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特開2024-16300分析プログラム、分析装置、及び分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016300
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】分析プログラム、分析装置、及び分析方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 40/12 20230101AFI20240131BHJP
【FI】
G06Q40/00 400
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020207992
(22)【出願日】2020-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】519444100
【氏名又は名称】株式会社KPMG Ignition Tokyo
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】末重 拓己
(72)【発明者】
【氏名】西田 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】ガンビール ジテンドラ
【テーマコード(参考)】
5L055
【Fターム(参考)】
5L055BB64
(57)【要約】      (修正有)
【課題】会計データを分析するための分析プログラム、分析装置及び分析方法を提供する。
【解決手段】分析システム1において、分析プログラムは、一又は複数のプロセッサに、各々が異なる種類の不正に関連する複数のシナリオの中から解析対象シナリオの選択を受け付ける画面をユーザ装置に表示させる機能と、分析対象である会計データに不正が含まれる蓋然性を表す指標であり前記複数のシナリオの各々について算出されたスコアのうち、前記解析対象シナリオに対応する解析対象スコアをユーザ装置に表示させる機能と、を実行させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
会計データを分析するための分析プログラムであって、
一又は複数のプロセッサに、
各々が異なる種類の不正に関連する複数のシナリオの中から解析対象シナリオの選択を受け付ける画面をユーザ装置に表示させる機能と、
分析対象である会計データに不正が含まれる蓋然性を表す指標であり前記複数のシナリオの各々について算出されたスコアのうち、前記解析対象シナリオに対応する解析対象スコアを前記ユーザ装置に表示させる機能と、
を実行させる分析プログラム。
【請求項2】
前記スコアは、前記複数のシナリオの各々について前記会計データに含まれる複数のデータ項目のうちの対象データ項目に含まれるデータごとに算出され、
前記一又は複数のプロセッサに、
前記対象データ項目に含まれるデータから解析対象データの選択を受け付ける機能を実行させ、
前記解析対象スコアは、前記複数のスコアのうち前記解析対象データについて算出されたスコアである、
請求項1に記載の分析プログラム。
【請求項3】
前記一又は複数のプロセッサに、前記会計データの前記複数のデータ項目のうち、前記複数のシナリオごとに前記スコアの算出のために必要な必要データ項目を前記ユーザ装置に表示させる機能を実行させる、請求項2に記載の分析プログラム。
【請求項4】
前記一又は複数のプロセッサに、前記ユーザ装置から受け付けた明細データに基づいて前記会計データを生成する機能を実行させる、
請求項1から3のいずれか1項に記載の分析プログラム。
【請求項5】
会計データを記憶する記憶部と、
各々が異なる種類の不正に関連する複数のシナリオの各々について前記会計データに不正が含まれる蓋然性を表すスコアを算出するスコア算出部と、
を備える分析装置。
【請求項6】
一又は複数のプロセッサがコンピュータ読み取り可能な命令を実行することにより会計データを分析する分析方法であって、
各々が異なる種類の不正に関連する複数のシナリオの中から解析対象シナリオの選択を受け付ける画面をユーザ装置に表示させる工程と、
分析対象である会計データに不正が含まれる蓋然性を表す指標であり前記複数のシナリオの各々について算出されたスコアのうち、前記解析対象シナリオに対応する解析対象スコアを前記ユーザ装置に表示させる工程と、
を備える分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の開示は、分析プログラム、分析装置、及び分析方法に関する。本明細書の開示は、より具体的には、財務諸表の監査において不正の効率的な発見を支援する分析プログラム、分析装置、及び分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
監査人は、監査対象の企業の財務諸表に重要な虚偽表示がないことについて合理的な保証を得る責任がある。企業の財務諸表には、不正や誤謬に基づく虚偽表示が含まれる可能性がある。財務諸表に含まれる会計データにおける不正や誤謬を効率良く発見するための技術が幾つか提案されている。例えば、特開2020-140668号公報には、仕訳データの各々に分析ロジックに基づいて不正や誤謬の蓋然性を示す点数を付与し、この点数を含む分析結果データを出力する分析装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-140668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
仕訳データ単位で付された不正や誤謬の蓋然性を示す点数は、仕訳データごとの正当性の程度を示す指標となり得るが、仕訳データ単位で付された点数からは、どのような不正や誤謬が発生したかを特定するための洞察は得られない。このため、仕訳データ単位での点数を含む分析結果データが得られたとしても、どのような不正や誤謬が発生したかを検証するためには、熟練した監査人の属人的な洞察力に拠らざるを得ない。
【0005】
一会計期間に分析すべき仕訳データは、膨大な量となることが多い。このため、仕訳データ単位で点数が付与されたとしても、不正や誤謬の蓋然性が高い仕訳データを適切な分量に絞り込めない可能性がある。つまり、高点数の仕訳データが大量に発生し、仕訳テストを効率よく行うことができない可能性がある。
【0006】
