(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162580
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】物理量検出用変換器
(51)【国際特許分類】
G01L 1/22 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
G01L1/22 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078228
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000142067
【氏名又は名称】株式会社共和電業
(74)【代理人】
【識別番号】100082636
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 修治
(72)【発明者】
【氏名】森 祐真
(72)【発明者】
【氏名】高部 真彰
(72)【発明者】
【氏名】金丸 始
【テーマコード(参考)】
2F049
【Fターム(参考)】
2F049BA13
2F049CA04
(57)【要約】
【課題】 起歪部へのひずみゲージの添着作業の容易化、確実化を図ると共に、必要な剛性を維持しつつ、高感度且つ高精度の物理量検出用変換器の実現を図る。
【解決手段】 この物理量検出用変換器1は、円柱状を呈する剛性大なる負荷導入部2と、この負荷導入部2との間に一定の間隔を存して囲繞する負荷支持部3と、この負荷導入部2および負荷支持部3に、その内端および外端がそれぞれ一体に連接された起歪部5とをもって基本的構成が形成されている。
負荷が印加される面側に、第1および第2の円弧状環状溝5aおよび5bが所定の関係の板厚をもって形成される。負荷が印加される面の反対側の2つの円弧状環状溝5a、5bの対応位置に添着されたひずみゲージをもって形成されるブリッジ回路から、物理量に対応した高感度且つ高精度の出力を得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状を呈し軸中心が負荷軸と一致するように形成された剛性大なる負荷導入部と、
所定の間隔を存して前記負荷導入部の周囲を囲繞するように形成された短円筒状を呈する剛性大なる負荷支持部と、
前記負荷導入部から放射方向に伸び、その内端が前記負荷導入部に一体に連接され、その外端が前記負荷支持部の一端に一体に連接され、前記負荷支持部の他端が開口され前記負荷支持部が支持された状態で前記負荷導入部に負荷軸に沿う方向に負荷が作用されたとき弾性変形するダイヤフラム状を呈する起歪部からなり、
前記起歪部に添着されたひずみゲージによって起歪部に加わる負荷の大きさを検出する物理量検出用変換器であって、
前記起歪部に生じる半径方向のひずみが最大となる位置および最小となる位置の近傍に第1および第2の円弧状環状溝を前記起歪部の外面側に形成し、
前記第1および前記第2の円弧状環状溝に対応させて前記起歪部の内面側に第1および第2のひずみゲージを複数添着し、前記第1および前記第2のひずみゲージをホイートストンブリッジ回路の互いに隣接する辺にそれぞれ回路接続し、
前記第1および前記第2の円弧状環状溝の板厚を、所定の関係をもって設定することにより、大きな変形による非直線性を前記ホイートストンブリッジ回路により相殺し得るように構成したことを特徴とする物理量検出用変換器。
【請求項2】
前記負荷支持部の前記開口の内径Dの大きさを、
19mm≦D<30mm・・・(1)
前記第1および前記第2の円弧状環状溝の谷底の前記負荷軸を中心とした直径の大きさをL1およびL2としたとき、
0.3D≦L1≦0.5D・・・(2)
0.5D≦L2≦0.8D・・・(3)
上記(1)~(3)式を満足するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の物理量検出用変換器。
【請求項3】
前記負荷支持部の前記開口の内径Dの大きさを、
19mm≦D<30mm・・・(1)
前記第1および前記第2の円弧状環状溝が形成された部位の前記起歪部の板厚をそれぞれt1およびt2とし、前記起歪部5の板厚をt3としたとき、
0.5mm≦t1≦2.0mm・・・(4)
0.5mm≦t2≦2.0mm・・・(5)
1.5mm<t3<2.9mm・・・(6)
上記(1)、(4)および(6)式を満足するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の物理量検出用変換器。
