(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016278
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】圧電スピーカー
(51)【国際特許分類】
H04R 17/00 20060101AFI20240130BHJP
G10K 11/175 20060101ALN20240130BHJP
【FI】
H04R17/00
G10K11/175
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023197088
(22)【出願日】2023-11-21
(62)【分割の表示】P 2019555323の分割
【原出願日】2018-11-20
(31)【優先権主張番号】P 2017223800
(32)【優先日】2017-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100202201
【弁理士】
【氏名又は名称】兒島 淳一郎
(72)【発明者】
【氏名】河本 裕介
(72)【発明者】
【氏名】日紫喜 智昭
(72)【発明者】
【氏名】大戸 康平
(72)【発明者】
【氏名】山本 沙織
(72)【発明者】
【氏名】関口 裕香
(57)【要約】 (修正有)
【課題】介在層を用いることで固定面を支持体に貼り付けることが原因で可聴音域における低周波側の音が出難くなるのを防止するのに適している圧電スピーカーを提供する。
【解決手段】圧電スピーカー(10)は、圧電フィルム(35)と、圧電フィルム(35)を支持体に固定するための固定面(17)と、圧電フィルム(35)と固定面(17)との間に配置された介在層(40)と、を備えている。介在層(40)の拘束度は、5×10
8N/m
3以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電フィルムと、前記圧電フィルムを支持体に固定するための固定面と、前記圧電フィルムと前記固定面との間に配置された介在層と、を備え、
前記介在層の拘束度は、5×108N/m3以下である、圧電スピーカー。
ここで、前記拘束度は、前記介在層の弾性率と前記介在層の表面充填率との積を前記介在層の厚さで割ることによって得られる値であり、前記表面充填率は、前記介在層における前記圧電フィルム側の主面の充填率である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電スピーカーに関し、具体的には、圧電フィルムを支持体に固定するための固定面を備えた圧電スピーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、音響機器用又は消音用のスピーカーとして、圧電フィルムを用いたスピーカー(以下、圧電スピーカーと称することがある)が採用されることがある。圧電スピーカーには、体積が小さくて軽いという利点がある。
【0003】
特許文献1には、圧電スピーカーの一例が記載されている。具体的には、特許文献1には、圧電スピーカーを支持体である木製ボードに接着剤で貼り付けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-236189号公報
【特許文献2】特開2016-122187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧電フィルムを支持体に貼り付ける場合、支持体によっては、可聴音域における低周波側の音が出難くなることがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
圧電フィルムと、前記圧電フィルムを支持体に固定するための固定面と、前記圧電フィルムと前記固定面との間に配置された介在層と、を備え、
前記介在層の拘束度は、5×108N/m3以下である、圧電スピーカーを提供する。
ここで、前記拘束度は、前記介在層の弾性率と前記介在層の表面充填率との積を前記介在層の厚さで割ることによって得られる値であり、前記表面充填率は、前記介在層における前記圧電フィルム側の主面の充填率である。
【発明の効果】
【0007】
上記の介在層は、圧電スピーカーの固定面を支持体に貼り付けることが原因で可聴音域における低周波側の音が出難くなるのを防止するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、圧電スピーカーの厚さ方向に平行な断面における断面図である。
【
図2】
図2は、圧電スピーカーを固定面とは反対側から観察したときの上面図である。
【
図3】
図3は、圧電スピーカーが支持体に固定された様子を説明するための図である。
【
図4】
図4は、別の実施形態に係る圧電スピーカーを示す図である。
【
図5】
図5は、サンプルを測定するための構成を説明するための図である。
【
図6】
図6は、サンプルを測定するための構成を説明するための図である。
【
図10】
図10は、介在層の拘束度と音が出始める周波数との関係を示すグラフである。
【
図11】
図11は、実施例1のサンプルの音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図12】
図12は、実施例2のサンプルの音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図13】
図13は、実施例3のサンプルの音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図14】
図14は、実施例4のサンプルの音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図15】
図15は、実施例5のサンプルの音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図16】
