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2024-162708リチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層用水性樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162708
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層用水性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/42 20210101AFI20241114BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20241114BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20241114BHJP
【FI】
H01M50/42
H01M50/443 B
H01M50/449
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078528
(22)【出願日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】梶川 正浩
(72)【発明者】
【氏名】植村 幸司
(72)【発明者】
【氏名】松村 優佑
【テーマコード(参考)】
5H021
【Fターム(参考)】
5H021CC03
5H021CC04
5H021EE06
5H021EE15
5H021HH01
(57)【要約】
【課題】耐熱収縮性に優れたセパレータが得られるリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層用水性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】炭素原子数4以上のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(a1)と、N-メチロール(メタ)アクリルアミド及びカルボキシル基を有する不飽和単量体からなる群より選ばれる1以上の単量体(a2)とを必須原料とするアクリル重合体(A)と、水性媒体(B)とを含有するリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層用水性樹脂組成物であって、前記アクリル重合体(A)の単量体原料中の前記アルキル(メタ)アクリレート(a1)が50~95質量%であり、前記単量体(a2)が1~5質量%であり、前記アクリル重合体(A)の主反応における重合開始剤が、単量体原料100質量部に対し、0.05~0.25質量部であることを特徴とするリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層用水性樹脂組成物を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素原子数4以上のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(a1)と、N-メチロール(メタ)アクリルアミド及びカルボキシル基を有する不飽和単量体からなる群より選ばれる1以上の単量体(a2)とを必須原料とするアクリル重合体(A)と、水性媒体(B)とを含有するリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層用水性樹脂組成物であって、前記アクリル重合体(A)の単量体原料中の前記アルキル(メタ)アクリレート(a1)が50~95質量%であり、前記単量体(a2)が1~5質量%であり、前記アクリル重合体(A)の主反応における重合開始剤が、単量体原料100質量部に対し、0.05~0.25質量部であることを特徴とするリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層用水性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載のリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層用水性樹脂組成物を含有するリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層用スラリー。
【請求項3】
請求項2記載のリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層用スラリーを用いて得られた耐熱層を有するリチウムイオン二次電池用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層用水性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン多孔膜は優れた電気絶縁性、イオン透過性を示すことから、電池やコンデンサー等におけるセパレータとして広く利用されている。特に近年では、携帯機器の多機能化、軽量化に伴い、その電源として高出力密度、高容量密度のリチウムイオン二次電池が使用されており、このような電池用セパレータにも主としてポリオレフィン多孔膜が用いられている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は高い出力密度、容量密度を持つ反面、電解液に有機溶媒を用いているために短絡や過充電などの異常事態に伴う発熱によって電解液が分解し、最悪の場合には発火に至ることがある。このような事態を防ぐため、リチウムイオン二次電池にはいくつかの安全機能が組み込まれており、その中の一つに、セパレータのシャットダウン機能がある。シャットダウン機能とは電池が異常発熱を起こした際、セパレータの微多孔が熱溶融等により閉塞して電解液内のイオン伝導を抑制し、電気化学反応の進行をストップさせる機能のことである。一般にシャットダウン温度が低いほど安全性が高いとされ、ポリエチレンがセパレータの成分として用いられている理由の一つに適度なシャットダウン温度を持つという点が挙げられる。
