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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162933
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】層状熱素子
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/17 20230101AFI20241114BHJP
   C25D 11/10 20060101ALI20241114BHJP
   C25D 11/18 20060101ALI20241114BHJP
   C25D 11/04 20060101ALI20241114BHJP
   H10N 10/01 20230101ALI20241114BHJP
   H10N 10/854 20230101ALI20241114BHJP
   H10N 10/855 20230101ALI20241114BHJP
   C25D 11/08 20060101ALN20241114BHJP
【FI】
H10N10/17 Z
C25D11/10
C25D11/18 301C
C25D11/04 101Z
H10N10/01
H10N10/854
H10N10/855
C25D11/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023087298
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】593194018
【氏名又は名称】小野田 浩三
(72)【発明者】
【氏名】小野田 浩三
(57)【要約】
【課題】温度差不要な熱電素子であっても100℃以下の低温で安定して作動し、積層可能なものを提供する。
【解決手段】非晶性強誘電体として、アルミニウム基材12を、pKa値2.5未満の強酸基を持つ多塩基酸浴中で電解してできた酸化皮膜11を基材とともに煮沸し、残留電解質を除去するとともに非晶質常誘電体として擬ベーマイトを酸化皮膜表面に生成させる。そして、その酸化皮膜内の自発分極を促すような仕事関数を有する対極9を、イオン液体を含む合成樹脂10を介して皮膜表面に被覆する。この構成により、100℃以下の低温でも温度差なく安定した電力を得ることができる。また、こうした構成物を積層することで積層数に比例した電力を得ることができる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム純度96%以上99.85%未満の純アルミニウムまたはアルミニウム合金を、酸基の少なくとも一つ以上のpKa値が2.5未満の多塩基酸浴中で形成させた電解酸化皮膜に、熱水処理または加熱水蒸気による蒸煮処理を施し、その皮膜表面に典型元素からなるアルミニウムの仕事関数以下の仕事関数を持つ金属、または典型元素を主体としたアルミニウムの仕事関数以下の仕事関数を持つ合金もしくは導電性無機化合物を、合成樹脂層を介して配した層状熱素子。
【請求項2】
高純度アルミニウムを、酸基の少なくとも一つ以上のpKa値が2.5未満の多塩基酸浴中で形成させた電解酸化皮膜に、熱水処理または加熱水蒸気による蒸煮処理を施し、その皮膜表面に黒鉛型炭素を、合成樹脂層を介して配した層状熱素子。
【請求項3】
酸基の少なくとも一つ以上のpKa値が2.5未満の多塩基酸が、シュウ酸である請求項1及び2の層状熱素子。
【請求項4】
電解酸化皮膜が、電解電圧実効値で10Vより大きく20V未満の交流波によって形成される請求項1及び2の層状熱素子。
【請求項5】
合成樹脂層が、常温での体積抵抗率が10Ωcm以上1012Ωcm以下からなる合成樹脂、または常温での体積抵抗率が10Ωcm以上1014Ωcm以下からなる合成樹脂にイオン液体を1%以上5%以下添加してなるものである請求項1及び2の層状熱素子。
【請求項6】
純アルミニウムまたはアルミニウム合金、および高純度アルミニウムが、板材または箔材からなり、その片面または両面に電解酸化皮膜を形成した請求項1及び2の層状熱素子。
【請求項7】
熱水処理または加熱水蒸気による蒸煮処理が、90℃以上の熱水への浸漬、または2気圧以上5気圧以下の加熱水蒸気への暴露である請求項1及び2の層状熱素子。
【請求項7】
典型元素からなるアルミニウムの仕事関数以下の仕事関数を持つ金属が、マグネシウムである請求項1の層状熱素子。
【請求項8】
典型元素を主体としたアルミニウムの仕事関数以下の仕事関数を持つ合金が、マグネシウムアルミニウム亜鉛合金、マグネシウムリチウム亜鉛合金、マグネシウムアルミニウムカルシウム合金、マグネシウムリチウム合金、アルミニウムリチウム合金、アルミニウムカルシウム合金の内少なくとも一つである請求項1の層状熱素子。
【請求項9】
典型元素を主体としたアルミニウムの仕事関数以下の仕事関数を持つ導電性無機化合物が、12CaO・7Alの電子化物である請求項1の層状熱素子。
【請求項10】
黒鉛型炭素が、等方性黒鉛、グラファイトの内少なくとも一つである請求項2の層状熱素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解酸化皮膜を用いた発電体、および発電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テルル・ビスマス系の汎用のゼーベック素子に85℃の温度差を設けると、低温下でも2.5kW/mと太陽光発電の10倍もの電力に変換できる。しかし、温度差を作るための冷却方法が補機動力性の小さい常温での空冷あるいは地下水やクーリングタワーによる水冷では数℃程度の温度差しか得られない。大きな温度差をつくるには逆に膨大なエネルギーを必要とし有効な冷却方法がない。
【0003】
そこで、小さな温度差でも高電力を得るため、特許文献1に示すようなアルミニウムの陽極酸化皮膜の多孔質性を利用し、皮膜上に熱電材料を堆積して多孔質化することで熱伝導率を低下させる技術が開発された。また、冷却すなわち温度差を必要としない、配向分極を利用した熱電素子(特許文献2)やバンドギャップ幅の違いを利用した熱電素子(特許文献3)、熱電子放出現象を利用した熱電素子(特許文献4)も開発された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-102156号公報
【特許文献2】特許第6944168号公報
【特許文献3】特許第6551849号公報
【特許文献4】特許第6147901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の多孔質熱電材料は、高温で熱電性能が発揮できるような熱電材料を用いなければならない。特許文献2の熱電素子は、片端または両端を絶縁体で構成するため、積層して直列化するなどした立体的な構成は難しく、平面的な構成による微小電力用途しか見込めない。特許文献3の熱電素子では、200~500℃の高温での使用が限定されている。特許文献4の熱電素子は、金属ナノ粒子の分散が不安定で安定した発電が得られない懸念がある。熱電変換を求められる環境の多くは100℃以下であり、常温に近いほどその用途は広がる。こうしたことから低い温度で安定して作動し、かつ大きな電力を生み出すことのできる熱電変換技術が求められている。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みて開発したものであり、100℃以下の低温下で温度差なしに安定して発電するとともに、積層して大きな電力を生み出すことのできる素子を開発することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、純アルミニウム電解酸化皮膜中に厚み方向の巨大な電子密度傾斜が存在することを確認した。それを電力に有効に結び付けるため、熱水処理や蒸煮処理を施すとともに、基材の電解条件や不純物の影響、対極となる導電性物質の影響、対極を仲介する合成樹脂の条件などを検討することで、温度差を必要とせず低温で安定して発電し、さらに積層することで積層数に比例した電力を得ることのできる層状構成物を見出した。
【0008】
その層状構成物とは、アルミニウム純度96%以上99.85%未満の純アルミニウムまたはアルミニウム合金を、酸基の少なくとも一つ以上のpKa値が2.5未満の多塩基酸浴中で形成させた電解酸化皮膜に、熱水処理または加熱水蒸気による蒸煮処理を施し、その皮膜表面に典型元素からなるアルミニウムの仕事関数以下の仕事関数を持つ金属、または典型元素を主体としたアルミニウムの仕事関数以下の仕事関数を持つ合金もしくは導電性無機化合物を、合成樹脂層を介して配したものである、ことを特徴としている。
【0009】
また、別の層状構成物は、高純度アルミニウムを、酸基の少なくとも一つ以上のpKa値が2.5未満の多塩基酸浴中で形成させた電解酸化皮膜に、熱水処理または加熱水蒸気による蒸煮処理を施し、その皮膜表面に黒鉛型炭素を、合成樹脂層を介して配したものである、ことを特徴としている。
【0010】
酸基の少なくとも一つ以上のpKa値が2.5未満の多塩基酸が、好ましくはシュウ酸であっても良い。シュウ酸浴での皮膜は他の多塩基酸に比べ高い電力密度が得られる。
【0011】
電解酸化皮膜の形成において、好ましくは、実効電圧値で10Vより大きく20V未満の交流波によると良い。この電圧域の交流波は、直流よりも高い電力密度が得られる。
【0012】
合成樹脂層が、好ましくは、常温での体積抵抗率が10Ωcm以上1012Ωcm以下からなる合成樹脂であっても良く、また、常温での体積抵抗率が10Ωcm以上1014Ωcm以下からなる合成樹脂にイオン液体を1%以上5%以下添加したものであっても良い。合成樹脂層の体積抵抗率を下げることにより得られる電力が大きくなる。
【0013】
純アルミニウムまたはアルミニウム合金、および高純度アルミニウムが、好ましくは、板材もしくは箔材からなり、その片面または両面に電解酸化皮膜を形成したものであっても良い。これらを最終的に熱電素子にしたとき、片面の場合は、直列に積層して電圧を上げたり、並列にするためアルミニウム基材同士、対極同士を対面に交互に積層して電流を増加させたりできる。両面の場合は、対極を両面に配し断面の電解酸化皮膜を一部除去して基材を露出し極板とすることで片面の2倍の電力を確保することができ、巻回構造をとって集積化を図ることもできる。
【0014】
熱水処理または加熱水蒸気による蒸煮処理とは、電解酸化皮膜中に残留する酸や酸根の除去または電解酸化皮膜表面を擬ベーマイトに変化させて内部短絡を防ぐためのものであり、好ましくは、90℃以上の熱水への浸漬、もしくは2気圧以上5気圧以下の加熱水蒸気への暴露が良い。
【0015】
典型元素からなるアルミニウムの仕事関数以下の仕事関数を持つ金属とは、好ましくはマグネシウムであると良い。周期表の1族と2族に属する他の金属は空気中での酸化が著しく、発火などの危険性が伴い好ましくない。
【0016】
典型元素を主体としたアルミニウムの仕事関数以下の仕事関数を持つ合金は、好ましくは、マグネシウムアルミニウム亜鉛合金、マグネシウムリチウム亜鉛合金、マグネシウムアルミニウムカルシウム合金、マグネシウムリチウム合金、アルミニウムリチウム合金、アルミニウムカルシウム合金が良い。これらは、低仕事関数物質が多いにもかかわらず空気中で安定なものが多い。
【0017】
典型元素を主体としたアルミニウムの仕事関数以下の仕事関数を持つ導電性無機化合物は、好ましくは、12CaO・7Alの電子化物が良い。仕事関数が低い無機化合物には、BaO、SrO、CaOなどの酸化物があるが不安定であり、12CaO・7Alの電子化物は仕事関数が2.4eVとカリウム並みに低いにもかかわらず300℃程度まで安定であり、また電気伝導性も高い。
【0018】
黒鉛型炭素とは、好ましくは、等方性黒鉛、グラファイトが良い。これらは、六方晶系結晶構造をもつ導電性物質でアルミニウムの電解酸化皮膜と組み合わせることで炭素側が陽極となる特異性を持つ。しかし、高純度アルミニウムの電解酸化皮膜と組み合わせることで特に高い電力が得られ、中でも等方性黒鉛は仕事関数が高く特に好ましい。グラファイトはアルミニウムよりも仕事関数が低いにもかかわらず比較的高い電力が得られる。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、温度差を必要とすることなく100℃以下の低温で電力を生み出すことができる積層可能な層状熱素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、アルミニウム基材を電解する電源や電解槽および温度調節器の様子を記載した正面図(電解槽は透視図)である。
図2図2は、電解処理と熱水処理や蒸煮処理を施したアルミニウム基材と合成樹脂や対極との組み込み例の斜視図である。
図3図3は、電解処理と熱水処理や蒸煮処理を施したアルミニウム基材と合成樹脂や対極による層状構成例の断面図である。
図4図4は、試験片を電極に組み込んだものを、熱電対付きヒーターを組付けた精密バイスに挿入するところを描いた側面図である。
図5図5は、試験片を測定して得たI-Vグラフの第2象限と第3象限を示した例である。
図6図6は、試験片を測定して得たI-Vグラフの第2象限に電力グラフを組み込んだ例である。
図7図7は、試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフ例である。
図8図8は、シュウ酸浴交流電解した酸化皮膜の透過電子顕微鏡H-9500(日立ハイテク製)で観察した断面写真であり、電子エネルギー損失分光装置Quantum ER(Gatan製)で測定を行うための電子線照射位置および電解皮膜、皮膜表面の蒸着炭素、基材のアルミニウムを図示している。
図9図9は、図8で図示した電子線照射位置において電子エネルギー損失分光測定を行ったグラフである。
図10図10は、純アルミニウムをシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、純マグネシウムをスパッタリングした試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフである。
図11図11は、純アルミニウムをシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、純マグネシウムをスパッタリングした試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータを第2~第3象限にグラフ化したものである。
図12図12は、純アルミニウムをシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、Mg合金を接着剤だけで接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフである(対照のため、マグネシウムをスパッタリングしたものも掲載)。
図13図13は、純アルミニウムをシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、Mg合金を接着剤だけで接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータを第2~第3象限にグラフ化したものである。
図14図14は、純アルミニウムをシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を含浸した紙とその上にMg合金を載せた試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフである(対照のため、マグネシウムをスパッタリングしたものも掲載)。
図15図15は、純アルミニウムをシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を含浸した紙とその上にMg合金を載せた試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータを第2~第3象限にグラフ化したものである。
図16図16は、純アルミニウムをシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤でMg合金を接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータから得たピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフである(対照のため、マグネシウムをスパッタリングしたものも掲載)。
図17図17は、純アルミニウムをシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤でMg合金を接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータを第2~第3象限にグラフ化したものである。
図18図18は、純アルミニウムをシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤で基材と同じ純アルミニウムを接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフである(対照のため、Mg合金を接合したものも掲載)。
図19図19は、純アルミニウムをシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤で基材と同じ純アルミニウムを接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータからの起電力と温度の関係をプロットしたグラフである(対照のため、Mg合金を接合したものも掲載)。
図20図20は、市販のシュウ酸浴皮膜品と硫酸浴皮膜品をMg合金とイオン液体を含む接着剤で接着した試験片を用意し、それぞれの試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフである。
図21図21は、純アルミニウムを種々の直流電圧でシュウ酸浴電解して煮沸処理したものに、Mg合金を直接接触させた試験片を用意し、20℃の試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と直流電圧との関係をプロットしたグラフである。
図22図22A図22Bは、それぞれ純度99.5%純アルミニウムと純度99.999%高純度アルミニウムをシュウ酸浴交流電解してできた皮膜上面を光学顕微鏡MX-61(オリンパス製)で観察した写真である。
図23図23は、純アルミニウムのシュウ酸浴交流電解および硫酸浴交流電解して煮沸処理したものに、それぞれイオン液体を含む接着剤でMg合金と接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフである(対照のため、市販のシュウ酸皮膜品をMg合金と接着したものも掲載)。
図24図24は、純アルミニウムを50Hzの方形波において種々の交流電圧でシュウ酸浴電解して煮沸処理したものに、Mg合金を直接接触させた試験片を用意し、20℃での試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と電解電圧との関係をプロットしたグラフである。
図25図25は、純アルミニウムを50Hz、15Vの方形波、三角波、正弦波でシュウ酸浴電解して煮沸処理したものに、イオン液体を含む接着剤でMg合金を接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフである(対照のため、市販のシュウ酸皮膜品をMg合金と接着したものも掲載)。
図26図26は、純アルミニウムを15Vの方形波において0~500Hzの種々の周波数でシュウ酸浴電解して煮沸処理したものに、イオン液体を含む接着剤でMg合金を接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と電解周波数の関係をプロットしたグラフである
図27図27は、純アルミニウムをシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、体積抵抗率の異なる接着剤にイオン液体を添加したものでMg合金を接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度とイオン液体を添加していない接着剤の体積抵抗率との関係をプロットしたグラフである。
図28図28は、純アルミニウムをシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、濃度の異なるイオン液体を添加した接着剤でMg合金を接合した試験片を用意し、各試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフである。
図29図29は、純アルミニウムをシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤で対極として各種典型金属や半金属、合金および各種遷移金属を接合した試験片を用意し、60℃での各試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と各対極の仕事関数の関係をプロットしたグラフである。
図30図30は、純度が異なるアルミニウム基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤で対極にMg合金、アルミニウム、スズ、黒鉛とをそれぞれ接合した試験片を用意し、60℃での試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と各対極の仕事関数の関係をプロットしたグラフである。
図31図31は、図30の仕事関数3.7eVのMg合金を対極にした試験結果群を、ピーク電力密度とアルミニウム純度の関係にプロットし直したグラフである。
図32図32は、純度が異なるアルミニウムおよびアルミニウム合金をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤でMg合金を接合した試験片を用意し、60℃でのそれぞれの試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と不純物濃度の関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<本発明実施形態を形成するための試験片作成方法とデータ作成方法>
本発明の中心となるものは電解酸化皮膜であり、試験片の作製にはその皮膜の形成方法が重要となる。そこで、図1に示す装置を採用した。角型ガラス容器1に電解用水溶液3と撹拌子4を入れ、その周囲4面を10mm厚発泡スチロール2で断熱したものに3本の銅パイプを通し、両端のパイプに黒鉛板7と中央のパイプにアルミニウム基材8を銅線で吊り下げる。黒鉛板7とアルミニウム基材8はプログラマブルAC/DC電源EC750SA(エヌエフ回路設計ブロック製)6の陰極端子と陽極端子にそれぞれ接続している。この発泡スチロール2で囲まれたガラス容器1は、クールスターラーCPS-30(井内盛栄堂製)5の電熱面に置かれ撹拌子4を低速回転させながら電解用水溶液3の温度を制御する。電源6は、直流だけでなく、種々の波形の交流を出力することができる。
【0022】
図1の装置でできた電解酸化皮膜は皮膜内部に電解液および酸根が残留しており、これを除去するため熱水中に浸漬したり蒸煮したりする。この工程により電解酸化皮膜表面には擬ベーマイト皮膜が形成される。この工程を経たものが、図2および図3における皮膜12でありアルミニウム基材11の表面に形成される。これに樹脂10と対極9が被覆される。ただし、図2図3は本発明単体の代表例であり、図3のものが積層される場合や皮膜12がアルミニウム基材両面に施され両面に樹脂10や対極9が被覆される場合、それらが巻回構造をとる場合、対極9が蒸着膜やスパッタリング膜などである場合、基材12が成形品や押出形材である場合、樹脂10や対極9が表面の一部である場合など様々な場合が想定される。
【0023】
図4のように、こうしてできた本発明の単体試験片13からアルミ製電極14と断熱材15で挟んだもの16を作り、精密バイスVMV-20(VERTEX製)17に組み付けられた熱電対付きヒーターWALN-3(坂口電熱製)21間に挿入して圧締ボルト18を軽く締めバイス17に固定する。さらに、ヒーター21および挿入したもの16の側面を10mm厚の発泡ポリプロピレンで断熱する。これを低温恒温器SB01(ETAC製)に入れ、ヒーター21がつながれた温度コントローラーModel335(Lake Shore製)と低温恒温器により試験片の両面および側面を同一温度に制御する。そして、アルミニウム基材側を陽極、対極材側を陰極になるようにエレクトロメーター8252(エーディーシー製)で電圧を印加しながらI-Vデータをとる。
【0024】
I-Vデータは第2象限および第3象限すなわち印加電圧がマイナス側でのみ採用したが、これは、アルミニウム基材側を陽極とする場合、電力や起電力データがこの象限でのみ得られるからである。図5図6の曲線24がI-Vデータ例であり、x軸との交点25が解放電圧すなわち起電力を表す。また、I-V曲線24からIV積を計算してプロットすると電力曲線26が得られ、ここからピーク電力27が得られる。さらに、ピーク電力を試験片の対極の接合面積で除したピーク電力密度の測定温度との関係をプロットすると図7の温度依存性曲線28が得られる。この測定条件を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
<本発明の成り立ちを形成する実施形態>
本発明の成り立ちを形成する実施形態について図を交えて詳細に説明する。電解酸化皮膜には電気的整流性があり、皮膜生成過程でアルミニウムに接した内層にアルミニウムイオン過剰のn型半導体酸化物、中間層に化学量論組成の真正半導体酸化物、外層に酸素イオン過剰のp型半導体酸化物が形成されたアモルファス半導体であるとされている。しかし、この内部構成による電子密度差では、拡散電位による障壁が生じて起電力が生じることはない。ゼーベック効果のように、内部に障壁のない電子密度差を作りその拡散により電力を生み出さなくてはならない。
【0027】
図8は、純度99.5%のアルミニウムを3wt%シュウ酸浴中で15Vの50Hz方形波交流で90分電解して得られた酸化皮膜の透過電子顕微鏡による断面写真である。29が酸化皮膜(2.3μm厚)であり、外層から内層の275nm間隔9か所(32~40)に電子ビームを当て電子エネルギー損失分光測定を行った。低エネルギー損失領域を観察した結果が図9である。9個の低エネルギー損失領域観察結果(32´~40´)が皮膜外層から内層のビーム照射位置の9か所(32~40)に対応しており、そのプラズモン損失エネルギーピークを直線で近似した直線42とx軸の垂線41との間で約0.75eVの傾斜が現れることが確認された。一方、純度99.999%の高純度アルミニウムにはこうした傾斜は認めらなかった。
【0028】
純度99.5%のアルミニウムに現れるこの傾斜は、プラズモン損失エネルギー曲線32´と40´と近似直線42の交点の値から、電子密度、プラズモン損失エネルギー、
3.3×1022cm-3の電子密度傾斜に相当する。
【0029】
【数1】
【0030】
電解酸化皮膜はアモルファス半導体であるため、この電子密度傾斜は局在準位の密度傾斜として現れる。局在準位は、歪んだ結合やドーパント、不純物、ダングリングボンド等の影響で形成されるが、高純度アルミニウムの電解酸化皮膜には傾斜が現れないことから、この密度傾斜の原因はアルミニウム中の不純物にあるものと考えられる。そのため、不純物による傾斜の方が半導体形成に関わる傾斜を上回っていると考えられ、半導体形成による拡散電位の影響は相対的に低くなる。すなわち、不純物による局在準位が密度傾斜を持ち、その中の電子や正孔が比較的自由に局在準位から局在準位にホッピング拡散することで電力が生まれるものと考えられる。
【0031】
式1よりこの電子密度はプラズモン損失エネルギーに比例するため、図8図9から電子は電子密度の高い内層から外層に拡散していくことが分かる。一方、この皮膜の対極をアルミニウムより低仕事関数の物質にすると、極板同士を負荷回路につないだ平衡状態では、極板同士のフェルミエネルギーが一致するよう近づいて、極板間にある皮膜のエネルギーバンドは対極の方に傾き、傾き方向が皮膜内部の電子拡散方向と一致する。こうして、より高い起電力が得られ電力を増大できるようになる。逆に、高仕事関数物質を対極とすることで電子密度傾斜による電子拡散が妨げられ電力は低下する。
【0032】
しかし、電解酸化皮膜表面がp型半導体である場合、熱水処理や蒸煮処理により電解酸化皮膜が変化してできる擬ベーマイトもp型半導体になると考えられ、対極に低仕事関数物質を用いようとすると、ショットキー障壁を生じ高い電力は生じない。それを確かめるため、純度99.5%のアルミニウム基材(仕事関数4.28eV)を表2の条件で得られた酸化皮膜の表面に純マグネシウム(仕事関数3.66eV)を0.1μm厚に低温スパッタリングした試験片を用意した。
【0033】
【表2】
【0034】
この試験片を表1の条件で60℃におけるI-V特性を調べたものが図11であり、そこから得られたピーク電力密度を測定温度毎にプロットしたものが図10である。図10の温度依存性曲線43から、60~100℃の高温域においても1nW/cmに満たない低い値しか示さず、図11では、曲線44とx軸の交点45から-2V付近まで曲線44がx軸に漸近してショットキー障壁特有の整流曲線が現れ、擬ベーマイト皮膜表面もp型半導体であることが確認された。すなわち、接合に低仕事関数物質は適しない。
【0035】
ところが、合成樹脂を介して対極を接合させると電力が大きくなることを見出した。プレポリマーが皮膜表面に染み込んでも、硬化後には絶縁体であり接触抵抗の低減には繋がらない。すなわち、その現象は、界面において合成樹脂を介することで、ショットキー障壁を低下させ発電能力を高められることを意味している。
【0036】
それを図12および図13に示す。図12および図13は、純度99.5%のアルミニウムを表2のような条件で得られた酸化皮膜の表面に純マグネシウムと同等の仕事関数を持つマグネシウムアルミニウム亜鉛合金AZ31(仕事関数3.7eV)をエポキシ樹脂接着剤(体積抵抗率4.1×1011Ωcm、ガラス転移点-65℃、以下略称を接着剤Aとする)で常温接着(1MPa)したものを試験片としている。
【0037】
図12は、マグネシウムスパッタリング試験片の温度依存性曲線43と比較しており、接着剤Aによる温度依存性曲線46の方が高い電力を示している。また、図13は、表1の条件で60℃におけるI-V特性を調べたものであり、I-V曲線47が交点48から先にx軸に漸近する傾向がなく直線的でショットキー障壁特有の現象が現れなくなり、合成樹脂がショットキー障壁を低下させることを示唆している。
