0015】
さらに本発明は、前記積層体を含む、成形体にも関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、基材層と、接着性樹脂層と、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂層とをこの順で含む積層体であって、接着層を形成する際の乾燥性が良好であり、かつ基材層と樹脂層との接着強度が高い積層体を提供することができる。当該積層体を使用すると、成形体の生産効率や品質を改善することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態に係る積層体の積層構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
[積層体]
本発明の一実施形態に係る積層体は、基材層(A)の少なくとも片面に、第1の接着性樹脂層(B)と、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂(以下、「P3HA」と称することがある。)を主成分とする熱可塑性樹脂層(C)とを有し、さらに熱可塑性樹脂層(C)は第2の接着性樹脂(D)を含む。
図1に示すように、積層体1において、符号2で示される基材層(A)と、符号3で示される第1の接着性樹脂層(B)と、符号4で示される熱可塑性樹脂層(C)はこの順で積層している。
【0020】
第1の接着性樹脂層(B)は基材層(A)の上に直接的に積層されていても良いし、接着性を阻害しない範囲であれば、第1の接着性樹脂層(B)と基材層(A)との間に、別の層をさらに含んでいても良い。
【0021】
熱可塑性樹脂層(C)は、積層体の表面に露出している最表面の層であっても良いし、耐水性や光沢性を付与するなどの目的で、熱可塑性樹脂層(C)の上に、別の層が積層されていても良い。
【0022】
基材層(A)の片面のみに、第1の接着性樹脂層(B)と熱可塑性樹脂層(C)を有してもよいし、基材層(A)の両面それぞれに、第1の接着性樹脂層(B)と熱可塑性樹脂層(C)を有しても良い。
【0023】
基材層(A)の片面のみに第1の接着性樹脂層(B)と熱可塑性樹脂層(C)とを有する場合、他方の面には別の層が形成されておらず、基材層(A)が積層体の表面に露出している最表面の層であってもよいし、耐水性や光沢性、または接着性を付与するなどの目的で、別の層が積層されていても良い。
【0024】
基材層(A)の両面それぞれに第1の接着性樹脂層(B)と熱可塑性樹脂層(C)を有する場合、表面側の第1の接着性樹脂層(B)と裏面側の第1の接着性樹脂層(B)を構成する材料や、目付量、厚みは、互いに同じであっても良いし、異なっていても良い。表面側の熱可塑性樹脂層(C)と裏面側の熱可塑性樹脂層(C)についても同様である。尚、本願における目付量(g/m2)とは、層の乾燥重量(固形分量)を指す。
【0025】
[基材層(A)]
前記基材層(A)を構成する材料としては特に限定されないが、生分解性であることが望ましい。例えば、紙(主成分がセルロース)、セロハン、セルロースエステル;ポリビニルアルコール、ポリアミノ酸、ポリグリコール酸、プルラン、またはこれらの基材にアルミ、シリカ等の無機物を蒸着したもの等が挙げられる。中でも耐熱性に優れ、安価である点から、紙が好ましい。
【0026】
紙の種類は、特に限定されず、積層体の用途に応じて適宜選択することができるが、例えば、カップ原紙、クラフト紙、上質紙、コート紙、薄葉紙、グラシン紙、板紙等が挙げられる。紙には、必要に応じて、耐水剤、撥水剤、無機物等が添加されていてもよく、酸素バリア層コーティング、水蒸気バリアコーティング等の表面処理が施されたものであってもよい。
【0027】
また、基材層(A)は、コロナ処理、オゾン処理、プラズマ処理、フレーム処理、アンカーコート処理、酸素バリア層コーティング、水蒸気バリアコーティング等の表面処理が施されたものであってもよい。これらの表面処理は、単独で行ってもよいし、複数の表面処理を併用してもよい。
【0028】
[第1の接着性樹脂層(B)]
前記第1の接着性樹脂層(B)は樹脂を主成分として構成される層である。第1の接着性樹脂層(B)に含まれる主要樹脂としては特に限定されないが、塗工紙分野または樹脂フィルム分野で一般的に使用されている樹脂を好適に使用できる。紙等の基材およびP3HAとの親和性が高い樹脂が好ましく、そのような樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、スチレン-イソプレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、尿素樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ウレタン系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、イミン系樹脂等が挙げられる。これらは1種類のみを用いることもできるし、2種類以上の樹脂を任意の割合で混合して用いることもできる。
【0029】
特にP3HAとの親和性に優れることから、前記第1の接着性樹脂層(B)は、少なくともエステル系またはアクリル系樹脂またはスチレン-アクリル系樹脂のいずれかを含むことが好ましい。
【0030】
