(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162642
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】弾性波装置
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20241114BHJP
H03H 9/145 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H03H9/145 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078365
(22)【出願日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩本 英樹
【テーマコード(参考)】
5J097
【Fターム(参考)】
5J097AA13
5J097AA14
5J097AA19
5J097AA21
5J097BB02
5J097BB11
5J097DD29
5J097EE08
5J097FF04
5J097FF05
5J097GG03
5J097GG04
5J097GG07
5J097HA03
5J097KK03
5J097KK09
(57)【要約】
【課題】比帯域を容易に調整することができる、弾性波装置を提供することができる。
【解決手段】本発明の弾性波装置1は、支持基板2と、支持基板2上に直接的または間接的に設けられている圧電性部材層6と、圧電性部材層6上に設けられているIDT電極12とを備える。圧電性部材層6は、少なくとも1層の回転Yカットのタンタル酸リチウム層7と、少なくとも1層の回転Yカットのニオブ酸リチウム層8とを含む。タンタル酸リチウム層7及びニオブ酸リチウム層8は交互に積層されている。タンタル酸リチウム層7及びニオブ酸リチウム層8の合計の層数が3層以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
前記支持基板上に直接的または間接的に設けられている圧電性部材層と、
前記圧電性部材層上に設けられているIDT電極と、
を備え、
前記圧電性部材層が、少なくとも1層の回転Yカットのタンタル酸リチウム層と、少なくとも1層の回転Yカットのニオブ酸リチウム層と、を含み、前記タンタル酸リチウム層及び前記ニオブ酸リチウム層が交互に積層されており、前記タンタル酸リチウム層及び前記ニオブ酸リチウム層の合計の層数が3層以上である、弾性波装置。
【請求項2】
前記圧電性部材層の厚み方向において隣り合う、前記タンタル酸リチウム層及び前記ニオブ酸リチウム層のカット角の差の絶対値が、0.5°以下である、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項3】
前記圧電性部材層における前記タンタル酸リチウム層及び前記ニオブ酸リチウム層の合計の層数が、10層以上、100層以下である、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項4】
前記圧電性部材層における前記タンタル酸リチウム層及び前記ニオブ酸リチウム層の合計の層数が、30層以上、100層以下である、請求項3に記載の弾性波装置。
【請求項5】
前記支持基板及び前記圧電性部材層の間に設けられており、材料として酸化ケイ素が用いられている層を含む中間層をさらに備える、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項6】
前記支持基板の材料としてシリコンが用いられている、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項7】