【0038】
また、イオン液体のような電解質を介した場合は、ショットキー障壁にかかわりなく高い電力を発生することを見出した。例えば、メチルトリブチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド(電気伝導度2.2mS/cm、窓電位5.7V、以下略称を[N1444][NTf]とする)イオン液体を含浸した40μm厚のグラシン紙を、純度99.5%のアルミニウム基材の表2の条件で得られた皮膜とAZ31板の間に接着剤の代わりに挿入することで大きな電力を発生する。
【0039】
それを図14および図15に示す。図14は、マグネシウムスパッタリング試験片の温度依存性曲線43と比較しており、イオン液体の温度依存性曲線49の方が3桁も高い電力を示している。図12の接着剤などと比較しても桁外れの電力を生じるにもかかわらず、図15では交点51から-2.3V付近までI-V曲線50がx軸に漸近してショットキー障壁による整流曲線が現れている。すなわち、イオン液体は、ショットキー障壁に左右されることなく電力を生じさせることを示している。
【0040】
この現象は、イオン液体を電解液、基材側を陽極(還元極)、対極側を陰極(酸化極)とする化学反応による電力が生じて発生したものではない。化学反応の場合、電解酸化皮膜の電子密度傾斜により電子が対極側に移動して酸化極となる対極を還元するような挙動を示し、得られる電力が極度に低下することになるからである。
【0041】
しかし、このイオン液体ではバルク材の固定や蒸着などができず、一方、絶縁体である合成樹脂では微弱な電流しか流れず高い電力は望めない。イオン液体は、界面活性剤などと異なり水分の介在なく単独で電気伝導性を示すため、合成高樹脂にイオン液体を添加して電気伝導率を高められる可能性がある。これができれば、イオン液体を添加することで、ショットキー障壁にかかわりなく電力を高められる合成樹脂ができることを意味する。
【0042】
それを図16および図17に示す。図16および図17は、純度99.5%のアルミニウム基材を表2のような条件で得られた酸化皮膜の表面に図12および図13で用いた接着剤Aに[N1444][NTf]イオン液体を5wt%添加したものでAZ31板を常温接着(1MPa)し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。
【0043】
図16は、マグネシウムスパッタリング試験片の温度依存性曲線43と比較しており、温度依存性曲線52の方が2桁も高い電力を示している。また、図17では、交点54から-3V付近までI-V曲線53がx軸に漸近してショットキー障壁による整流曲線が現れている。これは、イオン液体のわずかな添加により、ショットキー障壁に左右されず電力を高められるようになったことを示している。
【0044】
ここまでは、このアルミニウム基材の対極をアルミニウムより低仕事関数の物質にした事例を示してきたが、ここで、対極を基材と同じアルミニウムにした事例を示す。それが、図18図19であり、これらは純度99.5%のアルミニウム基材を表2の条件で得られた酸化皮膜の表面に接着剤Aに[N1444][NTf]イオン液体を5wt%添加したもので基材と同じ純度99.5%のアルミニウムを常温接着(1MPa)し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。
【0045】
図18では、温度依存性曲線55が、同じアルミニウム同士で電解酸化皮膜を挟んだものであり、アルミニウムとAZ31で電解酸化皮膜を挟んだ温度依存性曲線52と比較している。一方、図19では、起電力の温度依存性を示しており、曲線57が同じアルミニウム同士で電解酸化皮膜を挟んだものであり、アルミニウムとAZ31で電解酸化皮膜を挟んだもの56と比較している。
【0046】
図18から、温度依存性曲線52は温度依存性曲線55より1桁高い電力密度を示しており、これは、AZ31による効果であるが、温度依存性曲線55のように同じアルミニウム間では電解質が存在しても電位差がないため化学反応による電力が生じることはない。すなわち、温度依存性曲線55の電力密度は、前述の電解酸化皮膜中の電子密度傾斜に起因する物理現象の結果であることを示している。一方、図19における曲線57と曲線56との差は、60℃以上で0.56Vの一定値をとり、素電荷をこの起電力差分逆らって移動させるエネルギーが0.56eVであるから、アルミニウムとAZ31との仕事関数差0.58eVとほぼ一致している。すなわち、アルミニウムとAZ31とのフェルミエネルギー差分のエネルギーバンドの傾斜が起電力差として反映されている。
【0047】
このような段階的な実験の結果見出された事象が本発明の発端となっている。ここからは、本発明の要件の一部となる表2の皮膜形成条件や合成樹脂の条件、イオン液体の条件などを図に基づき詳細に説明する。
【0048】
<本発明の要件を構成する実施形態>
本発明のアルミニウムの電解酸化皮膜とは、直流や交流、直交重畳といった電解方法の如何にかかわらず、アルミニウムをpKa値2.5未満の酸基を少なくとも一つ以上持つ、例えば、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸などの多塩基酸水溶液中で電解酸化した厚さ1μm以上の皮膜を指す。
【0049】
直流による陽極酸化皮膜は、アルミニウムに接する箇所に薄いバリヤー皮膜を形成し、その上に直径数十nmの細孔を表面に向けたハチの巣様の多孔質皮膜を形成した構造からなる。市販される電解酸化皮膜品は硫酸浴やシュウ酸浴中での直流(もしくは直流と交流との重畳)で行った陽極酸化皮膜品であるが、電力はこの陽極酸化皮膜でも得られる。
【0050】
図20は、市販のアルミニウム押出型材30×30mmアングルから採取したサンプル(硫酸浴陽極酸化皮膜品、膜厚6μm)および家庭用調理品から採取したサンプル(シュウ酸浴陽極酸化皮膜品、膜厚13μm)を[N1444][NTf]イオン液体を5wt%添加した接着剤AでAZ31板を常温接着し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。前者の温度依存曲線が59、後者のものが58であり、いずれの陽極酸化皮膜品も電力を生じ、皮膜が厚いにもかかわらず後者のシュウ酸浴の方が高い電力を示す。
【0051】
バリヤー皮膜は、電解コンデンサーなどに用いられるホウ酸およびホウ酸アンモニウムなどによる弱酸水溶液を電解液とすることで単独に得られるが、電力を生じる作用はない。このバリヤー皮膜の厚みは電解電圧に比例し、クロム酸>リン酸>シュウ酸>硫酸の順に薄くなる。一方、細孔の密度は電解電圧に反比例し、硫酸>リン酸>シュウ酸の順に小さく孔壁が厚くなるが、クロム酸は孔が不均一で粗質な皮膜となる。
【0052】
これらの傾向は、皮膜の物理形状の形成傾向を示しており得られる電力との相関を表しているものではないが、電力の得られないバリヤー皮膜部分が薄く、また、電流密度を高めるため細孔密度の低い密度の高い膜が好ましいと考えられる。すなわち、シュウ酸浴で皮膜を形成することが好ましいと考えられ、前記市販品による結果と一致する。図21は、電解電圧20~70Vの直流を用いて表3のような条件で陽極酸化皮膜を形成し、AZ31を直接皮膜に接触させて試験片としたものであり、20℃のI-Vデータから得たピーク電力密度をプロットしたものである。この結果から、直流においては、電圧40Vで電解した酸化皮膜から最大の電力が得られる。
【0053】
【表3】
【0054】
一方、交流は、直流のような30V以上の高い電圧での電解では薄い層が何層にも重なった積層構造が現れ電流障壁となり高い電力は期待できない。実効電圧20V以下での電解では積層構造は現れず、また、細孔も形成されにくい。それを示すのが、図22(A)および(B)の光学顕微鏡写真である。表2の条件で形成された電解酸化皮膜で、(A)が純度99.5%のアルミニウム基材、(B)が99.999%純度のアルミニウム基材である。純アルミニウムでは直径がサブミクロンから数ミクロンの孔が低密度でランダムに形成され、高純度アルミニウムに至ってはいずれの孔も見られなくなる。
【0055】
図23は、純度99.5%アルミニウム基材を表2および表4による条件で形成されたシュウ酸浴電解酸化皮膜品および硫酸浴電解酸化皮膜品を用いている。双方とも[N1444][NTf]イオン液体を5wt%添加した接着剤AでAZ31と1MPaで常温接着し、1週間養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。
【0056】
【表4】
【0057】
図23の温度依存性曲線52がシュウ酸浴、温度依存性曲線61が硫酸浴による交流電解品であり、市販のシュウ酸浴皮膜品56(直流電解品)と比較している。この結果から、シュウ酸浴同士の電解酸化皮膜では交流の方が高い電力を示し優れ、市販品同様、シュウ酸浴と硫酸浴電解酸化皮膜とではシュウ酸浴品の方が得られる電力は高い値を示す。
【0058】
図24は、純度99.5%アルミニウム基材を表5による条件で形成された電解酸化皮膜品をAZ31と直接接触させたものを試験片としている。ただし、電解実効電圧は10V、13V、15V、17V、19V、21V、25Vの7種類で行っている。この試験片から20℃でのI-Vデータをとりそのピーク電力密度をプロットしたものが図24の曲線62である。この結果から、電解電圧は実効値で10Vより大きく19V以下が好ましい。
【0059】
【表5】
【0060】
図25は、純度99.5%アルミニウム基材を表6による条件で形成された電解酸化皮膜品を[N1444][NTf]イオン液体を5wt%添加した接着剤AでAZ31と1MPa常温接着し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。ただしここでは、電解波形を正弦波、三角波の2種類の波形で形成した電解酸化皮膜で行い、方形波は、前例(図16における温度依存性曲線52の実施形態)によっている。
【0061】
【表6】
【0062】
図25の温度依存性曲線63が正弦波であり、温度依存性曲線64が三角波である。また、市販のシュウ酸浴皮膜品56(直流電解品)と比較している。この結果、交流波形は、実効値が同じであっても波形によって得られる電力は異なるが、いずれも直流電解品よりも大きな値が現れ交流品が優れていることを示している。中でも、すべての温度域で最大の値を示す方形波が最も好ましい。
【0063】
図26は、純度99.5%アルミニウム基材を表7による条件で形成された電解酸化皮膜品をAZ31に直接接触させたものを試験片としている。表7では、電解周波数に応じて電解時間を変えているが、50Hz時の電解電力量を基準に電解時に得られる電力値から電解電力量が同じになるよう調整をしている。ただし、直流(0Hz)については、電解電圧および電解電圧を前例(図21の実施形態)に基づいて設定している。
【0064】
【表7】
【0065】
こうした試験片から得られたI-Vデータから60℃、80℃、100℃におけるデータを抽出し、そこからのピーク電力密度をプロットしたものが図26である。曲線65、66、67がそれぞれ100℃時、80℃時、60℃時のものである。図26および表7から、電解周波数20Hz以下の低周波数域や100Hzよりも高い高周波数域では皮膜成長が遅く長時間の電解を要し、決して得られる電力も高くない。40~100Hzが高い電力を得られ好ましく、中でも50Hzが特に好ましい。
【0066】
電解温度は、直流において膜が最も成長しやすい範囲が交流においても適用できる。酸濃度はシュウ酸において3~5%が好ましく、1%以下にすると電流密度を維持するために高い電圧を必要とし、得られる電力も低下する。電解時間は、20V以下の実効電圧下においては30分以下で形成される皮膜は電力が得られず、60分以上で1μm以上の皮膜が形成され電力が得られるようになり好ましい。
【0067】
本発明の電解酸化皮膜に次ぎ重要なものはその皮膜表面の熱水処理もしくは蒸煮処理である。これらの処理で電解酸化皮膜表面にその皮膜が水和してできる結晶性の低い擬ベーマイト(酸化水酸化アルミニウム)が形成されるが、この処理を行わないと起電力や電力は得られない。
【0068】
市販される硫酸やシュウ酸などによる陽極酸化皮膜は、その表面の細孔を擬ベーマイトの形成により封孔して耐食性を高めるが、本発明では目的が異なり、皮膜中の残留酸や酸根の除去にある。すなわち、熱水処理や蒸煮処理により電気伝導性のある電解質を除去して内部短絡を回避し電子密度差が有効に起電力や電力として作用することを助けるためである。
【0069】
熱水処理する場合、60℃以下では起電力が現れず、温度が高いほど安定した起電力が得られる。常圧下では擬ベーマイトの形成する90~100℃での処理が良く、加圧下でより高温の熱水で処理をしてもよい。また、電解質を排除した電気抵抗率10Ωcm以上の純水もしくは精製水によることが好ましい。処理時間は電解酸化皮膜の厚さにもよるが10~30分程度であり、1~3μm程度の厚みの皮膜には10分程度で良く、長時間行って擬ベーマイトを成長させても得られる電力の差は見られない。
【0070】
また、蒸煮処理においては、蒸気中に電解質が含まれないため水道水の利用が可能な利点がある。ゲージ圧2気圧以上の飽和水蒸気下で擬ベーマイトが形成されはじめ、50気圧より高い圧力下では擬ベーマイトの結晶性が高まりベーマイトに近づくが、擬ベーマイトの生成により皮膜中の残留酸や酸根の除去という目的は達成できるため、2~5気圧程度の低圧加熱水蒸気処理で良い。また、熱水処理と同様処理時間は10~30分程度が好ましい。
【0071】
本発明の重要な要素として、皮膜を形成したアルミニウム基材と対極の間に介在させる合成樹脂が挙げられる。その重要性は、基材のアルミニウムと異なる仕事関数物質を表面に配することができるようにすることにある。皮膜中の電子密度傾斜方向に電子は拡散するため、電子密度傾斜と同じ方向にエネルギーバンドを曲げることで電子移動し易くなる。しかし、この合成樹脂も絶縁体であり、電子移動を促す低い体積抵抗率が要求される。
【0072】
図27は、純度99.5%アルミニウム基材を表2による条件で形成された電解酸化皮膜品を[N1444][NTf]イオン液体を5wt%添加した表8(メーカー公表値を記載)に示す種々のエポキシ樹脂接着剤でAZ31と1MPaで常温接着し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。
【0073】
【表8】
【0074】
図27の曲線はイオン液体を含まない状態の接着剤A~Fの常温での体積抵抗率と、イオン液体を添加した試験片A~Fから得たI-Vデータによるピーク電力密度の関係をプロットしたものである。ここで、曲線68、69、70は、それぞれ20℃、60℃、100℃の温度下で測定して得たプロットを近似したものである。
【0075】
この結果から、イオン液体を添加した試験片のピーク電力密度とイオン液体を添加する前の常温での体積抵抗率の関係が比例しなくなる。すなわち、合成樹脂の違いによりイオン液体の効果が異なることを示している。しかし、常温での体積抵抗率が1015Ωcm域のものは明らかに全温度域で低い値を示し、この程度まで体積抵抗率が高まるとイオン液体の効果が低下することを示している。合成高分子は常温で10Ωcm以下のものは存在しないことから、イオン液体を添加しない場合は、図12における温度依存性曲線46の実施形態より10Ωcm以上1012Ωcm以下のものが好ましく、イオン液体を添加する場合は、常温での体積抵抗率が10Ωcm以上1014Ωcm以下であることが好ましい条件となる。用いられる合成樹脂としては、エポキシ樹脂やポリウレタン樹脂のほか、ポリアミド樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、酢酸セルロース樹脂、プロピオン酸セルロース樹脂、ニトロセルロース樹脂などが好適に挙げられる。
【0076】
本発明では、バルクの金属や合金、半金属、導電性化合物などを合成樹脂で接合するか、もしくは、それらの物質を蒸着やスパッタリング、イオンプレーティング法などにより薄膜を合成樹脂層の上に施すと良い。また、蒸着やスパッタリング、イオンプレーティング法、CVD法により金属などの上に前記物質を堆積させ、それを合成樹脂で接合しても良い。その時の要件は合成樹脂層が厚く抵抗が大きくなりすぎないことが必要で厚さ1~4μm程度が良い。バルクの接合においては、同等の厚みを作り上げるために塗布量を3~5g/mに抑え0.5~5MPaの圧力で圧締することが好ましい。
【0077】
<本発明の成り立ちを形成する実施形態>にある実施形態で示したように、合成樹脂にイオン液体を添加することで電気伝導度を高め電力を高めることができる。イオン液体とは、常温で液体となっているカチオンとアニオンからなる有機塩を指す。
【0078】
カチオン種として、ジアルキルイミダゾリウムイオン、アルキルヒドロキシメチルイミダゾリウムイオン、ジアルキルピロリジニウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、ジエチル(メトシキエチル)メチルアンモニウムイオン、コリンイオン、メチルトリヒドロキシメチルアンモニウムイオン、ジアルキルピペリジニウムイオン、テトラアルキルホスホニウムイオン、トリアルキルスルホニウムイオンなどが安定であり好適に挙げられる。
【0079】
また、アニオン種として、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン、トリフルオロメタンスルホネートイオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、トリフルオロ酢酸イオン、メトキシ酢酸イオン、ジシアノアミドイオン、チオシアネートイオン、ジシアナミドイオンなどが安定であり好適に挙げられる。
【0080】
これらルイス酸性の低いカチオン種とルイス塩基性の低いアニオン種の組合せにより、イオン性が高く、耐熱性、低蒸気圧、高電位窓、イオン伝導性に優れたものが得られ好ましい。
【0081】
樹脂の電気伝導性を高めるためにはイオン液体の電気伝導度は高い方が好ましく、1mS/cm以上あることが特に好ましい。電位窓は、本発明の起電力が1V以上に達する場合を考慮し2V以上あることが望ましい。また、用いられる合成樹脂により効果が異なり、高体積抵抗率樹脂やシリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂などは効果が低い。さらに、合成樹脂との反応に関与するものを用いても得られる電力を高められない。
【0082】
エポキシ樹脂では、電気伝導度が1mS/cm程度のイオン液体を1~30%添加することで、その凝集力を変えることなく電力を高められる。これを図28に示す。
【0083】
図28は、純度99.5%アルミニウム基材を表2による条件で形成された電解酸化皮膜品を[N1444][NTf]イオン液体を0~30wt%各種添加した接着剤AでAZ31と1MPaで常温接着し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。
【0084】
図28の各曲線は、I-Vデータからピーク電力密度を求め、電力密度と温度の関係をプロットしたものである。曲線71は、イオン液体を含まない接着剤Aで接合したものであり、曲線72、73、74、75はそれぞれ1wt%、5wt%、10wt%、30wt%の[N1444][NTf]イオン液体を接着剤Aに添加して接合したものである。この結果、1wt%程度で接着剤単独に比べ電力の向上が認められ、また、5wt%添加しても30wt%添加と同等の電力しか得られない。これ以上は、凝集力を犠牲にしたりする程度まで添加しないと電力の増加は見込めない。こうしたことから1~5wt%程度の添加が好ましい。
【0085】
こうして構成される層状熱素子は、本発明を特徴付ける4つの特異的な現象が現れる。
【0086】
<本発明を特徴付ける実施形態>
第1に、電解酸化皮膜の基材となるアルミニウムが純アルミニウムの場合、対向する物質の仕事関数がアルミニウムの仕事関数以下の典型元素からなる金属や合金に高い電力が現れ、遷移元素では現れない。これを図29に示す。
【0087】
図29は、純度99.5%アルミニウム基材を表2による条件で形成された電解酸化皮膜品を[N1444][NTf]イオン液体を5wt%添加した接着剤Aで対極材として表9の金属および合金と1MPa常温接着し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。
【0088】
図29の曲線76は表9の中の典型金属および合金を対極とした場合の60℃のI-Vデータから得られるピーク電力密度をプロットしたものを近似した曲線である。また、曲線77は表9の中の遷移金属を対極とした場合の近似曲線である。点78は、炭素(黒鉛)による特異点である。
【0089】
この中で、LZ91、AZ31およびp型Si以外の仕事関数は、(社)日本物理学会編、物理データ辞典、p321(2006)、p型Siの仕事関数は、静電気学会編、静電気ハンドブック、p1239(1998)から引用しており、LZ91およびAZ31は紫外光電子分光装置Versa Probe(PHI製)で測定したデータを用いている。ここで、p型Siは単結晶、Cは等方性黒鉛、SbとSeは鋳造品、他は圧延品を用いている。
【0090】
【表9】
【0091】
第2に、アルミニウムの純度が高くなるに従い得られる電力が小さくなる傾向があり、高純度アルミニウムに至っては極性が反転し、高仕事関数物質との組み合わせほど電力が大きくなる。これを図30および図31に示す。
【0092】
図30は、純度99%、99.5%、99.85%、99.999%のアルミニウム基材を表2による条件で形成された電解酸化皮膜品を[N1444][NTf]イオン液体を5wt%添加した接着剤Aで対極材として表10の金属および合金と1MPaで常温接着し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。
【0093】
【表10】
【0094】
図30の破線83は合金AZ31を対極として接合したグループを示し、破線84、85、86は、それぞれ基材と同じアルミニウムのグループ、スズのグループ、黒鉛のグループを示している。また、白丸記号(79)は基材が純度99%のアルミニウム、黒丸記号(80)は基材が純度99.5%のアルミニウム、四角記号(81)は基材が純度99.85%のアルミニウム、三角記号(82)は基材が純度99.999%のアルミニウムを示しており、60℃におけるそれぞれの試験片のI-Vデータから得られるピーク電力密度をプロットしている。
【0095】
図31は、図30の合金AZ31を対極として接合したグループ(破線83)をアルミニウムの純度とピーク電力密度の関係に書き直したものである。
【0096】
この第2の現象は、アルミニウム基材の不純物に起因していると考えられる。ただし、高純度アルミニウムについては、プラズモン損失エネルギーピークに傾斜が認められていない。本来、PIN型半導体としての電子密度傾斜があることから、相反する傾斜の電子密度が隠れていることを示唆している。これにより、拡散電位と相まって極性が反転した電力が現れているものと考えられる。
【0097】
第3に、電解酸化皮膜の基材となるアルミニウムに対向する物質がAZ31の場合、アルミニウムの不純物濃度が2%程度の時最も高い電力が得られ、アルミニウムが高純度化するほど電力が小さくなり、また不純物濃度が4%を超えると電力が急激に低下することである。これを図32に示す。
【0098】
図32は、純度99%、99.5%、99.85%の純アルミニウムと99.999%の高純度アルミニウムおよび表11のアルミニウム合金1~7を表2による条件で形成された電解酸化皮膜品を[N1444][NTf]イオン液体を5wt%添加した接着剤Aで合金AZ31と1MPa常温接着し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。
【0099】
ここで、表11の合金の成分は、試験片に隣接した基材より抽出した部分を蛍光X線分析装置ZSX primus(リケン製)で分析したものであり、この中のアルミニウム成分を純分とし、純アルミニウムおよび高純度アルミニウムの純分とともに100%との差を不純物濃度として描いたものが図32である。
【0100】
こうして得られる曲線88は、60℃におけるそれぞれの試験片のI-Vデータから得られるピーク電力密度とこの不純物濃度との関係をプロットしそれを近似したものである。
【0101】
【表11】
【0102】
第4に、黒鉛型炭素を用いるとアルミニウム側が陰極に反転し、殊に基材が高純度アルミニウムを用いると大きな電力が得られることである。これを図29(点78)および図30に示す。
【0103】
これらの現象を俯瞰的に考察することで高い電力が生み出される構成が得られる。第1~第3の現象は第1発明のものに繋がり、第2と第4の現象は第2発明のものに繋がっている。
【実施例0104】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【実施例0105】
<アルミニウム基板の作製>
純度99.5%の純アルミニウム原板(0.3mm厚)を用意し、そこから50(W)×60(L)mmの角板を切り出す。その後アセトンに1分間浸漬して脱脂し、片面にアクリル塗料を塗布し乾燥後120℃で30分さらに140℃で5分焼き付けする。これを水酸化ナトリウム2.3wt%、水酸化カリウム1.5wt%の混合水溶液中に5分間浸漬したものを水道水で洗い表面をウエスでアルミニウム表面を軽く擦り酸化皮膜を除去する。そして純水中に浸漬して撹拌洗浄してウエスで表面の水を拭い基板を得る。
【0106】
<基板の電解酸化処理と熱水処理>
市販の無水シュウ酸30gと純水970gから3wt%シュウ酸水溶液を作ったものを図1の角型ガラス製電解槽(120×120×150mm)1に入れクールスターラー5で30℃に保つ。中央の陽極側銅パイプに40(W)×100(L)mmの純アルミニウム板、両側の陰極側銅パイプに28(W)×100(L)mmの純アルミニウム板を銅線で吊り下げ30Vの直流を電源6で90分間印加して水溶液中にアルミニウムイオンを溶解する。その水溶液からアルミニウム板を取り出し、陽極側に用意したアルミニウム基板を水溶液中に約35mm浸漬する状態に吊り下げ、陰極側には84(W)×120(L)の炭素板を吊り下げる。この状態で撹拌子4で水溶液を撹拌しながら30℃に保ち、電源6から実効電圧15Vの方形波交流を90分間印加して基板表面に電解酸化皮膜を形成する。電解処理終了後、純水で洗浄したものを500ccの純水を沸騰させた熱水に10分間浸漬して熱水処理を終える。処理後、水道水で洗浄し60℃で1時間乾燥する。
【0107】
<基板小片と対極小片の作成>
熱水処理を終え乾燥した基板片面の塗膜をアセトンで除去し、小片(17(W)×30(L)mm)を抽出する。一方、対極は0.2mm厚のマグネシウムリチウム亜鉛合金LZ91から小片(15(W)×28(L)mm)を抽出し、両面を石定盤上に#1000エメリー紙を置いて研磨し、基材小片と重ね合わせる面だけをさらに#8000フィルムで研磨した後ウエスで磨く。
【0108】
<樹脂の混合と接合>
[N1444][NTf]イオン液体を15mg程度秤量し、そこに接着剤Aの主剤と硬化剤をイオン液体の10倍量それぞれ秤量してそれらを混合しイオン液体約5wt%の接着剤を得る。混合した接着剤を対極小片の#8000研磨面に塗布し基材小片の皮膜面と貼り合せる。これを強化ポリエチレンフィルムで挟み加圧力をロードセルで管理できるプレス機の定盤間に挿入して加重410Nで1時間常温放置し接合する。接合後、対極からはみ出た接着剤をアセトンで除去して7日間常温で養生して試験片とする。
【0109】
<試験片のキュアリング>
試験片を図4にように電極14と断熱材15で挟み、精密バイス17の熱電対付きヒーター21間に挿入してさらに試験片側面を断熱材で囲む。そして精密バイス17ごと低温恒温器に入れ、ヒーター21の電源コード22と熱電対23を温度コントローラーに接続する。試験片の接着剤の硬化を完結するためこの状態でヒーター21を100℃に昇温して12時間キュアリングする。
【0110】
<I-Vデータの取得>
まず、-11℃に低温恒温器内で試験片を冷却しヒーター21で-10℃にコントロールする。この状態で陽極側をアルミニウム基材、陰極を対極に接続されたエレクトロメーターで-0.001V、-0.01V~0.07V(0.02V間隔)、-0.1V~-0.8(0.05V間隔)、-0.9~-5V(0.1V間隔)と徐々に印加電圧を下げながら試験片に流れる電流を測定してI-Vデータをとる。この時、それぞれの印加電圧において測定間隔を3.5秒として12回もしくは6回同じ測定を繰り返し、そのうち後半の半分のデータを採用する。-10℃のI-Vデータを取り終えてから直ちに昇温し、低温恒温器内温度を16℃、ヒーター21を20℃に設定して約30分後、-10℃特と同様にI-Vデータを得る。40℃、60℃、80℃、100℃においても同じ要領で行う。ただし、各温度おける印加電圧間隔の設定が異なる。得られたI-VデータからIV積を算出してP-V線図を描き、そこからピーク電力を求める。接着面積が電流通過面積となるため、ピーク電力を対極面積で除することでピーク電力密度が算出される。これを5回繰り返し、最初のデータを除外した計4回のデータを平均したものを最終データとする。
【0111】
<データの評価>
得られた最終データが表12である。20℃程度でもナノワットレベルの電力密度が得られ、温度の上昇に伴い指数関数的に上昇し100℃ではマイクロワットに近いレベルに達する。ここで、試験片の基板側と対極側に温度差がないにもかかわらず、100℃以下の低温環境下で電力が得られることが実証された。
【0112】
【表12】
【0113】
(比較例)
実施例1の電解酸化処理と熱水処理を伴わない試験片を作成した。まず、実施例1と同じ純アルミニウム原板から17(W)×30(L)mmの小片を切り出しアセトンに1分間浸漬して脱脂する。そこに実施例1と同様に用意した対極小片を用意する。用いる混合接着剤および接合方法、養生等は実施例1に準ずることで電解酸化皮膜と擬ベーマイト皮膜のないアルミニウム基材と対極を接合した試験片ができる。
【0114】
<比較試験片の評価>
養生後、試験片をキュアリングしたところ、100℃においてもエレクトロメーター上に現れずI-Vデータの取得は断念した。すなわち、この比較試験片では電力が得られないものと判断できる。
【実施例0115】
ここでは、実施例1の対極にマグネシウムアルミニウム亜鉛合金AZ31(0.2mm厚)を用い、2つの試験片を直列にして測定した。試験片作成要領は実施例1と同じである。試験片のキュアリングは2枚直列に重ね100℃で12時間行った。
