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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162713
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】ローターの製造方法およびローター
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/03 20060101AFI20241114BHJP
   B29C 45/02 20060101ALI20241114BHJP
   H02K 1/276 20220101ALI20241114BHJP
【FI】
H02K15/03 Z
B29C45/02
H02K1/276
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078537
(22)【出願日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】鵜木 君光
(72)【発明者】
【氏名】山下 勝志
(72)【発明者】
【氏名】藤田 一義
【テーマコード(参考)】
4F206
5H622
【Fターム(参考)】
4F206AA36
4F206AA39
4F206AB03
4F206AB13
4F206AD03
4F206AD18
4F206AD20
4F206AG13
4F206AH04
4F206AM32
4F206AR032
4F206AR064
4F206AR20
4F206JA02
4F206JB12
4F206JF01
4F206JF05
4F206JL02
5H622CA02
5H622CA07
5H622CB03
5H622CB05
5H622PP03
5H622PP20
(57)【要約】
【課題】ローターコアのフラックスバリア部に樹脂組成物からなる成形体を挿入する場合に、隙間の発生を低減することが可能なローターの製造方法、および、ローターコアのフラックスバリア部における隙間の発生が低減されたローターを提供する。
【解決手段】樹脂組成物をトランスファー成形することにより、ローターコア80のフラックスバリア部20に樹脂組成物からなる硬化物30を挿入する工程を備え、ローターコア80は板部材85を有しており、前記樹脂組成物は熱硬化性樹脂(A)を含む、ローター100の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物をトランスファー成形することにより、ローターコアのフラックスバリア部に前記樹脂組成物からなる硬化物を挿入する工程を備え、
前記ローターコアは板部材を有しており、
前記樹脂組成物は熱硬化性樹脂(A)を含む、ローターの製造方法。
【請求項2】
前記工程において、注入圧力が0.5MPa以上5.0MPa以下である、請求項1に記載のローターの製造方法。
【請求項3】
前記工程において、金型温度が100℃以上200℃以下である、請求項1または2に記載のローターの製造方法。
【請求項4】
前記ローターコアは、複数枚の前記板部材が積層した積層体を有する、請求項1または2に記載のローターの製造方法。
【請求項5】
前記板部材が電磁鋼鈑である、請求項1または2に記載のローターの製造方法。
【請求項6】
前記樹脂組成物からなる硬化物の25℃における飽和磁束密度が、前記板部材の25℃における飽和磁束密度よりも小さい、請求項1または2に記載のローターの製造方法。
【請求項7】
前記ローターコアは、磁石を挿入するための磁石挿入部をさらに有し、
前記フラックスバリア部は、前記磁石挿入部とは独立した孔である、請求項1または2に記載のローターの製造方法。
【請求項8】
前記ローターコアは、磁石を挿入するための磁石挿入部をさらに有し、
前記フラックスバリア部は、前記磁石挿入部と連続的な孔である、請求項1または2に記載のローターの製造方法。
【請求項9】
前記樹脂組成物は、軟磁性粒子(B)をさらに含む、請求項1または2に記載のローターの製造方法。
【請求項10】
前記樹脂組成物中の前記軟磁性粒子(B)の含有量は、前記樹脂組成物の全体を100体積%としたとき、50体積%以上90体積%以下である、請求項9に記載のローターの製造方法。
【請求項11】
前記熱硬化性樹脂(A)は、エポキシ樹脂を含む、請求項1または2に記載のローターの製造方法。
【請求項12】
フラックスバリア部を有するローターコアを備え、
前記ローターコアは板部材を有しており、
前記フラックスバリア部は樹脂組成物を硬化してなるトランスファー成形体を含み、
前記樹脂組成物は熱硬化性樹脂(A)を含む、ローター。
【請求項13】
前記ローターコアは、複数枚の前記板部材が積層した積層体を有する、請求項12に記載のローター。
【請求項14】
前記トランスファー成形体の25℃における飽和磁束密度が、前記板部材の25℃における飽和磁束密度よりも小さい、請求項12または13に記載のローター。
【請求項15】
前記樹脂組成物は、軟磁性粒子(B)をさらに含む、請求項12または13に記載のローター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローターの製造方法およびローターに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、航空機等において電動化が進んでおり、自動車、航空機等に搭載されるモーターには、高効率化、高性能化が求められている。
【0003】
近年、モーターを高効率化、高性能化させるために、様々な検討がされている。近年のモーターの技術としては、例えば、非特許文献1に記載の技術が挙げられる。
【0004】
非特許文献1では、回転子のフラックスバリアに磁性コンポジット材を挿入して構成されるモーターが記載されている。
