(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162747
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】梁接合構造及び梁接合構造の性能向上方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20241114BHJP
E04B 1/24 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
E04B1/58 506S
E04B1/24 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078607
(22)【出願日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤本 佳和
(72)【発明者】
【氏名】高稻 宜和
(72)【発明者】
【氏名】久保田 淳
(72)【発明者】
【氏名】上瀧 敬太
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA04
2E125AA14
2E125AB01
2E125AB16
2E125AG45
2E125AG50
2E125CA90
(57)【要約】
【課題】スカラップを有する梁接合構造において、梁に早期に亀裂が生じることを抑制する。
【解決手段】鋼製の柱10に接合される鋼製の梁20の接合構造100において、梁20は、H形鋼材により形成され、梁20のウェブ部23は、柱10に対向する端面23aから下側フランジ21に向かって切り欠かれた下側スカラップ25aと、下側スカラップ25aから所定の範囲にわたって厚さが減少された減厚部26と、減厚部26に貫通して形成された開口部40と、を有し、開口部40は、ウェブ部23の端面23aから梁20の材軸方向に所定の距離以上離れた箇所に設けられる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製の柱に接合される鋼製の梁の接合構造であって、
前記梁は、一対のフランジ部と前記一対のフランジ部に挟まれたウェブ部とを有するH形鋼材により形成され、強軸方向が鉛直方向に沿うように前記柱に接合され、
前記ウェブ部は、
前記柱に対向する端面から前記一対のフランジ部のうち鉛直方向下方に配置される下側フランジに向かって切り欠かれた下側スカラップと、
前記下側スカラップから所定の範囲にわたって厚さが減少された減厚部と、
前記減厚部に貫通して形成された開口部と、を有し、
前記開口部は、前記ウェブ部の前記端面から前記梁の材軸方向に所定の距離以上離れた箇所に設けられる、
梁接合構造。
【請求項2】
前記所定の距離は、前記梁の材軸方向における前記減厚部の長さの半分以上の大きさに設定される、
請求項1に記載の梁接合構造。
【請求項3】
前記下側フランジの上面から前記開口部の下端までの高さは、前記下側フランジの上面から前記減厚部の下端までの高さよりも低く設定される、
請求項1または2に記載の梁接合構造。
【請求項4】
前記開口部の最大外径の大きさは、前記下側スカラップの鉛直方向における最大高さよりも小さく設定される、
請求項1または2に記載の梁接合構造。
【請求項5】
前記開口部は楕円状の孔である、
請求項1に記載の梁接合構造。
【請求項6】
前記開口部は、長軸方向が、鉛直方向に対して所定の角度で前記ウェブ部の前記端面とは反対側に傾斜する傾斜線に沿うように設けられる、
請求項5に記載の梁接合構造。
【請求項7】
前記開口部は、前記梁の材軸方向において、前記減厚部と、前記減厚部が形成されていない前記ウェブ部と、に跨って設けられる、
請求項1,2,5及び6の何れか1つに記載の梁接合構造。
【請求項8】
前記開口部は複数の貫通孔であり
前記複数の貫通孔は、鉛直方向に対して所定の角度で前記ウェブ部の前記端面とは反対側に傾斜する傾斜線に沿って配置される、
請求項1または2に記載の梁接合構造。
【請求項9】
鋼製の柱に接合される鋼製の梁の接合構造の性能向上方法であって、