第1の接着性樹脂層(B)に含まれる主要樹脂は水溶性のものであってもよいし、有機溶媒に溶けるものであってもよい。水に不溶の樹脂を使用する場合、水中での分散性と塗工性を改良するために他の添加剤を加えることもできる。水系エマルジョン、水系スラリー、または水溶性樹脂をコーティングする場合、樹脂の固形分濃度は特に限定されないが、乾燥に必要な熱量を低く抑えるために30重量%以上であることが好ましく、40重量%以上がより好ましく、50重量%以上がさらに好ましい。また、分散した樹脂の沈降を回避して良好な塗工性を達成する観点から、前記固形分濃度は60%以下であることが好ましい。
【0031】
第1の接着性樹脂層(B)は、樹脂成分として、前記主要樹脂のみを含有するものであってもよいし、前記主要樹脂に加えて、さらに粘着性付与樹脂(E)を含有するものであってもよい。粘着性付与樹脂を使用することで、第1の接着性樹脂層(B)
に含まれる樹脂全体のTgを低減することができ、積層体の接着強度がより改善され得る。
【0032】
前記粘着性付与樹脂(E)としては特に限定されず、一般的に使用されるものを使用することができる。常温で固体、または液体のいずれであってもよい。具体的には、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、エチレン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、アルキルフェノール-ホルムアルデヒド系樹脂、アルキルフェノール-アセチレン系樹脂、クマロン-インデン系樹脂、スチレン系樹脂、キシレン-ホルムアルデヒド系樹脂を好ましく使用することができる。これらは、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。特に、ロジン系樹脂が好ましい。
【0033】
前記粘着性付与樹脂(E)の重量平均分子量(Mw)は、適宜選択することができるが、接着強度改善効果の観点から、100以上5,000未満であることが好ましく、200以上3,000未満であることがより好ましく、300~2,000がさらに好ましく、400~1,000が特に好ましい。
【0034】
本実施形態に係る積層体において、第1の接着性樹脂層(B)の目付量は0.1g/m2以上3.0g/m2未満の範囲に調節される。目付量が0.1g/m2未満であると、熱可塑性樹脂層(C)との接着性が低下する場合がある。逆に3.0g/m2を超えると、乾燥時に熱量が多く必要となるため設備への負荷が大きくなったり、例えば乾燥不良によって原反巻取り時のブロッキングが問題になる場合がある。
【0035】
前記目付量は0.5g/m2以上2.5g/m2以下であることが好ましく、0.8g/m2以上2.0g/m2以下がより好ましく、1.0g/m2以上1.5g/m2以下がさらに好ましい。
【0036】
[熱可塑性樹脂層(C)]
熱可塑性樹脂層(C)は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を主成分として含む。ここでいう主成分とは、熱可塑性樹脂層(C)を形成する樹脂成分のうち、最も重量比率が大きい成分であることを意味する。当該熱可塑性樹脂層(C)は、本実施形態に係る積層体における最表面の層であってもよく、その場合、当該熱可塑性樹脂層はヒートシール(後述する)のために使用することができる。
【0037】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、生分解性を有する脂肪族ポリエステル(好ましくは芳香環を含まないポリエステル)であり、少なくとも1種又は2種以上の3-ヒドロキシアルカノエート単位を有する共重合体である。前記3-ヒドロキシアルカノエート単位は、下記一般式(1)で表されることが好ましい。
[-CHR-CH2-CO-O-] (1)
一般式(1)中、RはCpH2p+1で表されるアルキル基を示し、pは1~15の整数を示す。Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、メチルプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の直鎖または分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。pとしては、1~10が好ましく、1~8がより好ましい。
【0038】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、3-ヒドロキシアルカノエート単位(特に、一般式(1)で表される単位)を、全構成単位(モノマー単位)の50モル%以上含むことが好ましく、60モル%以上含むことがより好ましく、70モル%以上含むことが更に好ましい。ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、樹脂の構成単位として、2種以上の3-ヒドロキシアルカノエート単位のみを含むものであってもよいし、1種又は2種以上の3-ヒドロキシアルカノエート単位に加えて、その他の単位(例えば、4-ヒドロキシアルカノエート単位等)を含むものであってもよい。
【0039】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、3-ヒドロキシブチレート(以下、3HBと称する場合がある)単位と他のヒドロキシアルカノエート単位を含むポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂であることが好ましい。
【0040】
前記他のヒドロキシアルカノエート単位は、3HB単位以外の3-ヒドロキシアルカノエート単位であってよいし、3-ヒドロキシアルカノエート単位以外のヒドロキシアルカノエート単位(例えば、4-ヒドロキシアルカノエート単位)であってもよい。前記他のヒドロキシアルカノエート単位は、1種のみが含まれてもよいし、2種以上が含まれてもよい。
