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2024-162685熱硬化性樹脂組成物、巻線磁界式ロータおよび発電機
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  • -熱硬化性樹脂組成物、巻線磁界式ロータおよび発電機 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162685
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物、巻線磁界式ロータおよび発電機
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/18 20060101AFI20241114BHJP
   H01F 7/08 20060101ALI20241114BHJP
   H02K 3/30 20060101ALI20241114BHJP
   H02K 3/44 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C08G59/18
H01F7/08 B
H02K3/30
H02K3/44 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078486
(22)【出願日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】牧原 康二
【テーマコード(参考)】
4J036
5E048
5H604
【Fターム(参考)】
4J036AD08
4J036AF06
4J036DB05
4J036FA02
4J036FA05
4J036JA15
5E048AD21
5H604AA05
5H604BB14
5H604CC02
5H604CC05
5H604CC15
5H604DA01
5H604DA15
5H604DB02
5H604PE06
(57)【要約】
【課題】界磁巻線および/または鉄心との密着性に優れた巻線磁界式ロータ用の熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の熱硬化性樹脂組成物は、軸芯方向に回転可能なロータコアと、前記ロータコアに保持される複数の界磁巻線と、を備える巻線磁界式ロータにおいて、前記界磁巻線を固定する固定部材を形成するために用いる、熱硬化性樹脂組成物であって、熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機充填材と、を含み、高化式フローテスターを用いて測定される最低溶融粘度が、40Pa・s以下を満たすものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸芯方向に回転可能なロータコアと、前記ロータコアに保持される複数の界磁巻線と、を備える巻線磁界式ロータにおいて、前記界磁巻線を固定する固定部材を形成するために用いる、熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物は、
エポキシ樹脂と、
硬化剤と、
無機充填材と、を含み、
高化式フローテスターを用いて測定される最低溶融粘度が、40Pa・s以下である、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
前記固定部材が、前記界磁巻線と前記界磁巻線が巻きつけられた鉄心とを固定するものである、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
前記固定部材が、前記界磁巻線と前記界磁巻線が巻きつけられた鉄心との間に介在するものである、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項2または3に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
ラボプラストミルを用いて、回転数30rpm、測定温度175℃の条件でトルク値を経時的に測定した際に、トルク値が最低トルク値の2倍以下である時間Tが40秒以上90秒以下であり、最低トルク値が0.8N・m以下である、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項2または3に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物の硬化物の、25℃における曲げ弾性率が、10GPa以上30GPa以下である、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項2または3に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
ゲルタイムが40秒以上100秒以下である、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項2または3に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物の硬化物の熱伝導率が、0.7W/m・K以上である、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項2または3に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
前記無機充填材の含有量が、当該熱硬化性樹脂組成物全体に対して、50質量%以上95質量%以下である、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項2または3に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
前記無機充填材が破砕シリカを含む、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項2または3に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂が、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、およびナフトール型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1つを含む、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項2または3に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
粉粒状、顆粒状、タブレット状またはシート状の形態である、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項12】
