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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163017
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】溶接ワイヤ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/30 20060101AFI20241114BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20241114BHJP
   C21D 8/06 20060101ALI20241114BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
B23K35/30 320A
C22C38/38
C21D8/06 A
C22C38/00 301Y
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024061221
(22)【出願日】2024-04-05
(31)【優先権主張番号】112117230
(32)【優先日】2023-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】598081849
【氏名又は名称】中国鋼鉄股▲フウン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】CHINA STEEL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】No.1,CHUNG-KANG ROAD,HSIAO-KANG DISTRICT,KAOHSIUNG CITY,TAIWAN,
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】蔡 宇庭
(72)【発明者】
【氏名】張 恆碩
(72)【発明者】
【氏名】王 盈皓
(72)【発明者】
【氏名】林 孟霖
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA04
4K032AA11
4K032AA17
4K032AA31
4K032AA35
4K032BA02
4K032CA02
4K032CC03
4K032CD01
4K032CD02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】溶接ビードめっき性に優れた溶接ワイヤ成分及びその製造方法を提供する。
【解決手段】製造方法は、ビレットの総重量を100wt.%とし、前記ビレットの成分が、炭素含有量:0.02~0.10wt.%、マンガン含有量:2.00~3.00wt.%、ケイ素含有量:0.01~0.25wt.%、クロム含有量:0.10~0.5wt.%、チタン含有量:0.10~0.3wt.%、及び不可避的不純物、残部鉄からなり、前記ビレットの成分が(マンガン含有量/2+チタン含有量+クロム含有量/1.33)/ケイ素含有量>5という判定式を満たす前記ビレットを提供する工程と、前記ビレットを加熱する工程と、加熱した前記ビレットを熱間圧延して線材を形成する工程と、熱間圧延により形成した前記線材を徐冷する工程と、徐冷した前記線材を冷間伸線して溶接ワイヤを製造する工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビレットの総重量を100wt.%とし、前記ビレットの成分が、炭素含有量:0.02~0.10wt.%、マンガン含有量:2.00~3.00wt.%、ケイ素含有量:0.01~0.25wt.%、クロム含有量:0.10~0.5wt.%、チタン含有量:0.10~0.3wt.%、及び不可避的不純物、残部鉄からなり、前記ビレットの成分が(マンガン含有量/2+チタン含有量+クロム含有量/1.33)/ケイ素含有量>5という判定式を満たす前記ビレットを提供する工程と、
前記ビレットを加熱する工程と、
加熱した前記ビレットを熱間圧延して、線材を形成する工程と、
熱間圧延により形成した前記線材を徐冷する工程と、
徐冷した前記線材を冷間伸線して、溶接ワイヤを形成する工程と、を含む溶接ワイヤの製造方法。
【請求項2】
