(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162881
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】噴流式はんだ付け装置に用いる凸状ノズルプレートの表面処理方法
(51)【国際特許分類】
B23K 1/08 20060101AFI20241114BHJP
H05K 3/34 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
B23K1/08 320Z
H05K3/34 506K
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078843
(22)【出願日】2023-05-11
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000205270
【氏名又は名称】大阪アサヒ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長田 和真
(72)【発明者】
【氏名】光岡 輝男
【テーマコード(参考)】
4E080
5E319
【Fターム(参考)】
4E080AA01
4E080AB03
4E080CA02
4E080CA20
5E319AC01
5E319CC24
5E319CD35
5E319GG20
(57)【要約】
【課題】複数の噴出孔が配列された凸状ノズルプレートを有する噴流式はんだ付け装置において、酸化カス重量の低減を実現できる噴流式はんだ付け装置を提供する。
【解決手段】溶融させたはんだの噴流を基板に接触させてはんだ付けを行う噴流式はんだ付け装置であって、中空の胴部であるノズル本体11の上部の開口を覆うように配置された凸状ノズルプレート14を有するノズルを備えており、凸状ノズルプレート14は、プレート状部材に複数の噴出孔16が配列されており、噴出孔16は、プレート状部材に対して凸になった円筒状フランジ15の内側に形成されており、前記凸状ノズルプレート14は、電解研磨で表面処理されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融させたはんだの噴流を基板に接触させてはんだ付けを行う噴流式はんだ付け装置であって、
中空の胴部であるノズル本体の上部の開口を覆うように配置された凸状ノズルプレートを有するノズルを備えており、
前記凸状ノズルプレートは、プレート状部材に複数の噴出孔が配列されており、
前記噴出孔は、プレート状部材に対して凸になった円筒状フランジの内側に形成されており、
前記凸状ノズルプレートは、電解研磨で表面処理されていることを特徴とする噴流式はんだ付け装置。
【請求項2】
前記凸状ノズルプレートは、前記ノズル本体に対して着脱可能である請求項1に記載の噴流式はんだ付け装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融させたはんだの噴流を基板に接触させてはんだ付けを行う噴流式はんだ付け装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、噴流式はんだ付け装置を用いた、はんだ付け作業の自動化が行われていた。噴流式はんだ付け装置は、はんだ槽内に設けられた噴流ダクトから溶融状態のはんだをノズルから噴流させる装置である。装置内において、ノズルから噴流したはんだを、搬送中のプリント基板等の対象物に接触させることにより、はんだ付けが実施される。
【0003】
噴流式はんだ付け装置においては、溶融はんだの酸化防止が課題になっており、特許文献1においては、はんだ槽本体、ノズル及びポンプを、低摩擦係数面を有する耐熱被膜によりコーティングして、溶解はんだの流れに対する抵抗を少なくすることにより、溶解はんだの酸化防止に有利になるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の噴流式はんだ付け装置において、ノズルは中空の胴部で構成されており、胴部の上部の開口がはんだの噴出口であり、ノズルにおけるコーティングの対象部位は胴部の内周面に留まっていた。すなわち、特許文献1に記載の噴流式はんだ付け装置は、ノズル上部に複数の噴出孔が配列された構成ではなく、特許文献1に記載の技術は、あくまでもノズル上部に至るまでの流路について、溶解はんだの流れに対する抵抗を少なくする技術に留まっていた。
【0006】
