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特開2024-162607ボロメータ型赤外線検出器及びその製造方法
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  • 特開-ボロメータ型赤外線検出器及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162607
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】ボロメータ型赤外線検出器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 1/02 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
G01J1/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078294
(22)【出願日】2023-05-11
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、防衛装備庁 安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】田中 朋
【テーマコード(参考)】
2G065
【Fターム(参考)】
2G065AB02
2G065BA12
2G065BA40
2G065BB24
2G065CA13
2G065CA23
(57)【要約】
【課題】
抵抗値が外環境に左右されにくく、安定して動作するボロメータ型赤外線検出器及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
感熱素子の上に、第一保護膜、光反射膜及び第二保護膜の順に設けられた積層構造を有し、前記第一保護膜が酸化金属膜、窒化金属膜、ポリイミド、アクリル樹脂及びフッ素系樹脂から成る群から選択される少なくとも1つ以上から成り、前記光反射膜が金属膜であり、前記第二保護膜が酸化金属膜、窒化金属膜、ポリイミド、アクリル樹脂及びフッ素系樹脂から成る群から選択される少なくとも1つ以上から成る、ボロメータ型赤外線検出器。
【選択図】 図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感熱素子の上に、第一保護膜、光反射膜及び第二保護膜の順に設けられた積層構造を有し、前記第一保護膜が酸化金属膜、窒化金属膜、ポリイミド、アクリル樹脂及びフッ素系樹脂から成る群から選択される少なくとも1つ以上から成り、前記光反射膜が金属膜であり、前記第二保護膜が酸化金属膜、窒化金属膜、ポリイミド、アクリル樹脂及びフッ素系樹脂から成る群から選択される少なくとも1つ以上から成る、ボロメータ型赤外線検出器。
【請求項2】
前記酸化金属膜が酸化ケイ素膜である、請求項1に記載のボロメータ型赤外線検出器。
【請求項3】
前記窒化金属膜が窒化ケイ素膜である、請求項1に記載のボロメータ型赤外線検出器。
【請求項4】
前記金属膜がチタン膜である、請求項1に記載のボロメータ型赤外線検出器。
【請求項5】
前記感熱素子がカーボンナノチューブ膜である、請求項1に記載のボロメータ型赤外線検出器。
【請求項6】
前記第一保護膜の厚さが1~1000nmである、請求項1に記載のボロメータ型赤外線検出器。
【請求項7】
前記第二保護膜の厚さが1~1000nmである、請求項1に記載のボロメータ型赤外線検出器。
【請求項8】
前記光反射膜の厚さが1~1000nmである、請求項1に記載のボロメータ型赤外線検出器。
【請求項9】
さらに前記第二保護膜の上に黒金膜を有する、請求項1に記載のボロメータ型赤外線検出器。
【請求項10】
前記積層構造を複数回繰り返す構造を有する、請求項1に記載のボロメータ型赤外線検出器。
【請求項11】
表面が絶縁性の基板を準備する工程と、
前記基板上に、感熱素子支持層を形成する工程と、
前記感熱素子支持層上に感熱素子を形成する工程と、
前記感熱素子上に電極対を形成する工程と、
前記感熱素子上に第一保護膜を形成する工程と、
前記第一保護膜上に光反射膜を形成する工程と、
前記光反射膜上に第二保護膜を形成する工程と、
を含む、ボロメータ型赤外線検出器の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボロメータ型赤外線検出器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、熱検知や、二酸化炭素や大気汚染物質の濃度測定等を目的として、赤外線検出器に対する需要が高まっている。ボロメータ方式の非冷却型赤外線検出器は、入射した赤外線を受光部が吸収することにより受光部の温度を変化させ、この受光部に配置した材料の温度変化による抵抗値変化から該赤外線の放射強度を電気信号として検出するものであり、安価な赤外線検出器として様々な応用がある。
【0003】
現在、ボロメータの感熱素子としては、主に酸化バナジウムやアモルファスシリコン等が使用されている(特許文献1)。また、抵抗変化の温度依存性(抵抗温度係数(TCR))の絶対値が高いカーボンナノチューブ(CNT)をボロメータの感熱素子に利用することも検討されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09-257565号公報
