(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162877
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】蒸発燃料処理システムの故障診断方法及び故障診断装置
(51)【国際特許分類】
F02M 25/08 20060101AFI20241114BHJP
G01M 3/26 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
F02M25/08 Z
G01M3/26 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078834
(22)【出願日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 健一
【テーマコード(参考)】
2G067
3G144
【Fターム(参考)】
2G067AA27
2G067BB02
2G067CC04
2G067DD02
2G067EE12
3G144BA22
3G144DA04
3G144EA07
3G144EA08
3G144FA02
3G144FA13
3G144FA14
3G144FA23
3G144FA25
3G144GA10
3G144GA24
3G144HA02
3G144HA21
(57)【要約】
【課題】エバポエミッションへの影響を抑制しつつ複数のリーク等を診断可能な方法を提供する。
【解決手段】蒸発燃料処理システム1の故障診断方法において、コントローラ20が、診断開始とともに、パージ配管5に介装されたパージバルブ7を開き、パージ配管5内の実圧力のモニタリングと、グロスリークが生じているものとしてパージ配管5内の圧力変化を推定するグロスリークシミュレーションと、パージシステムに故障が生じているものとしてパージ配管5内の圧力変化を推定するパージ故障シミュレーションと、を開始し、グロスリークシミュレーションによる圧力変化の方が実圧力の変化よりも早くグロスリークシミュレーションで想定される第1基準圧力に到達し、かつ、実圧力の変化の方がパージ故障シミュレーションによる圧力変化よりも早くパージ故障シミュレーションで想定される第2基準圧力に到達する場合に、グロスリークが生じていると判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用の蒸発燃料処理システムの故障診断方法において、
コントローラが、診断開始とともに、キャニスタと内燃機関とを接続するパージ配管に介装されたパージバルブを開き、パージ配管内の実際の圧力である実圧力のモニタリングと、グロスリークが生じているものとして前記パージ配管内の圧力変化を推定するグロスリークシミュレーションと、パージシステムに故障が生じているものとして前記パージ配管内の圧力変化を推定するパージ故障シミュレーションと、を開始し、
前記グロスリークシミュレーションによる圧力変化の方が前記実圧力の変化よりも早く前記グロスリークシミュレーションで到達すると推定される第1基準圧力に到達し、かつ、前記実圧力の変化の方が前記パージ故障シミュレーションによる圧力変化よりも早く前記パージ故障シミュレーションで到達すると推定される第2基準圧力に到達する場合に、前記グロスリークが生じていると判定することを特徴とする、蒸発燃料処理システムの故障診断方法。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸発燃料処理システムの故障診断方法において、
前記コントローラは、前記パージ故障シミュレーションによる圧力変化の方が前記実圧力の変化よりも早く前記第2基準圧力に到達する場合に、前記パージシステムに故障が生じていると判定する、蒸発燃料処理システムの故障診断方法。
【請求項3】
請求項2に記載の蒸発燃料処理システムの故障診断方法において、
前記コントローラは、診断開始とともに、さらに、燃料タンクと前記キャニスタとの間に詰まりが生じているものとして前記パージ配管内の圧力変化を推定するベント詰まりシミュレーションも開始し、
前記実圧力の変化の方が前記ベント詰まりシミュレーションによる圧力変化よりも早く前記ベント詰まりシミュレーションで到達すると推定される第3基準圧力に到達する場合に、前記燃料タンクと前記キャニスタとの間に詰まりが生じていると判定する、蒸発燃料処理システムの故障診断方法。
