(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162694
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】パストライザにおける水膜形成装置
(51)【国際特許分類】
A61L 2/04 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
A61L2/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078498
(22)【出願日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】595012121
【氏名又は名称】株式会社加藤製缶鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】100086438
【弁理士】
【氏名又は名称】東山 喬彦
(74)【代理人】
【識別番号】100217168
【弁理士】
【氏名又は名称】東山 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 勉
【テーマコード(参考)】
4C058
【Fターム(参考)】
4C058AA25
4C058BB03
4C058CC04
4C058EE23
4C058EE26
(57)【要約】
【課題】 処理対象物に散水された処理水を利用することなく、処理温度が異なる処理ゾーンの境界部に水膜(水壁)を形成するようにした、パストライザにおける水膜形成装置の開発を技術課題とした。
【解決手段】 本発明の水膜形成装置10は、パストライザ1の幅方向にわたって設けられるものであって、異なる温度の処理水Wを散布するノズル装置3の間に設けられ、水膜形成用の処理水W1を下方に向けて流下させる水膜形成用ノズル11と、この水膜形成用ノズル11に処理水W1を供給する処理水供給部12とを具え、水膜形成用ノズル11から処理水W1を流下させることにより、パストライザ1の幅方向にわたって水膜WMを形成することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象物を搬送しながら搬送方向に配設した複数の処理ゾーン毎に所定の処理温度の処理水を、処理対象物の上方に配置したノズル装置から散水し、処理対象物に所定の温度変化を与えるパストライザにおいて、
前記処理温度が異なる処理ゾーンの境界部には、パストライザの幅方向にわたって水膜を形成する水膜形成装置を具えるものであり、
この水膜形成装置は、
異なる温度の処理水を散布するノズル装置の間に設けられ、水膜形成用の処理水を下方に向けて流下させる水膜形成用ノズルと、
この水膜形成用ノズルに処理水を供給する処理水供給部とを具え、
当該水膜形成用ノズルから処理水を流下させることにより、パストライザの幅方向にわたって水膜を形成する構成であることを特徴とする、パストライザにおける水膜形成装置。
【請求項2】
前記水膜形成装置は、目的の処理ゾーンにおいて処理対象物の搬送方向上流側端部と搬送方向下流側端部との双方に設けられ、目的の処理ゾーンの前後に水膜を形成する構成であることを特徴とする請求項1記載の、パストライザにおける水膜形成装置。
【請求項3】
前記処理水供給部は、水膜形成用の処理水を貯留するチャンバーを有することを特徴とする請求項1または2記載の、パストライザにおける水膜形成装置。
【請求項4】
前記処理水供給部は、チャンバーの底面が、水膜形成用ノズルに向かって下窄まり状に形成されることを特徴とする請求項3記載の、パストライザにおける水膜形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば飲料などを充填・密封した容器を処理対象物とし、このものに加熱殺菌処理を行うパストライザに関するものであって、特に殺菌ゾーンにおける正確な温度設定や維持・管理が行えるようにした、パストライザにおける新規な水膜形成装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
一般にパストライザは、例えば飲料が充填・密封されたボトル等を処理対象物とし、これを搬送しながら、その上方から処理ゾーン毎に適宜の温度の処理水を処理対象物に吹き付けて、処理対象物を一定の時間・一定の高温雰囲気に保ち、加熱殺菌処理を行っている。具体的には、まず昇温ゾーンで処理水によって処理対象物を昇温させ、その後、殺菌ゾーンで処理水によって昇温した所定温度を一定時間維持するようにし、更にその後、冷却ゾーンで低温の処理水を吹き付け、処理対象物を適宜の温度まで冷却している。
【0003】
ところで、このようなパストライザにおいて、処理温度が異なる処理ゾーンの境界部では、次のような現象により処理環境の厳密な維持ができない、という問題があった。
すなわち、このような処理ゾーンの境界部では、その境界部を挟んで一方には(例えば搬送方向上流側)、高温の処理水が吹き付けられ、他方では(例えば搬送方向下流側)、低温の処理水が吹き付けられているところが存在する。このような状況下では、高温側ゾーンから低温側ゾーンに高温の湯気が逃げるように流出し、一方、低温側ゾーンから高温側ゾーンには低温空気が流入してしまい、高温側ゾーンの所定温度環境を維持し難くなっている。もとより、殺菌ゾーン等の高温側ゾーンは、本来、目的の殺菌を行うべく、所定の時間、高温状態を維持しなければならないが、このような問題から、所定の時間の殺菌が行えないこともあり得、そのために所定の時間、殺菌ゾーンを通過したにも係わらず、殺菌不足・殺菌不充分になることもあった(いわゆる殺菌不良)。
【0004】
