(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162590
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】介護状態判定装置、介護状態判定方法、介護状態判定システムおよびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/22 20240101AFI20241114BHJP
【FI】
G06Q50/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078258
(22)【出願日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】523174309
【氏名又は名称】Liaison Design 株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123021
【弁理士】
【氏名又は名称】渥美 元幸
(72)【発明者】
【氏名】川副 巧成
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA13
(57)【要約】
【課題】 被介護者の転倒リスクの軽減に資する介護状態判定装置を提供する。
【解決手段】 被介護者の介護状態を判定する介護状態判定装置1であって、判定対象者を撮影した動画を取得する動画取得部10と、取得した動画が、判定対象者が立ち上がる動作を側方向から撮影した対象動画であるか否かを判別する動画解析部20と、対象動画に基づいて判定対象者の転倒リスクを判定する判定部30と、転倒リスクの判定結果を出力する判定結果出力部40とを備え、動画解析部20は、対象動画に判定対象者の複数の身体部位に関する座標情報を付与する座標付与部21を備え、判定部30は、座標情報から身体部位の移動量を計測する移動量計測部31と、複数の身体部位が成す角度を計測する角度計測部33とを備え、計測された移動量および角度に基づいて転倒リスクを判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被介護者の介護状態を判定する介護状態判定装置であって、
判定対象者を撮影した動画を取得する動画取得手段と、
取得した動画が、判定対象者が立ち上がる動作を側方向から撮影した対象動画であるか否かを判別する動画解析手段と、
動画解析手段で判別された対象動画に基づいて、判定対象者の介護状態として判定対象者の転倒リスクを判定する判定手段と、
判定手段における転倒リスクの判定結果を出力する判定結果出力手段とを備え、
前記動画解析手段は、前記対象動画に判定対象者の複数の身体部位に関する座標情報を付与する座標付与手段を備え、
前記判定手段は、
前記座標付与手段が付与した座標情報から身体部位の移動量を計測する移動量計測手段と、
前記座標付与手段が付与した座標情報から複数の身体部位が成す角度を計測する角度計測手段とを備え、
前記移動量計測手段の計測した移動量と前記角度計測手段が計測した角度とに基づいて前記転倒リスクを判定する
ことを特徴とする介護状態判定装置。
【請求項2】
前記判定手段は、判定対象者の立ち上がる動作に要した動作時間を計測する動作時間計測手段を備え、
動作時間計測手段が計測した動作時間に基づいて前記転倒リスクを判定する
ことを特徴とする請求項1記載の介護状態判定装置。
【請求項3】
前記判定手段は、判定対象者の立ち上がる動作の終了後の立位状態を保持する保持時間を計測する保持時間計測手段を備え、
保持時間計測手段が計測した保持時間に基づいて前記転倒リスクを判定する
ことを特徴とする請求項1記載の介護状態判定装置。
【請求項4】
前記角度計測手段は、判定対象者の外果に付与された座標から鉛直上向きに延びる線と、判定対象者の外果に付与された座標と耳垂に付与された座標とを結ぶ線とが成す頭部傾斜角度を計測する
ことを特徴とする請求項1記載の介護状態判定装置。
【請求項5】
被介護者の介護状態を判定する介護状態判定方法であって、
判定対象者を撮影した動画を取得する動画取得ステップと、
動画取得ステップにおいて取得した動画が、判定対象者が立ち上がる動作を側方向から撮影した対象動画であるか否かを判別する動画解析ステップと、
動画解析ステップにおいて判別された対象動画に基づいて、判定対象者の介護状態として判定対象者の転倒リスクを判定する判定ステップと、
判定ステップにおいて判定された転倒リスクの判定結果を出力する判定結果出力ステップとを含み、
