(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162680
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】インクジェットインク組成物、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
C09D 11/36 20140101AFI20241114BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20241114BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C09D11/36
B41M5/00 120
B41M5/00 100
B41J2/01 501
B41J2/01 125
B41J2/01 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078477
(22)【出願日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100148323
【弁理士】
【氏名又は名称】川▲崎▼ 通
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】浅川 裕太
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FA04
2C056FA10
2C056FA13
2C056FC01
2C056FD13
2C056HA46
2H186AB13
2H186AB15
2H186BA02
2H186BA08
2H186DA12
2H186FB10
2H186FB11
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB53
4J039BC06
4J039BC07
4J039BC09
4J039BC10
4J039BC13
4J039BC36
4J039BE02
4J039BE19
4J039BE22
4J039CA03
4J039EA41
4J039EA42
4J039EA46
4J039GA06
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】低発煙性でかつ紙面での乾燥性が良好なインクジェットインク組成物を提供する。
【解決手段】昇華性染料と、4個以上のOH基を有する糖アルコール類と、炭素数が2又は3のジオールと、グリコールモノエーテル類、炭素数が4以上のジオール類、アミド類、及び、(ポリ)グリセリルエーテル類から選ばれる1種以上の浸透性保湿剤と、総質量に対して1質量%以下のグリセリンと、を含む、インクジェットインク組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇華性染料と、
4個以上のOH基を有する糖アルコール類と、
炭素数が2又は3のジオールと、
グリコールモノエーテル類、炭素数が4以上のジオール類、アミド類、及び、(ポリ)グリセリルエーテル類から選ばれる1種以上の浸透性保湿剤と、
インクジェットインク組成物の総質量に対して1質量%以下のグリセリンと、
を含む、インクジェットインク組成物。
【請求項2】
請求項1において、
前記浸透性保湿剤の10質量%水溶液の表面張力が、45mN/m以上67mN/m以下である、インクジェットインク組成物。
【請求項3】
請求項1において、
前記浸透性保湿剤の含有量が、前記インクジェットインク組成物の総質量に対して5質量%以下である、インクジェットインク組成物。
【請求項4】
請求項1において、
ポリグリセリン類及びベタイン類から選ばれる少なくとも1種をさらに含む、インクジェットインク組成物。
【請求項5】
請求項1において、
前記炭素数が2又は3のジオール類の含有量が、前記インクジェットインク組成物の総質量に対して5質量%以上15質量%以下である、インクジェットインク組成物。
【請求項6】
請求項1において、
前記糖アルコール類の、60質量%水溶液の粘度が、35mPa・s以下である、インクジェットインク組成物。
【請求項7】
請求項1において、
前記糖アルコール類の含有量が、前記インクジェットインク組成物の総質量に対して3質量%以上15質量%以下である、インクジェットインク組成物。
【請求項8】
請求項1において、
前記浸透性保湿剤が、(ポリ)グリセリルエーテル類を含む、インクジェットインク組成物。
【請求項9】
請求項8において、
前記(ポリ)グリセリルエーテル類の平均重量分子量が、300以上800以下である、インクジェットインク組成物。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載のインクジェットインク組成物を、シート状記録媒体に付着させる記録工程と、
前記シート状記録媒体の記録面を被染色対象物に重ね合わせ、150℃以上220℃以下の温度で加熱して昇華性染料を被染色対象物に昇華転写する転写工程と、
画像転写後に被染色対象物から前記シート状記録媒体を剥離する剥離工程と、
を含む、インクジェット記録方法。
【請求項11】
請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載のインクジェットインク組成物を、シー
ト状記録媒体に付着させる記録工程と、
前記インクジェットインク組成物を付着させた前記シート状記録媒体を50℃以上の温度に加熱する乾燥工程と、
乾燥後の前記シート状記録媒体をロール状に巻き取る回収工程と、
を含む、インクジェット記録方法。
【請求項12】
請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載のインクジェットインク組成物を、シート状記録媒体に付着させるインクジェットヘッドと、
前記シート状記録媒体を50℃以上の温度に加熱するヒーターと、
前記シート状記録媒体をロール状に巻き取るローラーと、
を含む、インクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク組成物、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、微細なノズルからインクの小滴を吐出して、記録媒体に付着させて記録を行う方法である。この方法は、比較的安価な装置で高解像度かつ高品位な画像を、高速で記録できるという特徴を有する。また、インクジェット記録方法を用いて、布帛等を染色(捺染)することも行われている。
【0003】
記録方法としては、昇華性染料を用いた転写型の記録方法がある。かかる記録方法は、転写対象の記録媒体に直接にはインクジェットインク組成物を付着させず、転写元となる転写媒体(紙等)へインクジェットインク組成物を付着させた後、当該転写媒体から転写先の媒体へと染料を転写して染色する。
【0004】
転写による記録方法では、インクジェットインク組成物に昇華性染料が配合され、一旦転写元の媒体に組成物が付着され、その後、例えば蒸気、熱によって昇華染料を昇華させ、記録対象の記録媒体を染色する。このような昇華転写に用いる組成物として、例えば、特許文献1~3には、グリセリンや糖アルコールを含む昇華染料を含む組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/121263号
【特許文献2】特開2004-107647号公報
【特許文献3】特開2004-107648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、グリセリンを含む昇華転写インクは、昇華転写時の加熱でグリセリンが蒸発し、空気中で冷却されて凝縮点に達することで微小液滴による発煙が発生する場合があった。また、グリセリンに代えて糖アルコールを含む昇華転写インクでは、糖アルコールが高沸点であるために、転写媒体紙面での乾燥性が不十分となり、媒体を巻取る際に裏面に画像が転写してしまう場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るインクジェットインク組成物の一態様は、
昇華性染料と、
4個以上のOH基を有する糖アルコール類と、
炭素数が2又は3のジオールと、
グリコールモノエーテル類、炭素数が4以上のジオール類、アミド類、及び、(ポリ)グリセリルエーテル類から選ばれる1種以上の浸透性保湿剤と、
