(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162862
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】レンズの絞り装置
(51)【国際特許分類】
G03B 9/02 20210101AFI20241114BHJP
【FI】
G03B9/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078806
(22)【出願日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】391044915
【氏名又は名称】株式会社コシナ
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 裕章
【テーマコード(参考)】
2H080
【Fターム(参考)】
2H080AA21
2H080AA26
2H080AA42
(57)【要約】 (修正有)
【課題】絞り羽根の枚数を10枚以上に増やしても最小絞り位置において、絞り開口周縁部における絞り羽根同士どうしの重なりの集中を減らし最小絞り開口形状を真円形に近づけたレンズの絞り装置を提供する。
【解決手段】絞り羽根11の絞り開口を形成する内周縁部に、開放絞り位置における絞り開口を形成する第一円弧部11aと、最小絞り位置における絞り開口を形成する第二円弧部11bが所定範囲で形成されており、第一円弧部11aの端点から第二円弧部11bに正接する中間直線部11cより径方向外側に逃げる逃げ縁部11dが各々形成されており、複数の絞り羽根11は最小絞り位置において第二円弧部11bが連なって形成される絞り開口の周辺部における絞り羽根11どうしの重なりの集中を逃げ縁部11dで逃がして隣り合う絞り羽根11どうしのみの重なりを許容している。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ鏡筒に備える絞り調整リングの回動変位により、レンズ鏡筒内に周方向に配置された少なくとも10枚以上の絞り羽根が一端側を回動可能に軸支され、他端側を径方向に変位させて協働して絞り開口の大きさを変化させるレンズの絞り装置であって、
各絞り羽根の絞り開口を形成する内周縁部に、開放絞り位置における絞り開口を形成する第一円弧部と、最小絞り位置における絞り開口を形成する第二円弧部が所定範囲で形成され、前記第一円弧部の端点から前記第二円弧部に正接する中間直線部より径方向外側に逃げる逃げ縁部が各々形成されており、前記複数の絞り羽根は最小絞り位置において前記第二円弧部が連なって形成される絞り開口の周辺部における絞り羽根どうしの重なりの集中を前記逃げ縁部で逃がして隣り合う絞り羽根どうしのみの重なりを許容することを特徴とするレンズの絞り装置。
【請求項2】
開放絞り位置における絞り開口を形成する第一円弧部は、中心角θaが360°を絞り羽根枚数で除した角度以上となるように形成されている請求項1記載のレンズの絞り装置。
【請求項3】
前記最小絞り位置における絞り開口を形成する第二円弧部は、最小絞り径Rで中心角θbとすると、中心角θbは360°を絞り羽根枚数で除した角度に余角を加算した角度に設定されている請求項1記載のレンズの絞り装置。
【請求項4】
前記絞り羽根の逃げ縁部の形状は、前記第二円弧部と正接する中間直線部を含むV字状縁部を介して前記第一円弧部と連結されている請求項1記載のレンズの絞り装置。
【請求項5】
前記絞り羽根の逃げ縁部の形状は、前記第二円弧部の端点から当該第二円弧部より曲率の小さい第三円弧部を介して前記第一円弧部と連結されている請求項1記載のレンズの絞り装置。
【請求項6】
前記絞り羽根の逃げ縁部の形状は、前記第二円弧部と正接する直線縁部と当該第二円弧部より曲率の小さい第三円弧部を介して前記第一円弧部と連結されている請求項1記載のレンズの絞り装置。
【請求項7】
