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2024-162659地震動データ分類方法、及び、地震動データ分類装置
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  • -地震動データ分類方法、及び、地震動データ分類装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162659
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】地震動データ分類方法、及び、地震動データ分類装置
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/30 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
G01V1/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078393
(22)【出願日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100214260
【弁理士】
【氏名又は名称】相羽 昌孝
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【識別番号】100227455
【弁理士】
【氏名又は名称】莊司 英史
(72)【発明者】
【氏名】小穴 温子
(72)【発明者】
【氏名】宮下 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】石井 透
(72)【発明者】
【氏名】古川 慧
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA03
2G105BB01
2G105EE02
2G105MM01
2G105NN02
(57)【要約】
【課題】構造物の耐震設計において有用な地震動データを簡便に抽出することを可能とする地震動データ分類方法を提供する。
【解決手段】コンピュータを用いて複数の地震動データを分類する地震動データ分類方法は、地震による地震動波形と、地震動波形が得られたときの複数種類の地震動諸特性パラメータとを関連付けた地震動データを複数記憶するデータベース10を参照し、複数の地震動波形を、構造物を模擬した質点系モデルにそれぞれ入力したときの応答特性を評価することにより、複数の応答評価パラメータからなる応答評価パラメータ群をそれぞれ算出する応答評価工程と、応答評価工程にて地震動波形毎にそれぞれ算出された応答評価パラメータ群に基づいて、地震動データのクラスタ分析を行うことにより、複数の地震動データにクラスタ識別パラメータをそれぞれ付与するクラスタ分析工程とを含む。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを用いて複数の地震動データを分類する地震動データ分類方法であって、
地震による地震動波形と、前記地震動波形が得られたときの複数種類の地震動諸特性パラメータとを関連付けた前記地震動データを複数記憶するデータベースを参照し、複数の前記地震動波形を、構造物を模擬した質点系モデルにそれぞれ入力したときの応答特性を評価することにより、複数の応答評価パラメータからなる応答評価パラメータ群をそれぞれ算出する応答評価工程と、
前記応答評価工程にて前記地震動波形毎にそれぞれ算出された前記応答評価パラメータ群に基づいて、前記地震動データのクラスタ分析を行うことにより、複数の前記地震動データにクラスタ識別パラメータをそれぞれ付与し、前記データベースに記憶するクラスタ分析工程と、を含む、
地震動データ分類方法。
【請求項2】
前記クラスタ分析工程は、
前記応答評価パラメータ群を前記応答評価パラメータ毎に標準化又は正規化し、次元削減を行うことで得られた次元削減後の特徴パラメータ群に基づいて、複数の前記地震動データに前記クラスタ識別パラメータをそれぞれ付与する、
請求項1に記載の地震動データ分類方法。
【請求項3】
抽出対象の前記地震動波形が指定されたとき、前記データベースを参照し、当該抽出対象の前記地震動波形に付与された前記クラスタ識別パラメータと同一又は類似の前記クラスタ識別パラメータが付与された1又は複数の前記地震動波形を抽出する抽出工程をさらに含む、
