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特開2024-162774鉄道車輪踏面異常検知システム、鉄道車輪踏面異常検知方法、および鉄道車輪踏面異常検知プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162774
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】鉄道車輪踏面異常検知システム、鉄道車輪踏面異常検知方法、および鉄道車輪踏面異常検知プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/08 20060101AFI20241114BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20241114BHJP
   B61L 1/18 20060101ALI20241114BHJP
   B61L 25/04 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
G01M17/08
G01H17/00 A
B61L1/18 Z
B61L25/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078659
(22)【出願日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】坂東 龍司
(72)【発明者】
【氏名】和田 敏裕
(72)【発明者】
【氏名】牧 和宏
【テーマコード(参考)】
2G064
5H161
【Fターム(参考)】
2G064AA14
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB22
2G064BA02
2G064BA08
2G064CC02
2G064CC29
2G064CC43
2G064DD08
2G064DD15
5H161AA01
5H161BB20
5H161DD01
5H161FF05
5H161FF07
(57)【要約】
【課題】多数の車輪に対して車輪踏面異常を検知する場合であっても低コストで車輪踏面異常を検知することができる鉄道車輪踏面異常検知システムを得ること。
【解決手段】鉄道車輪踏面異常検知システム1Aが、レールに設置された振動センサによって計測された振動センサ信号を周波数帯毎の信号強度を示す第1の時間信号へと変換する周波数解析部10Aと、第1の時間信号に対応する対応信号からレール継ぎ目に起因する振動の信号を除去した第2の時間信号を算出する継ぎ目振動除去部40Aと、第2の時間信号から車輪踏面異常の有無を判定する踏面異常検出部80Aと、踏面異常検出部80Aの判定結果を出力する出力部90と、を備え、継ぎ目振動除去部40Aは、対応信号から抽出したレール継ぎ目に起因する振動の周波数を含む第3の時間信号の信号強度が特定値を超える場合に対応信号から第3の時間信号を除去することで第2の時間信号を算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールに設置された振動センサによって計測された振動の情報を示す振動センサ信号を周波数帯毎の信号強度を示す第1の時間信号へと変換する周波数解析部と、
前記第1の時間信号に対応する対応信号から前記レールの継ぎ目であるレール継ぎ目に起因する振動の信号を除去した第2の時間信号を算出する継ぎ目振動除去部と、
前記第2の時間信号から、前記レール上を走行している車両の車輪に発生している車輪踏面異常の有無を判定する踏面異常検出部と、
前記踏面異常検出部の判定結果を出力する出力部と、
を備え、
前記継ぎ目振動除去部は、
前記対応信号から前記レール継ぎ目に起因する振動の周波数を含む第3の時間信号を抽出し、前記第3の時間信号の信号強度が特定値を超える場合に前記対応信号から前記第3の時間信号を除去することで前記第2の時間信号を算出する、
ことを特徴とする鉄道車輪踏面異常検知システム。
【請求項2】
前記第1の時間信号に基づいて、前記レール継ぎ目に起因する振動以外のノイズのスケールを正規化する正規化部をさらに備え、
前記継ぎ目振動除去部は、
前記ノイズのスケールが正規化された前記第1の時間信号に対応する前記対応信号から前記レール継ぎ目に起因する振動の信号を除去した第2の時間信号を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
【請求項3】
前記正規化部は、
mを予め設定されたパラメータとした場合に、前記第1の時間信号のうち信号の小さいものからm%の値を、前記レール継ぎ目に起因する振動以外のノイズが従う分布のm%点の値で割ることで、前記ノイズのスケールを算出し、算出した前記ノイズのスケールで前記第1の時間信号を割ることで前記ノイズのスケールが正規化された前記第1の時間信号を算出する、
ことを特徴とする請求項2に記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
【請求項4】
前記第3の時間信号が除去された時刻から特定時間後の信号を、前記第2の時間信号から除去することで、前記レール継ぎ目に起因する振動の残響ノイズを除去する除去幅拡大部と、
前記車輪を検出する車輪検出センサから前記車輪を検出したことを示す車輪検出センサ信号を受け付けると、前記車輪検出センサ信号に基づいて、前記残響ノイズが除去された前記第2の時間信号から、前記車輪の回転周期以外の信号である非周期性ノイズを除去する類似度フィルタ部と、
をさらに備え、
前記踏面異常検出部は、
前記残響ノイズおよび前記非周期性ノイズが除去された前記第2の時間信号から、前記車輪踏面異常の有無を判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
【請求項5】
前記類似度フィルタ部は、
前記車輪検出センサ信号から前記車両の速度を計算するとともに前記速度から前記車輪が1周する時間を算出し、前記残響ノイズが除去された前記第2の時間信号の各時刻の信号に対して前記車輪の1周分の時間差の信号との間の類似度を算出するとともに前記類似度が特定値以上の信号を強調することで前記非周期性ノイズを除去する、
ことを特徴とする請求項4に記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
【請求項6】
前記対応信号を特定の時間幅毎に切り出すことで複数の信号要素を含んだ時間信号群を算出するデータ切り出し部をさらに備え、
前記継ぎ目振動除去部は、前記時間信号群毎に前記第2の時間信号を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
【請求項7】
前記継ぎ目振動除去部は、
前記対応信号を、独立な振動成分の信号である独立成分信号に分解する独立成分分解部と、
前記対応信号から前記独立成分信号を除去することで前記第2の時間信号を算出する独立成分除去部と、
を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
【請求項8】
前記独立成分分解部は、
独立成分分析を用いて前記対応信号を前記独立成分信号に分解する、
ことを特徴とする請求項7に記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
【請求項9】
前記独立成分分解部は、
前記独立成分信号のノルムが第1の閾値よりも大きな信号を前記独立成分信号として抽出することで、前記対応信号を前記独立成分信号に分解する、
ことを特徴とする請求項7に記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
【請求項10】
前記独立成分分解部は、
Mを自然数として、M個の前記独立成分信号を足した成分と、前記対応信号との差分の赤池情報量基準が最小となるまで前記独立成分信号を分解する、
ことを特徴とする請求項7に記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
【請求項11】
前記独立成分除去部は、
Lを自然数として、L個の前記独立成分信号の赤池情報量基準が最小となるまで前記独立成分信号を除去する、
ことを特徴とする請求項7に記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
【請求項12】
前記独立成分除去部は、
前記独立成分信号のノルムが第2の閾値よりも大きな前記独立成分信号を除去する、
ことを特徴とする請求項7に記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
【請求項13】
前記踏面異常検出部は、
前記対応信号から車輪踏面異常の有無を表す時間信号を算出する特徴量算出部と、
前記対応信号から車輪踏面異常の種類を判定する異常種類判定部と、
を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
【請求項14】
前記特徴量算出部は、
前記対応信号のうち第4の周波数以下の信号の絶対値の和を前記第4の周波数を超える信号の絶対値の和で割ることで車輪踏面異常の有無を表す時間信号を算出する、
ことを特徴とする請求項13に記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
【請求項15】
前記異常種類判定部は、
前記対応信号が第3の閾値を超えた場合に踏面異常を検出し、前記対応信号と第3の閾値との差、前記対応信号が前記第3の閾値を超えた時間、一定の時間枠内で前記対応信号が前記第3の閾値を超えた時間の総和から踏面異常の大きさと深さを判定する、
ことを特徴とする請求項13に記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
【請求項16】
前記信号強度は、前記第3の時間信号のノルムの大きさである、
ことを特徴とする請求項1から15の何れか1つに記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
【請求項17】
レールに設置された振動センサによって計測された振動の情報を示す振動センサ信号を周波数帯毎の信号強度を示す第1の時間信号へと変換する周波数解析部と、
前記第1の時間信号から前記レールの継ぎ目であるレール継ぎ目に起因する振動の信号を除去した第2の時間信号を算出する継ぎ目振動除去部と、
前記第2の時間信号から、前記レール上を走行している車両の車輪に発生している車輪踏面異常の有無を判定する踏面異常検出部と、
前記踏面異常検出部の判定結果を出力する出力部と、
を備え、
前記周波数解析部は、
前記レール継ぎ目に起因する振動の周波数を含む第1の周波数帯に限定された第1の限定信号と、前記レール継ぎ目に起因する振動の周波数および車輪踏面異常に起因する振動の周波数の双方を検出できる第2の周波数に限定された第2の限定信号とを前記第1の時間信号として算出し、
前記継ぎ目振動除去部は、
前記第1の限定信号に対応する信号と前記第2の限定信号に対応する信号との双方が信号強度を持つ信号を、前記第2の限定信号から除去することで前記第2の時間信号を算出する、
ことを特徴とする鉄道車輪踏面異常検知システム。
【請求項18】
前記継ぎ目振動除去部は、
前記第1の限定信号から信号強度が特定値を超える時刻の信号である第1の独立成分信号を抽出するとともに、前記第2の限定信号から前記時刻と同時刻の信号である第2の独立成分信号を抽出し、前記第2の限定信号から前記第2の独立成分信号を除去することで、前記第2の時間信号を算出する、
ことを特徴とする請求項17に記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
【請求項19】
鉄道車輪踏面異常検知システムが、レールに設置された振動センサによって計測された振動の情報を示す振動センサ信号を周波数帯毎の信号強度を示す第1の時間信号へと変換する周波数解析ステップと、
前記鉄道車輪踏面異常検知システムが、前記第1の時間信号に対応する対応信号から前記レールの継ぎ目であるレール継ぎ目に起因する振動の信号を除去した第2の時間信号を算出する継ぎ目振動除去ステップと、
前記鉄道車輪踏面異常検知システムが、前記第2の時間信号から、前記レール上を走行している車両の車輪に発生している車輪踏面異常の有無を判定する踏面異常検出ステップと、
前記鉄道車輪踏面異常検知システムが、前記車輪踏面異常の有無の判定結果を出力する出力ステップと、
を含み、
前記継ぎ目振動除去ステップでは、
前記鉄道車輪踏面異常検知システムが、前記対応信号から前記レール継ぎ目に起因する振動の周波数を含む第3の時間信号を抽出し、前記第3の時間信号の信号強度が特定値を超える場合に前記対応信号から前記第3の時間信号を除去することで前記第2の時間信号を算出する、