【0041】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の具体例としては、例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシプロピオネート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)(略称:PHBV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(略称:PHBH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘプタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシノナノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシウンデカノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(略称:P3HB4HB)等が挙げられる。特に、樹脂組成物の生産性および機械特性等の観点から、PHBH、又は、P3HB4HBが好ましく、PHBHが特に好ましい。
【0042】
PHBHは繰り返し単位の組成比を変えることで、融点、結晶化度を変化させ、結果として、ヤング率、耐熱性等の物性を容易に調整することができ、かつ、ポリプロピレンとポリエチレンとの間の物性を付与することが可能であることから、工業的に特に有用なプラスチックである。
【0043】
PHBHの具体的な製造方法は、例えば、国際公開第2010/013483号に記載されている。また、PHBHの市販品としては、株式会社カネカ「カネカ生分解性ポリマーGreen Planet」(登録商標)などが挙げられる。
【0044】
PHBH中の各構成モノマーの平均含有比率は、3HB/3HH=97~80/3~20(モル%/モル%)であることが好ましく、3HB/3HH=94~82/6~18(モル%/モル%)であることがより好ましい。PHBH中の3HHの平均含有比率が3モル%以上であると、後述するヒートシールにおいて良好な接着性を得ることができる。また、3HHの平均含有比率が20モル%以下であると、PHBHの結晶化速度が遅くなりすぎず、製造が比較的容易である。
【0045】
PHBH中の各構成モノマーの平均含有比率とは、PHBH中に含まれる3HBと3HHのモル比を意味する。PHBHが、構成モノマーの含有比率が互いに異なる少なくとも2種類のPHBHの混合物である場合、又は、少なくとも1種類のPHBHと、PHBとを含む混合物である場合、混合物全体に含まれる各構成モノマーのモル比を意味する。尚、構成モノマーの平均含有比率は、当業者に公知の方法、例えば国際公開2013/147139号の段落[0047]に記載の方法や、NMR測定により求めることができる。
【0046】
上述した通り、熱可塑性樹脂層(C)は、PHBHとして、構成モノマーの含有比率が互いに異なる少なくとも2種類のPHBHを含んでもよく、また、少なくとも1種類のPHBHに加えて、PHB(3-ヒドロキシブチレートの単独重合体)をさらに含んでもよい。
【0047】
少なくとも2種類のPHBHを含む場合、3HHの含有比率が6モル%未満である高結晶性かつ高融点のPHBHと、3HHの含有比率が15モル%以上である低結晶性かつ低融点のPHBHとを含むことが好ましい。
【0048】
熱可塑性樹脂層(C)は、PHBHを主成分とする樹脂層であることが好ましい。具体的には、熱可塑性樹脂層(C)中のPHBHの含有量は50~100重量%であることが好ましく、70~100重量%がより好ましく、80~100重量%がさらに好ましい。下限値は90重量%以上であってもよいし、95重量%以上であってもよい。
【0049】
熱可塑性樹脂層(C)は、樹脂成分としてPHBHのみ、または、PHBHとPHBのみを含有するものであってもよいし、これらに加えて、PHBH及びPHB以外の樹脂をさらに含有してもよい。PHBH及びPHB以外の樹脂としては、生分解性樹脂であることが好ましく、具体的には、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)(PHB3HV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(PHB4HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)(PHB3HO)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタデカノエート)(PHB3HOD)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)(PHB3HD)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHB3HV3HH)等のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)類;ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル系樹脂;ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンアゼレートテレフタレート等の脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂等が挙げられる。これらPHBH及びPHB以外の樹脂は1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0050】