請求項1に記載の地震動データ分類方法。
【請求項4】
抽出対象の前記クラスタ識別パラメータが指定されたとき、前記データベースを参照し、当該抽出対象の前記クラスタ識別パラメータと同一又は類似の前記クラスタ識別パラメータが付与された1又は複数の前記地震動波形を抽出する抽出工程をさらに含む、
請求項1に記載の地震動データ分類方法。
【請求項5】
前記応答評価工程は、前記応答評価パラメータとして、
所定の周期における応答スペクトル、所定の周期におけるエネルギースペクトル、所定の周期における応答継続時間スペクトル、層間変形角、塑性変形倍率、累積塑性変形倍率、及び、免震層の最大変位のうち、少なくとも1つを算出する、
請求項1に記載の地震動データ分類方法。
【請求項6】
コンピュータであって、
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の地震動データ分類方法に含まれる各工程を実行する制御部を備える、
地震動データ分類装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震動データ分類方法、及び、地震動データ分類装置に関する。
【背景技術】
【0002】
強震観測網の整備や地震動評価技術の向上により、多種多様な特性を有する地震動記録や地震動シミュレーション結果の蓄積が進んでいる。これらの地震動データは、構造物の動的応答解析において評価用の地震動データとして用いることができるため、構造物の耐震設計に資するものである(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-39446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、蓄積された膨大な地震動データの中から設計者が必要とする地震動データを的確に選定することは非常に困難である。仮に設計者自身が選定しようとすれば、複雑な構造体モデルを用いた解析を繰り返し実施しなければならず、過度な試行錯誤を要するため、時間的制約上、非現実的である。そのため、代表的な地震の際に得られた特定の地震動記録や特定の想定地震に基づく地震動シミュレーション結果等を評価用の地震動データとして選定し、それらに対する挙動を確認するに留まるのが現状であった。
【0005】
そのため、蓄積された地震動データから、振幅の大きさや周期特性が類似した地震動データを簡便に抽出することができれば、評価対象の構造物の固有周期に照らして影響の大きい地震動に対する応答解析を効率的に実施することができる上に、地震動の一定のばらつきを応答解析に簡便に取り入れることができるようになる。
【0006】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであって、構造物の耐震設計において有用な地震動データを簡便に抽出することを可能とする地震動データ分類方法、及び、地震動データ分類装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一実施形態に係る地震動データ分類方法は、
コンピュータを用いて複数の地震動データを分類する地震動データ分類方法であって、
地震による地震動波形と、前記地震動波形が得られたときの複数種類の地震動諸特性パラメータとを関連付けた前記地震動データを複数記憶するデータベースを参照し、複数の前記地震動波形を、構造物を模擬した質点系モデルにそれぞれ入力したときの応答特性を評価することにより、複数の応答評価パラメータからなる応答評価パラメータ群をそれぞれ算出する応答評価工程と、
前記応答評価工程にて前記地震動波形毎にそれぞれ算出された前記応答評価パラメータ群に基づいて、前記地震動データのクラスタ分析を行うことにより、複数の前記地震動データにクラスタ識別パラメータをそれぞれ付与し、前記データベースに記憶するクラスタ分析工程と、を含む。
【0008】
また、本発明の一実施形態に係る地震動データ分類装置は、