前記ビレットのケイ素含有量/マンガン含有量の比率が0.2~1である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記加熱する工程において、前記ビレットの温度が1000~1050℃となるように、前記ビレットを加熱する請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記熱間圧延する工程において、圧延温度が820~1000℃であり、圧延終了温度を800~850℃にする請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記徐冷する工程において、冷却速度が0.1~5℃/秒である請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記溶接ワイヤ中のマルテンサイトの比率が5%未満である請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
溶接ワイヤの総重量を100wt.%とし、前記溶接ワイヤの成分が、炭素含有量:0.02~0.10wt.%、マンガン含有量:2.00~3.00wt.%、ケイ素含有量:0.01~0.25wt.%、クロム含有量:0.10~0.5wt.%、チタン含有量:0.10~0.3wt.%、及び不可避的不純物、残部鉄からなり、前記溶接ワイヤの成分が(マンガン含有量/2+チタン含有量+クロム含有量/1.33)/ケイ素含有量>5という判定式を満たす溶接ワイヤ。
【請求項8】
前記溶接ワイヤのケイ素含有量/マンガン含有量の比率が0.2~1である請求項7に記載の溶接ワイヤ。
【請求項9】
前記溶接ワイヤ中のマルテンサイトの比率が5%未満である請求項7に記載の溶接ワイヤ。
【請求項10】
前記溶接ワイヤはナノオーダ炭化チタン析出物を含有する請求項7に記載の溶接ワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤ及びその製造方法に関し、特に溶接ビードめっき性に優れた溶接ワイヤ成分及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスシールドアーク溶接は、不活性ガスでアークをシールドして溶接を行う溶接方法である。他の溶接方法と比較して、ガスシールドアーク溶接は、溶接速度が速く、自動化プロセスへの適用が容易であるため、業界で最もよく見られる溶接プロセスである。
【0003】
しかしながら、不活性ガスの選択は、アークの形態に影響を及ぼし、溶接時の溶滴(droplet)の形状を変化させる。
【0004】
100%の二酸化炭素をシールドガスとして用いると、二酸化炭素がアークの超高温環境下にあるため、ガス分子の分解をもたらす。二酸化炭素の分解時に熱エネルギーを吸収し、アークを冷却する効果があるため、アークが狭い領域の溶接ワイヤのみに集中するが、溶滴はグロビュール移行(globular transfer)を形成することで、溶接ビードの溶融域を狭くする。
【0005】
100%のアルゴンガスをシールドガスとして用いると、アルゴンガスは反応に関与しない単原子不活性ガスであるため、アークが長くなり、アークが不安定になりやすく、流れたり、揺れたりしやすい。従って、業界では、アルゴンガスに少量の二酸化炭素を混合し、両者の利点を組み合わせて良好な溶接ビード品質を達成することが一般的である。
【0006】
しかしながら、二酸化炭素はアークの作用により分解し、遊離した酸素も溶接ビードに混入する。鉄鋼内の一般的な合金元素であるケイ素は、酸素と反応しやすい。そのため、溶接の際に、ケイ素が鉄、炭素に先立って、酸素と優先的に反応してケイ素酸化物であるスラグを形成する。溶接時に、スラグが生成している場合に、酸素を除去すると、溶接ビード内の鉄や炭素が大量に酸化されることを防止できる。
【0007】
スラグが溶接ビードの表面に付着して、溶接ビードの外観に影響を及ぼす。また、ケイ素をベースとしたスラグは、耐酸性、耐アルカリ性、非導電性であり、被溶接ワークの後工程(例えば酸洗時)を施す際に、スラグが付着した領域の洗浄が困難となる。その後の電気めっきを行う際に、表面の酸化ケイ素を含む領域にメッキされていないスポットが形成される。
【0008】
また、ケイ素酸化物と鉄鋼との熱膨張係数や、格子の違いが大きいため、ワークの使用時間が経過するにつれて、ケイ素酸化物と鉄鋼との間に残留応力が徐々に蓄積し、ケイ素酸化物の付着性が低下し、さらに脱落して鋼材表面から露出する。腐食は、通常、酸化ケイ素が脱落する箇所から生じる。そのため、被溶接ワークの表面にスラグが残留すると、耐食性が悪くなる。