図16は、実施例6のサンプルの音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図17】
図17は、実施例7のサンプルの音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図18】
図18は、実施例8のサンプルの音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図19】
図19は、実施例9のサンプルの音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図20】
図20は、実施例10のサンプルの音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図21】
図21は、実施例11のサンプルの音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図22】
図22は、実施例12のサンプルの音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図23】
図23は、実施例13のサンプルの音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図24】
図24は、実施例14のサンプルの音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図25】
図25は、実施例15のサンプルの音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図26】
図26は、実施例16のサンプルの音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図27】
図27は、実施例17のサンプルの音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図28】
図28は、比較例1のサンプルの音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図29】
図29は、比較例2のサンプルの音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図30】
図30は、比較例3のサンプルの音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図31】
図31は、参考例1のサンプルの音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図32】
図32は、暗騒音の音圧レベルの周波数特性を示すグラフである。
【
図33】
図33は、圧電フィルムの支持構造を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付の図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明するが、以下は本発明の実施形態の例示に過ぎず、本発明を制限する趣旨ではない。
【0010】
[第1実施形態]
図1及び
図2を用いて、第1実施形態に係る圧電スピーカーを説明する。圧電スピーカー10は、圧電フィルム35と、固定面17と、介在層40と、を備えている。固定面17は、圧電フィルム35を支持体に固定するための面である。また、圧電スピーカー10は、粘着層又は接着層51(以下、単に粘着層51と称することがある)と、粘着層又は接着層52(以下、単に粘着層52と称することがある)とを備えている。固定面17は、粘着層51の表面(主面)により形成されている。つまり、固定面17は、粘着面又は接着面である。圧電フィルム35は、圧電体30と、電極61と、電極62と、を含んでいる。粘着層51と、介在層40と、粘着層52と、圧電フィルム35とは、この順に積層されている。
【0011】
以下では、粘着層51を第1粘着層51と称し、粘着層52を第2粘着層52と称し、電極61を第1電極61と称し、電極62を第2電極62と称することがある。
【0012】
圧電体30は、フィルム形状を有している。圧電体30は、電圧が印加されることによって振動する。圧電体30として、セラミックフィルム、樹脂フィルム等を用いることができる。セラミックフィルムである圧電体30の材料としては、ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸ランタン酸鉛、チタン酸バリウム、Bi層状化合物、タングステンブロンズ構造化合物、チタン酸バリウムとビスマスフェライトとの固溶体等が挙げられる。樹脂フィルムである圧電体30の材料としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリ乳酸等が挙げられる。樹脂フィルムである圧電体30の材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンであってもよい。また、圧電体30は、無孔体であってもよく、多孔体であってもよい。
【0013】
圧電体30の厚さは、例えば10μm~300μmの範囲にあり、30μm~110μmの範囲にあってもよい。
【0014】
第1電極61及び第2電極62は、圧電体30を挟むように圧電体30に接している。第1電極61及び第2電極62は、フィルム形状を有している。第1電極61及び第2電極62は、それぞれ、図示しないリード線に接続されている。第1電極61及び第2電極62は、蒸着、めっき、スパッタリング等により圧電体30上に形成され得る。第1電極61及び第2電極62として、金属箔を用いることもできる。金属箔は、両面テープ、粘着剤、接着剤等によって圧電体30に貼り付け可能である。第1電極61及び第2電極62の材料としては、金属が挙げられ、具体的には、金、白金、銀、銅、パラジウム、クロム、モリブデン、鉄、鈴、アルミニウム、ニッケル等が挙げられる。第1電極61及び第2電極62の材料として、炭素、導電性高分子等も挙げられる。第1電極61及び第2電極62の材料として、これらの合金も挙げられる。第1電極61及び第2電極62は、ガラス成分等を含んでいてもよい。
