(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162953
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】不粘性金属器物及びノンスティック鍋
(51)【国際特許分類】
A47J 36/02 20060101AFI20241114BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
A47J36/02 A
C23C14/06 N
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023136920
(22)【出願日】2023-08-25
(31)【優先権主張番号】202310529969.7
(32)【優先日】2023-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202310855118.1
(32)【優先日】2023-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】520297469
【氏名又は名称】浙江康巴赫科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Zhejiang Kobach Technology Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】No.31, Hehua Road, Baiyang Sub-district, Wuyi County, Jinhua City, Zhejiang Province, China
(74)【代理人】
【識別番号】100216471
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬戸 麻希
(72)【発明者】
【氏名】王科
【テーマコード(参考)】
4B055
4K029
【Fターム(参考)】
4B055AA31
4B055BA69
4B055CA02
4B055CA05
4B055FB02
4B055FB03
4B055FB05
4B055FC20
4K029AA02
4K029BA21
4K029BA55
4K029BA58
4K029BA64
4K029BB02
4K029CA01
4K029CA03
4K029CA05
4K029EA01
4K029FA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】粘着防止効果が良く、硬度が大きく、耐摩耗性能が良く、耐用年数が長い鍋を提供する。
【解決手段】本体の内面は、ミクロンオーダー粗化面に構成され、ミクロンオーダー粗化面上にPVD多元金属膜が付着し、PVD多元金属膜は、ミクロンオーダー粗化面上に低表面エネルギーのマイクロナノメートルオーダー多孔質オイルロック構造を形成することができるように構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体を含む不粘性金属器物であって、
前記本体の内面は、ミクロンオーダー粗化面に構成され、
ここで、前記ミクロンオーダー粗化面上にPVD多元金属膜が付着し、前記PVD多元
金属膜は、このミクロンオーダー粗化面上に低表面エネルギーのマイクロナノメートルオ
ーダー多孔質オイルロック構造を形成することができるように構成される、ことを特徴と
する不粘性金属器物。
【請求項2】
前記PVD多元金属膜は、下から上へ順に堆積した底層と、中間層と、表層とを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の不粘性金属器物。
【請求項3】
前記底層は、金属チタン及び/又は金属クロムを含む、ことを特徴とする請求項2に記
載の不粘性金属器物。
【請求項4】
前記中間層は、窒化クロムと窒化アルミニウムとを含み、ここで、窒化クロムの含有量
は、60~80wt%であり、ここで、窒化アルミニウムの含有量は、20~40wt%
であり、又は、
前記中間層は、炭化クロムを含み、ここで、炭化クロムの含有量は、85~95wt%
である、ことを特徴とする請求項3に記載の不粘性金属器物。
【請求項5】
前記表層は、金属銅と酸化アルミニウムとを含み、ここで、前記金属銅の含有量は、1
.0~10wt%である、ことを特徴とする請求項4に記載の不粘性金属器物。
【請求項6】
前記PVD多元金属膜の厚さ範囲は、0.7~4.0μmである、ことを特徴とする請
求項2~5のいずれか1項に記載の不粘性金属器物。
【請求項7】
前記表層の厚さは、0.1~1.0μmである、ことを特徴とする請求項2~5のいず
れか1項に記載の不粘性金属器物。
【請求項8】
前記PVD多元金属膜の硬度範囲は、HV1100~3500である、ことを特徴とす
る請求項2~5のいずれか1項に記載の不粘性金属器物。
【請求項9】
前記PVD多元金属膜の表面エネルギーは、40ダイン以下であり、そのオイル貯蔵後