因みに、上述したような殺菌ゾーンからの湯気の流出、及び殺菌ゾーンへの低温空気の流入は、高温側ゾーンと低温側ゾーンとが境界部で連通状態となっているためと考えられる。すなわち、高温側ゾーンの空気(湯気)が、隣接する低温ゾーンの空気に触れると、その間で高温空気(湯気)が凝縮・液化状態となり、一気に空気流ができてしまうためと考えられる。
そして、このような対策として本出願人は、処理対象物に吹き付ける処理水の一部を利用して、温度が異なる処理ゾーンの境界部に水膜を形成することを試み、特許出願に至っている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
もちろん、温度が異なる処理ゾーンを仕切るように、これらのゾーンの境界部に仕切板を設けることは従来より案出されていた(例えば特許文献2参照)。
しかしながら、このような仕切板では、一定の効果はあるものの、隣り合ったゾーンが連通してしまい、厳密な処理ゾーン毎の温度管理はできていないのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-101966号公報
【特許文献2】特開2002-066408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような開発の一環としてなされたものであって、処理対象物に吹き付けられる処理水を利用することなく、処理温度が異なる処理ゾーンの境界部に水膜(水壁)を形成するようにした、新規なパストライザにおける水膜形成装置を開発することを技術課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち請求項1記載の、パストライザにおける水膜形成装置は、
処理対象物を搬送しながら搬送方向に配設した複数の処理ゾーン毎に所定の処理温度の処理水を、処理対象物の上方に配置したノズル装置から散水し、処理対象物に所定の温度変化を与えるパストライザにおいて、
前記処理温度が異なる処理ゾーンの境界部には、パストライザの幅方向にわたって水膜を形成する水膜形成装置を具えるものであり、
この水膜形成装置は、
異なる温度の処理水を散布するノズル装置の間に設けられ、水膜形成用の処理水を下方に向けて流下させる水膜形成用ノズルと、
この水膜形成用ノズルに処理水を供給する処理水供給部とを具え、
当該水膜形成用ノズルから処理水を流下させることにより、パストライザの幅方向にわたって水膜を形成する構成であることを特徴として成るものである。
【0009】
また請求項2記載の、パストライザにおける水膜形成装置は、前記請求項1記載の要件に加え、
前記水膜形成装置は、目的の処理ゾーンにおいて処理対象物の搬送方向上流側端部と搬送方向下流側端部との双方に設けられ、目的の処理ゾーンの前後に水膜を形成する構成であることを特徴として成るものである。
【0010】
また請求項3記載の、パストライザにおける水膜形成装置は、前記請求項1または2記載の要件に加え、
前記処理水供給部は、水膜形成用の処理水を貯留するチャンバーを有することを特徴として成るものである。
【0011】
また請求項4記載の、パストライザにおける水膜形成装置は、前記請求項3記載の要件に加え、
前記処理水供給部は、チャンバーの底面が、水膜形成用ノズルに向かって下窄まり状に形成されることを特徴として成るものである。
【発明の効果】
【0012】
これら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
まず請求項1記載の発明によれば、処理対象物に吹き付けられる処理水を利用することなく、処理温度が異なる処理ゾーンの境界部に水膜(水壁)を形成するため処理ゾーン内の熱的遮断性を向上させることができる。すなわち、本発明によれば例えば特に高温ゾーンである殺菌ゾーンと、低温ゾーンである冷却ゾーンとの境界部に水膜を形成することができ、この場合、殺菌ゾーンが冷却ゾーンに連通してしまうことを確実に防止することができる。従って、殺菌ゾーンにおける規定時間の温度保持(維持管理)を厳格に行うことができることはもちろん、高温側の殺菌ゾーン内の湯気が、隣接する冷却ゾーンに流出することも防止できる。
なお、境界部に水膜が形成されないために殺菌ゾーンから冷却ゾーンに湯気が流出した場合には、殺菌ゾーンにおいて定められた高温殺菌時間が厳守できないことに加え、冷却ゾーンに流入した湯気が、冷却ゾーンで冷却され体積が減少する。このため冷却ゾーンが負圧化(真空化)し、ますます高温側の殺菌ゾーン内の湯気が、隣接する冷却ゾーンに流出することになる。また、このような状況下では、殺菌ゾーンで散水された処理水を貯留する処理水タンクの水も減り易くなり、処理水の管理も難しくなるものであった。
【0013】
また請求項2記載の発明によれば、例えば高温ゾーンである殺菌ゾーン等の処理ゾーンの前後両方に水膜を形成するから、殺菌ゾーンが水膜でシールドされるようになり(いわゆる水密構造)、殺菌ゾーン内の熱的遮断性をより向上させることができる。
【0014】
また請求項3記載の発明によれば、処理水供給部が、処理水を貯留するチャンバー状に形成されるから、貯留した処理水を滝のように一気に流下させることにより、確実に厚い層の水膜を形成することができる。
【0015】
また請求項4記載の発明によれば、処理水供給部としてのチャンバーの底面が、水膜形成用ノズルに向けて下り傾斜を有するように形成されるから、チャンバー内において特に底面付近に位置する処理水は、下窄まりの傾斜に沿うように案内されて勢い良く流下するようになり、より一層強固な水膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の水膜形成装置を適用したパストライザを骨格的に示す説明図である 。
【