本明細書に開示される発明の目的の一つは、会計データにおける不正の発見を支援する新規の分析プログラム、分析装置、及び分析方法を提供することである。
【0007】
本明細書に開示される発明の前記以外の目的は、本明細書全体を参照することにより明らかになる。本明細書に開示される発明は、前記の課題に代えて又は前記の課題に加えて、本明細書の記載から把握される課題を解決するものであってもよい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一又は複数の実施形態は、会計データを分析するための分析プログラムに関する。本発明の一又は複数の実施形態における分析プログラムは、一又は複数のプロセッサに、各々が異なる種類の不正に関連する複数のシナリオの中から解析対象シナリオの選択を受け付ける画面をユーザ装置に表示させる機能と、分析対象である会計データに不正が含まれる蓋然性を表す指標であり前記複数のシナリオの各々について算出されたスコアのうち、前記解析対象シナリオに対応する解析対象スコアを前記ユーザ装置に表示させる機能と、を実行させる。
【0009】
本発明の一又は複数の実施形態において、前記スコアは、前記複数のシナリオの各々について前記会計データに含まれる複数のデータ項目のうちの対象データ項目に含まれるデータごとに算出される。本発明の一又は複数の実施形態による分析プログラムは、前記一又は複数のプロセッサに、前記対象データ項目に含まれるデータから解析対象データの選択を受け付ける機能を実行させる。本発明の一又は複数の実施形態において、前記解析対象スコアは、前記複数のスコアのうち前記解析対象データについて算出されたスコアである。
【0010】
本発明の一又は複数の実施形態による分析プログラムは、前記一又は複数のプロセッサに、前記会計データの前記複数のデータ項目のうち、前記複数のシナリオごとに前記スコアの算出のために必要な必要データ項目を前記ユーザ装置に表示させる機能を実行させる。
【0011】
本発明の一又は複数の実施形態による分析プログラムは、前記一又は複数のプロセッサに、前記ユーザ装置から受け付けた明細データに基づいて前記会計データを生成する機能を実行させる。
【0012】
本発明の一又は複数の実施形態は、会計データを分析する分析装置に関する。本発明の一又は複数の実施形態による分析装置は、会計データを記憶する記憶部と、各々が異なる種類の不正に関連する複数のシナリオの各々について前記会計データに不正が含まれる蓋然性を表すスコアを算出するスコア算出部と、を備える。
【0013】
本発明の一又は複数の実施形態は、一又は複数のプロセッサがコンピュータ読み取り可能な命令を実行することにより会計データを分析する分析方法に関する。本発明の一又は複数の実施形態における分析方法は、各々が異なる種類の不正に関連する複数のシナリオの中から解析対象シナリオの選択を受け付ける画面をユーザ装置に表示させる工程と、分析対象である会計データに不正が含まれる蓋然性を表す指標であり前記複数のシナリオの各々について算出されたスコアのうち、前記解析対象シナリオに対応する解析対象スコアを前記ユーザ装置に表示させる工程と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態によれば、会計データにおける不正の発見を支援する新規の分析プログラム、分析装置、及び分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一の実施形態による分析システムのブロック図である。
図2図1の分析システムにおいて利用される売上明細データの例を示す説明図である。
図3図1の分析システムにおいて利用される仕入明細データの例を示す説明図である。
図4図1の分析システムにおいて利用されるシナリオデータの例を示す説明図である。
図5図1の分析システムにおいて利用されるスコアデータの例を示す説明図である。
図6】スコア算出ロジックの一例を説明するための説明図である。
図7】スコア算出ロジックの別の例を説明するための説明図である。
図8】会計データに基づいて不正の蓋然性を表すスコアを算出する処理の流れを示すフロー図である。
図9】会計データを図1の分析システムで利用できるフォーマットにマッピングする際にユーザ装置に表示される設定画面の例を示す模式図である。
図10】選択されたシナリオに対応するスコアを出力する処理の流れを説明するフロー図である。
図11】シナリオの選択を促すシナリオ選択画面の例を示す模式図である。
図12】スコア表示画面の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面を参照し、本発明の様々な実施形態を説明する。図1に示されているとおり、本発明の一実施形態による分析システム1は、ユーザ装置10と、サーバ20と、を備える。分析システム1は、図示されているようにストレージ30を備えてもよい。ユーザ装置10、サーバ20、及びストレージ30は、ネットワーク40を介して互いに通信可能に接続されている。ネットワーク40は、単一のネットワークであってもよく、複数のネットワークが接続されて構成されていてもよい。ネットワーク40は、例えば、インターネット、移動通信網、及びこれらの組み合わせである。ネットワーク40としては、電子機器間の通信を可能とする任意のネットワークが適用され得る。
【0017】
図1に示されている分析システム1は、本発明を適用可能なシステムの例であり、本発明を適用可能なシステムは、図1に示されたものには限定されない。本発明を適用可能な分析システム1は、図示されている構成要素の一部を備えなくてもよい。例えば、分析システム1は、ストレージ30を備えなくともよい。分析システム1は、図示されていない構成要素を備えてもよい。例えば、図1には説明の簡略化のためにユーザ装置10が1台だけ記載されているが、分析システム1は、2以上の任意の数のユーザ装置10を含むことができる。
【0018】