軸芯方向に回転可能なロータコアと、
前記ロータコアに保持される複数の界磁巻線と、を備える、巻線磁界式ロータであって、
前記界磁巻線を固定する固定部材を備え、
前記固定部材が、熱硬化性樹脂組成物の硬化物で構成されており、
前記熱硬化性樹脂組成物が、
エポキシ樹脂と、
硬化剤と、
無機充填材と、を含み、
高化式フローテスターを用いて測定される最低溶融粘度が、40Pa・s以下である、巻線磁界式ロータ。
【請求項13】
請求項12に記載の巻線磁界式ロータであって、
前記固定部材が、前記界磁巻線と前記界磁巻線が巻きつけられた鉄心とを固定するものである、巻線磁界式ロータ。
【請求項14】
請求項13に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
軸芯方向に対する周方向において配置される複数の前記界磁巻線において、最隣接した前記界磁巻線の間に前記固定部材が充填される、巻線磁界式ロータ。
【請求項15】
請求項12に記載の巻線磁界式ロータであって、
前記固定部材が、前記界磁巻線と前記界磁巻線が巻きつけられた鉄心との間に介在するものである、巻線磁界式ロータ。
【請求項16】
請求項15に記載の巻線磁界式ロータであって、
前記鉄心が、軸芯方向に対して周方向外側に向かって突出し、周方向において等間隔で配置される複数を有する、巻線磁界式ロータ。
【請求項17】
請求項12~16のいずれか一項に記載の巻線磁界式ロータと、
前記巻線磁界式ロータの内側または外側に設置されたステータと、を備える、発電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物、巻線磁界式ロータおよび発電機に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで巻線界磁式ロータについて様々な検討がなされてきた。この種の技術として、特許文献1~4に記載のものが知られている。
特許文献1には、回転子鉄芯、界磁巻線、永久磁石、回転シャフトを含む部品をモールド樹脂で一体に成形してなる回転子について記載されている(特許文献1の請求項1等)。
特許文献2には、鉄心に巻かれた界磁巻線と、鉄心及び界磁巻線を封止する絶縁性の封止体とを有する巻線ユニットを備えるロータについて記載されている(特許文献2の請求項1等)。また、封止樹脂が流し込まれて硬化することで、鉄心及び界磁巻線が封止樹脂によってケース内に封止されると記載されている(特許文献2の段落0027等)。
【0003】
また、特許文献3には、磁極鉄心の外周に巻き付けられる界磁巻線と、磁極鉄心の外周面と界磁巻線の内周面との間に介在される複数の絶縁板を備える回転子構造について記載されている(特許文献3の請求項1等)。この絶縁板として、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化珪素、窒化ホウ素などが挙げられている(特許文献3の請求項3、特許文献4の請求項1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-232505号公報
【特許文献2】特開2022-051589号公報
【特許文献3】特開2017-108479号公報
【特許文献4】特開2017-143644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1また2に記載のモールド樹脂において、特許文献3または4に記載の絶縁板において、界磁巻線および/または鉄心との密着性の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、巻線磁界式ロータにおいて界磁巻線を固定する固定部材の特性について検討したところ、熱硬化性樹脂組成物の最低溶融粘度を適切に制御することより、熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる固定部材と界磁巻線および/または鉄心との密着性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の一態様によれば、以下の熱硬化性樹脂組成物、巻線磁界式ロータおよび発電機が提供される。
1. 軸芯方向に回転可能なロータコアと、前記ロータコアに保持される複数の界磁巻線と、を備える巻線磁界式ロータにおいて、前記界磁巻線を固定する固定部材を形成するために用いる、熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物は、
エポキシ樹脂と、
硬化剤と、
無機充填材と、を含み、
高化式フローテスターを用いて測定される最低溶融粘度が、40Pa・s以下である、熱硬化性樹脂組成物。
2. 1.に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
前記固定部材が、前記界磁巻線と前記界磁巻線が巻きつけられた鉄心とを固定するものである、熱硬化性樹脂組成物。
3. 1.または2.に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
前記固定部材が、前記界磁巻線と前記界磁巻線が巻きつけられた鉄心との間に介在するものである、熱硬化性樹脂組成物。
4. 1.~3.のいずれか一つに記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
ラボプラストミルを用いて、回転数30rpm、測定温度175℃の条件でトルク値を経時的に測定した際に、トルク値が最低トルク値の2倍以下である時間Tが40秒以上90秒以下であり、最低トルク値が0.8N・m以下である、熱硬化性樹脂組成物。
5. 1.~4.のいずれか一つに記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物の硬化物の、25℃における曲げ弾性率が、10GPa以上30GPa以下である、熱硬化性樹脂組成物。
6. 1.~5.のいずれか一つに記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
ゲルタイムが40秒以上100秒以下である、熱硬化性樹脂組成物。
7. 1.~6.のいずれか一つに記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物の硬化物の熱伝導率が、0.7W/m・K以上である、熱硬化性樹脂組成物。
8. 1.~7.のいずれか一つに記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
前記無機充填材の含有量が、当該熱硬化性樹脂組成物全体に対して、50質量%以上95質量%以下である、熱硬化性樹脂組成物。
