(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162811
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】モータ
(51)【国際特許分類】
H02K 5/04 20060101AFI20241114BHJP
H02K 1/18 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
H02K5/04
H02K1/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078722
(22)【出願日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】坂本 秀
(72)【発明者】
【氏名】松田 瞬
【テーマコード(参考)】
5H601
5H605
【Fターム(参考)】
5H601AA02
5H601AA06
5H601CC01
5H601CC15
5H601DD01
5H601DD11
5H601DD31
5H601DD47
5H601GA02
5H601GC12
5H601JJ04
5H601KK13
5H601KK14
5H601KK15
5H605BB05
5H605CC01
5H605DD05
5H605EB10
5H605GG04
(57)【要約】
【課題】本発明は、モータを大型化することなくステータをケースの筒部の内周に締付けによって固定しても、被取付対象に対してガタつきなく取付でき、駆動時のモータ振動等で振動音が生じるのを防止できるモータの提供を目的とする。
【解決手段】本発明のモータMは、筒状の筒部10aの軸方向一端側に設けられ外周に被取付対象に取付け可能な取付片10cを有する底部10bとからなる有底筒状のケース1と、環状であってケース1内に収容されて外周面が筒部10aの内周面に締付けによって固定されるステータ2とを備え、底部10b側における筒部10aとステータ2との間に環状隙間Sが形成されることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の筒部と、前記筒部の軸方向一端側に設けられ外周に被取付対象に取付け可能な取付片を有する底部とからなる有底筒状のケースと、
環状であって前記ケース内に収容されて外周面が前記筒部の内周面に締付けによって固定されるステータとを備え、
前記底部側における前記筒部と前記ステータとの間に環状隙間が形成される
ことを特徴とするモータ。
【請求項2】
前記筒部は、前記ステータが固定される筒状のステータ保持部と、前記筒部の前記底部側端と前記ステータ保持部との間に形成され前記ステータ保持部の内径よりも内径が大きい筒状の逃げ部とを有し、
前記環状隙間は、前記逃げ部の内周面と前記ステータの外周面との間に形成されており、
前記逃げ部の軸方向長さが10mm以上である
ことを特徴とする請求項1に記載のモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータに関する。
【背景技術】
【0002】
モータは、一般的に、筒状のステータと、ステータ内に回転自在に挿入されるロータと、ステータおよびロータを収容する筒状のケースとを備えている。ケース内にはステータが圧入や焼き嵌めによって固定されるほかロータの軸方向の両端を回転自在に支持するベアリングが取付けられている。よって、ステータに通電すると、ロータはケース内で円滑に回転できる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、従来のモータにおけるケースは、有底筒状であって、底部に形成されてロータが挿通される孔と、底部の外周に設けられて被取付対象に取付可能な取付片とを備えている。
【0004】