分析システム1は、詳細については後述するように、財務諸表における不正又は誤謬に関する複数のシナリオの各々について分析対象となる会計データを分析する。この分析により、複数のシナリオの各々について、分析対象となる会計データに不正又は誤謬が含まれる蓋然性を表すスコアが算出される。このスコアは、例えばサーバ20において算出され、算出されたスコアは例えばユーザ装置10において出力される。ユーザ装置10における出力は、例えばディスプレイへの表示によって行われる。サーバ20は、特許請求の範囲における「分析装置」の実施形態の例である。ユーザ装置10のユーザとしては、監査人又はその補助者が想定されている。監査人は、シナリオごとに算出されたスコアに基づいて会計データにどのような種類の不正又は誤謬があるのかについて示唆を得ることができ、不正や誤謬の発見をより効率的及び網羅的に行うことができる。監査実務においては、「不正」と「誤謬」とは、財務諸表の虚偽表示の原因となる行為が意図的か否かによって区別される。本明細書では、不正と誤謬とを区別する必要がないので、文脈上区別する必要がある場合を除き、「不正」と「誤謬」とをまとめて「不正」と呼ぶ。したがって、本明細書において単に「不正」というときには、監査実務における「誤謬」を含むと解釈することができる。
【0019】
分析システム1は、財務諸表の虚偽表示の原因となる不正の様々なシナリオを想定し、この想定したシナリオごとに、分析対象となる会計データに不正が含まれる蓋然性を表すスコアを算出することができる。監査人は、ある企業の財務諸表監査を行う際に、ユーザ装置10において複数のシナリオの中から分析対象とすべき分析対象シナリオを選択すると、サーバ20においてスコアごとに算出されたスコアのうち分析対象シナリオに対応する解析対象スコアがユーザ装置10において出力される。
【0020】
不正の蓋然性を表す指標であるスコアを算出するためのスコア算出ロジックは、複数のシナリオの各々について個別に定められ得る。したがって、スコアは、シナリオごとに異なるロジックに従って算出される。スコア算出ロジックは、分析対象の会計データの少なくとも一部を変数としてスコアを出力する。監査人は、ユーザ装置10から出力されるスコアに基づいて、シナリオごとに不正が発生している蓋然性を把握することができる。つまり、監査人は、シナリオごとに算出されるスコアから、どのような態様の不正がなされたかを特定するための直接的な洞察を得ることができる。このため、監査人は、シナリオごとのスコアに応じて、そのシナリオが示す不正が実際に行われたか否かを効率的に調査及び検証することができる。分析システム1によれば、分析対象の会計データ全体について不正の蓋然性を評価するよりも、各シナリオに特化したスコア算出ロジックに基づいてスコアが算出されるので、スコアの精度を高めることができる。
【0021】
分析システム1において想定される不正のシナリオは、監査実務に基づいて定められる。例えば、分析システム1のシナリオは、熟練した監査人によって作成される。新たな手口による不正が発生した場合には、その不正に対応するシナリオを新たに作成することができる。具体的には、その新たに発生した不正事案に関連する会計データに基づいて、その新たな種類の不正が発生している蓋然性を表すスコアを算出するためのスコア算出ロジックを定めることができる。
【0022】
スコア算出ロジックは、熟練した監査人によって定められてもよい。スコア算出ロジックを定める際には、機械学習を利用してもよい。例えば、ある種類の不正(説明の便宜上、「シナリオAの不正」という。)が発生した際に、そのシナリオAの不正により虚偽表示を含んでいる会計データを教師データとして学習することにより、シナリオAの不正に対応するスコア算出モデルを調製することができる。教師データをシナリオごとに準備することで、シナリオごとに選択された教師データに基づいてシナリオごとにスコア算出モデルをトレーニングすることができる。これにより、シナリオごとに最適化されたスコア算出モデルが得られる。
【0023】
分析システム1において用いられる各シナリオのスコア算出ロジックは、不正の類型ごとに定められるが、企業ごとに個別の要素は全く又はほとんど入り込まない。このように、分析システム1においては、不正の類型に応じたシナリオを追加することによりスコアを算出可能なシナリオを拡張することができ、その拡張の際に企業ごとに個別の事情を考慮する必要がないため、拡張性に優れている。また、カスタマイズが不要であるため、新しい不正の手口が出現した場合に、その不正に対する即応性に優れている。
【0024】
分析システム1においては、後述するように、分析対象として、売上に関する売上明細データ25aや仕入に関する仕入明細データ25bを採用することができる。これらのデータは、取引相手の企業にも対応するデータが残されているため改ざんが困難である。このように、分析システム1は、改ざんが困難なデータを分析してスコアを算出することができる。
【0025】
財務諸表監査における不正のシナリオについては、これまでの監査実務から様々なものを想定することができる。例えば、「規則性のある取引日」というシナリオが想定される。監査実務においては、取引日の間隔に一定の規則性がある取引ほど架空売上のリスクが高いという仮説が成立し得る。そこで、分析システム1は、「規則性のある取引日」を不正のシナリオの一つとして採用することができる。分析システム1は、この「規則性のある取引日」のシナリオに対応するスコア算出ロジックを用いて、分析対象となる会計データのスコアを算出することができる。このシナリオにおけるスコアの算出には、企業から提供された売上明細データに記録されている取引間隔と、取引がランダムに行われたと仮定した場合の取引間隔との比較から規則性の度合いを定量化するためのスコア算出ロジックが用いられる。このスコア算出ロジックにより算出されたスコアが高いほど、分析対象の会計データに、この「規則性のある取引日」に対応する不正、すなわち架空売上の形状という不正が含まれる蓋然性が高いことを示す。このため、監査人は、このシナリオについてのスコアに基づいて、架空の売上が実際に計上されていないか調査を行うことができる。このように、分析システム1により算出されるスコアは、不正のシナリオごとに算出されているから、シナリオごとのスコアに基づいてどのような態様の不正が行われた蓋然性が高いかを把握し、このスコアに応じて不正の態様を想定した上で不正の発見に努めることができる。
【0026】