【特許文献2】特開2015-49207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記感熱素子、特にCNTは、大気中の酸素や水分により電気的にドーピングされること等により、その抵抗値が外環境に左右されやすく(温度変化以外が抵抗変化の要因になりやすい)、検出器としての動作が安定しないといった課題がある。
【0006】
本発明の目的は、上記した課題を鑑み、抵抗値が外環境に左右されにくく、安定して動作するボロメータ型赤外線検出器及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、本発明の1つの実施形態は、
感熱素子の上に、第一保護膜、光反射膜及び第二保護膜の順に設けられた積層構造を有し、前記第一保護膜が酸化金属膜、窒化金属膜、ポリイミド、アクリル樹脂及びフッ素系樹脂から成る群から選択される少なくとも1つ以上から成り、前記光反射膜が金属膜であり、前記第二保護膜が酸化金属膜、窒化金属膜、ポリイミド、アクリル樹脂及びフッ素系樹脂から成る群から選択される少なくとも1つ以上から成る、ボロメータ型赤外線検出器である。
【0008】
また、本発明の別の実施形態は、
表面が絶縁性の基板を準備する工程と、
前記基板上に、感熱素子支持層を形成する工程と、
前記感熱素子支持層上に感熱素子を形成する工程と、
前記感熱素子上に電極対を形成する工程と、
前記感熱素子上に第一保護膜を形成する工程と、
前記第一保護膜上に光反射膜を形成する工程と、
前記光反射膜上に第二保護膜を形成する工程と、
を含む、ボロメータ型赤外線検出器の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、抵抗値が外環境に左右されにくく、安定して動作するボロメータ型赤外線検出器及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1Aは、本発明の第1実施形態の赤外線検出器の構造の概略を示す断面図であり、図1Bは、本発明の第1実施形態の赤外線検出器の構造の概略を示す平面図である。
図2図2Aは、実施例1の赤外線検出器の構造を示す断面図であり、図2Bは、比較例1の赤外線検出器の構造を示す断面図である。
図3図3は、実施例1と比較例1の赤外線検出器に1V印加した際の大気下と真空下の電流値の変化を示すグラフである。
図4図4は、実施例1と比較例1の赤外線検出器の電流減少率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0012】
<ボロメータ型赤外線検出器>
本発明は、赤外線検出器における感熱素子の保護層の構造を最適化することで、外環境が感熱素子に与える影響を低減できることを見出したものである。本発明のボロメータ型赤外線検出器は、感熱素子の上に、第一保護膜、光反射膜及び第二保護膜の順に設けられた積層構造を有する。
【0013】
図1を参照して、本発明の赤外線検出器の一実施形態について説明する。図1に示すように、本実施形態の赤外線検出器10は、表面が絶縁性の基板(基板12の表面に、例えば絶縁膜である断熱層14が形成されている)の上に、感熱素子支持層16が形成されており、前記感熱素子支持層16上に感熱素子22が形成されている。前記感熱素子22上に電極対24が間隔を置いて形成されて、電極対のそれぞれが感熱素子と電気的に接続される。これによって、(電極対の一方)-(感熱素子22(電極対の間))-(電極対のもう一方)の間に電気経路が形成される。前記感熱素子22上に、第一保護膜26が形成されており、前記第一保護膜26上に光反射膜28が形成されており、前記光反射膜28上に第二保護膜32が形成されている。本発明の赤外線検出器の各構成要素について、以下に説明する。
【0014】
(感熱素子22)
感熱素子としては、これらに限定されないが、カーボンナノチューブ、酸化バナジウム、及びアモルファスシリコン等が挙げられる。感熱素子は、TCR値が高いことから、カーボンナノチューブであることが好ましい。カーボンナノチューブ膜は、複数のカーボンナノチューブから構成され、好ましくはネットワーク状の構造を有する薄膜であり、ボロメータ膜として機能する。
【0015】
カーボンナノチューブ膜の厚さは、特に限定されないが、例えば1nm以上、例えば数nm~100μm、好ましくは10nm~10μm、より好ましくは50nm~1μmの範囲である。一実施形態では、好ましくは20nm~500nm、より好ましくは50nm~200nmの範囲である。カーボンナノチューブ膜の厚さが1nm以上であると、良好な光吸収率を得ることができる。また、カーボンナノチューブ膜の厚さが1μm以下、好ましくは500nm以下であると、製造方法の簡便化の観点で好ましい。また、カーボンナノチューブ膜が厚過ぎると、上から蒸着されたコンタクト電極が、カーボンナノチューブ膜の下の方のカーボンナノチューブと十分にコンタクトせず、実効的な抵抗値が高くなる場合があるが、上記範囲内であれば、抵抗値の上昇を抑制することができる。また、カーボンナノチューブ膜の厚さが上記のとおり10nm~1μmの範囲内であると、カーボンナノチューブ膜の製造方法として、印刷技術を好適に適用することができるという点でも好ましい。カーボンナノチューブ膜の厚さは、カーボンナノチューブ膜の任意の10点で測定した厚さの平均値として求めることができる。
