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特開2024-162624放射線量の線量分布の解析法、解析システム及び解析プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162624
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】放射線量の線量分布の解析法、解析システム及び解析プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20241114BHJP
   G01T 1/00 20060101ALI20241114BHJP
   G01T 1/115 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
A61N5/10 P
G01T1/00 B
G01T1/115 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078330
(22)【出願日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】523174446
【氏名又は名称】三浦 英治
(71)【出願人】
【識別番号】502117734
【氏名又は名称】アールテック有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194973
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 祐朗
(72)【発明者】
【氏名】三浦 英治
(72)【発明者】
【氏名】宮沢 正則
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AP03
4C082ML06
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、簡便な透過型クロミックフィルムの誤差を較正する方法を提供することである。
【解決手段】前記課題は、本発明のクロミックフィルム及び透過型スキャナを用いた放射線量の線量分布の解析方法であって、(1)放射線が照射されたクロミックフィルムを、透過型スキャナが走査される方向に対して、平行に複数の領域に分割する工程、(2)クロミックフィルムのそれぞれの分割領域を、透過型スキャナのライン光源の中央部分で走査されるスキャナ面の中央走査部分に位置するように配置し、透過型スキャナを走査させ、ライン光源の中央部分を用いて、それぞれの分割領域のイメージデータを取得する工程、及び(3)ライン光源の中央部分により取得されたそれぞれの分割領域のイメージデータを組み合わせて、線量分布を解析する工程、を含む放射線量の線量分布の解析方法によって解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロミックフィルム及び透過型スキャナを用いた放射線量の線量分布の解析方法であって、
(1)放射線が照射されたクロミックフィルムを、透過型スキャナが走査される方向に対して、平行に複数の領域に分割する工程、
(2)クロミックフィルムのそれぞれの分割領域を、透過型スキャナのライン光源の中央部分で走査されるスキャナ面の中央走査部分に位置するように配置し、透過型スキャナを走査させ、ライン光源の中央部分を用いて、それぞれの分割領域のイメージデータを取得する工程、及び
(3)ライン光源の中央部分により取得されたそれぞれの分割領域のイメージデータを組み合わせて、線量分布を解析する工程、
を含む放射線量の線量分布の解析方法。
【請求項2】
(i)前記クロミックフィルムの複数の領域が、2つの分割領域A及び分割領域Bであって、前記工程(2)において、ライン光源の中央部分を用いて分割領域AのイメージデータAを取得し、そしてライン光源の中央部分を用いて分割領域BのイメージデータBを取得し、
前記工程(3)において、イメージデータA及びイメージデータBを組み合わせて線量分布を解析する、又は
(ii)前記クロミックフィルムの複数の領域が、3つの分割領域A、分割領域B、及び分割領域Cであって、前記工程(2)において、ライン光源の中央部分を用いて分割領域AのイメージデータAを取得し、ライン光源の中央部分を用いて分割領域BのイメージデータBを取得し、そしてライン光源の中央部分を用いて分割領域CのイメージデータCを取得し、
前記工程(3)において、イメージデータA、イメージデータB、及びイメージデータCを組み合わせて線量分布を解析する、
請求項1に記載の放射線量の線量分布の解析方法。
【請求項3】
クロミックフィルム及び透過型スキャナを用いた放射線量の線量分布の解析システムであって、
(1)放射線が照射されたクロミックフィルムを、透過型スキャナが走査される方向に対して、平行に複数の領域に分割する手段、
