(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016298
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】次亜塩素酸イオン濃度の測定方法、次亜塩素酸イオン濃度測定装置、および食品殺菌装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/33 20060101AFI20240131BHJP
A23L 3/358 20060101ALI20240131BHJP
A23B 7/157 20060101ALN20240131BHJP
【FI】
G01N21/33
A23L3/358
A23B7/157
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020203456
(22)【出願日】2020-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】518095493
【氏名又は名称】株式会社サイエンス・イノベーション
(74)【代理人】
【識別番号】100147072
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 裕通
(74)【代理人】
【識別番号】100097696
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 嘉昭
(72)【発明者】
【氏名】平野 輝美
(72)【発明者】
【氏名】前嶋 満
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一彦
(72)【発明者】
【氏名】桑原 克己
(72)【発明者】
【氏名】小山 彰
(72)【発明者】
【氏名】杉谷 裕通
【テーマコード(参考)】
2G059
4B021
4B169
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB04
2G059CC01
2G059CC20
2G059EE01
2G059GG02
2G059HH03
2G059KK01
4B021LA41
4B021LT03
4B021LT06
4B021LW02
4B021MC01
4B021MK14
4B169HA09
4B169KA01
4B169KB03
4B169KC19
(57)【要約】
【課題】測定対象の溶液に他の物質が含まれていても、連続的に次亜塩素酸イオン濃度を測定することができる次亜塩素酸イオン濃度の測定方法を提供する。
【解決手段】波長の異なる2個以上の第1、2、…の半導体光源(11、12、…)と、光の強度を検出する光強度検出手段(16、17、…)とを使用する。これらから異なる波長の光を個別に測定対象溶液に対して入射し、それぞれの透過光の強度を第1、2、…の透過光強度として得る。得られた第1、2、…の透過光強度から次亜塩素酸イオン濃度を得るように構成する。第1、2、…の半導体光源(11、12、…)はLED素子から、そして光強度検出手段(16、17、…)はフォトダイオードから構成することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象溶液から次亜塩素酸イオン濃度を得る、次亜塩素酸イオン濃度測定方法であって、
前記次亜塩素酸イオン濃度測定方法は、
互いに波長が異なっていると共にそのうちの1個は280~320nmの波長の一部を含んでいる、複数個の第1、2、…の半導体光源と、光の強度を検出する光強度検出手段とを使用し、
前記第1、2、…の半導体光源からの光を個別に前記測定対象溶液に対して入射し、それぞれの透過光を前記光強度検出手段により検出して第1、2、…の透過光強度として得る第1のステップと、
前記第1、2、…の透過光強度から次亜塩素酸イオン濃度を得る第2のステップと、からなる次亜塩素酸イオン濃度測定方法。
【請求項2】
前記第1、2、…の半導体光源はLED素子からなり、前記光強度検出手段はフォトダイオードからなる、請求項1に記載の次亜塩素酸イオン濃度測定方法。
【請求項3】
前記次亜塩素酸イオン濃度測定方法は、次亜塩素酸以外に1種類または複数種類の物質からなる特定の物質群が含まれている前記測定対象溶液について次亜塩素酸イオン濃度を得る方法であって、
前記次亜塩素酸イオン濃度測定方法は、予め実施する準備処理を備え、
前記準備処理は、前記特定の物質群と次亜塩素酸とが色々な濃度で含まれていると共に次亜塩素酸イオン濃度が判明している複数の試験溶液に対し、それぞれ前記第1、2、…の半導体光源からの光を入射して透過させて前記光強度検出手段により検出して前記第1、2、…の透過光強度を得、前記複数の試験溶液分の前記第1、2、…の透過光強度と前記判明している次亜塩素酸イオン濃度とから前記第1、2、…の透過光強度と次亜塩素酸イオン濃度の関係である透過光強度-濃度関係を得るようにし、
前記第2のステップは、前記透過光強度-濃度関係に基づいて次亜塩素酸イオン濃度を得る、請求項1または2に記載の次亜塩素酸イオン濃度測定方法。
【請求項4】
測定対象溶液から次亜塩素酸イオン濃度を得る、次亜塩素酸イオン濃度測定装置であって、
前記次亜塩素酸イオン濃度測定装置は、
互いに波長が異なっていると共にそのうちの1個は280~320nmの波長の一部を含んでいる、複数個の第1、2、…の半導体光源と、
光の強度を検出する光強度検出手段と、
次亜塩素酸イオン濃度を求める濃度取得手段と、を備え、
前記第1、2、…の半導体光源の光が個別に前記測定対象溶液に対して入射され、それぞれの透過光が前記光強度検出手段により第1、2、…の透過光強度として検出され、
前記濃度取得手段により前記第1、2、…の透過光強度から次亜塩素酸イオン濃度が求められる、次亜塩素酸イオン濃度測定装置。
【請求項5】
前記第1、2、…の半導体光源はLED素子からなり、前記光強度検出手段はフォトダイオードからなる、請求項4に記載の次亜塩素酸イオン濃度測定装置。
【請求項6】
前記次亜塩素酸イオン濃度測定装置は、次亜塩素酸以外に1種類または複数種類の物質からなる特定の物質群が含まれている前記測定対象溶液について次亜塩素酸イオン濃度を得る装置であって、
前記次亜塩素酸イオン濃度測定装置は、前記第1、2、…の透過光強度と次亜塩素酸イオン濃度の関係である透過光強度-濃度関係を備え、前記濃度取得手段は前記透過光強度-濃度関係に基づいて実施されるようになっており、