【0015】
第1電極61及び第2電極62の厚さは、それぞれ、例えば10nm~150μmの範囲にあり、20nm~100μmの範囲にあってもよい。
【0016】
図1及び
図2の例では、第1電極61は、圧電体30の一方の主面全体を覆っている。ただし、第1電極61は、圧電体30の該一方の主面の一部のみを覆っていてもよい。第2電極62は、圧電体30の他方の主面全体を覆っている。ただし、第2電極62は、圧電体30の該他方の主面の一部のみを覆っていてもよい。
【0017】
介在層40は、圧電フィルム35と固定面17との間に配置されている。本実施形態では、介在層40は、圧電フィルム35と第1粘着層51との間に配置されている。介在層40は、接着層及び粘着層以外の層であってもよく、接着層又は粘着層であってもよい。本実施形態では、介在層40は、多孔体層及び/又は樹脂層である。ここで、樹脂層はゴム層及びエラストマ層を含む概念であり、従って樹脂層である介在層40はゴム層又はエラストマ層であってもよい。樹脂層である介在層40としては、エチレンプロピレンゴム層、ブチルゴム層、ニトリルゴム層、天然ゴム層、スチレンブタジエンゴム層、シリコーン層、ウレタン層、アクリル樹脂層等が挙げられる。多孔体層である介在層40としては、発泡体層等が挙げられる。具体的には、多孔体層及び樹脂層である介在層40としては、エチレンプロピレンゴム発泡体層、ブチルゴム発泡体層、ニトリルゴム発泡体層、天然ゴム発泡体層、スチレンブタジエンゴム発泡体層、シリコーン発泡体層、ウレタン発泡体層等が挙げられる。多孔体層ではないが樹脂層である介在層40としては、アクリル樹脂層等が挙げられる。樹脂層ではないが多孔体層である介在層40としては、金属の多孔体層等が挙げられる。ここで、樹脂層は、樹脂を含む層を指し、樹脂を30%以上含んでいてもよく、樹脂を45%以上含んでいてもよく、樹脂を60%以上含んでいてもよく、樹脂を80%以上含んでいてもよい層を指す。ゴム層、エラストマ層、エチレンプロピレンゴム層、ブチルゴム層、ニトリルゴム層、天然ゴム層、スチレンブタジエンゴム層、シリコーン層、ウレタン層、アクリル樹脂層、金属層、樹脂フィルム、セラミックフィルム等についても同様である。介在層40は、2種類以上の材料のブレンド層であってもよい。
【0018】
介在層40の弾性率は、例えば10000N/m2~10000000N/m2であり、20000N/m2~100000N/m2であってもよい。
【0019】
一例では、多孔体層である介在層40の孔径は、0.1mm~7.0mmであり、0.3mm~5.0mmであってもよい。別の例では、多孔体層である介在層40の孔径は、例えば0.1mm~2.5mmであり、0.2mm~1.5mmであってもよく、0.3mm~0.7mmであってもよい。多孔体層である介在層40の空孔率は、例えば70%~99%であり、80%~99%であってもよく、90%~95%であってもよい。
【0020】
発泡体層である介在層40として、公知の発泡体を利用できる(例えば、特許文献2の発泡体を利用できる)。発泡体層である介在層40は、連続気泡構造を有していてもよく、独立気泡構造を有していてもよく、半独立半連続気泡構造を有していてもよい。連続気泡構造は、連続気泡率が100%である構造を指す。独立気泡構造は、連続気泡率が0%である構造を指す。半独立半連続気泡構造は、連続気泡率が0%よりも大きく100%よりも小さい構造を指す。ここで、連続気泡率は、例えば、発泡体層を水中に沈める試験を行い、式:連続気泡率(%)={(吸水した水の体積)/(気泡部分体積)}×100を用いて計算することができる。一具体例では、「吸水した水の体積」は、発泡体層を水中に沈めて-750mmHgの減圧下で3分間放置した後に、発泡体層の気泡中の空気と置換された水の質量を測り、水の密度を1.0g/cm3として体積に換算することで得られるものである。「気泡部分体積」は、式:気泡部分体積(cm3)={(発泡体層の質量)/(発泡体層の見かけ密度)}-{(発泡体層の質量)/(材料密度)}を用いて計算される値である。「材料密度」は、発泡体層を形成する母材(中実体)の密度である。
【0021】
発泡体層である介在層40の発泡倍率(発泡前後の密度比)は、例えば5~40倍であり、10~40倍であってもよい。
【0022】
非圧縮状態における介在層40の厚さは、例えば1mm~30mmの範囲にあり、1.5mm~30mmの範囲にあってもよく、2mm~25mmの範囲にあってもよい。典型的には、非圧縮状態において、介在層40は、圧電フィルム35よりも厚い。非圧縮状態において、圧電フィルム35の厚さに対する介在層40の厚さの比率は、例えば10倍以上であり、30倍以上であってもよい。また、典型的には、非圧縮状態において、介在層40は、第1粘着層51よりも厚い。
【0023】
第1粘着層51は、その表面により固定面17を形成している。第1粘着層51は、支持体に接合される層である。
図1の例では、第1粘着層51は、介在層40に接合している。第1粘着層51としては、基材と、基材の両面に塗布された粘着剤とを有する両面テープが挙げられる。第1粘着層51として用いられる両面テープの基材としては、不織布等が挙げられる。第1粘着層51として用いられる両面テープの粘着剤としては、アクリル樹脂を含む粘着剤等が挙げられる。ただし、第1粘着層51は、基材を有さない粘着剤の層であってもよい。
【0024】
第1粘着層51の厚さは、例えば0.01mm~1.0mmであり、0.05mm~0.5mmであってもよい。
【0025】
第2粘着層52は、介在層40と圧電フィルム35との間に配置されている。具体的には、第2粘着層52は、介在層40と圧電フィルム35とに接合している。第2粘着層52としては、基材と、基材の両面に塗布された粘着剤とを有する両面テープが挙げられる。第2粘着層52として用いられる両面テープの基材としては、不織布等が挙げられる。第2粘着層52として用いられる両面テープの粘着剤としては、アクリル樹脂を含む粘着剤等が挙げられる。ただし、第2粘着層52は、基材を有さない粘着剤の層であってもよい。