(2)クロミックフィルムのそれぞれの分割領域を、透過型スキャナのライン光源の中央部分で走査されるスキャナ面の中央走査部分に位置するように配置し、透過型スキャナを走査させ、ライン光源の中央部分を用いて、それぞれの分割領域のイメージデータを取得する手段、
(3)ライン光源の中央部分により取得されたそれぞれの分割領域のイメージデータを組み合わせて、線量分布を解析する手段、
を含む放射線量の線量分布の解析システム。
【請求項4】
(i)前記クロミックフィルムの複数の領域が、2つの分割領域A及び分割領域Bであって、前記手段(2)によって、ライン光源の中央部分を用いて分割領域AのイメージデータAを取得し、そしてライン光源の中央部分を用いて分割領域BのイメージデータBを取得し、
前記手段(3)によって、イメージデータA及びイメージデータBを組み合わせて線量分布を解析する、又は
(ii)前記クロミックフィルムの複数の領域が、3つの分割領域A、分割領域B、及び分割領域Cであって、前記手段(2)によって、ライン光源の中央部分を用いて分割領域AのイメージデータAを取得し、ライン光源の中央部分を用いて分割領域BのイメージデータBを取得し、そしてライン光源の中央部分を用いて分割領域CのイメージデータCを取得し、
前記手段(3)によって、イメージデータA、イメージデータB、及びイメージデータCを組み合わせて線量分布を解析する、
請求項3に記載の放射線量の線量分布の解析システム。
【請求項5】
クロミックフィルム及び透過型スキャナを用いた放射線量の線量分布を解析するプログラムであって、
放射線が照射されたクロミックフィルムを、透過型スキャナが走査される方向に対して、平行に複数の領域に分割し、それぞれの分割領域を、透過型スキャナのライン光源の中央部分で走査されるスキャナ面の中央走査部分に位置するように配置し、透過型スキャナを走査させ、ライン光源の中央部分を用いて、得られた分割領域のイメージデータを取り込み、それぞれのイメージデータを組み合わせて、線量分布を解析する、放射線量の線量分布の解析プログラム。
【請求項6】
(i)前記クロミックフィルムの複数の領域が、2つの分割領域A及び分割領域Bであって、得られた分割領域AのイメージデータA及び分割領域BのイメージデータBを組み合わせて線量分布を解析するか、又は
(ii)前記クロミックフィルムの複数の領域が、3つの分割領域A、分割領域B、及び分割領域Cであって、得られた分割領域AのイメージデータA、分割領域BのイメージデータB及び分割領域CのイメージデータCを組み合わせて線量分布を解析する、
請求項5に記載の放射線量の線量分布の解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線量の線量分布の解析法、解析システム及び解析プログラムに関する。本発明によれば、正確放射線量の線量分布を解析することができる。
【背景技術】
【0002】
放射線によるガン治療は、外科手術や抗ガン剤投与と共に、ガン療法の中で重要な役割を果たしている。放射線療法は、外科療法と同様に、ガン組織とその周辺のみを治療する局所治療である点で有利なだけでなく、外科療法のような臓器摘出が不要であり、臓器を温存することができる点で優れている。しかしながら、放射線治療においては、大量の放射線を病巣に照射する必要があるので、副作用を軽減ないし防止するために、ガン組織に対して最適な放射線量を照射してダメージを与え、一方では周囲の正常組織に対しては照射する放射線量をできる限り少なくして損傷を抑えることが求められる。
【0003】
例えば、放射線療法の1つである強度変調療法(IMRT)では、まず治療計画を作成して、患部に対して所定の吸収線量分布の放射線照射を正確に行うことができる照射条件を設定する必要があり、更に、このような治療計画の妥当性を、予め実験的に検証しておく必要がある。この場合、人体内部に線量計を挿入して試験的な線量測定を行うことはできないので、人体等価物質から構成される人体模型(すなわち、ファントム)内に、例えば、2次元用線量計を挿入して線量分布を解析する。
【0004】
線量分布解析に利用するために、ファントム内に挿入する2次元用線量計としては、クロミックフィルムが広く使用されている。このクロミックフィルムは、X線に感光すると、現像をせずに放射線画像を形成するという利点を有している。こうして得られた放射線画像からイメージスキャナーで光学濃度データを取得し、その光学濃度データから放射線照射量を決定することが可能となる。
【0005】
前記の光学濃度データから放射線照射量を決定するためには、光学濃度と放射線照射量との較正曲線(スタンダードカーブ)を予め作成しておく必要がある。クロミックフィルムは比較的高額であるため、その較正曲線は、例えば、以下の方法で作成されている。即ち、1枚のクロミックフィルムの複数個所に、複数種の放射線照射量で次々に放射線画像を形成し、それら放射線画像の光学濃度をスキャナで読み込み、放射線照射量と光学濃度との較正曲線を形成することができる。