9. 1.~8.のいずれか一つに記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
前記無機充填材が破砕シリカを含む、熱硬化性樹脂組成物。
10. 1.~9.のいずれか一つに記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂が、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、およびナフトール型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1つを含む、熱硬化性樹脂組成物。
11. 1.~10.のいずれか一つに記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
粉粒状、顆粒状、タブレット状またはシート状の形態である、熱硬化性樹脂組成物。
12. 軸芯方向に回転可能なロータコアと、
前記ロータコアに保持される複数の界磁巻線と、を備える、巻線磁界式ロータであって、
前記界磁巻線を固定する固定部材を備え、
前記固定部材が、熱硬化性樹脂組成物の硬化物で構成されており、
前記熱硬化性樹脂組成物が、
エポキシ樹脂と、
硬化剤と、
無機充填材と、を含み、
高化式フローテスターを用いて測定される最低溶融粘度が、40Pa・s以下である、巻線磁界式ロータ。
13. 12.に記載の巻線磁界式ロータであって、
前記固定部材が、前記界磁巻線と前記界磁巻線が巻きつけられた鉄心とを固定するものである、巻線磁界式ロータ。
14. 13.に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
軸芯方向に対する周方向において配置される複数の前記界磁巻線において、最隣接した前記界磁巻線の間に前記固定部材が充填される、巻線磁界式ロータ。
15. 12.に記載の巻線磁界式ロータであって、
前記固定部材が、前記界磁巻線と前記界磁巻線が巻きつけられた鉄心との間に介在するものである、巻線磁界式ロータ。
16. 15.に記載の巻線磁界式ロータであって、
前記鉄心が、軸芯方向に対して周方向外側に向かって突出し、周方向において等間隔で配置される複数を有する、巻線磁界式ロータ。
17. 12.~16.のいずれか一つに記載の巻線磁界式ロータと、
前記巻線磁界式ロータの内側または外側に設置されたステータと、を備える、発電機。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、界磁巻線および/または鉄心との密着性に優れた熱硬化性樹脂組成物、それを用いた巻線磁界式ロータおよび発電機が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態における巻線磁界式ロータの一例の回転軸方向と垂直な方向における模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
【0011】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物の概要を説明する。
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、軸芯方向に回転可能なロータコアと、ロータコアに保持される複数の界磁巻線と、を備える巻線磁界式ロータにおいて、界磁巻線を固定する固定部材を形成するために用いる、巻線磁界式ロータ用固定樹脂材料である。
【0012】
このような熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機充填材と、を含み、高化式フローテスターを用いて測定される最低溶融粘度が40Pa・s以下を満たすように構成される。
【0013】
本発明者の知見によれば、熱硬化性樹脂組成物の最低溶融粘度を適切に制御することより、熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる固定部材と界磁巻線および/または鉄心との密着性を向上できることが判明した。
詳細なメカニズムは定かではないが、熱硬化性樹脂組成物の成形過程において、適当な最低溶融粘度を有することにより、界磁巻線および/または鉄心の表面への充填性が適当となるために、これらとの密着性を向上させることができると推察される。
【0014】
また、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を用いた巻線磁界式ロータの製造方法においては、界磁巻線および/または鉄心の表面に対する充填性を高められるとともに、固定工程における作業性を向上できる。
【0015】
[巻線磁界式ロータ]
本実施形態の巻線磁界式ロータは、ステータを組み合わせて、発電機(モータ)を構成できる。
この発電機の一例は、巻線磁界式ロータと、巻線磁界式ロータの内側または外側に設置されたステータと、を備えるものである。
【0016】
ここで、上記の巻線磁界式ロータ10の構成例について図1を用いて説明する。
図1の巻線磁界式ロータ10は、軸芯方向に回転可能なロータコア1と、ロータコア1に保持される複数の界磁巻線2と、界磁巻線2を固定する固定部材と、を備えるものである。この固定部材は、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物の硬化物で構成されるものである。
【0017】
第一の実施形態の巻線磁界式ロータ10において、固定部材が、界磁巻線2と界磁巻線2が巻きつけられた鉄心3とを固定する封止部材でもよい。これにより、界磁巻線2および鉄心3の異なる構成部品中での回転振動などによるズレが抑制されるため、発電機の信頼性を高められる。
【0018】
また、第一の実施形態において、固定部材は、軸芯方向に対する周方向において配置される複数の界磁巻線2において、最隣接した界磁巻線2の間に充填されていてもよい。この場合、最隣接間における空間の少なくとも一部または全体において充填された固定部材が両隣の界磁巻線2および鉄心3を固定できる。このため、より回転方向による構成部品のズレを抑制できるため、発電機の信頼性を高められる。
【0019】
第二の実施形態の巻線磁界式ロータ10において、固定部材が、界磁巻線2と界磁巻線2が巻きつけられた鉄心3との間に介在する絶縁性部材であってもよい。この場合、固定部材は、界磁巻線2を巻きつけるための構造を有する巻枠であってもよい。固定部材の巻枠構造は金型成形等により成形できる。これにより、界磁巻線2の固定を安定化しつつも界磁巻線2と鉄心3との絶縁性を高められる。
また、第二の実施形態において、鉄心3は、軸芯方向に対して周方向外側に向かって突出し、周方向において等間隔で配置される複数を有してもよい。
【0020】