【0026】
第2粘着層52の厚さは、例えば0.01mm~1.0mmであり、0.05mm~0.5mmであってもよい。
【0027】
本実施形態では、圧電フィルム35に接着面又は粘着面が接触することによって、圧電フィルム35が固定面17側の層と一体化されている。具体的には、本実施形態では、当該接着面又は粘着面は、第2粘着層又は接着層52の表面により形成された面である。
【0028】
図3に、
図1の圧電スピーカー10を固定面17によって支持体80に固定した構造を示す。この固定状態で、電圧が、リード線を介して、圧電フィルム35に印加される。これにより、圧電フィルム35が振動し、圧電フィルム35から音が出る。
図3の例では、支持体80が平面を有し、その平面上に圧電スピーカー10が固定されており、圧電フィルム35が平面状に拡がっている。この態様は、圧電フィルム35から放射される音波を平面波に近づける観点から有利である。ただし、支持体80が湾曲面を有している場合には、その湾曲面上に圧電スピーカー10を固定してもよい。
【0029】
典型的には、支持体80における固定面17に対向する面の面積は、固定面17の面積以上である。前者の面積は、後者の面積の、例えば1.0倍以上であり、1.5倍以上であってもよく、5倍以上であってもよい。典型的には、介在層40に比べ、支持体80は、大きい剛性(ヤング率と断面2次モーメントの積)、大きいヤング率及び/又は大きい厚さを有する。ただし、支持体80は、介在層40と同じ剛性、ヤング率及び/又は厚さを有していてもよく、介在層40よりも小さい剛性、ヤング率及び/又は厚さを有していてもよい。支持体80のヤング率は、例えば1GPa以上であり、10GPa以上であってもよく、50GPa以上であってもよい。支持体80のヤング率の上限は特に限定されないが、例えば1000GPaである。支持体80として種々の物品を利用可能であるため、その厚さの範囲を規定するのは困難であるが、支持体80の厚さは、例えば0.1mm以上であり、1mm以上であってもよく、10mm以上であってもよく、50mm以上であってもよい。支持体80の厚さの上限は特に限定されないが、例えば1mである。典型的には、支持体80の位置及び/又は形状は、圧電スピーカー10によらず固定されている。典型的には、支持体80は、屈曲させないことを想定して作製されたものである。
【0030】
支持体80に固定された圧電スピーカー10は、音響用のスピーカーとしても、消音用のスピーカーとしても利用可能である。
【0031】
本実施形態に係る圧電スピーカー10について、さらに説明する。
【0032】
本実施形態では、介在層40により、圧電スピーカー10の固定面17を支持体80に貼り付けることが原因で可聴音域における低周波側の音が出難くなるのが防止されている。作用の詳細については今後の検討を待つ必要があるが、圧電フィルム35の片方の主面を介在層40によって適度に拘束することにより、圧電フィルム35から可聴音域における低周波側の音が発生し易くなっている可能性がある。
【0033】
上記の「適度な拘束」は、適切に選定された介在層40の拘束度により達成されていると考えることができる。具体的には、介在層40の拘束度は、5×108N/m3以下である。介在層40の拘束度は、例えば、1×104N/m3以上である。介在層40の拘束度は、好ましくは2×108N/m3以下であり、より好ましくは1×105~5×107N/m3である。ここで、介在層40の拘束度(N/m3)は、以下の式のように、介在層40の弾性率(N/m2)と介在層40の表面充填率との積を介在層40の厚さ(m)で割ることによって得られる値である。介在層40の表面充填率は、介在層40における圧電フィルム35側の主面の充填率(1から空孔率を引いた値)である。介在層40の孔が均等に分布している場合、表面充填率は、介在層40の3次元的な充填率に等しいとみなすことができる。
拘束度(N/m3)=弾性率(N/m2)×表面充填率÷厚さ(m)
【0034】
拘束度は、介在層40による圧電フィルム35の拘束の程度を表すパラメータと考えることができる。介在層40の弾性率が大きいほど拘束の程度が大きくなることが、上記の式で表されている。介在層40の表面充填率が大きいほど拘束の程度が大きくなることが、上記の式で表されている。介在層40の厚さが小さいほど拘束の程度が大きくなることが、上記の式で表されている。介在層40の拘束度と圧電フィルム35から発生する音との関係については今後の検討を待つ必要があるが、拘束度が過度に大きい場合には、低周波側の音を出すのに必要な圧電フィルム35の変形が妨げられている可能性がある。逆に、拘束度が過度に小さい場合には、圧電フィルム35がその厚さ方向に十分に変形せず、その面内方向(厚さ方向に垂直な方向)のみに伸縮し、低周波側の音の発生が妨げられている可能性がある。介在層40の拘束度を適度な範囲に設定することによって、圧電フィルム35の面内方向の伸縮が厚さ方向の変形に適度に変換され、圧電フィルム35が全体として適切に屈曲し、低周波側の音が発生し易くなっていると考えることができる。
【0035】
上述の説明から理解されるように、圧電フィルム35と固定面17との間に、介在層40とは異なる層があってもよい。当該異なる層は、例えば、第2粘着層52である。
【0036】
介在層40に比べ、支持体80は、大きい拘束度を有していてもよい。この場合であっても、介在層40の寄与により、圧電フィルム35から低周波側の音が発生し得る。ただし、支持体80は、介在層40と同じ拘束度を有していてもよく、介在層40よりも小さい拘束度を有していてもよい。ここで、支持体80の拘束度(N/m3)は、支持体80の弾性率(N/m2)と支持体80の表面充填率との積を支持体80の厚さ(m)で割ることによって得られる値である。支持体80の表面充填率は、支持体80における圧電フィルム35側の主面の充填率(1から空孔率を引いた値)である。