図3】処理水供給部としてのチャンバーにおいて、底面の態様を異ならせた二種の 構成例を示す説明図である。
【
図4】主に処理水供給部の他の構成例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施するための形態は、以下の実施例に述べるものをその一つとするとともに、更にその技術思想内において改良し得る種々の手法をも含むものである。
【0018】
以下、本発明の、パストライザにおける水膜形成装置10(以下、単に「水膜形成装置10」とする)について説明するが、これに先立ち、本発明の水膜形成装置10が適用されるパストライザ1について説明する。
【0019】
パストライザ1は、上述したように例えば飲料を充填・密封したペットボトル等を処理対象物Tとし、このものに加熱処理ないしは冷却処理を施して、飲料の殺菌等の安定化処理を行う設備装置である。このパストライザ1は、幅1.0~2.3m、長さ数m~十数m程度の工場設備であり、一例として
図1に示すように、大別してペットボトル等の処理対象物Tを搬送する搬送系の装置と、処理媒体となる処理水Wの供給系装置とを具え、処理水Wの供給系装置は、搬送系の装置を上下から挟むように設けられている。
すなわち、パストライザ1は、処理水Wの供給系装置を構成するノズル装置3を、搬送系の装置を構成する搬送装置2の上方に配置するとともに、処理対象物Tに向けて噴出させた処理水Wを貯留・回収する処理水タンク4を、搬送装置2の下方に具えて成るものである。ここでノズル装置3に供給される処理水Wは、処理水タンク4に貯留された処理水Wが循環利用される。
以下、搬送装置2、ノズル装置3、処理水タンク4について説明する。
【0020】
搬送装置2は、容器等の処理対象物Tを安定的に微速(例えば1分間に250mm~1000mm)で搬送すべく、搬送面が平滑で、且つ処理水Wの流下を許容できるように、例えば樹脂製のコンベヤ要素を組み合わせて構成され、全体として無端軌道を描くベルト状に形成される。
この搬送装置2は、装置架台に対して支持されるとともに、搬送方向上流側にターンスプロケット21を具え、下流側に駆動スプロケット22を具えて成る。
【0021】
処理対象物Tは、搬送装置2による搬送を受けながら、その搬送位置に応じて受ける実質的な処理、つまりパストライザ1によって処理対象物Tが受ける処理温度が異なるものであり、以下、これについて説明する。
パストライザ1は、一例として上記
図1に示すように、処理対象物Tの搬送方向に見て、直列状に三つの処理ゾーンに区画されて成り、これを搬送方向上流側から昇温ゾーンZ1、殺菌ゾーンZ2、冷却ゾーンZ3とする。
以下、各処理ゾーンについて説明する。
【0022】
昇温ゾーンZ1は、処理対象物Tの温度(製品温度)を、例えば常温状態から目的の殺菌温度まで徐々に上昇させて行く処理ゾーンであり、ここでは更に三つの区間に分けられており、これを搬送方向上流側から第一予備加熱区間Z11、第二予備加熱区間Z12、加熱区間Z13とする。なお、区間ごとに、ノズル装置3と処理水タンク4とが設けられており、これらを区別して示す場合には、第一予備加熱区間Z11のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3A」、「4A」とする。また、第二予備加熱区間Z12のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3B」、「4B」とする。また、加熱区間Z13のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3C」、「4C」とする。
【0023】
殺菌ゾーンZ2は、昇温ゾーンZ1において目的の殺菌温度まで上昇させた処理対象物Tを、適宜の時間、当該温度に維持して、実質的な殺菌を行う処理ゾーンであり、ここでは二つの区間に分けられており、これを搬送方向上流側から第一殺菌区間Z21、第二殺菌区間Z22とする。ここでも区間ごとに、ノズル装置3と処理水タンク4が設けられており、これらを区別して示す場合には、第一殺菌区間Z21のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3D」、「4D」とする。また、第二殺菌区間Z22のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3E」、「4E」とする。
なお、図中符号「(・・・)Z2n」で示した区間は、殺菌ゾーンZ2のn番目の区間である「第n殺菌区間」を示しており、これは殺菌ゾーンZ2を三つ以上の複数区間で構成し得ることを示している。
【0024】
冷却ゾーンZ3は、実質的な殺菌を終えた処理対象物Tを、常温程度まで徐々に冷まして行く処理ゾーンであり、ここでは三つの区間に分けられており、これを搬送方向上流側から、第一徐冷区間Z31、第二徐冷区間Z32、冷却区間Z33とする。ここでも区間ごとに、ノズル装置3と処理水タンク4が設けられており、これらを区別して示す場合には、第一徐冷区間Z31のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3F」、「4F」とする。また、第二徐冷区間Z32のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3G」、「4G」とする。また、冷却区間Z33のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3H」、「4H」とする。
【0025】
各区間における処理水Wの作用温度は、一例として図中に示した通りであり、各ノズル装置3A~3Hの上方に示した数値が、各ノズル装置3A~3Hからスプレーされる処理水Wの温度の一例である。