前記圧電性部材層上に、前記IDT電極を覆うように設けられている誘電体膜をさらに備える、請求項1に記載の弾性波装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、弾性波装置は携帯電話機のフィルタなどに広く用いられている。下記の特許文献1には、弾性波装置の一例が開示されている。この弾性波装置においては、支持基板上に積層体が設けられている。積層体上にIDT(Interdigital Transducer)電極が設けられている。積層体は、タンタル酸リチウム圧電体層及びニオブ酸リチウム圧電体層を1層ずつ含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フィルタ装置に弾性波装置を用いる場合、フィルタ装置の通信Bandによって、弾性波装置における最適な比帯域は異なる。しかしながら、特許文献1に記載の弾性波装置においては、比帯域を十分に広くすることは困難である。そのため、弾性波装置の比帯域を、フィルタ装置にとって適した値に調整することが困難な場合がある。
【0005】
本発明の目的は、比帯域を容易に調整することができる、弾性波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る弾性波装置は、支持基板と、前記支持基板上に直接的または間接的に設けられている圧電性部材層と、前記圧電性部材層上に設けられているIDT電極とを備え、前記圧電性部材層が、少なくとも1層の回転Yカットのタンタル酸リチウム層と、少なくとも1層の回転Yカットのニオブ酸リチウム層とを含み、前記タンタル酸リチウム層及び前記ニオブ酸リチウム層が交互に積層されており、前記タンタル酸リチウム層及び前記ニオブ酸リチウム層の合計の層数が3層以上である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、比帯域を容易に調整することができる、弾性波装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の一部を示す模式的正面断面図である。
【
図2】
図1の一部を拡大して示す模式的正面断面図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の模式的平面図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態、第1の比較例及び第2の比較例におけるインピーダンス周波数特性を示す図である。
【
図5】タンタル酸リチウム層及びニオブ酸リチウム層の層数と、比帯域との関係を示す図である。
【
図6】第3の比較例のインピーダンス周波数特性を示す図である。
【
図7】本発明の第1の実施形態においての、レイリーモードが生じる周波数付近におけるインピーダンス周波数特性を示す図である。
【
図8】本発明の第2の実施形態における圧電性部材層の一部を拡大して示す模式的正面断面図である。
【
図9】本発明の第1の実施形態及び第2の実施形態においての、レイリーモードが生じる周波数付近におけるインピーダンス周波数特性を示す図である。
【
図10】本発明の第2の実施形態の第1の変形例に係る弾性波装置の、1対の電極指付近を示す模式的正面断面図である。
【
図11】本発明の第2の実施形態の第2の変形例に係る弾性波装置の、1対の電極指付近を示す模式的正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0010】
なお、本明細書に記載の各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることを指摘しておく。
【0011】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の一部を示す模式的正面断面図である。
図2は、
図1の一部を拡大して示す模式的正面断面図である。
図3は、第1の実施形態に係る弾性波装置の模式的平面図である。なお、
図1は、
図3中のI-I線に沿う模式的断面図である。
【0012】
図1に示すように、弾性波装置1は支持基板2と、中間層3と、圧電性部材層6とを有する。支持基板2上に中間層3が設けられている。中間層3上に圧電性部材層6が設けられている。圧電性部材層6とは、圧電性を有する材料が用いられた層である。よって、圧電性部材層6は圧電性を有する。
【0013】
図1及び
図2に示すように、圧電性部材層6は複数の圧電体層の積層体である。複数の圧電体層は、具体的には、複数のタンタル酸リチウム層7と、複数のニオブ酸リチウム層8とを含む。圧電性部材層6においては、タンタル酸リチウム層7と、ニオブ酸リチウム層8とが交互に積層されている。
