(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016295
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】二価の陽イオンを利用した非エンベロープウイルスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 7/00 20060101AFI20240131BHJP
C12N 15/864 20060101ALN20240131BHJP
【FI】
C12N7/00
C12N15/864 100Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020198715
(22)【出願日】2020-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】302019245
【氏名又は名称】タカラバイオ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】成木 弘明
(72)【発明者】
【氏名】田中 佳典
(72)【発明者】
【氏名】西江 敏和
(72)【発明者】
【氏名】岡本 幸子
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065BC03
4B065BD09
4B065BD22
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】 非エンベロープウイルスを精製に供する前に実施される「ウイルス産生細胞の処理方法」についての改良は少なく、依然改善の余地が残されている。
【解決手段】 本発明は、アデノ随伴ウイルスの製造方法であって、(a)アデノ随伴ウイルスを産生する能力を有する細胞と5mM以上の二価の陽イオンとを含む溶液を凍結融解する工程、及び(b)(a)の溶液からアデノ随伴ウイルスを取得する工程、を含む、方法、を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデノ随伴ウイルスの製造方法であって、
(a)アデノ随伴ウイルスを産生する能力を有する細胞と5mM以上の二価の陽イオンとを含む溶液を凍結融解する工程、及び
(b)(a)の溶液からアデノ随伴ウイルスを取得する工程、
を含む、方法。
【請求項2】
二価の陽イオンが、マグネシウムイオンである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶液が、培地である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
培地が、DMEMである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
(b)の工程が、遠心により実施される請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンベロープを持たないウイルス(以下、非エンベロープウイルス)、好適には、アデノ随伴ウイルス(以下、AAV)を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、遺伝子組換え分野や医療分野においては、ヒトを含む哺乳動物細胞に遺伝子を導入する方法として、電気穿孔や金属微粒子を用いる物理的方法、核酸、ポリカチオン、もしくはリポソームを用いる化学的方法等に加えて、生物学的方法としてウイルス由来の遺伝子導入用のベクター(以下、ウイルスベクター)を用いる方法がある。ウイルスベクターとは、天然由来のウイルスを改変し、所望の遺伝子等を標的細胞に移入することができるようにしたベクターのことで、近年技術開発が進んでいる。一般に、遺伝子組換え技術を用いて作製したウイルスベクターは、組換えウイルスベクターと呼ばれるが、そういった組換えウイルスベクターの由来となるウイルスとしては、レトロウイルスやレンチウイルス、センダイウイルス、及びヘルペスウイルス等のエンベロープを持つウイルス、並びにアデノウイルス、及びAAV等の非エンベロープウイルスがよく知られている。
【0003】
特にAAVはヒトを含む広範な種の細胞に感染可能で、血球、筋、神経細胞等の分化を終えた非分裂細胞にも感染すること、ヒトに対する病原性がないため副作用の心配が低いこと、ウイルス粒子が物理化学的に安定であること等から、先天性遺伝子疾患の治療の他、癌や感染症の治療を目的とした遺伝子治療法に用いる遺伝子導入用のベクターとしての利用価値が、近年注目されている。
【0004】
組換えウイルスベクターの製造方法としては、一般的には、ウイルス粒子形成に必須な要素のうち、シス供給を要するものとトランス供給可能なものを分離して宿主として使用可能な細胞に導入することで、野生型ウイルスの産生、及び遺伝子組換えウイルスの感染先での自立複製を防ぐ方法が取られる。通常、前記ウイルス粒子形成に必須な要素を核酸構築物の形で細胞に導入し、ウイルスを産生する能力を有する細胞(以下、ウイルス産生細胞)が作製される。当該細胞を培養してウイルス粒子形成に必須なすべての要素が当該細胞内で発現されると、ウイルスベクターが生成される。
【0005】
ウイルス産生が達成されたウイルス産生細胞は、その後、回収、破砕され、得られたrAAVベクターを含む細胞破砕液を適宜フィルターろ過、超遠心、クロマトグラフィー、又は限外ろ過等の工程に供することによってrAAVベクターが精製され、最終製造物となる。
【0006】
現在、rAAVベクターの利用が遺伝子治療の基礎研究、又は臨床応用の分野に広がるにつれ、より高力価、高純度のrAAVベクターを、大規模にかつ簡易に取得する方法が必要とされ、各種の改良方法が開示されている。しかし、当該開示された改良方法の多くは、細胞破砕液から非エンベロープウイルスを精製する工程についての工夫であり、非エンベロープウイルスを精製に供する前に実施される「ウイルス産生細胞の処理方法」についての改良は少ない。