熱可塑性樹脂層(C)は、樹脂100重量部に対して、後述する第2の接着性樹脂(D)を0.1重量部以上10重量部未満含む。第2の接着性樹脂(D)が0.1重量部以下であると紙基材との接着性に優れず、また10重量部以上であると熱可塑性樹脂を溶融加工する際、溶融張力が過度に低下することで加工性を悪化させてしまい、結果として幅や厚みといった寸法安定性が失われてしまう場合がある。
【0051】
熱可塑性樹脂層(C)は、発明の効果を阻害しない範囲で、樹脂材料に通常添加される添加剤を含有してもよい。そのような添加剤としては、例えば、無機充填剤、顔料、染料などの着色剤、活性炭、ゼオライト等の臭気吸収剤、バニリン、デキストリン等の香料、可塑剤、酸化防止剤、抗酸化剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、滑剤、離型剤、撥水剤、抗菌剤、摺動性改良剤等が挙げられる。これら添加剤としては1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。但し、添加剤は任意の成分であり、熱可塑性樹脂層(C)はこれら添加剤を含有しないものであってもよい。添加剤としては、熱可塑性樹脂層(C)のラミネートの際に冷却ロールなどの圧着面からの剥離性を改善できるという観点から、滑剤、及び/又は、無機充填剤を使用することが好ましい。
【0052】
前記滑剤としては、例えば、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の飽和または不飽和の脂肪酸アミドや、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド等のアルキレン脂肪酸アミド等の脂肪族アミド化合物や、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0053】
熱可塑性樹脂層(C)中の滑剤の配合量は、熱可塑性樹脂(C)層に含まれる樹脂成分の総量100重量部に対して0.1~2重量部であることが好ましく、0.2~1重量部がより好ましい。配合量を0.1重量部以上とすることにより、滑剤配合による剥離性改善効果を得ることができる。配合量が2重量部以下であると、圧着時に滑剤がブリードして冷却ロール等の圧着面に付着する問題を抑制して、長時間の連続加工を実施することができる。
【0054】
前記無機充填材としては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、シリカ、クレイ、カオリン、酸化チタン、アルミナ、ゼオライト等が挙げられる。これら無機充填材の平均粒子径は0.5μm以上であることが好ましい。
【0055】
熱可塑性樹脂層(C)中の無機充填剤の配合量は、熱可塑性樹脂層に含まれる樹脂成分の総量100重量部に対して0.5~5重量部であることが好ましく、1~3重量部がより好ましい。配合量を0.5重量部以上とすることにより、無機充填剤配合による剥離性改善効果を得ることができる。配合量が5重量部以下であると、熱可塑性樹脂層(C)における割れの発生を抑制することができる。
【0056】
本実施形態に係る積層体において、熱可塑性樹脂層(C)の厚みは20μm以上100μm以下の範囲に設定される。厚みが5μm未満であると、熱可塑性樹脂層(C)のラミネート時に樹脂の冷却が速すぎるため、第1の接着性樹脂層(B)が形成された基材層との接着性が低下する場合がある。また、積層体を成形体に加工する際に熱可塑性樹脂層にクラックが発生しやすくなる。厚みの下限値は25μm以上であることが好ましく、30μm以上がより好ましい。
【0057】
また、熱可塑性樹脂層(C)の厚みが100μmを超えると、熱可塑性樹脂層(C)の形成時に樹脂温度のむらが大きくなることで、メルトフラクチャによる厚みのむらや外観不良が発生する場合がある。また、積層体が硬くなり過ぎるために、成形不良を起こす場合もある。厚みの上限値は80μm以下であることが好ましく、60μm以下がより好ましい。
【0058】
[第2の接着性樹脂(D)]
前記第2の接着性樹脂(D)に含まれる主要樹脂としては特に限定されないが、塗工紙分野または樹脂フィルム分野で一般的に使用されている樹脂を好適に使用できる。紙等の基材およびP3HAとの親和性が高い樹脂が好ましく、そのような樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、スチレン-イソプレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、尿素樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ウレタン系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、イミン系樹脂等が挙げられる。これらは1種類のみを用いることもできるし、2種類以上の樹脂を任意の割合で混合して用いることもできる。
【0059】
特にP3HAとの親和性に優れることから、前記第2の接着性樹脂(D)は、少なくともエステル系またはアクリル系樹脂またはスチレン-アクリル系樹脂のいずれかを含むことが好ましい。
【0060】
〔積層体の製造方法〕
本実施形態に係る積層体を製造する方法の一例を以下に説明する。
【0061】
本実施形態に係る積層体は、基材層(A)の少なくとも片面に、第1の接着性樹脂層(B)を形成し(第1工程)、形成された第1の接着性樹脂層(B)の表面に、熱可塑性樹脂層(C)を形成する(第2工程)ことにより製造できる。