非特許文献1には、94%の高効率範囲を4,000rpmから8,000rpmまで拡大可能であり、磁性コンポジット材を利用した可変磁束モーターが実現可能であったと記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】佐藤光秀,外6名,“磁性コンポジット材を用いた可変磁束モータの提案”電気学会研究会資料(回転機研究会),2021年11月15-16日,RM-21-106,p.23-28
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載の技術のように、ローターコアのフラックスバリア部に樹脂組成物からなる成形体を含むローターが知られている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、このようなローターの製造方法において、フラックスバリア部の孔に隙間なく成形体を挿入することが困難な場合があることが分かった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、ローターコアのフラックスバリア部に樹脂組成物からなる成形体を挿入する場合に、隙間の発生を低減することが可能なローターの製造方法、および、ローターコアのフラックスバリア部における隙間の発生が低減されたローターを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下に示すローターの製造方法およびローターが提供される。
【0009】
[1]
樹脂組成物をトランスファー成形することにより、ローターコアのフラックスバリア部に前記樹脂組成物からなる硬化物を挿入する工程を備え、
前記ローターコアは板部材を有しており、
前記樹脂組成物は熱硬化性樹脂(A)を含む、ローターの製造方法。
[2]
前記工程において、注入圧力が0.5MPa以上5.0MPa以下である、前記[1]に記載のローターの製造方法。
[3]
前記工程において、金型温度が100℃以上200℃以下である、前記[1]または[2]に記載のローターの製造方法。
[4]
前記ローターコアは、複数枚の前記板部材が積層した積層体を有する、前記[1]~[3]のいずれかに記載のローターの製造方法。
[5]
前記板部材が電磁鋼鈑である、前記[1]~[4]のいずれかに記載のローターの製造方法。
[6]
前記樹脂組成物からなる硬化物の25℃における飽和磁束密度が、前記板部材の25℃における飽和磁束密度よりも小さい、前記[1]~[5]のいずれかに記載のローターの製造方法。
[7]
前記ローターコアは、磁石を挿入するための磁石挿入部をさらに有し、
前記フラックスバリア部は、前記磁石挿入部とは独立した孔である、前記[1]~[6]のいずれかに記載のローターの製造方法。
[8]
前記ローターコアは、磁石を挿入するための磁石挿入部をさらに有し、
前記フラックスバリア部は、前記磁石挿入部と連続的な孔である、前記[1]~[6]のいずれかに記載のローターの製造方法。
[9]
前記樹脂組成物は、軟磁性粒子(B)をさらに含む、前記[1]~[8]のいずれかに記載のローターの製造方法。
[10]
前記樹脂組成物中の前記軟磁性粒子(B)の含有量は、前記樹脂組成物の全体を100体積%としたとき、50体積%以上90体積%以下である、前記[9]に記載のローターの製造方法。
[11]
前記熱硬化性樹脂(A)は、エポキシ樹脂を含む、前記[1]~[10]のいずれかに記載のローターの製造方法。
[12]
フラックスバリア部を有するローターコアを備え、
前記ローターコアは板部材を有しており、
前記フラックスバリア部は樹脂組成物を硬化してなるトランスファー成形体を含み、
前記樹脂組成物は熱硬化性樹脂(A)を含む、ローター。
[13]
前記ローターコアは、複数枚の前記板部材が積層した積層体を有する、前記[12]に記載のローター。
[14]
前記トランスファー成形体の25℃における飽和磁束密度が、前記板部材の25℃における飽和磁束密度よりも小さい、前記[12]または[13]に記載のローター。
[15]
前記樹脂組成物は、軟磁性粒子(B)をさらに含む、前記[12]~[14]のいずれかに記載のローター。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ローターコアのフラックスバリア部に樹脂組成物からなる成形体を挿入する場合に、隙間の発生を低減することが可能なローターの製造方法、および、ローターコアのフラックスバリア部における隙間の発生が低減されたローターを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態のローターの一例を模式的に示す平面図である。
図2】本実施形態のローターの一例を模式的に示す平面図である。
図3】本実施形態のローターの一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。また、数値範囲の「A~B」は特に断りがなければ、A以上B以下を表す。
【0013】
上述したように、非特許文献1に記載の技術のように、ローターコアのフラックスバリア部に樹脂組成物からなる成形体を含むローターが知られている。ここで、非特許文献1には、樹脂組成物からなる成形体として、磁性粉と樹脂とを混合、焼結することにより得られる磁性コンポジット材が記載されている。
【0014】
焼結体である成形体をローターコアのフラックスバリア部に挿入する方法としては、例えば、フラックスバリア部の孔の形状に合わせて切削加工した焼結体をフラックスバリア部に挿入する方法が考えられる。
本発明者らの検討によれば、焼結体を切削加工する方法では、フラックスバリア部の孔の形状が、丸みを帯びている形状等である場合に、焼結体をフラックスバリア部の孔の形状に合わせて加工することが困難な場合があることが分かった。焼結体をフラックスバリアの孔の形状に合わせて加工できない場合、フラックスバリアの孔に焼結体を隙間なく挿入することが困難となる。
