(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162736
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】フリクションダンパー
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20241114BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
F16F15/02 E
F16F15/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078591
(22)【出願日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 裕貴
【テーマコード(参考)】
3J048
【Fターム(参考)】
3J048AA01
3J048AC01
3J048BA10
3J048BE11
3J048EA01
(57)【要約】
【課題】圧入作業の際に向きを確認する必要がなく、安定した緩衝機能を発揮するフリクションダンパーを提供する。
【解決手段】軸200の外周面に取り付けられる金属環110と、金属環110の外周面側に金属環110と一体的に設けられる環状弾性体120と、を備え、軸200とハウジングとの間の環状隙間に圧入された状態で配されるフリクションダンパー100であって、環状弾性体120は、軸200の軸線方向の中心面Cに対して対称的な形状で構成され、かつ、環状弾性体120の外周面には中心面Cの両側に環状溝122がそれぞれ形成されていることを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸の外周面に取り付けられる金属環と、前記金属環の外周面側に前記金属環と一体的に設けられる環状弾性体と、を備え、前記軸とハウジングとの間の環状隙間に圧入された状態で配されるフリクションダンパーであって、
前記環状弾性体は、前記軸の軸線方向の中心面に対して対称的な形状で構成され、かつ、前記環状弾性体の外周面には前記中心面の両側に環状溝がそれぞれ形成されていることを特徴とするフリクションダンパー。
【請求項2】
前記環状溝の深さは、前記環状隙間に圧入された際の前記環状弾性体の圧縮量以上に設定されることを特徴とする請求項1に記載のフリクションダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フリクションダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、自動車のトランスミッションの内部には、振動や衝撃を抑制するためにフリクションダンパーが設けられている。
図5及び
図6を参照して、従来技術に係るフリクションダンパーについて説明する。
図5は従来技術に係るフリクションダンパーの正面図である。
図6は従来技術に係るフリクションダンパーの模式的断面図であり、
図5中のBB断面図である。
【0003】
フリクションダンパー500は、軸の外周面に取り付けられる金属環510と、金属環510の外周面側に金属環510と一体的に設けられる環状弾性体520とを備えている。このフリクションダンパー500は、軸とハウジングとの間の環状隙間に圧入された状態で配される。圧入の際に過大な荷重が必要とならないように、環状弾性体520の外周面には、周方向に間隔を空けて軸線方向に伸びる直線状の溝521が複数設けられている。上記の環状隙間にフリクションダンパー500が配されることによって、軸が振動したり衝撃を受けた際に、フリクションダンパー500とハウジングの軸孔の内周面との間に生じる摩擦により運動エネルギーが減衰する。これにより、振動や衝撃が減衰され、緩衝機能が発揮される。
【0004】
そして、従来技術に係るフリクションダンパー500においては、上記の環状隙間にフリクションダンパー500を圧入する際に、環状弾性体520が大きく変形して、環状弾性体520の一部が金属環510よりも軸線方向に大きく飛び出してしまうことを抑制するために、環状弾性体520の外周面はテーパ面により構成されている。これにより、
図6において、外径の小さな左側から上記の環状隙間にフリクションダンパー500を圧入することで、環状弾性体520の変形が抑制される。
【0005】
しかしながら、このフリクションダンパー500の場合には、上記の環状隙間にフリクションダンパー500を圧入する作業の際にフリクションダンパー500の向きを確認する必要があり、作業負担が大きい。また、誤った方向にフリクションダンパー500を圧入してしまった場合には、環状弾性体520が大きく変形して他の部材と干渉してしまったり、緩衝機能が低下してしまったりする虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、圧入作業の際に向きを確認する必要がなく、安定した緩衝機能を発揮するフリクションダンパーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0009】
