(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162919
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】電動車両用動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
B60K 17/12 20060101AFI20241114BHJP
B60K 1/00 20060101ALI20241114BHJP
B60K 17/16 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
B60K17/12
B60K1/00
B60K17/16 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078908
(22)【出願日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】安田 範史
【テーマコード(参考)】
3D042
3D235
【Fターム(参考)】
3D042AA06
3D042AA09
3D042AB01
3D042BE01
3D042CC06
3D235CC12
3D235CC13
3D235GA08
3D235GA12
(57)【要約】
【課題】ブリーザー機構の要素を極力少なくして構成の簡易化、低コスト化に寄与する電動車両用動力伝達装置を提供する。
【解決手段】電動車両用動力伝達装置2は、モータ4と、モータ4を高周波制御するインバータ6と、回転軸としての車軸8L、8Rを有し、モータ4の動力を駆動輪10L、10Rに伝達する動力伝達機構12と、図中右側の車軸8Rに接触する接地用の導電性部材14と、導電性部材14の設置部位を密封する密封空間部16と、を備え、密封空間部16が、圧力調整部材18を備えた既存空間部としてのインバータ室20に通気路22を介して連通している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータを高周波制御するインバータと、
回転軸を有し、前記モータの動力を駆動輪に伝達する動力伝達機構と、
前記回転軸に接触する接地用の導電性部材と、
前記導電性部材の設置部位を密封する密封空間部と、
を備え、
前記密封空間部が、圧力調整部材を備えた既存空間部に通気路を介して連通していることを特徴とする電動車両用動力伝達装置。
【請求項2】
前記回転軸が車軸であることを特徴とする請求項1に記載の電動車両用動力伝達装置。
【請求項3】
前記既存空間部がインバータ室であることを特徴とする請求項1に記載の電動車両用動力伝達装置。
【請求項4】
前記既存空間部がモータ室であることを特徴とする請求項1に記載の電動車両用動力伝達装置。
【請求項5】
前記車軸が支持部を介して前記既存空間部に支持されており、前記通気路が前記支持部を貫通する貫通孔であることを特徴とする請求項2に記載の電動車両用動力伝達装置。
【請求項6】
前記モータの前記動力伝達機構側とは反対側に前記インバータが配置され、前記車軸の前記動力伝達機構側とは反対側に前記密封空間部を有し、前記既存空間部がインバータ室またはモータ室であることを特徴とする請求項5に記載の電動車両用動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータからの高周波ノイズの抑制構成を備えた電動車両用動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータを駆動源とする電動車両では、モータを高周波制御するインバータから高周波ノイズがモータ駆動系を介して外部へ放射され、ラジオの聴感に影響を与える等の電波障害が生じ得ることが知られている。その対策として種々の提案がなされている。特許文献1には、デフケースのモータ側に延設された部分に導電性ブラシを摺接させ、トランスアクスルの機構ケースとの間にオイルシ-ルを配置して導電性ブラシを囲むように密封空間を形成し、該密封空間をブリーザー機構を介して外部と連通させる構成が開示されている。ブリーザー機構は、機構ケースを貫通して密封空間に臨む通気用のコネクタと、該コネクタの外部に接続されるホースとを備え、ホースの他端には外部からの異物侵入を阻止する濾過装置を接続する構成となっている。
【0003】