組成物の総質量に対して1質量%以下のグリセリンと、
を含む。
【0008】
本発明に係るインクジェット記録方法の一態様は、
上記のインクジェットインク組成物を、シート状記録媒体に付着させる記録工程と、
前記記録媒体の記録面を被染色対象物に重ね合わせ、150℃以上220℃以下の温度で加熱して昇華性染料を被染色対象物に昇華転写する転写工程と、
画像転写後に被染色対象物から前記記録媒体を剥離する剥離工程と、
を含む。
【0009】
本発明に係るインクジェット記録方法の一態様は、
上記のいずれかのインクジェットインク組成物を、シート状記録媒体に付着させる記録工程と、
前記インクジェットインク組成物を付着させた記録媒体を50℃以上の温度に加熱する乾燥工程と、
乾燥後の記録媒体をロール状に巻き取る回収工程と、
を含む。
【0010】
本発明に係るインクジェット記録装置の一態様は、
上記のインクジェットインク組成物を、シート状記録媒体に付着させるインクジェットヘッドと、
前記シート状記録媒体を50℃以上の温度に加熱するヒーターと、
前記記録媒体をロール状に巻き取るローラーと、
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】実施例のインクジェットインク組成物の組成を記載した表2。
【
図4】実施例のインクジェットインク組成物の組成を記載した表3。
【
図5】実施例のインクジェットインク組成物の組成を記載した表4。
【
図6】比較例のインクジェットインク組成物の組成を記載した表5。
【
図7】実施例及び比較例の評価結果を記載した表6。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0013】
1.インクジェットインク組成物
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、昇華性染料と、4個以上のOH基を有する糖アルコール類と、炭素数が2又は3のジオールと、グリコールモノエーテル類、炭素数が4以上のジオール類、アミド類、及び、(ポリ)グリセリルエーテル類から選ばれる1種以上の浸透性保湿剤と、組成物の総質量に対して1質量%以下のグリセリンと、を含む。
【0014】
1.1.昇華性染料
本実施形態のインクジェットインク組成物は、昇華性染料(以下「昇華染料」「昇華型染料」ともいう。)を含む。昇華性染料とは、ポリエステル、ナイロン、アセテート等の疎水性合成繊維の染着に好適に用いられる染料であり、水に不溶または難溶の化合物である。また昇華性染料は、加熱により昇華する性質を有する染料である。本実施形態のインクジェットインク組成物に用いられる昇華性染料としては、特に制限されないが、具体的には以下に例示するものが挙げられる。
【0015】
昇華性染料としては、上記のような性質を有する分散染料、溶剤染料等を用いることができる。このような染料の具体例としては、C.I.ディスパースイエロー3、7、8、23、39、51、54、60、71、86;C.I.ディスパースオレンジ1、1:1、5、20、25、25:1、33、56、76;C.I.ディスパースブラウン2;C.I.ディスパースレッド11、50、53、55、55:1、59、60、65、70、75、93、146、158、190、190:1、207、239、240;C.I.バットレッド41;C.I.ディスパースバイオレット8、17、23、27、28、29、36、57;C.I.ディスパースブルー19、26、26:1、35、55、56、58、64、64:1、72、72:1、81、81:1、91、95、108、131、141、145、359;C.I.ソルベントブルー36、63、105、111等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし2種類以上を併用してもよい。
【0016】
本実施形態のインクジェットインク組成物は、上記例示した染料の中でも、インクジェットインク組成物の保存安定性の観点から、C.I.ディスパースイエロー3、7、8、23、51、54、60、71、86;C.I.ディスパースオレンジ20、25、25:1、56、76;C.I.ディスパースブラウン2;C.I.ディスパースレッド11、53、55、55:1、59、60、65、70、75、146、190、190:1、207、239、240;C.I.バットレッド41;C.I.ディスパースバイオレット8、17、23、27、28、29、36、57;C.I.ディスパースブルー26、26:1、55、56、58、64、64:1、72、72:1、81、81:1、91、95、108、131、141、145、359;C.I.ソルベントブルー36、63、105、111等がより好ましい。
【0017】
上記例示した昇華性染料は、いずれも水に不溶または難溶の化合物であるが、例えば後述する分散剤によって、特定の濃度範囲であれば水に対して良好に分散することができる。また、上記例示した昇華性染料は、それぞれ分散性や溶解性において若干の差異がある。すなわち、昇華性染料の種類によっては、分散剤の好適な濃度範囲が異なるし、分散剤による溶解性も異なる。
【0018】
上記例示した昇華性染料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用した混色として用いてもよい。
【0019】
昇華性染料の合計の含有量は、インクジェットインク組成物100質量%に対して、10質量%以下、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%以上9.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.3質量%以上8.0質量%以下である。
【0020】
昇華性染料の含有量が0.1質量%以上であることにより、得られる染色物(転写先)の発色性(OD値)がより優れる傾向にある。また、昇華性染料の含有量が10質量%以下であることにより、吐出安定性が良好となる傾向がある。
【0021】
昇華性染料は、分散剤によって分散されてもよい。分散剤は、上述の昇華性染料をインクジェットインク組成物中で分散させる機能を有している。分散剤としては、特に限定されないが、アニオン系分散剤、ノニオン系分散剤、高分子分散剤(樹脂分散剤)が挙げられる。
【0022】
アニオン系分散剤としては、芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物が好ましく挙げられる。芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物における「芳香族スルホン酸」としては、例えば、クレオソート油スルホン酸、クレゾールスルホン酸、フェノールスルホン酸、β-ナ
フトールスルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸等のアルキルナフタレンスルホン酸、β-ナフタレンスルホン酸とβ-ナフトールスルホン酸との混合物、クレゾールスルホン酸と2-ナフトール-6-スルホン酸との混合物、リグニンスルホン酸及びその塩等が挙げられる。
【0023】
また、アニオン系分散剤としては、β-ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、および、クレオソート油スルホン酸のホルマリン縮合物及びその塩が好ましく、ナトリウム塩がさらに好ましい。
【0024】
ノニオン系分散剤としては、フィトステロールのエチレンオキサイド付加物、コレスタノールのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0025】
これらのうち、ナフタレンスルホン酸系分散剤の市販品としては、デモールNL:ナフタレンスルホン酸、花王株式会社製、デモールMS、デモールN、デモールRN、デモールRN-L、デモールSC-30、デモールSN-B、デモールSS-L、デモールT、デモールT-45等が挙げられる。
【0026】
