(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162718
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】ワッシャ、ナット及び締結構造
(51)【国際特許分類】
F16B 39/282 20060101AFI20241114BHJP
F16B 39/24 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
F16B39/282 A
F16B39/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078548
(22)【出願日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】593047965
【氏名又は名称】株式会社 日本プララド
(74)【代理人】
【識別番号】100166899
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥巣 慶太
(74)【代理人】
【識別番号】100085291
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥巣 実
(74)【代理人】
【識別番号】100117798
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 慎一
(74)【代理人】
【識別番号】100221006
【弁理士】
【氏名又は名称】金澤 一磨
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 洋
【テーマコード(参考)】
3J034
【Fターム(参考)】
3J034AA09
3J034BB07
(57)【要約】
【課題】簡単な構造で緩まず、製造コストも安価であるだけでなく、緩めたい場合には簡単に緩めることができる。
【解決手段】被取付物3を貫通するねじ棒4にねじ込まれ、被取付物3の取付面3aに接触するナット1である。被取付物3側の面に、少なくとも1つの断面円形状の凹部1bが設けられているナット本体1aと、ナット本体1aの凹部1b内に転動可能に設けられている鋼球2とを備える。凹部1bは、鋼球2の転動を許容する大きさで、底面が平坦な傾斜面で、ナット緩み方向の後端部では鋼球2の全部が凹部1b内に収納される深さであり、前記ナット緩み方向の先端部では鋼球2の一部が凹部1bから突出する深さである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被取付物を貫通するねじ棒にねじ込まれ、前記被取付物の表面に接触するナットであって、
前記被取付物側の面に、少なくとも1つの断面円形状の凹部が設けられているナット本体と、
前記ナット本体の凹部内に転動可能に保持されている転動体とを備え、
前記凹部は、前記転動体の転動を許容する大きさで、ナット緩み方向に向かって深さが浅くなるものであり、ナット緩み方向の後端部では前記転動体の全部が前記凹部内に収納される深さであり、前記ナット緩み方向の先端部では前記転動体の一部が前記凹部から突出する深さである、
ことを特徴とするナット。
【請求項2】
前記転動体は、鋼球で、前記ナット本体よりも硬い、請求項1記載のナット。
【請求項3】
前記凹部は、底面が角度θでもって傾斜した平面であり、前記角度θが0~45°の範囲である、請求項1記載のナット。
【請求項4】
被取付物の被取付面と、ナット又はボルトの頭部との間に挟んで取り付けられるワッシャであって、
ワッシャ本体と、
前記ワッシャ本体の上側であって前記ナット又はボルトの頭部に接する側に設けられ前記ワッシャ本体の外形と同等かあるいは小さい直径の環状の凸部と、
前記凸部に設けられ転動体が転動可能に保持されている、少なくとも1つの断面円形状の凹部とを備え、
前記凹部は、前記転動体の転動を許容する大きさで、ナット又はボルト緩み方向に向かって深さが浅くなるものであり、前記ナット又はボルト緩み方向の後端部では前記転動体の全部が前記凹部内に収納される深さであり、前記ナット又はボルト緩み方向の先端部では前記転動体の一部が前記凹部から突出する深さである、