【0009】
スラグ生成を低減するために、従来技術は、いずれもケイ素含有量を低減するという同様の方法を採用している。例えば、ケイ素含有量を0.15%以下に低減する。ケイ素含有量を低減することにより、ケイ素含有スラグの生成を低減することができる。しかしながら、ケイ素は溶銑の溶製工程によく見られる脱酸剤であり、スラグ生成元素であるため、ケイ素成分を0.15%以下にすることが困難である。また、従来技術では、溶接ワイヤの合金成分をSi×Mn≦0.3、(Si+Mn/5)/(Ti+Al)≦3の条件式を満たすように制御している。しかし、合金中のマンガン含有量が2%以上である場合に、ケイ素含有量を0.15%以下にする必要があり、同様に鉄鋼製錬工程において制御することが困難である。
【0010】
ケイ素の成分範囲を向上させるとともに、スラグの生成を防止するために、溶接ワイヤの成分を設計する必要がある。また、溶接ワイヤは多パスの抜取工程を経るため、熱間圧延組織も制御する必要がある。
【0011】
したがって、従来技術に存在する課題を解決するために、溶接ビードめっき性に優れた溶接ワイヤ及びその製造方法を提供する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、合金設計を工夫することにより、溶接ワイヤ成分中のケイ素含有量を増加させることができ、鉄鋼製錬時に容易になる、溶接ビードめっき性に優れた溶接ワイヤ成分及びその製造方法を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、マンガン、クロム、チタン等の合金元素の成分を設計し、さらにスラグを改質することにより、溶接ビード表面にケイ素を含むスラグが見かけ上存在しないようにし、その後のめっきでめっきされていないスポットが発生して製品の品質に影響を与えることなく、溶接ビードめっき性に優れた溶接ワイヤ成分及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明は、ビレットの総重量を100wt.%とし、前記ビレットの成分が、炭素含有量:0.02~0.10wt.%、マンガン含有量:2.00~3.00wt.%、ケイ素含有量:0.01~0.25wt.%、クロム含有量:0.10~0.5wt.%、チタン含有量:0.10~0.3wt.%、及び不可避的不純物、残部鉄からなり、前記ビレットの成分が(マンガン含有量/2+チタン含有量+クロム含有量/1.33)/ケイ素含有量>5という判定式を満たす前記ビレットを提供する工程と、前記ビレットを加熱する工程と、加熱した前記ビレットを熱間圧延して線材を形成する工程と、熱間圧延により形成した前記線材を徐冷する工程と、徐冷した前記線材を冷間伸線して溶接ワイヤを製造する工程と、を含む溶接ワイヤの製造方法を提供する。
【0015】
本発明のいくつかの実施例において、前記ビレットのケイ素含有量/マンガン含有量の比率が0.2~1である。
【0016】
本発明のいくつかの実施例において、前記加熱する工程において、前記ビレットの温度が1000~1050℃となるように、前記ビレットを加熱する。
【0017】
本発明のいくつかの実施例において、前記熱間圧延する工程において、圧延温度が820~1000℃であり、圧延終了温度を800~850℃にする。
【0018】
本発明のいくつかの実施例において、前記徐冷する工程において、冷却速度が0.1~5℃/秒である。
【0019】
本発明のいくつかの実施例において、前記溶接ワイヤ中のマルテンサイトの比率が5%未満である。
【0020】
また、本発明は、溶接ワイヤの総重量を100wt.%とし、前記溶接ワイヤの成分が、炭素含有量:0.02~0.10wt.%、マンガン含有量:2.00~3.00wt.%、ケイ素含有量:0.01~0.25wt.%、クロム含有量:0.10~0.5wt.%、チタン含有量:0.10~0.3wt.%、及び不可避的不純物、残部鉄からなり、前記溶接ワイヤの成分が(マンガン含有量/2+チタン含有量+クロム含有量/1.33)/ケイ素含有量>5という判定式を満たす溶接ワイヤをさらに提供する。
【0021】
本発明のいくつかの実施例において、前記溶接ワイヤのケイ素含有量/マンガン含有量の比率が0.2~1である。
【0022】
本発明のいくつかの実施例において、前記溶接ワイヤ中のマルテンサイトの比率が5%未満である。
【0023】
