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特開2024-16299モータ制御装置、モータ制御装置の制御方法およびモータ制御システム
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  • 特開-モータ制御装置、モータ制御装置の制御方法およびモータ制御システム 図1
  • 特開-モータ制御装置、モータ制御装置の制御方法およびモータ制御システム 図2
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  • 特開-モータ制御装置、モータ制御装置の制御方法およびモータ制御システム 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016299
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】モータ制御装置、モータ制御装置の制御方法およびモータ制御システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/22 20060101AFI20240131BHJP
【FI】
H02P25/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020204857
(22)【出願日】2020-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002457
【氏名又は名称】弁理士法人広和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】藤田 治彦
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB04
5H505BB09
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505FF05
5H505GG01
5H505GG04
5H505HA09
5H505HA10
5H505HB01
5H505HB05
5H505JJ03
5H505JJ25
5H505KK05
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL41
5H505LL54
5H505MM13
(57)【要約】
【課題】2系統のコイルによって発生するトルクのばらつきを抑制することができるモータ制御装置、モータ制御装置の制御方法およびモータ制御システムを提供する。
【解決手段】モータ制御装置7は、ブレーキモータ2を制御する。モータ制御装置7は、第1モータ駆動部8と、第1コントロール部9と、第2モータ駆動部10と、第2コントロール部11とを備えている。第1モータ駆動部8は、ブレーキモータ2の第1巻線組5を駆動する。第2モータ駆動部10は、ブレーキモータ2の第2巻線組6を駆動する。第1コントロール部9は、予め設定された条件が成立するとき、所定のトルク指令id1,iq1を第1モータ駆動部8へ出力する。第2コントロール部11は、予め設定された条件が成立するとき、トルク指令に対し逆方向のトルクを発生させるための逆トルク指令id2,iq2を第2モータ駆動部10へ出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの第1系統コイルを駆動する第1モータ駆動部と、
予め設定された条件が成立するとき、所定のトルク指令を前記第1モータ駆動部へ出力する第1コントロール部と、
前記モータの第2系統コイルを駆動する第2モータ駆動部と、
前記予め設定された条件が成立するとき、前記トルク指令に対し逆方向のトルクを発生させるための逆トルク指令を前記第2モータ駆動部へ出力する第2コントロール部と、
を備えるモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御装置であって、
前記トルク指令によって前記第1系統コイルに流れる電流の検出値である第1電流値と、前記逆トルク指令によって前記第2系統コイルに流れる電流の検出値である第2電流値と、の差に基づいて、前記第1コントロール部が前記第1モータ駆動部の制御電流を補正、または、前記第2コントロール部が前記第2モータ駆動部の制御電流を補正する、
モータ制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のモータ制御装置であって、
前記第2コントロール部は、
前記モータの回転位置が予め設定された回転位置に保持されるように、前記逆トルク指令を求める、
モータ制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のモータ制御装置であって、
前記トルク指令の絶対値と前記逆トルク指令の絶対値が等しくなるように、前記第1コントロール部は、前記トルク指令によって前記第1系統コイルに流れる電流を制御し、前記第2コントロール部は、前記逆トルク指令によって前記第2系統コイルに流れる電流を制御する、
モータ制御装置。
【請求項5】
請求項3に記載のモータ制御装置であって、
前記第1コントロール部は、前記トルク指令によって前記第1系統コイルへ通電する電流を段階的に増加させる電流指令制御を実行し、
前記第2コントロール部は、前記逆トルク指令によって前記モータの回転位置が予め設定された回転位置に待機するように位置フィードバック指令制御を実行する、
モータ制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載のモータ制御装置であって、
前記第1コントロール部は、
前記トルク指令によって前記第1系統コイルへ通電する電流を段階的に増加させた後に、段階的に減少させる電流指令制御を実行し、
前記段階的に増加させたときに検出した電流値と、前記段階的に減少させたときに検出した電流値と、の平均値から取得した、前記第1電流値及び前記第2電流値との前記差に基づいて前記制御電流を補正する、
モータ制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載のモータ制御装置であって、
前記モータは、車両に制動力を与える電動ブレーキ機構を制御するブレーキモータである、
モータ制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載のモータ制御装置であって、
前記予め設定された条件は、
車両の非制動時、または、前記車両の停車時である、
モータ制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載のモータ制御装置であって、
前記予め設定された条件は、
前記車両の停車時において、制動力を保持するパーキングブレーキ機構がロック状態である、
モータ制御装置。
【請求項10】
請求項1に記載のモータ制御装置であって、
前記予め設定された条件は、
出荷前検査、または、車両点検時である、
モータ制御装置。
【請求項11】
請求項2に記載のモータ制御装置であって、
前記第1コントロール部による前記第1モータ駆動部の制御電流を補正、または、前記第2コントロール部による前記第2モータ駆動部の制御電流を補正は、
前記モータのモータ電気角の角度違いで複数回実行する、
モータ制御装置。
【請求項12】
モータの第1系統コイルを駆動する第1モータ駆動部と、前記第1モータ駆動部と接続する第1コントロール部と、前記モータの第2系統コイルを駆動する第2モータ駆動部と、前記第2モータ駆動部と接続する第2コントロール部と、を備えるモータ制御装置の制御方法であって、
前記第1コントロール部は、予め設定された条件が成立するとき、所定のトルク指令を前記第1モータ駆動部へ出力し、
前記第2コントロール部は、前記予め設定された条件が成立するとき、前記トルク指令に対し逆方向のトルクを発生させるための逆トルク指令を前記第2モータ駆動部へ出力する、
モータ制御装置の制御方法。
【請求項13】
モータと、
前記モータを制御するモータコントローラであって、
前記モータの第1系統コイルを駆動する第1モータ駆動部と、
予め設定された条件が成立するとき、所定のトルク指令を前記第1モータ駆動部へ出力する第1コントロール部と、
前記モータの第2系統コイルを駆動する第2モータ駆動部と、
前記予め設定された条件が成立するとき、前記トルク指令に対し逆方向のトルクを発生させるための逆トルク指令を前記第2モータ駆動部へ出力する第2コントロール部と、