ことを特徴とするワッシャ。
【請求項5】
前記ワッシャ本体の下面は、中心に向かって徐々に深くなる湾曲面状の凹面である、請求項4記載のワッシャ。
【請求項6】
前記転動体は、鋼球で、前記ワッシャ本体よりも硬い、請求項4記載のワッシャ。
【請求項7】
前記凹部は、底面が角度θでもって傾斜した平面であり、前記角度θが0~45°の範囲である、請求項4記載のワッシャ。
【請求項8】
被取付物を貫通するねじ棒にナットがねじ込まれ、前記被取付物の表面に前記ナットが接触する締結構造であって、
前記ナットが、請求項1~3のいずれか1項に記載されているナットである、
ことを特徴とする締結構造。
【請求項9】
被取付物の被取付面と、ナット又はボルトの頭部との間にワッシャを挟んで取り付けられる締結構造であって、
前記ワッシャが、請求項4~7のいずれか1項に記載されているワッシャである、
ことを特徴とする締結構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワッシャ、ナット及び締結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
振動に対して緩み難いナットやワッシャがいろいろと考案されているが、形状・構造が複雑であったり、製造コストがかかったりするものが多い。つまり、振動に対する緩み止め対策として、スプリングワッシャを用いる方法、ダブルナットを用いる方法、ナットとボルトに割ピンを貫通させる方法など、数多くの工夫がなされているが、十分な効果が得られていない。
【0003】
そこで、ナット内面に設けた孔にロックピンを貫入することで、ナット内面を押し拡げて、緩み止め圧力を発生させるロック用ピン機構が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1記載のものは、ナット内面を押し広げることで固定するので、メンテナンスなどの場合に、ナットを一旦緩めると、ねじ棒のねじ部分が損傷しているので、再利用することが困難になる。
【0005】
また、ロックワッシャとして、外円周部は平坦、中央部は雄ねじが挿入出来る中心穴を持ち、中心穴と外円周部に挟まれた中円周部は2等分以上に分割し成形され、分割は中心穴と繋がり、中心穴から放射線上に外円周部平坦部内側まで切り欠きで2等分以上に分割され、各切り欠き面片側を切り起こし、ナット緩み止め係止片を設け、分割扇状部分を皿ばね状の円錐面に形成したナット緩み止め係止片を持つものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
特許文献2に記載のものは、ロックワッシャの持つ弾性反発力による緩み止めとナット緩み止め係止片によるくさび効果で緩み止め効果を向上させたものであるが、各切り欠き面片側を切り起こし、ナット緩み止め係止片を設けるなど、構造が複雑で、加工が困難であり、製造コストが高価になる。また、分割扇状部分を皿ばね状の円錐面に形成しているので、緩みが生じる可能性が残されており、あくまでも緩みにくいという機能の範囲内となっている。なぜなら、緩められなければ困るから、緩みにくいという範囲に留まっていると考えられる。
【0007】
ところで、長溝状の凹部内に鋼球を保持して、長溝の溝長さに相当する距離を転がしてクサビ効果を期待する提案も知られている(例えば、特許文献3,4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009-293793号公報
【特許文献2】特開2011-127752号公報
【特許文献3】特開昭59-19711号公報
【特許文献4】実公昭34-1413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3,4に記載のものは、クサビ効果を発揮するまでに、クサビ効果を発揮する一定距離だけナットが回転してから初めてクサビ効果が発揮されるので、実用的とはいえない。言い換えれば、ナットが前記一定距離だけ回転する間に、前記一定距離に対応する分だけ緩むことになり、ボルトの軸力が失われる。