前記梁が、一対のフランジ部をウェブ部に溶接接合することにより形成され、その強軸方向が鉛直方向に沿うように前記柱に接合され、前記ウェブ部が、前記柱に対向する端面から前記一対のフランジ部のうち鉛直方向下方に配置される下側フランジに向かって切り欠かれた下側スカラップを有する、梁接合構造の性能を向上する方法において、
前記下側スカラップから所定の範囲にわたって厚さが減少された減厚部を前記ウェブ部に形成する工程と、
前記ウェブ部の前記端面から前記梁の材軸方向に所定の距離以上離れた箇所に、前記減厚部を貫通する開口部を形成する工程と、を有する、
梁接合構造の性能向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼製の柱に接合される鋼製の梁の接合構造及び接合構造の性能向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鋼製の柱に接合されるH形鋼材製の梁のウェブ部にスカラップを設けた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の梁接合構造のように、鋼製の柱に対して梁のフランジ部を連続溶接するために、梁のウェブ部にはフランジ部に向かって切り欠かれた略四分円形状のスカラップが一般的に設けられる。このように梁のウェブ部にスカラップが設けられた構成では、地震等によって梁に鉛直方向荷重や捩じり荷重が作用すると、スカラップ周辺に応力が集中することによって梁のフランジ部に早期に亀裂が生じるおそれがある。
【0005】
本発明は、スカラップを有する梁接合構造において、梁に早期に亀裂が生じることを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、鋼製の柱に接合される鋼製の梁の接合構造であり、梁は、一対のフランジ部と一対のフランジ部に挟まれたウェブ部とを有するH形鋼材により形成され、強軸方向が鉛直方向に沿うように柱に接合され、ウェブ部は、柱に対向する端面から一対のフランジ部のうち鉛直方向下方に配置される下側フランジに向かって切り欠かれた下側スカラップと、下側スカラップから所定の範囲にわたって厚さが減少された減厚部と、減厚部に貫通して形成された開口部と、を有し、開口部は、ウェブ部の端面から梁の材軸方向に所定の距離以上離れた箇所に設けられる。
【0007】
また、本発明は、鋼製の柱に接合される鋼製の梁の接合構造の性能向上方法であり、梁が、一対のフランジ部をウェブ部に溶接接合することにより形成され、その強軸方向が鉛直方向に沿うように柱に接合され、ウェブ部が、柱に対向する端面から一対のフランジ部のうち鉛直方向下方に配置される下側フランジに向かって切り欠かれた下側スカラップを有する、梁接合構造の性能を向上する方法において、下側スカラップから所定の範囲にわたって厚さが減少された減厚部をウェブ部に形成する工程と、ウェブ部の端面から梁の材軸方向に所定の距離以上離れた箇所に、減厚部を貫通する開口部を形成する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スカラップを有する梁接合構造において、梁に早期に亀裂が生じることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る梁接合構造の側面図である。
【
図2】梁において生じる亀裂の進行について説明するための図である。
【
図3】
図1の矢印Aで示される部分の拡大図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る梁接合構造の変形例の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る梁接合構造及び梁接合構造の性能向上方法について説明する。
【0011】
図1を参照して、本実施形態に係る梁接合構造100について説明する。梁接合構造100は、鉄骨造の建築物において、鋼製の柱10に溶接接合される鋼製の梁20の接合部の構造であり、以下では、
図1に示すように、鉛直方向に沿って立設された柱10に対して溶接接合される水平方向に沿って配置された梁20の接合部の構造を例に説明する。
図1は、本実施形態に係る梁接合構造100を示す側面図である。なお、柱10は、厳密に鉛直方向に沿ったものに限定されず、また、梁20は、厳密に水平方向に沿って配置されたものに限定されない。また、柱10と梁20とは互いに直交して接合されるものに限定されない。