を有するモータコントローラと、
を備えるモータ制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ制御装置、モータ制御装置の制御方法およびモータ制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、互いに独立した第1巻線および第2巻線を有する冗長モータを駆動する技術において、第1巻線に接続される第1インバータ回路と、第2巻線に接続され、第1インバータ回路とは独立して設けられる第2インバータ回路と、第1インバータ回路と第1巻線との間に設けられる第1相リレーと、を備えた構成が開示されている。この構成によれば、第1インバータ回路を構成する複数のアームのうちの、いずれかのアームが故障した場合に、第1相リレーが当該故障したアームと第1巻線との間の通電を遮断するとともに、第1インバータ回路を構成するその他のアームと、第2インバータ回路との動作により冗長モータを駆動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-93056号公報(特許第6630539号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、2系統のインバータ回路を制御して、2系統のコイルを有する冗長モータを制御する場合に、インバータ回路の故障時の制御に関する記載はあるものの、2系統のコイルによって発生するトルクのばらつきの抑制に関する点については何ら考慮されていない。
【0005】
本発明の一実施形態の目的は、2系統のコイルによって発生するトルクのばらつきを抑制することができるモータ制御装置、モータ制御装置の制御方法およびモータ制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、モータの第1系統コイルを駆動する第1モータ駆動部と、予め設定された条件が成立するとき、所定のトルク指令を前記第1モータ駆動部へ出力する第1コントロール部と、前記モータの第2系統コイルを駆動する第2モータ駆動部と、前記予め設定された条件が成立するとき、前記トルク指令に対し逆方向のトルクを発生させるための逆トルク指令を前記第2モータ駆動部へ出力する第2コントロール部と、を備えるモータ制御装置である。
【0007】
また、本発明の一実施形態は、モータの第1系統コイルを駆動する第1モータ駆動部と、前記第1モータ駆動部と接続する第1コントロール部と、前記モータの第2系統コイルを駆動する第2モータ駆動部と、前記第2モータ駆動部と接続する第2コントロール部と、を備えるモータ制御装置の制御方法であって、前記第1コントロール部は、予め設定された条件が成立するとき、所定のトルク指令を前記第1モータ駆動部へ出力し、前記第2コントロール部は、前記予め設定された条件が成立するとき、前記トルク指令に対し逆方向のトルクを発生させるための逆トルク指令を前記第2モータ駆動部へ出力する。
【0008】
さらに、本発明の一実施形態は、モータと、前記モータを制御するモータコントローラであって、前記モータの第1系統コイルを駆動する第1モータ駆動部と、予め設定された条件が成立するとき、所定のトルク指令を前記第1モータ駆動部へ出力する第1コントロール部と、前記モータの第2系統コイルを駆動する第2モータ駆動部と、前記予め設定された条件が成立するとき、前記トルク指令に対し逆方向のトルクを発生させるための逆トルク指令を前記第2モータ駆動部へ出力する第2コントロール部と、を有するモータコントローラと、を備えるモータ制御システムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、2系統のコイルによって発生するトルクのばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態によるモータ制御システムおよびモータ制御装置を示すブロック図。
図2】通常時にモータにトルクを発生させる制御処理を示すブロック図。
図3】トルク指令による正トルクと逆トルク指令による逆トルクをモータに発生させる制御処理を示すブロック図。
図4】トルク指令による正トルクと逆トルク指令による逆トルクをモータに発生させる処理を示す流れ図。
図5】トルク指令による第1系統モータ電流と逆トルク指令による第2系統モータ電流とモータ角度の時間変化の一例を示す特性線図。
図6】モータ電気角と相電流(U相、V相、W相)との関係の一例を示す特性線図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態によるモータ制御装置およびモータ制御システムを、4輪自動車に搭載した場合を例に挙げ、添付図面に従って説明する。なお、図4に示す流れ図の各ステップは、それぞれ「S」という表記を用いる(例えば、ステップ1=「S1」とする)。
【0012】
図1において、車両(自動車)に搭載されるモータ制御システム1は、モータとしてのブレーキモータ2と、モータコントローラとしてのモータ制御装置7とを備えている。また、モータ制御システム1は、車両のコントローラ(車両コントローラ)としての上位の制御装置33を備えることもできる。実施形態では、上位の制御装置33は、車両の運動制御を決定する統合コントローラに対応する。以下、上位の制御装置33は、統合制御装置33という。
【0013】
モータとしてのブレーキモータ2は、車両に制動力を与える電動ブレーキ機構(図示せず)を制御(駆動)する。電動ブレーキ機構は、例えば、電動モータによりブレーキパッドをディスクロータに押付ける電動キャリパを備えた電動式ディスクブレーキに対応する。ブレーキモータ2は、固定子となるステータ3と、ステータ3の中央部に回転可能に設けられた永久磁石回転子となるロータ4とを含んで構成されている。ブレーキモータ2のロータ4は、例えば、図示しない回転直動変換機構の回転軸に接続されている。ブレーキモータ2(ロータ4)の回転は、回転直動変換機構により直線運動に変換され、電動ブレーキ機構のブレーキパッドをディスクロータに対して近接、離間する。
【0014】
ブレーキモータ2は、冗長性を確保するために、2つの巻線組5,6を備えている。即ち、ブレーキモータ2は、スター結線される3相巻線U1,V1,W1からなる第1巻線組5と、同じくスター結線される3相巻線U2,V2,W2からなる第2巻線組6とを有する3相同期電動機、換言すれば、3相2重巻線とした6相モータ(1つのロータ4に対して2系統の3相コイルでトルクを発生する6相モータ)として構成されている。第1巻線組5および第2巻線組6は、ステータ3に互いに絶縁された状態で設けられている。
【0015】
なお、電動ブレーキ機構(電動ブレーキ)は、電動式ディスクブレーキ(電動キャリパ)に限定されず、例えば、電動モータによりシューをドラムに押付けて制動力を付与する電動シリンダを備えた電動式ドラムブレーキを用いてもよい。また、電動ブレーキ機構(電動ブレーキ)は、電動モータを備えた液圧式のディスクブレーキ(電動パーキングブレーキ機能付の液圧式のディスクブレーキ)、電動モータでケーブルを引っ張ることによりパーキングブレーキをアプライ作動させるケーブルプラー式電動パーキングブレーキを用いてもよい。即ち、電動ブレーキ(電動ブレーキ機構)は、電動モータ(電動アクチュエータ)の駆動に基づいて摩擦部材(パッド、シュー)を回転部材(ロータ、ドラム)に押圧(推進)し、制動力の付与、解除(押圧力の保持、解除)を行うことができる構成であれば、各種の電動ブレーキ(電動ブレーキ機構)を用いることができる。また、電動ブレーキ機構(電動ブレーキ)は、例えば、ブレーキフルードの圧力を制御し、車両の4輪にそれぞれ配置されるシリンダ装置(例えば、ブレーキキャリパおよびピストン)を加圧して制動する電動倍力装置または液圧供給装置であってもよい。
【0016】
モータコントローラとしてのモータ制御装置7は、ブレーキモータ2を制御する。より具体的には、モータ制御装置7は、ブレーキモータ2の第1巻線組5の各巻線U1,V1,W1、および、第2巻線組6の各巻線U2,V2,W2を駆動制御する。このために、モータ制御装置7は、第1巻線組5(U1,V1,W1)を駆動制御する第1駆動制御系(第1モータ駆動部8、第1コントロール部9)と、第2巻線組6(U2,V2,W2)を駆動制御する第2駆動制御系(第2モータ駆動部10、第2コントロール部11)とを備えている。
【0017】