【請求項4】
前記第1および前記第2の円弧状環状溝が形成された部位の前記起歪部の板厚t1およびt2を、
t1<t2 ・・・(7)
なる関係に設定することにより、
高感度化と非直線性の良好化を実現し得るように構成したことを特徴とする請求項3に記載の物理量検出用変換器。
【請求項5】
請求項1に記載の物理量検出用変換器の設計手法であって、前記起歪部と、該起歪部の内端に連接された剛性大なる負荷導入部と、前記起歪部の外端に連接された剛性大なる前記負荷支持部とからなる有限要素法で要素分割したモデルを設け、前記モデルに負荷を印加して、応力解析を行い、前記起歪部に生じる半径方向ひずみが最大および最小になる位置を求め、該位置を前記起歪部の外面側に形成する前記第1および前記第2の円弧状環状溝の谷底としていることを特徴とする物理量検出用変換器の設計手法。
【請求項6】
前記負荷導入部を荷重導入部とし、前記負荷支持部側に蓋体を付加して荷重支持部とした荷重変換器として使用し得るように構成したことを特徴とする請求項1~4のうちのいずれか1項に記載の物理量検出用変換器。
【請求項7】
前記負荷導入部に受圧ダイヤフラムの中心部を連結し、前記受圧ダイヤフラムの周辺部を前記負荷支持部に気密に連接し、圧力変換器として使用し得るように構成したことを特徴とする請求項1~4のうちのいずれか1項に記載の物理量検出用変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理量検出用変換器に関し、より詳しくは、荷重変換器、圧力変換器等に適用し、その特性を改善し得る物理量検出用変換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の物理量検出用変換器は、基本的に、柱状を呈し軸中心が負荷軸と一致するように形成された剛性大なる負荷導入部と、
所定の間隔を存して前記負荷導入部の周囲を囲繞するように形成された短円筒状を呈する剛性大なる負荷支持部と、
前記負荷導入部から放射方向に伸び、その内端が前記負荷導入部に一体に連接され、その外端が前記負荷支持部の一端に一体に連接され、前記負荷支持部の他端が開口され前記負荷支持部が支持された状態で前記負荷導入部に負荷軸に沿う方向に負荷が作用されたとき弾性変形するダイヤフラム状を呈する起歪部からなり、
前記起歪部に添着されたひずみゲージによって起歪部に加わる負荷の大きさを検出するように構成されている。
【0003】
このように構成された物理量検出用変換器(以下、単に「変換器」という場合がある)は、ダイヤフラム型の変換器と称されているがダイヤフラム即ち、起歪部の形状としては、例えば、特許文献1(特開2004-347381号公報)および特許文献2(特開平11-211589号公報)にそれぞれ示されたものがある。
例えば、特許文献1の
図2、
図3に示される変換器は、負荷導入部への負荷が印加される側とは反対側の起歪部の下面に断面逆V字状を呈する周回溝を形成し、前記逆V字状の周回溝の斜面にひずみゲージを添着した構成とされている。このように構成された特許文献1の変換器においては、負荷導入部と起歪部との連接部に集中する応力が緩和され、小型で高感度変換器が実現できるとされている。
【0004】
また、特許文献2に示される変換器は、負荷導入部への負荷が印加される側の起歪部の面(上面)に断面V字状を呈する周回溝を、起歪部に生じる半径方向応力が零になる位置に形成し、前記V字状周回溝が形成された反対側(下面側)の面にひずみゲージを添着した構成とされている。
そして、このように構成することで、荷重導入部に偏心荷重が作用した場合でも、誤差がキャンセルされるため直線性やヒステリシスの負荷特性の良好な変換器が得られ、低容量から大容量まで精度の高い耐圧防爆構造型ロードセルが製造できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-347381号公報
【特許文献2】特開平11-211589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の変換器は、起歪部の内面側(下面側)に形成された逆V字状周回溝のV字面にひずみケージを添着する作業であるため、ひずみゲージ貼り作業に高度の熟練技術を要し、ゲージ接着のズレが発生し易く、作業性の観点から接着剤も粒度の高い接着剤を用いる必要がある、という難点があり、さらには、形状が複雑で加工難易度が高く、特に低容量(200N以下)のものは、加工が困難であり、加工可能な業者が限られる、等の課題もある。