【0037】
上記の「適度な拘束」の観点から、圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の面積の25%以上の領域において介在層40が配置されるようにすることができる。圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の面積の50%以上の領域において介在層40が配置されるようにしてもよく、圧電フィルム35の面積の75%以上の領域において介在層40が配置されるようにしてもよく、圧電フィルム35の全領域において介在層40が配置されるようにしてもよい。
【0038】
具体的には、本実施形態では、第2粘着層52によって、圧電フィルム35と介在層40との分離が防止されている。上記の「適度な拘束」の観点から、圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の面積の25%以上の領域において第2粘着層52及び介在層40が配置されるようにすることができる。圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の面積の50%以上の領域において第2粘着層52及び介在層40が配置されるようにしてもよく、圧電フィルム35の面積の75%以上の領域において第2粘着層52及び介在層40が配置されるようにしてもよく、圧電フィルム35の全領域において第2粘着層52及び介在層40が配置されるようにしてもよい。
【0039】
ここで、介在層40が多孔体である場合、介在層40が配置される領域の比率は、その多孔質構造に由来する細孔を考慮した微視的な観点ではなく、より巨視的な観点から規定されるものである。例えば、圧電フィルム35、多孔体である介在層40及び第2粘着層52が平面視で共通の輪郭を有する板状体である場合、圧電フィルム35の面積の100%の領域において第2粘着層52及び介在層40が配置されていると表現される。
【0040】
圧電スピーカー10における固定面17とは反対側の主面15の50%以上を圧電フィルム35によって構成することができる。主面15の75%以上を圧電フィルム35によって構成してもよく、主面15全体を圧電フィルム35によって構成してもよい。
【0041】
本実施形態では、圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の少なくとも一部が固定面17と重複する(
図1の例では第1粘着層51と重複する)ように、固定面17が配置されている。圧電スピーカー10を支持体80に安定して固定する観点からは、圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の面積の50%以上の領域において固定面17が配置されるようにすることができる。圧電フィルム35を平面視で観察したときに、圧電フィルム35の面積の75%以上の領域において固定面17が配置されるようにしてもよく、圧電フィルム35の全領域において固定面17が配置されるようにしてもよい。
【0042】
本実施形態では、圧電フィルム35と固定面17との間に存在する互いに隣接する層は接合されている。ここで、「圧電フィルム35と固定面17との間」は、圧電フィルム35及び固定面17を含む。具体的には、第1粘着層51と介在層40は接合されており、介在層40と第2粘着層52は接合されており、第2粘着層52と圧電フィルム35とは接合されている。このため、圧電スピーカー10の支持体80への取付姿勢によらず、圧電フィルム35を安定して配置でき、しかも圧電スピーカー10の支持体80への取付が容易である。さらに、介在層40の寄与により、取付姿勢によらず、圧電フィルム35から音が出る。従って、本実施形態では、これらが相俟って、使い勝手がよい圧電スピーカー10が実現される。なお、「互いに隣接する層は接合されている」は、互いに隣接する層が全体的又は部分的に接合されていることを意味する。図示の例では、圧電フィルム35の厚さ方向に沿って延び圧電フィルム35、介在層40及び固定面17をこの順に通る所定領域において、互いに隣接する層が接合されている。
【0043】
本実施形態では、圧電フィルム35及び介在層40は、それぞれ、厚さが実質的に一定である。このことは、圧電スピーカー10の保管、使い勝手、圧電フィルム35から出る音の制御等の種々の観点から有利である場合が多い。なお、「厚さが実質的に一定」は、例えば、厚さの最小値が最大値の70%以上100%以下であることを指す。圧電フィルム35及び介在層40は、それぞれ、厚さの最小値が最大値の85%以上100%以下であってもよい。
【0044】
ところで、樹脂は、セラミック等に比べ、クラックが発生し難い材料である。一具体例では、圧電フィルム35の圧電体30は樹脂フィルムであり、介在層40は圧電フィルムとしては機能しない樹脂層である。このようにすることは、圧電体30又は介在層40でクラックを生じさせることなく圧電スピーカー10をハサミ、人の手等で切断する観点から有利である。また、このようにすれば、圧電スピーカー10を曲げても圧電体30又は介在層40でクラックが生じ難くなる。また、圧電体30が樹脂フィルムであり介在層40が樹脂層であることは、圧電体30又は介在層40でクラックを生じさせることなく湾曲面上に圧電スピーカー10を固定する観点から有利である。
【0045】
図1の例では、圧電フィルム35、介在層40、第1粘着層51及び第2粘着層52は、非分割かつ非枠状の板状形状を有しており、平面視で輪郭が一致している。ただし、これらの一部又は全部が枠状形状を有していたり、これらの一部又は全部が複数に分割されていたり、これらの輪郭がずれていたりしても構わない。
【0046】
図1の例では、圧電フィルム35、介在層40、第1粘着層51及び第2粘着層52は、平面視で短手方向及び長手方向を有する長方形である。ただし、これらは、正方形、円形、楕円形等であってもよい。