【0012】
柱10は、
図1に示されるように、角形鋼管により形成された鋼管部11と、鉛直方向において鋼管部11の間に設けられ、突合せ溶接によって鋼管部11と一体化されるダイアフラム12と、により構成された鋼管柱である。
【0013】
ダイアフラム12は、いわゆる通しダイアフラムであり、鋼管部11よりも一辺の長さが大きい略正方形の鋼板により形成される。ダイアフラム12は、後述の梁20の一対のフランジ部21,22の間隔に合わせて、鉛直方向に所定の間隔をあけて一対配置され、その厚さは、フランジ部21,22の板厚よりも所定の大きさだけ厚く設定されている。
【0014】
また、一対のダイアフラム12間に配置される鋼管部11には、図示しない高力ボルトを介して後述の梁20のウェブ部23と接合されるガセットプレート14が鉛直方向に沿って溶接接合されている。
【0015】
なお、柱10の構成は、上述の構成に限定されず、梁20が溶接接合可能であればどのような構成であってもよく、例えば、H形鋼や円形鋼管で構成された鋼製柱や複数の等辺山形鋼を連結することにより構成されたトラス構造柱、鋼管内にコンクリートを流し込むことにより形成されたコンクリート充填鋼管柱であってもよい。また、ダイアフラム12は、通しダイアフラムに限定されず、鋼管部11の内側に溶接された内ダイアフラムであってもよいし、ダイアフラムが設けられない構成であってもよい。
【0016】
梁20は、一対のフランジ部21,22と、一対のフランジ部21,22に挟まれたウェブ部23と、を有するH形鋼材であって、一対のフランジ部21,22となる一対の鋼板がウェブ部23となる鋼板に溶接接合されることによって形成された、いわゆるビルドH形鋼である。
【0017】
梁20は、ウェブ部23をガセットプレート14に図示しない高力ボルトを介して仮接合した状態で、一対のフランジ部21,22をダイアフラム12にそれぞれ溶接接合することによって柱10に接合される。つまり、梁20は、強軸方向が鉛直方向に沿った状態、すなわち、鉛直方向下方に配置された下側フランジ21と鉛直方向上方に配置された上側フランジ22とに挟まれたウェブ部23が鉛直方向に沿って配置された状態で柱10に接合される。
【0018】
なお、柱10に対するウェブ部23の接合は、高力ボルトによるボルト接合に限定されず、ウェブ部23の端面23aを柱10に直接溶接接合することにより行われてもよい。この場合、ガセットプレート14は柱10に設けられない。
【0019】
柱10に対する梁20の溶接接合は、具体的には、各フランジ部21,22の下面とダイアフラム12の側面とに対して部分的に溶接固定された裏当て金31を各フランジ部21,22の幅方向に沿って予め設けておき、裏当て金31に沿って各フランジ部21,22とダイアフラム12との対向部分を連続的に溶接する完全溶け込み溶接によって行われる。
【0020】
溶接が行われることによって、各フランジ部21,22とダイアフラム12と裏当て金31とにより囲まれた領域には、溶接部32が形成されるが、この溶接部32を各フランジ部21,22の幅方向に沿って連続して形成するために、ウェブ部23には下側スカラップ25a及び上側スカラップ25bが予め形成されている。
【0021】
下側スカラップ25aは、下側フランジ21とダイアフラム12とが溶接される部分の近傍において、柱10に対向するウェブ部23の端面23aから下側フランジ21に向かってウェブ部23を略四分円形状に切り欠かくことにより形成された切り欠きである。下側スカラップ25aが設けられることで、下側フランジ21とダイアフラム12との間に溶接部32を裏当て金31に沿って連続的に形成することが可能である。
【0022】
一方、上側スカラップ25bは、上側フランジ22とダイアフラム12とが溶接される部分の近傍において、柱10に対向するウェブ部23の端面23aから上側フランジ22に向かってウェブ部23を略四分円形状に切り欠かくことにより形成された切り欠きである。上側スカラップ25bが設けられることで、上側フランジ22の幅方向に沿って裏当て金31を予め通しておくことが可能である。
【0023】