詳細には、特許文献1のモータにおける取付片は、平板状であって、ケースの軸方向に沿って貫通する孔を有している。そして、取付片の被取付対象側を向く面である端面を被取付対象に当接させるとともに、取付片の孔を被取付対象に設けられた孔と対向させた状態で、互いに対向する孔にボルトを挿通し、挿通したボルトのボルト軸にナットを螺合することで、モータを被取付対象に対して取付できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の通り、従来のモータでは、ステータは、ケースの筒部の内周に圧入や焼き嵌め等で固定されており、ケースの筒部の内周に対して締め代を持ってケースに固定される。よって、
図3に示すように、従来のモータM1では、ケースの筒部100におけるステータが締め代を持って固定された部分(以下、「固定部100a」と称する。)には、筒部100を径方向で外側に押し広げる力が作用して、固定部100aは外側に膨らむように変形する。
【0007】
このように筒部100の固定部100aが外側に膨らむように変形すると、筒部100の固定部100aの軸方向両端側が内向きに傾斜するように変形する。そして、固定部100aが筒部100の底部側端(一端)の近傍にある場合、
図3に示すように、筒部100の一端も変形するため、筒部100の一端側に設けられた底部102の外周に設けられた取付片101の端面101aがケースの外側に向かうほど反筒部側に向けて傾斜するように反ってしまう。
【0008】
すると、取付片101の底部102に対する取付角度が、ステータを筒部100の内周に固定する前の元の取付角度から変わってしまうため、モータを被取付対象に取付けた際に、互いに当接するモータの取付片の端面と被取付対象との間に隙間ができて、モータ振動等でモータが被取付対象に対してガタついて、振動音が生じる可能性がある。なお、
図3では、理解を容易にするため、筒部100の固定部100aの膨らみと取付片101の端面101aの反り量を誇張して記載している。
【0009】
また、ステータをケースの筒部の一端側から軸方向に離れた位置に固定して、ケースの筒部の一端の変形を抑制することも考えられるが、このようにすると、ステータの固定位置をケースの筒部の他端側へ移動させる分だけケースの軸方向長さを余計に長くする必要があるため、モータが大型化してしまう。
【0010】
そこで、本発明は、大型化することなく、ステータをケースの筒部の内周に締付けによって固定しても、被取付対象に対してガタつきなく取付可能なモータの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の課題を解決するため、本発明のモータは、筒状の筒部の軸方向一端側に設けられ外周に被取付対象に取付け可能な取付片を有する底部とからなる有底筒状のケースと、環状であってケース内に収容されて外周面が筒部の内周面に締付けによって固定されるステータとを備え、底部側における筒部とステータとの間に環状隙間が形成されることを特徴とする。この構成によると、ステータが筒部の内周面に締付けによって固定されたことによる筒部を径方向で外側に押し広げる力は、筒部とステータの外周面とが当接する部分のみに作用し、筒部とステータとの間に環状隙間が介在する部分には作用しない。すると、筒部のステータの外周面に当接する部分が径方向で外側に膨らむように変形し、筒部の外側に膨らむように変形した部分である膨張部の両端側が内向きに傾斜するように変形するが、底部側である筒部の一端と膨張部との間には環状隙間が介在する部分があるため、筒部の一端の変形は抑制される。したがって、本発明のモータでは、筒部の内周に対してステータが締付けによって固定されても、筒部の一端の変形は抑制されるため、筒部の一端側に設けられる底部の外周に設けられる取付片の取付角度がステータを筒部の内周に固定する前の元の取付角度から変わるのを抑制できる。
【0012】
また、本発明のモータでは、筒部は、ステータが固定される筒状のステータ保持部と、筒部の底部側端とステータ保持部との間に形成されステータ保持部の内径よりも内径が大きい筒状の逃げ部とを有し、環状隙間は、逃げ部の内周面とステータの外周面との間に形成されており、逃げ部の軸方向長さが10mm以上であってもよい。この構成によると、取付片の座面の反り量を十分に小さくできるため、モータの被取付対象に対するガタつきの発生を十分に抑制できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のモータによれば、モータを大型化することなく、ステータをケースの筒部の内周に締付けによって固定しても、被取付対象に対してガタつきなく取付できるので、駆動時のモータ振動等で振動音が生じるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。本実施の形態におけるモータMは、