の疏水角は、95°以上である、ことを特徴とする請求項2~5のいずれか1項に記載の
不粘性金属器物。
【請求項10】
前記PVD多元金属膜は、中国国家規格GB/T32095.2~2015に準拠して
平面耐摩耗性試験を5000回実施した後に、卵焼き不粘性試験を行った結果の評価レベ
ルがI級である、ことを特徴とする請求項2~5のいずれか1項に記載の不粘性金属器物
。
【請求項11】
前記本体の内側に凹溝が分布し、前記粗化面は、前記凹溝上に形成される、ことを特徴
とする請求項1に記載の不粘性金属器物。
【請求項12】
前記本体は、内から外へ第一の金属層と、均熱層と、第二の金属層とを順に含み、前記
第一の金属層と第二の金属層との間は、均熱層を介して一体に複合されて、前記第一の金
属層が均一に加熱される、ことを特徴とする請求項1に記載の不粘性金属器物。
【請求項13】
前記第一の金属層は、ステンレス層であり、前記均熱層は、アルミニウム層であり、前
記第二の金属層は、ステンレス層である、ことを特徴とする請求項12に記載の不粘性金
属器物。
【請求項14】
PVD多元金属膜ノンスティック鍋であって、請求項1~13のいずれか1項に記載の
不粘性金属器物に構成される、PVD多元金属膜ノンスティック鍋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調理器具技術分野に関し、特に不粘性金属器物及びノンスティック鍋に関し
、それは、金属器物のノンスティック効果を顕著に向上させる。
【背景技術】
【0002】
従来の技術におけるノンスティック鍋は、一般的には鍋の内壁面に一層の粘着防止コー
ティングを塗布し、最もよく使用されるコーティング材料は、テフロンであり、学術名は
、ポリテトラフルオロエチレンであり、それは、鍋に焦げ付くという問題を良く解決し、
人々の生活に利便性をもたらす。しかしながら、鍋の内壁面の粘着防止コーティングは、
使用プロセスにおいて、特に高温で炒めると、粘着防止コーティングが脱落しやすく、ノ
ンスティック鍋が空焼きされれば、さらに粘着防止コーティングの脱落を引き起こしやす
い。ポリテトラフルオロエチレン自体は、無毒であるが、鍋が高温炒め又は空焼き状態に
位置する場合に、ポリテトラフルオロエチレンは、炭化、分裂分解が発生し、微量の有毒
ガスと物質をリリースし、作られた料理を汚染し、それによって炒められた料理が鍋に焦
げ付きと化学コーティングを誤食するなどの問題を引き起こす。
【0003】
この基礎で、従来の技術においてノンスティック鍋が現れ、それは、ロータス効果を利
用して鍋の内壁に粘着防止構造を製作し、粘着防止構造は、内壁上に周期的に分布する突
起部又は/と窪み部であり、前記突起部、窪み部のサイズは、数ミクロンから数十ミクロ
ンまでの間である。ノンスティック鍋の内壁面は、ミクロンオーダー粗度の粗表面に変わ
り、調理される食べ物とノンスティック鍋の内壁面との間の接触面は、複合接触面に変わ
り、粘着防止構造の突起部と突起部との間の凹み領域、窪み部の凹み領域にガスが吸着さ
れ、エアベッド層が形成され、調理される食べ物がノンスティック鍋の内壁面と接触する
接触面積を効果的に減少させ、調理される食べ物に焦げ付かず、物理粘着防止、ゼロコー
ティングを実現し、高温で炒め、鍋が空焼きされても、ゼロコーティングノンスティック
鍋は、任意の有毒物質及びガスをリリースせず、調理される食べ物、及び台所環境を汚染
せず、より安全に調理できる。
【0004】
しかしながら、この構造をノンスティック鍋の表面に応用し、物理ノンスティック層を
形成することは、まだ足りない。ノンスティック鍋を使用する時に加熱する必要があるた
め、上記方案に記載された凹み領域内に形成されたエアベッド層は、加熱環境において破
壊され、それによって物理ノンスティックの目的を達成することができない。
【0005】
なお、上記物理ノンスティック方式を鍋本体の表面に設置するだけでは長い間の持続的
なノンスティックを実現するのに不十分であり、調理作業を行うたびに、鍋とシャベルは
、複数回繰り返して鍋の表面と摩擦する必要があるため、長時間の摩擦で物理ノンスティ
ック層を磨損し、さらに長い間のノンスティックの効果を達成することができず、この問
題も早急な解決を待っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする技術課題は、上記従来の技術の不足を克服するために、高耐
摩耗性を有し、持続的なノンスティックを実現できる不粘性金属器物及びノンスティック
鍋を提供することであり、このPVD多元金属膜は、多元金属により構成される低表面エ
ネルギーマイクロナノ構造ミクロンオーダー粗化面を有し、ノンスティック効果を顕著に
向上させる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、不粘性金属器物を提供し、この不粘性金属器物
は、本体を含み、前記本体の内面は、ミクロンオーダー粗化面に構成され、ここで、前記
ミクロンオーダー粗化面上にPVD多元金属膜が付着し、前記PVD多元金属膜は、この
