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特開2024-1628磁歪部品、発電素子、及び磁歪部品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001628
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】磁歪部品、発電素子、及び磁歪部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02N 2/18 20060101AFI20231227BHJP
   H10N 35/80 20230101ALI20231227BHJP
   H10N 35/00 20230101ALI20231227BHJP
   H10N 35/01 20230101ALI20231227BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20231227BHJP
【FI】
H02N2/18
H01L41/06
H01L41/12
H01L41/47
H01L41/113
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100404
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】藤本 誠
(72)【発明者】
【氏名】桑原 鉄也
(72)【発明者】
【氏名】東野 孝浩
(72)【発明者】
【氏名】池田 智昭
(72)【発明者】
【氏名】丹治 亮
(72)【発明者】
【氏名】細江 晃久
【テーマコード(参考)】
5H681
【Fターム(参考)】
5H681AA12
5H681BB08
5H681GG10
5H681GG31
(57)【要約】
【課題】発電素子の出力特性を高めることができ、さらには高温下での耐久性にも優れる磁歪部品を提供する。
【解決手段】磁気回路を形成するヨークと、前記ヨークの一部に接合された磁歪板と、を備え、前記ヨークは軟磁性材料からなる板材であり、前記磁歪板は磁歪材料から構成され、前記ヨークと前記磁歪板とが接合された部分に、前記軟磁性材料と前記磁歪材料との混合物から構成される中間層を有し、前記中間層の厚さは10nm以上50μm以下である、磁歪部品。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気回路を形成するヨークと、
前記ヨークの一部に接合された磁歪板と、を備え、
前記ヨークは軟磁性材料からなる板材であり、
前記磁歪板は磁歪材料から構成され、
前記ヨークと前記磁歪板とが接合された部分に、前記軟磁性材料と前記磁歪材料との混合物から構成される中間層を有し、
前記中間層の厚さは10nm以上50μm以下である、
磁歪部品。
【請求項2】
前記磁歪板が、前記ヨークの一部に埋め込まれた状態で接合されている、請求項1に記載の磁歪部品。
【請求項3】
前記磁歪板の厚さが、前記ヨークの厚さの50%以下である、請求項2に記載の磁歪部品。
【請求項4】
前記ヨークと前記磁歪板とが接合された部分における空隙率が10%以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の磁歪部品。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の磁歪部品と、
前記ヨークに磁界を印加する磁石と、
前記ヨークの少なくとも一部に巻回されたコイルと、を備える、
発電素子。
【請求項6】
軟磁性材料からなるヨークの一部に磁歪材料からなる磁歪板を重ね合わせた状態で圧縮接合を行う工程を備える、
磁歪部品の製造方法。
【請求項7】
前記圧縮接合を行う工程は、前記ヨークと前記磁歪板とを圧延加工によって接合する工程である、請求項6に記載の磁歪部品の製造方法。
【請求項8】
前記圧縮接合を行う工程は、前記ヨークと前記磁歪板とを50%以上95%以下の圧縮率となるように圧縮する、請求項6又は請求項7に記載の磁歪部品の製造方法。
【請求項9】
前記圧縮接合を行う工程と同時、又は前記圧縮接合を行う工程の後に、前記ヨークと前記磁歪板とを300℃以上750℃以下に加熱する熱処理を行う、請求項6又は請求項7に記載の磁歪部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁歪部品、発電素子、及び磁歪部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
振動エネルギーを電気エネルギーに変換する振動発電素子の開発が行われている。特許文献1から特許文献4は、磁歪材料の逆磁歪効果を利用する発電素子を開示する。この発電素子は、例えば、磁歪部品と、磁石と、コイルとを備える。磁歪部品は、軟磁性材料からなるヨークと、磁歪材料からなる磁歪板とを備える。磁歪板はヨークの一部に接合されている。ヨークは磁石により磁気回路を形成する。ヨークに磁気回路が形成されることで、磁歪板が磁化されている。コイルは磁歪板に巻かれている。この発電素子が発電するメカニズムは、次のとおりである。ヨークに振動が加えられることで、磁歪板が変形する。磁歪板が変形すると、磁歪板に作用する応力によって磁歪板の磁束密度が変化する逆磁歪現象が起こる。この現象により磁歪板に流れる磁束が変化して、コイルに誘導起電力が発生する。コイルの誘導起電力により発電する。
【0003】
例えば、特許文献1には、半田接合、ろう付け、抵抗溶接、レーザ溶接、又は超音波接合などの方法により、磁歪板をヨークに接合することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/183325号