【0014】
より具体的には、複数のタンタル酸リチウム層7はそれぞれ、回転Yカットのタンタル酸リチウム層である。各タンタル酸リチウム層7は、本実施形態では、LiTaO3層である。そして、各タンタル酸リチウム層7のカット角は35°Yであり、オイラー角は(0°,125°,0°)である。もっとも、タンタル酸リチウム層7のカット角は上記に限定されない。
【0015】
一方で、複数のニオブ酸リチウム層8はそれぞれ、回転Yカットのニオブ酸リチウム層である。各ニオブ酸リチウム層8は、本実施形態では、LiNbO3層である。そして、各ニオブ酸リチウム層8のカット角は45°Yであり、オイラー角は(0°,135°,0°)である。もっとも、ニオブ酸リチウム層8のカット角は上記に限定されない。
【0016】
なお、圧電性部材層6は、3層以上の複数の圧電体層を有していればよい。複数の圧電体層は、少なくとも1層の回転Yカットのタンタル酸リチウム層7と、少なくとも1層の回転Yカットのニオブ酸リチウム層8とを含んでいればよい。複数の圧電体層の層数が3層である場合、回転Yカットのタンタル酸リチウム層7の層数が2層であってもよく、回転Yカットのニオブ酸リチウム層8の層数が2層であってもよい。
【0017】
図1に示すように、本実施形態においては、支持基板2上に、中間層3を介して間接的に圧電性部材層6が設けられている。なお、中間層3は必ずしも設けられていなくともよい。支持基板2上に、直接的に圧電性部材層6が設けられていてもよい。
【0018】
中間層3は単層の誘電体層である。中間層3の材料としては、酸化ケイ素が用いられている。それによって、弾性波装置1の周波数温度係数(TCF)の絶対値を小さくすることができ、弾性波装置1の周波数温度特性を改善することができる。もっとも、中間層3の材料は上記に限定されない。中間層3の材料には、例えば、窒化ケイ素やポリシリコンなどを用いてもよい。
【0019】
支持基板2は、具体的には、シリコン基板である。支持基板2の面方位は(111)である。より具体的には、支持基板2における圧電性部材層6側の面の面方位が(111)である。本実施形態においては、支持基板2におけるオイラー角は(-45°,-54.7°,73°)である。もっとも、支持基板2のオイラー角及び面方位は上記に限定されない。支持基板2の材料も、シリコンに限定されない。支持基板2の材料としては、例えば、酸化アルミニウムなどのセラミックなどを用いることもできる。
【0020】
圧電性部材層6上にはIDT電極12が設けられている。
図3に示すように、IDT電極12は、1対のバスバーと、複数の電極指とを有する。1対のバスバーは、具体的には、第1のバスバー16及び第2のバスバー17である。第1のバスバー16及び第2のバスバー17は互いに対向している。複数の電極指は、具体的には、複数の第1の電極指18及び複数の第2の電極指19である。複数の第1の電極指18の一端はそれぞれ、第1のバスバー16に接続されている。複数の第2の電極指19の一端はそれぞれ、第2のバスバー17に接続されている。複数の第1の電極指18及び複数の第2の電極指19は互いに間挿し合っている。第1の電極指18及び第2の電極指19は、互いに異なる電位に接続される。
【0021】
IDT電極12に交流電圧を印加することにより、弾性波が励振される。複数の第1の電極指18及び複数の第2の電極指19が延びる方向と、弾性波伝搬方向とは直交する。圧電性部材層6上には、1対の反射器13A及び反射器13Bが設けられている。より具体的には、反射器13A及び反射器13Bは、弾性波伝搬方向において、IDT電極12を挟み互いに対向するように設けられている。弾性波装置1は弾性表面波共振子である。本実施形態では、メインモードとしてSHモードが励振される。この場合、レイリーモードは不要波となる。
【0022】
本実施形態では、IDT電極12及び各反射器は積層金属膜からなる。より具体的には、IDT電極12及び各反射器の層構成は、圧電性部材層6側から、Ti層、AlCu層及びTi層がこの順序において積層された構成である。もっとも、IDT電極12及び各反射器の材料は上記に限定されない。あるいは、IDT電極12及び各反射器は、単層の金属膜からなっていてもよい。
【0023】