本発明のいくつかの実施例において、前記溶接ワイヤはナノオーダ炭化チタン析出物を含有する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は本発明の実施例の溶接ワイヤの製造方法を示すフローチャートである。
図2図2は本発明の実施例の酸化物のエリンガムダイアグラム(Ellingham diagram)である。
図3図3は本発明の実施例の熱間圧延組織の電子顕微鏡による図である。
図4図4は本発明の実施例の溶接後の溶接ビード表面の電子顕微鏡による図である。
図5図5は本発明の実施例の溶接後の溶接ビード表面の電子顕微鏡による図である。
図6図6は本発明の実施例の溶接ビード内部の組織及び介在物の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以上の本発明の内容及び他の目的、特徴、利点をより明確に理解しやすくするために、以下、本発明の好ましい実施例を挙げて、添付図面を参照しながら詳細に説明する。さらに、上、下、頂、底、前、後、左、右、内、外、側面、周囲、中央、水平、横方向、垂直、縦方向、軸方向、径方向、最上層又は最下層などの本発明で言及される方向用語は、単に添付の図面を参照する方向に過ぎない。したがって、使用される方向用語は、本発明を説明し理解するためのものであり、本発明を限定するためのものではない。
【0026】
本明細書で説明されるように、変数の数値範囲への言及は、変数がその範囲内の任意の値に等しいことを示すことを意図する。したがって、それ自体が不連続である変数については、この変数は、この範囲の端点を含む数値範囲内の任意の整数値に等しい。同様に、それ自体が連続している変数については、この変数は、この範囲の端点を含む数値範囲内の任意の実数値に等しい。例として、限定するものではないが、変数自体が不連続である場合、0~2の間の値を有すると記述される変数は、0、1又は2の値をとり、変数自体が連続である場合、0.0、0.1、0.01、0.001の値、又は、0以上2以下の任意の他の実数値をとる。
【0027】
以下、本発明の設計原理を理解しやすくするために、本発明の溶接ワイヤの各成分が溶接に与える影響について説明する。
【0028】
炭素(C):炭素が溶接後の強度に影響を与えることがある。一般的に、炭素含有量が高くなると、溶接後の硬度が高くなる。炭素含有量が0.02%未満であると、溶接後の硬度が不足するおそれがあり、炭素含有量が高すぎると、溶接後の硬脆組織の比率が高くなるため、硬度が高くなるが、靭性が不良となるおそれがある。溶接後の靭性は、溶接後の熱処理によって改善されるが、熱処理によりコストを高め、ワークの加工時間を長くし、生産コストを高める。そこで、本発明では、溶接ワイヤの炭素成分上限を約0.15%とする。
【0029】
ケイ素(Si)、ケイ素はよく見られる脱酸剤であり、溶接の際に、ケイ素は鉄に先立って、酸素と優先的に反応して、ケイ素の酸化物を形成する。したがって、従来技術は、ケイ素成分を低減することにより、ケイ素含有スラグの生成を防止して、耐食性を向上させる。一方、ケイ素を添加すると、固溶強化により、溶接ビードの硬度を高めることができる。後述するように、マンガン、クロム、チタンの成分設計により、スラグの改質を行った後、合金製錬のマージンを向上させることができるので、本発明は、ケイ素を0.01~0.25wt.%に設計する。
【0030】
マンガン(Mn):溶接時に、マンガンは硫黄を捕捉し、硫化マンガン(MnS)を形成し、硫化鉄(FeS)の生成を防止する。硫化鉄の融点が低いため、溶接時の冷熱変化が大きいため、収縮膨張による熱応力が発生する。組織内に硫化鉄等の低融点の液化相が存在すると、溶接時に高温割れが発生する。マンガンはフェライト相変態を遅らせることができるので、溶接ビード組織を調整し、溶接後の強度を高めることができる。また、マンガンも脱酸の効果がある。さらに、図2のEllinghamダイアグラムを参照すると、マンガンの脱酸能はケイ素にわずかに劣るだけであることが分かる。マンガンの酸化物が生成する場合に、酸化マンガンの導電性が導体の範疇に入るので、酸化マンガンは後続の電気めっきプロセスに影響を与えず、めっきされていないスポットが形成されることはない。しかし、マンガン含有量が高すぎると、溶接後の組織にマルテンサイトが生成し、溶接ビードの硬度が高すぎて、靭性が低下し、低温割れが発生しやすくなる。したがって、本発明のマンガンを2.00~3.00wt.%に設計する。
【0031】