【0016】
また、カーボンナノチューブ膜の密度は、特に限定されないが、例えば0.3g/cm~1.4g/cm、好ましくは0.8g/cm~1.3g/cm、より好ましくは1.1g/cm~1.2g/cmである。カーボンナノチューブ膜の密度は、カーボンナノチューブ膜の重量、面積、及び上で求めた厚さから算出することができる。
【0017】
本発明のボロメータ型赤外線検出器10は、光反射膜(金属膜)28を有するため、後述のように、光は主に第二保護膜(光吸収膜)32で吸収され、感熱素子22にはあまり到達しない。そのため感熱素子22の厚さや密度は、光吸収のために必要な範囲に制約されず、抵抗値やTCR値が最適になる範囲、もしくは作成しやすい範囲とすることができる。
【0018】
また、カーボンナノチューブ膜において、上述の成分以外に、例えば、後述の負の熱膨張材料、イオン導電剤(界面活性剤、アンモニウム塩、無機塩)、樹脂、有機結着剤等を適宜用いてもよい。
【0019】
カーボンナノチューブ膜中のカーボンナノチューブの含有量は適宜選択できるが、好ましくは、カーボンナノチューブ膜の総質量を基準として0.1質量%以上が効果的で、より好ましくは、1質量%以上が効果的であり、例えば30質量%、さらには50質量%以上とすることも好ましく、場合により60質量%以上が好ましい場合もある。
【0020】
以下、カーボンナノチューブ膜の製造方法の一例を詳述する。
カーボンナノチューブを分散した分散液を感熱素子支持層上に塗布して乾燥させ、場合により熱処理を行うことにより、カーボンナノチューブ膜を形成することができる。
【0021】
カーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブに加えて、界面活性剤を含むことが好ましい。カーボンナノチューブ分散液に含まれる界面活性剤は、非イオン性界面活性剤であるのが好ましい。非イオン性界面活性剤は、イオン性界面活性剤と異なり、カーボンナノチューブとの相互作用が弱く、分散液を基板上に提供した後に容易に除去することができる。そのため、安定したカーボンナノチューブ導電パスを形成でき、優れたTCR値を得ることができる。また、分子長が長い非イオン性界面活性剤は、分散液を基板上に提供する際にカーボンナノチューブ間の距離が大きくなり、水の蒸発後に再凝集しにくいため、ネットワーク状態を維持することができ好ましい。
【0022】
非イオン性界面活性剤は、適宜選択できるが、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系に代表されるポリエチレングリコール構造を有する非イオン性界面活性剤や、アルキルグルコシド系非イオン性界面活性剤等、イオン化しない親水性部位とアルキル鎖等疎水性部位で構成されている非イオン性界面活性剤を1種類もしくは複数組み合わせて用いることが好ましい。このような非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが好適に用いられる。また、アルキル部が1又は複数の不飽和結合を含んでもよい。特に、ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン(10)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(10)ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテル等がより好ましい。また、N,N-ビス[3-(D-グルコンアミド)プロピル]デオキシコールアミド、n-ドデシルβ-D-マルトシド、オクチルβ-D-グルコピラノシド、ジギトニンも使用することができる。
【0023】
非イオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアラート(分子式:C6412626、商品名:Tween 60、シグマアルドリッチ社製等)、ポリオキシエチレンソルビタントリオレアート(分子式:C2444、商品名:Tween 85、シグマアルドリッチ社製等)、オクチルフェノールエトキシレート(分子式:C1422O(CO)、n=1~10、商品名:Triton X-100、シグマアルドリッチ社製等)、ポリオキシエチレン(40)イソオクチルフェニルエーテル(分子式:C170(CHCH0)40H、商品名:Triton X-405、シグマアルドリッチ社製等)、ポロキサマー(分子式:C10、商品名:Pluronic、シグマアルドリッチ社製等)、ポリビニルピロリドン(分子式:(CNO)n、n=5~100、シグマアルドリッチ社製等)等を用いることもできる。
【0024】