以下においては、IDT電極12の電極指ピッチにより規定される波長をλとする。電極指ピッチとは、隣り合う第1の電極指18及び第2の電極指19の、弾性波伝搬方向における中心間距離である。例えば、電極指ピッチをpとしたときに、λ=2pである。
【0024】
図1に示すように、圧電性部材層6において、最もIDT電極12側に位置している圧電体層は、ニオブ酸リチウム層8である。なお、最もIDT電極12側に位置している圧電体層は、タンタル酸リチウム層7であってもよい。一方で、最も支持基板2側に位置している圧電体層は、タンタル酸リチウム層7である。なお、最も支持基板2側に位置している圧電体層は、ニオブ酸リチウム層8であってもよい。
【0025】
本実施形態の特徴は、以下の構成を有することにある。1)圧電性部材層6において、回転Yカットのタンタル酸リチウム層7と、回転Yカットのニオブ酸リチウム層8とが交互に積層されていること。2)回転Yカットのタンタル酸リチウム層7及び回転Yカットのニオブ酸リチウム層8の合計の層数が3層以上であること。それによって、比帯域を容易に調整することができる。なお、比帯域は、共振周波数をfr、反共振周波数をfaとしたときに、(|fa-fr|/fr)×100[%]により表わされる。上記効果の詳細を以下において説明する。
【0026】
第1の実施形態の構成を有する弾性波装置1と、第1の比較例及び第2の比較例の弾性波装置とにおいて、インピーダンス周波数特性を比較した。第1の比較例は、圧電性部材層が、単層の回転Yカットのタンタル酸リチウム層からなる点において、第1の実施形態と異なる。第2の比較例は、圧電性部材層が、単層の回転Yカットのニオブ酸リチウム層からなる点において、第1の実施形態と異なる。第1の実施形態、第1の比較例及び第2の比較例の弾性波装置におけるインピーダンス周波数特性を、シミュレーションにより導出した。なお、第1の実施形態の構成を有する弾性波装置1の設計パラメータは以下の通りである。
【0027】
支持基板:材料…Si、面方位…(111)、オイラー角…(-45°,-54.7°,73°)
中間層:材料…SiO2、厚み…300nm
圧電性材料層:タンタル酸リチウム層及びニオブ酸リチウム層の合計の層数…20層、タンタル酸リチウム層及びニオブ酸リチウム層の合計の厚み…400nm
タンタル酸リチウム層:材料…回転YカットX伝搬のLiTaO3、カット角…35°Y、オイラー角…(0°,125°,0°)、厚み…20nm、層数…10層
ニオブ酸リチウム層:材料…回転YカットX伝搬のLiNbO3、カット角…45°Y、オイラー角…(0°,135°,0°)、厚み…20nm、層数…10層
IDT電極:層構成…圧電性部材層側からTi層/AlCu層/Ti層、厚み…12nm/10nm/4nm
波長…1.346μm
デューティ比…0.45
【0028】
なお、第1の比較例におけるタンタル酸リチウム層のカット角は35°Yである。第2の比較例におけるニオブ酸リチウム層のカット角は45°Yである。
【0029】
図4は、第1の実施形態、第1の比較例及び第2の比較例におけるインピーダンス周波数特性を示す図である。
図4においては、第1の実施形態、第1の比較例及び第2の比較例における共振周波数を同じとして示している。よって、第1の実施形態、第1の比較例及び第2の比較例においては、反共振周波数が高いほど、比帯域の値が大きい。
【0030】
図4に示すように、第1の実施形態における比帯域の値は、第1の比較例及び第2の比較例における比帯域の中間の値である。具体的には、第1の実施形態における比帯域は7.8%である。第1の比較例における比帯域は4.8%である。第2の比較例における比帯域は12.8%である。
【0031】
高周波フィルタに弾性波共振子として弾性波装置を用いる場合、フィルタ装置の通信Bandによって、弾性波装置における最適な比帯域は異なる。例えば、弾性波装置の最適な比帯域が8%程度となる場合がある。このような場合においては、従来の、第1の比較例や第2の比較例のような弾性波装置では、該弾性波装置の比帯域を最適な値に近づけることは困難であった。これに対して、第1の実施形態においては、従来の弾性波装置では困難であった比帯域の調整も、容易に行うことができる。
【0032】
