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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162742
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】EPDM組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/16 20060101AFI20241114BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20241114BHJP
   C08L 57/00 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C08L23/16
C08L9/00
C08L57/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078600
(22)【出願日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】逢坂 凌
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC032
4J002BB151
4J002BQ003
4J002GJ02
(57)【要約】
【解決手段】 植物由来成分含有エチレン・プロピレン・ジエン3元共重合体100重量部に対して、液状ポリブタジエン1.0~12.0重量部および植物由来成分含有テルペン樹脂1.0~12.0重量部が配合されたEPDM組成物。このEPDM組成物は、環境負荷が小さい植物由来成分を少なくとも一部に有するEPDMに、これとの相溶性が良く、生地粘度を低下させることにより、ロール加工性の改善を可能とする液状ポリブタジエンを添加し、さらにこの液状ポリブタジエンの添加による低下が逃れられないバイオマス度を植物由来成分含有テルペン樹脂を特定量用いることで、ロール混練時のバギング発生をも抑制しつつ、得られるEPDMのバイオマス度を維持、具体的には液状ポリブタジエン部および植物由来成分含有テルペン樹脂を添加しない組成物と比べ、バイオマス度の変化率が-1.5%未満であるといったすぐれた効果を奏する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来成分含有エチレン・プロピレン・ジエン3元共重合体100重量部に対して、液状ポリブタジエン1.0~12.0重量部および植物由来成分含有テルペン樹脂1.0~12.0重量部が配合されたEPDM組成物。
【請求項2】
液状ポリブタジエン部および植物由来成分含有テルペン樹脂を添加しない組成物と比べ、バイオマス度の変化率が-1.5%未満である請求項1記載のEPDM組成物。
【請求項3】
ムーニー粘度ML1+4(125℃)が65以下である請求項1記載のEPDM組成物。
【請求項4】
請求項1記載のEPDM組成物の加硫成形品。
【請求項5】
シール材または防振用ゴムである請求項4記載の加硫成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EPDM組成物に関する。さらに詳しくは、シール用、防振用ゴム加硫成形材料などとして有効に用いられるEPDM組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン・プロピレン・ジエン3元共重合ゴム(EPDM)は、そのポリマー構造から耐熱性が良好であり、広く工業用部品の成形材料として用いられている。
【0003】
これら各種部品のうち、特にガスケットやバルブ等は、良好な耐圧縮永久歪特性が要求されるため、パーオキサイド架橋が用いられる。ここで、パーオキサイド架橋系は架橋の誘導時間が短く、架橋時の立ち上がりが速いため、複雑な形状や薄い形状などの流動性が要求される品目においては、それの成形不良を改善するため、可塑剤を添加することが必要とされる。
【0004】
かかるEPDM組成物として、本出願人は先に、成形加工性を満足させるとともに、架橋物が良好な耐圧縮永久歪特性を示すEPDM組成物として、エチレン-プロピレン-ジエン系共重合ゴム100重量部に対して、(A)平均粒子径60~100nm、ヨウ素吸着量14~23g/kg、DBP吸油量100ml/100g以上のカーボンブラックA 32~60重量部、(B)平均粒子径40~50nm、ヨウ素吸着量35~49g/kg、DBP吸油量100~160ml/100gのカーボンブラックB 10~30重量部、(C)エチレン-α-オレフィン共重合体2~10重量部および(D)シリカ 0~16重量部を配合してなるシール用ゴム組成物を提案している(特許文献1)。