【0007】
また、特許文献2の変換器は、V字溝が、負荷導入部への負荷が印加される側の起歪部の上面に形成される点で加工が容易であり且つひずみゲージを、V字状周回溝が形成された面とは反対側の平面部に添着するので、ひずみゲージ貼り作業の困難性は緩和されるものの、V字状周回溝の谷底ではなく、谷底からずれた斜面の両側の対応する部位、即ち、起歪部の厚さが連続して変化する部位に添着するものであるため、特に、半径方向のひずみゲージの添着位置のずれによる出力特性への影響が大きく現れ、精度のバラツキが懸念されるものと推測される。
従って、特許文献1および特許文献2においては、非直線性の改善や高感度化について解決すべき課題が残されている。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、第1に、起歪部へのひずみゲージの添着を、容易且つ正確に行い得ること、
第2には、必要な剛性を有し且つ良好な直線性を実現し得ること、
第3に、起歪部上へのひずみゲージの添着位置および円弧状環状溝の厚さ寸法の設定を、試行錯誤的なものから、効率的に且つ正確な設定を実現し得る物理量検出用変換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、上記の第1~第3の目的を達成するために、請求項1に記載の物理量検出用変換器は、
柱状を呈し軸中心が負荷軸と一致するように形成された剛性大なる負荷導入部と、
所定の間隔を存して前記負荷導入部の周囲を囲繞するように形成された短円筒状を呈する剛性大なる負荷支持部と、
前記負荷導入部から放射方向に伸び、その内端が前記負荷導入部に一体に連接され、その外端が前記負荷支持部の一端に一体に連接され、前記負荷支持部の他端が開口され前記負荷支持部が支持された状態で前記負荷導入部に負荷軸に沿う方向に負荷が作用されたとき弾性変形するダイヤフラム状を呈する起歪部からなり、
前記起歪部に添着されたひずみゲージによって起歪部に加わる負荷の大きさを検出する物理量検出用変換器であって、
前記起歪部に生じる半径方向のひずみが最大となる位置および最小となる位置の近傍に第1および第2の円弧状環状溝を前記起歪部の外面側に形成し、
前記第1および前記第2の円弧状環状溝に対応させて前記起歪部の内面側に第1および第2のひずみゲージを複数添着し、前記第1および前記第2のひずみゲージをホイートストンブリッジ回路の互いに隣接する辺にそれぞれ回路接続し、
前記第1および前記第2の円弧状環状溝の板厚を、所定の関係をもって設定することにより、大きな変形による非直線性を前記ホイートストンブリッジ回路により相殺し得るように構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、
柱状を呈し軸中心が負荷軸と一致するように形成された剛性大なる負荷導入部と、
所定の間隔を存して前記負荷導入部の周囲を囲繞するように形成された短円筒状を呈する剛性大なる負荷支持部と、
前記負荷導入部から放射方向に伸び、その内端が前記負荷導入部に一体に連接され、その外端が前記負荷支持部の一端に一体に連接され、前記負荷支持部の他端が開口され前記負荷支持部が支持された状態で前記負荷導入部に負荷軸に沿う方向に負荷が作用されたとき弾性変形するダイヤフラム状を呈する起歪部からなり、
前記起歪部に添着されたひずみゲージによって起歪部に加わる負荷の大きさを検出する物理量検出用変換器であって、
前記起歪部に生じる半径方向のひずみが最大となる位置および最小となる位置の近傍に第1および第2の円弧状環状溝を前記起歪部の外面側に形成し、
前記第1および前記第2の円弧状環状溝に対応させて前記起歪部の内面側に第1および第2のひずみゲージを複数添着し、前記第1および前記第2のひずみゲージをホイートストンブリッジ回路の互いに隣接する辺にそれぞれ回路接続し、
前記第1および前記第2の円弧状環状溝の板厚を、所定の関係をもって設定することにより、大きな変形による非直線性を前記ホイートストンブリッジ回路により相殺し得るように構成したことにより、
第1には、ひずみゲージを起歪部に添着する作業が容易且つ正確に行うことができ、
第2には、必要な剛性を有し高感度且つ直線性に優れた高精度の物理量検出用変換器を提供することができ、
第3に、起歪部上へのひずみゲージの添着位置および円弧状環状溝の厚さ寸法の設定を正確に且つ迅速効率的に行い得る物理量検出用変換器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る物理量検出用変換器の断面構成を示す縦断面図である。