図1に示すように、ケース1と、ケース1の内周に締付けによって固定される電機子としての環状のステータ2と、ステータ2内に周方向に回転自在に挿通される回転軸30を有するロータ3とを備え、ステータ2への通電によりロータ3を回転軸30の軸回りに回転駆動できる。
【0016】
以下、本実施の形態のモータMの各部について詳細に説明する。ケース1は、金属製であって、
図1に示すように、有底筒状のケース本体10と、ケース本体10の開口端を閉塞する閉塞部材11とを備える。ケース本体10は、円筒状の筒部10aと、筒部10aの軸方向一端側(
図1中左端)に設けられて内側にロータ3が挿通される孔10b3が形成される底部10bとを備えており、底部10bの外周にはモータMの被取付対象(図示せず)に取付可能な2つの取付片10cが設けられている。
【0017】
図1に示すように、筒部10aは、
図1中右側から順に筒部10aの開口側に形成される開口側筒部10a1と、開口側筒部10a1よりも内径が小さく形成されるとともに内周に後述するステータ2が固定される筒状のステータ保持部10a2と、ステータ保持部10a2よりも内径の大きい筒状の逃げ部10a3とを有し、逃げ部10a3の
図1中左端に底部10bが一体的に設けられている。そして、筒部10aの内周であって開口側筒部10a1とステータ保持部10a2との境には段部10a4が形成されている。
【0018】
また、開口側筒部10a1の内周には、筒部10aの開口側から挿入されて段部10a4に当接する位置に位置決めされて環状のボールベアリング13を保持する環状の保持部材12が取付られている。
【0019】
保持部材12の内周に保持されたボールベアリング13は、後述するロータ3の回転軸30の
図1中右端外周を回転可能に支持する。また、保持部材12の内周には、
図1中右端から突出する環状のストッパ部12aが設けられており、ストッパ部12aによってボールベアリング13の
図1中右方向の移動が規制されている。また、開口側筒部10a1の
図1中右端内周には筒部10aの他端側の開口を閉塞する閉塞部材11が取付られている。
【0020】
また、底部10bは、筒状であって筒部10aの
図1中左端に設けられて外周に後述する取付片10cを有する取付筒部10b1と、取付筒部10b1の
図1中左端内周に設けられ中央に孔10b3を有する円盤状の底部本体10b2とを備える。
【0021】
図1に示すように、取付筒部10b1の内径は、筒部10aの開口側筒部10a1、ステータ保持部10a2又は逃げ部10a3の内径よりも小さくなっている。そのため、後述する取付片10cが外周に設けられる取付筒部10b1は肉厚が厚く、剛性が確保されている。
【0022】
ただし、取付筒部10b1に必要な剛性が確保できる限りにおいて、取付筒部10b1の内径は、筒部10aの開口側筒部10a1、ステータ保持部10a2又は逃げ部10a3の内径以上に設定されてもよい。
【0023】
また、ケース本体10は、底部本体10b2のケース1内側を向く内側面から底部本体10b2の孔10b3の周囲を囲うように突出する筒状のホルダ部10dを備えている。ホルダ部10dの内周には、後述するロータ3の回転軸30の一端外周を回転可能に支持する環状のボールベアリング14が保持されている。
【0024】
また、取付片10cは、
図1に示すように、平板状であって底部10bの取付筒部10b1の外周から径方向に延びる平板部10c1と、平板部10c1を筒部10aの軸方向に貫通する貫通孔10c2とを備えている。また、
図1に示すように、平板部10c1は、底部10bのケース1外側を向く外側面と面一の図中左側の端面(以下、「座面10c3」と称する。)を備えている。ただし、座面10c3と底部10bの外側面の位置はケース1の軸方向でずれていてもよい。
