(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016297
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】酸性めっきシステム及びアノードセル
(51)【国際特許分類】
C25D 17/00 20060101AFI20240131BHJP
C25D 17/10 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
C25D17/00 H
C25D17/10 101A
C25D17/10 101B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020202032
(22)【出願日】2020-12-04
(71)【出願人】
【識別番号】000109657
【氏名又は名称】ディップソール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋介
(72)【発明者】
【氏名】茂手木 慶
(72)【発明者】
【氏名】井上 学
(57)【要約】
【課題】本発明は、本発明は、たとえ陽極室内に塩化物イオンが混入しても塩素ガスが発生しにくい酸性めっきシステムを提供することを目的としている。
【解決手段】本発明の酸性めっきシステムは、被めっき物である陰極及び可溶性陽極を含む酸性めっき浴と、陽イオン交換膜と、不溶性陽極を含むアルカリ性水溶液とを備えており、
前記酸性めっき浴が、前記陽イオン交換膜を介して前記アルカリ性水溶液と接しており、前記アルカリ性水溶液中のアルカリ性物質の濃度が、4M以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被めっき物である陰極及び可溶性陽極を含む酸性めっき浴と、陽イオン交換膜と、不溶性陽極を含むアルカリ性水溶液とを備える酸性めっきシステムであって、
前記酸性めっき浴が、前記陽イオン交換膜を介して前記アルカリ性水溶液と接しており、前記アルカリ性水溶液中のアルカリ性物質の濃度が、4M以下である、酸性めっきシステム。
【請求項2】
前記アルカリ性水溶液中のアルカリ性物質の濃度が、0.4M以上である、請求項1に記載の酸性めっきシステム。
【請求項3】
前記可溶性陽極が、亜鉛、ニッケル、マンガン、すず、銅及びコバルトからなる群から選択される1種以上の金属を含む、請求項1又は2に記載の酸性めっきシステム。
【請求項4】
前記不溶性陽極が、鉄、ニッケル、ステンレス、カーボン及びセラミックからなる群から選択される1種以上を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の酸性めっきシステム。
【請求項5】
前記陽イオン交換膜が、耐酸性かつ耐アルカリ性である、請求項1~4のいずれか1項に記載の酸性めっきシステム。
【請求項6】
前記陽イオン交換膜と、前記不溶性陽極を含む前記アルカリ性水溶液とが、前記酸性めっき浴から分離可能なアノードセルに含まれている、請求項1~5のいずれか1項に記載の酸性めっきシステム。
【請求項7】
前記酸性めっき浴の量と前記アルカリ性水溶液の量との比が、体積比で10:1~60:1である、請求項1~6のいずれか1項に記載の酸性めっきシステム。
【請求項8】
前記アルカリ性水溶液を補給する予備槽をさらに備える、請求項1~7のいずれか1項に記載の酸性めっきシステム。
【請求項9】
被めっき物である陰極及び可溶性陽極を含む酸性めっき浴と、陽イオン交換膜と、不溶性陽極を含むアルカリ性水溶液とを用意する工程であって、前記酸性めっき浴が、前記陽イオン交換膜を介して前記アルカリ性水溶液と接しており、前記アルカリ性水溶液中のアルカリ性物質の濃度が、4M以下である工程と、
前記酸性めっき浴に通電し、前記被めっき物に皮膜を施す工程と
を含むめっき方法。
【請求項10】
前記陽イオン交換膜と、前記不溶性陽極を含む前記アルカリ性水溶液とが、前記酸性めっき浴から分離可能なアノードセルに含まれている、請求項9に記載のめっき方法。
【請求項11】
陽イオン交換膜と、不溶性陽極を含むアルカリ性水溶液とを備えるアノードセルであって、前記アルカリ性水溶液中のアルカリ性物質の濃度が、4M以下であり、酸性めっき浴中で陽極として使用されるものである、アノードセル。
【請求項12】
前記アルカリ性水溶液中のアルカリ性物質の濃度が、0.4M以上である、請求項11に記載のアノードセル。
【請求項13】
前記不溶性陽極が、鉄、ニッケル、ステンレス、カーボン及びセラミックからなる群から選択される1種以上を含む、請求項11又は12に記載のアノードセル。
【請求項14】