固定部材を成形するために用いる熱硬化性樹脂組成物において充填性を高めることにより、第一の実施形態では、最隣接間における空間への充填不良を抑制できる。また、第二の実施形態では、界磁巻線2と鉄心3との間隙に配置するために、薄層構造を有する固定部材の成形性も高められる。
【0021】
固定部材の熱伝導率を高めることにより、ロータコア1の回転時において、界磁巻線2からの熱伝導率を効率的に行うことが可能となる。これにより、巻線磁界式ロータ10をより小型化できる。
なお、通常、界磁巻線の外表面が接する空気の熱伝導率は常温で約0.02W/m・K、界磁巻線と鉄心との絶縁に使用される絶縁紙の熱伝導率は常温で約0.06W/m・Kである。
【0022】
固定部材の機械的強度を高めることにより、ロータコア1の回転時における固定部材の変形を抑制できる。これにより、発電機の信頼性を高められる。
【0023】
上記のロータコア1は、円筒形状を有してもよい。ロータコア1の中心にシャフト穴を有している。ロータコア1は、金属板を軸芯方向に複数枚積層して円筒状に成形されたものでもよい。個々の金属板はその間に絶縁性着剤を介して互いに絶縁状態で固定されてもよい。
また、ロータコア1は、軸芯方向を中心とした周方向に沿って複数の、永久磁石と永久磁石を収容する穴とを有する永久磁石ユニットを備えてもよいが、このような永久磁石ユニットを有していなくてもよい。
【0024】
上記の界磁巻線2の複数が、軸芯方向を中心とした周方向に沿って等間隔で並ぶように、ロータコア1に保持されていてもよい。
界磁巻線2が巻きつけられた鉄心3は、電磁鋼板の積層構造で構成されもよい。鉄心3は、ロータコア1と同一部材で構成されてもよいが、別部材で構成されてもよい。
なお、上記の発電機において、ロータコア1(回転子)の外部より、界磁巻線2に通電することにより、所望の磁束量に制御できる。
【0025】
<巻線磁界式ロータ10の製造方法>
第一の実施形態の巻線磁界式ロータ10の製造方法の一例は、界磁巻線2及び鉄心3を有するロータコア1に対して、例えば、インサート成形等により、熱硬化性樹脂組成物を充填して、界磁巻線2や鉄心の少なくとも一部を固定する、および/または最隣接間における空間に充填された、固定部材を形成する工程を含む。
また、第二の実施形態の巻線磁界式ロータ10の製造方法の一例は、鉄心3を有するロータコア1に対して、例えば、インサート成形等により、熱硬化性樹脂組成物を充填して、界磁巻線2を巻きつける巻枠となる固定部材を形成し、巻枠(固定部材)に界磁巻線2を巻きつける工程を含んでもよい。
【0026】
[熱硬化性樹脂組成物]
以下、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物(本明細書中、単に「樹脂組成物」)と称する場合がある)に用いられる成分について説明する。
【0027】
(エポキシ樹脂)
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物に用いられるエポキシ樹脂としては、たとえば、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂等の2官能性または結晶性エポキシ樹脂;クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;フェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレン骨格含有ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等のフェノールアラルキル型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂およびアルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等の3官能型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂、テルペン変性フェノール型エポキシ樹脂等の変性フェノール型エポキシ樹脂;トリアジン核含有エポキシ樹脂等の複素環含有エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
エポキシ樹脂は、得られる樹脂組成物の流動性と、樹脂組成物の硬化物の強度を確保する観点から、好ましくはフェノールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂からなる群から選択される1または2以上のエポキシ樹脂を含み、より好ましくはクレゾールノボラック型エポキシ樹脂を含む。
【0028】
樹脂組成物中におけるエポキシ樹脂の含有量は、得られる樹脂組成物の流動性を向上させ、作業性および成形性を向上する観点から、樹脂組成物の全固形分に対して、たとえば3質量%以上としてもよく、好ましくは8質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは12質量%以上である。
また、樹脂組成物を用いて形成される硬化物の強度および耐熱性を向上する観点から、エポキシ樹脂の含有量は、樹脂組成物の全固形分に対して、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下である。
【0029】
なお本実施形態において、樹脂組成物の全固形分とは、樹脂組成物中における不揮発分を指し、水や溶媒等の揮発成分を除いた残部を指す。また、本実施形態において、樹脂組成物全量に対する含有量とは、溶媒を含む場合には、樹脂組成物のうちの溶媒を除く固形分全体に対する含有量を指す。
【0030】
一実施形態において、樹脂組成物は、上記エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂をさらに含んでもよい。使用できる熱硬化性樹脂としては、たとえば、ビスマレイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂等、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、シアネート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、およびベンゾシクロブテン樹脂が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0031】
(硬化剤)
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物に用いられる硬化剤としては、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物に一般に使用されているものであれば制限はないが、たとえば、フェノール樹脂系硬化剤、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、メルカプタン系硬化剤等、およびその他の硬化剤が挙げられる。これらの中でも、耐燃性、耐湿性、電気特性、硬化性、保存安定性等のバランスの点からフェノール樹脂系硬化剤が好ましい。
