(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162827
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】エンジンシステム
(51)【国際特許分類】
F02D 41/04 20060101AFI20241114BHJP
F02D 19/02 20060101ALI20241114BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
F02D41/04
F02D19/02 D
F02M21/02 G
F02D19/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078747
(22)【出願日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川口 太一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤井 拓夢
【テーマコード(参考)】
3G092
3G301
【Fターム(参考)】
3G092AA05
3G092AB09
3G092BA01
3G092BA03
3G092BA05
3G092BB01
3G092EA01
3G092EA02
3G092EC06
3G092EC07
3G092FA06
3G092GA12
3G092GA13
3G092HA01Z
3G092HA05Z
3G092HB02Z
3G092HE01Z
3G092HE03Z
3G301HA22
3G301JA03
3G301KA12
3G301KA16
3G301LB02
3G301MA01
3G301MA11
3G301NB13
3G301NC01
3G301ND42
3G301NE03
3G301NE08
3G301PA01Z
3G301PA07Z
3G301PE01Z
3G301PE03Z
(57)【要約】
【課題】気体燃料の噴射量を適切に補正する。
【解決手段】エンジンシステム1は、複数の気筒21,22,23,24にそれぞれ接続される複数の分岐通路4a,4b,4c,4dと、気体燃料を複数の分岐通路4a,4b,4c,4dの各々に噴射する複数の噴射装置15,16,17,18と、複数の噴射装置15,16,17,18を制御する制御装置100とを備える。制御装置100は、いずれかの分岐通路に噴射する気体燃料の噴射量に対して、噴射した気体燃料が他の吸気通路に回り込むことにより過不足する燃料量分を補正する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒にそれぞれ接続される複数の吸気通路と、
気体燃料を前記複数の吸気通路の各々に噴射する複数の噴射装置と、
前記複数の噴射装置を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記複数の吸気通路のうちのいずれかの吸気通路に噴射する前記気体燃料の噴射量に対して、噴射した前記気体燃料が他の吸気通路に回り込むことにより過不足する燃料量分を補正する、エンジンシステム。
【請求項2】
前記制御装置は、吸気行程となる第1気筒において要求される第1噴射量と、前記第1噴射量と前記第1気筒よりも前の直近の吸気行程となる第2気筒において要求される第2噴射量との差分との相関関係を用いて前記他の吸気通路に回り込むことにより過不足する燃料量分に相当する補正値を算出する、請求項1に記載のエンジンシステム。
【請求項3】
前記制御装置は、
各気筒の吸気行程に同期噴射を行なう際に、目標空燃比になるように噴射量の基本値を算出し、
前回の前記基本値と今回の前記基本値との噴射量差分を算出し、
今回の前記基本値と前記噴射量差分とに基づいて前記補正値を算出し、
今回の前記基本値を前記補正値によって補正し、今回の前記同期噴射を行なう、請求項2に記載のエンジンシステム。
【請求項4】
前記制御装置は、
各気筒の吸気行程に同期噴射を行なう際に、スロットル開度に基づいて前記吸気通路内の吸気管圧力の変動を先読みし、吸気管圧力の予測値を算出し、
前回の前記予測値と今回の前記予測値との圧力差分を算出し、
今回の前記予測値と前記圧力差分とに基づいて圧力補正値を算出し、
今回の前記予測値を前記圧力補正値によって補正し、補正後の前記予測値に基づいて噴射量を算出し、今回の前記同期噴射を行なう、請求項1に記載のエンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンシステムの制御に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に設けられる燃料噴射システムにおいて、エンジンの運転状態に応じて気体燃料の噴射量を設定する技術が公知である。たとえば、特開2013-213440号公報(特許文献1)には、エンジン回転数と吸入空気量とに基づいてガス燃料の基本噴射量を算出し、過渡変化時においては、ガスタンク内の圧力に基づいて基本噴射量を補正する技術が開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような燃焼噴射システムにおいて、燃料として気体燃料が用いられる場合には、液体燃料が用いられる場合と異なり、燃料の体積が大きく噴射した燃料の全てが気筒内に導入されず、一部の燃料が他の気筒に回り込む場合がある。特に過渡運転時においては、時間が経過するとともに変化する噴射量の要求量に対して他の気筒に回り込む気体燃料および他の気筒から回り込む気体燃料によって過不足が生じる場合がある。その結果、空燃比が目標とする空燃比(たとえば、ストイキに対応する空燃比)からずれる可能性がある。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであって、その目的は、気体燃料の噴射量を適切に補正するエンジンシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のある局面に係るエンジンシステムは、複数の気筒にそれぞれ接続される複数の吸気通路と、気体燃料を複数の吸気通路の各々に噴射する複数の噴射装置と、複数の噴射装置を制御する制御装置とを備える。制御装置は、複数の吸気通路のうちのいずれかの吸気通路に噴射する気体燃料の噴射量に対して、噴射した気体燃料が他の吸気通路に回り込むことにより過不足する燃料量分を補正する。