I-Vデータの取得およびピーク電力密度の算定要領も実施例1に準じている。
【0116】
<データの評価>
得られたデータが表13である。図16における温度依存性曲線52の実施形態は、同じ試験片単体で行ったデータであるが、ピーク電力密度はほぼ一致しており直列により2倍の電力が得られていることが分かった。
【0117】
【表13】
【実施例0118】
ここでは、実施例2と同様に対極に合金AZ31(0.2mm厚)を用い、2つの試験片を並列にして測定した。試験片作成要領は実施例1と同じである。試験片のキュアリングは2枚試験片のアルミニウム基材同士を合わせて試験片両側と中間にアルミニウム極板を入れた状態でヒーター間に設置し100℃で12時間行っている。2つの試験片の中間の電極を陽極、両端の電極を陰極として測定したが、I-Vデータの取得およびピーク電力密度の算定要領も実施例1に準じている。
【0119】
【表14】
【0120】
<データの評価>
得られたデータが表14である。実施例2と同様、試験片単体で行った図16における温度依存性曲線52のデータと比較すると、ピーク電力密度はほぼ一致しており、直列時と同様並列によっても2倍の電力が得られることが分かった。
【0121】
実施例1と比較例からは、アルミニウムの電解酸化処理および熱水処理による皮膜がなければ、温度差のない低温下で電力を得られないことが分かる。また、実施例2および実施例3のような積層化が可能であるということは、ゼーベック素子や太陽電池などとは異なり、単位体積当たりの電力が物差しとして有効であることを意味する。すなわち、実施例1の組み合わせでは、アルミニウム基材や対極材などが構成できる最小厚みから、表12の電力密度は20~100℃において3~220μW/cmの性能に換算できる。この積層化により本発明の利用範疇は広くなり、ウェアブル発電などの微小発電から蓄熱発電などの大規模発電に至るまで再生可能エネルギー利用の一端を担うことができるものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明によれば、基材と対極の間に温度差がなくても、100~-10℃の温度範囲で発電をすることができる積層可能な層状熱素子を提供することができる。また、このような層状熱素子を用いることによって、100℃~-10℃の温度範囲で様々な発電方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0123】
1…ガラス容器、2…発泡スチロール、3…電解液、4…撹拌子、5…クールスターラー、6…プログラマブルAC/DC電源、7…黒鉛板、8…アルミニウム基材、9…対極、10…合成樹脂、11…基材、12…皮膜、13…試験片、14アルミニウム製電極、15ポリプロピレン発泡断熱材、16…組み合わせ試験片、17…精密バイス、18…締め付け用ボルト、19…ケイ酸カルシウム板、20…アルミナ板、21…熱電対付きヒーター、22…ヒーターコード、23…熱電対補償用コード、24…I-Vデータ、25…交点、26…I-Vデータ換算電力データ、27…電力ピーク点、28…ピーク電力密度温度依存性曲線、29…電解酸化皮膜断面、30蒸着炭素皮膜断面、31…アルミニウム基材断面、32~40…電子ビーム照射点、32´~40´…電子ビーム照射による損失エネルギーグラフ、41…垂線、42プラズモン損失エネルギーピーク近似直線、43、46、49、52、55、58、59、61、63、64、71~75…ピーク電力密度温度依存性曲線、44、47、50、53…I-Vデータ、45、48、51、54…交点(起電力点)、56、57…起電力温度依存性曲線、60、62…ピーク電力密度電解電圧依存性曲線、65~67…ピーク電力密度周波数依存性曲線、68~70…ピーク電力密度体積抵抗率依存性曲線、76、77…ピーク電力密度仕事関数依存性曲線、78…特異点、79…純度99%アルミニウム基材試験片、80…純度99.5%アルミニウム基材試験片、81…純度99.85%アルミニウム基材試験片、82…純度99.999%アルミニウム基材試験片、83…合金AZ31を対極に用いたグループライン、84…基材と同じアルミニウムを対極に用いたグループライン、85…スズを対極に用いたグループライン、86…等方性黒鉛を対極に用いたグループライン、87…ピーク電力密度アルミニウム純度依存性プロット線、88…ピーク電力密度不純物濃度依存性曲線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
【手続補正書】
【提出日】2023-10-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本発明者は、純アルミニウム電解酸化皮膜中の厚み方向上部の価電子密度が低下し下部と上部の間に電荷の偏りが形成されることを確認した。それを電力に有効に結び付けるため、熱水処理や蒸煮処理を施すとともに、基材の電解条件や不純物の影響、対極となる導電性物質の影響、対極との間に介在させる合成樹脂の条件などを検討することで、温度差を必要とせず低温で安定して発電し、さらに積層することで積層数に比例した電力を得ることのできる層状構成物を見出した。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0026
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0026】
<本発明の成り立ちを形成する実施形態>
本発明の成り立ちを形成する実施形態について図を交えて詳細に説明する。電解酸化皮膜には電気的整流性があり、皮膜生成過程でアルミニウムに接した内層にアルミニウムイオン過剰のn型半導体酸化物、中間層に化学量論組成の真正半導体酸化物、外層に酸素イオン過剰のp型半導体酸化物が形成されたアモルファス半導体であるとされている。しかし、この構造には電子密度差があるため内部で電子が拡散するが、拡散を妨げるように電界が生じて拡散電位による障壁を形成してしまい、そのままでは起電力が発生することはない。ゼーベック効果のように、内部に、電子密度差による電荷の偏りを必要に応じて作り出し、それにより起電力を生み出さなくてはならない。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0027
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0027】
図8は、純度99.5%のアルミニウムを3wt%シュウ酸浴中で15Vの50Hz方形波交流で90分電解して得られた酸化皮膜の透過電子顕微鏡による断面写真である。29が酸化皮膜(2.3μm厚)であり、外層から内層の275nm間隔9か所(32~40)に電子ビームを当て電子エネルギー損失分光測定を行った。低エネルギー損失領域を観察した結果が図9である。9個の低エネルギー損失領域観察結果(32´~40´)が皮膜外層から内層のビーム照射位置の9か所(32~40)に対応しており、酸化皮膜表層から中間層(以下上部という)にかけてのプラズモンエネルギーを近似した一点破線 41と酸化皮膜中間層から内層(以下下部という)にかけてのプラズモンエネルギーを近似した一点破線42との間に0.75eV程度の差が現れることが確認された。一方、純度99.999%の高純度アルミニウムにはこうした差は認められなかった。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0028
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0028】
プラズモンエネルギーは、価電子密度、プラズモンエネルギー、電子質量、ディラッ
ギーが10~30eVにおいて、次式が成り立つ。この式より、プラズモンエネルギーは価電子密度に比例し、純度99.5%のアルミニウムに現れたプラズモンエネルギー差0.75eVは、約3.3×1022cm-3価電子密度差として換算される。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0029
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0029】
【数1】
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0030
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0030】
アルミニウムにはSi、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Zn、Tiといった元素(不純物)が含まれる。これらの内、Si、Mg、Cr、Tiは電解により酸化皮膜を形成するとされ、酸化アルミニウムとともにこれらの酸化物も形成される。そして、エネルギーギャップ中にできる結合状態の不規則性や格子欠陥などによる局在準位は増加する。しかし、これらの酸化物も価電子帯はアルミニウムの酸化物と同じ酸素の2p軌道により構成されるので価電子帯には影響を与えない。一方、これら以外の不純物の中でアルミニウムよりも低い原子価を持つことのできるFe、Cu、Znは、価電子帯近傍に不純物準位を形成する能力を持つ。酸化皮膜上部は、電解初期から電解液にさらされることで、皮膜上部の価電子帯近傍に不純物準位が形成される。これにより、価電子帯から不純物準位に電子が励起して、価電子帯に正孔が形成され、価電子密度が低下する。酸化物の場合、価電子帯上端部は酸素の非結合性軌道からできており、正孔は強い局在性を持ち拡散しない。その強い局在性のため、酸化皮膜上部と下部の間に電荷の偏りができて酸化皮膜上部から下部方向に電界が形成される。これが局在準位間をホッピングする電荷の流れを作り出し、電力を生み出している。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0031
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0031】
図8図9からもわかるように、価電子密度の酸化皮膜上部から下部方向に電界を作り、皮膜下部にあたるアルミニウム基材側が陽極、皮膜上部にあたる対極側が陰極を形成 する。ここに、陰極側にアルミニウムより低仕事関数の物質を用いることにより、電子移動方向と同方向にアルミニウムとの仕事関数差に応じたエネルギーバンドの傾きを生み起電力および電力を増大させることができる。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0032
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0032】
電解酸化皮膜表面はp型半導体性を持ち、ショットキー障壁のため低仕事関数物質を直接接合できない。一方、熱水処理や蒸煮処理により擬ベーマイトが表面に形成されている場合も、表面の半導体性が問題となる。そこでそれを確かめるため、純度99.5%のアルミニウム基材(仕事関数4.28eV)を表2の条件で得られた酸化皮膜の表面に純マグネシウム(仕事関数3.66eV)を0.1μm厚に低温スパッタリングした試験片を用意した。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0034
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0034】
この試験片を表1の条件で60℃におけるI-V特性を調べたものが図11であり、そこから得られたピーク電力密度を測定温度毎にプロットしたものが図10である。図10の温度依存性曲線43から、60~100℃の高温域においても1nW/cmに満たない低い値しか示さず、図11では、曲線44とx軸の交点45から-2V付近まで曲線44がx軸に漸近してショットキー障壁特有の整流曲線が現れ、擬ベーマイト皮膜表面もp型半導体であることが確認された。すなわち、低仕事関数物質の直接接合は適しない。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0096
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0096】
この第2の現象は、アルミニウム基材の不純物含有量に起因していると考えられる。高純度アルミニウムに、プラズモンエネルギーに差が認められていないのは、不純物濃度が99.5%純アルミニウムの1/500だからである。プラズモンエネルギー差は、測定装置の分解能0.25eVを下回り検出されず、価電子密度差による電界も小さくなる。この電解酸化皮膜にはPIN半導体形成に伴う平衡電位が存在するが、同時に価電子密度差による逆方向に固定された電位差が存在する。このため、この電位差が印加されると電子拡散が始まり平衡に達しようとする。これが豪純度アルミニウムに生じる電力の起源と考えられる。
【手続補正11】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0123
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0123】
1…ガラス容器、2…発泡スチロール、3…電解液、4…撹拌子、5…クールスターラー、6…プログラマブルAC/DC電源、7…黒鉛板、8…アルミニウム基材、9…対極、10…合成樹脂、11…基材、12…皮膜、13…試験片、14アルミニウム製電極、15ポリプロピレン発泡断熱材、16…組み合わせ試験片、17…精密バイス、18…締め付け用ボルト、19…ケイ酸カルシウム板、20…アルミナ板、21…熱電対付きヒーター、22…ヒーターコード、23…熱電対補償用コード、24…I-Vデータ、25…交点、26…I-Vデータ換算電力データ、27…電力ピーク点、28…ピーク電力密度温度依存性曲線、29…電解酸化皮膜断面、30蒸着炭素皮膜断面、31…アルミニウム基材断面、32~40…電子ビーム照射点、32´~40´…電子ビーム照射による損失エネルギーグラフ、41、42…プラズモンエネルギー近似直線、43、46、49、52、55、58、59、61、63、64、71~75…ピーク電力密度温度依存性曲線、44、47、50、53…I-Vデータ、45、48、51、54…交点(起電力点)、56、57…起電力温度依存性曲線、60、62…ピーク電力密度電解電圧依存性曲線、65~67…ピーク電力密度周波数依存性曲線、68~70…ピーク電力密度体積抵抗率依存性曲線、76、77…ピーク電力密度仕事関数依存性曲線、78…特異点、79…純度99%アルミニウム基材試験片、80…純度99.5%アルミニウム基材試験片、81…純度99.85%アルミニウム基材試験片、82…純度99.999%アルミニウム基材試験片、83…合金AZ31を対極に用いたグループライン、84…基材と同じアルミニウムを対極に用いたグループライン、85…スズを対極に用いたグループライン、86…等方性黒鉛を対極に用いたグループライン、87…ピーク電力密度アルミニウム純度依存性プロット線、88…ピーク電力密度不純物濃度依存性曲線
【手続補正12】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図9
【補正方法】変更
【補正の内容】
図9
【手続補正書】
【提出日】2024-03-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
純アルミニウムまたはアルミニウム合金を基材として基材表面を、酸基の少なくとも一つ以上のpKa値が2.5未満の多塩基酸を少なくとも一種類以上含む酸性浴中で形成させた電解酸化皮膜に、残留電解質除去処理を施し、その表面に合成樹脂を介して導電性物質を配した層状熱素子。
【請求項2】
請求項1の基材の鉄純度が0.1重量%以上1重量%未満であり、かつ、電解酸化皮膜表面に配する導電性物質が基材の仕事関数以下の仕事関数を持つ常磁性体である層状熱素子。
【請求項3】
請求項2の基材がアルミニウム純度96重量%以上99.85%未満の層状熱素子。
【請求項4】
請求項1の基材が高純度アルミニウムであり、かつ、電解酸化皮膜表面に配する導電性物質が黒鉛の仕事関数以上の仕事関数を持つ層状熱素子。
【請求項5】
請求項1の電解酸化皮膜の厚みが1μm以上50μm以下である層状熱素子。
【請求項6】
請求項1の合成樹脂が常温での体積抵抗率が10 Ωcm以上10 12 Ωcm以下のものからなる層状熱素子。
【請求項7】
請求項1の合成樹脂が常温での体積抵抗率が10 Ωcm以上10 14 Ωcm以下のものに1重量%以上10重量%以下のイオン液体を含有したものである層状熱素子。
【請求項8】
請求項1の多塩基酸が、シュウ酸である層状熱素子。
【請求項9】
請求項1の残留電解質除去処理が熱水処理または加熱水蒸気による蒸煮処理である層状熱素子。
【請求項10】
請求項1の電解酸化皮膜が10Vより大きく20V未満、かつ40Hz以上100Hz以下の交流を印加してできる皮膜である層状熱素子。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解酸化皮膜を用いた発電体、および発電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テルル・ビスマス系の汎用のゼーベック素子に85℃の温度差を設けると、100℃に満たない熱源からでも2.5kW/mと太陽光発電の10倍もの電力に変換できる。しかし、大きな電力を得るには実効温度差を大きくする必要があり、低温下での電力獲得には高価な冷却方法や冷却装置に依存することになり、実用化は進んでいない。
【0003】
そこで、小さな温度差でも高電力を得るため、特許文献1に示すようなアルミニウムの陽極酸化皮膜の多孔質性を利用し、皮膜上に熱電材料を堆積して多孔質化することで素子の熱伝導率を低下させゼーベック効果を高める技術が開発された。また、冷却すなわち温度差を必要としない、配向分極を利用した熱電素子(特許文献2)やバンドギャップ幅の違いを利用した熱電素子(特許文献3)、熱電子放出現象を利用した熱電素子(特許文献4)も開発された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5964199号公報
【特許文献2】特許第6944168号公報
【特許文献3】特許第6551849号公報
【特許文献4】特許第6147901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の多孔質熱電材料は、陽極酸化皮膜自体が熱電材料となっているものではなく、特定の熱電素材を用いて高温で性能が発揮できるような熱電材料となっている。特許文献2の熱電素子は、強誘電体の自発分極を利用したものではなく、常誘電体の配向分極を利用するため片端または両端を絶縁体で構成しなければならず、積層して直列化する構成は難しく微小電力用途しか見込めない。特許文献3の熱電素子では、高価な金を用いなければならず、また200~500℃の高温での利用に限定されている。特許文献4の熱電素子は、金属ナノ粒子の均一な分散が難しく安定した発電が得られない懸念がある。熱電変換を求められる環境の多くは100℃以下であり、特に常温以下で達成できると大気中、地中、水中などに存在する膨大な熱エネルギーを利用することが可能になり、地球温暖化を抑制する一助となり得る。こうしたことから低い温度で安定して作動し、かつ大きな電力を生み出すことのできる熱電変換技術が求められている。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みて開発したものであり、温度差を必要とせず100℃以下、特に常温以下の低温下でも安定して発電するとともに、積層して大きな電力を生み出すことのできる素子を開発することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、本来、結晶性の酸化アルミニウムは非強誘電体であるにもかかわらず、非晶性の酸化アルミニウムからなるアルミニウム電解酸化皮膜が強誘電性を持つことを見出した。強誘電体は、結晶方向に左右され自発分極を生ずるが、電解酸化皮膜は皮膜表裏方向に自発分極を生じ電界を作り出す。また、鉄元素がアルミニウム中に一定以上存在すると皮膜分子骨格中に鉄成分がドープされ、分極方向が反転するとともに分極が増大し、さらに組み合わせる物質の磁性と相互作用することを見出した。これらを発電に有効に結び付けるため、処理条件、構成要件等を検討することで、温度差を必要とせず低温で安定して発電し、さらに積層することで積層数に比例した電力を得ることのできる層状構成物を見出した。
【0008】
その層状構成物とは、純アルミニウムまたはアルミニウム合金を基材として基材表面を、酸基の少なくとも一つ以上のpKa値が2.5未満の多塩基酸を少なくとも一種類以上含む酸性浴中で形成させた電解酸化皮膜に、残留電解質除去処理を施し、その表面に合成樹脂を介して導電性物質を配したものである、ことを特徴としている。コンデンサーに利用されるホウ酸、ホウ酸アンモニウム、酒石酸アンモニウムやホウ酸ナトリウム浴のようなアルカリ性から弱酸性域で行う電解皮膜は、強誘電体にはならない。硫酸、クロム酸、リン酸、シュウ酸といった強酸基を一つ以上持つ多塩基酸浴が好ましく、これらの多塩基酸を少なくとも一種類以上用い、混酸であっても良い。残留電解質除去処理とは、こうした残留酸や酸根を皮膜から除去するためのものである。また、合成樹脂は、皮膜中に生じる強誘電性に伴う自発分極と皮膜表面に配する対極との間に作られる電気的障壁による影響を低減もしくは無くすためのものである。
【0009】
この中で、基材の鉄純度が0.1重量%以上1重量%未満であるものにおいては、自発分極が大きく特に好ましい。アルミニウムに含まれる鉄原子は電解皮膜中で酸素原子と共有結合する。この電解皮膜は、自発分極が基材界面側から表面方向に生じ、静電界も同様な方向に生じる。表面が陰極側となりエネルギーバンドが基材界面側から表面側へ上るような形に傾斜する。そのため、表面に低仕事関数物質を配すると、エネルギーバンドの傾斜すなわち分極を助長する働きをする。また、皮膜は弱い反強磁性体となり、皮膜の持つ強誘電体性と相互作用し、磁性エントロピーの小さい側から磁性エントロピーの大きい方へと分極方向を帰着させる。皮膜より磁性エントロピーの大きい常磁性体を表面に配すると分極は常磁性体側へ向き、低仕事関数物質との相性が良い。一方、磁性エントロピーの小さい強磁性体、反強磁性体や反磁性体を配すると分極は反転し、低仕事関数物質との相性が悪い。このような中で、鉄成分を一定以上含有する場合、表面に配する導電性物質がアルミニウムの持つ仕事関数以下の仕事関数を持つ常磁性体であることが好ましい。
【0010】
基材を汎用のものを利用する場合、アルミニウム純度96重量%以上99.85%未満のものを用いると良い。不純物が偏析を起こして皮膜形成不良とならないようなアルミニウム合金は、純度96重量%が限界である。一方、純度が高純度に至るFe成分の少ない純度99.85重量%付近のものは分極方向が拮抗してあまり自発分極を示さなくなる。
【0011】
高純度アルミニウムとは、純度99.99%以上のものを指し、これを基材にした場合、電解酸化皮膜中の自発分極は反転し、その方向は皮膜表面から基材界面側へと向く。皮膜には鉄成分は含有せず、表面に配する導電性物質の磁性との相互作用はない。そのため、表面に配する導電性物質は分極によるエネルギーバンドの傾きから仕事関数の高い物質との組み合わせが好ましい。ただし対極が反磁性体や強磁性体である場合の自発分極は、皮膜表面から基材との界面側へと向き、基材を高純度にした場合と相乗効果が得られる。そこで導電性物質には、反磁性体の黒鉛の仕事関数以上の仕事関数を持つものが好ましい。
【0012】
電解酸化皮膜の厚みについては、1μm以上50μm以下であることが好ましい。1μm以上で自発分極が得られるようになり、50μm以下であれば電気抵抗が大きくなるが自発分極は得られる。
【0013】
電解皮膜と導電性物質との間に介される合成樹脂は、抵抗率が低い方が好ましく、体積抵抗率が10 Ωcm以上10 12 Ωcm以下であることが好ましい。より低い抵抗率を持つものとして導電性ポリマーや金属微粒子含有ポリマーがあるが、前者は半導体であり、後者は金属微粒子と考えられ、直接皮膜と接触することで高い性能は得られない。
【0014】
特に合成樹脂の抵抗率を低減させるため、イオン液体を添加することが好ましい。合成樹脂の種類とイオン液体の添加量により10 Ωcmから10 Ωcm程度低下させ流れる電流量を増加させることができる。合成樹脂に分散したイオン液体は絶縁体中の局在準位的働きをするが、電解酸化皮膜も絶縁体であることから双方のバンドギャップ間でホッピング伝導が行われ対極との間に生じる電気的障壁に関わりなく電気伝導が行なわれ好ましい。
【0015】
pKa値が2.5未満の酸基を持った多塩基酸には、硫酸、クロム酸、リン酸、シュウ酸といった酸があり、こうした酸による電解皮膜内部には自発分極による電界を形成するが、シュウ酸による皮膜は密度が高く電流密度が高くなり好ましい。
【0016】
残留電解質除去処理とは、電解後に酸化皮膜中に残留する酸や酸根の除去により内部短絡を防ぐ役割を担っている。熱水処理または加熱水蒸気による蒸煮処理により、電解皮膜表面が擬ベーマイト(AlOOH)結晶に変化することで残留成分の除去が促され好ましい。また、電解皮膜中に鉄成分を含む場合も、鉄成分を含む擬ベーマイトに変化すると考えられ誘電性および磁性に影響がなく好ましい。
【0017】
電解酸化皮膜は10Vより大きく20V未満、かつ40Hz以上100Hz以下の交流を印加してできる皮膜が好ましい。直流による電解酸化皮膜でも自発分極を持つが、直流の50V以上の高電圧を印加した皮膜よりも、交流による低電圧を印加してできる皮膜の方が自発分極による電力は大きくなり好ましい。
【0018】
こうして、電解酸化皮膜の製造条件、基材の成分要件、合成樹脂の電気伝導要件、表面の導電性物質の仕事関数や磁性要件を満たすことにより皮膜中の自発分極を促し、温度差を必要とすることなく発電ができるようになる。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、温度差を必要とすることなく100℃以下の低温で電力を生み出すことができる積層可能な層状熱素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、アルミニウム基材を電解する電源や電解槽および温度調節器の様子を記載した正面図(電解槽は透視図)である。
図2図2は、電解処理と残留電解質除去処理を施したアルミニウム基材と合成樹脂や対極との組み込み例の斜視図である。
図3図3は、電解処理と残留電解質除去処理を施したアルミニウム基材と合成樹脂や対極による層状構成例の断面図である。
図4図4は、試験片を電極に組み込んだものを、熱電対付きヒーターを組付けた固定治具としての精密バイスに挿入するところを描いた側面図である。
図5図5は、試験片を測定して得たI-Vグラフの第2象限と第3象限を示した例である。
図6図6は、試験片を測定して得たI-Vグラフの第2象限に電力グラフを組み込んだ例である。
図7図7は、試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフ例である。
図8図8は、純度99.5%の純アルミニウム(以下PA2と略す)基材をシュウ酸浴交流電解した酸化皮膜の透過電子顕微鏡H-9500(日立ハイテク製)で観察した断面写真であり、電解皮膜、皮膜表面の蒸着炭素、基材のアルミニウムを図示している。
図9図9は、図8で使用したシュウ酸浴交流電解した酸化皮膜に、二次イオン質量分析装置PHI ADEPT1010(アルバック・ファイ製)でO 一次イオンを皮膜表面に照射しながら表面から基材方向にFe濃度(左軸)およびAlとOの二次イオン強度(右軸)を測定したグラフである。
図10図10は、PA2基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、純Mgをスパッタリングした試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフである。
図11図11は、PA2基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、純Mgをスパッタリングした試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータを第2~第3象限にグラフ化したものである。
図12図12は、PA2基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、Mg合金を接着剤だけで接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフである(対照のため、純Mgをスパッタリングしたものも掲載)。
図13図13は、PA2基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、Mg合金を接着剤だけで接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータを第2~第3象限にグラフ化したものである。
図14図14は、PA2基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を含浸した紙とその上にMg合金を載せた試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフである(対照のため、純Mgをスパッタリングしたものも掲載)。
図15図15は、PA2基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を含浸した紙とその上にMg合金を載せた試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータを第2~第3象限にグラフ化したものである。
図16図16は、PA2基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤でMg合金を接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータから得たピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフである(対照のため、純Mgをスパッタリングしたものも掲載)。
図17図17は、PA2基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤でMg合金を接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータを第2~第3象限にグラフ化したものである。