【0062】
基材層(A)の少なくとも片面に第1の接着性樹脂層(B)を形成する第1工程では、基材層(A)の片面または両面に、第1の接着性樹脂層(B)を構成する成分を含む溶液または水性スラリー等の水性分散液を塗布し、加熱して乾燥及び製膜することが好ましい。
【0063】
前記溶液または水性分散液を基材に塗布する手法としては特に限定されず、基材上に樹脂層を形成できる公知の方法を適宜使用することができる。具体的には、吹付法、散布法、スリットコーター法、エアーナイフコーター法、ロールコーター法、バーコーター法、コンマコーター法、ブレードコーター法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法等を使用することができる。溶液または水性分散液を塗布する前に、基材に対し、上述したコロナ処理等の表面処理を施す工程を実施してもよい。
【0064】
塗布後の乾燥処理は、公知の加熱方式を用いて実施することができる。例えば、熱風加熱、赤外線加熱、マイクロウェーブ加熱、ロール加熱、熱板加熱などが挙げられ、これらは単独または2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0065】
次いで、形成された第1の接着性樹脂層(B)の表面に、熱可塑性樹脂層(C)を形成する第2工程を行う。熱可塑性樹脂層(C)を形成する方法は、熱可塑性樹脂層(C)を構成する成分を含む溶液または水性分散液を第1の接着性樹脂層(B)の表面に塗布し、加熱して乾燥及び製膜する方法であってもよい。しかし、第1の接着性樹脂層(B)との接着性の観点や、生産性、あるいは、熱劣化を抑制する品質の観点から、押出ラミネート法または熱ラミネート法によって、第1の接着性樹脂層(B)の表面に熱可塑性樹脂層(C)を形成することが好ましい。
【0066】
前記押出ラミネート法としては、一般的な押出ラミネート方法を使用することができる。具体的には、溶融した樹脂材料を、T型ダイスからフィルム状に押し出して、冷却ロールを用いて冷却させつつ第1の接着性樹脂層(B)の表面に圧着し、その直後に冷却ロールから該樹脂材料を剥離することにより、熱可塑性樹脂層(C)を形成して積層体を製造することができる。
【0067】
前記押出ラミネート法で熱可塑性樹脂層(C)を形成する場合、T型ダイスの先端から溶融押出された直後の樹脂温度が、熱可塑性樹脂層(C)中に主成分として含まれるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の融点以上165℃未満であることが好ましい。尚、ここでいう融点とは、示差走査熱量測定(DSC法)において10℃/分の速度で昇温した際に得られる融解(吸熱)曲線におけるピーク温度のことを指す。
【0068】
前記熱ラミネート法としては、一般的な熱ラミネート方法を使用することができる。具体的には、まず、溶融した樹脂材料を、例えばT型ダイスから押し出して、冷却ロールを用いて冷却させつつ当該樹脂材料を含むフィルムを形成する。次いで、得られたフィルムを、熱ロールなどを用いて第1の接着性樹脂層(B)の表面に圧着することにより、成形体を製造することができる。
【0069】
前記熱ラミネート法で熱可塑性樹脂層(C)を形成する場合、熱可塑性樹脂層(C)を構成するフィルムを形成する際に、T型ダイスの先端から溶融押出された直後の樹脂温度が、熱可塑性樹脂層(C)中に主成分として含まれるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の融点以上165℃未満であることが好ましい。
【0070】
熱可塑性樹脂層(C)と、第1の接着性樹脂層(B)が形成された基材層(A)との接着性を改善するなどの目的で、第1の接着性樹脂層(B)の表面に対して、コロナ処理、フレーム処理、オゾン処理等を行ってもよい。
【0071】
前記の第1工程および第2工程は、接着性や加工性(溶融と結晶化のバランス)の観点で、順次連続的に行うことが好ましい。
【0072】
〔成形体〕
本実施形態の一態様に係る成形体は、上述した積層体を含むものであって、所望の大きさ及び形状を有するものである。前記成形体は、熱可塑性樹脂層(C)を含む積層体から形成されているため、種々の用途において有利である。
【0073】
前記成形体は、前記積層体を含むものであれば特に限定されないが、例えば、紙、フィルム、シート、チューブ、板、棒、容器(例えば、ボトル容器)、袋、部品等が挙げられる。前記成形体は、海洋汚染の対策の観点から、好ましくは、袋またはボトル容器である。
【0074】
前記成形体は、前記積層体それ自体であってもよいし、前記積層体が2次加工されたものであってもよい。
【0075】
前記積層体が2次加工されていることにより、前記成形体は、ショッピングバッグ、各種製袋、食品・菓子包装材、カップ、トレー、カートン等の各種包装容器資材として(換言すれば、食品、化粧品、電子、医療、薬品等の各種分野で)、好適に利用することができる。前記成形体は、基材への高い接着性および良好な耐熱性を有する熱可塑性樹脂層(C)を含むために、液体を入れる容器、特に、即席麺、即席スープ、コーヒー等の飲食品カップ、総菜、弁当、電子レンジ食品等に用いるトレー等、温かい内容物を入れる容器として、より好適に使用することができる。
【0076】
前記2次加工は、従来の樹脂ラミネート紙またはコート紙と同じ方法、すなわち、各種製袋機、充填包装機等を用いて実施することができる。また、紙カップ成型機、打抜き機、函機等の装置を用いて加工することもできる。これらの加工機において、前記積層体の接着方法は公知の技術を使用することができ、例えば、ヒートシール法、インパルスシール法、超音波シール法、高周波シール法、ホットエアシール法、フレームシール法等が使用できる。