前記動画解析ステップにおいて、前記対象動画に判定対象者の複数の身体部位に関する座標情報を付与する座標付与ステップを含み、
前記判定ステップにおいて、
前記座標付与ステップにおいて付与された座標情報から身体部位の移動量を計測する移動量計測ステップと、
前記座標付与ステップにおいて付与された座標情報から複数の身体部位が成す角度を計測する角度計測ステップとを含み、
前記移動量計測ステップにおいて計測された移動量と前記角度計測ステップにおいて計測された角度とに基づいて前記転倒リスクを判定する
ことを特徴とする介護状態判定方法。
【請求項6】
コンピュータを、被介護者の介護状態を判定する介護状態判定装置として機能させるためのコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータを、
判定対象者を撮影した動画を取得する動画取得手段と、
取得した動画が、判定対象者が立ち上がる動作を側方向から撮影した対象動画であるか否かを判別する動画解析手段と、
動画解析手段で判別された対象動画に基づいて、判定対象者の介護状態として判定対象者の転倒リスクを判定する判定手段と、
判定手段における転倒リスクの判定結果を出力する判定結果出力手段として機能させ、
前記動画解析手段を、前記対象動画に判定対象者の複数の身体部位に関する座標情報を付与する座標付与手段として機能させ、
前記判定手段を、
前記座標付与手段が付与した座標情報から身体部位の移動量を計測する移動量計測手段と、
前記座標付与手段が付与した座標情報から複数の身体部位が成す角度を計測する角度計測手段として機能させ、
前記移動量計測手段の計測した移動量と前記角度計測手段が計測した角度とに基づいて前記転倒リスクを判定する
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、介護状態を判定する装置に関し、特に、被介護者の立ち上がり動作に基づいて介護状態を判定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
常時介護を必要とする状態、いわゆる要介護状態になった場合や、日常生活に支援を必要とする状態、いわゆる要支援状態になった場合には、介護保険制度に基づく介護サービスを受けることができる。介護状態区分は主治医意見書や認定調査員による訪問調査に基づいて判定され、介護サービスの提供に従事する介護従事者は、被介護者の介護状態に応じた介護を行っている。
【0003】
被介護者の介護状態は一定ではないため、その時々で適切な介護を提供するには定期的に訪問し健康状態等を確認しなければならない。経験豊富な介護者は被介護者の様子を見るだけでその健康状態等を把握することも可能であるが、そのような介護者はまだまだ少なく、被介護者が増加する一方で介護業界における人手不足等もあって、経験豊富な介護者への負荷が集中する傾向にある。
【0004】
そのため、被介護者を撮影した動画で被介護者の健康状態等を評価することが行われるようになっており、評価対象者の所定の動作に対する評価を効率的に支援することが可能な動画処理装置などが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
被介護者に適切な介護を提供することは、被介護者にとっても、介護業界にとっても重要な問題である。被介護者にとっては、介護状態に対して提供される介護サービスが不足する場合はもちろんのこと、過度な介護サービスが提供される場合も避けるべきである。自ら行動できるのに介護サービスが提供されることで被介護者が自ら行動を制限し、その結果として健康状態の悪化を早めてしまうこともあるからである。介護業界にとっても過度な介護サービスの提供は人員のリソースを無駄に消費してしまうことになる。
【0007】
自らできることが多ければQOL(Quality of Life)を高めることができ、自らできるというその状態をいかに長く維持できるかが重要であるといわれている。その状態を急激に悪化させる要因として転倒がある。転倒リスクの軽減を図ることは被介護者および介護業界の双方にメリットをもたらすといっても過言ではない。
【0008】
しかしながら、上記特許文献等では、転倒リスクの軽減を図ることができないという問題がある。転倒リスクの軽減を図るためには、転倒リスクを評価したうえで、その大小に応じた対策をとる必要があるからである。
【0009】