スコアの算出は、より詳細なデータ単位で行われてもよい。分析対象の会計データには、多数のデータ項目が含まれることが想定されるため、分析システム1は、分析対象の会計データに含まれる複数のデータ項目のうちの特定のデータ項目に含まれるデータごとにスコアを算出してもよい。例えば、分析対象の会計データが「計上日」、「商品」、「部署」、「取引先」、「担当者」といったデータ項目のデータ値を含む場合、これらのデータ項目のうちの特定のデータ項目のデータごとに算出されてもよい。より具体的には、「部署」というデータ項目に、「部署A」、「部署B」、「部署C」というデータが含まれる場合、この「部署A」、「部署B」、及び「部署C」の各々について個別にスコアが算出されてもよい。「部署A」について個別のスコアが算出される場合には、分析対象の会計データ全体のうち、「部署A」に関連するデータのみを用いてスコアが算出される。このように、分析対象の会計データに含まれるデータ単位でスコアを算出することにより、算出されたスコアは、発生した蓋然性が高い不正に関するより詳細な洞察を与えるものとなる。例えば、シナリオAに関して「部署A」について算出されたスコアが、シナリオAに関して「部署B」について算出されたスコア及び「部署C」について算出されたスコアよりも大きな値であれば、「部署A」においてシナリオAに対応する不正(例えば、架空売上の計上)がなされたのではないかという洞察を得ることができる。この場合、監査人は、部署Aにおいて架空売上がなかったかを入念に調査することができ、他方、部署B及び部署CのシナリオAに関する不正に関する調査を監査実務において許容される範囲で省略することができる。このように、本発明の一実施形態によれば、セグメント化されたスコアに基づいて、不正の調査をさらに効率的に行うことができる。
【0027】
続いて、分析システム1の構成要素について説明する。まず、ユーザ装置10の構成について説明する。ユーザ装置10は、パーソナルコンピュータ(PC)、タブレット端末、スマートフォン、またはこれら以外の各種情報処理装置である。ユーザ装置10は、プロセッサ11、メモリ12、ユーザインタフェース13、通信インタフェース14、及びストレージ15を備えている。
【0028】
プロセッサ11は、ストレージ15又はそれ以外のストレージからオペレーティングシステムやそれ以外の様々なプログラムをメモリ12にロードし、ロードしたプログラムに含まれる命令を実行する演算装置である。プロセッサ11は、例えば、CPU、MPU、DSP、GPU、これら以外の各種演算装置、又はこれらの組み合わせである。プロセッサ11は、ASIC、PLD、FPGA、MCU等の集積回路により実現されてもよい。
【0029】
メモリ12は、プロセッサ11が実行する命令及びそれ以外の各種データを格納するために用いられる。メモリ12は、プロセッサ11が高速にアクセス可能な主記憶装置(メインメモリ)である。メモリ12は、例えば、DRAMやSRAM等のRAMによって構成される。
【0030】
ユーザインタフェース13は、ユーザの入力を受け付ける入力インタフェースと、プロセッサ11の制御により様々な情報を出力する出力インタフェースと、を備える。入力インタフェースは、例えば、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、タッチパネル、又は前記以外のユーザの入力を入力可能な任意の情報入力装置である。出力インタフェースは、例えば、液晶ディスプレイ、表示パネル、又は前記以外のプロセッサ11の演算結果を出力可能な任意の情報出力装置である。
【0031】
通信インタフェース14は、ハードウェア、ファームウェア、又はTCP/IPドライバやPPPドライバ等の通信用ソフトウェア又はこれらの組み合わせとして実装される。ユーザ装置10は、通信インタフェース14を介して、サーバ20等の他の装置とデータを送受信することができる。
【0032】
ストレージ15は、プロセッサ11によりアクセスされる外部記憶装置である。ストレージ15は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ、又はデータを記憶可能な前記以外の各種記憶装置である。
【0033】
次に、サーバ20の構成について説明する。サーバ20は、プロセッサ21、メモリ22、ユーザインタフェース23、通信インタフェース24、ストレージ25を備えている。
【0034】
プロセッサ21は、オペレーティングシステムやそれ以外の様々なプログラムをメモリ22にロードし、ロードしたプログラムに含まれる命令を実行する演算装置である。プロセッサ11に関する説明は、プロセッサ21にも当てはまり、メモリ12に関する説明はメモリ22にも当てはまる。
【0035】
ユーザインタフェース23は、サーバ20のオペレータの入力を受け付ける入力インタフェースと、プロセッサ21の制御により様々な情報を出力する出力インタフェースと、を備える。
【0036】
通信インタフェース24は、ハードウェア、ファームウェア、又はTCP/IPドライバやPPPドライバ等の通信用ソフトウェア又はこれらの組み合わせとして実装される。サーバ20は、通信インタフェース22を介して、他の装置とデータを送受信することができる。
【0037】
ストレージ25は、プロセッサ21によりアクセスされる外部記憶装置である。ストレージ25は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ、又はデータを記憶可能な前記以外の各種記憶装置である。ストレージ25には、売上明細データ25a、仕入明細データ25b、シナリオデータ25c、及びスコアデータ25dが記憶され得る。これらのデータの詳細については後述する。
【0038】
分析システム1において、データの格納場所には特段の制限はない。例えば、ストレージ15に記憶され得る各種データは、ユーザ装置10とは物理的に別体のストレージ(例えば、ストレージ25又はストレージ30)やデータベースサーバに格納されてもよい。同様に、ストレージ25に記憶され得る各種データは、サーバ20とは物理的に別体のストレージ(例えば、ストレージ15又はストレージ30)やデータベースサーバに格納されてもよい。図1においては、ストレージ15及びストレージ25はそれぞれが単一のユニットとして図示されているが、ストレージ15、25の少なくとも一方は、複数の物理的に別体のストレージが集合したものであってもよい。つまり、本明細書において、ストレージ15に記憶されるデータ及びストレージ25に記憶されるデータは、単一のストレージに記憶されてもよいし、複数のストレージに分散して記憶されてもよい。また、本明細書及び特許請求の範囲において、単に「ストレージ」という場合には、文脈上許される限り、単一のストレージと複数のストレージの集合のいずれを指し示すこともある。
【0039】
続いて、ユーザ装置10の機能について説明する。ユーザ装置10のプロセッサ11は、所定のプログラムに含まれる命令を実行することにより、データ送信部11a、シナリオ選択部11b、データ項目選択部11c、及び分析結果表示部11dとして機能する。
【0040】