ことを特徴とする鉄道車輪踏面異常検知方法。
【請求項20】
レールに設置された振動センサによって計測された振動の情報を示す振動センサ信号を周波数帯毎の信号強度を示す第1の時間信号へと変換する周波数解析ステップと、
前記第1の時間信号に対応する対応信号から前記レールの継ぎ目であるレール継ぎ目に起因する振動の信号を除去した第2の時間信号を算出する継ぎ目振動除去ステップと、
前記第2の時間信号から、前記レール上を走行している車両の車輪に発生している車輪踏面異常の有無を判定する踏面異常検出ステップと、
前記車輪踏面異常の有無の判定結果を出力する出力ステップと、
をコンピュータに実行させ、
前記継ぎ目振動除去ステップでは、
前記対応信号から前記レール継ぎ目に起因する振動の周波数を含む第3の時間信号を抽出し、前記第3の時間信号の信号強度が特定値を超える場合に前記対応信号から前記第3の時間信号を除去することで前記第2の時間信号を算出する、
ことを特徴とする鉄道車輪踏面異常検知プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄道の車輪踏面異常を検知する鉄道車輪踏面異常検知システム、鉄道車輪踏面異常検知方法、および鉄道車輪踏面異常検知プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
走行中の列車で急制動などの強いブレーキがかかった際に生じるレールと車輪との摩擦が原因で車輪踏面に発生する摩耗傷は車輪フラットと呼ばれる。車輪フラットが生じると異音または振動による乗り心地の悪化およびレールの損傷が引き起こされるので、車輪フラットは早期の発見が求められる。車輪フラットを検知する技術としては、列車上の車軸などに設置された振動センサから得られた振動データを用いる技術がある。
【0003】
例えば、特許文献1の異常診断装置は、各車輪の軸受箱に取り付けられた振動センサから得られた振動データに基づいて、異常振動が車輪フラットに起因する振動であるか、車軸軸受に起因する振動であるかを特定している。また、車輪フラットの他にも熱亀裂と呼ばれる車輪の広範囲にわたる異常や、剥離と呼ばれる深い傷などの車輪踏面に発生する異常があり、同様に早期発見が求められる。以下ではこれらの異常をまとめて車輪踏面異常と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-170815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、各車輪の軸受箱に取り付けられた振動センサが用いられているので、車輪フラットを検知したい車輪の数だけ振動センサが必要になる。このため、上記特許文献1の技術には、多数の車輪に対して車輪フラットを検知する場合、高コストを要するという問題がある。
【0006】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、多数の車輪に対して車輪フラットをはじめとする車輪踏面異常を検知する場合であっても低コストで車輪フラットをはじめとする車輪踏面異常を検知することができる鉄道車輪踏面異常検知システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示の鉄道車輪踏面異常検知システムは、レールに設置された振動センサによって計測された振動の情報を示す振動センサ信号を周波数帯毎の信号強度を示す第1の時間信号へと変換する周波数解析部と、第1の時間信号に対応する対応信号からレールの継ぎ目であるレール継ぎ目に起因する振動の信号を除去した第2の時間信号を算出する継ぎ目振動除去部とを備える。また、本開示の鉄道車輪踏面異常検知システムは、第2の時間信号から、レール上を走行している車両の車輪に発生している車輪踏面異常の有無を判定する踏面異常検出部と、踏面異常検出部の判定結果を出力する出力部とを備える。継ぎ目振動除去部は、対応信号からレール継ぎ目に起因する振動の周波数を含む第3の時間信号を抽出し、第3の時間信号の信号強度が特定値を超える場合に対応信号から第3の時間信号を除去することで第2の時間信号を算出する。
【発明の効果】
【0008】
本開示にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムは、多数の車輪に対して車輪フラットをはじめとする車輪踏面異常を検知する場合であっても低コストで車輪フラットをはじめとする車輪踏面異常を検知することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの構成を示す図
図2】実施の形態1にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムに接続される振動センサおよび車輪検出センサの配置位置を説明するための図
図3】実施の形態1にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムに入力される振動センサ信号の例を説明するための図
図4】実施の形態1にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの正規化部が算出する周波数スペクトル信号の例を説明するための図
図5】実施の形態1にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分分解部が算出する第1の独立成分信号の例を示す図
図6】実施の形態1にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分分解部が算出する第2の独立成分信号の例を示す図
図7】実施の形態1にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分分解部が算出する第3の独立成分信号の例を示す図
図8】実施の形態1にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分分解部が算出する第4の独立成分信号の例を示す図
図9】実施の形態1にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの除去幅拡大部が算出する周波数スペクトル信号の例を示す図
図10】実施の形態1にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの類似度フィルタ部が算出する周波数スペクトル信号の例を示す図
図11】実施の形態1にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの特徴量算出部が算出する時間信号の例を示す図
図12】実施の形態1にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの表示部が表示する車輪検知出力および踏面異常検知判定結果の例を示す図
図13】実施の形態1にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの動作処理手順を示すフローチャート
図14】実施の形態2にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分分解部が算出するノルムの例を示す図
図15】実施の形態3にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分除去部が周波数スペクトル信号群の信号要素を演算する際に設定する第1の周波数の例を示す図
図16】実施の形態3にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分除去部が算出する、第1のピークのノルムの例を示す図
図17】実施の形態3にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分除去部が算出する、第2のピークのノルムの例を示す図
図18】実施の形態3にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分除去部が算出する、第3のピークのノルムの例を示す図
図19】実施の形態3にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分除去部が算出する、第3のピークの残響ノイズのノルムの例を示す図
図20】実施の形態4にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの構成を示す図
図21】実施の形態4にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの周波数解析部が算出する第1の周波数帯に限定された時間信号の例を示す図
図22】実施の形態4にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの周波数解析部が算出する第2の周波数帯に限定された時間信号の例を示す図
図23】実施の形態4にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分分解部が設定する閾値の例を説明するための図
図24】実施の形態4にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分分解部が第1の周波数帯に限定された時間信号から抽出する独立成分信号の例を示す図
図25】実施の形態4にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分分解部が第2の周波数帯に限定された時間信号から抽出する独立成分信号の例を示す図
図26】実施の形態4にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分除去部が第2の周波数帯に限定された時間信号からノイズ成分を除去した時間信号の例を示す図
図27】実施の形態4にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの動作処理手順を示すフローチャート
図28】実施の形態1から4にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムが備える処理回路をプロセッサおよびメモリで実現する場合の処理回路の構成例を示す図
図29】実施の形態1から4にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムが備える処理回路を専用のハードウェアで構成する場合の処理回路の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本開示の実施の形態にかかる鉄道車輪踏面異常検知システム、鉄道車輪踏面異常検知方法、および鉄道車輪踏面異常検知プログラムを図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの構成を示す図である。鉄道車輪踏面異常検知システム1Aは、周波数解析部10Aと、正規化部20と、データ切り出し部30と、継ぎ目振動除去部40Aと、データ結合部50と、除去幅拡大部60と、類似度フィルタ部70と、踏面異常検出部80Aと、出力部90と、表示部91とを備えている。なお、表示部91と鉄道車輪踏面異常検知システム1Aとは別構成であってもよい。
【0012】
継ぎ目振動除去部40Aは、独立成分分解部41Aと独立成分除去部42Aとを有している。踏面異常検出部80Aは、特徴量算出部81Aと異常種類判定部82Aとを有している。周波数解析部10Aは、後述する振動センサ3に接続されており、振動センサ3から送られてくる信号(後述する振動センサ信号X1)を受け付ける。類似度フィルタ部70は、後述する車輪検出センサ2に接続されており、車輪検出センサ2から送られてくる信号(後述する車輪検出センサ信号X2)を受け付ける。
【0013】
図2は、実施の形態1にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムに接続される振動センサおよび車輪検出センサの配置位置を説明するための図である。振動センサ3および車輪検出センサ2は、鉄道車両である車両4が走行するレール5の近傍に設置される。
【0014】
例えば、1本のレール5に対して1つの振動センサ3が配置される。すなわち、2本のレール5に対しては、一方のレール5に1つの振動センサ3が取り付けられ、他方のレール5に1つの振動センサ3が取り付けられる。2つの振動センサ3は、例えば、レール5に直交する方向で対向する位置に配置される。
【0015】
