(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163018
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】水素発生装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20241114BHJP
C25B 1/02 20060101ALI20241114BHJP
C25B 13/07 20210101ALI20241114BHJP
C01G 25/00 20060101ALI20241114BHJP
C12P 3/00 20060101ALN20241114BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20241114BHJP
【FI】
C12M1/00 D
C25B1/02
C25B13/07
C01G25/00
C12P3/00 Z
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024061578
(22)【出願日】2024-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2023077878
(32)【優先日】2023-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥山 勇治
(72)【発明者】
【氏名】井上 謙吾
【テーマコード(参考)】
4B029
4B064
4B065
4G048
4K021
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA09
4B029BB02
4B029CC01
4B029FA15
4B064AA03
4B064CA02
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4B064CD30
4B064CE20
4B064DA16
4B065AA23X
4B065AC14
4B065CA01
4B065CA55
4G048AA05
4G048AC08
4G048AD01
4G048AD08
4K021AA01
4K021DB31
4K021DC03
(57)【要約】
【課題】バイオマスを原料とし、微生物を利用して水素を発生させ、プロトン交換膜を用いることなく、その水素を分離・純化することができる水素発生装置を提供する。
【解決手段】バイオ水素発生部2と、水素分離部3と、を備え、バイオ水素発生部2は、微生物の活動による工程を含んで、バイオマスBより水素分子を含んだバイオ水素ガスを生成し、水素分離部3は、プロトン伝導性セラミックスよりなる電解質層41、および電解質層41に接合されたアノード42およびカソード43を有する電気化学ポンプ4と、アノード42とカソード43の間に電圧を印加する電源5と、を有し、電気化学ポンプ4は、アノード42において、バイオ水素発生部2より供給されたバイオ水素ガス中の水素分子からプロトンを発生させ、電解質層41を移動した該プロトンからカソード43にて水素分子を生成させる、水素発生装置1とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオ水素発生部と、
水素分離部と、を備え、
前記バイオ水素発生部は、微生物の活動による工程を含んで、バイオマスから水素分子を含んだバイオ水素ガスを生成し、
前記水素分離部は、プロトン伝導性セラミックスよりなる電解質層、および前記電解質層に接合されたアノードおよびカソードを有する電気化学ポンプと、前記アノードと前記カソードの間に電圧を印加する電源と、を有し、
前記電気化学ポンプは、前記アノードにおいて、前記バイオ水素発生部より供給された前記バイオ水素ガス中の水素分子からプロトンを発生させ、前記電解質層を移動した該プロトンから前記カソードにて水素分子を生成させる、水素発生装置。
【請求項2】
前記微生物は水素発生菌であり、前記バイオマスから直接水素分子を発生させる、請求項1に記載の水素発生装置。
【請求項3】
前記微生物は、受託番号NITE P-02709のクロストリジウム・ニューエンスである、請求項2に記載の水素発生装置。
【請求項4】
前記バイオマスは、食品廃水であり、
前記微生物は、嫌気性とした前記食品廃水の中に添加される、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の水素発生装置。
【請求項5】
前記バイオマスは、蒸留かす廃液である、請求項4に記載の水素発生装置。
【請求項6】
前記電解質層は、ペロブスカイト型金属複酸化物より構成され、
前記アノードおよび前記カソードは、PtまたはPt合金より構成される、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の水素発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素発生装置に関し、さらに詳しくは、微生物を利用してバイオマスからバイオ水素ガスを生成したうえで、水素の純度を高めて供給する水素発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食品廃棄物等のバイオマスを原料として水素を生成し、資源化する試みが進められている。食品廃棄物のように多くの有機化合物を含む廃棄物の処理には、曝気処理が用いられ、多大な電力を必要としていたが、それらの廃棄物を水素生成の原料として用いることができれば、廃棄物の処理に必要なエネルギーを削減できるのに加え、生成した水素を燃料等として利用可能となることが期待される。例えば、特許文献1に、微生物を固定化した固定化微生物電極を陽極として用い、微生物が代謝可能なグルコースや酢酸などの有機物を電子供与体とする機能構成の電解槽を用いた循環型水素生産施設が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
