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  • 特開-植物栽培用培地 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162638
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】植物栽培用培地
(51)【国際特許分類】
   A01G 24/30 20180101AFI20241114BHJP
   A01G 31/00 20180101ALI20241114BHJP
【FI】
A01G24/30
A01G31/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078355
(22)【出願日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】田垣内 良一
(72)【発明者】
【氏名】北原 由佳理
【テーマコード(参考)】
2B022
2B314
【Fターム(参考)】
2B022BA23
2B022BB02
2B314PC11
2B314PC26
(57)【要約】
【課題】種苗から収穫されるまでの間、長期間に亘ってアオコ等の苔藻類の発生を防ぐことができるとともに、軽量で水との親和性が高く取扱い性にも優れ、植物の養液栽培や水耕栽培に好適に使用される植物栽培用培地を提供する。
【解決手段】植物栽培用培地であって、遠赤外線放射性粒子を含有する遠赤外線放射繊維と、熱接着性繊維とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物栽培用培地であって、遠赤外線放射性粒子を含有する遠赤外線放射繊維と、熱接着性繊維とを含むことを特徴とする植物栽培用培地。
【請求項2】
前記粒子において、遠赤外線放射率が波長4.5~30μmの領域で平均65%以上の遠赤外線放射特性を呈する、請求項1に記載の植物栽培用培地。
【請求項3】
前記遠赤外線放射繊維が芯鞘型ポリエステル複合繊維であって、該芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部に前記粒子が含まれる、請求項1に記載の植物栽培用培地。
【請求項4】
植物栽培用培地に、さらに単繊維繊度が1dtex以上でかつ自重の20倍以上の吸水特性を有する吸水繊維が含まれる、請求項1に記載の植物栽培用培地。
【請求項5】
水浴に培地を入れた際の沈降までの時間が10分以下である、請求項1~4のいずれかに記載の植物栽培用培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養液栽培や水耕栽培等に用いられる有機繊維で成形された培地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、植物を養液にて栽培するための人工的な培地が種々提案されている。例えば、ウレタンフォームなど発泡樹脂の表面に切れ込みを入れ、その中に種子を入れて発芽するまでの初期栽培用培地として一般的に使用されている(例えば特許文献1)。しかしながら、発泡樹脂は多数の微小な発泡空間を有し、発泡空間はそれぞれ独立して存在しており、多数の空間が連続された構成とはなっていないため、植物の根の成長を伴う植物栽培用培地としては適していない。
【0003】
一方、植物の根の成長を伴う植物栽培用培地として、ロックウールなどの鉱物繊維を成形したものが使用されている。ロックウールは鉱物由来の繊維で、細い繊維で構成されており、培地内部に多数の微細空間があり保水性に優れる。かかる鉱物繊維は極めて細い繊維で構成されていることから脆いという特性があり、植物の根が成長する際に、鉱物繊維の培地を容易に根が貫通し、果実や野菜の栽培用培地として広く使用されてきた。しかしながら、細い繊維で構成されているため極めて高い吸水性を要しており、溶液栽培や水耕栽培用に使用した場合、生育中に培地表面にアオコが発生し、このアオコを食するハエが植物に集まり、栽培する植物の病気の原因になったり、野菜などの商品(収穫物)にハエが付着するといった問題が生じている、そしてその対策として、培地の外表面部の一部を撥水面にしたり(特許文献2)、シリコーン系撥水剤の塗布膜を繊維表面に形成する(特許文献3)などの工夫がなされてきた。