【特許文献2】国際公開第2013/038682号
【特許文献3】国際公開第2014/021197号
【特許文献4】特開2015-70741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高い出力特性を有することはもちろん、高温環境下にさらされても、出力特性を維持できる発電素子が求められている。高温下でヨークと磁歪板との接合強度が低下すると、発電素子の出力特性が低下したり、磁歪板がヨークから剥離して発電できなくなったりするおそれがある。よって、高温下でもヨークと磁歪板との接合状態を良好に維持できるような、耐久性に優れる磁歪部品が求められている。
【0006】
本開示は、発電素子の出力特性を高めることができ、さらには高温下での耐久性にも優れる磁歪部品を提供することを目的の一つとする。本開示は、高い出力特性を有しながら、高温下での耐久性に優れる発電素子を提供することを別の目的の一つとする。本開示は、発電素子の出力特性を高めることができ、さらには高温下での耐久性にも優れる磁歪部品を製造できる磁歪部品の製造方法を提供することを別の目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の磁歪部品は、
磁気回路を形成するヨークと、
前記ヨークの一部に接合された磁歪板と、を備え、
前記ヨークは軟磁性材料からなる板材であり、
前記磁歪板は磁歪材料から構成され、
前記ヨークと前記磁歪板とが接合された部分に、前記軟磁性材料と前記磁歪材料との混合物から構成される中間層を有し、
前記中間層の厚さは10nm以上50μm以下である。
【0008】
本開示の発電素子は、
本開示の磁歪部品と、
前記ヨークに磁界を印加する磁石と、
前記ヨークの少なくとも一部に巻回されたコイルと、を備える。
【0009】
本開示の磁歪部品の製造方法は、
軟磁性材料からなるヨークの一部に磁歪材料からなる磁歪板を重ね合わせた状態で圧縮接合を行う工程を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示の磁歪部品は、発電素子の出力特性を高めることができ、さらには高温下での耐久性にも優れる。本開示の発電素子は、高い出力特性を有しながら、高温下での耐久性に優れる。本開示の磁歪部品の製造方法は、発電素子の出力特性を高めることができ、さらには高温下での耐久性にも優れる磁歪部品を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態1に係る磁歪部品を示す概略側面図である。
図2図2は、実施形態1に係る磁歪部品を示す概略上面図である。
図3図3は、実施形態1に係る磁歪部品の変形例を示す概略上面図である。
図4図4は、実施形態1に係る磁歪部品における中間層を拡大して示す概略断面図である。
図5図5は、実施形態2に係る磁歪部品を示す概略側面図である。
図6図6は、実施形態3に係る発電素子を示す概略側面図である。
図7図7は、実施形態に係る磁歪部品の製造方法の一例を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
本発明者らは、ヨークと磁歪板とを圧縮接合することで、高温下でも高い接合強度を維持できることを見出した。この理由は、圧縮接合により、ヨークを構成する軟磁性材料と磁歪板を構成する磁歪材料とが相互拡散することで、ヨークと磁歪板とが接合された部分に軟磁性材料と磁歪材料との混合物からなる中間層が生成されたためと考えられる。更に、本発明者らは、この中間層の厚さを特定の範囲とすることで、高い出力特性が得られることを見出した。
【0013】
本開示は上記の知見に基づくものである。最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0014】
(1)本開示の実施態様に係る磁歪部品は、
磁気回路を形成するヨークと、
前記ヨークの一部に接合された磁歪板と、を備え、
前記ヨークは軟磁性材料からなる板材であり、
前記磁歪板は磁歪材料から構成され、
前記ヨークと前記磁歪板とが接合された部分に、前記軟磁性材料と前記磁歪材料との混合物から構成される中間層を有し、
前記中間層の厚さは10nm以上50μm以下である。
【0015】
本開示の磁歪部品は、中間層によってヨークと磁歪板との接合強度を高めることができながら、高温下でも高い接合強度を維持できる。また、詳細は後述するが、中間層の厚さが特定の範囲であることで、高い接合強度が得られると共に、発電素子の出力特性を高めることができる。したがって、本開示の磁歪部品は、発電素子の出力特性を高めることができ、さらには高温下での耐久性にも優れる。
【0016】
(2)上記(1)の磁歪部品において、
前記磁歪板が、前記ヨークの一部に埋め込まれた状態で接合されていてもよい。
【0017】
上記(2)の構成によれば、ヨークと磁歪板とが接合された部分の厚さが薄くなる。
【0018】
(3)上記(2)の磁歪部品において、
前記磁歪板の厚さが、前記ヨークの厚さの50%以下であってもよい。
【0019】
上記(3)の構成によれば、ヨークと磁歪板とが接合された部分が曲げ変形したとき、磁歪板に圧縮応力又は引張応力を一様に作用させ易い。
【0020】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1つの磁歪部品において、
前記ヨークと前記磁歪板とが接合された部分における空隙率が10%以下であってもよい。
【0021】
上記(4)の構成によれば、ヨークと磁歪板との接合強度を高めることができる。
【0022】