【0004】
しかし、高いエネルギーを有する電池においては、シャットダウンにより電気化学反応の進行をストップさせても電池内の温度が上昇し続け、その結果、セパレータが熱収縮して破膜し、両極が短絡(ショート)するという問題がある。
【0005】
安全性の高い電池を製造することを目的として、熱可塑性樹脂を主成分とする第一の多孔層に、耐熱層を積層してセパレータを形成する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、電池の高容量化が進んだ高容量電池は、異常発熱時の発熱量が大きく、より高温環境となり易い。本公報に記載されたセパレータは、耐熱層を有しない通常のセパレータに比して安全性が向上すると考えられるものの、セパレータの熱収縮を高温環境下においても抑制し、セパレータの破膜によって両極が短絡(ショート)するおそれを低減する観点からは、なお改良の余地を有するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3756815号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、耐熱収縮性に優れたセパレータが得られるリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層用水性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のアクリル重合体、及び水性媒体を含有する水性樹脂組成物を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、炭素原子数4以上のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(a1)と、N-メチロール(メタ)アクリルアミド及びカルボキシル基を有する不飽和単量体からなる群より選ばれる1以上の単量体(a2)とを必須原料とするアクリル重合体(A)と、水性媒体(B)とを含有するリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層用水性樹脂組成物であって、前記アクリル重合体(A)の単量体原料中の前記アルキル(メタ)アクリレート(a1)が50~95質量%であり、前記単量体(a2)が1~5質量%であり、前記アクリル重合体(A)の主反応における重合開始剤が、単量体原料100質量部に対し、0.05~0.25質量部であることを特徴とするリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層用水性樹脂組成物に関するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層用水性樹脂組成物は、耐熱収縮性に優れるセパレータが得られることから、リチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層のバインダーに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層用水性樹脂組成物は、炭素原子数4以上のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(a1)と、N-メチロール(メタ)アクリルアミド及びカルボキシル基を有する不飽和単量体からなる群より選ばれる1以上の単量体(a2)とを必須原料とするアクリル重合体(A)と、水性媒体(B)とを含有するリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層用水性樹脂組成物であって、前記アクリル重合体(A)の単量体原料中の前記アルキル(メタ)アクリレート(a1)が50~95質量%であり、前記単量体(a2)が1~5質量%であり、前記アクリル重合体(A)の主反応における重合開始剤が、単量体原料100質量部に対し、0.05~0.25質量部であるものである。
【0013】
なお、本発明において、「(メタ)アクリルアミド」とは、アクリルアミドとメタクリルアミドの一方又は両方をいい、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの一方又は両方をいい、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸の一方又は両方をいい、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルとメタクリロイルの一方又は両方をいう。
【0014】
前記ラジカル重合体(A)は、炭素原子数4以上のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(a1)と、N-メチロール(メタ)アクリルアミド及びカルボキシル基を有する不飽和単量体からなる群より選ばれる1以上の単量体(a2)とを必須原料とするものである。
【0015】
前記アルキル(メタ)アクリレート(a1)は、炭素原子数4以上のアルキル基を有する単量体であるが、例えば、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、得られるセパレータの耐熱収縮性の観点から、炭素原子数4~8のアルキル基を有するものが好ましい。なお、これらのアクリル単量体(a1)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0016】