さらに、圧電性部材層におけるタンタル酸リチウム層及びニオブ酸リチウム層の層数を異ならせる毎に、シミュレーションによって比帯域を算出した。より具体的には、最もIDT電極側に位置している圧電体層が、タンタル酸リチウム層である場合の比帯域を算出した。最もIDT電極側に位置している圧電体層が、ニオブ酸リチウム層である場合の比帯域も算出した。
【0033】
図5は、タンタル酸リチウム層及びニオブ酸リチウム層の層数と、比帯域との関係を示す図である。
図5における横軸は、タンタル酸リチウム層及びニオブ酸リチウム層の合計の層数を示す。三角形のプロットは、最もIDT電極側に位置している圧電体層が、タンタル酸リチウム層である場合の結果を示す。よって、横軸が1であるときの三角形のプロットの結果は、第1の比較例の結果に相当する。円形のプロットは、最もIDT電極側に位置している圧電体層が、ニオブ酸リチウム層である場合の結果を示す。よって、横軸が1であるときの円形のプロットの結果は、第2の比較例の結果に相当する。
【0034】
図5に示すように、タンタル酸リチウム層及びニオブ酸リチウム層の層数が異なる場合には、比帯域が異なることがわかる。より具体的には、タンタル酸リチウム層の層数が多くなるほど、比帯域の値は大きくなっている。他方、ニオブ酸リチウム層の層数が多くなるほど、比帯域の値は小さくなっている。
【0035】
これらの結果から、
図1に示すタンタル酸リチウム層7及びニオブ酸リチウム層8の層数を調整することによって、比帯域を調整できることがわかる。そして、第1の実施形態のように、タンタル酸リチウム層7及びニオブ酸リチウム層8の合計の層数が3層以上であることにより、比帯域を容易に、幅広く調整することができる。
【0036】
圧電性部材層6におけるタンタル酸リチウム層7及びニオブ酸リチウム層8の合計の層数が、10層以上であることが好ましく、30層以上であることがより好ましい。それによって、弾性波装置1の比帯域のばらつきを抑制することができる。一方で、圧電性部材層6におけるタンタル酸リチウム層7及びニオブ酸リチウム層8の合計の層数が、100層以下であることが好ましい。この場合には、弾性波装置1における比帯域を好適に調整することができ、かつ生産性の低下を抑制することができる。
【0037】
第1の実施形態においては、回転Yカットのタンタル酸リチウム層7及び回転Yカットのニオブ酸リチウム層8が用いられていることによって、比帯域を容易に調整することができる。さらに、不要波としてのレイリーモードを抑制することもできる。これを、第3の比較例を参照することにより示す。
【0038】
第3の比較例は、タンタル酸リチウム層及びニオブ酸リチウム層の双方が、(001)配向である点において第1の実施形態と異なる。なお、第3の比較例におけるタンタル酸リチウム層及びニオブ酸リチウム層は交互に積層されている。そして、タンタル酸リチウム層及びニオブ酸リチウム層の合計の層数は20層である。
【0039】
図6は、第3の比較例のインピーダンス周波数特性を示す図である。
【0040】
図6に示すように、第3の比較例においては、比帯域の値が非常に小さい。具体的には、第3の比較例における比帯域は0.8%である。そのため、フィルタ装置に用いた場合に、通過帯域を好適に構成することはできない。さらに、
図6中の矢印Rにより示すように、大きな不要波が生じている。この不要波はレイリーモードである。
【0041】
図7は、第1の実施形態においての、レイリーモードが生じる周波数付近におけるインピーダンス周波数特性を示す図である。
【0042】
図7に示すように、第1の実施形態においては、不要波としてのレイリー波は、
図6に示す第3の比較例よりも抑制されていることがわかる。さらに、
図5に示したように、第1の実施形態では、例えば、4%程度の範囲において、比帯域を容易に調整することができる。これらは、上記のように、第1の実施形態において、回転Yカットのタンタル酸リチウム層7及び回転Yカットのニオブ酸リチウム層8が用いられていることによる。
【0043】
なお、