ミクロンオーダー粗化面上に低表面エネルギーのマイクロナノメートルオーダー多孔質オ
イルロック構造を形成することができるように構成される。このミクロンオーダー粗化面
は、サンドブラスト処理によって形成され、好ましくは多段サンドブラストを採用して製
造され、さらに他の方式を採用してミクロンオーダー粗化面に製造することができる。サ
ンドブラスト処理を経て形成されたミクロンオーダー粗化面の粗度は、一般的にはRz2
5~100μmに達することができ、粗度Rzは、ミクロの凸凹さの十つの点の高さを指
し、サンプリング長さLにおける五つの最大の輪郭ピーク高さの平均値と五つの最大の輪
郭谷深さの平均値との和を指す。
【0008】
上記技術案は、さらに以下のような措置によってさらに完善されることができる。
【0009】
一実施の形態では、前記PVD多元金属膜の厚さh値は、前記ミクロンオーダー粗化面
の粗度Rz値よりも小さい。前記前記PVD多元金属膜の厚さ範囲は、0.7~4.0μ
mである。前記本体は、内から外へ第一の金属層と、均熱層と、第二の金属層とを順に含
み、前記第一の金属層と第二の金属層との間は、均熱層を介して一体に複合されて、前記
第一の金属層が均一に加熱される。前記第一の金属層は、ステンレス層であり、前記均熱
層は、アルミニウム層であり、前記第二の金属層は、ステンレス層である。
【0010】
一実施の形態では、前記PVD多元金属膜は、下から上へ順に堆積した底層と、中間層
と、表層とを含む。前記底層は、金属チタン及び/又は金属クロムを含む。前記中間層は
、窒化クロムと窒化アルミニウムとを含み、ここで、窒化クロムの含有量は、60~80
wt%であり、ここで、窒化アルミニウムの含有量は、20~40wt%であり、又は、
前記中間層は、炭化クロムを含み、ここで、炭化クロムの含有量は、85~95wt%で
ある。前記表層は、金属銅と酸化アルミニウムとを含み、ここで、前記金属銅の含有量は
、1.0~10wt%である。前記表層は、酸化鉄をさらに含み、前記酸化鉄は、3~1
5wt%である。前記底層の厚さは、0.1~1.0μmであり、前記中間層の厚さは、
0.5~3.8μmであり、前記表層の厚さは、0.1~1.0μmである。PVD多元
金属膜の硬度範囲は、HV1100~3500である。PVD多元金属膜の厚さ範囲は、
0.7~4.0μmである。前記PVD多元金属膜の表面エネルギーは、40ダインより
も小さく、その水滴角は、95°よりも大きい。
【0011】
具体的には、前記PVD多元金属膜は、中国国家規格GB/T32095.2~201
5に準拠して平面耐摩耗性試験を5000回実施した後に、卵焼き不粘性試験を行った結
果の評価レベルがI級である。
【0012】
本発明は、ノンスティック鍋をさらに提供し、それは、上記の不粘性金属器物として構
成される。
【発明の効果】
【0013】
以上の技術案を採用するため、本発明は、以下のような有益な効果を有する。
【0014】
本発明の不粘性金属器物及びノンスティック鍋は、内層金属の粗化表面上に低表面エネ
ルギーのPVD多元金属膜をさらに堆積し、このPVD多元金属膜の厚さを制御するため
、ミクロンオーダー粗化面上に低表面エネルギーのマイクロナノメートルオーダー多孔質
オイルロック構造を形成することができ、それは、優れたノンスティック効果を有すると
ともに、さらにPVD多元金属膜の底層上の付着力を顕著に向上させることができ、不粘
性金属器物の耐用年数を延長させる。また、金属器物に発生する調理する時に局所が熱す
ぎて金属膜を破壊するという技術課題を解決するために、本発明の鍋は、さらに二層の金
属の間にアルミニウム均熱層を設置し、アルミニウム均熱層は、鍋底部がより均一に熱を
受けるようにすることができ、それによってノンスティック鍋のノンスティック寿命を延
長させる。
【0015】
本発明におけるPVD多元金属膜は、多元金属(クロムとアルミニウムであり、チタン
、銅、鉄などをさらに含んでもよい)の窒化物、炭化物と酸化物により構成される低表面
エネルギーマイクロナノ多孔質オイルロック構造を有し、その底層は、主に金属チタン及
び/又は金属クロムであり、PVD多元金属膜の本体上の付着力を向上させることができ
る、金属膜の耐用年数をさらに延長させる。その表層は、金属銅と酸化アルミニウムであ
り、それによってPVD多元金属膜の表面に一層の酸化膜を形成するようにし、PVD多
元金属膜に使用プロセスにおいて酸化して色変わるという問題が発生することを防止する
とともに、金属銅は、効果的な抗菌作用を果たすことができ、特に大腸菌と黄色ブドウ球
菌に対して99.99%を超える抗菌効果を有し、また銅の含有量が10wt%よりも小
さい場合にさらに良好なノンスティック効果を有する。本発明におけるPVD多元金属膜
の表面エネルギーは、40ダイン以下に達することができ、水滴角は、95度以上に達す
ることができ、且つマイクロナノメートルオーダーの多孔質オイルロック構造を有し、そ
れに優れた耐摩耗性とノンスティック性能を有させ、中国国家規格GB/T32095.