上述のとおり、ユーザ装置10は、監査人によって使用されることが想定されている。データ送信部11aは、監査対象の企業の取引きや仕入れに関する明細データをサーバ20に送信する。明細データは、監査人が監査対象の企業から受け取ったデータである。明細データは、例えば、当該企業の一会計期間における売上げに関する記録、仕入れに関する記録、財務活動に関する記録、及び前記以外の監査人が財務諸表監査のために検討する様々なデータを含むことができる。明細データは、例えば、表形式のデータである。
【0041】
上記のとおり、分析システム1は、様々な不正のシナリオを想定し、この様々なシナリオごとに不正の蓋然性を表すスコアを算出することができる。また、スコアは、分析対象の会計データに含まれるデータ項目のデータ単位で(上記の例では、「部署」というデータ項目に含まれる「部署A」といったデータ単位で)算出されてもよい。シナリオ選択部11bは、分析システム1が想定している複数のシナリオの中から解析の対象とされる解析対象シナリオの選択を受け付けるためのシナリオ選択画面をユーザ装置10のディスプレイに表示することができる。シナリオ選択画面には、ユーザが選択可能なシナリオの選択肢が表示されてもよい。これにより。ユーザ装置10は、ユーザに分析対象とすべき分析対象シナリオを選択するように促すことができる。また、データ項目選択部11cは、サーバ20が分析する会計データに含まれるデータのうち、解析対象とするデータの選択を受け付けるための解析対象データ選択画面をユーザ装置10のディスプレイに表示し、ユーザにスコア取得の対象とすべき解析対象データを選択するように促すことができる。解析対象とすべきデータの選択肢は、シナリオ選択画面にシナリオの選択肢とともに表示されてもよい。
【0042】
このシナリオ選択画面の例を図11に示す。図11に示されているように、シナリオ選択画面は、シナリオの選択肢が表示される領域111と、解析対象データの選択肢が表示されるユーザインタフェース112と、を含む。図11に示されている例では、領域111に、2つのシナリオ(「規則性のある取引日」及び「特定の日付に集中した取引」)がチェックボックスとともに表示されている。ユーザは、所望のシナリオに対応するチェックボックスをチェックすることで、そのシナリオを選択することができる。図11に示されているシナリオは例であり、図示されている以外にも様々なシナリオが想定される。2つ以上の分析対象シナリオが選択されてもよい。ユーザインタフェース112は、ドラムロール式のユーザインタフェースであり、このユーザインタフェースへの操作により、分析対象の会計データに含まれるデータ項目のうちいずれか一つを選択することができる。図示の例では、解析対象のデータ項目として「部署」が選択されている。データ項目の選択後に、そのデータ項目に含まれる具体的なデータ(例えば、「部署A」)が選択可能とされる。解析対象データは2つ以上選択されてもよい。領域111において分析対象シナリオが選択され、ユーザインタフェース112において解析対象データが選択されると、「シナリオを実行」と記載された決定ボタン113が選択可能となり、選択された分析対象シナリオを特定するシナリオ特定データ及び解析対象データを特定する解析対象特定データがサーバ20に通知される。
【0043】
分析結果表示部11dは、サーバ20から分析対象シナリオに対応するスコアを受け取り、受け取ったスコアを含むスコア表示画面をユーザ装置10のディスプレイに表示する。解析対象データの選択も行われた場合には、スコア表示画面は、解析対象データごとに算出されたスコアを含んでもよい。スコア表示画面の例が図12に示されている。図12においては、分析対象シナリオとして「規則性のある取引日」及び「特定の日付に集中した取引」の2つが選択され、解析対象データとして「部署A」~「部署J」がそれぞれ選択されたことが想定されている。図12のスコア表示画面においては、部署A~部署Jのそれぞれについて、「規則性のある取引日」及び「特定の日付に集中した取引」の2つのシナリオの各々について算出されたスコアが表示されている。図12の例では、部署Aのスコアが「規則性のある取引日」及び「特定の日付に集中した取引」のいずれについても比較的高い値となっているため、ユーザ装置10のユーザは、このスコア表示画面の含まれるスコアに基づいて部署Aにおいて架空売上の計上がなされた蓋然性が高いという洞察を得ることができる。図12に示されているように、スコア表示画面においては、スコアが高い順にデータをランキング形式で表示してもよい。図12の例では、「規則性のある取引日」のスコアと「特定の日付に集中した取引」のスコアとの平均(スコア平均)が最も高い「部署A」が最上位に表示されている。監査人は、この結果に基づいて、部署Aが関与する取引において架空売上が計上されていないかを調査することができる。
【0044】
続いて、サーバ20の機能について説明する。サーバ20のプロセッサ21は、所定のプログラムに含まれる命令を実行することにより、データ受付部21a、マッピング部21b、分析部21c、シナリオ受付部21d、データ項目受付部21e、及び分析結果出力部21fとして機能する。
【0045】
データ受付部21aは、ユーザ装置10から送信された明細データを受け付ける。明細データは、例えば、ユーザ装置10のデータ送信部11aによって送信された明細データである。
【0046】
マッピング部21bは、データ受付部21aにより受け付けられた明細データのデータ項目を、サーバ20での処理に適したデータ項目と関連付けるマッピング処理を行う。例えば、サーバ20は、図2に示されている売上明細データ及び図3に示されている仕入明細データを用いてスコアの算出及びそれ以外の処理を行うことができる。この場合、マッピング部21bは、監査対象の企業の取引きや仕入れに関する明細データのデータ項目の各々を図2及び図3に示されている売上明細データ呼び仕入明細データのデータ項目に関連付ける。マッピング部21bによりマッピングされた明細データは、売上明細データ25a及び仕入明細データ25bとしてストレージ25に記憶される。
【0047】