【0077】
前記積層体のヒートシール温度は接着法により異なるが、例えば、シールバーを有する加熱式ヒートシール試験機を使用した場合、通常は樹脂温度が180℃以下、好ましくは170℃以下、より好ましくは160℃以下となるように設定する。上記範囲内であると、シール部近傍の樹脂の溶け出しを回避し、適当な樹脂層の膜厚の確保およびシール強度の確保を行うことができる。また、シールバーを有する加熱式ヒートシール試験機を使用した場合の樹脂温度の下限値は、通常は100℃以上、好ましくは110℃以上、より好ましくは120℃以上である。上記範囲内であると、シール部における適当な接着を確保することができる。
【0078】
前記積層体のヒートシール圧力は接着法により異なるが、例えば、シールバーを有する加熱式ヒートシール試験機を使用した場合、通常は0.1MPa以上、好ましくは0.5MPa以上である。上記範囲内であると、シール部における適当な接着を確保することができる。また、シールバーを有する加熱式ヒートシール試験機を使用した場合のヒートシール圧力の上限値は、通常は1.0MPa以下、好ましくは0.75MPa以下である。上記範囲内であると、シール端部の膜厚の薄肉化を回避し、シール強度を確保することができる。
【0079】
前記成形体は、その物性を改善するために、前記成形体とは異なる材料から構成される成形体(例えば、繊維、糸、ロープ、織物、編物、不織布、紙、フィルム、シート、チューブ、板、棒、容器、袋、部品、発泡体等)と複合化することもできる。これらの材料も、生分解性であることが好ましい。
【0080】
以下の各項目では、本開示における好ましい態様を列挙するが、本発明は以下の項目に限定されるものではない。
[項目1]
積層体であって、紙基材層(A)の少なくとも片面に第1の接着性樹脂層(B)と、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂層(C)とがこの順に積層しており、
前記第1の接着性樹脂層(B)の目付量は、0.1g/m2以上3.0g/m2未満であり、
前記熱可塑性樹脂層(C)の平均厚みは、20μm以上100μm未満であり、
前記熱可塑性樹脂層(C)は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂100重量部に対して第2の接着性樹脂(D)を0.1重量部以上10重量部未満含む、積層体。
[項目2]
前記第1の接着性樹脂層(B)がエステル系樹脂、アクリル系或いはメタクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、スチレン-イソプレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、尿素樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ウレタン系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、イミン系樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種類以上の樹脂を含む、項目1に記載の積層体。
[項目3]
前記第2の接着性樹脂(D)がエステル系樹脂、アクリル系或いはメタクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、スチレン-イソプレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、尿素樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ウレタン系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、イミン系樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種類以上の樹脂を含む、項目1又は2に記載の積層体。
[項目4]
前記第1の接着性樹脂層(B)は、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、エチレン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、アルキルフェノール-ホルムアルデヒド系樹脂、アルキルフェノール-アセチレン系樹脂、クマロン-インデン系樹脂、スチレン系樹脂、及び、キシレン-ホルムアルデヒド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の粘着性付与樹脂(E)を含む、項目1~3のいずれかに記載の積層体。
[項目5]
前記粘着性付与樹脂(E)は、重量平均分子量(Mw)が100以上5,000未満である、項目4に記載の積層体。
[項目6]
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂である、項目1~5のいずれかに記載の積層体。
[項目7]
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)である、項目1~6に記載の積層体。
[項目8]
項目1~7のいずれかに記載の積層体の製造方法であって、
前記基材層(A)の少なくとも片面に、前記第1の接着性樹脂層(B)を 形成する工程、
前記第1の接着性樹脂層(B)の表面に、押出ラミネート法または熱ラミネート法により前記熱可塑性樹脂層(C)を形成する工程を含む、積層体の製造方法。