前記陽イオン交換膜が、耐酸性かつ耐アルカリ性である、請求項11~13のいずれか1項に記載のアノードセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性めっきシステム及びアノードセルに関しており、特に陽イオン交換膜を使用した酸性めっきシステム及びアノードセルに関している。
【背景技術】
【0002】
酸性めっき浴を用いた亜鉛などによるめっき処理は、鉄板、ボルト、及びナットなどの表面処理として広く行われている。金属イオンを供給する可溶性陽極の電流効率の方が、金属が析出する陰極の電流効率よりも高いため、当該酸性めっき浴中の金属イオン濃度が過剰に上昇し、めっき性能に悪影響を及ぼすことがある。過剰の金属イオンを希釈すると、廃液処理のコストが生じたり環境への負荷が高くなったりするため好ましくない。また、可溶性陽極及び不溶性陽極を併用し、可溶性陽極に流れる過剰の電流を不溶性陽極に流すことで、酸性めっき浴中の金属イオン濃度の上昇を抑え、それを一定に保とうとすると、当該不溶性陽極において、酸性めっき浴中の添加剤などに由来する塩化物イオンにより塩素ガスが発生したり添加剤などの有機物の酸化分解が起こったりすることがある。特許文献1~3には、このような問題を解決するため、陽イオン交換膜により酸性めっき浴と隔てられた陽極室に酸性陽極液及び不溶性陽極を入れる構成を採用する旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2014/147180号
【特許文献2】特開2006-322069号公報
【特許文献3】特開昭56-112500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の酸性めっきシステムにおいては、陽イオン交換膜により有機物の不溶性陽極側への移動を遮断することはできたが、塩化物イオンの移動を完全に遮断することはできなかった。酸性陽極液中に塩化物イオンが混入すると、陽極室内の不溶性陽極上で塩素ガスが発生し得る。そこで、本発明は、たとえ陽極室内に塩化物イオンが混入しても塩素ガスが発生しにくい酸性めっきシステムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、陽極液にアルカリ性水溶液を用いることで、陽極室内に塩化物イオンが混入したときの塩素ガスの発生を抑えることができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示す酸性めっきシステム、めっき方法、及びアノードセルを提供するものである。
〔1〕被めっき物である陰極及び可溶性陽極を含む酸性めっき浴と、陽イオン交換膜と、不溶性陽極を含むアルカリ性水溶液とを備える酸性めっきシステムであって、
前記酸性めっき浴が、前記陽イオン交換膜を介して前記アルカリ性水溶液と接しており、前記アルカリ性水溶液中のアルカリ性物質の濃度が、4M以下である、酸性めっきシステム。
〔2〕前記アルカリ性水溶液中のアルカリ性物質の濃度が、0.4M以上である、前記〔1〕に記載の酸性めっきシステム。
〔3〕前記可溶性陽極が、亜鉛、ニッケル、マンガン、すず、銅及びコバルトからなる群から選択される1種以上の金属を含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の酸性めっきシステム。
〔4〕前記不溶性陽極が、鉄、ニッケル、ステンレス、カーボン及びセラミックからなる群から選択される1種以上を含む、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の酸性めっきシステム。
〔5〕前記陽イオン交換膜が、耐酸性かつ耐アルカリ性である、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の酸性めっきシステム。
〔6〕前記陽イオン交換膜と、前記不溶性陽極を含む前記アルカリ性水溶液とが、前記酸性めっき浴から分離可能なアノードセルに含まれている、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の酸性めっきシステム。
〔7〕前記酸性めっき浴の量と前記アルカリ性水溶液の量との比が、体積比で10:1~60:1である、前記〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の酸性めっきシステム。
〔8〕前記アルカリ性水溶液を補給する予備槽をさらに備える、前記〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の酸性めっきシステム。