【0007】
このようにすると、気体燃料が噴射装置から噴射されるときに一部の気体燃料が他の吸気通路に回り込むことによって過不足する燃料量分を補正することにより、過渡運転時においても噴射量の過不足を抑制して空燃比のずれを抑制することができる。
【0008】
ある実施の形態においては、制御装置は、吸気行程となる第1気筒において要求される第1噴射量と、第1噴射量と第1気筒よりも前の直近の吸気行程となる第2気筒において要求される第2噴射量との差分との相関関係を用いて他の吸気通路に回り込むことにより過不足する燃料量分に相当する補正値を算出する。
【0009】
このようにすると、第1噴射量と差分との相関関係を用いて補正値を算出することによって気体燃料が他の吸気通路に回り込むことによって生じる燃料量の過不足を精度高く補正することができる。これにより、過渡運転時においても空燃比のずれを抑制することができる。
【0010】
さらにある実施の形態においては、制御装置は、各気筒の吸気行程に同期噴射を行なう際に、目標空燃比になるように噴射量の基本値を算出し、前回の基本値と今回の基本値との噴射量差分を算出し、今回の基本値と噴射量差分とに基づいて補正値を算出し、今回の基本値を補正値によって補正し、今回の同期噴射を行なう。
【0011】
このようにすると、過渡運転時においても噴射量の補正値を算出することによって空燃比のずれを抑制することができる。
【0012】
さらにある実施の形態においては、制御装置は、各気筒の吸気行程に同期噴射を行なう際に、スロットル開度に基づいて吸気通路内の吸気管圧力の変動を先読みし、吸気管圧力の予測値を算出し、前回の予測値と今回の予測値との圧力差分を算出し、今回の予測値と圧力差分とに基づいて圧力補正値を算出し、今回の予測値を圧力補正値によって補正し、補正後の予測値に基づいて噴射量を算出し、今回の同期噴射を行なう。
【0013】
このようにすると、過渡運転時においても予測値の補正値を算出することによって空燃比のずれを抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によると、気体燃料の噴射量を適切に補正するエンジンシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施の形態に係るエンジンシステムの概略構成の一例を示す図である。
【
図2】エンジンシステムの運転状態が過渡状態である場合の噴射量の設定方法の一例を説明するための図である。
【
図3】定常運転時の気体燃料の他の気筒への回り込みの一例を説明するための図である。
【
図4】加速運転時の気体燃料の他の気筒への回り込みの一例を説明するための図である。
【
図5】急加速運転時の気体燃料の他の気筒への回り込みの一例を説明するための図である。
【
図6】関数f(n)を設定する処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】関数f(n)を設定する動作の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号が付されている。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0017】
図1は、本実施の形態に係るエンジンシステム1の概略構成の一例を示す図である。
図1に示すように、エンジンシステム1は、エンジン本体2と、インテークマニホールド(以下、インマニと記載する)4と、吸気管6と、スロットルバルブ20と、制御装置100とを備える。このエンジンシステム1は、たとえば、車両等の移動体に搭載され、気体燃料を用いて動作する内燃機関によって構成される。なお、本実施の形態において、気体燃料は、たとえば、水素である場合を一例として説明する。
【0018】
エンジン本体2には、たとえば、シリンダブロックとシリンダヘッドとによって構成される複数の気筒が形成される。本実施の形態において、エンジン本体2には、たとえば、4箇所に中空円筒形状の気筒21,22,23,24が設けられる。各気筒21,22,23,24には、ピストン(図示せず)が各気筒内を開口方向(
図1の紙面手前-奥方向)に沿って摺動可能に設けられる。各ピストンには、各ピストンに対応するピストンロッド(図示せず)の一方端が連結される。各ピストンロッドの他方端は、クランクシャフト(図示せず)に連結され、各気筒においてクランク機構が構成される。各気筒のピストンが気筒内で摺動すると、クランクシャフトが回転する。本実施の形態において、気筒21を「#1」の気筒とし、気筒22を「#2」の気筒とし、気筒23を「#3」の気筒とし、気筒24を「#4」の気筒として説明する。
【0019】
エンジン本体2は、吸気ポート31,32,33,34をさらに含む。吸気ポート31,32,33,34の一方端は、気筒21,22,23,24の頂部にそれぞれ接続される。吸気ポート31,32,33,34と気筒21,22,23,24との間にはそれぞれ吸気バルブ25,26,27,28が設けられる。たとえば、吸気バルブ25が閉じる場合には、吸気ポート31と気筒21との間が遮断された遮断状態になり、吸気バルブ25が開く場合には、吸気ポート31と気筒21との間が連通する連通状態になる。吸気バルブ26,27,28も吸気バルブ25と同様の構造および機能を有しており、その詳細な説明は繰り返さない。
【0020】
また、気筒21,22,23,24の頂部の各々には、複数の点火プラグ(図示せず)が設けられる。複数の点火プラグは、制御装置100からの制御信号応じて予め定められた点火順序に従って点火動作を行なう。制御装置100は、たとえば、気筒21,22,23,24のうちの圧縮行程後の気筒の点火プラグの点火動作を行なう。制御装置100は、たとえば、気筒21(#1)、気筒23(#3)、気筒24(#4)、気筒22(#2)の順序で点火動作を行なう。上述の点火順序は、一例であり、特にこの順序に限定されるものではない。