(5)本開示の実施態様に係る発電素子は、
上記(1)から(4)のいずれか1つの磁歪部品と、
前記ヨークに磁界を印加する磁石と、
前記ヨークの少なくとも一部に巻回されたコイルと、を備える。
【0023】
本開示の発電素子は、上記磁歪部品を備えることで、高い出力特性を有しながら、高温下での耐久性に優れる。
【0024】
(6)本開示の実施態様に係る磁歪部品の製造方法は、
軟磁性材料からなるヨークの一部に磁歪材料からなる磁歪板を重ね合わせた状態で圧縮接合を行う工程を備える。
【0025】
本開示の磁歪部品の製造方法は、ヨークと磁歪板とを圧縮接合することで、ヨークと磁歪板とが接合された部分に中間層を形成することができる。この中間層は、ヨークと磁歪板との相互拡散により、軟磁性材料と磁歪材料との混合物から構成される。このような中間層を有する磁歪部品は、ヨークと磁歪板との接合強度を高めることができながら、高温下でも高い接合強度を維持できる。また、圧縮接合によって形成された中間層の厚さは、従来の半田接合、ろう付け、抵抗溶接、レーザ溶接、超音波接合などによって形成された中間層の厚さよりも小さくすることが可能である。中間層の厚さが薄いことで、発電素子の出力特性を高めることができる。したがって、本開示の磁歪部品の製造方法は、発電素子の出力特性を高めることができ、さらには高温下での耐久性にも優れる磁歪部品を製造できる。
【0026】
(7)上記(6)の磁歪部品の製造方法において、
前記圧縮接合を行う工程は、前記ヨークと前記磁歪板とを圧延加工によって接合する工程であってもよい。
【0027】
上記(7)の構成によれば、発電素子の出力特性を高めることができ、さらには高温下での耐久性にも優れる磁歪部品を製造できる。
【0028】
(8)上記(6)又は(7)の磁歪部品の製造方法において、
前記圧縮接合を行う工程は、前記ヨークと前記磁歪板とを50%以上95%以下の圧縮率となるように圧縮してもよい。
【0029】
圧縮率が50%以上であることで、高い接合強度が十分に得られ易い。圧縮率が95%以下であることで、圧縮時にヨーク及び磁歪板のいずれか一方が割れたりすることを抑制し易い。
【0030】
(9)上記(6)から(8)のいずれか1つの磁歪部品の製造方法において、
前記圧縮接合を行う工程と同時、又は前記圧縮接合を行う工程の後に、前記ヨークと前記磁歪板とを300℃以上750℃以下に加熱する熱処理を行ってもよい。
【0031】
上記熱処理を行うことで、上記中間層の厚さを所定の厚さに制御し易い。
【0032】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面を参照して、本開示の実施形態を具体的に説明する。図中、同一符号は同一名称物を示す。本発明は、実施形態の例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0033】
[実施形態1]
<磁歪部品>
図1から図4を参照して、実施形態1に係る磁歪部品1を説明する。磁歪部品1は、後述する図6に示す発電素子10の構成部品である。磁歪部品1は、図1に示すように、ヨーク2と、ヨーク2の一部に接合された磁歪板3とを備える。実施形態1の磁歪部品1の特徴の一つは、図4に示すように、ヨーク2と磁歪板3とが接合された部分に、後述する中間層30を有すると共に、中間層30の厚さが特定の範囲である点にある。磁歪部品1は、中間層30を備えることで、発電素子10の出力特性を高めることができ、さらには高温下での耐久性にも優れる。
【0034】
(ヨーク)
ヨーク2は、磁気回路を形成する部材である。ヨーク2は軟磁性材料からなる板材である。軟磁性材料は、例えば、鉄、炭素鋼、フェライト系ステンレス鋼、ケイ素鉄、センダスト、又はパーマロイのいずれかである。炭素鋼は、例えば、SPC材、SS材、SC材、又はSK材のいずれかである。フェライト系ステンレス鋼は、例えば、SUS430である。
【0035】
ヨーク2は、ヨーク2の厚さ方向に曲げ変形が可能な可撓性を有する。厚さ方向は、図1における上下方向である。ヨーク2は、弾性変形が可能な厚さを有していればよい。ヨーク2の厚さは、例えば0.1mm以上1.0mm以下、更に0.2mm以上0.6mm以下である。ヨーク2は、磁歪板3を支持できる幅を有していればよい。ヨーク2の幅は、例えば1mm以上20mm以下、更に3mm以上10mm以下である。
【0036】
本実施形態のヨーク2の形状は、図1に示すように、略U字状である。ヨーク2は、第一の片21と、第二の片22と、第一の片21と第二の片22とをつなぐ屈曲部23とを有する。第一の片21と第二の片22とは、互いに間隔をあけて向かい合うように配置されている。本実施形態では、第一の片21と第二の片22とが上下方向に重なる。第二の片22が第一の片21の上方に配置されている。第一の片21において、第二の片22と向かい合う面を上面とし、この上面とは反対側の面を下面とする。第二の片22において、第一の片21と向かい合う面を下面とし、この下面とは反対側の面を上面とする。
【0037】
第一の片21は、後述する図6に示すように振動源6に固定され、振動源6から振動が入力される。第二の片22は、第一の片21に屈曲部23を介して片持ち支持されており、第一の片21から振動が伝達される。第二の片22は、上記振動によって、厚さ方向に曲げ変形が生じる。本実施形態では、図1に示すように、第二の片22の上面に磁歪板3が接合される。以下、ヨーク2における磁歪板3が接合された部分を磁性部20と呼ぶ場合がある。磁性部20は、ヨーク2の一部によって構成されている。
【0038】