コンピュータであって、上記地震動データ分類方法に含まれる各工程を実行する制御部を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態に係る地震動データ分類方法、及び、地震動データ分類装置によれば、応答評価部により複数の地震動波形に対してそれぞれ算出された応答評価パラメータ群に基づいて地震動データのクラスタ分析が行われることで、複数の地震動データにクラスタ識別パラメータがそれぞれ付与される。したがって、応答評価パラメータ群に基づいて付与されたクラスタ識別パラメータを用いることで、構造物の耐震設計において有用な地震動データを簡便に抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る地震動データ管理システム1の一例を示す概略構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る地震動データ管理システム1の一例を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態に係る地震動データ分類装置3及び地震動データ分類方法の一例を示す機能説明図である。
図4】データベース10の一例を示すデータ構成図である。
図5】クラスタ分析の一例を示す概要図である。
図6】同一又は類似のクラスタ識別パラメータが付与された複数の地震動波形における減衰定数5%の擬似速度応答スペクトルを示す図である。
図7図6における擬似速度応答スペクトルを最大値で基準化したときの擬似速度応答スペクトルを示す図である
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る地震動データ管理システム1の一例を示す概略構成図である。図2は、本発明の実施形態に係る地震動データ管理システム1の一例を示すブロック図である。
【0013】
地震動データ管理システム1は、地震による地震動が複数の観測点にてそれぞれ観測された地震動観測記録としての地震動波形を収集し、その観測結果を外部に提供する観測データ提供装置2Aと、地震動波形に基づいて地震の震源や規模を解析し、その解析結果を外部に提供する解析データ提供装置2Bと、地震動の評価・予測に用いる地下構造に関する地下構造パラメータを外部に提供する地下構造データ提供装置2Cと、所定のシミュレーション手法に従って地震動シミュレーションを実行し、そのときのシミュレーション条件やシミュレーション結果をシミュレーションデータとして外部に提供する地震動シミュレーションデータ提供装置2Dとを備える。
【0014】
また、地震動データ管理システム1は、データ提供装置2A~2Dにより提供された提供データを地震動データとしてデータベース10に登録するとともに、複数の地震動データを分類して管理する地震動データ分類装置3と、構造物(建物や橋等)の設計者が使用する設計者端末装置4と、各装置間を接続するネットワーク5とを備える。
【0015】
観測データ提供装置2Aは、地震が発生したときに、複数の観測点に設置された地震計(不図示)により測定された南北方向、東西方向及び上下方向に対する三成分の時刻歴波形データを地震動波形としてそれぞれ収集し、その地震動波形と、例えば、観測点の位置を示す観測点位置等の付加情報とを含む観測データを外部に提供する。観測データは、例えば、国立研究開発法人防災科学技術研究所(以下、「防災科研」という)の強震観測網K-NETにより提供されるデータが使用される。なお、図1では、観測点として、関東地方の一都六県(東京・神奈川・千葉・埼玉・茨城・栃木・群馬)に設置された観測点138地点(図1参照)が図示されているが、観測点の位置や数はこれらに限られない。
【0016】
解析データ提供装置2Bは、地震動波形に基づいて地震の震源や規模を解析し、その解析結果として、例えば、モーメントマグニチュード、気象庁マグニチュード、震央位置、震源深さ、地震種別、断層タイプ、及び、震源メカニズム解等を含む解析データを外部に提供する。解析データは、例えば、防災科研の広帯域震観測網F-netや気象庁により提供されるデータが使用される。
【0017】
地下構造データ提供装置2Cは、地下構造パラメータとして、例えば、地震基盤面深さ、工学的基盤面深さ、層厚、密度、地震波伝播速度、Q値、減衰定数等を含む地下構造データを外部に提供する。地下構造データは、例えば、防災科研の地震ハザードステーションJ-SHISにより提供されるデータが使用される。
【0018】