2~2015を採用して平面耐摩耗試験を5000回行った後に、ノンスティックレベル
は、依然としてI級ノンスティックに達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明の実施例の技術案をより明瞭に説明するために、以下は、実施例の図面を簡単に
紹介し、自明なことに、以下の記述における図面は、ただ本発明のいくつかの実施例に関
し、本発明に対する限定ではない。
【
図1】実施例1における不粘性金属器物の断面図である。
【
図3】実施例1における不粘性金属器物のノンスティック構造概略図である。
【
図4】実施例1における不粘性金属器物の表面形態図(500倍)である。
【
図5】実施例1における不粘性金属器物の表面形態図(1000倍)である。
【
図6】実施例1における不粘性金属器物の表面形態図(5000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施例の目的、技術案と利点をより明瞭にするために、以下は、図面を結び付
けながら本発明をさらに詳細に説明する。一般的には、この図面において記述と示される
本発明の実施例のアセンブリは、様々な異なる構成で配置と設計することができる。本発
明における実施例に基づき、当業者が創造的な労力を払わない前提で得られたすべての他
の実施例は、いずれも本発明の保護範囲に属する。
【0018】
注意すべきこととして、似ている符号とアルファベットは、以下の図面において類似し
ている項を表すため、ある項が一つの図面において定義されると、その後の図面において
それをさらに定義と解釈する必要がない。
【0019】
特に断りのない限り、本特許文献に使用される技術用語又は科学的用語は、本発明が属
する分野において一般的な技能を有する人に理解される一般的な意味であるべきである。
本発明の特許明細書及び特許請求の範囲に使用される「第一」、「第二」及び類似してい
る言葉は、任意の順序、数量又は重要性を表さず、異なる構成部分を区別するためのもの
に過ぎず。同様に、「一つ」、「一」又は「該」などの類似している言葉も数量の限定を
表さず、少なくとも一つが存在することを表す。「包括」又は「包含」などの類似してい
る言葉は、「包括」又は「包含」の前に現れる素子又は部材が「包括」又は「包含」の後
に列挙される素子又は部材及びその同等を含み、他の素子又は部材を排除しないことを指
す。「中心」、「上」、「下」、「左」、「右」、「鉛直」、「水平」、「内」、「外」
、「遠」、「近」などは、相対位置関係を表すためのに過ぎず、記述される対象の絶対位
置が変わった後に、この相対位置関係は、それに応じて変わる可能性もあり、それは、本
発明を記述しと記述を簡略化することを容易にするためのものに過ぎず、言及された装置
又は素子が特定の方位を有し、特定の方位で構成して操作しなければならないことを指示
又は暗示するものではないため、本発明に対する限定として理解してはならない。
【0020】
本発明の記述において、説明すべきこととして、特に明確に規定、限定されていない限
り、用語である「取り付け」、「繋がり」、「接続」は、広義に理解されるべきであり、
例えば、固定的な接続であってもよく、分離的な接続、又は一体的な接続であってもよく
、機械的な接続であってもよく、電気的な接続であってもよく、直接的な繋がりであって
もよく、中間媒体による間接的な繋がりであってもよく、二つの素子内部の連通であって
もよい。当業者にとって、具体的な状況に応じて上記用語の本発明における具体的な意味
を理解することができる。
【0021】
以下では、図面を結び付けながら、本発明のいくつかの実施の形態を詳細に説明する。
衝突しない限り、下記の実施例における特徴は、互いに組み合わせられる可能である。
【0022】
実施例1:
図1~6に示す不粘性金属器物100は、第一の金属層101と第二の金属層102と
を含み、第一の金属層101は、内層として構成され、第一の金属層101の内面は、ミ
クロンオーダー孔を有するミクロンオーダー粗化面に構成され、このミクロンオーダー粗
化面は、サンドブラスト処理によって形成され、好ましくは多段サンドブラストを採用し