本実施形態では、ヨーク2は1枚の板材を曲げ加工によってU字状に成形したものである。図1に示すように、第一の片21、第二の片22、及び屈曲部23のそれぞれの厚さは同じである。図2に示すように、第一の片21、第二の片22、及び屈曲部23のそれぞれの幅は同じである。第一の片21、第二の片22、及び屈曲部23のそれぞれの厚さは異なってもよい。例えば、第二の片22の厚さが、第一の片21及び屈曲部23のそれぞれの厚さよりも小さくてもよい。また、第一の片21、第二の片22、及び屈曲部23のそれぞれの幅は異なってもよい。例えば、第二の片22の幅が、第一の片21及び屈曲部23のそれぞれの幅よりも小さくてもよい。
【0039】
ヨーク2に磁気回路が形成された状態において、第二の片22、即ち磁性部20は磁気飽和することが好ましい。そのため、第二の片22の断面積は、第一の片21及び屈曲部23のそれぞれの断面積よりも小さくてもよい。ここでいう断面積とは、ヨーク2の長手方向に直交する横断面における面積である。例えば、第二の片22の断面積が、第二の片22以外の部分の断面積の30%以上90%以下、更に50%以上60%以下でもよい。第二の片22以外の部分は、例えば、第一の片21である。これにより、ヨーク2のうち、磁性部20以外の部分は磁気飽和させずに、磁性部20のみを磁気飽和させることができる。図3に示すように、第二の片22における磁性部20の幅が、第一の片21、屈曲部23、及び第二の片22における屈曲部23と磁性部20との間の部分のそれぞれの幅よりも小さくてもよい。このような構成とする理由は後述する。
【0040】
(磁歪板)
磁歪板3は、ヨーク2の一部に接合されている。本実施形態では、磁歪板3は、第二の片22の上面の一部に接合されている。磁歪板3は、第二の片22の上面及び下面の少なくとも一方に接合されていればよい。
【0041】
磁歪板3は、ヨーク2に磁気回路が形成されることで、磁化される。磁歪板3は磁歪材料から構成される。磁歪材料は、例えば、鉄-ガリウム系合金、鉄-コバルト系合金、鉄-アルミニウム系合金、ケイ素鉄、又は鉄-ジスプロシウム-テルビウム系合金のいずれかである。鉄-コバルト系合金は、具体的には、パーメンジュール、バイカロイ、又はクロムを含むバイカロイなどである。バイカロイは、鉄-コバルト-バナジウム合金である。
【0042】
磁歪板3は、ヨーク2に追従して曲げ変形することが可能である。つまり、第二の片22が曲げ変形すると、磁歪板3も曲げ変形する。磁歪板3は、曲げ変形に伴う圧縮応力又は引張応力が作用することで磁束密度が変化する逆磁歪効果を有する。本実施形態のように、磁歪板3が第二の片22の上面に接合されている場合、第二の片22が下方向に曲がると、磁歪板3の全体に引張応力が作用する。一方で、第二の片22が上方向に曲がると、磁歪板3の全体に圧縮応力が作用する。第二の片22が下方向に曲がるとは、第二の片22の自由端が下方向に変位して、第二の片22の下面が曲げの内側、上面が曲げの外側となるように湾曲することを意味する。第二の片22が上方向に曲がるとは、第二の片22の自由端が上方向に変位して、第二の片22の上面が曲げの内側、下面が曲げの外側となるように湾曲することを意味する。磁歪板3に引張応力が作用すると、磁歪板3の磁束密度が増加する。一方で、磁歪板3に圧縮応力が作用すると、磁歪板3の磁束密度が減少する。つまり、第一の片21に入力された振動に応じて第二の片22に厚さ方向の曲げ変形が繰り返し生じると、磁歪板3に引張応力と圧縮応力とが繰り返し作用する。これにより、磁化された磁歪板3に流れる磁束が周期的に変化する。
【0043】
磁歪板3は、磁歪板3の厚さ方向に曲げ変形が可能な厚さを有する。磁歪板3の厚さは、例えば0.1mm以上1.0mm以下、更に0.2mm以上0.6mm以下である。磁歪板3の幅は、例えば1mm以上20mm以下、更に3mm以上10mm以下である。磁歪板3の幅は、第二の片22の幅、即ち磁性部20の幅と同じでもよいし、磁性部20の幅よりも小さくてもよい。本実施形態では、図2に示すように、磁歪板3の幅が第二の片22の幅と同じである。
【0044】
磁歪板3は、磁化されたときに磁気飽和しない状態に維持されることが好ましい。具体的には、磁歪板3が磁気飽和しないような断面積を有するとよい。磁化された状態での磁歪板3の磁束密度は、例えば磁歪板3の飽和磁束密度の50%程度、具体的には45%以上55%以下であればよい。例えば、鉄-ガリウム系合金からなる磁歪板3の場合、飽和磁束密度は1.5T程度であるので、磁歪板3の磁束密度は0.7T以上0.8T以下であればよい。
【0045】
ヨーク2と磁歪板3とは、圧縮接合によって接合されている。ヨーク2と磁歪板3とが圧縮接合されていることで、図4に示すように、ヨーク2の磁歪板3との接合界面に中間層30が形成されている。
【0046】
(中間層)
中間層30は、ヨーク2と磁歪板3とが接合された部分に存在する。本実施形態では、第二の片22、即ち磁性部20と磁歪板3とが接合された部分に中間層30が存在する。中間層30は、軟磁性材料と磁歪材料との混合物から構成される。中間層30は、ヨーク2と磁歪板3との相互拡散によって生成された層である。中間層30は、軟磁性材料に含まれる元素と、磁歪材料に含まれる元素とを含む。これらの元素は、中間層30の厚さ方向に濃度勾配を有する。例えば、磁歪材料に含まれる特有の元素は、磁歪板3から磁性部20に向かって徐々に減少する濃度勾配を有する。上記特有の元素は、軟磁性材料には含まれていない元素であることが好ましい。上記特有の元素は、磁歪材料が鉄-ガリウム系合金であれば、ガリウムである。磁歪材料が鉄-コバルト系合金であれば、上記特有の元素はコバルトである。磁歪材料が鉄-ジスプロシウム-テルビウム系合金であれば、上記特有の元素はジスプロシウム又はテルビウムである。ヨーク2と磁歪板3との間に中間層30が存在することで、ヨーク2と磁歪板3との接合強度を高めることができ、高温下でも高い接合強度を維持できる。