【0025】
ここで、図示しないが、モータMの被取付対象には、平板状の平板部と平板部を貫通する孔を有する取付部が設けられている。そして、図示しないが、モータMを被取付対象に取付する際には、取付片10cの平板部10c1の座面10c3を被取付対象の取付部に当接させた状態で、貫通孔10c2と被取付対象の取付部を貫通する孔とにボルトを挿通し、挿通したボルトのボルト軸にナットを螺合して、取付片と取付部を締め付けることで、モータMを被取付対象に対して取付できる。
【0026】
なお、本実施の形態では、底部10bには、径方向で対向する位置に配置される2つの取付片10cが設けられているが、取付片10cの数や周方向位置は特に限定されず、被取付対象の取付部の数や周方向位置等に応じて適宜決定されればよい。また、取付片10cは、例えば底部10bに設けられボルトを挿通する複数の孔を備えたフランジによって形成されてもよい。
【0027】
ステータ2は、複数の環状で薄板状の電磁鋼板を軸方向に積層して構成される略円筒状のステータコア20と、ステータコア20の軸方向の各端部に設けられたインシュレータ21,22と、インシュレータ21,22を介してステータコア20に巻き回された巻線からなるコイル23とを備えている。また、ステータコア20の材質は、磁性体であれば電磁鋼以外であってもよい。なお、上述のステータ2の構造は一例であって、ステータ2の構造は特に限定されない。
【0028】
ステータ2は、ステータコア20の底部10b側端(
図1中左端)を径方向で逃げ部10a3に対向させ、ステータコア20の反底部側端(
図1中右端)を径方向でステータ保持部10a2に対向させた状態で、ステータ保持部10a2の内周に焼き嵌めによって固定されている。
【0029】
そして、前述したように、逃げ部10a3の内径はステータ保持部10a2の内径よりも大きいため、筒部10aとステータコア20との間には、軸方向でステータコア20の底部10b側端から中間部(逃げ部10a3とステータ保持部10a2との境界部分と径方向で対向する部分)までの軸方向の範囲に及ぶ環状隙間Sが設けられている。
【0030】
また、ステータ2の
図1中右端には、バスバーユニット24が設けられている。バスバーユニット24は、絶縁性の材料で形成されたバスバーホルダ24aにインサート成形された導電性の材料で形成された複数のバスバー24bと、バスバー24bに電気的に接続されてバスバーホルダ24aから反ステータ側に突出する突出端子24cとを備えて、環状に形成されている。バスバー24bはコイル23の相数と同数設けられており、各バスバー24bはステータ2の対応する相のコイル23にそれぞれ接続されている。突出端子24cは図示しない電源に接続されている。これにより、ステータ2のコイル23に対して、バスバーユニット24を介して電力を供給できるようになっている。
【0031】
また、図示しないが、ケース1における閉塞部材11と保持部材12との間に形成される空間には、ステータ2のコイル23へ通電して回転磁界を発生させてモータMを駆動する制御装置が収容されている。
【0032】
ロータ3は、ベアリング13,14を介してケース本体10に取付けられており、ケース本体10内であってステータ2の内側に挿入されてステータ2内で回転できる。詳細には、本実施の形態のロータ3は、両端がベアリング13,14に支持された円柱状の回転軸30と、複数の環状で薄板状の電磁鋼板を軸方向に積層して構成される略筒状であって回転軸30の外周に装着されたロータコア31と、ロータコア31に取付られた永久磁石34とを備える。そして、ロータ3は、ステータ2のコイル23への通電によってステータ2に形成される回転磁界により、回転軸30の軸回りに回転する。
【0033】
また、回転軸30は、
図1,
図2に示すように、外周にロータコア31が装着される大径軸部32と、大径軸部32の両端にそれぞれ連なって大径軸部32よりも小径な小径軸部33とを有している。そして、各小径軸部33の外周には、保持部材12の内周に保持されたボールベアリング13と、ホルダ部10dの内周に保持されたボールベアリング14が嵌合されており、ロータ3は円滑に回転できる。また、保持部材12の内周に保持されたボールベアリング13は、保持部材12のストッパ部12aと
