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特開2024-162568不定形耐火組成物、及び不定形耐火物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162568
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】不定形耐火組成物、及び不定形耐火物
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/66 20060101AFI20241114BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C04B35/66
F27D1/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078197
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】391040711
【氏名又は名称】AGCセラミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川崎 正人
【テーマコード(参考)】
4K051
【Fターム(参考)】
4K051AB03
4K051BE00
(57)【要約】
【課題】施工体の養生強度を向上し、耐爆裂性に優れる不定形耐火組成物及び不定形耐火物を提供する。
【解決手段】不定形耐火組成物は、耐火性骨材と、硬化剤としてCaO・Alを含むアルミナセメントと、シリカゾルと、を含み、前記アルミナセメントの総質量に対する前記CaO・Alの含有率が、55質量%以上であり、前記アルミナセメントの含有量が、前記耐火性骨材100質量部に対して、1~5質量部であり、前記シリカゾルに含まれるシリカ固形分が、前記耐火性骨材100質量部に対して、1~30質量部である、不定形耐火組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性骨材と、硬化剤としてCaO・Alを含むアルミナセメントと、シリカゾルと、を含み、
前記アルミナセメントの総質量に対する前記CaO・Alの含有率が、55質量%以上であり、
前記アルミナセメントの含有量が、前記耐火性骨材100質量部に対して、1~5質量部であり、
前記シリカゾルに含まれるシリカ固形分が、前記耐火性骨材100質量部に対して、1~30質量部である、不定形耐火組成物。
【請求項2】
前記シリカゾルは、シリカの固形分濃度が10~50質量%である、請求項1に記載の不定形耐火組成物。
【請求項3】
不定形耐火組成物の全固形分に対して、耐火性骨材、アルミナセメント、及びシリカゾルの固形分の総質量の占める割合が、99.5質量%以上である、請求項1又は2に記載の不定形耐火組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の不定形耐火組成物により形成される、不定形耐火物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、不定形耐火組成物、及び不定形耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
不定形耐火物は、現地での施工によってその形をなす耐火物であるが、硬化発現のためにアルミナセメントが配合されているのが一般的である。しかしながら、アルミナセメントはセメントの中では耐熱性が高いものの、その他の耐火骨材に比べると耐熱性は低いものであった。また、アルミナセメントは、スラグ、炉内の処理物等との反応性が高く、耐火物の耐食性を下げる原因ともなっていた。
【0003】
上記問題に鑑みて、アルミナセメントの含有率を減らし、少量のアルミナセメントを介して不定形耐火組成物に含まれる超微粉の凝集を促す低セメントタイプの不定形耐火物が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0004】
具体的には、特許文献1には、乾粉の耐火性骨材、乾粉のアルミナセメント、シリカゾル、及び乾粉の水硬性アルミナを特定の比率で配合する乾式吹き付け用不定形耐火物が開示されている。この乾式吹き付け用不定形耐火物を乾式吹き付け施工方法に用いた場合において、得られる施工体の養生強度を高めることができる、とされている。
【0005】
また、特許文献2には、シリカゾル、特定の粒径のマグネシア微粉、及び縮合リン酸塩を特定の比率で配合する流し込み不定形耐火物が開示されている。この不定形耐火物によって、アルミナセメント無添加で、適切な流し込み作業可使時間の確保が可能で、十分な硬化強度が得られる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許7174184号公報
【特許文献2】特許6296635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2ともに、シリカゾルを用いる不定形耐火物である。しかしながら、シリカゾルを用いる不定形耐火組成物は、セメントを用いる不定形耐火組成物に比べて、養生強度が低くなる。養生強度が低いと、施工体を脱枠する際に形状が維持され難く、作業性が低下する。