カーボンナノチューブ分散液中の界面活性剤の濃度は適宜制御することができ、臨界ミセル濃度~5質量%程度が好ましく、より好ましくは、0.001質量%~3質量%、塗布後の再凝集等を抑えるために、0.01~1質量%が特に好ましい。臨界ミセル濃度未満であると分散できないため好ましくない。本明細書において、臨界ミセル濃度(critical micelle concentration(CMC))とは、大気圧下、25℃で、Wilhelmy式表面張力計等の表面張力計を用い、界面活性剤水溶液の濃度を変えて表面張力を測定し、その変極点となる濃度のことを言う。
【0025】
カーボンナノチューブ分散液の分散媒としては、好ましくはカーボンナノチューブを分散浮遊できるものであれば特に限定されないが、例えば、水、重水、有機溶媒、又はこれらの混合物等が挙げられ、水が好ましい。
【0026】
カーボンナノチューブ分散液を得る方法は特に制限されず、従来公知の方法を適用できる。例えば、カーボンナノチューブ混合物、分散媒、及び非イオン性界面活性剤を混合してカーボンナノチューブを含む溶液を調製し、この溶液を超音波処理することでカーボンナノチューブを分散させ、カーボンナノチューブ分散液(ミセル分散溶液)を調製する。前記超音波処理に加えて、又は代えて、機械的な剪断力によるカーボンナノチューブ分散手法を用いてもよい。機械的な剪断は気相中で行ってもよい。カーボンナノチューブと非イオン性界面活性剤によるミセル分散水溶液においてカーボンナノチューブは孤立した状態であることが好ましい。そのため、必要に応じて、超遠心分離処理を用いてバンドル、アモルファスカーボン、不純物触媒等の除去を行ってもよい。分散処理の際、カーボンナノチューブを切断することができ、カーボンナノチューブの粉砕条件、超音波出力、超音波処理時間等を変えることで、長さを制御することができる。例えば、未処理のカーボンナノチューブをピンセット、ボールミル等で粉砕し、凝集体サイズを制御できる。これらの処理後、超音波ホモジナイザーにより、出力40~600W、場合により100~550W、20~100KHz、処理時間1~5時間、好ましくは1~3時間にすることで、長さを100nm~5μmに制御することができる。1時間より短いと、条件によってはほとんど分散せず、ほとんど元の長さのままである場合がある。また、分散処理時間の短縮及びコスト減の観点では3時間以下が好ましい。
【0027】
カーボンナノチューブの分散及び切断により、表面官能基がカーボンナノチューブの表面あるいは端に生成される。生成される官能基は、カルボキシル基、カルボニル基、水酸基等が生成される。液相での処理であれば、カルボキシル基、水酸基が生成され、気相であれば、カルボニル基が生成される。
【0028】
カーボンナノチューブの分離は、例えば、電界誘起層形成法(ELF法:例えば、K.Ihara et al. J.Phys.Chem.C.2011,115,22827~22832、日本特許第5717233号明細書を参照、これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる)により行うことができる。ELF法を用いた分離方法の一例を説明する。カーボンナノチューブ、好ましくは単層カーボンナノチューブを非イオン性界面活性剤により分散し、その分散液を縦型の分離装置に入れ、上下に配置された電極に電圧を印加することで、無担体電気泳動により分離する。分離のメカニズムは例えば以下のように推定できる。カーボンナノチューブを非イオン性界面活性剤により分散した場合、半導体型カーボンナノチューブのミセルは負のゼータ電位を有し、一方金属型カーボンナノチューブのミセルは逆符号(正)のゼータ電位(近年では、僅かに負のゼータ電位を有するかほとんど帯電していないとも考えられている)を持つ。そのため、カーボンナノチューブ分散液に電界を印加すると、ゼータ電位の差等により、半導体型カーボンナノチューブミセルは陽極(+)方向へ、金属型カーボンナノチューブミセルは陰極(-)方向へ電気泳動する。最終的には陽極付近に半導体型カーボンナノチューブが濃縮された層が、陰極付近に金属型カーボンナノチューブが濃縮された層が分離槽内に形成される。分離の電圧は、分散媒の組成及びカーボンナノチューブの電荷量等を考慮して適宜設定できるが、1V以上200V以下が好ましく、10V以上200V以下がより好ましい。分離工程の時間短縮の観点では100V以上が好ましい。また、分離中の泡の発生を抑制して分離効率を維持する観点では200V以下が好ましい。分離は、繰り返すことで純度が向上する。分離後の分散液を初期濃度に再設定して同様の分離操作を行ってもよい。それにより、さらに高純度化することができる。
【0029】
上述のカーボンナノチューブの分散・切断工程及び分離工程により、所望の直径・長さを有する半導体型カーボンナノチューブが濃縮された分散液を得ることができる。なお、本明細書において、半導体型カーボンナノチューブが濃縮されているカーボンナノチューブ分散液を「半導体型カーボンナノチューブ分散液」と呼ぶ場合がある。分離工程により得られる半導体型カーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブの総量中、半導体型カーボンナノチューブを、一般に67質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上(上限は100質量%であってもよい)含む分散液を意味する。金属型及び半導体型のカーボンナノチューブの分離傾向については、顕微Ramanスペクトル分析法と紫外可視近赤外吸光光度分析法により分析することができる。