図1中右側の小径軸部33と大径軸部32との境に形成される段部とで挟持されて、軸方向移動が規制されている。他方、ホルダ部10dの内周に保持されたボールベアリング14は、ケース本体10の底部10bと
図1中左側の小径軸部33と大径軸部32との境に形成される段部とで挟持されて、軸方向移動が規制されている。
【0034】
つづいて、ケース1の筒部10aの内周にステータ2を焼き嵌めにより固定する工程について詳細に説明する。まず、ケース1の筒部10aを加熱する。ここで、筒部10aのステータ保持部10a2の内径とステータ2のステータコア20の外径は、常温において、略同一になるように設定されている。そのため、筒部10aを加熱すると筒部10aが熱膨張により拡径して、ステータ保持部10a2の内径がステータ2のステータコア20の外径よりも大きくなる。
【0035】
次に、ステータコア20の底部10b側端が逃げ部10a3に対向し、ステータコア20の反底部側端がステータ保持部10a2に対向する位置(所定位置)までステータ2を筒部10aの内側に挿入する。
【0036】
この際、ステータ2は、ケース本体10の開口側から挿入されるが、筒部10aの開口側筒部10a1の内径はステータコア20の外径よりも大きいため、ステータ2を筒部10aの内側に挿入する際に、ステータコア20が開口側筒部10a1の内周には接触しない。よって、ステータ2を筒部10aの内側に挿入する際にステータコア20が筒部10aの内周に擦れる距離を短くできるため、開口側筒部10a1の傷つきを抑制できるとともに、ステータ2を筒部10aの所定位置まで挿入する工程が容易となる。
【0037】
つづいて、ステータ2を筒部10aの所定位置まで挿入した状態で筒部10aを冷却する。すると、筒部10aが収縮するので、ステータ2が筒部10aのステータ保持部10a2の内周に対して締め代を持って所定位置に固定される。
【0038】
このように、ステータ2を筒部10aの内周に固定すると、ステータコア20の底部10b側端が逃げ部10a3に対向し、ステータコア20の反底部側端がステータ保持部10a2に対向する。よって、ステータコア20のステータ保持部10a2と径方向で対向する部分は、筒部10aのステータ保持部10a2がステータコア20に対して締め代を持って当接して、ステータ保持部10a2によって保持される被保持部20Aとなる。また、ステータコア20の逃げ部10a3と径方向で対向する部分が出代部20Bとなり、ステータコア20の出代部20Bと筒部10aの逃げ部10a3との間には、ケース10の底部10b側からステータコア20の途中までの軸方向の範囲に及ぶ環状隙間Sが設けられる。
【0039】
すなわち、環状隙間Sは、筒部10aの逃げ部10a3のうち、ステータコア20の出代部20Bに径方向で対向する部分との間に形成されるので、結果的に、環状隙間Sの軸方向長さは出代部20Bの軸方向長さと等しくなる。
【0040】
このように構成されたモータMでは、筒部10aの内周に締め代を持ってステータ2が固定されたことによる筒部10aを径方向で外側に押し広げる力は、筒部10aとステータコア20の被保持部20Aとが当接する部分のみに作用し、筒部10aとステータ2との間に環状隙間Sが介在する部分(ステータコア20の出代部20Bと径方向で対向する部分)には作用しない。
【0041】
すると、
図2に示すように、筒部10aはステータコア20の被保持部20Aと当接する部分が径方向で外側に膨らむように変形し、筒部10aの外側に膨らむように変形した部分(膨張部B)の両端側が内向きに傾斜するように変形するが、底部10b側における筒部10aの一端と膨張部Bとの間には環状隙間Sが介在する部分があるため、筒部10aの一端の変形は抑制される。
【0042】