【
図2】
図1に示す物理量検出用変換器の構成を
図1のX-X線矢視方向から見た断面図である。
【
図3】本発明の第1の実施の形態に係る物理量検出用変換器の外観構成を示す正面図である。
【
図4】本発明の第1の実施の形態に係る物理量検出用変換器の外観構成を示す平面図である。
【
図5】本発明の第1の実施の形態に係る物理量検出用変換器の起歪部上における第1および第2の円弧状環状溝の半径方向位置と該溝部の板厚の関係を示す部分図であり、
図6のY-Y線矢視方向から見た部分断面図である。
【
図6】本発明の第1の実施の形態に係る物理量検出用変換器の起歪部におけるひずみゲージの添着状態を示す説明図である。
【
図7】
図6に示す起歪部上に添着された複数のひずみゲージをもってホイートストンブリッジ回路を構成した回路図である。
【
図8】本発明の第1の実施の形態に係る第1の実施例の物理量検出用変換器における第2の円弧状環状溝の板厚を実現させた場合のひずみと非直線性の関係を示す特性図である。
【
図9】本発明の第1の実施の形態に係る第2の実施例の物理量検出用変換器における第2の円弧状環状溝の板厚を実現させた場合のひずみと非直線性の関係を示す特性図である。
【
図10】本発明の第1の実施の形態に係る第3の実施例の物理量検出用変換器における第2の円弧状環状溝の板厚を実現させた場合のひずみと非直線性の関係を示す特性図である。
【
図11】本発明の第1の実施の形態に係る第4の実施例の物理量検出用変換器における第2の円弧状環状溝の板厚を実現させた場合のひずみと非直線性の関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施の形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、実施の形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが、発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0013】
〔第1の実施の形態〕
次に、本発明に係る物理量検出用変換器の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る物理量検出用変換器の断面構成を示す縦断面図、
図2は、
図1のX-X線矢視方向より見た断面図、
図3は、本発明の第1の実施の形態に係る物理量検出用変換器の外観構成を示す正面図、
図4は、本発明の第1の実施の形態に係る物理量検出用変換器の外観構成を示す平面図である。
図1~
図4において、1は、物理量検出用変換器であり、材質としては、この場合、ステンレス銅(例えば、SUS630)を用いて形成されている。この物理量検出用変換器は、全体的に円柱状を呈し、軸中心が負荷軸4と一致するように形成された剛性大なる負荷導入部2と、この負荷導入部2との間に、所定の間隔を存して、その負荷導入部2の周囲を囲繞するように形成された負荷支持部3と、負荷導入部2から放射方向に伸び、その内端が負荷導入部2に一体に連接され、その外端が負荷支持部3に一体に連接され、負荷支持部3が支持された状態で、負荷導入部2に負荷軸4に沿う方向に負荷が作用されたとき、弾性変形するダイヤフラム状を呈する起歪部5とからなっている。
【0014】
特に、負荷導入部2の負荷が印加される側(
図1~
図3において上面側)の起歪部5には、2つの断面円弧状を呈する2つの凹溝が形成されており、負荷導入部2に負荷軸4に沿う方向に負荷が印加されたとき、起歪部5に生じる半径方向のひずみが最大になる第1の位置(直径L1の位置:
図5参照)に第1の円弧状環状溝5aが形成され、半径方向のひずみが最小となる第2の位置(直径L2の位置:
図5参照)に、第2の円弧状環状溝5bが形成されている。
この第1および第2の円弧状環状溝5aおよび5bは、所定厚の起歪部5の上面側から、直径L1の位置および直径L2の位置において、所定の深さの円弧状環状溝(この場合、半円球状座繰り穴)が削成される。
また、起歪部5の負荷が印加される面側とは反対側の平面部に、例えば、
図2、
図5、
図6に示すように、検知素子としてのひずみゲージが、接着、蒸着、スパッタリング、融着、その他の手段により添着されている。
【0015】
尚、ここでは、検知素子として箔または線状のひずみゲージを一例として説明するが、これに限らず、スパッタゲージ、光ファィバピエゾ抵抗効果により抵抗値が変化する素子等、起歪部5のひずみを検知し、印加される負荷の大きさに対応した信号を出力するものであれば、すべて適応可能である。