【0010】
この点についてさらに説明すると、長溝状の凹部を利用する場合は、凹部底面の斜面角度は、論理的にナットのネジの「リード角」よりも必ず大きくしなければ機能しない上に、鋼球によるクサビ効果を発揮するためにバックラッシュが大きくなってしまう。つまり、鋼球が長溝長さだけ転がるためのガタが必要となり、このためにボルト軸力がガタ分だけ低下する。さらに製作コストが高くなる。
【0011】
本発明は、簡単な構造で緩まず、製造コストも安価であり、緩めたい場合には簡単に緩めることができるワッシャ、ナット及び締結構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、被取付物を貫通するねじ棒にねじ込まれ、前記被取付物の表面に接触するナットであって、前記被取付物側の面に、少なくとも1つの断面円形状の凹部が設けられているナット本体と、前記ナット本体の凹部内に転動可能に保持されている転動体とを備え、前記凹部は、前記転動体の転動を許容する大きさで、ナット緩み方向に向かって深さが浅くなるものであり、ナット緩み方向の後端部では前記転動体の全部が前記凹部内に収納される深さであり、前記ナット緩み方向の先端部では前記転動体の一部が前記凹部から突出する深さである、ことを特徴とする。ここで、転動体の保持は特に制限されないが、例えば、転動体の表面を着磁(磁石にする)したり、前記凹部の周りをかしめたり、粘着性のあるゴムノリなどの粘着剤を使ったり、転動体の自由な転がり運動に影響を与えないように凹部の上部だけをカシメたりすることができる。
【0013】
このようにすれば、簡単な構造で緩まず、製造コストも安価であり、緩めたい場合には、簡単に緩めることができる。
【0014】
この場合、前記転動体は、鋼球で、前記ナット本体よりも硬い、ことが望ましい。また、前記凹部は、底面が、ナット中心から見て円周方向に沿って角度θでもって傾斜した平面であり、前記角度θは、0~45°の範囲である、ことが望ましい。
【0015】
また、本発明は、被取付物の被取付面と、ナット又はボルトの頭部との間に挟んで取り付けられるワッシャであって、ワッシャ本体と、前記ワッシャ本体の上側であって前記ナット又はボルトの頭部に接する側に設けられ前記ワッシャ本体の外形と同等かあるいは小さい直径の環状の凸部と、前記凸部に設けられ転動体が転動可能に保持されている、少なくとも1つの断面円形状の凹部とを備え、前記凹部は、前記転動体の転動を許容する大きさで、ナット又はボルト緩み方向に向かって深さが浅くなるものであり、前記ナット又はボルト緩み方向の後端部では前記転動体の全部が前記凹部内に収納される深さであり、前記ナット又はボルト緩み方向の先端部では前記転動体の一部が前記凹部から突出する深さである、ことを特徴とする。
【0016】
この場合、前記ワッシャ本体の下面は、中心に向かって徐々に深くなる湾曲面状の凹面である、ことが望ましい。
【0017】
また、前述したナットの場合と同様に、前記転動体は、鋼球で、前記ナット本体よりも硬いこと、前記凹部は、底面が角度θでもって傾斜した平面であり、前記角度θが0~45°の範囲であること、が望ましい。
【0018】
本発明にかかる締結構造は、被取付物を貫通するねじ棒にナットがねじ込まれ、前記被取付物の表面に前記ナットが接触する締結構造であって、前記ナットが、請求項1~3のいずれか1項に記載されているナットである、ことを特徴とする。
【0019】
また、別の、本発明にかかる締結構造は、被取付物の被取付面と、ナット又はボルトの頭部との間にワッシャを挟んで取り付けられる締結構造であって、前記ワッシャが、請求項4~7のいずれか1項に記載されているワッシャである、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、簡単な構造で緩まず、製造コストも安価であるだけでなく、緩めたい場合には簡単に緩めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係るナットをボルトに組み付けたときの図である。
【
図2】前記ナットの、被取付物の表面に接触する側から見た斜視図である。
【
