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特開2024-162573樹脂組成物の製造方法及び樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162573
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】樹脂組成物の製造方法及び樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   B29B 7/46 20060101AFI20241114BHJP
   B29B 9/06 20060101ALI20241114BHJP
   B29C 48/05 20190101ALI20241114BHJP
   B29C 48/345 20190101ALI20241114BHJP
   B29C 48/40 20190101ALI20241114BHJP
   B29C 48/64 20190101ALI20241114BHJP
   B29C 48/63 20190101ALI20241114BHJP
   B29C 48/605 20190101ALI20241114BHJP
【FI】
B29B7/46
B29B9/06
B29C48/05
B29C48/345
B29C48/40
B29C48/64
B29C48/63
B29C48/605
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078209
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】591229440
【氏名又は名称】住化カラー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】芝浦機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】眞田 隆
(72)【発明者】
【氏名】佐野 晃一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 利尚
(72)【発明者】
【氏名】川本 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 照三
【テーマコード(参考)】
4F201
4F207
【Fターム(参考)】
4F201AA11
4F201AA13
4F201AA24
4F201AA28
4F201AA29
4F201AA32
4F201AA34
4F201AB11
4F201AB16
4F201AB18
4F201AB25
4F201AG14
4F201AH17
4F201AH33
4F201AJ08
4F201AR02
4F201AR12
4F201BA01
4F201BA02
4F201BC01
4F201BC02
4F201BC13
4F201BD04
4F201BK02
4F201BK13
4F201BK26
4F201BK38
4F201BK41
4F201BK42
4F201BK63
4F201BK65
4F201BL08
4F201BL44
4F207AA11
4F207AA13
4F207AA24
4F207AA28
4F207AA29
4F207AA32
4F207AA34
4F207AB11
4F207AB16
4F207AB18
4F207AB25
4F207AG14
4F207AH17
4F207AH33
4F207AJ08
4F207AR02
4F207AR12
4F207KA01
4F207KA17
4F207KK13
4F207KL07
4F207KL15
4F207KL23
4F207KM14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】未解繊繊維束の残存率を低減できる樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂と繊維系充填材とを二軸混練押出機を用いて溶融混練する樹脂組成物の製造方法であって、前記二軸混練押出機は、溶融混練される材料の流れ方向からみて上流から順に、第一の供給口1a、第一の混練ゾーン21、第二の供給口1b及び第二の混練ゾーン23を備え、熱可塑性樹脂及び充填材は、それぞれ第一の供給口及び第二の供給口から二軸混練押出機に供給され、第一の混練ゾーンでは、第一の供給口から供給される熱可塑性樹脂の50質量%以上を溶融し、第二の混練ゾーンが、例えば、(A)1条フライトと、当該1条フライトの下流側に2MPa以上の圧力を生じるような抵抗部23bとを有する、樹脂組成物の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と繊維系充填材とを二軸混練押出機を用いて溶融混練する樹脂組成物の製造方法であって、
前記二軸混練押出機は、溶融混練される材料の流れ方向からみて上流から順に、第一の供給口、第一の混練ゾーン、第二の供給口及び第二の混練ゾーンを備え、
前記熱可塑性樹脂及び前記繊維系充填材は、それぞれ前記第一の供給口及び前記第二の供給口から前記二軸混練押出機に供給され、
前記第一の混練ゾーンでは、前記第一の供給口から供給される前記熱可塑性樹脂の50質量%以上を溶融し、
前記第二の混練ゾーンが、
(A)1条フライトと、当該1条フライトの下流側に2MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有する、
(B)シリンダーとの間のクリアランスがシリンダー径の1.3%以上である2条フライトと、当該2条フライトの下流側に2MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有する、
(C)1条フライトと、前記1条フライトの下流端及び前記1条フライトの下流端からみて1D上流側の位置で1MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有する、又は
(D)シリンダーとの間のクリアランスがシリンダー径の1.3%以上である2条フライトと、前記2条フライトの下流端及び前記1条フライトの下流端からみて1D上流側の位置で1MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有する、樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記1条フライト又は前記2条フライトは、シリンダーとの間のクリアランスがシリンダー径の2.0%以上である、請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記第二の混練ゾーンが、
(a)シリンダーとの間のクリアランスがシリンダー径の1.3%以上である1条フライトと、当該1条フライトの下流側に4MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有する、