また、1本のレール5に対して1つの車輪検出センサ2が配置される。すなわち、2本のレール5に対しては、一方のレール5の近傍に1つの車輪検出センサ2が配置され、他方のレール5の近傍に1つの車輪検出センサ2が配置される。2つの車輪検出センサ2の検知時刻の差と配置距離の差とから車両4の速度を計算するため、一方の車輪検出センサ2と他方の車輪検出センサ2とは、レール長手方向に一定の距離を空けて配置される。
【0016】
振動センサ3は、車両4が走行している際に発生する振動を計測するセンサである。振動センサ3は、車両4の走行によって加振されたレール5の振動を計測する。振動センサ3は、例えば、加速度センサである。振動センサ3は、計測した振動の情報を示す振動データを、振動センサ信号X1として周波数解析部10Aに送る。このように、振動センサ3は、レール5の振動を検出し、検出結果を示す出力信号を、振動センサ信号X1として周波数解析部10Aに出力する。
【0017】
車輪検出センサ2は、レール5上を走行している車両4の車輪を検出するセンサである。車輪検出センサ2は、車輪検出センサ2が配置されている位置を通過した車輪を検出する。具体的には、車輪検出センサ2は、レール5と直交する方向を検出範囲とし、この検出範囲に車輪が進入している場合に、車輪を検出したことを示すオン信号を出力する。また、車輪検出センサ2は、検出範囲に車輪が進入していない場合に、オン信号を出力しない。車輪検出センサ2は、車輪を検出したことを示す情報を、車輪検出センサ信号X2として類似度フィルタ部70に送る。このように、車輪検出センサ2は、車輪を検出し、検出結果を示す出力信号を車輪検出センサ信号X2として類似度フィルタ部70に送る。なお、車輪検出センサ2は、走行している車両4を検出することも可能である。
【0018】
図3は、実施の形態1にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムに入力される振動センサ信号の例を説明するための図である。図3に示すグラフの横軸は時間であり、縦軸は振動の振幅である。図3に示すグラフは、1編成の列車全体に対して得られる振動センサ信号X1の全体ではなく、特定期間に得られた振動センサ信号Sa1を図示している。すなわち、図3に示すグラフは、1編成の列車の一部に対して得られる振動センサ信号Sa1(振動センサ信号X1の一部)を図示している。
【0019】
図3では、1編成の列車の一部に対して得られる振動センサ信号Sa1を図示しているが、周波数解析部10Aおよび正規化部20は、1編成の列車全体に対して得られる振動センサ信号X1の全体に対して演算処理を実行する。ここでは、周波数解析部10Aが振動センサ信号Sa1に対して演算処理を実行し、正規化部20が、周波数解析部10Aによる演算結果である周波数スペクトル信号Sb1(図示せず)に対して演算処理を実行する。
【0020】
図3に示す振動センサ信号Sa1のピークP1,P2,P3は、車両4がレール5の継ぎ目を通過した際の振動データ(継ぎ目振動の振動データ)であり、ピークP4,P5は、車輪踏面の異常面がレール5に接触した際の振動データ(車輪踏面異常振動の振動データ)である。鉄道車輪踏面異常検知システム1Aは、この時点では、何れの信号が継ぎ目振動の振動データであり、何れの信号が車輪踏面異常振動の振動データであるかは判断できないが、この後の処理によって、車輪踏面異常振動の振動データのみを抽出して車輪踏面異常の有無を判定する。振動センサ信号Sa1を含む振動センサ信号X1は、振動センサ3によって検出され、振動センサ3が周波数解析部10Aに出力する。
【0021】
周波数解析部10Aは、振動センサ信号Sa1を含む振動センサ信号X1が入力されると、振動センサ信号X1を短時間フーリエ変換することにより、各時刻における周波数スペクトルを表した周波数スペクトル信号(2次元のスペクトル信号)Sbを含む周波数スペクトル信号を算出する。周波数スペクトル信号Sb1を含む1編成の列車全体に対する周波数スペクトル信号は、振動データである振動センサ信号X1の周波数帯毎の強度を示す時間信号である。周波数スペクトル信号Sb1は、周波数スペクトル信号Sbに含まれる信号要素であり、振動センサ信号Sa1に対応している。実施の形態1では、周波数スペクトル信号Sb1を含む1編成の列車全体に対する周波数スペクトル信号が第1の時間信号である。
【0022】
なお、ここでは周波数解析部10Aが、周波数解析として短時間フーリエ変換を用いる場合について説明したが、周波数解析部10Aは、周波数解析としてウェーブレット変換を用いてもよい。周波数解析部10Aは、周波数スペクトル信号Sb1を正規化部20へ出力する。
【0023】
正規化部20は、周波数スペクトル信号Sb1が入力されると、周波数スペクトル信号Sb1の各周波数の時間信号に対してその時間信号の継ぎ目振動以外のノイズのスケールを算出する。正規化部20は、時間信号のうち時間信号の小さいものからm%の値を、レール5の継ぎ目(以下、レール継ぎ目という)に起因する振動以外のノイズが従う分布のm%点の値で割ることで、各周波数の時間信号のノイズのスケールを算出する。mは予め設定されたパラメータである。正規化部20は、算出したスケールで時間信号を割ることでノイズのスケールが正規化された周波数スペクトル信号Scを算出する。
【0024】
正規化部20が正規化を実行することで、周波数帯毎の信号の強度(スケール)が揃えられる。このように、各周波数のノイズは、周波数毎に異なるので、正規化部20は、正規化を実行することで、時間信号の小さいノイズを平均化し、これにより周波数帯毎の信号の強度を揃える。この場合において、正規化部20は、継ぎ目振動のノイズを除外してノイズのスケールを正規化しているので、継ぎ目振動以外のノイズの周波数帯毎の信号の強度を正確に揃えることができる。
【0025】
周波数スペクトル信号Sb1に含まれるノイズは、振動センサ信号X1に含まれる期待値0、分散σ^2のガウスノイズが、短時間フーリエ変換されたノイズである。したがって周波数スペクトル信号Sb1に含まれるノイズは、直流成分ではk=1/2、θ=2σ^2のガンマ分布に従い、直流成分以外の周波数帯ではλ=1/(2σ^2)の指数分布に従う。正規化部20は、正規化された周波数スペクトル信号Scをデータ切り出し部30へ出力する。
【0026】
図4は、実施の形態1にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの正規化部が算出する周波数スペクトル信号の例を説明するための図である。図4に示すグラフの横軸は時間であり、縦軸は振動の周波数である。図4では、周波数を色で表現したカラーマップを示している。
【0027】
図4に示すグラフは、正規化部20が周波数スペクトル信号Sb1に演算処理を実行したことによって得られる周波数スペクトル信号Sc1を表している。周波数スペクトル信号Scには、非周期性ノイズN1が含まれている。非周期性ノイズN1は、前述のガウスノイズが短時間フーリエ変換されたノイズである。
【0028】
図4に示すピークP1~P5は、図3に示したピークP1~P5に対応している。周波数スペクトル信号Scには、レール継ぎ目に起因する振動の信号と、車輪踏面異常振動に起因する振動の信号とが含まれている。
【0029】
ピークP1~P3は、広帯域にわたってスペクトルが観測され、ピークP4,P5は低周波数帯にスペクトルが観測される。すなわち、継ぎ目振動では、低周波数帯から高周波数帯まで、広帯域にわたってスペクトルが観測され、車輪踏面異常振動では、低周波数帯にスペクトルが観測される。
【0030】
データ切り出し部30は、正規化された周波数スペクトル信号Scが入力されると、周波数スペクトル信号Scを特定の時間幅に限定して切り出した周波数スペクトル信号群Scnを算出する。すなわち、データ切り出し部30は、正規化された周波数スペクトル信号Scを特定の時間幅毎に区切ることで周波数スペクトル信号群(時間信号群)Scnの信号要素である、周波数スペクトル信号Sc1,Sc2,Sc3,・・・,ScNを算出する。実施の形態1では、データ切り出し部30が算出する周波数スペクトル信号群Scnが、周波数スペクトル信号Sb1を含む1編成の列車全体に対する周波数スペクトル信号(第1の時間信号)に対応する対応信号である。
【0031】
データ切り出し部30は、信号の切り出しを、幅T1の切り出し窓を幅T2ずつスライドすることによって行う。すなわち、周波数スペクトル信号Sc1は周波数スペクトル信号Scの時刻0から時刻T1までの信号であり、周波数スペクトル信号Sc2は時刻T2から時刻(T1+T2)までの信号であり、周波数スペクトル信号Sc3は時刻2×T2から時刻(T1+2×T2)までの信号である。
【0032】
データ切り出し部30が実行する演算処理よりも後の演算処理を実行する継ぎ目振動除去部40Aは、1編成の列車全体に対してまとめて演算処理を実行するのではなく、特定期間毎に演算処理を実行する。すなわち継ぎ目振動除去部40Aは、1編成の列車全体に対応する振動センサ信号X1の全期間に対して1度にまとめて演算処理を実行するのではなく、データ切り出し部30によって分割された期間毎にて演算処理を実行する。このため、データ切り出し部30は、周波数スペクトル信号Scを特定の時間幅に限定して切り出した周波数スペクトル信号群Scnを算出する。データ切り出し部30は、切り出した周波数スペクトル信号群Scnを独立成分分解部41Aへ出力する。以下では、周波数スペクトル信号Sc1が、周波数スペクトル信号Sb1に対応する場合について説明する。
【0033】
独立成分分解部41Aは、切り出された周波数スペクトル信号群Scnが入力されると、独立成分分析により周波数スペクトル信号群Scnの各信号要素を独立な成分に分解した独立成分信号群Sdnを算出する。以下の説明では、周波数スペクトル信号群Scnの信号要素である周波数スペクトル信号Sc1について説明する。
【0034】
独立成分分解部41Aは、例えば、周波数スペクトル信号Sc1から、独立成分信号Sd1を算出し、周波数スペクトル信号Sc2から、独立成分信号Sd2を算出する。独立成分信号Sd1,Sd2には、それぞれ1または複数の独立成分信号が含まれている。独立成分信号Sd1には、例えば、後述する独立成分信号Sd1a,Sd1b,Sd1c,Sd1dが含まれている。
【0035】
独立成分分析では、周波数スペクトル信号群Scnの各信号要素を周波数ビン数だけの独立成分信号に分解することができるが、実際には処理の高速化のために、独立成分分解部41Aは、十分に分解された時点で分解を終了する。例えば、独立成分分解部41Aは、周波数スペクトル信号Sc1の独立成分信号をM(Mは自然数)個に分解した際に、M個の独立成分信号を足した成分と、周波数スペクトル信号Sc1との差分のAIC(赤池情報量基準、Akaike's Information Criterion)を算出する。独立成分分解部41Aは、M個に対して算出したAICがそれまでの独立成分信号を(M-1)個に分解した際のAICより大きくなった場合に、十分に分解されたと判断する。
【0036】
独立成分分解部41Aは、周波数スペクトル信号Scの独立成分信号を1個目から順番にM個目まで分解していく。独立成分分解部41Aは、例えば、周波数スペクトル信号Sc1に対しては、後述する図5の独立成分信号Sd1aを1個目の独立成分信号として分解し、後述する図6の独立成分信号Sd1bを2個目の独立成分信号として分解する。独立成分分解部41Aは、2個目の独立成分信号を分解した場合、この2個分の独立成分信号Sd1a,Sd1bと、周波数スペクトル信号Sc1との差分のAICを算出する。すなわち、独立成分分解部41Aは、図4に示した周波数スペクトル信号Sc1からピークP1,P2に対応する独立成分信号Sd1a,Sd1bの信号を除去した信号を算出する。この場合において、独立成分分解部41Aは、算出したAICがそれまでの独立成分信号を(M-1)個(ここでは1個)に分解した際のAICより大きくなった場合に、十分に分解されたと判断する。
【0037】
独立成分分解部41Aは、切り出された周波数スペクトル信号群Scn(周波数スペクトル信号Sc1,Sc2,Sc3,・・・,ScN)から、独立成分信号群Sdn(独立成分信号Sd1,Sd2,Sd3,・・・,SdN)を算出する。すなわち、独立成分分解部41Aは、独立成分分析によって、周波数スペクトル信号群Scnから独立成分信号群Sdnを算出する。
【0038】
独立成分分解部41Aは、切り出された周波数スペクトル信号群Scnと独立成分信号群Sdnとを独立成分除去部42Aへ出力する。
【0039】
ここで、独立成分分解部41Aが、正規化された周波数スペクトル信号群Scnの各信号要素に対して演算処理を実行した際に得られる独立成分信号について説明する。ここでは、独立成分分解部41Aが、周波数スペクトル信号Sc1に対して演算処理を実行した際に得られる独立成分信号Sd1について説明する。