なお、昇温ゾーンZ1及び殺菌ゾーンZ2においては、各ノズル装置3A~3Eから放出された処理水Wは、各処理水タンク4A~4Eに貯留・回収される時点では、処理対象物Tを加熱した分、数度低下し、各処理水タンク4A~4Eの上方に示した数値のようになるが、この数値はあくまでも一例である。
また、冷却ゾーンZ3においては、各ノズル装置3F~3Hから放出された処理水Wは、各処理水タンク4F~4Hに貯留・回収される時点では、処理対象物Tから熱を奪った分、数度上昇し、各処理水タンク4F~4Hの上方に示した数値のようになるが、この数値もあくまでも一例である。
【0026】
また、処理対象物Tは、このような区間を通過することに伴い、温度が刻々と変化するものであり、以下、この製品温度の変化の一例について説明しておく。
処理対象物Tは、例えば
図1に併せ示すように、第一予備加熱区間Z11の搬送装置2の入口付近で5℃、第一予備加熱区間Z11の搬送終端部及び第二予備加熱区間Z12の搬送開始部で20℃、第二予備加熱区間Z12の搬送終端部及び加熱区間Z13の搬送開始部で35℃となる。
また、加熱区間Z13の搬送終端部で65℃となり、殺菌ゾーンZ2の搬送中、すなわち第一殺菌区間Z21、第二殺菌区間Z22の搬送中は、この65℃の温度で維持される
。なお、加熱区間Z13では、処理対象物Tの温度を65℃とするために、これよりも高温である72℃の処理水Wを吹き付けるようにしている。
そして、処理対象物Tは、冷却ゾーンZ3の搬送中に製品温度が下げられるものであり、例えば第一徐冷区間Z31の入口で65℃、第一徐冷区間Z31の搬送終端部及び第二徐冷区間Z32の搬送開始部で56℃、第二徐冷区間Z32の搬送終端部及び冷却区間Z33の搬送開始部で44℃となり、冷却区間Z33の搬送終端部つまり搬送装置2の出口付近で38℃となる。
【0027】
なお、パストライザ1(搬送装置2)の各処理ゾーンを構成する区間の数は、適宜、増減させることが可能である。具体的には、処理対象物Tのサイズや性状、あるいは殺菌温度・殺菌時間等によって適宜増減し得るものであり、例えば昇温ゾーンZ1を一つの予備加熱区間と加熱区間との二区間で構成することが考えられるし、あるいは殺菌ゾーンZ2を三つの殺菌区間で構成すること等も考えられる。
【0028】
次に、ノズル装置3について説明する。
ノズル装置3は、処理水タンク4からポンプPで汲み上げた処理水Wを、処理対象物Tにスプレー状に吹き付けるものであり、一例として上記
図1に骨格的に示すように、全体として各区間において、搬送方向に見て数本から十数本程度のノズルパイプ31を、それぞれ搬送方向を横切るように垂下状態に配置して成る。
なお、このノズルパイプ31についても、区間ごとに区別する場合には、末尾符号A~Hを付して区別する。
【0029】
次に、処理水タンク4について説明する。
処理水タンク4は、各ノズル装置3A~3Hから放出された処理水Wを、搬送装置2の下方で受けて、貯留・回収するタンクであり、上述したように各区間にそれぞれ配置される。なお、各処理水タンク4に貯留・回収された処理水Wは、ポンプPで汲み上げられ、その温度に適した処理水Wとして各ノズル装置3に供給される(いわゆる循環利用)。
【0030】
また、このような循環利用にあたり、各処理水タンク4A~4Hに貯留・回収された処理水Wが、目的の温度よりも低いまたは高いことがあり得る。このため各処理水タンク4A~4Hには、貯留した処理水Wを目的の温度に加熱するための加温装置5と、目的の温度に低下させるための冷却装置6とが設けられる。なお、これら加温装置5と冷却装置6とを処理水タンク4A~4Hごとに区別する場合には、末尾符号A~Hを付して区別する。
【0031】
このような加温装置5(5A~5H)としては、例えば図示を省略するボイラーから供給される蒸気Sを、各処理水タンク4A~4H内に吹き込むことによって加温を図る手法が挙げられる。この場合、一例として前記処理水タンク4A~4H内に、蒸気Sの吹出し用の諸装置を配置して、蒸気Sの熱により処理水Wの加温を図る。
【0032】
一方、各処理水タンク4A~4Hに貯留された処理水Wを冷却する冷却装置6(6A~6H)としては、各処理水タンク4A~4Hに、図示を省略する冷却水源からの配管を接続する手法が挙げられる。この場合、処理水Wの温度を下げるには、例えば当該配管中に設けたポンプ(図示略)を稼働させて、冷却水源から冷却水を処理水タンク4に導入し、適宜の温度に調整する。なお、冷却水としては、例えば水道水(上水)が挙げられる。
【0033】
次に、上述した処理水タンク4からノズル装置3に処理水Wを供給する経路について説明する。各処理水タンク4A~4Hに貯留された処理水Wは、上述したように、その温度に応じてスプレーすべきノズル装置3の区間を選択してスプレーするように構成されており、これは言わば処理水Wを循環使用する形態である。
具体的には、本実施例では昇温ゾーンZ1における第一予備加熱区間Z11の処理水タンク4Aに貯留された処理水Wが、約33℃となり、冷却ゾーンZ3における第二徐冷区間Z32のノズルパイプ31Gに移送され、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けられる。一方、冷却ゾーンZ3における第二徐冷区間Z32の処理水タンク4Gに貯留された処理水Wが、約35℃となり、昇温ゾーンZ1における第一予備加熱区間Z11のノズルパイプ31Aに移送され、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けられる。なお、このような異なる区間同士、つまり昇温ゾーンZ1の第一予備加熱区間Z11と、冷却ゾーンZ3の第二徐冷区間Z32との間で、処理水Wを循環利用する形態を相互循環と称する。
【0034】