【0047】
中間層30の厚さは、10nm以上50μm以下である。中間層30の厚さが10nm以上であることで、高い接合強度が十分に得られ易い。中間層30が厚いほど、ヨーク2と磁歪板3とが接合された部分において、上記相互拡散によって磁歪材料が中間層30の生成に消費される。その結果、磁歪板3における逆磁歪効果による磁束の変化が小さくなる。中間層30の厚さが50μm以下であることで、磁歪板3での磁束の変化の減少を抑制できる。中間層30の厚さは、更に50nm以上10μm以下でもよい。
【0048】
中間層30の厚さは、次のようにして測定できる。ヨーク2と磁歪板3とが接合された部分の断面をとり、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)で観察する。上記断面は、ヨーク2の長手方向に沿って厚さ方向に切断した縦断面である。エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)を用いて、縦断面を磁歪板3からヨーク2に向かって厚さ方向にライン分析を行い、元素の濃度プロファイルを測定する。取得した濃度プロファイルから磁歪板3に含まれる特有の元素の濃度プロファイルを選択する。上記特有の元素が濃度勾配を有する領域の厚さを測定する。この厚さを中間層30の厚さとみなす。
【0049】
(空隙率)
中間層30は、ヨーク2と磁歪板3とが接合された部分において、ヨーク2と磁歪板3との間の全面にわたって形成されていることが好ましい。つまり、ヨーク2と磁歪板3との接合界面において空隙が少ないことが好ましい。ヨーク2と磁歪板3とが接合された部分における空隙率は10%以下であってもよい。空隙率が10%以下であることで、高い接合強度が十分に得られ易い。空隙率は、更に0.001%以上5%以下でもよい。
【0050】
空隙率は、次のようにして測定できる。ヨーク2と磁歪板3とが接合された部分の断面をとり、その断面をSEMで観察する。上記断面は、ヨーク2の幅方向に沿って厚さ方向に切断した横断面である。ヨーク2と磁歪板3との間に厚さ方向に1μm以上の隙間が存在する部分を空隙とみなす。ヨーク2と磁歪板3との間に存在する全ての空隙の幅方向の長さを測定する。磁歪板3の幅の全長にわたって空隙の長さを測定し、全ての空隙の合計長さを求める。磁歪板3の幅の全長に対する空隙の合計長さの比率を空隙率とする。
【0051】
[実施形態2]
図5を参照して、実施形態2に係る磁歪部品1を説明する。実施形態2の磁歪部品1は、磁歪板3がヨーク2の一部に埋め込まれた状態で接合されている点が、上述した図1に示す実施形態1の磁歪部品1と相違する。以下、実施形態1との相違点を中心に説明する。実施形態1と共通する構成についてはその説明を省略する。
【0052】
磁歪板3の一部がヨーク2に埋め込まれていてもよいし、磁歪板3の全部がヨーク2に埋め込まれていてもよい。磁歪板3が埋め込まれている場合、磁歪板3が埋め込まれていない場合に比べて、ヨーク2と磁歪板3とが接合された部分の厚さが薄くなる。実施形態2では、磁歪板3が第二の片22の上面の一部に埋め込まれた状態で接合されている。また、図5に示すように、磁歪板3の上面が露出するように第二の片22に磁歪板3の全部が埋め込まれている。そのため、磁歪板3の上面と第二の片22の上面とは面一になっている。
【0053】
磁歪板3の厚さは、ヨーク2の厚さ、即ち第二の片22の厚さの50%以下であってもよい。実施形態2では、第二の片22の厚さは、磁歪板3の厚さと磁性部20の厚さとの合計に等しい。第二の片22が曲げ変形したとき、曲げの中立線の位置は第二の片22の厚さの中心線の近傍に位置する。曲げの中立線とは、第二の片22が曲げ変形したときに圧縮応力が生じる部分と引張応力が生じる部分との境界である。磁歪板3の厚さが第二の片22の厚さの50%以下であることで、第二の片22が曲げ変形したときに、磁歪板3に圧縮応力又は引張応力を一様に作用させ易い。つまり、磁歪板3の厚さは、例えば0.2mm以上0.6mm以下であって、かつ、第二の片22の厚さの50%以下であってもよい。磁歪板3の厚さは、更に、第二の片22の厚さの40%以下でもよい。
【0054】
[実施形態3]
図6を参照して、実施形態3に係る発電素子10を説明する。発電素子10は、磁歪部品1と、磁石4と、コイル5とを備える。図6に示す磁歪部品1は、上述した図1に示す実施形態1の磁歪部品1である。磁歪部品1は、上述した図5に示す実施形態2の磁歪部品1であってもよい。
【0055】
(磁石)
磁石4は、ヨーク2に磁界を印加する。本実施形態では、第一の片21の端部に磁石4が取り付けられている。磁石4の取付箇所は、第一の片21の上面でもよいし、下面でもよい。本実施形態では、第一の片21の上面に磁石4が取り付けられている。磁石4は、第二の片22の端部と間隔をあけて向かい合うように配置されている。磁石4と第二の片22との間に空隙を設けることで、第二の片22が曲げ変形した際に第二の片22が磁石4に接触することを回避できる。磁石4から発生する磁界によって、ヨーク2に磁気回路が形成される。磁気回路に流れる磁束は、磁石4から第一の片21、屈曲部23、第二の片22を通って、磁石4に戻る。磁歪板3が接合された部分では、磁性部20と磁歪板3に並列に磁束が流れる。磁性部20と磁歪板3とがそれぞれ磁化される。
【0056】