前記透過光強度-濃度関係は、前記特定の物質群と次亜塩素酸とが色々な濃度で含まれていると共に次亜塩素酸イオン濃度が判明している複数の試験溶液に対して、前記第1、2、…の半導体光源からの光を入射して透過させて前記光強度検出手段により検出して前記第1、2、…の透過光強度を得、前記複数の試験溶液分の前記第1、2、…の透過光強度と前記判明している次亜塩素酸イオン濃度とから得られたものである、請求項4または5に記載の次亜塩素酸イオン濃度測定装置。
【請求項7】
殺菌水によって食品を殺菌する食品の殺菌装置であって、
前記殺菌装置は、殺菌水が貯められて食品が浸漬される殺菌槽と、前記殺菌水をろ過するろ過装置と、次亜塩素酸イオン濃度測定装置と、次亜塩素酸供給手段とを備え、前記次亜塩素酸イオン濃度測定装置によって測定される前記殺菌水の次亜塩素酸イオン濃度に基づいて前記次亜塩素酸供給手段によって前記殺菌水に次亜塩素酸が注入されるようになっており、
前記次亜塩素酸イオン濃度測定装置は、
互いに波長が異なっていると共にそのうちの1個は280~320nmの波長の一部を含んでいる、LED素子からなる複数個の第1、2、…の半導体光源と、
光の強度を検出するフォトダイオードと、
次亜塩素酸イオン濃度を求める濃度取得手段と、を備え、
前記第1、2、…の半導体光源の光が個別に前記殺菌水に対して入射され、それぞれの透過光が前記フォトダイオードにより第1、2、…の透過光強度として検出され、前記濃度取得手段により前記第1、2、…の透過光強度から次亜塩素酸イオン濃度が求められるようになっている、食品の殺菌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸光光度法により測定対象の溶液中の次亜塩素酸イオン濃度を測定する次亜塩素酸イオン濃度の測定方法および次亜塩素酸イオン濃度測定装置に関するものである。さらには、このような次亜塩素酸イオン濃度測定装置を使用した食品の殺菌装置に関するものであり、限定するものではないがカット野菜の殺菌に好適な食品の殺菌装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
次亜塩素酸水は、殺菌力が高く比較的安全に取り扱えるので、上水における殺菌、下水、排水の殺菌・消毒等に利用されている。特に電気分解によって生成される電解次亜塩素酸水は、ナトリウム、塩素等が残留しないので食品の殺菌に利用でき安全性が高い。近年、カット野菜等の洗浄において使用されるケースが増えている。
【0003】
ところで次亜塩素酸水の利用に際しては、次亜塩素酸の濃度を適切に測定する必要がある。次亜塩素酸の濃度を測定する方法は色々ある。例えば、o-トリジン比色法、ジエチル-p-フェニレンジアミン比色法等のように、次亜塩素酸水に試薬を点滴してその色によって濃度を測定する比色法が周知である。また、次亜塩素酸水に浸漬した一対の電極間に電圧を印加し、測定される電流から次亜塩素酸濃度を得るポーラログラフ法も周知である。しかしながら試薬を使用する比色法は測定が煩雑で連続的が測定できない問題がある。またポーラログラフ法は、電気伝導率の影響を受けやすいので次亜塩素酸水に他の電解質やイオンが溶けていると正しく濃度を測定できないし、電極の汚れによる影響を受けやすいので定期的に電極の研磨が必要になるという問題がある。
【0004】
特許文献1、2等に記載されているように、吸光光度法も周知である。吸光光度法は、水溶液に光を照射するとき溶解している物質の種類によって吸収される波長が異なること、そして吸収の度合いが濃度に比例することを利用した測定方法である。具体的には、所定の波長の光を水溶液に入射して透過させ、透過した光をフォトダイオードによって電圧として検出する。入射時の光の強度と透過した光の強度の比を対数にとったもの、すなわち吸光度に基づいて濃度を測定するようにする。イオン状態の次亜塩素酸(ClO-)であれば波長297nmを含む光を、そして非イオン状態の次亜塩素酸(HClO)であれば波長236nmを含む光をそれぞれ照射して吸光度を測定するようにする。吸光光度法は試薬が不要であるし、電極のような汚れの影響を受ける部材がない。また、次亜塩素酸濃度を連続的に測定することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-32503号公報
【特許文献2】特開2017-120246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
吸光光度法は、高い精度でかつ連続的に次亜塩素酸濃度を測定できるので優れており、例えばフィードバック制御等により次亜塩素酸を所望の濃度に制御する場合に利用することができる。しかしながら吸光光度法による次亜塩素酸濃度の測定方法には解決すべき課題も見受けられる。具体的には、測定対象の溶液中に汚れが含まれる場合に次亜塩素酸の濃度を測定できないという問題がある。例えば次亜塩素酸イオン濃度を測定する場合、吸光光度法では297nm近傍の波長の紫外線を照射して、その吸収の度合いから濃度を得るようにしている。ところが、この波長を吸収する他の物質も溶液中に存在している場合には、次亜塩素酸イオンによって吸光されたのか、他の物質によって吸光されたのか判別することができない。つまり次亜塩素酸イオン濃度が測定できない。吸光光度法によっては、他の物質を含む溶液の次亜塩素酸の濃度を測定できないという問題がある。
【0007】
ところで近年、食品、例えばカット野菜を殺菌するため、殺菌装置が広く利用されてきている。カット野菜の殺菌装置では、カット野菜を浸漬する殺菌水を所定濃度の次亜塩素酸から調製している。このようなカット野菜の殺菌装置では、殺菌水は使用後排水され、循環して再利用されていない。つまり上下水のコストがかかるし、殺菌水の温度を調整するためのエネルギーも無駄になる。もし殺菌水を循環・再利用しようとすると、カット野菜の殺菌後の殺菌水について連続的に次亜塩素酸の濃度を精度良く測定する必要がある。消費された次亜塩素酸を追加で添加して次亜塩素酸濃度を所望の範囲に維持するためである。しかしながら従来、次亜塩素酸の濃度を連続的にかつ精度良く測定する手段はない。連続的に濃度を測定する方法として、ポーラログラフ法、吸光光度法はある。しかしながらカット野菜の殺菌後の殺菌水はカット野菜の成分が溶解しているので、電気伝導率や吸光度に影響を与えて正しく次亜塩素酸濃度を測定できない。つまり従来、次亜塩素酸の濃度を連続的にかつ精度良く測定する手段はない。
【0008】