【0015】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、ローターコアのフラックスバリア部に樹脂組成物からなる成形体を挿入する場合に、隙間の発生を低減することが可能なローターの製造方法、および、ローターコアのフラックスバリア部における隙間の発生が低減されたローターを提供するものである。
【0016】
[ローターの製造方法]
図1および図2は、本実施形態のローターの一例を模式的に示す平面図である。図3は、本実施形態のローターの一例を模式的に示す断面図である。なお、図は簡略図で、実際の寸法比率とは一致していない。
本実施形態のローター100の製造方法は、樹脂組成物をトランスファー成形することにより、ローターコア80のフラックスバリア部20に樹脂組成物からなる硬化物30を挿入する工程を備え、ローターコア80は板部材85を有しており、樹脂組成物は熱硬化性樹脂(A)を含む。
【0017】
樹脂組成物をトランスファー成形することにより、ローターコア80のフラックスバリア部20に樹脂組成物からなる硬化物30を挿入する工程について具体的に説明する。
【0018】
樹脂組成物をトランスファー成形する方法としては、例えば、公知のトランスファー成形装置を用いて、樹脂組成物をトランスファー成形する方法が挙げられる。具体的には、予熱した樹脂組成物をプランジャーで金型に注入し、そのまま保持して溶融物を硬化させる方法が挙げられる。
【0019】
本実施形態の樹脂組成物からなる硬化物30とは、上述のようなトランスファー成形装置を用いて、樹脂組成物の溶融物を硬化して得られるトランスファー成形体のことである。なお、樹脂組成物からなる硬化物30は、トランスファー成形体をさらに後硬化した成形体も含む概念とする。
トランスファー成形体を後硬化する条件は特に限定されないが、例えば、大気下、175℃で4時間加熱する条件が挙げられる。
【0020】
ローターコア80のフラックスバリア部20に樹脂組成物からなる硬化物30を挿入する方法としては、例えば、トランスファー成形装置を用いて、ローターコア80をトランスファー成形装置の金型として配置し、樹脂組成物の溶融物をフラックスバリア部20に直接挿入し、そのまま保持して溶融物を硬化させる方法;トランスファー成形装置を用いて、フラックスバリア部20の孔の形状に合わせた樹脂組成物からなる硬化物30を作成し、樹脂組成物からなる硬化物30をフラックスバリア部20に挿入する方法;が挙げられ、その中でも、製造プロセスをより簡略化する観点から、好ましくはトランスファー成形装置を用いて、ローターコア80をトランスファー成形装置の金型として配置し、樹脂組成物の溶融物をフラックスバリア部20に直接挿入し、そのまま保持して溶融物を硬化させる方法である。
【0021】
樹脂組成物をトランスファー成形するときの各種条件は特に限定されないが、以下に記載の条件が好ましい。
【0022】
樹脂組成物を予熱する温度は、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上であり、そして、好ましくは100℃以下、さらに好ましくは90℃以下である。
【0023】
金型温度は、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上、さらに好ましくは160℃以上、さらに好ましくは170℃以上であり、そして、得られるトランスファー成形体の収縮をより抑制する観点から、好ましくは200℃以下、より好ましくは190℃以下、さらに好ましくは180℃以下である。
なお、樹脂組成物を溶融する温度は金型温度と同じ温度とみなせる。
【0024】
注入圧力は、好ましくは0.5MPa以上、より好ましくは0.8MPa以上、より好ましくは1.0MPa以上であり、そして、好ましくは5.0MPa以下、より好ましくは4.5MPa以下、さらに好ましくは4.0MPa以下である。
注入圧力が上記上限値以下であると、ローターコア80が複数枚の板部材85が積層した積層体を有する場合に、板部材85同士の隙間に樹脂組成物の溶融物が流入することを抑制できる。
ここで、注入圧力は、金型に樹脂組成物の溶融物を注入する際の圧力を意味する。
【0025】
保圧時間は、好ましくは30秒以上、より好ましくは60秒以上、さらに好ましくは90秒以上であり、そして、好ましくは500秒以下、より好ましくは400秒以下、さらに好ましくは350秒以下である。
【0026】
樹脂組成物をトランスファー成形するときに用いる成形装置は特に限定されず、例えば、公知のトランスファー成形装置が挙げられ、その中でも、好ましくは低圧トランスファー成形装置である。低圧トランスファー成形装置の具体例としては、KTS-30(コータキ精機(株)製)が挙げられる。
【0027】
本実施形態のローターの製造方法で得られるローター100は、フラックスバリア部20を有するローターコア80を備え、フラックスバリア部20が樹脂組成物からなる硬化物30を含む。ローター100は、磁石(不図示)等をさらに備えていてもよい。
【0028】
[ローターコア]
本実施形態のローターの製造方法において使用するローターコア80について具体的に説明する。
【0029】
ローターコア80は、板部材85を有する。
ローターコア80は、好ましくは複数枚の板部材85が積層した積層体を有する。ここで、板部材85の枚数は特に限定されないが、例えば、2枚以上500枚以下であってもよいし、10枚以上300枚以下であってもよい。
板部材85が積層した積層体は、例えば、板部材85同士がカシメ接合により積層された積層体、板部材85同士が接着剤を介して接合されることにより積層された積層体等が挙げられる。
【0030】