(b)シリンダーとの間のクリアランスがシリンダー径の1.3%以上である2条フライトと、当該2条フライトの下流側に4MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有する、
(c)1条フライトと、前記1条フライトの下流端及び前記1条フライトの下流端からみて2D上流側の位置で2MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有する、又は
(d)シリンダーとの間のクリアランスがシリンダー径の1.3%以上である2条フライトと、前記2条フライトの下流端及び前記1条フライトの下流端からみて2D上流側の位置で2MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有する、請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記1条フライト又は前記2条フライトの長さが3D以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記繊維系充填材が、繊維束である、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記繊維系充填材が、ガラス繊維又は炭素繊維である、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、ABS樹脂、AS樹脂、PPS樹脂及び液晶ポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法により得られ、前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、ABS樹脂、AS樹脂、PPS樹脂及び液晶ポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物の製造方法及び樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂と繊維系充填材とを含む熱可塑性樹脂組成物は、繊維系充填材を含まない熱可塑性樹脂と比較して、機械的強度等の物性に優れる。このため、繊維系充填材を含む熱可塑性樹脂組成物は、自動車用部品、電気・電子製品用の部品等の原料として使用されている。
【0003】
熱可塑性樹脂に繊維系充填材を混合混練し、繊維系充填材強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造する方法としては、例えば、下記の方法が挙げられる。
先ず、押出機に熱可塑性樹脂を供給し、該熱可塑性樹脂を溶融させる。次いで、溶融させた熱可塑性樹脂に繊維系充填材を供給し、押出機内で熱可塑性樹脂と繊維系充填材とを混合混練する。最後に、混合物を冷却、造粒する。
押出機には、例えば、単軸押出機又は二軸押出機(同方向噛み合い型二軸押出機等)が使用される。単軸押出機と比較して、二軸押出機は、生産性と運転の自由度がより高い傾向にある。したがって、繊維系充填材強化熱可塑性樹脂組成物ペレットの製造には、二軸押出機がより好ましく用いられる。
【0004】
上記繊維系充填材強化熱可塑性樹脂組成物ペレットの製造において使用される繊維系充填材には、例えば、直径が6~20μmのモノフィラメントを300~3000本くらいにまとめてロービングに巻き取ったもの、又はロービングを1~6mm等の長さにカットしたチョップドストランドが用いられる。チョップドストランドの方が容易に使用できるため、工業的に繊維系充填材強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造する場合においては、二軸押出機に熱可塑性樹脂を供給し、熱可塑性樹脂の溶融後、二軸押出機の途中からチョップドストランドを供給し、溶融状態の熱可塑性樹脂と繊維系充填材とを混合混練し、混合物を押し出して、冷却固化する方法が最も多く行われている。
【0005】
上記の二軸押出機を用いて行う繊維系充填材強化熱可塑性樹脂組成物ペレットの生産性は、二軸押出機の可塑化及び混合混練の能力によって決定される。二軸押出機の可塑化能力は、スクリューデザイン、スクリューが発生するトルク、スクリューの溝深さ(スクリューの外径と谷径との差)、スクリューの回転数等に依存する。特許文献1には、2本のスクリューの芯間距離の3乗で割った値をトルク密度と定義し、可塑化能力が高く、生産性に優れた二軸押出機が開示されている。
【0006】
また、二軸押出機の混合混練能力は、スクリューデザインにも依存する。二軸押出機の可塑化能力の向上に伴い、滞留時間が減少した。このため、短時間で効率のよい混合混練能力を持ったスクリューデザインの開発が求められている。このように二軸押出機の可塑化能力、混練能力を高める技術に関する検討が行なわれている。
【0007】
ところで、一般的には、繊維系充填材としては、上述の通り、モノフィラメントが束になったものを使用する。繊維系充填材をモノフィラメントの束にせずに二軸押出機に供給する方法では、モノフィラメントが綿状になり、流動性がなくなり、取り扱いが難しい傾向にあるためである。上記チョップドストランドは、例えば、二軸押出機内で解繊されモノフィラメントになるまで混合混練されると同時に、モノフィラメントの長さが、平均で200~500μmになるまでチョップドストランドはスクリュー等によって破断される。
【0008】
二軸押出機内での混合混練が不十分であると、モノフィラメントに解繊しないで、モノフィラメントの集合体(未解繊繊維系充填材束)の状態である、チョップドストランドの一部又は全部が樹脂組成物ペレット中に残存する。繊維系充填材強化熱可塑性樹脂組成物ペレットに、チョップドストランドの一部又は全部が残存した場合、射出成形において、ゲートに上記チョップドストランドの一部又は全部が詰まり、射出成形ができなくなるか、射出成形ができたとしても、成形品に上記チョップドストランドの一部又は全部が存在し、外観不良又は機能低下の原因となり易い。
【0009】
特に近年、エレクトロニクス関連の技術の進歩に伴い、部品として使用される繊維系充填材強化熱可塑性樹脂組成物は、薄肉で、複雑な形状に成形することが求められている。このような精密成形を行う成形機のゲートノズルは、1mm以下になる場合も多い。精密成形品においては、未解繊繊維系充填材束の存在が、非常に重大な欠陥になる。
【0010】
特許文献1の二軸押出機を使用すれば、生産性が向上するとされているが、特に上記のような精密成形品においては、高い吐出量の条件で滞留時間が短くなる方向にあり、チョップドストランドを完全にモノフィラメントに解繊し、且つ、繊維長を短くすることが一層難しくなっている。
【0011】