前記絞り羽根の逃げ縁部の形状は、前記第二円弧部の端点から当該第二円弧部より曲率の小さい第三円弧部これに正接する直線縁部を介して前記第一円弧部と連結されている請求項1記載のレンズの絞り装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラ等の撮像装置のレンズ鏡筒に組み込まれるレンズの絞り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラ等の撮像装置のレンズ鏡筒に組み込まれるレンズの絞り装置は、レンズ鏡筒内に光軸を中心として周囲に複数個配置された絞り羽根により絞り開口の周囲を覆って、当該絞り開口を通過する光量を制限するようにしたものである。即ち、複数の絞り羽根を協動させて枢動回転させることにより絞り開口が形成されて当該絞り開口を通過する光量が制限されることになる。
【0003】
ところで、レンズの絞り装置においては、上記絞り羽根の内縁部が協働して形成した開口形状は、真円に近いことが望ましい。一般的に、開口形状を真円形に近づけるためには絞り羽根の枚数を増やすことが有効である。
このとき、
図10に示すように、絞り羽根51として全体形状がL形状の金属製のプレート材が用いられる(特開2020-190612号)。絞り羽根51は、一端51pの近傍に、回動軸52が突設され、他端51qの近傍に、絞り調整リングの回動変位が伝達される係合軸53が突設されている。絞り羽根51は、光軸から離れた径方向外側は円弧状の外周縁部が形成され、光軸に近い径方向内側は、複数の内周縁部から構成される。
【0004】
具体的には、絞り羽根51の一端51pの近傍の内周縁部は、絞り開放位置における開口を形成する第一円弧部51aが所定範囲(中心角θa≧360°/羽根枚数)で形成されている。例えば、絞り羽根51の使用枚数が12枚の場合には、第一内周円弧部51aの中心角θaは30°以上となる。また、最小絞り位置には、半径Rの第二内周円弧部51bが所定範囲(中心角θb≧θa)で形成されている。
【0005】
また、第一円弧部51aと第二円弧部51bとの間は、第一円弧部51の端点から第二円弧部51bに正接する中間直線縁部51cにより接続されている。また、第二円弧部51bから絞り羽根51の他端側51bの近傍までは、先端直線部51dが形成されている。先端直線部51dは、開放位置、最小絞り位置以外における絞り開口を形成する。尚、絞り羽根51の絞り開放位置から最小絞り位置までの回転角θcは、第一円弧部51aの中心角θaより大きくなるように設計されている(θc>θa)。
図11は、絞り羽根51を10枚使用して、最小絞り位置における絞り開口52の形状を示す。絞り開口52の形状は、各絞り羽根51の第二円弧部51bをつなぎ合わせて可及的に真円形に近づけることができる。
【0006】
また、特開2002-357856号に開示されたレンズの絞り装置は、絞り羽根を、最小絞り状態においても絞り羽根が3枚以上重ならない形状に形成すると共に、絞り開口の形成に関与する内縁部を、回動中心に近い根本内縁部、回動中心から遠い先端内縁部、根本内縁部と先端内縁部との間の中間内縁部とによって構成し、根本内縁部を、開放状態と該開放状態から僅かに絞り込んだ状態との間で絞り開口を疑似円形とする形状とすると共に、中間内縁部とは該絞り開口の中心から見て該内縁部の外側に中心が位置する円弧形状によって繋ぎ、先端内縁部を、絞り開口を形成する絞り羽根同士の繋ぎ目で凹部ができないように、かつ、絞り羽根が3枚以上重ならないように、該絞り開口の中心から見て該内縁部の外側に中心が位置する円弧形状によって形成し、中間内縁部を開放状態より僅かに絞り込んだ状態における絞り開口の半径を有する円弧形状によって形成し、絞り開口を開放状態から僅かに絞り込んだ状態においては、開口形状が中間内縁部によって真円形状に形成されるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-190612号
【特許文献2】特開2002-357856号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図11に示す絞り羽根51を10枚使用して、最小絞り位置において絞り開口52の形状を真円形に近づけることができる一方で、
図11の絞り開口52の周囲において円Pで囲まれた領域において、複数の絞り羽根51同士の重なりが発生する。具体的には、
図12(a)に示すように、最小絞り位置で、絞り開口52を形成する絞り羽根51同士が矢印Qに示す絞り開口52の周辺部で最大で4枚以上重なり合う(斜線部参照)。このとき、