したがって、本実施の形態のモータMでは、筒部10aの内周に対してステータ2が締め代を持って固定されても、筒部10aの一端の変形は抑制されるため、筒部10aの一端側に設けられる底部10bの外周に設けられる取付片10cの取付角度がステータ2を筒部10aの内周に固定する前の元の取付角度から変わるのを抑制できる。
【0043】
よって、モータMの取付片10cを被取付対象の取付部に取付する際に、取付片10cの平板部10c1の座面10c3を被取付対象の取付部に対して隙間なく当接させることができ、モータMの駆動時に、モータ振動等でモータMの取付片10cが被取付対象の取付部に対してガタつくのを防止できる。なお、
図2では、理解を容易にするために、筒部10aの膨張部Bの膨らみを誇張して記載している。
【0044】
また、筒部10aにおけるステータ保持部10a2の軸方向長さは、ステータ2と筒部10aの取付強度が確保される限りにおいて、ステータコア20の中間部から反底部側端までの軸方向長さよりも短くてもよいが、ステータコア20の中間部から反底部側端までの軸方向長さよりも長い方が、被保持部20Aの面積が大きくなるため、ステータ2と筒部10aの取付強度が高くなる。
【0045】
つづいて、ステータコア20の被保持部20Aの軸方向長さ及び筒部10aの底部10b側端とステータ保持部10a2との間に形成された逃げ部10a3の軸方向長さXと、取付片10cの座面10c3の反り量との関係性について説明する。
【0046】
ステータコア20の被保持部20Aの軸方向長さ及び逃げ部10a3の軸方向長さXと、取付片10cの座面10c3の反り量との関係性を求めるため、ケース本体10をモデル化して有限要素解析を行った。本解析では、下記の表1に示すように、ステータコア20の被保持部20Aの軸方向長さが長い場合において、逃げ部10a3の軸方向長さXを0mm,10mmにそれぞれ設定した場合の取付片10cの座面10c3の反り量を求めた。
【0047】
【表1】
さらに、本解析では、下記の表2に示すように、ステータコア20の被保持部20Aの軸方向長さが短い場合において、逃げ部10a3の軸方向長さXを0mm,10mm,20mmにそれぞれ設定した場合における取付片10cの座面10c3の反り量を求めた。
【0048】
【表2】
ここでいう、座面10c3の反り量とは、座面10c3と面一に設けられる底部10bの外側面を基準面C(
図2参照)としたときの座面10c3の先端の位置とのケース1の軸方向の差である。また、ステータコア20の被保持部20Aの軸方向長さが長い場合とは、被保持部20Aがステータコア20の軸方向長さの半分以上であり、短い場合とは被保持部20Aがステータコア20の軸方向長さの半分未満である。
【0049】
表1を参照すると、逃げ部10a3の軸方向長さXが0mmの場合、取付片10cの座面10c3の反り量は0.21mmであった。対して、表2を参照すると、逃げ部10a3の軸方向長さXが0mmの場合、取付片10cの座面10c3の反り量は0.21mmであった。
【0050】
上記の解析結果から、逃げ部10a3の軸方向長さXが0mm、つまり、従来のモータのように筒部10aに逃げ部10a3を設けなかった場合、取付片10cの座面10c3が0.21mmも反ることが分かる。また、ステータコア20の被保持部20Aの軸方向長さが長い場合と短い場合のいずれの場合であっても取付片10cの座面10c3の反り量が同じであることから、ステータコア20の被保持部20Aの軸方向長さの長短が取付片10cの座面10c3の反り量に影響しないことが分かる。
【0051】
また、表1を参照すると、逃げ部10a3の軸方向長さXが10mmの場合、取付片10cの座面10c3の反り量は0.04mmであった。対して、表2を参照すると、逃げ部10a3の軸方向長さXが10mmの場合、取付片10cの座面10c3の反り量は0.05mmであった。
【0052】
上記の解析結果から、逃げ部10a3の軸方向長さXが10mmの場合、逃げ部10a3の軸方向長さXが0mmの場合に比べて、取付片10cの座面10c3の反り量が大幅に低減されることが分かる。また、ステータコア20の被保持部20Aの軸方向長さが長い場合と短い場合のいずれの場合であっても、取付片10cの座面10c3の反り量がほとんど変わらないことから、ステータコア20の被保持部20Aの軸方向長さの長短が取付片10cの座面10c3の反り量にほとんど影響しないことが分かる。
