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特開2024-162588車両用支持構造体および車両用支持構造体の製造方法
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  • 特開-車両用支持構造体および車両用支持構造体の製造方法 図1
  • 特開-車両用支持構造体および車両用支持構造体の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162588
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】車両用支持構造体および車両用支持構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 25/02 20060101AFI20241114BHJP
   B60G 7/00 20060101ALI20241114BHJP
   B62D 7/18 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
B22D25/02 Z
B60G7/00
B62D7/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078243
(22)【出願日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 盛雄
【テーマコード(参考)】
3D034
3D301
【Fターム(参考)】
3D034BC26
3D301AA80
3D301AA88
3D301DB20
(57)【要約】
【課題】鋳造品に設けた脆弱部が車両衝突時の衝突荷重によって破壊可能な車両用支持構造体を提供することを目的とする。
【解決手段】車両用支持構造体1は、合金からなる健全部を有する鋳造品であって、局部を加熱して形成した脆弱部4(または脆弱部5)から連続して硬度が大きくなって前記健全部になっている構成であり、前記健全部の硬度はHRB45より大きい状態であり、前記脆弱部の硬度はHRB45以下の状態である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金の溶湯を鋳型に注湯し鋳造する鋳造ステップと、前記鋳型から取り出して溶体化し時効処理を施して健全部を有する鋳造品にする熱処理ステップと、前記健全部のうちの局部を加熱し脆弱部を形成する脆弱部形成ステップを有し、
前記脆弱部形成ステップは、前記局部を280度以上かつ前記合金の融点未満の温度に加熱すること
を特徴とする車両用支持構造体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用支持構造体の製造方法において、
前記脆弱部形成ステップは、前記健全部の硬度をHRB45より大きい状態に維持しつつ、前記脆弱部の硬度をHRB45以下の状態にすること
を特徴とする車両用支持構造体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用支持構造体の製造方法において、
前記鋳造品はアルミニウム合金からなること
を特徴とする車両用支持構造体の製造方法。
【請求項4】
合金からなる健全部を有する鋳造品であって、局部を加熱して形成した脆弱部から連続して硬度が大きくなって前記健全部になっている構成であり、
前記健全部の硬度はHRB45より大きい状態であり、前記脆弱部の硬度はHRB45以下の状態であること
を特徴とする車両用支持構造体。
【請求項5】
請求項4に記載の車両用支持構造体において、
前記鋳造品はアルミニウム合金からなること
を特徴とする車両用支持構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用支持構造体および車両用支持構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両衝突時の衝突荷重に対し、脆弱部を起点としてサスペンションメンバを屈曲させることによって衝突体の車室側への進入を抑制する構造の車両用支持構造体が提案されている(特許文献1:特開2013-035360号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-035360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術は、部材の断面積を意図的に小さくした脆弱部を設けている。しかし、鋳造品において断面積を意図的に小さくした脆弱部を設ける構造は、車体を懸架するために必要な剛性を確保することが難しいという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、車体を懸架するために必要な剛性を確保しつつ、鋳造品に脆弱部を設けることが可能な車両用支持構造体の製造方法、並びに、鋳造品に設けた脆弱部が車両衝突時の衝突荷重によって破壊可能な車両用支持構造体を提供することを目的とする。
【0006】
一実施形態として、以下に開示する解決手段により、前記課題を解決する。
【0007】
本発明に係る車両用支持構造体の製造方法は、合金の溶湯を鋳型に注湯し鋳造する鋳造ステップと、前記鋳型から取り出して溶体化し時効処理を施して健全部を有する鋳造品にする熱処理ステップと、前記健全部のうちの局部を加熱し脆弱部を形成する脆弱部形成ステップを有し、前記脆弱部形成ステップは、前記局部を280度以上かつ前記合金の融点未満の温度に加熱することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、部材の断面積を意図的に小さくすることに依らず、車体を懸架するために必要な剛性を確保しつつ、鋳造品に脆弱部を設けることができる。
【0009】
前記脆弱部形成ステップは、前記健全部の硬度をHRB45より大きい状態に維持しつつ、前記脆弱部の硬度をHRB45以下の状態にすることが好ましい。この構成によれば、車体を懸架するために十分な剛性を確保しつつ、車両衝突時の衝突荷重によって破壊可能な脆弱部にすることができる。一例として、前記健全部の硬度と前記脆弱部の硬度との硬度差はHRB10以上である。これにより、車両衝突時の衝突荷重によって破壊の起点となる脆弱部にすることがより確実にできる。
【0010】