このようにウェブ部23に下側スカラップ25a及び上側スカラップ25bを設けておくことによって、各フランジ部21,22をダイアフラム12に対してそれぞれ連続溶接することが可能となり、柱10と梁20との接続強度を十分確保することができる。なお、溶接部32の始端及び終端において溶接不良が生じることを防止するために、各フランジ部21,22の幅方向外側にエンドタブを設けてもよい。
【0024】
一方で、下側スカラップ25aがウェブ部23に設けられた構成では、地震等によって梁20に鉛直方向荷重や捩じり荷重が作用すると、ウェブ部23を介して下側フランジ21に荷重が伝達される際に、下側スカラップ25aの下端周辺に応力が集中し、応力集中部分を起点として下側フランジ21に早期に亀裂が生じ、結果として、梁20が早期に破断に至るおそれがある。
【0025】
特に、
図2に示すように、下側フランジ21とウェブ部23とが溶接接合されるビルドH形鋼においては、ウェブ部23の最も端面23a側に形成される端面側溶接部24aの周辺、すなわち、下側フランジ21に下側スカラップ25aの下端部が接合される部分の周辺には、直線状の溶接よりも作業時間が長くなる回し溶接が行われることによって、溶接熱影響部が比較的広い範囲に形成される。溶接熱影響部は溶接時の熱により母材が変質し脆化していることから、溶接熱影響部が形成された下側スカラップ25aの下端周辺に応力が集中すると、この部分を起点として下側フランジ21に早期に亀裂が生じやすくなる。
【0026】
このような現象が生じることを避けるために、下側スカラップ25aから所定の範囲にわたって厚さが減少された減厚部26をウェブ部23に設けて下側フランジ21に接続されるウェブ部23の断面積を小さくし、下側スカラップ25aの下端周辺に応力が集中してしまうことを抑制し、梁20の塑性変形能力を向上させることが考えられる。
【0027】
また、減厚部26をウェブ部23に設けた場合、ウェブ部23と下側フランジ21とが減厚部26を介して接続された部分、特に、下側フランジ21とウェブ部23とを梁20の材軸方向(長手方向)に沿って隅肉溶接する際に形成された材軸方向溶接部24bの余盛を切削することにより形成された部分は比較的脆弱な部分となるため、例えば、
図2において端面側溶接部24a側から矢印R1で示す方向に材軸方向溶接部24bに沿って亀裂(
図2中の破線)が進行しやすくなる。したがって、下側スカラップ25aから梁20の材軸方向に沿って減厚部26を所定の範囲にわたって形成することにより、梁20の破断寿命を向上させることも期待される。なお、
図2は、
図1の矢印Aで示される部分を拡大して示した拡大図であり、後述の開口部40が設けられていない梁接合構造100を示している。
【0028】
ここで、減厚部26の端部に至った亀裂は、
図2において矢印R2で示される方向や矢印R3で示される方向へとさらに進行する可能性がある。
【0029】
図2において矢印R2で示される方向、すなわち、ウェブ部23に向かって亀裂が進行した場合、梁20が破断に至ることが避けられるため、結果として、減厚部26を設けたことによる梁20の破断寿命の改善効果がさらに大きくなることが期待される。一方で、矢印R3で示される方向、すなわち、下側フランジ21に向かって亀裂が進行した場合、梁20が比較的早期に破断に至ることになるため、減厚部26を設けたことによる梁20の破断寿命の改善効果が小さくなってしまうおそれがある。
【0030】
そこで、本実施形態では、亀裂の進展を抑制することが可能な開口部40を減厚部26に設けている。
【0031】
減厚部26は、
図4に示されるように、その厚さt2が、ウェブ部23の他の部分における板厚t1、すなわち、ウェブ部23を形成する鋼板の板厚t1よりも薄くされた部分であり、
図3に示されるように、梁20の材軸方向(長手方向)に沿って下側スカラップ25aから所定の範囲にわたって設けられる。なお、
図3は、
図1の矢印Aで示される部分を拡大して示した拡大図であり、
図4は、
図3のB-B線に沿う断面を拡大して示した拡大断面図である。
【0032】
具体的には、減厚部26の厚さt2は、例えばウェブ部23の板厚t1の半分以下に設定され、下側フランジ21の上面21aからの鉛直方向における減厚部26の上端高さH2は、例えば下側スカラップ25aの最大高さであるスカラップ高さH1から5mmを超えない範囲に設定される。