本発明は、上記したような問題点を解決した、次亜塩素酸イオン濃度の測定方法および次亜塩素酸イオン濃度測定装置を提供することを目的としている。具体的には、測定対象の溶液に他の物質が含まれていても、連続的に高い精度で次亜塩素酸イオン濃度を測定することができる次亜塩素酸イオン濃度の測定方法、およびそのような測定方法を実施する次亜塩素酸イオン濃度測定装置を提供することを目的としている。さらに、次亜塩素酸を含んだ殺菌水によって食品を殺菌する殺菌装置において、殺菌水を循環・再利用することができる食品の殺菌装置を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、波長の異なる2個以上の第1、2、…の半導体光源と、光の強度を検出する光強度検出手段とを使用する。そして、第1、2、…の半導体光源からの光を個別に測定対象溶液に対して入射し、それぞれの透過光を光強度検出手段により検出して第1、2、…の透過光強度として得る。得られた第1、2、…の透過光強度から次亜塩素酸イオン濃度を得るように構成する。第1、2、…の半導体光源はLED素子から、そして光強度検出手段はフォトダイオードから構成することができる。
【0010】
そして他の発明は、測定対象溶液に、次亜塩素酸以外に1種または複数種の物質からなる特定の物質群が含まれている場合について、次亜塩素酸イオン濃度を得る方法とする。この次亜塩素酸イオン濃度測定方法は、予め実施する準備処理によって、第1、2、…の透過光強度と次亜塩素酸イオン濃度の関係である透過光強度-濃度関係を得るようにする。つまり、準備処理では、特定の物質群と次亜塩素酸とが色々な濃度で含まれていると共に次亜塩素酸イオン濃度が判明している複数の試験溶液を用意する。これら複数の試験溶液のそれぞれに第1、2、…の半導体光源からの光を入射して透過させて光強度検出手段により検出して第1、2、…の透過光強度を得る。そして複数の試験溶液分の第1、2、…の透過光強度と、判明している次亜塩素酸イオン濃度とによって、透過光強度-濃度関係を得る。測定対象溶液について第1、2、…の透過光強度を得たら、この透過光強度-濃度関係に基づいて次亜塩素酸イオン濃度を得るように構成する。
【0011】
さらに他の発明は、このような次亜塩素酸イオン濃度測定方法を実施する次亜塩素酸イオン濃度測定装置を備えた、食品の殺菌装置として構成する。つまり食品の殺菌装置は、殺菌水が貯められて食品が浸漬される殺菌槽と、殺菌水をろ過するろ過装置と、前記した次亜塩素酸イオン濃度測定装置と、次亜塩素酸供給手段とを備えるようにし、次亜塩素酸イオン濃度測定装置によって測定される殺菌水の次亜塩素酸イオン濃度に基づいて次亜塩素酸供給手段によって殺菌水に次亜塩素酸が注入されるように構成する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、2個以上の第1、2、…の半導体光源と、光の強度を検出する光強度検出手段とを使用して、第1、2、…の半導体光源からの光を個別に測定対象溶液に対して入射し、それぞれの透過光を光強度検出手段により検出して第1、2、…の透過光強度として得、この第1、2、…の透過光強度に基づいて次亜塩素酸イオン濃度を得るので、測定対象溶液に他の物質が含まれていても、その影響を排除して次亜塩素酸イオン濃度を得ることができる。つまり汚れがある測定対象溶液であっても、精度よく次亜塩素酸イオン濃度を得ることができる。そして本発明は、吸光光度法を応用した方法であるので、測定対象溶液の次亜塩素酸イオン濃度を連続的に測定することもできる。他の発明によると、第1、2、…の半導体光源はLED素子から、そして光強度検出手段はフォトダイオードからなるので、安価に発明を実施することができる。さらに他の発明によると、測定対象溶液に特定の物質群が含まれていても、この特定の物質群に対して、第1、2、…の透過光強度と次亜塩素酸イオン濃度の関係である透過光強度-濃度関係を用意しておくことによって、その特定の物質群の影響を排除して精度良く次亜塩素酸イオン濃度を測定できる。測定対象溶液に含まれる特定の物質群としては、例えば測定対象溶液がカット野菜の殺菌水であるとすると、カットされたネギから溶出する物質群、カットされたキャベツから溶出する物質群、カットされたホウレン草から溶出する物質群、等がある。つまり、色々な物質群に対応して透過光強度-濃度関係を用意しておけば、それぞれの殺菌水について精度良く次亜塩素酸イオン濃度を測定できることになる。
【0013】
さらに他の発明は、このような次亜塩素酸イオン濃度測定方法を実施する次亜塩素酸イオン濃度測定装置を備えた、食品の殺菌装置として構成されている。殺菌水をろ過装置によってろ過して循環・再利用でき、次亜塩素酸イオン濃度を一定に制御できる。したがって、殺菌水を無駄に排水する必要がなく、殺菌水の温度調整に要するエネルギーを節約できる。本発明に係る食品の殺菌装置によって、食品を安定して殺菌することができ食品の殺菌に要するコストを大幅に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施の形態に係る次亜塩素酸イオン濃度測定装置を示す正面図である。
【
図2】pHが異なる次亜塩素酸の水溶液について、波長と吸光度の関係を示すグラフである。
【
図3】キャベツの成分を含む水溶液に次亜塩素酸を添加して、色々な時間経過後に測定した、波長と透過率の関係を示すグラフである。
【
図4】ネギの成分を含む溶液に次亜塩素酸を添加して、色々な時間経過後に測定した、波長と透過率の関係を示すグラフである。
【
図5】ホウレン草の成分を含む溶液に次亜塩素酸を添加して、色々な時間経過後に測定した、波長と透過率の関係を示すグラフである。
【
図6】本実施の形態に係る次亜塩素酸イオン濃度測定方法における準備処理を示すフローチャートである。
【
図7】本実施の形態に係る次亜塩素酸イオン濃度測定方法の実行処理を示すフローチャートである
【
図8】本実施の形態に係る食品の殺菌装置を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<次亜塩素酸イオン濃度測定装置>