板部材85は特に限定されず、例えば、電磁鋼鈑、パーメンジュール板、アモルファス金属板等を用いることができ、その中でも、好ましくは電磁鋼鈑である。
【0031】
ローターコア80は、フラックスバリア部20を有する。
ここで、フラックスバリア部20とは、磁気的な空隙とするための孔を意味する。フラックスバリア部20は、ローターコア80の面方向に対して垂直方向に形成された孔であり、貫通孔であってもよいし、貫通孔でなくてもよい。
ローターコア80は、少なくとも1つのフラックスバリア部20を有していればよく、複数のフラックスバリア部20を有していてもよい。
【0032】
フラックスバリア部20の平面視における形状は特に限定されず、例えば、矩形、円形等である。フラックスバリア部20の平面視における形状は、好ましくは、応力集中を抑制し、ローターの強度をより向上させる観点から、円形等の丸みを帯びた形状である。
【0033】
ローターコア80は、磁石(不図示)を挿入するための磁石挿入部50をさらに有していてもよい。磁石挿入部50は、ローターコア80の面方向に対して垂直方向に形成された孔であり、貫通孔であってもよいし、貫通孔でなくてもよい。
ローターコア80は、複数の磁石挿入部50を有していてもよい。
【0034】
ローターコア80が磁石挿入部50をさらに有する場合、フラックスバリア部20は、磁石挿入部50とは独立した孔であってよい。磁石挿入部50とは独立した孔とは、図1に図示したフラックスバリア部20のような孔を意味する。
【0035】
ローターコア80が磁石挿入部50をさらに有する場合、フラックスバリア部20は、磁石挿入部50と連続的な孔であってよい。磁石挿入部50と連続的な孔とは、図2に図示したフラックスバリア部20のような孔を意味する。
図2において、孔の中心部が磁石を挿入するための磁石挿入部50であり、孔の両端がフラックスバリア部20となる。
【0036】
[樹脂組成物]
本実施形態のローターの製造方法において使用する樹脂組成物について具体的に説明する。
本実施形態の樹脂組成物は熱硬化性樹脂(A)を含む。
【0037】
本実施形態の樹脂組成物の175℃におけるスパイラルフローは、好ましくは10cm以上、より好ましくは20cm以上、さらに好ましくは25cm以上、さらに好ましくは30cm以上、さらに好ましくは40cm以上であり、そして、好ましくは200cm以下、より好ましくは180cm以下、さらに好ましくは170cm以下、さらに好ましくは160cm以下である。
樹脂組成物の175℃におけるスパイラルフローが上記下限値以上であると、樹脂組成物の溶融物の流動性が良好となり、フラックスバリア部の形状に追従しやすくなる。
ここで、本明細書において、樹脂組成物の175℃におけるスパイラルフローとは、以下の測定方法により測定されるスパイラルフローを意味する。
(測定方法)
低圧トランスファー成形機を用いて、ANSI/ASTM D 3123-72に準じたスパイラルフロー測定用金型に、樹脂組成物を注入し、流動長(スパイラルフロー)を測定する。このとき、金型温度は175℃、注入圧力は6.9MPa、保圧時間は120秒の条件とする。
【0038】
本実施形態の樹脂組成物の175℃におけるゲルタイムは、好ましくは30秒以上、より好ましくは40秒以上、さらに好ましくは45秒以上、さらに好ましくは60秒以上、さらに好ましくは70秒以上であり、そして、好ましくは300秒以下、より好ましくは250秒以下、さらに好ましくは200秒以下、さらに好ましくは150秒以下、さらに好ましくは120秒以下である。
樹脂組成物の175℃におけるゲルタイムが上記下限値以上であると、樹脂組成物が硬化するまでの時間を確保できるため、成形性をより向上させるとともに、ハンドリング性、充填性をより向上できる。樹脂組成物の175℃におけるゲルタイムが上記上限値以下であると、樹脂組成物が硬化するまでの時間をより短縮できるため、生産時間をより短縮でき、生産性が向上する。
ここで、本明細書において、樹脂組成物の175℃におけるゲルタイムとは、以下の測定方法により測定されるゲルタイムを意味する。
(測定方法)
175℃に制御された熱板上に樹脂組成物を載せ、スパチュラで1回/秒のストロークで練る。樹脂組成物が熱により溶解してから硬化するまでの時間を測定し、ゲルタイムとする。
【0039】
本実施形態の樹脂組成物からなる硬化物のガラス転移温度は、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは120℃以上、さらに好ましくは130℃以上であり、そして上限値は特に限定されないが、例えば、250℃以下であってもよいし、200℃以下であってもよい。
樹脂組成物からなる硬化物のガラス転移温度が上記下限値以上であると、高温環境下での使用に適したローターを提供できる。
ここで、本明細書において、樹脂組成物からなる硬化物のガラス転移温度は、以下の測定方法により測定されるガラス転移温度を意味する。
(測定方法)
樹脂組成物を、低圧トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、保圧時間300秒で注入成形し、幅10mm、厚み1.5mm、長さ55mmの直方状の成形体を得る。次いで、得られた成形体を大気下、175℃、4時間の条件で後硬化し、ガラス転移温度測定用試験片を作製する。ガラス転移温度測定用試験片に対して、粘弾性測定装置を用いて、測定温度範囲25℃~300℃、昇温速度5℃/分の条件下でガラス転移温度を測定する。
【0040】
本実施形態の樹脂組成物からなる硬化物の25℃における曲げ強度は、ローターの機械強度をより向上させる観点から、好ましくは50MPa以上、より好ましくは70MPa以上、さらに好ましくは90MPa以上であり、そして、上限値は特に限定されないが、例えば、200MPa以下であってもよいし、170MPa以下であってもよいし、150MPa以下であってもよい。