図1~
図3に示すように、物理量検出用変換器1の負荷支持部3の内面側には、所定の直径を有する空洞部6が穿設されており、その下端近傍には、雌ねじ3bが形成されている。この負荷支持部3の内面に形成された雌ねじ3bに、下端側から台座7の雄ねじ7aがねじ込まれることにより、負荷支持部3と台座7が一体化され、溶接をすることにより、空洞部6は、外気と遮断され密封化される。
【0016】
ただし、
図1に示すように、負荷支持部3の側壁部に、電気ケーブルの挿通孔3aが穿設されているが、この電気ケーブル挿通孔3aには、図示は省略するが、金属製スリーブが嵌装され且つその周囲が、例えばTIG溶接により封着されるものとする。
この金属製スリーブの内部には、気密端子を有する雄レセプタクルが嵌装され、且つ両者の接合部にはOリングが介挿され封止されるものとする。
このような構成となっていることから、空洞部6は、外気と遮断され、例えば、後述するひずみゲージや内部の回路部品は、気密に保持され外部の湿気から確実に遮断され酸化の促進が抑制されることになる。
さらに、負荷支持部3の下端と、台座7の上端が接合された部分の外周を、溶接またはろう付けなどの手段によって封着されさらに気密状態が維持されるように構成されている。
【0017】
次に、
図2、
図5~
図7を参照して起歪部5に添着されたひずみゲージによって起歪部5に加わる負荷の大きさを検出する物理量検出用変換器について、説明する。
先ず、
図5において、起歪部5に生じる半径方向のひずみが、最大になる位置a点および最小となる位置b点を通る、負荷軸4を中心とした2つの直径L1およびL2からなる第1および第2の円弧状環状溝5aおよび5bを起歪部5の負荷が印加される側(外面側)に削成する。
上記第1および第2の円弧状環状溝5aおよび5bに対応させて、起歪部5の内側面(下側面)に第1のひずみゲージ(G1、G3、G5、G7)および第2のひずみゲージ(G2、G4、G6、G8)をそれぞれ
図6に示すように、複数添着し、第1のひずみゲージ(G1、G3、G5、G7)および第2のひずみゲージ(G2、G4、G6、G8)を
図7に示すように、ホイートストンブリッジ回路の互いに隣接する対向辺にそれぞれ回路接続してなるものである。
【0018】
即ち、第1のひずみゲージG1、G3、G5、G7は、負荷軸4を中心とした内側の直径L1からなる同心円上に90°間隔で受感軸を放射方向に向けて第1の円弧状環状溝(以下、「内側溝」と称する場合がある)5aに添着されている。
他方、第2のひずみゲージG2、G4、G6、G8は、負荷軸4を中心とした、外側の直径L2からなる同心円上に90°間隔で受感軸を放射方向に向けて第2の円弧状環状溝5b(以下、「外側溝」と称する場合がある)に添着されている。
このようにして、起歪部5上に添着された第1のひずみゲージG1、G3、G5、G7は、
図7に示すホイートストンブリッジ回路の一辺と、その対辺にそれぞれ接続され、第2のひずみゲージG2、G4、G6、G8は、ホイートストンブリッジ回路の互いに隣接する辺にそれぞれ回路接続される。
【0019】
図7に示すホイートストンブリッジ回路は、入力端A-B間に、所定の電圧eiのブリッジ電圧を印加した状態で負荷軸4に沿って測定すべき物理量(例えば、荷重)が負荷されたとき、その負荷に応じて第1および第2のひずみゲージがそれぞれ抵抗値を変化し、出力端から物理量に応じた電圧eoとして検出するものである。
上記ホイートストンブリッジ回路からの信号線や電源供給線等(図示省略)は、上記電気ケーブル挿通孔3aから導出されるが、上述したように、電気ケーブル挿通孔3aは、図示しない金属製スリーブが嵌装され且つ封着される。
【0020】
上記のように構成された第1の実施の形態の物理量検出用変換器の動作(作用)について説明する。
物理量検出用変換器1の負荷支持部3と一体化された台座7側が不動部に固定され、負荷導入部2に負荷軸4に沿う方向、この場合、図中、下方向に圧縮力が作用したとすると、負荷は、負荷導入部2から起歪部5を介して負荷支持部3へと伝達されるが、負荷支持部3は、台座7を介して不動部に支持されているから、可撓性を有する起歪部5にて、その負荷を受けて、その負荷に対応したひずみ(変形)を生じる。このひずみは、起歪部5の負荷導入部2に近い第1の円弧状溝5aの対向面に添着されたひずみゲージG1、G3、G5、G7の部位においては最大となる。
また、このひずみは、起歪部5の負荷導入部2から離れた第2の円弧状環状溝5bの対向面に添着されたひずみゲージG2、G4、G6、G8の部位おいては、最小となる。