【請求項4】
請求項3に記載の蒸発燃料処理システムの故障診断方法において、
前記コントローラは、
前記グロスリーク、前記パージシステムの故障、及び前記燃料タンクと前記キャニスタとの間のつまり、のいずれも生じていないと判定した場合に、
前記パージバルブを閉じて、前記グロスリークに比べて漏洩が少ない微細リークが生じているものとして前記パージ配管内の圧力変化を推定する微細リークシミュレーションを開始し、
前記微細リークシミュレーションによる圧力変化の方が前記実圧力の変化よりも先に前記微細リークシミュレーションで到達すると推定される第4基準圧力に到達する場合に、微細リークが生じていると判定する、蒸発燃料処理システムの故障診断方法。
【請求項5】
燃料タンクと、
前記燃料タンク内の燃料が蒸発することで生じたガスであるガソリンベーパを吸着するキャニスタと、
前記燃料タンクと前記キャニスタとを接続するブリーザ配管と、
前記キャニスタと内燃機関の吸気通路とを接続するパージ配管と、
前記キャニスタと大気とを連通させるドレイン配管と、
前記パージ配管に介装されたパージバルブと、
前記ドレイン配管に介装されたベントバルブと、
前記パージ配管の前記パージバルブと前記キャニスタとの間における圧力を検出する圧力センサと、
を備える車両用の蒸発燃料処理システムの故障診断装置において、
診断開始とともに前記パージバルブを開くバルブ制御部と、
診断開始とともに前記パージ配管内の実際の圧力である実圧力のモニタリングを行うモニタリング部と、
診断開始とともに、グロスリークが生じているものとして前記パージ配管内の圧力変化を推定するグロスリークシミュレーションと、パージシステムに故障が生じているものとして前記パージ配管内の圧力変化を推定するパージ故障シミュレーションと、を開始するシミュレーション部と、
前記グロスリークシミュレーションによる圧力変化の方が前記実圧力の変化よりも早く前記グロスリークシミュレーションで到達すると推定される第1基準圧力に到達し、かつ、前記実圧力の変化の方が前記パージ故障シミュレーションによる圧力変化よりも早く前記パージ故障シミュレーションで到達すると推定される第2基準圧力に到達する場合に、前記グロスリークが生じていると判定する判定部と、
を備えることを特徴とする、蒸発燃料処理システムの故障診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸発燃料処理システムの故障診断方法及び故障診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の燃料タンクで発生する蒸発燃料をキャニスタに吸着させ、内燃機関の運転中にキャニスタから内燃機関の吸気系に燃料成分をパージさせる蒸発燃料処理システムが知られている。このような蒸発燃料処理システムのリーク診断を車両の走行中に行うリーク診断として、燃料タンクを含むエバポ系内に負圧を導入し、導入開始から所定時間経過後のエバポ系内の圧力と、リーク判定値とに基づいてリークの有無を判断するものが特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、蒸発燃料処理システムのリークの形態としては、例えば、燃料タンクのキャップが外れている場合、またはパージ配管が外れている場合がある。また、リークの他に、いずれかの配管又はバルブに詰まるなどの故障が生じることもある。そして、エバポ系内に負圧を導入した際の圧力の変化の仕方は、リークや故障の形態によって異なる。その点、上記文献の診断方法では、診断の対象となるリークや故障の形態毎に診断を行う必要があるので、診断用の制御が通常のパージ制御に割り込む時間が多くなり、エバポエミッションが低下するおそれがある。
【0005】
そこで本発明は、エバポエミッションへの影響を抑制しつつ複数のリーク等を診断可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、車両用の蒸発燃料処理システムの故障診断方法が提供される。この方法では、コントローラが、診断開始とともにキャニスタと内燃機関とを接続するパージ配管に介装されたパージバルブを開き、パージ配管内の実際の圧力である実圧力のモニタリングと、グロスリークが生じているものとしてパージ配管内の圧力変化を推定するグロスリークシミュレーションと、パージシステムに故障が生じているものとしてパージ配管内の圧力変化を推定するパージ故障シミュレーションと、を開始し、グロスリークシミュレーションによる圧力変化の方が実圧力の変化よりも早くグロスリークシミュレーションで到達すると推定される第1基準圧力に到達し、かつ、実圧力の変化の方がパージ故障シミュレーションによる圧力変化よりも早くパージ故障シミュレーションで到達すると推定される第2基準圧力に到達する場合に、グロスリークが生じていると判定する。