【0006】
ところが、透過型クロミックフィルムに形成された放射線画像を透過型イメージスキャナーで走査して得られた光学濃度データには、読み取り位置の差異に依存して測定値の誤差が発生することが報告されており、走査方向に対する垂直方向に発生する誤差(非平坦性)に対して、その補正手段も提案されている(例えば、非特許文献1及び2)。また、クロミックフィルムにおいては、照射量の増加に伴って、トレンド成分(非平坦性成分)の傾きが変化するため、非照射時のベース成分(バックグラウンド値)とトレンド成分とを単純に差し引くだけでは、照射画像に関して平坦な濃度情報を得ることができないことも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-189311号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】上原隆三,外5名,“線量分布解析におけるラジオクロミックフィルムドジメトリーの正確性の向上に関する取り組み-フラットベッドスキャナの影響の補正方法と色成分を利用した補正方法の組み合わせ-”,日本放射線技術学会雑誌,2013年6月,Vol. 69,No. 6,p.617-631
【非特許文献2】鎌田茂義,外5名,“Flat Bed型スキャナ使用時の平坦度特性の改善”,[online],2015年11月19日,第7回ガフクロミックフィルム研究会,[平成28年3月4日検索],インターネット<URL:http://www.veritastk.co.jp/attached/5875/2_gafchromic.pdf#search='flatbed%E5%9E%8B%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%8A%E4%BD%BF%E7%94%A8+%E5%AE%AE%E6%B2%A2'>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、透過型クロミックフィルムの誤差を較正する手段を開発した(特許文献1)。しかしながら、より簡便な補正方法の開発が期待されていた。
従って、本発明の目的は、簡便な透過型クロミックフィルムの誤差を較正する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、簡便な透過型クロミックフィルムの誤差を較正する方法について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、クロミックフィルムを移動させてスキャンすることにより、簡便にクロミックフィルムを用いて、放射線量の線量分布を解析することができることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]クロミックフィルム及び透過型スキャナを用いた放射線量の線量分布の解析方法であって、(1)放射線が照射されたクロミックフィルムを、透過型スキャナが走査される方向に対して、平行に複数の領域に分割する工程、(2)クロミックフィルムのそれぞれの分割領域を、透過型スキャナのライン光源の中央部分で走査されるスキャナ面の中央走査部分に位置するように配置し、透過型スキャナを走査させ、ライン光源の中央部分を用いて、それぞれの分割領域のイメージデータを取得する工程、及び(3)ライン光源の中央部分により取得されたそれぞれの分割領域のイメージデータを組み合わせて、線量分布を解析する工程、を含む放射線量の線量分布の解析方法、
[2](i)前記クロミックフィルムの複数の領域が、2つの分割領域A及び分割領域Bであって、前記工程(2)において、ライン光源の中央部分を用いて分割領域AのイメージデータAを取得し、そしてライン光源の中央部分を用いて分割領域BのイメージデータBを取得し、前記工程(3)において、イメージデータA及びイメージデータBを組み合わせて線量分布を解析する、又は(ii)前記クロミックフィルムの複数の領域が、3つの分割領域A、分割領域B、及び分割領域Cであって、前記工程(2)において、ライン光源の中央部分を用いて分割領域AのイメージデータAを取得し、ライン光源の中央部分を用いて分割領域BのイメージデータBを取得し、そしてライン光源の中央部分を用いて分割領域CのイメージデータCを取得し、前記工程(3)において、イメージデータA、イメージデータB、及びイメージデータCを組み合わせて線量分布を解析する、[1]に記載の放射線量の線量分布の解析方法、