【0033】
また、減厚部26が設けられる部分のウェブ部23の端面23aからの梁20の材軸方向における長さL2、すなわち、減厚部26が設けられる部分のうち梁20の材軸方向においてウェブ部23の端面23aから最も離れた部分までの端面23aからの長さL2は、例えばウェブ部23の端面23aからの梁20の材軸方向における下側スカラップ25aの最大長さであるスカラップ長さL1の2倍以上に設定される。
【0034】
なお、上述の減厚部26の厚さt2、上端高さH2及び長さL2の設定範囲は例示であって、この範囲に限定されるものではなく、減厚部26の厚さt2は、ウェブ部23の元々の厚さよりも薄くなっていればよく、また、減厚部26の上端高さH2は、ウェブ部23の剛性が極度に低下しなければ、スカラップ高さH1から5mmを超えていてもよいし、スカラップ高さH1と同等かこれよりも低くてもよい。
【0035】
また、
図3及び
図4に示されるように、減厚部26は、ウェブ部23と下側フランジ21との接合部分に形成されるフィレットである材軸方向溶接部24bに及んで設けられ、材軸方向溶接部24bの一部を下側フランジ21の上面21aとほぼ平行に切削加工等によって除去することにより形成される。つまり、減厚部26は、
図3及び
図4に示されるように、下側フランジ21の上面21aからの鉛直方向における減厚部26の下端高さH3と、減厚部26の上端高さH2との間に形成される。なお、減厚部26の下端高さH3は、下側フランジ21の上面21aとほぼ同一平面上に位置するが、
図3及び
図4では、減厚部26の下端高さH3及び後述の開口部40の下端までの下端高さH4をわかりやすくするために誇張して示している。
【0036】
このように形成された減厚部26に対して、
図3及び
図4に示されるように、開口部40が、ウェブ部23の板厚方向に貫通して形成される。
【0037】
開口部40は、中心位置C1が減厚部26内に位置するようにウェブ部23に形成された断面形状が楕円状の貫通孔であり、ウェブ部23の端面23aから梁20の材軸方向に所定の距離、具体的には、減厚部26が設けられる部分の材軸方向における長さL2の半分の距離以上、離れた箇所に設けられる。
【0038】
また、開口部40は、
図3に示されるように、ウェブ部23の端面23aから最も離れた減厚部26の端部の鉛直方向線と、減厚部26の下端の水平方向線との交点P1を含むように形成される。つまり、開口部40は、減厚部26が設けられる部分のうち、梁20の材軸方向においてウェブ部23の端面23aから最も離れた部分に設けられる。
【0039】
このように交点P1を含むように形成された開口部40は、梁20の材軸方向において、減厚部26と、減厚部26が形成されていないウェブ部23とに跨るように形成されるとともに、下側フランジ21の上面21aから開口部40の下端までの下端高さH4が、下側フランジ21の上面21aから減厚部26の下端までの下端高さH3よりも低くなるように形成される。なお、材軸方向溶接部24bの切削量が大きく、減厚部26の下端高さH3が比較的小さい場合、開口部40は、下端が下側フランジ21の上面21aに接した状態、すなわち、開口部40の下端高さH4がゼロとなるように形成される。
【0040】
ここで、交点P1は、減厚部26が設けられる部分のうちウェブ部23の端面23aから最も離れた部分にある点であることから、交点P1を含む開口部40は、減厚部26内においてウェブ部23の端面23aから梁20の材軸方向に最も離れた箇所において開口することになる。
【0041】
このようにウェブ部23の端面23aから離れた場所に開口部40を設けておくことにより、材軸方向溶接部24bに沿って亀裂を十分に進展させることが可能になるとともに、開口部40へと到達した亀裂の先端における応力集中を開口部40で分散させ、亀裂が進展することを一時的に抑制することが可能となる。
【0042】
また、交点P1は、上述のように減厚部26の下端の材軸方向溶接部24bに沿って亀裂が進行した場合に亀裂が到達する可能性が高い箇所であることから、交点P1を含むように開口部40を形成しておくことにより、開口部40へと亀裂を確実に到達させることが可能となり、亀裂が下側フランジ21に向かって進展してしまうことを抑制することができる。