図5に示した結果は、タンタル酸リチウム層7及びニオブ酸リチウム層8の厚みを同じとした場合の結果である。もっとも、本発明においては、タンタル酸リチウム層7の厚みと、ニオブ酸リチウム層8の厚みとを互いに異ならせてもよい。あるいは、タンタル酸リチウム層7同士の厚みを互いに異ならせてもよい。ニオブ酸リチウム層8同士の厚みを互いに異ならせてもよい。すなわち、タンタル酸リチウム層7の層数及び厚み、並びにニオブ酸リチウム層8の層数及び厚みを調整することによって、比帯域を調整することができる。
【0044】
以下において、圧電性部材層の構成において第1の実施形態と異なる、第2の実施形態を示す。もっとも、第2の実施形態においては、圧電性部材層以外の構成は第1の実施形態と同様である。そのため、第2の実施形態の説明には、第1の実施形態の説明に用いた図面及び符号を援用することもある。
【0045】
図8は、第2の実施形態における圧電性部材層の一部を拡大して示す模式的正面断面図である。
【0046】
本実施形態は、タンタル酸リチウム層7及びニオブ酸リチウム層8のカット角が同じである点において、第1の実施形態と異なる。上記の点以外においては、本実施形態の弾性波装置は第1の実施形態の弾性波装置1と同様の構成を有する。
【0047】
図8においては、タンタル酸リチウム層7の分極方向を矢印P1により示している。ニオブ酸リチウム層8の分極方向を矢印P2により示している。タンタル酸リチウム層7の分極方向と、ニオブ酸リチウム層8の分極方向とは、同じ方向である。
【0048】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、圧電性部材層26において、回転Yカットのタンタル酸リチウム層7と、回転Yカットのニオブ酸リチウム層8とが交互に積層されている。そして、回転Yカットのタンタル酸リチウム層7及び回転Yカットのニオブ酸リチウム層8の合計の層数が3層以上である。それによって、弾性波装置の比帯域を容易に調整することができる。
【0049】
加えて、本実施形態においては、不要波としてのレイリーモードをより一層抑制することができる。これを以下において示す。
【0050】
第2の実施形態の構成を有する弾性波装置として、各タンタル酸リチウム層7及び各ニオブ酸リチウム層8のカット角を45°Yとした弾性波装置を用意した。第2の実施形態の構成を有する他の弾性波装置として、各タンタル酸リチウム層7及び各ニオブ酸リチウム層8のカット角を35°Yとした弾性波装置を用意した。なお、これらの弾性波装置の設計パラメータは、各タンタル酸リチウム層7及び各ニオブ酸リチウム層8のカット角以外においては、
図4に示したインピーダンス周波数特性を有する第1の実施形態の弾性波装置1と同様である。
【0051】
第2の実施形態の構成を有する上記各弾性波装置のインピーダンス周波数特性を、シミュレーションにより導出した。なお、第1の実施形態の結果も併せて示す。
【0052】
図9は、第1の実施形態及び第2の実施形態においての、レイリーモードが生じる周波数付近におけるインピーダンス周波数特性を示す図である。なお、
図9においては、タンタル酸リチウム層をLTと表記し、ニオブ酸リチウム層をLNと表記している。
【0053】
図9に示すように、第1の実施形態においては、不要波としてのレイリーモードは十分に抑制されている。一方で、第2の実施形態においては、レイリーモードがより一層抑制されている。より具体的には、各タンタル酸リチウム層7及び各ニオブ酸リチウム層8のカット角が35°Yである場合、及び45°Yである場合の双方において、レイリーモードがより一層抑制されている。
【0054】
圧電性部材層6の厚み方向において隣り合う、タンタル酸リチウム層7及びニオブ酸リチウム層8のカット角の差の絶対値が、0.5°以下であることが好ましい。この場合には、本発明においては、隣り合うタンタル酸リチウム層7及びニオブ酸リチウム層8のカット角が、実質的に同じであるといえる。よって、上記両層のカット角の差の絶対値が0.5°以下である場合には、不要波としてのレイリーモードをより一層抑制することができる。圧電性部材層26において、タンタル酸リチウム層7及びニオブ酸リチウム層8のカット角の最大値と最小値との差の絶対値が、0.5°以下であることがより好ましい。この場合には、不要波としてのレイリーモードをより確実に、より一層抑制することができる。
【0055】