すなわち、本発明のフリクションダンパーは、
軸の外周面に取り付けられる金属環と、前記金属環の外周面側に前記金属環と一体的に
設けられる環状弾性体と、を備え、前記軸とハウジングとの間の環状隙間に圧入された状態で配されるフリクションダンパーであって、
前記環状弾性体は、前記軸の軸線方向の中心面に対して対称的な形状で構成され、かつ、前記環状弾性体の外周面には前記中心面の両側に環状溝がそれぞれ形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、環状弾性体は、軸の軸線方向の中心面に対して対称的な形状で構成されるため、フリクションダンパーを環状隙間に圧入する際に、フリクションダンパーの向きを確認する必要がない。また、環状弾性体の外周面には上記の中心面の両側に環状溝がそれぞれ形成されているため、フリクションダンパーが環状隙間に圧入された際に環状弾性体の変形を抑制することができる。従って、環状弾性体の一部が金属環よりも軸線方向に大きく飛び出してしまうことを抑制することができる。
【0011】
前記環状溝の深さは、前記環状隙間に圧入された際の前記環状弾性体の圧縮量以上に設定されるとよい。
【0012】
これにより、環状弾性体の変形をより確実に抑制することができる。
【0013】
なお、上記各構成は、可能な限り組み合わせて採用し得る。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、環状隙間への圧入作業の際にフリクションダンパーの向きを確認する必要がなく、また、安定した緩衝機能が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は本発明の実施例に係るフリクションダンパーの正面図である。
【
図2】
図2は本発明の実施例に係るフリクションダンパーの側面図である。
【
図3】
図3は本発明の実施例に係るフリクションダンパーの模式的断面図である。
【
図4】
図4は本発明の実施例に係るフリクションダンパーについての解析結果の説明図である。
【
図5】
図5は従来技術に係るフリクションダンパーの正面図である。
【
図6】
図6は従来技術に係るフリクションダンパーの模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0017】
(実施例)
図1~
図4を参照して、本発明の実施例に係るフリクションダンパーについて説明する。
図1は本発明の実施例に係るフリクションダンパーの正面図である。
図2は本発明の実施例に係るフリクションダンパーの側面図である。
図3は本発明の実施例に係るフリクションダンパーの模式的断面図であり、
図1中のAA断面図である。なお、
図3においては、フリクションダンパーの使用時における軸及びハウジングに対する位置関係を明確にするために、使用時における軸とハウジングの軸孔の内周面を点線にて示している。
図4は本発明の実施例に係るフリクションダンパーについての解析結果の説明図である。
【0018】
<フリクションダンパーを備える構造>
特に、
図3を参照して、本実施例に係るフリクションダンパー100を備える構造につ
いて説明する。本実施例に係るフリクションダンパー100は、例えば、自動車のトランスミッションの内部に設けられる。より具体的には、フリクションダンパー100は、軸200(の外周面210)とハウジング(の軸孔の内周面310)との間の環状隙間に圧入された状態で配される。このようにフリクションダンパー100が配されることによって、軸200が振動したり衝撃を受けた際に、フリクションダンパー100とハウジングの軸孔の内周面310との間に生じる摩擦(特に、周方向の摩擦)により運動エネルギーが減衰する。これにより、振動や衝撃が減衰され、緩衝機能が発揮される。また、フリクションダンパー100に、軸200からハウジング、又はハウジングから軸200に回転を伝達する機能を持たすこともできる。
【0019】
<フリクションダンパー>
本実施例に係るフリクションダンパー100は、軸200の外周面210に取り付けられる金属環110と、金属環110の外周面側に金属環110と一体的に設けられる環状弾性体120とを備えている。環状弾性体120は、ゴムなどのエラストマー材料により構成される。このように構成されるフリクションダンパー100は、上記の通り、軸200とハウジングとの間の環状隙間に圧入され、環状弾性体120は径方向外側から内側に向かって圧縮された状態で環状隙間内に配される。
【0020】
そして、本実施例に係る環状弾性体120は、軸200の軸線方向の中心面(仮想上の中心面)Cに対して対称的な形状で構成される。なお、本実施例においては、
図2及び