食品廃棄物等のバイオマスを原料とし、微生物を利用して水素を発生させる場合に、燃料等として実用可能な高品質の水素ガスを得るためには、微生物によって生成された水素分子を含むガス(バイオ水素ガス)から、水素分子を分離・純化する必要がある。特許文献1に開示されている電解槽においては、微生物が固定化された陽極と、対極となる陰極との間に、プロトン交換膜が配置されており、このプロトン交換膜の機能により、水素分子の分離・純化が行われる。つまり、微生物の活動によって生成した水素分子が、陽極においてプロトンとなり、プロトン交換膜を通過したうえで、陰極において水素分子として放出される。
【0005】
このように、プロトン交換膜を備えた電解槽を利用することで、バイオ水素ガスから水素分子を分離・純化できる可能性がある。しかし、原料として用いられるバイオマスに多様な有機物が含有されていることに起因して、実際のバイオ水素ガスには、水素以外に様々な成分が含まれ、それらの成分が、プロトン交換膜に影響を与える可能性がある。例えば、食品廃棄物を原料としてバイオ水素ガスを生成すると、多くの場合、含硫黄有機物の発酵によって、バイオ水素ガスに含硫黄分子が含有されやすい。含硫黄分子は、有機高分子より構成されるプロトン交換膜の劣化を引き起こす可能性がある。プロトン交換膜の劣化が起こりうる状況で、水素の分離・純化を継続的に行うためには、プロトン交換膜の頻繁な交換が必要となる。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、バイオマスを原料とし、微生物を利用して水素を発生させ、プロトン交換膜を用いることなく、その水素を分離・純化することができる水素発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかる水素発生装置は、以下の構成を有している。
[1]本発明にかかる水素発生装置は、バイオ水素発生部と、水素分離部と、を備え、前記バイオ水素発生部は、微生物の活動による工程を含んで、バイオマスから水素分子を含んだバイオ水素ガスを生成し、前記水素分離部は、プロトン伝導性セラミックスよりなる電解質層、および前記電解質層に接合されたアノードおよびカソードを有する電気化学ポンプと、前記アノードと前記カソードの間に電圧を印加する電源と、を有し、前記電気化学ポンプは、前記アノードにおいて、前記バイオ水素発生部より供給された前記バイオ水素ガス中の水素分子からプロトンを発生させ、前記電解質層を移動した該プロトンから前記カソードにて水素分子を生成させる。
【0008】
[2]上記[1]の態様において、前記微生物は水素発生菌であり、前記バイオマスから直接水素分子を発生させるとよい。
【0009】
[3]上記[2]の態様において、前記微生物は、受託番号NITE P-02709のクロストリジウム・ニューエンスであるとよい。
【0010】
[4]上記[1]から[3]のいずれか1つの態様において、前記バイオマスは、食品廃水であり、前記微生物は、嫌気性とした前記食品廃水の中に添加されるとよい。
【0011】
[5]さらに、上記[4]の態様において、前記バイオマスは、蒸留かす廃液であるとよい。
【0012】
[6]上記[1]から[5]のいずれか1つの態様において、前記電解質層は、ペロブスカイト型金属複酸化物より構成され、前記アノードおよび前記カソードは、PtまたはPt合金より構成されるとよい。
【発明の効果】
【0013】
上記[1]の構成を有する本発明にかかる水素発生装置は、バイオ水素発生部において、微生物を利用することで、バイオマスを原料として、水素分子を含んだバイオ水素ガスを生成する。そして、水素分離部の電気化学ポンプにおいて、バイオ水素ガス中の水素分子をアノードでプロトンとし、そのプロトンを、プロトン伝導性セラミックスよりなる電解質層中を移動させたうえで、カソードより水素分子を生成させる。これにより、バイオ水素ガスから水素分子を分離・純化することができる。水素分子の純度が高められることで、水素燃料等として、バイオ水素ガスを実用化することができる。ここで、電解質層がプロトン伝導性セラミックスより構成されていることで、有機高分子であるプロトン交換膜を用いる場合と比較して、各種の物質との接触に対して、電解質層が高い耐性を示す。特に、含硫黄分子と接触しても、電解質層が変性を起こしにくい。よって、バイオマスとして、食品廃液等、含硫黄分子の含有や生成の起こりやすい材料を用いた場合でも、電解質層の変性を抑え、持続的に水素の分離・純化に利用することができる。
【0014】
上記[2]の態様においては、微生物として水素発生菌を用い、バイオマスから直接水素分子を発生させる。この場合には、高い効率でバイオマスから水素を得ることができる。
【0015】