以下、本実施の形態を説明する。本実施の形態に係る次亜塩素酸イオン濃度測定装置1は、本体部2と、この本体部2と接続されているコントローラ3とから概略構成されている。本体部2は次に説明するセンサ類を収納している筐体5と、この筐体5に挿通されている透明な管路6とから構成されている。筐体5は外部からの光を遮光する素材からなり、筐体5内部を暗室に維持するようになっている。管路6は次亜塩素酸イオン濃度を測定する対象の溶液である測定対象溶液を流すようになっている。測定対象溶液は連続的に管路6を流してもよいし、管路6に導いた状態で滞留させてもよい。つまり次亜塩素酸イオン濃度を連続的に測定することも、バッチ的に測定することもできる。管路6は紫外線および可視光線、例えば波長250nm以上の光を透過する素材からなり、次に説明する半導体光源の光を透過するようになっている。
【0016】
筐体5には、管路6に近接して第1~4の半導体光源11、12、13、14が設けられ、管路6を挟んでこれら第1~4の半導体光源11、12、13、14の反対側にそれぞれ第1~4の光強度検出手段16、17、18、19が設けられている。第1~4の半導体光源11、12、13、14は、コントローラ3の制御によって発光するようになっており、それぞれから発光される光は、管路6内の測定対象溶液に入射してこれを透過し、透過光がそれぞれ第1~4の光強度検出手段16、17、18、19によって検出される。第1~4の光強度検出手段16、17、18、19では透過光の強度が電圧として検出されてコントローラ3に送られるようになっている。
【0017】
本実施の形態において、第1~4の半導体光源11、12、…が発光する光には2点の特徴がある。第1の特徴は、光源ごとにそれぞれの発光する光の波長が異なっている点である。そして第2の特徴は、第1の半導体光源11の発光波長が、280~320nmの波長の一部を含んでいる点である。後で説明するように次亜塩素酸イオンは292nm近傍の紫外線に強く吸光される。つまり測定対象溶液中の次亜塩素酸イオンは第1の半導体光源11の光線によって吸光されることになる。本実施の形態において、第1~4の半導体光源11、12、…の具体的な波長を説明すると、それぞれピーク波長が282nm、380nm、450nm、620nmになっている。
【0018】
本実施の形態において第1~4の半導体光源11、12、13、14は比較的安価に購入できるLED素子が採用されている。しかしながら半導体レーザから構成することも可能である。また第1~4の光強度検出手段16、17、18、19は、本実施の形態においてはフォトダイオードから構成されている。なお、第1~4の光強度検出手段16、17、18、19は1個から構成してもよい。例えば、第1~4の半導体光源11、12、13、14を順に発光させて測定対象溶液を透過した透過光を共通の1個の光強度検出手段によって検出しても、それぞれの透過光強度を検出できるからである。
【0019】
本実施の形態においてコントローラ3は、第1~4の半導体光源11、12、13、14を同時に発光しないように制御している。これによって複数の半導体光源11、12、…からの透過光が散乱して目的としない光強度検出手段16、17、…によって検出されることを防止している。しかしながら、筐体5内において半導体光源11、12、…間に遮光板が設けるようにすれば、同時に発光させても干渉を防止でき、それぞれの透過光の強度を同時に測定することができる。
【0020】
また、本実施の形態においてコントローラ3は、使用する半導体光源11、12、…を任意に選択することができる。例えば、第1、2の半導体光源11、12の2個のみを使用するように設定することもできるし、第1、2、4の半導体光源11、12、14の3個を使用するようにすることもできる。つまり測定対象溶液に応じて、必要な半導体光源11、12、…を選択できる。もちろん、測定対象溶液の種類にかかわらず常に4個の半導体光源11、12、…を使用してもよい。
【0021】
本実施の形態に係る次亜塩素酸イオン濃度測定装置1は、後で説明するように測定対象溶液中に、1種類または複数種類の物質からなる特定の物質群が含まれていても、次亜塩素酸イオン濃度を精度良く検出できる。本実施の形態に係る次亜塩素酸イオン濃度測定装置1によって実施する、本実施の形態に係る次亜塩素酸イオン濃度測定方法について説明する前に、次の3点から先に説明する。
(1)次亜塩素酸の吸光度、キャベツ、ネギ等の所定の物質を含む水溶液の透過率
(2)測定対象溶液に特定の物質群を含まれていても次亜塩素酸イオン濃度を測定できる理由
(3)次亜塩素酸に反応して波長と透過率の関係が変化する水溶液についての考察
【0022】
<(1)次亜塩素酸の吸光度、キャベツ、ネギ等の所定の物質を含む水溶液の透過率>
<次亜塩素酸の吸光度>
次亜塩素酸における吸光度はpHにより、そして波長により
図2のグラフのように変化することが知られている。波長292nm近傍の紫外線、つまり波長280~320nmの範囲の紫外線を吸収しているのは次亜塩素酸イオン(ClO
-)であり、波長236nm近傍の紫外線を吸収しているのは非イオン状態の次亜塩素酸(HClO)である。溶液中における非イオン状態の次亜塩素酸と次亜塩素酸イオンの比率はpHにより変化するので、次亜塩素酸全体の濃度が一定でも、次亜塩素酸イオン濃度はpHによって変化して、このようなグラフになっている。このグラフからわかるように、第1の半導体光源11は、次亜塩素酸イオンによって吸光される。一方、第2~4の半導体光源12、13、…は次亜塩素酸イオンによってはほとんど吸光されない。したがって、次亜塩素酸イオン濃度の測定において、第1の半導体光源11の透過光強度が重要であることがわかる。
【0023】
本実施の形態に係る次亜塩素酸イオン濃度測定方法は、測定対象溶液に次亜塩素酸以外の他の物質が含まれていても、次亜塩素酸イオン濃度を測定できる。他の物質が含まれている水溶液の例として、キャベツの成分を含む水溶液、ネギの成分を含む水溶液、そしてホウレン草の成分を含む水溶液のそれぞれについて透過率を説明する。
【0024】
<キャベツの成分と次亜塩素酸とを含む水溶液の透過率>
カットしたキャベツを水に浸漬してキャベツの成分を溶出させた水溶液を用意し、この水溶液に89ppmの次亜塩素酸を同量加えて混合し、この混合溶液について波長と透過率の関係を調べた。