本実施形態の樹脂組成物からなる硬化物の25℃における曲げ弾性率は、ローターの機械強度をより向上させる観点から、好ましくは20000MPa以上、より好ましくは25000MPa以上、さらに好ましくは27000MPa以上であり、そして、上限値は特に限定されないが、例えば、50000MPa以下であってもよいし、48000MPa以下であってもよい。
ここで、本明細書において、樹脂組成物からなる硬化物の25℃における曲げ強度および25℃における曲げ弾性率は、以下の測定方法により測定される値を意味する。
(測定方法)
樹脂組成物を、低圧トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、保圧時間300秒で注入成形し、幅10mm、厚み4mm、長さ80mmの直方状の成形体を得る。次いで、得られた成形体を大気下、175℃、4時間の条件で後硬化して、試験片を作製する。試験片に対して、JIS K 6911(2006)に準拠し、荷重速度:2mm/minの条件で、25℃における曲げ強度および25℃における曲げ弾性率を測定する。
【0041】
本実施形態の樹脂組成物からなる硬化物の25℃における飽和磁束密度は、板部材85の25℃における飽和磁束密度よりも小さいことが好ましい。
本実施形態の樹脂組成物からなる硬化物の25℃における飽和磁束密度は、好ましくは1.50T以下、より好ましくは1.40T以下、さらに好ましくは1.30T以下、さらに好ましくは1.20T以下、さらに好ましくは1.15T以下、さらに好ましくは1.10T以下、さらに好ましくは1.05T以下、さらに好ましくは1.00T以下であり、そして、下限値は特に限定されないが、例えば、0.20T以上であってもよいし、0.30T以上であってもよい。
ここで、本明細書において、樹脂組成物からなる硬化物の25℃における飽和磁束密度とは、以下の測定方法により測定される飽和磁束密度を意味する。
(測定方法)
樹脂組成物を、低圧トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、保圧時間300秒で注入成形し、直径16mmΦ、高さ32mmの円柱状の成形体を得る。次いで、得られた成形体を大気下、175℃、4時間の条件で後硬化して、飽和磁束密度測定用試験片を作製する。飽和磁束密度測定用試験片に対して、室温(25℃)にて、直流交流磁化特性試験装置を用いて、外部磁場100kA/mを印加する。これにより25℃における飽和磁束密度を測定する。
【0042】
本実施形態の樹脂組成物は、好ましくは25℃においてタブレット状である。樹脂組成物がタブレット状であると、樹脂組成物の保管性および取り扱い性がより向上するとともに、トランスファー成形に適用しやすくなる。
【0043】
以下、本実施形態の樹脂組成物の各構成成分について説明する。
【0044】
<熱硬化性樹脂(A)>
本実施形態の樹脂組成物は熱硬化性樹脂(A)を含む。
熱硬化性樹脂(A)は特に限定されず、例えば、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、(メタ)アクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、およびマレイミド樹脂等からなる群から選択される少なくとも一種を含んでいてよく、好ましくはエポキシ樹脂を含む。
【0045】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂、ビスフェノールP型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂、ザイロック型エポキシ樹脂等からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0046】
エポキシ樹脂は、好ましくはビスフェノールA型エポキシ樹脂、トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ザイロック型エポキシ樹脂、および、ビフェニル型エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも一種を含み、より好ましくはトリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、および、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも一種を含み、さらに好ましくはビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂を含む。
【0047】
エポキシ樹脂は、好ましくは25℃で固体である。エポキシ樹脂が25℃で固体であると、25℃においてタブレット状である樹脂組成物を作製しやすくなる。
【0048】
樹脂組成物中の熱硬化性樹脂(A)の含有量は、樹脂組成物の全体を100質量%としたとき、好ましくは0.50質量%以上、より好ましくは1.00質量%以上、さらに好ましくは1.50質量%以上、さらに好ましくは1.80質量%以上、さらに好ましくは2.00質量%以上、さらに好ましくは2.20質量%以上であり、そして、好ましくは10.00質量%以下、より好ましくは8.00質量%以下、さらに好ましくは6.00質量%以下、さらに好ましくは4.00質量%以下である。
【0049】
本実施形態の樹脂組成物は、熱硬化性樹脂(A)を1種のみ含んでいてもよいし、2種類以上含んでいてもよい。また、同種の熱硬化性樹脂(A)であっても異なる分子量のものを併用してもよい。
【0050】
<軟磁性粒子(B)>
本実施形態の樹脂組成物は、好ましくは軟磁性粒子(B)をさらに含む。
軟磁性とは、保磁力が小さい強磁性のことを指し、一般的には、保磁力が800A/m以下である強磁性のことを軟磁性という。