上記密封空間の近傍にはデフケースの回転を支持するベアリングが存在し、反対側には路面の水たまりを走行したときに跳ね水を被りやすい車軸が存在する。走行時のベアリングの発熱により密封空間内の空気が温められて膨張し、温まった状態で水たまりなどの走行で水を被ると急激に冷え、密封空間内の空気が収縮する。密封空間内が温まると外気との圧力差によってシール部位から空気が抜け出し、冷えると吸入することになるが、特に吸入時には外からの異物(泥水など)が侵入し、導電性ブラシやベアリングの損傷を招く虞がある。このため、密封空間において外気との圧力差が生じないようにブリーザー機構が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように導電性ブラシを保護する密封空間が泥水等を被りやすい車軸の近傍にあると、ブリーザー機構のホースの吸気口側(濾過装置側)を泥水等が被りやすい領域から被りにくい場所、例えばボンネットフード内に遠ざける必要があり、ブリーザー機構のレイアウトの難易度が高まるとともに、構成の嵩張り、部品数の多さによる高コスト化を避けられない。他の従来技術においてもブリーザー構成は似通っており、同様の問題を抱えている。
【0006】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ブリーザー機構の要素を極力少なくして構成の簡易化、低コスト化に寄与する電動車両用動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の電動車両用動力伝達装置(2)は、モータ(4)と、モータ(4)を高周波制御するインバータ(6)と、回転軸(8L、8R)を有し、モータ(4)の動力を駆動輪(10L、10R)に伝達する動力伝達機構(12)と、回転軸(8R)に接触する接地用の導電性部材(14)と、導電性部材(14)の設置部位を密封する密封空間部(16)と、を備え、密封空間部(16)が、圧力調整部材(18)を備えた既存空間部(20)に通気路(22)を介して連通していることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る電動車両用動力伝達装置によれば、インバータ室(20)等の既存空間部に常備される圧力調整部材(18)を外部との通気口として共用することができるので、ブリーザー機構の構成を簡易且つ低コストで構築することができる。なた、従来のようにブリーザーホースを泥水等が被りにくい場所へ這い回す必要もないので、ブリーザー機構の嵩張りを少なくすることができる。
【0009】
また、上記の電動車両用動力伝達装置(2)では、回転軸が車軸(8R)である構成としてもよい。これによれば、動力伝達経路の最下流において高周波ノイズを効率的に抑制することができる。
【0010】
また、上記の電動車両用動力伝達装置(2)では、既存空間部がインバータ室(20)である構成としてもよい。これによれば、インバータ室(20)に常備される圧力調整部材(18)を外部との通気口として共用することができるので、ブリーザー機構の構成を簡易且つ低コストで構築することができる。
【0011】
また、上記の電動車両用動力伝達装置(2)では、既存空間部がモータ室(34)である構成としてもよい。これによれば、モータ室(34)に常備される圧力調整部材(18)を外部との通気口として共用することができるので、ブリーザー機構の構成を簡易且つ低コストで構築することができる。
【0012】
また、上記の電動車両用動力伝達装置(2)では、車軸(8R)が支持部(64)を介して既存空間部(20、34)に支持されており、通気路(22)が支持部(64)を貫通する貫通孔である構成としてもよい。これによれば、圧力調整部材(18)を共用する既存空間部(20、34)と密封空間部(16)との間の距離が接近して通気路(22)を短くできるので、ブリーザー機構の構成を一層簡易化できる。
【0013】
また、上記の電動車両用動力伝達装置(2)では、モータ(4)の動力伝達機構側(12)とは反対側にインバータ(6)が配置され、車軸(8R)の動力伝達機構側(12)とは反対側に密封空間部(16)を有し、既存空間部がインバータ室(20)またはモータ室(34)である構成としてもよい。これによれば、圧力調整部材(18)を共用する既存空間部(20、34)と密封空間部(16)との間の距離が接近して通気路(22)を短くできるとともに部品の付加がないので、ブリーザー機構の構成を一層簡易化できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ブリーザー機構の要素を極力少なくして構成の簡易化、低コスト化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電動車両用動力伝達装置の概要断面図である。
【
図2】
図1で示した電動車両用動力伝達装置における密封空間部周辺の一部断面の拡大図である。
【
図3】
図1で示した電動車両用動力伝達装置における車軸を支持する構成の要部側面図である。
【
図5】
図1で示した電動車両用動力伝達装置における密封空間部のブリーザー構成を示す拡大断面図である。
【
図6】
図1で示した電動車両用動力伝達装置の一部破断の斜視図である。