【0030】
上述のカーボンナノチューブの分散・切断工程後、且つ、分離工程前のカーボンナノチューブ分散液のバンドル、アモルファスカーボン、金属不純物等を除去するため遠心分離処理を行ってもよい。遠心加速度は適宜調整できるが、10000×g~500000×gが好ましく、50000×g~300000×gがより好ましく、場合により100000×g~300000×gであってもよい。遠心分離時間は0.5時間~12時間が好ましく、1~3時間がより好ましい。遠心分離温度は、適宜調整できるが、4℃~室温が好ましく、10℃~室温がより好ましい。
【0031】
カーボンナノチューブ分散液を絶縁膜18に塗布する方法としては、特に限定されず、滴下法、スピンコート、印刷、インクジェット、スプレー塗布、ディップコート等が挙げられる。製造コストの低減の観点では、印刷法が好ましい。印刷法としては、塗布(ディスペンサー、インクジェット等)、転写(マイクロコンタクトプリント、グラビア印刷等)等が挙げられる。
【0032】
絶縁膜上に塗布したカーボンナノチューブ分散液を、乾燥及び熱処理することにより界面活性剤や溶媒を除去し、カーボンナノチューブ膜22を形成することができる。熱処理の温度は界面活性剤の分解温度以上で適宜設定できるが、150~500℃が好ましく、200~500℃、例えば200~400℃がより好ましい。200℃以上であれば界面活性剤の分解物の残留を抑制し易いためより好ましい。また、500℃以下、例えば400℃以下であれば、基板や他の構成要素の変質を抑制することができるため好ましい。また、カーボンナノチューブの分解やサイズ変化、官能基の離脱等を抑制することができる。
【0033】
カーボンナノチューブは、例えば、平行線状、繊維状、ネットワーク状等の構造を形成し得るが、凝集し難く、均一な導電パスが得られる三次元的ネットワーク状の構造を形成していることが好ましい。
【0034】
カーボンナノチューブは、単層、二層、多層カーボンナノチューブを使用することができるが、単層又は数層(例えば、2層又は3層)のカーボンナノチューブが好ましく、単層カーボンナノチューブがより好ましい。カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブを80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上(100質量%を含む)含むことがより好ましい。
【0035】
カーボンナノチューブ膜には、大きなバンドギャップとキャリア移動度を持つ半導体型カーボンナノチューブを用いることが好ましい。カーボンナノチューブ中、半導体型カーボンナノチューブ、好ましくは半導体型単層カーボンナノチューブの含有率は、一般に67質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上であり、特に90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上(100質量%を含む)がさらに好ましい。
【0036】
カーボンナノチューブの直径は、特に限定されないが、バンドギャップを大きくしてTCRを向上する観点で、0.6~1.5nmの間が好ましく、0.6nm~1.2nmがより好ましく、0.7~1.1nmがさらに好ましい。また、一実施形態では、特に1nm以下が好ましい場合もある。0.6nm以上であれば、カーボンナノチューブの製造がより容易である。1.5nm以下であれば、バンドギャップを適切な範囲に維持し易く、高いTCRを得ることができる。
【0037】
本明細書において、カーボンナノチューブの直径は、断熱層上の、又は成膜した薄膜のカーボンナノチューブを原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope(AFM))を用いて観察して100箇所程度の直径を計測し、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が0.6~1.5nmの範囲内にあることを意味する。好ましくは、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が0.6~1.2nmの範囲内、さらに好ましくは0.7~1.1nmの範囲内にある。また、一実施形態では、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が0.6~1nmの範囲内にある。
【0038】
また、カーボンナノチューブの長さは、特に限定されないが、100nm~5μmの間が、分散しやすく、塗布性も優れているためより好ましい。またカーボンナノチューブの導電性の観点でも、長さが100nm以上であることが好ましい。また、5μm以下であれば断熱層上で、且つ/又は成膜時の凝集を抑制し易い。カーボンナノチューブの長さは、より好ましくは500nm~3μm、さらに好ましくは700nm~1.5μmである。
【0039】
