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  • 特開-酸化マグネシウムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162738
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】酸化マグネシウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 5/08 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
C01F5/08
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078593
(22)【出願日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】722010585
【氏名又は名称】セトラスホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100139022
【弁理士】
【氏名又は名称】小野田 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 剛規
(74)【代理人】
【識別番号】100169328
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 健治
(72)【発明者】
【氏名】亀田 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 誠司
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA02
4G076AB06
4G076AB09
4G076BA30
4G076BC02
4G076BD02
4G076BE12
4G076CA02
4G076DA01
4G076DA15
4G076DA16
4G076DA25
(57)【要約】
【課題】本発明は、より取り扱いに優れた酸化マグネシウムの新規な製造方法を提供するものである。
【解決手段】本開示は、酸化マグネシウムの製造方法である。本開示の酸化マグネシウムの製造方法は、以下の炭酸化工程、分離工程、晶析工程及び焼成工程を含む。
炭酸化工程は、マグネシウム化合物の懸濁液に、炭酸ガスを吹き込んで炭酸水素マグネシウム水溶液を得る工程である。
分離工程は、上記炭酸水素マグネシウム水溶液を固液分離する工程である。
晶析工程は、上記分離工程で得られた水溶液から炭酸マグネシウムを晶析させる工程である。
焼成工程は、上記炭酸マグネシウムを焼成して酸化マグネシウムを得る工程である。
そして、本開示では、上記晶析工程は、晶析温度が50℃以上80℃未満である晶析条件で行う。さらに、上記晶析工程は、晶析温度と晶析時間との積が60℃・h以上210℃・h未満となる晶析条件で行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム化合物の懸濁液に、炭酸ガスを吹き込んで炭酸水素マグネシウム水溶液を得る炭酸化工程と、
前記炭酸水素マグネシウム水溶液を固液分離する分離工程と、
前記分離工程で得られた水溶液から炭酸マグネシウムを晶析させる晶析工程と、
前記炭酸マグネシウムを焼成して酸化マグネシウムを得る焼成工程と、を含み、
前記晶析工程は、晶析温度が50℃以上80℃未満であり、かつ、前記晶析温度と晶析時間との積が60℃・h以上210℃・h未満となる晶析条件で行うことを特徴とする、酸化マグネシウムの製造方法。
【請求項2】
前記晶析温度が60℃以上70℃以下であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記晶析温度と前記晶析時間との積が120℃・h以上140℃・h以下であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記晶析工程は、晶析された前記炭酸マグネシウムを加熱する加熱工程を更に含むことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記加熱工程は、前記炭酸マグネシウムを50℃以上250℃以下の温度で加熱することを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記加熱工程は、前記炭酸マグネシウムを1時間以上72時間以下の加熱時間で加熱することを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