軟磁性粒子(B)は、鉄原子を主成分とする(化学組成において鉄原子の含有質量が一番多い)鉄基粒子であり、より具体的には化学組成において鉄原子の含有質量が一番多い鉄合金である。
【0051】
軟磁性粒子(B)は、構成元素として、鉄以外の元素を含んでいてもよい。
軟磁性粒子(B)は、鉄以外の元素として、例えば、B、C、N、O、Al、Si、P、S、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、In、およびSn等からなる群から選択される少なくとも一種の元素を含み、好ましくはSi、Ni、およびCoからなる群から選択される少なくとも一種の元素を含み、さらに好ましくはSi元素を含む。
【0052】
軟磁性粒子(B)は、好ましくは結晶粒子およびアモルファス粒子からなる群から選択される少なくとも一種を含む。
軟磁性粒子(B)は、より好ましくは結晶粒子を含む。
また、軟磁性粒子(B)は、より好ましくはアモルファス粒子を含む。
【0053】
軟磁性粒子(B)は、好ましくはガス水アトマイズ粉末を含む。ガス水アトマイズ粉末は、圧力流体として水とガスとの混合物を用いたアトマイズ法により調製することができる。ガス水アトマイズ粉末は非球形状のアトマイズ粉末であり、球形状のアトマイズ粉や不規則な形状の水アトマイズ粉とは異なるものである。
ガス水アトマイズ粉末は、ガスアトマイズ粉の高球形度の特徴と、水アトマイズ粉の圧粉体高強度の特徴を有しており、軟磁性粒子(B)としてガス水アトマイズ粉末を含む樹脂組成物は、流動性および成形性がより向上し、さらに機械強度がより向上した硬化物(トランスファー成形体)を得ることができる。
【0054】
軟磁性粒子(B)の粒子径は特に限定されないが、メジアン径が20μm以上300μm以下である粒子径が大きな軟磁性粒子と、メジアン径が20μm未満の粒子径が小さな軟磁性粒子とを併用することが好ましい。
【0055】
メジアン径は、例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置により得ることができる。具体的には、(株)島津製作所製のSALD-7500nanoにより、軟磁性粒子(B)を湿式で測定し、体積基準で測定したときの粒子径分布曲線を得て、この分布曲線を解析することでメジアン径を求めることができる。
【0056】
樹脂組成物中の軟磁性粒子(B)の含有量は、樹脂組成物の全体を100体積%としたとき、好ましくは50体積%以上、より好ましくは60体積%以上、さらに好ましくは65体積%以上であり、そして、好ましくは90体積%以下、より好ましくは85体積%以下、さらに好ましくは80体積%以下、さらに好ましくは75体積%以下である。
樹脂組成物中の軟磁性粒子(B)の含有量[体積%]が上記範囲内であることにより、樹脂組成物からなる硬化物の25℃における飽和磁束密度をより適切な範囲に調整することができる。
【0057】
樹脂組成物中の軟磁性粒子(B)の含有量は、樹脂組成物の全体を100質量%としたとき、好ましくは85.00質量%以上、より好ましくは88.00質量%以上、さらに好ましくは90.00質量%以上であり、そして、好ましくは98.00質量%以下、より好ましくは97.00質量%以下、さらに好ましくは95.00質量%以下、さらに好ましくは94.00質量%以下である。
樹脂組成物中の軟磁性粒子(B)の含有量[質量%]が上記範囲内であることにより、樹脂組成物からなる硬化物の25℃における飽和磁束密度をより適切な範囲に調整することができる。
【0058】
本実施形態の樹脂組成物は、軟磁性粒子(B)を1種のみ含んでいてもよいし、2種類以上含んでいてもよい。
【0059】
<その他の成分>
本実施形態の樹脂組成物はその他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0060】
本実施形態の樹脂組成物は、樹脂組成物の溶融粘度を適切に調整し、樹脂組成物の溶融物の流動性をより向上させる観点から、好ましくはシリカフィラー(C)をさらに含む。
【0061】
本実施形態の樹脂組成物は、好ましくはフェノール系硬化剤(D)をさらに含む。
フェノール系硬化剤(D)は、樹脂組成物からなる硬化物の耐久性をより向上させる観点から、好ましくはノボラック骨格およびビフェニル骨格からなる群より選ばれるいずれかの骨格を含む。
【0062】
本実施形態の樹脂組成物は、好ましくは硬化触媒(E)をさらに含む。
硬化触媒(E)は、熱硬化性樹脂(A)の硬化反応を早める成分を意味し、硬化促進剤などと呼ばれる場合もある。
硬化触媒(E)は、樹脂組成物のゲルタイムを適切に調整し、樹脂組成物からなる硬化物の機械強度をより向上させる観点から、好ましくはリン原子含有化合物を含み、より好ましくはテトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、および、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物からなる群から選択される少なくとも一種を含む。
潜在性を有する硬化触媒を用いることにより、成形性により優れた樹脂組成物を得ることができる。
【0063】
本実施形態の樹脂組成物は、カップリング剤、離型剤、密着助剤、低応力剤、分散剤、酸化防止剤、着色料、耐食剤、染料、顔料、難燃剤等の成分をさらに含んでいてもよい。
【0064】
本実施形態の樹脂組成物中のシリカフィラー(C)、フェノール系硬化剤(D)、硬化触媒(E)およびその他の成分の含有量は、それぞれ適宜量である。
【0065】
本実施形態の樹脂組成物は、工業的には、例えば、まず(1)ミキサーを用いて各成分を混合し、(2)その後、ロールを用いて、90℃前後で5分以上、好ましくは10分程度混練することにより混練物を得、(3)そして得られた混練物を冷却し、(4)さらにその後、粉砕することにより製造することができる。以上により、粉末状の樹脂組成物を得ることができる。