【0021】
さらに、気筒21,22,23,24の頂部の各々には、図示しない複数の排気ポートがそれぞれ接続される。気筒21,22,23,24と複数の排気ポートとの間にはそれぞれ排気バルブ35,36,37,38が設けられる。たとえば、排気バルブ35が閉じる場合には、排気ポートと気筒21との間が遮断状態になり、排気バルブ35が開く場合には、排気ポートと気筒21との間が連通状態になる。排気バルブ36,37,38も吸気バルブ25と同様の構造および機能を有しており、その詳細な説明は繰り返さない。
【0022】
なお、複数の排気ポートは、エキゾーストマニホールド(図示せず)を経由して排気管の一方端(図示せず)に接続される。排気管の他方端には、排気を浄化する排気浄化装置やマフラー等の消音器(いずれも図示せず)が接続される。
【0023】
インマニ4は、分岐通路4a,4b,4c,4dと、サージタンク4eとを含む。分岐通路4a,4b,4c,4dの各々の一方端は、サージタンク4eに接続される。分岐通路4a,4b,4c,4dの各々の他方端は、吸気ポート31,32,33,34の他方端にそれぞれ接続される。サージタンク4eには、吸気管6の一方端が接続される。吸気管6には、スロットルバルブ20が設けられる。スロットルバルブ20は、制御装置100からの制御信号に応じて吸気管6を流通する吸気の流量を調整可能に構成される。インマニ4と吸気管6と吸気ポート31,32,33,34とによって「吸気通路」が構成される。
【0024】
分岐通路4a,4b,4c,4dの各々には、噴射装置15,16,17,18がそれぞれ設けられる。なお、噴射装置15,16,17,18は、吸気ポート31,32,33,34にそれぞれ設けられるようにしてもよいし、気筒21,22,23,24の頂部周辺に設けられ、直接筒内に気体燃料が噴射されるように構成されてもよい。
【0025】
噴射装置15,16,17,18は、制御装置100からの制御信号に応じて分岐通路4a,4b,4c,4dにそれぞれ気体燃料を噴射する。制御装置100は、気筒21,22,23,24のうちの吸気行程中の気筒において要求に従った噴射量の気体燃料を噴射する(すなわち、同期噴射を実施する)。制御装置100は、たとえば、噴射装置からの気体燃料の噴射時間を調整することによって分岐通路に噴射される噴射量を制御する。すなわち、制御装置100は、エンジンシステム1の状態に応じて設定された噴射時間だけ噴射を行なうように噴射装置15,16,17,18を制御する。
【0026】
制御装置100には、吸気圧センサ102と、クランク角度センサ104と、吸入空気量センサ106とが接続される。吸気圧センサ102は、インマニ4内の吸気管圧力を検出し、検出した吸気管圧力を示す信号を制御装置100に送信する。クランク角度センサ104は、クランクシャフトの回転角度(以下、クランク角度と記載する)を検出し、検出したクランク角度を示す信号を制御装置100に送信する。さらに、吸入空気量センサ106は、吸気管6を流通する吸気の流量(以下、吸入空気量と記載する)を検出し、検出した吸入空気量を示す信号を制御装置100に送信する。
【0027】
制御装置100は、各種処理を行なうCPU(Central Processing Unit)と、プログラムおよびデータを記憶するROM(Read Only Memory)およびCPUの処理結果等を記憶するRAM(Random Access Memory)等を含むメモリ(いずれも図示せず)とを含む。
【0028】
制御装置100は、各種センサ(たとえば、上述した吸気圧センサ102、クランク角度センサ104または吸入空気量センサ106など)からの信号、ならびにメモリに格納されたマップおよびプログラムに基づいて、エンジンシステム1が所望の運転状態になるように各種機器(たとえば、噴射装置15,16,17,18やスロットルバルブ20など)を制御する。なお、制御装置100が実行する各種処理については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)により処理することも可能である。
【0029】
以上のような構成を有するエンジンシステム1が運転状態である場合には、気筒21,22,23,24の各々において、吸気行程と圧縮行程と膨張行程と排気行程とが行なわれる。これらの行程は、気筒21,22,23,24において予め定められたクランク角度だけずれたタイミングで行なわれる。
【0030】
たとえば、気筒21の吸気行程に対応するクランク角度になると、図示しないカム機構の動作によって気筒21の吸気バルブ25が開き、排気バルブ35が閉じた状態になる。このとき、気筒21内のピストンが下死点に向けて摺動することで気筒内が負圧になると、吸気と噴射装置15から噴射された気体燃料とが気筒21内に導入される。
【0031】
ピストンが下死点付近に対応するクランク角度、すなわち、圧縮行程に対応するクランク角度になると、カム機構の動作によって吸気バルブ25と排気バルブ35の各々が閉じた状態になる。このとき、ピストンが上死点に向けて摺動することで気筒21内の混合気が圧縮される。
【0032】
ピストンが上死点付近に対応するクランク角度、すなわち、膨張行程(燃焼行程)に対応するクランク角度になると、点火プラグの点火動作が行なわれる。点火プラグの点火動作によって気筒21内の混合気が燃焼し、生じた燃焼圧力によってピストンが押し下げられ、クランク機構を介してクランクシャフトを回転させる。
【0033】
ピストンが下死点付近に対応するクランク角度、すなわち、排気行程に対応するクランク角度になると、カム機構の動作によって吸気バルブ25が閉じ、排気バルブ35が開いた状態になる。このとき、ピストンが上死点に向けて摺動することで気筒21内の圧力が上昇し、気筒21内の気体が排気ポートに排出される。
【0034】