図3】前記ナットの凹部と鋼球の関係を示す説明図で、(a)はナットの上方から見た図、(b)は鋼球が凹部の深い位置にある場合の断面図、(c)は鋼球が凹部の浅い位置にある場合の断面図である。
【
図4】前記ナットをボルトに実際に組み付けたときの図である。
【
図5】前記ナットの凹部と鋼球の関係を示す説明図で、(a)はナットの上方から見た図、(b)はナットを締め付けた状態の図、(c)はナットを緩めようとしたときの図、(d)は底面が傾斜していない場合の図である。
【
図6】(a)は鋼球がナットの凹部に嵌った状態の図、(b)はナットを締め付けた後に開放し、鋼球も取り除いた状態の凹部を示す図である。
【
図7】本発明に係るワッシャの、上方から見た斜視図である。
【
図8】前記ワッシャを、ボルトの頭部の下に配置した状態の図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る実施の形態を説明する。
【0023】
図1は本発明に係るナットをボルトに組み付けたときの図である。
【0024】
図1に示すように、ナット1は、被取付物3を貫通するねじ棒4にねじ込まれ、被取付物3の取付面3a(例えば、床面)に下面が接触するものである。
図2に示すように、ナット1は、被取付物3側の面である下面に、1つないし複数(
図1は2つの場合を示す)の断面円形状の凹部1bが設けられているナット本体1aと、このナット本体1aの凹部1b内に転動可能に保持されている鋼球2(転動体)とを備える。なお、鋼球2は、凹部1bの開口部分の周りをかしめたり、粘着性のあるゴムノリなどの粘着剤を使ったりして、凹部1b内から飛び出さないように保持することができる。
【0025】
凹部1bは、上方から見ると、
図3(a)に示すように、断面円形状で、凹部1b内で鋼球2が転動できるように、凹部1bの径は鋼球2がスムーズに自然挿入できる程度に、鋼球2の径よりやや大きい内径となるように形成されている。例えば、鋼球2の径がφ3/32インチ(=2.4mm)である場合には凹部1bの内径がφ2.5mm(鋼球径との差は0.1mm)であれば、凹部1bの内径と鋼球2の径との関係は、凹部1b内で鋼球2が転動できるためには十分である。また、鋼球2は、凹部1b内で形状が不用意に崩れないように、硬さはナット1よりも硬くなければならない。なお、径がφ3/32インチ(=2.4mm)の鋼球2は、ボールベアリング用に多用されている規格品で、安価に入手できる市販品である。
【0026】
凹部1bの底面は、
図3(b)(c)に示すように、角度θで傾斜した平面(傾斜面)であり、例えば
図2の手前に示す凹部では、凹部左側が深く、凹部右側になるほど浅くなる。角度θは、必ずしもナットのネジのリード角より大きい必要はなく、0°~45°の範囲にあればよい。ここで、凹部1bの底面を平面にするには、例えば、被切削物であるナットを一定角度傾けておいて、垂直上方からフラットドリルで穴開けをすることで、前記一定角度だけ傾斜した平面が底面となる凹部を形成することができる。
【0027】
また、凹部1bの深さは、ナット緩み方向に向かって徐々に浅くなるものであるので、鋼球2がナット緩み方向の後端部で最も深い位置になり、その位置では、鋼球2全体が収容される深さ(
図3(b)参照)となる。また、ナット緩み方向の先端部で最も浅い位置になり、その位置では、鋼球2の一部がナット1の表面(下面)からわずかな距離tだけ突出する程度の深さ(
図3(c)参照)となっている。そして、ナット1をボルト(ねじ棒4)に実際に組み付けた状態では、例えば
図4に示すようになる。
【0028】
続いて、鋼球2の動きについて説明する。ナット1の凹部1b内に鋼球2が保持されている状態を、凹部1bの上方から見ると、
図5(a)に示すように、凹部1b内で鋼球2が自由に転動できるように、凹部1bの内径が鋼球2の径より少し大きくなっている。
【0029】
締め付け前の状態では、鋼球2は、凹部1b内に収容されているが、ナット1を締め付けたときには、鋼球2はナット1よりも硬く作られているので、凹部1bの内部では、締め付けと同時に、鋼球2の下部が凹部1bの底面(斜面)に強く押される。そして、