て製造される。他の実施の形態では、ローレット処理を採用することもできる。ここで、
ミクロンオーダー粗化面上にPVD多元金属膜104がめっきされ、PVD多元金属膜1
04上にマイクロナノメートルオーダー孔が分布して、多孔質オイルロック構造を形成し
、第一の金属層101と第二の金属層102との間は、均熱層103を介して一体に複合
され、均熱層103は、第一の金属層101よりも高い熱伝導性を有して、第一の金属層
101の局所が熱すぎてPVD多元金属膜104を破壊することを防止する。
【0023】
物理気相成長(Physical Vapor Deposition、PVD)技術
は、真空条件で物理方法を採用して材料源(固体又は液体)表面を気体状態原子又は分子
に気化し、又は一部をイオンに電離し、且つ低圧ガス(又はプラズマ)プロセスによって
、本体表面にある特殊な機能を有するフィルムを堆積する技術を指し、物理気相成長は、
主な表面処理技術のうちの一つである。PVD(物理気相成長)フィルムめっき技術は、
主に真空蒸発フィルムめっき、真空スパッタリングフィルムめっきと真空イオンフィルム
めっきという三つに分けられる。物理気相成長の主な方法は、真空蒸着、スパッタリング
フィルムめっき、電弧プラズマフィルムめっき、イオンフィルムめっきと分子線エピタキ
シャルなどを有する。該当する真空フィルムめっき機器は、真空蒸発フィルムめっき機と
、真空スパッタリングフィルムめっき機と、真空イオンフィルムめっき機とを含む。用途
の違いによって、PVD(物理気相成長)フィルムめっき技術は、さらに工具めっきと装
飾めっきに分けられてもよい。PVD多元金属膜の厚さを保証するために、本出願では工
具めっきを採用し、それによってPVD多元金属膜が0.7~4.0ミクロンに達するこ
とができるようにし、好ましくは、PVD多元金属膜の厚さは、1.0~2.5ミクロン
であり、具体的には、PVD多元金属膜の厚さは、2.0ミクロンであり、別の実施の形
態では3ミクロン又は4ミクロンであってもよい。強調すべきこととして、PVD多元金
属膜の厚さは、ミクロンオーダー粗化面に適合すべきであり、PVD金属膜の厚さは、ミ
クロンオーダー粗化面のRz値よりも小さい必要があることで、PVD金属膜は、ミクロ
ンオーダー粗化面上に付着してマイクロナノメートルオーダー多孔質オイルロック構造を
形成することができ、且つミクロンオーダー粗化面を覆わず、本出願では、マイクロナノ
メートルオーダー多孔質オイルロック構造は、ミクロンオーダー粗化面の基礎上で形成さ
れる。
【0024】
さらに説明すべきこととして、マイクロナノメートルオーダー多孔質オイルロック構造
は、多元金属(クロムとアルミニウムとを少なくとも含み、チタンと、銅と、鉄とをさら
に含んでもよい)の窒化物、炭化物と酸化物がPVDフィルムめっき技術によってミクロ
ンオーダー粗化面上に堆積し、マイクロナノメートルオーダー孔をさらに形成し、マイク
ロナノ孔の穴径が0.1~3.0ミクロン範囲内にあり、本実施例では0.1~1.0ミ
クロンである。ミクロンオーダー孔の具体的なサイズは、いずれもツァイス会社の顕微鏡
Axioplan 2imaging(型番)によって測定でき、ナノメートルオーダー
孔のサイズは、いずれもアメリカFEI(メーカー)の走査電子顕微鏡Nova 400
NanoSEM(型番)によって測定できる。
【0025】
一つの好ましい実施の形態では、PVDめっき層104の耐用年数をさらに延長させる
ために、不粘性金属器物は、鋼アルミニウム鋼複合構造を採用し、ここで、第一の金属層
101は、ステンレス層であり、均熱層103は、アルミニウム層であり、第二の金属層
102は、ステンレス層であり、例えばSUS430である。選択されるステンレスは、
最も好ましく食品グレードであり、特に第一の金属層101、例えばSUS304である
。第二の金属層102は、主に保護作用を果たし、ステンレス以外、さらに他の金属、例
えばチタン合金などを選択してもよい。内面のノンスティック効果をさらに向上させるた
めに、先ず内面上にアレイ配置される複数のエッチング凹溝をエッチングし、そしてサン
ドブラスト処理を行ってもよく、この凹溝は、化学エッチング又はレーザーエッチング技
術を採用して製作してもよく、ローレット又はシボなどの手段を採用して製造してもよく