本発明は、前記のような従来の技術に鑑み、複数の噴出孔が配列された凸状ノズルプレートを有する噴流式はんだ付け装置において、酸化カス重量の低減を実現できる噴流式はんだ付け装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の噴流式はんだ付け装置は、溶融させたはんだの噴流を基板に接触させてはんだ付けを行う噴流式はんだ付け装置であって、中空の胴部であるノズル本体の上部の開口を覆うように配置された凸状ノズルプレートを有するノズルを備えており、前記凸状ノズルプレートは、プレート状部材に複数の噴出孔が配列されており、前記噴出孔は、プレート状部材に対して凸になった円筒状フランジの内側に形成されており、前記凸状ノズルプレートは、電解研磨で表面処理されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の噴流式はんだ付け装置においては、前記凸状ノズルプレートは、前記ノズル本体に対して着脱可能であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の噴流式はんだ付け装置によれば、電解研磨無しの凸状ノズルプレートを用いた比較例に比べて大幅な酸化カス重量の低減が実現できる。また、凸状ノズルプレートをノズル本体に対して着脱可能とした好ましい構成によれば、再度の電解研磨による再利用が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る噴流式はんだ付け装置の要部を示す断面図。
【
図2】
図1に示した噴流式はんだ付け装置のプリント配線基板の搬送方向における要部を示す断面図。
【
図3】本発明の一実施形態に係る凸状ノズルプレートの斜視図。
【
図4】本発明の一実施形態において、凸状ノズルプレート近傍の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る噴流式はんだ付け装置1の要部を示す断面図である。噴流式はんだ付け装置1は、はんだ付けの対象物であるプリント配線基板30の裏面に溶融させたはんだの噴流を接触させてはんだ付けを行う装置である。複数のプリント配線基板30が搬送コンベア31(
図2参照)で、一つずつ搬送されながら、プリント配線基板30にはんだ付けが順次実施される。
【0012】
図1ではプリント配線基板30は、紙面の裏面側から紙面の表面側に向けて搬送される。
図2は、プリント配線基板30の搬送方向における噴流式はんだ付け装置1の要部を示す断面図である。
図2において、図示の便宜のため、搬送コンベア31は、1本の2点鎖線で簡略化して図示している。搬送コンベア31は傾斜しており、下流側が低く、上流側が高くなっている。プリント配線基板30は、下流側から上流側に向けて搬送される(矢印a方向)。
【0013】
以下、
図1及び
図2を参照しながら、噴流式はんだ付け装置1の構造について説明する。
図1において、はんだ槽2の内側に、第1ダクト3が配置され、第1ダクト3の上部に1次ノズル10が配置されている。
図2において、1次ノズル10は、中空の胴部であるノズル本体11と、ノズル本体11の上部の開口を覆うように配置された凸状ノズルプレート14で主要部を構成している。凸状ノズルプレート14の詳細は後に説明する。
【0014】
図1において、第1ダクト3の端部にはインペラ5が配置されている。インペラ5はプーリ6の回転により回転する回転軸7と一体に回転する。プーリ6は、プーリ6に掛け合わされたベルト(図示せず)がモータ(図示せず)で駆動されて回転する。
【0015】
インペラ5の回転により、
図1の矢印で示したように、第1ダクト3内の溶融はんだは、1次ノズル10のノズル本体11に送られ、ノズル本体11内で溶融はんだは上昇する。上昇した溶融はんだは、凸状ノズルプレート14の孔から噴流となって噴出してプリント配線基板30に接触する。
【0016】
図2に示したように、プリント配線基板30の搬送方向(矢印a方向)においては、1次ノズル10の上流側に2次ノズル20が配置されている。1次ノズル10のノズル本体11には、フロントプレート12及びバックプレート13が固定されており、両プレート12、13に架け渡すように、凸状ノズルプレート14が配置されている。
【0017】
2次ノズル20は、中空の胴部であるノズル本体21の下流側にフロントウェーブガイド22が固定され、ノズル本体21の上流側にセンタープレート23及びバックプレート24が固定されて主要部を構成している。2次ノズル20の上部はサイドプレート25で壁面を形成している。
【0018】
図2の状態では、プリント配線基板30は、1次ノズル10の上部にあり、凸状ノズルプレート14からの溶融はんだの噴流により、はんだ付けが実施される。プリント配線基板30に接触した溶融はんだは、フロントプレート12及びバックプレート13に沿って、はんだ槽2内に還流する。
【0019】
1次ノズル10の上部にあるプリント配線基板30が上流側に搬送されると(矢印a方向)、2次ノズル20からのはんだの噴流により、2回目のはんだ付けが実施される。プリント配線基板30に接触した溶融はんだは、フロントウェーブガイド22、センタープレート23及びバックプレート24沿って、はんだ槽2内に還流する。