【0007】
ウイルス産生細胞の処理方法として、凍結融解、超音波処理、機械的破砕、乳鉢・乳棒での破砕、界面活性剤の添加、等が挙げられるが、一般的には、凍結融解が行われることが多い。すなわち、ウイルス産生細胞を含む溶液を凍結融解することにより、細胞を破砕した後、遠心やろ過を行うことにより、ウイルスベクターを含む粗抽出液を取得する。例えば、非特許文献1では、AAV産生細胞であるExpi293F細胞またはBHK細胞のペレットにlysis buffer(50mM Tris、150mM NaCl、pH8.5)を添加し、凍結融解を3回実施した後に、Benzonase処理をし、更に遠心によって溶解物を清澄化している。また、非特許文献2では、AAV産生細胞であるHEK293細胞またはHeLaS3細胞のペレットをlysis buffer(20mM Tris[pH7.5]、150mM NaCl、10mM MgCl2)中で懸濁し、凍結融解を3回実施している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Hum Gene Ther Methods. 2017 Feb;28(1):1-14
【非特許文献2】Mol Ther Methods Clin Dev. 2017 Dec 22;9:33-46
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、非エンベロープウイルスを精製に供する前に実施される「ウイルス産生細胞の処理方法」についての改良は少なく、依然改善の余地が残されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、煩雑な操作なく効率よく非エンベロープウイルスを得ることができる「ウイルス産生細胞の処理方法」を提供することを目的に鋭意研究した結果、非エンベロープウイルスを産生する能力を有する細胞と二価の陽イオンとを含む溶液を凍結融解し、当該溶液から非エンベロープウイルスを取得することにより、煩雑な操作なく効率よく非エンベロープウイルスを取得できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、
[1]アデノ随伴ウイルスの製造方法であって、
(a)アデノ随伴ウイルスを産生する能力を有する細胞と5mM以上の二価の陽イオンとを含む溶液を凍結融解する工程、及び
(b)(a)の溶液からアデノ随伴ウイルスを取得する工程、
を含む、方法、
[2]二価の陽イオンが、マグネシウムイオンである[1]に記載の方法、
[3]溶液が、培地である[1]に記載の方法、
[4]培地が、DMEMである[3]に記載の方法、
[5](b)の工程が、遠心により実施される[1]に記載の方法、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、煩雑な操作なく効率的に非エンベロープウイルス液を得るための製造方法が提供される。更に、当該製造方法に使用される二価の陽イオンを含む溶液、及び当該製造方法を用いて製造した非エンベロープウイルスが提供される。本発明の二価の陽イオンを含む溶液を用いて得られたウイルス粗抽出液は、従来の非エンベロープウイルス精製方法にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1における、MgCl
2培地またはPBSを使用した、凍結融解回数の違いによる各粗抽出液のウイルス量を示す図である。
【
図2】実施例2における、塩化マグネシウムまたは塩化ナトリウムを含むH
2Oを使用した、凍結融解による各粗抽出液のウイルス量を示す図である。
【
図3】実施例3における、塩化マグネシウムまたは塩化ナトリウムを含むDMEMを使用した、凍結融解による各粗抽出液のウイルス量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明について詳細に説明する。
<定義>
【0015】
本明細書において「非エンベロープウイルス」という用語は、エンベロープウイルス以外のウイルスを指す。ここでエンベロープウイルスとは、ウイルス表面に脂質層もしくは脂質2重層を持つウイルスを指す。非エンベロープウイルスの代表的なものとしては、DNAをゲノムとするウイルスについては、アデノウイルス、パルボウイルス、パポバウイルス、ヒトパピローマウイルス等、RNAをゲノムとするウイルスについては、ロタウイルス、コクサッキーウイルス、エンテロウイルス、サポウイルス、ノロウイルス、ポリオウイルス、エコーウイルス、A型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス、ライノウイルス、アストロウイルス等が例示される。
【0016】
本発明の製造方法が適用される非エンベロープウイルスに特に限定はなく、既に産生方法が知られた非エンベロープウイルスでも、天然から新たに取得された非エンベロープウイルス、又はそれらを由来とする遺伝子組換えウイルスベクターでもよい。本発明の製造方法で製造される非エンベロープウイルスには、好適にはアデノウイルス、又はパルボウイルス科のAAVやボカウイルスが例示される。
【0017】
本明細書においてAAVとは、パルボウイルス科、ディペンドウイルス属に属する、ヒトを含む霊長目の動物やその他の脊椎動物に感染する小型のウイルスを示す。AAVはエンベロープを持たない正20面体の外殻とその内部に1本の1本鎖DNAを有する。本明細書において、AAVは野生型ウイルス及びその派生物を含み、特に記載する場合を除き全ての血清型及びクレードを含む。
【0018】