図12(b)に示すように最小絞り径に近づくにしたがって絞り羽根51同士の重なり量が多くなり、矢印Qに示す絞り開口52の周辺部で重なっている絞り羽根51同士は厚さ方向には逃げられないため、絞り羽根51同士の摺接に起因する、絞り羽根51の損傷や摩耗等が発生し易くなる。
また、特許文献2のように絞り羽根の使用枚数を減らして一段絞り以内で絞り開口を真円状にする際に絞り羽根同士の重なりは減らせても、多段絞りを行って最小絞り位置で絞り開口形状を真円形に近づけたり、絞り羽根同士の重なりを減らしたりすることについての具体的な開示はない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、絞り羽根の枚数を10枚以上に増やしても最小絞り位置において、絞り開口周縁部における絞り羽根同士どうしの重なりの集中を減らし最小絞り開口形状を真円形に近づけたレンズの絞り装置を提供することにある。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に適用されるレンズの絞り装置は、以下の構成を備える。レンズ鏡筒に備える絞り調整リングの回動変位により、レンズ鏡筒内に周方向に配置された少なくとも10枚以上の絞り羽根が一端側を回動可能に軸支され、他端側を径方向に変位させて協働して絞り開口の大きさを変化させるレンズの絞り装置であって、各絞り羽根の絞り開口を形成する内周縁部に、開放絞り位置における絞り開口を形成する第一円弧部と、最小絞り位置における絞り開口を形成する第二円弧部が所定範囲で形成され、前記第一円弧部の端点から前記第二円弧部に正接する中間直線部より径方向外側に逃げる逃げ縁部が各々形成されており、前記複数の絞り羽根は最小絞り位置において前記第二円弧部が連なって形成される絞り開口の周辺部における絞り羽根どうしの重なりの集中を前記逃げ縁部で逃がして隣り合う絞り羽根どうしのみの重なりを許容することを特徴とする。
【0011】
これにより、絞り調整リングを回動させてレンズ鏡筒内に周方向に配置された少なくとも10枚以上の絞り羽根を開放絞り位置から最小絞り位置に変位させて絞り開口の大きさを変化させると、最小絞り位置において、第二円弧部が連なって真円状の絞り開口を形成する絞り羽根どうしの重なりの集中を絞り開口周縁部に形成された逃げ縁部で逃がして隣り合う絞り羽根どうしの重なりを許容することで、絞り開口近傍における絞り羽根同士の重なり枚数を減らすことができる。具体的には、10枚の絞り羽根を有する絞り装置の場合、最小絞り位置において、絞り開口近傍における絞り羽根どうしの重なり枚数が最大7枚から5枚に減らすことができた。よって、絞り羽根同士の摺接に起因する、絞り羽根の損傷や摩耗等を軽減することができる。
【0012】
開放絞り位置における絞り開口を形成する第一円弧部は、中心角θaが360°を絞り羽根枚数で除した角度以上となるように形成されていると、開放絞り位置における絞り開口形状を第一円弧部どうしをつなぎ合わせた真円状に形成することができる。
【0013】
前記最小絞り位置における絞り開口を形成する第二円弧部は、最小絞り径Rで中心角θbとすると、中心角θbは360°を絞り羽根枚数で除した角度に余角を加算した角度に設定されていると、絞り動作時の羽根同士の引っ掛かりによる隙間の発生を防いで、最小絞り位置における絞り開口形状を第二円弧部どうしをつなぎ合わせた真円状に形成することができる。
【0014】
前記絞り羽根の逃げ縁部の形状は、前記第二円弧部と正接する中間直線部を含むV字状縁部を介して前記第一円弧部と連結されていてもよい。
また、前記絞り羽根の逃げ縁部の形状は、前記第二円弧部の端点から当該第二円弧部より曲率の小さい第三円弧部を介して前記第一円弧部と連結されていてもよい。
これにより、最小絞り位置において、真円状の絞り開口を形成する絞り羽根どうしの重なりの集中を絞り開口周辺部に形成されたV字状縁部若しくは第三円弧部で逃がすことで、絞り開口近傍における絞り羽根同士の重なりを隣り合う絞り羽根のみに抑えることができる。
【0015】