図3に示すように、環状弾性体120は、軸200の軸線方向の中心面Cに対して対称形状となるように構成されている。ただし、フリクションダンパー100の配置方向を変えても品質上同等であれば、環状弾性体120の形状は、中心面Cに対して完全に対称にする必要はなく、多少形状を変えても構わない。より具体的には、フリクションダンパー100を上記の環状隙間に圧入する際に、フリクションダンパー100の向きを変えて配置しても品質上同等であればよい。つまり、緩衝機能が実質的に同一で、使用時における環状弾性体120の状態(特に、金属環110よりも軸線方向の外側に飛び出す量)が実質的に同一であれば、環状弾性体120の形状は、中心面Cの両側で多少異なっていても構わない。
【0021】
また、上記の環状隙間にフリクションダンパー100を圧入する際に過大な荷重が必要とならないように、環状弾性体120の外周面側には、周方向に間隔を空けて軸線方向に伸びる直線状の溝121が複数設けられている。なお、本実施例では、これら直線状の溝121は4箇所に設けられているが、溝121の個数はフリクションダンパー100の寸法などに応じて適宜設定できる。
【0022】
更に、本実施例に係る環状弾性体120の外周面には、中心面Cの両側に環状溝122がそれぞれ形成されている。なお、本実施例では、中心面Cの両側に環状溝122が1箇所ずつ設けられているが、中心面Cの両側に2箇所以上ずつ環状溝を設ける構成を採用することもできる。
【0023】
<本実施例に係るフリクションダンパーの優れた点>
本実施例に係るフリクションダンパー100においては、環状弾性体120が軸200の軸線方向の中心面Cに対して対称的な形状で構成されている。そのため、フリクションダンパー100の向きを気にすることなく、フリクションダンパー100を軸200とハウジングとの間の環状隙間に圧入することができる。これにより、作業性が向上する。また、フリクションダンパー100の向きに拘わらず、同等の品質が維持される。
【0024】
また、本実施例に係る環状弾性体120の外周面には、中心面Cの両側に環状溝122がそれぞれ形成されている。これにより、環状弾性体の外周面に環状溝を設けない構成、
及び中心面Cに沿うように1箇所にのみ環状溝を設ける構成を採用する場合に比べて、環状弾性体120の一部が、金属環110よりも軸方向の外側に飛び出す量を軽減することができる。この点について、
図4を参照して説明する。
図4は、解析の一例を示したものであり、本実施例に係る環状弾性体の外形120Xと、比較例に係る環状弾性体の外形120Yについて、室温環境下における圧入前の状態(図中上方)と圧入後の状態(図中下方)が示されている。比較例の外形120Yは点線で示されている。
【0025】
本実施例においては、上記の通り、中心面の両側にそれぞれ一つずつ環状溝122が設けられているのに対して、比較例においては、中心面に沿って1箇所にのみ環状溝が設けられている。なお、本実施例と比較例は、いずれも環状弾性体の体積が等しく、環状溝以外の形状及び寸法は同一であり、材料も同一である。また、本実施例と比較例は環状溝の深さは同一(1.5mm)であり、環状溝の最上部の溝幅(軸線方向の距離)については、本実施例の場合には1.3mmで、比較例の場合には2.8mmである。
【0026】
そして、フリクションダンパーの外径は30.2mmで、室温下で、ハウジングの軸孔にフリクションダンパーを圧入することで、環状弾性体の外径が28.8mmになるまで環状弾性体を圧縮(つまり、環状弾性体の圧縮量(径方向の圧縮量)は0.7mm)させた場合の解析結果が
図4の下側の図である。
【0027】
この解析の結果、本実施例の場合には、環状弾性体の金属環よりも軸線方向への飛び出し量Z1は0.1mm程度で、比較例の場合の飛び出し量Z2は0.3mm程度であることが分かった。そして、本願発明者は解析と考察の結果、次のような知見を得ることができた。第一に、環状溝の深さは、環状弾性体が圧縮された際の環状弾性体の変位量(上記の解析例の場合は、半径方向の変位量である0.7mmに相当)以上にすることで、飛び出し量を抑制することができる。第二に、環状溝の幅(軸線方向の距離)は、環状溝の溝深さの半分以上にすることで、飛び出し量を抑制することができる。なお、環状溝の幅は、上記の実施例においては、環状溝122における最大の溝幅に相当する。第三に、環状溝の位置は、中心面Cに対して対称の位置に設けることで、飛び出し量を抑制することができる。
【0028】
なお、環状弾性体の外周面に環状溝を設けない構成を採用した場合には、検証するまでもなく、環状弾性体の一部が、金属環よりも軸方向の外側に大きく飛び出してしまうことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0029】
100:フリクションダンパー
110:金属環
120:環状弾性体
121:溝
122:環状溝
200:軸
210:外周面
310:(ハウジングの軸孔の)内周面
C:中心面