〔9〕被めっき物である陰極及び可溶性陽極を含む酸性めっき浴と、陽イオン交換膜と、不溶性陽極を含むアルカリ性水溶液とを用意する工程であって、前記酸性めっき浴が、前記陽イオン交換膜を介して前記アルカリ性水溶液と接しており、前記アルカリ性水溶液中のアルカリ性物質の濃度が、4M以下である工程と、
前記酸性めっき浴に通電し、前記被めっき物に皮膜を施す工程と
を含むめっき方法。
〔10〕前記陽イオン交換膜と、前記不溶性陽極を含む前記アルカリ性水溶液とが、前記酸性めっき浴から分離可能なアノードセルに含まれている、前記〔9〕に記載のめっき方法。
〔11〕陽イオン交換膜と、不溶性陽極を含むアルカリ性水溶液とを備えるアノードセルであって、前記アルカリ性水溶液中のアルカリ性物質の濃度が、4M以下であり、酸性めっき浴中で陽極として使用されるものである、アノードセル。
〔12〕前記アルカリ性水溶液中のアルカリ性物質の濃度が、0.4M以上である、前記〔11〕に記載のアノードセル。
〔13〕前記不溶性陽極が、鉄、ニッケル、ステンレス、カーボン及びセラミックからなる群から選択される1種以上を含む、前記〔11〕又は〔12〕に記載のアノードセル。
〔14〕前記陽イオン交換膜が、耐酸性かつ耐アルカリ性である、前記〔11〕~〔13〕のいずれか1項に記載のアノードセル。
【発明の効果】
【0006】
本発明に従えば、陽極液にアルカリ性水溶液を用いることで、陽極室内に塩化物イオンが混入したときの塩素ガスの発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】通電量に応じた電圧の変化を示す。陽極液の水酸化カリウム濃度は、75g/L(○)、150g/L(□)、又は250g/L(×)だった。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の酸性めっきシステムは、被めっき物である陰極及び可溶性陽極を含む酸性めっき浴と、陽イオン交換膜と、不溶性陽極を含むアルカリ性水溶液とを備えており、前記酸性めっき浴が、前記陽イオン交換膜を介して前記アルカリ性水溶液と接している。換言すれば、本発明の酸性めっきシステムにおいては、前記酸性めっき浴を含む陰極室と、前記アルカリ性水溶液を含む陽極室とが、前記陽イオン交換膜によって互いに分離された構成となっている。本発明の酸性めっきシステムは、種々の被めっき物に対して特に制限されることなく適用することができるが、例えば、前記被めっき物は、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウムなどの各種金属及びこれらの合金を含む又はそれらから形成される物品であってもよい。また、前記被めっき物の形状についても特に制限はなく、例えば鋼板、めっき鋼板などの板状物や、直方体、円柱、円筒、球状物などの形状品など種々のものが挙げられる。当該形状品として具体的には、例えばボルト、ナット、ワッシャーなどの締結部品、燃料パイプなどのパイプ部品、ブレーキキャリパー、コモンレールなどの鋳鉄部品の他、コネクタ、プラグ、ハウジング、口金、シートベルトアンカーなど種々のものが挙げられる。
【0009】
本明細書に記載の「可溶性陽極」とは、めっき浴中で通電したときに、前記被めっき物上にめっき皮膜を形成するための金属イオンを当該めっき浴中に供給する陽極のことをいう。前記可溶性陽極は、めっきの種類に応じて適宜選択することができ、当技術分野で通常用いられるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記可溶性陽極は、亜鉛、ニッケル、マンガン、すず、銅及びコバルトからなる群から選択される1種以上の金属を含んでもよい。また、前記可溶性陽極の形状は、特に限定されないが、例えば、板状、棒状、ボール状、又はチップ状などであってもよい。
【0010】
前記酸性めっき浴は、めっきの種類に応じて適宜選択された金属イオンを含むめっき液を含む電解槽である。前記金属イオンとしては、当技術分野で通常用いられるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、亜鉛イオン、ニッケルイオン、マンガンイオン、すずイオン、銅イオン、及び、コバルトイオンであってもよい。前記被めっき物に亜鉛めっきを施す場合には、前記酸性めっき浴は亜鉛イオンを含む。前記亜鉛イオンをもたらすイオン源としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、水溶性亜鉛塩が好ましく、例えば、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、又は酸化亜鉛などであってもよい。前記亜鉛イオン源は、単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記酸性めっき浴中の前記亜鉛イオンの濃度は、特に限定されないが、例えば、約15~約62g/Lであってもよく、好ましくは約19~約62g/Lであってもよく、さらに好ましくは約29~約53g/Lである。