【0043】
特に、
図4に示されるように、下側フランジ21の上面21aから開口部40の中心位置C1までの中心高さH5を、減厚部26の下端高さH3や下側フランジ21の上面21aから減厚部26内の材軸方向溶接部24bの上端までの溶接高さH6よりも十分に高くし、開口部40の下方側に亀裂が到達しやすくしておくことにより、開口部40の下方へと到達した亀裂を、応力が分散された開口部40の上方側、すなわち、ウェブ部23側へと誘導することが可能である。
【0044】
これにより、ウェブ部23に減厚部26のみが設けられている場合と比較し、亀裂を十分に進展させた後、亀裂が下側フランジ21に進展することが抑制されることになるため、梁20の塑性変形能力及び破断寿命を向上させることができる。
【0045】
なお、減厚部26に形成された開口部40に亀裂が到達すると、下側フランジ21に作用する軸方向荷重が増大し下側フランジ21において局部座屈が生じる可能性が高まるものの、下側フランジ21に早期に亀裂が生じることは回避されることから、結果として、下側フランジ21が破断することが回避され、梁20の破断寿命を向上させることができる。
【0046】
また、開口部40は、
図3に示されるように、長軸方向が、鉛直方向に対して所定の角度でウェブ部23の端面23aとは反対側に傾斜する傾斜線40aに沿うように形成される。鉛直方向に対する傾斜線40aの傾斜角度θは、例えば30°から60°、好ましくは45°前後に設定される。
【0047】
ここで、開口部40の断面形状が楕円形である場合、開口部40によって一旦分散された亀裂先端の応力は、曲率が大きい長軸方向端部に集中しやすくなる。
【0048】
したがって、長軸方向が上述のように傾いた傾斜線40aに沿うように開口部40を形成しておくことにより、材軸方向溶接部24bに沿って進行した亀裂は、開口部40へと到達した後、開口部40の長軸方向へと誘導され、
図3に矢印R2で示されるように、下側フランジ21ではなく、ウェブ部23に向かって進展しやすくなる。これにより下側フランジ21が早期に破断することが回避されるため、梁20の破断寿命をさらに向上させることができる。
【0049】
また、開口部40の最大外径の大きさ、すなわち、開口部40の長軸の長さは、下側スカラップ25aの鉛直方向における最大高さであるスカラップ高さH1よりも小さく、または、減厚部26の鉛直方向における最大高さ(H2-H3)よりも小さく設定される。具体的には、スカラップ高さH1が35mm程度である場合、開口部40の長軸の長さは、25mm前後に設定され、開口部40の短軸の長さは、10mm前後に設定される。
【0050】
このように開口部40の最大外径の大きさを制限することにより、ウェブ部23の剛性の低下を抑制しつつ、下側フランジ21に早期に亀裂が生じることを抑制し、梁20の破断寿命を向上させることができる。
【0051】
上記形状の開口部40は、減厚部26と共に、梁20が柱10に溶接接合される前、または、梁20が柱10に溶接接合された後に、エンドミル等の一般的な工具を用いて形成することが可能であり、例えば、既に建築されている建築物の梁20に減厚部26及び開口部40を後から加工することも可能である。
【0052】
このため、柱10に接合済みの梁20または柱10に接合前の梁20に対して、下側スカラップ25aから所定の範囲にわたって厚さが減少された減厚部26をウェブ部23に形成する工程と、ウェブ部23の端面23aから梁20の材軸方向に所定の距離以上離れた箇所に、減厚部26を貫通する開口部40を形成する工程と、を追加して施すことによって、上記構成の梁接合構造100の性能を向上させることができる。
【0053】
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0054】
上記構成の梁接合構造100では、鋼製の柱10に溶接接合されるH形鋼材により形成された梁20のウェブ部23に、下側スカラップ25aと、下側スカラップ25aから所定の範囲にわたって厚さが減少された減厚部26と、減厚部26に貫通して形成された開口部40と、が設けられ、開口部40は、ウェブ部23の端面23aから梁20の材軸方向に所定の距離以上離れた箇所に設けられる。