また、本実施例では別の相互循環も構成されている。具体的には、昇温ゾーンZ1の第二予備加熱区間Z12と、冷却ゾーンZ3の第一徐冷区間Z31との相互循環である。より詳細には、昇温ゾーンZ1における第二予備加熱区間Z12の処理水タンク4Bに貯留された処理水Wが、約48℃となり、冷却ゾーンZ3における第一徐冷区間Z31のノズルパイプ31Fに移送され、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けられる。一方、冷却ゾーンZ3における第一徐冷区間Z31の処理水タンク4Fに貯留された処理水Wが、約50℃となり、昇温ゾーンZ1における第二予備加熱区間Z12のノズルパイプ31Bに移送され、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けられる。
なお、相互循環における各区間の組み合わせは変更することもあり得、例えば昇温ゾーンZ1が、一つの予備加熱区間(第一予備加熱区間Z11)と、加熱区間Z13との二区間で構成された場合などが想定される。
【0035】
また、本実施例では、回収した処理水Wを同一区間内のノズル装置3に戻すように移送する循環利用も行っており、これを自己循環と称し、上記相互循環と区別している。
自己循環は、昇温ゾーンZ1の加熱区間Z13、殺菌ゾーンZ2の第一殺菌区間Z21及び第二殺菌区間Z22、冷却ゾーンZ3の冷却区間Z33について実施されている。すなわち、これらの区間では、同じ区間内の処理水タンク4(4C・4D・4E・4H)に貯留された処理水Wを、同区間内のノズルパイプ31(31C・31D・31E・31H)に戻し、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けるようにしている。
なお、相互循環及び自己循環ともに、処理水タンク4から処理水Wを汲み上げる作用は、循環回路中に組み込まれたポンプPが担うものである。
【0036】
パストライザ1は、以上のような基本構造を有するものであって、以下、このようなパストライザ1を適用して処理対象物Tを加熱殺菌する際の基本的な処理態様について説明する。
処理対象物Tは、一例として
図1に示すように、搬送装置2の搬送面上に正立姿勢で載置されながら、搬送方向上流の入口側から搬送方向下流の出口側に向けて搬送される。その搬送速度は、例えば250mm/min~1000mm/min程度のほぼ一定の速度であり、この搬送過程で処理対象物Tは、各区間で定められた温度の処理水Wが上方からスプレーされて(吹き付けられて)、目的の処理が成される。以下、処理ゾーンごとに説明する。
【0037】
(1)昇温ゾーン
処理対象物Tは、まず昇温ゾーンZ1で、殺菌に必要な温度まで徐々に加熱される。具体的には、第一予備加熱区間Z11で所定の時間、35℃の処理水Wによる予備加熱を受ける。次いで第二予備加熱区間Z12で所定の時間、50℃の処理水Wによる予備加熱を受ける。次いで加熱区間Z13で所定の時間、72℃の処理水Wによる加熱を受ける。なお、各区間の処理水タンク4A~4Cに回収される処理水Wの温度は、いずれも上記温度よりも数度低下して回収され、例えば処理水タンク4Aでは33~34℃、処理水タンク4Bでは48~49℃、処理水タンク4Cでは70~71℃程度である。因みに、各処理水タンク4A~4Cに貯留された処理水Wの温度は、次のスプレーに供する温度よりも低い場合には、加温装置5A~5Cによって適宜加温するものであり、処理水Wの温度が、次のスプレーに供する温度よりも高い場合には、冷却装置6A~6Cによって適宜冷却するものであり、各ノズルパイプ31G・31F・31Cには、常に同じ温度の処理水Wが供給される。
また、このような昇温ゾーンZ1の搬送中に、処理対象物Tの製品温度は上昇するものであり、例えば第一予備加熱区間Z11の入口付近で5℃、第一予備加熱区間Z11の搬送終端部及び第二予備加熱区間Z12の搬送開始部で20℃、第二予備加熱区間Z12の搬送終端部及び加熱区間Z13の搬送開始部で35℃、加熱区間Z13の搬送終端部で65℃となる。
【0038】
(2)殺菌ゾーン
その後、処理対象物Tは、殺菌ゾーンZ2に搬送され、ここで適宜の時間・適宜の高温状態で保持され、所望の殺菌が実質的に施される。具体的には、第一殺菌区間Z21で所定の時間、65℃の処理水Wによる殺菌を受ける。次いで第二殺菌区間Z22で所定の時間、65℃の処理水Wによる殺菌を受ける。なお、殺菌ゾーンZ2における両区間の処理水タンク4D・4Eに回収される処理水Wの温度は、いずれも上記温度より数度低下するものであり、例えばいずれの処理水タンク4D・4Eにおいても63~64℃程度となる。もちろん、ここでも各処理水タンク4D・4Eに貯留された処理水Wの温度が、次のスプレーに供する温度よりも低い場合には、加温装置5D・5Eによって適宜加温するものであり、各ノズルパイプ31D・31Eには、常に同じ温度の処理水Wが供給される。
また、このような殺菌ゾーンZ2の搬送中、具体的には第一殺菌区間Z21の搬送開始部から第二殺菌区間Z22の搬送終端部に至るまで、処理対象物Tは、製品温度が65℃に維持され、実質的な殺菌が施される。
【0039】
(3)冷却ゾーン
その後、処理対象物Tは、冷却ゾーンZ3に搬送され、ここで殺菌直後の高温状態が、徐々に冷却されて行く。具体的には第一徐冷区間Z31で所定の時間、48℃の処理水Wによる徐冷を受ける。次いで第二徐冷区間Z32で所定の時間、33℃の処理水Wによる徐冷を受ける。次いで冷却区間Z33で所定の時間、28℃の処理水Wによる冷却を受ける。なお、各区間の処理水タンク4F~4Hに回収される処理水Wの温度は、いずれも上記温度よりも数度上昇し、例えば処理水タンク4Fでは49~50℃、処理水タンク4Gでは34~35℃、処理水タンク4Hでは29~30℃程度となる。もちろん、ここでも各処理水タンク4F~4Hに貯留された処理水Wの温度が、次のスプレーに供する温度よりも低い場合には、加温装置5F~5Hによって適宜加温するものであり、次のスプレーに供する温度よりも高い場合には、冷却装置6F~6Hによって適宜冷却するものであり、各ノズルパイプ31B・31A・31Hには、常に同じ温度の処理水Wが供給される。