【発明の効果】
【0007】
上記態様によれば、エバポエミッションへの影響を抑制しつつ複数のリーク等を診断可能な方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、蒸発燃料処理システムの概略構成図である。
【
図2】
図2は、故障診断のルーチンを示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、故障診断のルーチンを実行した場合のタイムチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施形態を適用する蒸発燃料処理システム1の概略構成図である。
【0011】
蒸発燃料処理システム1は、内燃機関15及び燃料タンク9とともに図示せぬ車両に搭載されており、燃料タンク9内において燃料が蒸発することで生じたガス(以下、ガソリンベーパ、またはベーパともいう。)を処理するためのものである。
【0012】
燃料タンク9は、先端の給油口にフィラーキャップ12が着脱可能に装着された給油管10を備え、内燃機関15の燃料噴射装置14へ燃料配管13を介して燃料を供給するポンプユニット11と、燃料残量に応じた液面高さを検出するレベルセンサ18とを内部に収容している。このレベルセンサ18の検出信号に基づいて、後述するコントローラ20は燃料残量を演算する。
【0013】
蒸発燃料処理システム1は、ガソリンベーパを吸着するキャニスタ2と、燃料タンク9とキャニスタ2とを接続するブリーザ配管3と、キャニスタ2と内燃機関15の吸気通路16とを接続するパージ配管5と、キャニスタ2と大気とを連通させるドレイン配管4と、を備える。パージ配管5にはパージバルブ7が、ドレイン配管4にはベントバルブ6が、それぞれ介装されている。なお、パージ配管5及びパージバルブ7をまとめてパージシステムともいう。また、蒸発燃料処理システム1は、パージ配管5のパージバルブ7とキャニスタ2との間における圧力を検出する圧力センサ8を備える。
【0014】
キャニスタ2は、合成樹脂等からなるケースの内部に流路が形成されたものであって、流路には活性炭等からなる吸着材が充填されている。流路の一端にはブリーザ配管3及びパージ配管5が接続されており、他端にはドレイン配管4が接続されている。燃料タンク9内で発生したガソリンベーパはブリーザ配管3を介してキャニスタ2に流入し、吸着材に吸着する。
【0015】
ベントバルブ6及びパージバルブ7は、バルブ制御部としてのコントローラ20からの信号に応じて開閉する電磁弁であり、例えば、ベントバルブ6は非通電時に開状態となる常開型、パージバルブ7は非通電時に閉状態となる常閉型とする。
【0016】
圧力センサ8の検出信号は、モニタリング部としてのコントローラ20に読み込まれる。
【0017】
コントローラ20は、内燃機関15の種々の制御、例えば、燃料噴射量制御、噴射時期制御、点火時期制御、スロットルバルブ17の開度制御等、を行う。また、コントローラ20は、キャニスタ2の吸着材に吸着している(以下、「キャニスタ2に吸着している」ともいう。)燃料成分を内燃機関15の吸気通路16へパージするパージ制御を、内燃機関15の運転中に行う。なお、コントローラ20は中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、不揮発メモリ、及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ20複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。
【0018】