上述のような吸気行程と圧縮行程と膨張行程と排気行程とによって構成される一連のサイクルが気筒21(#1)、気筒23(#3)、気筒24(#4)、気筒22(#2)の順序で予め定められたクランク角度だけずれたタイミングで行なわれる。なお、その他の気筒22,23,24における各行程の動作は気筒21における各行程の動作と同様であるため、その詳細な説明は繰り返さない。
【0035】
以上のような各行程を経てエンジンシステム1が動作する場合、特に吸気行程に噴射装置から各分岐通路に対して適切な噴射量の気体燃料が供給されることが求められる。適切な噴射量は、たとえば、運転者や制御装置100からの要求出力を満たし、かつ、空燃比を目標となる空燃比(たとえば、ストイキに対応する空燃比)にするための気体燃料の量に対応する。
【0036】
たとえば、エンジンシステム1の運転状態が定常状態(要求出力または負荷が一定の状態)である場合には、制御装置100は、エンジン回転数と吸気管圧力と噴射時間とのマップ等を用いて噴射時間(噴射量)を設定する。制御装置100は、たとえば、クランク角度センサ104の検出結果を用いて所定時間当たりのクランク角度の変化速度を取得し、取得された所定時間当たりのクランク角度の変化速度からエンジン回転数を算出する。エンジン回転数と吸気管圧力と噴射時間とのマップ等は、予め実験等によってエンジン回転数と吸気管圧力とによって特定される運転状態において要求出力および空燃比を満たす噴射時間が適合される。
【0037】
一方、エンジンシステム1の運転状態が過渡状態(要求出力が変化する状態)である場合には、上述のようなマップ等を用いても要求出力(より具体的には吸気管圧力)が変化していくため、適切な噴射量の供給に遅れが生じる場合がある。そのため、たとえば、スロットルバルブの開度(以下、スロットル開度と記載する)の変化等から吸気管圧力の予測値を算出し、算出された吸気管圧力の予測値とエンジン回転数とから噴射時間を設定することが考えられる。
【0038】
図2は、エンジンシステム1の運転状態が過渡状態である場合の噴射量の設定方法の一例を説明するための図である。
図2の横軸は、時間を示す。
図2の縦軸は、スロットル開度と吸気管圧力と空燃比(A/F)とを示す。
図2のLN1(実線)は、スロットル開度の変化を示す。
図2のLN2(実線)は、吸気管圧力の実測値(以下、実吸気管圧力と記載する)の変化を示す。
図2のLN3(破線)は、吸気管圧力の予測値の変化を示す。
図2のLN4(実線)は、実吸気管圧力に基づいて設定される噴射量による空燃比の変化を示す。
図2のLN5(破線)は、吸気管圧力の予測値に基づいて設定される噴射量による空燃比の変化を示す。
【0039】
図2のLN1に示すように、時間T(0)にてスロットル開度が増加するように変化する場合には、
図2のLN2に示すように、実吸気管圧力は、スロットル開度の増加に遅れて増加していくこととなる。そのため、実吸気管圧力に対応した噴射量が設定される場合には、気体燃料が噴射される際には、噴射量が設定されたときの実吸気管圧力からさらに増加した吸気管圧力に変化しているため、適切な噴射量に対して不足する傾向にある。その結果、
図2のLN4に示すように、空燃比がリーン側に大きく変化することとなる。
【0040】
このような問題に対して、スロットル開度の変化から算出される吸気管圧力の予測値を用いて噴射量を設定することが考えられる。たとえば、
図2のLN3に示すように、現在の時点から予め定められた時間(先読み時間)後の吸気管圧力の予測値を算出する。たとえば、時間T(1)におけるスロットル開度やエンジン回転数等を用いて、時間T(1)から予め定められた時間が経過した後の時間T(2)における吸気管圧力の予測値を算出する。そして、算出された予測値を用いて時間T(1)における噴射量を設定することによって、気体燃料が噴射される際には予測値に対応した適切な噴射量の気体燃料を分岐通路に供給することができる。そのため、時間T(2)において噴射量が不足することを抑制できる。その結果、
図2のLN5に示すように、
図2のLN4に示す空燃比の変化と比較して空燃比のリーン側への変化量を抑制することができる。
【0041】
しかしながら、燃料として気体燃料が用いられる場合には、液体燃料を噴射する場合と異なり、燃料の体積が大きく噴射した燃料の全てが気筒内に導入されない場合がある。具体的には、
図1に示すように、分岐通路4bに噴射された気体燃料の一部が他の分岐通路(たとえば、分岐通路4a)に回り込むことによって噴射した気体燃料の全てが対象の気筒内に導入されない場合がある。
【0042】
たとえば、噴射された気体燃料の一部が次に吸気行程となる気筒に全て回り込む場合を想定する。
図3は、定常運転時の気体燃料の他の気筒への回り込みの一例を説明するための図である。
図3のLN6は、運転状態に応じた適切な噴射量の変化を示す。
図3に示すように、定常運転時においては、運転状態に応じた適切な噴射量が一定の状態になるため、各気筒に実際に供給される気体燃料の噴射量についても一定の状態になる。
【0043】
このとき、
図3の(a-1)に示すように、気筒21(#1)に向けて噴射される気体燃料の一部が次に吸気行程となる気筒23(#3)に回り込む。この場合、
図3の(a-2)に示すように、気筒23(#3)に向けて噴射される燃料の一部がさらに次の吸気行程となる気筒24(#4)に回り込むとともに、前の吸気行程となる気筒21(#1)から同程度の量の気体燃料が回り込んでくるため、結果的に運転状態に応じた気体燃料の燃料量が気筒23に供給されることとなる。
図3の(a-3)と
図3の(a-4)と
図3の(a-5)と
図3の(a-6)とについても同様に一部が次の吸気行程となる気筒に回り込んでも同程度の量の気体燃料が前の吸気行程となる気筒から回り込んでくる。そのため、結果的に運転状態に対応した気体燃料の燃料量が各気筒に供給されることとなるため、空燃比として目標となる空燃比を維持することが可能となる。
【0044】
一方、過渡運転時においては、気筒毎に適切な噴射量が変化するため、前の吸気行程の気筒から気体燃料が回り込む場合に適切な噴射量に対して気筒内に導入される燃料量に過不足が生じる場合がある。
【0045】