[3]クロミックフィルム及び透過型スキャナを用いた放射線量の線量分布の解析システムであって、(1)放射線が照射されたクロミックフィルムを、透過型スキャナが走査される方向に対して、平行に複数の領域に分割する手段、(2)クロミックフィルムのそれぞれの分割領域を、透過型スキャナのライン光源の中央部分で走査されるスキャナ面の中央走査部分に位置するように配置し、透過型スキャナを走査させ、ライン光源の中央部分を用いて、それぞれの分割領域のイメージデータを取得する手段、(3)ライン光源の中央部分により取得されたそれぞれの分割領域のイメージデータを組み合わせて、線量分布を解析する手段、を含む放射線量の線量分布の解析システム、
[4](i)前記クロミックフィルムの複数の領域が、2つの分割領域A及び分割領域Bであって、前記手段(2)によって、ライン光源の中央部分を用いて分割領域AのイメージデータAを取得し、そしてライン光源の中央部分を用いて分割領域BのイメージデータBを取得し、前記手段(3)によって、イメージデータA及びイメージデータBを組み合わせて線量分布を解析する、又は(ii)前記クロミックフィルムの複数の領域が、3つの分割領域A、分割領域B、及び分割領域Cであって、前記手段(2)によって、ライン光源の中央部分を用いて分割領域AのイメージデータAを取得し、ライン光源の中央部分を用いて分割領域BのイメージデータBを取得し、そしてライン光源の中央部分を用いて分割領域CのイメージデータCを取得し、前記手段(3)によって、イメージデータA、イメージデータB、及びイメージデータCを組み合わせて線量分布を解析する、[3]に記載の放射線量の線量分布の解析システム、
[5]クロミックフィルム及び透過型スキャナを用いた放射線量の線量分布を解析するプログラムであって、放射線が照射されたクロミックフィルムを、透過型スキャナが走査される方向に対して、平行に複数の領域に分割し、それぞれの分割領域を、透過型スキャナのライン光源の中央部分で走査されるスキャナ面の中央走査部分に位置するように配置し、透過型スキャナを走査させ、ライン光源の中央部分を用いて、得られた分割領域のイメージデータを取り込み、それぞれのイメージデータを組み合わせて、線量分布を解析する、放射線量の線量分布の解析プログラム、及び
[6](i)前記クロミックフィルムの複数の領域が、2つの分割領域A及び分割領域Bであって、得られた分割領域AのイメージデータA及び分割領域BのイメージデータBを組み合わせて線量分布を解析するか、又は(ii)前記クロミックフィルムの複数の領域が、3つの分割領域A、分割領域B、及び分割領域Cであって、得られた分割領域AのイメージデータA、分割領域BのイメージデータB及び分割領域CのイメージデータCを組み合わせて線量分布を解析する、[5]に記載の放射線量の線量分布の解析プログラム、
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の放射線量の線量分布の解析法、解析システム及び解析プログラムによれば、簡便に且つ正確にクロミックフィルムの放射線量の線量分布を解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】クロミックフィルムをフラットベッドスキャナでスキャンした場合の、平坦度(読み取り位置依存性)特性を示した図である。
図2】イメージデータ取得工程(2)において、クロミックフィルムを分割領域A、分割領域B、及び分割領域Cに分割してイメージデータを取得する操作を示した模式図である。
図3】イメージデータ取得工程(2)において、クロミックフィルムを分割領域A、分割領域B、及び分割領域Cに3分割してイメージデータを取得する操作を示した写真である。
図4】イメージデータ取得工程(2)において、クロミックフィルムを分割領域A、及び分割領域Bに2分割してイメージデータを取得する操作を示した模式図である。
図5】肺に放射線を照射し得られたクロミックフィルムから、イメージデータA、イメージデータB、及びイメージデータCを組み合わせて、放射線量の線量分布の解析した写真である。
図6】肺に放射線を照射し得られたクロミックフィルムから1つのイメージデータで放射線量を解析した写真(上部)、及び本発明の3つのイメージデータで放射線量を解析した写真(下部)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[1]放射線量の線量分布の解析法
本発明の放射線量の線量分布の解析法は、(1)放射線が照射されたクロミックフィルムを、透過型スキャナが走査される方向に対して、平行に複数の領域に分割する工程、(2)クロミックフィルムのそれぞれの分割領域を、透過型スキャナのライン光源の中央部分で走査されるスキャナ面の中央走査部分に位置するように配置し、透過型スキャナを走査させ、ライン光源の中央部分を用いて、それぞれの分割領域のイメージデータを取得する工程、及び(3)ライン光源の中央部分により取得されたそれぞれの分割領域のイメージデータを組み合わせて、線量分布を解析する工程、を含む。
【0014】
《クロミックフィルム》