【0011】
前記被めっき物に亜鉛合金めっきを施す場合には、前記酸性めっき浴は亜鉛イオンに加えて他の金属イオンを含む。前記他の金属イオンは、亜鉛合金皮膜を形成できる限り特に制限されないが、例えば、ニッケルイオン、鉄イオン、コバルトイオン、スズイオン、及びマンガンイオンなどからなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。前記他の金属イオンをもたらすイオン源は、特に限定されないが、水溶性塩が好ましく、例えば、塩化ニッケル(II)、硫酸ニッケル(II)、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、塩化コバルト(II)、塩化コバルト(III)、硫酸コバルト(II)、硫酸コバルト(III)、塩化錫(II)、硫酸錫(II)、塩化マンガン(II)、又は硫酸マンガン(II)などであってもよい。前記他の金属イオン源は、単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記酸性めっき浴中の前記他の金属イオンの総濃度は、特に限定されないが、例えば、約0.2~約40g/Lであってもよく、好ましくは約17~約37g/Lであってもよく、さらに好ましくは約18~約30g/Lである。
【0012】
前記酸性めっき浴のめっき液は、酸性めっきに用いられる種々の添加剤をさらに含んでもよい。前記添加剤としては、当技術分野で通常用いられるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、1次光沢剤、2次光沢剤、金属錯化剤、導電性塩、又は、緩衝剤などであってもよい。
【0013】
前記1次光沢剤は、特に限定されないが、例えば、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、ポリエチレンイミン、及び、芳香族カルボン酸若しくはその誘導体又はそれらの塩などからなる群から選択される少なくとも1種を含んでもよい。前記アニオン界面活性剤としては、例えば、ナフトール系アニオン界面活性剤、クミルフェノール系アニオン界面活性剤、又は芳香族スルホン酸アルデヒド縮合物の塩などが挙げられる。好ましくは、前記ナフトール系アニオン界面活性剤又はクミルフェノール系アニオン界面活性剤は、ナフトール又はクミルフェノール1モル当たりにエチレンオキサイド(EO)及び/又はプロピレンオキサイド(PO)が合計で3~65モル、好ましくは8~62モル付加された、スルホ基を有する化合物の塩である。ナフトールは、特にβ-ナフトールが好ましい。前記ナフトール系アニオン界面活性剤又はクミルフェノール系アニオン界面活性剤における塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩、及びアミン塩などが挙げられる。具体的には、{[(3-スルホプロポキシ)-ポリエトキシ-ポリイソプロポキシ]-ベーターナフチルエーテル}カリウム塩、又はポリオキシエチレンp-クミルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム塩などが挙げられる。前記芳香族スルホン酸アルデヒド縮合物の塩としては、例えば、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩などが挙げられる。
【0014】
前記ノニオン界面活性剤としては、例えば、ナフトール系ノニオン界面活性剤、クミルフェノール系ノニオン界面活性剤、又はノニルフェノール系ノニオン界面活性剤などが挙げられる。前記ナフトール系ノニオン界面活性剤としては、例えば、β-ナフトールエトキシレートなどが挙げられ、前記クミルフェノール系ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンp-クミルフェニルエーテルなどが挙げられ、前記ノニルフェノール系ノニオン界面活性剤としては、例えば、ノニルフェノールエトキシレートなどが挙げられる。また、前記ポリエチレンイミンは、数平均分子量が約300~約70,000であってもよく、好ましくは数平均分子量が約300~約10,000であってもよく、さらに好ましくは数平均分子量が約300~約1,800である。また、前記芳香族カルボン酸及びその誘導体及びそれらの塩としては、好ましくは、炭素数7~15の芳香族カルボン酸及びその誘導体及びそれらの塩である。具体的には、例えば、安息香酸、安息香酸ナトリウム、テレフタル酸、テレフタル酸ナトリウム、安息香酸エチルなどが挙げられる。