【0004】
しかしながら、これらの培地では、効果が短くアオコ等の苔藻類が発生を完全に抑制することが困難であった。また、実際に培地を(初期)使用する際には水を満たした浴中に培地を浸すなどして、培地内部まで水を浸透させて用いる必要があるが、これらの培地では水に馴染み難く、手で水中に沈降させるなど余計な作業手間が増えるなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62-205723号公報
【特許文献2】特開平10-084768号公報
【特許文献3】特開2015-057047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、アオコ等の苔藻類の発生を抑制し、また、軽量で水との親和性が高く取り扱い性にも優れた植物栽培用培地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねることにより、本発明を完成するに至った。かくして、本発明によれば、以下の発明が提供される。
1.植物栽培用培地であって、遠赤外線放射性粒子を含有する遠赤外線放射繊維と、熱接着性繊維とを含むことを特徴とする植物栽培用培地。
2.前記粒子において、遠赤外線放射率が、波長4.5~30μmの領域で平均65%以上の遠赤外線放射特性を呈する、上記1に記載の植物栽培用培地。
3.前記遠赤外線放射繊維が芯鞘型ポリエステル複合繊維であって、該芯鞘型ポリエステル複合繊維の鞘部に前記粒子が含まれる、上記1または2に記載の植物栽培用培地。
4.植物栽培用培地に、さらに単繊維繊度が1dtex以上でかつ自重の20倍以上の吸水特性を有する吸水繊維が含まれる、上記1~3のいずれかに記載の植物栽培用培地。
5.水浴に培地を入れた際の沈降までの時間が10分以下である、上記1~4のいずれかに記載の植物栽培用培地。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、種苗から収穫されるまでの間、長期間に亘ってアオコ等の苔藻類の発生を防ぐことができるとともに、軽量で水との親和性が高く取扱い性にも優れ、植物の養液栽培や水耕栽培に好適に使用される植物栽培用培地を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】養液を循環しながら培地に点滴潅水し栽培する様子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。まず、本発明の植物栽培用培地は、遠赤外線放射特性を呈する粒子を含有する遠赤外線放射繊維と、熱接着性繊維とを含む。
【0011】
ここで、前記粒子において、遠赤外線放射率が波長4.5~30μmの領域で平均65%以上の遠赤外線放射特性を呈することが好ましい。かかる遠赤外線放射性粒子としては、例えば、アルミナ(Al)系、マグネシウム(MgO)系、ジルコニア(ZrO)系、チタニア(TiO)系の他、二酸化珪素(SiO)、酸化クロム(Cr)、フェライト(Feo・Fe)、スピネル(MgO・Al)、セリア(CeO)、ベリリア(BeO)、ケイ酸ジルコニウム等が上げられる。
【0012】
また、含有せしめる遠赤外線放射性セラミックス(粒子)は微粉砕して、その一次粒子径が0.2~5μm(より好ましくは0.2~1μm)にして使用するのが好ましい。0.2μm未満では凝集が発生し繊維中での分散が困難になるおそれがある。一方、5μmを越えると曵糸性が低下し、かつ繊維物性が低下するおそれがある。
【0013】
前記の遠赤外線放射性粒子を含有させる熱可塑性ポリマーとしては繊維形成能を有するものであれば特に限定されないが、最終的に得られる製品の諸特性より、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、またはこれらの共重合体などのポリエステル系ポリマーが好ましい。