【0021】
これらのひずみゲージG1~G8は、
図7に示すように結線されて、ホイートストンブリッジ回路(以下、「ブリッジ回路」と略称する)が形成され、入力端子A、Bを介して接続点a、b間に所定電圧(通常は、2V)のブリッジ電圧eiが印加されると、接続点c、d間からはひずみ量に応じた出力電圧eoが検出される。
荷重変換器のようなダイヤフラムを有した変換器に荷重を負荷したとき、板厚に対して変位量が大きい場合、大たわみ理論で定義されているように、荷重とひずみの相関が直線的にならない、即ち、相関関係が非直線となる。
起歪部5のひずみが最大となる第1の円弧状環状溝5aの対向面(直下)に添着されたひずみゲージG1、G3、G5、G7と、ひずみが最小となる第2の円弧状環状溝5bの対向面(直下)に添着されたひずみゲージG2、G4、G6、G8でブリッジ回路を形成することで、大容量の変換器においては、対辺同士のひずみゲージの非直線性は、比較的相殺する関係を生じるが、中容量(ここでは、「500N~2KNの変換器」を指すこととする)においては、第1の円弧状環状溝5aと第2の円弧状環状溝5bに添着されたひずみゲージの非直線量が異なることから、相殺しきれない分の非直線性が発生する。
【0022】
そこで、本発明者らは、この問題を解決するべく、鋭意探求し、ひずみの非直線量が起歪部の板厚と相関があることに着目し、第1の円弧状環状溝と第2の円弧状環状溝の板厚を変化させることにより、上記両方の環状溝に添着されたひずみゲージの非直線の量と同程度に抑制し、ブリッジ回路上で非直線量を相殺させることにより、発生する非直線性を的確に低減させることを実現した。
【0023】
以下、
図5を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る物理量検出用変換器における実施例について説明する。
図5において、本実施例に係る物理量検出用変換器は、500N~2KNの中容量の範疇に属するもので、負荷支持部3の空洞部6の内径Dが、例えば、下記(1)式に
19mm ≦ D < 30mm …… (1)
に該当するものを対象とする。
そして、負荷軸4を中心とする、第1および第2の円弧状環状溝5aおよび5bの中心を通る円の直径を、それぞれL1およびL2としたとき、下記(2)、(3)式を満足するものとする。
【0024】
0.3D ≦ L1 ≦ 0.5D …… (2)
0.5D ≦ L2 ≦ 0.8D …… (3)
さらに、第1および第2の円弧状環状溝5aおよび5bが形成された部位の起歪部5の板厚を、それぞれt1およびt2とし、上記環状溝5aおよび5bが形成されていない起歪部5の厚さをt3としたとき、
下記(4)式、(5)式、(6)式を満足するものとする。
【0025】
0.5mm ≦ t1 ≦ 2.0mm …… (4)
0.5mm ≦ t2 ≦ 2.0mm …… (5)
1.5mm < t3 < 2.9mm …… (6)。
【0026】
[第1の実施例]
そこで、条件式(1)~(6)を満足する下記の数値の第1の実施例について説明する。
(1) 容量 : 500N
(2) D= 19 mm
(3) L1= 9.4mm
(4) L2= 14.8mm
(5) t1= 0.5mm
(6) t2= 可変(求める値)
(7) t3= 1.6mm
上記(1)~(5)および(7)の条件をもとに、FEM(有限要素法)解析によって、第1の円弧状環状溝5aの板厚(
図8における内側板厚)t1を0.5mmに設定し、第2の円弧状環状溝5bの板厚(
図8における外側板厚)t2を変化させた場合のひずみ(ブリッジ回路形成後の等価ひずみ)と非直線性の関係につき、
図8に示す特性図の通りの結果を得た。
【0027】
図8に示す特性図から分かるように、t2=0.5mmのとき、最大ひずみとして3800×10
-6ひずみ(ブリッジ回路形成後の等価ひずみ)が得られるが、そのときの非直線性は、0.05%RO程度にとどまる。
しかしながら、第2の円弧状環状溝の板厚t2を0.6に設定した場合、ひずみ出力は3500×10
-6ひずみと若干減少するが、高感度(分解能が高い)といえるものであり、且つ非直線性0.0%ROと極めて高性能な物理量検出用変換器を得ることができた。
【0028】
〔第2の実施例〕
上記第1の実施例の条件のうち、上記第1の円弧状環状溝5aの板厚t1のみをt1=0.7mmと、若干厚肉に設定した実施例につき、FEM(有限要素法)解析した結果、
図9に示すようなひずみと非直線性の関係に係る特性図を得た。