図3のグラフに示す。なおグラフ101、102は、それぞれ次亜塩素酸と混合1分後と120分後の透過率である。グラフ101、102からわかるように、キャベツの成分が溶出している混合溶液は、波長が短くなるにつれて透過率が低下している。つまり短い波長の光が吸光される。このグラフには参考として、第1~4の半導体光源11、12、…の波長が点線で示されている。キャベツに含まれている成分は、第2、3、4の半導体光源12、13、14の光だけでなく、第1の半導体光源11の光も吸光することがわかる。したがって、測定対象溶液にキャベツの成分を含む場合、第1の半導体光源11からの光の透過光強度を測定するだけでは、次亜塩素酸イオン濃度を測定できない。ところで、グラフ101、102を比較すると、キャベツの成分の透過率は、次亜塩素酸との反応時間によって若干変化している。しかしながらグラフ102は、グラフ101を縦方向に同じ比率で全体的に拡大したようになっている。後で考察するように、グラフ101、102は縦方向に拡大・縮小しているだけなので、キャベツの成分については次亜塩素酸によって波長と透過率の関係が変化しない物質である、と見なすことができる。
【0025】
<ネギの成分と次亜塩素酸とを含む水溶液の透過率>
カットしたネギを水に浸漬してネギの成分を溶出させた水溶液を用意し、この水溶液に89ppmの次亜塩素酸を同量加えて混合し、この混合溶液について波長と透過率の関係を調べた。
図4に示す。グラフ103、104は、それぞれ混合後1分後と120分後の透過率である。ネギの成分が溶出している混合溶液も、キャベツの成分が溶出している混合溶液と同様に、波長が短くなるにつれて透過率が低下している。また、グラフ103、104から、ネギの成分の透過率も、次亜塩素酸との反応時間によって若干変化していることがわかる。しかしながら、グラフ104はグラフ103を同じ比率によって縦方向に拡大したグラフになっている。したがって後で考察するようにネギの成分についても、次亜塩素酸との反応によって波長と透過率の関係が変化しない物質であるとみなすことができる。
【0026】
<ホウレン草の成分と次亜塩素酸とを含む水溶液の透過率>
カットしたホウレン草を水に浸漬してホウレン草の成分を溶出させた水溶液を用意し、この水溶液に89ppmの次亜塩素酸を同量加えて混合し、この混合溶液について波長と透過率の関係を調べた。グラフを
図5に示す。グラフ106、107、108は、それぞれ混合後1分後、5分後、そして120分後の透過率である。また、ホウレン草の成分を溶出させた水溶液のみについて、つまり次亜塩素酸を混合していない水溶液について、波長と透過率の関係を調べた。これをグラフ110に示す。ホウレン草の成分が溶出している混合溶液も、キャベツの成分が溶出している混合溶液と同様に、波長が短くなるにつれて透過率が低下している。つまり次亜塩素酸イオンが吸収する波長の範囲が、ホウレン草の成分によって吸収されることがわかる。ところで、ホウレン草の成分については、キャベツ、ネギとは大きく異なる特徴がある。すなわち、グラフ106、107、108の形状を比較すると、ホウレン草の成分の波長と透過率の関係は、次亜塩素酸との反応時間によって大きく変化していることがわかる。
【0027】
<(2)測定対象溶液に特定の物質群を含まれていても次亜塩素酸イオン濃度を測定できる理由>
本実施の形態に係る次亜塩素酸イオン濃度測定装置1は、測定対象溶液に次亜塩素酸以外の物質が含まれていても、2個以上の半導体光源11、12、…を使って次亜塩素酸イオン濃度を測定できる。この理由を説明する。
【0028】
<測定対象液に次亜塩素酸のみが含まれている場合>
まず、測定対象溶液に次亜塩素酸以外には、他の物質が何も含まれていない場合を考える。このような測定対象溶液では、第1の半導体光源11の光を吸光するのは、実質的に次亜塩素酸イオンのみと考えることができる。そうすると、第1の半導体光源11の光を入射して透過光の強度を第1の光強度検出手段16によって検出すると、その検出電圧は、1式のように次亜塩素酸イオン濃度の関数として与えられるはずである。
そうすると、第1の光強度検出手段16によって検出される検出電圧から次亜塩素酸イオン濃度hを計算することができるはずである。
【0029】
<測定対象液に他の物質からなる物質群X1が含まれている場合>
次に測定対象溶液に、他の物質群X1が含まれる場合について考える。本明細書において物質群X1とは、1種類または複数種類の物質からなり、これら物質同志が固定の比率になっているものを意味する。例えば、物質群X1としてキャベツの成分を考えることができる。キャベツの成分の水溶液には、それぞれ複数の化学物質つまり複数種類の物質が含まれている。例えば、タンパク質、炭水化物等の他に、カリウム、カルシウム等の無機質の物質が含まれている。これら物質同志の比率はキャベツにおいて概ね一定であるということができる。物質群X1の波長と透過率の関係は、物質群X1に含まれる物質個々のそれぞれの波長と透過率の関係の合成になるはずである。キャベツの成分を物質群X1とすると、その波長と透過率の関係は、
図3のグラフ101のようになる。この場合、物質群X1の濃度が大きくなっても、例えば
図3のグラフ101が縦方向に同じ比率で全体的に拡大するだけであり、濃度が小さくなっても縦方向に同じ比率で全体的に縮小するだけである。
【0030】
さて、このような物質群X1が含まれる測定対象溶液に対して、それぞれ第1、2の半導体光源11、12の光について透過させ、第1、2の光強度検出手段16、17によって検出電圧V
1、V
2を得るとする。この場合、次の2-1式、2-2式が成り立つはずである。
2-1式は、第1の光強度検出手段16による検出電圧が、次亜塩素酸イオン濃度hと、物質群X1の濃度X
1の関数で与えられることを意味している。第1の半導体光源11のピーク波長は282nmで、次亜塩素酸イオンと、物質群X1に含まれるいずれかの物質に吸光されるからである。一方、2-2式は、第2の光強度検出手段17による検出電圧が、物質群X1の濃度X
1の関数になり、次亜塩素酸イオン濃度hに関係していないことを意味している。第1の半導体光源11のピーク波長は380nmであり、次亜塩素酸イオンによって吸光されないからであり、物質群X1によってのみ吸光されるからである。
【0031】
2-1式、2-2式のように表せるはずであるので、物質群X1が含まれる測定対象溶液については、物質群X1の濃度X1が未知であっても次亜塩素酸イオン濃度hを得ることができる。なぜならば、式の個数は2個であり、未知数はX1とhの2個で、式の個数と未知数の個数が同数であるからである。つまり物質群X1が含まれていても、少なくとも2個の異なる波長の光についての透過光強度を検出電圧として得れば、次亜塩素酸イオン濃度hを得られるはずである。
【0032】
次に次亜塩素酸を含む測定対象溶液に、物質群X1だけでなく他の物質群X2も含まれる場合について考える。例えば、キャベツの成分と、ネギの成分は、
図3、