【0066】
25℃においてタブレット状の樹脂組成物は、粉末状の樹脂組成物を打錠することで得られる。
【0067】
[ローター]
本実施形態のローター100は、フラックスバリア部20を有するローターコア80を備え、ローターコア80は板部材を有しており、フラックスバリア部20は樹脂組成物を硬化してなるトランスファー成形体30を含み、樹脂組成物は熱硬化性樹脂(A)を含む。
【0068】
トランスファー成形体30とは、トランスファー成形装置を用いて、樹脂組成物の溶融物を硬化して得られる成形体を意味する。なお、トランスファー成形体30は、前述の成形体をさらに後硬化した成形体も含む概念とする。
【0069】
トランスファー成形体30の25℃における飽和磁束密度は、板部材の25℃における飽和磁束密度よりも小さいことが好ましい。
トランスファー成形体30の25℃における飽和磁束密度は、好ましくは1.50T以下、より好ましくは1.40T以下、さらに好ましくは1.30T以下、さらに好ましくは1.20T以下、さらに好ましくは1.15T以下、さらに好ましくは1.10T以下、さらに好ましくは1.05T以下、さらに好ましくは1.00T以下であり、そして、下限値は特に限定されないが、例えば、0.20T以上であってもよいし、0.30T以上であってもよい。
ここで、本明細書において、トランスファー成形体30の25℃における飽和磁束密度とは、室温(25℃)にて、直流交流磁化特性試験装置を用いて、外部磁場100kA/mを印加することにより測定される飽和磁束密度を意味する。
【0070】
本実施形態のローター100を構成するローターコア80および樹脂組成物の態様は、前述した本実施形態のローターの製造方法において使用するローターコア80および樹脂組成物の態様とそれぞれ同様である。また、トランスファー成形体の好ましい態様は、樹脂組成物からなる硬化物の好ましい態様と同様である。
【0071】
本実施形態のローター100は、磁石(不図示)等をさらに備えていてもよい。
【0072】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、前記以外の様々な構成を採用することもできる。
また、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【実施例0073】
以下、本実施形態を実施例に基づき詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0074】
[原料]
まず、実施例で使用した原料について説明する。表1に記載の原料の詳細を以下に示す。
【0075】
<軟磁性粒子(B)>
・磁性粉1:アモルファス磁性粉(エプソンアトミックス(株)製、製品名:KUAMET6B2 150C01、メジアン径:40μm、Feの含有量:87.6質量%、Siの含有量:6.7質量%)
・磁性粉2:結晶磁性粉(大同特殊鋼(株)製、製品名:DAPMS7-100、ガス水アトマイズ粉末、メジアン径:60μm、Feの含有量:93.4質量%、Siの含有量:6.5質量%)
・磁性粉3:結晶磁性粉(大同特殊鋼(株)製、製品名:DAPMS3-100、ガス水アトマイズ粉末、メジアン径:70μm、Feの含有量:96.7質量%、Siの含有量:3.0質量%)
・磁性粉4:結晶磁性粉(エプソンアトミックス(株)製、製品名:Fe-3.5Si-4.5Cr_PF-20F、メジアン径:10μm、Feの含有量:91.9質量%、Siの含有量:3.5質量%)
・磁性粉5:アモルファス磁性粉(エプソンアトミックス(株)製、製品名:AW2-08_PF-3F、メジアン径:3μm、Feの含有量:87.4質量%、Siの含有量:6.8質量%)
・磁性粉6:結晶磁性粉(新東工業(株)製、製品名:FSC-2、メジアン径:2μm、Feの含有量:91.1質量%、Siの含有量:3.5質量%)
【0076】
<カップリング剤>
・カップリング剤1:フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製、製品名:CF-4083)
【0077】
<熱硬化性樹脂(A)>
・エポキシ樹脂1:ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製、製品名:NC-3000L、25℃で固体)
【0078】
<フェノール系硬化剤(D)>
・フェノール樹脂1:ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型樹脂(明和化成(株)製、製品名:MEH-7851SS)
【0079】
<離型剤>
・ワックス1:合成ワックス(1-アルケンと無水マレイン酸の共重合物)
・ワックス2:ステアリン酸(日油(株)製、製品名:粉末ステアリン酸さくら微粉)
・ワックス3:カルナバワックス(東亜化成(株)製、製品名:TOWAX-132)
【0080】
<密着助剤>
・密着助剤1:ベンゾトリアゾール系化合物を含む複合物((株)ADEKA製、製品名:アデカスタブCDA-1M)
【0081】
<低応力剤>
・シリコーンオイル1:シリコーンオイル(東レ・ダウコーニング社製、製品名:FZ-3730)
【0082】
<硬化触媒(E)>
・硬化触媒1:テトラフェニルホスホニウム・ビス(ナフタレン-2,3-ジオキシ)フェニルシリケート(住友ベークライト(株)製)
・硬化触媒2:テトラフェニルホスホニウム・4,4′-スルフォニルジフェノラート(住友ベークライト(株)製)
【0083】
<シリカフィラー(C)>
・シリカフィラー1:溶融シリカ(メジアン径0.5μm)
【0084】
[実施例1~4]
<樹脂組成物の作成>
表1に記載の各成分を、表1に記載の比率[質量部]で準備し、まず軟磁性粒子を混合しながら、そこにその他の成分を添加し均一に混合して混合物をそれぞれ得た。