【0005】
一方で昨今、持続可能な社会の実現に向け、その生成過程において二酸化炭素の取り込みと固定が行われる植物由来原料が、大気中の二酸化炭素総量を変化させることなく循環利用ができる点、および非枯渇原料であるという点で石油系原料よりもすぐれていることから、その積極的な利用がきわめて重要であるとされてきている。
【0006】
かかる観点より、ゴム組成物、特にシール材や防振用ゴム等に汎用されているEPDM組成物においても、植物由来原料の使用が強く望まれている。
【0007】
EPDMを用いたゴム組成物では、一般にオープンロールでの混練作業時の加工性(以下、ロール加工性とする)が悪い時、特にロールに巻き付いたゴムが表面から剥がれる、いわゆるバギングが発生する。このバギングを抑制するため、一般にはEPDMと相溶性の良い鉱油系可塑剤の添加が行われている。しかしながら、植物由来成分を少なくとも一部に用いたEPDMを用いた場合には、鉱油系可塑剤によってゴム組成物のバイオマス度が低下することとなってしまう。そのため、バギング発生を抑制しつつ、バイオマス度を維持することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2023-30734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、植物由来成分を少なくとも一部に用いたEPDM組成物において、バギング発生を抑制しつつ、得られるEPDMのバイオマス度を維持し得るEPDM組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる本発明の目的は、植物由来成分含有エチレン・プロピレン・ジエン3元共重合体100重量部に対し、液状ポリブタジエン1.0~12.0重量部および植物由来成分含有テルペン樹脂1.0~12.0重量部が配合されたEPDM組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るEPDM組成物は、環境負荷が小さい植物由来成分を少なくとも一部に有するEPDMに、これとの相溶性が良く、生地粘度を低下させることにより、ロール加工性の改善を可能とする液状ポリブタジエンを添加し、さらにこの液状ポリブタジエンの添加による低下が逃れられないバイオマス度を植物由来成分含有テルペン樹脂を特定量用いることで、ロール混練時のバギング発生をも抑制しつつ、得られるEPDMのバイオマス度を維持、具体的には液状ポリブタジエンおよび植物由来成分含有テルペン樹脂を添加しない組成物と比べ、バイオマス度の変化率が-1.5%未満であるといったすぐれた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
EPDMとしては、植物由来成分を少なくとも一部、具体的には40~80重量%含有するエチレンおよびプロピレンに各種の非共役ジエン成分を少量共重合させたものが用いられる。ここで、植物由来成分としては、サトウキビから精製したエチレン等が挙げられ、かかるEPDMとしては例えば市販品であるARLANXEO社製品Keltan ECO 6950(サトウキビから精製したエチレンの割合;48重量%)、5470(サトウキビから精製したエチレンの割合;70重量%)、8550(サトウキビから精製したエチレンの割合;55重量%)等をそのまま用いることができる。
【0013】
液状ポリブタジエンとしては、1,2-ビニル量が25重量%以上、好ましくは28~99重量%の液状ポリブタジエンが配合される。可塑剤としてこれ以外の種類のものあるいは1,2-ビニル量がこれより少ないものが用いられると、所望の成形加工性を満足させることができない。実際には、市販品である日本曹達製品NISSO-PBシリーズ、CRAYVALLEY社製品RICONシリーズ等をそのまま用いることができる
【0014】
液状ポリブタジエンは、EPDM100重量部当り1~12重量部、好ましくは2~10重量部の割合で配合されて用いられる。液状ポリブタジエン量がこれより多い割合で用いられると、混練時に生地の貼りつきによるロール加工性悪化が見られるようになり、一方これより少ない割合で用いられると、ムーニー粘度ML1+4(125℃)が65より大きくなってしまい、バギングが発生するようになってしまう。
【0015】
ここで、流動体積から判断される成形加工性に加えて、引張強さおよび破断時伸びの値をバランス良く満足させるといった観点からは、1,2-ビニル量が25~35重量%の液状ポリブタジエン10~30重量部および1,2-ビニル量が90~99重量%の液状ポリブタジエン5~15重量部を併用することが好ましい。
【0016】