また、施工体の内部で水蒸気の圧力が高まって施工体の強度を上回ると爆裂するため、この爆裂を防ぐことが望まれている。低セメントタイプの不定形耐火物は、超微粉を含むことから、緻密な構造を有しており、急速昇温により爆裂が生じやすい。また、一般には、養生強度の向上と耐爆裂性の向上とはトレードオフの関係にあり、両立することが難しい。
【0008】
上記状況を鑑み、本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、施工体の養生強度を向上し、耐爆裂性に優れる不定形耐火組成物及び不定形耐火物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 耐火性骨材と、硬化剤としてCaO・Alを含むアルミナセメントと、シリカゾルと、を含み、
前記アルミナセメントの総質量に対する前記CaO・Alの含有率が、55質量%以上であり、
前記アルミナセメントの含有量が、前記耐火性骨材100質量部に対して、1~5質量部であり、
前記シリカゾルに含まれるシリカ固形分が、前記耐火性骨材100質量部に対して、1~30質量部である、不定形耐火組成物。
<2> 前記シリカゾルは、シリカの固形分濃度が10~50質量%である、<1>に記載の不定形耐火組成物。
<3> 不定形耐火組成物の全固形分に対して、耐火性骨材、アルミナセメント、及びシリカゾルの固形分の総質量の占める割合が、99.5質量%以上である、<1>又は<2>に記載の不定形耐火組成物。
<4> <1>~<3>のいずれか1項に記載の不定形耐火組成物により形成される、不定形耐火物。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一実施形態によれば、施工体の養生強度を向上し、耐爆裂性に優れる不定形耐火組成物及び不定形耐火物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本開示は以下の実施形態に限定されない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示を制限するものではない。
【0012】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、合成例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する化合物を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率を意味する。
【0013】
(不定形耐火組成物)
本開示の不定形耐火組成物は、耐火性骨材と、硬化剤としてCaO・Alを含むアルミナセメントと、シリカゾルと、を含み、前記アルミナセメントの総質量に対する前記CaO・Alの含有率が、55質量%以上であり、前記アルミナセメントの含有量が、前記耐火性骨材100質量部に対して、1~5質量部であり、前記シリカゾルに含まれるシリカ固形分が、前記耐火性骨材100質量部に対して、1~30質量部である。
【0014】
本開示の不定形耐火組成物は、施工体の養生強度が向上し、耐爆裂性に優れる。上記効果が奏される理由は明らかではないが、以下のように推察される。
本開示の不定形耐火組成物は、CaO・Alの含有率が55質量%以上であるアルミナセメントを含む。CaO・Alは優れた圧縮強さを有するため、施工体の養生強度が向上すると推察される。また、シリカゾルで硬化された不定形耐火物は、アルミナセメントで硬化された不定形耐火物に比べて、水蒸気を不定形耐火物外へ逃がしやすいことから耐爆裂性が向上すると推察される。そして、シリカゾルに含まれるシリカ固形分が耐火性骨材100質量部に対して1~30質量部であり、かつアルミナセメントの含有量が耐火性骨材100質量部に対して1~5質量部であることで、CaO・Alを含むアルミナセメントを用いることの利点と、シリカゾルを用いることの利点とが、それぞれ損なわれずに発揮されるものと推察される。このようにバランスを図ることで、本開示の不定形耐火組成物は爆裂の発生が抑えられる。これにより本開示の不定形耐火組成物では急速昇温を行うことが可能となり、工期短縮が図られる。
【0015】
<耐火性骨材>
耐火性骨材としては、不定形耐火物の製造に使用可能なものであれば、特に限定されない。例えば、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、ジルコン(ZrO・SiO)等が挙げられる。耐火性骨材は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0016】
アルミナとしては、シャモット(Al含有率:40~50質量%)、ムライト(Al含有率:60質量%前後)、ボーキサイト(Al含有率:80~89質量%)、高純度アルミナ(Al含有率:90質量%以上)等が挙げられる。
なお、本開示において、「耐火性骨材の含有量」とは、シャモット、ムライト、ボーキサイト、高純度アルミナ等の含有量を意味する。
【0017】
耐火性骨材の粒径は、特に限定されるものではないが、施工性等を向上する観点から、45μm~5mmが好ましい。
本開示において、耐火性骨材の粒径は、JIS Z 8815:1994に準拠したふるい分け試験により測定でき、累積体積が50%となる粒子径である。