本発明に係る車両用支持構造体は、合金からなる健全部を有する鋳造品であって、局部を加熱して形成した脆弱部から連続して硬度が大きくなって前記健全部になっている構成であり、前記健全部の硬度はHRB45より大きい状態であり、前記脆弱部の硬度はHRB45以下の状態であることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、部材の断面積は従来どおりにできるので、車体を懸架するために必要な剛性を確保できる。尚且つ、鋳造品に設けた脆弱部が車両衝突時の衝突荷重によって破壊可能な構成にできる。一例として、前記鋳造品はアルミニウム合金からなる。
【発明の効果】
【0012】
開示の車両用支持構造体によれば、車体を懸架するために必要な剛性を確保しつつ、鋳造品に設けた脆弱部が車両衝突時の衝突荷重によって破壊可能な構成にできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は本発明の実施形態に係る車両用支持構造体の例を示す概略の斜視図である。
図2図2図1の車両用支持構造体にボルトを締結した状態の例を示す概略の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳しく説明する。図1は本実施形態の車両用支持構造体1の例を示す概略の斜視図であり、図2図1の側面図である。なお、説明の便宜上、各図において矢印方向で車両用支持構造体1および本体部2の前後方向および上下方向を示す。また、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0015】
図1図2に示すように、本実施形態の車両用支持構造体1は、一例として、車両の両端を支持するステアリングナックルである。車両用支持構造体1は、車両側に取り付けられる本体部2と、本体部2の下部でロアアームを挿通してボルトで締結する構造のロアアーム連結部3と、車両の前後方向のいずれか一方に本体部2の上部から延出される第1の脆弱部4(第一の片)と、ロアアーム連結部3から延出され第2の脆弱部5(第二の片)とが結合する結合部6とを備える。車両用支持構造体1は、アルミニウム合金の鋳造品である。
【0016】
本体部2の上部にはストラット連結部11が形成されており、ストラット連結部11にはストラット取付部を取り付けてボルトとナットで締結するための貫通穴17が形成されている。また、本体部2の後部にはタイロッド連結部12が形成されており、タイロッド連結部12にはタイロッド取り付け用の貫通穴18が形成されている。ここでは、結合部6が後方向に延出してタイロッド連結部12が形成される。
【0017】
本体部2における、上部の前側と下部の前側にはディスクブレーキのキャリパ取り付け用の貫通穴15がそれぞれ形成されている。また、本体部2の中央部にはドライブシャフトを挿通させる貫通穴14が形成されており、貫通穴14の周囲にはハブ取り付け用の貫通穴16が複数形成されている。
【0018】
本体部2の下部にはロアアーム連結部3が形成されており、ロアアーム連結部3にはロアアームを取り付けるためのザグリ穴13が形成されている。また、ロアアーム連結部3にはザグリ穴13と繋がるスリットが形成されている。
【0019】
一例として、車両用支持構造体1は、Al-Si-Mg系のアルミニウム合金の鋳造品であり、局部を加熱して形成した第1の脆弱部4(第一の片)から連続して硬度が大きくなって健全部である結合部6や健全部であるストラット連結部11になっている構成であり、また、局部を加熱して形成した第2の脆弱部5(第二の片)から連続して硬度が大きくなって健全部である結合部6や健全部であるロアアーム連結部3になっている構成である。健全部である本体部2は、健全部であるロアアーム連結部3に連続しているとともに、健全部であるストラット連結部11に連続している構成である。
【0020】
車両用支持構造体1は、抗張力280MPa、かつ、耐力180MPaを閾値としており硬度をHRB45より大きくする必要がある。ここでの硬度は、JIS-Z-2245に規定するロックウェル硬さ試験方法に準拠して試験を実施し導出している。本実施形態は、前記健全部の硬度をHRB45より大きい状態に維持していることで車体を懸架するために必要な剛性を確保している。尚且つ、第1の脆弱部4の硬度をHRB45以下にしつつ、第2の脆弱部5の硬度をHRB45以下にしていることで優先的に変形して破断させることを可能とすることができる。なお、第1の脆弱部4(第一の片)と第2の脆弱部5(第二の片)を設けた構成のみならず、第1の脆弱部4と第2の脆弱部5のいずれか一方を設けた構成にすることができる。
【0021】
続いて、車両用支持構造体1の製造方法について、以下に説明する。本実施形態の製造方法は、アルミニウム合金の溶湯を鋳型に注湯し鋳造する鋳造ステップと、前記鋳型から取り出して溶体化し時効処理を施して健全部を有する鋳造品にする熱処理ステップと、前記健全部のうちの局部を加熱し脆弱部を形成する脆弱部形成ステップを有し、前記脆弱部形成ステップは、前記局部を280度以上かつ前記合金の融点未満の温度に加熱する。
【0022】
前記脆弱部形成ステップは、一例としてカートリッジヒータを第1の脆弱部4となる局部と第2の脆弱部5となる局部にそれぞれ数十秒間押し当てて前記局部の加熱温度を280度以上かつ前記アルミニウム合金の融点未満の温度にする。一例として、局部加熱処理を行うエリアは表面積が100mm2ないしは1000mm2の範囲内である。一例として、局部加熱処理を行うエリアは表面がおよそ20mm四方の範囲内である。前記局部加熱処理は、高周波焼き入れによって実施することも可能である。前記局部加熱処理における加熱方法は任意の加熱方法が適用できる。
【0023】
一例として、車両用支持構造体1の各部の形状は、機械的な強度を確保しつつ、組み合わされるストラットや、タイロッドやロアアームの仕様等に合わせて適宜変更することができる。本発明は、以上説明した実施形態のナックルに限定されることなく、該ナックルの上下方向の動きを支え、車体の左右方向の動きを抑える各種アーム部材等の車体の動きを制御する操舵部品や、車両のエンジン、電動機などの原動機、変速機などの駆動部品や、その他補器類を支持する種々のマウントなどの支持部品などにも適用することが可能であり、本発明を逸脱しない範囲において種々変更が可能である。
【符号の説明】
【0024】
1 車両用支持構造体
2 本体部
3 ロアアーム連結部
4 第1の脆弱部
5 第2の脆弱部
6 結合部
11 ストラット連結部
12 タイロッド連結部
図1
図2