本発明の製造方法は、公知のいずれの血清型のAAVにも適用可能であり、例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、及びAAV13からなる群より選択された少なくとも1種のAAVの製造に利用することができる。本発明の製造方法は、好適にはAAV1、AAV2、AAV5、AAV6に適用され、さらに好適にはAAV2に適用される。なお、本明細書においてrAAVの血清型について述べる場合、キャプシド(capsid)の由来となる血清型を基準とする。すなわち、rAAV調製時に使用されるcap遺伝子の由来に応じてそのrAAVの血清型を決定するものとし、rAAV粒子中に封入されているAAVゲノムの血清型の由来には依存しないものとする。例えば、キャプシドがAAV6由来で、rAAV粒子中に封入されているAAVゲノム中のITRがAAV2由来の場合は、本明細書中では当該rAAVは血清型6とする。さらに、前記の各血清型のAAVのキャプシドの変異体を含むAAVの製造にも、本発明の製造方法を適用することができる。
【0019】
本明細書においてウイルスを産生する能力を有する細胞(以下、ウイルス産生細胞)とは、ウイルス産生に必要な要素を発現し、ウイルス粒子を産生する細胞のことを指す。本発明の製造方法で用いられるウイルス産生細胞に特に限定はなく、環境中や、感染症の患者の臨床検体等から得られたウイルス産生細胞でもよく、人為的に作製したウイルス産生細胞でもよい。好適には、本発明には人為的に作製したウイルス産生細胞が使用され、例えば所望の非エンベロープウイルスの粒子形成に必須な要素を供給する核酸、及び非エンベロープウイルスの粒子に封入される核酸を任意の細胞に導入することにより作製したウイルス産生細胞や、細胞に人為的に非エンベロープウイルス、さらに必要に応じて当該ウイルスを産生させるために必要なヘルパーウイルスを感染させたウイルス産生細胞が使用される。
【0020】
ウイルス産生細胞製造用の細胞としては、特に限定はなく、ヒト、サル、げっ歯類等の哺乳動物細胞を使用することができる。好適には人為的に樹立された細胞株、例えばトランスフェクション効率が高い293細胞(ATCC CRL-1573)、293T細胞(ATCC CRL-3216)、293T/17細胞(ATCC CRL-11268)、293F細胞、293FT細胞(いずれもライフテクノロジーズ社製)、G3T-hi細胞(国際公開第2006/035829号パンフレット)、市販のウイルス産生用細胞株、AAV293細胞(Stratagene社製)が例示される。また、Sf9細胞(ATCC CRL-1711)などの節足動物細胞(昆虫細胞)が例示される。例えば、前記293細胞等はアデノウイルスE1タンパク質を恒常的に発現するが、このような、rAAV産生に必要なタンパク質の1つ、又はいくつかを一過的もしくは恒常的に発現するように改変した細胞であってもよい。これらの種々の細胞に対して、公知の方法や市販のキットを用いて以下に挙げるウイルス形成に必要な要素を導入し、ウイルス産生細胞とすることができる。また、当該細胞の培養は、公知の培養条件で行うことができる。例えば温度30~37℃、湿度95%RH、CO2濃度5~10%(v/v)での培養が例示されるが、本発明はこのような条件に限定されるものではない。所望のウイルス産生細胞の増殖やウイルスの産生が達成できるのであれば前記の範囲以外の温度、湿度、CO2濃度で実施してもよい。また、培養期間は特に限定はなく、例えば12~150時間、好適には48~120時間である。
【0021】
ウイルス産生細胞として、rAAV産生細胞を例に挙げて説明すると、rAAV形成に必須な要素として、(A)rAAV粒子に封入される核酸、(B)AAV由来の要素、例えばRepタンパク質及びCapタンパク質、並びに(C)ヘルパー機能を発揮する要素、例えばアデノウイルス由来のE1aタンパク質、E1bタンパク質、E2タンパク質、E4タンパク質及びVARNA、が挙げられる。これらの要素を任意の細胞に導入することにより、rAAV産生細胞を作製することができる。
【0022】
前記の「(A)rAAV粒子に封入される核酸」は、AAV由来のITR配列とrAAV粒子に搭載することが望まれる核酸とで構成される。rAAV粒子に搭載することが望まれる核酸としては、任意の外来遺伝子、例えばポリペプチド(酵素、成長因子、サイトカイン、レセプター、構造タンパク質等)、アンチセンスRNA、リボザイム、デコイ、RNA干渉を起こすRNA等を供給する核酸が例示される。加えて外来遺伝子の発現の制御のため、適当なプロモーター、エンハンサー、ターミネーターやその他の転写調節要素の1以上がrAAV粒子に封入される核酸に挿入されていてもよい。rAAV粒子に封入される核酸は核酸構築物として、プラスミドの形態で細胞に導入することができる。前記のプラスミドは、例えば、市販又は公知のプラスミドを用いて公知の方法により構築することができる。当該プラスミドの例として、pAAV-ZsGreen1 Vector及びpAAV-CMV Vector(いずれもタカラバイオ社製)が挙げられる。
【0023】
前記の「(B)AAV由来の要素、例えばRepタンパク質及びCapタンパク質」の形態には限定はなく、それぞれの要素をタンパク質として直接細胞に導入することもできるし、それぞれの要素を供給可能な1又は複数の核酸構築物として、プラスミドやウイルスベクターに搭載して、細胞に導入することもできる。これらの核酸の細胞への導入は、例えば、市販又は公知のプラスミド又はウイルスベクターを用いて公知の方法により行うことができる。Repタンパク質及びCapタンパク質を供給可能なプラスミドの例として、pRC1 Vector、pRC2-mi342 Vector、pRC5- Vector、及びpRC6 Vector(いずれもタカラバイオ社製)が挙げられる。
【0024】
前記の「(C)ヘルパー機能を発揮する要素」の形態には限定はなく、それぞれの要素を直接タンパク質として細胞に導入することもできるし、それぞれの要素を供給可能な1又は複数の核酸構築物として、プラスミドやウイルスベクターに搭載して、細胞に導入することができる。これらの核酸の細胞への導入は、例えば、市販又は公知のプラスミド又はウイルスベクターを用いて公知の方法により行うことができる。当該プラスミドの例として、pHelper Vector(タカラバイオ社製)が挙げられ。また、プラスミドやウイルスベクターの代わりに、アデノウイルスのようなヘルパー機能を発揮するウイルスを直接細胞に感染させることによっても、上述の目的を達成することができる。