そこで、本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、被介護者の転倒リスクを細分化して評価し、転倒リスクの軽減に資することができる介護状態判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明に係る介護状態判定装置は、被介護者の介護状態を判定する介護状態判定装置であって、判定対象者を撮影した動画を取得する動画取得手段と、取得した動画が、判定対象者が立ち上がる動作を側方向から撮影した対象動画であるか否かを判別する動画解析手段と、動画解析手段で判別された対象動画に基づいて、判定対象者の介護状態として判定対象者の転倒リスクを判定する判定手段と、判定手段における転倒リスクの判定結果を出力する判定結果出力手段とを備え、前記動画解析手段は、前記対象動画に判定対象者の複数の身体部位に関する座標情報を付与する座標付与手段を備え、前記判定手段は、前記座標付与手段が付与した座標情報から身体部位の移動量を計測する移動量計測手段と、前記座標付与手段が付与した座標情報から複数の身体部位が成す角度を計測する角度計測手段とを備え、前記移動量計測手段の計測した移動量と前記角度計測手段が計測した角度とに基づいて前記転倒リスクを判定することを特徴とする。
【0011】
ここで、前記判定手段は、判定対象者の立ち上がる動作に要した動作時間を計測する動作時間計測手段を備え、動作時間計測手段が計測した動作時間に基づいて前記転倒リスクを判定する、としてもよい。
【0012】
また、前記判定手段は、判定対象者の立ち上がる動作の終了後の立位状態を保持する保持時間を計測する保持時間計測手段を備え、保持時間計測手段が計測した保持時間に基づいて前記転倒リスクを判定する、としてもよい。
【0013】
さらに、前記角度計測手段は、判定対象者の外果に付与された座標から鉛直上向きに延びる線と、判定対象者の外果に付与された座標と耳垂に付与された座標とを結ぶ線とが成す頭部傾斜角度を計測する、としてもよい。
【0014】
また、本発明は、被介護者の介護状態を判定する介護状態判定方法であって、判定対象者を撮影した動画を取得する動画取得ステップと、動画取得ステップにおいて取得した動画が、判定対象者が立ち上がる動作を側方向から撮影した対象動画であるか否かを判別する動画解析ステップと、動画解析ステップにおいて判別された対象動画に基づいて、判定対象者の介護状態として判定対象者の転倒リスクを判定する判定ステップと、判定ステップにおいて判定された転倒リスクの判定結果を出力する判定結果出力ステップとを含み、前記動画解析ステップにおいて、前記対象動画に判定対象者の複数の身体部位に関する座標情報を付与する座標付与ステップを含み、前記判定ステップにおいて、前記座標付与ステップにおいて付与された座標情報から身体部位の移動量を計測する移動量計測ステップと、前記座標付与ステップにおいて付与された座標情報から複数の身体部位が成す角度を計測する角度計測ステップとを含み、前記移動量計測ステップにおいて計測された移動量と前記角度計測ステップにおいて計測された角度とに基づいて前記転倒リスクを判定することを特徴とする介護状態判定方法、として構成することもできる。
【0015】
さらに、本発明は、コンピュータを、被介護者の介護状態を判定する介護状態判定装置として機能させるためのコンピュータプログラムであって、前記コンピュータを、判定対象者を撮影した動画を取得する動画取得手段と、取得した動画が、判定対象者が立ち上がる動作を側方向から撮影した対象動画であるか否かを判別する動画解析手段と、動画解析手段で判別された対象動画に基づいて、判定対象者の介護状態として判定対象者の転倒リスクを判定する判定手段と、判定手段における転倒リスクの判定結果を出力する判定結果出力手段として機能させ、前記動画解析手段を、前記対象動画に判定対象者の複数の身体部位に関する座標情報を付与する座標付与手段として機能させ、前記判定手段を、前記座標付与手段が付与した座標情報から身体部位の移動量を計測する移動量計測手段と、前記座標付与手段が付与した座標情報から複数の身体部位が成す角度を計測する角度計測手段として機能させ、前記移動量計測手段の計測した移動量と前記角度計測手段が計測した角度とに基づいて前記転倒リスクを判定するコンピュータプログラム、として構成することもできる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明に係る介護状態判定装置によれば、被介護者の立ち上がり動作を側方向から撮影した動画を用いて被介護者の転倒リスクの有無および大小を判定するので、被介護者の転倒リスクを細分化して評価し、転倒リスクの軽減に資するという効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態に係る介護状態判定装置の機能的な構成を示すブロック図である。