【0014】
前記熱可塑性ポリマー中において遠赤外線放射性粒子の含有量が3~30重量%、好ましくは5~15wt%とすることが好ましい。含有量が3重量%未満の場合には遠赤外線放射効果が不十分で、植物育成効果やアオコの発生の抑制など満足すべき性能は得られないおそれがある。一方、30重量%を越える場合には、複合繊維の曵糸性が著しく低下して繊維形成が困難となるだけでなく、繊維物性も劣ったものとなるおそれがある。
【0015】
前記遠赤外線放射繊維は複合繊維であることが好ましい。特に、複合繊維を構成する2成分がポリエステル系ポリマーからなることが好ましい。なお、本発明でいう複合繊維とは合成繊維の製造において2種以上のポリマーを同一の口金孔から同時に押し出すことで得られるもので、そのポリマーの配置は偏心芯鞘構造またはサイドバイサイド構造であり、紡糸・延伸後に捲縮を付与することで得られる。ポリマーの位置を偏心芯鞘構造とした場合は鞘部のポリマーに該遠赤外線放射性粒子を混合し、鞘部の繊維表面に遠赤外線放射性粒子を露出している芯鞘構造の複合繊維であることが好ましい。また、ポリマーの配置がサイドバイサイド構造の場合は、そのどちらか片方に遠赤外線放射性粒子を混合する。
【0016】
前記遠赤外線放射繊維において、その単繊維繊度が0.1~30dtexであることが好ましく、2~10dtexがより好ましい。遠赤外線放射繊維の単繊維繊度が0.1dtexに満たないと、培地中に含まれる繊維本数が増え繊維間隙が小さくなり、保水性が高くなりすぎると共に、植物の生育と共に成長する根の広がりを抑制する方向となるため不適となるおそれがある。一方、30dtexを超えると培地の保水性が減り、植物に与える水量が減り植物の生育に支障が生じるおそれがある。繊維長としては、20~80mmの範囲内であることが好ましい。
【0017】
なお、前記遠赤外線放射繊維が遠赤外線を放射することにより、水の改質や生体の活性化などが生じ、抗菌性や繊度保持機能が増大され、ひいてはアオコの発生の抑制や果実収穫量、食味が向上すると考えられる。
【0018】
本発明において、前記遠赤外線放射繊維と、当該繊維より融点が低い成分を有する熱接着繊維を含むことにより、熱接着繊維の熱接着作用によって形態が保持される。かかる熱接着性繊維は、その単繊維繊度が0.1~10dtexであることが好ましく、1~5dtexがより好ましい。単繊維繊度が0.1dtex未満では、繊維本数が増え保水性は向上するが、根の広がりを抑制する方向となるため不適となるおそれがある。一方、10dtexを超えると、保水性が低下し不適となるおそれがある。
【0019】
前記熱接着性繊維において、融点は、前記遠赤外線放射繊維の融点よりも30℃以上低いことが好ましく、さらには40℃以上(より好ましくは40~200℃)低いことがより好ましい。融点の差が30℃よりも小さいと熱風などにより熱接着性繊維の熱接着性ポリマーを融解させるとき、遠赤外線放射繊維のポリマーの部分溶融が生じてしまい、培地の繊維間隙が小さくなり不適となるおそれがある。
【0020】
前記熱接着性繊維を形成するポリマーは、単一ポリマーであってもよく、鞘ポリマーが芯ポリマーより30℃以上(より好ましくは30~200℃)低い融点または軟化点からなる芯鞘型複合繊維等の多成分ポリマーからなる複合繊維であってもよいが、熱接着時の寸法変形がしにくいことや、接触点の熱接着形状が繊維束状や塊状になりにくい点から、芯鞘型複合繊維または偏芯芯鞘型複合繊維が特に好ましく用いられる。なお、熱接着性繊維を構成するポリマーは、融点をもつ結晶性ポリマーであってもよいし、明確な融点をもたない非晶性ポリマーであってもよい。具体的な熱接着性繊維を構成する、融点または軟化点の差が30℃以上のポリマーとしては、何ら制限を受けないが、イソフタル酸やアジピン酸、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールを共重合したポリエチレンテレフタレート等のポリエステル類、ポリエチレンやポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体、無水マレイン酸変性ポリエチレンなどのポリオレフィン類、ポリアミド6やポリアミド11等の脂肪族ポリアミド類などが例示される。