前記焼成工程は、前記加熱工程で加熱された前記炭酸マグネシウムを600℃以上1500℃以下の温度で焼成することを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化マグネシウムの新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化マグネシウムは、工業用原料及び医薬用原料として様々な産業分野で用いられている。例えば、酸化マグネシウムは、医薬品、食品、加硫促進剤、顔料、化学蓄熱材、電池材料、セラミック材料、吸着剤、研磨剤及び触媒の各種用途において、優れた特性を示すことが知られている。
【0003】
酸化マグネシウムは、海水、潅水、苦汁等をマグネシウム原料として用いた種々の方法によって、工業的に生産されている。このような方法の中には、例えば特許文献1のように、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等のマグネシウム化合物を酸化マグネシウム前駆体として、当該酸化マグネシウム前駆体を焼成することで、酸化マグネシウムを製造する方法が知られている。
【0004】
なお、炭酸マグネシウムの製造方法として、例えば特許文献2には、鉱石として産出する低品位の水酸化マグネシウムから高純度の炭酸マグネシウム、特に鉄分の含有量の低い炭酸マグネシウムを製造する方法が提案されている。具体的には、低品位水酸化マグネシウムの懸濁液に炭酸ガスと共に酸素含有ガスを吹き込んで、重炭酸マグネシウムを含有する溶液を形成し、固液分離後の液体を加熱することで炭酸マグネシウムを生成析出させる、炭酸マグネシウムの製造方法が提案されている。この特許文献2の製造方法によれば、高純度の炭酸マグネシウムを簡便に製造することができるとされている。
【0005】
また、特許文献3には、水酸化マグネシウムスラリーと炭酸ガスとを反応させて炭酸マグネシウムを製造する方法において、不純物を除去する方法が提案されている。具体的には、炭酸化の過程で低下するpHを、炭酸マグネシウムが100%溶解しないpH値7.6~8.0に維持し、炭酸化終了時に生成する未溶解マグネシウムをプレコート剤として使用して炭酸化後の反応液を濾過するという不純物除去方法が提案されている。
【0006】
これらの特許文献に記載された方法を、酸化マグネシウムの製造方法の一部として採用すると、高純度の酸化マグネシウムが得られることが期待される。そして、このような高純度の酸化マグネシウムは、例えば、医薬品又は食品用の錠剤に使用される。そのような錠剤の例として、特許文献4には、酸化マグネシウム粒子を主成分とする錠剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2017/195686号
【特許文献2】特開2010-132504号公報
【特許文献3】特開昭63-40722号公報
【特許文献4】国際公開第2011/030659号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような錠剤は、酸化マグネシウムを主成分として含む組成物を、打錠と呼ばれる圧縮成形によって所定の形状に成形することで、製造される。しかしながら、上述の特許文献1~3のような方法を用いた場合では、嵩の高い酸化マグネシウムが得られることがあり、錠剤を成形する際の取り扱いが難しくなる虞があった。
【0009】
より取り扱いが容易な酸化マグネシウムが求められる場合おいては、上述の特許文献1~3の方法で形成された酸化マグネシウムでは十分ではなく、更なる改良が求められる。
【0010】
そこで、本発明は、より取り扱いに優れた酸化マグネシウムの新規な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、以下の各態様を含むものである。
【0012】
(第1の開示)
第1の開示は、酸化マグネシウムの製造方法である。第1の開示の酸化マグネシウムの製造方法は、以下の炭酸化工程、分離工程、晶析工程及び焼成工程を含む。
上記炭酸化工程は、マグネシウム化合物の懸濁液に、炭酸ガスを吹き込んで炭酸水素マグネシウム水溶液を得る工程である。
上記分離工程は、上記炭酸水素マグネシウム水溶液を固液分離する工程である。
上記晶析工程は、上記分離工程で得られた水溶液から炭酸マグネシウムを晶析させる工程である。