図4に示されているように、互いに波長と透過率の関係が異なっている。そうすると、これらは異なる物質群ということができる。測定対象溶液に異なる2個の物質群X1、X2が両方含まれている場合を考える。ただし、この測定対象溶液において、物質群X1と物質群X2のそれぞれの濃度X
1、X
2は不明であるとする。測定対象溶液に第1~3の半導体光源11、12、13の光について透過させ、第1~3の光強度検出手段16、17、18によって検出電圧V
1、V
2、V
3を得るとする。この場合、次の3-1式、3-2式、3-3式が成り立つはずである。
【0033】
そうすると物質群X1、物質群X2が含まれる測定対象溶液については、物質群X1、X2のそれぞれの濃度X1、X2が未知であっても次亜塩素酸イオン濃度hを得ることができるはずである。なぜならば、式の個数は3個であり、未知数はX1とX2とhの3個で、式の個数と未知数の個数が同数であるからである。そうすると、物質群X1、物質群X2が含まれていても、少なくとも3個の異なる波長の光についての透過光強度を検出電圧として得れば、次亜塩素酸イオン濃度hを得られるはずである。
【0034】
同様の考察をすると、n群の物質群X1、X2、…、Xnを含む測定対象溶液から次亜塩素酸イオン濃度hを得るには、互いに波長が異なり、そのうちの1個の波長が280~320nmの波長の一部を含んでいる、n+1個の半導体光源によって透過光強度が得られればよいはずである。より条件を緩やかにすれば、n+1個以上の半導体光源の透過光強度が得られればよいはずである。
【0035】
<(3)次亜塩素酸に反応して波長と透過率の関係が変化する水溶液についての考察>
物質群X1を構成している物質は、次亜塩素酸と反応して別の物質に変化するものもあれば、変化しないものもある。物質が一部でも変化する場合、原則として別の物質群X2とになったとして扱うべきである。
【0036】
<キャベツの成分の物質群について、次亜塩素酸による変化の有無の考察>
ここで、キャベツの成分からなる物質群X1を検討する。
図3のグラフ101、102は、キャベツの成分を含んだ水溶液と次亜塩素酸とを混合して、それぞれ混合1分後と120分後の透過率のグラフである。キャベツの成分を構成している個々の物質は次亜塩素酸と反応して変化するはずであるので、物質群X1は他の物質群X2に変化するはずである。つまりグラフ101は物質群X1を含む水溶液の、グラフ102は物質群X2を含む水溶液の、それぞれの波長と透過率の関係を示していることになる。ところで、前記したようにグラフ102は、概ねグラフ101を縦方向に一様に拡大したような形状になっている。すでに波長と透過率の関係の議論において説明したように、物質群X1の濃度が変化する場合、波長と透過率の関係のグラフは、縦方向に同じ比率で全体的に拡大・縮小するだけである。グラフ102はグラフ101を縦方向に同じ比率で全体的に拡大・縮小した形状になっているので、物質群X2は物質群X1と実質的に同等であると見なすことができる。つまり、キャベツの成分からなる物質群X1は、構成している物質が次亜塩素酸によって反応して変化したとしても、実質的に物質群X1として維持されるとみなせる。そうすると、測定対象溶液にキャベツの成分を含んでいる場合、少なくとも2個以上の半導体光源11、12、…を使用すれば、次亜塩素酸イオン濃度を得られるはずである。なお、同等の議論により、ネギの成分を含んでいる測定対象溶液についても、少なくとも2個以上の半導体光源11、12、…を使用すれば、次亜塩素酸イオン濃度を得られるはずである。
【0037】
<ホウレン草の成分の物質群について、次亜塩素酸による変化の有無の考察>
次にホウレン草の成分からなる物質群について考える。次亜塩素酸を含まず、ホウレン草の成分のみからなる水溶液の波長と透過率の関係は、
図5のグラフ110に示されている。そしてホウレン草の成分の水溶液と、次亜塩素酸とを混合して、それぞれ混合1分後、5分後、そして120分後の波長と透過率の関係が、グラフ106、107、108に示されている。これらのグラフの形状は互いに異なっている。つまり、波長と透過率の関係がそれぞれ異なっている。そうすると例えば、次亜塩素酸と反応していないホウレン草の成分は物質群X1と見なすことができ、次亜塩素酸と混合120分後のホウレン草の成分は物質群X2と見なすことができる。ところで、グラフ106と、グラフ107は、それぞれグラフ110とグラフ108とから所定の操作をして合成された形状になっている。具体的には、グラフ106やグラフ107は、グラフ110のすべての波長領域の透過率に対して所定の比率を乗じ、グラフ108のすべての波長領域の透過率に対して他の所定の比率を乗じ、これらを合計したような形状になっている。例えばグラフ106については、グラフ110に0.5を乗じ、グラフ108に0.5を乗じ、これらを合計したようなグラフになっており、グラフ107は、グラフ110に0.25を乗じ、グラフ108に0.75を乗じ、これらを合計したようなグラフになっている。そうすると、グラフ106、グラフ107は、それぞれ物質群X1と物質群X2とが、所定の比率で含まれる水溶液についての、波長と透過率の関係であると言える。つまり、測定対象溶液がホウレン草の成分を含んでいる場合、2つの物質群すなわち物質群X1と物質群X2を含んでいる、として扱えそうである。そうすると、測定対象溶液にほうれん草の成分を含んでいる場合、少なくとも3個以上の半導体光源11、12、…が必要であり、これらの透過光強度により次亜塩素酸イオン濃度を得られるはずである。
【0038】
<本実施の形態に係る次亜塩素酸イオン濃度測定方法>
本実施の形態に係る次亜塩素酸イオン濃度測定方法は、測定対象溶液において特定の物質群X1、X2、…が含まれていても、次亜塩素酸イオン濃度を測定できる方法になっている。この次亜塩素酸イオン濃度測定方法においては、
図1に示されている、透過光強度-濃度関係が必要になる。透過光強度-濃度関係は、測定対象溶液の第1、2、…の半導体光源11、12、…の光に対する透過光強度と、次亜塩素酸イオン濃度の関係であり、数式から構成してもよいし、多数のデータが格納されたデータベースから構成してもよい。いずれにしても、測定対象溶液に光を入射して得たそれぞれの光の透過光強度を、透過光強度-濃度関係に与えると、次亜塩素酸イオン濃度が得られるような関係とする。この透過光強度-濃度関係は、物質群が異なっていれば必然的に異なる関係として与えられる。例えば透過光強度-濃度関係を数式で構成する場合には、測定対象溶液にキャベツの成分からなる物質群X1が含まれる場合の数式と、ネギの成分からなる物質群X2が含まれる場合の数式とは異なっている。