パージ制御を行う際には、コントローラ20はベントバルブ6及びパージバルブ7を開状態にする。パージバルブ7を開状態にすることで、吸気通路16の負圧がパージ配管5に導入され、キャニスタ2内の流路の一端が負圧になる。一方、ベントバルブ6を開状態にすることで、当該流路の他端は大気圧になる。これらの差圧によってキャニスタ2内の流路に空気が導入されてキャニスタ2に吸着している燃料成分が離脱し、離脱した燃料成分がパージ配管5を介して吸気通路16に流入する。
【0019】
次に、上記のように構成された蒸発燃料処理システム1の診断について説明する。
【0020】
本実施形態において診断の対象となるのは、グロスリーク、微細リーク、パージ故障、ベント詰まり、及びベントバルブ故障である。
【0021】
グロスリークとは、例えばフィラーキャップ12が外れている場合のような、気密性が大幅に低下するリークである。
【0022】
微細リークとは、例えば米国カリフォルニア州の揮発有機化合物(VOC)に関する法規に定められている0.04インチリークのような、グロスリークに比べると微細なリークである。なお、0.04インチリークとは、パージ配管5に0.04インチ径相当の孔が開いた場合と同等のリークのことである。
【0023】
パージ故障とは、例えばパージ配管5が外れている場合のような、キャニスタ2から吸気通路16へのパージが正常になされていない故障である。
【0024】
ベント詰まりとは、燃料タンク9とキャニスタ2の間に詰まりが生じている等の故障である。
【0025】
ベントバルブ故障とは、ベントバルブ6に閉固着等が生じている等の故障である。
【0026】
リークや故障は、パージバルブ7を開いた後の圧力変化に基づいて診断する診断用制御によって診断可能である。ただし、診断用制御には数秒~数十秒程度の時間を要するので、上記のリーク等を個別に診断すると、通常のパージ制御に診断用制御が割り込む時間が多くなる。つまり、通常のパージ制御とは異なるタイミングでパージを行うこととなり、エバポエミッションが低下するおそれがある。
【0027】
そこで本実施形態では、以下に説明する方法で診断を行う。
【0028】
図2は、コントローラ20が実行する故障診断のルーチンを示すフローチャートである。
【0029】
ステップS100で、コントローラ20は診断条件が成立しているか否かを判定し、成立していればステップS101の処理に進み、成立していなければ成立するまで本判定を繰り返す。診断条件は、内燃機関15の冷却水温が所定温度以上、車両が走行中であること、燃料残量が所定範囲であること等、一般的なリーク診断の診断条件と同様である。
【0030】
ステップS101で、コントローラ20は通常のパージ制御モード(以下、通常モードともいう。)から診断モードへの切り替えを行う。具体的には、パージバルブ7を閉弁状態にする。通常モードでパージを実行している場合には、所定時間(例えば数秒程度)かけて閉弁状態にする。例えば、通常モードでパージを実行している場合に、診断モードへの切り替えに伴いパージバルブ7を急激に閉弁状態にすると、パージ流量が急激に変動して運転性に影響を与えるおそれがある。そこで本実施形態では、所定時間をかけてパージバルブ7を閉弁状態にすることで、パージ量を徐々に減少させる。
【0031】
ステップS102で、コントローラ20は基準圧チェックを行う。基準圧チェックとは、後述する圧力変化の起点となる圧力(基準圧)を取得することをいう。具体的には、ベントバルブ6を開状態にし、パージバルブ7を閉状態にしてキャニスタ2及びパージ配管5に大気圧を導入して、圧力センサ8の検出信号を読み込む。なお、圧力センサ8とは別に大気圧センサを備える場合には、大気圧センサの検出信号を読み込み、それを基準圧とすればよい。
【0032】
ステップS103で、コントローラ20はベーパ発生量が予め設定した規定範囲内であるか否かを判定し、規定範囲内であればステップS104の処理に進み、そうでない場合は本ルーチンを終了する。ベーパ発生量が多いほどキャニスタ2内は高圧になり、過剰に高圧になると後述するシミュレーションを適用できなくなる。また、ベーパ発生量が少ないほどキャニスタ2内の圧力は上昇しにくくなり、十分に上昇しない場合には後述するシミュレーションを適用できなくなる。そこでシミュレーションを適用可能な範囲を規定範囲として設定し、規定範囲から外れている場合には診断を行わないこととする。上記のようにベーパ発生量とキャニスタ2内の圧力には相関があるので、当該判定は、圧力センサ8で検出した圧力に基づいて行う。具体的には、ベントバルブ6を閉弁し、その後の基準圧からの圧力上昇をモニタリングして、規定範囲と相関のある圧力範囲に入っているか否かで判定する。