【
図2】介護状態判定装置の処理手順を示すフロー図である。
【
図3】立ち上がり動作開始前の判定対象者の座位状態を示す図である。
【
図9】立ち上がり後の頭部傾斜角度を説明するための図である。
【
図10】立ち上がり後の立位保持を説明するための図である。
【
図11】立ち上がり後の立位保持を説明するための図である。
【
図12】立ち上がり後の立位保持を説明するための図である。
【
図13】テーブルに手をついて立ち上がり動作を開始する状態を示す図である。
【
図14】テーブルに手をついて立ち上がる動作の推移を示す図である。
【
図15】テーブルに手をついて立ち上がった状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る介護状態判定装置について、実施の形態に基づいて説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態に係る介護状態判定装置の機能的な構成を示すブロック図である。
【0020】
介護状態判定装置1は、被介護者の立ち上がり動作を撮影した動画を解析して被介護者の介護状態を判定する装置であり、動画取得部10と、動画解析部20と、判定部30と、判定結果出力部40とを備えている。
【0021】
動画取得部10は、被介護者(判定対象者)を撮影した動画を装置内に取り込む。動画取得部10は、被介護者を撮像するカメラで構成してもよいし、カメラ等の撮像装置から動画データを取り込む入力インタフェースで構成してもよい。
【0022】
動画解析部20は、動画取得部10が装置内に取り込んだ動画を解析する処理部であり、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、通信インタフェースなどのハードウェアを搭載したスマートフォンや携帯情報端末、パソコン等で構成される。
【0023】
動画解析部20では、まず取り込まれた動画が判定対象者の立ち上がり動作を撮影した動画(対象動画)であるかを判別する。介護状態判定装置1では、判定対象者の立ち上がり動作を側方向から撮影した動画を用いて判定対象者の介護状態を判定するので、側方向からの撮影であるか否かの判別も動画解析部20が行う。これらの判別は、例えば機械学習を用いた人工知能等により行う。判別の結果、取り込まれた動画が判定対象者の立ち上がり動作を撮影した動画である場合は、対象動画として取り扱う。取り込まれた動画が立ち上がり動作を撮影した動画ではない場合や側方向から撮影した動画ではない場合にはエラーとして扱い、後の判定処理等を行わない。ただし、動画解析部20は、側方向に近い方向から撮影した動画に対して、側方向から撮影した動画となるように画角のズレを補正する処理を行い、その後で対象動画として取り扱うとしてもよい。
【0024】
動画解析部20は、対象動画に所定の座標情報を付す座標付与部21を備えている。座標付与部21は、対象動画に含まれる判定対象者の各部位をプロットして、プロットした箇所に座標情報を付与する。座標情報の付与も、機械学習を用いた人工知能等により行うことが可能である。ここで、プロットされる箇所は、少なくとも耳垂、肩峰、大転子、膝関節後面および外果である。他の箇所をプロットするようにしてもよい。座標付与部21で座標情報が付された対象動画は、判定部30にて判定処理に供される。
【0025】
判定部30は、動画解析部20で解析された後の対象動画(座標情報が付された対象動画)に基づいて、判定対象者の介護状態を判定する処理部であり、動画解析部20と同様に、CPU、ROM、RAM、HDD、通信インタフェースなどのハードウェアを搭載したスマートフォンや携帯情報端末、パソコン等で構成される。
【0026】
具体的には、判定部30は、対象動画に含まれる座標情報およびその軌跡を用いて判定対象者の立ち上がり動作の時間や動作時の姿勢等を評価することにより、判定対象者の介護状態を判定する。ここで判定される判定対象者の介護状態とは、転倒リスクの有無および転倒リスクの大小である。その判定を実行するために、判定部30は、移動量計測部31と、動作時間計測部32と、角度計測部33と、保持時間計測部34とを備えており、これらの各部は、判定部30に格納された制御プログラムによって制御される。
【0027】