磁性部20と磁歪板3とが磁化した際、磁歪板3は磁気飽和しておらず、磁性部20は磁気飽和していることが好ましい。磁歪板3が磁気飽和していないことで、逆磁歪効果による磁歪板3での磁束密度の変化が大きくなる。磁性部20が磁気飽和していることで、磁歪板3を流れた磁束が磁性部20に流れる磁気回路が形成され難くなる。そのため、磁歪板3に流れる磁束の変化が大きくなる。逆に、磁性部20が磁気飽和していない状態では、磁歪板3を流れた磁束が磁性部20に流れる磁気回路が形成され、磁歪板3に流れる磁束の変化が小さくなる。
【0057】
磁石4は、永久磁石でもよいし、電磁石でもよい。永久磁石は、例えば、ネオジム磁石、アルニコ磁石、フェライト磁石、又はサマリウムコバルト磁石のいずれかである。ネオジム磁石は強い磁力を有しているので、ヨーク2に強い磁界を印加できる。永久磁石は、電磁石のように電流を流す必要がないので、電源が不要である。電磁石は、電流の大きさを調整することで、ヨーク2に印加する磁界の強さを調整できる。
【0058】
(コイル)
コイル5は、ヨーク2の少なくとも一部に巻回されている。本実施形態では、コイル5は、磁歪板3と磁性部20に巻回されている。即ち、ヨーク2と磁歪板3とが接合された部分の周囲にコイル5が配置されている。コイル5には、磁歪板3に流れる磁束が変化することによって、誘導起電力が発生する。本実施形態とは異なり、コイル5は、ヨーク2のうち、磁歪板3が接合されていない部分に巻回されていてもよい。コイル5が磁歪板3からずれて配置されていても、磁歪板3の磁束密度が変化することで、ヨーク2に流れる磁束が変化する。コイル5の巻き数は、例えば1000ターン以上4000ターン以下である。コイル5を構成する巻線の直径は、例えば0.03mm以上0.10mm以下である。
【0059】
(振動源)
発電素子10は振動源6に取り付けられる。振動源6はヨーク2に上下方向の振動を加える。本実施形態では、第一の片21の端部が振動源6に固定されている。振動源6から第一の片21に入力された振動は、第二の片22に曲げ変形を生じさせる。第二の片22の曲げ変形に伴い、磁歪板3に圧縮応力又は引張応力が作用することで、逆磁歪効果により磁歪板3での磁束密度が変化する。振動源6は、例えば、輸送機械、原動機、産業機械、又は構造物のいずれかである。その他、振動源6は、人の動作によって振動が発生する物体でもよい。このような物体は、例えば、人が開閉するドア、又は人が操作するスイッチである。輸送機械は、例えば、自動車、航空機、又は鉄道車両のいずれかである。原動機は、エンジン、又はモータである。産業機械は、例えば、発電機、又はタービンである。構造物は、例えば、ビル、又は橋梁である。
【0060】
(錘)
本実施形態では、第二の片22の端部に錘7が設けられている。錘7は、第二の片22の共振周波数を調整するためのものである。錘7は必要に応じて取り付ければよい。錘7の材質及び重さは適宜選択すればよい。錘7の材質は、磁性材料でも非磁性材料でもよいが、非磁性材料の方が好ましい。錘7が非磁性材料であれば、ヨーク2に形成される磁気回路に影響を与えない。
【0061】
発電素子10が発電するメカニズムについて説明する。振動源6から第一の片21に振動が入力される。この振動に応じて第二の片22に曲げ変形が繰り返し生じることで、磁歪板3に引張応力と圧縮応力とが繰り返し作用する。磁歪板3に引張応力又は圧縮応力が作用することで、逆磁歪効果により磁歪板3の磁束密度が変化する。磁歪板3に流れる磁束が周期的に変化することで、コイル5に誘導起電力が発生する。発電素子10は、コイル5の誘導起電力により発電する。
【0062】
<磁歪部品の製造方法>
図7を参照して、実施形態に係る磁歪部品の製造方法を説明する。磁歪部品の製造方法は、以下の第一工程を備える。
第一工程は、ヨーク2の一部に磁歪板3を重ね合わせた状態で圧縮接合を行う工程である。
【0063】
(第一工程)
第一工程では、まず、図7の上図に示すように、ヨーク2の一部に磁歪板3を重ね合わせる。ヨーク2は、軟磁性材料からなる板材である。磁歪板3は、磁歪材料から構成される。ヨーク2の縦方向MDの長さと、磁歪板3の縦方向MDの長さとは等しい。磁歪板3の横方向TDの長さは、ヨーク2の横方向TDの長さよりも短い。ヨーク2の一部に磁歪板3を重ね合わせた後、圧縮接合を行う。
【0064】
圧縮接合は、図7の中図に示すように、ヨーク2と磁歪板3とを重ね合わせた方向に圧縮することにより接合する方法である。圧縮接合は、例えば、圧延加工、又はプレス加工を利用できる。圧延加工又はプレス加工は複数回行ってもよい。一般に、磁歪材料からなる磁歪板3の方が軟磁性材料からなるヨーク2よりも硬いため、図7の中図に示すように、磁歪板3がヨーク2に埋め込まれた状態になる。図7の中図では、磁歪板3の全部がヨーク2に埋め込まれた状態を示している。本実施形態では、ヨーク2と磁歪板3とを重ね合わせた状態で縦方向MDに圧延加工を行うことによって、ヨーク2と磁歪板3とを接合する。
【0065】
ヨーク2と磁歪板3とを圧縮接合することで、ヨーク2と磁歪板3との相互拡散によって上述した中間層30(図1図5参照)を形成することが可能である。圧縮接合の条件は、ヨーク2と磁歪板3とを例えば50%以上95%以下の圧縮率となるように圧縮することが好ましい。圧縮率は、圧縮前の厚さから圧縮後の厚さを引いた値を圧縮前の厚さで割った値をパーセントで表したものである。圧縮前の厚さは、ヨーク2の厚さと磁歪板3の厚さとの合計に相当する。圧縮後の厚さは、ヨーク2と磁歪板3とが接合された部分の厚さ、即ち磁性部20(図1図5参照)の厚さと磁歪板3の厚さとの合計に相当する。圧縮率が高いほど、上記中間層30が生成され易い。また、ヨーク2と磁歪板3とを密着させることができるので、ヨーク2と磁歪板3との接合界面に空隙が形成され難くなる。圧縮率が50%以上であることで、中間層30の厚さを10nm以上とすることができ、高い接合強度が十分に得られ易い。また、圧縮率が50%以上であれば、ヨーク2と磁歪板3とが接合された部分における空隙率を10%以下とすることができ、高い接合強度が十分に得られ易い。一方で、圧縮率が95%以下であることで、圧縮時にヨーク2及び磁歪板3のいずれか一方が割れたりすることなく、ヨーク2と磁歪板3とを所望の厚さに圧縮し易い。圧縮率を調整することで、磁歪板3の厚さ方向の一部がヨーク2に埋め込まれ、残部がヨーク2の上面から突出した磁歪部品1を製造することも可能である。圧縮率は、更に60%以上80%以下でもよい。