、ミクロンオーダー粗化面をエッチング凹溝の表面に形成する。アレイ配置される凹溝は
、不粘性金属器物100内部にロータス構造を形成することができ、それによってノンス
ティック効果を向上させる。
【0026】
本実施例では、マイクロナノ孔は、熱を受ける温度の変わりにつれて収縮して拡張する
ことができ、動物油脂又は植物油を使用して加熱して鍋をメンテナンスする時に、マイク
ロナノ孔は、鍋本体温度の上昇につれて拡張し、鍋本体温度の低下につれて収縮する。さ
らに説明し、使用者が鍋本体を加熱する時に、マイクロナノ孔は、拡張し、油脂の出入り
を容易にする。鍋本体に対する加熱を停止する時に、鍋本体温度は、徐々に冷却し、マイ
クロナノ孔は、収縮し、穴内に入ると油脂は、その中にロックされ、オイルロック機能を
さらに実現し、鍋の表面のノンスティック性能を維持する。本実施例では、穴径又は開口
幅が0.1~1μm範囲内にあるマイクロナノ孔は、良好なオイル貯蔵とオイルロック機
能を有し、それによって鍋の表面のノンスティック効果を向上させる。マイクロナノ孔の
具体的な図面は、
図3に示す。本発明におけるPVD多元金属膜のマイクロナノ多孔質構
造は、オイルを貯蔵した後に、疏水接触角が95以上に達することができ、それによって
本発明に優れたノンスティック効果を有させる。
【0027】
本実施例では、PVD多元金属膜は、主にチタンと、クロムと、アルミニウムとを含む
。ここで、クロムの含有量は、20~50at%であり、アルミニウムの含有量は、50
~70at%であり、チタンの含有量は、1~10at%である。チタン元素の含有量が
1~10at%の間にある場合に表面エネルギーを効果的に低減させることができ、それ
によって粘着防止効果を向上させる。好ましくは、チタン元素の含有量は、3~6at%
であり、具体的には、チタン元素の含有量は、3at%であってもよい。PVD多元金属
膜に含有されるアルミニウム元素は、その表面エネルギーを低減させることができ、それ
によって粘着防止効果を向上させ、アルミニウムの含有量は、好ましく約30at%であ
る。含まれるクロム元素は、表面エネルギーを低減させることができるだけでなく、さら
に耐腐食性を向上させ、重金属析出を防止することがもでき、クロムの含有量は、好まし
く50at%である。前記PVD多元金属膜は、下から上へ順に堆積した底層と、中間層
と、表層とを含む。前記底層は、金属チタン及び/又は金属クロムを含み、底層において
、チタンとクロムは、いずれも金属形式で存在し、それは、PVD多元金属膜と粗化面と
の付着力を向上させるために用いられるとともに、さらに第一の金属層から重金属物質を
析出し、体の健康に影響を与えることを阻止することができる。また説明すべきこととし
て、底層において、チタンとクロムは、単独で存在してもよく、同時に存在してもよく、
いずれも粘着防止と重金属析出防止の目的を達成することができるが、チタンとクロムを
同時に有する性能は、より優れた。
【0028】
中間層において、クロムアルミニウムを含む窒化物及び/又は炭化物は、チタンの窒化
物及び/又は炭化物をさらに含んでもよい。具体的には窒化チタン(TiN)、窒化クロ
ム(CrN)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化チタン(TiC)、炭化クロム(Cr
C)、炭化アルミニウム(AlC)、窒化アルミニウムチタン(AlTiN)と窒化アル
ミニウムクロム(AlCrN)、窒化アルミニウムチタン(AlTiN)、窒化アルミニ
ウムクロム(AlCrN)と炭化アルミニウムクロム(Cr2AlC)であってもよい。
多元金属の具体的な含有量について、当業者は、上記範囲において調整することができる
。指摘すべきこととして、クロムアルミニウムの窒化物と炭化物は、単独で存在してもよ
く、同時に存在してもよい。特に炭化クロムは、PVD多元金属膜の硬度と耐摩耗性、及
び耐腐食性能を顕著に向上させることができ、さらにPVD多元金属膜の疏水性を向上さ
せることができる。別の実施の形態では、炭化クロムを表層に加えることができることで
PVD多元金属膜の疏水性をさらに向上させることができる。窒化物において、窒化チタ