次いで、得られた混合物を、100℃、10分の条件で混練した。混練終了後、得られた混練物を室温まで冷却して固形状とし、そして粉砕、打錠成形した。以上により、実施例1~4におけるタブレット状の樹脂組成物をそれぞれ得た。
【0085】
<樹脂組成物を硬化してなるトランスファー成形体1の作成>
実施例1~4において得られたタブレット状の樹脂組成物を低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製、製品名:KTS-30)を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、保圧時間300秒で注入成形し、直径16mmΦ、高さ32mmの円柱状のトランスファー成形体をそれぞれ得た。次いで、得られた成形体を大気下、175℃、4時間の条件で後硬化し、円柱状の樹脂組成物を硬化してなるトランスファー成形体1をそれぞれ得た。
【0086】
<樹脂組成物を硬化してなるトランスファー成形体2の作成>
実施例1~4において得られたタブレット状の樹脂組成物を低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製、製品名:KTS-30)を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、保圧時間300秒で注入成形し、幅10mm、厚み1.5mm、長さ55mmの直方状のトランスファー成形体をそれぞれ得た。次いで、得られた成形体を大気下、175℃、4時間の条件で後硬化し、直方状の樹脂組成物を硬化してなるトランスファー成形体2をそれぞれ得た。
【0087】
<樹脂組成物を硬化してなるトランスファー成形体3の作成>
実施例1~4において得られたタブレット状の樹脂組成物を低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製、製品名:KTS-30)を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、保圧時間300秒の条件で注入成形し、幅10mm、厚み4mm、長さ80mmの直方状のトランスファー成形体をそれぞれ得た。次いで、得られた成形体を大気下、175℃、4時間の条件で後硬化し、直方状の樹脂組成物を硬化してなるトランスファー成形体3をそれぞれ得た。
【0088】
[測定]
<樹脂組成物の全体に対する軟磁性粒子(B)の含有量[体積%]>
得られたペレット状の樹脂組成物の体積と、樹脂組成物中の軟磁性粒子(B)の密度および含有量から計算した軟磁性粒子(B)の体積の値を用いて、樹脂組成物の全体に対する軟磁性粒子(B)の含有量[体積%]を算出した。
【0089】
<樹脂組成物の175℃におけるスパイラルフロー>
低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製、製品名:KTS-30)を用いて、ANSI/ASTM D 3123-72に準じたスパイラルフロー測定用金型に、樹脂組成物を注入し、流動長(スパイラルフロー)を測定した。このとき、金型温度は175℃、注入圧力は6.9MPa、保圧時間は120秒の条件とした。
スパイラルフローは、流動性のパラメータであり、数値が大きい方が、流動性が良好である。単位はcmである。
【0090】
<樹脂組成物の175℃におけるゲルタイム>
175℃に制御された熱板上に樹脂組成物を載せ、スパチュラで1回/秒のストロークで練った。樹脂組成物が熱により溶解してから硬化するまでの時間を測定し、ゲルタイムとした。ゲルタイムは、数値が小さい方が、硬化が速いことを示す。
【0091】
<樹脂組成物からなる硬化物のガラス転移温度>
トランスファー成形体2(すなわち、幅10mm、厚み1.5mm、長さ55mmである直方状の樹脂組成物を硬化してなるトランスファー成形体)に対して、粘弾性測定装置((株)日立ハイテク製、製品名:DMA7100)を用いて、測定温度範囲25℃~300℃、昇温速度5℃/分の条件下でガラス転移温度を測定した。
【0092】
<樹脂組成物からなる硬化物の25℃における曲げ強度および25℃における曲げ弾性率>
トランスファー成形体3(すなわち、幅10mm、厚み4mm、長さ80mmである直方状の樹脂組成物を硬化してなるトランスファー成形体)に対して、JIS K 6911(2006)に準拠し、荷重速度:2mm/minの条件で、25℃における曲げ強度および25℃における曲げ弾性率を測定した。
【0093】
<樹脂組成物からなる硬化物の25℃における飽和磁束密度>
トランスファー成形体1(すなわち、直径16mmΦ、高さ32mmの円柱状の樹脂組成物を硬化してなるトランスファー成形体)に対して、室温(25℃)にて、直流交流磁化特性試験装置(メトロン技研(株)製、製品名:MTR-3368)を用いて、外部磁場100kA/mを印加した。これにより25℃における飽和磁束密度を測定した。
【0094】
実施例1~4の樹脂組成物およびトランスファー成形体に対する上記測定結果を表1にそれぞれ示す。
【0095】
【表1】
【0096】
実施例1~4において、形状の異なるトランスファー成形体1~3がそれぞれ得られた。特にトランスファー成形体1として、丸みを帯びた円柱状の成形体がそれぞれ得られた。すなわち、樹脂組成物をトランスファー成形することにより、フラックスバリア部の孔の形状に合わせて加工することが可能である。そのため、本実施形態のローターの製造方法およびローターによれば、ローターコアのフラックスバリア部に樹脂組成物からなる成形体を挿入する場合に、隙間の発生を低減することが可能となることが理解できる。
【符号の説明】
【0097】
20 フラックスバリア部
30 樹脂組成物からなる硬化物(トランスファー成形体)
50 磁石挿入部
80 ローターコア
85 板部材
100 ローター
図1
図2
図3