上記[3]の態様においては、微生物として受託番号NITE P-02709のクロストリジウム・ニューエンスを用いて、水素分子を発生させる。この場合には、特に高い効率でバイオマスから水素を得ることができる。
【0016】
上記[4]の態様においては、バイオマスとして食品廃水を用い、嫌気性とした食品廃水の中に微生物を添加する。食品廃水は、曝気処理によって処理されることが多いが、その食品廃水を原料として水素の発生を行うことで、曝気処理に要するエネルギーの削減と、水素の形での食品廃水の有効利用の両方を、達成することができる。また、食品廃水を嫌気性として、そこに微生物を添加することで、バイオ水素発生部における微生物による水素の発生を、効率的に、また簡便に実施することができる。
【0017】
上記[5]の態様においてはさらに、バイオマスとして、食品廃水の1種である蒸留かす廃液を用いる。焼酎かす廃液等の蒸留かす廃液を原料として用いることで、水素発生部における水素生成量が多くなる。また、水素発生が開始されるまでの時間が短くて済む。
【0018】
上記[6]の態様においては、電解質層としてペロブスカイト型金属複酸化物を用い、またアノードおよびカソードとしてPtまたはPt合金を用いる。この場合には、アノードで水素分子をプロトンとしたうえで、そのプロトンを電解質層中で移動させ、カソードで水素分子として取り出す工程を、高効率で進めることができる。また、それらの材料より構成される電気化学ポンプは、含硫黄分子等、バイオ水素ガス中の不純物の影響を受けにくい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる水素発生装置の構成を示す模式図である。
【
図2】大豆食品廃水に微生物を添加して培養した際の気相の組成を分析したGCチャートである。(a)および(b)は、微生物としてN1-4株を添加した場合の分析結果を示している。(a)と(b)は保持時間が異なる領域を示している。(c)は、微生物としてSDL48株を添加した場合の分析結果を示している。
【
図3】食品廃水からの水素発生の時間挙動の確認について、試験方法を示している。
【
図4】水素発生の時間挙動について、試験結果として得られた水素分圧の時間変化を示している。原料として、(a),(b)では大豆食品廃水を用い、(c),(d)では焼酎かす廃液を用いている。(a),(c)は線形表示、(b),(d)は片対数表示である。
【
図5】電気化学ポンプによる水素の分離について、(a)に試験方法を示し、(b)に試験結果として得られた電流密度と水素発生速度の関係を示している。
【
図6】水素生成量の評価試験において得られた、電流量の時間変化を示している。原料として、(a)では大豆食品廃水を用い、(b)では焼酎かす廃液を用いている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態にかかる水素発生装置について説明する。本発明の実施形態にかかる水素発生装置においては、バイオマスを原料とした水素の発生と、水素の分離・純化を行うものである。
【0021】
図1に、本発明の一実施形態にかかる水素発生装置1の構成を模式的に示す。本実施形態にかかる水素発生装置1は、バイオ水素発生部2と、水素分離部3とを有している。水素発生装置1においては、バイオ水素発生部2において、バイオマスBからバイオ水素ガスを生成する。そして、水素分離部3において、そのバイオ水素ガス中の水素分子を、分離・純化する。バイオ水素発生部2と水素分離部3は、連結管61によって連結され、連結管61を介して内部の空間が相互に連通している。連結管61は、バイオ水素発生部2と水素分離部3の内部の温度を独立して制御できる程度に、細くまた長く構成される。
【0022】
バイオ水素発生部2においては、微生物の活動による工程を含んで、バイオマスBより、水素分子を含んだバイオ水素ガスを生成する(図中の矢印A1)。バイオ水素発生部2は、バイオマスBを微生物が活動可能な状態で貯留できる空間として構成されている。バイオ水素発生部2において利用するバイオマスBは、動植物に由来する有機物を含んだ物質であれば、特にその種類を限定されるものではないが、液状になっていることが好ましい。バイオマスBの好適な例として、食品廃水を挙げることができる。食品廃水の具体例としては、食品の製造・加工工程で発生する廃水が挙げられる。また、バイオマスBとして、醸造副産物を好適に用いることができる。中でも、液状の醸造副産物である、焼酎かす(粕)廃液等の蒸留かす廃液を好適に用いることができる。
【0023】
バイオ水素発生部2におけるバイオ水素ガスの発生は、微生物の活動による工程を含んで水素分子が生成されるのであれば、微生物がバイオマスBから水素分子を直接生成する形態をとっても、微生物がバイオマスBより水素分子以外の生成物を生成し、その生成物が水素分子に変換される形態をとっても、いずれでもかまわない。微生物が水素分子以外の生成物を生成する場合には、例えば、後に説明する水素分離部3の電気化学ポンプ4を構成するアノード42自体を触媒として、あるいはアノード42とは別に配置した触媒によって、その生成物を水素分子に変換すればよい。例えば、メタン生成菌によってバイオマスBからメタンを生成させ、NiやRu等の触媒を用いて、メタンを水素分子に変換する形態が考えられる。しかし、水素生成の簡便性や効率を高める観点から、微生物として水素発生菌を用い、バイオマスBから微生物が直接水素分子を生成する形態をとることが好ましい。