植物由来成分含有テルペン樹脂としては、植物由来成分を少なくとも一部に有するテルペン樹脂、例えば松やオレンジの皮から精製されたテレビン油やオレンジオイルを更に精製してテルペン樹脂としたものが用いられる。かかる植物由来成分含有テルペン樹脂としては、例えば市販品であるヤスハラケミカル製品YSレジン105(植物由来成分;70重量%)等のYSレジンシリーズが、EPDM100重量部当り1~12重量部、好ましくは2~10重量部の割合で配合されて用いられる。植物由来成分含有テルペン樹脂がこれより多い割合で用いられると、混練時に生地の貼りつきによるロール加工性悪化が見られるようになり、一方これより少ない割合で用いられると、ムーニー粘度ML1+4(125℃)が65より大きくなってしまいバギングが発生するようになり、バイオマス度の低下を抑制することが難しくなってってしまう場合がある。
【0017】
植物由来成分含有テルペン樹脂を用いることにより、液状ポリブタジエンの添加による低下が逃れられないバイオマス度を補うことが可能となり、ロール混練時のバギング発生をも抑制しつつ、得られるEPDMのバイオマス度を維持することができる。
【0018】
以上の必須成分よりなるEPDM組成物には、架橋剤として有機過酸化物が配合される。有機過酸化物としては、例えば第3ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、第3ブチルクミルパーオキサイド、1,1-ジ(第3ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ジ(第3ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、第3ブチルパーオキシベンゾエート、第3ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、n-ブチル-4,4-ジ(第3ブチルパーオキシ)バレレート等が用いられる。
【0019】
これらの有機過酸化物は、EPDM100重量部当り約1~8重量部、好ましくは約2~7重量部の割合で用いられる。これ以下の配合割合では、十分な架橋密度が得られず、耐熱性や耐圧縮永久歪特性が劣るようになり、一方これ以上の割合で用いられると、発泡により架橋成形品が得られなくなる。
【0020】
組成物中には、以上の各成分以外に、ステアリン酸、パルミチン酸、パラフィン系、エステル系、ポリα-オレフィン、プロセスオイル、ワックス等の加工助剤、カーボンブラック、シリカ等の充填剤または補強剤、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等の2価金属の酸化物または水酸化物、ハイドロタルサイト等の受酸剤、液状ポリブタジエン以外の可塑剤、老化防止剤等、ゴム工業で一般的に用いられている配合剤が、物性を損ねない範囲で適宜添加されて用いられる。
【0021】
組成物の調製は、密閉型混練機等を用いて混練することによって行われ、それの架橋は約150~220℃で約1~20分間程度行われるプレス加硫および必要に応じて行われる約120~200℃で約0.1~20時間程度行われるオーブン加硫(二次加硫)によって行われる。
【実施例0022】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0023】
実施例1
植物由来成分含有EPDM(ARLANXEO社製品Keltan ECO 6950) 100重量部
カーボンブラック(東海カーボン製品シーストS) 55 〃
液状ポリブタジエン(日本曹達製品B-3000) 2 〃
植物由来成分含有テルペン樹脂(YSレジン105) 5 〃
酸化亜鉛(堺化学工業製品酸化亜鉛1種) 4 〃
有機過酸化物(日本油製品パークミルD) 3.5 〃
以上の各成分をニーダおよびオープンロールで混練し、混練物について180℃、t90×1.5秒の架橋速度で架橋を行い、次いで150℃、15時間ポストキュアを行い、厚さ2mmの試験片を得た。
【0024】
実施例2
実施例1において、液状ポリブタジエン量が5重量部に、テルペン樹脂量が2重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0025】
実施例3
実施例1において、液状ポリブタジエン量が5重量部に変更されて用いられた。
【0026】
実施例4
実施例1において、液状ポリブタジエン量が5重量部に、テルペン樹脂量が10重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0027】
実施例5
実施例1において、液状ポリブタジエン量が10重量部に変更されて用いられた。
【0028】
実施例6