ニーディングディスクのような混練セグメントを多数組み合わせれば、混練強度を上げて繊維束を解繊してモノフィラメントにすることはある程度可能である。一方で、混練強度を上げると、著しく繊維長が短くなり、強度が低下し易い傾向にある。
そのため、特許文献2では、フライト部の頂部は所定の曲率半径を有する円弧を有する混練セグメントを用いて、成形機内でのガラス系無機充填剤と熱可塑性樹脂との反応を促進させ、ガラス系無機充填剤と熱可塑性樹脂との密着性を向上する方法が示されている。
特許文献3では、円弧状の切り欠きが形成されたフライト部を有する一条の順送りスクリューエレメントを用いることで、未解繊ガラス繊維束が残存する確率を非常に低くすることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特表平11-512666号公報
【特許文献2】特開2012-140526号公報
【特許文献3】特開2012-213996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記のいずれの製造方法も、未解繊繊維束の残存率、残存繊維長及び生産性の改善のバランスにおいて十分ではなかった。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、未解繊繊維束の残存率を低減できる樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、鋭意検討して、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち本発明は以下に関する。
[1]熱可塑性樹脂と繊維系充填材とを二軸混練押出機を用いて溶融混練する樹脂組成物の製造方法であって、
前記二軸混練押出機は、溶融混練される材料の流れ方向からみて上流から順に、第一の供給口、第一の混練ゾーン、第二の供給口及び第二の混練ゾーンを備え、
前記熱可塑性樹脂及び前記繊維系充填材は、それぞれ前記第一の供給口及び前記第二の供給口から前記二軸混練押出機に供給され、
前記第一の混練ゾーンでは、前記第一の供給口から供給される前記熱可塑性樹脂の50質量%以上を溶融し、
前記第二の混練ゾーンが、
(A)1条フライトと、当該1条フライトの下流側に2MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有する、
(B)シリンダーとの間のクリアランスがシリンダー径の1.3%以上である2条フライトと、当該2条フライトの下流側に2MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有する、
(C)1条フライトと、前記1条フライトの下流端及び前記1条フライトの下流端からみて1D上流側の位置で1MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有する、又は
(D)シリンダーとの間のクリアランスがシリンダー径の1.3%以上である2条フライトと、前記2条フライトの下流端及び前記1条フライトの下流端からみて1D上流側の位置で1MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有する、樹脂組成物の製造方法。
[2]前記1条フライト又は前記2条フライトは、シリンダーとの間のクリアランスがシリンダー径の2.0%以上である、[1]に記載の樹脂組成物の製造方法。
[3]前記第二の混練ゾーンが、
(a)シリンダーとの間のクリアランスがシリンダー径の1.3%以上である1条フライトと、当該1条フライトの下流側に4MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有する、
(b)シリンダーとの間のクリアランスがシリンダー径の1.3%以上である2条フライトと、当該2条フライトの下流側に4MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有する、
(c)1条フライトと、前記1条フライトの下流端及び前記1条フライトの下流端からみて2D上流側の位置で2MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有する、又は
(d)シリンダーとの間のクリアランスがシリンダー径の1.3%以上である2条フライトと、前記2条フライトの下流端及び前記1条フライトの下流端からみて2D上流側の位置で2MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有する、[1]に記載の樹脂組成物の製造方法。
[4]前記1条フライト又は前記2条フライトの長さが3D以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
[5]前記繊維系充填材が、繊維束である、請求項[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
[6]前記繊維系充填材が、ガラス繊維又は炭素繊維である、[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
[7]前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、ABS樹脂、AS樹脂、PPS樹脂及び液晶ポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
[8][1]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法により得られ、前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、ABS樹脂、AS樹脂、PPS樹脂及び液晶ポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、樹脂組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、未解繊繊維束の残存率を低減できる樹脂組成物の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態に係る二軸混練押出機の一例を示す概略図である。
図2】1条フライトとシリンダーとの間のクリアランスを説明する図である。
図3】2条フライトとシリンダーとの間のクリアランスを説明する図である。
図4】切り欠きセグメントの一例を示す斜視図である。
図5】実施例3の樹脂圧力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