【0021】
本発明の植物栽培用培地において、その保水性や根付け性を満たすため、前記遠赤外線放射繊維と熱接着性繊維のほかに、さらに第3の繊維として単繊維繊度が1dtex以上(より好ましくは5~30dtex)でかつ自重の20倍以上(より好ましくは30~100倍)の吸水特性を有する吸水繊維を用いることが好ましい。植物栽培用培地の保水性を向上させる手段としては、例えば細繊度繊維を用いて当該培地内の繊維本数を増やし多数の繊維間隙を有することでその保水性を上げる方法があるが、植物の根の広がりを抑制する方向となるため不適となるおそれがある。従って、第3の繊維としては、根の広がりを抑制することがない様に、前記の吸水特性を有する吸水繊維を用いることが好ましい。繊維長としては、20~80mmの範囲内であることが好ましい。
【0022】
前記のような吸水繊維は、特に限定されないが、でんぷんグラフト系や、ポリアクリル酸系、ポリビニルアルコール系等のポリマーを架橋することによって得られる高吸水性ポリマーや、ポリアルキレンオキシド単位を含む熱可塑性吸水性ポリマーなどの高吸水性ポリマーから紡糸された吸水繊維などを例示することが出来る。高吸水性ポリマーは自重の数百倍から約千倍までの水を吸収、保持できる。特に、アクリル酸の重合体はカルボキシル基を多数持つために非常に親水性が高く、さらに網目構造に架橋させナトリウム塩の形とすると高い吸水性を持つゲルとなり、優れた特性を示すことが知られている。本発明に用いられる吸水繊維は高吸水性ポリマーからなり、繊維としての機能と高吸水性ポリマーの機能を併せ持つ吸水膨潤性を有する繊維である。
【0023】
前記のような吸水繊維は、繊維状であるため植物栽培用培地内部に均一に配合配置させることができること、一方で単繊維繊度が大きいことから通常の単繊維繊度を有する繊維に比べて培地内に含まれる繊維本数が少なく、培地として高い保水性を有しながら植物の根の広がりを抑制することがなく有用である。高吸水性ポリマーが粒子状で不織布中に分散されている場合に比べても、分散配置されていることから、吸水し膨潤した状態でも繊維間の空隙は保たれ易いと考えられる。
【0024】
また、前記吸水繊維は、繊維状で植物栽培用培地内部に均一に配置されているため局所的には保水量が多い部分はあるが、培地表面は乾燥し易く、アオコなど藻類が発生し難いという点で有用である。
【0025】
本発明の植物栽培用培地を製造する方法は、特に限定されず、従来公知の方法を任意に採用すればよい。例えば、前記の繊維を混綿し、ローラーカードにより均一なウエブとして紡出した後、常法により積層した後、加熱処理するとよい。
【0026】
かくして得られた植物栽培用培地において、嵩密度は0.010~0.030g/cmであることが好ましい。嵩密度が0.03g/cmを越えて植物栽培用培地の重量が増えると、単繊維繊度の大きい繊維を用いても当該培地内の繊維隙間が小さくなりすぎて根の広がり方に支障が出ること、さらに当該培地内部への水の初期の浸透性が悪くなりすぎ不適であるおそれがある。一般的に繊維構造体の密度が大きいほど毛管現象が生じやすく水の浸透性が良いとされるが、植物栽培用の培地のように厚みが5~10cmの繊維構造物に関しては毛管現象による水の浸透高さは限定的である。また細かな繊維間隙に含まれる空気が抜けずに、水(養液)が培地全体に広がらないという観点から、嵩密度は0.030g/cm以下であることが好ましい。一方で嵩密度が0.010g/cm未満の場合、保水量が低下しすぎると共に、植物が育つまで固定化する土台としての培地特性(剛性)が失われるため不適となるおそれがある。
【0027】
なお本発明の植物栽培用培地は、水浴に培地を入れた際にその沈降までの時間が10分以下であることが好ましい。水に馴染み難く沈降時間が10分を超える場合、実際に保水させた状態での使用する植生用培地としては農業従事者の作業効率を抑制し不適となるおそれがある。
【0028】