なお、観測データ提供装置2A、解析データ提供装置2B及び地下構造データ提供装置2Cは、地震が発生したときに、当該地震に関する提供データをリアルタイムに地震動データ分類装置3に提供してもよいし、地震動データ分類装置3からデータの要求を受けたときに、その要求に関する提供データ(過去に発生した地震のうち所定の条件に合致する複数の地震に関する提供データでもよい)を地震動データ分類装置3に提供してもよい。また、本実施形態では、データ提供装置2A~2Cは、別々の3つの装置であるものとして説明するが、これに限られず、1つの装置として構成されていてもよいし、他のデータ提供装置がさらに付加されてもよい。
【0019】
地震動シミュレーションデータ提供装置2Dは、地震が発生したときに、又は、仮想の地震が発生したと想定したときに、当該地震による地震動を所定のシミュレーション手法に従って解析するものであり、そのときのシミュレーション条件やシミュレーション結果をシミュレーションデータとして外部に提供する。その際、所定のシミュレーション手法は、任意の手法が採用可能であり、複数の手法が採用されてもよい。また、地震動シミュレーションデータ提供装置2Dは、自装置にて地震動シミュレーションを実行することでシミュレーションデータを提供するものでもよいし、他の装置で地震動シミュレーションが実行されたときのシミュレーションデータを提供するものでもよい。
【0020】
なお、地震動シミュレーションデータ提供装置2Dは、新たな地震動シミュレーションを実行したときに、当該地震動シミュレーションに関するシミュレーションデータを地震動データ分類装置3に随時提供してもよいし、地震動データ分類装置3からデータの要求を受けたときに、その要求に関するシミュレーションデータ(地震動データ分類装置3からシミュレーション条件を受けた場合には、そのシミュレーション条件に基づいて地震動シミュレーションを実行したときのシミュレーション結果を含むシミュレーションデータでもよい)を地震動データ分類装置3に提供してもよい。
【0021】
設計者端末装置4は、設計者が構造物の耐震設計や構造解析を行う際に使用される端末装置であり、汎用又は専用のコンピュータで構成されている。設計者端末装置4は、アプリケーションプログラム、ウェブブラウザ等のプログラムがインストールされて、各種の入力操作を受け付けるとともに、表示画面や音声を介して各種の情報を出力する。
【0022】
ネットワーク5は、無線通信又は有線通信により各種のデータや信号を通信するものであり、任意の通信規格が用いられる。
【0023】
(地震動データ分類装置3の構成と各部による工程について)
地震動データ分類装置3は、データ提供装置2A~2Dにより提供された提供データ(観測データ、解析データ、地下構造データ、シミュレーションデータ)を収集し、地震動データとしてデータベース10に登録する。地震動データ分類装置3は、データベース10を参照し、データベース10に登録済みの複数の地震動データを分類する。
【0024】
地震動データ分類装置3は、汎用又は専用のコンピュータで構成されており、図2に示すように、HDD、メモリ等により構成される記憶部30と、CPU、GPU等のプロセッサにより構成される制御部31と、ネットワーク5との通信インターフェースである通信部32と、キーボード、マウス等により構成される入力部33と、ディスプレイ、タッチパネル等により構成される表示部34とを備える。
【0025】
記憶部30には、データ提供装置2A~2Dにより提供された提供データが登録・更新されるデータベース10と、地震動データ分類装置3の動作を制御して地震動データ分類方法を実現する地震動データ分類プログラム300とが記憶されている。なお、データベース10は、記憶部30に代えて、外部記憶装置に記憶されていてもよく、その場合には、地震動データ分類装置3は、ネットワーク5を介して当該外部記憶装置と通信し、データベース10にアクセスするようにすればよい。
【0026】
制御部31は、地震動データ分類プログラム300を実行することにより、DB管理部310、応答評価部311、クラスタ分析部312、抽出部313、及び、出力処理部314として機能する。なお、各部の機能の詳細は後述する。
【0027】
図3は、本発明の実施形態に係る地震動データ分類装置3及び地震動データ分類方法の一例を示す機能説明図である。
【0028】
(DB管理部310によるデータベース管理工程について)