また、高分子分散剤(「樹脂分散剤」ともいう。)としては、ポリアクリル酸、アクリル酸-アクリルニトリル共重合体、アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、ビニルナフタレン-アクリル酸共重合体等のアクリル系樹脂及びその塩;スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体等のスチレン系樹脂及びその塩;イソシアネート基とヒドロキシル基とが反応したウレタン結合を含む高分子化合物(樹脂)であって直鎖状の及び/又は分岐状であってもよく、架橋構造の有無を問わないウレタン系樹脂及びその塩;ポリビニルアルコール類及びその塩;ポリビニルピロリドン類及びその塩;ビニルナフタレン-マレイン酸共重合体及びその塩;酢酸ビニル-マレイン酸エステル共重合体及びその塩;並びに;酢酸ビニル-クロトン酸共重合体及びその塩等を挙げることができる。
【0027】
スチレン系樹脂分散剤の市販品としては、例えば、X-200、X-1、X-205、X-220(星光PMC社製)等が挙げられる。アクリル系樹脂分散剤の市販品としては、BYK-190、BYK-187、BYK-191、BYK-194N、BYK-199(ビックケミー株式会社製)等が挙げられる。また、ウレタン系樹脂分散剤の市販品としては、BYK-184、BYK-182、BYK-183、BYK-185(ビックケミー株式会社製)等が挙げられる。
【0028】
分散剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。分散剤の合計の含有量は、インクジェットインク組成物100質量%に対して、0.1質量%以上30質量%以下、好ましくは0.5質量%以上25質量%以下、より好ましくは1質量%以上20質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以上15質量%以下である。分散剤の含有量が0.1質量%以上であることにより、昇華性染料の分散安定性を得ることができる。また、分散剤の含有量が30質量%以下であれば、昇華性染料を溶解させすぎることがなく、かつ、粘度を小さく抑えることができる。
【0029】
上記例示した分散剤のなかでも、樹脂分散剤、特に、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂
、及び、ウレタン系樹脂から選択される少なくとも一種であることがさらに好ましい。またこの場合、分散剤の重量平均分子量は、500以上であることがさらに好ましい。分散剤としてこのような樹脂分散剤を用いることにより、昇華型染料の分散安定性をさらに良好にすることができる。
【0030】
1.2.糖アルコール類
本実施形態のインクジェットインク組成物は、4個以上のOH基(以下「ヒドロキシ基」「ヒドロキシル基」ともいう。)を有する糖アルコール類を含む。そのような糖アルコール類の例としては、アルドースやケトースのカルボニル基が還元されて生成する糖を挙げることができる。そのような糖アルコール類としては、例えば、マルチトール、ラクチトール、テトリトール、ペンチトール、ヘキシトール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、イノシトールが挙げられる。これらの中でも、D-ソルビトール、エリスリトール及びD-マンニトールから選択される一種以上であることがより好ましい。
【0031】
上記例示した糖アルコール類のうちのいくつかの糖アルコールの分子量を記す。
・エリスリトール 122
・キシリトール 152
・D-ソルビトール 182
・ラクチトール 344
【0032】
上記例示した糖アルコール類のうちのいくつかの糖アルコールの60質量%水溶液粘度(単位:mPa・s)を記す。
・キシリトール 24.3
・D-ソルビトール 32.8
なお、「60質量%水溶液粘度」とは、各糖アルコール類の60質量%水溶液を作製し、レオメータMCR302e(アントンパール社製)で測定した、せん断速度200s-1のときの20℃における粘度を表す。なお、エリスリトールは粘度が高く、水溶液とならず、測定不能であった。
【0033】
上記例示した糖アルコール類のうちのいくつかの糖アルコールの10質量%水溶液表面張力(単位:mN/m)を記す。
・キシリトール 74.1
・D-ソルビトール 73.5
なお、「10質量%水溶液表面張力」とは、各糖アルコール類の10質量%水溶液を作製し、表面張力計DY-300(協和界面科学社製)で測定した、20℃における表面張力の値を表す。
【0034】
上記例示した糖アルコール類は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。インクジェットインク組成物が、糖アルコール類を含むことにより、発煙性が低減されるとともに、目詰まり回復性及び画像の発色性を良好にできる。
【0035】
また、糖アルコール類のうち、60質量%水溶液の粘度が、35mPa・s以下、より好ましくは、33mPa・s以下、さらに好ましくは、30mPa・s以下であるものを用いることがより好ましい。糖アルコール類の60質量%水溶液の粘度が、35mPa・s以下であることにより、糖アルコールによる蒸発増粘性の影響をより小さくでき、間欠吐出安定性をさらにさらに優れたものとできる。
【0036】
糖アルコール類の含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に対して3質量%以上15質量%以下が好ましく、3質量%以上13質量%以下がより好ましく、3質量%以
上11質量%以下がさらに好ましく、4質量%以上7質量%以下がよりさらに好ましい。糖アルコール類に含有量がこの範囲であると、目詰まり回復性、発色性、間欠吐出安定性をさらに良好に両立できる。
【0037】
1.3.炭素数が2又は3のジオール
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、炭素数が2又は3のジオールを含む。炭素数2又は3のジオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3-プロジオール等が挙げられる。これらの中でも、プロピレングリコールを用いることがより好ましい。また、インクジェットインク組成物は、これらの複数種を含有してもよい。
【0038】
インクジェットインク組成物が、炭素数が2又は3のジオールを含むことにより、紙面乾燥性が向上すると同時に、蒸発増粘性の影響をより小さくでき、間欠吐出安定性をさらにさらに優れたものとできる。
【0039】
インクジェットインク組成物における、炭素数が2又は3のジオール類の含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に対して5質量%以上15質量%以下であることが好ましく、6質量%以上14質量%以下であることがより好ましく、7質量%以上13質量%以下であることがさらに好ましい。インクジェットインク組成物における、炭素数が2又は3のジオール類の含有量がこのような範囲であると、さらに発煙を抑制でき、紙面乾燥性、間欠吐出にもさらに優れる。
【0040】
1.4.浸透性保湿剤
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、グリコールモノエーテル類、炭素数が4以上のジオール類、アミド類、及び、(ポリ)グリセリルエーテル類から選ばれる1種以上の浸透性保湿剤を含む。
【0041】
インクジェットインク組成物が浸透性保湿剤を含有することにより、インクジェットインク組成物により形成される画像の乾燥性を高めることができるとともに、間欠吐出安定性を良好にできる。なお、本明細書では、浸透性保湿剤を保湿剤と区別して扱うが、浸透性保湿剤は、浸透性は必須の特性ではなく、浸透性が小さいものや浸透性を有しないものを含めて浸透性保湿剤と呼ぶ。
【0042】
表1に、浸透性保湿剤を例示する。
【0043】
表1中、10質量%水溶液表面張力は、各浸透性保湿剤の10質量%水溶液を作製し、表面張力計DY-300(協和界面科学社製)で測定した結果を記載した。
【0044】
インクジェットインク組成物は、表1に例示した以外の浸透性保湿剤を含んでもよい。また、浸透性保湿剤は、複数種を用いてもよい。浸透性保湿剤の10質量%水溶液の表面
張力は、45mN/m以上67mN/m以下であることが好ましく、46mN/m以上65mN/m以下であることがより好ましく、50mN/m以上64mN/m以下であることがさらに好ましい。
【0045】
10質量%水溶液の表面張力が、このような範囲であると、インクジェットインク組成物の、発色性、間欠吐出安定性、紙面乾燥性及び目詰まり回復性がより優れたものとなる。またこのような範囲であると、表面張力がより適切であるので、浸透性がより適切で、得られる画像の発色性がより良好となる。さらに、粘度及び/又は蒸発増粘性もより良好となるので、目詰まり回復性及び/又は間欠吐出安定性にもより優れることとなる。