本発明の植物栽培用培地の形状としては立方体状、直方体状、円柱状等を挙げることができ、育苗時に一定スペースに多数の培地を配置して効率的に栽培できることから、立方体状または直方体状のものが好ましい。
【0029】
また、一部の面に播種用の孔が穿孔されてなるものが好ましく、上記播種用の孔は、植物栽培用培地は予め穿孔されてなるものであってもよい。植物栽培用培地形成時の加熱処理時に予め穿孔する様に成形加工したものであることが好ましい。
【0030】
本発明によれば、収穫物が収穫されるまでの間等、長期間に亘ってアオコ等の苔藻類の発生を防ぐことができるとともに、軽量で水(養液)が内層部まで浸透し易く、取扱い性や、植物の生育性に優れ、特に養液栽培または水耕栽培に好適に使用し得る。従来の培地はその側面をポリエチレンフィルム等の樹脂フイルムで包被し、培地形態保形性の向上や、光を遮蔽しアオコの発生を抑制する必要があったが、本発明の植物栽培用培地は、形態保持性が良くまたフイルムの包被が不要であり取扱い性に優れる。
【0031】
なお、本発明の植物栽培用培地の使用時の方向性は特に限定されず、繊維方向を天地方向に方向つけて設置してもよいし、天地と垂直になる方向で設置してもよい。本発明者らの実験によれば、例えば繊維方向を天地方向に方向つけて設置し栽培したものと、天地と垂直になる方向で設置した場合にて、ミニトマトを用いて根の広がり方や果実の栽培量の調査を行ったところ、明確な差はなかった。
【実施例0032】
以下に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0033】
(1)単繊維繊度
JIS L1015 8.5.1 A法に記載の方法により測定した。
【0034】
(2)繊維長
JIS L1015 8.4.1 A法に記載の方法により測定した。
【0035】
(3)融点
DuPont社製 熱示差分析計990型を使用し、約3gのポリマーを2枚のカバーガラスに挟み、ピンセットで軽く押さえながら昇温20℃/分で測定し、融解ピークをもとめた。融解温度が明確に観測されない場合には、微量融点測定装置(柳本製作所製)を用い、ポリマーが軟化して流動を始めた温度(軟化点)を融点とした。
【0036】
(4)密度
JIS L1913により厚さと目付けを測定し密度を算出した。
【0037】
(5)栽培試験
得られた植物栽培用培地を、繊維方向を天地方向に方向つけ、その下部に水を溜めたバットに浸漬させて十分に吸水させた後、その上面に予め設けた約30mmφの有孔部にミニトマト(CF千果:プラグ苗)の苗を移植した。移植した状態で、25℃60%RHに設定した人工気象器(LPH-240SP:日本医化器械製作所)内にバット毎移設し、図1に示す様に、養液受けに貯めた一定濃度の養液をポンプアップし、培地に刺した点滴ノズルから点滴潅水させた。なお点滴潅水後、培地を通過した養液は再び養液受けに貯留され、再度ポンプアップする循環型の養液栽培を行った。
【0038】
なお、液肥は、園芸試験場処方(園試処方、均衡培養液)の1/3の濃度になるように調製したものを使用し、バット下に配した養液受けから、一定量、一定濃度になる様に調整した養液をポンプアップし、点滴ノズルから培地に点滴潅水を行う方法で、日長時間12時間、約90日の間で経過観察を行った。
なお、潅水頻度は、生育状況に合わせて微調整したが、明期は時間当たり1~2単位、暗期は3時間あたり1単位の頻度で、凡そ1日23単位で潅水を実施した。
試験に使用した培地の仕様を表1に示すとともに、栽培後7日、14日、30日、90日経過後の培地のアオコの発生状況と、90日間におけるミニトマトの収穫量、品質、等級を調査した結果を表1に示す。
【0039】
なお、植物栽培用培地の水浸透性、アオコの発生状況、ミニトマトの収穫量、品質、等級を以下の基準で評価した。
(保水量)
植物栽培用培地を浮かない様に水中に20分間浸漬。浸漬後金網の上で1分間余剰水を除去した後に重量を測定し、初期重量との差から保水量を算出した。
(水浸透性)
水浴中に植物栽培用培地全体が水に浸かる様に手で軽く上から10秒間抑えた後、手を放し、10分間放置した際の沈降有無を判定した。
〇:沈降した