DB管理部310は、データ提供装置2A~2Dにより提供された提供データ(観測データ、解析データ、地下構造データ、シミュレーションデータ)に基づいて、地震動データ11を収集し、データベース10に登録することにより、データベース10を管理する。
【0029】
図4は、データベース10の一例を示すデータ構成図である。データベース10には、地震による地震動が観測点で観測された地震動波形と、その地震動波形が観測されたときの複数種類の地震動諸特性パラメータからなる地震動諸特性パラメータ群とが関連付けられた地震動データ11が複数登録されて記憶されている。シミュレーションデータが、実際の地震又は仮想の地震による地震動を地震動シミュレーションにより算出したときのシミュレーション条件及びシミュレーション結果を含む場合には、シミュレーション条件を地震動諸特性パラメータ群として、シミュレーション結果を地震動波形として扱うことにより、データベース10には、当該シミュレーションデータが地震動データ11として登録されて記憶されている。
【0030】
また、データベース10には、地震動データ11の応答評価(詳細は後述)が行われたときの評価結果としての応答評価パラメータ群と、地震動データ11のクラスタ分析(詳細は後述)が行われたときの分析結果としてのクラスタ識別パラメータとが地震動データ11に関連付けて登録されて記憶されている。
【0031】
地震動諸特性パラメータ群は、地震動の諸特性を記述する各種の地震動諸特性パラメータからなる。地震動の諸特性は、例えば、地震動の震源特性、及び、伝播特性を含み、サイト特性、方位特性、地震動観測特性、及び、地震動予測特定をさらに含む。本実施形態では、地震動諸特性パラメータは、データ提供装置2A~2Dにより提供された提供データ(観測データ、解析データ、地下構造データ、シミュレーションデータ)を、上記の地震動の諸特性に応じて分類・記録したものである。以下に、地震動諸特性パラメータに含まれる震源特性に関する震源諸特性パラメータ、伝播特性に関する伝播諸特性パラメータ、サイト特性に関するサイト諸特性パラメータ、方位特性に関する方位諸特性パラメータ、地震動観測特性に関する観測諸特性パラメータ、及び、地震動予測特定に関する予測諸特性パラメータについて説明する。
【0032】
震源特性に関する震源諸特性パラメータは、例えば、マグニチュード(モーメントマグニチュードMw、気象庁マグニチュードMJ等)、震源深さH、震源位置(緯度lat_eq,経度lon_eq)、地震種別Type(内陸地殻内地震・プレート境界地震・スラブ内地震)、断層タイプMech(正断層・逆断層・横ずれ断層)、震源メカニズム解(走向Strike1、傾斜角dip1、すべり角rake1)、震源メカニズム解の共役解(走向Strike2、傾斜角dip2、すべり角rake2)、6つのモーメントテンソルMxx,Mxy,Mxz,Myy,Myz,Mzz、及び、震源の破壊伝播効果係数Dir等の少なくとも1つである。図4の例では、震源特性として、モーメントマグニチュードMw、気象庁マグニチュードMJ、震源深さH、震源の緯度・経度、震源メカニズム解、及び、震源メカニズム解の共役解、モーメントテンソル、震源の破壊伝播効果係数が図示されている。
【0033】
伝播特性に関する伝播諸特性パラメータは、例えば、震源距離Xmin、断層最短距離、及び、震央距離の少なくとも1つである。図4の例では、伝播特性として、震源距離Xminが図示されており、震源距離Xminは、観測点位置と、震央位置との間の距離として算定される。
【0034】
サイト特性に関するサイト諸特性パラメータは、例えば、観測点位置(緯度lat_site,経度lon_site)、微地形区分JCODE、地震基盤面深さ、工学的基盤面深さ、層厚、密度、地震波伝播速度、Q値、減衰定数、及び、火山フロント通過の判定フラグの少なくとも1つである。図4の例では、サイト特性として、観測点の緯度・経度、最上層のS波速度VS1、表層10m平均S波速度AVS10、表層30m平均S波速度AVS30、地震基盤面深さDbase、火山フロント通過の判定フラグXvflgが図示されている。地震基盤面深さDbaseは、防災科研の地震ハザードステーションJ-SHISで公開されている対象観測点位置が含まれるメッシュの深部地盤モデルの第28層の下面深さ(同モデルで地震基盤に相当するP波速度5000m/s・S波速度2700m/sの第29層の上面深さに等しい)とした。
【0035】