【0046】
浸透性保湿剤の含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。また、浸透性保湿剤の含有量の下限は、0.3質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。浸透性保湿剤をこの程度含有することで、インクジェットインク組成物の目詰まり回復性及び画像の発色性をより優れたものとできる。また、インクジェットインク組成物の保存安定性も優れたものとできる。
【0047】
浸透性保湿剤は、(ポリ)グリセリルエーテル類を含むことがより好ましい。(ポリ)グリセリルエーテル類の例としては、グリセリンまたはポリグリセリンのアルキレンオキサイド付加物を挙げることができる。(ポリ)グリセリルエーテル、すなわち、ポリグリセリルエーテルやグリセリルエーテルは、発煙性がより少なく、転写時の発煙を抑制しやすい。例えば、表1中に例示した、ユニオックスG-450、ユニオックスG-750、SC-E750、SC-E350、SC-P750は、以下のような結果が得られる。
【0048】
30質量%水溶液の発煙性を次のように評価した。各(ポリ)グリセリルエーテルの30質量%水溶液を作製し、ポリエステル100%布帛カール・ドライ(東レ株式会社製)に、ポリスポイトで10滴滴下後、卓上自動昇華転写プレスAF-54TEN(株式会社イツミ製)で200℃40秒、465g/cm2の圧力で加圧して、発煙が発生するかを目視評価した。その結果、ユニオックスG-450、ユニオックスG-750、SC-E750、SC-E350、SC-P750は、発煙しなかった。
【0049】
このような効果は、(ポリ)グリセリルエーテル類の分子量の大きさが一因であると考えられる。この観点から、(ポリ)グリセリルエーテル類を用いる場合には、その重量平均分子量は、280以上900以下が好ましく、300以上800以下がより好ましく、350以上750以下がより好ましい。なお、重量平均分子量の上限は、溶液の粘度や、溶液が乾燥する際の粘度の上昇速度などの観点から上記範囲が好ましい。
【0050】
1.5.グリセリン
本実施形態のインクジェットインク組成物は、グリセリンを総質量に対して1質量%以下の含有量で含む。インクジェットインク組成物は、グリセリンを、その総質量に対し1質量%を超えて含有しない。
【0051】
インクジェットインク組成物において、グリセリンは、0.5質量%を超えて含有しないことがより好ましく、0.1質量%を超えて含有しないことがさらに好ましい。また、グリセリンは、インクジェットインク組成物に含んでも含まれなくても良く、含む場合であっても上記の含有量以下である。
【0052】
グリセリンの含有量が上記範囲内であると、インクジェットインク組成物は、発煙が生じにくく、優れた紙面乾燥性を発揮できる。
【0053】
1.6.その他の成分
インクジェットインク組成物は、上記成分の他に、以下の成分を含んでもよい。
【0054】
1.6.1.界面活性剤
インクジェットインク組成物は、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤が挙げられる。
【0055】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、サーフィノール104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG-50、104S、420、440、465、485、SE、SE-F、504、61、DF37、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D(以上全て商品名、エアープロダクツジャパン株式会社製)、オルフィンB、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、PD-001、PD-002W、PD-003、PD-004、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、AF-103、AF-104、AK-02、SK-14、AE-3(以上全て商品名、日信化学工業株式会社製)、アセチレノールE00、E00P、E40、E100(以上全て商品名、川研ファインケミカル株式会社製)が挙げられる。
【0056】
フッ素系界面活性剤としては、フッ素変性ポリマーを用いることが好ましく、具体例としては、BYK-340(商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)が挙げられる。
【0057】
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリシロキサン系化合物が好ましく挙げられる。当該ポリシロキサン系化合物としては、特に限定されないが、例えばポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。当該ポリエーテル変性オルガノシロキサンの市販品としては、例えば、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-348(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(以上商品名、信越化学工業株式会社製)、シルフェイスSAG503A、シルフェイスSAG014(以上商品名、日信化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0058】
上記界面活性剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
界面活性剤を含有する場合には、その含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に対して0.1質量%以上1.5質量%以下とすることが好ましい。
【0060】
1.6.2.ポリグリセリン類及びベタイン類
インクジェットインク組成物は、ポリグリセリン類及びベタイン類から選ばれる少なくとも1種をさらに含んでもよい。ポリグリセリン類及びベタイン類は、保湿剤としての性質を有するが、本明細書では、ポリグリセリン類及びベタイン類は、上述の浸透性保湿剤とは異なるものとして、区別して扱う。
【0061】
ポリグリセリン類としては、ジグリセリンS(阪本薬品工業株式会社製)(重量平均分子量:166、60%水溶液粘度:20.8、10%水溶液表面張力:72.5)、R-PG(阪本薬品工業株式会社製)(重量平均分子量:240、60%水溶液粘度:29)ポリグリセリン#310(阪本薬品工業株式会社製)(重量平均分子量:310、60%
水溶液粘度:22.8)などが挙げられる。
【0062】
ベタイン類は、正電荷と負電荷を同一分子内の隣り合わない位置に有しており、正電荷を持つ原子には解離しうる水素が結合しておらず、分子内塩を構成し得るものであり、分子全体としては電荷を持たない化合物を意味する。本実施形態において、ベタイン類は、正電荷部位が第4級アンモニウムカチオンであるものが好ましい。
【0063】
ベタイン類としては、特に制限されないが、例えば、トリメチルグリシン、トリエチルグリシンなどのトリアルキルグリシン、γ-ブチロベタイン、ホマリン、トリゴネリン、カルニチン、ホモセリンベタイン、バリンベタイン、リジンベタイン、オルニチンベタイン、アラニンベタイン、スタキドリン、及びグルタミン酸ベタイン等が挙げられる。その中でも、インクジェットインク組成物に含有されるグリシン類として、トリアルキルグリシンから選択されることが好ましく、トリメチルグリシンを含むことがより好ましい。トリアルキルグリシンは、グリシンの窒素原子にアルキル基が3個置換した化合物である。それにより、目詰まり回復性がより向上する傾向にある。なお、ベタインは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
ポリグリセリン類及びベタイン類を用いる場合、その含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に対して、合計で2.5質量%以上9.5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3質量%以上8質量%以下であり、さらに好ましくは4質量%以上8質量%以下である。