また、前記絞り羽根の逃げ縁部の形状は、前記第二円弧部と正接する直線縁部と当該第二円弧部より曲率の小さい第三円弧部を介して前記第一円弧部と連結されていてもよいし、或いは前記第二円弧部の端点から当該第二円弧部より曲率の小さい第三円弧部これに正接する直線縁部を介して前記第一円弧部と連結されていてもよい。
これにより、最小絞り位置において、真円状の絞り開口を形成する絞り羽根どうしの重なりの集中を絞り開口周辺部に形成された直線縁部及び第三円弧部で逃がすことで、絞り開口近傍における絞り羽根同士の重なりを隣り合う絞り羽根のみに抑えることができる。
【発明の効果】
【0016】
絞り羽根の枚数を10枚以上に増やしても最小絞り位置において、絞り開口周縁部における絞り羽根同士どうしの重なりの集中を減らし最小絞り開口形状を真円形に近づけたレンズの絞り装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】レンズの絞り装置の一例を示す断面図である。
【
図2】
図1のレンズの絞り装置1の要部を示す断面図である。
【
図5】絞り羽根機構が開放位置における正面図である。
【
図6】最小絞り位置における絞り羽根どうしの重なり状態を示す部分説明図である。
【
図7】最小絞り位置における最小絞り開口の絞り形状を示す説明図である。
【
図8】本願発明の絞り羽根と従来の絞り羽根との開放位置、途中絞り位置、最小絞り位置における絞り開口の絞り形状を示す状態説明図である。
【
図11】従来の絞り羽根の最小絞り位置における最小絞り開口の絞り形状を示す説明図である。
【
図12】従来の絞り羽根の最小絞り位置における絞り羽根どうしの重なり状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明に係るレンズの絞り装置1の一実施形態について、添付図面を参照して説明する。
図1のレンズLは、例えば、一眼レフカメラ等のデジタルカメラに用いることができる交換レンズの一部を示す。このレンズLは、固定筒部2aを含むレンズ鏡筒2を備える。固定筒部2aの内部には、レンズ支持枠2bを備え、このレンズ支持枠2bの内周面には複数のレンズ体La,Lb,Lc…が支持されている。また、この種の交換レンズは、通常、マニュアル又はオートのフォーカシング調整機構及びズーミング調整機構を備えるが本実施形態では図示を省略した。
【0019】
図1において、レンズ鏡筒2の外周面上には、絞り調整リング3が回動操作可能に設けられている。この絞り調整リング3はレンズ鏡筒2の内方に配した固定筒部2aに対して前後方向(光軸方向Fc)の変位が規制され、周方向(
図5矢印Ff方向)にのみ回動操作することができる。また、絞り調整リング3と固定筒部2a間にはクリック機構4が設けられている。なお、例示のクリック機構4は、第一クリック機構4aと第二クリック機構4bの組み合わせにより機能する。即ち、通常、クリック機構4は、第一クリック機構4aのみで構成されるが、当該第一クリック機構4aに加え、第二クリック機構4bが更に設けられている。この第二クリック機構4bは、第一クリック機構4aにおけるクリック位置に対してピッチを半ピッチ分だけ異ならせて設けられている。よって、第一クリック機構4aにおける任意の隣接する二つのクリック位置間の中央位置において、第二クリック機構4bにおける任意のクリック位置が生じる。これにより、第一クリック機構4aにおけるクリック数をNcに設定した場合、全体のクリック数は実質的に2×Ncにすることができるとともに、クリック位置の間隔を実質的に1/2にすることができる。
【0020】
この場合、第一クリック機構4aは、固定筒部2aに設けた段差面部2cに、周方向(
図5矢印Ff方向)に沿って所定間隔おきに形成した複数のクリック溝部5…を有する。なお、このクリック溝部5の断面形状はV溝状に形成することができる。他方、この段差面部2cに対面する絞り調整リング3の前端面には、クリック係合部6を設ける。このクリック係合部6は、絞り調整リング3の前端面に形成した断面円形の収容穴部7内に、コイルスプリング8及びこれに連結したクリックボール9が収容されている。これにより、クリックボール9は、圧縮したコイルスプリング8により弾性変位可能に支持され、前方に常時付勢されることにより段差面部2cに圧接し、各クリック溝部5…に係合可能となる第一クリック機構部4aが構成される。また、第二クリック機構4bは、光軸を対称軸に、第一クリック機構部4aに対する180゜反対側の位置に設ける点を除いて第一クリック機構部4aと同様に構成される。