図18図18は、PA2基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤で基材と同じ純アルミニウムを接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフである(対照のため、Mg合金を接合したものも掲載)。
図19図19は、PA2基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤で基材と同じ純アルミニウムを接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータからの起電力と温度の関係をプロットしたグラフである(対照のため、Mg合金を接合したものも掲載)。
図20図20は、市販のシュウ酸浴皮膜品と硫酸浴皮膜品をMg合金とイオン液体を含む接着剤で接着した試験片を用意し、それぞれの試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフである。
図21図21は、PA2基材を種々の直流電圧でシュウ酸浴電解して煮沸処理したものに、Mg合金を直接接触させた試験片を用意し、試験片を測定して得た20℃でのI-Vデータからのピーク電力密度と直流電圧との関係をプロットしたグラフである。
図22図22A図22Bは、それぞれPA2と純度99.999%高純度アルミニウム(以下HPAと略す)からなる基材をそれぞれシュウ酸浴交流電解してできた皮膜上面を光学顕微鏡MX-61(オリンパス製)で観察した写真である。
図23図23は、PA2基材のシュウ酸浴交流電解および硫酸浴交流電解して煮沸処理したものに、それぞれイオン液体を含む接着剤でMg合金と接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフである(対照のため、市販のシュウ酸皮膜品をMg合金と接着したものも掲載)。
図24図24は、PA2基材を50Hzの方形波において種々の交流電圧でシュウ酸浴電解して煮沸処理したものに、Mg合金を直接接触させた試験片を用意し、試験片を測定して得た20℃におけるI-Vデータからのピーク電力密度と電解電圧との関係をプロットしたグラフである。
図25図25は、PA2基材を50Hz、15Vの方形波、三角波、正弦波でシュウ酸浴電解して煮沸処理したものに、イオン液体を含む接着剤でMg合金を接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフである(対照のため、市販のシュウ酸皮膜品をMg合金と接着したものも掲載)。
図26図26は、PA2基材を15Vの方形波において0~500Hzの種々の周波数でシュウ酸浴電解して煮沸処理したものに、イオン液体を含む接着剤でMg合金を接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と電解周波数の関係をプロットしたグラフである
図27図27は、PA2基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、体積抵抗率の異なる接着剤にイオン液体を添加したものでMg合金を接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度とイオン液体を添加していない接着剤の体積抵抗率との関係をプロットしたグラフである。
図28図28は、純アルミニウムをシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、濃度の異なるイオン液体を添加した接着剤でMg合金を接合した試験片を用意し、各試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフである。
図29図29は、PA2基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤で対極として各種の常磁性体、反磁性体および強磁性体を接合した試験片を用意し、60℃での各試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と各対極の仕事関数の関係をプロットしたグラフである。
図30図30は、基材としてHPA、純度99.85%アルミニウム(以下PA1と略す)、PA2、純度99%アルミニウム(以下PA3と略す)四種類をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤で対極としてMg合金、等方性黒鉛、基材と同じAl、Snをそれぞれ接合した計16種類の試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータから60℃でのデータを抽出してピーク電力密度と各対極の仕事関数の関係をプロットしたグラフである。
図31図31は、アルミニウム純度が異なる基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤でMg合金を接合した試験片を用意し、60℃でのそれぞれの試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と蛍光X線分光装置ZSXprimus(リケン製)で測定した不純物濃度の関係をプロットして点線でフィッティングしたグラフである。
図32図32は、図31で用いた基材中のFe元素濃度と不純物濃度との関係を プロットして実線でフィッティングしたグラフである(対照のため、図31のグラフも掲載)。
図33図33は、図31で用いた基材中のSi元素濃度と不純物濃度との関係をプロットして実線でフィッティングしたグラフである(対照のため、図31のグラフも掲載)。
図34図34は、図31で用いた基材中のCu元素濃度と不純物濃度との関係をプロットして実線でフィッティングしたグラフである(対照のため、図31のグラフも掲載)。
図35図35は、図31で用いた基材中のMn元素濃度と不純物濃度との関係をプロットして実線でフィッティングしたグラフである(対照のため、図31のグラフも掲載)。
図36図36は、図31で用いた基材中のZn元素濃度と不純物濃度との関係をプロットして実線でフィッティングしたグラフである(対照のため、図31のグラフも掲載)。
図37図37は、オシロスコープ装置にPICOSCOPE 2208B(Picotechnology製)、電源にプログラマブルAC/DC電源EC750SA(エヌエフ回路設計ブロック製)を用いた場合における試験片の誘電性評価のためのソーヤ・タワー回路図を示したものである。
図38図38は、純度99%の純アルミニウム(以下PA3と略す)基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤で基材と同じPA3を接着した試験片を用意し、それを図37の回路での試料コンデンサーとして用いた場合の常温下におけるヒステリシスデータを描いたものである。
図39図39は、HPA基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤で基材と同じHPAを接着した試験片を用意し、それを図37の回路での試料コンデンサーとして用いた場合の常温下におけるヒステリシスデータを描いたものである。
図40図40は、PA3基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤でMg合金を接着した試験片を用意し、それを図37の回路での試料コンデンサーとして用いた場合の常温下におけるヒステリシスデータを描いたものである。
図41図41は、PA2基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤で常磁性体であるMg板、強磁性体であるNiおよびGd、反磁性体であるグラファイトシートをそれぞれ接着した試験片を用意し、低温恒温器内で試験片を挟んだヒーターで一定速度で昇温して試験片に現れる起電力を、基材側を陽極として採取したデータである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<本発明実施形態を説明するために必要な試験片作成方法とI-Vデータ作成方法>
本発明実施形態を説明するために必要な試験片作成方法とI-Vデータ作成方法について図面を基に説明する。本発明の中心となるものは電解酸化皮膜であり、試験片の作製にはその皮膜の形成方法が重要となる。そこで、図1に示す装置を採用した。外寸120×120×150mmの角型ガラス容器1に電解用水溶液3と撹拌子4を入れ、その周囲4面を10mm厚発泡スチロール2で断熱したものに40mm間隔に3本の銅パイプを通し、両端のパイプに大きさ120×84×8mmの黒鉛板7と中央のパイプにアルミニウム基材8を銅線で吊り下げる。黒鉛板7とアルミニウム基材8はプログラマブルAC/DC電源EC750SA(エヌエフ回路設計ブロック製)6の陰極端子と陽極端子にそれぞれ接続している。この発泡スチロール2で囲まれたガラス容器1は、クールスターラーCPS-30(井内盛栄堂製)5の電熱面に置かれ撹拌子4を低速回転させながら電解用水溶液3の温度を制御する。電源6は、直流種々の波形の交流を出力することができる。
【0022】
図1の装置でできた電解酸化皮膜は皮膜内部に電解液および酸根が残留しており、これを除去するため、純水や温めた純水あるいは煮沸純水に浸漬したり蒸煮したりする。この時、煮沸したり蒸煮すると、電解酸化皮膜表面には酸化皮膜が変化して擬ベーマイト結晶が生成する。この工程を経たものが、図2および図3における皮膜12でありアルミニウム基材11の表面に形成される。これに樹脂10と対極9が被覆される。ただし、図2図3は本発明のデータを得るための試験片の代表例であり、実施形態がこれらの例に限定されるものではない。実施形態としては、図3のものが積層される場合や皮膜12がアルミニウム基材両面に施され両面に樹脂10や対極9が被覆される場合、それらが巻回構造をとる場合、対極9が蒸着膜やスパッタリング膜などの薄膜である場合、基材12が成形品や押出形材である場合、樹脂10や対極9が表面の一部である場合など様々な場合がある。
【0023】
図4のように、こうしてできた本発明の単体試験片13からアルミ製電極14と断熱材15で挟んだもの16を作り、精密バイスVMV-20(VERTEX製)17に組み付けられた熱電対付きヒーターWALN-3(坂口電熱製)21間に挿入して圧締ボルト18を軽く締めバイス17に固定する。さらに、ヒーター21および挿入したもの16の側面を10mm厚の発泡ポリプロピレンで断熱する。これを低温恒温器SB01(ETAC製)に入れ、ヒーター21がつながれた温度コントローラーModel335(Lake Shore製)と低温恒温器により試験片の両面および側面を同一温度に制御する。そして、アルミニウム基材側を陽極、対極材側を陰極になるようにエレクトロメーター8252(エーディーシー製)で電圧を印加しながらI-Vデータをとる。
【0024】
I-Vデータは第2象限および第3象限すなわち印加電圧がマイナス側でのみ採用している。これは、試験片の起電力においてアルミニウム基材側が陽極として現れる場合、電力や起電力データがこの象限でのみ得られるからである。逆に基材側が陰極となる場合、エレクトロメーターと試験片との接続を反対にすることで第2および第3象限に必要なデータを表すことができる。図5図6の曲線24がI-Vデータ例であり、x軸との交点25が解放電圧すなわち起電力を表す。また、I-V曲線24からIV積を計算してプロットすると電力曲線26が得られ、ここからピーク電力27が得られる。さらに、ピーク電力を試験片の対極の接合面積で除した値、すなわちピーク電力密度の値と測定温度との関係をプロットすると図7の温度依存性曲線28が得られる。このI-Vデータ取得条件を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
<本発明における実施形態に至る経緯
本発明における実施形態に至る経緯について、図を交えて詳細に説明する。まず、本発明が電解酸化皮膜と対極との間に合成樹脂等を介するに至った経緯について説明する。PA2基材を下記表2の条件で得られた皮膜の表面に純Mg(仕事関数3.66eV)を0.1μm厚にスパッタリングした試験片を用意した。
【0027】
【表2】
【0028】
この試験片を表1の条件でI-V特性を調べ、そこから60℃のデータを抽出したものが図11であり、ここから得られたピーク電力密度を測定温度毎にプロットしたものが図10である。図10の温度依存性曲線43では、60~100℃域においても1nW/cm に満たない低い値を示している。図11では、曲線44とx軸の交点45から-2V付近まで曲線44はx軸に漸近する整流性曲線として現れ、電気的障壁があることが確認された。
【0029】
ところが、合成樹脂を介して対極を接合させると電力が大きくなることを見出した。それを図12および図13に示す。図12および図13は、PA2基材を表2の条件で得られた酸化皮膜の表面に純Mgと同等の仕事関数を持つMg合金AZ31(仕事関数3.7eV)をエポキシ樹脂接着剤(体積抵抗率4.1×10 11 Ωcm、ガラス転移点-65℃、以下略称を接着剤Aとする)で常温接着(1MPa)したものを試験片としている。
【0030】
図12は、純Mgスパッタリング試験片の温度依存性曲線43と比較しており、接着剤Aによる温度依存性曲線46の方が高い電力を示している。また、図13は、表1の条件で60℃におけるI-V特性を調べたものであり、I-V曲線47が直線的で整流性が現れず電気的障壁が抑制されている。
【0031】
このような中で、イオン液体のような電解質を介した場合、電気的障壁にかかわりなく高い電力を発生することを見出した。イオン液体としてメチルトリブチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド(電気伝導度2.2mS/cm、窓電位5.7V、以下略称を[N 1444 ][NTf ]とする)を染み込ませた40μm厚のグラシン紙を、PA2基材の表2の条件で得られた皮膜とAZ31板の間に挟んだところ大きな電力が発生した。
【0032】
それを図14および図15に示す。図14は、純Mgスパッタリング試験片の温度依存性曲線43と比較しており、イオン液体の温度依存性曲線49の方が3桁も高い電力を示している。図12の接着剤などと比較しても桁外れの電力を生じるにもかかわらず、図15では交点51から-2.3V付近までI-V曲線50がx軸に漸近して電気的障壁による整流性曲線が現れている。すなわち、イオン液体が、電気的障壁に左右されずに電力を得ていることを示している。
【0033】
この現象は、イオン液体を電解液、基材側を陽極(還元極)、対極側を陰極(酸化極) とする化学反応により生じたものではない。電解酸化皮膜中の電子は陰極側に移動して陰極を還元するような挙動をするため、化学反応(陰極での酸化反応)は生じない。
【0034】
一方で、このイオン液体は固体でないためバルク材の固定や蒸着などができず、また、絶縁体である合成樹脂のみでは微弱な電流しか期待できない。イオン液体は、界面活性剤などと異なり水分なしに単独で電気伝導性を示すが、合成樹脂にイオン液体を添加することは、水中の電解質に似て、絶縁体中に局在準位を導入することに等しく、電解酸化皮膜と合成樹脂のバンドギャップ間でのホッピング伝導を促し、電気的障壁に影響されなくなる。
【0035】
それを図16および図17に示す。図16および図17は、PA2基材を表2のような条件で得られた酸化皮膜の表面に図12および図13で用いた接着剤Aに[N 1444 ][NTf ]イオン液体を5wt%添加したものでAZ31板を常温接着(1MPa)し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。
【0036】
図16は、純Mgスパッタリング試験片の温度依存性曲線43と比較しており、温度依存性曲線52の方が2桁も高い電力を示している。また、図17では、交点54から-3V付近までI-V曲線53がx軸に漸近して電気的障壁による整流性曲線が現れている。図16および図17は、イオン液体のわずかな添加により、電気的障壁に左右されず電力を高められていることを示している。
【0037】
ここまでは、合成樹脂等の介入の必要性を説明するためアルミニウム基材の対極を基材より低仕事関数の物質にした事例を示してきたが、ここで、電力の生成が電解酸化皮膜中の自発分極によることに示すための契機となった事例を示す。それが、図18図19である。これらはPA2基材を表2の条件で得られた皮膜の表面に接着剤Aに[N 1444 ][NTf ]イオン液体を5wt%添加したもので基材と同じアルミニウムを常温接着(1MPa)し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。
【0038】
図18では、温度依存性曲線55が、PA2基材と同じ素材同士で基材の電解酸化皮膜を挟んだものであり、PA2基材とAZ31で電解酸化皮膜を挟んだ温度依存性曲線52と比較している。一方、図19では、起電力の温度依存性を示しており、曲線57がPA2同士で電解酸化皮膜を挟んだものであり、曲線56のPA2とAZ31で電解酸化皮膜を挟んだものと比較している。
【0039】
図18から、温度依存性曲線55の示すデータは、同じアルミニウム間、すなわち、仕事関数差のない極板間で生じており、化学反応ではなく物理現象によることを示している。一方、温度依存性曲線52は温度依存性曲線55より1桁高い電力密度を示しており、AZ31の低仕事関数効果である。図19における曲線57と曲線56との差は、60℃以上で0.56Vの一定値をとり、素電荷をこの起電力差分逆らって移動させるエネルギーが0.56eVであることから、アルミニウムとAZ31との仕事関数差0.58eVとほぼ一致している。この仕事関数差が、電力密度に影響することを示唆している。
【0040】
こうした結果から、得られる起電力や電力が電解酸化皮膜中に起きる物理現象から生じていると考えられた。そこで、電解酸化皮膜中に何が起きているかを調査した。アルミニウム基材の電解酸化皮膜は主に非晶性酸化アルミニウムからなっている。しかし、純アルミニウムには表3に示すようにSi、Fe、Cu、Mn、Zn、Tiなどの不純物が含まれ、アルミニウム合金においてはさらにSi、Cu、Mn、Mgなどを添加物として加えている。ここでは、アルミニウム合金においてもアルミニウム以外の成分を不純物と呼 ぶことにする。
【0041】
【表3】
【0042】
図31は、表3記載の高純度アルミニウム、純アルミニウム、アルミニウム合金を基材として、表2記載の方法で得られた皮膜に、イオン液体[N 1444 ][NTf ]5wt%を含む接着剤AでMg合金AZ31を常温接着(1MPa)し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。この各試験片を表1記載の方法で採ったI-Vデータの中から60℃におけるデータを抜き取り、そこからピーク電力密度を算出し基材の不純物量との相関をプロットしフィッティング曲線89を描いている。表3記載のアルミニウム材料の成分は、蛍光X線分光装置ZSX primus(リケン製)での測定データからAl、Si、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Zn、Ti以外の元素データを排除し、この9種類の元素で規格化し算定し直したものである。ここから、不純物量を割り出している。さらに図32図36は、各基材の不純物中のFe、Si、Cu、Mn、Zn元素の濃度と不純物全体の量との関係をプロットしてフィッティング曲線90~94を描き、電力密度との相関図31のフィッティング曲線89と比較している。その結果、Fe元素濃度のフィッティング曲線90のみが電力密度のフィッティング曲線89と近似し、試験片で得られる電力とFeとの間でのみ相関が認められた。
【0043】
この相関から、起電力の起源が電解酸化皮膜である酸化アルミニウム骨格中にFeがドープされたことによると推測された。Siは皮膜に物理的に取り込まれボイドを形成することが知られており、Cuはアルミニウムと酸化皮膜の界面に集中すると言われている。Mn、Mg、Znなども電力との相関がないことから皮膜中にドープされないものと考えられる。そこで、酸化皮膜中のFe成分の分布を調べることにした。図8は、PA2基材を、図2の条件(ただし、煮沸は行っていない)でできた電界酸化皮膜表面から取り出した炭素蒸着した小片を透過電子顕微鏡H-9500(日立ハイテク製)で観察した断面である。皮膜29の厚みは2.3μmあった。この皮膜表面から二次イオン質量分析装置PHIADEPT1010(アルバック・ファイ製)でO 一次イオン(加速電圧6kV)を18×18μmの範囲に照射し、スパッタリングしながら発生する二次イオンを検出してFe濃度を算出した(算出基準はAl )。それが、図9の曲線34である。直線35は、基材と 酸化皮膜界面を示しており。皮膜内部領域においてAlやOの二次イオン強度に比例しFeがほぼ均一に分布し、集中箇所が見られないことから、ボイド形成や、皮膜界面への集中など物理的な現象は見られず分子骨格中にドープされているともの見做された。
【0044】
ここから、Fe成分が酸化アルミニウムにドープされた場合について考察した。酸化アルミニウムAl において、Fe原子をホストカチオンであるAlイオンに置換すると、Fe原子は共有結合性によりホストカチオンと同じ価数3の配置になりがちになる。同時に、Feの電子配置が半充填配置のときに交換分裂と交換相関エネルギーが最大になるため、交換相関エネルギーのために半充填配置である3価を採ることを好む。その結果、Fe原子は配位子アニオンOと混成状態を作り、Fe Al 2-x を形成する。この物質の結晶は常温でも強誘電性と反強磁性を併せ持ったマルチフェロイックな性質を示す。マルチフェロイックな性質とは強誘電性と(反)強磁性などを同時に有する物質でそれぞれの性質が相互作用を及ぼす。
【0045】
そこで、Fe Al 2-x を形成すると予想される基材の電解酸化皮膜の誘電性を調べた。PA3基材を表2記載の方法で得られた皮膜に、イオン液体[N 1444 ][NTf ]5wt%を含む接着剤Aで基材と同じアルミニウムとを常温接着(1MPa)し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片として用意した。これをインピーダンスアナライザーIM3570(HIOKI製)で常温での電気容量を100Hzで測定したところ29.49nFであった。そこでこの容量よりも十分大きい1μFのフィルムコンデンサーを基準コンデンサーとして図37のソーヤ・タワー回路で誘電性を測定した。補償抵抗97は3.3kΩを使用し、電源99にはEC750SA(エヌエフ回路設計ブロック製)から正弦波の有効電圧50Vを供給した。その結果、図38のようなヒステリシスが現れ、印加電界0V/cm時に残留分極0.47μC/cm (皮膜厚2μm、面積4.2cm 時)が得られ強誘電性が認められた。これをHPA基材にも適用したところ図39のような小さなヒステリシスが現れ、残留分極0.20μC/cm (皮膜厚2.9μm、面積4.2cm 時)が得られ強誘電性が認められた。すなわち、非晶性であっても、また、Fe成分が含まれていなくても電解工程で形成された酸化皮膜にば強誘電性が得られることが判明した。同時に、Fe成分が含まれることにより残留分極が大きくなることが判明した。さらに、PA3基材の電解酸化皮膜にAZ31を同様な方法で接合したものは、図40のようなヒステリシスが現れた。残留分極は、0.57μC/cm (皮膜厚2μm、面積4.2cm 時)に達し、対極の種類により分極が変動することを確認した。これは、図18の結果とも一致し、基材と対極の仕事関数を作ることにより分極が変動することを意味している。
【0046】
また、磁性についても確認した。PA2基材を表2記載の方法で得られた皮膜に、常磁性体であるMg、強磁性体であるNi、18℃で常磁性体に変化する強磁性体のGd、反磁性体の膨張黒鉛HT-715(eGRAF製)の各磁性体をイオン液体[N 1444 ][NTf ]5wt%を含む接着剤Aで常温接着(1MPa)し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片とした。試験片を、図4のように2つのヒーター21で挟み精密バイス17に固定したものを低温恒温器SB01(ETAC製)内で-11℃に冷却し、-10~100℃まで1℃/minの速度でヒーターを温度コントローラーModel335(Lake Shore製)で昇温しながら起電力をエレクトロメーターADCMT8252(エーディーシー製)で測定した。その結果が図41である。基準を基材側が陽極、対極の磁性体が陰極となるように接続しており、磁性的秩序を持たない常磁性体(曲線103)は正の大きな起電力を持ち、磁性的秩序を持つ強磁性体(曲線105)および反磁性体(曲線106)は負の比較的小さな起電力を持つ。そのため、18℃にキュリー点107を持つ強磁性体Gd(曲線104)を対極に用いた場合、キュリー点近くで起電力方向が突如変わり急速に正の起電力に変化するようになる。これは強誘電体としての自発分極が起電力として現 れる一方、Fe Al 2-x 成分を持つ電解酸化皮膜が弱い反強磁性体であると考えられることから、対極の磁性体とは相互作用して分極が反転し起電力が正負逆転したことを意味する。すなわち、磁性のエントロピーが小さい方から大きい方へと分極方向を決定付ける。そして、この現象は、Feを含まないHPAの電解酸化皮膜の場合、対極にどのような磁性体を配しても分極に影響されないことを意味している。
【0047】
こうして、アルミニウム基材の電解酸化皮膜には自発分極による電界が現れるが、皮膜は絶縁体であるためこの電界によりホッピング伝導を引き起こし、皮膜中を電流が流れて電力を生み出す。また、この自発分極による電界はエネルギーバンドの傾きを生む。分極と電界の方向は同じであり、エネルギーバンドの傾きは逆方向に生じる。基材から対極方向に分極が生じている場合は、基材側が正極となり対極は負極となり、エネルギーバンドは負極側から正極側に下降傾斜する。そのため、この場合は低仕事関数物質を対極に用いることによりエネルギーバンドの傾きを増大して分極を促すことになり、逆方向の分極が生じる場合は、対極に高仕事関数物質を用いることで促される。言い換えると、電解酸化皮膜にはエネルギーバンドの傾きがあるため、Fe成分を含む皮膜表面はp型半導体性のような性質を持ち、高純度アルミニウム基材による皮膜表面はn型半導体のような性質を持つ。そのため、電気的障壁が表面に現れ、前者は低仕事関数物質、後者は高仕事関数物質を直接接合しても高い電力は得られなくなることになる。これは、当初PA2の電解酸化皮膜にMgをスパッタリングしたものに高い電力が得られなかったことと一致する。そのため、対極を配する際に合成樹脂またはイオン液体を含む合成樹脂を介することが重要となる。
【0048】
このような様々な検証の積み重ねの結果見出された事象が本発明の根幹となっている。ここからは、本発明の要件の一部となる表2の皮膜形成条件や合成樹脂の条件、イオン液体の条件などを図に基づき詳細に説明する。
【0049】
<本発明の要件を構成する実施形態>
本発明のアルミニウムの電解酸化皮膜とは、直流や交流、直交重畳といった電解方法の如何にかかわらず、アルミニウムをpKa値2.5未満の酸基を少なくとも一つ以上持つ、例えば、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸などの多塩基酸を少なくとも一種類以上含む水溶液中で電解酸化した厚さ1μm以上の皮膜を指す。直流による陽極酸化皮膜は、アルミニウムに接する箇所に薄いバリヤー皮膜を形成し、その上に直径数十nmの細孔を表面に向けたハチの巣様の多孔質皮膜を形成した構造からなる。市販される電解酸化皮膜品は硫酸浴やシュウ酸浴中での直流(もしくは直流と交流との重畳)で行った陽極酸化皮膜品であるが、電力はこうした市販の電解酸化皮膜でも得られる。
【0050】
図20は、市販のアルミニウム押出型材30×30mmアングルから採取したサンプル(硫酸浴陽極酸化皮膜品、膜厚6μm)および家庭用調理品から採取したサンプル(シュウ酸浴陽極酸化皮膜品、膜厚13μm)を[N1444][NTf]イオン液体を5wt%添加した接着剤AでAZ31板を常温接着し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。前者の温度依存曲線が59、後者のものが58であり、いずれの陽極酸化皮膜品も電力を生じ、皮膜が厚いにもかかわらず後者のシュウ酸浴の方が高い電力を示した。
【0051】
バリヤー皮膜だけの電解酸化皮膜は、電解コンデンサーなどに用いられるホウ酸、ホウ酸アンモニウム、酒石酸アンモニウムやホウ酸ナトリウムなどによる弱酸性からアルカリ性水溶液を電解液とすることで得られるが、強誘電体にはならず電力を生じる作用はない。強酸基を持つ多塩基酸浴からできる直流による電解酸化皮膜中のバリヤー皮膜の厚みは電解電圧に比例し、クロム酸>リン酸>シュウ酸>硫酸の順に薄くなり、薄い方が好ま しい。一方、強酸基を持つ多塩基酸浴からできる直流による電解酸化皮膜中にできる細孔の密度は電解電圧に反比例するとともに、硫酸>リン酸>シュウ酸の順に小さく孔壁が厚くなり皮膜密度が高くなる。クロム酸は孔が不均一で粗質な皮膜となる。
【0052】
これらの傾向から、強誘電性出現に関わらないバリヤー皮膜厚が薄く、電流密度の高くするため皮膜密度の高いシュウ酸浴下で低電圧電解することが好ましい。シュウ酸浴で皮膜を形成することが好ましいのは、前記市販品による結果と一致する。図21は、PA2基材を電解電圧20~70Vの直流を用いて表4のような条件で陽極酸化皮膜を形成し、AZ31を直接皮膜に接触させて試験片としたものであり、20℃におけるI-Vデータから得たピーク電力密度をプロットしたものである。この結果から、直流においては比較的低電圧の40Vで電解した酸化皮膜から最大の電力が得られた。
【0053】
【表4】
【0054】
一方、交流は、直流のような30V以上の高い電圧での電解では薄い層が何層にも重なった積層構造が現れ電流障壁となり高い電流密度は期待できない。ところが、実効電圧20V以下での電解では積層構造は現れず、また、孔も浅く細孔は形成されない。それを示すのが、図22(A)および(B)の光学顕微鏡での皮膜上面写真であり、図8の透過電子顕微鏡による皮膜断面写真であるこれらの写真はPA2基材を表2の条件で形成した電解酸化皮膜で、図22(A)と図8PA2基材、図22(B)がHPA基材である。PA2では直径がサブミクロンから数ミクロンの浅い孔が低密度でランダムに形成され、孔中間の皮膜内部には直流電解に見られるような細い細孔は見られない。また、HPAに至ってはいずれの孔も見られなくなる。このため、直流よりも低電圧による交流での電解が好ましい。