移動量計測部31は、対象動画の座標情報の移動量を計測する処理部である。言い換えれば座標付与部21が付与した座標情報から判定対象者の身体部位の移動量を計測するといえる。移動量計測部31が対象動画の座標情報の移動量を計測することにより、判定対象者の動作を検出することができ、動作開始および動作終了や動作の安定性等が判定されることになる。
【0028】
動作時間計測部32は、移動量計測部31が検出した判定対象者の動作について、その動作にかかった時間を計測する処理部であり、例えばタイマーにより実現される。動作時間計測部32は、動作所要時間が所定の時間内であるか否かを判定する。
【0029】
角度計測部33は、対象動画の座標情報に基づいて判定対象者の姿勢等を計測する処理部である。言い換えれば座標付与部21が付与した座標情報から判定対象者の複数の身体部位が成す角度を計測する。複数の身体部位が成す角度は、頭部傾斜角度や膝関節角度などであり、これらについては後に詳述する。複数の身体部位が成す角度を計測することにより、判定対象者の姿勢等が計測され、角度計測部33は、その角度が所定の範囲内であるか否かを判定する。
【0030】
保持時間計測部34は、移動量計測部31が判定対象者の動作終了を検出した後、その状態を保持している時間を計測する処理部であり、例えばタイマーにより実現される。具体的には、保持時間計測部34は、判定対象者が立ち上がり動作を完了した後、立位状態の保持時間を計測し、その保持時間が所定の時間内であるか否かを判定する。
【0031】
移動量計測部31、動作時間計測部32、角度計測部33および保持時間計測部34の各部は、身体部位の移動量に関する情報や頭部傾斜角度等の角度情報、また、動作所要時間や保持時間に関する情報を格納するデータベースを参照し、これらの情報と照合することにより上記それぞれの判定を実行する。なお、このデータベースは、介護状態判定装置1の内部に備えていてもよいし、装置の外部(例えばクラウド上)に設置されているものであってもよい。
【0032】
判定結果出力部40は、判定部30における判定結果をユーザ(介護者等)に対して出力する。判定結果出力部40は、判定部30を構成するスマートフォンや携帯情報端末の画面表示部やパソコンのディスプレイ等の表示装置で構成されることもあれば、インターネット等の通信網を介して判定結果を送信する通信インタフェースで構成されることもある。なお、判定結果出力部40がスマートフォンや携帯情報端末の画面表示部やパソコンのディスプレイ等の表示装置で構成される場合には、動画取得部10、動画解析部20および判定部30における各処理画面をユーザに表示しつつ、ユーザからの操作入力を受け付ける入力手段を兼ねるようにしてもよい。
【0033】
このように構成された介護状態判定装置の処理手順の一例について説明する。
【0034】
図2は、介護状態判定装置の処理手順を示すフロー図である。フロー図に沿って順に、
図3から
図15を適宜参照しながら説明する。
【0035】
まず、動画取得部10において、動画を取得すると(ステップS1)、動画解析部20において、取得された動画が対象動画であるかを判別し、対象動画に対して座標付与部21において所定の座標情報を付与する(ステップS2)。
【0036】
図3は立ち上がり動作開始前の判定対象者の座位状態を示す図である。
図3では、判定対象者2が椅子3に腰掛けてリラックスした状態であり、判定対象者2の耳垂にプロットされた耳垂座標51が付与され、判定対象者2の肩峰にプロットされた肩峰座標52が付与され、判定対象者2の大転子にプロットされた大転子座標53が付与され、判定対象者2の膝関節後面にプロットされた膝関節後面座標54が付与され、判定対象者2の外果にプロットされた外果座標55が付与されていることが示されている。なお、各座標から延びる仮想線を表示しているが、これらの仮想線は理解を容易にするために付したものである。そのため、これらの仮想線は省略してもよく、例えばユーザに対して表示する処理画面において表示を省略してもよい。
【0037】
次に、判定部30の移動量計測部31において、判定対象者の立ち上がり動作の開始を検出すると(ステップS3)、動作時間計測部32は動作時間の計測を開始し、角度計測部33は判定対象者の姿勢等の計測を開始する。
【0038】
図4は立ち上がり動作開始の状態を示す図である。判定対象者2の立ち上がり動作の開始は、判定部30において判定対象者2の臀部が椅子3の座面から離れたことを検出したときである。そして、角度計測部33は、
図4に示すように、大転子座標53と膝関節後面座標54とを結ぶ仮想線と、膝関節後面座標54と外果座標55とを結ぶ仮想線とが膝関節後面座標54において成す角度(膝関節の屈曲角)が90度の状態を動作開始状態として、この状態からの変化を評価の対象とする。