【0033】
ステップS104で、コントローラ20は、ベントバルブ6を開弁して所定時間経過してから再び基準圧チェックを行う。ここでの所定時間は、ベントバルブ6を開弁してからキャニスタ2内が平衡状態になるまでの時間として予め設定した時間である。
【0034】
ステップS105で、コントローラ20はパージ配管5内を減圧させるためのフェーズである減圧フェーズを実行する。具体的には、パージバルブ7を開くことにより、吸気通路16で発達している負圧をパージ配管5に導入する。このとき、ベントバルブ6は閉じておく。そして、コントローラ20は減圧フェーズの実行中にグロスリーク診断、パージ故障診断、及びベント詰まり診断を実行する。
【0035】
グロスリーク診断は、例えばフィラーキャップ12が外れている場合のように、気密性が損なわれるグロスリークが生じているか否かを診断するものである。具体的には、診断条件が成立したら、シミュレーション部としてのコントローラ20は、グロスリークが生じているものとした場合の、パージ系内の圧力変化のシミュレーション(以下、グロスリークシミュレーションともいう。)を開始し、その結果とパージ系内の実際の圧力の変化(以下、実圧力変化ともいう。)を比較する。パージ系内の実際の圧力は、圧力センサ8により検出した圧力である。減圧フェーズの実行中なので、グロスリークシミュレーション及び実圧力変化のいずれも低下傾向を示すが、リークがあることで、グロスリークシミュレーションの方が実圧力変化よりも低下速度は小さくなる。このため、実圧力変化がグロスリークシミュレーションよりも先に、グロスリークシミュレーションで到達すると推定される下限圧(第1基準圧力)に到達した場合にはグロスリークが生じていないと判定できる。
【0036】
パージ故障診断は、例えば配管外れによりキャニスタ2からのパージが正常に行われなくなるパージ故障が生じているか否かを診断するものである。具体的には、診断条件が成立したら、パージ故障が生じているものとした場合の、パージ系内の圧力変化のシミュレーション(以下、パージ故障シミュレーションともいう。)を開始し、その結果と実圧力変化と比較する。当該診断もグロスリーク診断と同様に、実圧力変化がパージ故障シミュレーションよりも先に、パージ故障シミュレーションで到達すると推定される下限圧(第2基準圧力)に到達した場合にはパージ故障が生じていないと判定できる。
【0037】
ベント詰まり診断は、例えばブリーザ配管3に何らかの異物が詰まるような、燃料タンク9からキャニスタ2までの間に詰まり(以下、ベント詰まりともいう。)が生じているか否かを診断するものである。具体的には、診断条件が成立したら、ベント詰まりが生じているものとした場合の、パージ系内の圧力変化のシミュレーション(以下、ベント詰まりシミュレーションともいう。)を開始し、その結果と実圧力変化を比較する。ベント詰まりが生じていると、ブリーザ配管3からのベーパの流入量が少なくなることによって、正常時に比べてパージ配管5の圧力低下速度は大きくなる。このため、実圧力変化の方がベント詰まりシミュレーションよりも先に、ベント詰まりシミュレーションで到達すると推定される下限圧(第3基準圧力)に到達した場合にはベント詰まりが生じていると判定できる。
【0038】
上記の各シミュレーションは、燃料タンク9の容量、各配管の径及び長さ、並びに内燃機関15の仕様等を物理モデル化し、さらにシミュレーション実行時の燃料残量も考慮したうえで行う。
【0039】
ところで、上記の各診断は、減圧フェーズの実行中に、実圧力変化をモニタリングしながら各シミュレーション結果との比較を行うものである。したがって、各診断を個別に順次行うと、診断の数だけ減圧フェーズを行うこととなり、さらには一つの診断が終了したら次の診断のために大気圧に戻す工程が必要となるので、診断の数が増えるほど診断に要する時間が長くなる。そして、リーク等の診断は通常モードから診断モードへ切り替えて行うので、診断モードの時間が長くなるほど、つまり通常モードとは異なるパージ制御を行う時間が長くなるほど、エバポエミッションが悪化するおそれが高くなる。
【0040】
そこで本実施形態では、減圧フェーズ中に以下に説明する方法で上記の3つの診断を同時に行う。
【0041】