たとえば、加速等の過渡運転時においては、適切な噴射量に対して気体燃料の回り込みにより気筒内に導入される燃料量に不足が生じる場合がある。
図4は、加速運転時の気体燃料の他の気筒への回り込みの一例を説明するための図である。
図4のLN7は、運転状態に応じた適切な噴射量の変化を示す。
図4に示すように、加速中の過渡運転時においては、吸気行程となる気筒の順序に従って各気筒において適切な噴射量が増加していく状態になる。
【0046】
この場合に、たとえば、
図4の(b-0)および(b-1)に示すように、気筒21(#1)に対して気筒22からの気体燃料の回り込み分が導入される場合を想定する。このとき、気筒21に向けて噴射された燃料量のうちの一部が次の吸気行程となる気筒23(#3)に回り込む。そして、気筒21(#1)には、前の吸気行程となる気筒22(#3)から回り込んだ燃料が導入される。
【0047】
次の吸気行程となる気筒23(#3)においては、要求される出力の増加によって気筒21(#1)に噴射された気体燃料の量よりも大きい量の燃料が噴射されることになる。しかしながら、吸気バルブ27から気筒23(#3)内に導入可能な燃料の量には上限があるため、その上限を超えた量の気体燃料が次の吸気行程の気筒24(#4)に回り込む。一方、気筒23(#3)には、気筒21(#1)から回り込んだ燃料が導入される。その結果、
図4の(b-2)の破線四角枠に示す分だけ気筒23(#3)に導入される燃料が不足する。その結果、空燃比としては、目標となる空燃比よりもリーン側の空燃比になる。
【0048】
同様に、次の吸気行程となる気筒24(#4)においては、要求される出力のさらなる増加によって気筒23(#3)に噴射された気体燃料の量よりも大きい量の燃料が噴射されることになる。しかしながら、上述のとおり吸気バルブ28から気筒24(#4)内に導入可能な燃料の量には上限があるため、その上限を超えた量の気体燃料が次の吸気行程の気筒22(#2)に回り込む。一方、気筒24(#4)には、気筒23(#3)から回り込んだ燃料が導入される。その結果、
図4の(b-3)の破線四角枠に示す分だけ気筒24(#4)に導入される燃料が不足する。その結果、空燃比としては、目標となる空燃比よりもリーン側の空燃比になる。
【0049】
なお、
図4の(b-4)および(b-5)についても同様に上限を超えた一部の気体燃料が次の吸気行程の気筒に回り込む場合に、前の吸気行程の気筒から回り込んできた分よりも多くの量の気体燃料が次の吸気行程の気筒に回り込むため、今回の吸気行程の気筒に導入される気体燃料の量が不足するため、空燃比としては、目標となる空燃比よりもリーン側の空燃比になる。
【0050】
また、
図4の(b-6)については、定常運転時と同様に運転状態に応じた適切な噴射量が前の吸気行程の気筒における噴射量と同様の状態になるため、次の吸気行程の気筒に回り込む気体燃料の量と前の吸気行程の気筒から回り込む気体燃料の量とが同程度になるため、気体燃料の不足が解消されることなる。このように、加速時等の過渡運転時には、要求出力の増加によって多くの気体燃料が次の吸気行程の気筒に回り込むことによって今回の吸気行程の気筒における気体燃料が不足するため、空燃比としては、目標となる空燃比よりもリーン側の空燃比になる。
【0051】
なお、減速等の過渡運転時においては、適切な噴射量に対して気筒内に導入される燃料量が過剰になる場合がある。これは、時間の経過とともに要求出力が低下し、適切な噴射量が低下していくと、前の吸気行程の気筒から回り込む燃料量が次の吸気行程の気筒に回り込む燃料量よりも多くなるためである。その結果、空燃比としては、目標となる空燃比よりもリッチ側の空燃比になる。
【0052】
このように、過渡運転時において次の吸気行程の気筒への気体燃料の回り込みが生じると、空燃比が目標とする空燃比(たとえば、ストイキに対応する空燃比)からずれて不安定になる可能性がある。
【0053】
そこで、本実施の形態において、制御装置100は、複数の分岐通路4a,4b,4c,4dのうちのいずれかの分岐通路に噴射する気体燃料の噴射量に対して、噴射した気体燃料が他の分岐通路に回り込むことにより過不足する燃料量分を補正するものとする。
【0054】
このようにすると、過渡運転時においても噴射量の過不足を抑制して空燃比のずれを抑制することができる。
【0055】
以下に、具体的な補正方法について詳細に説明する。過渡運転時に各気筒において不足する燃料量は、
図4の破線四角枠に示したように、今回の吸気行程の対する気体燃料の噴射量(以下、第1噴射量とも記載する)と、前の吸気行程の気筒に対する気体燃料の噴射量(以下、第2噴射量とも記載する)との差分(以下、Δ噴射量とも記載する)と相関があると考えられる。そして、過渡運転時に各気筒に不足する燃料量は、さらに第1噴射量とにおいても相関があると考えられる。
【0056】
図5は、急加速運転時の気体燃料の多の気筒への回り込みの一例を説明するための図である。
図5のLN8は、
図4で示した加速運転時よりもさらに加速要求度が大きい急加速運転時の運転状態に応じた適切な噴射量の変化を示す。
【0057】
急加速運転時においては、今回の吸気行程となる気筒に噴射される気体燃料は、次の吸気行程となる気筒だけでなく、さらに次の吸気行程となる気筒にも回り込むこととなる。
【0058】
たとえば、
図5の(c-0)および(c-1)に示す気体燃料の回り込みについては、
図4の(b-0)および(b-1)に示す気体燃料の回り込みと同様であるため、その詳細な説明は繰り返さない。
【0059】
次の吸気行程となる気筒23(#3)においては、要求される出力の増加によって気筒21(#1)に噴射された気体燃料の量よりも大きい量の燃料が噴射されることになる。しかしながら、吸気バルブ27から気筒23(#3)内に導入可能な燃料の量には上限があるため、その上限を超えた量の気体燃料が次の吸気行程の気筒24(#4)に回り込む。一方、気筒23(#3)には、気筒21(#1)から回り込んだ燃料が導入される。その結果、
図5の(c-2)の破線四角枠に示す分だけ気筒23(#3)に導入される燃料が不足する。