方位特性に関する方位諸特性パラメータは、例えば、観測点を基準として震央が位置する方位を示す震央方位Λである。そのため、震央方位Λは、観測点位置を基準として震央位置が存在する方位として算定される。その際、震央方位Λは、真北を0°として時計回りに定めるとともに、真北を境に不連続量となるため、図4の例では、方位特性として、震央方位Λを表すsinΛとcosΛのペアを用いる場合が図示されている。
【0036】
地震動観測特性に関する観測諸特性パラメータは、例えば、地震動波形として記録された時刻歴波形のデータが南北方向、東西方向及び上下方向のいずれかであることを示す地震動の方向成分Compである。なお、図4の例では、地震動観測特性を省略している。
【0037】
地震動予測特性に関する予測諸特性パラメータは、例えば、既往の地震動評価式fに基づく地震動指標の予測結果MF13である。図4の例では、地震動指標の予測結果MF13が図示されており、予測結果MF13は、地震動評価式fに、例えば、地震動諸特性パラメータ群のうち、モーメントマグニチュードMw、震源深さH、震源距離X、及び、地震種別Typeの4種類を代入することで算出される。
【0038】
地震動波形は、例えば、南北方向、東西方向及び上下方向に対する三成分の加速度、速度、及び、変位の時刻歴波形である。地震動波形は、所定の評価手法により評価・解析されることで、各種の地震動指標が得られる。本実施形態に係る地震動波形は、強震観測網K-NETのうち関東地方一都六県(東京・神奈川・千葉・埼玉・茨城・栃木・群馬)に設置された観測点138地点(図1参照)にて観測された水平二成分(南北方向及び東西方向)に対する時刻歴波形である。
【0039】
(応答評価部311による応答評価工程と、応答評価パラメータについて)
応答評価部311は、データベース10を参照し、複数の地震動波形を、構造物を模擬した質点系モデルにそれぞれ入力したときの応答特性を評価することにより、複数の応答評価パラメータからなる応答評価パラメータ群をそれぞれ算出する。
【0040】
質点系モデルは、例えば、耐震設計や構造解析の対象となる構造物を模擬したものである。質点系モデルは、構造物全体を1つの質点で扱う1質点系モデルで定義されてもよいし、階層構造の構造物において各階層に対応する質点をばねでつないだ多質点系モデルで定義されてもよい。なお、質点系モデルは、複数の質点系モデルから選択されたものでもよい。その際、質点系モデルは、設計者端末装置4を介して設計者により選択されてもよいし、質点系モデルを具体的に定義する各種の係数(階数、質量、固有周期、減衰係数等)が設計者により指定されてもよい。
【0041】
例えば、応答評価部311は、データベース10に登録された複数の地震動データ11に含まれる地震動波形を順次読み出して、その地震動波形を質点系モデルにそれぞれ入力したときの応答評価パラメータ群を算出する。具体的には、応答評価部311は、応答評価パラメータを算出するための既往の計算式やアルゴリズムに基づいて、応答評価パラメータとして、所定の周期における応答スペクトル、所定の周期におけるエネルギースペクトル、所定の周期における応答継続時間スペクトル、層間変形角、塑性変形倍率、累積塑性変形倍率、及び、免震層の最大変位のうち、少なくとも1つを算出する。なお、応答評価パラメータは、構造物の応答特性を評価するパラメータであれば上記の例に限られるものではなく、応答評価部311は、任意の応答評価パラメータを算出するようにしてもよい。
【0042】
本実施形態では、13種類の応答評価パラメータからなる応答評価パラメータ群として、周期0.02秒、0.1秒、0.5秒、1秒、1.5秒、2秒、2.5秒、3秒、3.5秒、4秒、4.5秒、5秒のそれぞれにおける減衰定数5%の加速度応答スペクトル、及び、周期0.02~5秒における加速度応答スペクトルの最大値が算出される場合について説明するが、これらに限られない。その際、応答評価パラメータ群は、例えば、設計者端末装置4を介して設計者により指定されてもよい。
【0043】
(クラスタ分析部312によるクラスタ分析工程と、クラスタ識別パラメータについて)
クラスタ分析部312は、データベース10を参照し、応答評価部311にて地震動波形毎にそれぞれ算出された応答評価パラメータ群に基づいて、地震動データ11のクラスタ分析を行うことにより、複数の地震動データ11にクラスタ識別パラメータをそれぞれ付与し、データベース10に記憶する。