また、このような冷却ゾーンZ3の搬送中に、処理対象物Tは、製品温度が徐々に下降して行くものであり、例えば第一徐冷区間Z31の搬送開始部で65℃、第一徐冷区間Z31の搬送終端部及び第二徐冷区間Z32の搬送開始部で56℃、第二徐冷区間Z32の搬送終端部及び冷却区間Z33の搬送開始部で44℃となり、冷却区間Z33の搬送終端部つまり出口付近で38℃まで冷却される。
【0040】
本実施例では、上述したように昇温ゾーンZ1と冷却ゾーンZ3との間で処理水Wを相互循環させている。具体的には、まず一つ目の相互循環として、昇温ゾーンZ1における第一予備加熱区間Z11の処理水タンク4Aに貯留された処理水Wを、冷却ゾーンZ3における第二徐冷区間Z32のノズルパイプ31Gに移送し、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けている。一方、冷却ゾーンZ3における第二徐冷区間Z32の処理水タンク4Gに貯留された処理水Wを、昇温ゾーンZ1における第一予備加熱区間Z11のノズルパイプ31Aに移送し、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けている。
また、二つ目の相互循環として、昇温ゾーンZ1における第二予備加熱区間Z12の処理水タンク4Bに貯留された処理水Wを、冷却ゾーンZ3における第一徐冷区間Z31のノズルパイプ31Fに移送し、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けている。一方、冷却ゾーンZ3における第一徐冷区間Z31の処理水タンク4Fに貯留した処理水Wを、昇温ゾーンZ1における第二予備加熱区間Z12のノズルパイプ31Bに移送し、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けている。
【0041】
このような相互循環を行うのは、第一予備加熱区間Z11の処理水タンク4Aに貯留された処理水Wの温度が、第二徐冷区間Z32で処理対象物Tに吹き付ける処理水Wの温度とほぼ同じであり、また第二徐冷区間Z32の処理水タンク4Gに貯留された処理水Wの温度が、第一予備加熱区間Z11で処理対象物Tに吹き付ける処理水Wの温度とほぼ同じであり、処理水Wの温度として、互いに適しているためである。
また、第二予備加熱区間Z12の処理水タンク4Bに貯留された処理水Wの温度は、第一徐冷区間Z31で処理対象物Tに吹き付ける処理水Wの温度とほぼ同じであり、また第一徐冷区間Z31の処理水タンク4Fに貯留された処理水Wの温度は、第二予備加熱区間Z12で処理対象物Tに吹き付ける処理水Wの温度とほぼ同じであり、処理水Wの温度として、互いに適しているため、上記のような二組の相互循環が構成されている。
そして、このような相互循環を図ることにより、加温装置5によって行われる蒸気Sによる加熱や、冷却装置6によって行われる上水等による冷却を行って、処理水Wの温度を調整する場合でも、使用するエネルギーを節約することができる。なお、このような処理水Wの相互循環利用を交流と称することもある。
【0042】
そして、本発明では処理ゾーンの境界部、特に殺菌ゾーンZ2の前後の境界部に、殺菌ゾーンZ2内の雰囲気温度を維持する水膜形成装置10を設けるものであり、以下これについて説明する。
水膜形成装置10は、上述したように、処理対象物Tに向けてシャワーリングされた処理水Wを利用することなく、処理温度が異なる処理ゾーンの境界部において、パストライザ1の幅方向にわたって水膜MWを形成する装置であり、一例として
図1・
図2に示すように、水膜形成用の処理水W1を下方に向けて流下させる水膜形成用ノズル11と、この水膜形成用ノズル11に上記処理水W1供給するための処理水供給部12とを具えて成る。
ここで「W1」という符号は、ノズル装置3からシャワーリングされる処理水Wと区別するために付した符号であるが、実装置においては同じ水を適用することもでき、本明細書ではシャワーリング用と水膜形成用という用途・作用で区別したものである。
【0043】
また上記
図1・
図2に示す処理水供給部12としては、水膜形成用の処理水W1を適宜貯留することができるチャンバー12aを図示している。つまり、本実施例では、処理水供給部12としてのチャンバー12aに適宜貯留した処理水W1を、一挙に水膜形成用ノズル11の吐出口11aから流下させるようにして水膜(水壁)WMを形成するものであり、これにより処理水W1を勢い良く流下させ、厚みを有する水膜WMを形成するものである。
なお、処理水W1を吐出口11aから流下させることによって水膜WMを形成している間、チャンバー12a内に貯留した処理水W1の貯留量を減らさないようにするには、処理水供給部12への給水量(処理水W1の供給量)は、単位時間当たり、水膜形成用ノズル11から吐出される流下量と同量以上に設定することが好ましい。
【0044】
また、上記
図1・
図2に示す実施例では、処理水供給部12としてのチャンバー12aの底面は、水膜形成用ノズル11に向かって下窄まり状に形成される。すなわちチャンバー12aの底面は、水膜形成用ノズル11の取付部を挟む前後が、水膜形成用ノズル11に向けて下り傾斜を有するように形成され、これによりチャンバー12a内、特に底面付近に位置する処理水W1を、上記傾斜面12kに沿ってより勢い良く水膜形成用ノズル11に送るようにし、かかる構成により、より強固な水膜WMを形成することができる。