本発明で用いられるクロミックフィルムは、透過型クロミックフィルムである限りにおいて、特に限定されるものではない。市販品としては、EBT4、EBT-XD(ベリタス社、アールテック社)が挙げられる。
【0015】
クロミックフィルムのサイズは特に限定されるものではないが、透過型クロミックフィルムとしてIMRT検証用として用いられる主な種類は以下のとおりである。
EBT4 0810:8インチx10インチ 0.1Gy~20Gy
EBT4 1317:13インチx17インチ 0.1Gy~20Gy
EBT4 XD:8インチx10インチ 0.1Gy~60Gy
【0016】
《透過型スキャナ》
本発明に用いる透過型スキャナは、特に限定されるものではなく、フラットベッドスキャナ、又はシートフィードスキャナが挙げられるが、フラットベッドスキャナが好ましい。 透過型スキャナの光源としては、キセノン蛍光ランプ、又は白色LEDが挙げられる。透過型スキャナのセンサーとしては、ラインカラーCCDが挙げられる。
市販されている透過型スキャナとして、ES-10000G(エプソン、現在は製造終了)、又はDS-G20000(エプソン)などを用いることができる。
【0017】
本発明者らは、クロミックフィルムを透過型スキャナでスキャンして、CCD配列方向における濃度ごとの読み取り位置依存性(平坦度特性)を測定した。
図1(A)に示すように、濃度にかかわらず、走査方向のライン光源の中央走査部分(-4~0~4)は、平坦であるが、ライン光源の両端の走査部分(-4~-12、及び4~12)は、平坦ではなく濃度によっては、ADC値が極端に低下することがあることを見出した。
すなわち、図1(B)に示すように、ライン光源3の中央部分4が、走査する中央走査部分2においては、誤差が見られない。しかしながら、ライン光源の中央部分から離れる両端の走査部分9は誤差があり、放射線量を正確に測定することができないことがあることを見出した。
本発明者らは、前記課題を解決するために、ライン光源3の中央部分4を用いて、クロミックフィルムをスキャンすることにより、放射線量を正確に測定することができると考えた。すなわち、図1(B)の透過型スキャナのスキャン面1のライン光源3の中央部分4がスキャンする中央走査部分2においてクロミックフィルムをスキャンすることによって、誤差がなく、放射線量を正確に測定できると考えた。
【0018】
透過型スキャナのスキャン面のサイズも特に限定されるものではないが、例えばDS-G20000を用いた場合、310×437mm(12.2×17.2インチ)が有効スキャン領域である。
ライン光源の中央部分4の長さも特に限定されるものではないが、例えば下限は50mm以上であり、ある態様では60mm以上であり、ある態様では70mm以上であり、ある態様では80mm以上であり、ある態様では90mm以上である。上限は、例えば150mm以下であり、ある態様では140mm以下であり、あり態様では130mm以下であり、ある態様では120mm以下であり、ある態様では110mm以下である。前記上限と下限とは、任意に組み合わせて中央部分4の長さの範囲とすることができる。例えば100mmであってもよい。前記範囲であることによって、読み取り位置依存性が平坦であり、正確に放射線量を測定することができる。また、中央走査部分の走査方向に垂直な辺の長さも、前記中央部分4の長さと同じである。
【0019】
《分割工程(1)》
本解析方法の分割工程(1)においては、放射線が照射されたクロミックフィルムを、透過型スキャナが走査される方向に対して、平行に複数の領域に分割する。「クロミックフィルムを、透過型スキャナが走査される方向に対して、平行に複数の領域に分割する」とは、例えば図2(A)に示すように、スキャン面1のライン光源の走査方向に平行に、分割領域A(5)、分割領域B(6)、及び分割領域C(7)に分けることを意味し、実際に切断する必要なない。後述の本発明のシステム又はプログラム上で、便宜的に分割してもよい。
前記クロミックフィルムの分割数は、クロミックフィルムを前記スキャナの中央走査部分2においてスキャンできる限りにおいて、特に限定されるものではなく、例えば2~100分割が挙げられる。しかしながら、具体的には2分割、3分割、4分割、又は5分割が使用され、好ましくは2~4分割であり、より好ましくは3分割である。具体的には、図2に示すように3分割したり、図4に示すように2分割すればよい。
前記分割された領域の走査方向に垂直な辺の長さは、特に限定されるものではないが、例えば下限は50mm以上であり、ある態様では60mm以上であり、ある態様では70mm以上であり、ある態様では80mm以上であり、ある態様では90mm以上である。上限は、例えば150mm以下であり、ある態様では140mm以下であり、あり態様では130mm以下であり、ある態様では120mm以下であり、ある態様では110mm以下である。前記上限と下限とは、任意に組み合わせて分割された領域の走査方向に垂直な辺の長さの範囲とすることができる。例えば100mmであってもよい。前記範囲であることによって、読み取り位置依存性が平坦であり、正確に放射線量を測定することができる。