[項目9]
前記押出ラミネート法で前記熱可塑性樹脂層(C)を形成する際に、T型ダイスの先端から溶融押出された直後の樹脂温度が、前記熱可塑性樹脂層(C)中に主成分として含まれるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の融点以上165℃未満である、項目8に記載の積層体の製造方法。
[項目10]
前記熱ラミネート法において、前記熱可塑性樹脂層(C)を構成するフィルムを使用し、前記フィルムは、T型ダイスの先端から溶融押出された直後の樹脂温度が、前記熱可塑性樹脂層(C)中に主成分として含まれるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の融点以上165℃未満で形成されたフィルムである、項目8に記載の積層体の製造方法。
[項目11]
項目1~10のいずれかに記載の積層体を含む、成形体。
【実施例0081】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその技術的範囲を限定されるものではない。
【0082】
〔製造例〕
(コーティング液の調製方法)
コーティング液1:スチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸2-エチルヘキシル/メタクリル酸(いずれも東京化成工業株式会社製)=10/81/3/6のモル比になるように重合した後、固形分濃度が5%となるように水/イソプロパノール混合液で希釈してアクリル-系スチレン樹脂からなるコーティング液1を得た。
【0083】
コーティング液2:メタクリル酸メチル/メタクリル酸2-エチルヘキシル/メタクリル酸(いずれも東京化成工業株式会社製)=91/3/6のモル比になるように重合した後、固形分濃度が5%となるように水/イソプロパノール混合液で希釈してコーティング液2を得た。
【0084】
コーティング液3:スチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸2-エチルヘキシル/メタクリル酸(いずれも東京化成工業株式会社製)=10/81/3/6のモル比になるように重合した後、固形分濃度が5%となるように水/イソプロパノール混合液で希釈してコーティング液を得た。その後、ロジンエステル(荒川化学工業株式会社製RE-650、重量平均分子量600)をトルエン/イソプロパノール混合液で溶解させた溶液を、スチレン-アクリル系樹脂とロジンエステルの合計量のうちロジンエステルが5重量%となるように混合し、コーティング液3を得た。
【0085】
コーティング液4:スチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸2-エチルヘキシル/メタクリル酸(いずれも東京化成工業株式会社製)=10/81/3/6のモル比になるように重合した後、固形分濃度が15%となるように水/イソプロパノール混合液で希釈してコーティング液を得た。その後、ロジンエステル(荒川化学工業株式会社製RE-650、重量平均分子量600)をトルエン/イソプロパノール混合液で溶解させた溶液を、スチレン-アクリル系樹脂とロジンエステルの合計量のうちロジンエステルが5重量%となるように混合し、コーティング液4を得た。
【0086】
コーティング液5:スチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸2-エチルヘキシル/メタクリル酸(いずれも東京化成工業株式会社製)=10/81/3/6のモル比になるように重合した後、固形分濃度が5%となるように水/イソプロパノール混合液で希釈してコーティング液を得た。その後、ロジンエステル(荒川化学工業株式会社製RE-2160、重量平均分子量2160)をトルエン/イソプロパノール混合液で溶解させた溶液を、スチレン-アクリル系樹脂とロジンエステルの合計量のうちロジンエステルが5重量%となるように混合し、コーティング液5を得た。
【0087】
(PHBHパウダー)
PHBHパウダーとしては、国際公開公報第2019-142845号に記載の方法に準拠して製造したものを使用した。具体的な処方は以下の通りである。
【0088】
PHBHパウダー:重量平均分子量59万、PHBH中の3HBと3HHの合計に対する3HHの割合が15モル%であるPHBHパウダー
(PHBHペレットの製造方法)
PHBHペレット1:前記PHBHパウダー(100重量部)に対し、ベヘン酸アミド(0.5重量部)、ペンタエリスリトール(1.0重量部)、前記コーティング液1を乾燥させて得たアクリル-スチレン樹脂(5.0重量部)をドライブレンドし、2軸押出機を用いて、設定温度150℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混練してストランド状に押出し、40℃の温水に通して固化させてペレット状にカットした。重量平均分子量は55万、融点は150℃であった。
PHBHペレット2:前記PHBHパウダー(100重量部)に対し、ベヘン酸アミド(0.5重量部)、ペンタエリスリトール(1.0重量部)、前記コーティング液1を乾燥させて得たアクリル-スチレン樹脂(1.5重量部)をドライブレンドし、2軸押出機を用いて、設定温度150℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混練してストランド状に押出し、40℃の温水に通して固化させてペレット状にカットした。重量平均分子量は55万、融点は150℃であった。