即ち、モータ制御装置7は、第1モータ駆動部8と、第1コントロール部9と、第2モータ駆動部10と、第2コントロール部11とを備えている。また、モータ制御装置7は、第1通信インターフェイス12と、第2通信インターフェイス13と、インターフェイス(I/F)14とを備えている。
【0018】
第1モータ駆動部8は、ブレーキモータ2を駆動する。第1モータ駆動部8は、例えば、インバータ回路により構成されている。第1モータ駆動部8は、第1直流電力線17を介して蓄電装置(バッテリ)等の車両の第1電源29と接続されている。これと共に、第1モータ駆動部8は、U1相動力線18、V1相動力線19、W1相動力線20を介してブレーキモータ2の第1巻線組5の各巻線U1,V1,W1と接続されている。また、第1モータ駆動部8は、信号線25,26を介して第1コントロール部9と接続されている。
【0019】
第1モータ駆動部8(インバータ回路)は、例えばトランジスタ、電界効果トランジスタ(FET)、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等からなる複数のスイッチング素子を含んで構成されている。第1モータ駆動部8(インバータ回路)の各スイッチング素子は、その開・閉が第1コントロール部9からの指令信号(例えば、パルス信号)に基づいて制御される。第1モータ駆動部8(インバータ回路)は、ブレーキモータ2の駆動時に、第1コントロール部9からの指令信号に基づいて直流電力から3相(U相、V相、W相)の交流電力を生成し、その交流電力をブレーキモータ2の第1巻線組5(各巻線U1,V1,W1)に供給する。
【0020】
第1コントロール部9は、第1モータ駆動部8と接続している。第1コントロール部9は、ECU(Electronic Control Unit)とも呼ばれ、演算回路(CPU)となるマイクロコンピュータを含んで構成されている。第1コントロール部9は、第1モータECU(M_ECU_1)に対応し、例えば、電力回路(Power Management IC)と、マイクロコンピュータと、ドライバ回路(Pre Driver)とを備えている。第1コントロール部9は、第1直流電力線17を介して車両の第1電源29と接続されると共に、信号線25,26を介して第1モータ駆動部8と接続されている。第1コントロール部9は、第1モータ駆動部8(インバータ回路)を制御(スイッチング制御)することにより、ブレーキモータ2を駆動(正回転、逆回転)する。
【0021】
第1コントロール部9は、ブレーキモータ2のロータ4の回転をフィードバック制御するための回転センサ15と接続されている。回転センサ15は、例えば、ブレーキモータ2のロータ4の回転角を検出する。第1コントロール部9は、第1通信インターフェイス12を介して通信線となる車両データバス31と接続されている。車両データバス31は、例えば、車体に搭載された通信ネットワークとしてのCAN(Controller Area Network)を構成している。車両に搭載された多数の電子機器、例えば、統合制御装置33、サスペンション制御装置(図示せず)、ステアリング制御装置(図示せず)等の各種のECUは、車両データバス31により、それぞれの間で車両内の多重通信を行う。
【0022】
第2モータ駆動部10も、第1モータ駆動部8と同様に、ブレーキモータ2を駆動する。第2モータ駆動部10も、第1モータ駆動部8と同様に、例えば、インバータ回路により構成されている。第2モータ駆動部10は、第2直流電力線21を介して蓄電装置(バッテリ)等の車両の第2電源30と接続されている。これと共に、第2モータ駆動部10は、U2相動力線22、V2相動力線23、W2相動力線24を介してブレーキモータ2の第2巻線組6の各巻線U2,V2,W2と接続されている。第2電源30は、第1モータ駆動部8および第1コントロール部9に接続される第1電源29とは別の電源(別系統の電源)である。このように電源の供給経路を2重系統とすることにより、冗長性を確保している。
【0023】
また、第2モータ駆動部10は、信号線27,28を介して第2コントロール部11と接続している。第2モータ駆動部10(インバータ回路)も、例えばトランジスタ、電界効果トランジスタ(FET)、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等からなる複数のスイッチング素子を含んで構成されている。第2モータ駆動部10(インバータ回路)の各スイッチング素子は、その開・閉が第2コントロール部11からの指令信号(例えば、パルス信号)に基づいて制御される。第2モータ駆動部10(インバータ回路)は、ブレーキモータ2の駆動時に、第2コントロール部11からの指令信号に基づいて直流電力から3相(U相、V相、W相)の交流電力を生成し、その交流電力をブレーキモータ2の第2巻線組6(各巻線U2,V2,W2)に供給する。
【0024】
第2コントロール部11は、第2モータ駆動部10と接続している。第2コントロール部11も、ECU(Electronic Control Unit)と呼ばれ、演算回路(CPU)となるマイクロコンピュータを含んで構成されている。第2コントロール部11は、第2モータECU(M_ECU_2)に対応し、例えば、電力回路(Power Management IC)と、マイクロコンピュータと、ドライバ回路(Pre Driver)とを備えている。第2コントロール部11は、第2直流電力線21を介して車両の第2電源30と接続されると共に、信号線27,28を介して第2モータ駆動部10と接続されている。第2コントロール部11は、第2モータ駆動部10(インバータ回路)を制御(スイッチング制御)することにより、ブレーキモータ2を駆動(正転、逆転)する。
【0025】
第2コントロール部11は、ブレーキモータ2のロータ4の回転をフィードバック制御するための回転センサ16と接続されている。回転センサ16は、例えば、ブレーキモータ2のロータ4の回転角を検出する。回転センサ16も、第1モータ駆動部8に接続される回転センサ15とは別の回転センサである。これにより、冗長性を確保している。第2コントロール部11は、第2通信インターフェイス13を介して車両データバス31と接続されている。また、第2コントロール部11は、インターフェイス14を介して、速度センサ32と接続されている。速度センサ32は、例えば、車両の速度を検出するセンサである。
【0026】
統合制御装置33は、第1コントロール部9と第2コントロール部11とに接続されている。即ち、統合制御装置33は、例えば、CANと呼ばれる車両データバス31を介して第1コントロール部9と第2コントロール部11とに接続されている。統合制御装置33は、例えば、自動運転制御装置(自動運転ECU)から得られた目標軌跡に対して車両を動かすための車両運動制御を決める統合的な制御装置(統合ECU)である。統合制御装置33は、各アクチュエータ制御装置(アクチュエータECU)、例えば、モータ駆動装置(モータ駆動ECU)、ブレーキ制御装置(ブレーキECU)、ステアリング制御装置(ステアリングECU)、サスペンション制御装置(サスペンションECU)等に必要な制御指令(例えば、自動運転に関する制御指令)を出力する。
【0027】
実施形態では、モータ制御装置7は、例えば、ブレーキモータ2を駆動するモータ駆動装置(モータ駆動ECU)とブレーキに関する統合的な制御を行うブレーキ制御装置(ブレーキECU)との両方を兼ねている。即ち、モータ制御装置7(ブレーキモータ制御ECU)は、モータ駆動機能とブレーキ制御機能との両方を有する制御装置として一体に構成されている。しかし、これに限らず、例えば、モータ駆動装置(モータ駆動ECU)とブレーキ制御装置(ブレーキECU)とをそれぞれ別々(別体)に構成してもよい。
【0028】
統合制御装置33は、セントラル制御装置(セントラルECU)とも呼ばれ、モータ制御装置7の上位の制御装置に対応する。統合制御装置33も、演算回路(CPU)となるマイクロコンピュータを含んで構成されている。この場合、統合制御装置33は、例えば、同じ処理を並列に行うと共に互いに処理結果に相違がないかを監視できるようにデュアルコア(二重回路)により構成されている。即ち、統合制御装置33は、2つのコントロール部33A,33B(第1セントラルECU(C_ECU_1)、第2セントラルECU(C_ECU_2))により構成されている。
【0029】
第1コントロール部9および第2コントロール部11は、それぞれ統合制御装置33と接続されている。また、第2コントロール部11は、通信線34(CPU間通信線)を介して、第1コントロール部9に接続されている。第2コントロール部11は、第1モータ駆動部8の状態を監視する。より具体的には、第2コントロール部11は、第1モータ駆動部8における相電流の状態を監視する。