【0039】
図5乃至
図7は、立ち上がり動作の推移を示す図である。
【0040】
図5は、動作開始してまもない状態で、膝関節の屈曲角が85度程の状態を示している。
図6は、
図5から進んで膝関節の屈曲角が45度程まで小さくなって立ち上がり途中の過程にあることを示している。
図7は、さらに進んでいる膝関節の屈曲角が30度程に至り、立ち上がりの手前にあることを示している。
【0041】
角度計測部33において、膝関節の屈曲角が15度以下になったことを計測すると(ステップS4でYes)、判定部30は、判定対象者2が立ち上がったと認識する(ステップS5)。
【0042】
【0043】
図8に示すように、外果座標55から鉛直上向きに伸びる一点鎖線が耳垂座標51を通るとき、膝関節の屈曲角はほぼ0度になって判定対象者2は直立した立位状態、すなわち、立ち上がった状態になっている。外果座標55から鉛直上向きに伸びる一点鎖線は、直立した状態の理想的な重心線を示すものである。判定部30における、判定対象者2の立ち上がりの認識は、立ち上がり動作の終了を意味する。
【0044】
動作時間計測部32は、立ち上がり動作の開始から
図8に示す立ち上がり動作の終了に至るまでの動作時間を計測しており、その動作時間が所定の範囲内になるか否かを判定する(ステップS6)。動作時間が5秒乃至10秒未満である場合は角度計測部33において頭部傾斜角度を判定する。
【0045】
図9は、立ち上がり後の頭部傾斜角度を説明するための図である。
【0046】
頭部傾斜角度とは、外果座標55から鉛直上向きに伸びる一点鎖線で示される理想的な重心線と、外果座標55と耳垂座標51とを結ぶ直線(
図9中の破線)とが成す角度であり、角度計測部33は、この頭部傾斜角度を用いて判定対象者2の姿勢を判定する。頭部傾斜角度が30度未満である場合は(ステップS7でYes)、保持時間計測部34において計測された立位状態の保持時間も含めて考慮し、転倒リスクの判定を行う(ステップS8)。なお、
図9中の破線は、実際の判定対象者の重心線である。この破線が理想的な重心線を示す一点鎖線よりも前方に位置していると、判定対象者は直立した状態ではなく前かがみになった姿勢であることを示すので、転倒リスクの判定に用いることができる。
【0047】
立位状態の保持時間が5秒乃至10秒未満である場合は、判定部30はその判定対象者2が転倒リスク大であると判定し(ステップS9)、判定結果出力部40において、その判定結果を出力し(ステップS12)、処理を終了する。
【0048】
図2に示すフローをまっすぐ下りてくる手順の場合に転倒リスク大と判定するのは、立ち上がり動作がスムーズとまではいえない程度の時間(5秒乃至10秒)を要しており、頭部傾斜角度は姿勢が悪いとまではいえないが、立位状態を短い時間しか保持することができていないため、判定対象者2は動作が不安定であるといえるからである。
【0049】
これに対して、立ち上がり動作の時間が5秒未満で判定対象者2がスムーズに立ち上がることができたり、動作後の立位状態を10秒以上の長い時間も保持することができたりする場合には、判定対象者2を転倒リスク小と判定し(ステップS10)、判定結果出力部40において、その判定結果を出力し(ステップS12)、処理を終了する。このような動きをする判定対象者2は、その動作が安定していると評価することができるので、転倒リスクは小さいと判定することができるからである。
【0050】
反対に、所定の時間を経過しても膝関節の屈曲角が15度以下にならない場合(ステップS4でNo)、立ち上がりの動作時間が10秒以上の場合や頭部傾斜角度が30度を超えて(ステップS7でNo)判定対象者2の姿勢が良くない場合、動作後の立位状態を5秒保持することができないような場合には、判定対象者2はここで定められている立ち上がりの基準を満たさない(立ち上がり未達)であると判定し(ステップS11)、判定結果出力部40において、その判定結果を出力し(ステップS12)、処理を終了する。
【0051】
図10乃至
図12は、立ち上がり後の立位保持を説明するための図である。
【0052】
図10に示すように、判定対象者2の頭部が前後に揺らいで頭部傾斜角度が30度を超えることがある場合には、判定部30は立ち上がり未達と判定する。また、頭部傾斜角度が30度を超えなくても前後の揺らぎが5秒以上続く場合には立位状態が保持できないため立ち上がり未達と判定する。
【0053】