実施例1において、液状ポリブタジエン量が10重量部に、テルペン樹脂量が10重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0029】
比較例1
実施例1において、液状ポリブタジエンおよびテルペン樹脂が用いられなかった。
【0030】
比較例2
比較例1において、EPDMとして、植物由来成分を含有しないEPDM(ARLANXEO社製品Keltan 6950)が同量(100重量部)用いられた。
【0031】
比較例3
比較例1において、さらに可塑剤(出光興産製品PW-380)10重量部が用いられた。
【0032】
比較例4
比較例2において、さらに可塑剤(出光興産製品PW-380)10重量部が用いられた。
【0033】
比較例5
実施例1において、テルペン樹脂が用いられなかった。
【0034】
比較例6
実施例5において、テルペン樹脂が用いられなかった。
【0035】
比較例7
実施例1において、液状ポリブタジエンが用いられなかった。
【0036】
比較例8
実施例4において、液状ポリブタジエンが用いられなかった。
【0037】
比較例9
実施例1において、液状ポリブタジエン量が15重量部に変更された。
【0038】
比較例10
実施例2において、テルペン樹脂量が20重量部に変更された。
【0039】
以上の各実施例および比較例の混練物または得られた試験片について、ロール加工性、ムーニー粘度、バイオマス度および常態物性の測定、評価および算出が行われた。

ロール加工性:10インチオープンロールを用い、間隙4mmで、前ロール14rpm
および後ロール17rpmの速度条件下で混練を行い、下記の基準
により評価
○:問題なくロールでの混練作業ができる
×:バギングにより混練が困難である
*:生地がロールに貼りつき混練が困難である
ムーニー粘度ML1+4:JIS K6300準拠(125℃)
バイオマス度:植物由来成分の含有割合(重量%)であり、下記式により算出
{EPDM組成物中の植物由来成分重量(g)
/EPDM組成物重量(g)}×100
常態物性:JIS K6253、6251準拠
【0040】
得られた結果は、次の表1~2に示される。

表1
測定・評価項目 実1 実2 実3 実4 実5 実6
ロール加工性 ○ ○ ○ ○ ○ ○
ムーニー粘度ML1+4 63 56 55 55 45 43
バイオマス度(重量%) 30.4 29.1 29.8 31.0 29.2 30.1
硬さ(JIS A) 69 71 70 64 71 66
引張強さ Ts (MPa) 17.0 16.7 16.5 15.7 15.4 17.0
破断時伸び Eb(%) 210 170 200 250 170 200

表2
測定・評価項目 比1 比2 比3 比4 比5 比6 比7 比8 比9 比10
ロール加工性 × × ○ ○ × ○ × × * *
ムーニー粘度ML1+4 78 78 57 57 66 50 69 67 32 48
バイオマス度(重量%) 29.5 0 27.8 0 29.2 27.8 30.7 31.9 28.2 33.1
硬さ(JIS A) 70 70 67 66 72 76 68 64 74 60
引張強さ Ts (MPa) 12.8 11.5 16.9 17.0 12.8 14.5 15.9 15.2 15.7 17.3
破断時伸び Eb(%) 140 140 240 220 140 100 210 260 100 360
【0041】
以上のことから、次のことがいえる。
(1) 各実施例で得られたEPDM組成物は、混練時の加工性が良好であり、バギング発生を抑制しつつ、得られるEPDMのバイオマス度を維持している。
(2) 液状ポリブタジエンおよび/またはテルペン樹脂が用いられないと、ムーニー粘度ML1+4(125℃)が65より大きくなってしまいバギングが発生する(比較例1~2、5、7~8)。
(3) 液状ポリブタジエンおよびテルペン樹脂が用いられない場合であっても、可塑剤を添加することでムーニー粘度ML1+4(125℃)は65以下とすることは可能であり、バギングの発生を抑えることができ、さらにロール加工性も良好であるが、バイオマス度の低下を避けることができない(比較例3)。
(4) テルペン樹脂が用いられないと、バイオマス度の低下を避けることができない(比較例6)。
(5) 植物由来成分含有いたテルペン樹脂を用いたとしても、液状ポリブタジエンが用いられないとムーニー粘度ML1+4(125℃)が65より大きくなってしまい、バギングが発生する(比較例1~2、5、7~8)
(6) 液体ポリブタジエンまたは植物由来成分含有テルペン樹脂を用いた場合であっても、規定量以上の割合で用いられると、混練時に生地の貼りつきによるロール加工性悪化が見られるようになる(比較例9~10)。