ンは、良好な熱安定性を有し、耐熱衝撃性が良く、窒化アルミニウムは、セラミックス状
態であり、極めて良い熱伝導性能を有し、PVD膜の局所が熱すぎて破壊されることを防
止することができ、窒化クロムは、良好な耐腐食性能を有し、且つPVD膜の摩擦係数を
低減させることができ、それに優れた耐摩耗性能を有させる。そのため、チタンクロムア
ルミニウムの窒化物と炭化物との組み合わせは、より高い硬度、耐摩耗性能を有する。ま
た、中間層は、さらに本発明のPVD膜に良好な耐機械的衝撃性能及び耐熱衝撃性能をさ
らに有させることができ、金属シャベルなどの工具を直接に使用して調理する場合に、又
は局所が熱すぎる場合に、PVD膜は、破壊されにくい。本実施例におけるPVD多元金
属膜は、低い表面エネルギーを有し、且つ極めて高い硬度とノンスティック性能を有する
。具体的には、その硬度は、HV1000~5000に達することができ、表面エネルギ
ーは、40ダイン以下に達することができ、水滴角は、95度以上である。
【0029】
具体的には、本実施例におけるでは間層は、窒化クロムと窒化アルミニウムとを含み、
ここで、窒化クロムの含有量は、60~80wt%であり、具体的には75wt%であり
、ここで、窒化アルミニウムの含有量は、20~40wt%であり、具体的には25wt
%である。別の実施例では、中間層は、炭化クロムを含み、ここで、炭化クロムの含有量
は、85~95wt%であり、他の成分は、窒化アルミニウム、窒化チタンのうちの一つ
又は二つの組み合わせであり、炭化アルミニウムなどの成分をさらに含んでもよい。前記
表層は、金属銅と酸化アルミニウムとを含み、ここで、前記金属銅の含有量は、1.0~
10wt%であり、具体的には5wt%である。前記表層は、酸化鉄をさらに含み、前記
酸化鉄は、3~15wt%であり、具体的には10wt%であり、さらに5wt%又は1
2wt%であってもよい。wt%は、質量百分率である。表層において、金属銅と酸化ア
ルミニウムと酸化鉄以外、他の成分と不純物の含有量は、5wt%よりも小さい。
【0030】
本実施例では、このPVD膜は、クロムとアルミニウムを主な元素とする不粘性金属膜
層である。PVD多元金属膜に含有されるアルミニウム元素は、その表面エネルギーを低
減させることができ、それによって粘着防止効果を向上させる。含まれるクロム元素は、
表面エネルギーを低減させることができるだけでなく、さらに耐腐食性を向上させること
ができ、重金属析出を防止する。本実施例におけるPVD多元金属膜において、主な金属
成分は、チタン、アルミニウム、クロム、鉄と銅であり、非金属成分は、主に酸素と、炭
素と、窒素と、ケイ素とを含む。
【0031】
表層は、チタンとクロムの酸化物をさらに含んでもよく、具体的にはチタンとクロムの
酸化物のうちの一つ、例えば是酸化チタン、又は酸化チタンと酸化クロムとの組み合わせ
を少なくとも含んでもよい。この金属銅と酸化アルミニウムとの組み合わせ(金属銅とア
ルミニウム鉄酸化物との組み合わせ)は、表層に良好なノンスティック性能を有させる。
表層は、PVD膜の表面に一層の酸化膜を形成することができ、それによって後続の使用
プロセスにおいて色変わる問題の発生を防止する。同時に、酸化アルミニウムは、金属銅
の酸化による毒性を有する酸化銅を防止することができる。
【0032】
PVD多元金属膜において金属銅を増加することで、このPVD多元金属膜は、抗菌作
用を有し、銅の含有量が10wt%以下である場合に、同時にさらにPVD多元金属膜の
粘着防止効果を向上させることができる。
【0033】
本実施例では、その底層は、ミクロンオーダー粗化面上に付着し、表層は、中間層の表
面上に付着し、表層と底層の厚さは、いずれも比較的小さく、具体的にはいずれも0.1
~1μmであり、本実施例では具体的には0.3μmであり、他の実施の形態では0.5
μm又は0.8μmであってもよい。中間層の厚さは、5~6.8μmであり、具体的に
は6.4μmである。
【0034】
PVD多元金属膜104の内面は、研磨面であり、例えば高圧水を採用して研磨し又は
他の方式で研磨する。PVD多元金属膜104の厚さ範囲は、0.7~6.0μmであり
、好ましくはPVD多元金属膜104の厚さ範囲は、2~5μmであり、具体的にはPV