図9の特性図にて分かるように、この第2の実施例の場合、最大ひずみが、2800×10
-6ひずみと大幅に低下すると共に、そのときの非直線性についても0.12%ROと実施例1のものより低下するが、板厚t2を0.9mmにすると、ひずみが2200×10
-6ひずみ程度となり、非直線性が0.01%ROとなり、高感度(高ひずみ)且つ高精度(非直線性)な物理量検出用変換器を得ることができる。
このように、第1の円弧状環状溝5aの板厚t1を厚くして、起歪部5の板厚t3との差が近くなるようにした場合、高い剛性が要求される場合の選択肢となり得る。
【0029】
[第3の実施例]
第3の実施例においては、容量が2KNの場合の物理量検出用変換器について説明する。
(1) 容量 : 2KN
(2) D= 19 mm
(3) L1= 9.4mm
(4) L2= 14.8mm
(5) t1= 1.6mm
(6) t2= 可変(求める値)
(7) t3= 2.8mm
上記(1)~(5)および(7)の条件をもとに、FEM(有限要素法)解析した結果、第1の円弧状環状溝5aの板厚t1を1.6mmに設定し、第2の円弧状環状溝5bの板厚t2を変化させた場合のひずみ(ブリッジ回路形成後の等価ひずみ)と非直線性の関係につき、
図10に示す特性図のような結果を得ることができた。
【0030】
図10の特性図から分かるように、容量が、2KNの場合、容量が500Nの場合に比べて、第2の円弧状環状溝5aの部分の板厚t2の変化によるひずみと非直線性の変化の割合が小さくなる傾向が見られることから、非直線性の改善を実現し易いものといえる。
この第3の実施例においては、一つの目安としては、t1が1.6mmの場合、板厚t2は、1.8mmに設定するのが好適といえる。
【0031】
[第4の実施例]
上記第3の実施例の条件のうち、第1の円弧状環状5aの板厚t1のみを2.0mmと、若干板厚に設定した例につき、FEM(有限要素法)解析した結果、
図11に示すような、ひずみ(ブリッジ回路形成後の等価ひずみ)と非直線性の関係の特性図を得た。
図11の特性図から分かるように、この第4の実施例の場合、第3の実施例に比べて、第2の円弧状環状溝5bの板厚t2の変化に対するひずみおよび非直線性の変化が少なくなって選択の幅が広いといえるが、例えば、板厚t2として、2.0mmに設定した場合には、実用上問題ない、1700×10-6ひずみの等価ひずみ量が得られ、しかも非直線性が0.0%ROと、高精度な物理量検出用変換器が得られる。
【0032】
次に、本発明の他の実施の形態に係る物理量検出用変換器の設計手法について言及する。
この実施の形態に係る物理量検出用変換器の設計手法は、起歪部5と、前記起歪部5の内端に連接された剛性大なる負荷導入部2と、前記起歪部5の外端に連接された剛性大なる負荷支持部3とからなる有限要素法で要素分割したモデルを設け、前記モデルに負荷を印加して、応力解析を行い、前記起歪部に生じる半径方向のひずみが最大になる位置および最小となる位置を求め、該位置を前記起歪部の外面側に形成する前記第1および第2の円弧状環状溝5aおよび5bの谷底としている。
そして、有限要素法によって、上述した第1~第4の実施例における実際の数値をモデルに与え、第1および第2の円弧状環状溝5aおよび5bの一方の板厚t1またはt2を与え、他方の板厚に関連するような、
図8~
図11に示すような特性図が求められる。
【0033】
以上、説明した本発明に係る物理量検出用変換器について、その要旨とするところを整理すると、以下の通りである。
先ず、本発明係る物理量検出用変換器1は、
柱状を呈し軸中心が負荷軸4と一致するように形成された剛性大なる負荷導入部2と、
所定の間隔を存して前記負荷導入部2の周囲を囲繞するように形成された短円筒状を呈する剛性大なる負荷支持部3と、
前記負荷導入部2から放射方向に伸び、その内端が前記負荷導入部2に一体に連接され、その外端が前記負荷支持部3の一端に一体に連接され、前記負荷支持部3の他端が開口され前記負荷支持部3が支持された状態で前記負荷導入部2に負荷軸4に沿う方向に負荷が作用されたとき弾性変形するダイヤフラム状を呈する起歪部5からなり、
前記起歪部5に添着されたひずみゲージG1、G2…によって起歪部5に加わる負荷の大きさを検出する物理量検出用変換器であって、
前記起歪部5に生じる半径方向のひずみが最大となる位置aおよび最小となる位置bの近傍に第1および第2の円弧状環状溝5a、5bを前記起歪部5の外面側に形成し、