クロム(Cr):クロムはフェライト相変態を遅らせることができるので、溶接ビード組織を調整し、溶接後の強度を高めることができる。クロムも脱酸の効果がある。しかしながら、クロム酸化物は導電性がやや低いため、補助としてのみ使用される。したがって、本発明のクロムを0.10~0.5wt.%に設計する。
【0032】
チタン(Ti):チタンは強い脱酸素効果を有する。また、溶接ビード内において、チタンにより生成される酸化物は、針状フェライト群の生成を促進するので、溶接ビードによる機械的強度及び靭性の向上に役立つ。しかしながら、チタン含有量が高すぎると、チタンが熱間圧延後に炭素と結合してナノオーダの炭化チタン(TiC)析出物を生成し、鋼材の強度を大幅に向上させる。溶接ワイヤを製造する際に、大きな変形を伴う伸線工程を経る必要があるため、高強度の溶接ワイヤにより、冷間伸線加工が困難となり、金型の損耗をもたらし、さらに伸線割れを生じる。したがって、本発明のチタンの添加量を0.10~0.3wt.%に設計する。
【0033】
上記設計原理に基づいて、本発明は、ビレットの総重量を100wt.%とし、前記ビレットの成分が、炭素含有量:0.02~0.10wt.%、マンガン含有量:2.00~3.00wt.%、ケイ素含有量:0.01~0.25wt.%、クロム含有量:0.10~0.5wt.%、チタン含有量:0.10~0.3wt.%、及び不可避的不純物、残部鉄からなり、前記ビレットの成分が(マンガン含有量/2+チタン含有量+クロム含有量/1.33)/ケイ素含有量>5という判定式を満たす前記ビレットを提供する工程と、前記ビレットを加熱する工程と、加熱した前記ビレットを熱間圧延して線材を形成する工程と、熱間圧延により形成した線材を徐冷する工程と、徐冷した前記線材を冷間伸線して溶接ワイヤを製造する工程と、を含む溶接ワイヤの製造方法を提案する。
【0034】
マンガン、クロム、チタンの成分を設計することにより、スラグの改質を行うことができる。このため、溶接後の溶接ビード表面に均一な酸化鉄薄膜を形成することができ、表面にケイ素を主とするスラグが生成することを防止するので、めっき性が向上する。改質後の成分は、溶接ワイヤ成分中のケイ素のマージンが増加し、鉄鋼製錬時に容易になる。
【0035】
本発明の一実施例による溶接ワイヤは、(1)ビレットを線材円盤状部材に熱間圧延する工程と、(2)線材を冷間伸線して溶接ワイヤとする工程の2つの工程を用いて製造される。熱間圧延を行う際に、ビレット(例えば、小型ビレット)を、加熱プロセスを通じて、1000~1050℃(例えば、約1030℃)の温度で再加熱する必要がある。再加熱温度が高すぎると、炭化チタンが固溶してしまう。チタンは熱間圧延後に炭素と結合し、ナノオーダの炭化チタン析出物を生成し、鋼材の強度を大幅に向上させ、冷間伸線加工が困難になり、金型の損耗を増加させる。再加熱の温度が低すぎると、熱間圧延ローラの損耗が大きくなり過ぎ、圧延機の負荷が増加しやすくなり、圧延ムラが発生する。
【0036】
熱間圧延工程では、約820~1000℃の圧延温度が使用され、圧延終了温度を800~850℃(例えば約820℃)に設定する。圧延終了温度が高すぎると、熱間圧延後に組織の結晶粒が粗大となり、後続の伸線に不利となる。また、成分中にマンガンを2~3%含むため、粗大な熱間圧延組織により島状マルテンサイトが生成し、伸線後の断線が発生しやすくなる。圧延終了温度が低すぎると、圧延機の負荷が増加しやすくなり、圧延ムラが発生する。熱間圧延後の徐冷工程では、熱間圧延された線材をステルモア(Stelmor)冷却コンベア上に分散させて徐冷し、冷却速度を約0.1~5℃/秒にするように設計する。冷却速度が高すぎると、線材がベイナイト、マルテンサイトを形成し、後続の伸線に不利となる。冷却速度が低すぎると、生産収率が低すぎて、生産コストが高くなる。熱間圧延により製造された線材は、多パスの冷間伸線加工を経て、溶接ワイヤとして製造することができる。
【実施例0037】
溶接時の酸化反応が発生すると、以下のような反応が生じる。
Si+O→SiO
4/3Cr+O→2/3Cr
Ti+O→TiO
2Mn+O→2MnO
【0038】
したがって、本発明は、酸素がケイ素によって捕捉される比率に対するマンガン、クロム、チタンによって捕捉される比率を表す指数αを設計し、ここで、α=(Mn/2+Ti+Cr/1.33)/Siである。α値が大きいほど、酸素がマンガン、クロム、チタンによって捕捉される比率が高くなることが予想される。本発明の実施例の成分を表1に示す。本発明は、α値が5を超えることにより、溶接後の溶接ビードの性能に優れ、具体的な結果は以下のとおりである。