【0024】
水素発生菌は、有機物より水素分子を生成する微生物であり、例えば、クロストリジウム・サッカロペルブチルアセトニクム(Clostridium saccharoperbutylacetonicum)、およびクロストリジウム・ニューエンス(Clostridium neuense)を挙げることができる。さらに具体的な例としては、クロストリジウム・サッカロペルブチルアセトニクム N1-4株、およびクロストリジウム・ニューエンス SDL48株を挙げることができる。SDL48株は、2018年5月14日に独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に受託番号NITE P-02709として寄託されており、本件発明者の一部の研究による特開2023-041694号公報にも塩基配列とともに開示されている。後の実施例に示すように、SLD48株を用いることで、特に高い水素発生効率を得ることができる。他に有機物より水素を発生することができる微生物としては、Bacillus sp.、Bacillus tequilenisis、Brevumdimonas sp.、Caloranaerobacter azorensis、Clotridium acetobutylicum、Clostridium beijerinckii、Clostridium butyricum、Clostridium pasteurianum、Clostridium thermolaticum、Cupriavidus sp.、Enterobacter aerogenes、Enterococcus feacium、Pseudomonas sp.、Rhodobacter sphaeroide、Rhodococcus coprophilus、Rhodopseudomonas capsulatus、Rhodopseudomonas rutila、Rhodopseudomonas palustris、Rhodospirillum rubrum等を例示することができる。これらの中には、光発酵によって水素を生成する微生物も含まれる。
【0025】
バイオ水素発生部2において、微生物の種類に応じ、バイオマスBは、微生物が活動可能な状態に保たれる。上記で挙げた水素発生菌等、嫌気性微生物を用いる場合には、窒素やアルゴン等の不活性ガスをバイオマスBにバブリングして酸素を除去すること等により、バイオマスBを嫌気性にしておくとよい。バイオ水素発生部2において、微生物を保持する方法は、特に限定されず、例えば微生物を基材等に固定化してもよいが、微生物の保持の簡便性や、微生物の活性の維持等の観点から、微生物が活動可能な状態に保ったバイオマスBの中に、直接微生物を添加する形態が好ましい。
【0026】
水素分離部3は、電気化学ポンプ4と、電源5を備えている。電気化学ポンプ4は、プロトン伝導性セラミックスよりなる電解質層41と、アノード(陽極)42と、カソード(陰極)43とを備えている。アノード42とカソード43は、相互に対向して、電解質層41に接合されている。アノード42とカソード43の間には、外部電気回路51が接続されており、電源5により、アノード42とカソード43の間に電圧を印加することができる。
【0027】
水素分離部3は、内部空間に電気化学ポンプ4を収容するとともに、アノード42に接する雰囲気を収容するアノード側空間31、およびカソード43に接する雰囲気を収容するカソード側空間32を有している。アノード側空間31とカソード側空間32は、電気化学ポンプ4によって気密に区画されており、相互間を気体分子が移動することはできない。アノード側空間31には、連結管61が接合されており、連結管61を介して、バイオ水素発生部2からバイオ水素ガスが流入する(図中の矢印A2)。カソード側空間32には、ガス出口62が設けられており、そのガス出口62を介して、カソード43での電極反応によって生じたカソード生成ガスを外部に取り出すことができる(図中の矢印A3)。
【0028】
アノード側空間31にバイオ水素発生部2からバイオ水素ガスを導入するとともに、電源5により、アノード42側が高電位となるように、アノード42とカソード43の間に電圧を印加することで、電気化学ポンプ4における電気化学反応を進行させることができる。具体的には、
図1中に模式的に示すように、アノード42において、アノード側空間31に流入したバイオ水素ガスに含有される水素分子(H
2)からプロトン(H
+)を生成する。そして、アノード42で生成したプロトンを、電源5によって印加された電圧によって、電解質層41の中をアノード42側からカソード43側へと移動させる(図中の矢印a1)。電解質層41の中を通ってカソード43に到達したプロトンは、カソード43において、水素分子(H
2)とされ、生成した水素分子がアノード側空間31に放出される。
【0029】
バイオ水素ガスには、水素分子以外にも、バイオマスBを嫌気性にするのに用いた窒素等の不活性ガス、原料のバイオマスBに含まれる各種成分や微生物の活動によって生じる副生成物等、各種の気体分子が含有される。しかし、各種分子が電気化学ポンプ4で区画された箇所を通過することはできないので、カソード側空間32で得られるカソード生成ガスは、不可避的不純物を除いて、水素分子のみを含むものとなる。このように、電気化学ポンプ4における電気化学反応と電解質層41を介したプロトンの移動を利用して、水素純度の低いバイオ水素ガスに対して、水素分子の分離・純化を行うことができる。水素分子を高純度で含むカソード生成ガスをガス出口62より取り出し、水素燃料等、各種の用途に利用することができる。