【0020】
《イメージデータ取得工程(2)》
本解析方法のイメージデータ取得工程(2)においては、クロミックフィルムのそれぞれの分割領域を、透過型スキャナのライン光源の中央部分で走査されるスキャナ面の中央走査部分に位置するように配置し、透過型スキャナを走査させ、ライン光源の中央部分を用いて、それぞれの分割領域のイメージデータを取得する。以下に、限定されるものではないが、3分割の場合の実施態様及び2分割の場合の実施態様を例として説明する。
【0021】
(3つの分割領域の実施態様)
3つの分割領域の場合、図2及び3に示すように、クロミックフィルムを3つの分割領域A、分割領域B、及び分割領域Cに分割する。そして、ライン光源の中央部分を用いて分割領域AのイメージデータAを取得し、ライン光源の中央部分を用いて分割領域BのイメージデータBを取得し、そしてライン光源の中央部分を用いて分割領域CのイメージデータCを取得する。
具体的には、図2(A)又は図3(A)に示すように、クロミックフィルム8の分割領域A(5)をスキャナ面1の中央操作部分2に配置し、透過型スキャナを走査させ、ライン光源の中央部分4を用いて、分割領域A(5)のイメージデータAを取得する。次に、図2(B)又は図3(B)に示すように、クロミックフィルム8の分割領域B(6)をスキャナ面1の中央操作部分2に配置し、透過型スキャナを走査させ、ライン光源の中央部分4を用いて、分割領域B(6)のイメージデータBを取得する。次に、図2(C)又は図3(C)に示すように、クロミックフィルム8の分割領域C(7)をスキャナ面1の中央操作部分2に配置し、透過型スキャナを走査させ、ライン光源の中央部分4を用いて、分割領域C(7)のイメージデータCを取得する。
【0022】
(2つの分割領域の実施態様)
2つの分割領域の場合、図4に示すように、クロミックフィルムを2つの分割領域A、及び分割領域Bに分割する。そして、ライン光源の中央部分を用いて分割領域AのイメージデータAを取得し、そしてライン光源の中央部分を用いて分割領域BのイメージデータBを取得する。
具体的には、図4(A)に示すように、クロミックフィルム8の分割領域A(5)をスキャナ面1の中央操作部分2に配置し、透過型スキャナを走査させ、ライン光源の中央部分4を用いて、分割領域A(5)のイメージデータAを取得する。次に、図4(B)に示すように、クロミックフィルム8の分割領域B(6)をスキャナ面1の中央操作部分2に配置し、透過型スキャナを走査させ、ライン光源の中央部分4を用いて、分割領域B(6)のイメージデータBを取得する。
【0023】
4つの分割領域の場合、分割領域が、分割領域A~Dになり、得られるイメージデータがイメージデータA~Dになることを除いては、同様に実施することができる。5つ以上の分割領域の場合も同様である。
【0024】
《線量分布解析工程(3)》
本解析方法の線量分布解析工程(3)においては、ライン光源の中央部分により取得されたそれぞれの分割領域のイメージデータを組み合わせて、線量分布を解析する。
例えば、3分割の場合、前記工程(2)で得られたイメージデータA、イメージデータB、及びイメージデータCを組み合わせて線量分布を解析する。例えば、図5は、肺に放射線を照射し、得られたクロミックフィルムから、イメージデータA、イメージデータB、及びイメージデータCを前記工程(2)に従って取得したものである。右の写真に示すように、クロミックフィルムの上部のイメージデータA、クロミックフィルムの中央のイメージデータB、及びクロミックフィルムの下部のイメージデータCを組み合わせて、照射線量を解析する。
図6は、1つのイメージデータで放射線量を解析した写真(上部)、及び本発明の3つのイメージデータで放射線量を解析した写真(下部)である。従来の1つのイメージデータ解析した場合、合致率は60.344%であるか、本発明の3つのイメージデータで解析した場合、合致率は98.781%であった。
【0025】
第1に、ライン光源の中央部分を用いて、クロミックフィルムの分割領域Aをスキャンする。次に、ライン光源の中央部分を用いて、クロミックフィルムの分割領域Bをスキャンする。次に、ライン光源の中央部分を用いて、クロミックフィルムの分割領域Cをスキャンする。すべての分割領域を、ライン光源の中央部分を用いてクロミックフィルムをスキャンしているため、クロミックフィルムの分割領域A、分割領域B、分割領域のADC値はいずれも平坦であり、低下することがない。
従って、イメージデータA、イメージデータB、イメージデータCを組み合わせることによって、正確なクロミックフィルムの放射線量の線量分布を取得することができる。