【0045】
なお、水膜形成用の処理水W1を処理水供給部12に供給するにあたっては、前記ノズル装置3に処理水Wを移送する供給経路から分岐させて処理水供給部12に供給することが可能である他、前記ノズル装置3に処理水Wを移送する供給経路とは全く別系統で処理水供給部12に供給することも可能である。
因みに水膜形成用の処理水W1を、ノズル装置3の処理水供給経路から分岐して取り出すようにした場合には、従来のパストライザ1の構成を大幅に改造することなく、水膜形成装置10を後付けすることも可能である。一方、ノズル装置3に処理水Wを移送する供給経路とは全く別系統で、水膜形成用の処理水W1を処理水供給部12に供給した場合には、チャンバー12a内の貯留量が制御し易いものである。
【0046】
また水膜形成用ノズル11(吐出口11a)からの処理水W1の吐出量、すなわち水膜WMの流下状態は、例えばON/OFF式の開閉バルブや流量調整弁などによって制御することが可能である。具体的には例えば吐出量を少(または吐出OFF)とすることで、殺菌ゾーンZ2を冷却ゾーンZ3と意図的に連通させることができる。これにより例えばチョコ停などと称される一時停止状態に至った場合、殺菌ゾーンZ2の終盤まで搬送されていた処理対象物Tは、搬送停止後、そのまま加熱されてしまうことがなく、過剰殺菌の発生を未然に防ぐことができる(殺菌処理が所定の時間以上行われないようにすることができる)。一方、バルブ操作により、例えば処理水W1の吐出量を中から大に調整することなどにより、水膜WMの厚さを増加させる等の調整を行うことができる。
【0047】
そして、このような水膜形成装置10が、パストライザ1の幅方向にわたって直線状に構成されるため、処理対象物Tの搬送方向において適宜の厚みを有する水膜WMが、上記幅方向にわたって間断なく形成され、殺菌ゾーンZ2と冷却ゾーンZ3との連通を確実に遮断するものである。もちろん、殺菌ゾーンZ2の前後の境界部に水膜形成装置10が、設けられた場合には、殺菌ゾーンZ2内をシールドする水密構造が確実に得られるものである。
【0048】
また、上記
図1に示す実施例では、殺菌ゾーンZ2と冷却ゾーンZ3との境界部に水膜形成装置10を一基設け、且つ殺菌ゾーンZ2と昇温ゾーンZ1との境界部に水膜形成装置10を一基設ける態様を示したが、それぞれの境界部に二基ずつ水膜形成装置10を設けるようにしても構わない。これは例えば
図2に示すように、殺菌ゾーンZ2の移送終端部に水膜形成装置10を設置し、且つ冷却ゾーンZ3の移送開始部に水膜形成装置10を設置する形態であり、このような構成を採ることで、殺菌ゾーンZ2は、前後の境界部において各々二重の水膜WMが形成され、殺菌ゾーンZ2内の水密構造をより一層確実に図ることができる。
【0049】
因みに、例えば殺菌ゾーンZ2と冷却ゾーンZ3との間に水膜WMを形成しない場合には、上述したように殺菌ゾーンZ2と冷却ゾーンZ3とが連通状態となってしまい、殺菌ゾーンZ2内の湯気が冷却ゾーンZ3に流出する一方、冷却ゾーンZ3の低温空気が殺菌ゾーンZ2内に流入してしまい、殺菌ゾーンZ2の温度低下を招くものであった。そして、このような温度低下は、以下のような不具合をもたらすものである。すなわち、殺菌ゾーンZ2は、一般に処理対象物Tを適宜の時間・適宜の高温状態に維持することによって、目的の殺菌を行う処理空間である。しかしながら、殺菌ゾーンZ2内の温度が、例えば搬送終端部で低下してしまうと、一例として
図1のグラフに破線で示すように、処理対象物Tが、まだ殺菌ゾーンZ2を搬送中であるにも係わらず、品温は目的の殺菌温度よりも低下してしまい、結果的に所定時間の殺菌が行われず、最悪の場合には、殺菌不足・殺菌不充分で、不良品になることもあった。そのため、本実施例では、特に殺菌ゾーンZ2と冷却ゾーンZ3の境界部に、水膜形成装置10を設け、殺菌ゾーンZ2内の搬送終端部における温度低下を防止している。
【0050】
なお、上述したように、殺菌ゾーンZ2と冷却ゾーンZ3との境界部に仕切板を設けること自体は従来より案出されていた。しかしながら、境界部に仕切板を設けること、あるいは当該仕切板にノズル装置3から散水された処理水Wを当てて、そのまま垂直に流下させただけでは、隣接する処理ゾーン同士が連通してしまうため、上記のように殺菌ゾーンZ2において定められた所定温度保持時間が維持できなくなってしまうものであった(
図1のグラフ参照)。
また、高温側の殺菌ゾーンZ2から低温側の冷却ゾーンZ3に流出した湯気は、冷却ゾーンZ3が低温であるため、水滴化し、体積も大きく縮むものである。このため低温側の冷却ゾーンZ3が負圧となり(真空化し)、高温側の殺菌ゾーンZ2内の湯気は、真空化した冷却ゾーンZ3に次々に吸い込まれて行き、結果的に殺菌ゾーンZ2からの湯気の流出が、ますます促進されるものであった。
加えて、このような状況になると、殺菌ゾーンZ2側で散布された処理水Wを貯留する処理水タンク4内の水も減少(蒸発)し易くなり、処理水Wの適正な管理が行い難い事態も生じるものであった。
この点、本願発明では、高温側の殺菌ゾーンZ2内を厚い水膜でシールドすることができるため、このような事態を防止することができるものである。
【0051】
〔他の実施例〕
本発明は以上述べた実施例を一つの基本的な技術思想とするものであるが、更に次のような改変が考えられる。
まず、上述した基本の実施例では、昇温ゾーンZ1及び冷却ゾーンZ3を、ともに三つの区間で形成したが、本発明は、必ずしもこれに限定されるものではない。具体的には、例えば昇温ゾーンZ1及び冷却ゾーンZ3を四つ以上の区間で形成することも可能であるし、あるいは昇温ゾーンZ1を二つの区間で形成することも可能である。また、上述した基本の実施例では、相互循環を二組形成したが、特に上記区間数などに応じて、相互循環は一組だけ設けるようにしても構わない。