本明細書において、カーボンナノチューブの長さは、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope(AFM))を用いて少なくとも100本を観察し、数え上げることでカーボンナノチューブの長さの分布を測定し、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が100nm~5μmの範囲内にあることを意味する。好ましくは、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が500nm~3μmの範囲内にある。より好ましくは、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が700nm~1.5μmの範囲内にある。
【0040】
カーボンナノチューブの直径及び長さが上記範囲内であると、半導体性の影響が大きくなり、且つ、大きな電流値を得られるため、ボロメータ膜として用いた場合に高いTCR値が得られやすい。
【0041】
カーボンナノチューブは、不活性雰囲気下、真空中において熱処理を行うことで、表面官能基やアモルファスカーボン等の不純物、触媒等を除去したものを用いてもよい。熱処理温度は、適宜選択できるが、800~2000℃が好ましく、800~1200℃がより好ましい。
【0042】
(第一保護膜26)
第一保護層は、感熱素子の直上に存在する膜である。第一保護膜は、酸化金属膜、窒化金属膜、ポリイミド、アクリル樹脂及びフッ素系樹脂から成る群から選択される少なくとも1つ以上から成る。第一保護膜は、Si、Hf、Y、La、及びTaから成る群から選択される少なくとも1つ以上の金属の酸化物、及び/又はSi、Hf、Y、La、及びTaから成る群から選択される少なくとも1つ以上の金属の窒化物から成ることが好ましい。第一保護膜は、酸化ケイ素膜及び/又は窒化ケイ素膜から成ることが特に好ましい。第一保護膜の厚さは、材料によって適宜設定できるが、1~1000nmであることが好ましく、1~500nmであることがより好ましく、1~100nmであることが特に好ましい。第一保護膜の厚さが上記範囲であると、十分な感熱素子の保護効果を得ることができる。
【0043】
(光反射膜(金属膜)28)
光反射膜は、第一保護膜の直上に存在する膜である。光反射膜は金属膜であり、Au、Ag、Al、Cr、Ni及びPtから成る群から選択される少なくとも1つ以上の反射率の高い金属の膜であることが好ましい。光反射膜の厚さは、材料によって適宜設定できるが、1~1000nmであることが好ましく、5~500nmであることがより好ましく、10~300nmであることが特に好ましい。光反射膜の厚さが上記範囲であると、十分な感熱素子の保護効果を得ることができ、且つ、十分な光反射効果を得ることができる。
【0044】
(第二保護膜(光吸収膜)32)
第二保護層は、光反射膜の直上に存在する膜である。第二保護膜は、大気中の酸素や水分等の吸着による感熱素子へのドーピングの抑制効果等を有する。第二保護膜としては、保護膜兼光吸収膜として機能する材料を用いることが好ましい。第二保護膜は、酸化金属膜、窒化金属膜、ポリイミド、アクリル樹脂及びフッ素系樹脂から成る群から選択される少なくとも1つ以上から成る。第二保護膜は、Si、Hf、Y、La、及びTaから成る群から選択される少なくとも1つ以上の金属の酸化物膜、及び/又はSi、Hf、Y、La、及びTaから成る群から選択される少なくとも1つ以上の金属の窒化物膜から成ることが好ましい。第二保護膜は、酸化ケイ素膜及び/又は窒化ケイ素膜から成ることが特に好ましい。第二保護膜の厚さは、材料によって適宜設定できるが、1~1000nmであることが好ましく、100~1000nmであることがより好ましく、500~1000nmであることが特に好ましい。第二保護膜の厚さが上記範囲であると、十分な感熱素子の保護効果を得ることができ、且つ、十分な赤外線の吸収効果を得ることができる。また、必要により、任意で黒金のような吸収体を第二保護膜上に設けてもよい。黒金膜を設ける場合、第二保護膜の厚さは10~100nmであってよい。
【0045】
本発明のボロメータ型赤外線検出器は、感熱素子の上に、第一保護膜/光反射膜/第二保護膜の3層構造を積層することで、感熱素子の保護機能と赤外吸収機能と光反射機能の3つの機能を持たせることができる。上面から入射した光の一部は第二保護膜32により吸収され、吸収されなかった光は光反射膜28で反射され、再び第二保護膜32に戻って吸収される。すなわち、入射光の大部分は第二保護膜(光吸収膜)32で吸収される。その際、第二保護膜32は吸収した光により発熱し、この熱により感熱素子22も温められることとなり、その抵抗値が変化する。
【0046】
本発明のボロメータ型赤外線検出器は、前記3層(第一保護膜/光反射膜/第二保護膜)の積層構造を複数回繰り返す構造を有していてもよい。
【0047】
(電極対24)
電極対の材料としては、感熱素子との接合性等を考慮して適宜選択すればよく、例えば、チタン、金、白金、アルミニウム、銅、銀、タングステン、コバルト等の単金属又はこれらの少なくとも1種を含む合金を、単体で又は組み合わせて使用することができる。電極対の作製方法は特に限定されないが、例えば、蒸着、スパッタ、印刷法で形成することができる。必要により、予め、電極対を形成すべきでない領域のマスキングなどを行ってもよい。電極対の厚さは、適宜調整できるが、30~300nmが好ましく、50nm~200nmがより好ましい。また、2つの電極間距離は、2~100μmが好ましく、赤外線検出器の小型化のためには、2~10μmがより好ましい。