【0065】
なお、ポリグリセリン類は不純物としてグリセリンを含む場合があり、多量に添加すると発煙性が生じる場合がある。また、ベタイン類は固体である場合、添加量が多いと目詰まり回復性が劣る場合がある。これらの観点から含有量を上記範囲とすることが好ましい。
【0066】
ポリグリセリン類及びベタイン類は、蒸発増粘性が低く、インクジェットインク組成物がポリグリセリン類及びベタイン類の少なくとも1種を含むことにより、少量の添加によって、間欠吐出安定性を向上できる。また、インクジェットインク組成物がインクジェットヘッドのノズルで乾燥することに起因するインクジェットインク組成物の飛行曲がりや不吐出を抑制することができ、目詰まり回復性を優れたものにできる。
【0067】
1.6.3.水
本実施形態のインクジェットインク組成物は、水を含有する水系の組成物であってもよい。「水系」の組成物とは、水を主要な溶媒の1つとする組成物のことである。水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、及び蒸留水等の純水、並びに超純水のような、イオン性不純物を低減したものが挙げられる。また、紫外線照射又は過酸化水素の添加等によって滅菌した水を用いると、インクジェットインク組成物を長期保存する場合に細菌類や真菌類の発生を抑制することができる。
【0068】
水の含有量は、インクジェットインク組成物の総量(100質量%)に対して、30質量%以上、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは45質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上である。また、水の含有量の上限は、インク組成物の総量(100質量)に対して、好ましくは97質量%以下、さらには90質量%以下であり、より好ましくは85質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以下である。
【0069】
1.6.4.その他の成分
本実施形態のインクジェットインク組成物は、必要に応じて、有機溶剤、キレート剤、防錆剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤など、種々の添加剤を含有しても
よい。
【0070】
1.7.製造及び物性
本実施形態のインクジェットインク組成物は、インクジェットによる画像の品質をより高める観点から、20℃における表面張力(静的表面張力)が18mN/m以上40mN/mであることが好ましく、20mN/m以上35mN/m以下であることがより好ましく、22mN/m以上33mN/m以下であることがさらに好ましい。なお、表面張力の測定は、例えば、自動表面張力計CBVP-Z(商品名、協和界面科学株式会社製)を用いて、20℃の環境下で白金プレートをインクジェットインク組成物で濡らしたときの表面張力を確認することにより測定することができる。
【0071】
同様の観点から、インクジェットインク組成物の20℃における粘度は、3mPa・s以上10mPa・s以下であることが好ましく、3mPa・s以上8mPa・s以下であることがより好ましい。なお、粘度の測定は、例えば、粘弾性試験機MCR-300(商品名、Pysica社製)を用いて、20℃の環境下での粘度を測定することができる。
【0072】
インクジェットインク組成物は、上述した成分を任意の順序で混合し、必要に応じて濾過等をして不純物を除去することにより得られる。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。濾過方法としては、遠心濾過、フィルター濾過等を必要に応じて行なうことができる。
【0073】
1.8.作用効果
本実施形態のインクジェットインク組成物によれば、OH基を4個以上含む糖アルコール類が220℃までの温度で揮発しにくく、加熱された際に発煙が生じにくい。また、このインクジェットインク組成物によれば、乾燥性が高く低粘度である炭素数2又は3のジオール類、及び浸透性保湿剤を併用することにより、低発煙性と紙面乾燥性を両立することができる。さらに、このインクジェットインク組成物によれば、グリセリンの含有量が1質量%以下であるので、発煙が抑制される。
【0074】
2.インクジェット記録方法
2.1.第1実施形態
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、上述のインクジェットインク組成物を、シート状記録媒体(中間転写媒体)に付着させる記録工程と、記録媒体(中間転写媒体)の記録面を被染色対象物(被記録媒体)に重ね合わせ、150℃以上220℃以下の温度で加熱して昇華性染料を被染色対象物(被記録媒体)に昇華転写する転写工程と、画像転写後に被染色対象物(被記録媒体)から記録媒体(中間転写媒体)を剥離する剥離工程と、を含む。
【0075】
上述のインクジェットインク組成物は、昇華転写を利用した布帛等に対する染色方法(昇華転写インクジェット記録方法)に好適に適用することができる。本実施形態のインクジェット記録方法は、染色物の製造方法ということもできる。
【0076】
本実施形態のインクジェット記録方法(染色物の製造方法)は、インクジェットインク組成物を記録媒体の記録面に付着させる工程と、記録媒体の記録面に、被記録媒体を配置する工程と、記録媒体及び被記録媒体を加熱する工程と、被染色対象物(被記録媒体)から記録媒体(中間転写媒体)を剥離する剥離工程と、を有する。換言すると、本実施形態のインクジェット記録方法(染色物の製造方法)は、インクジェット法を用いて、上述したインクジェットインク組成物を中間転写媒体に付与する記録工程と、インク組成物が付与された中間転写媒体を、インク組成物が付与された面と被染色物の染色面とを対向させ
た状態で加熱し、昇華性染料を被染色物に転写させる転写工程と、画像転写後に被染色対象物(被記録媒体)から記録媒体(中間転写媒体)を剥離する剥離工程と、を有する。以下、各工程について説明する。
【0077】
<記録工程>
本工程では、インクジェット法を用いて、インクジェットインク組成物を中間転写媒体(第1記録媒体)の記録面に付与する。インクジェット法によるインクジェットインク組成物の吐出は、液滴吐出装置(例えば後述のインクジェット記録装置)を用いて行うことができる。
【0078】
液滴吐出方式(インクジェット法の方式)としては、ピエゾ方式や、インクを加熱して発生した泡(バブル)によりインクを吐出させる方式等を用いることができるが、インク組成物の変質のし難さ等の観点から、ピエゾ方式が好ましい。また、発明者の検討によれば、薄膜ピエゾ方式の記録ヘッドにおいて、インクジェットインク組成物に加わるシェアレートは、100s-1程度であることが分かっており、本実施形態のインクジェットインク組成物においてより好ましいシェアレートである。
【0079】
中間転写媒体としては、シート状の記録媒体が挙げられ、例えば、普通紙等の紙、インク受容層が設けられた記録媒体(インクジェット用専用紙、コート紙等で呼称される)等を用いることができるが、シリカ等の無機微粒子でインク受容層が設けられた紙がより好ましい。これにより、中間転写媒体に付与されたインクジェットインク組成物が乾燥する過程で、記録面に滲み等が抑制された中間記録物を得ることができる。また、このような媒体であれば、さらに記録面の表面に昇華性染料を留めやすく、後の転写工程において、昇華性染料の昇華をより効率的に行うことができる。
【0080】
本工程では、複数種のインクジェットインク組成物を用いてもよい。これにより、例えば、表現することのできる色域をより広いものとすることができる。
【0081】
<転写工程>
その後、インク組成物が付与された中間転写媒体の記録面を、被染色物と対向させた状態(第1記録媒体の記録面に、第2記録媒体を配置した状態)で加熱し、インクジェットインク組成物を構成する昇華性染料を被染色物に転写させる。これにより、布帛等を被染色物とした染色物が得られる。
【0082】
本工程での加熱温度は、150℃以上220℃以下であり、好ましくは160℃以上210℃以下である。これにより、昇華性染料を被染色物に転写させるのに十分なエネルギーを与えることができ、染色物の生産性を優れたものとすることができる。
【0083】