本実施形態の樹脂組成物の製造方法は、熱可塑性樹脂と繊維系充填材とを二軸混練押出機を用いて溶融混練する樹脂組成物の製造方法であって、前記二軸混練押出機は、溶融混練される材料の流れ方向からみて上流から順に、第一の供給口、第一の混練ゾーン、第二の供給口及び第二の混練ゾーンを備え、前記熱可塑性樹脂及び前記繊維系充填材は、それぞれ前記第一の供給口及び前記第二の供給口から前記二軸混練押出機に供給され、前記第一の混練ゾーンでは、前記第一の供給口から供給される前記熱可塑性樹脂の50質量%以上を溶融し、前記第二の混練ゾーンが、(A)1条フライトと、当該1条フライトの下流側に2MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有する、(B)シリンダーとの間のクリアランスがシリンダー径の1.3%以上である2条フライトと、当該2条フライトの下流側に2MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有する、(C)1条フライトと、前記1条フライトの下流端及び前記1条フライトの下流端からみて1D上流側の位置で1MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有する、又は(D)シリンダーとの間のクリアランスがシリンダー径の1.3%以上である2条フライトと、前記2条フライトの下流端及び前記1条フライトの下流端からみて1D上流側の位置で1MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有する。このような方法によれば、未解繊繊維束の残存率を低減できる。この方法は、樹脂組成物の生産性にも優れる。また、この方法によれば、樹脂組成物中の残存繊維長を長く保つことができる。
【0021】
1条フライト及び2条フライトは、通常、搬送用のセグメントとして使用されるものであり、二軸混練押出機の混練ゾーンには、順ニーディングディスク、逆ニーディングディスク、ニュートラルニーディング、ローター等のような、一般的に混練セグメントとして使用されるスクリューセグメントを組み合わせて用いることが一般的である。これに対し、本実施形態に係る方法は、1条フライト及び2条フライトを第二の混練ゾーンに用いるものである。この方法によれば、繊維系充填材の分散及び混合を優れた生産性で達成できる。
【0022】
Dは、通常、シリンダーの径の概略値をいう。すなわち、「1条フライトの下流端からみて1D上流側の位置」とは、「1条フライトの下流端」から、約「1×D」上流側の位置を意味する。また、後述の「2D」との記載は「Dの約2倍」の長さを、「3D」との記載は「Dの約3倍」の長さをそれぞれ示す。「4D」等のその他の類似の記載も同様である。
【0023】
ここで、本明細書においては、1Dはシリンダー径の-7.0%~+7.0%の範囲と定義する。すなわち、シリンダー径をD’と定義した場合、1Dは、「0.93×D’~1.07×D’」を意味する。同様に、「2D」は、「0.93×2×D’~1.07×2×D’」を意味し、「3D」は、「0.93×3×D’~1.07×3×D’」を意味する。
【0024】
図1は、本実施形態に係る二軸混練押出機の一例を示す概略図である。この二軸混練押出機は、シリンダー(図示せず)と、シリンダーに配設されたスクリュー2と、シリンダーの下流側端部に設けられたダイ(図示せず)と、を備える。二軸混練押出機は、互いに回転して噛み合うスクリューを備えた構成であってもよい。二軸混練押出機としては、例えば、同方向回転二軸混練押出機及び同方向噛み合い型二軸混練押出機が挙げられる。
【0025】
上記二軸混練押出機は、溶融混練される材料の流れ方向からみて上流から順に、供給ゾーン20、第一の混練ゾーン21、搬送ゾーン22、第二の混練ゾーン23、搬送ゾーン24を備える。供給ゾーン20及び搬送ゾーン22には、それぞれ第一の供給口1a及び第二の供給口1bが配され、搬送ゾーン24には、ベント口5が配されている。すなわち、この二軸混練押出機は、溶融混練される材料の流れ方向からみて上流から順に、第一の供給口1a、第一の混練ゾーン21、第二の供給口1b及び第二の混練ゾーン23を備える。第一の供給口1a及び第二の供給口1bには例えばホッパ(図示せず)が接続されている。
【0026】
第二の混練ゾーン23は、溶融混練される材料の流れ方向からみて上流側に混合分散部23aを、下流側に抵抗部23bをそれぞれ有する。第二の混練ゾーン23が抵抗部23bを備えることにより、溶融状態の熱可塑性樹脂と繊維系充填材との混合物が、フライトとシリンダーとの空隙へ充満し易くなり、混合効果が向上すると考えられる。抵抗部は抵抗部23bの上流端の圧力が最も高く、下流に向かって圧力は低く、混合分散部23aは下流端(抵抗部23bの上流端)から上流側に向かって圧力が低くなるスクリューセグメントの構成である領域である。
【0027】
混合分散部23aで使用するスクリューエレメントとしては、例えば順フライトからなる搬送用のエレメントが挙げられる。スクリューエレメントの具体例は1条又は2条フライトを含む。
【0028】
混合分散部23aは、1条フライト又はシリンダーとの間のクリアランスがシリンダー径の1.3%以上である2条フライトから構成される。抵抗部23bは、2MPa以上の圧力を生じるような抵抗部である。抵抗部23bは、4MPa以上の圧力を生じるような抵抗部であることが好ましい。
【0029】
図2は、1条フライトとシリンダーとの間のクリアランスを説明する図である。図2において、aはクリアランスを、bはシリンダーを、cはフライト幅を、dxはシリンダー径をそれぞれ示す。
【0030】
1条フライトを用いる場合、フライト幅はフライトのリード長の20%以上であることが好ましく、30%近傍であるとより好ましい。フライト幅を広くすることでスクリューとフライトの隙間での分散及び混合の効果が得られやすい傾向にある。
【0031】
図3は、2条フライトとシリンダーとの間のクリアランスを説明する図である。図3において、aはクリアランスを、bはシリンダーを、dxはシリンダー径をそれぞれ示す。すなわち混合分散部23aが2条フライトから構成される場合、図3に示すaは、シリンダー径dxの1.3%以上となる。
【0032】
2条フライトを用いる場合、通常、フライト幅を広くすることが困難である一方、フライトとシリンダーとのクリアランスを広げることが好ましい。これによりフライトとシリンダーの隙間の通過率が高まることから、分散及び混合の効果が得られやすい傾向にある。フライトとシリンダーとの間のクリアランスは、例えば、シリンダー径の2%以上であってもよい。フライトとシリンダーとの間のクリアランスは、クリアランスの部分でのせん断速度をある程度高く保つ観点から、例えばシリンダー径の10%未満であってもよい。
【0033】
混合分散部23aを構成する前記1条フライト又は前記2条フライトの長さは、繊維系充填材及び熱可塑性樹脂の混合物の充満領域を充分に設ける観点から、例えば、2D以上であってもよく、3D以上であってもよい。
【0034】