【0030】
ここで、電気化学ポンプ4の各部の構成材料について説明する。電解質層41を構成する具体的な材料は、プロトン伝導性セラミックス、つまりプロトン伝導性を有する無機化合物よりなる固体非金属材料であれば、特に限定されるものではない。好適に用いることができるプロトン伝導性セラミックスとして、ペロブスカイト型金属複酸化物より構成されるものが挙げられる。これは、ABO3で表されるペロブスカイト型の金属複酸化物において、金属Bの一部を、それより低い原子価の金属Mで置換することにより、プロトン伝導性を付与したものであり、AB1-bMbO3-δと表記される(0<b<1,δは酸素空孔量)。この種のプロトン伝導性セラミックスは、例えば、本件発明者の一部らの研究による特開2017-114739号公報に開示されており、本実施形態にかかる水素発生装置1においても、それらのプロトン伝導性セラミックスを好適に適用することができる。具体例としては、金属Aとして、アルカリ土類金属、つまりストロンチウム(Sr)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)を用いればよい。また、金属Bとして、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)等、+4価の金属を用いればよい。そして、金属Mとして、イットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)、インジウム(In)、スカンジウム(Sc)等の希土類、およびマンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)等の遷移金属など、+2価及び+3価を取り得る金属を用いればよい。特に、希土類を用いることが好ましい。電解質層41において、プロトン伝導性セラミックスを構成する金属A,金属B,金属Mのそれぞれとして、1種のみを用いても、2種以上を用いても、いずれでもよい。
【0031】
アノード42を構成する材料は、導電性を有し、水素分子を酸化反応によってプロトンに分離できるものであれば、特に限定されるものではない。アノード42を構成する材料としては、Ni,Pt,Pd,Ru等の金属、あるいはそれらの金属を少なくとも1種含む合金を例示することができる。それらの金属材料とセラミックス材料からなるサーメットを用いてもよい。アノード42の構成材料としては、1種のみ用いても、2種以上を併用してもよい。
【0032】
カソード43を構成する材料は、導電性を有し、還元反応によって、プロトンから水素分子を生成できるものであれば、特に限定されるものではない。具体的な材料としては、Ni,Co,Pt,Pd,Ru等の金属、あるいはそれらの金属を少なくとも1種含む合金を例示することができる。それらの金属材料とセラミックス材料からなるサーメットを用いてもよい。あるいは、導電性セラミックス材料よりカソード43を構成してもよい。カソード43の構成材料としては、1種のみ用いても、2種以上を併用してもよい。
【0033】
電気化学ポンプ4において、アノード42およびカソード43の各電極は、電解質層41に直接接合されていても、電極42,43と電解質層41との間に任意に中間層が介在されていてもよい。また、水素分離部3には、適宜、電気化学ポンプ4および内部空間を加熱するための加熱手段、およびそれらの温度を計測するための温度計測手段(いずれも図略)を設けておくことが好ましい。プロトン伝導性セラミックスよりなる電解質層41を備えた電気化学ポンプ4は、600~900℃程度の高温で好適に動作するからである。特に、加熱手段として、太陽熱や工場排熱を用いれば、水素発生装置1の運転に要するエネルギーを少なく抑えることができる。あるいは、水素発生装置1で生成した水素の一部を燃焼させて熱源としてもよい。
【0034】
以上のように、本実施形態にかかる水素発生装置1においては、醸造副産物など、食品廃水等のバイオマスを原料とし、微生物を利用して水素を発生させることができる。バイオマスから水素を生成することで、燃料等の資源としてバイオマスを利用可能となる。また、曝気処理等、バイオマスの処理に要していたエネルギーの少なくとも一部を削減することが可能となる。さらに、本実施形態にかかる水素発生装置1は、水素分離部3を備えており、水素分子の純度の低いバイオ水素ガスから水素分子を分離し、高純度の水素ガスを得ることができるため、得られた水素ガスを、燃料等の高品質な資源として、利用しやすい。特に、原料のバイオマスとして、蒸留かす廃液をはじめとする醸造副産物を用いる場合には、醸造副産物が糖類を含んでいること、またpHが低く、プロトンが豊富であることにより、バイオ水素発生部2における水素の発生を、効率的に進めることができる。つまり、水素生成量が多くなるとともに、水素の生成開始までに要する時間が短くなる。
【0035】