【0032】
フェノール樹脂系硬化剤としては、たとえばエポキシ樹脂組成物に一般に使用されているものであれよく、さらに具体的には、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂をはじめとするフェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール、α-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のフェノール類とホルムアルデヒドやケトン類とを酸性触媒下で縮合または共縮合させて得られるノボラック樹脂;上記したフェノール類とジメトキシパラキシレンまたはビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂;ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂などのフェノールアラルキル樹脂;および、トリスフェニルメタン骨格を有するフェノール樹脂が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。フェノール樹脂系硬化剤は、好ましくは、フェノールノボラック樹脂を含む。
【0033】
硬化剤がフェノール樹脂系硬化剤の場合、エポキシ樹脂と硬化剤との当量比、すなわち、(エポキシ樹脂中のエポキシ基モル数/フェノール樹脂系硬化剤中のフェノール性水酸基モル数)の比は、樹脂組成物の成形性および信頼性を向上する観点から、好ましくは、0.5以上であり、より好ましくは、0.6以上であり、さらに好ましくは、0.8以上である。また、同様の観点から、上記比は、好ましくは、2以下であり、より好ましくは、1.8以下であり、さらに好ましくは1.5以下である。
【0034】
アミン系硬化剤としては、たとえば、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、メタキシリレンジアミン(MXDA)などの脂肪族ポリアミン;ジアミノジフェニルメタン(DDM)、m-フェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)などの芳香族ポリアミン;および、ジシアンジアミド(DICY)や有機酸ジヒドララジドなどのポリアミン化合物が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
酸無水物系硬化剤としては、たとえば、ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)、無水マレイン酸などの脂環族酸無水物;および無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)、無水フタル酸などの芳香族酸無水物が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
メルカプタン系硬化剤としては、たとえば、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)、および、トリメチロールエタントリス(3-メルカプトブチレート)が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
その他の硬化剤としては、たとえば、イソシアネートプレポリマーやブロック化イソシアネートなどのイソシアネート化合物;および、カルボン酸含有ポリエステル樹脂などの有機酸類が挙げられる。なお、硬化剤は、上記のうち異なる系の硬化剤の2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
樹脂組成物中の硬化剤の含有量は、優れた流動性を実現し、充填性や成形性の向上を図る観点から、樹脂組成物全量に対して、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上である。
一方、樹脂硬化物の耐湿信頼性や耐熱性を向上させる観点から、硬化剤の含有量は、樹脂組成物全量に対して、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、よりいっそう好ましくは5質量%以下である。
【0039】
(無機充填材)
無機充填材としては、たとえば、溶融破砕シリカおよび溶融球状シリカ等の溶融シリカ、結晶シリカ等のシリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、窒化珪素、および窒化アルミが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。無機充填材は、樹脂組成物の硬化物の機械特性または熱特性を好ましいものとする観点から、好ましくはシリカを含み、より好ましくは破砕シリカおよび溶融球状シリカからなる群から選択される1種以上を含む。
【0040】
無機充填材の平均粒径d50は、樹脂組成物の流動性を良好なものとし、成形性を向上させる観点から、好ましくは0.01μm以上であり、より好ましくは1μm以上、さらに好ましくは5μm以上である。また、無機充填材の平均粒径d50は、充填性を向上し、未充填の発生を抑制する観点から、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは40μm以下である。
【0041】
また、無機充填材として、平均粒径d50の異なる2種以上の充填材を併用してもよい。これにより、樹脂組成物の全固形分に対する無機充填材の充填性をより効果的に高めることができる。たとえば、樹脂組成物の充填性を向上させる観点から、無機充填材は、好ましくは平均粒径1μm以上12μm以下の第1の充填材と、平均粒径12μmより大きく30μm以下の第2の充填材とを含む。また、同様の観点から、無機充填材は、たとえば平均粒径0.01μm以上1μm以下の第1の充填材と、平均粒径1μmより大きく50μm以下の第2の充填材とを含んでもよい。
【0042】
また、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定される累積頻度が90%となる無機充填材の粒子径d90の値と、無機充填材の平均粒径d50の値とから算出される、(d50/d90)の値は、樹脂組成物の流動性を向上する観点から、好ましくは0.2以上であり、より好ましくは0.25以上、さらに好ましくは0.3以上である。また、狭部充填性を向上する観点から、上記比(d50/d90)は、好ましくは1.0以下であり、より好ましくは0.9以下、さらに好ましくは0.8以下である。
【0043】