【0053】
以上のことから、ステータコア20の被保持部20Aの軸方向長さの長短は、取付片10cの座面10c3の反り量には影響しないか或いはほとんど影響しないことが分かる。
【0054】
さらに、表2に示すように、逃げ部10a3の軸方向長さXを20mmに設定した場合、取付片10cの座面10c3の反り量は0.00mmであった。
【0055】
逃げ部10a3の軸方向長さXを10mmに設定した場合に取付片10cの座面10c3の反り量が低減されること、逃げ部10a3の軸方向長さXを20mmに設定した場合に取付片10cの座面10c3の反り量が0.00mmになるとの結果から、逃げ部10a3の軸方向長さXを長くすればするほど、取付片10cの座面10c3の反り量が低減されることが分かる。つまり、取付片10cの座面10c3の反り量は、逃げ部10a3の軸方向長さXに依存する。
【0056】
また、以上の結果から、逃げ部10a3の軸方向長さXが20mmを超える場合には、取付片10cの座面10c3の反り量は0.00mmから変わらないことが推察される。
【0057】
以上より、ステータコア20の被保持部20Aの軸方向長さの長短に関わらず、逃げ部10a3の軸方向長さXを10mm以上に設定すれば、取付片10cの座面10c3の反り量を十分に小さくできるため、モータMの被取付対象に対するガタつきの発生を十分に抑制できる。さらに、逃げ部10a3の軸方向長さXを20mm以上に設定すれば、取付片10cの座面10c3の反り量を0.00mmにできるため、モータMの被取付対象に対するガタつきの発生をより確実に防止できる。
【0058】
ただし、逃げ部10a3の軸方向長さXを20mm以上に設定しても、取付片10cの座面10c3の反り量は0.00mmから変わらないため、逃げ部10a3の軸方向長さXを20mmより長くする必要はない。
【0059】
また、逃げ部10a3の軸方向長さXが10mm未満であったとしても、逃げ部10a3の軸方向長さXが0mmの従来の場合に比べて、取付片10cの座面10c3の反り量を小さくできるため、モータMの被取付対象に対するガタつきの発生を抑制できる。したがって、逃げ部10a3の軸方向長さXは10mm未満であってもよい。
【0060】
また、取付片10cの座面10c3の反り量を低減するために逃げ部10a3の軸方向長さXを長くしたとしても、本実施の形態では、ステータコア20は、出代部20Bが筒部10aの逃げ部10a3と径方向で対向するように、筒部10aの内周に固定されているため、筒部10aの軸方向長さを長くする必要がない。よって、モータMを大型化させることなく、取付片10cの座面10c3の反り量を低減させられる。
【0061】
また、前述したように、ステータコア20の被保持部20Aの軸方向長さは、取付片10cの座面10c3の反り量には影響しない。したがって、ステータコア20の出代部20Bの軸方向長さも座面10c3の反り量には影響しないため、出代部20Bの軸方向長さは自由に設定できるが、出代部20Bの軸方向長さが長い方が、出代部20Bの長さの分だけステータコア20が筒部10aの底部10b側に位置する。そのため、ステータコア20の軸方向長さが同じであれば、出代部20Bの軸方向長さが長い方が筒部10aの軸方向長さを短くでき、モータMを小型化できる。
【0062】
なお、本実施の形態では、ステータ2は、ケース1の筒部10aの内周に対して焼き嵌めによって固定されているが、ステータ2の固定方法は、ステータ2をケース1の筒部10aの内周に対して締め代を持って固定するものであれば、焼き嵌めには限定されず、例えば、圧入であってもよい。
【0063】
前述したように、本実施の形態のモータMは、筒状の筒部10aと、筒部10aの軸方向一端側に設けられ外周に被取付対象に取付け可能な取付片10cを有する底部10bとからなる有底筒状のケース1と、環状であってケース1内に収容されて外周面が筒部10aの内周面に締付けによって固定されるステータ2とを備え、底部10b側における筒部10aとステータ2との間に環状隙間Sが形成されている。