前記アクリル重合体(A)の単量体原料中の前記アルキル(メタ)アクリレート(a1)は、50~95質量%であるが、耐熱収縮性がより向上することから、55~95質量%が好ましい。
【0017】
前記単量体(a2)としては、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、カルボキシル基を有する不飽和単量体が挙げられる。なお、これらの単量体(a2)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0018】
前記カルボキシル基を有する不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸;イタコン酸(無水物)、マレイン酸(無水物)、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸が挙げられる。これらの中でも、不飽和モノカルボン酸が好ましい。 前記アクリル重合体(A)の単量体原料中の前記単量体(a2)は、1~5質量%であるが、耐熱収縮性がより向上することから、1~3質量%が好ましい。
【0019】
前記アクリル重合体(A)は、前記アルキル(メタ)アクリレート(a1)、及び 前記単量体(a2)を必須原料とするが、これら以外のその他の単量体を単量体原料として使用してもよい。
【0020】
前記その他の単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート等の炭素原子数1~3のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシ-n-ブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-n-ブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシ-n-ブチル(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシエチルフタレート、末端に水酸基を有するラクトン変性(メタ)アクリレート等の水酸基を有する単量体;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のアミノ基を有する(メタ)アクリレート;N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド等のN-ヒドロキシメチルアミド基を有する単量体;N-ブトキシメチルアクリルアミド等のN-アルコキシメチルアミド基を有する単量体;グリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基を有する(メタ)アクリレート;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等のアルコキシシリル基を有する単量体;ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリブチレングリコール(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;スチレン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、クロロメチルスチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリロニトリル等のビニル単量体;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。なお、これらの単量体は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0021】
前記アクリル重合体(A)の製造方法としては、各種の方法が挙げられるが、簡便に前記アクリル重合体(A)を得られることから、乳化重合法が好ましい。
【0022】
乳化重合法により、前記アクリル重合体(A)を得る方法としては、例えば、前記アクリル重合体(A)の原料となる単量体を、水性媒体中で、乳化剤及び重合開始剤存在下、50~100℃の温度でラジカル重合する方法が挙げられる。
【0023】
前記乳化剤としては、例えば、高級アルコールの硫酸エステル及びその塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの硫酸ハーフエステル塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸塩等の陰イオン性乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジフェニルエーテル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体、アセチレンジオール系等の非イオン性乳化剤;アルキルアンモニウム塩等の陽イオン性乳化剤;アルキル(アミド)ベタイン、アルキルジメチルアミンオキシド等の両イオン性乳化剤などが挙げられる。なお、これらの乳化剤は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。また、これらの乳化剤は、重合体の原料となる単量体の合計に対して、0.5~5.0質量%の範囲内で使用することが好ましい。
【0024】
前記重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、アゾビスシアノ吉草酸等のアゾ化合物;tert-ブチルパーオキシピバレート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物;過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物などが挙げられる。なお、これらの重合体開始剤は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0025】