ここで、無機充填材の粒径、具体的にはd50、d90は、市販のレーザー回折式粒度分布測定装置(たとえば、島津製作所社製、SALD-7000)を用いて粒子の粒度分布を体積基準で測定することにより、得ることができる。
【0044】
樹脂組成物中の無機充填材の含有量は、樹脂組成物の吸湿性および熱膨張性を抑制し、樹脂組成物の硬化物の耐温度サイクル性や耐湿性より効果的に向上させる観点から、樹脂組成物全量に対して、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは65質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。また、樹脂組成物の成形時における流動性や充填性をより効果的に向上させる観点から、無機充填材の含有量は、樹脂組成物全量に対して、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは93質量%以下である。
【0045】
また、無機充填材がシリカを含むとき、樹脂組成物中のシリカの含有量は、樹脂組成物の吸湿性および熱膨張性を抑制し、樹脂組成物の硬化物の耐温度サイクル性や耐湿性をより効果的に向上させる観点から、樹脂組成物全量に対して好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは65質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。
また、樹脂組成物の成形時における流動性や充填性をより効果的に向上させる観点から、樹脂組成物中のシリカの含有量は、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは93質量%以下である。
【0046】
(その他の成分)
本実施形態において、樹脂組成物は上述した成分以外のその他の成分をさらに含んでもよい。
その他の成分としては、たとえば、硬化促進剤、カップリング剤、離型剤、低応力成分、難燃剤、イオン捕捉剤、着色剤、および酸化防止剤等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
硬化促進剤は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、の架橋反応を促進させるものであればよく、一般のエポキシ樹脂組成物に使用するものを用いることができる。
硬化促進剤の具体例としては、たとえば、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7等のジアザビシクロアルケンおよびその誘導体;トリフェニルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類;イミダゾール化合物(後述のイミダゾール系硬化促進剤);ならびに、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスフォニウム・2,3-ジヒドロキシナフタレート等のテトラ置換ホスホニウムが挙げられる。
【0048】
イミダゾール系硬化促進剤としては、たとえば、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-[2-メチルイミダゾリル(1')]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2'-ウンデシルイミダゾリル(1')]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2'-エチル-4-メチルイミダゾリル(1')]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2'-メチルイミダゾリル(1')]-エチル-s-トリアジンのイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物、2-メチルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシジメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールが挙げられる。
【0049】
カップリング剤としては、たとえばエポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン、メタクリルシラン等の各種シラン系化合物、チタン系化合物、アルミニウムキレート類、アルミニウム/ジルコニウム系化合物等の公知のカップリング剤を用いることができる。これらを例示すると、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-[ビス(β-ヒドロキシエチル)]アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(β-アミノエチル)アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N-(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、N-(ジメトキシメチルシリルイソプロピル)エチレンジアミン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミンの加水分解物等のシラン系カップリング剤、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート等のチタネート系カップリング剤が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、エポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシランまたはビニルシランのシラン系化合物がより好ましい。また、充填性や成形性をより効果的に向上させる観点からは、フェニルアミノプロピルトリメトキシシランに代表される2級アミノシランを用いることがさらに好ましい。
【0050】
カップリング剤を用いる場合、その含有量は、樹脂組成物の流動性を好ましいものとする観点から、樹脂組成物の全固形分に対して好ましくは0.05質量%以上であり、より好ましくは0.10質量%以上である。また、樹脂組成物の硬化物の機械的強度を向上する観点から、カップリング剤の含有量は、樹脂組成物の全固形分に対して好ましくは1.5質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
【0051】
離型剤は、たとえば、カルナバワックス等の天然ワックス;モンタン酸エステルワックス、酸化ポリエチレンワックス等の合成ワックス;ステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸およびその金属塩類;パラフィン;およびエルカ酸アミドなどのカルボン酸アミドからなる群から選択される1種類または2種類以上を含むことができる。