さらに、本実施形態にかかる水素発生装置1においては、水素分離部3の電気化学ポンプ4を構成する電解質層41が、無機化合物であるプロトン伝導性セラミックスより構成されている。そのため、電解質層41が高い化学的安定性を示し、アノード側空間31にバイオ水素発生部2から供給されるバイオ水素ガスに、水素分子以外の成分が含まれていても、それらの成分によって、電解質層41が影響を受けにくい。特に、バイオマスとして、醸造副産物などの食品廃水等、食品由来の材料を用いている場合に、バイオマスが硫黄原子を含有する有機分子を含むことが多いため、微生物(水素発生菌または他の微生物)の活動に由来して、あるいは非生物的な化学反応に由来して、水素分離部3のアノード側空間31に供給されるバイオ水素ガスに、含硫黄分子が含有されやすい。しかし、電解質層41がプロトン伝導性セラミックスよりなることで、それらの含硫黄分子による変性、およびそれに伴う特性劣化を起こしにくい。そのため、水素分離部3による水素の分離・純化を、長期にわたって継続的に実施することができる。これは、特許文献1の形態のように、有機高分子より構成されるプロトン交換膜が、含硫黄分子による劣化を起こしやすいのと異なっている。電気化学ポンプ4において、アノード42およびカソード43の構成材料としても、各種金属のなかで、PtまたはPt合金等、含硫黄分子によって変性を起こしにくい金属種を用いることが好ましい。
【実施例0036】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。ここでは、上記で説明した水素発生装置のモデルを実際に作製し、特性を評価した。
【0037】
(1)微生物による水素発生
まず、微生物によるバイオマスからの水素の発生を確認するとともに、その生成量を見積もった。
【0038】
[試験方法]
原料となる食品廃液として、大豆食品廃水、および大豆ゆで汁、焼酎かす廃液を準備した。大豆食品廃水は、宮崎県内の大豆食品工場から採取した大豆食品廃水、つまり醤油、みそ、豆腐、ドレッシングなどの大豆を原料とする食品の製造工程で発生する廃水を混合したものである。大豆ゆで汁は、工場における大豆加工の工程で、大豆をゆでたときに発生したゆで汁である。焼酎かす廃液は、甘藷焼酎の蒸留残渣である。また、比較用に、2xYTG培地を準備した。各原料に対して、窒素:二酸化炭素を8:2の体積比で混合した混合ガスを1時間バブリングして密閉することで嫌気的にした。さらに、焼酎かす廃液を用いる場合以外については、オートクレーブにて滅菌した。その後、各原料に、クロストリジウム・サッカロペルブチルアセトニクム N1-4株(焼酎かす原料を用いる場合を除く)、およびクロストリジウム・ニューエンス SDL48株をそれぞれ添加して30℃で3日間培養した。培養後、気相の組成を、ガスクロマトグラフィ(GC)にて分析した。
【0039】
[試験結果]
培養後の気相をGCにて分析したところ、2xYTG培地、大豆食品廃水、大豆ゆで汁、焼酎かす廃液のいずれの原料を用いた場合についても、またN1-4株とSDL48株のいずれを添加した場合についても、試験を行った各形態において、検出限界以上の濃度で検出された分子は、水素(H
2)、酸素(O
2)、窒素(N
2)、二酸化炭素(CO
2)のみであった。
図2に、代表として、大豆食品廃水にN1-4株およびSDL48株を添加した場合についての分析結果を示す。(a),(b)がN1-4を添加した場合の結果であり、(c)がSDL48株を添加した場合の結果である。(a)と(b)は保持時間が異なる領域を示しており、SDL48株については(b)に対応する領域の詳細な測定を省略している。
図2によると、2種いずれの微生物を添加した場合についても、H
2に対応する強いピークが観察されており、培養によって水素の生成が起こっていることが確認される。なお、N
2およびCO
2は材料を嫌気性とするためにバブリングしたガスに由来し、微量のO
2は大気由来の残存ガスに由来する。
【0040】
下の表1に、
図2に示すもの等、GCによる分析結果に基づいて算出された、気相におけるCO
2およびH
2の含有量(単位:質量%)をまとめる。なお、表中の空欄の箇所は、詳細な分析を省略したものである。
【0041】
【0042】
表1によると、大豆食品廃水、大豆ゆで汁、焼酎かす廃液のいずれを用いた場合についても、またN1-4株とSDL48株のいずれを添加した場合についても、試験を行った各形態において、水素分子の生成が起こっていることが確認される。特に、大豆食品廃水を用いた場合に、大豆由来の有機物の濃度の高さに起因して、2xYTG培地を用いた場合に近い高濃度で、水素分子が生成している。さらに、焼酎かす廃液を用いた場合には、その大豆食品廃水を用いた場合の2倍以上の高濃度で、水素分子が発生している。また、2xYTG培地、大豆食品廃水、大豆ゆで汁の3種の原料を用いた場合について、N1-4株を添加した場合よりも、SDL48株を添加した場合に、高濃度で水素分子が得られている。
【0043】
(2)水素発生における時間挙動
次に、微生物による水素発生における時間的挙動を調査した。
[試験方法]
水素発生の時間挙動を調べるために、