【0025】
核酸構築物の導入の方法としては、一過性の導入方法が例示される。
一過性に導入する方法には特に限定はなく、公知の一過性導入方法、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、DEAEデキストラン法、ポリエチレンイミン(PEI)法、エレクトロポレーション法等が使用可能である。また市販の試薬、例えばTransIT(登録商標)-293 Reagent、TransIT(登録商標)-2020(以上、Mirus社製)、Lipofectamine 2000 Reagent、Lipofectamine 2000CD Reagent(以上、ライフテクノロジーズ社製)、FuGene(登録商標)Transfection Reagent(プロメガ社製)等を用いてもよい。また、昆虫細胞をウイルス産生細胞とする場合はバキュロウイルスを用いた導入法を利用することもできる。
【0026】
以上、rAAV産生細胞を例に挙げて説明したが、他の非エンベロープウイルスの産生細胞も公知の方法で作製することができる。このようにして作製されたウイルス産生細胞を培養する。ウイルス産生細胞の培養は公知の培養条件で行うことができる。例えば温度30~37℃、湿度95%RH、CO2濃度5~10%での培養が例示されるが、本発明はこのような条件に限定されるものではない。所望のウイルス産生細胞の増殖、及び非エンベロープウイルスの産生が達成できるのであれば前記の範囲以外の温度、湿度、CO2濃度で実施してもよい。また、培養期間は特に限定はなく、rAAV産生細胞の場合は例えば12~150時間、好適には48~120時間である。ウイルス産生細胞の培養に使用される培地としては、細胞の培養に必要な成分を含んでいればよく、例えば、DMEM、IMDM、DMEM:F-12等の基本合成培地(以上、Thermo Fisher社などから販売)、また必要に応じてこれらの基本合成培地にウシ胎児血清、成長因子類、ペプチド類を添加したり、アミノ酸類を増量したりしたものが挙げられる。
【0027】
<非エンベロープウイルスの製造方法>
【0028】
上記のように培養されたウイルス産生細胞を、二価の陽イオンを含む溶液と接触させる。当該接触は、培養後に遠心分離やろ過によって培養液を除去して回収されたウイルス産生細胞のペレットを二価の陽イオンを含む溶液に懸濁する操作、もしくはウイルス産生細胞の培養液に「二価の陽イオンを供給可能な成分」を添加する操作、のいずれかにより実施される。なお、二価の陽イオンを含む溶液と接触させる時点でのウイルス産生細胞は、既にウイルス産生が達成された状態であり、二価の陽イオンを含む溶液と接触している間には、基本的にはウイルスの産生や細胞の増殖は見られないこともある。
【0029】
ウイルス産生細胞のペレットを二価の陽イオンを含む溶液に懸濁する操作を行う場合における「二価の陽イオンを含む溶液」は、ウイルス産生細胞の培養時の二価の陽イオン濃度より高い濃度の二価の陽イオンを含み、かつ、凍結融解した後に非エンベロープウイルスを含む粗抽出液を取得できる溶液であれば限定はない。
【0030】
二価の陽イオンを含む溶液は、「二価の陽イオンを供給可能な成分」及び「溶媒」を適宜混合することにより調製される。
【0031】
本発明に使用される「二価の陽イオン」には特に限定はなく、例えば、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、カドミウムイオン、ニッケル(II)イオン、亜鉛イオン、銅(II)イオン、水銀(II)イオン、鉄(II)イオン、コバルト(II)イオン、スズ(II)イオン、鉛(II)イオン、及びマンガン(II)イオンが例示される。特に限定されないが、本発明には、好適にはマグネシウムイオンが使用される。
【0032】
本発明の「二価の陽イオンを供給可能な成分」には特に限定はなく、マグネシウムイオンを使用する場合、塩化マグネシウム(MgCl2)、及び硫酸マグネシウム(MgSO4)、が例示される。特に限定されないが、本発明には、好適には塩化マグネシウムが使用される。
【0033】
本発明の「溶媒」には特に限定はなく、水、緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリス緩衝生理食塩水(TBS)、及び培地、が例示され、適宜選択可能である。培地としてはウイルス産生細胞の培養に使用可能なものであれば限定はなく、脊椎動物(哺乳動物)細胞培養用の培地、好適にはDMEM、IMDM、RPMI1640、Ham‘s F-12及びDMEM:F-12等の基本合成培地が例示される。さらに、培地は血清を含む培地でもよく、血清を含まない無血清培地、さらに規定された化学組成を有する培地でもよい。特に限定されないが、本発明には、特に好適にはDMEMが使用される。
【0034】
「二価の陽イオンを含む溶液」の中に含まれる、二価の陽イオンの濃度としては、特に限定はないが、例えば、5~200mMが例示される。溶媒が水の場合、二価の陽イオンの濃度は、特に限定はされないが、20~80mMであり、好適には40~80mMである。一方、溶媒がDMEMなどの培地の場合、二価の陽イオンの濃度は、特に限定はされないが、5~100mMであり、好適には5~80mMであり、さらに好適には10~40mMであり、特に好適には15~20mMである。なお、前記の二価の陽イオンの濃度は、溶媒に添加した二価の陽イオンの最終濃度である。
【0035】