【0055】
図23は、PA2基材を表2および表5による条件で形成されたシュウ酸浴電解酸化皮膜品および硫酸浴電解酸化皮膜品を用いている。双方とも[N1444][NTf]イオン液体を5wt%添加した接着剤AでAZ31と1MPaで常温接着し、1週間養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。
【0056】
【表5】
【0057】
図23の温度依存性曲線52がシュウ酸浴、温度依存性曲線61が硫酸浴による交流電解品であり、市販のシュウ酸浴皮膜品56(直流電解品)と比較している。この結果から、シュウ酸浴同士の電解酸化皮膜では交流の方が高い電力を示している。また、市販品での傾向と同じように、シュウ酸浴と硫酸浴電解酸化皮膜とではシュウ酸浴品の方が得られる電力は高い値を示している。すなわち、シュウ酸浴で交流電解した皮膜が特に好ましい。
【0058】
図24は、PA2基材を表6による条件で形成された電解酸化皮膜品をAZ31と直接接触させたものを試験片としている。ただし、電解実効電圧は10V、13V、15V、17V、19V、21V、25Vの7種類で行っている。この試験片から20℃でのI-Vデータをとりそのピーク電力密度をプロットしたものが図24の曲線62である。この結果から、交流による電解電圧は実効値で10Vより大きく19V以下の低電圧が好ましい。
【0059】
【表6】
【0060】
図25は、PA2基材を表7による条件で形成された電解酸化皮膜品を[N1444][NTf]イオン液体を5wt%添加した接着剤AでAZ31と1MPa常温接着し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。ただしここでは、電解波形を正弦波、三角波の2種類の波形で形成した電解酸化皮膜で行い、方形波は、前例(図16における温度依存性曲線52の実施形態)によっている。
【0061】
【表7】
【0062】
図25の温度依存性曲線63が正弦波であり、温度依存性曲線64が三角波である。また、市販のシュウ酸浴皮膜品56(直流電解品)と比較している。この結果、交流波形は、実効値が同じであっても波形によって得られる電力は異なるが、いずれも直流電解品よりも大きな値が現れ交流品が優れていることを示している。中でも、すべての温度域で最大の値を示す方形波が特に好ましい。
【0063】
図26は、PA2基材を表8による条件で形成された電解酸化皮膜品をAZ31に直接接触させたものを試験片としている。表7では、電解周波数に応じて電解時間を変えているが、50Hz時の電解電力量を基準に電解時に得られる電力値から電解電力量が同じになるよう調整をしている。ただし、直流(0Hz)については、電解電圧および電解電圧を前例(図21の実施形態)に基づいて設定している。
【0064】
【表8】
【0065】
こうした試験片から得られたI-Vデータから60℃、80℃、100℃におけるデータを抽出し、そこからのピーク電力密度をプロットしたものが図26である。曲線65、66、67がそれぞれ100℃時、80℃時、60℃時のものである。図26および表8から、電解周波数20Hz以下の低周波数域や100Hzよりも高い高周波数域では皮膜成長が遅く長時間の電解を要し、得られる電力も低い。そのため、40~100Hzが高い電力を得られ好ましく、中でも商用周波数の50~60Hzが特に好ましい。
【0066】
電解温度は、直流において膜が最も成長しやすい範囲が交流においても好ましい。酸濃度はシュウ酸において3~5%が好ましい。1%以下にすると電流密度を維持するために高い電圧を必要とし、得られる電力も低下する。電解時間は、20V以下の実効電圧下においては30分以下で形成される皮膜は電力が得られない。60分以上で1μm以上の皮膜が形成され、自発分極による電力が得られるようになり好ましい。
【0067】
本発明の電解酸化皮膜形成において皮膜中の電解質の除去が必要となる。電解酸化皮膜形成後に皮膜内部には電解浴の酸や副産物の酸根が残留する。これを除去しなければ皮膜内部で電界ができても短絡して起電力は生じない。この電解質の除去に適した方法が、純水による熱水処理もしくは蒸煮処理である。常温の純水中や純水による温水中に長時間浸漬しても徐々に起電力は生じるようになるが、熱水処理や蒸煮処理では短時間の処理で起電力が現れ好ましい。この処理で電解酸化皮膜表面にはその皮膜が水和してできる結晶性の擬ベーマイト(酸化水酸化アルミニウム)が形成され微視的な表面性状は悪化するが、電力を取り出すのには支障がない。
【0068】
市販される硫酸やシュウ酸などによる陽極酸化皮膜は、その表面の細孔をこうした熱水処理や蒸煮処理により形成される擬ベーマイトで封孔して耐食性を高めているが、本発明では目的が異なる。この熱水処理や蒸煮処理により残留電解質の除去が促されるためである。
【0069】
熱水処理する場合、温度が高いほど短時間で安定した起電力が得られる。常圧下では擬ベーマイトの形成される温度である90~100℃での処理が良く、加圧下でより高温の熱水で処理をしても良い。また、電解質を排除した電気抵抗率10Ωcm以上の純水もしくは精製水によることが好ましい。処理時間は電解酸化皮膜の厚さにもよるが10~30分程度であり、1~3μm程度の厚みの皮膜には10分程度で良い。
【0070】
また、蒸煮処理においては、蒸気中に電解質が含まれないため水道水の利用が可能な利点がある。ゲージ圧2気圧以上の飽和水蒸気下で擬ベーマイトが形成されはじめ、50気圧より高い圧力下では擬ベーマイトの結晶性が高まりベーマイトに近づくが、擬ベーマイトの生成により皮膜中の残留電解質の除去という目的は達成できるため、2~5気圧程度の低圧加熱水蒸気処理で良い。また、熱水処理と同様処理時間は10~30分程度が好ましい。
【0071】
本発明の重要な要素として、皮膜を形成したアルミニウム基材と対極の間に介在させる合成樹脂が挙げられる。その重要性は、皮膜と対極の間に現れる電気的障壁の影響を緩和するためである。特にイオン液体を添加することにより、電気的障壁が関与しないようにできる。その結果、皮膜中のエネルギーバンド傾斜を促す仕事関数物質を表面に配することができるようにすることにある。皮膜中の自発分極による電界により、エネルギーバンドは電位の低い方が高く電位の高い方が低くなるように傾斜する。このため、エネルギーバンドが対極側の方が高い場合、対極に電気的障壁のできる低仕事関数物質を配することでエネルギーバンドはさらに傾き、電荷が移動し易くなる。エネルギーバンドが基材の方が高い場合には、電気的障壁のできる高仕事関数物質を配することで電荷が移動し易くなる。このように、電気的障壁を緩和、あるいは関与させないことが発電の増大に繋がる。
【0072】
ここで、この合成樹脂も絶縁体であり、電荷移動を促す低い体積抵抗率を持つものが好ましい。図27は、PA2基材を表2による条件で形成された電解酸化皮膜品を[N1444][NTf]イオン液体を5wt%添加した表9(メーカー公表値を記載)に示す種々のエポキシ樹脂接着剤でAZ31と1MPaで常温接着し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。
【0073】
【表9】
【0074】
図27の曲線はイオン液体を含まない状態の接着剤A~Fの常温での体積抵抗率と、イオン液体を添加した試験片A~Fから得たI-Vデータによるピーク電力密度の関係をプロットしたものである。ここで、曲線68、69、70は、それぞれ20℃、60℃、100℃の温度下で測定して得たプロットをフィッティングしたものである。
【0075】
この結果から、イオン液体を添加した試験片のピーク電力密度とイオン液体を添加する前の常温での体積抵抗率の関係が比例しなくなる。すなわち、エポキシ樹脂の中でも樹脂成分の違いによりイオン液体の効果が異なることを示している。特に、体積抵抗率が1015Ωcm域のものは明らかに全温度域で低い値を示し、この程度まで体積抵抗率が高まるとイオン液体の効果が低下することを示している。合成樹脂は常温で10Ωcm以下のものは導電性ポリマー以外存在しないことから、イオン液体を添加しない場合は、図12における温度依存性曲線46の実施形態より10Ωcm以上1012Ωcm以下のものが好ましく、イオン液体を添加する場合は、常温での体積抵抗率が10Ωcm以上1014Ωcm以下であることが好ましい。用いられる合成樹脂としては、エポキシ樹脂やポリウレタン樹脂のほか、ポリアミド樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、酢酸セルロース樹脂、プロピオン酸セルロース樹脂、ニトロセルロース樹脂などが好適に挙げられる。
【0076】
本発明では、金属や半金属、半導体、合金、共晶、導電性化合物などからなるバルク材を合成樹脂で接合するか、もしくは、それらの物質を真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法などのPVD法による薄膜や直径数nm~100nmの超微粒子を合成樹脂の上に施すと良い。また、PVD法、CVD法、エピタキシャル法による薄膜を導電性バルク材の上に前記物質を堆積させ、それを合成樹脂で接合しても良い。ただし、いずれの方法も反磁性体や強磁性体による電解酸化皮膜との相互作用を与える場合は、磁性体の結晶粒の配向性が重要となることからバルク材を利用すると良い。合成樹脂の厚みにおいては抵抗が大きくなりすぎないことが必要で厚さ1~4μm程度が良い。合成樹脂を接合に用いる場合には、樹脂量を3~5g/m することが好ましい。
【0077】
これまでの実施形態で示したように、合成樹脂にイオン液体を添加することは電気的障壁に関わらず電気伝導度を高め電力を高めることができることが多く好ましい。イオン液体とは、常温で液体となっているカチオンとアニオンからなる有機塩を指す。
【0078】
カチオン種として、ジアルキルイミダゾリウムイオン、アルキルヒドロキシメチルイミダゾリウムイオン、ジアルキルピロリジニウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、ジエチル(メトシキエチル)メチルアンモニウムイオン、コリンイオン、メチルトリヒドロキシメチルアンモニウムイオン、ジアルキルピペリジニウムイオン、テトラアルキルホスホニウムイオン、トリアルキルスルホニウムイオンなどが安定であり好適に挙げられる。
【0079】
また、アニオン種として、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン、トリフルオロメタンスルホネートイオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、トリフルオロ酢酸イオン、メトキシ酢酸イオン、ジシアノアミドイオン、チオシアネートイオン、ジシアナミドイオンなどが安定であり好適に挙げられる。
【0080】
これらルイス酸性の低いカチオン種とルイス塩基性の低いアニオン種の組合せにより、イオン性が高く、耐熱性、低蒸気圧、高電位窓、イオン伝導性に優れたものが得られ好ましい。
【0081】
合成樹脂の電気伝導性を高めるためにはイオン液体の電気伝導度は高い方が好ましく、1mS/cm以上あることが特に好ましい。電位窓は、本発明の起電力が1V以上に達する場合を考慮し2V以上あることが望ましい。また、用いられる合成樹脂により効果が異なり、高体積抵抗率樹脂やシリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂以外の合成樹脂を用いることが好ましい。さらに、合成樹脂との反応に関与する官能基を持たないものが好ましい。
【0082】
エポキシ樹脂では、電気伝導度が1mS/cm程度のイオン液体を1~30%添加することで、樹脂の凝集力を変えることなく電力を高められる。これを図28に示す。
【0083】
図28は、PA2基材を表2による条件で形成された電解酸化皮膜品を[N1444][NTf]イオン液体を0~30wt%各種添加した接着剤AでAZ31と1MPaで常温接着し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。
【0084】
図28の各曲線は、I-Vデータからピーク電力密度を求め、電力密度と温度の関係をプロットしたものである。曲線71は、イオン液体を含まない接着剤Aで接合したものであり、曲線72、73、74、75はそれぞれ1wt%、5wt%、10wt%、30wt%の[N1444][NTf]イオン液体を接着剤Aに添加して接合したものである。この結果、1wt%程度で接着剤A単独に比べ電力の向上が認められ、また、5wt%添加で30wt%添加と同等の電力が得られる。30wt%よりも多くの添加は、凝集力を犠牲にする程度まで増加させないと電力の増加は見込めない。こうしたことから1~5wt%程度の添加が特に好ましい。
【0085】
こうして構成される層状熱素子は、本発明を特徴付ける現象が現れる。これを、図を以って説明する。
【0086】
<本発明を特徴付ける実施形態
第1に、電解酸化皮膜の基材にFe成分を含むアルミニウムを用いた場合、対極に常磁性体を用いると、基材側が陽極、対極側が陰極となり、対極にアルミニウムより低い仕事関数物質を配することで高い電力が得られる。また、対極に強磁性体や反磁性体を用いると基本的に極性が反転し高い電力は得られなくなる。これを図29に示す。
【0087】
図29は、PA2基材を表2による条件で形成された電解酸化皮膜品を[N1444][NTf]イオン液体を5wt%添加した接着剤Aで表10の金属、半金属、半導体および合金と1MPa常温接着し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。ここで、p型Siは単結晶、黒鉛は膨張黒鉛HT-715(eGRAF製)と等方性黒鉛、Bi、SbとSeは鋳造品、他は圧延品を用いている。
【0088】
図29の一点破線76は表10の中の常磁性体を対極とした場合のI-Vデータから60℃のデータを抽出し、ピーク電力密度を白丸でプロットしたものをフィッティングしたものである。対極にアルミニウムより低い仕事関数物質を配することで高い電力が得られる。また、破線77は表10の中の反磁性体を対極とした場合のI-Vデータから60℃のデータを抽出し、ピーク電力密度を黒丸でプロットしたものを直線で近似したものである。符号77と符号78は黒鉛を対極としており、前者は加圧加工されていない膨張黒鉛、後者は加圧加工された等方性黒鉛である。黒鉛は反磁性体の中でも磁化率の絶対値が大きく特に結晶軸に平行方向ではBiをはるかに上回る。このため、加圧により結晶が配向した等方性黒鉛の方が加圧されていない膨張黒鉛より大きな電力が得られる。鋳造品のBi(符号80)やSb(符号81)は、結晶粒が配向されていないため大きな値が得られないばかりかSbに至っては極性が反転しなくなる。この他の反磁性体は圧延加工しているが、圧延方法にも冷間圧延、熱間圧延があり、また焼鈍の可否により結晶粒の配向性が変わる。また、融点の低いInやSnなどは試験片のキュアリング時やデータ作成サイクル中に再結晶化して配向が乱れる。こうした原因から、Sb同様に極性の反転しない反磁性体も現れる。一方、図中に三角で示したものは、強磁性体を対極としたものである。I-Vデータから60℃のデータを抽出し、ピーク電力密度を示したものである。符号82がGd、符号83がNiを用いたものである。Gdは、キュリー点が18℃近辺にあり60℃においては常磁性体となり極性は反転しない。しかし、常磁性体になっても磁化率が大きく大きな電力は示さない。このように、低仕事関数の常磁性体を対極に配することにより安定した高い電力が得られる。低仕事関数の常磁性体とは、Ca、Mg、Li、La、Ce、Pr、Nd、Eu、Sm、Yb、Lu、Th等の金属、これらの元素を主体とする共晶、金属間化合物、マグネシウムアルミニウム亜鉛合金、マグネシウムリチウム亜鉛合金、マグネシウムアルミニウムカルシウム合金、マグネシウムリチウム合金、アルミニウムリチウム合金、アルミニウムカルシウム合金等の合金、12CaO・7Al の電子化物等の化合物が好適に挙げられる。
【0089】
この中で、LZ91、AZ31およびp型Si以外の仕事関数は、(社)日本物理学会編、物理データ辞典、p321(2006)、p型Siの仕事関数は、静電気学会編、静電気ハンドブック、p1239(1998)から引用しており、LZ91およびAZ31は紫外光電子分光装置Versa Probe(アルバック・ファイ製)で測定したデータを用いている。
【0090】
【表10】
【0091】
第2に、基材の純度が高くなるに従い得られる電力が小さくなる傾向があり、高純度基材を用いた場合に至っては極性が反転する。このため、同じく極性反転する磁性体との組み合わせは電力獲得に相乗効果が現れる。また、高純度基材を用いた場合は、Fe成分を含む基材を用いる場合とは逆に電力は対極の仕事関数に比例するようになる。これを図30に示す。
【0092】
図30は、HPA、PA1、PA2、PA3基材を表2による条件で形成された電解酸化皮膜品を[N1444][NTf]イオン液体を5wt%添加した接着剤Aで対極材として表11の反磁性体および常磁性体と1MPaで常温接着し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。Alについては、基材と同じ種類のアルミニウムとしている。
【0093】
【表11】
【0094】
図30破線で囲った四つのグループは、符号84のグループがAZ31合金を対極にしたもの、符号85のグループが等方性黒鉛を対極に用いたもの、符号86のグループが基材と同じアルミニウムを用いたもの、符号87のグループがSnを対極に用いたものになっている。それぞれのグループは、HPA(四角)、PA1(三角)、PA2(黒丸)、PA3(白丸)基材からなる電解酸化皮膜を用いた四種類のプロットで構成されている。符号84のグループで示すように、HPA<PA1<PA2<PA3の順、すなわち基材純度に反比例して電力は大きくなる。四つのグループの中で四角でプロットしたHPAに着目すると、いずれのグループにおいても0付近もしくは極性の反転した電力を持つ。ところが、四種類全ての電解酸化皮膜で反転するのは、反磁性体の等方性黒鉛のグループで あり、反磁性体や強磁性体のように本来極性が反転するものと組み合わせることで相乗効果が得られる。融点が低くキュアリング時などに結晶の配向性の乱れが生じるSnにおいては、反磁性体であっても四種類全ての電解酸化皮膜で反転することはないが、HPAの電解酸化皮膜はFe成分を含まないため対極の磁性と相互作用せず、相互作用する等方性黒鉛のグループ以外のグループ以外では仕事関数に比例して電力は高まっていく。そのため、対極には、仕事関数の高いC、Be、n型Si、Co、Ni,Ru、Rh、Te、Re、Os、Ir、Pt、Au、Seなどの物質やこれらの元素を中心とした仕事関数の高い合金、共晶、金属間化合物を用いることが好ましい。
【実施例0095】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【実施例0096】
<アルミニウム基板の作製>
PA2原板(0.3mm厚)を用意し、そこから50(W)×60(L)mmの角板を切り出す。その後アセトンに1分間浸漬して脱脂し、片面にアクリル塗料を塗布し乾燥後120℃で30分さらに140℃で5分焼き付けする。これを水酸化ナトリウム2.3wt%、水酸化カリウム1.5wt%の混合水溶液中に5分間浸漬したものを水道水で洗い表面をウエスでアルミニウム表面を軽く擦り酸化皮膜を除去する。そして純水中に浸漬して撹拌洗浄してウエスで表面の水を拭い基板を得る。
【0097】
<基板の電解酸化処理と後処理>
市販の無水シュウ酸30gと純水970gから3wt%シュウ酸水溶液を作ったものを図1の角型ガラス製電解槽(120×120×150mm)1に入れクールスターラー5で30℃に保つ。中央の陽極側銅パイプに40(W)×100(L)mmの純アルミニウム板、両側の陰極側銅パイプに28(W)×100(L)mmの純アルミニウム板を銅線で吊り下げ30Vの直流を電源6で90分間印加して水溶液中にアルミニウムイオンを溶解する。その水溶液からアルミニウム板を取り出し、陽極側に用意したアルミニウム基板を水溶液中に約35mm浸漬する状態に吊り下げ、陰極側には84(W)×120(L)の炭素板を吊り下げる。この状態で撹拌子4で水溶液を撹拌しながら30℃に保ち、電源6から実効電圧15Vの方形波交流を90分間印加して基板表面に電解酸化皮膜を形成する。電解処理終了後、純水で洗浄したものを500ccの純水を沸騰させた熱水に10分間浸漬して後処理を終える。処理後、水道水で洗浄し60℃で1時間乾燥する。
【0098】
<基板小片と対極小片の作成>
熱水処理を終え乾燥した基板片面の塗膜をアセトンで除去し、小片(17(W)×30(L)mm)を抽出する。一方、対極は0.2mm厚のマグネシウムリチウム亜鉛合金LZ91から小片(15(W)×28(L)mm)を抽出し、両面を石定盤上に#1000エメリー紙を置いて研磨し、基材小片と重ね合わせる面だけをさらに#8000フィルムで研磨した後ウエスで磨く。
【0099】
<樹脂の混合と接合>
[N 1444 ][NTf ]イオン液体を15mg程度秤量し、そこに接着剤Aの主剤と硬化剤をイオン液体の10倍量それぞれ秤量してそれらを混合しイオン液体約5wt%の接着剤を得る。混合した接着剤を対極小片の研磨面に塗布し基材小片の皮膜面と貼り合せる。これを強化ポリエチレンフィルムで挟み加圧力をロードセルで管理できるプレス機の定盤間に挿入して加重410Nで1時間常温放置し接合する。接合後、対極からはみ出た接着剤をアセトンで除去して7日間常温で養生して試験片とする。
【0100】
<試験片のキュアリング>
試験片を図4にように電極14と断熱材15で挟み、精密バイス17の熱電対付きヒーター21間に挿入してさらに試験片側面を断熱材で囲む。そして精密バイス17ごと低温恒温器に入れ、ヒーター21の電源コード22と熱電対23を温度コントローラーに接続する。試験片の接着剤の硬化を完結するためこの状態でヒーター21を100℃に昇温して12時間キュアリングする
【0101】
<I-Vデータの取得>
まず、-11℃に低温恒温器内で試験片を冷却しヒーター21で-10℃にコントロールする。この状態で陽極側をアルミニウム基材、陰極を対極に接続されたエレクトロメーターで-0.001V、-0.01V~0.07V(0.02V間隔)、-0.1V~-0.8(0.05V間隔)、-0.9~-5V(0.1V間隔)と徐々に印加電圧を下げながら試験片に流れる電流を測定してI-Vデータをとる。この時、それぞれの印加電圧において測定間隔を3.5秒として12回もしくは6回同じ測定を繰り返し、そのうち後半の半分のデータを採用する。-10℃のI-Vデータを取り終えてから直ちに昇温し、低温恒温器内温度を16℃、ヒーター21を20℃に設定して約30分後、-10℃時と同様にI-Vデータを得る。40℃、60℃、80℃、100℃においても同じ要領で行う。ただし、各温度おける印加電圧間隔の設定が異なる。得られたI-VデータからIV積を算出してP-V線図を描き、そこからピーク電力を求める。接着面が電流通過面となるため、ピーク電力を対極面積で除することでピーク電力密度が算出される。この-10~100℃のサイクルを5回繰り返し、最初のデータを除外した計4回のデータを平均したものを最終データとする。
【0102】
<データの評価>
得られた最終データが表12である。20℃程度でもナノワットレベルの電力密度が得られ、温度の上昇に伴い指数関数的に上昇し100℃では70倍以上のレベルに達した。ここで、試験片の基板側と対極側に温度差がないにもかかわらず、100℃以下の低温環境下で電力が得られることが実証された。
【0103】
【表12】
【0104】
(比較例)
実施例1の電解酸化処理と後処理を伴わない試験片を作成した。まず、実施例1と同じ純アルミニウム原板から17(W)×30(L)mmの小片を切り出しアセトンに1分間浸漬して脱脂する。そこに実施例1と同様に用意した対極小片を用意する。用いる混合接着剤および接合方法、養生等は実施例1に準ずることで電解酸化皮膜のないアルミニウム基材と対極を接合した試験片ができる。
【0105】
<比較試験片の評価>
養生後、試験片をキュアリングしたところ、100℃においてもエレクトロメーター 上に起電力は現れず、I-Vデータの取得は断念した。すなわち、この比較試験片では電力が得られないものと判断できる。
【実施例0106】
ここでは、実施例1の対極にマグネシウムアルミニウム亜鉛合金AZ31(0.2mm厚)を用い、2つの試験片を直列にして測定した。試験片作成要領は実施例1と同じである。試験片のキュアリングは2枚直列に重ね100℃で12時間行った。
I-Vデータの取得およびピーク電力密度の算定要領も実施例1に準じている。
【0107】
<データの評価>
得られたデータが表13である。図16における温度依存性曲線52の実施形態は、同じ試験片単体で行ったデータであるが、ピーク電力密度はほぼ一致しており直列により2倍の電力が得られていることが分かった。また、直列が可能なことから、高い電圧を容易に得られる利点があることを示唆している。
【0108】
【表13】
【実施例0109】
ここでは、実施例2と同様に対極に合金AZ31(0.2mm厚)を用い、2つの試験片を並列にして測定した。試験片作成要領は実施例1と同じである。試験片のキュアリングは2枚試験片のアルミニウム基材同士を合わせて試験片両側と中間にアルミニウム極板を入れた状態でヒーター間に設置し100℃で12時間行っている。2つの試験片の中間の電極を陽極、両端の電極を陰極として測定したが、I-Vデータの取得およびピーク電力密度の算定要領も実施例1に準じている。
【0110】
【表14】
【0111】
<データの評価>
得られたデータが表14である。実施例2と同様、試験片単体で行った図16における温度依存性曲線52のデータと比較すると、ピーク電力密度はほぼ一致しており、直列時と同様並列によっても2倍の電力が得られることが分かった。また、並列が可能なことから、大面積での高出力が可能であることを示唆している。
【0112】
実施例1と比較例からは、アルミニウムの電解酸化処理および熱水処理による皮膜がなければ、温度差のない低温下で電力を得られないことが分かる。また、実施例2および実施例3のような積層化が可能であるということは、ゼーベック素子や太陽電池などとは異なり、単位体積当たりの電力が物差しとして有効であることを意味する。すなわち、実施例1の組み合わせは、アルミニウム基材や対極材を箔や薄膜で構成できるため、可能な最小厚みから、表12の電力密度は20~100℃において3~220μW/cm の性能に換算できる。この積層化により本発明の利用範疇は広くなり、ウェアブル発電などの微小発電から蓄熱発電などの大規模発電に至るまで再生可能エネルギー利用の一端を担うことができるものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明によれば、基材と対極の間に温度差がなくても、100~-10℃の温度範囲で発電をすることができる積層可能な層状熱素子を提供することができる。また、このような層状熱素子を用いることによって、100℃~-10℃の温度範囲で様々な発電方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0114】
1…ガラス容器、2…発泡スチロール、3…電解液、4…撹拌子、5…クールスターラー、6…プログラマブルAC/DC電源、7…黒鉛板、8…アルミニウム基材、9…対極、10…合成樹脂、11…基材、12…皮膜、13…試験片、14アルミニウム製電極、15ポリプロピレン発泡断熱材、16…組み合わせ試験片、17…精密バイス、18…締め付け用ボルト、19…ケイ酸カルシウム板、20…アルミナ板、21…熱電対付きヒーター、22…ヒーターコード、23…熱電対補償用コード、24…I-Vデータ、25…交点、26…I-Vデータ換算電力データ、27…電力ピーク点、28…ピーク電力密度温度依存性曲線、29…電解酸化皮膜断面、30蒸着炭素皮膜断面、31…アルミニウム基材断面、32…Al二次イオン強度曲線、33…O二次イオン強度曲線、34…Fe濃度曲線、35…皮膜と基材の界面位置、36…皮膜領域、37…基材領域、38~42…(不使用)、43、46、49、52、55、58、59、61、63、64、71~75…ピーク電力密度温度依存性曲線、44、47、50、53…I-Vデータ、45、48、51、54…交点(起電力点)、56、57…起電力温度依存性曲線、60、62…ピーク電力密度電解電圧依存性曲線、65~67…ピーク電力密度周波数依存性曲線、68~70…ピーク電力密度体積抵抗率依存性曲線、76…常磁性体フィッティング曲線、77…反磁性体近似直線、78…膨張黒鉛のデータ、79…等方性黒鉛のデータ、80…Biのデータ、81…Sbのデータ、82…Gdのデータ、83…Niのデータ、84…AZ31合金を対極に用いたグループ、85…等方性黒鉛を対極に用いたグループ、86…基材と同じ種類のAlを対極に用いたグループ、87…Snを対極に用いたグループ、88…PA3基材を用いたデータ、89…PA2基材を用いたデータ、90…PA1基材を用いたデータ、91…HPA基材を用いたデータ、92…各種基材による電解酸化皮膜とAZ31合金の組み合わせで得られる電力密度と基材の不純物濃度の関係をフィッティングした曲線、93…基材の不純物濃度とその中のFe濃度の関係をフィッティングした曲線、94…基材の不純物濃度とその中のSi濃度の関係をフィッティングした曲線、95…基材の不純物濃度とその中のCu濃度の関係をフィッティングした曲線、96…基材の不純物濃度とその中のMn濃度の関係をフィッティングした曲線、97…基材の不純物濃度とその中のZn濃度の関係をフィッティングした曲線、98…測定試料、99…基準コンデンサー、100…補償用抵抗、101…オシロスコープ、102…交流電源、103~105…ヒステリシス曲線、106…Fe成分を含む電解酸化皮膜とMgの組み合わせにより得られた起電力温度依存性曲線、107…Fe成分を含む電解酸化皮膜とGdの組み合わせにより得られた起電力温度依存性曲線、108…Fe成分を含む電解酸化皮膜 とNiの組み合わせにより得られた起電力温度依存性曲線、109…Fe成分を含む電解酸化皮膜と膨張黒鉛の組み合わせにより得られた起電力温度依存性曲線、110…Gbのキュリー点
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図8
【補正方法】変更
【補正の内容】
図8
【手続補正4】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図9
【補正方法】変更
【補正の内容】
図9
【手続補正5】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図29
【補正方法】変更
【補正の内容】
図29