【0040】
図5は、実施の形態1にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分分解部が算出する第1の独立成分信号の例を示す図である。図6は、実施の形態1にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分分解部が算出する第2の独立成分信号の例を示す図である。図7は、実施の形態1にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分分解部が算出する第3の独立成分信号の例を示す図である。図8は、実施の形態1にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分分解部が算出する第4の独立成分信号の例を示す図である。
【0041】
図5図8の各グラフの横軸は時間であり、縦軸は周波数である。図5図8では、周波数を色で表現したカラーマップを示している。独立成分分解部41Aが、周波数スペクトル信号Sc1から算出する独立成分信号Sd1には、信号要素として、独立成分信号Sd1a~Sd1dが含まれている。図5は、第1の独立成分信号である独立成分信号Sd1aを示し、図6は、第2の独立成分信号である独立成分信号Sd1bを示している。図7は、第3の独立成分信号である独立成分信号Sd1cを示し、図8は、第4の独立成分信号である独立成分信号Sd1dを示している。図8に示す独立成分信号Sd1dは、後述する周波数スペクトル信号Se1と同じ信号である。独立成分信号Sd1a~Sd1dには非周期性ノイズN1が含まれている。
【0042】
図5図8に示す独立成分信号は、図4に示した周波数スペクトル信号Sc1のピークP1~P5に対応している。図5に示す独立成分信号Sd1aはピークP1に対応し、図6に示す独立成分信号Sd1bはピークP2に対応し、図7に示す独立成分信号Sd1cはピークP3に対応している。すなわち、図5図7は、継ぎ目振動のピークP1~P3に対応している。なお、図7に示す独立成分信号には、ピークP3のうち後述する残響ノイズP3Eは含まれていない。図8に示す独立成分信号Sd1dは、継ぎ目振動以外の成分である。図8に示す独立成分信号Sd1dには車輪踏面異常振動であるピークP4,P5のほかに、分解しきれなかったピークP3の残響ノイズP3Eが含まれている。
【0043】
独立成分除去部42Aは、切り出された周波数スペクトル信号Sc1および独立成分信号Sd1が入力されると、周波数スペクトル信号Sc1の各信号要素について十分にノイズ成分が除去されるまで周波数スペクトル信号Sc1から対応する独立成分信号Sd1の信号要素を除去していく。これにより、独立成分除去部42Aは、周波数スペクトル信号Sc1からノイズ成分が除去された周波数スペクトル信号Se1を算出する。この場合において、独立成分除去部42Aは、前述したように、周波数スペクトル信号Sc1からノイズ成分をQ(Qは自然数)個除去した際に、その除去された信号の車輪踏面異常振動が含まれない第1の周波数帯(高周波数帯)のAICが、周波数スペクトル信号Sc1からノイズ成分を(Q-1)個除去した際のAICより大きくなった場合に、十分にノイズ成分が除去されたと判断する。すなわち、独立成分除去部42Aは、第1の周波数帯(高周波数帯)のAICが最小となるまで独立成分信号Sd1の信号要素(ノイズ成分)を除去する。ここでの独立成分除去部42Aは、ノイズ成分である図5図7に示した継ぎ目振動のピークP1~P3が除去された時点で十分にノイズ成分が除去されたと判断する。
【0044】
独立成分除去部42Aは、独立成分信号Sd1のうち第1の周波数帯におけるノルムが大きい信号から順にノイズ成分の除去を行う。すなわち、独立成分除去部42Aは、独立成分信号Sd1のうち第1の周波数帯における信号強度が強い順番でノイズ成分の除去を行う。これにより、独立成分除去部42Aは、独立成分信号Sd1のうち第1の周波数帯における時間信号の強度がAICを基準に除去すべき大きさである場合に、この時間信号をノイズ成分の時間信号として周波数スペクトル信号Sc1から除去する。このように、独立成分除去部42Aは、時間信号である周波数スペクトル信号Scに対し、レール継ぎ目に起因する振動の信号(ノイズ成分)を除去する。
【0045】
ここでの独立成分除去部42Aは、周波数スペクトル信号Sc1から独立成分信号Sd1a~Sd1cを除去することで、周波数スペクトル信号Se1を算出する。独立成分除去部42Aは、周波数スペクトル信号Sc1と同様に、周波数スペクトル信号Sc2~ScNに対してもノイズ成分の除去を行う。これにより、独立成分除去部42Aは、周波数スペクトル信号群Scnからノイズ成分が除去された周波数スペクトル信号群Sen(周波数スペクトル信号Se1,Se2,Se3,・・・,SeN)を算出する。独立成分除去部42Aは、ノイズ成分が除去された周波数スペクトル信号群Senをデータ結合部50へ出力する。
【0046】
実施の形態1では、周波数スペクトル信号群Senが第2の時間信号であり、独立成分信号群Sdnが第3の時間信号である。
【0047】
データ結合部50は、ノイズ成分が除去された周波数スペクトル信号群Senが入力されると、周波数スペクトル信号群Senの信号要素である周波数スペクトル信号Se1,Se2,Se3,・・・,SeNを結合した周波数スペクトル信号Seを算出する。具体的には、データ結合部50は、切り出される前の周波数スペクトル信号Scと同じ時間幅のノイズ成分が除去された周波数スペクトル信号Seを算出する。すなわち、データ結合部50は、ノイズ成分が除去された周波数スペクトル信号群Senが、切り出される前の周波数スペクトル信号Scと同じ時間幅の周波数スペクトル信号Seとなるように、周波数スペクトル信号Se1,Se2,Se3,・・・,SeNを結合する。
【0048】
データ結合部50は、データを結合する際は、周波数スペクトル信号群Senの各信号要素の値を用い、オーバーラップしている時刻、すなわち切り出し窓が重なっている時刻については、重なっている信号要素の最小値を用いることで信号要素を結合する。これにより、独立成分除去部42Aで継ぎ目振動を除去し損ねた信号があっても、独立成分除去部42Aは、同時刻について他の信号で継ぎ目振動を除去できる。データ結合部50は、ノイズ成分が除去された周波数スペクトル信号Seを除去幅拡大部60へ出力する。
【0049】
除去幅拡大部60は、ノイズ成分が除去された周波数スペクトル信号Seが入力されると、周波数スペクトル信号Seの各ノイズ成分が除去された時刻から特定時間後までの信号も除去することによって、残響ノイズP3Eを除いた周波数スペクトル信号Sfを算出する。すなわち、除去幅拡大部60は、周波数スペクトル信号Seのノイズ成分であるピークP1~P3が除去された時刻から特定時間後の信号(除去直後の信号)を除去することによって、残響ノイズP3Eを除去する。除去幅拡大部60は、残響ノイズP3Eが除去された周波数スペクトル信号Sfを類似度フィルタ部70へ出力する。
【0050】
図9は、実施の形態1にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの除去幅拡大部が算出する周波数スペクトル信号の例を示す図である。図9に示すグラフの横軸は時間であり、縦軸は振動の周波数である。図9では、周波数を色で表現したカラーマップを示している。
【0051】
図9に示すグラフは、除去幅拡大部60で演算した際に得られる、残響ノイズP3Eが除去された周波数スペクトル信号Sfを表している。図9に示すピークP4,P5は、図8に示したピークP4,P5に対応している。図9に示すように、除去幅拡大部60で演算した際に得られる周波数スペクトル信号Sfは、継ぎ目振動であるピークP1~P3に加え、分解しきれなかったピークP3の残響ノイズP3Eも除去されている。
【0052】
類似度フィルタ部70は、車輪検出センサ2から送られてきた車輪検出センサ信号X2が入力されると、車輪検出センサ信号X2から車両4の速度を算出し、車両4の速度から車輪が1周する時間を算出する。
【0053】
また、類似度フィルタ部70は、残響ノイズP3Eが除かれた周波数スペクトル信号Sfが入力されると、周波数スペクトル信号Sfの各時刻の信号に対し、前後車輪1周分の時間差を有した信号間で類似した信号がある場合に強調し、類似した信号が無い場合に強度を小さく(除去)するようなフィルタを適用する。すなわち、類似度フィルタ部70は、各時刻の信号に対して、車輪1周前の時刻または車輪1周後の時刻の少なくとも一方に類似した信号がある場合に強調する。換言すると、類似度フィルタ部70は、周波数スペクトル信号Sfの特定時刻の信号が、車輪が1回転する前の信号または車輪が1回転した後の信号と類似した信号であれば両者の信号の強度を大きくし、類似した信号で無ければ強度を小さくする。
【0054】
車輪が1回転する前の信号と車輪が1回転した後の信号とは、時間差が車輪1周分の時間差である。類似度フィルタ部70は、信号が類似しているか否かを、周波数毎の信号強度の差、信号の出現している期間の差などに基づいて判定する。具体的には、類似度フィルタ部70は、前後車輪1周分のコサイン類似度を算出する。すなわち、類似度フィルタ部70は、ある時刻における信号に対して、車輪1周前の時刻における信号とのコサイン類似度と、車輪1周後の時刻における信号とのコサイン類似度とをそれぞれ計算し、それらの最大値を掛ける。つまり、類似度フィルタ部70は、車輪R(Rは自然数)回転目の信号に対して、(R-1)回転目の信号とのコサイン類似度と、(R+1)回転目の信号とのコサイン類似度との2つを計算し、それらの最大値をR回転目の信号に対して掛ける。
【0055】
コサイン類似度は0~1の値で示される。類似度フィルタ部70は、車輪1周分の信号間が類似している場合(類似度が特定値以上である場合)、これらの信号にコサイン類似度の最大値である「1」を掛けることでフィルタ処理を行う。これにより、車輪が1回転する前の信号と車輪が1回転した後の信号との組がある場合に、この組の信号が強調されて残ることとなる。また、このフィルタ処理はコサイン類似度を掛けることによって行われてもよい。
【0056】
このように、類似度フィルタ部70は、ある時刻における信号に対する、車輪1周前の時刻における信号とのコサイン類似度と、車輪1周後の時刻における信号とのコサイン類似度とに基づいて、信号強度を強めるかまたは弱めるので、除去幅拡大部60までの処理で除去できていなかった非周期性ノイズN1が除去された周波数スペクトル信号Sgを算出することができる。すなわち、類似度フィルタ部70は、車輪の回転周期以外の信号である非周期性ノイズN1が除去された周波数スペクトル信号Sgを算出することができる。類似度フィルタ部70は、非周期性ノイズN1が除去された周波数スペクトル信号Sgを特徴量算出部81Aへ出力する。
【0057】
また、類似度フィルタ部70は、車輪検出センサ信号X2に基づいて、車輪が車輪検出センサ2の配置位置を通過した時刻を示す車輪検知出力(車輪通過時間データ)を算出し出力部90へ出力する。
【0058】
図10は、実施の形態1にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの類似度フィルタ部が算出する周波数スペクトル信号の例を示す図である。図10に示すグラフの横軸は時間であり、縦軸は振動の周波数である。図10では、周波数を色で表現したカラーマップを示している。
【0059】
図10に示すグラフは、類似度フィルタ部70で演算した際に得られる、非周期性ノイズN1が除去された周波数スペクトル信号Sgを表している。図10に示すピークP4,P5は、図9に示したピークP4,P5に対応している。図10に示すように、類似度フィルタ部70で演算した際に得られる周波数スペクトル信号Sgは、非周期性ノイズN1も除去されている。
【0060】
特徴量算出部81Aは、非周期性ノイズN1が除去された周波数スペクトル信号Sgが入力されると、周波数スペクトル信号Sgの各時刻に対して、第2の周波数帯(第1の周波数帯よりも周波数が低い低周波数帯)の信号の絶対値の和を、第2の周波数帯以外の周波数帯の信号の絶対値の和で割った値を算出することで、各時刻の車輪踏面異常の有無を表す時間信号Shを得る。特徴量算出部81Aは、各時刻の車輪踏面異常の有無を表す時間信号Shを異常種類判定部82Aへ出力する。
【0061】
異常種類判定部82Aは、時間信号Shと予め設定された閾値とを比較することによって、車輪踏面異常検知の有無を判定する。異常種類判定部82Aは、時間信号Shが、閾値よりも大きい場合に車輪踏面異常があると判定する。また、異常種類判定部82Aは、車輪踏面異常があると判定した時刻について、時間信号Shが閾値を超えた時間や閾値との差、一定の時間枠内で時間信号Shが閾値を超えた時間の長さの総和などから踏面異常の大きさや深さを判定し、異常の種類を判定する。