【0039】
【表1】
【0040】
図3に示すように、本発明の実施例の熱間圧延された後の熱間圧延組織の結果を示し、体積分率で95%を超えるフェライト及び5%未満のマルテンサイト組織を含む。
【0041】
したがって、所望により、前記溶接ワイヤ中のマルテンサイトの比率が5%未満であるように設計される。
【0042】
図4は本発明の実施例の溶接後の溶接ビード表面の電子顕微鏡による図である。図4に示すように、目視ではいずれも表面にスラグがないことを確認できた。
【0043】
図5は本発明の実施例の溶接後の溶接ビード表面の電子顕微鏡による図である。α値が最も低い実施例1を選択して溶接ビード表面を解析した。図5に示すように、ケイ素に富む酸化物は存在しなかった。図6は本発明の実施例の溶接ビード内部の組織及び介在物の分布を示す図である。図6に示すように、多くの介在物(即ち酸化物)が見られた。酸化物の成分は、介在物の成分を測定することによって評価され、本発明の実施例のケイ素/マンガン(Si/Mn)比は、約0.2~1である。比較例の成分は、ケイ素/マンガン(Si/Mn)比が約1.5以上である。
【0044】
したがって、所望により、前記溶接ワイヤのケイ素含有量/マンガン含有量の比率が0.2~1であるように設計される。
【0045】
本発明の実施例に係る溶接ワイヤの成分を例示的に調整することにより、スラグ性が改良され、ケイ素酸化物が生成されにくくなるため、表面品質、めっき性が向上する。
【0046】
本発明は、マンガン、クロム、チタンなどの合金元素の成分を設計することにより、スラグの改質を行うことができる。溶接ワイヤの成分は、2~3%のマンガン、0.1~0.3%のチタン、及び補助的に0.1~0.5%のクロムを使用するように設計されているため、例えば、約0.25wt.%のケイ素含有量に達することができる。さらに、合金組成は、α>5(ここで、α=(マンガン含有量/2+チタン含有量+クロム含有量/1.33)/ケイ素含有量)を満たし、試験後の表面に、見かけ上ケイ素を含むスラグのない表面を達成することができる。このようにすると、後続のめっき時にめっきされていないスポットが発生することがない。
【0047】
また、本発明の溶接ワイヤ線材の製造時に、1000~1050℃の間(例えば、約1030℃)の低い出炉温度で固溶して炭化チタンの固溶を減少させる必要があり、炭化チタンが多量に固溶すると、チタンが熱間圧延後に炭素と結合してナノオーダの炭化チタン析出物を生成し、溶接ワイヤ線材の強度が高くなりすぎる傾向にある。熱間圧延温度を約820~1000℃にし、圧延終了温度を約800~850℃(例えば、約820℃)にすることにより、フェライトの生成を促進する。圧延終了温度が高すぎると、島状マルテンサイト組織が現れ、マルテンサイト組織が伸線割れをもたらす。また、出炉温度や、圧延終了温度が低すぎると、圧延機に負荷がかかりにくくなる。
【0048】
圧延が終了した線材は分散された後、ステルモア(Stelmor)冷却コンベア上で0.1~5℃/秒の冷却速度で冷却される。冷却速度が高すぎると、強度の高いベイナイト、マルテンサイトを形成し、後続の伸線が困難となる。冷却速度が低すぎると、収率が低すぎる。
【0049】
また、本発明は、溶接ワイヤの総重量を100wt.%とし、前記溶接ワイヤの成分が、炭素含有量:0.02~0.10wt.%、マンガン含有量:2.00~3.00wt.%、ケイ素含有量:0.01~0.25wt.%、クロム含有量:0.10~0.5wt.%、チタン含有量:0.10~0.3wt.%、及び不可避的不純物、残部鉄からなり、前記溶接ワイヤ成分が(マンガン含有量/2+チタン含有量+クロム含有量/1.33)/ケイ素含有量>5という判定式を満たす溶接ワイヤをさらに提供する。
【0050】
本発明のいくつかの実施例において、前記溶接ワイヤのケイ素含有量/マンガン含有量の比率が0.2~1である。
【0051】
本発明のいくつかの実施例において、前記溶接ワイヤ中のマルテンサイトの比率が5%未満である。
【0052】
本発明のいくつかの実施例において、前記溶接ワイヤはナノオーダ炭化チタン析出物を含有する。
【符号の説明】
【0053】
S100:溶接ワイヤの製造方法
S101~S105:ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6