図3に示す試験装置1Aを準備した。この試験装置1Aは、バイオ水素発生部2と、水素分析部3’を有しており、連結管61によって相互に連結されている。水素分析部3’は、熱電対91を備えた加熱炉9の中に設置されており、加熱により内部の温度を制御することができる。水素分析部3’は、内部の空間が、内側空間S1と外側空間S2に仕切られており、内側空間S1と外側空間S2が連通する箇所を気密に区画して、プロトン伝導性セラミックスを備えた水素センサ4’が設けられている。内側空間S1には連結管61が連結されており、バイオ水素発生部2で発生したバイオ水素ガスが導入される。水素センサ4’は、上記で説明したプロトン伝導性セラミックスよりなる電解質層と1対の電極を備えた電気化学ポンプと同様の構造を有しており、内側空間S1と外側空間S2の水素濃度差によって生じた起電力を電位差計5’によって測定することで、内側空間S1に導入されたバイオ水素ガス中の水素分圧を計測することができる。
【0044】
上記試験装置1Aにおいて、バイオ水素発生部2に、上記(1)の試験で用いたのと同じ、バブリングにより嫌気性にした大豆食品廃水または焼酎かす廃液を封入したうえで、SDL48株を添加した。そして、(1)の試験と同様に、30℃にて培養を行った。培養開始時から、水素分析部3’の水素センサ4’によって、バイオ水素ガス中の水素分圧を連続的に測定した。この間、水素分析部3’は、加熱炉9によって、水素センサ4’の作動に適した温度として、600℃に維持しておいた。
【0045】
[試験結果]
図4に、測定されたバイオ水素ガス中の水素分圧(単位:bar)の時間変化を示している。(a),(b)は原料として大豆食品廃水を用いた場合、(c),(d)は原料として焼酎かす廃液を用いた場合を示している。それぞれ、(a),(c)は線形表示、(b),(d)は片対数表示である。(a),(b)では、大豆食品廃水にSDL48株を添加し、バイオ水素発生部にセットした時間を破線で表示している。(c),(d)では、t=0の時点で焼酎かす廃液にSDL48株を添加し、バイオ水素発生部にセットした。
【0046】
図4(a),(b)によると、大豆食品廃水をセットしてから、42時間程度は、水素の生成がほぼ起こっていない。そして、約42時間経過した時点で、急激に水素分圧が立ち上がっており、水素の発生が開始されていることが分かる。また、バイオ水素ガス中の水素分圧は、最高で約50%に達している。以上の結果から、水素発生までに42時間程度の培養が必要であることが確認される。これは、発酵の過程で水素発生に至るまでに時間を要するためである。一方で、その42時間程度の時間が経過した後は、急激に水素の生成が進行し、高濃度での水素の発生が起こる。
【0047】
原料として焼酎かす廃液を用いた
図4(c),(d)でも、大豆食品廃水を用いた
図4(a),(b)と同様に、焼酎かす廃液をセットしてからある程度時間が経過した段階で、急激に水素分圧が立ち上がり、水素の発生が開始される挙動が観察されている。しかし、水素の発生が開始されるまでの時間が、大豆食品廃水の場合に42時間であったのに対し、焼酎かす廃液の場合には14時間となっており、1/3に短縮されている。また、バイオ水素ガス中の水素分圧の最高値は、大豆食品廃水の場合に約50%であったのに対し、焼酎かす廃液の場合には80%を超えている。これらの結果から、原料として焼酎かす廃液を用いることで、大豆食品廃水を用いる場合よりも、水素の発生を高効率で行いうることが示される。
【0048】
(3)電気化学ポンプによる水素の分離
次に、上記で説明した本発明の実施形態にかかる水素発生装置のように、プロトン伝導性セラミックスを用いた電気化学ポンプによって、バイオ水素ガスから水素分子の分離を行えるかどうかを確認した。
【0049】
[試験方法]
上記で説明した本発明の実施形態にかかる水素発生装置のモデルとして、
図5(a)に示す試験装置1Bを準備した。この試験装置1Bは、
図3に示した上記(2)の試験に用いた装置1Aとほぼ同様の全体構成を有しており、対応する部材を同じ符号で表示している。ここでの試験装置1Bにおいては、上記試験装置1Aの水素分析部3’の代わりに、水素分離部3が設けられているが、同様に、内部の空間が内側空間S1と外側空間S2に区切られている。内側空間S1と外側空間S2の間の連通箇所には、水素センサ4’の代わりに、電気化学ポンプ4が設けられており、内側空間S1と外側空間S2が、電気化学ポンプ4によって気密に区画されている。電気化学ポンプ4は、プロトン伝導性セラミックスであるBaCe
0.6Zr
0.2Y
0.2O
3-δをディスク状に焼結してなる電解質層の両面に、Pt電極を接合したものとして形成した。試験装置1Bにおいては、電気化学ポンプ4の両電極間にポテンショスタット5”を接続し、内側空間S1をアノード側空間、外側空間S2をカソード側空間として、電圧の印加と電流密度の測定を行えるようにした。
【0050】
上記の試験装置1Bにおいて、(2)の試験と同様に、バイオ水素発生部2に、バブリングにより嫌気性にした大豆食品廃水を封入してSDL48株を添加し、30℃にて培養を行った。水素分離部3は、加熱炉9によって600℃に保ち、アノード側空間となる内側空間S1にバイオ水素発生部2からのバイオ水素ガスを導入するとともに、カソード空間となる外側空間S2に1%H2-Arの雰囲気ガスを導入した。ここで、カソード側空間に流通させる雰囲気ガスにも少量のH2を含有させているのは、電気化学ポンプ4の挙動を安定させるためである。このようにして、バイオ水素発生部2の電気化学ポンプ4において、内側空間S1および外側空間S2のそれぞれに所定のガスを導入しながら、電圧印加を行っている間、電流-電圧特性を測定するとともに、カソードにおける水素発生速度を評価した。水素発生速度の評価は、外側空間S2に生成したガスをガスクロマトグラフィによって分析することで行った(矢印A5)。電流-電圧特性および水素発生速度の計測は、バイオ水素発生部による水素の発生が十分に安定してから行った。