本工程での加熱時間は、加熱温度にもよるが、30秒以上90秒以下、好ましくは45秒以上60秒以下である。これにより、昇華性染料を被染色物に転写させるのに十分なエネルギーを得ることができ、染色物の生産性を特に優れたものとすることができる。
【0084】
また、本工程は、インク組成物が付与された中間転写媒体を、被染色物と対向させた状態で加熱することにより行えばよいが、中間転写媒体と被染色物とを密着させた状態で加熱することにより行うことがより好ましい。これにより、例えば、より鮮明な画像を第2記録媒体に記録する(染色する)ことができる。
【0085】
被染色物としては、例えば、布帛(疎水性繊維布帛等)、樹脂(プラスチック)フィルム等のシート状の物が好適に用いられるが、シート状以外の球状、直方体形状等の立体的な形状を有する物を用いてもよい。
【0086】
また、被染色物としては、例えば、樹脂、プラスチックで構成されたもののほか、ガラス、金属、陶磁器を用いてもよい。被染色物としての布帛を構成する繊維としては、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、トリアセテート繊維、ジアセテート繊維、ポリアミド繊維およびこれらの繊維を2種以上用いた混紡品等が挙げられる。また、これらとレーヨン等の再生繊維あるいは木綿、絹、羊毛等の天然繊維との混紡品を用いてもよい。
【0087】
また、被染色物としての樹脂(プラスチック)フィルムとしては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリウレタンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム等が挙げられる。樹脂(プラスチック)フィルムは、複数の層が積層された積層体であってもよいし、材料の組成が傾斜的に変化する傾斜材料で構成されたものであってもよい。
【0088】
<剥離工程>
本工程では、上記転写工程で画像が転写された後に被染色対象物(被記録媒体)から記録媒体(中間転写媒体)を剥離する。剥離の手法としては、特に制限はなく、適宜の装置を用いて行うことができる。
【0089】
本実施形態のインクジェット記録方法によれば、昇華転写温度が150℃以上220℃以下の温度であるため、糖アルコールの揮発が抑制され、発煙の発生が抑制される。
【0090】
2.2.第2実施形態
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、上述のインクジェットインク組成物を、シート状記録媒体に付着させる記録工程と、インクジェットインク組成物を付着させた記録媒体を50℃以上の温度に加熱する乾燥工程と、乾燥後の記録媒体をロール状に巻き取る回収工程と、を含む。
【0091】
本実施形態のインクジェット記録方法における記録工程は、上記第1実施形態の記録工程と同様であるので、説明を省略する。
【0092】
<乾燥工程>
乾燥工程では、記録工程でインクジェットインク組成物を付着させた記録媒体(中間転写媒体)を50℃以上の温度に加熱する。加熱の手法としては特に限定されず、例えば後述するインクジェット記録装置のアフターヒーターを用いて行うことができる。
【0093】
<回収工程>
回収工程では、乾燥工程を経た乾燥後の記録媒体(中間転写媒体)をロール状に巻き取る。回収工程は、適宜の巻き取り装置を用いて行うことができる。
【0094】
<その他の工程>
本実施形態のインクジェット記録方法は、さらに、転写工程、剥離工程等を備えてもよい。転写工程、剥離工程については、上述の第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。本実施形態では、中間転写媒体が、ロール状に巻き取られた後、転写工程で用いられる。これにより、捺染物を得るためのプロセスの自由度を高めることができる。
【0095】
本実施形態のインクジェット記録方法によれば、50℃以上の温度に加熱する乾燥工程によって、ジオールが蒸発するため紙面乾燥性が良好で、転写時の発煙も抑制できる。また、上記のインクジェットインク組成物を用いるので、50℃以上の温度に加熱する乾燥工程における紙面乾燥性も良好で、ロール状に巻き取られても裏移りを生じにくい。
【0096】
3.インクジェット記録装置
上述のインクジェットインク組成物は、インクジェット記録装置に好適に用いることができる。インクジェット記録装置は、上述のインクジェットインク組成物を収容するインク収容容器(カートリッジ、タンク等)及びこれに接続される記録ヘッドを少なくとも有し、上述のインクジェットインク組成物を記録ヘッドから吐出して中間転写媒体(転写紙等)に画像を形成することができれば、特に限定されない。
【0097】
本実施形態のインクジェット記録装置としては、シリアル型およびライン型のいずれでも使用することができる。これらの型のインクジェット記録装置には、記録ヘッドが搭載されており、記録媒体(中間転写媒体)と記録ヘッドとの相対的な位置関係を変化させながら、記録ヘッドのノズル孔からインクジェットインク組成物の液滴を所定のタイミングで(間欠的に)かつ所定の体積(質量)で吐出させ、記録媒体(中間転写媒体)にインクジェットインク組成物を付着させて所定の画像を形成することができる。
【0098】
ここで一般に、シリアル型のインクジェット記録装置では、記録媒体の搬送方向と、記録ヘッドの往復動作の方向が交差しており、記録ヘッドの往復動作と記録媒体の搬送動作(往復動作も含む)との組み合わせによって、記録媒体と記録ヘッドとの相対的な位置関係を変化させる。またこの場合、一般的には、記録ヘッドには複数のノズル孔(インク組成物を吐出する孔)が配置され、記録媒体の搬送方向に沿ってノズル孔の列(ノズル列)が形成されている。また、記録ヘッドには、インク組成物の種類や数に応じて、複数のノズル列が形成される場合もある。
【0099】
また、一般に、ライン型のインクジェット記録装置では、記録ヘッドは往復動作を行わず、記録媒体の搬送によって記録媒体と記録ヘッドとの相対的な位置関係を変化させて、記録媒体と記録ヘッドとの相対的な位置関係を変化させる。この場合においても、一般的には、記録ヘッドには、ノズル孔が複数配置され、記録媒体の搬送方向に交差する方向に沿って該ノズル孔の列(ノズル列)が形成されている。
【0100】
インクジェット記録方式は、シリアル型またはライン型のインクジェット記録装置を用いるものであるが、方式としては、インク組成物を微細なノズル孔より液滴として吐出して該液滴を記録媒体に付着させることができれば、特に制限されない。例えば、液滴吐出方式(インクジェット法の方式)としては、ピエゾ方式や、インクを加熱して発生した泡(バブル)によりインクを吐出させる方式等を用いることができるが、インク組成物の変質のし難さ等の観点から、ピエゾ方式が好ましい。
【0101】
本実施形態で用いられるインクジェット記録装置には、例えば、加熱ユニット、乾燥ユニット、ロールユニット、巻き取り装置などの公知の構成を制限無く採用することができる。
【0102】
以下に、本実施形態のインクジェット記録方法に好適な記録装置の一例を述べる。
図2に、一実施形態に係るインクジェット記録装置の概略断面図を示す。
図2に示すように、記録装置1は、供給ロール9と、記録ヘッド2と、IRヒーター3と、プラテンヒーター4と、アフターヒーター5と、冷却ファン6と、プレヒーター7と、通気ファン8と、巻き取りロール10と、を備えている。
【0103】
記録ヘッド2は、供給ロール9から繰り出される記録媒体M(中間転写媒体)に対しインクジェットインク組成物を吐出するものである。記録ヘッド2としては、従来公知の方式を使用できる。公知の方式の一例としては、例えば、圧電素子の振動を利用して液滴を吐出するもの、即ち電歪素子の機械的変形によりインク滴を形成するヘッドが挙げられる。記録ヘッド2は、例えば、一つのノズルからインクジェットインク組成物のドットをマ
ルチサイズに吐出出来るものである。
【0104】
上記乾燥工程では、記録工程の後に記録媒体(中間転写媒体)を加熱するが、係る工程は、記録装置1では、アフターヒーター5によって行うことができる。また、図示しないが、温風機構(不図示)、及び恒温槽(不図示)などの手段を用いてもよい。アフターヒーター5は、インクジェットインク組成物が付着した記録媒体(中間転写媒体)を、加熱して乾燥するものである。アフターヒーター5は、画像が記録された記録媒体(中間転写媒体)を加熱することにより、インクジェットインク組成物中に含まれる水分などがより速やかに蒸発飛散させ、これにより滲み等が抑制される。アフターヒーター5は、好ましくは50℃以上であり、さらに好ましくは60℃以上110℃以下に記録媒体(中間転写媒体)を加熱する。