上記焼成工程は、上記炭酸マグネシウムを焼成して酸化マグネシウムを得る工程である。
そして、本第1の開示では、上記晶析工程は、晶析温度が50℃以上80℃未満である晶析条件で行う。さらに、上記晶析工程は、上記晶析温度と晶析時間との積が60℃・h以上210℃・h未満となる晶析条件で行う。
【0013】
(第2の開示)
第2の開示は、上記晶析温度が60℃以上70℃以下であることを特徴とする、上記第1の開示の製造方法である。
【0014】
(第3の開示)
第3の開示は、上記晶析温度と上記晶析時間との積が120℃・h以上140℃・h以下であることを特徴とする、上記第1の開示又は第2の開示の製造方法である。
【0015】
(第4の開示)
第4の開示は、上記晶析工程が、晶析された上記炭酸マグネシウムを加熱する加熱工程を更に含むことを特徴とする、上記第1の開示から第3の開示のいずれかの製造方法である。
【0016】
(第5の開示)
第5の開示は、上記加熱工程が、上記炭酸マグネシウムを50℃以上250℃以下の温度で加熱することを特徴とする、上記第4の開示の製造方法である。
【0017】
(第6の開示)
第6の開示は、上記加熱工程が、上記炭酸マグネシウムを1時間以上72時間以下の加熱時間で加熱することを特徴とする、上記第4の開示又は第5の開示の製造方法である。
【0018】
(第7の開示)
第7の開示は、上記焼成工程が、上記加熱工程で加熱された上記炭酸マグネシウムを600℃以上1500℃以下の温度で焼成することを特徴とする、上記第4の開示から第6の開示のいずれかの製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造方法によれば、より取り扱いに優れた酸化マグネシウムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施例1の中間生成物である炭酸マグネシウム(a)及び焼成後の最終生成物である酸化マグネシウム(b)と、比較例5の中間生成物である炭酸マグネシウム(c)及び焼成後の最終生成物である酸化マグネシウム(d)の走査型電子顕微鏡写真である。なお、図中の白線は、1μmの長さの指標である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の酸化マグネシウムの製造方法の好適な実施形態について詳説する。なお、本明細書において各種数値範囲は、特に断りがない限り、その上下限値を含む範囲を意味する。
【0022】
[酸化マグネシウムの製造方法]
本発明の一実施形態は、以下の炭酸化工程、分離工程、晶析工程及び焼成工程を含む酸化マグネシウムの製造方法である。炭酸化工程では、マグネシウム化合物の懸濁液に炭酸ガスを吹き込んで炭酸水素マグネシウム水溶液を得る。分離工程では、炭酸水素マグネシウム水溶液を固液分離する。晶析工程では、分離工程で得られた水溶液から炭酸マグネシウムを晶析させる。焼成工程では、炭酸マグネシウムを焼成して酸化マグネシウムを得る。
【0023】
そして、本実施形態においては、晶析工程は、晶析温度が50℃以上80℃未満である晶析条件で行う。さらに、晶析工程は、晶析温度と晶析時間との積が60℃・h以上210℃・h未満となる晶析条件で行う。
【0024】
晶析工程をこのような特定の晶析条件で行うことで、晶析する炭酸マグネシウムの結晶形態が針状結晶又は板状結晶になりやすくなる。これにより、炭酸マグネシウムの嵩が低くなり、炭酸マグネシウムの取り扱いを向上させることができる。さらに、炭酸マグネシウムの結晶形態は、焼成後に得られる酸化マグネシウムの結晶形態に引き継がれるため、焼成後の酸化マグネシウムの結晶形態も針状結晶又は板状結晶になりやすくなる。これにより、焼成後の酸化マグネシウムの嵩も低くなり、酸化マグネシウムの成形時の取り扱いを向上させることができる。
したがって、本実施形態の製造方法によれば、より取り扱いに優れた酸化マグネシウムを得ることができる。
【0025】
本実施形態の製造方法は、取り扱いに優れた酸化マグネシウムが得られれば、当該酸化マグネシウムを含む製品の生産性を向上させることができ、国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献できるという利点もある。
【0026】
なお、本実施形態の製造方法に用い得るマグネシウム化合物の懸濁液は特に限定されず、例えば水酸化マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム又はこれら2種以上の混合物を含む懸濁液が挙げられる。
