(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162931
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20241114BHJP
【FI】
B60W30/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023087296
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】518389602
【氏名又は名称】株式会社FUTU-RE
(72)【発明者】
【氏名】土屋 査大
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA18
3D241BC04
3D241CC01
3D241CC17
3D241CE09
3D241DA55Z
3D241DB01Z
3D241DB02Z
3D241DB13Z
3D241DB20Z
(57)【要約】
【課題】自動走行する車両において、旋回時の乗り心地を最適化する車両制御装置を実現する。
【解決手段】車両の旋回時に、車両重心に働く慣性力ベクトルの時間微分のノルムの二乗積分値が最小になるように車両の速度と角速度を制御することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動走行する車両において、車両の速度と旋回時における角速度を自動制御する車両制御装置であって、
前記車両の旋回時に、下記(1)式で示される、前期車両重心に働く慣性力ベクトルの時間微分のノルムの二乗積分値Sが最小になるように前記車両の前記速度と前記角速度を制御する、
車両制御装置。
【数1】
ただし、Fは前記車両の重心に働く慣性力ベクトルであり、Tは旋回にかかる時間である。
【請求項2】
前記二乗積分値Sを最小にするために、下記(2)、(3)式の連立微分方程式を満たす前記速度と前記角速度を算出して前記車両を制御する、
請求項1に記載の車両制御装置。
【数2】
ただし、vは前記速度であり、ωは前記角速度であり、λ
1とλ
2は定数である。
【請求項3】
前記車両の旋回前に、前記(2)、(3)式の連立微分方程式を計算し、その計算の結果得られた前記速度vと前記角速度ωに関する情報を記憶し、その事前に記憶された当該情報に基づいて車両を制御する、
請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記速度と前記角速度から前記車両の走行経路を演算し、その当該走行経路と前記速度に従って車両を制御する、
請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記走行経路は、下記(4)式によって演算される経路半径rで表される走行経路であり、
前記速度は、下記(5)式によって演算される速度vである、
請求項4に記載の車両制御装置。
【数3】
ただし、φは旋回中心周りの車両の旋回角度であり、rは前記旋回中心からの経路半径である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の速度と角速度を自動制御する車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1では、車両を自動走行させる際の経路追従制御において乗り心地を向上させる方法について考察している。この文献では、旋回時には旋回角速度(ヨーレート)を時間の2次関数で変化させるとヨーレート微分値の二乗平均平方根が最小になり、乗り心地の最適化が図れるとしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】土屋他、「低速車両における経路追従制御」、自動車技術会(学術講演会予稿集(春))、2020年5月、文献番号20205112
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術では一定速度を前提にしている。しかし、旋回時には減速したほうが旋回中の遠心力を低減でき、乗り心地の改善が見込まれる。
【0005】
本発明では、加減速も考慮して最適な旋回を実現する車両制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するために、
本発明の第1の態様は、自動走行する車両において、車両の速度と角速度を自動制御する車両制御装置であって、
前記車両の旋回時に、下記(1)式で示される、車両重心に働く慣性力ベクトルの時間微分のノルムの二乗積分値Sが最小になるように前記車両の前記速度と前記角速度を制御する。
【0007】
【数1】
ただし、Fは慣性力ベクトルであり、Tは旋回時間である。
【0008】
本発明の第1の態様において、前記二乗積分値Sを最小にするために、下記(2)、(3)式の連立微分方程式を満たす前記速度と前記角速度を算出して車両を制御する。
【0009】
【数2】
ただし、vは前記速度であり、ωは前記角速度であり、λ
1とλ
2は定数である。
【0010】
また、前記車両の旋回前に、前記(2)、(3)式の連立微分方程式を計算し、得られた前記速度と前記角速度に関する情報を記憶し、その事前に記憶された当該情報に基づいて車両を制御する。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、
前記角速度と前記速度から車両の走行する走行経路を演算し、その当該走行経路と前記車両速度に従って車両を制御することを特徴とする。
また、前記走行経路は、下記(4)式によって演算される経路半径rで表される走行経路であり、前記速度は、下記(5)式によって演算される速度vである。
【0012】
【数3】
ただし、φは旋回中心周りの車両の旋回角度であり、rは前記旋回中心からの経路半径である。
【0013】