前記アクリル重合体(A)の主反応における前記重合開始剤は、耐熱収縮性が向上することから、単量体原料100質量部に対し、0.05~0.25質量部である。なお、本発明におけるアクリル重合体(A)の主反応とは、単量体原料と重合開始剤とを滴下等により反応系中に添加して反応を行う工程を指す。反応系中への単量体原料添加終了後に、追加の重合開始剤を添加することもできるが、この追加の重合開始剤は、前記アクリル重合体(A)の主反応における重合開始剤からは除くものとする。
【0026】
前記水性媒体(B)としては、水、水と混和する有機溶剤、及び、これらの混合物が挙げられる。水と混和する有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール及びイソプロパノール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリアルキレングリコール;ポリアルキレングリコールのアルキルエーテル;N-メチル-2-ピロリドン等のラクタム等が挙げられる。本発明では、水のみを用いても良く、また水及び水と混和する有機溶剤との混合物を用いても良く、水と混和する有機溶剤のみを用いても良い。安全性や環境に対する負荷の点から、水のみ、または、水及び水と混和する有機溶剤との混合物が好ましく、水のみを使用することが特に好ましい。
【0027】
前記水性媒体(B)は、前記アクリル重合体(A)を乳化重合法等により製造する際に使用される水性媒体をそのまま使用することが、簡便であり好ましい。
【0028】
また、必要に応じて脱溶剤工程を経ることにより、本発明の樹脂組成物中の有機溶剤量を低減することができる。
【0029】
前記方法で得られた本発明の水性樹脂組成物は、塗工作業性がより向上することから、水性樹脂組成物の全量に対して前記アクリル重合体(A)を5~60質量%含有するものが好ましく、30~55質量%含有するものがより好ましい。
【0030】
また、本発明の水性樹脂組成物は、塗工作業性がより向上することから、水性樹脂組成物の全量に対して前記水性媒体(B)を40~95質量%含有するものが好ましく、45~70質量%含有するものがより好ましい。
【0031】
本発明の水性樹脂組成物は、必要に応じて、硬化剤、硬化触媒、潤滑剤、充填剤、チキソ付与剤、粘着付与剤、ワックス、熱安定剤、耐光安定剤、蛍光増白剤、発泡剤等の添加剤、pH調整剤、レベリング剤、ゲル化防止剤、分散安定剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、耐熱性付与剤、無機充填剤、有機充填剤、可塑剤、補強剤、触媒、抗菌剤、防カビ剤、防錆剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、顔料、染料、導電性付与剤、帯電防止剤、透湿性向上剤、撥水剤、撥油剤、中空発泡体、結晶水含有化合物、難燃剤、吸水剤、吸湿剤、消臭剤、整泡剤、消泡剤、防黴剤、防腐剤、防藻剤、顔料分散剤、ブロッキング防止剤、加水分解防止剤、顔料を併用することができる。
【0032】
本発明の水性樹脂組成物は、耐熱収縮性に優れるセパレータが得られることから、リチウムイオン二次電池耐熱層のバインダーとして好適に用いることができる。
【0033】
本発明のリチウムイオン二次電池セパレータ耐熱層用スラリーは、本発明の水性樹脂組成物を含有するものであるが、さらに、非導電性粒子、及び水溶性重合体を含有することが好ましい。
【0034】
耐熱層用スラリーにおいて、前記非導電性粒子100質量部に対して、前記アクリル重合体(A)を0.1~100質量部、前記水溶性重合体を0.1~100質量部含有することが好ましい。
【0035】
前記非導電性粒子としては、例えば、無機粒子や有機粒子を使用することができるが、無機粒子が好ましい。
【0036】
前記無機粒子としては、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化チタン、BaTiO、ZrO、アルミナ-シリ力複合酸化物等の酸化物粒子、窒化アルミニウム、窒化硼素等の窒化物粒子、シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶粒子、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性イオン結晶粒子、タルク、モンモリロナイトなどの粘土微粒子などを挙げられるが、これらの中でも、酸化アルミニウム(アルミナ)が好ましい。なお、これらの無機粒子は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0037】
また、前記有機粒子としては、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリジビニルベンゼン、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体架橋物、そして、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン-ホルムアルデヒド縮合物などの各種架橋高分子粒子や、ポリスルフォン、ポリアクリロニトリル、ポリアラミド、ポリアセタール、熱可塑性ポリイミドなどの耐熱性高分子粒子などを挙げることができる。なお、これらの有機粒子は単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0038】