【0020】
2次ノズル20への溶融はんだ供給は、1次ノズル10側と同様である。2次ノズル20側にも、1次ノズル10側に設けたインペラ5及びインペラ5の回転機構と同様の機構を専用に設けている。2次ノズル20の下部の第2ダクト8には、
図1に示した第1ダクト3と同様に、インペラ5が配置されており、インペラ5の回転により、第2ダクト8内の溶融はんだが2次ノズル20のノズル本体21に送られる。インペラ5の回転機構についても、第1ダクト10側と同様である。
【0021】
図3に、凸状ノズルプレート14の斜視図を示している。
図4に、凸状ノズルプレート14近傍の断面図を示している。
図3において、凸状ノズルプレート14は、プレート状部材に、所定ピッチで複数の噴出孔16が配列されている。噴出孔16は、プレート状部材に対して凸になった円筒状フランジ15の内側に形成されている。円筒状フランジ15の形成方法は特に限定はなく、バーリング加工により形成してもよく、切削加工により形成してもよい。
【0022】
図4において、凸状ノズルプレート14は、
図3のAA線における断面図を示している。
図4の矢印で示したように、ノズル本体11内を上昇した溶融はんだは、凸状ノズルプレート14の噴出孔16から噴流となって噴出する。
【0023】
噴流式はんだ付け装置においては、黒色粉状の酸化物である酸化カスが発生する。酸化カスは、はんだ付けには寄与しないため、酸化カスが発生すると、その量だけ、はんだ付けに使用できるはんだの量が減少する。このため、はんだ槽2内に投入したはんだの全てを、はんだ付けに使用することはできず、酸化カスの発生分が損失となる。したがって、酸化カスの発生量が多いと、はんだの損失量も多くなり、これに加えて、除去作業の負担も増大する。
【0024】
また、酸化カスの発生量が多いと、はんだ付け不良が生じ易くなる。この一因として、凸状ノズルプレート14の孔に酸化カスが付着して、はんだの噴流の流れが阻害されることが挙げられる。
【0025】
本願発明者らは、酸化カスの低減に取り組み、各種試験を繰り返した結果、凸状ノズルプレート14に電解研磨を行うと、酸化カスの低減に有利な効果を発揮することを見出した。以下、試験過程について説明する。
【0026】
表1に比較例及び実施例を示している。比較例及び実施例の基本構成は
図1及び
図2に示した噴流式はんだ付け装置1と同様である。比較例及び実施例に係る噴流式はんだ付け装置1は同一機種であり、凸状ノズルプレート14の電解研磨の有無を除き、1次ノズル10及び2次ノズル20の構造は同一である。
【表1】
【0027】
実施例は、1次ノズル10の凸状ノズルプレート14(材料はステンレス:SUS316L)に電解研磨で表面処理を行っており、1次ノズル10の他の構成部品には表面処理を行っていない。電解研磨は、研磨対象物をプラス側とし、マイナス側である対極との間に電解液を介して直流電流を流し、研磨対象物の表面を溶解させて研磨する表面処理である。比較例は凸状ノズルプレート14の構造及び材料は同じであるが、電解研磨は行っていない。また、実施例及び比較例共に、2次ノズル20の構成部品には、表面処理は行っていない。
【0028】
以下便宜のため、比較例については比較例1といい、実施例については試験条件の違いにより実施例1、2という。下記表2は、実施例1及び比較例1を、それぞれ8時間運転したときの試験結果をしている。噴流回転数は、インペラ5(
図1)を駆動するモータ(図示せず)の周波数である。はんだ温度は255℃(後記の実施例2も同じ)であり、試験条件を統一させるため、1次ノズル10側及び2次ノズル20側の両方において、実施例1及び比較例1の波高を同じ10mmにした。
【表2】
【0029】
表2に示したように、比較例1では、酸化カス重量が3.30kg/8時間であったのに対して、実施例1では、1.70kg/8時間にまで減少した。この場合、実施例1の比較例1に対する減少量は1.6kgであり、減少率は48.5%となり、実施例1は比較例1に比べて、大幅な酸化カス重量の低減が実現できた。
【0030】
表3は表2に示した比較例1及び実施例1に、実施例2を追加したものである。実施例1及び比較例1は波高を同じ10mmに統一しているが、実施例2は噴流回転数を、比較例1と同じ40.00Hzに統一したものである。
【表3】
【0031】
表3において、比較例1と実施例2を比較すると、両者は噴流回転数が同一でありながら、実施例2は比較例1よりも波高が高くなっている。すなわち、実施例2において、比較例1と同一波高にするには、噴流回転数を下げればよい。より具体的には、実施例1は比較例1と同一波高でありながら、実施例1は比較例1よりも噴流回転数が低くなっている。