【手続補正6】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図30
【補正方法】変更
【補正の内容】
図30
【手続補正7】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図31
【補正方法】変更
【補正の内容】
図31
【手続補正8】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図32
【補正方法】変更
【補正の内容】
図32
【手続補正9】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図33
【補正方法】追加
【補正の内容】
図33
【手続補正10】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図34
【補正方法】追加
【補正の内容】
図34
【手続補正11】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図35
【補正方法】追加
【補正の内容】
図35
【手続補正12】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図36
【補正方法】追加
【補正の内容】
図36
【手続補正13】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図37
【補正方法】追加
【補正の内容】
図37
【手続補正14】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図38
【補正方法】追加
【補正の内容】
図38
【手続補正15】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図39
【補正方法】追加
【補正の内容】
図39
【手続補正16】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図40
【補正方法】追加
【補正の内容】
図40
【手続補正17】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図41
【補正方法】追加
【補正の内容】
図41
【手続補正書】
【提出日】2024-07-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温で強誘電性を有する非晶性強誘電体層の片面に静電容量の絶対値において強誘電体層より低い値を持つ非晶性常誘電体層を配した積層物において積層物上部面及び下部面に導電性物質を配した層状熱素子。
【請求項2】
請求項1の常温で強誘電性を有する非晶性強誘電体が、純アルミニウムまたはアルミニウム合金を基材として基材表面を、酸基の少なくとも一つ以上のpKa値が2.5未満の多塩基酸が少なくとも一つ以上含まれる酸性浴中で形成させた電解酸化皮膜の電解質除去物であり、非晶性常誘電体が擬ベーマイトである層状熱素子。
【請求項3】
請求項2の擬ベーマイト表面に電解質または電解質含有合成樹脂または低抵抗率合成樹脂のいずれかを介して導電性物質を配した層状熱素子。
【請求項4】
請求項2の基材の鉄純度が0.1重量%以上1重量%未満であり、かつ、擬ベーマイト表面に配する導電性物質が基材以下の仕事関数を持つ常磁性体である層状熱素子。
【請求項5】
請求項2の基材が高純度アルミニウムであり、かつ、擬ベーマイト表面に配する導電性物質が黒鉛以上の仕事関数を持つ層状熱素子。
【請求項6】
請求項2の擬ベーマイト形成に熱水浸漬処理または加圧水蒸気下に暴露する蒸煮処理を用いる層状熱素子。
【請求項7】
請求項2の電解酸化皮膜が10Vより大きく20V未満、かつ40Hz以上100Hz以下の交流を印加してできる皮膜である層状熱素子。
【請求項8】
請求項3の低抵抗率合成樹脂が常温での体積抵抗率が10 Ωcm以上10 12 Ωcm以下のものからなる層状熱素子。
【請求項9】
請求項3の電解質または電解質含有合成樹脂における電解質がイオン液体である層状熱素子。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解酸化皮膜を用いた発電体、および発電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テルル・ビスマス系の汎用のゼーベック素子に85℃の温度差を設けると、100℃に満たない熱源からでも2.5kW/m と太陽光発電の10倍もの電力に変換できる。しかし、大きな電力を得るには実効温度差を大きくする必要があり、低温下での電力獲得には高価な冷却方法や冷却装置に依存することになり、実用化は進んでいない。
【0003】
そこで、小さな温度差でも高電力を得るため、特許文献1に示すようなアルミニウムの陽極酸化皮膜の多孔質性を利用し、皮膜上に熱電材料を堆積して多孔質化することで素子の熱伝導率を低下させゼーベック効果を高める技術が開発された。また、冷却すなわち温度差を必要としない、配向分極を利用した熱電素子(特許文献2)やバンドギャップ幅の違いを利用した熱電素子(特許文献3)、熱電子放出現象を利用した熱電素子(特許文献4)も開発された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5964199号公報
【特許文献2】特許第6944168号公報
【特許文献3】特許第6551849号公報
【特許文献4】特許第6147901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の多孔質熱電材料は、本発明のように陽極酸化皮膜自体が熱電材料になっているのではなく、陽極酸化皮膜を熱電材料の型として用いている。この時、特定の熱電素材を用いる必要があり、高温でしか性能が発揮できない熱電材料となっている。特許文献2の熱電素子は、本発明のように強誘電体の自発分極を利用したものではなく、常誘電体の配向分極を利用している。片端または両端を絶縁体で構成しなければならず、積層して直列化する構成は難しく微小電力用途しか見込めない。特許文献3の熱電素子では、本発明と同様、発電に温度差を必要としないが、200~500℃の高温でないと発電しない。特許文献4の熱電素子は、金属ナノ粒子を用いることで通常高温で生じる熱電子放出現象を低温で可能にしたものである。ここで用いるような金属ナノ粒子は凝集しやすく、分散剤を用いると熱電子放出現象を低下させることから安定した発電が望めない。
【0006】
熱電変換を求められる環境の多くは100℃以下であり、特に常温下で達成できると大気中、地中、水中などに存在する膨大な熱エネルギーを利用することが可能になり、地球温暖化を抑制する一助となり得る。こうしたことから低い温度で安定して作動し、かつ 大きな電力を生み出すことのできる熱電変換技術が求められている。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みて開発したものであり、温度差を必要とせず100℃以下、特に常温以下の低温下でも安定して発電するとともに、積層して大きな電力を生み出すことのできる素子を開発することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、本来、酸化アルミニウムはコンデンサーやFETなどで常誘電体として用いられるが、アルミニウムを特定の多塩基酸存在下で電解酸化して得られる表面皮膜が非晶質の強誘電体になることを見出した。結晶性強誘電体は、キュリー点以上でのポーリングにより一定方向の安定した自発分極を生じるが、電解酸化皮膜は電解中にポーリングされ皮膜厚さ方向に自発分極を生じ内部に電界を作り出す。非晶質の性質として内部に無数の局在準位を有しており、常温下でも熱により局在準位から他の局在準位へと電荷が遷移しホッピング伝導する。ここに自発分極による電界が作用し、局在準位にある正および負の電荷は分離して電極に運ばれる。
【0009】
しかし、電極に運ばれた電荷が逆方向の電界をつくり強誘電体内の電界を遮蔽して起電力は消失する。そこで、強誘電体表面に強誘電体より低い静電容量を持つ常誘電体を配することにより、常誘電体側を強誘電体の自発分極により弱く分極させ両者間に分極差を生じさせる。こうして、常誘電体中の分極による電界と同等以下の逆電界が電極間に生じることになり、強誘電体内の電界を一部しか遮蔽されず起電力が生まれる。単結晶や多結晶の強誘電体や常誘電体で構成すると、バンドギャップが大きく低温下での起電力は望めないばかりか、高い温度に移行するに従い脱分極が進み致命的である。
【0010】
この現象は、本発明構成がコンデンサー構造を持つ一方、外部印加によらず内部印加で電荷を生じ電圧印加方向を逆転していることから、dQ/dV(Qは外部から印加される電位差Vにより生じる電荷)で定義される静電容量が負の値をとり、負の誘電率を持つコンデンサーとして機能する。また、鉄元素がアルミニウム中に一定以上存在すると皮膜分子骨格中に鉄成分がドープされ、分極方向が反転するとともに分極が増大し、さらに組み合わせる物質の磁性と相互作用するマルチフェロイクス性が現れる。
【0011】
これらを発電に有効に結び付けるため、処理条件、構成要件等を検討することで、温度差を必要とせず低温で安定して発電し、さらに積層することで積層数に比例した電力を得ることのできる層状構成物を見出した。
【0012】
その層状構成物とは、常温で強誘電性を有する非晶性強誘電体層の片面に静電容量の絶対値において強誘電体層より低い値を持つ非晶性常誘電体層を配した積層物において積層物上部面及び下部面に導電性物質を配したものであることを特徴としている。
【0013】
例えば、常温で強誘電性を有する非晶性強誘電体が、純アルミニウムまたはアルミニウム合金を基材として基材表面を、酸基の少なくとも一つ以上のpKa値が2.5未満の多塩基酸が少なくとも一つ以上含まれる酸性浴中で形成させた電解酸化皮膜の電解質除去物であり、非晶性常誘電体が擬ベーマイトであるものである。アルミニウム電解酸化皮膜と擬ベーマイトは単体では同等の誘電率をもつが、本構成中では電解酸化皮膜が大きな負の静電容量を持つことから、静電容量の絶対値において擬ベーマイトは自ずと電解酸化皮膜より低くなる。そのため、通常の自動平衡ブリッジ法など交流印加法で合成容量Cを測
ト静電容量、C OX は電解酸化皮膜静電容量)となり擬ベーマイト分程度の静電容量しか観測されなくなる。
【0014】
ここでの電解酸化皮膜は、pKa値が2.5未満の酸基を持つ硫酸、クロム酸、リン酸、シュウ酸などの多塩基酸浴が好ましく、これらの多塩基酸を複数用いた混酸であっても良い。
【0015】
形成直後の電解酸化皮膜内部には残留酸や酸根などの電解質が残留しており、内部での短絡を防ぐ必要がある。水中への長期浸漬、超音波印加した水中への浸漬、熱水浸漬などの方法により除去する。中でも、熱水浸漬においては、電解質の除去と同時に電解酸化皮膜表面水和して擬ベーマイトが形成され非晶性常誘電体として機能することから好ましい。
【0016】
さらにその擬ベーマイトと導電性物質との間に、ホウ酸アンモニウムや有機酸のアンモニウム塩などをエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類に溶解した溶液やイオン液体などの電解質を導入したり、こうした電解質を添加した合成樹脂を導入したり、低抵抗率の合成樹脂を導入したりすることで、擬ベーマイトと導電性物質の間にできる電気的障壁を無力化もしくはスリ抜けることができる。
【0017】
この中で、基材の鉄純度が0.1重量%以上1重量%未満であるものにおいては、自発分極が大きく特に好ましい。アルミニウムに含まれる鉄原子は電解皮膜中で酸素原子と共有結合する。この電解皮膜は、電解中にポーリングされ自発分極が基材界面側から表面方向に生じ、自発分極による内部電界は逆方向に生じる。電解皮膜表面の擬ベーマイト層は自発分極の影響を受けて静電分極し、強誘電体である電解皮膜内部と同じ方向の内部電界をつくる。そして内部電荷が電極に移動してアルミニウム基板側が正に帯電し擬ベーマイト側の電極が負に帯電しようとする。これによりエネルギーバンドが基材側から擬ベーマイト側へ上るような形に傾斜する。そのため、擬ベーマイト側に低仕事関数物質を配すると、エネルギーバンドの傾斜を促し分極を安定化させることができるため好ましい。
【0018】
また、ここで形成される電界酸化皮膜Fe Al 2-x は弱い反強磁性のマルチフェロイクスとなる。そのため、強磁性、反磁性または反強磁性を持つ電極と相互作用し、磁性エントロピーの小さい側から磁性エントロピーの大きい方へと分極方向を帰着させようとする。皮膜より磁性エントロピーの大きい常磁性体を表面に配すると、分極は常磁性体側へ向き、低仕事関数物質の常磁性体を用いることで分極の安定性が得られることから好ましい。一方、磁性エントロピーの小さい強磁性体、反強磁性体や反磁性体を配すると分極は反転し、低仕事関数物質を用いても分極は小さく安定性に欠ける。
【0019】
基材を汎用のものを利用する場合、アルミニウム純度96重量%以上99.85%未満のものを用いると良い。不純物が偏析を起こして皮膜形成不良とならないようなアルミニウム合金は、純度96重量%が限界である。一方、純度が高純度に至るFe成分の少ない純度99.85重量%付近のものは分極方向が拮抗してあまり自発分極を示さなくなる。
【0020】
高純度アルミニウムとは、純度99.99%以上のものを指し、これを基材にした電解酸化皮膜中の自発分極は反転し、その方向は擬ベーマイト側から酸化皮膜側へと向く。皮膜には鉄成分は含有せず、表面に配する導電性物質の磁性との相互作用はない。そのため、表面に配する導電性物質は分極によるエネルギーバンドの傾きから仕事関数の高い物質との組み合わせが好ましい。
【0021】
電解酸化皮膜の形成後には皮膜中に残留する電解質除去が必要となるが、75℃以上の熱水に浸漬することで電解質除去と非晶性常誘電体の擬ベーマイト形成が同時に行うことができて好ましい。また、水中浸漬などで電解質除去した後に、加圧水蒸気下に暴露することで熱水浸漬同様に電解酸化皮膜表面を擬ベーマイト化させることもできる。
【0022】
電解酸化皮膜は10Vより大きく20V未満、かつ40Hz以上100Hz以下の交流を印加してできる皮膜が好ましい。直流による電解酸化皮膜でも自発分極を持つが、通常行われる50V以上の高電圧直流を印加して形成される皮膜よりも、低電圧交流を印加してできる皮膜の方が得られる電力が大きくなり好ましい。
【0023】
擬ベーマイトと導電性物質との間に合成樹脂を介することで擬ベーマイトと導電性物質間にできる電気的障壁を無力化することができる。しかし、電気抵抗が大きくなるため、常温での体積抵抗率が10 Ωcm以上10 12 Ωcm以下である低抵抗率の合成樹脂を数μm以下の薄膜として用いることが好ましい。
【0024】
特に擬ベーマイトと導電性物質との間に電解質または電解質含有合成樹脂を用いることで電気的障壁をスリ抜け高い電流量を得ることができる。前者は電解コンデンサー同様、紙や不織布に染み込ませて巻回構造による高電流源とする場合に好ましく、後者は平板の積層による高電圧源として用いる場合に適している。この時、電解質や溶媒の揮散、流出を防ぐため、イオン液体を添加することが好ましい。合成樹脂を選択することによりイオン液体の数%添加により体積抵抗率を10 Ωcmから10 Ωcm程度低下させることができる。
【0025】
こうして、強誘電体として機能する電解酸化皮膜の成膜要件、基材の成分要件、非晶性常誘電体として機能する擬ベーマイトの生成要件、電気障壁を抑制する要件、表面の導電性物質の仕事関数や磁性要件を満たすこすにより電解酸化皮膜中の自発分極を促して安定化させ、温度差を必要とすることなく発電ができるようになる。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、温度差を必要とすることなく100℃以下の低温で電力を生み出すことができる積層可能な層状熱素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、アルミニウム基材を電解する電源や電解槽および温度調節器の様子を記載した正面図(電解槽は透視図)である。
図2図2は、電解処理と残留電解質除去処理を施したアルミニウム基材と合成樹脂や対極との組み込み例の斜視図である。
図3図3は、電解処理と残留電解質除去処理を施したアルミニウム基材と合成樹脂や対極による層状構成例の断面図である。
図4図4は、試験片を電極に組み込んだものを、熱電対付きヒーターを組付けた固定治具としての精密バイスに挿入するところを描いた側面図である。
図5図5は、試験片を測定して得たI-Vグラフの第2象限と第3象限を示した例である。
図6図6は、試験片を測定して得たI-Vグラフの第2象限に電力グラフを組み込んだ例である。
図7図7は、試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフ例である。
図8図8は、純度99.5%の純アルミニウム(以下PA2と略す)基材をシュウ酸浴交流電解した酸化皮膜の透過電子顕微鏡H-9500(日立ハイテク製)で観察した断面写真であり、電解皮膜、皮膜表面の蒸着炭素、基材のアルミニウムを図示している。
図9図9は、図8で使用したシュウ酸浴交流電解した酸化皮膜に、二次イオン質量分析装置PHI ADEPT1010(アルバック・ファイ製)でO 一次イオンを皮膜表面に照射しながら表面から基材方向にFe濃度(左軸)およびAlとOの二次イオン強度(右軸)を測定したグラフである。
図10図10は、PA2基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、純Mgをスパッタリングした試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフである。
図11図11は、PA2基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、純Mgをスパッタリングした試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータを第2~第3象限にグラフ化したものである。
図12図12は、PA2基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、Mg合金を接着剤だけで接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフである(対照のため、純Mgをスパッタリングしたものも掲載)。
図13図13は、PA2基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、Mg合金を接着剤だけで接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータを第2~第3象限にグラフ化したものである。
図14図14は、PA2基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を含浸した紙とその上にMg合金を載せた試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフである(対照のため、純Mgをスパッタリングしたものも掲載)。
図15図15は、PA2基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を含浸した紙とその上にMg合金を載せた試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータを第2~第3象限にグラフ化したものである。
図16図16は、PA2基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤でMg合金を接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータから得たピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフである(対照のため、純Mgをスパッタリングしたものも掲載)。
図17図17は、PA2基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤でMg合金を接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータを第2~第3象限にグラフ化したものである。
図18図18は、PA2基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤で基材と同じ純アルミニウムを接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフである(対照のため、Mg合金を接合したものも掲載)。
図19図19は、PA2基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤で基材と同じ純アルミニウムを接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータからの起電力と温度の関係をプロットしたグラフである(対照のため、Mg合金を接合したものも掲載)。
図20図20は、市販のシュウ酸浴皮膜品と硫酸浴皮膜品をMg合金とイオン液体を含む接着剤で接着した試験片を用意し、それぞれの試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフである。
図21図21は、PA2基材を種々の直流電圧でシュウ酸浴電解して煮沸処理したものに、Mg合金を直接接触させた試験片を用意し、試験片を測定して得た20℃でのI-Vデータからのピーク電力密度と直流電圧との関係をプロットしたグラフである。
図22図22A図22Bは、それぞれPA2と純度99.999%高純度アルミニウム(以下HPAと略す)からなる基材をそれぞれシュウ酸浴交流電解してできた皮膜上面を光学顕微鏡MX-61(オリンパス製)で観察した写真である。
図23図23は、PA2基材のシュウ酸浴交流電解および硫酸浴交流電解して煮沸処理したものに、それぞれイオン液体を含む接着剤でMg合金と接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフである(対照のため、市販のシュウ酸皮膜品をMg合金と接着したものも掲載)。
図24図24は、PA2基材を50Hzの方形波において種々の交流電圧でシュウ酸浴電解して煮沸処理したものに、Mg合金を直接接触させた試験片を用意し、試験片を測定して得た20℃におけるI-Vデータからのピーク電力密席と電解電圧との関係をプロットしたグラフである。
図25図25は、PA2基材を50Hz、15Vの方形波、三角波、正弦波でシュウ酸浴電解して煮沸処理したものに、イオン液体を含む接着剤でMg合金を接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフである(対照のため、市販のシュウ酸皮膜品をMg合金と接着したものも掲載)。
図26図26は、PA2基材を15Vの方形波において0~500Hzの種々の周波数でシュウ酸浴電解して煮沸処理したものに、イオン液体を含む接着剤でMg合金を接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と電解周波数の関係をプロットしたグラフである。
図27図27は、PA2基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、体積抵抗率の異なる接着剤にイオン液体を添加したものでMg合金を接合した試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度とイオン液体を添加していない接着剤の体積抵抗率との関係をプロットしたグラフである。
図28図28は、純アルミニウムをシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、濃度の異なるイオン液体を添加した接着剤でMg合金を接合した試験片を用意し、各試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と温度の関係をプロットしたグラフである。
図29図29は、PA2基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤で対極として各種の常磁性体、反磁性体および強磁性体を接合した試験片を用意し、60℃での各試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と各対極の仕事関数の関係をプロットしたグラフである。
図30図30は、基材としてHPA、純度99.85%アルミニウム(以下PA1と略す)、PA2、純度99%アルミニウム(以下PA3と略す)四種類をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤で対極としてMg合金、等方性黒鉛、基材と同じAl、Snをそれぞれ接合した計16種類の試験片を用意し、試験片を測定して得たI-Vデータから60℃でのデータを抽出してピーク電力密度と各対極の仕事関数の関係をプロットしたグラフである。
図31図31は、アルミニウム純度が異なる基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤でMg合金を接合した試験片を用意し、60℃でのそれぞれの試験片を測定して得たI-Vデータからのピーク電力密度と蛍光X線分光装置ZSX primus(リケン製)で測定した不純物濃度の関係をプロットして点線でフィッティングしたものである。
図32図32は、図31で用いた基材中のFe元素濃度と不純物濃度との関係をプロットして実線でフィッティングしたものである(対照のため、図31のグラフも掲載)。
図33図33は、図31で用いた基材中のSi元素濃度と不純物濃度との関係をプロットして実線でフィッティングしたものである(対照のため、図31のグラフも掲載)。
図34図34は、図31で用いた基材中のCu元素濃度と不純物濃度との関係をプロットして実線でフィッティングしたものである(対照のため、図31のグラフも掲載)。
図35図35は、図31で用いた基材中のMn元素濃度と不純物濃度との関係をプロットして実線でフィッティングしたものである(対照のため、図31のグラフも掲載)。
図36図36は、図31で用いた基材中のZn元素濃度と不純物濃度との関係をプロットして実線でフィッティングしたものである(対照のため、図31のグラフも掲載)。
図37図37は、オシロスコープ装置にPICOSCOPE 2208B(Picotechnology製)、電源にプログラマブルAC/DC電源EC750SA(エヌエフ回路設計ブロック製)を用いた 場合における試験片の誘電性評価のためのソーヤ・タワー回路図を示したものである。
図38図38は、純度99%の純アルミニウム(以下PA3と略す)基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤で基材と同じPA3を接着した試験片を用意し、それを図37の回路での試料コンデンサーとして用いた場合の常温下におけるヒステリシスデータを描いたものである。
図39図39は、HPA基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤で基材と同じHPAを接着した試験片を用意し、それを図37の回路での試料コンデンサーとして用いた場合の常温下におけるヒステリシスデータを描いたものである。
図40図40は、PA3基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤でMg合金を接着した試験片を用意し、それを図37の回路での試料コンデンサーとして用いた場合の常温下におけるヒステリシスデータを描いたものである。
図41図41は、PA2基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤で常磁性体であるMg板、強磁性体であるNiおよびGd、反磁性体であるグラファイトシートをそれぞれ接着した試験片を用意し、低温恒温器内で試験片を挟んだヒーターで一定速度で昇温して試験片に現れる起電力を、基材側を陽極として採取したデータである。
図42図42は、PA3基材をシュウ酸浴交流電解して煮沸処理したものに、イオン液体を添加した接着剤でMg合金を接着した試験片を用意し、それを低温恒温器内で25℃に保ちながら電解コンデンサおよびスイッチを並列に接続し、両端の電圧を測定して試験片から電解コンデンサへの電荷移動を観察するための回路図である。
図43図43は、図42のスイッチを開放してからの端子間電圧の経時変化を1分毎プロットしたものであり、図44の等価回路から得られた端子間電圧をパラメータ変化させたフィッティング曲線2点を併記している。
図44図44図42の等価回路であり、電解コンデンサについては、静電容量成分、絶縁抵抗および直列等価抵抗成分を設け、試験片については、静電容量成分、絶縁抵抗と直列等価抵抗成分および直流電圧源を設けている。
図45図45は、電解コンデンサの絶縁抵抗を測定するための回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<本発明実施形態を説明するために必要な試験片作成方法とI-Vデータ作成方法>
本発明実施形態を説明するために必要な試験片作成方法とI-Vデータ作成方法について図面を基に説明する。本発明の中心となるものは電解酸化皮膜であり、試験片の作製にはその皮膜の形成方法が重要となる。そこで、図1に示す装置を採用した。外寸120×120×150mmの角型ガラス容器1に電解用水溶液3と撹拌子4を入れ、その周囲4面を10mm厚発泡スチロール2で断熱したものに40mm間隔に3本の銅パイプを通し、両端のパイプに大きさ120×84×8mmの黒鉛板7と中央のパイプにアルミニウム基材8を銅線で吊り下げる。黒鉛板7とアルミニウム基材8はプログラマブルAC/DC電源EC750SA(エヌエフ回路設計ブロック製)6の陰極端子と陽極端子にそれぞれ接続している。この発泡スチロール2で囲まれたガラス容器1は、クールスターラーCPS-30(井内盛栄堂製)5の電熱面に置かれ撹拌子4を低速回転させながら電解用水溶液3の温度を制御する。電源6は、直流や種々の波形の交流を出力することができる。
【0029】
図1の装置でできた電解酸化皮膜内部には電解液および酸根が残留しており、これを除去するため、純水中への長時間浸漬や煮沸純水への浸漬をする。この時、煮沸したり電解質除去後加圧水蒸気下に暴露すると、電解酸化皮膜における基材11の反対側表面が水和して擬ベーマイトに変化する。すなわち、非晶性強誘電体と非晶性常誘電体の複合皮膜が形成される。この工程を経たものが、図2および図3における複合皮膜12でありアル ミニウム基材11の表面に形成される。これに樹脂10と対極9が被覆される。