抵抗部23bは、例えば、逆フライト、シールリング、ニュートラルニーディングディスク、逆ニーディングディスク、切り欠きセグメント(切り欠き付きのフライト又はリング)等のスクリューエレメント、及びこれらを組み合わせであってもよい。抵抗部23bは、溶融状態の熱可塑性樹脂と繊維系充填材との混合物を充満させ易い観点から、例えば、下流側への搬送力が二軸混練押出機を運転する条件の吐出量を下回るようスクリューエレメントの組み合わせ及び長さを調整することによって形成してもよい。
【0035】
抵抗部23bは、切り欠きセグメントを含むことが好ましい。切り欠きセグメントは、切り欠き部を有するセグメントである。切り欠きセグメントの一例を図4に示す。図4に示す切り欠きセグメント10は、複数の切り欠き部を有する切り欠きセグメントである。
【0036】
以下に、上記二軸混練押出機を用いて樹脂組成物を製造する方法について説明する。この方法では、熱可塑性樹脂と繊維系充填材とを上記二軸混練押出機を用いて溶融混練して樹脂組成物を製造する。得られる樹脂組成物は、例えば、繊維系充填材強化熱可塑性樹脂組成物ペレットである。
【0037】
まず、第一の供給口1aから供給ゾーン20に熱可塑性樹脂を供給する。第一の供給口1aから供給ゾーン20に供給された熱可塑性樹脂は、第一の混練ゾーン21に搬送される。第一の混練ゾーン21では、第一の供給口1aから供給された熱可塑性樹脂の50質量%以上を溶融させる。第一の混練ゾーン21を出た熱可塑性樹脂は、搬送ゾーン22に搬送され、搬送ゾーン22で繊維系充填材と合流する。
【0038】
繊維系充填材は、供給口1bから搬送ゾーン22に供給され、搬送ゾーン22で熱可塑性樹脂と合流する。
【0039】
搬送ゾーン22を出た熱可塑性樹脂及び繊維系充填材は、第二の混練ゾーン23において混錬される。これにより、熱可塑性樹脂中に繊維系充填材が分散される。第二の混練ゾーン23には上述の抵抗部が形成される。
【0040】
第二の混練ゾーン23を出た熱可塑性樹脂及び繊維系充填材は、搬送ゾーン24経て、ダイから二軸混練押出機の外に排出される。これにより、繊維系充填材強化熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。得られた繊維系充填材強化熱可塑性樹脂組成物は必要に応じペレット化してもよい。
【0041】
本実施形態の製造方法は、例えば、熱可塑性樹脂を上記押出機に供給して加熱及び混練して可塑化する可塑化工程と、可塑化工程後に、一束以上の繊維系充填材束を上記押出機に供給して、繊維系充填材束を解繊しながら、解繊された繊維系充填材と可塑化した熱可塑性樹脂とをスクリューで混練する混練分散工程と、必要に応じて揮発分を除去する脱揮工程、混合分散工程で得られた混合物をダイから二軸混練押出機の外に押出す押出工程と、ダイから押出された混合物をペレット化するペレット化工程とを備えていてもよい。
【0042】
[可塑化工程]
可塑化工程は、例えば、供給ゾーン20及び第一の混練ゾーン21で施される。
【0043】
可塑化工程では、供給口1aから供給された熱可塑性樹脂(例えば、樹脂ペレット)を移送及び溶融する。
【0044】
供給ゾーン20で使用するスクリューエレメントとしては、例えばフライトからなる搬送用のエレメントが挙げられる。第一の混練ゾーン21に使用するスクリューエレメントとしては、例えば、逆フライト、シールリング、順ニーディングディスク、逆ニーディングディスク等のスクリューエレメント及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0045】
供給ゾーン20では、例えば、樹脂ペレットを移送する。供給ゾーン20は、樹脂ペレットを供給口1a側からダイ方向側に移送する働きをする。
【0046】
可塑化の準備段階として外部ヒータによる予熱を行ってもよい。
【0047】
熱可塑性樹脂は、回転するスクリュー2とシリンダーに挟まれるため、熱可塑性樹脂には摩擦力が加わり、摩擦熱が発生する。上記予熱や摩擦熱によって、熱可塑性樹脂が溶融し始める場合もある。場合によっては、供給ゾーン20では、熱可塑性樹脂の移送がスムーズに進むように、スクリュー2の溝深さの調整、予熱の温度調製を従来公知の方法で行ってもよい。
【0048】
第一の混練ゾーン21では、供給ゾーン20から移送された熱可塑性樹脂に圧力を加えて熱可塑性樹脂を溶融する。第一の混練ゾーン21では、熱可塑性樹脂に剪断応力が加わる結果、熱可塑性樹脂は溶融しながら、さらに前方(搬送ゾーン22の方向)へと移送される。
【0049】
上述のとおり、第一の混練ゾーン21では、熱可塑性樹脂の50質量%以上を溶融させる。これにより繊維系充填材の折損が低減される傾向にある。第一の混練ゾーン21における樹脂粘度が低下することにより、繊維系充填材の折損が低減されるものと考えられる。
【0050】
第一の混練ゾーン21には、熱可塑性樹脂を可塑化、溶融した後に余分な揮発成分を取り除くためのオープンベント又は真空ベントを設置してもよい。
【0051】
可塑化工程で溶融された熱可塑性樹脂(溶融体)は、搬送ゾーン22で繊維系充填材と合流した後、第二の混練ゾーン23において混練分散工程に供される。繊維系充填材は、第二の供給口1bから押出機に供給される。押出機に供給される繊維系充填材の数は、例えば、1束以上である。
【0052】
[混練分散工程]
混練分散工程では、繊維系充填材と溶融状態の熱可塑性樹脂とを混練する。これにより繊維系充填材の繊維束が解繊しつつ熱可塑性樹脂中に分散する。
【0053】
混練分散工程は、第二の混練ゾーン23の混合分散部23a及びその下流側の抵抗部23bで施される。
【0054】
[後工程]
混練分散工程の後に、原料樹脂に含まれる揮発分や繊維系充填材の表面処理剤や収束剤の分解物や反応残渣の除去のための、オープンベント又は真空ベントを設けてもよい。樹脂の酸化及び劣化を抑制する観点から、真空ベントを設けることが好ましい。
【0055】
本実施形態に係る方法に用いられる繊維系充填材及び熱可塑性樹脂に制限はないが、これらの具体例を下記に示す。
【0056】
[繊維系充填材]
前記繊維系充填材は、例えば、複数のモノフィラメントが収束剤等により束ねられた繊維束である。収束剤等により束ねられた繊維束は、混練時の取り扱い性に優れる。繊維束を構成するモノフィラメントの数に特に制限はないが、例えば、300~3000本であってもよく、1100~2200本であってもよい。前記繊維系充填材は、例えば、ロービングのままモノフィラメントの束を連続的に二軸混練押出機に供給してもよく、ロービングをカットしたチョップドストランドの形態で二軸混練押出機に供給してもよい。繊維系充填材は、輸送及び取り扱い性の観点から、チョップドストランドが好ましい。
【0057】
繊維系充填材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維及びバサルト繊維が挙げられる。繊維系充填材は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
(ガラス繊維)
ガラス繊維の繊維束を形成するモノフィラメントの繊維径は、特に限定されないが、例えば、6~20μmの範囲のものが好ましく、6μm、10μm、13μmのものが、市場では多く流通している。