【0030】
このために、第1モータ駆動部8のU1相動力線18、V1相動力線19、W1相動力線20には、相電流モニタ回路35が接続されている。相電流モニタ回路35は、第2コントロール部11に接続されており、第2コントロール部11は、相電流モニタ回路35により、第1モータ駆動部8の相電流を監視する。第2コントロール部11は、相電流モニタ回路35でのモニタ値が正常範囲外となり、制御指令通りに制御できていない場合等に、第1コントロール部9が異常と判断する。
【0031】
ところで、前述の特許文献1には、2系統のインバータ回路を制御することにより2系統のコイルと1つのロータとを有するモータを駆動する技術が記載されている。しかし、特許文献1には、インバータ回路の故障発生時にモータの合計出力の減少を抑えるための制御技術についての記載があるものの、正常時に2系統のコイルによって発生するトルクのばらつきを抑制するための技術に関する記載はない。
【0032】
ここで、1系統のコイル、インバータ、電流センサだけでなく別系統のコイル、インバータ、電流センサも備えた構成(以下、2系統以上の構成ともいう)の場合、それぞれの系統は、製造上のばらつきによって特性が同一にはなりにくい。このため、例えば、モータ制御アルゴリズムを実行するCPUが同一の電流値を検出したとしても、その際にそれぞれの系統がロータに対して発生するトルクは同一にはならず、差が生じる可能性がある。この差は、1系統のインバータ、センサ、コイルでロータを駆動する構成(以下、1系統の構成ともいう)には存在しない。このため、2系統以上の構成の場合、1系統の構成と比較して、トルクリプルやトルク制御誤差が増大し、応答性や音振性能の劣化が懸念される。
【0033】
そこで、実施形態では、両系統のコイル(第1巻線組5、第2巻線組6)に対し、ロータ4を回転させずに逆方向のトルクを発生するように、それぞれのインバータ(第1モータ駆動部8、第2モータ駆動部10)を制御して通電する。そして、そのときの両系統の電流センサ41,42(図2,3)の電流検出値を比較し、その差を、認識トルク誤差として、電流値の補正を行う。換言すれば、正トルクと逆トルクとに基づいたトルクのつり合いから、2系統のコイル(第1巻線組5、第2巻線組6)によって発生するトルクのばらつきを補正する。
【0034】
これにより、実施形態では、それぞれの系統で発生するトルクの差を抑制することが可能となり、トルク制御のリプル誤差(トルク脈動)を低減できる。この結果、応答性が改善し、ブレーキモータ2、延いては、アクチュエータとなる電動ブレーキ機構の制御性能と音振性能を向上できる。また、1系統の構成で許容されている素子のばらつきで、この1系統の構成と同等の性能(応答性能、制御性能、音振性能)を2系統以上の構成で実現できる。このため、高価な素子の必要性が低下し、コストを低減できる。
【0035】
以下、これらの点について、図1に加え、図2ないし図6も参照しつつ説明する。なお、図2および図3では、図面が複雑になることを避けるために、2つのコントロール部9,11を仮想的に1つコントロール部として表しているが、実施形態では、図1に示すように、2つのコントロール部9,11を備えている。以下の説明では、電流値の補正の処理を、第1コントロール部9と第2コントロール部11とで行う場合を例に挙げて説明する。しかし、これに限らず、第1コントロール部9で行う処理を第2コントロール部11で行い、第2コントロール部11で行う処理を第1コントロール部9で行ってもよい。また、第1コントロール部9で行う処理と第2コントロール部11で行う処理との両方の処理を、第1コントロール部9と第2コントロール部11とのうちのいずれか一方のコントロール部9(11)で行ってもよい。
【0036】
実施形態では、ブレーキモータ2は、1つのロータ4に対し、2系統のコイル(第1巻線組5、第2巻線組6)を備えている。ブレーキモータ2は、2系統のコイル(第1巻線組5、第2巻線組6)に通電することによってトルクを発生させるモータ制御が行われる。2系統のコイル(第1巻線組5、第2巻線組6)は、それぞれ別系統のインバータ(第1モータ駆動部8、第2モータ駆動部10)に接続され、かつ、別系統の電流センサ41,42によって電流を検出し、モータ制御を行う。
【0037】
実施形態では、上述したように、故障に対し、モータ制御を極力継続できるように、電源29,30は、冗長な構成になっている。即ち、それぞれがインバータにより構成される第1,第2モータ駆動部8,10は、それぞれ別々の電源29,30に接続されている。なお、図示は省略するが、例えば、いずれか一方の電源29,30が故障したときに、故障した側の電源29(30)との電気的接続を遮断できるような電源回路を設け、この電源回路に、両方のモータ駆動部8,10を接続する構成としてもよい。
【0038】
また、ブレーキモータ2を制御するシステムを構成する場合、制御手段となるCPU(マイクロコンピュータ)を1つとすることも可能である。しかし、CPUの故障時に制御を継続するためには、CPUが冗長に存在していることが望ましく、その場合、お互いのCPUの演算結果を、CPU間通信等を用いて共有できる構成となっていることが望ましい。このため、実施形態では、2つのCPU(マイクロコンピュータ)を有する構成、即ち、第1コントロール部9と第2コントロール部11との2つのコントロール部9,11を有する構成とすると共に、第1コントロール部9と第2コントロール部11とを通信線34(CPU間通信線)で接続している。
【0039】
図2に示すように、2つのCPUを含んで構成されるコントロール部9,11は、インバータとなる第1モータ駆動部8および第2モータ駆動部10を制御することによって、それぞれ独立した3相のコイルである第1巻線組5および第2巻線組6に通電する。この結果、第1巻線組5および第2巻線組6に流れた電流を電流センサ41,42で検出すると共に、ブレーキモータ2のモータ角度を角度センサ(モータ角度センサ)となる回転センサ15,16によって検出することで、所望のモータトルクを発生するためのフィードバックループを構築している。
【0040】
図2では、第1電流センサ41は、第1巻線組5の電流を検出し、第2電流センサ42は、第2巻線組6の電流を検出する。電流センサ41,42は、それぞれが3相コイルである第1巻線組5および第2巻線組6に流れる電流を直接検出するように、それぞれの系統に3個ずつ配置することができる。また、電流センサの配置場所と電流の検出タイミングを既知の技術により適切に設定することで、電流センサを2つ、または、1つとしてもよい。即ち、3相の電流を直接検出または推定できればよい。
【0041】
図2は、通常時にブレーキモータ2にトルクを発生させるためにコントロール部9,11内で実行される制御処理を示している。コントロール部9,11は、位置制御器43と、電流指令器44と、電流制御器45(第1電流制御器45A、第2電流制御器45B)とを備えている。位置制御器43は、上位の制御から指示されたモータ角度指令Cと、回転センサ15,16から検出されたモータ角度との偏差に基づいて、トルク指令Tを算出する。位置制御器43は、算出したトルク指令Tを電流指令器44に出力する。
【0042】
実施形態では、第1巻線組5と第2巻線組6とのそれぞれで、ブレーキモータ2で出力すべき所望のトルクの半分を出力すればよい。このため、電流指令器44では、トルク指令Tを半分(1/2)とし、モータのトルク定数値Kを用いて、電流指令id1,iq1,id2,iq2を算出(分配)する。電流指令器44は、算出(分配)した電流指令id1,iq1,id2,iq2を電流制御器45(第1電流制御器45A、第2電流制御器45B)に出力する。
【0043】
電流制御器45(第1電流制御器45A、第2電流制御器45B)は、第1系統の第1巻線組5と第2系統の第2巻線組6とのそれぞれに通電する電流を制御する。電流制御器45(第1電流制御器45A、第2電流制御器45B)では、電流センサ41,42によって検出または推定された3相電流と、回転センサ15,16によって検出されたモータ角度(電気角位相)とに基づいて、3相電圧値を決定し、第1モータ駆動部8および第2モータ駆動部10を制御する。
【0044】