【0027】
例えば、マグネシウム化合物の懸濁液として水酸化マグネシウム懸濁液を用いる場合、水酸化マグネシウム懸濁液は、海水又は塩化マグネシウム水溶液を原料として用いた、水酸化マグネシウム懸濁液の生成工程によって得ることができる。すなわち、本実施形態の製造方法は、炭酸化工程の前に、このような水酸化マグネシウム懸濁液の生成工程を有していてもよい。
【0028】
水酸化マグネシウム懸濁液の生成工程は、マグネシウム源とアルカリ源とを混合して反応させる方法であってもよい。あるいは、水酸化マグネシウム懸濁液の生成工程は、鉱物として産出される水酸化マグネシウムを水に懸濁させる方法であってもよい。水酸化マグネシウム懸濁液の生成工程として前者の方法を採用する場合、マグネシウム源としては、例えば海水又は塩化マグネシウム水溶液を用いることができる。なお、マグネシウム源は、海水を用いることが好ましい。
【0029】
一方、マグネシウム源と反応させるアルカリ源は特に限定されないが、例えば水酸化カルシウムを用いることができる。水酸化カルシウムの例としては、消石灰が挙げられる。消石灰は、酸化カルシウムである生石灰の消化によって得ることができる。消石灰は、例えば石灰乳の形態であってもよい。
【0030】
以上の生成工程は、水酸化マグネシウム懸濁液の生成工程の例であるが、水酸化マグネシウム以外のマグネシウム化合物の懸濁液を用いる場合は、マグネシウム化合物の種類に応じた生成工程を採用すればよい。なお、生成工程がなくてもマグネシウム化合物の懸濁液を入手できる場合は、このような生成工程を有していなくてもよい。
【0031】
そして、上述のような生成工程によって得られたマグネシウム化合物の懸濁液は、次の炭酸化工程に供される。
【0032】
以下、本実施形態の酸化マグネシウムの製造方法に含まれ得る各種工程について、詳細に説明する。
【0033】
<炭酸化工程>
炭酸化工程は、マグネシウム化合物の懸濁液に炭酸ガスを吹き込んで炭酸水素マグネシウム水溶液を得る工程である。炭酸化工程に用い得る炭酸ガスは、マグネシウム化合物の炭酸化を阻害しない範囲内において、他のガスを含んでいてもよい。また、マグネシウム化合物の懸濁液に炭酸ガスを吹き込む際は、懸濁液を撹拌しながら炭酸ガスを吹き込むことが好ましい。
【0034】
さらに、炭酸化工程では、マグネシウム化合物の懸濁液のpHを調整することが好ましい。このとき、マグネシウム化合物の懸濁液のpHは、懸濁液に含まれる不純物の種類又は優先的に除去したい不純物の種類に応じて、相対的にイオン化傾向の低い不純物成分が固体として析出するように調整すればよい。なお、不純物としては、例えばFe、Al、Si、As、Pbが挙げられる。
【0035】
例えば、マグネシウム化合物の懸濁液のpHは、7.5未満又は7.4未満に調整することが好ましい。あるいは、マグネシウム化合物の懸濁液のpHは、7.0以上又は7.1以上に調整することが好ましい。炭酸化工程において、マグネシウム化合物の懸濁液のpHをこのような範囲内に調整すると、マグネシウム成分である炭酸水素マグネシウムを溶解させたまま、懸濁液に含まれる不純物を固体として十分に析出させることができる。さらに、その結果として、より高純度の酸化マグネシウムを得ることができる。なお、マグネシウム化合物の懸濁液のpHが7.5以上の場合は、マグネシウム成分の溶解量が少なくなるため、良好な収率が得られない虞がある。
【0036】
なお、懸濁液のpH調整により固体として析出した不純物は、次の分離工程で固液分離することにより除去することができる。このように、炭酸化工程ないし分離工程の段階で不純物を十分に低減させることによって、その後の晶析工程及び焼成工程を経て得られる酸化マグネシウムは、不純物の含有量が極めて少なく、より純度の高い酸化マグネシウムとなる。
【0037】
炭酸化工程において、マグネシウム化合物の懸濁液のpHは、炭酸ガスを吹き込むことによって調整してもよい。その場合、炭酸化工程は、マグネシウム化合物の懸濁液のpHを連続的又は断続的に測定しながら、炭酸ガスを吹き込むことが好ましい。
【0038】
炭酸化工程において、マグネシウム化合物の懸濁液に炭酸ガスを吹き込む際の炭酸ガスの供給量は特に限定されない。例えば、炭酸ガスの供給量は、5.0L/分以下である。例えば、炭酸ガスの供給量は0.1L/分以上である。炭酸ガスの供給量の好ましい上限は、3.0L/分以下である。炭酸ガスの供給量の好ましい下限は、0.2L/分以上である。
【0039】