なお、二価の陽イオンの濃度については、後述するヌクレアーゼ処理の工程の実施内容に応じて適宜設定することが可能である。すなわち、ヌクレアーゼにあわせて、適切な濃度に調製された二価の陽イオンを含む溶液を使用することが好ましい。本発明においては、好適には、高塩濃度耐性ヌクレアーゼを使用することができる。例えば、低温菌Shewanella sp.由来のエンドヌクレアーゼ(Cryonase Cold-active Nuclease(タカラバイオ社製))のマグネシウムイオンの至適濃度は、DNaseI、DNaseII、Benzonase(登録商標)などの他のヌクレアーゼの至適濃度と比較して、高い。すなわち、Cryonase等の高塩濃度耐性ヌクレアーゼで処理する場合、比較的高濃度のマグネシウムイオンを含む溶液を用いて凍結融解を行った後、溶液を希釈することなく、そのまま当該高塩濃度耐性ヌクレアーゼで処理することができる。
【0036】
二価の陽イオンを含む溶液は、その他の成分を含んでいてもよく、例えば、緩衝成分、ブドウ糖やショ糖などの糖類、及び一価または複数価の陽イオンまたは陰イオンを含んでいてもよい。なお、二価の陽イオンを含む溶液のpHには限定はなく、例えば、pH5.5~8.5、好ましくはpH6.0~8.0、更に好ましくはpH6.5~7.5が例示される。
【0037】
一方、ウイルス産生細胞の培養液に「二価の陽イオンを供給可能な成分」を添加する操作を行う場合、成分の添加量としては、凍結融解した後に非エンベロープウイルスを含む粗抽出液を取得できる量であれば特に限定されず、ウイルス産生細胞の培養液における二価の陽イオン濃度が前記の「二価の陽イオンを含む溶液」における濃度となる量であればよい。
【0038】
ウイルス産生細胞と、二価の陽イオンを含む溶液との接触において、細胞濃度および接触時間には特に限定は無い。
【0039】
上記のようにして得られた、ウイルス産生細胞と二価の陽イオンとを含む溶液を凍結融解する。
【0040】
凍結は、液体窒素、ドライアイス、超低温フリーザー等を用いて実施される。凍結温度と凍結時間は特に限定はなく、温度としては例えば-200~-20℃、好適には-90~-70℃が例示される。凍結時間は、凍結温度、方法に応じて適宜設定すればよいが、例えば3分間~1時間の範囲で選択すればよい。エタノールドライアイスを使用する場合、5~10分間の凍結操作が例示される。
【0041】
融解は、インキュベーターやウォーターバス等を用いて実施される。融解温度と融解時間は特に限定はなく、温度としては例えば30~45℃、好適には35~40℃、時間としては例えば3分間~1時間、好適には5~10分間が例示される。
【0042】
凍結融解の回数に特に限定は無く、例えば、0回、1回、2回、3回、4回、5回以上が例示される。また、凍結融解を複数回実施する場合において、インターバルの長さには制限はなく、凍結融解が終了した後、または、凍結物を融解する途中に、-80℃の超低温フリーザー等を用いて再凍結させることができる。本発明において、凍結融解は1回の実施で十分である。本発明の方法で凍結融解を1回行うことにより、二価の陽イオンを含まない溶解バッファーを用いて凍結融解を3回行うよりも、高効率で、非エンベロープウイルスを含む細胞破砕液および/または粗抽出液を取得できる。
【0043】
上記の凍結融解操作により、ウイルス産生細胞は破砕され、非エンベロープウイルスは細胞外に放出される。なお、本発明の方法は、従来法として一般的な超音波破砕、酵素処理、浸透圧処理等の細胞破砕方法を更に含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0044】
上記の工程を経て得られた、細胞破砕液は、非エンベロープウイルスの取得に供される。例えば、細胞破砕液を遠心分離やフィルターろ過などの物理的分離方法を実施して上清又はろ液を取得して、細胞やその残渣とは分離された粗抽出液を調製することにより、非エンベロープウイルスを取得することができる。好適には、非エンベロープウイルスの取得は、遠心分離により実施される。特に限定されないが、細胞破砕液を9000×g、4℃、10分間遠心後、その上清を回収して非エンベロープウイルスを含む粗抽出液を取得することができる。
【0045】
このようにして取得された非エンベロープウイルスを含む粗抽出液は、後述する任意の「非エンベロープウイルスの測定方法」を実施することにより、その試料における、「ウイルスベクターの量」、「キャプシドタンパク質の量」、「ウイルスベクター粒子とウイルスの空キャプシドとの比率」など、所望の値を測定することができる。
【0046】
本発明の方法により、二価の陽イオンを含まない溶解バッファーを用いて凍結融解を行うよりも、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍または10倍以上の高効率で、非エンベロープウイルスを含む粗抽出液を取得できる。
【0047】
本発明の方法においては、引き続き前記粗抽出物をヌクレアーゼ処理し、さらに超遠心、クロマトグラフィー、限外ろ過、沈殿剤、その他公知の方法による精製に供し、濃縮もしくは精製した非エンベロープウイルスを最終製造物として取得することができる。精製には、市販の試薬やキットを使用することができる。rAAVを精製する場合、特に限定されないが、例えば、AAVpro(登録商標) Purification Kit(タカラバイオ社製)を用いることができる。
【0048】
AAVpro(登録商標) Purification Kitを用いたAAVベクターの精製をより具体的に説明すると、まずは、(1)AAVベクターを含む粗抽出物に、Cryonase Cold-active Nucleaseを1/100量(終濃度200U/ml)添加し、37℃で1時間反応させる。この反応により、非エンベロープウイルスベクターの精製に不要な細胞ゲノムや遊離プラスミド等が切断される。Cryonaseは低温菌Shewanella sp.由来のエンドヌクレアーゼを組換え大腸菌で発現・精製したものであり、あらゆるDNAおよびRNA基質(一本鎖、二本鎖、直鎖状、環状)を低温で切断可能である。次に、(2)上記溶液に、Precipitator Aを1/10量添加し、ボルテックスで10秒間混和後、37℃で30分間反応させ、再度ボルテックスで10秒間混和する。