即ち、電流制御器45の第1系統側(例えば、第1コントロール部9側)となる第1電流制御器45Aでは、電流センサ41によって検出または推定された3相電流iU1,iV1,iW1(またはid1,iq1)と回転センサ15によって検出されたモータ角度(電気角位相)とに基づいて、3相電圧値vU1,vV1,vW1を決定し、第1モータ駆動部8を制御する。電流制御器45の第2系統側(例えば、第2コントロール部11側)となる第2電流制御器45Bでは、電流センサ42によって検出または推定された3相電流iU2,iV2,iW2(またはid2,iq2)と回転センサ16によって検出されたモータ角度(電気角位相)とに基づいて、3相電圧値vU2,vV2,vW2を決定し、第2モータ駆動部10を制御する。
【0045】
実施形態では、上位制御からのモータ角度指令Cに基づいて算出されたトルク指令Tを半分とし、それぞれの系統で実現すべきモータトルクを算出するが、上位制御からの指令は、例えば、速度指令またはモータトルク指令であってもよい。また、電流指令器44に入力するためのモータトルク指令の配分も、例えば、温度等によって可変としてもよい。また、例えば、片系統が故障した場合は、正常側を50%に固定したまま、故障した側の配分を0とすればよく、この場合も、必要に応じて一時的に正常側の配分を50%以上としてもよい。
【0046】
電流を制御するための処理は、一般に高速で実行する必要がある。このため、コントロール部9,11がそれぞれのモータ駆動部8,10に対して独立して存在する場合は、電流を制御するための処理をそれぞれのコントロール部9,11に実装することが好ましい。即ち、第1系統側の電流制御の処理を第1コントロール部9に実装し、第2系統側の電流制御の処理を第2コントロール部11に実装することが好ましい。
【0047】
また、例えば、モータ角度指令に基づいてそれぞれの系統で実現すべき電流指令またはモータトルク指令を算出する処理は、一方のCPU(第1コントロール部9または第2コントロール部11)のみで実行し、指令の算出結果を、CPU間通信(通信線34)を用いて他方のCPU(第2コントロール部11または第1コントロール部9)に伝送してもよい。
【0048】
また、それぞれのCPU(コントロール部9,11)で独立して同一の計算を実行し、それぞれの系統で実現すべきトルク指令のみをそれぞれのCPU(コントロール部9,11)で使用してもよい。また、それぞれのCPU(コントロール部9,11)で独立して計算した結果を、CPU間通信(通信線34)を用いて伝送し、それぞれのCPU(コントロール部9,11)で比較して選択してもよい。
【0049】
次に、コントロール部9,11で行われる電流値の補正処理、即ち、ブレーキモータ2のトルクのばらつきを抑制するために行う電流値の補正処理について、図4を参照しつつ説明する。図4の制御処理は、例えば、所定の制御周期(例えば、10ms)で繰り返し実行される。
【0050】
図4の制御処理が開始されると、S1では、電流値の補正処理を実行してもよいか否かを判定する。即ち、S1では、電流値の補正処理を行う条件が成立しているか否かを判定する。電流値の補正処理は、両系統のコイル(第1巻線組5、第2巻線組6)に互いに逆方向のトルクを発生させる。このとき、ブレーキモータ2としては、トルクを出力しない。このため、電流値の補正処理は、ブレーキモータ2のトルクを発生しないことが許容される状況で実行する必要がある。
【0051】
このため、車両の制動に用いられるブレーキモータ2で電流値の補正処理を行う場合は、非制動時であること、または、制動の必要性を検出した場合に即座に通常の制御に復帰する必要があることを考えると、車両が停止していること(停車中であること)が望ましい。例えば、ブレーキモータ2が電動倍力装置の駆動源である場合、または、ブレーキモータ2が液圧供給装置(ESC)の駆動源である場合を考える。即ち、ブレーキモータ2の駆動に基づいて電動倍力装置または液圧供給装置によりブレーキフルードの圧力を制御し、車両の4輪にそれぞれ配置されるシリンダ装置(ブレーキキャリパおよびピストン)を加圧して制動する場合を考える。この場合には、パーキングブレーキがロック状態にあり、電動倍力装置または液圧供給装置により制動トルクを発生しなくても、車両が動かない状態の場合に、電流値の補正処理を実行することが望ましい。
【0052】
また、ブレーキモータ2が車両の4輪にそれぞれ配置された電動キャリパの駆動源である場合を考える。即ち、車両の4輪のそれぞれ配置されたブレーキモータ2の駆動に基づいてピストンを直動させてブレーキパッドをブレーキディスクに押し付けることで直接的に制動力を発生し、かつ、パーキングブレーキ機能も兼ねる場合を考える。この場合は、車両が動かない状態を保てるように、4輪の制動力を配分して電流値の補正処理を実行する。即ち、制動トルクを解除するキャリパを順番に設定して、その順番でそれぞれのブレーキモータ2の電流値の補正処理を実行することができる。
【0053】
また、制動の必要性、車両走行状態については、ブレーキペダルの操作を検出するストロークセンサの他、車両ネットワーク(車両データバス31)から取得できる信号に基づいて判定することができる。また、電流値の補正は、前回の補正から一定時間が経過した場合にのみ行うようにしてもよい。また、いずれの場合も、電流値の補正は、電動倍力装置、液圧供給装置、電動キャリパ等の制動用アクチュエータが製造された際の出荷前のキャリブレーション時に行ってもよい。また、電流値の補正は、制動用アクチュエータ(例えば、電動倍力装置、液圧供給装置、電動キャリパ)が車両に組込まれた後の車両の出荷前点検時に行ってもよい。さらに、電流値の補正は、車両の出荷後の点検時に、診断ツール等からの実行要求を受信したことを条件に行ってもよい。このとき、補正した結果に基づいて、車両搭載後の定期的な電流値の補正を行い、補正値を更新してもよい。いずれにしても、電流値の補正は、係員の手動による開始操作で開始してもよいし、手動の開始操作なしに自動で開始してもよい。
【0054】
S1で「YES」、即ち、電流値の補正を行う条件が成立している場合には、S2に進む。これに対して、S2で「NO」、即ち、電流値の補正を行う条件が成立していない場合には、エンドに進む。なお、S1の処理は、コントロール部9,11で行うことができる他、例えば、上位の制御装置となる統合制御装置33で行い、条件が成立した場合(S1で「YES」の場合)に、電流値の補正を行う旨の指令をコントロール部9,11に出力し、以降の処理をコントロール部9,11で行ってもよい。
【0055】
S2では、S1において、電流値の補正が許可されたため、ブレーキモータ2のロータ4を、補正を行うモータ角度まで移動させる。この処理は、必要に応じて行う。即ち、現時点のモータ角度が補正を行う位置であれば、移動しなくてもよい。電流値の補正を行うモータ角度は、モータトルクを出力しなくても保持可能で、極力小さなモータトルクでモータ角度の変更が可能な角度が好ましい。具体的には、電流値の補正を行うモータが制動で用いられるブレーキモータ2である場合、即ち、ブレーキモータ2が電動倍力装置、液圧供給装置、電動キャリパ等の制動用アクチュエータの駆動源の場合、電流値の補正を行うモータ角度は、制動のためのブレーキフルードの圧力、または、ブレーキパッドの押圧力を発生しない領域であることが望ましい。
【0056】
また、モータが3相ブラシレスモータである場合、モータトルクを最適に発生するためには、図6に示すように、3相のコイルに通電する電流を、ロータ4に配置された磁石の位置(モータ電気角)によって切換える必要がある。このため、トルクを発生させるために通電が必要な相が、2相のみであるモータ電気角度を、補正を行うモータ角度とすることが好ましい。即ち、電流値の補正は、図6のモータ電気角度が0°、30°、60°、90°、120°、150°、180°で行うことが好ましい。これにより、補正のためにトルクを発生するためのコイルが2相のみとなり、また、モータ電気角を30°ずつずらして補正を繰り返し行うことで、各相の電流ばらつきを明確にすることができ、補正の精度を向上できる。なお、電気角(モータ電気角)は、コイルに流す交流電流の角度に対応する。
【0057】
S2では、前述の両系統のインバータ(第1モータ駆動部8、第2モータ駆動部10)を用いたモータ角度指令のフィードバック制御により、その指令のモータ電気角に到達するまで制御を行う。モータ角度指令は、電流値の補正を行うことが好ましいモータ電気角に対応する。これにより、S2では、フィードバック制御により、指令に対応するモータ電気角に到達するまでブレーキモータ2(ロータ4)を駆動する。
【0058】