PHBHペレット3:前記PHBHパウダー(100重量部)に対し、ベヘン酸アミド(0.5重量部)、ペンタエリスリトール(1.0重量部)、前記コーティング液1を乾燥させて得たアクリル-スチレン樹脂(9.0重量部)をドライブレンドし、2軸押出機を用いて、設定温度150℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混練してストランド状に押出し、40℃の温水に通して固化させてペレット状にカットした。重量平均分子量は55万、融点は150℃であった。
PHBHペレット4:前記PHBHパウダー(100重量部)に対し、ベヘン酸アミド(0.5重量部)、ペンタエリスリトール(1.0重量部)をドライブレンドし、2軸押出機を用いて、設定温度150℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混練してストランド状に押出し、40℃の温水に通して固化させてペレット状にカットした。重量平均分子量は55万、融点は150℃であった。
【0089】
〔評価方法〕
実施例および比較例における評価は、以下の方法で行った。
【0090】
(ラミネート強度の評価)
押出ラミネートを行った翌日以降にラミネート強度試験を行った。具体的には、得られた積層体の熱可塑性樹脂層(C)面にカッターの刃で薄くクロスカットをいれ、切込みの部分にニチバンNo.CT-17のテープをしっかりと貼り合わせた後、軽く手で剥がしてきっかけを入れた。その後、幅15mmになるように調整して切り出し、剥がれたラミネート層と紙とをそれぞれ180°の角度となるように冶具で掴み、ピール強度試験を行った。引張速度は200mm/分で行った。ピール試験機は、島津オートグラフ EZ-LX(株式会社島津製作所製)を用いた。
【0091】
<評価>
◎:4.0N/15mm以上
〇:3.0N/15mm以上4.0N/15mm未満
△:2.0N/15mm以上3.0N/15mm未満
×:2.0N/15mm未満
上記評価結果が◎、○または△であれば、十分なラミネート強度があると言える。
【0092】
(乾燥性の評価)
坪量210g/m2のA4サイズの原紙(紙基材層(A))に対して、実施例および比較例に記載の条件にてコーティングを行って第1の接着性樹脂層(B)を形成した後、100℃の熱風オーブンで30秒間加熱した後取り出し、第1の接着性樹脂層(B)の表面の様子を観察した。
【0093】
<評価>
○:表面が湿っておらず、十分に塗膜が形成されている
△:表面は若干湿っているが、十分に塗膜が形成されている
×:表面に水たまりができており、塗膜が十分には形成されていない
上記評価結果が○または△であれば、一般的な抄紙工程における乾燥および塗膜形成が可能である。
【0094】
(第1の接着性樹脂層(B)の目付量の測定)
実施例および比較例で得られた第1の接着性樹脂層(B)付きの紙を100℃に加熱した熱風オーブンで10分間十分に乾燥させた後、1週間25℃、湿度60%の条件で養生した。その後10cm×10cmに切り出して重量を測定し、その重量値から原紙の重量を差し引いて100倍した値を、第1の接着性樹脂層(B)の目付値とした。
<押出ラミネート法による積層体の製造>
(実施例1)
坪量210g/m2のA4サイズの原紙(紙基材層(A))に対し、コーティング液1をバーコーターNo.10でコーティングし、その直後に、100℃に加熱した熱風オーブンに30秒間入れて乾燥させ、紙基材上に第1の接着性樹脂層(B)を形成した。得られた第1の接着性樹脂層(B)の目付量と乾燥性を評価し、その結果を表1に示した。
【0095】
続いて、前記PHBHペレット1を、T型ダイスを装着した単軸押出機に投入し、押出直後の樹脂温度が163℃となる条件でT型ダイスから押出し、60℃に設定した冷却ロールで引き取り、厚み30μmのフィルム状に成形した。前記で得られた第1の接着性樹脂層(B)付きの紙基材と、該PHBHフィルムを、紙面側に加熱ロール、PHBHフィルム側に冷却ロールが接するように挟み込み、PHBHフィルムの表面温度が163℃となるように条件を調整し、紙基材と、第1の接着性樹脂層(B)と、熱可塑性樹脂層(C)とをこの順で含む積層体を得た。
【0096】
得られた積層体について、ラミネート強度を評価し、その結果を表1に示した。
【0097】
(実施例2~実施例12、比較例2~4)
第1の接着性樹脂層(B)におけるコーティング液、目付量、熱可塑性樹脂層(C)におけるPHBHペレット、PHBHフィルム表面温度、又は厚みを表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして積層体を作製し、実施例1と同様の評価を実施した。結果を表1にまとめた。
【0098】
(比較例1)
紙基材層(A)の表面上に、PHBHペレット1を、T型ダイスを装着した単軸押出機に投入し、押出直後の樹脂温度が163℃となる条件でT型ダイスから直接押出した後、60℃に設定した冷却ロールで引き取り、紙基材層(A)の表面上に、厚みが30μmの熱可塑性樹脂層(C)が積層し、第1の接着性樹脂層(B)を含まず、紙基材層(A)と熱可塑性樹脂層(C)を含む積層体を得た。
【0099】
得られた積層体について、ラミネート強度を評価し、その結果を表1に示した。
【0100】
【表1】
<結果>
表1より、各実施例では基材層(A)と熱可塑性樹脂層(C)とが第1の接着性樹脂層(B)を介して十分な強度で接着されており、また、第1の接着性樹脂層(B)のコーティング後の乾燥性も良好であることが分かる。
【0101】
一方、比較例1~3では接着性が不十分であり、比較例4では乾燥性が不良であることから、各比較例では接着性と乾燥性を両立できていないことが分かる。