売上明細データ25a及び仕入明細データ25bについて、図2及び図3を参照して説明する。売上明細データ25aは、ユーザ装置10から受信した明細データに基づいてマッピング部21bにより生成された監査対象企業の売上の明細を示すデータである。図2に示されているように、売上明細データ25aは、各レコードを一意に識別する識別番号(売上ID)に、「計上日」、「取引額」、「取引量」、「粗利」、「取引先」、「商品」、「部署」、「販売担当者」、及び「出荷日」の各データ項目のデータ値が関連付けられたデータセットであってもよい。各項目のデータ値は、数値データ又はテキストデータであってもよい。仕入明細データは、ユーザ装置10から受信した明細データに基づいてマッピング部21bにより生成された監査対象企業の仕入の明細を示すデータである。図3に示されているように、仕入明細データ25bは、各レコードを一意に識別する識別番号(仕入ID)に、「仕入日」、「取引額」、「取引量」、「商品」「仕入先」、「部署」、及び「販売担当者」の各データ項目のデータ値が関連付けられたデータセットであってもよい。図2に示されている売上明細データ25a及び図3に示されている仕入明細データ25bは例示であり、分析システム1で使用可能な売上明細データは図2に示されているものには限られず、分析システム1で使用可能な仕入明細データは図3に示されているものには限られない。売上明細データ25aは、図2に示されているデータ項目の一部を含まなくてもよいし図2に記載されていないデータ項目を含んでもよい。同様に、仕入明細データ25bは、、図3に示されているデータ項目の一部を含まなくてもよいし図3に記載されていないデータ項目を含んでもよい。
【0048】
マッピング部21bは、データ受付部21aにより受け付けられた明細データのデータ項目を、ルールベースでサーバ20での処理に適したデータ項目と関連付けてもよい。データ受付部21aにより受け付けられる明細データには、明細データの各データ項目と分析対象の会計データのデータ項目との対応を特定するマッピング情報が含まれていてもよい。図9に、マッピング情報を入力するためのマッピングデータ入力画面の例を表示する。ユーザ装置10のデータ送信部11aは、明細データを送信する前に、ユーザ装置10のディスプレイにマッピングデータ入力画面を表示し、ユーザに分析対象の会計データの各々と対応付けるべき明細データ中のデータ項目の入力を促してもよい。図9に示されているように、マッピングデータ入力画面には、売上明細データ25aに含まれるデータ項目の各々に対応する明細データのデータ項目を入力する入力ウインドウ91と、仕入明細データ25bに含まれるデータ項目の各々に対応する明細データのデータ項目を入力する入力ウインドウ92と、を含んでいる。ユーザは、例えば、9つのウィンドウ91のうち「1.計上日」に関連付けられているウィンドウ91に、売上明細データ25aの「計上日」と対応付けるべき明細データ中のデータ項目を指定することができる。例えば、明細データに含まれる「売上日」を「1.計上日」に関連付けられているウィンドウ91に入力することで、明細データの「売上日」を売上明細データ25aの「計上日」と対応付けることができる。他のデータ項目についても同様にして対応付けを行うことができる。
【0049】
マッピングデータ入力画面には、自動的にマッピングを行うための自動マッピングボタン93が含まれている。ユーザによって自動マッピングボタン93が選択されると、ルールベースで明細データのデータ項目と売上明細データ25a及び仕入明細データ25bとの対応付けが行われる。自動マッピングは、機械学習により調製されたマッピングモデルを適用することで、明細データのデータ項目の各々を売上明細データ25a及び仕入明細データ25bのデータ項目と対応付けることができる。
【0050】
マッピングデータ入力画面には、シナリオごとにスコアの計算に必要とされるデータ項目を表示するシナリオ情報領域94が含まれてもよい。ユーザは、シナリオ情報領域94に表示されている情報を参照して、各シナリオにおいてスコアの計算に必要なデータ項目を把握することができる。図9に示されている例では、「規則のある取引日」のシナリオについてスコアを計算するために、1番目のデータ項目(すなわち、「計上日」)、2番目のデータ項目(すなわち、「取引額」)、及び9番目のデータ項目(すなわち、「出荷日」)のデータ項目が必要なことが示されている。明細データは、企業ごとに管理されるデータであるから、売上明細データ25a及び仕入明細データ25bの各データ項目に対応するデータ項目を必ずしも含んでいない可能性がある。または、企業から監査人へ提供されたデータの網羅性が不十分であるため、売上明細データ25a及び仕入明細データ25bに含まれるデータ項目の一部のデータ項目に対応するデータが、明細データにおいて欠損している可能性がある。ユーザ装置10のユーザは、マッピングデータ入力画面のシナリオ情報領域94を参照することにより、分析を実行しようとするシナリオにおいて必要なデータ項目が明細データに含まれているか否かを確認することができる。そして、分析を実行しようとするシナリオにおいて必要なデータ項目が明細データに含まれていない場合には、企業に対して追加的なデータの提出を求めることができる。
【0051】
本明細書では、ユーザ装置10から提供された明細データに基づいてマッピング部21bにより生成されたデータセットを一般的な会計データと区別するために「分析対象の会計データ」や「分析対象となる会計データ」などと呼ぶ。売上明細データ25a及び仕入明細データ25bは、分析対象の会計データに含まれる。
【0052】
分析部21cは、不正のシナリオごとに定められたスコア算出ロジックに従って分析対象の会計データを分析することで、複数のシナリオの各々についてスコアを算出する。分析部21cが対象会計データの分析に用いるシナリオデータ25cの例を図4に示す。図示されているように、シナリオデータ25cは、サーバ20が想定している複数のシナリオの各々を一意に識別するシナリオ識別情報に、「シナリオ名」、「必要データ項目」、及び「算出ロジック情報」が対応付けられたデータセットであってもよい。「シナリオ名」は、シナリオの特徴又はシナリオの名称を表すテキストデータである。「必要データ項目」は、分析対象の会計データのうちスコアの算出に使用されるデータ項目を特定するデータである。スコア算出ロジックは、スコアの算出に用いられるロジックを特定するデータである。あるシナリオについての「算出ロジック情報」は、当該シナリオに関するスコアを算出するために使用されるロジックを特定する情報(例えば、関数名)であってもよい。図4の例では、シナリオ名として上述した「規則性のある取引日」が格納されている。このシナリオに基づいてスコアを算出するためには、売上を計上した「計上日」のデータ値が必要であるため、「必要データ項目」には「売上明細:計上日」が格納されている。算出ロジックに応じて、スコアの算出に必要なデータが変わり得る。図示されているシナリオデータ25cは例示であり、本発明に適用可能なシナリオデータ25cは、図示のものには限られない。