【0055】
このように、減厚部26に貫通して形成される開口部40を、ウェブ部23の端面23aから梁20の材軸方向に所定の距離以上離れた箇所に設けておくことによって、下側フランジ21とウェブ部23との接続部に沿って亀裂を十分に進展させることが可能になるとともに、開口部40へと到達した亀裂の先端における応力集中を開口部40で分散させ、亀裂が進展することを一時的に抑制することが可能となる。これにより、ウェブ部23に減厚部26のみが設けられている場合と比較し、下側フランジ21に早期に亀裂が生じることが抑制されるため、梁20の塑性変形能力及び破断寿命を向上させることができる。また、地震力に対する梁20のエネルギー吸収性能が向上することで、上記構成の梁接合構造100が適用された建築物の耐震性を向上させることができる。
【0056】
また、長軸方向が傾斜線40aに沿うように楕円状の開口部40を形成しておくことにより、開口部40に到達した亀裂を、下側フランジ21ではなく、ウェブ部23へと誘導することによって、梁20の破断寿命をさらに向上させることができる。
【0057】
なお、次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の各実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0058】
上記実施形態では、開口部40の断面形状は、楕円形である。これに代えて、開口部40の断面形状は、単なる円形であってもよい。開口部40が円形の貫通孔である場合も、上記実施形態と同様に、下側フランジ21とウェブ部23との接続部に沿って進展し開口部40へと到達した亀裂の先端における応力集中は開口部40において分散されることになるため、亀裂が進展することを一時的に抑制することが可能である。したがって、この場合も下側フランジ21に早期に亀裂が生じることが抑制されることで、梁20の塑性変形能力及び破断寿命を向上させることができる。
【0059】
開口部40を円形とした場合、その最大外径の大きさ、すなわち、直径の大きさは、下側スカラップ25aの鉛直方向における最大高さであるスカラップ高さH1よりも小さく、または、減厚部26の鉛直方向における最大高さ(H2-H3)よりも小さく設定される。具体的には、スカラップ高さH1が35mm程度である場合、開口部40の直径の大きさは、10mm~25mm、好ましくは20mm前後に設定される。このように、開口部40を円形の貫通孔とした場合、開口部40が楕円状の貫通孔である場合と比較し、開口部40をドリル等によって容易に形成することができる。
【0060】
また、上記実施形態では、開口部40の中心位置C1は、減厚部26内に位置している。これに代えて、開口部40の少なくとも一部分が減厚部26内において開口していれば、開口部40の中心位置C1は、減厚部26の外側に位置していてもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、開口部40は、交点P1を含むように形成されている。これに代えて、開口部40は、亀裂が到達しやすい位置において開口していれば、交点P1を含まなくともよい。なお、開口部40をウェブ部23の端面23aから近い位置に設けてしまうと、下側フランジ21とウェブ部23との接続部に沿って進展する亀裂の長さが短くなり、梁20の破断寿命が短くなることから、開口部40が設けられる位置は、減厚部26が設けられる部分の材軸方向における長さL2の半分の距離以上、離れた箇所に設定される。また、開口部40の中心位置C1を高くしすぎると開口部40に亀裂が到達しにくくなることから、開口部40の中心高さH5は、減厚部26の上端高さH2の3分の2の高さよりも低く、好ましくは、減厚部26の上端高さH2の半分の高さよりも低く設定される。
【0062】
また、上記実施形態では、開口部40の下端高さH4は、減厚部26の下端高さH3よりも低く設定されている。これに代えて、開口部40の下端高さH4は、減厚部26の下端高さH3と同じ高さに設定されてもよいし、減厚部26の下端高さH3よりも高く設定されてもよい。なお、開口部40の下端高さH4を高くしすぎると開口部40に亀裂が到達しにくくなることから、開口部40の下端高さH4は、減厚部26の下端高さH3または減厚部26内の材軸方向溶接部24bの溶接高さH6から所定の高さを超えないように、例えば、減厚部26の下端高さH3の2倍の高さよりも低く設定される。