【0062】
図11は、実施の形態1にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの特徴量算出部が算出する時間信号の例を示す図である。図11に示すグラフの横軸は時間であり、縦軸は信号強度である。図11の縦軸には「信号Shの大きさ」という文言が付与されており、当該文言は信号強度を意味する。
【0063】
図11に示すグラフは、特徴量算出部81Aが、非周期性ノイズN1が除去された周波数スペクトル信号Sgに対して演算した際に得られる車輪踏面異常の有無を表す時間信号Shを表している。図11に示すピークP4,P5は、図10に示したピークP4,P5に対応している。
【0064】
異常種類判定部82Aは、ピークP4,P5の時間信号Shと閾値とを比較することによって、車輪踏面異常であるピークP4,P5を検出する。また、異常種類判定部82Aは、ピークP4,P5についてそれぞれ閾値との差、閾値を超えた時間から踏面異常の深さと大きさを判定する。異常種類判定部82Aは、踏面異常検知判定結果を出力部90へ出力する。出力部90は、異常種類判定部82Aから送られてきた踏面異常検知判定結果と、類似度フィルタ部70から送られてきた車輪検知出力とを表示部91に出力する。表示部91は、踏面異常検知判定結果と車輪検知出力とを表示する。
【0065】
図12は、実施の形態1にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの表示部が表示する車輪検知出力および踏面異常検知判定結果の例を示す図である。図12の上段に示すグラフの横軸は時間であり、縦軸は車輪検知出力である。図12の下段に示すグラフの横軸は時間であり、縦軸は踏面異常検知判定結果である。
【0066】
図12の上段に示すグラフでは、車輪が通過したタイミングで波形が現れ、図12の下段に示すグラフでは、踏面異常検知が検知されたタイミングで波形が現れている。これにより、車輪踏面異常が発生している車輪を容易に特定することが可能となる。
【0067】
つぎに、鉄道車輪踏面異常検知システム1Aの動作処理手順について説明する。図13は、実施の形態1にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの動作処理手順を示すフローチャートである。図13では、鉄道車輪踏面異常検知システム1Aによる車輪踏面異常の検知処理手順を示している。
【0068】
周波数解析部10Aは、振動センサ3から送られてくる振動センサ信号X1を受け付ける。周波数解析部10Aは、振動センサ信号X1から周波数スペクトル信号Sbを算出する(ステップS10)。具体的には、周波数解析部10Aは、振動センサ信号X1を短時間フーリエ変換することにより、各時刻における周波数スペクトルを表した周波数スペクトル信号Sbを算出する。周波数解析部10Aは、周波数スペクトル信号Sbを正規化部20へ出力する。
【0069】
正規化部20は、周波数スペクトル信号Sbから、ノイズのスケールが正規化された周波数スペクトル信号Scを算出する(ステップS20)。具体的には、正規化部20は、継ぎ目振動以外のノイズのスケールを算出し、算出したスケールで周波数スペクトル信号Sbを割ることでノイズのスケールが正規化された周波数スペクトル信号Scを算出する。正規化部20は、正規化された周波数スペクトル信号Scをデータ切り出し部30へ出力する。
【0070】
データ切り出し部30は、周波数スペクトル信号Scを特定の時間幅毎に切り出した周波数スペクトル信号群Scn(n=1,2,3,・・・,N)を算出する(ステップS30)。データ切り出し部30は、切り出した周波数スペクトル信号群Scnを独立成分分解部41Aへ出力する。
【0071】
独立成分分解部41Aは、独立成分分析により周波数スペクトル信号群Scnの各信号要素を独立な成分に分解した独立成分信号群Sdnを算出する(ステップS41)。独立成分分解部41Aは、切り出された周波数スペクトル信号群Scnおよび独立成分信号群Sdnを独立成分除去部42Aへ出力する。
【0072】
独立成分除去部42Aは、周波数スペクトル信号群Scnの各信号要素について十分にノイズ成分が除去されるまで周波数スペクトル信号群Scnから対応する独立成分信号群Sdnの信号要素を除く。これにより、独立成分除去部42Aは、独立成分信号群Sdnのノイズ成分が除去された周波数スペクトル信号群Senを算出する(ステップS42)。独立成分除去部42Aは、ノイズ成分が除去された周波数スペクトル信号群Senをデータ結合部50へ出力する。
【0073】
データ結合部50は、ノイズ成分が除去された周波数スペクトル信号群Senから、切り出される前の周波数スペクトル信号Scと同じ時間幅の、ノイズ成分が除去された周波数スペクトル信号Seを算出する(ステップS50)。データ結合部50は、ノイズ成分が除去された周波数スペクトル信号Seを除去幅拡大部60へ出力する。
【0074】
除去幅拡大部60は、周波数スペクトル信号Seから、残響ノイズP3Eを除去した周波数スペクトル信号Sfを算出する(ステップS60)。具体的には、除去幅拡大部60は、周波数スペクトル信号Seの各ノイズ成分が除去された時刻から特定時間後までの信号を除去することによって、残響ノイズP3Eを除去した周波数スペクトル信号Sfを算出する。除去幅拡大部60は、残響ノイズP3Eが除かれた周波数スペクトル信号Sfを類似度フィルタ部70へ出力する。
【0075】
類似度フィルタ部70は、車輪検出センサ2から送られてきた車輪検出センサ信号X2を受け付ける。類似度フィルタ部70は、車輪検出センサ信号X2から車両4の速度を算出し、車両4の速度から車輪が1周する時間を算出する。
【0076】
類似度フィルタ部70は、車輪が1周する時間および周波数スペクトル信号Sfに基づいて、非周期性ノイズN1が除去された周波数スペクトル信号Sgを算出する(ステップS70)。具体的には、類似度フィルタ部70は、周波数スペクトル信号Sfに対し、各時刻について前後車輪1周分の時間差の時刻の信号に類似した信号がある場合に強調し、類似した信号が無い場合に強度を小さくするようなフィルタを適用する。
【0077】
類似度フィルタ部70は、非周期性ノイズN1が除去された周波数スペクトル信号Sgを特徴量算出部81Aへ出力する。また、類似度フィルタ部70は、車輪検出センサ信号X2に基づいて、車輪が車輪検出センサ2の配置位置を通過した時刻を示す車輪検知出力を算出し出力部90へ出力する。
【0078】
特徴量算出部81Aは、周波数スペクトル信号Sgから各時刻の車輪踏面異常の有無を表す時間信号Shを算出し、時間信号Shに基づいて踏面異常検知の有無を判定する(ステップS81)。具体的には、特徴量算出部81Aは、周波数スペクトル信号Sgの各時刻に対して、第2の周波数帯の信号の絶対値の和を、第2の周波数帯以外の周波数帯の信号の絶対値の和で割った値を算出することで、各時刻の車輪踏面異常の有無を表す時間信号Shを得る。また、特徴量算出部81Aは、時間信号Shを異常種類判定部82Aへ出力する。
【0079】
異常種類判定部82Aは、時間信号Shと予め設定された閾値とを比較することによって、車輪踏面異常検知の有無を判定する。異常種類判定部82Aは、時間信号Shが、閾値よりも大きい場合に車輪踏面異常があると判定する。そして、異常種類判定部82Aは、車輪踏面異常があると判定した時刻について、時間信号Shが閾値を超えた時間や閾値との差、一定の時間枠内で時間信号Shが閾値を超えた時間の長さの総和などから踏面異常の大きさや深さを判定し、異常の種類を判定する(ステップS82)。異常種類判定部82Aは、踏面異常検知判定結果を出力部90へ出力する。出力部90は、踏面異常検知判定結果および車輪検知出力を表示部91に出力する。表示部91は、踏面異常検知判定結果および車輪検知出力を表示する(ステップS90)。
【0080】
このように実施の形態1では、鉄道車輪踏面異常検知システム1Aは、レール5に設置された振動センサ3から送られてくる振動センサ信号X1に基づいて、車輪踏面異常を検知している。この場合、鉄道車輪踏面異常検知システム1Aが、車輪踏面異常振動を収録できるのは、車輪踏面異常が発生した車輪が振動センサ3の設置位置近傍を通過した時刻のみになる。この場合であっても、鉄道車輪踏面異常検知システム1Aは、独立成分分解部41Aおよび独立成分除去部42Aを備えているので、レール継ぎ目等に起因するノイズによる誤検知を防止しつつ車輪踏面異常が原因の振動を検知することができる。
【0081】
すなわち、鉄道車輪踏面異常検知システム1Aは、振動センサ信号X1のデータに含まれる車輪踏面異常振動の数が少ない場合であっても、独立成分分解部41Aが、正規化された周波数スペクトル信号Scに対して独立成分信号を算出し、独立成分除去部42Aが独立成分信号に基づいてノイズを除去するので、車輪踏面異常を正確に検知できる。このように、鉄道車輪踏面異常検知システム1Aは、特定時間の衝撃波回数と車輪回転数との一致性に基づいて誤検知を抑制する必要はなく、独立成分分解部41Aおよび独立成分除去部42Aによって誤検知を抑制するので、車輪踏面異常を正確に検知できる。
【0082】
このように、実施の形態1によれば、鉄道車輪踏面異常検知システム1Aが、レール5に設置された振動センサ3から送られてくる振動センサ信号X1に基づいて、車輪踏面異常を検知するので、車輪踏面異常の検知に必要な振動センサ3の数を削減することが可能となる。すなわち、振動センサ3が車両4側に設置される場合は、車輪踏面異常を検知したい車輪の数だけ振動センサ3が必要になるが、実施の形態1の鉄道車輪踏面異常検知システム1Aは、振動センサ3の配置数を抑制することが可能となる。
【0083】
また、鉄道車輪踏面異常検知システム1Aは、独立成分分解部41Aが、正規化された周波数スペクトル信号Scに対し独立成分信号を算出し、独立成分除去部42Aが独立成分信号に基づいてノイズを除去するので、車輪踏面異常を正確に検知できる。
【0084】
したがって、鉄道車輪踏面異常検知システム1Aは、多数の車輪に対して車輪踏面異常を検知する場合であっても低コストで車輪踏面異常を正確に検知することが可能となる。
【0085】
実施の形態2.
つぎに、図14を用いて実施の形態2について説明する。実施の形態2では、独立成分分解部41Aの別形態について説明する。実施の形態1では、独立成分分解部41Aが独立成分分析を用いて信号の分解を行ったが、実施の形態2では、独立成分分解部41Aが各時刻における信号のノルムを閾値処理によって振動か否かを判定して、独立に発生している振動信号の分解を行う。なお、鉄道車輪踏面異常検知システム1Aが備える構成要素のうち、独立成分分解部41A以外の構成要素については実施の形態1と同様の処理を実行するので、その説明を省略する。
【0086】
図14は、実施の形態2にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分分解部が算出するノルムの例を示す図である。図14に示すグラフの横軸は時間であり、縦軸はノルムである。
【0087】
図14は、正規化された周波数スペクトル信号群Scnの信号要素を独立成分分解部41Aで演算した際に得られるノルムを表している。独立成分分解部41Aは、周波数に対し、周波数毎の信号強度の絶対値の合計を算出することで、各時刻のノルムを算出する。独立成分分解部41Aは、ノルムが算出された各信号要素に対して閾値処理を実行することによって、周波数スペクトル信号群Scnを独立成分信号に分解する。独立成分分解部41Aは、例えば、ノルムが算出された各信号要素のうち閾値よりも大きな信号要素を抽出することで、周波数スペクトル信号Sc1を図5図8で示した独立成分信号Sd1a~Sd1dに分解する。
【0088】
具体的には、実施の形態2の独立成分分解部41Aは、切り出された周波数スペクトル信号群Scnが入力されると、各信号要素(周波数スペクトル信号Sc1,Sc2,Sc3,・・・,ScN)について、全周波数のノルムが第1の閾値である閾値Th1を超えた時刻のみを抽出することで独立成分信号群Sdnを算出する。独立成分分解部41Aは、切り出された周波数スペクトル信号群Scnと独立成分信号群Sdnとを独立成分除去部42Aへ出力する。
【0089】
このように、実施の形態2では、独立成分分解部41Aが、各時刻における周波数スペクトル信号群Scnのノルムを閾値処理によって振動か否かを判定して、独立に発生している振動信号を独立成分信号に分解している。これにより、鉄道車輪踏面異常検知システム1Aは、実施の形態1と同様に、少数の振動センサ3で正確に車輪踏面異常を検知することが可能となる。
【0090】
実施の形態3.