【0059】
繊維径は、例えば、繊維を繊維方向に垂直に裁断し、その断面を顕微鏡観察して直径を計測し、100本以上の繊維の直径の数平均を算出することにより求めることができる。
【0060】
(炭素繊維)
炭素繊維の種類としては、特に限定されないが、例えば、アクリロニトリルを主原料とするPAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維、タールピッチを主原料とするピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維が挙げられる。例えば、組成純度及び均一性の観点から、PAN系炭素繊維が好ましい。炭素繊維の製造方法は特に限定されない。
【0061】
炭素繊維の繊維束を形成するモノフィラメントの繊維径は、例えば、2μm超15μm以下であってもよく、3~12μmであってもよく、4~10μmであってもよい。この繊維径が2μm以下であると、繊維の剛性が低下する傾向にある。この繊維径が15μmを超えると、繊維のアスペクト比(長さ(L)と太さ(D)の比:L/D)が低下して、剛性及び耐熱性等が低下する場合がある。
【0062】
PAN系炭素繊維としては、例えば、三菱レイヨン社製商品名「パイロフィル」、東レ社製商品名「トレカ」、又は東邦テナックス社製商品名「ベスファイト」を用いることもできる。
【0063】
ピッチ系炭素繊維としては、例えば、三菱樹脂社製商品名「ダイアリード」、大阪ガスケミカル社製商品名「ドナカーボ」、又は呉羽化学社製商品名「クレカ」を用いることもできる。
【0064】
(アラミド繊維)
アラミド繊維を構成するアラミドは、メタ型アラミド、パラ型アラミド又は共重合パラ型アラミドが好ましく、パラ型アラミド又は共重合パラ型アラミドがより好ましく、共重合パラ型アラミドが更に好ましい。ここで、パラ型アラミドとは、各ベンゼン環がアミド基(CONH)を通して直線的に連結された構造を有するアラミドをいう。
【0065】
アラミド繊維の具体例は、DuPont社の商品名NOMEX、日本の帝人株式会社の商品名TEIJINCONEX、中国のYantai社の商品名METASTAR、及び中国のSRO Groupの商品名X-FIPER等のメタ型アラミド繊維、並びに帝人株式会社の商品名TWARON、DuPont社の商品名KEVLAR、Kermel社の商品名KERMEL TECH、Kolon Industries社の商品名HERACRON等を含む。
【0066】
アラミド繊維の繊維束を形成するモノフィラメントの繊維径は、得られる樹脂組成物の曲げ強度及び耐衝撃性を高める観点から、例えば、1~50μmであってもよく、3~30μmであってもよく、5~15μmであってもよい。
【0067】
(バサルト繊維)
バサルト繊維は、鉱物である玄武岩を溶解炉で溶かして紡糸し繊維化したもので、通常、玄武岩のみから構成される。バサルト繊維は、通常、酸化ケイ素(SiO)を55~65質量%と、酸化アルミニウム(Al)を15~20質量%と、酸化鉄(FeO、Fe)等とを含有する。溶融紡糸により再結晶化が進むことから、他のロックウールよりも均質な結晶構造を有する傾向にある。
【0068】
バサルト繊維の繊維束を形成するモノフィラメントの繊維径は、例えば2~15μmであってもよく、6~13μmであってもよく、9~13μmであってもよい。
【0069】
繊維系充填材は、ガラス繊維又は炭素繊維であることが好ましい。
【0070】
繊維系充填材は、分散性を向上させるために、有機シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤、ジルコネートカップリング剤、シリコーン化合物、高級脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステルなどの表面処理剤による表面処理が施されていてもよい。
【0071】
繊維系充填材を束ねるための収束剤に制限はないが、例えば、繊維系充填材が有機繊維ある場合、極性樹脂等が好ましく用いられる。
【0072】
極性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール(例えば、レゾール型)樹脂、ユリア・メラミン樹脂、ポリイミド、ウレタン樹脂、これらの共重合体、変性体などの熱硬化性樹脂;及び飽和ポリエステル、ポリアミド、アクリル系樹脂、これらの共重合体、変性体、酸変性ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0073】
[熱可塑性樹脂]
熱可塑性樹脂としては、例えばポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、各種ポリアミド(PA6、PA66、PA46、PA12、半芳香族PAなど)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、メタクリル酸メチル-スチレン(MS)樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド(PPS樹脂)、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、液晶性ポリエステル(液晶ポリマー)、熱可塑性ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂、及びこれらの混合物が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。熱可塑性樹脂は、使用目的に応じて必要とされる耐熱性、耐薬品性、成形性等の特性から適宜選択して用いることができる。
【0074】
前記熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、ABS樹脂、AS樹脂、PPS樹脂及び液晶ポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0075】
以上、本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法の一例について説明したが、この方法はこれに限定されるものではない。
【0076】
例えば、上記では、第二の混練ゾーン23が、(A)1条フライトと、当該1条フライトの下流側に2MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有する、又は(B)シリンダーとの間のクリアランスがシリンダー径の1.3%以上である2条フライトと、当該2条フライトの下流側に2MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有する態様について説明したが、この第二の混練ゾーン23は、(C)1条フライトと、前記1条フライトの下流端及び前記1条フライトの下流端からみて1D上流側の位置で1MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有するものに置き換えてもよい。この場合、(c)1条フライトと、前記1条フライトの下流端及び前記1条フライトの下流端からみて2D上流側の位置で2MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有するものであるとより好ましい。