炭酸化工程において、マグネシウム化合物の懸濁液の濃度は特に限定されない。例えば、マグネシウム化合物の懸濁液の濃度は、30g/L以下である。例えば、マグネシウム化合物の懸濁液の濃度は、1g/L以上である。マグネシウム化合物の懸濁液の濃度は、好ましくは28g/L以下である。また、マグネシウム化合物の懸濁液の濃度は、好ましくは3g/L以上である。なお、マグネシウム化合物の懸濁液の濃度は、次式により求めることができる。
懸濁液の濃度(g/L)=マグネシウム化合物の重量(g)/懸濁液の容量(L)
【0040】
炭酸化工程において、炭酸ガスを吹き込む際の懸濁液の温度は特に限定されないが、炭酸化工程は、マグネシウム化合物の懸濁液を0℃以上50℃以下の温度にして、炭酸ガスを吹き込むことが好ましい。懸濁液の温度をこのような範囲内にすると、懸濁液に含まれる複数種類の不純物を、より確実に析出させることができる。その結果として、更に高純度の酸化マグネシウムを得ることができる。
【0041】
炭酸化工程において、マグネシウム化合物の懸濁液のより好ましい上限温度は、40℃である。炭酸化工程において、マグネシウム化合物の懸濁液の更に好ましい上限温度は、30℃である。炭酸化工程において、マグネシウム化合物の懸濁液のより好ましい下限温度は、20℃である。
【0042】
なお、炭酸化工程においては、炭酸ガスを吹き込んだ後の炭酸水素マグネシウム水溶液が、未溶解の炭酸マグネシウムを含んでいることが好ましい。炭酸ガスを吹き込んだ後の炭酸水素マグネシウム水溶液が、このような未溶解の炭酸マグネシウムを含んでいると、炭酸化工程後の固液分離が容易になる。そして、その結果として、より高純度の酸化マグネシウムを得ることができる。
【0043】
炭酸化工程においては、マグネシウム化合物の懸濁液に炭酸ガスを吹き込んだ後に、空気を吹き込んでもよい。マグネシウム化合物の懸濁液に先ず炭酸ガスを吹き込むことで、マグネシウム成分を溶解させつつ、不純物であるFeを析出させることができる。次いで、その懸濁液に空気を吹き込むことで、依然として溶解しているFeをFeOとして析出させることができる。これにより、不純物としてのFeがより一層低減された、更に高純度の酸化マグネシウムを得ることができる。
【0044】
以上のような炭酸化工程で固体として析出した不純物は、次の分離工程で固液分離することにより除去することができる。すなわち、炭酸化工程によって得られた炭酸水素マグネシウム水溶液は、次の分離工程に供される。
【0045】
<分離工程>
分離工程は、炭酸化工程後の炭酸水素マグネシウム水溶液を固液分離する工程である。より具体的には、分離工程は、液体分である炭酸水素マグネシウム水溶液と、固形分である不純物とを分離する工程である。この工程により、炭酸水素マグネシウム水溶液から不純物が除去され、純度の高い炭酸水素マグネシウム水溶液を得ることができる。
【0046】
なお、本明細書において、「分離」とは、固形分と液体分とが完全に分離される場合のほか、固形分側に不可避な少量の水分が含まれる場合も含む。
【0047】
分離工程に用い得る分離手段については特に限定されず、例えば、濾過手段、膜分離手段、遠心分離手段、固液分離手段、自然沈降手段が挙げられる。
【0048】
分離工程は、炭酸化工程後の炭酸水素マグネシウム水溶液をそのまま用いてもよいが、このような形態に限定されない。例えば、分離工程は、事前に炭酸水素マグネシウム水溶液に水を加えて濃度調整を行ってもよい。このとき使用する水としては、例えばイオン交換水が挙げられる。また、分離工程は、1回のみ行ってもよく、2回以上の複数回に分けて行ってもよい。
【0049】
なお、分離工程においても、除去したい不純物の種類に応じてpHを調整してもよい。さらに、炭酸化工程及び分離工程を1セットとして、これらの工程を複数セット繰り返し実施してもよい。その場合、懸濁液のpHを各セットで異なるように調整してもよい。あるいは、懸濁液のpHを各セットで同じになるように調整してもよい。
【0050】
以上の分離工程によって不純物が除去された炭酸水素マグネシウム水溶液は、次の晶析工程に供される。
【0051】
<晶析工程>
晶析工程は、分離工程で得られた水溶液から炭酸マグネシウムを晶析させる工程である。晶析工程では、分離工程後の水溶液を所定の温度及び時間で加熱することによって、炭酸マグネシウムを晶析させることができる。なお、本明細書では、後述の加熱工程の加熱温度と区別するために、「炭酸マグネシウムを晶析させる際の加熱温度」を「晶析温度」と称する。同様に、「炭酸マグネシウムを晶析させる際の加熱時間」を「晶析時間」と称する。