【0015】
前記アニオン界面活性剤、前記ノニオン界面活性剤、前記ポリエチレンイミン、及び、前記芳香族カルボン酸若しくはその誘導体又はそれらの塩は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記酸性めっき浴中の前記1次光沢剤の濃度は、特に限定されないが、例えば、前記アニオン界面活性剤については、約0.1~約10g/Lであってもよく、好ましくは約0.2~約5g/Lであり、前記ノニオン界面活性剤については、約0.1~約10g/Lであってもよく、好ましくは約0.2~約5g/Lであり、前記ポリエチレンイミンについては、約0.1~約10g/Lであってもよく、好ましくは約0.2~約5g/Lであり、前記芳香族カルボン酸若しくはその誘導体又はそれらの塩については、約0.5~約5g/Lであってもよく、好ましくは約1~約3g/Lである。
【0016】
前記2次光沢剤は、特に限定されないが、例えば、芳香族アルデヒド及び芳香族ケトンなどからなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。前記芳香族アルデヒドとしては、例えば、o-カルボキシベンズアルデヒド、ベンズアルデヒド、o-クロルベンズアルデヒド、p-トルアルデヒド、アニスアルデヒド、p-ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどが挙げられる。好ましくは、前記芳香族アルデヒドは、炭素数7~10の芳香族アルデヒドである。また、前記芳香族ケトンとしては、例えば、ベンザールアセトン、ベンゾフェノン、アセトフェノン、塩化テレフタロイルベンジルなどが挙げられる。特に好ましい化合物は、ベンザールアセトンとo-クロルベンズアルデヒドである。好ましくは、前記芳香族ケトンは、炭素数8~14の芳香族ケトンである。前記芳香族アルデヒド及び/又は芳香族ケトンは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記酸性めっき浴中の前記2次光沢剤の濃度は、特に限定されないが、例えば、約0.1~約50mg/Lであってもよく、好ましくは約0.1~約20mg/Lであってもよく、さらに好ましくは約0.3~約10mg/Lである。
【0017】
前記金属錯化剤は、特に限定されないが、例えば、アミン系キレート剤などを含んでもよい。前記アミン系キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等のアルキレンアミン化合物、前記アルキレンアミンのエチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物;N-(2-アミノエチル)エタノールアミン、2-ヒドロキシエチルアミノプロピルアミンなどのアミノアルコール;N-2(-ヒドロキシエチル)-N,N’,N’-トリエチルエチレンジアミン、N,N’-ジ(2-ヒドロキシエチル)-N,N’-ジエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)プロピレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミンなどのポリ(ヒドロキシアルキル)アルキレンジアミン;エチレンイミン、1,2-プロピレンイミンなどから得られるポリ(アルキレンイミン)、エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、エタノールアミン、ジエタノールアミンなどから得られるポリ(アルキレンアミン)又はポリ(アミノアルコール)などが挙げられる。好ましくは、前記アミン系キレート剤は、炭素数1~12(好ましくは炭素数2~10)で窒素原子数2~7(好ましくは窒素原子数2~6)のアルキレンアミン化合物、そのエチレンオキサイド付加物、又はプロピレンオキサイド付加物である。前記金属錯化剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記酸性めっき浴中の前記金属錯化剤の濃度は、特に限定されないが、例えば、約0.5~約50g/Lであってもよく、好ましくは約1~約5g/Lである。
【0018】
前記導電性塩は、特に限定されないが、例えば、塩化物、硫酸塩、又は炭酸塩などを含んでもよく、好ましくは、塩化カリウム、塩化アンモニウム、及び塩化ナトリウムなどから選択される少なくとも1種の塩化物を含んでもよい。さらに好ましくは、前記導電性塩は、塩化カリウム及び/又は塩化アンモニウムである。前記酸性めっき浴中の前記導電性塩の濃度は、特に限定されないが、例えば、前記導電性塩が塩化カリウム単独である場合、その濃度は、約150~約250g/Lであってもよく、前記導電性塩が塩化アンモニウム単独である場合、その濃度は、約150~約300g/Lであってもよい。前記導電性塩が塩化カリウム及び塩化アンモニウムの併用の場合は、例えば、塩化カリウムについて約70~約200g/Lで、塩化アンモニウムについて約15~約150g/Lであってもよい。