【
図7】
図1で示した電動車両用動力伝達装置における密封空間部の通気路形成の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る電動車両用動力伝達装置2は、モータ4と、モータ4を高周波制御するインバータ6と、回転軸としての車軸8L、8Rを有し、モータ4の動力を駆動輪10L、10Rに伝達する動力伝達機構12と、図中右側の車軸8Rに接触する接地用の導電性部材14(
図5参照)と、導電性部材14の設置部位を密封する密封空間部16(
図5参照)と、を備え、密封空間部16が、圧力調整部材18を備えた既存空間部としてのインバータ室20に通気路22を介して連通している。圧力調整部材18は、既存空間部内の圧力が上昇したときは外部に排気して圧力を下げ、圧力が低下した場合には外部から吸気して圧力を上げる圧力調整機能を有している。
【0018】
モータ4は、モータケース24と、モータケース24内に固定されたステータ26と、ステータ26の内周側に回転可能に配置されたロータ28と、ロータ28の内周部に固定されたロータ軸30と、ロータ軸30内に固定された出力軸32と、を備え、モータケース24の内部空間はモータ室34としてなる。モータ室34は不図示の圧力調整部材を備えた既存空間部である。モータ4の動力伝達機構12側(図中左側)とは反対側(図中右側)にインバータ6が配置されており、インバータ6はインバータケース36で覆われている。インバータケース36で覆われた内部空間がインバータ室20である。インバータ6は、ステータ26のモータコイルに接続されて不図示のスイッチング素子により電流の向きを変える高周波制御器として機能する。電動車両用動力伝達装置2は、車軸8Rの動力伝達機構12側とは反対側に密封空間部16を有している。
【0019】
動力伝達機構(トランスアクスル)12は、機構ケース38と、該機構ケース38内に収容された減速機構40と、差動機構42と、を備えている。減速機構40は、出力軸32に一体回転可能に連結された入力軸44と、該入力軸44に固定された入力ギヤ46と、カウンタ軸48と、カウンタ軸48に固定され、入力ギヤ46と噛み合う第1カウンタギヤ50と、カウンタ軸48に固定された小径の第2カウンタギヤ52と、を備えている。
【0020】
差動機構42は、機構ケース38に回転可能に支持された差動ケース54と、差動ケース54に固定され、第2カウンタギヤ52に噛み合うリングギヤ56と、差動ケース54内に収容され、差動ピニオンシャフト58にて回転可能に支持される差動ピニオンギヤ60と、差動ピニオンギヤ60に対して両側方から噛み合うように差動ケース54内に回転可能に支持され、スプライン等の接続手段を介して車軸8L、8Rと機械的に接続されている一対のサイドギヤ62と、を備えている。
【0021】
図2は、密封空間部16の周辺における一部断面の拡大図である。車軸8Rはモータケース24の下部に一体に形成された支持部64にベアリング66を備えた軸受68を介して支持されている。支持部64にはインバータケース36も固定されており、換言すれば、車軸8Rが支持部64を介してインバータ室(既存空間部)20に支持されている。支持部64は、通気路22が穿設される基部64Aと、車軸8Rが挿通される挿通孔64aを有する支持本体部64Bとを有している。軸受68はボルト70で支持本体部64Bに固定されている。
図3に示すように、軸受68は2つの固定片68aを有しており、支持本体部64Bに2箇所で固定されている。
図4は
図3のX-X線での断面図である。
【0022】
図5は密封空間部16の周辺をさらに拡大した断面図である。密封空間部16は車軸8Rの軸方向両側をシール部材72、74でシール(密封)されている。密封空間部16内には、帯板を屈曲させた形状の導電性部材14が、支持片75に固定されたホルダ76に保持されており、その先端は車軸8Rの外周面に電気的に接触している。導電性部材14は不図示の導線で機構ケース38に接続されており、機構ケース38を介して不図示の車体への接地がなされている。支持部64の基部64Aと軸受68との間の隙間は充填部材78で埋められており、通気路22は基部64A、充填部材78および軸受68を一連に貫通する貫通孔として形成されている。これにより、導電性部材14が収容された密封空間部16とインバータ室20は通気可能に連通している。密封空間部16は、電食防止や除電機能の維持の観点から導電性部材14が接触する摺接部を保護する機能も担っている。
【0023】