また先に述べた基本の実施例では、上記
図1・
図2に示すように、水膜形成装置10は、殺菌ゾーンZ2を挟むように、当該殺菌ゾーンZ2の前後の境界部に設けた。しかしながら、殺菌ゾーンZ2と冷却ゾーンZ3との境界部における連通を防止することが重要になる場合には、殺菌ゾーンZ2の後部、つまり殺菌ゾーンZ2と冷却ゾーンZ3との境界部にのみ水膜形成装置10を設けるようにしても構わない。
【0052】
また先に述べた基本の実施例では、処理ゾーン同士の境界部、より詳細には殺菌ゾーンZ2と冷却ゾーンZ3との境界部、及び昇温ゾーンZ1と殺菌ゾーンZ2との境界部に水膜形成装置10を設ける形態を説明した。
しかしながら、処理工程を細かくみれば、例えば同じ昇温ゾーンZ1であっても第一予備加熱区間Z11と第二予備加熱区間Z12とでは処理温度が異なるし、第二予備加熱区間Z12と加熱区間Z13でも処理温度が異なる。また、同じ冷却ゾーンZ3であっても、第一徐冷区間Z31と第二徐冷区間Z32では処理温度が異なるし、第二徐冷区間Z32と冷却区間Z33でも処理温度が異なる。そのため、このような処理温度が異なる各区間の境界部にも、上記水膜形成装置10を設けることができ、このようにすることで、処理温度が異なる各区間の加熱処理・冷却処理が、より厳密な温度管理の下に行い得るものである。
【0053】
また先に述べた基本の実施例では、チャンバー12aの底面は、水膜形成用ノズル11を挟む前後両側が、水膜形成用ノズル11に向けて下り傾斜を有する傾斜面12kとして形成されていた(
図2参照)。
しかしながら、チャンバー12aの底面に形成される傾斜面12kは、必ずしも水膜形成用ノズル11を挟む前後両側に形成される必要はなく、例えば
図3(a)に示すように、水膜形成用ノズル11の前方側、すなわち処理対象物Tの搬送方向上流側のみに傾斜面12kを形成しても構わない。また、この場合、例えば上記
図3(a)に併せ示すように、傾斜面12kの対向側、すなわちここでは水膜形成用ノズル11の後方側(搬送方向下流側)のチャンバー12a壁面を、吐出口11aよりも下方に突出させるように垂下状に形成すれば、この壁面が流下状態に吐出される水膜WMの案内面として機能する(ここを水膜ガイド板12gとする)。
【0054】
また先に述べた基本の実施例では、チャンバー12aの底面が下窄まり状になるよう傾斜面12kを形成したが、例えば
図3(b)に示すように、チャンバー12aの底面は、ほぼ水平なフラット状に形成することも可能である。
【0055】
更に先に述べた基本の実施例では、水膜形成用ノズル11に処理水W1を供給する処理水供給部12は、適宜の貯留空間を有するチャンバー12aとして形成されたが、処理水供給部12は、例えば
図4に示すように、パイプ状など処理水W1の供給管部材として構成することもできる。この場合、処理水供給部12は、処理水W1の貯留というよりは、むしろ処理水W1の供給管(移送管)として機能するが、このような供給管部材も処理水供給部12に包含される。
また、上記
図4では、水膜形成用ノズル11(吐出口11a)をパストライザ1の幅方向に多数設けており、このような構成でパストライザ1の幅方向にわたって水膜WMを形成することも可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 パストライザ
2 搬送装置
3 ノズル装置
4 処理水タンク
5 加温装置
6 冷却装置
10 水膜形成装置(パストライザにおける水膜形成装置)
11 水膜形成用ノズル
11a 吐出口
12 処理水供給部
12a チャンバー
12k 傾斜面
12g 水膜ガイド板
21 ターンスプロケット
22 駆動スプロケット
3A ノズル装置(第一予備加熱区間)
3B ノズル装置(第二予備加熱区間)
3C ノズル装置(加熱区間)
3D ノズル装置(第一殺菌区間)
3E ノズル装置(第二殺菌区間)
3F ノズル装置(第一徐冷区間)
3G ノズル装置(第二徐冷区間)
3H ノズル装置(冷却区間)
4A 処理水タンク(第一予備加熱区間)
4B 処理水タンク(第二予備加熱区間)
4C 処理水タンク(加熱区間)
4D 処理水タンク(第一殺菌区間)
4E 処理水タンク(第二殺菌区間)
4F 処理水タンク(第一徐冷区間)
4G 処理水タンク(第二徐冷区間)
4H 処理水タンク(冷却区間)
5A 加温装置(第一予備加熱区間)
5B 加温装置(第二予備加熱区間)
5C 加温装置(加熱区間)
5D 加温装置(第一殺菌区間)
5E 加温装置(第二殺菌区間)
5F 加温装置(第一徐冷区間)
5G 加温装置(第二徐冷区間)
5H 加温装置(冷却区間)
31 ノズルパイプ
31A ノズルパイプ(第一予備加熱区間)
31B ノズルパイプ(第二予備加熱区間)
31C ノズルパイプ(加熱区間)
31D ノズルパイプ(第一殺菌区間)
31E ノズルパイプ(第二殺菌区間)
31F ノズルパイプ(第一徐冷区間)
31G ノズルパイプ(第二徐冷区間)
31H ノズルパイプ(冷却区間)
6A 冷却装置(第一予備加熱区間)
6B 冷却装置(第二予備加熱区間)
6C 冷却装置(加熱区間)
6D 冷却装置(第一殺菌区間)
6E 冷却装置(第二殺菌区間)
6F 冷却装置(第一徐冷区間)
6G 冷却装置(第二徐冷区間)
6H 冷却装置(冷却区間)
T 処理対象物
W 処理水
W1 処理水(水膜形成用)
WM 水膜(水壁)
P ポンプ
S 蒸気
Z1 昇温ゾーン
Z11 第一予備加熱区間
Z12 第二予備加熱区間
Z13 加熱区間
Z2 殺菌ゾーン
Z21 第一殺菌区間
Z22 第二殺菌区間
Z2n 第n殺菌区間
Z3 冷却ゾーン
Z31 第一徐冷区間
Z32 第二徐冷区間
Z33 冷却区間