さらに、(3)溶液に1/20量のPrecipitator Bを添加し、速やかにボルテックスで10秒間混和し、5000~9000×g、4℃で5分間遠心する。(4)上清をMillex-HV 0.45μmを用いてろ過する。(5)ろ過したAAVベクター溶液をAmicon Ultra-15,100kDaに添加し、2000×g、15℃で5分間遠心し、AAVベクター溶液が1.5ml以下になったことを確認する。(6)ろ液を除去後、5ml のSuspension Bufferをカップ内に添加し、ピペッティングで溶液を均一化し、2000×g、15℃で5分間遠心する。AAVベクター溶液が1.5ml以下になったことを確認する。(7)上記6の操作を4回(計5回)繰り返し、最終的に任意の容量まで濃縮する。(8)ろ液を除去後、ボルテックスで30秒間、もしくはピペッティングで十分に懸濁し、Amicon Ultra-15,100kDaカップ内のAAVベクター溶液をチューブに移す。
【0049】
本発明の方法により得られた非エンベロープウイルスは、適切な溶液中で、長期間保存することが可能である。例えば、rAAVベクターは、リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)に置換した場合、-80℃の条件下で、例えば、12時間以上、1日以上、3日以上、1週間以上、2週間以上、1か月以上、2か月以上、3か月以上、又は6か月以上保存することができる。
【0050】
<非エンベロープウイルスの測定方法>
非エンベロープウイルスの測定方法として、特に限定はないが、例えば、一定量の試料中の(a)非エンベロープウイルスベクターの量、例えばウイルスゲノムの量、または(b)非エンベロープウイルスを構成するタンパク質の量、例えばキャプシドタンパク質の量を測定する方法が挙げられる。
【0051】
上記(a)の方法としては、試料中のウイルスゲノムのコピー数をPCR法で測定する方法が例示される。特に限定はされないが、例えば、AAV qPCR迅速タイタ―測定キット(タカラバイオ社製)を使用し、取扱説明書に記載された方法で、AAVゲノムの量を算出することができる。
【0052】
上記(b)の方法としては、例えば当該タンパク質をSDS-PAGEで解析する方法あるいは免疫的手法(ELISA法など)で定量する方法等が例示される。
【0053】
上記(a)及び(b)を組み合わせることにより、試料中に含まれるウイルスベクター粒子とウイルスの空キャプシドとの比率について計算することができる。すなわち、ウイルスベクター粒子はキャプシドタンパク質及びウイルスゲノムの両方を含むのに対して、ウイルスの空キャプシドはキャプシドタンパク質を含むがウイルスゲノムを含まない。したがって、例えば、ある試料を測定した時に、一定量のキャプシドタンパク質あたりのウイルスゲノムの量が少ない場合、その試料は空キャプシドを多く含むことを示す。
【0054】
試料中に含まれるウイルスベクター粒子とウイルスの空キャプシドとの比率を求める方法としては、他にも、(c)電子顕微鏡で観察する方法、が挙げられる。
【0055】
また、試料中に含まれるウイルスベクター粒子が機能的であるかどうか、すなわち標的細胞に感染する能力を有するかどうかを測定する方法として、(d)実験的にウイルスベクター粒子の細胞への感染能力(感染力価)を測定する方法が挙げられる。より具体的には、例えばウイルスベクター粒子を含む試料の系列希釈液をHeLa細胞などの適当な標的細胞に感染させ、細胞の形状変化(細胞変性)を検出する方法、導入遺伝子の発現を検出する方法、または、細胞に導入されたウイルスゲノムのコピー数を測定する方法等が例示される。
【0056】
<その他の発明>
【0057】
本発明により、非エンベロープウイルスの製造方法の他、当該製造方法に使用される二価の陽イオンを含む溶液、及び当該製造方法で製造した非エンベロープウイルスも提供される。また、本発明の製造方法を用いて取得した非エンベロープウイルスを有効成分とする医薬組成物も提供される。当該医薬組成物は、遺伝子治療用のウイルスベクター製剤の製造技術に従って適宜調製することができる。例えば、本発明の製造方法により得られた粗抽出液より非エンベロープウイルスを公知の方法で更に濃縮、精製、加工して得られた非エンベロープウイルスを医薬組成物とすることができる。当該医薬組成物は、患者由来の細胞に体外で使用するか、もしくは患者へ直接投与することもできる。
【0058】
さらに、本発明の一の態様として、非エンベロープウイルスを製造するためのキットが提供される。本発明のキットは二価の陽イオンを含む溶液を必須の構成要素として含むがさらに、非エンベロープウイルスの粒子形成に必須な要素を供給する核酸を含むベクター、非エンベロープウイルスの粒子に封入される核酸を含むベクター、ヌクレアーゼ、ろ過フィルター等を含んでもよい。
【0059】
さらに別態様として、二価の陽イオンを含む溶液、ウイルス精製用カラム、およびカラム精製操作に使用される各種の緩衝液、を含むキットであってもよい。
【実施例0060】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によって限定されない。
【0061】
実施例1 MgCl2を含まない溶解バッファーを用いた凍結融解との比較
(1)rAAVベクター作製用細胞の播種
細胞培養用100mm culture dish(イワキ社製)8枚それぞれに、10%FBS(BioWest社製)を含むDMEM High‐glucose(Thermo Fisher社製)10mlを入れ、そこに293T細胞を1×106cells播種した。その後、37℃のCO2インキュベーターで3日間培養した。
【0062】
(2)プラスミドトランスフェクション
実施例1-(1)で得られた細胞は10mlのDMEM High‐glucose(Thermo Fisher社製)に培地交換を行った。その後、293T細胞に、3種のプラスミド(pRC2-mi342 Vector(タカラバイオ社製)、pHelper Vector(タカラバイオ社製)、およびpAAV-ZsGreen1 Vector(タカラバイオ社製))をポリエチレンイミン(PEI)法で、トランスフェクションした。トランスフェクション後、293T細胞を37℃のCO2インキュベーターで3日間培養した。