前記水溶性重合体としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系ポリマー及びこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;ポリ(メタ)アクリル酸及びこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;ポリビニルアルコール、アクリル酸又はアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸又はマレイン酸若しくはフマル酸とビニルアルコールの共重合体等のポリビニルアルコール化合物;ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、変性ポリアクリル酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプンなどが挙げられる。なお、これらの水溶性重合体は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0039】
前記粒子状重合体としては、例えば、架橋ポリ(メタ)アクリル酸粒子、架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステル粒子、架橋ポリスチレン粒子、(メタ)アクリル酸エステルとスチレンとの共重合架橋樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、ナイロン粒子、ポリイミド粒子、ポリアミドイミド粒子、フェノール樹脂粒子、ポリテトラフルオロエチレン粒子、フッ素樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子などが挙げられる。なお、これらの粒子状重合体は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0040】
本発明における耐熱層は、前記耐熱層用スラリーをセパレータ上に塗工することにより形成することができる。前記耐熱層用スラリーを基材上に塗布する方法としては、例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法等を用いることができる。この際、耐熱層用スラリーを基材の片面だけに塗布してもよく、両面に塗布してもよい。
【0041】
基材上の耐熱層用スラリー組成物を乾燥する方法としては、例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥法、真空乾燥法、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。このように基材上の耐熱層用スラリー組成物を乾燥することで、基材上に耐熱層を形成した本発明のセパレータを得ることができる。
【実施例0042】
以下に本発明を具体的な実施例を挙げてより詳細に説明する。
【0043】
(実施例1:水性樹脂組成物(1)の製造及び評価)
攪拌機、温度計および冷却器、窒素ブローを取り付けた1.0Lの反応容器中に、イオン交換水50.0質量部を仕込み80℃まで加熱したのち、これに、モノマープレミックス(アクリル酸1.0質量部、N-メチロールアクリルアミド1.5質量部、n-ブチルアクリレート90.0質量部、アクリロニトリル7.5質量部の混合物を、アニオン乳化剤(第一工業製薬製「ハイテノールLA-12」)1.5質量部をイオン交換水35.5質量部に溶解した乳化剤水溶液にて乳化したもの)と、2質量%過硫酸ナトリウム水溶液10質量部とを3時間滴下し、反応を行った。反応終了後同温度にて2時間ホールド後、冷却し、イオン交換水及び12.5%アンモニア水溶液を用い不揮発分45.3質量%、pH8.1に調整を行い、水性樹脂組成物(1)を得た。この水性樹脂組成物の25℃における粘度は18mPa・sであった。
【0044】
(実施例2:水性樹脂組成物(2)の製造及び評価)
攪拌機、温度計および冷却器、窒素ブローを取り付けた1.0Lの反応容器中に、イオン交換水50.0質量部を仕込み80℃まで加熱したのち、これに、モノマープレミックス(アクリル酸1.0質量部、N-メチロールアクリルアミド1.5質量部、n-ブチルアクリレート60.0質量部、アクリロニトリル37.5質量部の混合物を、アニオン乳化剤(第一工業製薬製「ハイテノールN-08」)1.5質量部をイオン交換水35.5質量部に溶解した乳化剤水溶液にて乳化したもの)と、2質量%過硫酸ナトリウム水溶液10質量部とを3時間滴下し、反応を行った。反応終了後同温度にて2時間ホールド後、冷却し、イオン交換水及び12.5%アンモニア水溶液を用い不揮発分45.1質量%、pH8.2に調整を行い、水性樹脂組成物(2)を得た。この水性樹脂組成物の25℃における粘度は15mPa・sであった。
【0045】
(実施例3:水性樹脂組成物(3)の製造及び評価)
攪拌機、温度計および冷却器、窒素ブローを取り付けた1.0Lの反応容器中に、イオン交換水50.0質量部を仕込み80℃まで加熱したのち、これに、モノマープレミックス(アクリル酸2.0質量部、N-メチロールアクリルアミド2.5質量部、n-ブチルアクリレート89.0質量部、アクリロニトリル6.5質量部の混合物を、アニオン乳化剤(第一工業製薬製「ハイテノールN-08」)1.5質量部をイオン交換水35.5質量部に溶解した乳化剤水溶液にて乳化したもの)と、1質量%過硫酸ナトリウム水溶液10質量部とを3時間滴下し、反応を行った。反応終了後同温度にて2時間ホールド後、冷却し、イオン交換水及び12.5%アンモニア水溶液を用い不揮発分45.4質量%、pH8.0に調整を行い、水性樹脂組成物(3)を得た。この水性樹脂組成物の25℃における粘度は32mPa・sであった。
【0046】
(実施例4:水性樹脂組成物(4)の製造及び評価)