加えて、第2の実施形態においては、弾性波装置の周波数温度特性を効果的に改善することができる。なお、第1の実施形態においても、弾性波装置1の周波数温度特性を改善することができる。これを、第1の比較例、第2の比較例及び第4の比較例と比較することにより、以下において示す。
【0056】
上記のように、第1の比較例では、圧電性部材層が単層のタンタル酸リチウム層である。第2の比較例では、圧電性部材層が単層のニオブ酸リチウム層である。他方、第4の比較例では、圧電性部材層は、1層のタンタル酸リチウム層及び1層のニオブ酸リチウム層の積層体である。
【0057】
ここで、弾性波装置の共振周波数におけるTCFをTCFr[ppm/℃]、反共振周波数におけるTCFをTCFa[ppm/℃]、TCFr及びTCFaの差をΔTCF[ppm/℃]とする。具体的には、ΔTCF=TCFa-TCFrである。表1において、第1の実施形態、第2の実施形態、第1の比較例、第2の比較例及び第4の比較例におけるΔTCFを示す。なお、表1においては、タンタル酸リチウム層をLTと表記し、ニオブ酸リチウム層をLNと表記している。
【0058】
【0059】
表1に示すように、第1の実施形態では、各比較例よりもΔTCFの絶対値が小さくなっていることがわかる。具体的には、第1の実施形態においては、ΔTCFが9ppm/℃であり、ΔTCFを1桁台とすることができている。これは、
図1に示す圧電性部材層6が、タンタル酸リチウム層7及びニオブ酸リチウム層8の積層体であり、かつ多層の構造であることによる。第2の実施形態においては、ΔTCFの絶対値がより一層小さいことがわかる。これは、
図8に示すように、圧電性部材層26の厚み方向において隣り合う、タンタル酸リチウム層7及びニオブ酸リチウム層8の方位が揃っていることによる。
【0060】
なお、圧電性部材層6の厚み方向において隣り合う、タンタル酸リチウム層7及びニオブ酸リチウム層8のカット角の差の絶対値が0.5°以下である場合にも、第2の実施形態と同様に、ΔTCFの絶対値をより一層小さくすることができる。圧電性部材層26において、タンタル酸リチウム層7及びニオブ酸リチウム層8のカット角の最大値と最小値との差の絶対値が、0.5°以下である場合にも、ΔTCFの絶対値をより一層小さくすることができる。
【0061】
ところで、
図1を援用して示すように、第2の実施形態においては、中間層3は単層の誘電体層である。もっとも、本発明においては、中間層3は積層体であってもよい。例えば、
図10に示す第2の実施形態の第1の変形例においては、中間層23は、高音速膜24及び低音速膜25を有する。具体的には、支持基板2上に高音速膜24が設けられている。高音速膜24上に低音速膜25が設けられている。低音速膜25上に、圧電性部材層26が設けられている。
【0062】
高音速膜24は相対的に高音速な膜である。より具体的には、高音速膜24を伝搬するバルク波の音速は、圧電性部材層26における各圧電体層を伝搬する弾性波の音速よりも高い。高音速膜24の材料としては、例えば、窒化アルミニウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、水晶などの圧電体、アルミナ、サファイア、マグネシア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、コージライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライト、スピネル、サイアロンなどのセラミック、酸化アルミニウム、酸窒化ケイ素、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、ダイヤモンドなどの誘電体、もしくはシリコンなどの半導体、または上記材料を主成分とする材料を用いることができる。なお、上記スピネルには、Mg、Fe、Zn、Mnなどから選ばれる1以上の元素と酸素とを含有するアルミニウム化合物が含まれる。上記スピネルの例としては、MgAl2O4、FeAl2O4、ZnAl2O4、MnAl2O4を挙げることができる。
【0063】
本明細書において主成分とは、占める割合が50重量%を超える成分をいう。上記主成分の材料は、単結晶、多結晶、及びアモルファスのうちいずれかの状態、もしくは、これらが混在した状態で存在していてもよい。