【0039】
本実施の形態に係る次亜塩素酸イオン濃度測定方法は、予め実施する準備処理と、実行処理とから構成されている。準備処理は、透過光強度-濃度関係を得る処理であり、対象とする物質群X1、X2、…の個数だけ実施する必要がある。
【0040】
<準備処理>
準備処理は、エンジニアによって実施する処理と、コントローラ3によって実施する処理とからなる。最初に対象とする物質群X1を決める。例えば、キャベツの成分の物質群X1を対象とする。
図6に示されているように、エンジニアが複数の試験溶液の調製(ステップS1)を行う。複数の試験溶液は、それぞれ対象の物質群X1と次亜塩素酸とが色々な濃度で含まれるように調製する。試験溶液の個数は多ければ多いほどよく、個数が多いほど精度の高い透過光強度-濃度関係が得られる。
【0041】
次にエンジニアは、これら試験溶液のそれぞれについて順次、次亜塩素酸イオン濃度測定装置1の管路6に供給する。コントローラ3を操作して、内部に設けられているプログラムである透過光強度検出部を実行する。すなわち、順次第1、2、…の半導体光源11、12、…を発光させて、試験溶液に入射し、それらの透過光の強度を第1、2、…の光強度検出手段16、17、…によって得る(ステップS2)。これらは検出電圧として得られ、第1、2、…の透過光強度としてコントローラ3に入力される。同様の処理をすべての試験溶液について繰り返し実施する。
【0042】
次にこれら複数の試験溶液について次亜塩素酸イオン濃度を測定する(ステップS3)。使用する測定機器、測定方法は問わないが、それぞれの試験溶液について精度の高い次亜塩素酸イオン濃度を得ておく必要がある。なお、このステップS3は、ステップS2と並行して実施してもよいし、ステップS1において実施してもよい。なお、ステップS2によって試験溶液の第1、2、…の透過光強度を得るタイミングと、同じ試験溶液の次亜塩素酸イオン濃度を測定するタイミングとは、それらの時間差を可及的に短くすることが好ましい。時間差が大きいと、次亜塩素酸が物質群X1と反応して濃度が変化してしまうからである。
【0043】
最後にステップS4として、透過光強度-濃度関係を得る。すなわち、複数の試験溶液分についてステップS2によって得た第1、2、…の透過光強度とステップS3で測定した次亜塩素酸イオン濃度とから、第1、2、…の透過光強度と次亜塩素酸イオン濃度の関係である透過光強度-濃度関係を得る。この処理は、コントローラ3上で実施してもよいし、パーソナルコンピュータにおいて実施してもよい。パーソナルコンピュータにおいて実施する場合には、ステップS2によって得た第1、2、…の透過光強度をコントローラ3から読み出し、ステップS3で測定した次亜塩素酸イオン濃度とともにパーソナルコンピュータに入力して、透過光強度-濃度関係を得るようにする。
【0044】
透過光強度-濃度関係は、前記したように数式として与えることができる。数式の場合、回帰分析による回帰式としても良い。例えば、ステップS3で測定した次亜塩素酸イオン濃度を被説明変数とし、第1、2、…の透過光強度を説明変数として回帰分析して回帰式を得ることができる。あるいは、第1、2、…の透過光強度について加工したデータ、例えば2乗したデータ、3乗したデータ等を作成して、説明変数として追加してもよい。もちろん透過光強度-濃度関係は、回帰式以外の他の数式で与えても良い。あるいは、ステップS3で測定した次亜塩素酸イオン濃度を教師信号とし、第1、2、…の透過光強度を入力データとして、ニューラルネットワークに学習させ、学習済みのニューラルネットワークを透過光強度-濃度関係としてもよい。
【0045】
物質群X1に関する透過光強度-濃度関係を得たら、コントローラ3に設定する。準備処理を完了する。他の物質群X2、X3、…についても、必要があれば同様に準備処理を繰り返し実施して、それぞれの物質群X2、X3、…に関する透過光強度-濃度関係を得て、コントローラ3に設定する。
【0046】
<実行処理>
本実施の形態に係る次亜塩素酸イオン濃度測定方法では、予め測定対象溶液にどの物質群が含まれているか、判明していることが必要になる。つまり測定対象溶液に含まれる物質群が判明していることが、次亜塩素酸イオン濃度が得られる条件になっている。ただしその物質群の濃度については不明であってよい。実行処理を説明する。
【0047】
次亜塩素酸イオン濃度を測定しようとしている測定対象溶液について、これに含まれる物質群が物質群X1であることが判明しているとする。
図7に示されているように、ステップS11を実施する。すなわち、エンジニアは測定対象溶液を本実施の形態に係る次亜塩素酸イオン濃度測定装置1の管路6に供給する。コントローラ3のプログラムである透過光強度検出部を実行する。そうすると、第1、2、…の半導体光源11、12、…が順次発光して、それぞれの光を測定対象溶液に入射し、それらの透過光の強度が第1、2、…の光強度検出手段16、17、…によって、第1、2、…の透過光強度として得られる。
【0048】
コントローラ3においてステップS12が実行され、プログラムとして格納されている濃度演算部が実行される。濃度演出部は、コントローラ3に格納されている物質X1についての透過光強度-濃度関係に基づいて、ステップS11で得た第1、2、…の透過光強度から、次亜塩素酸イオン濃度を得る。透過光強度-濃度関係が回帰式等の数式であれば、ステップS11で得た第1、2、…の透過光強度を入力する。そうすると、次亜塩素酸イオン濃度が演算結果として得られる。透過光強度-濃度関係が学習済みのニューラルネットワークであれば、ステップS11で得た第1、2、…の透過光強度のそれぞれを入力データとして与える。そうすると次亜塩素酸イオン濃度が出力データとして得られる。透過光強度-濃度関係がデータベースとして与えられている場合には、ステップS11で得た第1、2、…の透過光強度に一致しているデータを検索して、次亜塩素酸イオン濃度を得る。あるいは一致するデータがなければ近いデータを探して線形補間等の手法により次亜塩素酸イオン濃度を得る。実行処理を完了する。
【0049】
<本実施の形態に係る次亜塩素酸イオン濃度測定装置を備えた、食品の殺菌装置>
本実施の形態に係る次亜塩素酸イオン濃度測定装置1は、色々な分野で利用することができる。その代表的な分野として食品の殺菌がある。