【0066】
更に、ヨーク2と磁歪板3とを圧縮接合する際、又はヨーク2と磁歪板3とを圧縮接合した後に、ヨーク2と磁歪板3とを300℃以上750℃以下に加熱する熱処理を行ってもよい。ヨーク2と磁歪板3とを加熱しながら圧縮する、又は圧縮接合されたヨーク2と磁歪板3とを加熱することで、上記中間層30が生成され易くなる。例えば、ヨーク2と磁歪板3とを加熱せずに圧縮した後に熱処理を行ってもよい。ヨーク2と磁歪板3とを加熱しながら圧縮した後、更にヨーク2と磁歪板3とを加熱せずに圧縮してもよい。ヨーク2と磁歪板3とを加熱せずに圧縮した後、ヨーク2と磁歪板3とを加熱しながら圧縮してもよい。加熱温度が300℃以上750℃以下であることで、中間層30の厚さを10nm以上50μm以下に制御し易い。加熱温度は、更に350°以上450℃以下でもよい。この熱処理は行わなくてもよい。
【0067】
(第二工程)
第一工程の後、ヨーク2と磁歪板3とを圧縮接合した複合材100を所望の形状に加工する第二工程の備えてもよい。例えば、図7の下図に示すように、複合材100を縦方向MDに間隔をあけて横方向TDに切断して、複数の磁歪部品1に分割する。図7の下図の破線は切断位置を示す。磁歪部品1において、ヨーク2及び磁歪板3のそれぞれの長さは、横方向TDに沿う長さに相当する。ヨーク2及び磁歪板3のそれぞれの幅は、縦方向MDに沿う長さに相当する。図5に示すように、磁歪部品1をU字状に曲げ加工する。
【0068】
[試験例1]
磁歪部品の試料を作製した。表1に示す試料No.1から試料No.12は、上述した磁歪部品の製造方法によって作製された。用意したヨークの材料及び厚さを表1に示す。用意した磁歪板の材料及び厚さを表1に示す。試料No.1から試料No.12では、ヨークと磁歪板との接合は、ヨークと磁歪板とを圧延加工によって接合する圧延接合により行われた。試料No.1から試料No.12では、圧延加工はヨークと磁歪板とを加熱せずに行われた。試料No.2から試料No.12では、圧延加工後、加熱が行われた。圧延したときの圧下率、即ち圧縮率及び加熱温度を表1に示す。試料No.1では熱処理が行われていないので、加熱温度の欄に「-」と記載した。
【0069】
試料No.1から試料No.12の磁歪部品は、図7の下図を参照して説明したように、ヨークと磁歪板とを圧延接合した複合材を切断することで得られた。圧延接合後のヨークの厚さと磁歪板の厚さを表2に示す。試料No.1から試料No.12における接合後のヨークの厚さとは、ヨークにおいて磁歪板が接合されていない部分の厚さである。また、ヨークにおいて磁歪板が接合された部分の厚さ、即ち磁性部の厚さも表2に示す。取得した磁歪部品において、ヨークの長さは80mmである。磁歪板の長さは16mmである。ヨーク及び磁歪板のそれぞれの幅は4mmである。この磁歪部品をU字状に曲げ加工した。ヨークの屈曲部の曲げ半径は1.5mmとした。
【0070】
表1に示す試料No.13から試料No.17では、ヨークと磁歪板との接合は、接着、ろう付け、抵抗溶接、レーザー溶接のいずれかの方法により行われた。用意したヨークの材料及び厚さを表1に示す。用意した磁歪板の材料及び厚さを表1に示す。これらの試料では、ヨークの上面の一部を切削加工して凹部を設けた。凹部の長さ及び幅はそれぞれ、磁歪板の長さ及び幅と同じである。凹部の深さは、磁歪板の厚さと同じである。そして、この凹部に磁歪板を埋め込んだ状態で磁歪板をヨークに接合して、磁歪部品を取得した。この磁歪部品をU字状に曲げ加工した。接合後のヨークの厚さと磁歪板の厚さを表2に示す。試料No.13から試料No.17における接合後のヨークの厚さとは、ヨークにおいて磁歪板が接合されていない部分の厚さ、即ち凹部を除いた部分の厚さである。また、ヨークにおいて磁歪板が接合された部分の厚さ、即ち磁性部の厚さも表2に示す。ヨークの長さは80mmである。磁歪板の長さは16mmである。ヨーク及び磁歪板のそれぞれの幅は4mmである。ヨークの屈曲部の曲げ半径は1.5mmとした。表1中、圧縮率又は加熱温度の欄が「-」である場合は、圧延加工又は熱処理が行われていないことを示す。
【0071】
試料No.13では、エポキシ系接着剤を用いて磁歪板をヨークに接着した。試料No.14では、銀ろうを用いて磁歪板をヨークにろう付けした。試料No.15及び試料No.16では、抵抗溶接によって磁歪板をヨークに接合した。試料No.15での抵抗溶接の条件と試料No.16での抵抗溶接の条件とは異なる条件である。試料No.17では、レーザー溶接によって磁歪板をヨークに接合した。試料No.17は、磁歪板の端部のみをヨークに溶接した。
【0072】
各試料について、中間層の厚さを測定した。中間層の厚さは、次のようにして測定した。ヨークと磁歪板とが接合された部分の断面をとり、その断面をSEMで観察する。上記断面は、ヨークの長手方向に沿って厚さ方向に切断した縦断面である。SEMに付属のEDXを用いて、縦断面を磁歪板からヨークに向かって厚さ方向にライン分析を行い、元素の濃度プロファイルを測定する。取得した濃度プロファイルから磁歪板に含まれる特有の元素の濃度プロファイルを選択し、上記特有の元素が濃度勾配を有する領域の厚さを測定する。上記特有の元素は、磁歪材料がパーメンジュール又はバイカロイの場合はコバルトであり、磁歪材料が鉄-ガリウム系合金の場合はガリウムである。厚さの測定は異なる5点について行い、その厚さの平均値を中間層の厚さとみなす。中間層の厚さを表2に示す。