【0052】
(晶析温度)
本実施形態においては、炭酸マグネシウムを晶析させる際の晶析温度は、50℃以上80℃未満である。さらに、晶析温度は、60℃以上70℃以下であることが好ましい。晶析温度が80℃以上であると、得られる炭酸マグネシウムの結晶形態が花弁状結晶になってしまい、嵩が高くなりやすくなる。
【0053】
さらに、本実施形態においては、晶析工程は、晶析温度と晶析時間との積が60℃・h以上210℃・h未満となる晶析条件で行う。晶析温度が50℃以上80℃未満であり、かつ、晶析温度と晶析時間との積が60℃・h以上210℃・h未満となる、特定の晶析条件で晶析工程を行うことにより、針状結晶又は板状結晶の炭酸マグネシウムを晶析させることができる。このように、晶析する炭酸マグネシウムの結晶形態が針状結晶又は板状結晶になると、焼成後の酸化マグネシウムの結晶形態も針状結晶又は板状結晶になりやすくなる。これにより、酸化マグネシウムの嵩が低くなるため、より取り扱いに優れた酸化マグネシウムとすることができる。なお、晶析温度と晶析時間との積が210℃・h以上であると、得られる炭酸マグネシウムの結晶形態が花弁状結晶になってしまい、嵩が高くなりやすくなる。
【0054】
なお、晶析条件は、晶析温度が60℃以上70℃以下であり、かつ、晶析温度と晶析時間との積が60℃・h以上210℃・h未満であることが好ましい。このような晶析条件で晶析工程を行うと、針状結晶又は板状結晶の炭酸マグネシウムをより確実に晶析させることができる。
【0055】
また、晶析条件は、晶析温度が50℃以上80℃未満であり、かつ、晶析温度と晶析時間との積が120℃・h以上140℃・h以下であることが好ましい。このような晶析条件で晶析工程を行うと、針状結晶又は板状結晶の炭酸マグネシウムを更に確実に晶析させることができる。
【0056】
さらに、晶析条件は、晶析温度が60℃以上70℃以下であり、かつ、晶析温度と晶析時間との積が120℃・h以上140℃・h以下であることが特に好ましい。このような晶析条件で晶析工程を行うと、針状結晶又は板状結晶の炭酸マグネシウムを、より一層確実に晶析させることができる。
【0057】
(晶析時間)
なお、本実施形態においては、炭酸マグネシウムを晶析させる際の晶析時間は、上述の晶析温度と晶析時間との積が60℃・h以上210℃・h未満となる時間であれば特に限定されない。すなわち、晶析時間は、0.75時間以上4.2未満の範囲内の時間であればよい。なお、本明細書では、晶析時間は、分離工程後の水溶液を昇温して晶析温度に達した時点から、その温度を維持する時間を意味する。
【0058】
(加熱工程)
本実施形態においては、晶析工程は、晶析された炭酸マグネシウムを加熱する加熱工程を更に含んでいてもよい。晶析された炭酸マグネシウムを加熱することで、炭酸マグネシウムの結晶形態が針状結晶又は板状結晶に更になりやすくなる。その結果、炭酸マグネシウムの嵩がより低くなりやすく、炭酸マグネシウムの取り扱いをより確実に高めることができる。
【0059】
(加熱温度)
加熱工程において、炭酸マグネシウムの加熱温度は特に限定されないが、例えば50℃以上250℃以下の温度が挙げられる。炭酸マグネシウムを取り扱う観点から、加熱温度の好ましい下限温度は60℃である。また、炭酸マグネシウムの取り扱い易さ又は生産性の点から、加熱温度の好ましい上限温度は150℃である。
【0060】
(加熱時間)
加熱工程において、炭酸マグネシウムの加熱時間は特に限定されないが、例えば1時間以上72時間以下の時間が挙げられる。炭酸マグネシウムを取り扱う観点から、加熱時間の好ましい下限は3時間である。また、炭酸マグネシウムの取り扱い易さ又は生産性の点から、加熱時間の好ましい上限は48時間である。
【0061】
以上のような晶析工程によって晶析した炭酸マグネシウムは、水溶液中の固形分として得られる。そのため、晶析した炭酸マグネシウムを含む水溶液を固液分離することで、固体としての炭酸マグネシウムを得ることができる。すなわち、晶析工程は、晶析した炭酸マグネシウムを含む水溶液を固液分離して、固体としての炭酸マグネシウムを得る工程を更に含んでいてもよい。
【0062】
晶析した炭酸マグネシウムを含む水溶液を固液分離する手段は特に限定されず、例えば上述の分離工程と同様の分離手段を用いることができる。
【0063】
なお、晶析工程においては、必要に応じて、晶析した炭酸マグネシウムの洗浄工程を行ってもよい。
【0064】