【0026】
また、2分割の場合前記工程(3)において、イメージデータA及びイメージデータBを組み合わせて線量分布を解析する。さらに、4分割の場合前記工程(3)において、イメージデータA、イメージデータB、イメージデータC及びイメージデータDを組み合わせて線量分布を解析する。さらに、5分割の場合前記工程(3)において、イメージデータA、イメージデータB、イメージデータC、イメージデータD、及びイメージデータEを組み合わせて線量分布を解析する。
【0027】
本発明の放射線量の線量分布の解析方法は、以下のように実施すると考えることもできる。以下に3分割の場合を説明する。
放射線量の線量分布の解析法は、クロミックフィルム及び透過型スキャナを用い、(i)放射線が照射されたクロミックフィルムに対して透過型スキャナを走査させ、透過型スキャナのライン光源の中央部分の走査により取得された、クロミックフィルムの中央領域データを含む第1のイメージデータ(イメージデータB)を取得する工程、(ii)前記クロミックフィルムをスキャナの走査方向に対して垂直方向に移動することによって、クロミックフィルムの一方の端部領域が透過型スキャナのライン光源の中央部分に位置するように配置し、透過型スキャナを走査させ、透過型スキャナのライン光源の中央部分の走査により取得された一方の端部領域データを含む第2のイメージデータ(イメージデータA)を取得する工程、(iii)前記クロミックフィルムをスキャナの走査方向に対して垂直方向に移動することによって、クロミックフィルムの他方の端部領域が透過型スキャナのライン光源の中央部分に位置するように配置し、透過型スキャナを走査させ、透過型スキャナのライン光源の中央部分の走査により取得された他方の端部領域データを含む第3のイメージデータ(イメージデータC)を取得する工程、及び(iv)前記第1のイメージデータの中央領域データ(イメージデータB)、第2のイメージデータの一方の端部領域データ(イメージデータA)、及び第3のイメージデータの他方の端部領域データ(イメージデータC)を組み合わせて、線量分布を解析する工程、を含む。
【0028】
[2]放射線量の線量分布の解析システム
本発明の放射線量の線量分布の解析システムは、クロミックフィルム及び透過型スキャナを用いた放射線量の線量分布の解析システムであって、(1)放射線が照射されたクロミックフィルムを、透過型スキャナが走査される方向に対して、平行に複数の領域に分割する手段、(2)クロミックフィルムのそれぞれの分割領域を、透過型スキャナのライン光源の中央部分で走査されるスキャナ面の中央走査部分に位置するように配置し、透過型スキャナを走査させ、ライン光源の中央部分を用いて、それぞれの分割領域のイメージデータを取得する手段、(3)ライン光源の中央部分により取得されたそれぞれの分割領域のイメージデータを組み合わせて、線量分布を解析する手段、を含む。
本発明の放射線量の線量分布の解析システムにおいて、「クロミックフィルム」、「透過型スキャナ」、「分割領域」、「イメージデータ」等は、前記「[1]放射線量の線量分布の解析法」の項に記載のものと同じである。本発明の放射線量の線量分布の解析システムは、透過型スキャナ、コンピュータ、プログラム等を含んでもよい。
【0029】
[3]放射線量の線量分布の解析プログラム
本発明の放射線量の線量分布の解析プログラムは、クロミックフィルム及び透過型スキャナを用いた放射線量の線量分布を解析するプログラムであって、放射線が照射されたクロミックフィルムを、透過型スキャナが走査される方向に対して、平行に複数の領域に分割し、それぞれの分割領域を、透過型スキャナのライン光源の中央部分で走査されるスキャナ面の中央走査部分に位置するように配置し、透過型スキャナを走査させ、ライン光源の中央部分を用いて、得られた分割領域のイメージデータを取り込み、それぞれのイメージデータを組み合わせて、線量分布を解析する。
本発明の放射線量の線量分布の解析プログラムにおいて、「クロミックフィルム」、「透過型スキャナ」、「分割領域」、「イメージデータ」等は、前記「[1]放射線量の線量分布の解析法」の項に記載のものと同じである。本発明の放射線量の線量分布の解析プログラムは、記憶媒体に保存されてよく、コンピュータ等により作動するものである。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の放射線量の線量分布の解析法、解析システム及び解析プログラムは、クロミックフィルムを用いた、放射線量の線量分布の解析に容易に用いることができる。
【符号の説明】
【0031】
1・・・スキャナ面;
2・・・中央走査部分;
3・・・ライン光源;
4・・・ライン光源の中央部分;
5・・・分割領域A;
6・・・分割領域B;
7・・・分割領域C;
8・・・クロミックフィルム;
9・・・両端の走査部分;
図1
図2
図3
図4
図5
図6