【0064】
低音速膜25は相対的に低音速な膜である。より具体的には、低音速膜25を伝搬するバルク波の音速は、圧電性部材層26における各圧電体層を伝搬するバルク波の音速よりも低い。低音速膜25の材料としては、例えば、ガラス、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化リチウム、酸化タンタル、もしくは酸化ケイ素にフッ素、炭素やホウ素を加えた化合物などの誘電体、または上記材料を主成分とする材料を用いることができる。
【0065】
弾性波装置において、高音速膜24、低音速膜25及び圧電性部材層26がこの順序で積層されていることにより、弾性波のエネルギーを、圧電性部材層26側に効果的に閉じ込めることができる。加えて、本変形例においても、第2の実施形態と同様に、弾性波装置の比帯域を容易に調整することができる。
【0066】
第2の実施形態においては、支持基板2の材料としてシリコンが用いられている。もっとも、本発明においては、支持基板2の材料として、高音速膜24の材料の例として挙げた材料が用いられていてもよい。
【0067】
中間層23が積層体である場合、中間層23は、必ずしも高音速膜24及び低音速膜25を有していなくともよい。もっとも、中間層23は、材料として、酸化ケイ素が用いられている層を含んでいることが好ましい。それによって、弾性波装置の周波数温度特性を改善することができる。
【0068】
ところで、圧電性部材層26上には、誘電体膜が設けられていてもよい。例えば、
図11に示す第2の実施形態の第2の変形例では、圧電性部材層26上に、IDT電極12を覆うように、誘電体膜29が設けられている。これにより、誘電体膜29によってIDT電極12が保護されるため、IDT電極12が破損し難い。加えて、本変形例においても、第2の実施形態と同様に、弾性波装置の比帯域を容易に調整することができる。誘電体膜29の材料としては、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素または酸窒化ケイ素などを用いることができる。
【0069】
以下において、本発明に係る弾性波装置の形態の例をまとめて記載する。
【0070】
<1>支持基板と、前記支持基板上に直接的または間接的に設けられている圧電性部材層と、前記圧電性部材層上に設けられているIDT電極と、を備え、前記圧電性部材層が、少なくとも1層の回転Yカットのタンタル酸リチウム層と、少なくとも1層の回転Yカットのニオブ酸リチウム層と、を含み、前記タンタル酸リチウム層及び前記ニオブ酸リチウム層が交互に積層されており、前記タンタル酸リチウム層及び前記ニオブ酸リチウム層の合計の層数が3層以上である、弾性波装置。
【0071】
<2>前記圧電性部材層の厚み方向において隣り合う、前記タンタル酸リチウム層及び前記ニオブ酸リチウム層のカット角の差の絶対値が、0.5°以下である、<1>に記載の弾性波装置。
【0072】
<3>前記圧電性部材層における前記タンタル酸リチウム層及び前記ニオブ酸リチウム層の合計の層数が、10層以上、100層以下である、<1>または<2>に記載の弾性波装置。
【0073】
<4>前記圧電性部材層における前記タンタル酸リチウム層及び前記ニオブ酸リチウム層の合計の層数が、30層以上、100層以下である、<3>に記載の弾性波装置。
【0074】
<5>前記支持基板及び前記圧電性部材層の間に設けられており、材料として酸化ケイ素が用いられている層を含む中間層をさらに備える、<1>~<4>のいずれか1つに記載の弾性波装置。
【0075】
<6>前記支持基板の材料としてシリコンが用いられている、<1>~<5>のいずれか1つに記載の弾性波装置。
【0076】
<7>前記圧電性部材層上に、前記IDT電極を覆うように設けられている誘電体膜をさらに備える、<1>~<6>のいずれか1つに記載の弾性波装置。
【符号の説明】
【0077】
1…弾性波装置
2…支持基板
3…中間層
6…圧電性部材層
7…タンタル酸リチウム層
8…ニオブ酸リチウム層
12…IDT電極
13A,13B…反射器
16,17…第1,第2のバスバー
18,19…第1,第2の電極指
23…中間層
24…高音速膜
25…低音速膜
26…圧電性部材層
29…誘電体膜