【0060】
さらに次の吸気行程となる気筒24(#4)においては、要求される出力のさらなる増加によって気筒23(#1)に噴射された気体燃料の量よりも大きい量の燃料が噴射されることになる。そして、導入可能な燃料量の上限を超えた量の気体燃料が次の吸気行程の気筒22(#2)とさらにその次の吸気行程の気筒21(#1)に回り込む。一方、気筒24(#4)には、気筒23(#3)から回り込んだ燃料が導入される。その結果、
図5の(c-3)の破線四角枠に示す分だけ気筒24(#4)に導入される燃料が不足する。
【0061】
さらに次の吸気行程となる気筒22(#2)においては、気筒22(#2)に向けて噴射された気体燃料のうちの導入可能な燃料量の上限を超えた量の気体燃料が次の吸気行程の気筒21(#1)とさらにその次の吸気行程の気筒23(#3)に回り込む。一方、気筒22(#2)には、気筒24(#4)から回り込んだ燃料が導入される。その結果、
図5の(c-4)の破線四角枠に示す分だけ気筒22(#2)に導入される燃料が不足する。
【0062】
さらに次の吸気行程となる気筒21(#1)においては、気筒21(#1)に向けて噴射された気体燃料のうちの導入可能な燃料量の上限を超えた量の気体燃料が次の吸気行程の気筒23(#3)とさらにその次の吸気行程の気筒24(#4)に回り込む。一方、気筒21(#1)には、気筒22(#22)から回り込んだ燃料と気筒24(#4)から回り込んだ燃料とが導入される。その結果、
図5の(c-5)の破線四角枠に示す分だけ気筒21に導入される燃料が不足する。
【0063】
このように、過渡運転時においては、急加速時などの噴射量がより大きい場合には、次の吸気行程における気筒以外にも気体燃料が回り込む可能性があることから気体燃料の回り込み量は、上述のΔ噴射量に加えて、今回の吸気行程の気筒に対する気体燃料の噴射量(第1噴射量)とも相関していると考えられる。
【0064】
そのため、本実施の形態においては、制御装置100は、第1噴射量とΔ噴射量との相関関係を用いて他の気筒に回り込むことにより過不足する燃料量分に相当する補正値を算出するものとする。
【0065】
制御装置100は、たとえば、第1噴射量とΔ噴射量とをパラメータとした関数f(第1噴射量、Δ噴射量)を用いて過不足する燃料分を算出し、算出された過不足する燃料分を補正値C(n)として設定するものとする。以下の説明において第1噴射量をTau(n)とし、第2噴射量をTau(n-1)とし、Δ噴射量をΔTau(n)(=Tau(n)-Tau(n-1))とし、制御装置100は、C(n)=f(Tau(n)、ΔTau(n))の式を用いて補正値C(n)を算出するものとする。関数f(n)は、たとえば、予め設定されたエンジン回転数および吸気管圧力について複数の運転条件を設定し、設定された複数の運転条件毎に空燃比を目標となる空燃比を維持するようにエンジンシステム1を運転させたときに取得されるデータを用いて設定される。
【0066】
具体的な関数f(n)の設定方法としては、たとえば、上記した複数の運転条件に従って実験計画法により取得されたデータに対して応答曲面法を用いたモデル化(関数化)する方法を用いることができる。以下の説明においては、関数f(n)をTau(n)とΔTau(n)とをパラメータとする1次式で表した場合の関数f(n)の設定方法を一例として説明する。
【0067】
たとえば、関数f(n)をTau(n)とΔTau(n)とをパラメータとする1次式とした場合には、関数f(n)=a×Tau(n)+b×ΔTau(n)+c(定数)の式によって関数f(n)を表すことができる。そして、係数a,bおよび定数cを上述のような実験によって取得されるデータを用いて設定することによって関数fを設定することが可能となる。また、応答曲面法としては、公知の技術が用いられればよく、その詳細な説明は行なわないが、たとえば、最小二乗法、補間法あるいは機械学習等のAI(Artificial Intelligence)等を利用し複数の離散データから近似式を算出する方法を用いてモデル化を行なうことができる。
【0068】
また、モデル化して得られた関数f(n)についてR二乗などの各種相関係数を算出し、算出された相関係数を用いて関数f(n)とそのパラメータとから算出される補正値C(n)の適性を検証することができる。たとえば、取得されたデータと関数f(n)とパラメータとから算出されたデータとの相関係数が所定の範囲である場合には、予め設定された複数の運転条件以外の運転条件においても関数f(n)とそのパラメータとから算出される補正値C(n)を用いた噴射量の補正が可能となり、制御装置100に対して設定された関数f(n)を用いて補正値C(n)を算出する処理の実装が可能となる。なお、本実施の形態においては、関数f(n)を1次式で示す場合を一例として説明するが、2次式などの高次式で示すようにしてもよい。
【0069】
以下、
図6を参照して、関数f(n)を設定する処理の一例について説明する。
図6は、関数f(n)を設定する処理の一例を示すフローチャートである。これらの処理において算出された結果や条件等についての情報は、パーソナルコンピュータ等の記憶装置に記憶される。また、これらの処理の結果の演算には、パーソナルコンピュータ等のCPUを用いて行なわれる。
【0070】
ステップ(以下、ステップをSと記載する)100にて、複数の運転条件が設定される。複数の運転条件としては、たとえば、エンジン回転数の条件と、加減速の条件とを含む。エンジン回転数の条件は、実験時に維持されるエンジン回転数の条件である。エンジン回転数の条件は、たとえば、複数の予め定められた回転数(たとえば、1500rpm、2000rpmあるいは2500rpmなど)のうちのいずれかの回転数を含む。加減速の条件は、たとえば、予め定められた期間においてアクセル開度をどのように変化させるかを示す条件を含む。加減速の条件は、たとえば、アクセル開度20%からアクセル開度45%に変化させるという条件、アクセル開度20%からアクセル開度100%(アクセル全開)まで変化させるという条件、アクセル開度45%からアクセル開度100%(アクセル全開)まで変化させるという条件とのうちのいずれかを含む。設定される条件の数としては、少なくとも後述する実験によって得られるパラメータの実測データからモデル化が可能な数が設定される。S100においては、予め設定された複数の運転条件のうちの実験データが得られていないいずれかの条件が設定される。その後処理はS102に移される。