図5(b)に示すように、鋼球2は、上から下へ(つまり、内方へ)押され、結果として鋼球2によって凹部1bの底面に、鋼球2の形状に対応する丸い凹み1cが形成されることになる。
【0030】
振動を受けてナット1がナット緩み方向へ回転すると、
図5(c)に示すように、鋼球2の下部が凹部1bの底面(凹み1cの内面)に擦られて、ナット緩み方向(
図5(c)において凹部1bの右端)に寄ろうとし、鋼球2が凹み1cの外周縁を超えて乗り上げようと動く。鋼球2と凹部1bの内周面との間にはわずかな隙間tがあるだけで、全体が転がり上がるだけの十分なスペースがないので、結果として、鋼球2は凹み1cの外周縁を起点として乗り上がって当初の底面に擦れる部位までの距離rが距離Rへと変化する(
図5(b)(c)参照)。このとき、距離Rは距離rより大きいので、鋼球2の上部(一部)は、
図5(c)に示すように、距離Tだけナット表面から突出する。この突出部分が、ナット1と被取付物3との間において、いわゆるクサビとして機能するので、ナット1は動くことなく(回転することなく)、従って緩まないことになる。
【0031】
因みに、凹部1b'の底部が平面(=傾斜角度θが0°)の場合を、
図5(d)に示す。この場合も同じ機能を発揮し鋼球2の一部が距離T’だけ突出するが、前述した斜面の場合よりも凹部1b’の凹み1c’ の位置(起点となる外周縁の位置)が低いので、鋼球2の突出量は小さくなり、クサビ効果はあるが、弱くなる。つまり、凹部2の底面の斜角θが大きくなるほど、距離Tが大きくなるので、クサビ効果は大きくなる。
【0032】
このように、斜角θの大きさによってクサビ効果(=ナットの緩み止め効果)の強弱が決まるので、角度θを調整することにより、ナット1を締付けた時の1.1~1.3倍のトルクで緩め側に回せば、クサビ効果に打ち勝つようになる。よって、特別な工具を必要とすることなく、簡単に緩めることができる。
【0033】
なお、
図6(a)は鋼球2が凹部1bに嵌った状態で、
図6(b)はナットを締め付けた後に開放し、鋼球2も取り去った状態の凹部1bを示している。凹部1bの底部に小さな凹み1cが形成されているのが目視できる。これを図式化すると、
図5(b)に示すようになる。
図6(a)(b)はサイズM16のナットを用いたものである。
【0034】
図7は、前述したナットと同様に、鋼球と凹部との組合せによる緩み止め構造(ワッシャ表面に凹部と鋼球を有する構造)を、ワッシャの表面に適用した場合を示す。このワッシャ11は,
図8に示すように、ボルト12の頭部12aの回転防止(緩み防止)のためにボルト12の頭部12aの下側に使用されるが、通常のナットの緩み止めとしてナットの下側に設けることも可能である。
【0035】
ワッシャ11は、外形が六角形(或いは多角形)で、
図7及び
図8に示すように、ボルト12の頭部12aに接触する側のワッシャ本体11Aの表面(上面)は円形状の凸部11Bが設けられ、この凸部11B上に1つ、ないし複数の凹部11aがあり、その凹部11a内に鋼球13が保持されている。円形状の凸部11Bは、外径が六角ボルトの頭部の平行幅と同等の凸部の円形状段差である。
【0036】
また、被取付物3(例えば、床)の取付面3aに接する裏面(下面)は、
図9に示すように、中心(中心穴)に向かって徐々に深くなっている湾曲面状の凹面11b(たとえば、円錐形状の凹面)となっている。ワッシャ外形は多角形状(あるいは円形状でも構わない)であればよいが、
図7~
図9では、ワッシャ外形が6角形状の場合を示している。
【0037】
このようなワッシャ11を用いる場合には、振動を受けたときに、ボルト12の頭部12aは回転して緩もうとしかける。このとき、ワッシャ11が一緒に連れ回ってしまうと、クサビ効果が働かず、緩め防止機能が発揮されないことになる。このワッシャ11が連れ回りを起こさないのは、ボルト12の頭部12a側の摩擦有効径よりもワッシャ11の裏面(被取付物3)の摩擦有効径が大きいことを利用しているからである。つまり、ワッシャ11の上面(凸部11Bの上面)でボルト12の頭部12aが滑り、ワッシャ11の下面が被取付面3aに対して全く滑らないのは、次の理由による。特開2021-179250号公報にも記載されるように、ボルト12の頭部12aとワッシャ11との間の摩擦力と、ワッシャ11と被取付面3aとの間の摩擦力とは、それらの接触部分の面積の大きさとは無関係で、ボルト12の頭部12aによる押し付け力だけが関係し、同じになる。また、ワッシャ11が接触するボルト12の頭部12aも被取付物3も、ともに鉄で同材質であるから、それらの摩擦係数に少々の違いがあるとしても、ボルト12の頭部12aの摩擦係数μ1と被取付物3の摩擦係数μ2とはほぼ等しいと考えられる。だから、結局、摩擦力は等しくなる。