攪拌機、温度計および冷却器、窒素ブローを取り付けた1.0Lの反応容器中に、イオン交換水50.0質量部を仕込み80℃まで加熱したのち、これに、モノマープレミックス(アクリル酸1.0質量部、N-メチロールアクリルアミド1.5質量部、2-エチルヘキシルアクリレート90.0質量部、アクリロニトリル7.5質量部の混合物を、アニオン乳化剤(第一工業製薬製「ハイテノールLA-12」)1.5質量部をイオン交換水35.5質量部に溶解した乳化剤水溶液にて乳化したもの)と、1質量%過硫酸ナトリウム水溶液10質量部とを3時間滴下し、反応を行った。反応終了後同温度にて2時間ホールド後、冷却し、イオン交換水及び12.5%アンモニア水溶液を用い不揮発分45.2質量%、pH8.2に調整を行い、水性樹脂組成物(1)を得た。この水性樹脂組成物の25℃における粘度は26mPa・sであった。
(実施例5:水性樹脂組成物(5)の製造及び評価)
攪拌機、温度計および冷却器、窒素ブローを取り付けた1.0Lの反応容器中に、イオン交換水50.0質量部を仕込み80℃まで加熱したのち、これに、モノマープレミックス(メタクリル酸1.0質量部、N-メチロールアクリルアミド1.5質量部、n-ブチルアクリレート81.5質量部、アクリロニトリル5.0質量部、メチルメタクリレート8.0質量部、n-ブチルメタクリレート1.5質量部、2-エチルヘキシルアクリレート1.5質量部の混合物を、アニオン乳化剤(第一工業製薬製「ハイテノールN-08」)1.5質量部をイオン交換水35.5質量部に溶解した乳化剤水溶液にて乳化したもの)と、2質量%過硫酸ナトリウム水溶液10質量部とを3時間滴下し、反応を行った。反応終了後同温度にて2時間ホールド後、冷却し、イオン交換水及び12.5%アンモニア水溶液を用い不揮発分45.5質量%、pH8.3に調整を行い、水性樹脂組成物(5)を得た。この水性樹脂組成物の25℃における粘度は18mPa・sであった。
【0047】
(比較例1:水性樹脂組成物(R1)の製造及び評価)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、単量体組成物100.0質量部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.3質量部、イオン交換水150質量部及び重合開始剤として過硫酸カリウム0.3質量部を入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。単量体組成物は、n-ブチルアクリレート92.8質量部、アクリロニトリル2.0質量部、メタクリル酸2.0質量部、N-メチロールアクリルアミド1.6質量部、及びアクリルアミド1.6質量部からなるものとした。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、粒子状重合体を含む混合物を得た。上記粒子状重合体を含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH6に調整後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った後、30℃以下まで冷却し、粒子状の(メタ)アクリル重合体を含む水分散液として、水性樹脂組成物(R1)を得た。
【0048】
(比較例2:水性樹脂組成物(R2)の製造及び評価)
攪拌機、温度計および冷却器、窒素ブローを取り付けた1.0Lの反応容器中に、イオン交換水50.0質量部を仕込み80℃まで加熱したのち、これに、モノマープレミックス(アクリル酸1.0質量部、N-メチロールアクリルアミド1.5質量部、ラウリルメタクリレート90.0質量部、アクリロニトリル7.5質量部の混合物を、アニオン乳化剤(第一工業製薬製「ハイテノールLA-12」)1.5質量部をイオン交換水35.5質量部に溶解した乳化剤水溶液にて乳化したもの)と、3質量%過硫酸ナトリウム水溶液10質量部とを3時間滴下し、反応を行った。反応終了後同温度にて2時間ホールド後、冷却し、イオン交換水及び12.5%アンモニア水溶液を用い不揮発分45.3質量%、pH8.1に調整を行い、水性樹脂組成物(R2)を得た。この水性樹脂組成物の25℃における粘度は18mPa・sであった。
【0049】
[耐熱層スラリーの調製]
ホモディスパーで5,000回転にて撹拌しながら1質量%カルボキシメチルセルロース(ダイセル化学株式会社製「DN-800H」)100質量部にアルミナ(住友化学株式会社製「AKP3000」)100質量部を徐々に加え、分散を行った。これらが均一混合された後、上記で得た水性樹脂組成物12.5質量部、イオン交換水52.4質量部を添加し、均一に混合し、耐熱層スラリーを調製した。
【0050】
[耐熱層を有するセパレータの作製]
厚み12μmのポリエチレンセパレータ基材両面に上記で得た耐熱層スラリーをバーコーターにて乾燥後の膜厚が4μmとなるように塗工し、耐熱層を有するセパレータを得た。乾燥温度は80℃、乾燥時間は5分間とした。
【0051】
[耐熱収縮性の評価]
上記で作製した耐熱層を有するセパレータを5cm角に切り、厚紙に挟んだ状態で180℃温風乾燥機に1時間静置し、耐熱性試験を行った。試験後のセパレータの縦、横各々の長さを測定し、縦方向の収縮率(MD収縮率(%))及び横方向の収縮率(TD収縮率(%))を算出し、耐熱収縮性を評価した。
収縮率(%)=試験後のセパレータの長さ/試験前のセパレータの長さ×100(%)
【0052】
上記の実施例1~4及び比較例1の評価結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
本発明の水性樹脂組成物である実施例1~5のものから得られる耐熱層は、耐熱収縮性に優れることが確認された。
【0055】
一方、比較例1及び2は、アクリル重合体(a1)の単量体原料に対する重合開始剤の使用量が、本願発明の上限より多い例であるが、耐熱収縮性が不十分であることが確認された。