【0071】
S102にて、設定された運転条件にしたがってエンジンシステム1の運転が複数回行なわれるとともに各種実験データが取得される。エンジンシステム1の運転中においては、たとえば、空燃比が目標となる空燃比で維持されるように吸気管圧力の予測値と噴射量とが調整される。空燃比は、たとえば、図示しない空燃比センサ等を用いて取得される。たとえば、制御装置100が、空燃比センサの検出結果を用いて空燃比が目標となる空燃比で維持されるように吸気管圧力の予測値と噴射量とを調整するようにしてもよい。各種データは、上述したように、関数fを設定するためのデータ(すなわち、係数a,bおよび定数cを設定するためのデータ)であって、調整後の第1噴射量Tau(n)と、Δ噴射量ΔTau(n)とのデータ(すなわち、調整後の第1噴射量Tau(n)と第2噴射量Tau(n-1)とのデータ)とのデータと、実吸気管圧力と吸気管圧力の予測値とのデータを含む。
【0072】
S104にて、取得された各種データを用いて設定された運転条件に従ってエンジンシステム1を運転させる場合に、空燃比を目標となる空燃比で維持するために噴射量と吸気管圧力とから噴射量の補正値と吸気管圧力の予測値の補正値とを算出する。たとえば、調整前の噴射量と補正後の噴射量との差分を用いて噴射量の補正値が算出される。同様に、調整前の吸気管圧力の予測値と補正後の吸気管圧力の予測値との差分を用いて吸気管圧力の予測値の補正値が算出される。
【0073】
S106にて、設定された運転条件に対応づけて算出された噴射量の補正値と先読み吸気管圧力の補正値とが記憶される。
【0074】
S108にて、全ての運転条件についての各種補正値が算出されたか否かが判定される。予め設定された運転条件に対応する各種補正値が全て算出されている場合に全ての運転条件についての補正値が算出されたと判定される。全ての運転条件についての補正値が算出されたと判定される場合(S108にてYES)、処理はS110に移される。なお、全ての運転条件についての補正値が算出されていないと判定される場合(S108にてNO)、処理はS100に戻される。
【0075】
S110にて、算出された補正値を用いて上述の補正値C(n)を算出するための関数f(n)が算出される。すなわち、関数f(n)を構成する上述の1次式の係数a,bおよび定数cが取得されたデータから算出される。係数a,bおよび定数cの算出方法については、上述したとおりであるため、その詳細な説明は繰り返さない。
【0076】
以上のような構造およびフローチャートに基づく本実施の形態において、補正値C(n)を算出するための関数f(n)が設定される動作の一例を
図7を参照しつつ説明する。
図7は、関数f(n)を設定する動作の一例を説明するための図である。
図7には、加速時の運転状態の一例が示される。
図7の縦軸は、スロットル開度と、燃料噴射量と、吸気管圧力と、空燃比(A/F)とを示す。
図7の横軸は、時間を示す。
図7のLN9は、スロットル開度の変化を示す。
図7のLN10(太実線)は、補正後の噴射量の変化を示す。
図7のLN11(細実線)は、補正前の噴射量の変化を示す。
図7のLN12(一点鎖線)は、補正後の吸気管圧力の予測値の変化を示す。
図7のLN13(破線)は、補正前の吸気管圧力の予測値の変化を示す。
図7のLN14(実線)は、実吸気管圧力の変化を示す。
図7のLN15(実線)は、実吸気管圧力に基づいて噴射量が設定される場合の空燃比の変化を示す。
図7のLN16(破線)は、吸気管圧力の予測値に基づいて噴射量が設定される場合の空燃比の変化を示す。
図7のLN17(一点鎖線)は、補正後の吸気管圧力の予測値に基づいて噴射量が設定される場合の空燃比の変化を示す。
【0077】
たとえば、複数の運転条件のうちのいずれかの運転条件が設定されると(S100)、設定された運転条件にしたがってエンジンシステム1が運転される。この場合に、たとえば、予め定められたエンジン回転数であるときに
図7のLN9に示すようにスロットル開度が変化されることによって実吸気管圧力が
図7のLN14に示すように変化されるという運転条件が設定されるものとする。このとき、実吸気管圧力に従って噴射量が制御される場合には、空燃比が
図7のLN15に示すように変化する。これに対して予め定められた時間後の吸気管圧力の予測値は、
図7のLN13に示すように、
図7のLN14よりも早いタイミングで変化が開始するように変化する。そのため、吸気管圧力の予測値に従って噴射量(
図7のLN11)が制御される場合には、空燃比は、
図7のLN16に示すように
図7のLN15よりもリーン側への変化が抑制される。
【0078】
このような運転条件で繰り返し運転が行なわれるなどして、
図7のLN17に示すように空燃比を一定にさせるために噴射量の増量が行なわれるとともに、吸気管圧力の予測値の増量が行なわれる。たとえば、空燃比の目標となる空燃比との差の大きさがしきい値以下になったり、あるいは、空燃比の予め定められた期間の平均値と目標となる空燃比との差の大きさがしきい値以下となったりするように噴射量と、吸気管圧力の予測値とが適合され、適合された噴射量が
図7のLN10に示すように補正後の噴射量として設定され、適合された吸気管圧力の予測値が
図7のLN12に示すように補正後の吸気管圧力の予測値として設定される(S104)。補正前後の噴射量差が噴射量の補正値として設定され、補正前後の吸気管圧力の予測値の差が吸気管圧力の予測値の補正値として設定される。そして、全ての運転条件におけるデータが取得された場合に(S108にてYES)、取得されたデータを用いて関数f(n)が設定される(S110)。すなわち、取得されたデータを用いて第1噴射量とΔ噴射量とをパラメータとする1次式の関数の係数a,bおよび定数cが算出される。算出された関数f(n)については、上述したとおり、実際のデータとの比較検証が行なわれ、相関係数が所定の範囲内である場合には、制御装置100で補正値C(n)を算出するための関数として実装可能とされる。