【0063】
(3)rAAVベクター産生細胞の回収
実施例1-(2)で得られた100mm culture dishに0.5mM EDTA 125μl添加し、室温で10分間保温することで細胞を剥離させた。その後、細胞懸濁液を回収し、1700×g、4℃、10分間遠心後、上清を除去して細胞ペレットを得た。
【0064】
(4)抽出用溶液の作製
DMEM(Thermo Fisher社製)にMgCl2を20mMになるように添加し、「MgCl2培地」を調製した。
【0065】
(5)「MgCl2培地」によるrAAVベクターの粗抽出液の取得
凍結融解を1回行う場合
実施例1-(3)で得られた細胞ペレットを15秒間程度ボルテックスミキサーを用いてほぐし、実施例1-(4)で作製したMgCl2培地もしくはMgCl2を含まない溶解バッファーとしてPBSを各々500μl添加しボルテックスミキサーを用いて混合した。その後、エタノールドライアイス中で5~10分間程度静置して細胞懸濁液を凍結させたのち、37℃のウォーターバス5~10分間程度融解操作を行った。融解後の細胞破砕液をボルテックスミキサーを用いて混合し、9000×g、4℃、10分間遠心後、その上清を回収してrAAVベクターの粗抽出液とした(各条件N=2で行った)。
凍結融解を3回する場合
実施例1-(3)で得られた細胞ペレットを15秒間程度ボルテックスミキサーを用いてほぐし、実施例1-(4)で作製したMgCl2培地もしくはMgCl2を含まない溶解バッファーとしてPBSを500μl添加しボルテックスミキサーを用いて混合した。その後、エタノールドライアイス中で5~10分間程度静置して細胞懸濁液を凍結させたのち、37℃のウォーターバスで5~10分間程度融解操作を行った。融解後の細胞破砕液をボルテックスミキサーを用いて混合した。この凍結融解サイクルを3回行った。そして、細胞破砕液を9000×g、4℃、10分間遠心後、その上清を回収してrAAVベクターの粗抽出液とした(各条件N=2で行った)。
【0066】
(6)粗抽出液のゲノム力価測定
実施例1-(5)で調製したrAAVベクターの粗抽出液のゲノム力価を測定した。ゲノム力価測定にはAAV qPCR迅速タイタ―測定キット(タカラバイオ社製)を使用した。説明書に従い、粗抽出液をDNaseI処理し、遊離のゲノムDNAやプラスミドDNAを除去した。
上記の反応液を37℃、30分間で保温した後、DNaseIを不活化するために95℃、10分間の熱処理を行った。
このDNaseI処理済みの溶液20μlに、Lysis Buffer 20μlを添加し、70℃、10分間保温した。保温後、この溶液をEASY dilutionで100倍希釈し、この希釈液5μlをゲノム力価測定に使用した。キット付属のプライマー(AAV Forward Titer Primer、AAV Reverse Titer Primer)を用いて50×プライマーミックスを調製した後、反応液は説明書に従い下記のように調製した(1反応当たり)。
リアルタイムPCRとして、初期変性95℃、2分間行った後、「95℃、5秒間」、「60℃、30秒間」の2ステップサイクルを35サイクル行った。その後、融解曲線分析を行った。標準品はキット付属のポジティブコントロールを使用した。得られた値及び粗抽出液量から、ベクターゲノム(vg)を求めた。結果を表1及び
図1に示す。
【0067】
【0068】
(7)
表1及び
図1より、MgCl
2培地によるrAAVベクターの抽出効率はPBSと比較して1回の凍結融解でも効率よく抽出可能であることが示された。
【0069】
実施例2 MgCl2を添加したH2Oを使用した凍結融解によるAAV抽出効率の上昇効果ついて
(1)rAAVベクター作製用細胞の播種
細胞培養用T225フラスコ(コーニング社製)1枚に、10%FBS(BioWest社製)を含むDMEM High‐glucose(Thermo Fisher社製)40mlを入れ、293T細胞を4×106cells播種した。その後、37℃のCO2インキュベーターで3日間培養した。
【0070】
(2)プラスミドトランスフェクション
実施例2-(1)で得られた細胞は40mlのDMEM High‐glucose(Thermo Fisher社製)に培地交換を行った。その後、293T細胞に、3種のプラスミド(pRC2-mi342 Vector(タカラバイオ社製)、pHelper Vector(タカラバイオ社製)、およびpAAV-ZsGreen1 Vector(タカラバイオ社製))をポリエチレンイミン(PEI)法で、トランスフェクションした。トランスフェクション後、293T細胞を37℃のCO2インキュベーターで3日間培養した。
【0071】
(3)rAAVべクター産生細胞の回収
実施例2-(2)で得られたT225フラスコに0.5mM EDTA 500μlを添加し、室温で10分間保温することで細胞を剥離させた。その後、細胞懸濁液を26等分しチューブに分注した(1.5ml/チューブ)。細胞懸濁液それぞれを1700×g、4℃、10分間遠心後、上清を除去して細胞ペレットを得た。
【0072】
(4)抽出用溶液の作製
1M MgCl
2又は1M NaClに注射用水(大塚製薬社製)を添加して下記の塩濃度の「抽出用溶液」を作製した。
【0073】
(5)各種「抽出用溶液」によるrAAVベクターの粗抽出液の取得
実施例2-(3)で得られた細胞ペレットを15秒間程度ボルテックスミキサーを用いてほぐし、実施例2-(4)で作製した各種の抽出用溶液100μlを添加し、15秒間程度ボルテックスミキサーを用いて混合した(各条件N=2で行った)。その後、フリーザーを使用して-80℃で5~10分間程度静置して細胞懸濁液を凍結させたのち、37℃のインキュベーターを使用して5~10分間程度融解操作を行った。