図6に示すように、インバータ室20は圧力調整部材18を備えている。本実施形態における圧力調整部材18は、多孔質膜などの通気性を有する膜材で構成することができる。このような圧力調整部材18は、通気により外気との圧力差をなくす機能を有している。具体的には、PTFE(フッ素樹脂)の多孔質膜からなり、通気性を確保しながらも外部からの水(湿気)の侵入を防ぐことができる。またインバータ室20の内部で、万一、例えば電気回路が短絡するなどして爆発に近い急激な内部膨張による高気圧が発生した場合であっても、圧力調整部材18自体がケース筐体(インバータ室20)から外れて吹き飛び、ケース筐体そのものの破損を防ぎ二次被害を軽減させる機能を有している。モータ室34も同様の圧力調整部材18を備えている。このような圧力調整部材18の設置は従来から行われており、インバータ室20とモータ4は塵埃が侵入しにくいドライでクリーンな既存空間部である。
【0024】
導電性部材14が収容された密封空間部16と、圧力調整部材18を備えた既存空間部であるインバータ室20とが通気路22で連通されることにより、密封空間部16が外気と連通するブリーザー機構が構築されている。すなわち、本実施形態では密封空間部16の外気との連通をインバータ室20の圧力調整部材18を利用することにより実現している。換言すれば、既存空間部の圧力調整部材18を外部との通気口(吸気口)として利用(共用)することにより、密封空間部16のブリーザー機構の要素を少なくしている。
【0025】
上記のように、密封空間部16とインバータ室20との間を穿孔して通気路22を形成するだけで密封空間部16の圧力調整を行なうブリーザー機構を構築できるので、従来のようにブリーザー用のホース(パイプ)を泥水等が被りにくい場所へ延ばしたり、ホースの吸気口側に濾過装置を設けるなどの構成は不要となる。これにより、構成の嵩張り、部品数の多さによる高コスト化を回避することができる。導電性部材14が収容された密封空間部16の容積は十分に小さく、通気量も少ないので、ここで発生したコンタミネーションによるインバータ室20内への影響は無視できる程度に小さい。
【0026】
本実施形態では密封空間部16とインバータ室20とを通気路22で連通する構成としたが、
図7(a)に示すように、圧力調整部材18を備えたモータ室34に連通する構成としても上記と同様の効果を有するブリーザー機構を構築することができる。また、
図7(b)に示すように、インバータ室20とモータ室34との間が通気口80で連通され、1つの圧力調整部材18をインバータ室20とモータ室34とで共用する構成の場合にも密封空間部16とモータ室34とを連通する構成とすれば上記と同様の効果を有するブリーザー機構を構築することができる。逆に、共用する圧力調整部材18がモータ室34にあり、密封空間部16がインバータ室20と連通している場合も同様である。
【0027】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では密封空間部16とインバータ室20との間に貫通孔を形成して通気路22を形成する構成としたが、密封空間部16と、圧力調整部材18を備えたインバータ室20やモータ室34とをブリーザー用のホースで接続する構成としてもよい。この場合、ホースという別部品が要るものの、ホースを泥水が被りにくい場所へ延ばしたり、ホースの吸排気口側に濾過装置を設けるなどの構成は不要となる利点を享受できる。
【0028】
また、上記実施形態ではモータ4の動力伝達機構12側とは反対側にインバータ6を配置し、支持部64に貫通孔を形成して通気路22の最短構成を例示したが、モータ4とインバータ6の配置は上記に限定されず、密封空間部16とインバータ室20やモータ室34と通気路22やホースで連通させる構成は種々の態様をとることができる。また、導電性部材14とこれを収容する密封空間部16の配置位置も車軸8Rに限定されず、高周波ノイズによる電波障害を抑制できる範囲で動力伝達機構12の経路上の他の回転軸に配置してもよい。また、上記実施形態では接地部材として帯板を屈曲させた形状の導電性部材14を例示したが、導電性ブラシを採用してもよい。また、圧力調整部材18は上記の例に限定されず、適正な圧力調整機能が得られる範囲で種々のものを採用することができる。
【0029】
また、本発明の実施対象は電気自動車に限らず、ハイブリッド車両のように、モータを少なくとも駆動源の一部として備えた電動車両も含む。
【符号の説明】
【0030】
2 電動車両用動力伝達装置
4 モータ
6 インバータ
8L、8R 回転軸
8R 車軸
12 動力伝達機構
14 導電性部材
16 密封空間部
18 圧力調整部材
20 インバータ室(既存空間部)
22 通気路
24 モータケース
26 ステータ
28 ロータ
30 ロータ軸
32 出力軸
34 モータ室
36 インバータケース
38 機構ケース
40 減速機構
42 差動機構
44 入力軸
46 入力ギヤ
48 カウンタ軸
50 第1カウンタギヤ
52 第2カウンタギヤ
54 差動ケース
56 リングギヤ
64 支持部
64A 基部
64B 支持本体部