図11に示すのは、判定対象者2が立位保持ができずにバランスを崩した状態である。また、
図12に示すのは、判定対象者2が立位保持ができずに座り込んだ状態である。このような状態になると、移動量計測部31において各座標情報の軌跡の異常を検知したり、角度計測部33において膝関節の屈曲角の急激な変化を検知したりするので、判定部30において立ち上がり未達と判定する。
【0054】
このように立ち上がり未達と判定される判定対象者2は、立ち上がった状態からの転倒ということが想定されないので、転倒リスクは無いということができ、この介護状態判定装置1による介護状態の判定はされないことになる。
【0055】
判定対象者2がテーブルや机等に手をついて立ち上がる場合についても説明する。
【0056】
図13はテーブルに手をついて立ち上がり動作を開始する状態を示す図である。
図14はテーブルに手をついて立ち上がる動作の推移を示し、
図15はテーブルに手をついて立ち上がった状態を示している。
【0057】
このような場合、動画解析部20の座標付与部21は、判定対象者2の手にプロットして掌座標56を付与する。通常、手をついて立ち上がる際には立ち上がり動作の開始から終了まで手の位置は変わらない。そのため、移動量計測部31は掌座標56の座標情報が異常な軌跡を示さないか否かをセンシングしており、異常な軌跡を示した場合は、判定部30において立ち上がり未達と判定する。
【0058】
ここでは、テーブルに手をついて立ち上がる例を示しているが、手すりを把持して立ち上がる場合も手の位置は動作開始から終了まで変わらないので、同様の処理とすることができる。
【0059】
なお、テーブルに手をついて立ち上がった場合等に、動作時間を短くして判定したり、立位状態の保持時間を長めにして判定したりする等の評価基準を変えて判定するようにしてもよい。例えば、テーブルに手をついて立ち上がる際にはやや前のめりになるため重心線が前に移動し、頭部傾斜角度が大きくなることもある。したがって、テーブルに手をついて立ち上がっていることを検出したときは、頭部傾斜角度が35度を超えた場合に判定対象者2の姿勢が良くないと判定するように基準を緩めるのがよい。
【0060】
また、テーブルが目の前にあれば自然とテーブルに手をついて立ち上がるという動作は被介護者に限らず行われる動作であり、立ち上がるという動作そのものがスムーズであれば、テーブルに手をついてもついていなくも転倒リスク評価への影響は少ないとも考えられる。したがって、評価基準を変える場合は、立位状態の保持時間を長め(例えば、15秒未満)にして判定したり、肘付近にも座標情報を付与して立位状態の保持時間中の腕の震えが無いかを含めて判定したりするのもよい。また、動作時間が転倒リスク大と判定される閾値に近い判定対象者2についてのみ評価基準を設定するなど、判定対象者2に応じて評価基準を変更するとしてもよい。
【0061】
このように、本実施の形態の介護状態判定装置によれば、判定対象者である被介護者の立ち上がり動作を側方向から撮影した動画を取り込み、その動画に判定対象者の各身体部位の座標情報を付与し、その座標情報の移動量や動作時間、角度等を用いて被介護者の転倒リスクの有無および大小を判定するので、被介護者の転倒リスクを細分化して評価し、転倒リスクの軽減に役立てることができる。
【0062】
以上、本発明に係る介護状態判定装置について実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の目的を達成でき、かつ発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々設計変更が可能であり、それらも全て本発明の範囲内に包含されるものである。
【0063】
例えば、上記実施形態で示した秒数や角度の数値は一つの目安であり、判定対象者の年齢や性別、過去の病歴等を考慮して、これらの数値を判定対象者に応じて増減調整して判定するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る介護状態判定装置は、介護施設や訪問介護等において、被介護者の介護状態を判定する装置として有用である。
【符号の説明】
【0065】
1 介護状態判定装置
2 判定対象者
3 椅子
4 テーブル
10 動画取得部
20 動画解析部
21 座標付与部
30 判定部
31 移動量計測部
32 動作時間計測部
33 角度計測部
34 保持時間計測部
40 判定結果出力部
51 耳垂座標
52 肩峰座標
53 大転子座標
54 膝関節後面座標
55 外果座標
56 掌座標