【0021】
図2はレンズの絞り装置1の要部を示す断面図である。
図2に示すように、固定筒部2aの内部には、絞り羽根機構Mを配設するとともに、上述した絞り調整リング3の回動変位を、当該絞り羽根機構Mに伝達する伝達機構部10が配設されている。
【0022】
伝達機構部10は、固定筒部2aの内周面に沿って回動自在に装填した回動伝達筒部10aと、この回動伝達筒部10aに係合する操作プレートリング10bと、絞り調整リング3と回動伝達筒部10a間を連結する伝達ピン部10cを備える。この場合、回動伝達筒部10aの後端(
図2の右端)に係合凹部10dが形成されており、この係合凹部10dに、操作プレートリング10bから前方(
図2の左方)へ突出する係合突片部10eを収容して係止されている。また、回動伝達筒部10aの前端近傍(
図2の左端近傍)の外周面には、伝達ピン部10cの内端を螺着結合し、かつ外端部10fを、絞り調整リング3の内周部に設けた係合凹部10gに収容して係合させる。固定筒部2aには、伝達ピン部10cが貫通し、かつ伝達ピン部10cの変位をガイドするガイド孔部2dが設けられている。
【0023】
他方、固定筒部2aの後端(
図2の右端)には、径方向中心へ突出するリングプレート状の絞り羽根支持部2eが一体に形成されている。そして、この絞り羽根支持部2eの前面部2fに、絞り羽根機構Mが設けられている。この絞り羽根機構Mは、周方向に等間隔に配置された複数(例示は10枚)の絞り羽根11…により構成される。
【0024】
図3及び
図4に、絞り羽根11の具体的形状を示す。
図3は絞り羽根11の側面形状、
図4は絞り羽根1の正面形状をそれぞれ示す。絞り羽根機構Mは、レンズ鏡筒2内に周方向に配置された少なくとも10枚以上の絞り羽根11が一端側を回動可能に軸支され、他端側を径方向に変位させて協働して絞り開口14の大きさを変化させる。
具体的には、
図3に示すように絞り羽根11は、絞り羽根支持部2eへの組み付け時に、一端11p側が固定端側となり、他端11q側が自由端側となる。各絞り羽根部11の一端11p側の近傍に回動軸12が突設されており、他端11q側の近傍に係合軸13が突設されている。回動軸12は、
図2に示す羽根支持部2e(固定筒部2)に設けられた軸孔2gに回動可能に支持されている。
【0025】
図2において、使用者が、絞り調整リング3を絞り方向へ回動操作すれば、この回動変位は係合凹部10gに、伝達ピン部10cの外端部10fが係合(係止)しているため、この伝達ピン部10cを介して回動伝達筒部10aに伝達される。これにより、回動伝達筒部10aは、絞り調整リング3と一体に回動変位する。また、この回動伝達筒部10aの回動変位により、係合凹部10dに係合突片部10eが係合(係止)する操作プレートリング10bも一体に回動変位する。さらに、
図5に示すように、操作プレートリング10bに形成された各係合スリット部10h…には、各絞り羽根11…における自由端側となる他端11q側の係合軸13…が係合しているため、各係合軸13…は操作プレートリング10bの回動変位に追従する。
【0026】
このとき、各絞り羽根11…の固定端側となる一端11p…側における各回動軸12…の位置は固定されているため、各係合軸13…は係合する係合スリット部10h…に沿って変位する。即ち、操作プレートリング10bの回動変位とともに、自由端側となる各絞り羽根11…の他端11q…が固定筒部2aの中心方向へ変位し、絞り調整リング3を、最小絞り位置まで回動操作すれば、各絞り羽根部11…の中間部11mは固定筒部2aの中心近傍まで変位する。これにより、絞り調整リング3が開放絞り位置における最大絞り開口から最小絞り位置における最小絞り開口まで絞り開口14の大きさが変化して絞り調整を行なうことができる。
【0027】