S2に続くS3では、S2の制御により、指令に到達したか否か、即ち、ブレーキモータ2(ロータ4)のモータ角度がモータ角度指令値(電流値の補正を行うことが好ましいモータ電気角)に到達したか否かを判定する。S2で「NO」、即ち、モータ角度がモータ角度指令値に到達していないと判定された場合は、S3の処理を繰り返す。一方、S3で「YES」、即ち、モータ角度がモータ角度指令値に到達したと判定された場合は、S4に進む。
【0059】
S4では、モータ角度を保持しながら両系統で別方向のトルクを発生させる。このために、図3に示すように、一方の系統となる第2系統の制御は、前述の補正を行うモータ角度をモータ角度指令とし、これに基づいて動作する位置制御用のフィードバックループを保持させる。この状態で、他方の系統となる第1系統の制御は、補正処理用の電流指令を直接算出するように切換える。即ち、一方の系統となる第2系統の制御を位置制御モードとし、他方の系統となる第1系統の制御を電流制御モードとする。この場合、他方の系統(第1系統)では、補正処理用電流指令算出部46から補正処理用電流指令id1,iq1を出力する。
【0060】
S4に続くS5では、図5に示すように、電流指令を算出する側(第1系統)の電流指令を、徐々に階段状に増加させる。この電流により、正方向にトルクが発生するため、モータ角度が正方向に変化しようとするが、位置制御を行う側(第2系統)が逆方向のトルクを発生させるための電流を発生させ、モータ角度を保持する。図5に示すように、これを複数回繰り返し、例えば制御で使用するモータ電流の最大値付近まで増加させ、その後、0まで減少させる。
【0061】
この一連の動作において、第1系統の電流の増加に対し、モータ角度の変化が静定(静止)したときの両系統のモータ電流を、S6の処理にて記録する。即ち、S5に続くS6では、第1系統および第2系統の電流をそれぞれ記憶する。この記録する電流値は、例えば、静定中のある一定時間中の電流値の平均値、または、フィルタリング処理の結果とすることが好ましい。また、この場合、ある第1系統の電流に対し、第2系統の電流は、第1系統の電流を0から段階的に増大させているときの値と第1系統の電流を最大値付近から段階的に減少させているときの値との2種類が記録される。これは、制動用アクチュエータに存在する機械的な摩擦トルクの影響を除去するためのものであり、補正用の電流としては、増加時と減少時の電流の平均値を用いることが好ましい。
【0062】
S6に続くS7では、S4-S6の処理による規定電流での指令のパターンが終了したか否かを判定する。即ち、電流指令による電流の段階的な増加および減少を行うと共に、これを異なる電気角で必要な分行ったか否かを判定する。ここで、S4-S6の処理は、第1系統と第2系統の制御モード(電流制御モード、位置制御モード)を逆にした場合と、保持位置を図6で示したモータ電気角違いで複数回繰り返し行うことができる。しかし、基本的には、制御モード違いで得られる電流値に差はなく、一般的に電流センサとして用いられるシャント抵抗に電流の流れる向きによる影響はない。このため、第1系統と第2系統の制御モードを逆にして行わなくても十分と考えられる。また、モータ電気角違いは、近接する3種類の30°毎の角度(例えば、モータ電気角0°、30°、60°)で行えば十分と考えられる。
【0063】
S7で「NO」、即ち、S4-S6の処理を必要なパターン分行っていないと判定された場合は、S4に戻り、まだ行っていないパターンでS4-S6の処理を繰り返す。これに対して、S7で「YES」、即ち、S4-S6の処理を必要なパターン分行ったと判定された場合は、S8に進む。S8では、S6で記録した電流値を用いて、電流特性を補正する。例えば、あるモータ電気角でトルクを発生させるために第1系統で通電させたモータ相電流がIu1およびIv1であった場合、第2系統で通電させるモータ相電流はIu2およびIv2である。このとき、Iu2およびIv2は、前述の増加時と減少時の電流の平均値であるものとする。また、このとき、Iu1とIu2、Iv1とIv2の符号は逆であるから、その差ΔIu、ΔIvは、例えば、下記の数1式および数2式で計算できる。
【0064】
【数1】
【0065】
【数2】
【0066】
差ΔIu、ΔIvは、近接する3種類の30°毎のモータ電気角で考えた場合、ΔIwの他、相電流の正負が逆となるΔIu′、ΔIv′、ΔIw′が計算されることとなり、各相電流の補正値は、それぞれの平均値とすればよい。なお、前述の通り、モータ電流は、1つのモータ電気角の条件に対して、階段状に複数点存在するため、Iu1、Iv1、Iw1等は、全て複数のデータを持つ配列となる。この補正値は、第1系統の電流検出値の補正値として用いてもよいし、第2系統の電流検出値の補正値として用いてもよい。また、算出した補正値を、第1系統と第2系統に配分して用いてもよい。
【0067】
このように、実施形態のモータ制御システムは、モータとしてのブレーキモータ2と、ブレーキモータ2を制御するモータコントローラとしてのモータ制御装置7とを備えている。モータ制御装置7は、第1モータ駆動部8と、第1コントロール部9と、第2モータ駆動部10と、第2コントロール部11とを有している。ブレーキモータ2は、例えば、車両に制動力を与える電動ブレーキ機構を制御する。第1モータ駆動部8は、ブレーキモータ2の第1系統コイルとしての第1巻線組5を駆動する。第2モータ駆動部10は、ブレーキモータ2の第2系統コイルとしての第2巻線組6を駆動する。第1コントロール部9は、第1モータ駆動部8と接続する。第2コントロール部11は、第2モータ駆動部10と接続する。
【0068】
第1コントロール部9は、予め設定された条件が成立するとき、所定のトルク指令(図3の補正処理用電流指令id1,iq1に基づく3相電圧値vU1,vV1,vW1)を第1モータ駆動部8へ出力する。第2コントロール部11は、予め設定された条件が成立するとき、トルク指令に対し逆方向のトルクを発生させるための逆トルク指令(図3の電流指令id2,iq2に基づく3相電圧値vU2,vV2,vW2)を第2モータ駆動部10へ出力する。このとき、第2コントロール部11は、例えば、ブレーキモータ2の回転位置が保持されるように、逆トルク指令を出力する。
【0069】
即ち、実施形態では、モータ制御装置7の制御方法として、第1コントロール部9は、予め設定された条件が成立するとき、所定のトルク指令(図3の補正処理用電流指令id1,iq1に基づく3相電圧値vU1,vV1,vW1)を第1モータ駆動部8へ出力し、第2コントロール部11は、予め設定された条件が成立するとき、トルク指令に対し逆方向のトルクを発生させるための逆トルク指令(図3の電流指令id2,iq2に基づく3相電圧値vU2,vV2,vW2)を第2モータ駆動部10へ出力する。このとき、第2コントロール部11は、例えは、ブレーキモータ2の回転位置が保持されるように、逆トルク指令を出力する。
【0070】
そして、トルク指令によって第1巻線組5に流れる電流の検出値である第1電流値(Iu1、Iv1)と、逆トルク指令によって第2巻線組6に流れる電流の検出値である第2電流値(Iu2、Iv2)と、の差(ΔIu、ΔIv)に基づいて、制御電流を補正する。この場合、第1電流値(Iu1、Iv1)と第2電流値(Iu2、Iv2)との差(ΔIu、ΔIv)に基づいて、第1コントロール部9が第1モータ駆動部8の制御電流を補正、または、第2コントロール部11が第2モータ駆動部10の制御電流を補正する。また、第1コントロール部9による第1モータ駆動部8の制御電流を補正、または、第2コントロール部11による第2モータ駆動部10の制御電流を補正は、ブレーキモータ2のモータ電気角の角度違いで複数回(例えば、近接する3種類の30°毎の角度で)実行する。
【0071】
第2コントロール部11は、ブレーキモータ2の回転位置が予め設定された回転位置に保持されるように、逆トルク指令を求める。この場合、トルク指令の絶対値と逆トルク指令の絶対値が等しくなるように、第1コントロール部9は、トルク指令によって第1巻線組5に流れる電流を制御し、第2コントロール部11は、逆トルク指令によって第2巻線組6に流れる電流を制御する。
【0072】
より具体的には、第1コントロール部9は、トルク指令によって第1巻線組5へ通電する電流を段階的に増加させる電流指令制御を実行し、第2コントロール部11は、逆トルク指令によってブレーキモータ2の回転位置が予め設定された回転位置に待機するように位置フィードバック指令制御を実行する。このとき、第1コントロール部9は、トルク指令によって第1巻線組5へ通電する電流を段階的に増加させた後に、段階的に減少させる電流指令制御を実行し、段階的に増加させたときに検出した電流値と、段階的に減少させたときに検出した電流値と、の平均値から取得した、第1電流値(Iu1、Iv1)および第2電流値(Iu2、Iv2)との差(ΔIu、ΔIv)に基づいて制御電流を補正する。