【0044】
例えば、クラスタ分析部312は、複数の地震動データ11における応答評価パラメータ群を応答評価パラメータ毎に標準化又は正規化し、二次元又は三次元に次元削減を行うことで得られた次元削減後の特徴パラメータ群に基づいて、複数の地震動データ11にクラスタ識別パラメータをそれぞれ付与する。クラスタ識別パラメータは、地震動データ11にそれぞれ関係付けられた状態でデータベース10に登録される。
【0045】
クラスタ識別パラメータは、クラスタを識別するための識別子であり、応答評価パラメータ群から教師なし学習で得られた特徴量である。クラスタ識別パラメータは、任意のデータ形成を用いることができる。例えば、クラスタ識別パラメータは、アルファベットや番号等で指定されてもよいし、後述する次元削減後の特徴パラメータ群を用いて、二次元の座標や三次元の座標で指定されてもよい。
【0046】
図5は、クラスタ分析の一例を示す概要図である。本実施形態では、応答評価パラメータ群(13種類の応答評価パラメータ(1)~(13))として、周期0.02秒、0.1秒、0.5秒、1秒、1.5秒、2秒、2.5秒、3秒、3.5秒、4秒、4.5秒、5秒における減衰定数5%の加速度応答スペクトル、及び、周期0.02~5秒における加速度応答スペクトルの最大値であるものとして図5を参照しながら説明するが、これらの応答評価パラメータに限られない。
【0047】
まず、クラスタ分析部312は、複数の地震動データ11における応答評価パラメータ群を応答評価パラメータ毎に標準化又は正規化する。本実施形態では、応答評価パラメータ群は、上記のように、13種類の応答評価パラメータからなるため、13種類の応答評価パラメータのそれぞれについて、標準化又は正規化する。標準化するか、それとも、正規化するかは、応答評価パラメータの種類毎に決めればよい。
【0048】
次に、標準化又は正規化された13種類(13次元)の応答評価パラメータに対して次元削減を行うことで、二次元又は三次元の特徴パラメータ群に圧縮する。次元削減の手法としては、例えば、主成分分析、t分布型確率的近傍埋め込み法(t-SNE等)、多次元尺度構成法等を用いることができる。図5の例では、二次元に圧縮された場合が図示されている。
【0049】
そして、次元削減後の特徴パラメータ群に対してクラスタリングを行うことで、次元削減後の特徴パラメータ群に対応する地震動データ11にクラスタ識別パラメータを付与する。クラスタリングの手法としては、例えば、k-means法等の非階層的手法や、最短距離法等の階層的手法を用いることができる。クラスタリングの結果として付与されたクラスタ識別パラメータは、地震動データ11にそれぞれ関係付けられた状態でデータベース10に登録される。図5の例では、9つのクラスタに分類されて、クラスタ識別パラメータとして、アルファベットのA~Iが地震動データ11にそれぞれ付与された場合が図示されている。
【0050】
(抽出部313による抽出工程について)
抽出部313は、抽出対象の地震動波形が指定されたとき、データベース10を参照し、当該抽出対象の地震動波形に付与されたクラスタ識別パラメータと同一又は類似のクラスタ識別パラメータが付与された1又は複数の地震動波形を抽出する。なお、抽出部313は、クラスタ識別パラメータの類似の範囲として、例えば、クラスタ識別パラメータに基づく距離(例えば、図5に示す二次元空間上での距離)が所定の範囲内を満たすような地震動波形を抽出すればよい。抽出対象の地震動波形は、例えば、設計者端末装置4を介して設計者により指定される。
【0051】
なお、抽出対象の地震動波形は、地震動波形の指定に代えて、クラスタ識別パラメータにより指定されてもよい。その場合には、抽出部313は、抽出対象のクラスタ識別パラメータが指定されたとき、データベース10を参照し、当該抽出対象のクラスタ識別パラメータと同一又は類似のクラスタ識別パラメータが付与された1又は複数の地震動波形を抽出すればよい。抽出対象のクラスタ識別パラメータは、例えば、設計者端末装置4を介して設計者により指定される。
【0052】
(出力処理部314による出力処理工程について)