本発明によれば、旋回中の慣性力ベクトルの時間微分のノルムの二乗積分が最小になり、乗り心地を最適化する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、車両速度と旋回角速度を自動制御する車両制御装置において、旋回時の乗り心地を最適化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態の車両制御装置における概略の全体構成を示すブロック図
【
図2】実施例における経路半径r、車両速度v、旋回角速度ωの変化
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。ただし、以下に述べる実施形態は本発明を適用した形態の例であって、本発明が本実施形態の内容により限定されることはない。
【0017】
以下、本発明を適用した一実施形態に係わる、車両速度と旋回角速度を自動制御する車両制御装置について説明する。
図1は、実施形態の車両制御装置における概略の全体構成を示すブロック図である。
図1に示すように、実施形態の車両制御装置10は、自己位置推定部11と、走行計画部12と、記憶装置13と、走行制御部14と、操舵装置21と、舵角センサ22と、駆動装置23と、速度センサ24とを含んで構成される。
【0018】
自己位置推定部11は、車両の自己位置を推定し、推定した自己位置情報を走行計画部12へ送る。
【0019】
走行計画部12は、車両の自己位置から、計画速度と計画角速度を出力し、車両制御部14へ送る。
【0020】
走行計画部12は、記憶装置13に記憶してある情報を使うこともできる。
【0021】
走行制御部14は、計画値に従って車両が走行するために、速度と舵角をフィードバックとして入力し、駆動装置23及び操舵装置21へ指令を与える。
【0022】
駆動装置23は、走行制御部14からの駆動指令に従い車両速度を制御する。
【0023】
操舵装置21は、走行制御部14からの操舵指令に従い舵角を制御する。
【0024】
速度センサ24は、車両の速度を検知する。
【0025】
舵角センサ22は、車両の舵角を検知する。
【0026】
次に、
図1の走行計画部における、計画速度と計画角速度の決定方法について説明する。
【0027】
旋回中の物体には加減速と遠心力による慣性力ベクトルFが働く。
【0028】
【数4】
ただし、mは物体質量であり、vは車両速度であり、ωは車両の旋回角速度である。
【0029】
慣性力が急激に変化することは、乗り心地の悪化を招く。そこで乗り心地を改善するため慣性力の変化を最低限にすることを目指す。慣性力変化を定量的に表すため、慣性力ベクトルの時間微分の大きさの二乗積分Sを算出する。
【0030】
【0031】
この二乗積分Sが最小になるように車両速度と旋回角速度を決ることにより、車両の乗り心地を最適化することができる。
【0032】
最適化するにあたり、拘束条件として、旋回開始時と終了時は、速度一定V0でヨーレートは0とする。
また、旋回距離Lと旋回角度Θは一定として最適化する。
【0033】
【0034】
慣性力Fの定義より、二乗積分Sを以下のように変形する。
【0035】
【0036】
二乗積分Sが最小になる極値を求めるため、以下のラグランジュ関数Jを考える。
【0037】
【数8】
ここで、λ
1とλ
2はラグランジュ乗数である。
【0038】
ラグランジュ関数Jの変分は、以下の式になる。
【0039】
【0040】
式を整理して、拘束条件を考慮すると、次式が得られる。
【0041】
【0042】
従って、常にδJ=0(極値)になるには、次の2つの微分方程式を満たす必要がある。
【0043】
【0044】
fの定義を入れて整理すると、次の式が得られる。
【0045】
【0046】
上記2つの微分方程式を満たす車両速度と旋回角速度で走行すれば、上記二乗積分が最小化され、乗り心地の最適化が図れる。
【0047】
実際には、上記微分方程式を解くのは簡単ではないため、事前に数値積分の最適化問題などで解いた結果としての車両速度と旋回角速度の時系列データを記憶しておき、そのデータに従って車両を制御しても良い。
【0048】
車両を自動制御する際は、目的ルートに沿って走ることも重要視されるので、旋回角速度を直接指令するよりも、計画経路に沿うように指令する方が制御上都合が良い。従って上記微分方程式を解いた結果の車両速度と旋回角速度から得られる車両の経路データを記憶しておき、その経路に沿うように車両を制御すれば、乗り心地の最適化が図れる。
【0049】
経路データは近似式で表しても良い。
【0050】
本実施形態によれば、旋回時における慣性力の時間微分の大きさの二乗積分が最小化され、乗り心地の最適化が図れる。
【0051】
本発明を適用した際の、車両速度と旋回角速度の変化を
図2に示す。横軸は旋回角度、実線は車両速度、破線は旋回角速度、点線は経路半径を表す。またその際の経路を
図3に示す。この際の計算条件は以下のとおりである。
・進入および脱出速度:1m/s
・総旋回角度:90度
・旋回経路長さ:1.57m
常微分方程式はMatlab(登録商標)のode23で計算し、終了条件と拘束条件の誤差の二乗和を評価関数として、Matlabの非線形計画法ソルバーfminsearchを使って最適化を行った。
この結果の経路半径rと車両速度vを6次多項式近似すると、次の2つの式が得られる。
【0052】
【数13】
ただし、φは旋回中心周りの車両の旋回角度であり、rは前記旋回中心からの経路半径である。
【0053】
以上、本発明に係る車両制御装置について説明したが、本発明を適用可能な構成は、本明細で示した図面に限定されることはなく、多様な構成に対して本発明を適用可能である。
また、本発明の各構成要素は、ハードウェア及びソフトウェアどちらで実現しても良い。
【符号の説明】
【0054】
10・・・車両制御装置
11・・・自己位置推定部
12・・・走行計画部
13・・・記憶装置
14・・・走行制御部
21・・・操舵装置
22・・・舵角センサ
23・・・駆動装置
24・・・速度センサ