【0077】
同様に、第二の混練ゾーン23は、(D)シリンダーとの間のクリアランスがシリンダー径の1.3%以上である2条フライトと、前記2条フライトの下流端及び前記1条フライトの下流端からみて1D上流側の位置で1MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有するものに置き換えてもよい。この場合、(d)シリンダーとの間のクリアランスがシリンダー径の1.3%以上である2条フライトと、前記2条フライトの下流端及び前記1条フライトの下流端からみて2D上流側の位置で2MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有するものであるとより好ましい。
【0078】
また、ベント口はあってもなくてもよい。
【0079】
以上説明した樹脂組成物の製造方法は、熱可塑性樹脂と繊維系充填材とを二軸混練押出機を用いて溶融混練する樹脂組成物の製造方法であって、前記二軸混練押出機は、溶融混練される材料の流れ方向からみて上流から順に、第一の供給口、第一の混練ゾーン、第二の供給口及び第二の混練ゾーンを備え、前記熱可塑性樹脂及び前記繊維系充填材は、それぞれ前記第一の供給口及び前記第二の供給口から前記二軸混練押出機に供給され、前記第一の混練ゾーンでは、前記第一の供給口から供給される前記熱可塑性樹脂の50質量%以上を溶融し、前記第二の混練ゾーンが、(A)1条フライトと、当該1条フライトの下流側に2MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有する、(B)シリンダーとの間のクリアランスがシリンダー径の1.3%以上である2条フライトと、当該2条フライトの下流側に2MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有する、(C)1条フライトと、前記1条フライトの下流端及び前記1条フライトの下流端からみて1D上流側の位置で1MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有する、又は(D)シリンダーとの間のクリアランスがシリンダー径の1.3%以上である2条フライトと、前記2条フライトの下流端及び前記1条フライトの下流端からみて1D上流側の位置で1MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有する。この方法によれば、未解繊繊維束の残存率を低減できる。
【0080】
上記の方法において、前記1条フライト又は前記2条フライトは、シリンダーとの間のクリアランスがシリンダー径の2.0%以上であってもよい。
【0081】
上記の方法において、前記第二の混練ゾーンは、(a)シリンダーとの間のクリアランスがシリンダー径の1.3%以上である1条フライトと、当該1条フライトの下流側に4MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有していてもよく、(b)シリンダーとの間のクリアランスがシリンダー径の1.3%以上である2条フライトと、当該2条フライトの下流側に4MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有していてもよく、(c)1条フライトと、前記1条フライトの下流端及び前記1条フライトの下流端からみて2D上流側の位置で2MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有していてもよく、(d)シリンダーとの間のクリアランスがシリンダー径の1.3%以上である2条フライトと、前記2条フライトの下流端及び前記1条フライトの下流端からみて2D上流側の位置で2MPa以上の圧力を生じるような抵抗部とを有していてもよい。
【0082】
上記の方法において、前記1条フライト又は前記2条フライトの長さは、3D以上であってもよい。
【0083】
[樹脂組成物]
本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法によれば、未解繊繊維束の残存率が低減された樹脂組成物を得ることができる。この方法により得られる樹脂組成物(繊維系充填材強化熱可塑性樹脂組成物)は、熱可塑性樹脂組成物の本来有する性能を保持しつつも、繊維系充填材により機械的強度が向上する。当該樹脂組成物は、射出成形、押出成形、圧縮成形、吹込成形、射出圧縮成形等の各種成形法に供することができる。中でも、射出成形での成形に好適に用いることができる。当該樹脂組成物は、例えば、機械的強度を必要とするプラスチック部品に好適に用いられる。当該樹脂組成物は、自動車部品用途、建材用途、電気製品の部品用途等に特に好適である。
【実施例0084】
以下、本発明について実施例及び比較例を用いて説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0085】
(材料)
実施例及び比較例で用いた材料を以下に示す。
【0086】
[熱可塑性樹脂]
AS樹脂:ダイセルミライズ社製 セビアン N050SF(メルトインデックス(MI)32g/10分)
PA6樹脂:ユニチカ社製 A1020BRL(メルトインデックス(MI)34g/10分)
PP樹脂:住友化学社製 ノーブレンR101(メルトインデックス(MI)20g/10分)に無水マレイン酸変性PPを1.5%加えたもの。
【0087】
[ガラス繊維束]
GF(1):日本電子硝子社製 ECS03 T-351(直径が13μmのモノフィラメントを束ねた長さ3mmのチョップドストランド)
GF(2):日本電子硝子社製 ECS03 T-249H(直径が10.5μmのモノフィラメントを束ねた長さ3mmのチョップドストランド)
GF(3):日本電子硝子社製 ECS03 T-480H(直径が10.5μmのモノフィラメントを束ねた長さ3mmのチョップドストランド)
【0088】
樹脂組成物の組成が、熱可塑性樹脂70重量%及びガラス繊維束が30重量%となるように各材料を使用した。
【0089】
(押出機の構成及び条件)
溶融混練される材料の流れ方向からみて上流から順に、第一の供給口、第一の混練ゾーン、第二の供給口及び第二の混練ゾーンを備える二軸混練押出機用いた。また、熱可塑性樹脂及び繊維系充填材は、それぞれ第一の供給口及び第二の供給口から二軸混練押出機に供給し、第一の混練ゾーンで、第一の供給口から供給される前記熱可塑性樹脂の50質量%以上を溶融させた。使用した押出機の構成及び条件を以下に示す。