出力処理部314は、抽出部313にて抽出された複数の地震動波形をそれぞれ含む複数の地震動データ11を、例えば、設計者端末装置4にネットワーク5を介して送信する。設計者端末装置4では、抽出部313にて抽出された複数の地震動データ11を受信し、例えば、構造物の耐震設計や構造解析に利用することができる。これにより、設計者自身が、データベース10に蓄積された複数の地震動データ11の中から評価用の地震動データ11を選定する必要がなく、抽出部313にて抽出された複数の地震動データ11を用いて、構造物の耐震設計や構造解析を適切に実施することができる。
【0053】
図6は、同一又は類似のクラスタ識別パラメータが付与された複数の地震動波形における減衰定数5%の擬似速度応答スペクトルを示す図である。図7は、図6における擬似速度応答スペクトルを最大値で基準化したときの擬似速度応答スペクトルを示す図である。
【0054】
図6及び図7の例は、図5に示す二次元空間の右下側に位置する楕円に含まれる地震動データ11の地震動波形を抽出したものである。図6を参照すると、いずれの擬似速度応答スペクトルにおいても、スペクトルの最大値は1~2cm/s程度であり、周期0.1~0.2秒程度が卓越しており、振幅の大きさと周期特性が類似していることが分かった。また、図7を参照すると、周期0.15秒付近を中心に短周期側・長周期側のそれぞれに卓越周期がばらついていることが分かった。このように、応答評価パラメータ群に基づいて付与されたクラスタ識別パラメータが類似する複数の地震動波形は、それらの応答特性についても類似していることが推察される。
【0055】
なお、DB管理部310によるデータベース管理工程において、データベース10に地震動データ11が随時登録されて、所定の数の地震動データ11が新たに蓄積された場合には、新たな地震動データ11を含む複数の地震動データ11に対して、応答評価部311による応答評価工程、及び、クラスタ分析部312によるクラスタ分析工程を再度行うことにより、クラスタ識別パラメータを更新してもよい。また、クラスタ分析部312によるクラスタ分析工程において、データベース10には、応答評価パラメータ群に基づいて付与されたクラスタ識別パラメータが地震動データ11に関連付けて登録されるが、データベース10の利用方法は、上記の例に限られない。すなわち、抽出部313による抽出工程、及び、出力処理部314による出力処理工程以外の工程により、データベース10が利用されてもよい。
【0056】
以上のように、本実施形態に係る地震動データ分類装置3及び地震動データ分類方法によれば、応答評価部311により複数の地震動波形に対してそれぞれ算出された応答評価パラメータ群に基づいて、地震動データ11のクラスタ分析が行われて、複数の地震動データ11にクラスタ識別パラメータがそれぞれ付与される。したがって、応答評価パラメータ群に基づいてクラスタ分析により付与されたクラスタ識別パラメータを用いることで、構造物の耐震設計において有用な地震動データ11を簡便に抽出することができる。
【0057】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0058】
上記各実施形態では、地震動データ分類プログラム300は、記憶部30に記憶されたものとして説明したが、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、DVD、USBメモリ等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供されてもよい。また、地震動データ分類プログラム300は、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供されてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1…地震動データ管理システム、2A…観測データ提供装置、
2B…解析データ提供装置、2C…地下構造データ提供装置、
2D…地震動シミュレーションデータ提供装置、
3…地震動データ分類装置、4…設計者端末装置、5…ネットワーク、
10…データベース、11…地震動データ、
30…記憶部、31…制御部、32…通信部、33…入力部、34…表示部、
300…地震動データ分類プログラム、310…DB管理部、311…応答評価部、
312…クラスタ分析部、313…抽出部、314…出力処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7