【0051】
[試験結果]
図5(b)に、電気学セルに印加する電圧を変化させて得られた、電気化学ポンプにおける電流密度(横軸)と、水素発生速度(縦軸)との関係を示す。この試験結果によると、電流密度が増大するほど、水素発生速度が上昇する挙動が見られている。つまり、電気化学ポンプを構成する電極間に印加する電圧を高くし、電流密度を高めるほど、カソード側空間に高濃度の水素分子が生成するようになっており、電気化学ポンプにおいて、電解質層をプロトンが移動することで、バイオ水素ガスからの水素分子の抽出が起こっていることが確認される。
【0052】
さらに詳細に
図5(b)の結果を見ると、図中に破線で近似直線を示すように、電流密度の増大に伴って、水素発生速度が直線的に増大している。つまり、水素分離が、ファラデーの電気化学の法則に従って起こっていることが示されている。以上より、バイオ水素ガスからの水素分子の分離が、電気化学ポンプにおいて、水素分子からのプロトンの生成と、そのプロトンの電解質層における移動を介して起こっていることが確認される。
【0053】
(4)水素生成量の評価
最後に、本発明の実施形態にかかる水素発生装置によって生成される水素の量を定量的に評価した。
【0054】
[試験方法]
ここでは、上記(3)の試験に用いたのと同じ試験装置1Bを用いた。ただし、ガスクロマトグラフィによる水素分子の検出は行っていない。試験においては、用いる物質および装置各部の状態も、上記(3)の試験と同様とした。ここでの試験においては、水素発生部において、微生物が水素を生成しきる状態、つまり
図3で示した時間範囲を超えて水素の生成が完了する状態まで待ち、その時間の間に生成した水素の総量を、ポテンショスタット5”にて計測される電気化学ポンプ4に流れた電流量から評価した。また、ここでは、原料として大豆廃液を用いる試験に加え、焼酎かす廃液を用いる試験も、同様に行った。ただし、焼酎かす廃液を用いる試験においては、生成水素の濃度が1%に達した時点で測定を終了した。
【0055】
[試験結果]
図6(a)に、バイオ水素発生部としての容積156mlの容器に、大豆食品廃水を100ml封入し、SDL48株を添加して、水素の発生と分離を行った場合について、電気化学ポンプの電極間に印加した電圧E(右軸に単位Vにて表示;下方の階段状のグラフ線)、および電極間に流れた電流I(左軸に単位Aにて表示;上方のグレー塗りを付したグラフ線)の時間変化を示す。なお、
図6(a)で、初期状態で負の電圧が生じているのは、カソード側に導入した雰囲気ガスに1%H
2が添加されていることによる。
【0056】
原料として大豆食品廃水を用いた場合の結果を示す
図6(a)において、電圧印加が開始されると(電圧が負値から0Vとされると)、電流値が立ち上がり、電気化学ポンプによる水素分子の分離が開始されていることが確認される。上記(3)の試験によって確認されたとおり、電気化学ポンプにおける水素の分離がファラデーの電気化学の法則に従うことから、電流量によって、生成した水素量、つまり微生物によって生成され、電気化学ポンプによって分離された水素分子の総量を、評価することができる。具体的には、下の式(1)によって、生成した水素分子の総量を見積もることができる。
n=I・t/2F (1)
ここで、nは生じた水素分子の総量(mol)、Iは電流(A)、tは時間(s)、Fはファラデー定数(9.64×10
4C/mol)である。
【0057】
つまり、
図6(a)において、電流Iの時間変化を積分し、2Fで割ることで、生成した水素の総量を見積もることができる。実際に計算すると、生成した水素の量は、2.3×10
-5molと見積もられる。体積に換算すると、0.57mLとなる。
【0058】
さらに
図6(b)に、バイオ水素発生部としての容積156mlの容器に、焼酎かす廃液を100ml封入し、SDL48株を添加して、水素の発生と分離を行った場合について、電気化学ポンプの電極間に流れた電流Iの時間変化を示す。ただし、
図6(b)では、生成水素の濃度が1%に達した時点で測定を終了している。
図6(b)を見ると、
図6(a)の場合と同様に、電流値が急激に立ち上がり、水素分子の発生と分離が進行することが確認される。しかし、
図6(a)の大豆食品廃水の場合と比較して、立ち上がった電流の大きさが、50倍程度に大きくなっている。また、
図6(b)の結果から、上記式(1)によって生成した水素分子の総量を見積もると、3.7×10
-4molとなる。体積に換算すると、9.2mLとなる。
【0059】
直接比較できる形で試験を行い、バイオマス原料1mLあたりの水素発生量を比較すると、大豆食品廃水を用いた場合には、2.3×10-7mol/mL、焼酎かす廃液を用いた場合には、3.7×10-6mol/mLとなった。つまり、原料として焼酎かす廃液を用いた場合には、大豆食品廃水を用いた場合と比較して、約10倍量の水素が生成している。この結果と、上記(2)の結果より、原料として焼酎かす廃液を用いることで、水素発生開始までの時間の短さ、および発生する水素の量の多さの両方の点で、高効率で水素を発生させられることが分かる。
【0060】
本発明は上記実施形態および実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。