【0030】
ただし、図2図3は本発明のデータを得るための試験片の代表例であり、実施形態がこれらの例に限定されるものではない。実施形態としては、図3のものが積層される場合や複合皮膜12がアルミニウム基材両面に施され両面に樹脂10や対極9が被覆される場合、樹脂10が電解質含有紙で巻回構造をとる場合、対極9が蒸着膜やスパッタリング膜などの薄膜である場合、基材12が成形品や押出形材である場合、樹脂10や対極9が表面の一部である場合、電解酸化皮膜を用いない方法、例えば、電極上にスパッタリングなどで非晶性常誘電体を形成したものに低温焼成ゾル・ゲル法などで非晶性強誘電体形成し、さらにその上に電極を形成したものなど様々な場合がある。
【0031】
図4のように、こうしてできた本発明の単体試験片13からアルミ製電極14と断熱材15で挟んたもの16を作り、精密バイスVMV-20(VERTEX製)17に組み付けられた熱電対付きヒーターWALN-3(WAELOW製)21間に挿入して圧締ボルト18を軽く締めバイス17に固定する。さらに、ヒーター21および挿入したもの16の側面を10mm厚の発泡ポリプロピレンで断熱する。これを低温恒温器SB01(ETAC製)に入れ、ヒーター21がつながれた温度コントローラーModel335(Lake Shore製)と低温恒温器により試験片の両面および側面を同一温度に制御する。そして、アルミニウム基材側を陽極、対極材側を陰極になるようにエレクトロメーター8252(エーディーシー製)で電圧を印加しながらI-Vデータをとる。
【0032】
I-Vデータは第2象限および第3象限すなわち印加電圧がマイナス側でのみ採用している。これは、試験片の起電力においてアルミニウム基材側が陽極として現れる場合、電力や起電力データがこの象限でのみ得られるからである。逆に基材側が陰極となる場合、エレクトロメーターと試験片との接続を反対にすることで第2および第3象限に必要なデータを表すことができる。図5図6の曲線24がI-Vデータ例であり、x軸との交点25が解放電圧すなわち起電力を表す。また、I-V曲線24からIV積を計算してプロットすると電力曲線26が得られ、ここからピーク電力27が得られる。さらに、ピーク電力を試験片の対極の接合面積で除した値、すなわちピーク電力密度の値と測定温度との関係をプロットすると図7の温度依存性曲線28が得られる。このI-Vデータ取得条件を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
<本発明における実施形態に至る経緯>
本発明における実施形態に至る経緯について、図を交えて詳細に説明する。まず、本発明が電解酸化皮膜および擬ベーマイトからなる複合皮膜と対極との間に合成樹脂等を介 するに至った経緯について説明する。PA2基材を下記表2の条件で得られた複合皮膜の表面に純Mg(仕事関数3.66eV)を0.1μm厚にスパッタリングした試験片を用意した。
【0035】
【表2】
【0036】
この試験片を表1の条件でI-V特性を調べ、そこから60℃のデータを抽出したものが図11であり、ここから得られたピーク電力密度を測定温度毎にプロットしたものが図10である。図10の温度依存性曲線43では、60~100℃域においても1nW/cm に満たない低い値を示している。図11では、曲線44とx軸の交点45から-2V付近まで曲線44はx軸に漸近する整流性曲線として現れ、電気的障壁があることが確認された。
【0037】
ところが、合成樹脂を介して対極を接合させると電力が大きくなることを見出した。それを図12および図13に示す。図12および図13は、PA2基材を表2の条件で得られた複合皮膜の表面に純Mgと同等の仕事関数を持つMg合金AZ31(仕事関数3.7eV)をエポキシ樹脂接着剤(体積抵抗率4.1×10 11 Ωcm、ガラス転移点-65℃、以下略称を接着剤Aとする)で常温接着(1MPa)したものを試験片としている。
【0038】
図12は、純Mgスパッタリング試験片の温度依存性曲線43と比較しており、接着剤Aによる温度依存性曲線46の方が高い電力を示している。また、図13は、表1の条件で60℃におけるI-V特性を調べたものであり、I-V曲線47が直線的で整流性が現れず電気的障壁が失われている。
【0039】
このような中で、イオン液体のような電解質を介した場合、電気的障壁にかかわりなく高い電力を発生することを見出した。イオン液体としてメチルトリブチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド(電気伝導度2.2mS/cm、窓電位5.7V、以下略称を「N 1444 ][NTf ]とする)を染み込ませた40μm厚のグラシン紙を、PA2基材の表2の条件で得られた複合皮膜とAZ31板の間に挟んだところ大きな電力が発生した。
【0040】
それを図14および図15に示す。図14は、純Mgスパッタリング試験片の温度依存性曲線43と比較しており、イオン液体の温度依存性曲線49の方が3桁も高い電力を示している。図12の接着剤などと比較しても桁外れの電力を生じるにもかかわらず、図15では交点51から-2.3V付近までI-V曲線50がx軸に漸近して電気的障壁による整流性曲線が現れている。すなわち、イオン液体が、電気的障壁に左右されずに大きな電力を得ていることを示している。
【0041】
この現象は、イオン液体を電解液、基材側を陽極(還元極)、対極側を陰極(酸化極)とする化学反応により生じたものではない。複合皮膜中の電子は陰極側に移動して陰極を還元するような挙動をするため、化学反応(陰極での酸化反応)は生じない。
【0042】
一方で、このイオン液体は固体でないためバルク材の固定や蒸着などができず、また、絶縁体である合成樹脂のみでは微弱な電流しか期待できない。イオン液体は、界面活性剤などと異なり水分なしに単独で電気伝導性を示すが、合成樹脂にイオン液体を添加することは、水中の電解質に似て、絶縁体中に局在準位を導入することに等しく、複合皮膜と合成樹脂のバンドギャップ間でのホッピング伝導を促すため、電気的障壁に影響されなくなる。
【0043】
それを図16および図17に示す。図16および図17は、PA2基材を表2のような条件で得られた複合皮膜の表面に図12および図13で用いた接着剤Aに[N 1444 ][NTf ]イオン液体を5wt%添加したものでAZ31板を常温接着(1MPa)し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。
【0044】
図16は、純Mgスパッタリング試験片の温度依存性曲線43と比較しており、温度依存性曲線52の方が2桁も高い電力を示している。また、図17では、交点54から-3V付近までI-V曲線53がx軸に漸近して電気的障壁による整流性曲線が現れている。図16および図17は、イオン液体のわずかな添加により、電気的障壁に左右されず電力を高められていることを示している。
【0045】
ここまでは、合成樹脂等の介入の必要性を説明するためアルミニウム基材の対極を基材より低仕事関数の物質にした事例を示してきたが、ここで、電力の生成が複合皮膜中で起きる物理的要因によることに示すための契機となった事例を示す。それが、図18図19である。これらはPA2基材を表2の条件で得られた複合皮膜の表面に接着剤Aに[N 1444 ][NTf ]イオン液体を5wt%添加したもので基材と同じアルミニウムを常温接着(1MPa)し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。
【0046】
図18では、温度依存性曲線55が、PA2基材と同じ素材同士で電解酸化皮膜と擬ベーマイトからなる複合皮膜を挟んだものであり、PA2基材とAZ31で複合皮膜を挟んだ温度依存性曲線52と比較している。一方、図19では、起電力の温度依存性を示しており、曲線57がPA2同士で複合皮膜を挟んだものであり、曲線56のPA2とAZ31で複合皮膜を挟んだものと比較している。
【0047】
図18から、温度依存性曲線55の示すデータは、同じアルミニウム間、すなわち、仕事関数差のない極板間で生じており、化学反応ではなく複合皮膜中の物理現象によることを示している。一方、温度依存性曲線52は温度依存性曲線55より1桁高い電力密度を示しており、AZ31の低仕事関数効果である。図19における曲線57と曲線56との差は、60℃以上で0.56Vの一定値をとり、素電荷をこの起電力差分逆らって移動させるエネルギーが0.56eVであることから、アルミニウムとAZ31との仕事関数差0.58eVとほぼ一致している。この仕事関数差が、電力密度に影響することを示唆している。
【0048】
こうした結果から、得られる起電力や電力が複合皮膜に起きる物理現象から生じていると考えられた。そこで、複合皮膜中に何が起きているかを調査した。アルミニウム基材の電解酸化皮膜は主に非晶性酸化アルミニウムからなっている。しかし、純アルミニウムには表3に示すようにSi、Fe、Cu、Mn、Zn、Tiなどの不純物が含まれ、アルミニウム合金においてはさらにSi、Cu、Mn、Mgなどを添加物として加えている。ここでは、アルミニウム合金においてもアルミニウム以外の成分を不純物と呼ぶことにする。
【0049】
【表3】
【0050】
図31は、表3記載の高純度アルミニウム、純アルミニウム、アルミニウム合金を基材として、表2記載の方法で得られた複合皮膜に、イオン液体[N 1444 ][NTf ]5wt%を含む接着剤AでMg合金AZ31を常温接着(1MPa)し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。この各試験片を表1記載の方法で採ったI-Vデータの中から60℃におけるデータを抜き取り、そこからピーク電力密度を算出し基材の不純物量との相関をプロットしフィッティング曲線89を描いている。
【0051】
表3記載のアルミニウム材料の成分は、蛍光X線分光装置ZSX primus(リケン製)での測定データからAl、Si、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Zn、Ti以外の元素データを排除し、この9種類の元素で規格化し算定し直したものである。ここから、不純物量を割り出している。さらに図32図36は、各基材の不純物中のFe、Si、Cu、Mn、Zn元素の濃度と不純物全体の量との関係をプロットしてフィッティング曲線90~94を描き、電力密度との相関図31のフィッティング曲線89と比較している。その結果、Fe元素濃度のフィッティング曲線90のみが電力密度のフィッティング曲線89と近似し、試験片で得られる電力とFeとの間でのみ相関が認められた。
【0052】
この相関から、起電力の起源が電解酸化皮膜である酸化アルミニウム骨格中にFeがドープされたことによると推測された。Siは電解酸化皮膜に物理的に取り込まれボイドを形成することが知られており、Cuはアルミニウムと電界酸化皮膜の界面に集中すると言われている。Mn、Mg、Znなども電力との相関がないことから皮膜中にドープされていないものと考えられる。そこで、電解酸化皮膜中のFe成分の分布を調べることにした。図8は、PA2基材を、図2の条件(ただし、煮沸は行っていない)でできた電界酸化皮膜表面から取り出して炭素蒸着した小片を透過電子顕微鏡H-9500(日立ハイテク製)で観察した断面である。皮膜29の厚みは2.3μmあった。
【0053】
この皮膜表面から二次イオン質量分析装置PHI ADEPT1010(アルバック・ファイ製)でO 一次イオン(加速電圧6kV)を18×18μmの範囲に照射し、スパッタリングしながら発生する二次イオンを検出してFe濃度を算出した(算出基準はAl )。それ が、図9の曲線34である。直線35は、基材と電界酸化皮膜界面を示しており。電解酸化皮膜内部領域においてAlやOの二次イオン強度に比例しFeがほぼ均一に分布し、集中箇所が見られないことから、ボイド形成や、皮膜界面への集中など物理的な現象は見られず分子骨格中にドープされているともの考えられる。
【0054】
ここから、Fe成分が酸化アルミニウムにドープされた場合について考察した。酸化アルミニウムAl において、Fe原子をホストカチオンであるAlイオンに置換すると、Fe原子は共有結合性によりホストカチオンと同じ価数3の配置になりがちになる。同時に、Feの電子配置が半充填配置のときに交換分裂と交換相関エネルギーが最大になるため、交換相関エネルギーのために半充填配置である3価を採ることを好む。その結果、Fe原子は配位子アニオンOと混成状態を作り、Fe Al 2-x を形成する。この物質の結晶は常温でも強誘電性と反強磁性を併せ持ったマルチフェロイックな性質を示す。マルチフェロイックな性質とは強誘電性と(反)強磁性などを同時に有する物質でそれぞれの性質が相互作用を及ぼす。この相互作用が非晶性の電解酸化皮膜にも生じることが疑われた。
【0055】
そこで、Fe Al 2-x を形成すると予想される基材の電解酸化皮膜の誘電性を調べた。PA3基材を表2記載の方法で得られた皮膜に、イオン液体[N 1444 ][NTf ]5wt%を含む接着剤Aで基材と同じアルミニウムとを常温接着(1MPa)し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片として用意した。これをインピーダンスアナライザーIM3570(HIOKI製)で正負極を逆転して接続し1Vを逆印加して常温での静電容量を100Hzで測定したところ22.7nFであった。そこでこの容量よりも十分大きい1μFのフィルムコンデンサーを基準コンデンサーとして図37のソーヤ・タワー回路で誘電性を測定した。補償抵抗97は3.3kΩを使用し、電源99にはEC750SA(エヌエフ回路設計ブロック製)から正弦波の有効電圧50Vを供給した。
【0056】
その結果、図38のようなヒステリシスが現れ、印加電界0V/cmの時に残留分極±0.47μC/cm (皮膜厚2μm、面積4.2cm 時)が得られ強誘電性が認められた。これをHPA基材にも適用したところ図39のような小さなヒステリシスが現れ、残留分極0.20μC/cm (皮膜厚2.9μm、面積4.2cm 時)が得られ強誘電性が認められた。すなわち、非晶性であっても、また、Fe成分が含まれていなくても電解工程で形成された複合皮膜には強誘電性が得られることが判明した。
【0057】
同時に、Fe成分が含まれることにより残留分極が大きくなることが判明した。さらに、PA3基材の複合皮膜にAZ31を同様な方法で接合したものは、図40のようなヒステリシスが現れた。残留分極は、0.57μC/cm (皮膜厚2μm、面積4.2cm 時)に達し、対極の種類により分極が変動することを確認した。これは、図18の結果とも一致し、基材と対極の間に仕事関数差を作ることにより分極が変動することを意味している。
【0058】
複合皮膜中の擬ベーマイト層は電解すなわち電界印加により形成されたものではないため、強誘電体にはならず常誘電体として作用する。強誘電体である電解酸化皮膜の自発分極が、擬ベーマイト層を誘電分極する結果、複合皮膜が見かけ上強誘電体性を持つように見える。
【0059】
また、磁性についても確認した。PA2基材を表2記載の方法で得られた複合皮膜に、常磁性体であるMg、強磁性体であるNi、18℃で常磁性体に変化する強磁性体のGd、反磁性体の膨張黒鉛HT-715(eGRAF製)の各磁性体をイオン液体[N 1444 ][NTf ]5wt%を含む接着剤Aで常温接着(1MPa)し、1週間以上養生した後100℃で1 2時間キュアリングしたものを試験片とした。
【0060】
試験片を、図4のように2つのヒーター21で挟み精密バイス17に固定したものを低温恒温器SB01(ETAC製)内で-11℃に冷却し、-10~100℃まで1℃/minの速度でヒーターを温度コントローラーModel335(Lake Shore製)で昇温しながら起電力をエレクトロメーター8252(エーディーシー製)で測定した。その結果が図41である。
【0061】
基準を基材側が陽極、対極の磁性体側が陰極となるように接続しており、磁性的秩序を持たない常磁性体(曲線103)は正の大きな起電力を持ち、磁性的秩序を持つ強磁性体(曲線105)および反磁性体(曲線106)は負の比較的小さな起電力を持つ。そのため、18℃にキュリー点107を持つ強磁性体Gd(曲線104)を対極に用いた場合、キュリー点近くで起電力方向が突如変わり急速に正の起電力に変化するようになる。
【0062】
この現象は、強誘電体の自発分極が反転したことを示しており、非晶性強誘電体である電解酸化皮膜が起電力の源となっていることを示唆している。また、Fe Al 2-x 成分を持つ電解酸化皮膜が弱い反強磁性体であると考えられることから、対極の磁性体とは相互作用して分極が反転し起電力が正負逆転したことを意味する。すなわち、磁性のエントロピーが小さい方から大きい方へと分極方向を決定付ける。そして、この現象は、Feを含まないHPAの電解酸化皮膜の場合、対極にどのような磁性体を配しても分極に影響されないことを意味している。
【0063】
こうして、強多塩基酸浴中でできるアルミニウム基材の電解酸化皮膜は強誘電性を示して厚み方向に自発分極し、隣り合った低容量の常誘電体の方が強誘電体の影響を受けて誘電分極して強誘電体より小さな分極を形成させる。この結果、電極間には常誘電体側分極に依存した電界しか生じないため、電解酸化皮膜内の内部電界が遮蔽されず電極間に起電力が生じる。また、この分極はエネルギーバンドの傾きを生み、その傾きは内部分極や電極間電界の方向とは逆の方向に生じる。
【0064】
基材から対極方向に分極が生じている場合は、基材側が正極となり対極は負極となり、エネルギーバンドは負極側から正極側に下降傾斜する。そのため、この場合は低仕事関数物質を対極に用いることにより、エネルギーバンドの傾きを増大して分極を促し安定化する。一方、逆方向の分極が生じる場合は、対極に高仕事関数物質を用いることで分極が促される。
【0066】
しかし、Fe成分をもつ電解酸化皮膜を用いる場合、エネルギーバンドは常誘電体側から電解酸化皮膜側に下降傾斜して擬ベーマイト層側表面はp型半導体のように低仕事関数物質との間で電気的障壁が現れてしまう。高純度アルミニウムからできた電解酸化皮膜を用いる場合、擬ベーマイト層側表面はn型半導体のように高仕事関数物質との間で障壁が現れる。そのため、擬ベーマイト層と電極との間に電気的障壁を破る工夫として電解質や合成樹脂、あるいは電解質を含む合成樹脂を介することが必要となる。
【0067】
このような様々な検証の積み重ねの結果見出された事象が本発明の根幹となっている。ここからは、本発明の要件の一部となる表2の複合皮膜形成条件や合成樹脂の条件、イオン液体の条件などを図に基づき詳細に説明する。
【0068】
<本発明の要件を構成する実施形態>
本発明の非晶性強誘電体とは、例えばアルミニウムの電解酸化皮膜であり、直流や交流、直交重畳といった電解方法の如何にかかわらず、アルミニウムをpKa値2.5未満の酸基を少なくとも一つ以上持つ、例えば、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸などの多 塩基酸を少なくとも一種類以上含む水溶液中で電解酸化して形成される皮膜であり内部に残留する電解質を除去したものを指す。
【0069】
直流による電解酸化皮膜は、アルミニウムに接する箇所に薄いバリヤー皮膜を形成し、その上に直径数十nmの細孔を表面に向けたハチの巣様の多孔質皮膜を形成した構造からなる。市販される電解酸化皮膜品は硫酸浴やシュウ酸浴中での直流(もしくは直流と交流との重畳)で行った陽極酸化皮膜品であるが、電力はこうした市販の電解酸化皮膜品(ただし擬ベーマイト形成された複合皮膜品)でも得られる。
【0070】
図20は、市販のアルミニウム押出型材30×30mmアングルから採取したサンプル(硫酸浴陽極酸化複合皮膜品、膜厚6μm)および家庭用調理品から採取したサンプル(シュウ酸浴陽極酸化複合皮膜品、膜厚13μm)を[N 1444 ][NTf ]イオン液体を5wt%添加した接着剤AでAZ31板を常温接着し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。前者の温度依存曲線が59、後者のものが58であり、いずれの陽極酸化皮膜品も電力を生じ、皮膜が厚いにもかかわらず後者のシュウ酸浴の方が高い電力を示した。
【0071】
バリヤー皮膜だけの電解酸化皮膜は、電解コンデンサーなどに用いられるホウ酸、ホウ酸アンモニウム、酒石酸アンモニウムやホウ酸ナトリウムなどによる弱酸性からアルカリ性水溶液を電解液とすることで得られるが、強誘電体にはならず電力を生じる作用はない。強酸基を持つ多塩基酸浴からできる直流による電解酸化皮膜中のバリヤー皮膜の厚みは電解電圧に比例し、クロム酸>リン酸>シュウ酸>硫酸の順に薄くなり、薄い方が好ましい。一方、強酸基を持つ多塩基酸浴からできる直流による電解酸化皮膜中にできる細孔密度は電解電圧に反比例するとともに、硫酸>リン酸>シュウ酸の順に小さく孔壁が厚くなり皮膜密度が高くなる。クロム酸は孔が不均一で粗質な皮膜となる。
【0072】
これらの傾向から、強誘電性出現に関わらないバリヤー皮膜厚が薄く、強誘電体による起電力によって生じる内部電流密度を高くするため皮膜密度の高いシュウ酸浴下で低電圧電解することが好ましい。シュウ酸浴で皮膜を形成することが好ましいのは、前記市販品による結果と一致する。図21は、PA2基材を電解電圧20~70Vの直流を用いて表4のような条件で陽極酸化皮膜を形成し、その上に煮沸により擬ベーマイトを形成したものに、AZ31を直接皮膜に接触させて試験片としたものであり、20℃におけるI-Vデータから得たピーク電力密度をプロットしたものである。この結果から、直流においては比較的低電圧の40Vで電解した酸化皮膜から最大の電力が得られた。
【0073】
【表4】
【0074】
一方、交流は、直流のような30V以上の電圧での電解では、薄い層が何層にも重なった積層構造が現れ電流障壁となり高い電流密度は期待できない。ところが、実効電圧20V以下での電解では積層構造は現れず、また、孔も浅く細孔は形成され密度も高い。それを示すのが、図22(A)および(B)の光学顕微鏡での皮膜上面写真であり、図8の透過電子顕微鏡による皮膜断面写真である。
【0075】
これらの写真はPA2基材を表2の条件で形成した電解酸化皮膜で、図22(A)と図8がPA2基材、図22(B)がHPA基材である。PA2では直径がサブミクロンか ら数ミクロンの浅い孔が低密度でランダムに形成され、孔中間の皮膜内部には直流電解に見られるような細い細孔は見られない。また、HPAに至ってはいずれの孔も見られなくなる。このため、直流よりも低電圧による交流での電解が好ましい。
【0076】
図23は、PA2基材を表2および表5による条件で形成されたシュウ酸浴電解酸化皮膜と擬ベーマイトによる複合皮膜品および硫酸浴電解酸化皮膜と擬ベーマイトによる複合皮膜品を用いている。双方とも「N 1444 ][NTf ]イオン液体を5wt%添加した接着剤AでAZ31と1MPaで常温接着し、1週間養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。
【0077】
【表5】
【0078】
図23の温度依存性曲線52がシュウ酸浴、温度依存性曲線61が硫酸浴による交流電解複合皮膜品であり、市販のシュウ酸浴複合皮膜品56(直流電解品)と比較している。この結果から、シュウ酸浴同士の電解酸化皮膜では交流の方が高い電力を示している。また、市販品での傾向と同じように、シュウ酸浴と硫酸浴電解酸化複合皮膜とではシュウ酸浴の方が得られる電力は高い値を示している。すなわち、シュウ酸浴で交流電解した複合皮膜が特に好ましい。
【0079】
図24は、PA2基材を表6による条件で形成された電解酸化複合皮膜品にAZ31を直接接触させたものを試験片としている。ただし、電解実効電圧は10V、13V、15V、17V、19V、21V、25Vの7種類で行っている。この試験片から20℃でのI-Vデータをとりそのピーク電力密度をプロットしたものが図24の曲線62である。この結果から、交流による電解電圧は実効値で10Vより大きく19V以下の低電圧が好ましい。
【0080】
【表6】
【0081】
図25は、PA2基材を表7による条件で形成された電解酸化複合皮膜品を[N 1444 ][NTf ]イオン液体を5wt%添加した接着剤AでAZ31と1MPa常温接着し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。ただしここでは、電解波形を正弦波、三角波の2種類の波形で形成した電解酸化皮膜で行い、方形波は、前例(図16における温度依存性曲線52の実施形態)によっている。
【0082】
【表7】
【0083】
図25の温度依存性曲線63が正弦波であり、温度依存性曲線64が三角波である。また、市販のシュウ酸浴複合皮膜品56(直流電解品)と比較している。この結果、交流波形は、実効値が同じであっても波形によって得られる電力は異なるが、いずれも直流電解品よりも大きな値が現れ交流品が優れていることを示している。中でも、すべての温度域で最大の値を示す方形波が特に好ましい。
【0084】
図26は、PA2基材を表8による条件で形成された電解酸化複合皮膜品をAZ31に直接接触させたものを試験片としている。表7では、電解周波数に応じて電解時間を変えているが、50Hz時の電解電力量を基準に電解時に得られる電力値から電解電力量が同じになるよう調整をしている。ただし、直流(0Hz)については、電解電圧および電解電圧を前例(図21の実施形態)に基づいて設定している。
【0085】
【表8】
【0086】
こうした試験片から得られたI-Vデータから60℃、80℃、100℃におけるデーを抽出し、そこからのピーク電力密度をプロットしたものが図26である。曲線65、66、67がそれぞれ100℃時、80℃時、60℃時のものである。図26および表8から、電解周波数20Hz以下の低周波数域や100Hzよりも高い高周波数域では電解酸化皮膜の成長が遅く長時間の電解を要し、得られる電力も低い。そのため、40~100Hzが高い電力を得られ好ましく、中でも商用周波数の50~60Hzが特に好ましい。
【0087】
電解中の浴温度は、直流において膜が最も成長しやすい範囲が交流においても好ましい。酸濃度はシュウ酸において3~5%が好ましい。1%以下にすると電流密度を維持するために高い電圧を必要とし、得られる電力も低下する。電解時間は、20V以下の実効電圧下においては30分以下で形成される電解酸化皮膜は電力が得られない。60分以上で1μm以上の皮膜が形成され、自発分極による電力が得られるようになり好ましい。
【0088】
本発明の非晶性強誘電体の一例となる電解酸化皮膜形成においては皮膜中の電解質の除去が必要となる。電解酸化皮膜形成後に皮膜内部には電解浴の酸や副産物の酸根が残留する。これを除去しなければ皮膜内部で電界ができても短絡して起電力は生じない。この電解質の除去に適した方法が、超音波印加した純水中への浸漬または純水を加熱した熱水への浸漬処理である。熱水処理や加圧蒸気中に暴露する蒸煮処理では、非晶性常誘電体と して機能する擬ベーマイトが電解酸化皮膜表面が水和されて形成される。特に熱水処理では、電解質の除去を同時に行うことができ好ましい。また、蒸煮処理は、電解質除去効果が低いため予め電解質の除去を行うことが好ましい。
【0089】
市販される硫酸浴やシュウ酸浴などによる陽極酸化皮膜は、その表面の細孔をこうした熱水処理や蒸煮処理により形成される擬ベーマイトで封孔して耐食性を高めているが、本発明では目的が異なる。この熱水処理や蒸煮処理により電解酸化皮膜を利用した非晶性常誘電体の形成を行うためである。この常誘電体を形成しないと起電力は生じない。
【0090】
熱水処理する場合、常圧下では擬ベーマイトの形成される75~100℃での処理が良く、加圧下でより高温の熱水で短時間処理をしても良い。また、電解質を排除した電気抵抗率10 Ωcm以上の純水もしくは精製水によることが好ましい。処理時間は電解酸化皮膜の厚さにもよるが5~30分程度であり、1~3μm程度の厚みの皮膜には数分~10分程度で良い。
【0091】
また、加圧水蒸気下に暴露する蒸煮処理においては、皮膜内部の電解質を除去する効果が低いものの電解酸化皮膜を利用して表面に非晶性常誘電体を生成できる。ゲージ圧2気圧以上の飽和水蒸気下で擬ベーマイトが形成されはじめ、結晶性の高まらない5気圧以下の低圧加熱水蒸気暴露が好ましい。また、熱水処理と同様処理時間は皮膜厚さに左右され数分~30分程度が好ましい。
【0092】
本発明構成において、非晶性強誘電体に電解酸化皮膜を用いる場合の重要な要素として、非晶性常誘電体と電極の間に介在させる合成樹脂や電解質が挙げられる。その重要性は、常誘電体と電極の間に現れる電気的障壁の無効化あるいはスリ抜けるためである。合成樹脂単体では障壁を無効化できるが電気抵抗が高くなり易い。合成樹脂にイオン液体などの電解質を添加したり、電解質そのものを介在させることにより、電気的障壁をスリ抜けることができる。その結果、複合皮膜中のエネルギーバンド傾斜を促す仕事関数物質を電極として配することができるようになる。これにより、分極を増大安定化させ発電の増大に繋げることができる。
【0093】
ここで、この合成樹脂も絶縁体であり、電荷移動を促す体積抵抗率の低いものが好ましい。図27は、PA2基材を表2による条件で形成された複合皮膜品を[N1444][NTf]イオン液体を5wt%添加した表9(メーカー公表値を記載)に示す種々のエポキシ樹脂接着剤でAZ31と1MPaで常温接着し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。
【0094】
【表9】
【0095】
図27の曲線はイオン液体を含まない状態の接着剤A~Fの常温での体積抵抗率と、イオン液体を添加した試験片A~Fから得たI-Vデータによるピーク電力密度の関係をプロットしたものである。ここで、曲線68、69、70は、それぞれ20℃、60℃、100℃の温度下で測定して得たプロットをフィッティングしたものである。
【0096】
この結果から、イオン液体を添加した試験片のピーク電力密度とイオン液体を添加する前の常温での体積抵抗率の関係が比例しなくなる。すなわち、エポキシ樹脂の中でも樹脂成分の違いによりイオン液体の効果が異なることを示している。特に、体積抵抗率が10 15 Ωcm域のものは明らかに全温度域で低い値を示し、この程度まで体積抵抗率が高まるとイオン液体の効果が低下することを示している。
【0097】