【0032】
したがって、電解研磨有りの凸状ノズルプレート14を使用することにより、噴流回転数を低くして必要な波高を確保することができる。噴流回転数を低下させると、酸化カス重量が低減することは知られている。このため、噴流回転数を低くして必要な波高を確保できることは、表2において、実施例1が比較例1よりも酸化カス重量が低減する一因となっている。また、噴流回転数を低下させると、はんだの吐出形状が安定するため、噴流回転数を低くして必要な波高を確保できることは、はんだ付けの品質面においても有利になる。
【0033】
以上によれば、本願発明者らは、噴流式はんだ付け装置1において、電解研磨で表面処理を行った凸状ノズルプレート14を用いることにより、大幅な酸化カス重量の低減を実現した。この効果が得られる理由は、必ずしも明確ではないが、電解研磨は表面粗さを小さくする表面処理であること、電解研磨を行ったのは、はんだ流路全体ではなく凸状ノズルプレート14に限定されることから、噴出孔16近傍の表面粗さが小さくなったことが一因であると推測される。
【0034】
具体的には、噴出孔16は、はんだの流れの断面積が小さくなり、流れに抵抗を生じさせる部分であることから、この部分の表面粗さを小さくすることは、はんだの流れの安定化に直接的に寄与し、酸化カス重量の低減にも寄与しているものと推測される。このことは、表3において、実施例2は比較例1と噴流回転数が同一でありながら、実施例2は比較例1よりも波高が高くなっていることからも推測可能である。
【0035】
また、
図3、4に示したように、円筒状フランジ15の上部に端面17が形成される。電解研磨により端面17についても、表面粗さが小さくなっているので、端面17に酸化カスが付着しにくくなる。この場合、噴出孔16は酸化カスで塞がれにくくなり、噴出孔16における安定したはんだの流れが維持されることになる。このことも、酸化カス重量の低減に寄与しているものと推測される。
【0036】
一方、凸状ノズルプレート14の表面粗さを小さくするだけであれば、物理研磨やコーティングによっても可能であるが、これらは、処理や施工が大掛かりになり、メンテナンスも容易でない。特に、物理研磨により円筒状フランジ15の内面及び外面を研磨することは、著しい作業負担になる。本発明のように電解研磨であれば、処理が容易であり、劣化した場合の再利用も可能になる。より具体的には、凸状ノズルプレート14を再度電解研磨を行うだけで、再利用が可能になる。この場合、
図4において、凸状ノズルプレート14を1次ノズル本体11に対して着脱可能な構成にしておけば、取り外した凸状ノズルプレート14について電解研磨を行えばよく、再利用が容易になる。
【0037】
また、実施例1において、電解研磨を行ったのは、はんだ流路全体ではなく凸状ノズルプレート14に限定されるにもかかわらず、前記のとおり実施例1は、大幅な酸化カス重量の低減を実現した。このため、はんだ流路を構成する部品、例えば
図3に示したダクト3やノズル本体11にも、電解研磨を行うことにより、より一層の酸化カス重量の低減が期待できる。
【0038】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、前記実施形態は一例であり、適宜変更したものであってもよい。例えば、
図3、
図4において、凸状ノズルプレート14は、1次ノズル本体11とは別の部品としているが、1次ノズル本体11と一体に成形したものであってもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 噴流式はんだ付け装置
2 はんだ槽
3 第1ダクト
8 第2ダクト
10 1次ノズル
11 1次ノズル本体
14 凸状ノズルプレート
15 円筒状フランジ
16 噴出孔
20 2次ノズル
21 2次ノズル本体
30 プリント配線基板
【手続補正書】
【提出日】2024-02-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融させたはんだの噴流を基板に接触させてはんだ付けを行う噴流式はんだ付け装置に用いる凸状ノズルプレートの表面処理方法であって、
前記凸状ノズルプレートは、中空の胴部であるノズル本体の上部の開口を覆うように配置された凸状ノズルプレートを有しており、かつプレート状部材に複数の噴出孔が配列されており、
前記噴出孔は、プレート状部材に対して凸になった円筒状フランジの内側に形成されており、
前記凸状ノズルプレートについて、物理研磨を行うことなく、電解研磨で表面処理を行うことを特徴とする噴流式はんだ付け装置に用いる凸状ノズルプレートの表面処理方法。
【請求項2】
前記凸状ノズルプレートは、前記ノズル本体に対して着脱可能である請求項1に記載の噴流式はんだ付け装置に用いる凸状ノズルプレートの表面処理方法。