【0053】
分析部21cは、分析対象の会計データに含まれる複数のデータ項目のうちの特定のデータ項目に含まれるデータごとにスコアを算出してもよい。例えば、分析対象の売上明細データ25aのデータ項目のうち「部署」というデータ項目に「部署A」~「部署J」のデータが含まれる場合、この「部署A」~「部署J」の各々について個別にスコアが算出されてもよい。上述のとおり、「部署A」について個別のスコアが算出される場合には、分析対象の会計データ全体のうち、「部署A」に関連するデータのみを用いてスコアが算出される。
【0054】
分析部21cにより算出されたスコアデータ25dとしてストレージ25に格納される。図5にスコアデータ25dの例を示す。スコアデータ25dは、分析部21cによって算出されたスコアを識別するスコアIDに、そのスコアを算出する際に選択されたシナリオを特定する「シナリオ識別情報」、スコアの算出が特定のデータ項目に含まれるデータ単位で行われた場合には、そのスコア計算の単位となったデータを示す「データ単位」、及び算出された「スコア」が対応付けられたデータセットであってもよい。
【0055】
分析部21cによるスコアの算出方法の具体例について図6及び図7を参照して説明する。図6は、「規則性のある取引日」のシナリオについてのスコアの算出の具体例を説明する説明図であり、図7は、「特定の日付に集中した取引」のシナリオについてのスコアの算出の具体例を説明する説明図である。「規則性のある取引日」のシナリオにおいては、取引日の間隔に一定の規則性がある取引ほど架空売上のリスクが高いという仮説の下で、分析対象の会計データから計算される取引間隔と架空売上を含まない場合の取引間隔のモデルとを比較してスコアが算出される。図6は、横軸が取引間隔日数を表し縦軸が取引間隔日数ごとの取引回数を示す。グラフ60は、架空売上を含まないと仮定した取引間隔日数ごとの取引回数の分布モデルを示す。また、グラフ61は、売上明細データ25aのうち部署Fが関与した取引を抽出し、この部署Fについて抽出されたデータに基づいて計算された取引間隔日数ごとの取引回数の分布を示し、グラフ62は、売上明細データ25aのうち部署Aが関与した取引を抽出し、この部署Aについて抽出されたデータに基づいて計算された取引間隔日数ごとの取引回数の分布を示す。「規則性のある取引日」のシナリオにおける部署Fのスコアは、部署Fについての取引間隔日数と取引回数の関係を示すグラフ61と架空売上を含まない場合の取引間隔日数と取引回数のモデルを示すグラフ60とのユークリッド距離を取引間隔日数ごとに算出し、算出したユークリッド距離を合算した上で0~1.0の範囲に正規化した値とされる。同様に、「規則性のある取引日」のシナリオにおける部署Aのスコアは、部署Aについてのグラフ62と架空売上がない場合のグラフ60とのユークリッド距離を取引間隔日数ごとに算出し、算出したユークリッド距離を合算した上で0~1.0の範囲に正規化した値とされる。
【0056】
図6に示されている例では、グラフ62とグラフ60とのユークリッド距離の合計がグラフ61とグラフ60とのユークリッド距離の合計よりも大きいので、「規則性のある取引日」については部署Aについてのスコアが部署Fについてのスコアよりも大きくなる。同様の計算を部署A~部署Jの各々について行う。スコアは、他のデータ項目のデータごとに算出されてもよい。例えば、「取引先」のデータ項目に含まれるデータ、「商品」のデータ項目に含まれるデータ、「販売担当者」の項目に含まれるデータごとに同じスコア算出ロジックに従ってスコアが算出されてもよい。取引先ごとにスコアを算出することにより、架空売上に特定の取引先が関与している可能性があるとの洞察を得ることができる。商品ごとにスコアを算出することにより、特定の商品が架空取引のために利用されている可能性があるとの洞察を得ることができる。販売担当者ごとにスコアを算出することにより、特定の販売担当者が架空取引に関与している可能性があるとの洞察を得ることができる。監査人は、これらの洞察に基づいて、架空売上が行われていないかどうかの調査を、特定の部署、特定の取引先、特定の商品、及び/又は特定の販売担当者について行うことができる。このような仮説または洞察が得られることにより、不正を発見する確度を高めることが期待できる。
【0057】
「特定の日付に集中した取引」のシナリオにおいては、毎月同日に取引が行われているほど架空売上のリスクが高いという仮説の下、分析対象の売上明細データ25aに含まれる「計上日」からから年及び月の情報を除いた取引日データと架空売上を含まない場合の取引日の分布のモデルとを比較してスコアが算出される。図7は、横軸が取引日データ(「1」~「31」の整数)を表し縦軸が各取引日における取引回数を示す。グラフ70aは、分析対象の会計データが記録された会計期間(1年間)における部署Fの総取引回数を365で割った値を縦軸の値とするグラフである。つまり、グラフ70aは、分析対象の会計データが記録された1年間における部署Fの1日当たりの平均取引回数を示している。同様に、グラフ70bは、分析対象の会計データが記録された1年間における部署Aの1日当たりの平均取引回数を示している。グラフ71は、売上明細データ25aのうち部署Fが関与した取引を抽出し、この部署Fについて抽出されたデータに基づいて取引日ごとの取引回数の分布を示すグラフであり、グラフ72は、売上明細データ25aのうち部署Aが関与した取引を抽出し、この部署Aについて抽出されたデータに基づいて計算された取引日ごとの取引回数の分布を示すグラフである。「特定の日付に集中した取引」のシナリオにおける部署Fのスコアは、部署Fについての取引日と取引回数の関係を示すグラフ71と部署Fの平均取引回数を示すグラフ70aとのユークリッド距離を取引日ごとに算出し、算出したユークリッド距離を合算した上で0~1.0の範囲に正規化した値とされる。同様に、「特定の日付に集中した取引」のシナリオにおける部署Aのスコアは、部署Aについてのグラフ72と部署Aの平均取引回数を示すグラフ70bとのとのユークリッド距離を取引日ごとに算出し、算出したユークリッド距離を合算した上で0~1.0の範囲に正規化した値とされる。図7に示されている例では、グラフ72とグラフ70bとのユークリッド距離の合計を正規化した値がグラフ71とグラフ70aとのユークリッド距離の合計を正規化した値よりも大きいので、「特定の日付に集中した取引」についても部署Aについてのスコアが部署Fについてのスコアよりも大きくなる。