【0047】
また、圧電スピーカーは、
図1に示す層以外の層を含んでいてもよい。
【0048】
[第2実施形態]
以下、
図4を用いて第2実施形態に係る圧電スピーカー110を説明する。以下では、第1実施形態と同様の部分については、説明を省略することがある。
【0049】
圧電スピーカー110は、圧電フィルム35と、固定面117と、介在層140と、を備えている。固定面117は、圧電フィルム35を支持体に固定するための面である。介在層140は、圧電フィルム35と固定面117との間(ここで、「間」は固定面117を含む。第1実施形態についても同様である)に配置されている。具体的には、固定面117は、介在層140の表面(主面)により形成されている。
【0050】
介在層140は、粘着層又は接着層である。介在層140として、アクリル樹脂を含む粘着剤を用いることができる。介在層140として、他の粘着剤、例えば、ゴム、シリコーン又はウレタンを含む粘着剤を用いてもよい。介在層140は、樹脂層であり得る。介在層140は、無孔体層であってもよく、多孔体層であってもよい。介在層140は、2種類以上の材料のブレンド層であってもよい。
【0051】
介在層140の弾性率は、例えば10000N/m2~10000000N/m2であり、20000N/m2~100000N/m2であってもよい。
【0052】
非圧縮状態における介在層140の厚さは、例えば1mm~30mmの範囲にあり、1.5mm~30mmの範囲にあってもよく、2mm~25mmの範囲にあってもよい。典型的には、非圧縮状態において、介在層140は、圧電フィルム35よりも厚い。非圧縮状態において、圧電フィルム35の厚さに対する介在層140の厚さの比率は、例えば10倍以上であり、30倍以上であってもよい。
【0053】
介在層140の拘束度は、5×108N/m3以下である。介在層140の拘束度は、例えば、1×104N/m3以上である。介在層140の拘束度は、好ましくは2×108N/m3以下であり、より好ましくは1×105~5×107N/m3である。拘束度の定義は、先に説明した通りである。
【0054】
本実施形態では、圧電フィルム35に接着面又は粘着面が接触することによって、圧電フィルム35が固定面117側の層と一体化されている。具体的には、本実施形態では、当該接着面又は粘着面は、介在層140により形成された面である。
【0055】
圧電スピーカー110も、固定面117によって、
図3の支持体80に固定され得る。第2実施形態でも、介在層140の寄与により、圧電フィルム35から可聴音域における低周波側の音が発生し易くなる。
【実施例0056】
実施例により、本発明を詳細に説明する。ただし、以下の実施例は、本発明の一例を示すものであり、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0057】
(実施例1)
固定された支持部材に圧電スピーカー10の固定面17を貼り付けることによって、
図3の支持体80として上記支持部材を用いた構造を作製した。具体的には、支持部材として、厚さ5mmのステンレス平板(SUS平板)を用いた。第1粘着層51として、不織布の両面にアクリル系粘着剤を含侵させた、厚み0.16mmの粘着シート(両面テープ)を用いた。介在層40として、エチレンプロピレンゴムとブチルゴムとを含む混和物を約10倍の発泡倍率で発泡させた、厚さ3mmで独立気泡型の発泡体を用いた。第2粘着層52として、基材が不織布でありその基材の両面に無溶剤型のアクリル樹脂を含む粘着剤が塗布された、厚さ0.15mmの粘着シート(両面テープ)を用いた。圧電フィルム35として、両面に銅電極(ニッケルを含む)が蒸着されたポリフッ化ビニリデンフィルム(総厚み33μm)を用いた。実施例1の第1粘着層51、介在層40、第2粘着層52及び圧電フィルム35は、平面視で縦37.5mm×横37.5mmの寸法を有しており、平面視で輪郭が重複した非分割かつ枠状の板状形状を有している(後述の実施例、比較例及び参考例でも同様である)。支持部材は、平面視で縦50mm×横50mmの寸法を有しており、第1粘着層51を全体的に覆っている。このようにして、
図3に示す構成を有する実施例1のサンプルを作製した。
【0058】
(実施例2)
介在層40として、エチレンプロピレンゴムを含む混和物を約10倍の発泡倍率で発泡させた、厚さ3mmで半独立半連続気泡型の発泡体を用いた。この発泡体は、硫黄を含むものである。それ以外は、実施例1と同様にして、実施例2のサンプルを作製した。
【0059】
(実施例3)
実施例3では、介在層40として、実施例2の介在層40と同一材料かつ同一構造の、厚さ5mmの発泡体を用いた。それ以外は、実施例2と同様にして、実施例3のサンプルを作製した。
【0060】
(実施例4)
実施例4では、介在層40として、実施例2の介在層40と同一材料かつ同一構造の、厚さ10mmの発泡体を用いた。それ以外は、実施例2と同様にして、実施例4のサンプルを作製した。
【0061】
(実施例5)
実施例5では、介在層40として、実施例2の介在層40と同一材料かつ同一構造の、厚さ20mmの発泡体を用いた。それ以外は、実施例2と同様にして、実施例5のサンプルを作製した。
【0062】
(実施例6)
介在層40として、エチレンプロピレンゴムを含む混和物を約10倍の発泡倍率で発泡させた、厚さ20mmで半独立半連続気泡型の発泡体を用いた。この発泡体は、硫黄を含まないものであり、実施例2~5の介在層40として用いた発泡体に比べて柔軟である。それ以外は、実施例1と同様にして、実施例6のサンプルを作製した。
【0063】
(実施例7)
介在層40として、エチレンプロピレンゴムを含む混和物を約20倍の発泡倍率で発泡させた、厚さ20mmで半独立半連続気泡型の発泡体を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、実施例7のサンプルを作製した。
【0064】
(実施例8)