【0019】
前記緩衝剤は、特に限定されないが、例えば、アンモニアやアンモニウム塩、ホウ酸やホウ酸塩、及び/又は、酢酸や酢酸塩を含んでもよい。また、前記酸性めっき浴中の前記緩衝剤の濃度は、特に限定されないが、例えば、前記アンモニア及び/又はアンモニウム塩の合計濃度は、約15~約300g/Lであってもよく、前記ホウ酸及び/又はホウ酸塩の合計濃度は約15~約90g/Lであってもよく、前記酢酸及び/又は酢酸塩の合計濃度は約5~約140g/Lであってもよく、好ましくは約7~約140g/L、より好ましくは約8~約120g/Lである。前記緩衝剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記導電性塩として塩化アンモニウムを用いる場合であっても、前記緩衝剤を適宜用いることができる。
【0020】
本発明の酸性めっき浴を用いるめっき方法として電気めっきが用いられる。電気めっきは、直流もしくはパルス電流により行うことができる。前記めっき方法は、当技術分野で通常採用される条件下で適宜実施することができる。例えば、前記酸性めっき浴の浴温は、通常、20~50℃の範囲であってもよく、好ましくは25~50℃の範囲、より好ましくは30~45℃の範囲である。前記酸性めっき浴のpHは、通常、3.5~6.9の範囲であってもよく、好ましくは4.5~6.3の範囲、より好ましくは5.2~5.8の範囲である。尚、めっき浴のpHは、塩酸、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、酢酸、酢酸ナトリウム水溶液、又は酢酸カリウム水溶液などを用いて容易に調整できる。前記酸性めっき浴の陰極電流密度は、通常、0.1~15A/dm2の範囲、好ましくは0.2~10A/dm2の範囲、より好ましくは0.5~10A/dm2の範囲の電解条件で行うのが良い。また、めっきを実施する場合は、エアーブローやジェット噴流により液撹拌をすると、陰極電流密度をさらに高くすることができるため好ましい。
【0021】
本明細書に記載の「不溶性陽極」とは、陽極液中で通電しても金属イオンを生じにくい陽極のことをいう。前記不溶性陽極としては、当技術分野で通常用いられるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記不溶性陽極は、鉄、ニッケル、ステンレス、銅、白金、チタン、カーボン、及びセラミックからなる群から選択される1種以上を含んでもよく、各種素材に対してめっきを施したもの(例えばニッケルを含むめっきを有する鉄板など)であってもよい。また、前記不溶性陽極の形状は、特に限定されないが、例えば、板状、又は棒状などであってもよい。本発明の酸性めっきシステムにおいては、前記不溶性陽極が前記アルカリ性水溶液中に含まれているため、酸性溶液中では溶解してしまうような鉄やニッケルなどの金属も採用することができ、白金などの高価な金属を使用する必要がないため、経済的にめっきを行うことができる。前記可溶性陽極や前記不溶性陽極の大きさや数は、前記被めっき物上に所望のめっき皮膜を形成することができる限り特に制限されない。
【0022】
前記陽イオン交換膜は、陽イオンを選択的に透過させる膜ではあるが、一般的な酸性めっき浴に使用される場合、塩化物イオンの透過を抑制することはできても完全に防ぐことは困難である。本発明の酸性めっきシステムにおいては、たとえ塩化物イオンが陽極室に混入しても、当該陽極室での塩素ガスの発生を抑制することができる。前記陽イオン交換膜としては、当技術分野で通常用いられるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記陽イオン交換膜は、フッ素系陽イオン交換膜、又は炭化水素系陽イオン交換膜であってもよく、特にフッ素系陽イオン交換膜は、耐薬品性が高いため好ましい。すなわち、ある好ましい態様では、前記陽イオン交換膜は、耐薬品性(耐酸性又は耐アルカリ性)を有しており、特に耐酸性かつ耐アルカリ性を有している。また、前記陽イオン交換膜は、イオン交換基としてスルホ基などの強酸基及び/又はカルボキシ基などの弱酸基を有するもの、例えば、スルホ基を有するフッ素系陽イオン交換膜(フッ素系スルホン酸陽イオン交換膜)であってもよい。
【0023】