図8には、野菜、カット野菜、魚介類等の食品を殺菌する本実施の形態に係る食品の殺菌装置30が示されている。食品の殺菌装置30は、次亜塩素酸が含まれる殺菌水によって食品を殺菌するようになっており、次のように構成されている。すなわち、殺菌装置30は、殺菌水を貯める殺菌槽31と、食品を入れて殺菌槽31に浸漬するカゴ32と、殺菌槽31の殺菌水を循環させるポンプ34と、循環する殺菌水をろ過するろ過装置35と、循環する殺菌水に次亜塩素酸を供給する次亜塩素酸タンク38とそのポンプ39と、同様に循環する殺菌水に酸を供給する酸タンク41とそのポンプ42と、殺菌槽31の殺菌水の次亜塩素酸イオン濃度を測定する本実施の形態に係る次亜塩素酸イオン濃度測定装置1と、殺菌水のpHを測定するpH計44と、コントローラ45とから構成されている。
【0050】
本実施の形態に係る食品の殺菌装置30においては、コントローラ45が本実施の形態に係る次亜塩素酸イオン濃度測定装置1から、殺菌水の次亜塩素酸イオン濃度を得、そしてpH計44から殺菌水のpHを得、これらに基づいて次亜塩素酸と酸とを注入して、循環する殺菌水における次亜塩素酸濃度とpHとを所望の範囲に制御するようになっている。そして、このように循環・ろ過して再利用される殺菌水によって食品を殺菌するようになっている。
【0051】
ところで、このように制御するためには、2点の条件を満たす必要がある。第1の条件は、本実施の形態に係る次亜塩素酸イオン濃度測定装置1によって正しく次亜塩素酸イオン濃度を測定できることである。食品の殺菌装置30においては、殺菌の対象となる食品は1種類になるように運転されている。例えば、カットしたネギのみを殺菌する、あるいはカットしたキャベツのみを殺菌する、等である。殺菌の対象の食品が変わると、殺菌水は全て交換されるようにしている。したがって、循環する殺菌水に含まれる物質群X1は、予め判明している。つまり、本実施の形態に係る次亜塩素酸イオン濃度を得るための条件が成立している。そこで、本実施の形態に係る次亜塩素酸イオン濃度測定装置1において、殺菌する対象の食品に合わせて予め該当する透過光強度-濃度関係を選択しておく。そうすると、次亜塩素酸イオン濃度を測定できる。つまり第1の条件が満たされている。
【0052】
第2の条件は、次亜塩素酸濃度を得ることができることである。すなわち、測定される次亜塩素酸イオン濃度だけでなく、非イオン状態の次亜塩素酸の濃度を得る必要がある。ところで周知のように、次亜塩素酸イオンと非イオン状態の次亜塩素酸は、pHによってその割合が変化する化学平衡状態になっている。コントローラ45は、pH計44によって測定されるpHと、本実施の形態に係る次亜塩素酸イオン濃度測定装置1によって測定される次亜塩素酸イオン濃度とから、次亜塩素酸濃度を計算するようになっている。すなわち第2の条件も満たされている。
【0053】
本実施の形態に係る食品の殺菌装置30は、色々変形することができ、次亜塩素酸タンク38の代わりに電解装置を設けて、食塩水を電解して次亜塩素酸を得るようにしてもよい。酸タンク41にはクエン酸、炭酸、塩酸等が利用できる。
【0054】
本実施の形態に係る次亜塩素酸イオン濃度測定装置1によって、色々な物質群X1が含まれている測定対象溶液について、次亜塩素酸イオン濃度を精度良く測定できることを確認するため、複数の実験を行った。以下、それぞれの実験について説明する。
【実施例0055】
<カオリン>
測定対象溶液に砂等の濁質が含まれている場合でも次亜塩素酸イオン濃度が測定できることを確認するため、物質群X1としてカオリンを選定して実験を行った。カオリンは次亜塩素酸によって化学変化しないので、物質群X1は変化しない。この場合、2個の半導体光源11、12だけで次亜塩素酸イオン濃度が測定できるはずである。これを確認することにした。
実験内容:
微量な水酸化ナトリウムによりpH7.9~8.1に調製した水にカオリンを混ぜて次の6種類の濃度のカオリン水溶液K1、K2、…を調製した。なお、ppmは水とカオリンのそれぞれの重量比を示している。
K1:1000ppm、K2:200ppm、K3:150ppm、K4:100ppm、K5:50ppm、K6:0ppm
カオリン水溶液K1、K2、…をそれぞれ7個ずつビーカーに取り分け、次亜塩素酸を添加して次亜塩素酸濃度が次の7種類になるようにした。
0ppm、21ppm、40ppm、60ppm、80ppm、102ppm、121ppm
つまり、カオリンと次亜塩素酸の濃度が異なる試験溶液を42個用意した。なお、それぞれの次亜塩素酸濃度は、柴田科学株式会社製ハンディ水質計「アクアブAQ-202型」(以下、測定器S)を使用して測定した。この測定器Sは、残留塩素の濃度を測定するようになっているが、これらの試験溶液中に結合残留塩素は実質的にないので、遊離残留塩素が測定されることになる。さらに、試験溶液のpHは8近傍であるので、次亜塩素酸は約90%が次亜塩素酸イオンになっている。そこで、この測定器Sで測定した次亜塩素酸濃度は、ほぼ次亜塩素酸イオン濃度であるとみなすことにする。
42個の試験溶液について、本実施の形態に係る次亜塩素酸イオン濃度測定装置1を使って、第1、2の半導体光源11、12の光を入射し、それぞれの第1、2の透過光強度を得た。
得られた42個分の、第1、2の透過光強度と測定器Sで測定した次亜塩素酸イオン濃度とを回帰分析して、回帰式つまり透過光強度-濃度関係を得た。なお、第1の透過光強度をx、第2の透過光強度をyとするとき、xの2乗つまりx^2、yの2乗つまりy^2、xとyの積つまりx*y、yをxで除したものつまりy /x、yの3乗つまりy^3のデータも作成し、x、yと共にこれらも説明変数とし、そして次亜塩素酸イオン濃度を被説明変数として回帰式を作成した。
次に、カオリンの濃度も次亜塩素酸の濃度も異なる10個の測定対象溶液を調製した。本実施の形態に係る次亜塩素酸イオン濃度測定装置1を使って、これらについて、第1、2の半導体光源11、12の光を入射し、それぞれの第1、2の透過光強度を得た。得られた第1、2の透過光強度を、透過光強度-濃度関係つまり回帰式に入力して次亜塩素酸イオン濃度を得た。得られた次亜塩素酸イオン濃度と、前記した測定器Sによって測定した次亜塩素酸イオン濃度とを比較したところ、平均誤差は2.3ppmであった。
考察:測定対象溶液に物質群X1としてカオリンが含まれている場合には、物質群X1の濃度が不明であっても、次亜塩素酸イオン濃度を精度良く得られることが確認できた。また、必要な半導体光源11、12、…の個数は2個であることが確認できた。なお、2個以上の半導体光源11、12、…を使用すると、さらに高い精度で次亜塩素酸イオン濃度を得られるはずである。