介在層40として、金属多孔体を用いた。この金属多孔体は、材料がニッケルであり、孔径が0.9mmであり、厚みが2.0mmのものである。第2粘着層52として、実施例1の第1粘着層51と同じ粘着層を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、実施例8のサンプルを作製した。
【0065】
(実施例9)
実施例1の第1粘着層51及び第2粘着層52を省略し、圧電フィルム35と支持体80との間に介在層140のみを介在させた。介在層140として、アクリル系粘着剤によって構成された、厚さ3mmの基材レス粘着シートを用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、支持部材に
図4の積層体が取り付けられた構成を有する、実施例9のサンプルを作製した。
【0066】
(実施例10)
介在層40として、実施例9の介在層140と同じ介在層を用いた。それ以外は、実施例8と同様にして、実施例10のサンプルを作製した。
【0067】
(実施例11)
介在層40として、厚さ5mmのウレタンフォームを用いた。それ以外は、実施例8と同様にして、実施例11のサンプルを作製した。
【0068】
(実施例12)
介在層40として、厚さ10mmのウレタンフォームを用いた。このウレタンフォームは、実施例11の介在層40として用いたウレタンフォームに比べて孔径が小さいものである。それ以外は、実施例8と同様にして、実施例11のサンプルを作製した。
【0069】
(実施例13)
介在層40として、厚さ5mmで独立気泡型のアクリルニトリルブタジエンゴムの発泡体を用いた。それ以外は、実施例8と同様にして、実施例13のサンプルを作製した。
【0070】
(実施例14)
介在層40として、厚さ5mmで独立気泡型のエチレンプロピレンゴムの発泡体を用いた。それ以外は、実施例8と同様にして、実施例14のサンプルを作製した。
【0071】
(実施例15)
介在層40として、天然ゴムとスチレンブタジエンゴムとがブレンドされた厚さ5mmで独立気泡型の発泡体を用いた。それ以外は、実施例8と同様にして、実施例15のサンプルを作製した。
【0072】
(実施例16)
介在層40として、厚さ5mmで独立気泡型のシリコーンの発泡体を用いた。それ以外は、実施例8と同様にして、実施例16のサンプルを作製した。
【0073】
(実施例17)
介在層40として、実施例1の介在層40と同一材料かつ同一構造の、厚さ10mmの発泡体を用いた。第2粘着層52として、実施例1と同じ粘着シートを用いた。圧電フィルム35の圧電体30として、厚さ35μmのトウモロコシ由来のポリ乳酸を主原料とした樹脂シートを用いた。圧電フィルム35の第1電極61及び第2電極62は、それぞれ、厚さ0.1μmのアルミニウム膜であり、蒸着によって形成した。こうして、総厚みが35.2μmの圧電フィルム35を得た。それ以外は、実施例1と同様にして、実施例17のサンプルを作製した。
【0074】
(比較例1)
実施例9の介在層140を、実施例1の第1粘着層51と同じ粘着層に置き換えた。それ以外は、実施例9と同様にして比較例1のサンプルを作製した。なお、以下では、説明の便宜上、比較例1の介在層を介在層240と称することがある。
【0075】
(比較例2)
介在層として、金属多孔体を用いた。この金属多孔体は、実施例8の金属多孔体と同一材料であり、孔径が0.45mmであり、厚みが1.4mmのものである。それ以外は、実施例8と同様にして比較例2のサンプルを作製した。
【0076】
(比較例3)
介在層として、実施例9の介在層140と同一材料かつ同一構造の、厚さ0.175mmの基材レス粘着シートを用いた。それ以外は、実施例9と同様にして比較例3のサンプルを作製した。なお、以下では、説明の便宜上、比較例3の介在層を介在層240と称することがある。
【0077】
(参考例1)
実施例1の圧電フィルム35を、参考例1のサンプルとした。参考例1では、地面に平行な台上に、接着せずにサンプルを置いた。
【0078】
実施例、比較例及び参考例に係るサンプルの評価方法は、以下の通りである。
【0079】
<介在層の厚さ(非圧縮状態)>
介在層の厚さは、厚みゲージを用いて測定した。
【0080】
<介在層の弾性率>
介在層から、小片を切り出した。切り出した小片に対して、引張試験機(TA Instruments社製「RSA-G2」)を用いて、常温で圧縮試験を行った。これにより、応力-ひずみ曲線を得た。応力-ひずみ曲線の初期傾きから、弾性率を算出した。
【0081】
<介在層の孔径>
顕微鏡により、介在層の拡大画像を得た。この拡大画像を画像解析することにより、介在層の孔径の平均値を求めた。求めた平均値を、介在層の孔径とした。
【0082】
<介在層の空孔率>
介在層から直方体の小片を切り出した。切り出した小片の体積及び質量から見かけの密度を求めた。見かけの密度を、介在層を形成する母材(中実体)の密度で除した。これにより、充填率を算出した。さらに1から充填率を差し引いた。これにより、空孔率を得た。
【0083】
<介在層の表面充填率>
実施例2~16及び比較例1~3については、上述の充填率を表面充填率とした。実施例1及び17では、介在層は表面スキン層を有しているため、表面充填率は100%とした。
【0084】
<サンプルの音圧レベルの周波数特性>
実施例1~8及び10~17並びに比較例2のサンプルを測定するための構成を、
図5に示す。圧電フィルム35の両面の角部に、厚さ70μmであり縦5mm×横70mmである導電性銅箔テープ70(3M社製のCU-35C)を取り付けた。また、これらの導電性銅箔テープ70のそれぞれに、みのむしクリップ75を取り付けた。導電性銅箔テープ70及びみのむしクリップ75は、圧電フィルム35に交流電圧を印加するための電気経路の一部を構成する。
【0085】
実施例9並びに比較例1及び3のサンプルを測定するための構成を、
図6に示す。
図6の構成には、
図5の第1粘着層51及び第2粘着層52がない。
図6の構成には、介在層140又は240がある。