以上の晶析工程によって得られた炭酸マグネシウムは、次の焼成工程に供される。
【0065】
<焼成工程>
焼成工程は、晶析工程によって得られた炭酸マグネシウムを焼成して酸化マグネシウムを得る工程である。
【0066】
炭酸マグネシウムを焼成する際の焼成手段は、酸化マグネシウムを生成し得るものであれば特に限定されない。そのような焼成手段としては、例えば焼成炉又はマイクロ波を用いたものが挙げられる。
【0067】
炭酸マグネシウムを焼成する際の焼成温度は、酸化マグネシウムを生成し得る温度であれば特に限定されない。そのような焼成温度としては、例えば600℃以上の温度が挙げられる。焼成温度の上限温度は特に限定されないが、酸化マグネシウムの品質又は生産性の点から、例えば1500℃である。焼成温度は、700℃以上の温度が好ましい。また、焼成温度は、1200℃以下の温度が好ましい。
【0068】
炭酸マグネシウムを焼成する際の焼成時間は、酸化マグネシウムを生成し得る時間であれば特に限定されない。そのような焼成時間としては、1分以上の時間が挙げられる。焼成時間の上限は特に限定されないが、生産性の点から、例えば24時間である。焼成時間は、30分以上の時間であることが好ましい。また、焼成時間は、6時間以下の時間であることが好ましい。
【0069】
以上の焼成工程によって得られた酸化マグネシウムは、必要に応じて、追加の処理工程に供してもよい。そのような処理工程としては、例えば、酸化マグネシウムの粒子表面を各種の表面処理剤で処理する表面処理工程、酸化マグネシウムを粉砕して粉末化する粉砕処理工程、酸化マグネシウムを粒子サイズごとに分級する分級処理工程、又は、酸化マグネシウムを所定形状に成形する成形処理工程が挙げられる。
【0070】
以上のような本実施形態の製造方法によれば、より取り扱いに優れた酸化マグネシウムを得ることができる。
【0071】
なお、本発明の製造方法は、上述の実施形態や後述する実施例に制限されることなく、本発明の目的、趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜組み合わせや代替、変更等が可能である。
【実施例0072】
以下、実施例及び比較例を例示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこのような実施例のみに限定されるものではない。
【0073】
実施例1
反応槽に15g/Lの水酸化マグネシウム懸濁液を入れた。この水酸化マグネシウム懸濁液を撹拌しながら、炭酸ガスを500mL/分の速度で懸濁液のpHが所定の値になるまで吹込み、炭酸水素マグネシウム水溶液を得た。
【0074】
得られた炭酸水素マグネシウム水溶液をヌッチェにより固液分離し、固形分である不純物を除去した。その後、溶液を70℃に加熱し、その温度を1時間保持することにより、炭酸マグネシウムを析出させた。次いで、この溶液を濾過することにより、炭酸マグネシウムの固形物を得た。さらに、得られた固形物を105℃で24時間加熱することにより、塩基性炭酸マグネシウムの粉末を得た。
【0075】
焼成用のるつぼを用意し、これに塩基性炭酸マグネシウムを入れた。このるつぼを予め900℃に加熱保持した焼成炉に投入した。投入後、大気圧下にて900℃で2時間焼成を行うことにより、酸化マグネシウムの焼成物を得た。得られた焼成物を150ミクロンのフィルターで篩過し、実施例1の酸化マグネシウムの粉末を得た。
【0076】
実施例2
晶析時間を2時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2の酸化マグネシウムの粉末を得た。
【0077】
実施例3
晶析温度を60℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例3の酸化マグネシウムの粉末を得た。
【0078】
実施例4
晶析温度及び晶析時間をそれぞれ60℃及び2時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例4の酸化マグネシウムの粉末を得た。
【0079】
実施例5
晶析温度及び晶析時間をそれぞれ60℃及び3時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例5の酸化マグネシウムの粉末を得た。
【0080】
実施例6
焼成温度を800℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例6の酸化マグネシウムの粉末を得た。