つぎに、図15図19を用いて実施の形態3について説明する。実施の形態3では、独立成分除去部42Aの別形態について説明する。実施の形態1では、独立成分除去部42AがAICを用いて車輪踏面異常振動以外の成分を除去したが、実施の形態3では、独立成分除去部42Aが、車輪踏面異常の振動信号と、この信号以外の振動信号の周波数スペクトルの分布の違いを用いて車輪踏面異常振動以外の成分を除去する。なお、鉄道車輪踏面異常検知システム1Aが備える構成要素のうち、独立成分除去部42A以外の構成要素については実施の形態1と同様の処理を実行するので、その説明を省略する。
【0091】
図15は、実施の形態3にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分除去部が周波数スペクトル信号群の信号要素を演算する際に設定する第1の周波数の例を示す図である。図15に示すグラフの横軸は時間であり、縦軸は周波数である。
【0092】
実施の形態1の図4でも説明したように、車輪踏面異常の振動信号の周波数スペクトルは、低周波数帯に分布しているのに対して、この振動信号以外の振動信号の周波数スペクトルは低周波数帯から高周波数帯まで広く分布している。
【0093】
独立成分除去部42Aは、独立成分分解部41Aから、切り出された周波数スペクトル信号群Scnと独立成分信号群Sdnとを受け付ける。独立成分除去部42Aは、予め設定された閾値で規定された第1の周波数帯F1に基づいて、周波数スペクトル信号群Scnからノイズ成分が除去された周波数スペクトル信号群Senを算出する。第1の周波数帯F1は、予め設定された閾値以上の周波数の全体(周波数領域)である。この閾値は、車輪踏面異常の振動信号が分布している周波数よりも大きな値となるように予めユーザによって設定される。
【0094】
独立成分除去部42Aは、予め設定された閾値に基づいて、車輪踏面異常の振動信号であるピークP4,P5が含まれない高周波数帯を第1の周波数帯F1として選択する。独立成分除去部42Aは、周波数スペクトル信号群Scnの各信号要素に対応する独立成分信号群Sdnの信号要素の第1の周波数帯F1におけるノルムを算出する。
【0095】
ここで、独立成分除去部42Aが、周波数スペクトル信号群Scnおよび独立成分信号群Sdnに基づいて算出するノルムについて説明する。ここでは、独立成分除去部42Aが、図15に示した周波数スペクトル信号Sc1に対応する独立成分信号Sd1の信号要素の第1の周波数帯F1におけるノルムを算出する場合について説明する。
【0096】
図16は、実施の形態3にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分除去部が算出する、第1のピークのノルムの例を示す図である。図17は、実施の形態3にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分除去部が算出する、第2のピークのノルムの例を示す図である。図18は、実施の形態3にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分除去部が算出する、第3のピークのノルムの例を示す図である。図19は、実施の形態3にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分除去部が算出する、第3のピークの残響ノイズのノルムの例を示す図である。
【0097】
図16図19の各グラフの横軸は時間であり、縦軸はノルムである。独立成分除去部42Aは、図5図8に示した独立成分信号Sd1a,Sd1b,Sd1c,Sd1dに対して図16図19に示すノルムを算出する。図16図18において、第1のピークがピークP1であり、第2のピークがピークP2であり、第3のピークがピークP3である。
【0098】
図16図18に示すピークP1~P3のノルムは、図15に示したピークP1~P3に対応している。図16に示すノルムはピークP1の第1の周波数帯F1におけるノルムであり、図17に示すノルムはピークP2の第1の周波数帯F1におけるノルムであり、図18に示すノルムはピークP3の第1の周波数帯F1におけるノルムである。すなわち、図16図18は、継ぎ目振動のピークP1~P3の第1の周波数帯F1におけるノルムに対応している。なお、図18に示す第1の周波数帯F1におけるノルムは、ピークP3のうち残響ノイズP3Eのノルムは含まれていない。図19に示す第1の周波数帯F1におけるノルムは、ピークP3の残響ノイズP3Eのノルムである。
【0099】
独立成分除去部42Aは、図16図19に示したノルムに対して閾値処理することによって、ピークP1~P3のみを抽出する。具体的には、独立成分除去部42Aは、第2の閾値である閾値Th2よりも大きなノルムの周波数スペクトル信号を周波数スペクトル信号Sc1から除くことによって図8で示した周波数スペクトル信号Se1を算出する。閾値Th2は、ピークP1~P3のノルムよりも小さな値であり、残響ノイズP3Eのノルムよりも大きな値である。
【0100】
このように、独立成分除去部42Aは、周波数スペクトル信号群Scnの各信号要素に対応する独立成分信号群Sdnの信号要素のうち第1の周波数帯F1のノルムが閾値Th2を超えた成分を除去することによって、ノイズ成分が除去された周波数スペクトル信号群Senを得る。独立成分除去部42Aは、ノイズ成分が除去された周波数スペクトル信号群Senをデータ結合部50へ出力する。
【0101】
このように、実施の形態3では、独立成分除去部42Aが、第1の周波数帯F1におけるノルムが閾値Th2よりも大きなノルムの信号を周波数スペクトル信号Sc1から除去している。これにより、実施の形態3の鉄道車輪踏面異常検知システム1Aは、実施の形態1の鉄道車輪踏面異常検知システム1Aと同様に、図8で示したノイズ成分が除去された周波数スペクトル信号Se1を得ることができる。したがって、鉄道車輪踏面異常検知システム1Aは、実施の形態1と同様に、少数の振動センサ3で正確に車輪踏面異常を検知することが可能となる。
【0102】
実施の形態4.
つぎに、図20図27を用いて実施の形態4について説明する。実施の形態4では、鉄道車輪踏面異常検知システムが、レール継ぎ目に起因する振動を検出できる第1の周波数帯F1に限定した時間信号と、レール継ぎ目に起因する振動と車輪踏面異常に起因する振動との双方を検出できる第2の周波数帯F2に限定した時間信号とを算出する。そして、鉄道車輪踏面異常検知システムが、第1の周波数帯F1に限定した時間信号と第2の周波数帯F2に限定した時間信号とから第2の周波数帯F2に対してノイズ成分が除去された時間信号を算出し、この時間信号と閾値とを比較することで踏面異常検知の有無を判定する。
【0103】
図20は、実施の形態4にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの構成を示す図である。図20の各構成要素のうち図1に示す実施の形態1の鉄道車輪踏面異常検知システム1Aと同一機能を達成する構成要素については同一符号を付しており、重複する説明は省略する。
【0104】
鉄道車輪踏面異常検知システム1Bは、周波数解析部10Bと、継ぎ目振動除去部40Bと、除去幅拡大部60と、類似度フィルタ部70と、踏面異常検出部80Bと、出力部90と、表示部91とを備えている。なお、表示部91と鉄道車輪踏面異常検知システム1Bとは別構成であってもよい。
【0105】
継ぎ目振動除去部40Bは、独立成分分解部41Bと独立成分除去部42Bとを有している。周波数解析部10Bは、振動センサ3に接続されており、振動センサ3から送られてくる振動センサ信号X1を受け付ける。
【0106】
周波数解析部10Bは、振動センサ信号X1に基づいて、レール継ぎ目に起因する振動を検出できる第1の周波数帯F1に限定した時間信号Sbb1を算出する。また、周波数解析部10Bは、振動センサ信号X1に基づいて、レール継ぎ目に起因する振動と車輪踏面異常に起因する振動との双方を検出できる第2の周波数帯F2に限定した時間信号Sbb2を算出する。第1の周波数帯F1は、レール継ぎ目に起因する振動の周波数を含む高周波数帯である。第2の周波数帯F2は、レール継ぎ目に起因する振動の周波数および車輪踏面異常に起因する振動の周波数を含む、第1の周波数帯F1よりも低い低周波数帯である。実施の形態4では、時間信号Sbb1,Sbb2が第1の時間信号である。
【0107】
周波数解析部10Bは、振動センサ信号X1に対してハイパスフィルタ(HPF、High-Pass Filter)またはバンドパスフィルタ(BPF、Band-Pass Filter)を適用することで第1の周波数帯F1に限定された時間信号Sbb1を算出する。
【0108】
また、周波数解析部10Bは、振動センサ信号X1に対してローパスフィルタ(LPF、Low-Pass Filter)またはバンドパスフィルタを適用することで第2の周波数帯F2に限定された時間信号Sbb2を算出する。
【0109】
周波数解析部10Bは、第1の周波数帯F1に限定された時間信号Sbb1、および第2の周波数帯F2に限定された時間信号Sbb2を、独立成分分解部41Bへ出力する。
【0110】
図21は、実施の形態4にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの周波数解析部が算出する第1の周波数帯に限定された時間信号の例を示す図である。図22は、実施の形態4にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの周波数解析部が算出する第2の周波数帯に限定された時間信号の例を示す図である。
【0111】
図21では、周波数解析部10Bが算出した時間信号Sbb1を示しており、図22では、周波数解析部10Bが算出した時間信号Sbb2を示している。図21および図22の各グラフの横軸は時間であり、縦軸は振動の振幅である。
【0112】
図21に示す時間信号Sbb1には継ぎ目振動であるピークP1~P3の第1の周波数帯F1の成分が含まれており、図22に示す時間信号Sbb2には車輪踏面異常振動であるピークP4,P5の他にピークP1~P3の第2の周波数帯F2の成分が含まれている。
【0113】
図21では、ピークP1の第1の周波数帯F1の成分を第1の周波数成分FH1で示し、ピークP2の第1の周波数帯F1の成分を第1の周波数成分FH2で示し、ピークP3の第1の周波数帯F1の成分を第1の周波数成分FH3で示している。
【0114】
また、図22では、ピークP1の第2の周波数帯F2の成分を第2の周波数成分FL1で示し、ピークP2の第2の周波数帯F2の成分を第2の周波数成分FL2で示し、ピークP3の第2の周波数帯F2の成分を第2の周波数成分FL3で示している。また、図22では、ピークP4の第2の周波数帯F2の成分を第2の周波数成分FL4で示し、ピークP5の第2の周波数帯F2の成分を第2の周波数成分FL5で示している。
【0115】
独立成分分解部41Bは、第1の周波数帯F1に限定された時間信号Sbb1が入力されると、時間信号Sbb1から振幅(信号強度)が特定の閾値(特定値)を超えた時刻のみを抽出した独立成分信号Sdd1を算出する。また、独立成分分解部41Bは、第2の周波数帯F2に限定された時間信号Sbb2が入力されると、時間信号Sbb2から、独立成分信号Sdd1の算出の際に抽出した時刻と同時刻の信号のみを抽出した独立成分信号Sdd2を算出する。
【0116】
ここで、独立成分分解部41Bが実行する処理について説明する。図23は、実施の形態4にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分分解部が設定する閾値の例を説明するための図である。図24は、実施の形態4にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分分解部が第1の周波数帯に限定された時間信号から抽出する独立成分信号の例を示す図である。図25は、実施の形態4にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分分解部が第2の周波数帯に限定された時間信号から抽出する独立成分信号の例を示す図である。
【0117】
図23図25の各グラフの横軸は時間であり、縦軸は振動の振幅である。図23に示すグラフは、図21に示したグラフに対応している。図23では、周波数解析部10Bが算出した時間信号Sbb1と、独立成分分解部41Bが用いる閾値Th3,Th4とを図示している。図24に示すグラフは、図23に示したグラフに対応し、図25に示すグラフは、図22に示したグラフに対応している。
【0118】
閾値Th3は、正の値であり、閾値Th4は、負の値である。閾値Th3と閾値Th4とは、絶対値が同じで正と負の符号が異なる。
【0119】
独立成分分解部41Bは、第1の周波数帯F1に限定された時間信号Sbb1と閾値Th3,Th4とを比較し、閾値Th3よりも大きいか、閾値Th4よりも小さい時間信号である独立成分信号Sdd1を、時間信号Sbb1から抽出する。独立成分分解部41Bは、閾値Th3よりも大きいか、閾値Th4よりも小さい時間信号Sbb1に対して、特定時間幅の時間信号を抽出する。
【0120】
図24では、独立成分分解部41Bが抽出した独立成分信号Sdd1として、ピークP1の第1の周波数成分FH1と、ピークP2の第1の周波数成分FH2と、ピークP3の第1の周波数成分FH3とを示している。
【0121】