【0018】
<アルミナセメント>
施工体の養生強度を高める観点から、アルミナセメントの総質量に対するCaO・Alの含有率は、55質量%以上であり、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましく、95質量%以上が最も好ましく、100質量%としてもよい。
【0019】
アルミナセメントは、CaO・Al以外のその他の成分を含んでいてもよく、12CaO・7Al、CaO・2Al、CaO・AlO・CaSO、CaO・Al・Fe、CaO・Al・CaF、CaO・NaO・Al等が挙げられる。
【0020】
施工体の養生強度を高める観点から、アルミナセメントの総質量に対するその他の成分の含有率は20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、含有しないことが特に好ましい。
【0021】
また、施工体の養生強度を高め、耐爆裂性を向上させる観点から、アルミナセメントの含有量は、耐火性骨材100質量部に対して、1~5質量部であり、1~4質量部が好ましく、1~3質量部がより好ましい。
【0022】
<シリカゾル>
シリカゾルは、シリカ固形分の濃度が10~50質量%であることが好ましい。シリカ固形分の濃度が10質量%以上であると、シリカゾルと耐火性骨材との硬化性が十分となる傾向にある。また、シリカ固形分の濃度が50質量%以下であると、シリカゾルの粘性が高くなりすぎず、シリカゾルと耐火性骨材との混合性に優れる。シリカゾルは市販品であってもよい。
【0023】
施工体の養生強度の向上と耐爆裂性の向上のバランスを図る観点から、シリカゾルに含まれるシリカ固形分は、耐火性骨材100質量部に対して、1~30質量部であり、1~20質量部が好ましく、1~15質量部がより好ましく、1~10質量部がさらに好ましい。
【0024】
<添加材>
本開示の不定形耐火組成物は、上述の成分以外の添加材を含んでもよい。
添加材としては、耐火性粒子(シリカ、チタニア、ダイアスポア、バン土頁岩、パイロフィライト、シリマナイト、アンダリュウサイト、ケイ石、クロム鉄鉱、スピネル、マグネシア、ジルコニア、ジルコン、クロミア、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、アルミナ、炭化ケイ素、炭化ホウ素、ホウ化チタン、ホウ化ジルコニウム等)、分散剤(リン酸系分散剤、カルボン酸系分散剤、スルホン酸系分散剤等)、ベントナイト、結合剤(活性マグネシア、低反応性アルカリ土類金属酸化物、水溶性の有機酸塩、水溶性の無機酸塩等)、酸化防止剤、収縮緩和剤、増粘剤、有機繊維などが挙げられる。
【0025】
アルミナ粒子は、従来、不定形耐火組成物に用いられているものを適用できる。アルミナ粒子は、それ自体の凝集力が強く、不定形耐火組成物を耐火物とする際に硬化を促進する作用を有する。また、アルミナ粒子は、流動性や物性向上にも寄与する。アルミナ粒子は、その凝集により耐火物の硬化を促進する観点から、平均粒径が、10μm未満が好ましく、5μm未満がより好ましい。アルミナ粒子が2種以上含まれていてもよい。
アルミナ粒子の粒径は、JIS Z 8825:2013に準拠したレーザー回折式粒度分布測定法により測定でき、累積体積が50%となる粒子径である。
【0026】
シリカ粒子は、従来、不定形耐火組成物に用いられているものを適用できる。シリカ粒子の粒径は、特に限定されず、0.1μm~30μmとすることができる。
【0027】
有機繊維としては、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維、セルロース繊維等が挙げられる。
有機繊維の繊維長は10μm~20mmとすることができる。有機繊維の繊維径は0.1~20dtexとすることができる。
なお、本開示において、繊維長は、JIS L 1015:2010に準拠して測定し、繊維径は、JIS L 1015:2010に準拠して測定する。
有機繊維は1種単独で用いても2種以上併用してもよい。有機繊維を2種以上併用する場合、繊維長の異なる2種類以上の有機繊維を含むことが好ましい。2種類以上の有機繊維を用いることで、耐爆裂性をより向上でき、施工時において、不定形耐火組成物と水とを混合し坏土としたときの流動性を向上できる。例えば、繊維長3mm~20mmの長繊維と、繊維長10μm~3mmの短繊維と、を併用することが好ましい。
【0028】
不定形耐火組成物の全固形分に対して、耐火性骨材、アルミナセメント、及びシリカゾルの固形分の総質量の占める割合は、99.5質量%以上であることが好ましく、99.6質量%以上であることがより好ましく、99.7質量%以上であることがさらに好ましい。
【0029】
(不定形耐火組成物の製造方法)
本開示の不定形耐火組成物は、上記各成分を従来公知の方法により混練することにより製造できる。混練には、例えば、オムニミキサー、パドルミキサー、ナウタミキサー、アイリッヒミキサー、ボルテックスミキサー又は連続混練装置等を使用できる。
【0030】
(不定形耐火物)
本開示の不定形耐火物は、上記不定形耐火組成物により形成される。
不定形耐火物の製造は、吹付け施工により行ってもよく、流し込み施工により行ってもよく、打込み施工により行ってもよい。