【0081】
比較例1
晶析時間を3時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして比較例1の酸化マグネシウムの粉末を得た。
【0082】
比較例2
晶析温度を80℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして比較例2の酸化マグネシウムの粉末を得た。
【0083】
比較例3
晶析温度及び晶析時間をそれぞれ90℃及び0.5時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして比較例3の酸化マグネシウムの粉末を得た。
【0084】
比較例4
晶析温度を90℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして比較例4の酸化マグネシウムの粉末を得た。
【0085】
比較例5
晶析温度及び晶析時間をそれぞれ95℃及び3時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして比較例5の酸化マグネシウムの粉末を得た。
【0086】
比較例6
晶析温度及び晶析時間をそれぞれ95℃及び6時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして比較例6の酸化マグネシウムの粉末を得た。
【0087】
以上のようにして得られた実施例1~6及び比較例1~6の、中間生成物である炭酸マグネシウムと、最終生成物である酸化マグネシウムについて、それぞれの嵩(mL/10g)を下記の測定方法に従って測定した。測定結果は、下記の表1に示す。
【0088】
(嵩の測定方法)
測定対象となる炭酸マグネシウム又は酸化マグネシウムのサンプルを5g量り取り、100mLのメスシリンダーに入れて、サンプルの容積(mL)を測定する。得られたサンプル5g当たりの容積(mL)を、10g当たりの容積(mL)に換算し、嵩(mL/10g)とする。
【0089】
【表1】
【0090】
実施例1の中間生成物である炭酸マグネシウムと、焼成後の最終生成物である酸化マグネシウムとを、走査型電子顕微鏡で観察し、それぞれの結晶形態を確認した。同様に、比較例5の中間生成物である炭酸マグネシウムと、焼成後の最終生成物である酸化マグネシウムとを、走査型電子顕微鏡で観察し、それぞれの結晶形態を確認した。これらの走査型電子顕微鏡写真を図1に示す。
【0091】
(打錠試験)
手動式卓上錠剤成型機HAND-TAB(市橋精機株式会社製、HANDTAB-100R)を用いて、実施例1~6の酸化マグネシウム(250mg、φ10平杵)に10kNの圧力をかけて打錠し、錠剤を成型した。得られた錠剤に対し、錠剤評価として厚み(mm)と硬さ(N)を測定した。錠剤の硬さは、ロードセル式卓上硬度計(岡田精工株式会社製、DC-50)を用いて測定した。錠剤の硬さの測定値は、3回の測定の平均値を採用した。錠剤評価の結果を下記の表2に示す。
【0092】
【表2】
【0093】
表1に示すとおり、本発明の製造方法によって製造された実施例1~6の酸化マグネシウムは、いずれも嵩が低く、成形時の取り扱いを向上させ得ることがわかった。また、実施例1~6の中間生成物である炭酸マグネシウムも嵩が低く、取り扱いに優れていることがわかった。
一方、晶析条件が異なる製造方法によって製造された比較例1~6の酸化マグネシウムは、いずれも嵩が高く、成形時の取り扱いが悪くなることがわかった。また、比較例1~6の中間生成物である炭酸マグネシウムも嵩が高く、取り扱いが悪いことがわかった。
【0094】
さらに、図1に示すとおり、実施例1の中間生成物である炭酸マグネシウム及び焼成後の最終生成物である酸化マグネシウムは、いずれも針状結晶の結晶形態を有していた。一方、比較例5の中間生成物である炭酸マグネシウム及び焼成後の最終生成物である酸化マグネシウムは、いずれも嵩の高い花弁状結晶の結晶形態を有していた。上述の実施例と比較例の嵩の差異は、このような結晶形態の差異に起因するものと推察される。
【0095】
また、表2に示すとおり、実施例1~6の酸化マグネシウムは、錠剤性にも優れていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の酸化マグネシウムの製造方法は、例えば医薬品、食品、加硫促進剤、顔料、化学蓄熱材、電池材料、セラミック材料、吸着剤、研磨剤及び触媒の各種用途に用い得る酸化マグネシウムの製造に、好適に利用することができる。
図1