独立成分分解部41Bは、第2の周波数帯F2に限定された時間信号Sbb2から、第1の周波数成分FH1~FH3の時間と同じ時刻の時間信号を抽出する。図25では、独立成分分解部41Bが抽出した独立成分信号Sdd2として、ピークP1の第2の周波数成分FL1と、ピークP2の第2の周波数成分FL2と、ピークP3の第2の周波数成分FL3とを示している。実施の形態4では、独立成分信号Sdd1が第1の限定信号であり、独立成分信号Sdd2が第2の限定信号である。
【0122】
独立成分分解部41Bは、第1の周波数帯F1に限定された時間信号Sbb1、第2の周波数帯F2に限定された時間信号Sbb2、および独立成分信号Sdd1,Sdd2を独立成分除去部42Bへ出力する。
【0123】
独立成分除去部42Bは、第1の周波数帯F1に限定された時間信号Sbb1、第2の周波数帯F2に限定された時間信号Sbb2、および独立成分信号Sdd1,Sdd2が入力されると、時間信号Sbb1について十分にノイズ成分が除去されるまで独立成分信号Sdd1の信号要素を除去する。これにより、独立成分除去部42Bは、第1の周波数帯F1についてノイズ成分が除去された時間信号See1を算出する。ノイズ成分が十分除去された時とは、時間信号Sbb1からノイズ成分がL(Lは自然数)個除去された際に、除去された時間信号のAICが、時間信号Sbb1からノイズ成分が(L-1)個除去された際のAICより大きくなった時である。
【0124】
独立成分除去部42Bは、独立成分除去部42Aと同様に、独立成分信号Sdd1のうち第1の周波数帯F1におけるノルムが大きい信号から順にノイズ成分の除去を行う。
【0125】
独立成分除去部42Bは、時間信号Sbb2について、時間信号Sbb1から除去された独立成分信号Sdd1の時刻に対応する独立成分信号Sdd2を除去することで、第2の周波数帯F2についてノイズ成分が除去された時間信号See2を算出する。実施の形態4では、時間信号See2が第2の時間信号である。
【0126】
なお、ここではノイズ成分の除去方法として独立成分除去部42BがAICを用いる方法について説明したが、独立成分除去部42Bは、時間信号Sbb2から独立成分信号Sdd2のうち独立成分信号Sdd1の特定の閾値を超えた時刻に対応する成分を全て除去する方法を用いてもよい。独立成分除去部42Bは、第2の周波数帯F2についてノイズ成分を除去した時間信号See2を除去幅拡大部60へ出力する。
【0127】
図26は、実施の形態4にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの独立成分除去部が第2の周波数帯に限定された時間信号からノイズ成分を除去した時間信号の例を示す図である。図26のグラフの横軸は時間であり、縦軸は振動の振幅である。図26に示すグラフは、図21図25に示したグラフに対応している。
【0128】
図26では、独立成分除去部42Bが、時間信号Sbb2および独立成分信号Sdd1,Sdd2に対して演算処理を実行した際に得られる、ノイズ成分が除去された時間信号See2を表している。時間信号See2では、継ぎ目振動であるピークP1~P3の時間信号が除去されている。
【0129】
除去幅拡大部60は、第2の周波数帯F2についてノイズ成分が除去された時間信号See2が入力されると、時間信号See2の各ノイズ成分が除去された時刻から特定時間後の信号も除去することによって、残響ノイズP3Eを除去した時間信号Sff(図示せず)を算出する。除去幅拡大部60は、残響ノイズP3Eを除いた時間信号Sffを類似度フィルタ部70へ出力する。
【0130】
類似度フィルタ部70は、車輪検出センサ2から送られてきた車輪検出センサ信号X2が入力されると、車輪検出センサ信号X2から車両4の速度を算出し、車両4の速度から車輪が1周する時間を算出する。
【0131】
また、類似度フィルタ部70は、残響ノイズP3Eが除かれた時間信号Sffが入力されると、時間信号Sffに対し、前後車輪1周分の時間差を有した信号間で類似した信号がある場合に強調し、類似した信号が無い場合に強度を小さく(除去)するようなフィルタを適用する。すなわち、類似度フィルタ部70は、時間信号Sffのうち、車輪が1回転する前の信号と車輪が1回転した後の信号とが類似した信号であれば両者の信号の強度を大きくし、類似した信号で無ければ強度を小さくする。実施の形態4の類似度フィルタ部70は、実施の形態1の類似度フィルタ部70と同様に、前後車輪1周分のコサイン類似度に基づいて、類似した信号を強調する。
【0132】
このように、類似度フィルタ部70は、車輪が1回転する前の信号と車輪が1回転した後の信号とが類似した信号であるか否かに基づいて、信号強度を強めるかまたは弱めるので、除去幅拡大部60までの処理で除去できなかった非周期性ノイズN1が除去された時間信号Sgg(図示せず)を算出することができる。類似度フィルタ部70は、非周期性ノイズN1が除去された時間信号Sggを踏面異常検出部80Bへ出力する。また、類似度フィルタ部70は、車輪検出センサ信号X2に基づいて、車輪が車輪検出センサ2の配置位置を通過した時刻を示す車輪検知出力を算出し出力部90へ出力する。
【0133】
踏面異常検出部80Bは、非周期性ノイズN1が除去された時間信号Sggが入力されると、各時刻の時間信号Sggと予め設定した閾値とを比較することで、踏面異常検知の有無を判定する。踏面異常検出部80Bは、時間信号Sggが、閾値よりも大きい場合に車輪踏面異常があると判定する。踏面異常検出部80Bは、踏面異常検知判定結果を出力部90へ出力する。出力部90は、踏面異常検出部80Bから送られてきた踏面異常検知判定結果と、類似度フィルタ部70から送られてきた車輪検知出力とを表示部91に出力する。表示部91は、踏面異常検知判定結果と車輪検知出力とを表示する。
【0134】
つぎに、鉄道車輪踏面異常検知システム1Bの動作処理手順について説明する。図27は、実施の形態4にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムの動作処理手順を示すフローチャートである。図27では、鉄道車輪踏面異常検知システム1Bによる車輪踏面異常の検知処理手順を示している。
【0135】
周波数解析部10Bは、振動センサ3から送られてくる振動センサ信号X1を受け付ける。周波数解析部10Bは、振動センサ信号X1から、第1の周波数帯F1に限定された時間信号Sbb1および第2の周波数帯F2に限定された時間信号Sbb2を算出する(ステップS110)。具体的には、周波数解析部10Bは、振動センサ信号X1に対してハイパスフィルタまたはバンドパスフィルタを適用することで時間信号Sbb1を算出する。また、周波数解析部10Bは、振動センサ信号X1に対してローパスフィルタまたはバンドパスフィルタを適用することで時間信号Sbb2を算出する。周波数解析部10Bは、時間信号Sbb1,Sbb2を独立成分分解部41Bへ出力する。
【0136】
独立成分分解部41Bは、第1の周波数帯F1に限定された時間信号Sbb1から独立成分信号Sdd1を抽出し、第2の周波数帯F2に限定された時間信号Sbb2から独立成分信号Sdd2を抽出する(ステップS141)。独立成分分解部41Bは、第1の周波数帯F1に限定された時間信号Sbb1、第2の周波数帯F2に限定された時間信号Sbb2、および独立成分信号Sdd1,Sdd2を独立成分除去部42Bへ出力する。
【0137】
独立成分除去部42Bは、第1の周波数帯F1に限定された時間信号Sbb1、第2の周波数帯F2に限定された時間信号Sbb2、および独立成分信号Sdd1,Sdd2から、第2の周波数帯F2についてノイズ成分が除去された時間信号See2を算出する(ステップS142)。独立成分除去部42Bは、時間信号See2を除去幅拡大部60へ出力する。
【0138】
除去幅拡大部60は、時間信号See2から、残響ノイズP3Eを除去した時間信号Sffを算出する(ステップS160)。除去幅拡大部60は、時間信号Sffを類似度フィルタ部70へ出力する。
【0139】
類似度フィルタ部70は、車輪が1周する時間および時間信号Sffに基づいて、非周期性ノイズN1が除去された時間信号Sggを算出する(ステップS170)。類似度フィルタ部70は、非周期性ノイズN1が除去された時間信号Sggを踏面異常検出部80Bへ出力する。また、類似度フィルタ部70は、車輪検出センサ信号X2に基づいて、車輪が車輪検出センサ2の配置位置を通過した時刻を示す車輪検知出力を算出し出力部90へ出力する。
【0140】
踏面異常検出部80Bは、各時刻の時間信号Sggと予め設定した閾値とを比較することで、踏面異常検知の有無を判定する(ステップS180)。具体的には、踏面異常検出部80Bは、時間信号Sggが、閾値よりも大きい場合に車輪踏面異常があると判定する。踏面異常検出部80Bは、踏面異常検知判定結果を出力部90へ出力する。
【0141】
出力部90は、踏面異常検知判定結果および車輪検知出力を表示部91に出力する。表示部91は、踏面異常検知判定結果および車輪検知出力を表示する(ステップS190)。
【0142】
つづいて、鉄道車輪踏面異常検知システム1A,1Bのハードウェア構成について説明する。鉄道車輪踏面異常検知システム1A,1Bは、処理回路により実現される。この処理回路は、メモリに格納されるプログラムを実行するプロセッサおよびメモリであってもよいし、専用のハードウェアであってもよい。処理回路は制御回路とも呼ばれる。
【0143】
図28は、実施の形態1から4にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムが備える処理回路をプロセッサおよびメモリで実現する場合の処理回路の構成例を示す図である。なお、鉄道車輪踏面異常検知システム1A,1Bは同様のハードウェア構成を有しているので、以下では、鉄道車輪踏面異常検知システム1Aのハードウェア構成について説明する。
【0144】
図28に示す処理回路150は制御回路であり、プロセッサ151およびメモリ152を備える。処理回路150がプロセッサ151およびメモリ152で構成される場合、処理回路150の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアまたはファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ152に格納される。処理回路150では、メモリ152に記憶されたプログラムをプロセッサ151が読み出して実行することにより、各機能を実現する。すなわち、処理回路150は、鉄道車輪踏面異常検知システム1Aの処理が結果的に実行されることになる鉄道車輪踏面異常検知プログラムを格納するためのメモリ152を備える。この鉄道車輪踏面異常検知プログラムは、処理回路150により実現される各機能を鉄道車輪踏面異常検知システム1Aに実行させるためのプログラムであるともいえる。この鉄道車輪踏面異常検知プログラムは、プログラムが記憶された記憶媒体により提供されてもよいし、通信媒体など他の手段により提供されてもよい。
【0145】
鉄道車輪踏面異常検知システム1Aで実行される鉄道車輪踏面異常検知プログラムは、周波数解析部10Aと、正規化部20と、データ切り出し部30と、継ぎ目振動除去部40Aと、データ結合部50と、除去幅拡大部60と、類似度フィルタ部70と、踏面異常検出部80Aと、出力部90とを含むモジュール構成となっており、これらが主記憶装置上にロードされ、これらが主記憶装置上に生成される。
【0146】
なお、鉄道車輪踏面異常検知システム1Bで実行される鉄道車輪踏面異常検知プログラムは、周波数解析部10Bと、継ぎ目振動除去部40Bと、除去幅拡大部60と、類似度フィルタ部70と、踏面異常検出部80Bと、出力部90とを含むモジュール構成となっており、これらが主記憶装置上にロードされ、これらが主記憶装置上に生成される。
【0147】
ここで、プロセッサ151は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、またはDSP(Digital Signal Processor)などである。また、メモリ152は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(登録商標)(Electrically EPROM)などの、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、またはDVD(Digital Versatile Disc)などが該当する。
【0148】
図29は、実施の形態1から4にかかる鉄道車輪踏面異常検知システムが備える処理回路を専用のハードウェアで構成する場合の処理回路の例を示す図である。図29に示す処理回路153は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものが該当する。
【0149】
処理回路150,153については、一部を専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現するようにしてもよい。このように、処理回路150,153は、専用のハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせによって、上述の各機能を実現することができる。なお、鉄道車輪踏面異常検知システム1Aは、1つの処理回路で実現されてもよいし、複数の処理回路で実現されてもよい。
【0150】