【0086】
参考例1のサンプルを測定するための構成は、
図5及び
図6に倣ったものである。具体的には、
図5及び
図6に倣って、圧電フィルム35の両面の角部に導電性銅箔テープ70を取り付け、これらのテープ70にみのむしクリップ75を取り付けた。こうして得られたアセンブリを、地面に平行な台上に接着せずに置いた。
【0087】
図7及び8に、サンプルの音響特性を測定するためのブロック図を示す。具体的に、
図7は出力系を示し、
図8は評価系を示す。
【0088】
図7に示す出力系では、音声出力用パーソナルコンピュータ(以下、パーソナルコンピュータをPCと簡略化して記載することがある)401と、オーディオインターフェース402と、スピーカーアンプ403と、サンプル404(実施例、比較例及び参考例の圧電スピーカ)と、をこの順に接続した。スピーカーアンプ403からサンプル404への出力を確認できるように、スピーカーアンプ403をオシロスコープ405にも接続した。
【0089】
音声出力用PC401には、WaveGeneがインストールされている。WaveGeneは、テスト用音声信号を発生させるためのフリーソフトである。オーディオインターフェース402として、ローランド株式会社製のQUAD-CAPTUREを用いた。オーディオインターフェース402のサンプリング周波数は、192kHzとした。スピーカーアンプ403として、オンキヨー株式会社製のA-924を用いた。オシロスコープ405として、テクトロニクス社製のDPO2024を用いた。
【0090】
図8に示す評価系では、マイクロホン501と、音響評価装置(PULSE)502と、音響評価用PC503と、をこの順に接続した。
【0091】
マイクロホン501として、B&K社製のType4939-C-002を用いた。マイクロホン501は、サンプル404から1m離れた位置に配置した。音響評価装置502として、B&K社製のType3052-A-030を用いた。
【0092】
このように出力系及び評価系を構成し、音声出力用PC401からオーディオインターフェース402及びスピーカーアンプ403を介してサンプル404に交流電圧を印加した。具体的には、音声出力用PC401を用いて、20秒間で周波数が100Hzから100kHzまでスイープするテスト用音声信号を発生させた。この際、スピーカーアンプ403から出力される電圧を、オシロスコープ405により確認した。また、サンプル404から発生した音を、評価系で評価した。このようにして、音圧周波数特性測定試験を行った。
【0093】
出力系及び評価系の設定の詳細は、以下の通りである。
【0094】
[出力系の設定]
・周波数範囲:100Hz~100kHz
・スイープ時間:20秒
・実効電圧:10V
・出力波形:サイン波
【0095】
[評価系の設定]
・測定時間:22秒
・ピークホールド
・測定範囲:4Hz~102.4kHz
・ライン数:6400
【0096】
<音が出始める周波数の判断>
暗騒音よりも3dB以上音圧レベルが大きい周波数域(音圧レベルが暗騒音+3dB以上に保たれる周波数範囲がピーク周波数(音圧レベルがピークとなる周波数)の±10%に満たないような急峻なピーク部を除く)の下端を、音が出始める周波数と判断した。
【0097】
実施例1~17、比較例1~3及び参考例1の評価結果を、
図9A~
図31に示す。
図32に、暗騒音の音圧レベルの周波数特性を示す。
図9A、9B及び10から、実施例では、比較例に比べ、音が出始める周波数が低いことが分かる。実施例の構造は、支持体が原因で可聴音域における低周波側の音が圧電スピーカーから出難くなるのを防止するのに適していると言える。
図10から、介在層の拘束度を適切に選定すれば、音が出始める周波数を低くすることができることが分かる。なお、
図10において、E1~E17は実施例1~17に対応し、C1~C3は比較例1~3に対応する。
【0098】
[圧電フィルムの支持構造と振動の自由度]
図3に戻って本発明による圧電スピーカーの支持構造の一例を参照する。圧電スピーカー10では、圧電フィルム35の全面が粘着層51、52及び介在層40を介して支持体80に固定されている。圧電スピーカー10は、
図3に示した全面支持構造においても発音特性が改善するように設計されている。上述したとおり、この設計では、圧電フィルム35を支持する介在層40の拘束度を適切に制御することが重要となる。
【0099】
圧電フィルム35の振動が支持体80により阻害されないようにするためには、圧電フィルム35の一部を支持して支持体80から離間させることも考えられる。この設計思想に基づく支持構造を
図33に例示する。
図33に示した仮想的な圧電スピーカー108では、枠体88が支持体80から離れた位置で圧電フィルム35の周縁部を支持している。
【0100】
予め一方に湾曲させて湾曲の向きが固定された圧電フィルムからは十分な音量を確保しやすい。このため、例えば圧電スピーカー108において、圧電フィルム35、枠体88及び支持体80に囲まれた空間48に上面が凸面となった厚みが一定でない介在物を配置し、圧電フィルム35の中央部を上方に押し上げておくことが考えられる。しかし、このような介在物は、圧電フィルム35の振動を阻害することがないように圧電フィルム35と接合されることがない。したがって、空間48に介在物を配置したとしても、圧電フィルム35をその振動を規定する態様で支持しているのは枠体88のみである。
【0101】
図33との対比より、圧電フィルム35の局部的な支持構造ではなく、圧電フィルム35を支持する層40の特性、具体的には「拘束度」に着目した点に、圧電スピーカー10の特徴があることが理解できる。
【0102】
図3に示したように、圧電スピーカー10では圧電フィルム35が特定の部分で支持されておらずその周縁部までが上下に振動しうる。圧電フィルム35は、その全体が上下に振動することも可能である。したがって、圧電スピーカー108と比較すると、圧電スピーカー10はその振動の自由度が高く、良好な発音特性の実現には相対的に有利である。