イオン捕捉剤として、例えば、ハイドロタルサイトが挙げられる。
低応力成分として、例えば、シリコーンオイル、シリコーンゴム、シリコーンエラストマー、シリコーンレジン等のシリコーン;アクリロニトリルブタジエンゴムが挙げられる。
難燃剤として、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、ホスファゼンが挙げられる。
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物およびチオエーテル系化合物等が挙げられる。
【0052】
着色剤としては、カーボンブラック、ベンガラ、酸化チタン等が挙げられる。中でも、着色剤としては、カーボンブラックが好ましく用いられる。
着色剤の含有量は、樹脂組成物の硬化物を好ましい外観とする観点から、樹脂組成物全量に対して好ましくは0.05質量%以上であり、より好ましくは0.10質量%以上である。また、樹脂粘度を好ましいものとする観点から、着色剤の含有量は、樹脂組成物全量に対して好ましくは1.5質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
【0053】
(熱硬化性樹脂組成物またはその硬化物の特性)
次いで、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物またはその硬化物の特性を説明する。
上記成分を含む本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、その最低溶融粘度が、40Pa・s以下であり、好ましくは、35Pa・s以下である。これにより、熱硬化性樹脂組成物の充填性を向上できる。
樹脂組成物の最低溶融粘度の下限値は、例えば、5Pa・s以上である。これにより、固定部材の絶縁性を高められる。
また、本実施形態の樹脂組成物は、上記範囲の最低溶融粘度を有し、その結果、充填性が良好であるとともに、良好な作業性を有する。
【0054】
本実施形態の樹脂組成物は、ラボプラストミルを用いて、回転数30rpm、測定温度175℃の条件でトルク値を経時的に測定した際に、トルク値が最低トルク値の2倍以下である時間Tが40秒以上90秒以下であり、最低トルク値が0.8N・m以下である。
【0055】
樹脂組成物の硬化物の25℃で測定した曲げ弾性率は、硬化物の強度を高める観点から、10GPa以上であり、より好ましくは12GPa以上である。また、硬化物の応力緩和特性を好ましいものとする観点から、25℃で測定した曲げ弾性率は、30GPa以下であり、より好ましくは25GPa以下である。
なお、樹脂組成物の硬化物の曲げ弾性率は、たとえば、JIS K 7171に準拠して測定される。
【0056】
本実施形態の樹脂組成物のゲルタイムは、樹脂組成物の成形性の向上を図りつつ成形サイクルを速くする観点から、好ましくは40秒以上であり、より好ましくは50秒以上である。また、硬化性に優れた硬化物を実現する観点から、樹脂組成物のゲルタイムは、好ましくは100秒以下であり、より好ましくは90秒以下である。
【0057】
ゲルタイムの測定は、175℃に加熱した熱板上で樹脂組成物を溶融した後、ヘラで練りながらタックフリーになるまでの時間(ゲルタイム)を測定することによりおこなうことができる。
【0058】
本実施形態の樹脂組成物は、その硬化物の熱伝導率が、例えば、0.7W/m・K以上であり、好ましくは2W/m・K以上であり、より好ましくは、3W/m・K以上である。
【0059】
[熱硬化性樹脂組成物の製造方法]
本実施形態の樹脂組成物は、上記成分および必要に応じて用いられるその他の添加剤を所定の含有量となるように、タンブラーミキサーやヘンシェルミキサー等のミキサーやブレンダー等で均一に混合した後、ニーダー、ロール、ディスパー、アジホモミキサー、及びプラネタリーミキサー等で加熱しながら混練することにより製造できる。なお、混練時の温度としては、硬化反応が生じない温度範囲である必要があり、エポキシ樹脂および硬化剤の組成にもよるが、70~150℃程度で溶融混練することが好ましい。混練後に冷却固化し、混練物を、粉粒状、顆粒状、タブレット状、またはシート状に加工してもよい。
【0060】
粉粒状の樹脂組成物を得る方法としては、たとえば、粉砕装置により、混練物を粉砕する方法が挙げられる。混練物をシートに成形したものを粉砕してもよい。粉砕装置としては、たとえば、ハンマーミル、石臼式磨砕機、ロールクラッシャーを用いることができる。
【0061】
顆粒状または粉末状の樹脂組成物を得る方法としては、たとえば、混練装置の出口に小径を有するダイスを設置して、ダイスから吐出される溶融状態の混練物を、カッター等で所定の長さに切断するというホットカット法に代表される造粒法を用いることもできる。この場合、ホットカット法等の造粒法により顆粒状または粉末状の樹脂組成物を得た後、樹脂組成物の温度があまり下がらないうちに脱気を行うことが好ましい。
【0062】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0063】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0064】
各実施例、各比較例で用いた原料成分について、以下に示す。
(エポキシ樹脂)
・エポキシ樹脂1:オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC社製、EPICRON N-670)
・エポキシ樹脂2:オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC社製、EPICRON N-660)
・エポキシ樹脂3:ビフェニル型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製、YX-4000K)
【0065】
(硬化剤)
・硬化剤1:ノボラック型フェノール化合物(住友ベークライト社製、PR-51470)
・硬化剤2:ノボラック型フェノール化合物(住友ベークライト社製、PR-51714)
・硬化剤3:トリフェノールメタン型フェノール樹脂(明和化成社製、MEH-7500)
【0066】
(無機充填材)
・無機充填材1:溶融球状シリカ(デンカ社製、FB-950)
・無機充填材2:溶融球状シリカ(デンカ社製、FB-105)
・無機充填材3:溶融破砕シリカ(フミテック社製、FMT-15C)
・無機充填材4:ガラス繊維(日東紡績社製、CS3E479)
・無機充填材5:結晶破砕シリカ(株式会社龍森製、HFC-7)
・無機充填材6:溶融球状アルミナ(デンカ社製、DAB-45SI)
【0067】
(硬化促進剤)