図4に絞り羽根11の一例を示す。各絞り羽根11の内周縁部には、一端11pの近傍において開放絞り位置における絞り開口14を形成する第一円弧部11aと、最小絞り位置における絞り開口14を形成する第二円弧部11bが所定範囲で各々形成されている。第一円弧部11aの端点から第二円弧部11bに正接する中間直線部11cより径方向外側に逃げるV字状の逃げ縁部11dが各々形成されている。開放絞り位置における絞り開口14を形成する第一円弧部11aは、中心角θaが360°を絞り羽根枚数で除した角度以上(本実施例では絞り羽根10枚であるためθa≧36°)となるように形成されている。また、第二円弧部11bから絞り羽根11の他端11qの近傍までは、先端直線部11eが形成されている。先端直線部11eは、開放位置、最小絞り位置以外における絞り開口14を形成する。
【0028】
また、最小絞り位置における絞り開口14を形成する第二円弧部11bは、最小絞り径Rの中心角θbとして、360°を絞り羽根枚数で除した角度に、余角を付加した角度(本実施例では、絞り羽根10枚であるためθb=36°+余角6.58°=42.58°)に設定されている。尚、絞り羽根11の回動動作における引っ掛かりや羽根同士の隙間の発生を防ぐため、中心角θbの大きさは、360°を絞り羽根枚数で除した角度以下になることはない(θb≧θa)。
【0029】
絞り羽根11の逃げ縁部11dの形状は、例えば、第二円弧部11bと正接する直線部を含むV字状の逃げ縁部11dを介して第一円弧部11aと連結されている。このように、絞り開口14を形成する第一円弧部11aと第二円弧部11bとの間に、逃げ縁部11dを形成したことにより、
図6に示すように最小絞り位置において、真円状の絞り開口14を形成する絞り羽根11どうしの重なりの集中を絞り開口14の周辺部に形成された逃げ縁部11dで逃がすことで、絞り開口14の周辺部における絞り羽根11同士の重なりを隣り合う絞り羽根11のみに抑えることができる。逃げ縁部11dの折れ曲がり部分は曲面(R面)状に形成されていてもよい。具体的には、
図7において、10枚の絞り羽根11を有するレンズの絞り装置の場合、第二円弧部11bが連なる最小絞り位置において、絞り開口14近傍における絞り羽根11の重なり枚数が7枚から5枚に減らすことができた。よって、絞り羽根11同士の摺接に起因する、絞り羽根の損傷や摩耗等を生じ難くすることができる。
【0030】
図8(a)~(c)は、新しい絞り羽根11を用いた開放絞り状態から最小絞り状態に至るレンズ開口から見た絞り装置の状態図である。
図8(a)は、絞り羽根11の第一円弧部11aを10枚分つなぎ合わせて開放絞り状態の絞り開口14を形成している。絞り羽根11は第一円弧部11aを等間隔に配置したものをつなぎ合わせて絞り開口14を形成している。絞り開口14の周辺部には、隣り合う羽根同士の重なり領域が発生しているがそれ以上の重なりは生じていない。
【0031】
図8(b)は、絞り調整リング3を回動させて、絞り羽根11の他端11q側を径方向内側に変位させ、絞り開口14が10角形状に形成された中間絞り状態を示す。絞り羽根11は互いに重ね合わさり10角形状の絞り開口14を形成している。このとき、絞り開口14は絞り羽根11の先端直線部11e(
図4参照)をつなぎ合わせて形成されている。絞り開口14の周辺部には、隣り合う絞り羽根11同士の重なり領域が発生しているがそれ以上の重なりは生じていない。
【0032】
図8(c)は、絞り調整リング3を回動させて絞り羽根11の他端11q側を径方向内側に最大変位させ、絞り開口14が真円状に形成された最小絞り状態を示す。絞り羽根11は第二円弧部11bをつなぎ合わせて真円状の絞り開口14を形成している。絞り開口14の周辺部には、隣り合う羽根同士の重なり領域Pが発生しているがそれ以上の重なりは生じていない。
【0033】
同様に、
図8(d)~(f)は、従来の絞り羽根51を用いた開放絞り状態から最小絞り状態に至るレンズ開口から見た絞り装置の状態図である。
図8(d)は、
図8(a)に対応する状態図であり、絞り羽根51の第一円弧部51aを10枚分つなぎ合わせて開放絞り状態の絞り開口52を形成している。
図8(e)は、絞り調整リング3を回動させて、絞り羽根51の他端51q側を径方向内側に変位させ、絞り開口52が10角形状に形成された中間絞り状態を示す。このとき、絞り開口52は絞り羽根51の先端直線部51d(
図10参照)をつなぎ合わせて形成されている。