本発明の酸性めっきシステムにおいては、前記アルカリ性水溶液は陽極液として使用されており、当該アルカリ性水溶液中のアルカリ性物質の濃度は約4M以下である。ある態様では、前記アルカリ性水溶液中のアルカリ性物質の濃度は、約3.5M以下、約3M以下又は約2.5M以下であってもよく、約0.5M以上、約1M以上又は約1.5M以上であってもよい。前記アルカリ性物質の濃度がこのような範囲にあると、電圧の上昇を引き起こさずに、陽極室における塩素ガスの発生をより効率的に抑制することができる。前記アルカリ性物質としては、当技術分野で通常用いられるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、第4級アンモニウム水酸化物(置換基の各アルキル基は、それぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基)、又はアンモニア水を含んでもよい。特定の理論に拘束されるものではないが、一般に、アルカリ性の溶液中においては、塩素ガス発生の過電圧が高いために塩化物イオンは塩素ガスに酸化されにくい。仮に、塩素分子が形成された場合にも、一度形成された塩素分子が陽極室内のアルカリ性物質と反応することで次亜塩素酸イオンが形成されるため、塩素ガスの発生を抑制できると考えられる。また、アルカリ性水溶液中では、塩化物イオンに起因する不溶性陽極の損耗も抑制され得る。
【0024】
前記酸性めっき浴の量や前記アルカリ性水溶液の量は、前記被めっき物上に所望のめっき皮膜を形成することができる限り特に制限されないが、例えば、前記酸性めっき浴の量と前記アルカリ性水溶液の量との比が、体積比で約10:1~約60:1であってもよく、約20:1~約50:1であってもよい。
【0025】
本発明の酸性めっきシステムは、例えば、電解槽を前記陽イオン交換膜で仕切り、前記酸性めっき浴を含む陰極室と、前記アルカリ性水溶液を含む陽極室とを設けることにより構成してもよい。あるいは、前記酸性めっきシステムは、前記酸性めっき浴に含まれる前記可溶性陽極と並べて、前記陽イオン交換膜と、前記不溶性陽極を含むアルカリ性水溶液とを備えるアノードセル(隔膜陽極)を設置することにより構成してもよい。すなわち、ある態様では、前記陽イオン交換膜と、前記不溶性陽極を含む前記アルカリ性水溶液とが、前記酸性めっき浴から分離可能なアノードセルに含まれている。前記アノードセルとしては、当技術分野で通常用いられるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、円柱状又は直方体状のアノードセルであってもよい。また、前記アノードセルは、前記陽イオン交換膜を側面の一部に有していてもよく、あるいはそれを側面全体に有していてもよい。
【0026】
ある態様では、本発明の酸性めっきシステムは、前記アルカリ性水溶液を補給する予備槽をさらに備えていてもよい。前記アルカリ性水溶液中の陽イオンは、通電中に前記陽イオン交換膜を通って陽極室側から陰極室側に移動してしまうので、前記予備槽が設置されていれば、当該陽極室側に効果的にアルカリ性水溶液を補給することができる。
【0027】
別の態様では、本発明はめっき方法にも関しており、当該めっき方法は、被めっき物である陰極及び可溶性陽極を含む酸性めっき浴と、陽イオン交換膜と、不溶性陽極を含むアルカリ性水溶液とを用意する工程であって、前記酸性めっき浴が、前記陽イオン交換膜を介して前記アルカリ性水溶液と接しており、前記アルカリ性水溶液中のアルカリ性物質の濃度が、約4M以下である工程と、
前記酸性めっき浴に通電し、前記被めっき物に皮膜を施す工程と
を含む。ある態様では、前記陽イオン交換膜と、前記不溶性陽極を含む前記アルカリ性水溶液とは、前記酸性めっき浴から分離可能なアノードセルに含まれている。
【0028】
別の態様では、本発明は酸性めっき浴中で陽極として使用されるアノードセルにも関しており、当該アノードセルは、陽イオン交換膜と、不溶性陽極を含むアルカリ性水溶液とを備えており、前記アルカリ性水溶液中のアルカリ性物質の濃度は約4M以下である。
【0029】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例0030】
〔試験例1〕
フッ素系スルホン酸陽イオン交換膜で電解槽を仕切り、一方(陰極室)には以下の表1に記載の組成を有する亜鉛ニッケル合金めっき液(pH5.4)、陰極としての鉄板、並びに、可溶性陽極としての亜鉛板及びニッケル板を1つずつ入れ、他方(陽極室)には75g/L(約1.3M)の水酸化カリウム水溶液及び不溶性陽極としてのニッケル板を入れて、実施例1の酸性めっきシステムを構成した。
【0031】
【0032】