【0079】
なお、本実施の形態において、吸気管圧力の予測値の補正値は、運転条件毎に算出され、運転条件と対応づけて制御装置100のメモリに記憶されるものとする。このようにすると、制御装置100は、たとえば、エンジンシステム1の運転時においては、メモリに記憶された補正値を用いて吸気管圧力の予測値を補正し、補正された予測値を用いて噴射量を設定し、設定された噴射量を関数f(n)を用いて算出される補正値C(n)を用いて補正し、補正された噴射量になるように噴射装置を制御する。
【0080】
また、以上の説明は、
図7を用いて加速時等の過渡運転における運転条件において空燃比を目標となる空燃比で維持するように噴射量の補正値と吸気管圧力の予測値の補正値とを算出する場合を一例として説明したが、減速時等の過渡運転における運転条件において噴射量の補正値と吸気管圧力の予測値の補正値とを算出する場合も同様である。そのため、その詳細な説明は繰り返さない。
【0081】
以上のようにして、本実施の形態に係るエンジンシステム1によると、気体燃料が噴射装置から噴射されるときに一部の気体燃料が他の吸気通路に回り込むことによって過不足する燃料量分を補正することにより、過渡運転時においても噴射量の過不足を抑制して空燃比のずれを抑制することができる。したがって、気体燃料の噴射量を適切に補正するエンジンシステムを提供することができる。
【0082】
さらに、他の吸気通路への気体燃料の回り込み量に相当する補正値C(n)が、今回の吸気行程における第1噴射量とΔ噴射量との相関を示す関数f(n)を用いて算出されるので、運転状態が変化する過渡時においても適切に噴射量を補正することができる。
【0083】
さらに、1次式等を用いた関数f(n)を用いて補正値C(n)が算出されるため、制御装置100に実装する場合に計算負荷の増加やメモリの記憶容量の増加等を抑制することができる。
【0084】
以下、変形例について記載する。
上述の実施の形態では、過渡時における補正値C(n)を算出するための1つの関数f(n)を設定する場合を一例として説明したが、たとえば、加速時と減速時とで異なる関数を設定してもよい。このようにすると、加速時と減速時とでそれぞれ精度高く噴射量の補正値を算出することができるため、加速時においても減速時においても過渡時の空燃比を目標となる空燃比で維持することができる。
【0085】
さらに上述の実施の形態では、吸気管圧力の予測値の補正値については、運転条件毎に記憶される場合を一例として説明したが、たとえば、今回の吸気行程における吸気管圧力の予測値と、今回の吸気管圧力の予測値と前回の吸気管圧力の予測値との差分とをパラメータとして吸気管圧力の予測値の補正値を算出するための関数を設定してもよい。関数の設定方法については、上述の1次式によって示される噴射量の補正値を算出するための関数f(n)の係数a,bと定数cとの設定方法と同様であるため、その詳細な説明は繰り返さない。このようにすると、多量のデータをメモリに記憶させる必要がなくなるとともに、制御装置100に実装する場合に計算負荷の増加を抑制することができる。さらに今回の吸気管圧力の予測値と上述の差分との相関関係を用いて補正することにより吸気圧力の予測値を精度高く取得することができる。これにより、過渡運転時においても空燃比のずれを抑制することができる。
【0086】
さらに上述の実施の形態では、噴射量を吸気管圧力の予測値を用いて設定する場合を一例として説明したが、吸気管圧力に代えて吸入空気量や負荷率の予測値を用いて噴射量を設定するようにしてもよい。制御装置100は、吸入空気量センサ106からの検出値とスロットルバルブ20の開度等を用いて吸入空気量(あるいは負荷率)の予測値を算出してもよい。また、この場合、制御装置100は、今回の吸気行程における吸入空気量の予測値と、今回の吸入空気量の予測値と前回の吸入空量の予測値との差分をパラメータとする関数を用いて吸入空気量の予測値の補正値を算出してもよい。関数の設定方法については、上述の1次式によって示される噴射量の補正値を算出するための関数f(n)の係数a,bと定数cとの設定方法と同様であるため、その詳細な説明は繰り返さない。
【0087】
さらに上述の実施の形態では、第1噴射量とΔ噴射量とをパラメータとする関数f(n)を用いて補正値C(n)を算出する場合を一例として説明したが、第1噴射量とΔ噴射量とに加えて噴射時期、噴射対象の気筒およびエンジン回転数のうちの少なくともいずれかをパラメータとする関数f(n)を設定するようにしてもよい。このようにすると、特に各気筒までの吸気管のレイアウトやサージタンクの形状等の影響により同程度の噴射量でも回転数や噴射時期や噴射対象の気筒が異なることで気筒毎の回り込み量にばらつきが生じる場合に、噴射量とΔ噴射量のパラメータを加えて関数を設定することにより精度高く噴射量を補正することができる。
【0088】
なお、関数f(n)を設定した後において、追加したいずれかのパラメータを省略したときに相関係数が変化しない、あるいは、変化量が小である場合には、当該パラメータを省略することができる。このようにすると、制御装置100に実装する場合に計算負荷の増加を抑制することができる。
【0089】
なお、上記した変形例は、その全部または一部を組み合わせて実施してもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0090】
1 エンジンシステム、2 エンジン本体、4 インマニ、4a,4b,4c,4d 分岐通路、4e サージタンク、6 吸気管、15,16,17,18 噴射装置、20 スロットルバルブ、21,22,23,24 気筒、25,26,27,28 吸気バルブ、31,32,33,34 吸気ポート、35,36,37,38 排気バルブ、100 制御装置、102 吸気圧センサ、104 クランク角度センサ、106 吸入空気量センサ。