D多元金属膜104の厚さ範囲は、2μmである。
【0035】
上記技術内容の基礎上で、低表面エネルギーの多孔質オイルロック構造を構築する目的
で、当業者は、実際の必要に応じて様々な成分の比例で調合することができ、上記多元金
属の基礎上で、他の金属又は非金属成分を加えることもでき、例えばケイ素元素をさらに
加え、高融点のケイ化鉄を形成する。検出を経、PVD多元金属膜104の硬度範囲は、
HV1000~5000であり、好ましくはPVD多元金属膜104の硬度範囲は、HV
1100~3500であり、より好ましくはHV2000~3500である。そして、P
VD多元金属膜は、比較的低い表面エネルギーを有するが、その硬度と耐摩耗性は、極め
て素敵であり、それによって本発明に粘着防止効果が良いとともに、硬度が高く、耐摩耗
性が良く、耐用年数が長いという有益な効果を有させる。
【0036】
本実施例では、PVD多元金属膜104の耐摩耗性能は、中国国家規格『GB/T32
095.2~2015家庭用食品金属調理器具のノンスティック表面性能及び試験規範第
2の部分:不粘性及び耐摩耗性試験規範』に準拠して耐摩耗試験を5000回実施した後
に、油なく卵焼き試験を行ってI級ノンスティックに達することができる。ここで、I級
は、プラスチックシャベルを用いて卵を傷つけずに取り出してかすを残さないことを指す
。II級は、プラスチックシャベルを用いて卵を傷つけずに取り出すことができないが、
濡れたスポンジ又はふきんで軽く拭いてかすを取り除くすることができることを指す。本
発明における不粘性金属器物100のノンスティック性能は、I級である。試験室のない
間の試験を経て結果は、一級の卵が7~9つに達することができ、最高の記録が20つの
一級の卵に達し、中国規格の3つの卵の要求を遥かに超えることである。
【0037】
本発明は、PVD多元金属膜104のノンスティック鍋100をさらに提供し、この鍋
は、上記不粘性金属器物100である。不粘性鍋は、フライパンとして使用することがで
き、炭化クロムを表層とするものは、電気炊飯器、電気圧力鍋などの内釜として使用する
ことができる。
【0038】
以上の記述から分かるように、本発明は、以下のような有益な効果を有する。
【0039】
本発明のPVD多元金属膜104の不粘性金属器物100及びPVD多元金属膜104
のノンスティック鍋100は、内層金属の粗化表面上にPVD多元金属膜104をさらに
堆積し、このPVD多元金属膜104の厚さを制御するため、ミクロンオーダー粗化面上
のミクロンオーダー孔がマイクロナノメートルオーダー孔になるようにすることができ、
それによって内層金属表面に良好なノンスティック効果を有させる。しかしながら、使用
プロセスにおいて、鍋の底部に局所が熱すぎるのが発生しやすくてPVD多元金属膜10
4を破壊し、鍋にノンスティック性能を失わせ、この技術課題を解決するために、本発明
の鍋は、二層の金属の間にアルミニウム均熱層103を設置することを採用し、アルミニ
ウム均熱層103は、鍋底部がより均一に熱を受けるようにすることができ、それによっ
て鍋のノンスティック寿命を延長させる。
【0040】
以上をまとめると、本発明の不粘性金属器物(ノンスティック鍋)100は、優れたノ
ンスティック性能を有し、5000回の耐摩耗試験を経た後に、そのノンスティックレベ
ルは、依然としてI級ノンスティックに達することができる。そして、本発明は、鍋底部
が均一に熱を受けるため、それによってノンスティック性能の寿命をさらに延長させる。
また、本発明に使用される材料は、食品衛生指標要求に合致し、人体に有害な重金属元素
を含まず、安全で健康である。
【0041】
以上は、ただ本発明の具体的な実施の形態であるが、本発明の保護範囲は、これに限ら
ず、いかなる当業者が本発明に掲示される技術範囲において、容易に想到できる変化又は
置き換えは、いずれも本発明の保護範囲内に含まれるべきである。そのため、本発明の保
護範囲は、特許請求の保護範囲に準ずるべきである。
【符号の説明】
【0042】
100.ノンスティック鍋(不粘性金属器物)、101.第一の金属層、102.第二
の金属層、103.均熱層、104.PVD多元金属膜。