【0063】
また、上記実施形態では、開口部40は、単一の貫通孔である。これに代えて、開口部は、
図5に示す変形例のように、複数の貫通孔42,43,44からなるものであってもよい。
図5は、
図3に相当する梁接合構造100の側面図である。なお、貫通孔の数は、3つに限定されず、2つでもよいし、4つ以上であってもよい。
【0064】
図5に示す変形例では、複数の貫通孔42,43,44は、鉛直方向に対して所定の角度でウェブ部23の端面23aとは反対側に傾斜する傾斜線41に沿うように形成される。鉛直方向に対する傾斜線41の傾斜角度θは、例えば30°から60°、好ましくは45°前後に設定される。なお、複数の貫通孔42,43,44が配置される傾斜線41は、直線に限定されず、下側フランジ21からウェブ部23へと曲線状に延びる線であってよい。
【0065】
また、複数の貫通孔42,43,44のうち、最も下方に配置される第1貫通孔42は、下端高さが、減厚部26の下端高さH3よりも低くなるように形成され、最も上方に配置される第3貫通孔44は、減厚部26と、減厚部26が形成されていないウェブ部23とに跨るように形成される。
【0066】
このため、この変形例では、下側フランジ21とウェブ部23との接続部に沿って進展した亀裂は第1貫通孔42に到達し、その後、第2貫通孔43、第3貫通孔44へと順に導かれ、さらに、
図5に矢印R2で示されるように、下側フランジ21ではなく、ウェブ部23へと誘導される。これにより下側フランジ21が早期に破断することが抑制されるため、上記実施形態と同様に、梁20の破断寿命をさらに向上させることができる。
【0067】
また、複数の貫通孔42,43,44が配置される範囲は、上記実施形態の開口部40の最大外径の大きさ、すなわち、開口部40の長軸の長さと同等に設定される。このように複数の貫通孔42,43,44が配置される範囲の大きさを制限することにより、ウェブ部23の剛性の低下を抑制しつつ、下側フランジ21に早期に亀裂が生じることを抑制し、梁20の破断寿命を向上させることができる。
【0068】
また、上記実施形態では、開口部40及び減厚部26は、下側スカラップ25aの周囲のみに設けられている。これに加えて、開口部40及び減厚部26は、上側スカラップ25bの周囲に設けられていてもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、下側スカラップ25aの形状は、略四分円形状である。下側スカラップ25aの形状はこれに限定されず、異なる曲率の円弧が複数組み合わされた形状、例えば、半径10mmと半径35mmの円弧が組み合わされた形状であってもよく、下端位置よりもウェブ部23の端面23aから離れている部分を有する形状となっていてもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、梁20は、ビルドH形鋼であるが、梁20は、ウェブ部23と、ウェブ部23と一体化された下側フランジ21と、を有する鋼材であればよく、例えば、圧延により形成されたH形鋼である、いわゆるロールH形鋼であってもよい。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0072】
100・・・梁接合構造
10・・・柱
20・・・梁
21・・・下側フランジ
21a・・・下側フランジ21の上面
23・・・ウェブ部
23a・・・ウェブ部23の端面
24a・・・端面側溶接部
24b・・・材軸方向溶接部
25a・・・下側スカラップ
26・・・減厚部
40・・・開口部
40a・・・傾斜線
41・・・傾斜線
42,43,44・・・貫通孔(開口部)
H1・・・スカラップ高さ
L1・・・スカラップ長さ
t1・・・ウェブ部23の板厚
t2・・・減厚部26の厚さ
H2・・・減厚部26の上端高さ
L2・・・減厚部26の長さ
H3・・・減厚部26の下端高さ
H4・・・開口部40の下端高さ
H5・・・開口部40の中心高さ
H6・・・減厚部26の材軸方向溶接部24bの高さ
C1・・・開口部40の中心位置
P1・・・交点