・硬化促進剤1:テトラフェニルホスフォニウム・2,3-ジヒドロキシナフタレート
・硬化促進剤2:2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成工業社製、2PHZ-PW)
【0068】
(離型剤)
・ワックス1:カルナバワックス(東亜化成社製、TOWAX-132)
【0069】
(シランカップリング剤)
・シランカップリング剤1:N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製、CF-4083)
(着色剤)
・着色剤1:カーボンブラック(三菱ケミカル社製、カーボン#5)
【0070】
(熱硬化性樹脂組成物の調製)
表1に従い配合された各原材料を常温でミキサーを用いて混合した後、70℃以上110℃以下でロール混練した。次いで、得られた混練物を冷却した後、これを粉砕して、熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0071】
【表1】
【0072】
各例で得られた熱硬化性樹脂組成物について、以下の測定をおこなった。測定結果を表1に合わせて示す。
【0073】
(最低溶融粘度)
得られた熱硬化性樹脂組成物について、高化式フローテスター(島津製作所社製、CFT-500C)を用いて、温度175℃、試験圧力P(荷重40kgf、ピストン面積1cmのとき、3.9×10Pa)、ダイ穴直径D:0.50mm、ダイ長さL:1.00mmの条件の定温試験で溶解した熱硬化性樹脂組成物の、フローレートQ(cm/秒)を経時的に測定し、以下の式に基づいて、みかけの粘度η(Pa・秒)を算出した。みかけの粘度η中の流動時における粘度の最低値を、上記「最低溶融粘度」とした。
式:みかけの粘度η=(π・D・P×10/128×L・Q)
η:みかけの粘度
D:ダイ穴直径(mm)
P:試験圧力(Pa)
L:ダイ長さ(mm)
Q:フローレート(cm/秒)
なお、式中、Qは単位時間あたりに流れる熱硬化性樹脂組成物の流量である。
【0074】
(スパイラルフロー)
スパイラルフロー測定は、低圧トランスファー成形機(コータキ精機社製、「KTS-15」)を用いて、EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用の金型に金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で熱硬化性樹脂組成物を注入し、流動長(cm)を測定することにより行った。
【0075】
(ゲルタイム)
ゲルタイムの測定は、175℃に加熱した熱板上で熱硬化性樹脂組成物を溶融した後、へらで練りながら硬化するまでの時間(ゲルタイム:秒)を測定することによりおこなった。
【0076】
(ガラス転移温度、線膨張係数(α1))
トランスファー成形機を用いて金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間3分で熱硬化性樹脂組成物を注入成形し、15mm×4mm×4mmの試験片を得た。次いで、得られた試験片を175℃、4時間で後硬化した後、熱機械分析装置(セイコー電子工業社製、TMA100)を用いて、測定温度範囲40℃~300℃、昇温速度5℃/分の条件下で測定を行った。この測定結果から、ガラス転移温度、および測定温度範囲40℃~80℃における線膨張係数(α1)を算出した。
【0077】
(曲げ弾性率)
熱硬化性樹脂組成物を、175℃/3分でのトランスファー成型後に、さらに175℃/4時間で硬化して、JIS K 7171に準じて、25℃での曲げ弾性率を測定した。
【0078】
(曲げ強さ)
上記の曲げ弾性率の測定と同様に硬化物を作成し、JIS K 7171に準じて、25℃での曲げ強度を測定した。
【0079】
(熱伝導率)
トランスファー成形機を用いて金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間3分で熱硬化性樹脂組成物を注入成形し、10mm×10mm×1mmの硬化体を得た。
得られた硬化物の熱伝導率を、レーザーフラッシュ法(ハーフタイム法)にて測定した熱拡散係数(α)、DSC法により測定した比熱(Cp)、JIS K 6911に準拠して測定した密度(ρ)より次式を用いて算出した。熱伝導率の単位はW/m・Kである。
熱伝導率[W/m・K]=α[mm/s]×Cp[J/kg・K]×ρ[g/cm
【0080】
(絶縁破壊強さ)
トランスファー成形機を用いて金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間3分で熱硬化性樹脂組成物を注入成形し、100mmφ×2mmの硬化体を得た。
上記で得た硬化物の絶縁破壊電圧をJIS K 6911に準じて、次のように測定した。まず、得られた硬化物を円電極に挟んだ状態で絶縁油中に設置した。次いで、菊水電子社製TOS9201を用いて、両電極に昇圧速度2.5kV/秒の速度で電圧が上昇するように、交流電圧を印加した。試験片が破壊した電圧を、絶縁破壊電圧とした。
【0081】
(硬化挙動測定)
混練押出性試験装置(東洋精機製作所社製、4C150)を用いて、回転数30rpm、測定温度175℃の条件で熱硬化性樹脂組成物の溶融トルクを経時的に測定した。次いで、トルク値が最低トルク値の2倍以下である時間Tを測定結果に基づいて算出した。測定開始点は、混練押出性試験装置に材料を投入し、急激にトルクが立ち上がった後、トルクが下がり始める点とした。また、測定結果から、最低トルク値を算出した。
【0082】
(密着性)
得られた熱硬化性樹脂組成物について、低圧トランスファー成形機(山城精機社製、「AV-600-50-TF」)を用いて、金型温度175℃、注入圧力10MPa、硬化時間180秒の条件で、9×29mmの短冊状の試験用銅リードフレーム上、または積層鋼板上に、3.6mmφ×3mmの密着強度試験片をそれぞれ10個成形した。
その後、175℃3時間の条件で硬化したサンプルについて、自動ダイシェア測定装置(ノードソン・アドバンスド・テクノロジー社製、DAGE4000型)を用いて、室温25℃にてダイシェア強度(MPa)を測定した。
【0083】
実施例1~4の熱硬化性樹脂組成物は、銅に対する密着性や積層鋼板に対する密着性が良好である結果を示した。
また、実施例1~4の熱硬化性樹脂組成物は、スパイラルフローの値が比較的大きいことから、狭いギャップへの良好な充填性を示すこと、および/または、絶縁破壊強さの値が比較的大きいことから、良好な絶縁性を示すことが分かった。
このような実施例の熱硬化性樹脂組成物は、巻線磁界式ロータにおいて、界磁巻線および/または鉄心を固定するための固定部材として好適に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0084】
1 ロータコア
2 界磁巻線
3 鉄心
10 巻線磁界式ロータ
図1