パージ故障の原因をパージ配管5が外れたこととし、グロスリークの原因をフィラーキャップ12が外れたこととして、パージ故障シミュレーションによる圧力変化とグロスリークシミュレーションによる圧力変化とを比較すると、圧力低下速度はグロスリークの方が大きくなる。したがって、グロスリークが生じていないと判定された場合には、パージ故障も生じていないことになる。一方、グロスリークが生じていると判定された場合には、パージ故障が生じている場合と生じていない場合があり、これについては上述したパージ故障診断により判別可能である。つまり、グロスリークシミュレーション及びパージ故障シミュレーションによる各圧力変化と実圧力変化とを比較することで、(1)グロスリーク及びパージ故障なし、(2)グロスリーク有かつパージ故障なし、(3)グロスリーク及びパージ故障あり、の3つの状態を判別可能である。
【0042】
また、ベント詰まり故障の原因をブリーザ配管3が異物により閉塞されたこととして、ベント詰まりシミュレーションによる圧力変化とグロスリークシミュレーションによる圧力変化とを比較すると、圧力低下速度はベント詰まり故障の方が大きくなる。したがって、グロスリークが生じていないと判定された場合には、ベント詰まり故障が生じている場合と生じていない場合があり、これについては上述したベント詰まり故障診断により判別可能である。つまり、グロスリークシミュレーション、パージ故障シミュレーション及びベント詰まりシミュレーションによる各圧力変化と実圧力変化とを比較することで、上記の(1)~(3)の状態のそれぞれについて、ベント詰まり故障の有無も判別可能になる。
【0043】
そこでステップS105において判定部としてのコントローラ20は、グロスリークシミュレーション、パージ故障シミュレーション及びベント詰まりシミュレーションによる各圧力変化と実圧力変化とを比較して、以下のように判定する。
【0044】
実圧力変化の方がグロスリークシミュレーションによる圧力変化よりも先に第1基準圧力に到達し、かつ実圧力変化よりもベント詰まりシミュレーションによる圧力変化の方が先に第3基準圧力に到達した場合には、いずれの故障も生じていないと判定する。
【0045】
実圧力変化よりもグロスリークシミュレーションによる圧力変化の方が先に第1基準圧力に到達し、かつ実圧力変化の方がパージ故障シミュレーションによる圧力変化よりも先に第2基準圧力に到達した場合には、グロスリークが生じていると判定する。
【0046】
実圧力変化よりもパージ故障シミュレーションによる圧力変化の方が先に第2基準圧力に到達した場合には、パージ故障が生じていると判定する。
【0047】
実圧力変化よりもベント故障シミュレーションによる圧力変化よりも先に第3基準圧力に到達した場合にはベント故障が生じていないと判定し、その逆の場合にはベント故障が生じていると判定する。
【0048】
フローチャートの説明に戻る。
【0049】
コントローラ20は、ステップS105の減圧フェーズが終了したら、ステップS106において、グロスリーク、パージ故障、またはベント詰まり故障(以下、リーク等ともいう。)の有無を確認し、リーク等がなければステップS107の処理に進み、あれば本ルーチンを終了する。なお、減圧フェーズを終了するタイミングは、すべての診断が終了してから所定時間が経過したときとする。ここでの所定時間は任意に設定し得るものである。また、リーク等がある場合には、本ルーチンの終了後に、警告灯を点灯する等、運転者にリーク等の発生を告知するための処理を行う。
【0050】
ステップS107で、コントローラ20は調圧フェーズを実行する。調圧フェーズは、減圧後の状態を安定させるためのフェーズである。ここでは、減圧フェーズの終了のタイミングから、特別な制御を行うことなく任意に設定し得る調圧時間が経過するのを待つ。
【0051】
コントローラ20は、調圧フェーズが終了したら、ステップS108において上述した微細リークの有無を診断するための漏れチェックフェーズを実行する。具体的には、パージバルブ7を閉状態にして、微細リークが生じているものとした場合のパージ系内の圧力変化のシミュレーション(以下、微細リークシミュレーションともいう。)を開始し、その結果と実圧力変化と比較する。パージバルブ7を閉状態にすると、パージ配管5内の圧力は徐々に上昇するが、パージ配管5に微細孔が開いていると、負圧状態のパージ配管5に微細孔から空気が流入するため、微細リークが生じていない場合に比べて圧力の上昇速度が大きくなる。そこで、実圧力変動よりも微細リークシミュレーションによる圧力変動の方が先に、微細リークシミュレーションで到達すると推定される基準圧力(第4基準圧力)に到達した場合には微細リークが生じていると判定し、そうでない場合には微細リークは生じていないと判定する。