【0064】
このように構成されたモータMでは、ステータ2が筒部10aの内周に締付けによって固定されたことによる筒部10aを径方向で外側に押し広げる力は、筒部10aとステータ2の外周面とが当接する部分(ステータコア20の被保持部20Aと径方向で対向する部分)のみに作用し、筒部10aとステータ2との間に環状隙間Sが介在する部分(ステータコア20の出代部20bと径方向で対向する部分)には作用しない。
【0065】
すると、筒部10aのステータ2の外周面に当接する部分が径方向で外側に膨らむように変形し、筒部10aの外側に膨らむように変形した部分である膨張部Bの両端側が内向きに傾斜するように変形するが、底部10b側である筒部10aの一端と膨張部Bとの間には環状隙間Sが介在する部分があるため、筒部10aの一端の変形は抑制される。
【0066】
したがって、モータMでは、筒部10aの内周に対してステータ2が締付けによって固定されても、筒部10aの一端の変形は抑制されるため、筒部10aの一端側に設けられる底部10bの外周に設けられる取付片10cの取付角度がステータ2を筒部10aの内周に固定する前の元の取付角度から変わるのを抑制できる。
【0067】
よって、モータMの取付片10cを被取付対象の取付部に取付する際に、取付片10cを被取付対象の取付部に対して隙間なく当接させることができ、モータMの駆動時に、モータ振動等でモータMの取付片10cが被取付対象の取付部に対してガタつくのを防止できる。
【0068】
また、本実施の形態のモータMでは、ステータ2と筒部10aの間に環状隙間Sを形成することで筒部10aの一端の変形を抑制しているので、ステータ2の筒部2a内での固定位置を変える必要がなく、ケース1の軸方向長さも変わらないため、モータMが大型化することもない。
【0069】
なお、本実施の形態では、筒部10aが逃げ部10a3を備えることで、筒部10aとステータ2との間に環状隙間Sを形成しているが、環状隙間Sの形成方法は上記方法には限定されず、例えば、ステータ2の外周に環状溝を設けて、筒部10aとステータ2との間に環状隙間Sを形成してもよい。
【0070】
ただし、ステータ2のステータコア20は、複数の電磁鋼板を軸方向に積層して構成されているため、ステータ2の外周に環状溝を設ける場合、ステータコア20の一端側を打ち抜き加工により打ち抜くことが考えられるが、その場合、打ち抜き加工用の型を用意する必要がある。これに対し、本実施の形態のように、筒部10aに逃げ部10a3を設けてステータ2との間に環状隙間Sを形成する場合、筒部10aの内周を研磨して逃げ部10a3を形成すればよいため、型を用意する必要が無く、コストが少なくて済む。ただし、逃げ部10a3は研磨以外の方法で形成されてもよい。また、ステータ2の外周に環状溝を設ける場合、当該環状溝は打ち抜き加工以外の方法で設けられてもよい。
【0071】
また、本実施の形態のモータMでは、筒部10aは、ステータ2が固定される筒状のステータ保持部10a2と、筒部10aの底部10b側端とステータ保持部10aとの間に形成されステータ保持部10a3の内径よりも内径が大きい筒状の逃げ部10a3とを有し、環状隙間Sは、逃げ部10a3の内周面とステータ2の外周面との間に形成されている。そして、逃げ部10a3の軸方向長さXを10mm以上に設定する場合、取付片10cの座面10c3の反り量が十分に小さくなるため、モータMの被取付対象に対するガタつきの発生を十分に抑制できる。さらに、逃げ部10a3の軸方向長さXを20mm以上に設定すれば、取付片10cの座面10c3の反り量を0.00mmにできるため、モータMの被取付対象に対するガタつきの発生をより確実に防止できる。
【0072】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0073】
1・・・ケース、2・・・ステータ、3・・・ロータ、10a・・・筒部、10a2・・・ステータ保持部、10a3・・・逃げ部、10b・・・底部、10c・・・取付片、M・・・モータ、S・・・環状隙間、X・・・逃げ部の軸方向長さ