【0073】
また、制御電流の補正を行うための予め設定された条件は、車両の非制動時、または、車両の停車時である。この場合、予め設定された条件は、車両の停車時において、制動力を保持するパーキングブレーキ機構がロック状態である。なお、予め設定された条件は、出荷前検査、または、車両点検時であってもよい。
【0074】
以上のように、実施形態によれば、予め設定された条件が成立するとき、第1コントロール部9は、所定のトルク指令を第1モータ駆動部8へ出力し、第2コントロール部11は、トルク指令に対し逆方向の逆トルク指令を第2モータ駆動部10へ出力する。このため、予め設定された条件で、トルク指令による正トルクと逆トルク指令による逆トルクをブレーキモータ2にかけるという制御を実行する構成を備えることで、補正するための電流値の取得が可能になる。これにより、2系統のコイル、即ち、第1巻線組5と第2巻線組6とによって発生するトルクのばらつきを抑制することができる。
【0075】
実施形態によれば、「トルク指令によって第1巻線組5に流れる電流の検出値である第1電流値(Iu1、Iv1)」と「逆トルク指令によって第2巻線組6に流れる電流の検出値である第2電流値(Iu2、Iv2)」との差(ΔIu、ΔIv)に基づいて、制御電流を補正する。この場合、第1電流値(Iu1、Iv1)と第2電流値(Iu2、Iv2)との差(ΔIu、ΔIv)に基づいて、第1コントロール部9による第1モータ駆動部8の制御電流、および/または、第2コントロール部11による第2モータ駆動部10の制御電流を補正する。このため、第1巻線組5と第2巻線組6とよって発生するトルクのばらつきを抑制することができる。この場合、実施形態では、制御電流の補正を、ブレーキモータ2のモータ電気角の角度違いで複数回実行するため、補正の精度を向上できる。
【0076】
実施形態によれば、第2コントロール部11は、ブレーキモータ2の回転位置が予め設定された回転位置に保持されるように、逆トルク指令を求める。このため、第2コントロール部11の逆トルク指令に基づいて、ブレーキモータ2の回転位置を予め設定された回転位置に保持できる。この場合、「トルク指令」と「トルク指令の絶対値と等しい絶対値の逆トルク指令」とに基づいて、第1巻線組5に流れる電流と第2巻線組6に流れる電流とが制御される。これにより、ブレーキモータ2の回転位置を予め設定された位置に保持できる。
【0077】
実施形態によれば、第2コントロール部11は、第1コントロール部9のトルク指令による電流指令制御のそれぞれの段階の電流ごとに、逆トルク指令による位置フィードバック指令制御を実行する。このため、電流指令制御のそれぞれの段階の電流ごとに、ブレーキモータ2の回転位置を予め設定された回転位置に保持できる。即ち、第1系統コイルを電流制御し第2系統コイルを位置制御することにより、それぞれの段階の電流ごとに、モータの回転を保持できる。
【0078】
実施形態によれば、電流指令制御により「電流を段階的に増加させたとき」と「電流を段階的に減少させたとき」との両方で制御電流の補正を行うことができる。これにより、補正の精度を向上できる。
【0079】
実施形態によれば、ブレーキモータ2にトルク指令による正トルクと逆トルク指令による逆トルクを負荷する。このため、車両に制動力を与える電動ブレーキ機構を制御するブレーキモータ2のトルクのばらつきを抑制することができる。
【0080】
実施形態によれば、制御電流の補正を行うための予め設定された条件は、車両の非制動時、または、車両の停車時である。このため、車両の非制動時または停車時に、トルク指令による正トルクと逆トルク指令による逆トルクをブレーキモータ2にかけることができる。また、実施形態によれば、予め設定された条件は、車両の停車時において、制動力を保持するパーキングブレーキ機構がロック状態である。このため、車両の停車時のパーキングブレーキ機構がロック状態でトルク指令による正トルクと逆トルク指令による逆トルクをブレーキモータ2にかけることができる。
【0081】
なお、予め設定された条件は、出荷前検査、または、車両点検時としてもよい。この場合には、出荷前検査または車両点検時に、トルク指令による正トルクと逆トルク指令による逆トルクをブレーキモータ2にかけることができる。出荷前検査は、例えば、ブレーキモータ2が組込まれた制動用アクチュエータ(例えば、電動倍力装置、液圧供給装置、電動キャリパ)の製造工場から自動車組立工場に出荷する前の検査に対応する。また、出荷前検査は、例えば、制動用アクチュエータが組込まれた自動車組立工場から車両販売店に出荷する前の検査に対応する。また、車両点検時としては、例えば、出荷後の初期診断を行ったとき、より具体的には、車両購入者への引き渡しの前に行う初期車両点検時に対応する。また、車両点検時は、例えば、車検時、定期点検時に対応する。このとき、診断ツールからの指示に基づいて、補正を行うことができる。また、例えば、車検等の後に車両購入者が車両の使用を開始するときに、補正を行ってもよい。この場合は、例えば、モータ制御システム(モータ制御装置7)がスリープ状態から起動し、イニシャルチェックが行われるときに、補正が行われるようにしてもよい。
【0082】
なお、実施形態では、第1コントロール部9(セカンダリ系)と第2コントロール部11(プライマリ系)とを備えた2重系とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、3重系、4重系等、2重系以上の複数系に用いることができる。また、実施形態では、第2コントロール部11が第1コントロール部9を監視する構成、即ち、第2コントロール部11が相電流モニタ回路35により第1モータ駆動部8の相電流を監視する構成とした場合を例に挙げて説明した。換言すれば、実施形態では、監視する側を第2コントロール部とすると共に監視される側を第1コントロール部とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、監視する側を第1コントロール部とすると共に監視される側を第2コントロール部としてもよい。
【0083】
いずれにしても、トルク指令と逆トルク指令とを出力するときに、トルク指令を出力する側が第1系統(第1コントロール部、第1モータ駆動部、第1系統コイル)に対応し、逆トルク指令を出力する側が第2系統(第2コントロール部、第2モータ駆動部、第2系統コイル)に対応する。そして、トルク指令、逆トルク指令は、いずれか一方を基準としてモータの回転方向を定義しているに過ぎず、基準は、正転方向でも逆転方向でもいずれでもよい。
【0084】
実施形態では、第1モータ駆動部8と第2モータ駆動部10とにより駆動されるモータとして、ブレーキモータ2、即ち、車両に制動力を与える電動ブレーキ機構を制御するブレーキモータ2とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、第1モータ駆動部と第2モータ駆動部とにより駆動されるモータとして、例えば、車両の操舵アクチュエータを制御(駆動)するステアリングモータとしてもよい。この場合には、第1コントロール部と接続する第1モータ駆動部と第2コントロール部と接続する第2モータ駆動部とによりステアリングモータを駆動することができる。
【0085】
ステアリングモータの場合、トルク指令と逆トルク指令とを出力するときに、ステアリングが動く可能性がある。このため、例えば、予め設定された条件が、車両の制動時、非制動時、車両の停車時の場合、ドライバに違和感を与える可能性がある。従って、ステアリングモータの場合、予め設定された条件は、例えば、出荷前検査、または、車両点検時とすることができる。いずれにしても、第1モータ駆動部と第2モータ駆動部とにより駆動されるモータは、ブレーキモータ、ステアリングモータに限らず、車両に搭載される各種のアクチュエータを駆動するためのモータ(冗長性の確保が必要なモータ)とすることができる。
【0086】
実施形態では、車両のコントローラ(車両コントローラ)として、自動運転制御装置(自動運転ECU)から得られた目標軌跡に対して車両を動かすための車両運動制御を決める統合制御装置33(統合ECU、セントラルECU)を備えた場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、車両のコントローラ(車両コントローラ)としては、例えば、ステアリング制御装置、サスペンション制御装置等、統合制御装置33以外の制御装置、即ち、上位の制御装置でなくてもよい。車両のコントローラ(車両コントローラ)としては、車両に搭載されている各種の制御装置(ECU)を用いることができる。