このように実施の形態4では、独立成分分解部41Bが、レール継ぎ目に起因する振動を検出できる第1の周波数帯F1に限定した時間信号Sbb1と、レール継ぎ目に起因する振動と車輪踏面異常に起因する振動との双方を検出できる第2の周波数帯F2に限定した時間信号Sbb2とを算出する。そして、独立成分除去部42Bが、時間信号Sbb2に対し、時間信号Sbb1から除去された独立成分信号Sdd1の時刻に対応する独立成分信号Sdd2を除去することで、第2の周波数帯F2についてノイズ成分が除去された時間信号See2を算出する。さらに、独立成分除去部42Bは、時間信号See2と閾値とを比較することで踏面異常検知の有無を判定している。したがって、鉄道車輪踏面異常検知システム1Bは、実施の形態1と同様に、少数の振動センサ3で正確に車輪踏面異常を検知することが可能となる。
【0151】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【0152】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0153】
(付記1)
レールに設置された振動センサによって計測された振動の情報を示す振動センサ信号を周波数帯毎の信号強度を示す第1の時間信号へと変換する周波数解析部と、
前記第1の時間信号に対応する対応信号から前記レールの継ぎ目であるレール継ぎ目に起因する振動の信号を除去した第2の時間信号を算出する継ぎ目振動除去部と、
前記第2の時間信号から、前記レール上を走行している車両の車輪に発生している車輪踏面異常の有無を判定する踏面異常検出部と、
前記踏面異常検出部の判定結果を出力する出力部と、
を備え、
前記継ぎ目振動除去部は、
前記対応信号から前記レール継ぎ目に起因する振動の周波数を含む第3の時間信号を抽出し、前記第3の時間信号の信号強度が特定値を超える場合に前記対応信号から前記第3の時間信号を除去することで前記第2の時間信号を算出する、
ことを特徴とする鉄道車輪踏面異常検知システム。
(付記2)
前記第1の時間信号に基づいて、前記レール継ぎ目に起因する振動以外のノイズのスケールを正規化する正規化部をさらに備え、
前記継ぎ目振動除去部は、
前記ノイズのスケールが正規化された前記第1の時間信号に対応する前記対応信号から前記レール継ぎ目に起因する振動の信号を除去した第2の時間信号を算出する、
ことを特徴とする付記1に記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
(付記3)
前記正規化部は、
mを予め設定されたパラメータとした場合に、前記第1の時間信号のうち信号の小さいものからm%の値を、前記レール継ぎ目に起因する振動以外のノイズが従う分布のm%点の値で割ることで、前記ノイズのスケールを算出し、算出した前記ノイズのスケールで前記第1の時間信号を割ることで前記ノイズのスケールが正規化された前記第1の時間信号を算出する、
ことを特徴とする付記2に記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
(付記4)
前記第3の時間信号が除去された時刻から特定時間後の信号を、前記第2の時間信号から除去することで、前記レール継ぎ目に起因する振動の残響ノイズを除去する除去幅拡大部と、
前記車輪を検出する車輪検出センサから前記車輪を検出したことを示す車輪検出センサ信号を受け付けると、前記車輪検出センサ信号に基づいて、前記残響ノイズが除去された前記第2の時間信号から、前記車輪の回転周期以外の信号である非周期性ノイズを除去する類似度フィルタ部と、
をさらに備え、
前記踏面異常検出部は、
前記残響ノイズおよび前記非周期性ノイズが除去された前記第2の時間信号から、前記車輪踏面異常の有無を判定する、
ことを特徴とする付記1から3の何れか1つに記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
(付記5)
前記類似度フィルタ部は、
前記車輪検出センサ信号から前記車両の速度を計算するとともに前記速度から前記車輪が1周する時間を算出し、前記残響ノイズが除去された前記第2の時間信号の各時刻の信号に対して前記車輪の1周分の時間差の信号との間の類似度を算出するとともに前記類似度が特定値以上の信号を強調することで前記非周期性ノイズを除去する、
ことを特徴とする付記4に記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
(付記6)
前記対応信号を特定の時間幅毎に切り出すことで複数の信号要素を含んだ時間信号群を算出するデータ切り出し部をさらに備え、
前記継ぎ目振動除去部は、前記時間信号群毎に前記第2の時間信号を算出する、
ことを特徴とする付記1から5の何れか1つに記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
(付記7)
前記継ぎ目振動除去部は、
前記対応信号を、独立な振動成分の信号である独立成分信号に分解する独立成分分解部と、
前記対応信号から前記独立成分信号を除去することで前記第2の時間信号を算出する独立成分除去部と、
を有する、
ことを特徴とする付記1から6の何れか1つに記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
(付記8)
前記独立成分分解部は、
独立成分分析を用いて前記対応信号を前記独立成分信号に分解する、
ことを特徴とする付記7に記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
(付記9)
前記独立成分分解部は、
前記独立成分信号のノルムが第1の閾値よりも大きな信号を前記独立成分信号として抽出することで、前記対応信号を前記独立成分信号に分解する、
ことを特徴とする付記7に記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
(付記10)
前記独立成分分解部は、
Mを自然数として、M個の前記独立成分信号を足した成分と、前記対応信号との差分の赤池情報量基準が最小となるまで前記独立成分信号を分解する、
ことを特徴とする付記7から9の何れか1つに記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
(付記11)
前記独立成分除去部は、
Lを自然数として、L個の前記独立成分信号の赤池情報量基準が最小となるまで前記独立成分信号を除去する、
ことを特徴とする付記7から10の何れか1つに記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
(付記12)
前記独立成分除去部は、
前記独立成分信号のノルムが第2の閾値よりも大きな前記独立成分信号を除去する、
ことを特徴とする付記7から10の何れか1つに記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
(付記13)
前記踏面異常検出部は、
前記対応信号から車輪踏面異常の有無を表す時間信号を算出する特徴量算出部と、
前記対応信号から車輪踏面異常の種類を判定する異常種類判定部と、
を有する、
ことを特徴とする付記1に記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
(付記14)
前記特徴量算出部は、
前記対応信号のうち第4の周波数以下の信号の絶対値の和を前記第4の周波数を超える信号の絶対値の和で割ることで車輪踏面異常の有無を表す時間信号を算出する、
ことを特徴とする付記13に記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
(付記15)
前記異常種類判定部は、
前記対応信号が第3の閾値を超えた場合に踏面異常を検出し、前記対応信号と第3の閾値との差、前記対応信号が前記第3の閾値を超えた時間、一定の時間枠内で前記対応信号が前記第3の閾値を超えた時間の総和から踏面異常の大きさと深さを判定する、
ことを特徴とする付記13に記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
(付記16)
前記信号強度は、前記第3の時間信号のノルムの大きさである、
ことを特徴とする付記1から15の何れか1つに記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
(付記17)
レールに設置された振動センサによって計測された振動の情報を示す振動センサ信号を周波数帯毎の信号強度を示す第1の時間信号へと変換する周波数解析部と、
前記第1の時間信号から前記レールの継ぎ目であるレール継ぎ目に起因する振動の信号を除去した第2の時間信号を算出する継ぎ目振動除去部と、
前記第2の時間信号から、前記レール上を走行している車両の車輪に発生している車輪踏面異常の有無を判定する踏面異常検出部と、
前記踏面異常検出部の判定結果を出力する出力部と、
を備え、
前記周波数解析部は、
前記レール継ぎ目に起因する振動の周波数を含む第1の周波数帯に限定された第1の限定信号と、前記レール継ぎ目に起因する振動の周波数および車輪踏面異常に起因する振動の周波数の双方を検出できる第2の周波数に限定された第2の限定信号とを前記第1の時間信号として算出し、
前記継ぎ目振動除去部は、
前記第1の限定信号に対応する信号と前記第2の限定信号に対応する信号との双方が信号強度を持つ信号を、前記第2の限定信号から除去することで前記第2の時間信号を算出する、
ことを特徴とする鉄道車輪踏面異常検知システム。
(付記18)
前記継ぎ目振動除去部は、
前記第1の限定信号から信号強度が特定値を超える時刻の信号である第1の独立成分信号を抽出するとともに、前記第2の限定信号から前記時刻と同時刻の信号である第2の独立成分信号を抽出し、前記第2の限定信号から前記第2の独立成分信号を除去することで、前記第2の時間信号を算出する、
ことを特徴とする付記17に記載の鉄道車輪踏面異常検知システム。
(付記19)
鉄道車輪踏面異常検知システムが、レールに設置された振動センサによって計測された振動の情報を示す振動センサ信号を周波数帯毎の信号強度を示す第1の時間信号へと変換する周波数解析ステップと、
前記鉄道車輪踏面異常検知システムが、前記第1の時間信号に対応する対応信号から前記レールの継ぎ目であるレール継ぎ目に起因する振動の信号を除去した第2の時間信号を算出する継ぎ目振動除去ステップと、
前記鉄道車輪踏面異常検知システムが、前記第2の時間信号から、前記レール上を走行している車両の車輪に発生している車輪踏面異常の有無を判定する踏面異常検出ステップと、
前記鉄道車輪踏面異常検知システムが、前記車輪踏面異常の有無の判定結果を出力する出力ステップと、
を含み、
前記継ぎ目振動除去ステップでは、
前記鉄道車輪踏面異常検知システムが、前記対応信号から前記レール継ぎ目に起因する振動の周波数を含む第3の時間信号を抽出し、前記第3の時間信号の信号強度が特定値を超える場合に前記対応信号から前記第3の時間信号を除去することで前記第2の時間信号を算出する、
ことを特徴とする鉄道車輪踏面異常検知方法。
(付記20)
レールに設置された振動センサによって計測された振動の情報を示す振動センサ信号を周波数帯毎の信号強度を示す第1の時間信号へと変換する周波数解析ステップと、
前記第1の時間信号に対応する対応信号から前記レールの継ぎ目であるレール継ぎ目に起因する振動の信号を除去した第2の時間信号を算出する継ぎ目振動除去ステップと、
前記第2の時間信号から、前記レール上を走行している車両の車輪に発生している車輪踏面異常の有無を判定する踏面異常検出ステップと、
前記車輪踏面異常の有無の判定結果を出力する出力ステップと、
をコンピュータに実行させ、
前記継ぎ目振動除去ステップでは、
前記対応信号から前記レール継ぎ目に起因する振動の周波数を含む第3の時間信号を抽出し、前記第3の時間信号の信号強度が特定値を超える場合に前記対応信号から前記第3の時間信号を除去することで前記第2の時間信号を算出する、
ことを特徴とする鉄道車輪踏面異常検知プログラム。
【符号の説明】
【0154】
1A,1B 鉄道車輪踏面異常検知システム、2 車輪検出センサ、3 振動センサ、4 車両、5 レール、10A,10B 周波数解析部、20 正規化部、30 データ切り出し部、40A,40B 継ぎ目振動除去部、41A,41B 独立成分分解部、42A,42B 独立成分除去部、50 データ結合部、60 除去幅拡大部、70 類似度フィルタ部、80A,80B 踏面異常検出部、81A 特徴量算出部、82A 異常種類判定部、90 出力部、91 表示部、150,153 処理回路、151 プロセッサ、152 メモリ、F1 第1の周波数帯、F2 第2の周波数帯、FH1~FH3 第1の周波数成分、FL1~FL5 第2の周波数成分、N1 非周期性ノイズ、P1~P5 ピーク、P3E 残響ノイズ、Sa1,X1 振動センサ信号、Sb,Sb1,Sc,Sc1~ScN,Se,Se1~SeN,Sf,Sg 周波数スペクトル信号、Sbb1,Sbb2,See1,See2,Sff,Sgg,Sh 時間信号、Scn,Sen 周波数スペクトル信号群、Sd1~SdN,Sd1a~Sd1d,Sdd1,Sdd2 独立成分信号、Sdn 独立成分信号群、Th1~Th4 閾値、X2 車輪検出センサ信号。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
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