【0073】
各試料について、空隙率を測定した。空隙率は、次のようにして測定した。ヨークと磁歪板とが接合された部分の断面をとり、その断面をSEMで観察する。上記断面は、ヨークの幅方向に沿って厚さ方向に切断した横断面である。ヨークと磁歪板との間に厚さ方向に1μm以上の隙間が存在する部分を空隙とみなす。ヨークと磁歪板との間に存在する全ての空隙の幅方向の長さを測定する。磁歪板の幅の全長にわたって空隙の長さを測定し、全ての空隙の合計長さを求める。磁歪板の幅の全長に対する空隙の合計長さの比率を空隙率とする。5箇所の横断面を観察し、これら5箇所の横断面における空隙率の平均値を空隙率とする。空隙率を表2に示す。
【0074】
各試料の磁歪部品を備える発電素子を作製した。発電素子の構成は、上述した図6に示す発電素子の構成と同様である。磁石は、ネオジム磁石である。磁石によって、ヨークに磁気回路が形成された状態において、磁歪板は磁気飽和しておらず、磁性部は磁気飽和している。コイルは、巻線の直径が0.05mm、巻き数が3456ターンである。コイルは、ヨークと磁歪板とが接合された部分に挿入した後、シリコンゴムを用いて固定した。
【0075】
(出力特性)
各試料の磁歪部品を備える発電素子の出力特性を評価した。
【0076】
各試料の発電素子の発電出力を測定した。ヨークの第一の片の端部を振動源に固定した。ヨークの第二の片の端部に錘を金具で固定した。錘と金具を合わせた重量は、2.0gである。振動源によりヨークに正弦波の振動を加え、周波数応答グラフから共振周波数を求めた。25℃の室温環境下で、振動源により共振周波数120Hz、加速度1Gの振動を加えて、1億回振動させたときの発電出力を求めた。また、発電出力を磁歪板の体積で割って、磁歪板の単位体積あたりの発電出力を算出した。磁歪板の単位体積あたりの発電出力が20μW/mm以上の場合、出力特性の評価をAとする。磁歪板の単位体積あたりの発電出力が20μW/mm未満の場合、出力特性の評価をBとする。発電素子の発電出力、磁歪板の単位体積あたりの発電出力、及び出力特性の評価を表2に示す。
【0077】
(耐久性)
120℃の高温環境下で、各試料の発電素子の発電出力を測定した。1回振動させたときの発電出力と、1億回振動させたときの発電出力とをそれぞれ求めた。そして、1億回振動させたときの発電出力を1回振動させたときの発電出力で割った値を求めた。この値が高いほど、高温下でも長期にわたって発電出力を維持できていることから、高温下での耐久性にも優れるといえる。この値が0.9以上の場合、耐久性の評価をAとし、この値が0.9未満の場合、耐久性の評価をBとする。耐久性の評価を表2に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
試料No.1からNo.11の発電素子は、出力特性の評価がAで、かつ、耐久性の評価がAである。よって、これらの発電素子は、高い出力特性を有しながら、高温下での耐久性に優れる。これらの発電素子に備える磁歪部品はいずれも、中間層の厚さが10nm以上50μm以下である。加えて、空隙率が10%以下も満たしている。
【0081】
これに対し、試料No.12からNo.17の発電素子は、出力特性の評価及び耐久性の評価の少なくとも一方がBである。試料No.12の発電素子の耐久性が劣る理由は、次のとおりである。試料No.12の発電素子に備える磁歪部品は、中間層の厚さが6nmである。そのため、長期にわたって振動を加えられることによって、磁歪板の剥離が生じ、発電出力が低下したからであると考えられる。試料No.13の発電素子の耐久性が劣る理由は、接着剤が高温に耐えられず、磁歪板の剥離が生じたことによって、発電出力が低下したからであると考えられる。
【0082】
試料No.14からNo.17の発電素子は出力特性が劣る。これらの発電素子に備える磁歪部品はいずれも、中間層の厚さが50μm超である。これらの発電素子の出力特性が劣る理由は、次のとおりである。中間層が厚いほど、磁歪材料が中間層の生成に消費される。その結果、磁歪板における逆磁歪効果による磁束の変化が小さくなるため、出力特性が低下したからであると考えられる。また、No.17の発電素子は耐久性にも劣る。試料No.17の発電素子の耐久性が劣る理由は、次のとおりである。試料No.17の発電素子に備える磁歪部品は、空隙率が40%である。そのため、長期にわたって振動を加えられることによって、磁歪板の剥離が生じ、発電出力が低下したからであると考えられる。
【0083】
その他、この試験結果から以下のことが分かる。
試料No.1とNo.2との比較結果から、熱処理を行うと、中間層が厚くなり易いことが分かる。また、試料No.2、No.9からNo.11の比較結果から、加熱温度が高いほど、中間層が厚くなり易いことが分かる。
試料No.2、No.8、及びNo.12の比較結果から、圧縮率が高いほど、中間層が厚くなり易いことが分かる。
【符号の説明】
【0084】
1 磁歪部品
2 ヨーク、21 第一の片、22 第二の片、23 屈曲部
20 磁性部
3 磁歪板
30 中間層
4 磁石、5 コイル、6 振動源、7 錘
10 発電素子
100 複合材
MD 縦方向、TD 横方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7