【0058】
シナリオ受付部21dは、ユーザ装置10から送信された分析対象シナリオを特定するシナリオ特定データに基づいて、サーバ装置20が想定している複数のシナリオのうちどのシナリオが選択されたかを特定する。
【0059】
データ項目受付部21eは、ユーザ装置10から送信された解析対象データを特定する解析対象特定データに基づいて解析対象データを特定する。
【0060】
分析結果出力部21fは、シナリオ受付部21dにより特定された分析対象シナリオ及びデータ項目受付部21eにより特定された解析対象データに対応する一又は複数のスコアをスコアデータ25dから抽出し、抽出したスコアをユーザ装置10に送信する。
【0061】
続いて、図8を参照して、会計データに基づいて不正の蓋然性を表すスコアを算出するスコア算出処理の流れを説明する。まず、ステップS11において、ユーザ装置10からサーバ20に明細データが送信され、この明細データがサーバ20において受信される。ユーザ装置10は、監査対象の企業から受け取った明細データをそのままサーバ20に送信してもよいし、図9に示されているマッピングデータ入力画面に基づいて対応漬けを指定した上でサーバ20に送信してもよい。
【0062】
次に、処理はステップS12に進み、ステップS12において、サーバ20で受信された明細データにマッピング処理が行われる分析対象となる会計データが生成される。例えば、明細データに基づいて売上明細データ25a及び仕入明細データ25bが生成されてもよい。ステップS12におけるマッピング処理は、上記のマッピング部21bにより行われてもよい。
【0063】
次に、処理はステップS13に進む。ステップS13では、ステップS12で生成された分析対象の会計データに基づいて、複数のシナリオの各々について、分析対象の会計データに不正が存在する蓋然性を示すスコアが算出される。スコアは、分析対象の会計データに含まれる複数のデータ項目のうちの特定のデータ項目に含まれるデータごとに算出されてもよい。例えば、「部署」のデータ項目に含まれる各データ(「部署A」~「部署J」)の各々について個別にスコアが算出されてもよい。スコアの算出は、例えば、上記の分析部21cにおいて行われる。以上のようにして算出されたスコアは、スコアデータ25dとしてストレージ25に格納される。
【0064】
続いて、図10を参照して、スコアを出力するスコア出力処理の流れについて説明する。まず、ステップS21において、ユーザ装置10のユーザによって分析対象としたいシナリオが分析対象シナリオとして選択される。分析対象シナリオは、例えば、図11に示されているシナリオ選択画面において選択される。複数の分析対象シナリオが選択されてもよい。
【0065】
分析対象シナリオが選択されると、処理は、ステップS22に進む。ステップS22においては、ユーザが解析対象としたいデータが解析対象データとして選択される。解析対象データは、図11に示されているシナリオ選択画面において、ユーザインタフェース112への操作に応じて選択される。複数の分析対象データが選択されてもよい。
【0066】
シナリオ選択画面において決定ボタンが選択されると、ステップS21で選択された分析対象シナリオを特定するシナリオ特定データ及びステップS22で選択された解析対象データを特定する解析対象特定データがサーバ20に通知される。
【0067】
次に、処理はステップS23に進む。ステップS23においては、シナリオ特定データにより特定される分析対象シナリオ、及び、解析対象特定データにより特定される解析対象データに対応するスコアがスコアデータ25dから抽出され、抽出されたスコアがユーザ装置10においてディスプレイに表示される。スコアの抽出及びユーザ装置10への送信は、例えば、上述した分析結果出力部21fによって行われる。ユーザ装置10においては、図12に例示されているスコア表示画面がディスプレイに表示される。スコア表示画面は、解析対象特定データにより特定される解析対象データに対応するスコアを含んでいる。ユーザ装置10のユーザは、スコア表示画面に表示されているスコアに基づいて、解析を希望したシナリオに関して、分析を希望したデータのスコアを入手することができる。ユーザ装置10のユーザ(主に監査人)は、スコア表示画面に表示されているスコアに基づいて、財務諸表監査を効率良く行うことができる。例えば、図12に示されている例のいいては、部署Aに関して架空売上の不正が行われた蓋然性を示すスコアが高く表示されているため、部署Aが関与する取引において架空売上が計上されていないかを調査することができる。
【0068】
本明細書において説明された処理手順、特にフロー図を用いて説明された処理手順においては、その処理手順を構成する工程(ステップ)の一部を省略すること、その処理手順を構成する工程として明示されていない工程を追加すること、及び/又は当該工程の順序を入れ替えることが可能であり、このような省略、追加、順序の変更がなされた処理手順も本発明の趣旨を逸脱しない限り本発明の範囲に含まれる。例えば、図10に示されているステップS21及びステップS22は並行して処理することが可能であり、ステップS22をステップS21よりも先に実行することも可能である。
【0069】
本明細書中で説明される処理及び手順が単一の装置、ソフトウェア、コンポーネント、モジュールによって実行される旨が説明されたとしても、そのような処理または手順は複数の装置、複数のソフトウェア、複数のコンポーネント、及び/又は複数のモジュールによって実行され得る。また、本明細書中で説明されるデータ、テーブル、又はデータベースが単一の記憶装置(ストレージやメモリ)に格納される旨説明されたとしても、そのようなデータ、テーブル、又はデータベースは、単一の装置に備えられた複数の記憶装置または複数の装置に分散して配置された複数の記憶装置に分散して格納され得る。さらに、本明細書において説明されるソフトウェアおよびハードウェアの要素は、それらをより少ない構成要素に統合して、またはより多い構成要素に分解することによって実現することも可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 分析システム
10 ユーザ装置
20 サーバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
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図12