図8(f)は、絞り調整リング3を回動させて絞り羽根51の他端51q側を径方向内側に最大変位させ、絞り開口52が真円状に形成された最小絞り状態を示す。このとき、絞り開口52は、絞り羽根51の第二円弧部51b(
図10参照)をつなぎ合わせて形成されている。最小絞り位置で、絞り開口52の周辺部P(
図11実線円参照)には、絞り羽根51同士が5枚以上重なり合う重なり領域が発生し、絞り羽根51同士は最大で7枚重なり合う。
【0034】
図9(a)~(d)は、絞り羽根11の他の形状を例示するものである。
図9(a)は、上記実施例における第二円弧部11bと正接する直線縁部11eを含むV字状の逃げ縁部11dを介して第一円弧部11aと連結された絞り羽根11の形態を示すものである。第一円弧部11aと第二円弧部11bとの間に形成される逃げ縁部11dは、破線で示すようにV字状の溝が深まるように径方向外側に逃げる形状であってもよい。第二円弧部11bの中心角θbはθb=36°+余角6.58°=42.58°に設定されている。
図9(b)は、逃げ縁部11dの他例を示す。絞り羽根11の逃げ縁部11dの形状は、第二円弧部11bの端点から当該第二円弧部11bより曲率の小さい第三円弧部11fを介して第一円弧部11aと連結されていてもよい。本実施例では、第二円弧部11bの中心角θbは、θb=36°+余角1.84°=37.84°に設定されている。
この場合にも、最小絞り位置において、真円状の絞り開口14を形成する絞り羽根11どうしの重なりの集中を絞り開口14の周辺部において第三円弧部11fで逃がすことで、絞り開口14の周辺部における絞り羽根11同士の重なりを隣り合う絞り羽根11のみに抑えることができる。
【0035】
また、
図9(c)に示すように、絞り羽根11の逃げ縁部11dの形状は、第二円弧部11bと正接する直線縁部11gと当該第二円弧部11bより曲率の小さい第三円弧部11fを介して第一円弧部11aと連結されていてもよい。
或いは
図9(d)に示すように、第二円弧部11bの端点から当該第二円弧部11bより曲率の小さい第三円弧部11fとこれに正接する直線縁部11gを介して第一円弧部11aと連結されていてもよい。
これにより、最小絞り位置において、真円状の絞り開口14を形成する絞り羽根11どうしの重なりを絞り開口14の周辺部に形成された直線縁部11gと第三円弧部11fとで逃がすことで、絞り開口14の周辺部における絞り羽根11同士の重なりを隣り合う絞り羽根11のみに抑えることができる。
【0036】
上述した実施例は、絞り羽根機構Mに絞り羽根11を10枚設けた場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば12枚、18枚等、更に多くの絞り羽根11を設けてもよい。
また、本実施例では、絞り調整リング3の回転操作と共に回動伝達筒部10aが回転し、回動伝達筒部10aと連結する操作プレートリング10bも一体に回転することで絞り羽根11を変位させるように構成されていたが、これに限定されるものではない。例えば、絞り調整リング3に周回する歯車が形成されており、この歯車に駆動源等から歯車機構を介して操作プレートリング10bに駆動伝達するような絞り羽根機構であってもよい。
また、絞り羽根機構Mが適用されるのは、カメラ用レンズに限らずプロジェクタ用レンズ等であってもよい。
【符号の説明】
【0037】
L レンズ 1 レンズの絞り装置 2 レンズ鏡筒 2a 固定鏡部 2b レンズ支持枠 2c 段差面部 2d ガイド孔部 2e 羽根支持部 2f 前面部 2g 軸孔 3 絞り調整リング 4 クリック機構 4a 第一クリック機構 4b 第二クリック機構 5 クリック溝部 6 クリック係合部 7 収容穴部 8 コイルスプリング 9 クリックボール M 絞り羽根機構 10 伝達機構部 10a 回動伝達部 10b 操作プレートリング 10c 伝達ピン部 10d 係合凹部 10e 係合突片部 10f 外端部 10g 係合凹部 10h スリット部 11 絞り羽根 11a 第一円弧部 11b 第二円弧部 11c 中間直線部 11d 逃げ縁部 11e 先端直線縁部 11g 直線縁部 11f 第三円弧部 11m 中間部 12 回動軸 13 係合軸 14 絞り開口