【0052】
微細リークは生じていないと判定した場合には、続けてベントバルブ6の故障診断を行う。具体的には、微細リークの診断が終了したら、ベントバルブ6を開状態にするとともに、ベントバルブ6が開弁状態になっていないものとするシミュレーション(以下、ベント故障シミュレーションともいう。)を行い、その結果と実圧力変化と比較する。パージバルブ7が閉状態のままベントバルブ6を開状態にすると、ドレイン配管4の大気との連通により圧力は上昇する。しかし、ベントバルブ6が開状態にならないと、大気との連通が遮断されているため開状態になる場合に比べて圧力上昇速度が小さくなる。そこで、実圧力変動の方がベント故障シミュレーションによる圧力変動よりも先に、ベント故障シミュレーションで到達すると推定される基準圧力(第5基準圧力)に到達した場合にはベントバルブ6に故障は生じていないと判定し、そうでない場合には故障が生じていると判定する。ベントバルブ6の故障診断が終了したら漏れチェックフェーズを終了する。
【0053】
漏れチェックフェーズが終了したら、コントローラ20はステップS102~S103の処理と同様に、ステップS109で基準圧チェックを行い、ステップS110でベーパ発生量が規定範囲内か否かの判定を行う。上記の各診断には数十秒以上の時間を要するため、診断開始時には規定範囲内であっても、診断中に規定範囲から外れた状態に遷移する可能性もある。そこで、本ステップにおいて、各診断を実行している間もベーパ発生量が規定範囲内にある状態が維持されていたか否かを確認する。
【0054】
そして、ステップS110においてベーパ発生量が規定範囲内であると判定した場合はステップS111において診断結果を確定し、そうでない場合はステップS112において診断結果を取り消す。
【0055】
ステップS113で、コントローラ20は診断モードから通常モードに戻すまでのディレイ時間の経過を待つ。ベント故障診断が終了したら、通常モードに戻すためにベントバルブ6を開状態に戻すが、ベントバルブ6を開状態にしてからキャニスタ2内が大気圧に戻るまでには時間を要する。そこで、キャニスタ2内が大気圧に戻るのに十分な時間(例えば数秒程度)をディレイ時間として予め設定しておき、ステップS113でディレイ時間の経過を待つ。
【0056】
ステップS114で、コントローラ20は次回の診断に備えて、各シミュレーションによる圧力変化及び実圧力変化等の診断に関するデータを初期化し、本ルーチンを終了する。
【0057】
図3は、上記の制御ルーチンを実行した場合のタイムチャートの一例である。実線が実圧力変化、長破線がグロスリークシミュレーションによる圧力変化、短破線がパージ故障シミュレーションによる圧力変化、一点鎖線がベント詰まりシミュレーションによる圧力変化、二点鎖線が微細リークシミュレーションによる圧力変化、一点二鎖線がベントバルブ故障シミュレーションによる圧力変化を示している。
【0058】
タイミングT1で診断条件が成立し、減圧フェーズが開始されると、実圧力が低下し始め、それとともにグロスリークシミュレーション、パージ故障シミュレーション、及びベント詰まりシミュレーションが実行される。
【0059】
タイミングT2において、実圧力変化は第2基準圧力に到達するが、パージ故障シミュレーションによる圧力変化はまだ到達していない。したがって、コントローラ20は、パージ故障は生じていないと判定する。
【0060】
タイミングT3において、ベント詰まりシミュレーションによる圧力変化は第3基準圧力に到達するが、実圧力変化はまだ到達していない。したがって、コントローラ20は、ベント詰まりは生じていないと判定する。
【0061】
タイミングT4において、実圧力変化は第1基準圧力に到達するが、グロスリークシミュレーションによる圧力変化はまだ到達していない。したがって、コントローラ20は、グロスリークは生じていないと判定する。
【0062】
上記の通り、減圧フェーズ中に行う診断では、グロスリーク、パージ故障、及びベント詰まりのいずれも生じていないという診断結果になる。このため、調圧フェーズ(タイミングT5~T6)の後、漏れチェックフェーズが開始され、実圧力が上昇し始め、微細リークシミュレーション及びベントバルブ故障シミュレーションが実行される。