【0105】
また、記録装置1では、記録ヘッド2を直接加熱するIRヒーター3や、記録媒体(中間転写媒体)を介して記録ヘッド2を加熱するプラテンヒーター4を備えている。
【0106】
IRヒーター3を用いると、記録ヘッド2側から記録媒体(中間転写媒体)を加熱することもできる。これにより、記録ヘッド2も同時に加熱されやすいが、プラテンヒーター4など記録媒体(中間転写媒体)の裏面から加熱される場合と比べて、記録媒体(中間転写媒体)の厚みの影響を受けずに昇温することができる。また、プラテンヒーター4を用いると、記録ヘッド2側と反対側から記録媒体(中間転写媒体)を加熱することができる。これにより、記録ヘッド2が比較的加熱されにくくなる。
【0107】
なお、上記の「記録媒体(中間転写媒体)を加熱」するとは、記録媒体(中間転写媒体)の温度を所望の温度まで上昇させることを言い、記録媒体(中間転写媒体)を直接加熱することに限られない。記録装置1は、冷却ファン6を有していてもよい。乾燥後、冷却ファン6により記録媒体(中間転写媒体)上のインク組成物を冷却することにより、記録媒体(中間転写媒体)上に密着性よく被膜を形成することができる傾向にある。
【0108】
また、記録装置1は、記録媒体(中間転写媒体)に対しインク組成物が吐出される前に、記録媒体(中間転写媒体)を予め加熱する(プレ加熱する)プレヒーター7を備えていてもよい。さらに、記録装置1は、記録媒体(中間転写媒体)に付着したインク組成物がより効率的に乾燥するように通気ファン8を備えていてもよい。
【0109】
記録が行われ、乾燥工程を経た記録媒体M(中間転写媒体)は、巻き取りロール10により巻き取られる。なお、記録装置1は、巻き取りロール10を有しなくてもよく、例えば、乾燥工程を経た記録媒体M(中間転写媒体)が図示せぬ転写装置へと搬送され、転写工程、剥離工程に進んでもよい。
【0110】
4.実施例及び比較例
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下、「部」「%」は、特に記載のない限り、質量基準である。なお評価は、特に断りが無い場合は、温度25.0℃、相対湿度40.0%の環境下で行った。
【0111】
4.1.インクジェットインク組成物の調製
表2~表5の組成になるように各成分を容器に入れて、マグネチックスターラーで2時間混合及び攪拌した後、孔径5μmのメンブランフィルターで濾過することで、実施例1~24、比較例1~5のインクジェットインク組成物を得た。なお、表中の数値は、質量%を表す。
【0112】
表2~表5中、商品名、略称等で記載した成分の詳細は以下の通りである。
・ユニオックスG-450:グリセリルエーテル類:日油株式会社製
・サンニックスGP-250:グリセリルエーテル類:三洋化成工業株式会社製
・SC-E350:ポリグリセリルエーテル類:阪本薬品工業株式会社製
・SC-P750:ポリグリセリルエーテル類:阪本薬品工業株式会社製
・ウィルブライドS-753:グリセリルエーテル類:日油株式会社製
・ポリグリセリン#310:ポリグリセリン類:阪本薬品工業株式会社製
・BYK-348:シリコーン系界面活性剤:ビックケミージャパン株式会社製
【0113】
表に記載した染料分散液1は以下のように調製した。
<染料分散液1(界面活性剤分散)>
昇華性染料としてのカヤセットレッドB(日本化薬株式会社製、C.I.ディスパースレッド60)(30部)、アニオン分散剤としてのラベリンRTMW-40(第一工業製薬株式会社製、クレオソート油スルホン酸塩のホルマリン縮合物の40%水溶液)(45部)、ノニオン分散剤としてのNIKKOLRTMBPS-30(日光ケミカルズ株式会社製、フィトステロールのEO(エチレンオキサイド)30モル付加物)(2部)、及びイオン交換水(23部)からなる混合物に対して、0.2mm径ガラスビーズを用いたサンドミルにて、冷却下、約15時間分散処理を行った。分散処理後の液にイオン交換水(100部)を加えて染料含有率を15%に調整した後、ガラス繊維濾紙GC-50(東洋濾紙株式会社製、フィルターの孔径:0.5μm)で濾過することにより染料分散液1を得た。
【0114】
表に記載した染料分散液2は以下のように調製した。
<染料分散液2(樹脂分散)>
48%水酸化リチウム(3.2部)、イオン交換水(56.8部)、及びプロピレングリコール(20部)の混合物にJoncrylRTM678(BASF社製)20部を投入し、90~120℃に昇温して5時間撹拌することにより、JoncrylRTM678のエマルション液を得た。 昇華性染料としてのカヤセットレッドB(日本化薬株式会社製、C.I.ディスパースレッド60)(30部)前記JoncrylRTM678のエマルション液(60部)、プロキセルRTMGXL(0.2部)、サーフィノール104PG50(0.4部)、及びイオン交換水(24部)からなる混合物に対して、0.2mm径ガラスビーズを用いたサンドミルにて、冷却下、約15時間分散処理を行った。分散処理後の液にイオン交換水(60部)、前記JoncrylRTM678のエマルション液(30部)を加えて染料含有率を15%に調整した後、ガラス繊維濾紙GC-50(東洋濾紙株式会社製、フィルターの孔径:0.5μm)で濾過することにより染料分散液2を得た。
【0115】
実施例及び比較例で用いた物質の特性を以下に記す。
・キシリトール:60%水溶液粘度=24.3mPa・s
・D-ソルビトール:60%水溶液粘度=32.8mPa・s
・エリスリトール:60%水溶液粘度=不溶
・プロピレングリコール:60%水溶液粘度=9.8mPa・s:10%水溶液表面張力=62.7mN/m
・1,3-プロパンジオール:60%水溶液粘度=8.7mPa・s:10%水溶液表面張力=67.8mN/m
・ユニオックスG-450:重量平均分子量=450:10%水溶液表面張力=63.7mN/m
・サンニックスGP-250:重量平均分子量=250:10%水溶液表面張力=49.6mN/m
・SC-E350:重量平均分子量=350:10%水溶液表面張力=58.6mN/m
・SC-P750:重量平均分子量=750:10%水溶液表面張力=46.1mN/m・ウィルブライドS-753:重量平均分子量=950:10%水溶液表面張力=43.3mN/m
・トリエチレングリコールモノメチルエーテル:10%水溶液表面張力=60.6mN/m
・ジエチレングリコールモノブチルエーテル:10%水溶液表面張力=35.0mN/m・トリエチレングリコール:10%水溶液表面張力=66.0mN/m
・1,2-ブタンジオール:10%水溶液表面張力=53.7mN/m
・ε-カプロラクタム:10%水溶液表面張力=54.1mN/m
・グリセリン:60%水溶液粘度=11.4mPa・s
・ポリグリセリン#310:60%水溶液粘度=22.8mPa・s
・トリメチルグリシン:60%水溶液粘度=15.1mPa・s
【0116】
4.2.評価方法
4.2.1.紙面乾燥性
実施例及び比較例のインクジェットインク組成物を用いて、PX-G930(セイコーエプソン株式会社製)で昇華転写紙EPSON DS Transfer Multi-Purpose(セイコーエプソン株式会社製)に対してインク付着量8±0.5mg/inch2となるようにベタパターンを印刷した。その後、所定時間経過後にベンコットで印刷面を軽く拭き、転写の有無を目視評価した。以下の基準で評価して、結果を表6に記入した。
A:印刷後120秒で転写が発生しない
B:印刷後120秒で転写が発生するが、150秒では転写が発生しない
C:印刷後150秒でも転写が発生する
【0117】
4.2.2.発煙性
実施例及び比較例のインクジェットインク組成物を用いて、PX-G930(セイコーエプソン株式会社製)で昇華転写紙EPSON DS Transfer Multi-Purpose(セイコーエプソン株式会社製)に対してインク付着量8±0.5mg/inch2となるようにベタパターンを印刷した。その後、卓上自動昇華転写プレスAF-54TEN(株式会社イツミ製)で200℃40秒465g/cm2の圧力で加圧してポリエステル100%布帛カール・ドライ(東レ株式会社)に転写し、転写後の発煙量を目視評価した。以下の基準で評価して、結果を表6に記入した。
A:転写後に発煙が発生しない
B:転写後に発煙が発生するが、5秒以内に消える