電解槽を仕切らずに、表1に記載の組成を有する亜鉛ニッケル合金めっき液(pH5.4)、陰極としての鉄板、並びに、可溶性陽極としての亜鉛板及びニッケル板を入れ、比較例1の酸性めっきシステムを構成した。そして、実施例1及び比較例1の酸性めっきシステムにおいて、めっき浴の温度が35℃、陰極電流密度が3.0A/dm2の条件で通電した。このとき、各陽極にそれぞれ独立した整流器を接続して、実施例1においては、亜鉛板、ニッケル板(可溶性陽極)、及びニッケル板(不溶性陽極)に流れる電流が17対14対69になるように調節し、比較例1においては、亜鉛板及びニッケル板(可溶性陽極)に流れる電流が8対2になるように調節した。また、通電量が約1.58Ah/Lになるごとに、IZA-2500Aを0.32mL/L、IZA-2500Bを0.3mL/L、IZA-2500Cを0.1mL/L、そしてIZA-2500DPを0.2g/Lそれぞれ補給し、かつ、亜鉛ニッケル合金めっき液のpHが一定になるように塩酸を補給した。そして、通電量が約48Ah/Lのときに、めっき浴中の亜鉛イオン及びニッケルイオンの濃度を常法により測定した。結果を表2に示す。
【0033】
【0034】
不溶性陽極を採用しない酸性めっきシステムでは、通電するに従い亜鉛イオン濃度が大幅に上昇したが(比較例1)、不溶性陽極を採用し、そこへ電流を分配することにより、亜鉛イオン及びニッケルイオンのどちらについても、通電中に初期濃度を維持することができた(実施例1)。
【0035】
〔試験例2〕
フッ素系スルホン酸陽イオン交換膜で電解槽を仕切り、一方(陰極室)には表1に記載の組成を有する亜鉛ニッケル合金めっき液(pH5.4)及び陰極としての鉄板を入れ、他方(陽極室)には50g/L(約0.89M)、100g/L(約1.8M)、175g/L(約3.1M)、又は250g/L(約4.5M)の濃度の水酸化カリウム水溶液(陽極液)及び不溶性陽極としてのニッケル板を入れた。そして、陽極液に種々の濃度で塩化カリウムを添加し、陽極電流密度が3.0A/dm2の条件で2時間通電して、陽極の損耗状況を目視により以下の基準で判定した。結果を表3に示す。
(陽極の損耗状況)
○:損耗なし
△:視認できる損耗はないが陽極側の溶液に濁りあり
×:損耗(溶解又は欠損)あり
【0036】
【0037】
陽イオン交換膜が設置されていても、一部の塩化物イオンは陰極室から陽極室に移動し(この点について要すれば後述の試験例4も参照)、陽極の損耗の原因となり得るが、陽極室に水酸化カリウムを含む酸性めっきシステムにおいては、そのような損耗を抑制することができた(添加なしの群を参照)。また、意図的に塩化物イオンの量を増やしても、水酸化カリウムの濃度を高めることで、陽極の損耗を効果的に抑制できることが分かった。
【0038】
〔試験例3〕
陽極室の水酸化カリウムの濃度を75g/L(約1.3M)、150g/L(約2.67M)、又は250g/L(約4.5M)とした以外は試験例2と同様にして電解槽を用意した。隔膜電流密度が5.7A/dm2の条件で通電し、陰極と不溶性陽極との間の電圧の変化を測定した。また、電圧測定時に、IZA-2500A、IZA-2500B、IZA-2500C、及び、IZA-2500DPの初期濃度を維持するよう、それぞれ適宜補給し、かつ、亜鉛ニッケル合金めっき液のpHが一定になるように塩酸を補給した。
【0039】
その結果、
図1に示されているように、水酸化カリウムの濃度が250g/L(約4.5M)の場合には、通電量が増加するのに伴って電圧も上昇したが、他の濃度ではそれと比較して電圧上昇が有意に低かった。また、水酸化カリウムの濃度が250g/L(約4.5M)の場合には、陽イオン交換膜において、その表面への白色の生成物の沈着や膜自体の変形という異常が顕著に観察された。
【0040】
〔試験例4〕
陽極室に150g/Lの水酸化カリウム水溶液(アルカリ性)又は10g/Lの硫酸水溶液(酸性)を入れて、陽極電極として炭素板を用いた以外は試験例2と同様にして電解槽を用意した。陽極電流密度が3A/dm2の条件で通電し、通電前、通電10分後、及び、通電30分後の陽極室直上における塩素ガスの濃度を、塩素検知管(No.8La、ガステック株式会社製)により測定した。なお、陽極液の調製においては、残留塩素の影響を排除するためイオン交換水を用いた。結果を表4に示す。
【0041】
【0042】
陽極液がアルカリ性の場合は、塩素ガスは発生しなかったが、陽極液が酸性の場合は、通電開始後から塩素ガスの臭気が認知され、検知管によって塩素ガスの発生が確認された。陽極液には塩化物イオンを添加していないため、この塩素ガスは、陰極室側から陽イオン交換膜を通過して混入した塩化物イオンに由来していると考えられる。
【0043】
このように、陽極液にアルカリ性水溶液を用いることで、陽極室内に塩化物イオンが混入したときの塩素ガスの発生を抑えることができ、かつ不溶性陽極の損耗も抑制できることが分かった。