合成樹脂は常温で10 Ωcm未満のものは存在しない。そのため、イオン液体を添加しない場合は、図12における温度依存性曲線46の実施形態より10 Ωcm以上10 12 Ωcm以下のものが好ましく、イオン液体を添加する場合は、常温での体積抵抗率が10 Ωcm以上10 14 Ωcm以下であることが好ましい。用いられる合成樹脂としては、エポキシ樹脂やポリウレタン樹脂のほか、ポリアミド樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、酢酸セルロース樹脂、プロピオン酸セルロース樹脂、ニトロセルロース樹脂などが好適に挙げられる。
【0098】
本発明では、金属や半金属、半導体、合金、共晶、導電性化合物などからなるバルク材を合成樹脂もしくは電解質含有合成樹脂で接合するか、あるいは、それらの物質を真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法などのPVD法による薄膜や直径数nm~100nmの超微粒子を合成樹脂や電解質含有合成樹脂の上に施しても良い。また、PVD法、CVD法、エピタキシャル法による薄膜を導電性バルク材の上に前記物質を堆積させ、それを合成樹脂や電解質含有合成樹脂で接合しても良い。合成樹脂や電解質含有合成樹脂の厚みにおいては厚さ1~4μm程度が好ましい。合成樹脂や電解質含有合成樹脂を接合に用いる場合には、樹脂量を3~5g/m することが好ましい。
【0099】
これまでの実施形態で示したように、合成樹脂に電解質を添加することは電気的障壁をスリ抜け、電気伝導度、ひいては得られる電力を高めることができる。特に電解質にイオン液体を用いることは溶媒不要となり揮散、流出を防ぐことができて好ましい。イオン液体とは、常温で液体となっているカチオンとアニオンからなる有機塩を指す。
【0100】
カチオン種として、ジアルキルイミダゾリウムイオン、アルキルヒドロキシメチルイミダゾリウムイオン、ジアルキルピロリジニウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、ジエチル(メトシキエチル)メチルアンモニウムイオン、コリンイオン、メチルトリヒドロキシメチルアンモニウムイオン、ジアルキルピペリジニウムイオン、テトラアルキルホスホニウムイオン、トリアルキルスルホニウムイオンなどが安定であり好適に挙げられる。
【0101】
また、アニオン種として、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン、トリフルオロメタンスルホネートイオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、トリフルオロ酢酸イオン、メトキシ酢酸イオン、ジシアノアミドイオン、チオシアネートイオン、ジシアナミドイオンなどが安定であり好適に挙げられる。
【0102】
これらルイス酸性の低いカチオン種とルイス塩基性の低いアニオン種の組合せにより、イオン性が高く、耐熱性、低蒸気圧、高電位窓、イオン伝導性に優れたものが得られ好ましい。
【0103】
合成樹脂の電気伝導性を高めるためにはイオン液体の電気伝導度は高い方が好ましく、1mS/cm以上あるものが好ましい。電位窓は、本発明の起電力が1V以上に達するため2V以上あることが望ましい。また、用いられる合成樹脂により効果が異なり、高 体積抵抗率樹脂やシリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂以外の合成樹脂を用いることが好ましい。さらに、合成樹脂との反応に関与する官能基を持たないものが好ましい。
【0104】
エポキシ樹脂では、電気伝導度が1mS/cm程度のイオン液体を1~30%添加することで、樹脂の凝集力を大きく低下させずに電力を高められる。これを図28に示す。
【0105】
図28は、PA2基材を表2による条件で形成された複合皮膜品を[N 1444 ][NTf ]イオン液体を0~30wt%各種添加した接着剤AでAZ31と1MPaで常温接着し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。
【0106】
図28の各曲線は、I-Vデータからピーク電力密度を求め、電力密度と温度の関係をプロットしたものである。曲線71は、イオン液体を含まない接着剤Aで接合したものであり、曲線72、73、74、75はそれぞれ1wt%、5wt%、10wt%、30wt%の[N 1444 ][NTf ]イオン液体を接着剤Aに添加して接合したものである。この結果、1wt%程度で接着剤A単独に比べ電力の向上が認められ、また、5wt%添加で30wt%添加と同等の電力が得られる。30wt%よりも多くの添加は、凝集力を犠牲にする程度まで増加させないと電力の増加は見込めない。こうしたことから1~5wt%程度の添加が特に好ましい
【0107】
こうして構成される層状熱素子は、本発明の非晶性強誘電体にアルミニウムの電解酸化皮膜を用いるとき、それを特徴付ける現象が現れる。これを、図を以って説明する。
【0108】
<本発明の非晶性強誘電体に電解酸化皮膜を用いる実施形態における特徴>
第1に、電解酸化皮膜の基材にFe成分を含むアルミニウムを用いた場合、対極に常磁性体を用いると、基材側が陽極、対極側が陰極となり、対極にアルミニウムより低い仕事関数物質を配することで高い電力が得られる。また、対極に強磁性体や反磁性体を用いると基本的に極性が反転し高い電力は得られなくなる。これを図29に示す。
【0109】
図29は、PA2基材を表2による条件で形成された複合皮膜品を[N 1444 ][NTf ]イオン液体を5wt%添加した接着剤Aで表10の金属、半金属、半導体および合金と1MPa常温接着し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。ここで、p型Siは単結晶、黒鉛は膨張黒鉛HT-715(eGRAF製)と等方性黒鉛、Bi、SbとSeは鋳造品、他は圧延品を用いている。
【0110】
図29の一点破線76は表10の中の常磁性体を対極とした場合のI-Vデータから60℃のデータを抽出し、ピーク電力密度を白丸でプロットしたものをフィッティングしたものである。対極にアルミニウムより低い仕事関数物質を配することで高い電力が得られる。また、破線77は表10の中の反磁性体を対極とした場合のI-Vデータから60℃のデータを抽出し、ピーク電力密度を黒丸でプロットしたものを直線で近似したものである。
【0111】
符号77と符号78は黒鉛を対極としており、前者は加圧加工されていない膨張黒鉛、後者は加圧加工された等方性黒鉛である。黒鉛は反磁性体の中でも磁化率の絶対値が大きく特に結晶軸に平行方向ではBiをはるかに上回る。このため、加圧により結晶が配向した等方性黒鉛の方が加圧されていない膨張黒鉛より大きな電力が得られる。鋳造品のBi(符号80)やSb(符号81)は、結晶粒が配向されていないため大きな値が得られないばかりかSbに至っては極性が反転しなくなる。
【0112】
この他の反磁性体は圧延加工しているが、圧延方法にも冷間圧延、熱間圧延があり、また焼鈍の可否により結晶粒の配向性が変わる。また、融点の低いInやSnなどは試験片のキュアリング時やデータ作成サイクル中に再結晶化して配向が乱れる。こうした原因から、Sb同様に極性の反転しない反磁性体も現れる。一方、図中に三角で示したものは、強磁性体を対極としたものである。I-Vデータから60℃のデータを抽出し、ピーク電力密度を示したものである。符号82がGd、符号83がNiを用いたものである。Gdは、キュリー点が18℃近辺にあり60℃においては常磁性体となり極性は反転しない。しかし、常磁性体になっても磁化率が大きく大きな電力は示さない。
【0113】
このように、低仕事関数の常磁性体を対極に配することにより安定した高い電力が得られる。低仕事関数の常磁性体とは、Ca、Mg、Li、La、Ce、Pr、Nd、Eu、Sm、Yb、Lu、Th等の金属、これらの元素を主体とする共晶、金属間化合物、マグネシウムアルミニウム亜鉛合金、マグネシウムリチウム亜鉛合金、マグネシウムアルミニウムカルシウム合金、マグネシウムリチウム合金、アルミニウムリチウム合金、アルミニウムカルシウム合金等の合金、12CaO・7Al の電子化物等の化合物が好適に挙げられる。
【0114】
この中で、LZ91、AZ31およびp型Si以外の仕事関数は、(社)日本物理学会編、物理データ辞典、p321(2006)、p型Siの仕事関数は、静電気学会編、静電気ハンドブック、p1239(1998)から引用しており、LZ91およびZ31は紫外光電子分光装置Versa Probe(アルバック・ファイ製)で測定して得られたデータを用いている。
【0115】
【表10】
【0116】
第2に、基材の純度が高くなるに従い得られる電力が小さくなる傾向があり、高純度基材を用いた場合に至っては極性が反転する。高純度基材を用いた場合は、Fe成分を含む基材を用いる場合とは逆に電力は対極の仕事関数に比例するようになる。これを図30に示す。
【0117】
図30は、HPA、PA1、PA2、PA3基材を表2による条件で形成された複合皮膜品を[N 1444 ][NTf ]イオン液体を5wt%添加した接着剤Aで対極材として 表11の反磁性体および常磁性体と1MPaで常温接着し、1週間以上養生した後100℃で12時間キュアリングしたものを試験片としている。Alについては、基材と同じ種類のアルミニウムとしている。
【0118】
【表11】
【0119】
図30の破線で囲った四つのグループは、符号84のグループがAZ31合金を対極にしたもの、符号85のグループが等方性黒鉛を対極に用いたもの、符号86のグループが基材と同じアルミニウムを用いたもの、符号87のグループがSnを対極に用いたものになっている。それぞれのグループは、HPA(四角)、PA1(三角)、PA2(黒丸)、PA3(白丸)基材からできる複合皮膜を用いた四種類のプロットで構成されている。
【0120】
符号84のグループで示すように、HPA<PA1<PA2<PA3の順、すなわち基材純度に反比例して電力は大きくなる。四つのグループの中で四角でプロットしたHPAに着目すると、いずれのグループにおいても0付近もしくは極性の反転した電力を持つ。ところが、四種類全ての複合皮膜で反転するのは、反磁性体の等方性黒鉛のグループであり、反磁性体や強磁性体のように本来極性が反転するものと組み合わせることで相乗効果が得られる。
【0121】
融点が低くキュアリング時などに結晶の配向性の乱れが生じるSnにおいては、反磁性体であっても四種類全ての複合皮膜で反転することはないが、HPAからできる複合皮膜はFe成分を含まないため対極の磁性と相互作用せず、相互作用する等方性黒鉛のグループ以外のグループ以外では仕事関数に比例して電力は高まっていく。そのため、対極には、C以上の仕事関数を持つ、Be、n型Si、Co、Ni,Ru、Rh、Te、Re、Os、Ir、Pt、Au、Seなどの物質やこれらの元素を中心とした仕事関数の高い合金、共晶、金属間化合物を用いることが好ましい。
【実施例0122】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【実施例0123】
<アルミニウム基板の作製>
PA2原板(0.3mm厚)を用意し、そこから50(W)×60(L)mmの角板を切り出す。その後アセトンに1分間浸漬して脱脂し、片面にアクリル塗料を塗布し乾燥後120℃で30分さらに140℃で5分焼き付けする。これを水酸化ナトリウム2.3wt%、水酸化カリウム1.5wt%の混合水溶液中に5分間浸漬したものを水道水で洗い表面をウエスでアルミニウム表面を軽く擦り酸化皮膜を除去する。そして純水中に浸漬して撹拌洗浄してウエスで表面の水を拭い基板を得る。
【0124】
<基板への非晶性強誘電体と非晶性常誘電体の作成>
市販の無水シュウ酸30gと純水970gから3wt%シュウ酸水溶液を作ったものを図1の角型ガラス製電解槽(120×120×150mm)1に入れクールスターラー5で30℃に保つ。中央の陽極側銅パイプに40(W)×100(L)mmの純アルミニ ウム板、両側の陰極側銅パイプに28(W)×100(L)mmの純アルミニウム板を銅線で吊り下げ30Vの直流を電源6で90分間印加して水溶液中にアルミニウムイオンを溶解する。
【0125】
その水溶液からアルミニウム板を取り出し、陽極側に用意したアルミニウム基板を水溶液中に約35mm浸漬する状態に吊り下げ、陰極側には84(W)×120(L)の炭素板を吊り下げる。この状態で撹拌子4で水溶液を撹拌しながら30℃に保ち、電源6から実効電圧15Vの方形波交流を90分間印加して基板表面に非晶性強誘電体の電解酸化皮膜を形成する。
【0126】
電解酸化処理終了後、純水で洗浄したものを500ccの純水を沸騰させた熱水に10分間浸漬して非晶性常誘電体の擬ベーマイトを電解酸化皮膜表面に形成する。熱水浸漬後、水道水で洗浄し60℃で1時間乾燥する。
【0127】
<複合皮膜形成基板小片と対極小片の作成>
熱水処理後乾燥した基板裏面の塗膜をアセトンで除去し、小片(17(W)×30(L)mm)を抽出する。一方、対極は0.2mm厚のマグネシウムリチウム亜鉛合金LZ91から小片(15(W)×28(L)mm)を抽出し、両面を石定盤上に#1000エメリー紙を置いて研磨し、基材小片と重ね合わせる面だけをさらに#8000フィルムで研磨した後ウエスで磨く。
【0128】
<樹脂の混合と接合>
[N 1444 ][NTf ]イオン液体を15mg程度秤量し、そこに接着剤Aの主剤と硬化剤をイオン液体の10倍量それぞれ秤量してそれらを混合しイオン液体約5wt%の接着剤を得る。混合した接着剤を対極小片の研磨面に塗布し基材小片の皮膜面と貼り合せる。これを強化ポリエチレンフィルムで挟み加圧力をロードセルで管理できるプレス機の定盤間に挿入して加重410Nで1時間常温放置し接合する。接合後、対極からはみ出た接着剤をアセトンで除去して7日間常温で養生して試験片とする。
【0129】
<試験片のキュアリング>
試験片を図4にように電極14と断熱材15で挟み、精密バイス17の熱電対付きヒーター21間に挿入してさらに試験片側面を断熱材で囲む。そして精密バイス17ごと低温恒温器に入れ、ヒーター21の電源コード22と熱電対23を温度コントローラーに接続する。試験片の接着剤の硬化を完結するためこの状態でヒーター21を100℃に昇温して12時間キュアリングする。
【0130】
<I-Vデータの取得>
まず、-11℃に低温恒温器内で試験片を冷却しヒーター21で-10℃にコントロールする。この状態で陽極側をアルミニウム基材、陰極を対極に接続されたエレクトロメーターで-0.001V、-0.01V~0.07V(0.02V間隔)、-0.1V~-0.8(0.05V間隔)、-0.9~-5V(0.1V間隔)と徐々に印加電圧を下げながら試験片に流れる電流を測定してI-Vデータをとる。
【0131】
この時、それぞれの印加電圧において測定間隔を3.5秒として12回もしくは6回同じ測定を繰り返し、そのうち後半の半分のデータを採用する。-10℃のI-Vデータを取り終えてから直ちに昇温し、低温恒温器内温度を16℃、ヒーター21を20℃に設定して約30分後、-10℃時と同様にI-Vデータを得る。40℃、60℃、80℃、100℃においても同じ要領で行う。ただし、各温度おける印加電圧間隔の設定が異なる。
【0132】
得られたI-VデータからIV積を算出してP-V線図を描き、そこからピーク電力を求める。接着面が電流通過面となるため、ピーク電力を対極面積で除することでピーク電力密度が算出される。この-10~100℃のサイクルを5回繰り返し、最初のデータを除外した計4回のデータを平均したものを最終データとする。
【0133】
<データの評価>
得られた最終データが表12である。20℃程度でもナノワットレベルの電力密度が得られ、温度の上昇に伴い指数関数的に上昇し100℃では70倍以上のレベルに達した。ここで、試験片の基板側と対極側に温度差がないにもかかわらず、100℃以下の低温環境下で電力が得られることが実証された。
【0134】
【表12】
【0135】
(比較例1)
実施例1の電解酸化処理と擬ベーマイト層を伴わない試験片を作成した。まず、実施例1と同じ純アルミニウム原板から17(W)×30(L)mmの小片を切り出しアセトンに1分間浸漬して脱脂する。そこに実施例1と同様に用意した対極小片を用意する。用いる混合接着剤および接合方法、養生等は実施例1に準ずることで電解酸化皮膜のないアルミニウム基材と対極を接合した試験片ができる。
【0136】
<比較試験片の評価>
養生後、試験片をキュアリングしたところ、100℃においてもエレクトロメーター上に起電力は現れず、I-Vデータの取得は断念した。すなわち、この比較試験片では電力が得られないものと判断できる。
【実施例0137】
ここでは、実施例1の対極にマグネシウムアルミニウム亜鉛合金AZ31(0.2mm厚)を用い、2つの試験片を直列にして測定した。試験片作成要領は実施例1と同じである。試験片のキュアリングは2枚直列に重ね100℃で12時間行った。
I-Vデータの取得およびピーク電力密度の算定要領も実施例1に準じている。
【0138】
<データの評価>
得られたデータが表13である。図16における温度依存性曲線52の実施形態は、同じ試験片単体で行ったデータであるが、ピーク電力密度はほぼ一致しており直列により2倍の電力が得られていることが分かった。また、直列が可能なことから、高い電圧を容易に得られる利点があることを示唆している。
【0139】
【表13】
【実施例0140】
ここでは、実施例2と同様に対極に合金AZ31(0.2mm厚)を用い、2つの試験片を並列にして測定した。試験片作成要領は実施例1と同じである。試験片のキュアリングは2枚試験片のアルミニウム基材同士を合わせて試験片両側と中間にアルミニウム極板を入れた状態でヒーター間に設置し100℃で12時間行っている。2つの試験片の中間の電極を陽極、両端の電極を陰極として測定したが、I-Vデータの取得およびピーク電力密度の算定要領も実施例1に準じている。
【0141】
【表14】
【0142】
<データの評価>
得られたデータが表14である。実施例2と同様、試験片単体で行った図16における温度依存性曲線52のデータと比較すると、ピーク電力密度はほぼ一致しており、直列時と同様並列によっても2倍の電力が得られることが分かった。また、並列が可能なことから、大面積での高出力が可能であることを示唆している。
【実施例0143】
アルミニウム基材にPA3(0.5mm厚)、対極にAZ31(0.2mm厚)を用い実施例1と同様の手順で試験片を作成した。実施例1と同様、精密バイス17を用いてヒーター21二枚で試験片を挟み固定し、低温恒温器SB01(ETAC製)中に納めた。これを簡略化して示したものが図42の破線枠内で囲まれた部分である。図中115が低温恒温器を示し、114が試験片を表している。これを1000μFの電解コンデンサ111、電圧測定器113としてエレクトロメータ8252(エーディーシー製)およびスイッチ112と図42にように並列接続した。この時、スイッチ112は開放している。
【0144】
この状態で、低温恒温器115を21℃に保ち、ヒーターを温度コントローラーModel335(Lake Shore製)で25℃に制御して試験片114両面を25.0±0.1℃に保った。このまま、スイッチ112を閉じて30分放置し、電解コンデンサ111および試験片114内の電荷を完全に放電した。スイッチ112を開放すると同時に電圧測定器113で電解コンデンサー111および試験片114の端子間電圧を1分毎24時間にわたり測定した。
【0145】
<データの評価>
図43のグラフに記載する曲線118が測定結果である。ほぼ常温の25℃の温度下において、測定開始直後から電圧が上昇している。図42の回路内の電荷は事前放電していることから、測定開始時に電解コンデンサ120と試験片123にも電荷は存在しない。そこから徐々に電解コンデンサと試験片に電荷が蓄積されていることを示している。電解コンデンサには発電能力がないことから、試験片にその能力があることを示唆している。
【0146】
そこで、図42の回路について図44の等価回路を与え、シミュレーションによる考察を加えることにした。電解コンデンサ部分においては、静電容量120、絶縁抵抗119、等価直列抵抗121を適用し、それぞれ、C (C)、r (Ω)、R (Ω)とした。試験片においては、静電容量123、絶縁抵抗125、等価直列抵抗122および絶縁抵抗と直列に直流電源124が存在するものとし、それぞれC (C)、r (Ω)、R (Ω)、E(V)とした。これらからなる等価回路の点126と点127間の電圧V(V)を回路方程式から求めると次のようになる。ここでt(秒)は経過時間である
【0147】
【数1】
【0148】
【数2】
【0149】
ここにおいて、電解コンデンサの絶縁抵抗r 図45に示す回路から求めた。電解コンデンサを128とし、シャント抵抗値R DC (Ω)の既知の抵抗130と電圧E DC (V)を供給する直流電源129(直流電圧電流電源6156(エーディーシー製))を直列に接続して、既知の抵抗130両端の電圧V DC (V)をエレクトロメータ8252(エーディーシー製)で測定すると、次式から求められる。
【0150】
【数3】
【0151】
また、等価直列抵抗R およびR はインピーダンスアナライザIM3570(HIOKI製)を用い、100HzにおけるインピーダンスZとリアクタンスXをそれぞれ測定し、次式から算出した。
【0152】
【数4】
【0153】
さらに、インピーダンスアナライザを用い100Hzにおける静電容量を測定したが、電解コンデンサはアナライザと同一極性で測定し、一方、試験片は起電力があるため極性を逆にし直流1Vを逆印加しながら測定した。これらから、R =82.7(kΩ)、R =0.145(Ω)、r =10.0(MΩ)、C =937(μF)、C =22.7(nF)が得られた。ただし、試験片の静電容量は、強誘電体と常誘電体との直列接合した合成容量であり、小さな静電容量の誘電体の方に近似した値が現れる。また、試験片の絶縁抵抗 は、外部からの逆印加電圧、すなわちこの回路の場合、電解コンデンサ両端に現れる電圧の逆数に比例し一定値を示さない。そこで、C およびr をパラメータとした。
【0154】
試験片の起電力をE=1.3(V)とし、パラメータC およびr を選択して図43の曲線118にフィッティングさせた。C =-939.5(μF)、r =15(MΩ)時のグラフが曲線117である。r は一定値を持たないため、曲線118に近似する曲線になるよう心掛けた。なお、アナライザ測定値C =22.7(nF)を用い、他の条件を同じにしてシミュレートしたグラフが116であり、曲線118にフィッティングせず異質なものとなった。この結果は、起電力V int を持つコンデンサの静電容量が、外部からの印加電圧V ext による静電容量の定義式を利用することで次式として表され、負の値を持つことを実施例を通して証明したことになる。ここで、Qはコンデンサ内部に蓄積された電荷である。
【0155】
【数5】
【0156】
また、試験片の静電容量の絶対値は、接続されるコンデンサの静電容量に依存し、コンデンサの静電容量に近似した値となる。
【0157】
(比較例2)
実施例4に記載する試験片に準じ、アルミニウム基材にPA3(0.5mm厚)を用い、アルカリ洗浄後シュウ酸3wt%水溶液中で電解酸化皮膜を形成した。その後、煮沸は行わず、純水中に20日間浸漬してから室内でシリカゲルを充填したデシケーター中に5日間入れて乾燥した。ここからは、実施例4と同じようにAZ31(0.2mm厚)をイオン液体の含まれるエポキシ樹脂用いて電解酸化皮膜面に接合した。室温で7日間養生後、精密バイスにヒーターとともに固定し100℃で12時間キュアリングして比較例用試験片とした。
【0158】
<比較試験片の評価>
この試験片を1分間短絡してエレクトロメーターにつないだところ、起電力は得られず、実施例4と同じ電解コンデンサとの接続試験によるデータ取得は断念した。これは、非晶性常誘電体を非晶性強誘電体表面に配しないと起電力の発生は困難であることを示唆している。
【0159】
実施例1と比較例1および実施例4と比較例2から、アルミニウムの電解酸化処理および熱水処理による皮膜、言い換えると、非晶性強誘電体と非晶性常誘電体からなる複合皮膜でなければ、温度差のない低温下で電力を得られないことが分かる。また、実施例2および実施例3のような積層化が可能であるということは、ゼーベック素子や太陽電池などとは面積当たりの電力ではなく、単位体積当たりの電力が物差しとして有効であることを意味する。すなわち、実施例1などは、アルミニウム基材や対極材を箔や薄膜で構成できるため、可能な最小厚みから、表12の電力密度は20~100℃において3~220μW/cm の性能に換算できる。
【0160】
この積層化により本発明の利用範疇は広くなり、IOT電源やウェアブル発電などの微小発電から蓄熱発電などの大規模発電に至るまで再生可能エネルギー利用の一端を担うことができる。また、実施例4から、発電された電気エネルギーをコンデンサに蓄えられることが明らかとなり、その貯蔵手段も安価である。
【0161】
さらに、本発明構成のものは負の静電容量を持つことが明らかとなった。このことは、種々の電気回路における寄生容量のキャンセル、信号増幅、FETやメモリー素子の低電圧化など電気電子部品の省エネルギー化、極板間をつなぐスイッチのON、OFFにより内部電荷の移動に伴う熱の移動(熱伝導率)を制御できるなど様々な可能性を持つ。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明によれば、温度差がなくても、100~-10℃の温度範囲で負の静電容量を発現し発電する積層可能な層状熱素子を提供することができる。また、このような層状熱素子を用いることによって、100℃~-10℃の温度範囲で様々な発電方法や電子回路の省エネルギー方法、熱制御方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0163】
1…ガラス容器、2…発泡スチロール、3…電解液、4…撹拌子、5…クールスターラー、6…プログラマブルAC/DC電源、7…黒鉛板、8…アルミニウム基材、9…対極、10…合成樹脂、11…基材、12…複合皮膜、13…試験片、14アルミニウム製電極、15ポリプロピレン発泡断熱材、16…組み合わせ試験片、17…精密バイス、18…締め付け用ボルト、19…ケイ酸カルシウム板、20…アルミナ板、21…熱電対付きヒーター、22…ヒーターコード、23…熱電対補償用コード、24…I-Vデータ、25…交点、26…I-Vデータ換算電力データ、27…電力ピーク点、28…ピーク電力密度温度依存性曲線、29…電解酸化皮膜断面、30炭素蒸着電解酸化皮膜断面、31…アルミニウム基材断面、32…Al二次イオン強度曲線、33…O二次イオン強度曲線、34…Fe濃度曲線、35…電解酸化皮膜と基材の界面位置、36…電解酸化皮膜領域、37…基材領域、38~42…(不使用)、43、46、49、52、55、58、59、61、63、64、71~75…ピーク電力密度温度依存性曲線、44、47、50、53…I-Vデータ、45、48、51、54…交点(起電力点)、56、57…起電力温度依存性曲線、60、62…ピーク電力密度電解電圧依存性曲線、65~67…ピーク電力密度周波数依存性曲線、68~70…ピーク電力密度体積抵抗率依存性曲線、76…常磁性体フィッティング曲線、77…反磁性体近似直線、78…膨張黒鉛を用いたときのデータ、79…等方性黒鉛を用いたときのデータ、80…Biを用いたときのデータ、81…Sbを用いたときのデータ、82…Gdを用いたときのデータ、83…Niを用いたときのデータ、84…AZ31合金を対極に用いたグループ、85…等方性黒鉛を対極に用いたグループ、86…基材と同じ種類のAlを対極に用いたグループ、87…Snを対極に用いたグループ、88…PA3基材を用いたデータ、89…PA2基材を用いたデータ、90…PA1基材を用いたときのデータ、91…HPA基材を用いたときのデータ、92…各種基材による電解酸化皮膜と擬ベーマイト層からなる複合皮膜にAZ31合金の組み合わせで得られる電力密度と基材の不純物濃度の関係をフィッティングした曲線、93…基材の不純物濃度とその中のFe濃度の関係をフィッティングした曲線、94…基材の不純物濃度とその中のSi濃度の関係をフィッティングした曲線、95…基材の不純物濃度とその中のCu濃度の関係をフィッティングした曲線、96…基材の不純物濃度とその中のMn濃度の関係をフィッティングした曲線、97…基材の不純物濃度とその中のZn濃度の関係をフィッティングした曲線、98…測定試料、99…基準コンデンサー、100…補償用抵抗、101…オシロスコープ、102…交流電源、103~105…ヒステリシス曲線、106…Fe成分を含む電解酸化皮膜と擬ベーマイト層からなる複合皮膜表面にMgを配する組み合わせにより得られた起電力温度依存性曲線、107…Fe成分を含む電解酸化皮膜と擬ベーマイト層からなる複合皮膜表面にGdを配する組み合わせにより得られた起電力温度依存性曲線、108…Fe成分を含む電解酸化皮膜と擬ベーマイト層からなる複合皮膜表面にNiを配する組み合わせにより得られた起電力温度依存性曲線、109…Fe成分を含む電解酸化皮膜と擬ベーマイト層からなる複合皮膜表面に膨張黒鉛を配する組み合わせにより得られた起電力温度依存性曲線、110…Gdのキュリー点、 111…電解コンデンサ、112…スイッチ、113…電圧計、114…試験片、115…低温恒温器、116…試験片の静電容量をインピーダンスアナライザでの測定値を適用した時のシミュレーション線、117…試験片の静電容量に負値を適用した時のシミュレーション曲線、118…25℃においた試験片と電解コンデンサを並列接続した時の両端電圧の時間変化曲線、119…電解コンデンサの等価回路中の絶縁抵抗、120…電解コンデンサの等価回路中の静電容量、121…電解コンデンサの等価回路中の直列等価抵抗、122…試験片の等価回路中の直列等価抵抗、123…試験片の等価回路中の静電容量、124…試験片の等価回路中の直流電源、125…試験片の等価回路中の絶縁抵抗、126…等価回路中の正極端子、127等価回路中の負極端子、128…電解コンデンサ、129…直流電源、130…シャント抵抗、131…電圧計
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図37
【補正方法】変更
【補正の内容】
図37
【手続補正4】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図42
【補正方法】追加
【補正の内容】
図42
【手続補正5】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図43
【補正方法】追加
【補正の内容】
図43
【手続補正6】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図44
【補正方法】追加
【補正の内容】
図44
【手続補正7】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図45
【補正方法】追加
【補正の内容】
図45