押出機:同方向回転二軸混練押出機TEM-26SX(芝浦機械株式会社製)
シリンダー径:26.6mm
押出条件:シリンダー温度250℃、吐出量100kg/時間
圧力センサー:抵抗部の上流端(すなわち、フライトの下流端)、並びに抵抗部の上流端(すなわち、フライトの下流端)からみて65.0mm上流側(2.40D上流側に相当)、及び105.0mm上流側(4.00D上流側に相当)の位置に設置した。
【0090】
[スクリューセグメント]
(1)抵抗部に用いたスクリューセグメント
切り欠きセグメント:円周上に12の切り欠きを有するリングを1Dのセグメントに4対左右で交互に組み合わせたスクリューセグメント
【0091】
(2)混合分散部に用いたスクリューセグメント
2条フライトa:フライトのリード長1Dでシリンダーとのクリアランスが、シリンダー径の0.66%である2条フライト
2条フライトb:フライトのリード長1Dでシリンダーとのクリアランスが、シリンダー径の1.62%である2条フライト
2条フライトc:フライトのリード長1Dでシリンダーとのクリアランスが、シリンダー径の3.25%である2条フライト
1条フライトa:フライトのリード長1Dでシリンダーとのクリアランスが、シリンダー径の0.66%であり、フライト幅がシリンダー径の30%である1条フライト
1条フライトb:フライトのリード長1Dでシリンダーとのクリアランスが、シリンダー径の3.25%であり、フライト幅がシリンダー径の33%である1条フライト
1条フライトc:フライトのリード長1Dでシリンダーとのクリアランスが、シリンダー径の0.66%であり、フライト幅がシリンダー径の23%である1条フライト
順ニーディングディスク:1D中に7枚のディスクを30°ずつスクリューの回転方向と同じ方向にずらしながら配置されたニーディングディスク
【0092】
[実施例1~7及び比較例1~3]
AS樹脂70重量%及びGF(ECS03 T-351)30重量%を、同方向回転二軸混練押出機TEM-26SXを用いて溶融混練して、樹脂組成物を得た。二軸混練押出機の抵抗部及び混合分散部のスクリュー構成、並びにスクリュー回転数を表1に示す。また、抵抗部の上流端(すなわち、フライトの下流端)の樹脂圧力、及び抵抗部の上流端(すなわち、フライトの下流端)からみて65.0mm上流側(2.40D上流側に相当)、及び105.0mm上流側(4.00D上流側に相当)の位置の樹脂圧力を表2に示す。
【0093】
(樹脂組成物の評価)
得られた樹脂組成物は、下記の手順で評価した。
【0094】
得られた熱可塑性樹脂組成物は120℃で4時間乾燥した後、射出成型機 芝浦機械製 IS80EPN-2Aで、シリンダー温度240℃、金型温度60℃で、試験片を成形した。
【0095】
〔未解繊繊維の数〕
試験片30本を目視で観察し、未解繊繊維の数を数えた。
【0096】
〔曲げ弾性率〕
A&D社製テンシロン万能試験機RTC-1310Aを用いて、試験片の曲げ弾性率を測定した。
【0097】
試験片の未解繊繊維の数、及び曲げ弾性率を表2に示す。
【表1】
【0098】
表中、「切欠き:2D」との記載は、切り欠きセグメントを、2Dの長さとしたことを示す。「2条フライトa:4D」等の類似の記載も同様である。
【0099】
【表2】
【0100】
実施例3について、抵抗部の上流端(すなわち、混合分散部の下流端)の樹脂圧力、及び抵抗部の上流端(すなわち、混合分散部の下流端)からみて65.0mm上流側(2.40D上流側に相当)、及び105.0mm上流側(4.00D上流側に相当)の位置の樹脂圧力を図5に示す。図5からも明らかなとおり、実施例3は、抵抗部の上流端の圧力が最も高く、下流に向かって圧力は低く、混合分散部は下流端(抵抗部の上流端)から上流側に向かって圧力が低くなるスクリューセグメントの構成である領域を有する。
【0101】
[実施例8~10]
PA6樹脂70重量%及びGF(ECS03 T-249H)30重量%を、同方向回転二軸混練押出機TEM-26SXを用いて溶融混練して、樹脂組成物を得た。二軸混練押出機の抵抗部及び混合分散部のスクリュー構成、並びにスクリュー回転数を表3に示す。また、抵抗部の上流端(すなわち、フライトの下流端)の樹脂圧力、及び抵抗部の上流端(すなわち、フライトの下流端)からみて65.0mm上流側(2.40D上流側に相当)、及び105.0mm上流側(4.00D上流側に相当)の位置の樹脂圧力を表4に示す。
【0102】
(樹脂組成物の評価)
得られた樹脂組成物は、下記の手順で評価した。
【0103】
得られた熱可塑性樹脂組成物は80℃で24時間真空乾燥した後、射出成型機 芝浦機械製 IS80EPN-2Aで、シリンダー温度240℃、金型温度60℃で、試験片を成形した。
【0104】
〔未解繊繊維の数〕
試験片30本を目視で観察し、未解繊繊維の数を数えた。
【0105】
〔曲げ弾性率〕
A&D社製テンシロン万能試験機RTC-1310Aを用いて、試験片の曲げ弾性率を測定した。
【0106】
試験片の未解繊繊維の数、及び曲げ弾性率を表4に示す。
【0107】
【表3】
【0108】
【表4】
【0109】
[実施例11~13及び比較例4]
PP樹脂70重量%、GF(ECS03 T-480H)30重量%を、同方向回転二軸混練押出機TEM-26SXを用いて溶融混練して、樹脂組成物を得た。二軸混練押出機の抵抗部及び混合分散部のスクリュー構成、並びにスクリュー回転数を表5に示す。また、また、抵抗部の上流端(すなわち、フライトの下流端)の樹脂圧力、及び抵抗部の上流端(すなわち、フライトの下流端)からみて65.0mm上流側(2.40D上流側に相当)、及び105.0mm上流側(4.00D上流側に相当)の位置の樹脂圧力を表6に示す。
【0110】
(樹脂組成物の評価)
得られた樹脂組成物は、下記の手順で評価した。
【0111】
得られた熱可塑性樹脂組成物は120℃で4時間乾燥した後、射出成型機 芝浦機械製 IS80EPN-2Aで、シリンダー温度240℃、金型温度60℃で、試験片を成形した。
【0112】
〔未解繊繊維の数〕
試験片30本を目視で観察し、未解繊繊維の数を数えた。
【0113】
〔曲げ弾性率〕
A&D社製テンシロン万能試験機RTC-1310Aを用いて、試験片の曲げ弾性率を測定した。
【0114】
試験片の未解繊繊維の数、及び曲げ弾性率を表6に示す。
【0115】
【表5】
【0116】
【表6】
【0117】
実施例に係る方法は、比較例に係る方法と比較し、未解繊繊維束の残存率を低減できることがわかる。すなわち、実施例に係る方法によれば、未解繊繊維束の残存率の低い樹脂組成物を製造できることがわかる。
【符号の説明】
【0118】
1a,1b…供給口、5…ベント口、10…切り欠きセグメント、20…供給ゾーン、21…第一の混練ゾーン、22,24…搬送ゾーン、23…第二の混練ゾーン、23b…抵抗部、23a…混合分散部。
図1
図2
図3
図4
図5