前記第1および前記第2の円弧状環状溝5a、5bに対応させて前記起歪部5の内面側に第1および第2のひずみゲージG1、G2…を複数添着し、前記第1および前記第2のひずみゲージG1、G2…をホイートストンブリッジ回路の互いに隣接する辺にそれぞれ回路接続し、
前記第1および前記第2の円弧状環状溝5a、5bの板厚を、所定の関係をもって設定することにより、大きな変形による非直線性を前記ホイートストンブリッジ回路により相殺し得るように構成したことを特徴としている(請求項1に対応する)。
【0034】
また、本発明の物理量検出用変換器において、
前記負荷支持部3の前記開口6の内径Dの大きさを、
19mm≦D<30mm・・・(1)
前記第1および前記第2の円弧状環状溝5a、5bの前記負荷軸4を中心とした谷底を通る前記負荷軸を中心とした直径の大きさをL1およびL2としたとき、
0.3D≦L1≦0.5D・・・(2)
0.5D≦L2≦0.8D・・・(3)
上記(1)~(3)式を満足するように構成したことを特徴としている(請求項2に対応する)。
【0035】
また、本発明の物理量検出用変換器において、
前記負荷支持部3の前記開口の内径Dの大きさを、
19mm≦D<30mm・・・(1)
前記第1および前記第2の円弧状環状溝5a、5bが形成された部位の前記起歪部5の板厚をそれぞれt1およびt2とし、前記起歪部5の板厚をt3としたとき、
0.5mm≦t1≦2.0mm・・・(4)
0.5mm≦t2≦2.0mm・・・(5)
1.5mm<t3<2.9mm・・・(6)
上記(1)、(4)~(6)式を満足するように構成したことを特徴としている(請求項3に対応する)。
【0036】
また、本発明の物理量検出用変換器において、前記第1および前記第2の円弧状環状溝5a、5bが形成された部位の前記起歪部5の板厚t1およびt2を、
t1<t2 ・・・(7)
なる関係に設定することにより、
高感度化と非直線性の良好化を実現し得るように構成したことを特徴としている(請求項4に対応する)。
【0037】
本発明の物理量検出用変換器において、物理量検出用変換器の設計手法であって、前記起歪部5と、該起歪部5の内端に連接された剛性大なる負荷導入部2と、前記起歪部5の外端に連接された剛性大なる前記負荷支持部3とからなる有限要素法で要素分割したモデルを設け、前記モデルに負荷を印加して、応力解析を行い、前記起歪部5に生じる半径方向ひずみが最大および最小になる位置を求め、該位置を前記起歪部5の外面側に形成する前記第1および前記第2の円弧状環状溝の谷底としていることを特徴としている(請求項5に対応する)。
【0038】
本発明の物理量検出用変換器において、前記負荷導入部2を荷重導入部とし、前記負荷支持部3側に蓋体を付加して荷重支持部とした荷重変換器として使用し得るように構成したことを特徴としている(請求項6に対応する)。
本発明の物理量検出用変換器において、前記負荷導入部2に受圧ダイヤフラムの中心部を連結し、前記受圧ダイヤフラムの周辺部を前記負荷支持部3に気密に連接し、圧力変換器として使用し得るように構成したことを特徴としている(請求項7に対応する)。
尚、本発明は、上述し且つ図示した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変形が可能である。
【0039】
先ず、本発明に係る物理量検出用変換器として、荷重変換器を、一例にして図示し、且つ説明してきたが、圧力変換器、変位変換器等としても本発明は、適用可能である。
また、上述した実施の形態においては、圧縮型の荷重変換器を例として記載したが、例えば、
図1において負荷導入部の外周に雄ねじを形成し、台座7の下底部中心に、雌ねじ穴を削成し、上記雄ねじおよび雌ねじを介して引張力を負荷できるように構成すれば、引張型の荷重変換器として、応用することができる。この場合は、負荷が作用する方向が反対になるため、前記起歪部に生じる半径方向のひずみが最小となる位置および最大となる位置の近傍に第1および第2の円弧状環状溝を前記起歪部の外面側に形成することになる。
また、起歪部5の上面に形成する第1および第2の円弧状環状溝の断面形状は、真円である必要ではなく円弧状であればよい。
【符号の説明】
【0040】
1 物理量検出用変換器
2 負荷導入部
3 負荷支持部
3a 電気ケーブル挿通孔
4 負荷軸
5 起歪部
5a 第1の円弧状環状溝
5b 第2の円弧状環状溝
6 空胴部
7 台座(盲蓋)
D 空胴部6の内径
L1 第1の円弧状環状溝の直径
L2 第2の円弧状環状溝の直径
t1 第1の円弧状環状溝の板厚
t2 第2の円弧状環状溝の板厚
t3 起歪部の板厚