【0087】
以上説明した実施形態に基づくモータ制御装置、モータ制御装置の制御方法およびモータ制御システムとして、例えば下記に述べる態様のものが考えられる。
【0088】
第1の態様としては、モータの第1系統コイルを駆動する第1モータ駆動部と、予め設定された条件が成立するとき、所定のトルク指令を前記第1モータ駆動部へ出力する第1コントロール部と、前記モータの第2系統コイルを駆動する第2モータ駆動部と、前記予め設定された条件が成立するとき、前記トルク指令に対し逆方向のトルクを発生させるための逆トルク指令を前記第2モータ駆動部へ出力する第2コントロール部と、を備えるモータ制御装置である。
【0089】
この第1の態様によれば、予め設定された条件でトルク指令による正トルクと逆トルク指令による逆トルクをモータにかけるという制御を実行する構成を備えることで、補正するための電流値の取得が可能になる。これにより、2系統のコイルによって発生するトルクのばらつきを抑制することができる。
【0090】
第2の態様としては、第1の態様において、前記トルク指令によって前記第1系統コイルに流れる電流の検出値である第1電流値と、前記逆トルク指令によって前記第2系統コイルに流れる電流の検出値である第2電流値と、の差に基づいて、前記第1コントロール部が前記第1モータ駆動部の制御電流を補正、または、前記第2コントロール部が前記第2モータ駆動部の制御電流を補正する。
【0091】
この第2の態様によれば、第1電流値と第2電流値との差に基づいて、第1コントロール部が第1モータ駆動部の制御電流を補正、または、第2コントロール部が第2モータ駆動部の制御電流を補正することにより、2系統のコイルによって発生するトルクのばらつきを抑制することができる。
【0092】
第3の態様としては、第1の態様において、前記第2コントロール部は、前記モータの回転位置が予め設定された回転位置に保持されるように、前記逆トルク指令を求める。この第3の態様によれば、第2コントロール部の逆トルク指令に基づいて、モータの回転位置を予め設定された回転位置に保持できる。
【0093】
第4の態様としては、第3の態様において、前記トルク指令の絶対値と前記逆トルク指令の絶対値が等しくなるように、前記第1コントロール部は、前記トルク指令によって前記第1系統コイルに流れる電流を制御し、前記第2コントロール部は、前記逆トルク指令によって前記第2系統コイルに流れる電流を制御する。
【0094】
この第4の態様によれば、「トルク指令」と「このトルク指令の絶対値と等しい絶対値の逆トルク指令」とに基づいて、第1系統コイルに流れる電流と第2系統コイルに流れる電流とが制御されることにより、モータの回転位置を予め設定された位置に保持できる。
【0095】
第5の態様としては、第3の態様において、前記第1コントロール部は、前記トルク指令によって前記第1系統コイルへ通電する電流を段階的に増加させる電流指令制御を実行し、前記第2コントロール部は、前記逆トルク指令によって前記モータの回転位置が予め設定された回転位置に待機するように位置フィードバック指令制御を実行する。
【0096】
この第5の態様によれば、第2コントロール部は、第1コントロール部のトルク指令による電流指令制御のそれぞれの段階の電流ごとに、逆トルク指令による位置フィードバック指令制御を実行する。このため、電流指令制御のそれぞれの段階の電流ごとに、モータの回転位置を予め設定された回転位置に保持できる。即ち、第1系統コイルを電流制御し第2系統コイルを位置制御することにより、それぞれの段階の電流ごとに、モータの回転を保持できる。
【0097】
第6の態様としては、第5の態様において、前記第1コントロール部は、前記トルク指令によって前記第1系統コイルへ通電する電流を段階的に増加させた後に、段階的に減少させる電流指令制御を実行し、前記段階的に増加させたときに検出した電流値と、前記段階的に減少させたときに検出した電流値と、の平均値から取得した、前記第1電流値及び前記第2電流値との前記差に基づいて前記制御電流を補正する。
【0098】
この第6の態様によれば、電流指令制御により「電流を段階的に増加させたとき」と「電流を段階的に減少させたとき」との両方で制御電流の補正を行うことができる。これにより、補正の精度を向上できる。
【0099】
第7の態様としては、第1の態様において、前記モータは、車両に制動力を与える電動ブレーキ機構を制御するブレーキモータである。この第7の態様によれば、ブレーキモータのトルクのばらつきを抑制することができる。
【0100】
第8の態様としては、第7の態様において、前記予め設定された条件は、車両の非制動時、または、前記車両の停車時である。この第8の態様によれば、車両の非制動時または停車時に、トルク指令による正トルクと逆トルク指令による逆トルクをブレーキモータにかけることができる。
【0101】
第9の態様としては、第8の態様において、前記予め設定された条件は、前記車両の停車時において、制動力を保持するパーキングブレーキ機構がロック状態である。この第9の態様によれば、車両の停車時のパーキングブレーキ機構がロック状態でトルク指令による正トルクと逆トルク指令による逆トルクをブレーキモータにかけることができる。
【0102】
第10の態様としては、第1の態様において、前記予め設定された条件は、出荷前検査、または、車両点検時である。この第10の態様によれば、出荷前検査または車両点検時に、トルク指令による正トルクと逆トルク指令による逆トルクをモータにかけることができる。
【0103】
第11の態様としては、第2の態様において、前記第1コントロール部による前記第1モータ駆動部の制御電流を補正、または、前記第2コントロール部による前記第2モータ駆動部の制御電流を補正は、前記モータのモータ電気角の角度違いで複数回実行する。この第11の態様によれば、モータ電気角の角度違いで補正を複数回実行することにより、補正の精度を向上できる。
【0104】
第12の態様としては、モータの第1系統コイルを駆動する第1モータ駆動部と、前記第1モータ駆動部と接続する第1コントロール部と、前記モータの第2系統コイルを駆動する第2モータ駆動部と、前記第2モータ駆動部と接続する第2コントロール部と、を備えるモータ制御装置の制御方法であって、前記第1コントロール部は、予め設定された条件が成立するとき、所定のトルク指令を前記第1モータ駆動部へ出力し、前記第2コントロール部は、前記予め設定された条件が成立するとき、前記トルク指令に対し逆方向のトルクを発生させるための逆トルク指令を前記第2モータ駆動部へ出力する。
【0105】
この第12の態様によれば、予め設定された条件でトルク指令による正トルクと逆トルク指令による逆トルクをモータにかけることで、補正するための電流値の取得が可能になる。これにより、2系統のコイルによって発生するトルクのばらつきを抑制することができる。
【0106】
第13の態様としては、モータと、前記モータを制御するモータコントローラであって、前記モータの第1系統コイルを駆動する第1モータ駆動部と、予め設定された条件が成立するとき、所定のトルク指令を前記第1モータ駆動部へ出力する第1コントロール部と、前記モータの第2系統コイルを駆動する第2モータ駆動部と、前記予め設定された条件が成立するとき、前記トルク指令に対し逆方向のトルクを発生させるための逆トルク指令を前記第2モータ駆動部へ出力する第2コントロール部と、を有するモータコントローラと、を備えるモータ制御システムである。
【0107】
この第13の態様によれば、予め設定された条件でトルク指令による正トルクと逆トルク指令による逆トルクをモータにかけるという制御を実行する構成を備えることで、補正するための電流値の取得が可能になる。これにより、2系統のコイルによって発生するトルクのばらつきを抑制することができる。
【符号の説明】
【0108】
1 モータ制御システム
2 ブレーキモータ(モータ)
5 第1巻線組(第1系統コイル)
6 第2巻線組(第2系統コイル)
7 モータ制御装置(モータコントローラ)
8 第1モータ駆動部
9 第1コントロール部
10 第2モータ駆動部
11 第2コントロール部
41 第1電流センサ
42 第2電流センサ
43 位置制御器
46 補正処理用電流指令算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6