【0063】
タイミングT7において、微細リークシミュレーションによる圧力変化は第4基準圧力に到達するが、実圧力変化はまだ到達していない。したがって、コントローラ20は、微細リークは生じていないと判定する。そして、コントローラ20がベントバルブ6を閉状態にすることで、実圧力の上昇速度が高まる。
【0064】
タイミングT8において、実圧力は第5基準圧力に到達するが、ベントバルブ故障シミュレーションによる圧力変化はまだ到達していない。したがって、コントローラ20は、ベントバルブ故障は生じていないと判定する。
【0065】
上記の通り、漏れフェーズ中に行う診断では、微細リーク及びベントバルブ故障のいずれも生じていないという診断結果になる。
【0066】
以上の通り本実施形態では、車両用の蒸発燃料処理システム1の故障診断方法が提供される。この方法では、コントローラ20が、診断開始とともにキャニスタ2と内燃機関15とを接続するパージ配管5に介装されたパージバルブ7を開き、パージ配管5内の実際の圧力である実圧力のモニタリングと、グロスリークが生じているものとしてパージ配管5内の圧力変化を推定するグロスリークシミュレーションと、パージシステムに故障が生じているものとしてパージ配管5内の圧力変化を推定するパージ故障シミュレーションと、を開始する。そして、コントローラ20は、グロスリークシミュレーションによる圧力変化の方が実圧力変化よりも早くグロスリークシミュレーションで到達すると推定される第1基準圧力に到達し、かつ、実圧力変化の方が前記パージ故障シミュレーションによる圧力変化よりも早くパージ故障シミュレーションで到達すると推定される第2基準圧力に到達する場合に、グロスリークが生じていると判定する。これにより、一回の減圧フェーズ中にグロスリークとパージ故障の両方について診断できるので、診断モードが通常モードへ割り込む時間を短くすることができる。また、生じているのがグロスリークなのかパージ故障なのかを判別できる。つまり、エバポエミッションへの影響を抑制しつつ複数のリーク等を診断することが可能である。
【0067】
本実施形態では、コントローラ20は、パージ故障シミュレーションによる圧力変化の方が実圧力の変化よりも早く第2基準圧力に到達する場合に、パージシステムに故障が生じていると判定する。これにより、生じているのがグロスリークなのかパージ故障なのかを判別できる。
【0068】
本実施形態では、コントローラ20は、診断開始とともに、さらに、燃料タンク9とキャニスタ2との間に詰まりが生じているものとしてパージ配管5内の圧力変化を推定するベント詰まりシミュレーションも開始し、実圧力の変化の方がベント詰まりシミュレーションによる圧力変化よりも早くベント詰まりシミュレーションで想定される第3基準圧力に到達する場合に、燃料タンク9とキャニスタ2との間に詰まりが生じていると判定する。これにより、一回の減圧フェーズ中に、グロスリーク及びパージ故障と同時にベント詰まりについても診断することが可能となる。
【0069】
本実施形態では、コントローラ20は、グロスリーク、パージシステムの故障(パージ故障)、及び燃料タンクとキャニスタとの間のつまり(ベント詰まり)、のいずれも生じていないと判定した場合に、パージバルブ7を閉じて、グロスリークに比べて漏洩が少ない微細リークが生じているものとしてパージ配管5内の圧力変化を推定する微細リークシミュレーションを開始する。そして、微細リークシミュレーションによる圧力変化の方が実圧力の変化よりも先に微細リークシミュレーションで想定される第4基準圧力に到達する場合に、微細リークが生じていると判定する。これにより、減圧フェーズにより減圧された状態から通常制御のために大気圧に戻す過程において、微細リークの有無について診断することができる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0071】
1 蒸発燃料処理システム、 2 キャニスタ、 3 ブリーザ配管、 4 ドレイン配管、 5 パージ配管、 6 ベントバルブ、 7 パージバルブ、 8 圧力センサ、 9 燃料タンク、 10 給油管、 11 ポンプユニット、 12 フィラーキャップ、 15 内燃機関、 16 吸気通路、 20 コントローラ