融解後のサンプルをボルテックスミキサーを用いて混合し、9000×g、4℃、10分間遠心後、その上清を回収してrAAVベクターの粗抽出液とした。
【0074】
(6)「粗抽出液」のゲノム力価測定
実施例2-(5)で調製したrAAVベクターの粗抽出液のゲノム力価を測定した。ゲノム力価測定にはAAV qPCR迅速タイタ―測定キット(タカラバイオ社製)を使用した。説明書に従い、粗抽出液をDNaseI処理し、遊離のゲノムDNAやプラスミドDNAを除去した。
上記の反応液を37℃、30分間保温した後、DNaseIを不活化するために95℃、10分間の熱処理を行った。
このDNaseI処理済みの溶液20μlに、Lysis Buffer 20μlを添加し、70℃、10分間保温した。保温終了後、この溶液をEASY dilutionで100倍希釈し、この希釈液5μlをゲノム力価測定に使用した。キット付属のプライマー(AAV Forward Titer Primer、AAV Reverse Titer Primer)を用いて50×プライマーミックスを調製した後、反応液は説明書に従い下記のように調製した(1反応当たり)。
リアルタイムPCRとして、初期変性95℃、2分間行った後、「95℃、5秒間」、「60℃、30秒間」の2ステップサイクルを35サイクル行った。その後、融解曲線分析を行った。標準品はキット付属のポジティブコントロールを使用した。得られた値及び粗抽出液量から、ベクターゲノム(vg)を求めた。結果を表2及び
図2に示す。
【0075】
【0076】
(7)
表2及び
図2より、MgCl
2の塩濃度が40mM,80mMの場合、他の条件と比較して高効率にrAAVベクターが抽出されることが示された。
【0077】
実施例3 MgCl2を添加したDMEMを使用した凍結融解によるAAV抽出効率の上昇効果ついて
(1)rAAVベクター作製用細胞の播種
細胞培養用T225フラスコ(コーニング社製)1枚に、10%FBS(BioWest社製)を含むDMEM High‐glucose(Thermo Fisher社製)40mlを入れ、293T細胞を4×106cells播種した。その後、37℃のCO2インキュベーターで3日間培養した。
【0078】
(2)プラスミドトランスフェクション
実施例3-(1)で得られた細胞は40mlのDMEM High‐glucose(Thermo Fisher社製)に培地交換を行った。その後、293T細胞に、3種のプラスミド(pRC2-mi342 Vector(タカラバイオ社製)、pHelper Vector(タカラバイオ社製)、およびpAAV-ZsGreen1 Vector(タカラバイオ社製))をポリエチレンイミン(PEI)法で、トランスフェクションした。トランスフェクション後、293T細胞を37℃のCO2インキュベーターで3日間培養した。
【0079】
(3)rAAVベクター産生細胞の回収
実施例3-(2)で得られたT225フラスコに0.5mM EDTA 500μlを添加し、室温で10分間保温することで細胞を剥離させた。その後、細胞懸濁液を26等分しチューブに分注した(1.5ml/チューブ)。細胞懸濁液それぞれを1700×g、4℃、10分間遠心後、上清を除去して細胞ペレットを得た。
【0080】
(4)抽出用溶液の作製
1M MgCl
2又は1M NaClにDMEM(Thermo Fisher社製)を添加して下記の塩濃度の「抽出用溶液」を作製した。
【0081】
(5)各種「抽出用溶液」によるrAAVベクターの粗抽出液の取得
実施例3-(3)で得られた細胞ペレットを15秒間程度ボルテックスミキサーを用いてほぐし、実施例3-(4)で作製した各種の抽出用溶液100μlを添加し、15秒間程度ボルテックスミキサーを用いて混合した(各条件N=2で行った)。その後、フリーザーを使用して-80℃で5~10分間程度静置して細胞懸濁液を凍結させたのち、37℃のインキュベーターを使用して5~10分間程度融解操作を行った。
融解後のサンプルをボルテックスミキサーを用いて混合し、9000×g、4℃、10分間遠心後、その上清を回収してrAAVベクターの粗抽出液とした。
【0082】
(6)「粗抽出液」のゲノム力価測定
実施例3-(5)で調製したrAAVベクターの粗抽出液のゲノム力価を測定した。ゲノム力価測定にはAAV qPCR迅速タイタ―測定キット(タカラバイオ社製)を使用した。説明書に従い、粗抽出液をDNaseI処理し、遊離のゲノムDNAやプラスミドDNAを除去した。
上記の反応液を37℃、30分間保温した後、DNaseIを不活化するために95℃、10分間の熱処理を行った。
このDNaseI処理済みの溶液20μlに、Lysis Buffer 20μlを添加し、70℃、10分間保温した。保温終了後、この溶液をEASY dilutionで100倍希釈し、この希釈液5μlをゲノム力価測定に使用した。キット付属のプライマー(AAV Forward Titer Primer、AAV Reverse Titer Primer)を用いて50×プライマーミックスを調製した後、反応液は説明書に従い下記のように調製した(1反応当たり)。
リアルタイムPCRとして、初期変性95℃、2分間行った後、「95℃、5秒間」、「60℃、30秒間」の2ステップサイクルを35サイクル行った。その後、融解曲線分析を行った。標準品はキット付属のポジティブコントロールを使用した。得られた値及び粗抽出液量から、ベクターゲノム(vg)を求めた。結果を表3及び
図3に示す。
【0083】
【0084】
(7)
表3及び
図3より、低イオン強度(15~60mM)条件において、MgCl
2を添加した条件の方がNaClを添加した条件より高効率で抽出できることが示された。
本発明の非エンベロープウイルスの製造方法により、煩雑な操作なく効率的に非エンベロープウイルス液を得ることができる。本発明の方法により製造された非エンベロープウイルスや当該非エンベロープウイルスを有効成分とする組成物は、遺伝子治療の基礎研究又は臨床応用の分野における遺伝子導入方法として非常に有用である。