C:転写後に発煙が発生し、5秒以上持続する
【0118】
4.2.3.間欠吐出安定性
実施例及び比較例のインクジェットインク組成物を用いて、PX-G930(セイコーエプソン株式会社製)でドット重量6±0.5ngとなるようにヘッド電圧を調節し、予備吐出オフの状態で空走動作を700パス行った。その後、ノズルチェックパターンを印刷し、インク滴の着弾ずれの有無を評価した。以下の基準で評価して、結果を表6に記入した。
AA:ドット抜けやヨレが発生しない
A:8割未満のノズルでヨレが発生する
B:8割以上のノズルでヨレが発生する
C:5割以上のノズルで吐出しない
【0119】
4.2.4.目詰まり回復性
PX-G930(セイコーエプソン株式会社製)に各例のインクをそれぞれ充填した後
、温度40℃湿度20%の恒温室でキャップ開放状態で5日放置した。その後、室温にてクリーニング動作を3回(インク吸引量は4g、2g、2gの順)行い、未回復ノズル数をカウントした。以下の基準で評価して、結果を表6に記入した。
A:未回復ノズルなし
B:未回復ノズル1本以上10本以下
C:未回復ノズル11本以上
【0120】
4.2.5.発色性
実施例及び比較例のインクジェットインク組成物を用いて、PX-G930(セイコーエプソン株式会社製)で昇華転写紙EPSON DS Transfer Multi-Purpose(セイコーエプソン株式会社製)に対してインク付着量8±0.5mg/inch2となるようにベタパターンを印刷した。その後、卓上自動昇華転写プレスAF-54TEN(株式会社イツミ製)で200℃40秒465g/cm2の圧力で加圧してポリエステル100%布帛カール・ドライ(東レ株式会社)に転写した。その後、測色計ilPR03(エックスライト社製)で布帛上のOD値を測定した。測定条件は、光源D65、濃度ステータスTとした。以下の基準で評価して、結果を表6に記入した。
AA:OD値1.55以上
A:OD値1.50以上、1.55未満
B:OD値1.45以上、1.50未満
C:OD値1.45未満
【0121】
4.3.評価結果
表2~表6をみると、昇華性染料と、4個以上のOH基を有する糖アルコール類と、炭素数が2又は3のジオールと、グリコールモノエーテル類、炭素数が4以上のジオール類、アミド類、及び、(ポリ)グリセリルエーテル類から選ばれる1種以上の浸透性保湿剤と、組成物の総質量に対して1質量%以下のグリセリンと、を含む、各実施例のインクジェットインク組成物は、紙面乾燥性が良好で、かつ、発煙しにくいことが判明した。
【0122】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0123】
上述した実施形態及び変形例から以下の内容が導き出される。
【0124】
インクジェットインク組成物は、
昇華性染料と、
4個以上のOH基を有する糖アルコール類と、
炭素数が2又は3のジオールと、
グリコールモノエーテル類、炭素数が4以上のジオール類、アミド類、及び、(ポリ)グリセリルエーテル類から選ばれる1種以上の浸透性保湿剤と、
インクジェットインク組成物の総質量に対して1質量%以下のグリセリンと、
を含む。
【0125】
このインクジェットインク組成物によれば、OH基を4個以上含む糖アルコール類が220℃までの温度で揮発しにくく、加熱された際に発煙が生じにくい。また、このインクジェットインク組成物によれば、乾燥性が高く低粘度である炭素数2又は3のジオール類、及び浸透性保湿剤を併用することにより、低発煙性と紙面乾燥性を両立することができ
る。さらに、このインクジェットインク組成物によれば、グリセリンの含有量が1質量%以下であるので、発煙が抑制される。
【0126】
上記インクジェットインク組成物において、
前記浸透性保湿剤の10質量%水溶液の表面張力が、45mN/m以上67mN/m以下であってもよい。
【0127】
このインクジェットインク組成物によれば、発色性、間欠吐出安定性及び目詰まり回復により優れる。表面張力がより適切であるので、浸透性がより適切で、得られる画像の発色性がより良好となる。さらに、粘度及び/又は蒸発増粘性もより良好であるので、目詰まり回復性及び/又は間欠吐出安定性にもより優れる。
【0128】
上記インクジェットインク組成物において、
前記浸透性保湿剤の含有量が、前記インクジェットインク組成物の総質量に対して5質量%以下であってもよい。
【0129】
このインクジェットインク組成物によれば、目詰まり回復性及び発色性により優れる。加えて、インクの保存安定性にも優れる。
【0130】
上記インクジェットインク組成物において、
ポリグリセリン類及びベタイン類から選ばれる少なくとも1種をさらに含んでもよい。
【0131】
このインクジェットインク組成物によれば、間欠吐出安定性がより優れる。ポリグリセリン類及びベタイン類は、蒸発増粘性が低く、少量の添加によって、間欠吐出安定性が向上する。
【0132】
上記インクジェットインク組成物において、
前記炭素数が2又は3のジオール類の含有量が、前記インクジェットインク組成物の総質量に対して5質量%以上15質量%以下であってもよい。
【0133】
このインクジェットインク組成物によれば、さらに発煙を抑制でき、紙面乾燥性、間欠吐出にもさらに優れる。
【0134】
上記インクジェットインク組成物において、
前記糖アルコール類の、60質量%水溶液の粘度が、35mPa・s以下であってもよい。
【0135】
このインクジェットインク組成物によれば、糖アルコールによる蒸発増粘性の影響をさらに受けにくく、間欠吐出安定性にさらに優れる。
【0136】
上記インクジェットインク組成物において、
前記糖アルコール類の含有量が、前記インクジェットインク組成物の総質量に対して3質量%以上15質量%以下であってもよい。
【0137】
このインクジェットインク組成物によれば、上記の効果に加えて、目詰まり回復性、発色性、間欠吐出安定性をさらに良好に両立できる。
【0138】
上記インクジェットインク組成物において、
前記浸透性保湿剤が、(ポリ)グリセリルエーテル類を含んでもよい。
【0139】
このインクジェットインク組成物によれば、より発煙が少なく上述の効果がより顕著になる。
【0140】
上記インクジェットインク組成物において、
前記(ポリ)グリセリルエーテル類の平均重量分子量が、300以上800以下であってもよい。
【0141】
このインクジェットインク組成物によれば、発煙がさらに抑制でき、画像の発色性もさらに優れる。
【0142】
インクジェット記録方法は、
上記のいずれかのインクジェットインク組成物を、シート状記録媒体に付着させる記録工程と、
前記シート状記録媒体の記録面を被染色対象物に重ね合わせ、150℃以上220℃以下の温度で加熱して昇華性染料を被染色対象物に昇華転写する転写工程と、
画像転写後に被染色対象物から前記シート状記録媒体を剥離する剥離工程と、
を含む。
【0143】
このインクジェット記録方法によれば、昇華転写温度が150℃以上220℃以下の温度であるため、糖アルコールの揮発が抑制され、発煙の発生が抑制される。
【0144】
インクジェット記録方法は、
上記のいずれかのインクジェットインク組成物を、シート状記録媒体に付着させる記録工程と、
前記インクジェットインク組成物を付着させた前記シート状記録媒体を50℃以上の温度に加熱する乾燥工程と、
乾燥後の前記シート状記録媒体をロール状に巻き取る回収工程と、
を含む。
【0145】
このインクジェット記録方法によれば、50℃以上の温度に加熱する乾燥工程によって、ジオールが蒸発するため紙面乾燥性が良好で、転写時の発煙も抑制できる。また、上記のインクジェットインク組成物を用いるので、紙面乾燥性も良好で、裏移りを生じにくい。
【0146】
インクジェット記録装置は、
上記のいずれかのインクジェットインク組成物を、シート状記録媒体に付着させるインクジェットヘッドと、
前記シート状記録媒体を50℃以上の温度に加熱するヒーターと、
前記シート状記録媒体をロール状に巻き取るローラーと、
を含む。
【0147】
このインクジェット記録装置によれば、上記のインクジェットインク組成物を用いるので、記録媒体上の紙面乾燥性も良好で、ローラーに巻き取っても裏移りを生じにくい。
【符号の説明】
【0148】
1…記録装置、2…記録ヘッド、3…IRヒーター、4…プラテンヒーター、5…アフターヒーター、6…冷却ファン、7…プレヒーター、8…通気ファン、9…供給ロール、10…巻き取りロール、M…記録媒体(中間転写媒体)