【0048】
(感熱素子支持層16)
感熱素子支持層の材料は特に限定されるものではないが、例えば、シリコン酸化物(SiO)、シリコン窒化膜(SiN)等が挙げられる。感熱素子支持層の形成方法は特に限定されず、用いる材料に合わせて適宜選択できる。
【0049】
(基板12)
基板12を構成する材料は、無機材料であっても有機材料であってもよく、当技術分野で使用されるものを特に制限なく使用できる。無機材料としては、限定されるものではないが、例えば、ガラス、Si、SiO、SiN等が挙げられる。有機材料としては、限定されるものではないが、例えば、プラスチック、ゴム等、例えば、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、アクリロニトリルスチレン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、フッ素樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0050】
(断熱層14)
断熱層14は、断熱性が高い(熱伝導率が低い)樹脂から構成される。断熱性が高い樹脂で基板表面を覆うことで、カーボンナノチューブ膜からの熱の放散を抑制できる。断熱層を構成する樹脂の熱伝導率は、一般には0.3W/mK以下であり、好ましくは0.15W/mK以下であり、場合によりより好ましくは0.1W/mK以下である。熱伝導率は低い方が好ましいため、下限は特に限定されないが、例えば、0.02W/mK以上、場合により0.05W/mK以上である。特に、断熱層の少なくとも垂直方向(積層方向)の熱伝導率が上記範囲であることが好ましい。本明細書において、熱伝導率は、定法(ASTM C177、ASTM E1461等)に従い、25℃で求めた値を採用することができる。
【0051】
断熱層の厚さは、用いる樹脂成分を考慮して適宜設定すればよいが、10~1000μmであることが好ましく、20~700μmであることがより好ましく、50~200μmであることがさらに好ましい。断熱層の厚さが上記範囲であると、十分な断熱性を得ることができる。
【0052】
断熱層に用いる樹脂としては、特に限定されるものではないが、パリレンが挙げられる。パリレンはパラキシリレン系ポリマーの総称で、ベンゼン環がCHを介して連結した構造を有する。パリレンの例としては、例えば、下記式で表されるダイマーから形成されるものが挙げられる。
【0053】
【化1】
【0054】
上記式中、少なくとも1つのベンゼン環の少なくとも1つの水素原子が、ハロゲン原子で置換されていてもよい。ハロゲンとしては、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)が挙げられ、塩素が好ましい。ハロゲンによる置換数は、8以下であり、6以下が好ましく、4以下がより好ましい。
【0055】
パリレンとしては、パリレンN、パリレンC、パリレンD、パリレンHT、ParyFree等が挙げられるが、中でもパリレンC(熱伝導率:0.084(W/mK))が最も熱伝導率が低いため好適である。パリレンは化学的に安定な性質を有し、優れた水分・化学薬品・絶縁バリア特性を備えている。パリレンコーティングは温度安定性、機械的特性、引っ張り強さにも優れている。
【0056】
断熱層の形成方法は特に限定されず、用いる樹脂に合わせて適宜選択できる。例えば、パリレンを用いる場合、真空蒸着装置を用いて基板上にパリレンコーティングすることによりパリレン膜を形成することができる。具体的には、固体のダイマーを真空下で加熱すると、気化してダイマー気体となる。この気体が熱分解してダイマーが開裂し、モノマー形態になる。室温の蒸着チャンバ内で、このモノマー気体がすべての表面で重合し、薄く透明なポリマーフィルムが形成される。必要により、蒸着プロセスを行う前に、基板の前処理、清浄、蒸着すべきでない領域のマスキング等を行ってもよい。
【0057】
本発明のボロメータ型赤外線検出器は、赤外光の他、例えば、0.7μm~1mmの波長を有する電磁波の検知に特に好適に用いることができる。当該波長範囲に含まれる電磁波としては、赤外線の他、テラヘルツ波が挙げられる。
【実施例0058】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はそれら実施例に制限されるものではない。
【0059】
[実施例1]
基板12の表面に絶縁膜である断熱層14を形成することにより、表面が絶縁性の基板を準備した。該基板上に配線34を形成した。その上に感熱素子支持層16を形成し、感熱素子支持層16上に感熱素子22を形成した。電極対24を、感熱素子22と電気的に接続されるように、間隔を置いて形成した。また、感熱素子22上に、第一保護膜26、光反射膜28及び第二保護膜32を順に形成した。これにより、図2Aに示す構造のボロメータ型赤外線検出器を形成した(感熱素子:厚さ5nmのカーボンナノチューブ、第一保護膜:厚さ45nmの酸化ケイ素膜、光反射膜:厚さ5nmのチタン膜、第二保護膜:厚さ45nmの酸化ケイ素膜)。電極対24に外部から電流を供給できる構造になっており、電極対の一方-感熱素子-電極対の他方の間に電気経路が形成されている。