【0038】
一方、ボルト12の頭部12aを締め込む場合(緩める場合でも同じ)、ワッシャ11が連れ回りを起こすか否かは、ワッシャ11を回転させようとする回転力(トルク)と、ワッシャ11が被取付面3aに対して回転しないように作用する回転抵抗力(トルク)との大きさの差による。そのため、湾曲凹面11bを設けることで、ボルト12の頭部12aとワッシャ11との間の摩擦力でワッシャ11を回転させようとする回転力F1よりも、ワッシャ11が被取付面3aに対して回転しないように作用する回転抵抗力F2が大きくなるようにしているのである。このように、湾曲凹面11bを設けることで、回転中心からボルト12とワッシャ11との接触部分までの長さR1より、回転中心からワッシャ11と被取付面3aとの接触部分までの長さR2(半径)の方が大きくなり、摩擦力は同じであっても、ワッシャ11の回転抵抗力F2が、ボルト12がワッシャ11を回転させようとする回転力F1より大きくなり、結果として、ワッシャ11を回転させることなく、ボルト12だけが回転することになる。
【0039】
それに加えて、ワッシャ11の下面を湾曲凹面11bにすることで、被取付面3aへの接触部分の有効径を一層大きくしており、ワッシャ11の外形を多角形状にすることで、ワッシャ11の各角部が被取付面3aにめり込む効果をプラスして、振動を受けてもワッシャ11が一層回転しないようにしているのである。なお、ワッシャ外形を多角形形状にして外形サイズを充分大きくとれば、摩擦有効径がさらに大きくなるので、究極の無限多角形として円形とすることもできる。
【0040】
一方、本発明の断面円形状の凹部の場合は、凹部底部の傾斜角度はネジのリード角よりも大きくする必要は必ずしもなく、仮に0°でも機能を発揮する上に、バックラッシュがほとんどなく、軸力が低下しない。前述したように、フラットドリルで穴を穿つだけだから、製作コストも安価で、経済的効果も大である。クサビ効果を発揮する原理が長溝の場合に比べて、後述する振動比較試験結果の通り同条件の振動下で、2倍以上の効果が発揮されることが確認されている。
【0041】
実際にM16のナットを用い、底面の傾斜角度を同じ、つまり角度θを5°にして、断面円形状の凹部の場合には凹部内径を2.5mm、鋼球径を2.38mmとする一方、長溝の場合には溝長さを3mmとして、それぞれ複数個の試作品を作り、振動試験装置(
図10参照)を用いて、振動比較試験を行い、その結果を
図11に示している。
【0042】
図11は、他の一般市販の緩み止めも含めて、比較のためにそれぞれの製品で十数回の振動試験を実施した平均である。この振動条件(=M16/締付けトルク25Nm/振動数100Hz)の強さを概念的に説明すると、緩み止め対策を取らない「普通のナット」ならば数秒(数百回の振動相当)で緩み始める強烈な振動である。
図11において、右側2点のうち、左が長溝の場合で、右が断面円形状の凹部の場合である。
【0043】
これらの2点は両方とも他の緩み止めよりも遥かに機能が優れているが、2点同士で比べると、42万回(長溝の場合)と、100万回以上(断面円形状の凹部の場合)となり、効果の差は明らかである。長溝の場合は断面円形状の凹部の場合よりも緩み止め効果が42%程度劣っている(緩むまでの振動回数が58%程度少ない)。
【符号の説明】
【0044】
1 ナット
1a ナット本体
1b 凹部
1c 凹み
2 鋼球
3 被取付物
3a 取付面
4 ねじ棒
11 ワッシャ
11A ワッシャ本体
11B 凸部
11a 凹部
11b 湾曲凹面
12 ボルト
12a ボルトの頭部
13 鋼球