×沈降せず浮いたまま
(アオコの発生状況)
〇:培地の上面および側面4部の何れもアオコの発生なし
×:上面、側面の何れかにアオコ発生
(果実収穫指数)
収量特性について、一株あたりの完熟したトマト果実の個数を測定した。
(糖酸比)
全体が赤く色づいた果実を5個づつ採取し、5果をまとめて搾汁し、糖度と酸度の比である糖酸比を糖酸度計(PAL-BX|ACID F5、株式会社アタゴ)で測定した。
(果実等級)
収穫した果実の大きさの等級分布を、広島県の出荷規格基準(階級:2L,L,M,S)を用いて評価し、取引価格が比較的高値となるL等級の個数を測定した。
【0040】
[実施例1]
芯鞘構造の複合繊維において、芯部の繊維形成重合体としてポリエチレンテレフタレート、鞘部の繊維形成重合体としてポリエチレンテレフタレートを用い、さらに、酸化チタン48重量%、ケイ酸ジルコニウム12重量%、ポリエステル40重量%で構成された樹脂チップを、鞘部ポリマー100重量部に対し16重量部溶融ブレンドし、その後290℃のポリマー温度で吐出重量比が50:50になるよう芯・鞘複合紡糸装置を用いて紡糸延伸し、単繊維繊度6.6dtex、繊維長51mmの遠赤外線放射繊維(融点256℃)を得た。
【0041】
得られた遠赤外線放射繊維と、単繊維繊度2.2dtex、繊維長51mmの芯鞘型複合熱接着繊維(芯:融点256℃のポリエチレンテレフタレート、鞘:テレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコールおよびジエチレングリコールを主成分とする軟化点110℃の共重合ポリエステル)を75:25の重量比率で混綿し、ローラーカードを通して、クロスラッパーで積層した後、熱風熱処理機にて150℃×1分間処理し、ウエブを得た。
【0042】
得られたウエブの繊維方向が天地方向と垂直になる様にして重ねて成形金型内に配設し、仕上がり密度が20kg/mになる様に圧締した状態で、190℃で15分加熱し繊維構造体を得た。得られた繊維構造体を、10cm×10cm×10cmになる様に裁断し、植物栽培用培地を得た。なお得られた培地を用いて植物の栽培をする際の培地の繊維向きは天地方向で垂直になる様に配置した。培地の諸性能を表1に示す。
【0043】
[実施例2]
実施例1において、仕上がり密度が30kg/mになる様にウエブの重ね枚数を変えた状態で圧締し繊維構造体を得た以外は実施例1と同様にして、密度30kg/mの植生栽培用培地を得た。得られた培地の諸性能を表1に示す。
【0044】
[実施例3]
実施例1で得られた植物栽培用培地で、植物の栽培をする際の培地の繊維向きを天地方向で並行になる様に設置した以外は実施例1と同様にして、培地の諸性能を調査した。結果を表1に示す。
【0045】
[実施例4]
実施例2で得られた植物栽培用培地で、植物の栽培をする際の培地の繊維向きを天地方向で並行になる様に設置した以外は実施例1と同様にして、培地の諸性能を調査した。結果を表1に示す。
【0046】
[実施例5]
実施例2において、第3の繊維として、帝人フロンティア(株)製「ベルオアシス(登録商標)」(架橋ポリアクリル酸ナトリウム系繊維、吸水率(自重の50倍)、単繊維繊度10dtex、5mm)を吸水繊維として加え、遠赤外線放射繊維と芯鞘型複合熱接着繊維と吸水繊維とを65:25:10の重量比率で混綿した以外は実施例2と同様にして、密度が30kg/mの植生培地を得た。得られた培地の諸性能を表1に示す。
【0047】
[比較例1]
多孔質無機系成形体として、10cm×10cm×10cmのブロック形状を有する培地1(ロックウール培地、商品名:カルチャーマット、日本ロックウール(株)製)を用いた。当該培地の諸性能を表1に示す。
【0048】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、種苗から収穫されるまでの間、長期間に亘ってアオコ等の苔藻類の発生を防ぐことができるとともに、軽量で水との親和性が高く取扱い性にも優れ、植物の養液栽培や水耕栽培に好適に使用される植物栽培用培地が提供され、その工業的価値は極めて大である。
図1