【0060】
[比較例1]
基板12の表面に絶縁膜である断熱層14を形成することにより、表面が絶縁性の基板を準備した。該基板上に配線34を形成した。その上に感熱素子支持層16を形成し、感熱素子支持層16上に感熱素子22を形成した。電極対24を、感熱素子22と電気的に接続されるように、間隔を置いて形成した。また、感熱素子22上に、保護膜26を形成した。これにより、図2Bに示す構造のボロメータ型赤外線検出器を形成した(感熱素子:厚さ5nmのカーボンナノチューブ、保護膜:厚さ100nmの酸化ケイ素膜)。電極対24に外部から電流を供給できる構造になっており、電極対の一方-感熱素子-電極対の他方の間に電気経路が形成されている。
【0061】
一般に、感熱素子(カーボンナノチューブ)は、大気に晒すと、表面に酸素や水分が吸着して抵抗値が下がり、真空引きすることで、吸着した酸素や水分が離脱して抵抗値が上がる。しかしながら、安定して動作するボロメータ型赤外線検出器とするためには、抵抗値が外環境に左右されにくいことが重要である。抵抗値(R)と電圧(V)と電流(I)との関係は、V=R・Iであるため、大気下と真空下での電流を測定することにより、外環境が抵抗値に与える影響を調べることができる。実施例1と比較例1の赤外線検出器に1Vを印加し、大気下と真空下での電流を測定した。それぞれの構造について3素子を測定した。
【0062】
図3に電流の測定結果を示し、図4に大気時の電流量に対する真空時の電流量の比を示す。白抜き記号が実施例1であり、塗りつぶし記号が比較例1である。比較例1に示す構造(感熱素子の上が単純な酸化膜)では、感熱素子の保護効果が十分でなく、真空時に比べて大気時に電流が顕著に増大(抵抗値が顕著に低下)した。実施例1に示す構造(感熱素子の上が第一保護膜、光反射膜及び第二保護膜の積層構造)とすることで、感熱素子を十分に保護することができ、真空時と大気時とで電流の変化(すなわち抵抗値の変化)が小さくなった。このように、保護膜を、第一保護膜(窒化膜又は酸化膜)/光反射膜(金属膜)/第二保護膜(窒化膜又は酸化膜)の3層構造とすることで、大気の影響による抵抗値のゆらぎを抑制する効果があることが確認された。
【0063】
以上、実施形態及び実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0064】
(付記1)
感熱素子の上に、第一保護膜、光反射膜及び第二保護膜の順に設けられた積層構造を有し、前記第一保護膜が酸化金属膜、窒化金属膜、ポリイミド、アクリル樹脂及びフッ素系樹脂から成る群から選択される少なくとも1つ以上から成り、前記光反射膜が金属膜であり、前記第二保護膜が酸化金属膜、窒化金属膜、ポリイミド、アクリル樹脂及びフッ素系樹脂から成る群から選択される少なくとも1つ以上から成る、ボロメータ型赤外線検出器。
(付記2)
前記酸化金属膜が酸化ケイ素膜である、付記1に記載のボロメータ型赤外線検出器。
(付記3)
前記窒化金属膜が窒化ケイ素膜である、付記1又は2に記載のボロメータ型赤外線検出器。
(付記4)
前記金属膜がチタン膜である、先行する付記のいずれかに記載のボロメータ型赤外線検出器。
(付記5)
前記感熱素子がカーボンナノチューブ膜である、先行する付記のいずれかに記載のボロメータ型赤外線検出器。
(付記6)
前記第一保護膜の厚さが1~1000nmである、先行する付記のいずれかに記載のボロメータ型赤外線検出器。
(付記7)
前記第二保護膜の厚さが1~1000nmである、先行する付記のいずれかに記載のボロメータ型赤外線検出器。
(付記8)
前記光反射膜の厚さが1~1000nmである、先行する付記のいずれかに記載のボロメータ型赤外線検出器。
(付記9)
さらに前記第二保護膜の上に黒金膜を有する、先行する付記のいずれかに記載のボロメータ型赤外線検出器。
(付記10)
前記積層構造を複数回繰り返す構造を有する、先行する付記のいずれかに記載のボロメータ型赤外線検出器。
(付記11)
感熱素子支持層上に前記感熱素子を有する、先行する付記のいずれかに記載のボロメータ型赤外線検出器。
(付記12)
前記感熱素子上に電極対を有する、先行する付記のいずれかに記載のボロメータ型赤外線検出器。
(付記13)
表面が絶縁性の基板上に、前記感熱素子支持層を有する、先行する付記のいずれかに記載のボロメータ型赤外線検出器。
(付記14)
表面が絶縁性の基板を準備する工程と、
前記基板上に、感熱素子支持層を形成する工程と、
前記感熱素子支持層上に感熱素子を形成する工程と、
前記感熱素子上に電極対を形成する工程と、
前記感熱素子上に第一保護膜を形成する工程と、
前記第一保護膜上に光反射膜を形成する工程と、
前記光反射膜上に第二保護膜を形成する工程と、
を含む、ボロメータ型赤外線検出器の製造方法。
【符号の説明】
【0065】
10 ボロメータ型赤外線検出器
12 基板
14 断熱層
16 感熱素子支持層
22 感熱素子
24 電極対
26 第一保護膜
28 光反射膜
32 第二保護膜
34 配線

図1
図2
図3
図4