IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-コアシェル構造を有する電極材料 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163028
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】コアシェル構造を有する電極材料
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20241114BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20241114BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024065882
(22)【出願日】2024-04-16
(31)【優先権主張番号】P 2023077657
(32)【優先日】2023-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石田 真淳
(72)【発明者】
【氏名】デン 羽皋
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】尾形 大輔
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA12
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA09
5H050DA13
5H050FA17
5H050FA18
5H050HA02
5H050HA14
5H050HA17
(57)【要約】
【課題】本発明は、室温で高いイオン伝導度を示し、高い安全性を有し、且つ活物質の劣化が抑制された電極材料を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、電極活物質を含むコア部とシェル部とを有し、前記シェル部は、前記コア部を被覆しており、前記シェル部は、ポリマー電解質を主成分として有しており、
前記ポリマー電解質の25℃におけるイオン伝導度は、10-5S/cm以上1S/cm以下であり、前記ポリマー電解質を主成分とするポリマーのガラス転移温度は、40℃以上である電極材料である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質を含むコア部とシェル部とを有し、
前記シェル部は、前記コア部を被覆しており、
前記シェル部は、ポリマー電解質を主成分として有しており、
前記ポリマー電解質の25℃におけるイオン伝導度は、10-5S/cm以上1S/cm以下であり、
前記ポリマー電解質を主成分とするポリマーのガラス転移温度は、40℃以上である、電極材料。
【請求項2】
前記ポリマー電解質は、さらに、アルカリ金属塩および電離助剤を含有する、請求項1に記載の電極材料。
【請求項3】
前記ポリマーが少なくとも1種の有機溶媒に可溶性である、請求項1または2に記載の電極材料。
【請求項4】
前記ポリマーはポリアリーレンスルフィドが式-(Ar-S)-を構成単位とするポリアリーレンスルフィド共重合体であって、
Arが化学式(1)の(A)で表される構成単位および、化学式(1)の(B)~(G)からなる群より選ばれる少なくとも1つの構成単位を有する、請求項1~3のいずれかに記載の電極材料。
【化1】
(R1,R2はアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、および水酸基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。R3、R4は、水素、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、および水酸基から選ばれた置換基であり、R3とR4は同一でも異なっていてもよい。Yはアルキレン基、O、CO、SO、SOから選ばれた置換基、または直接結合である。)
【請求項5】
前記ポリマーにおいて、全モノマー単位100モル%中に、前記化学式(1)の(B)~(G)からなる群より選ばれるモノマー単位を30モル%以上含有する、請求項4に記載の電極材料。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の電極材料を含む電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアシェル構造を有する電極材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池をはじめとするアルカリ二次電池はスマートフォン、携帯電話などの携帯機器、ハイブリッド自動車、電気自動車、及び家庭用蓄電器などといった様々な用途に用いられつつあり、それらに関する研究開発が盛んに行われている。
【0003】
リチウム二次電池は、特に電気自動車などの用途において、安全性の向上が強く求められている。従来の電解液を用いた液系電池は、可燃性の電解液を使用するため、電池の燃焼や爆発が起きることがあった。特に遷移元素を用いたリチウムイオン電池正極は、充電状態及び200℃以上の高温状態下で酸素を放出することがあり、放出された酸素が電解液等と反応し、放熱などの不安全な状態に至り、燃焼や爆発の原因になっている。そのため、電極の安全性が課題になっている。
【0004】
上記の課題を解決する一つの手段として、安全性向上に寄与できる固体電解質の研究が活発となっている。固体電解質は一般的に、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、ポリマー系固体電解質に分けられる。一方、固体電解質はそれぞれ課題を抱えている。例えばポリマー系固体電解質は室温のイオン伝導度が比較的低く、酸化物系固体電解質は生産性、成型性に課題があり、硫化物系固体電解質は硫化水素など有毒ガスの放出や、拘束下でしか使用できない等の課題がある。そのため、電池全体に固体電解質を用いる場合、安全性向上の効果がある一方、液系電池と比較して、電池の特性が低下することがある。上記の課題に対して、液系電池の電極部分に固体電解質を被覆させることで、電池特性の低下を抑制しつつ、液系電池の安全性を向上させることができる。例えば、特許文献1~5にて活物質表面に固体電解質を被覆する技術が開示されている。その中、ポリマー系固体電解質は高い可塑性及び高い成型性の利点があり、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質に対して、電極を均一且つ全面に被覆させることができ、且つ電解液との相性がよいため、電極の被覆材として電解液電池用途でも開発されている。
【0005】
一方で、従来のポリエチレンオキシド(以下PEOと略すことがある)を代表とした電解液を含有しないポリマー系固体電解質(以後、ポリマー電解質と略す)は、ガラス転移温度(Tg)が低く、特に電極活物質は発熱反応が起きる200℃以上の高温時に変形、被覆膜が破壊されるなどの可能性があり、電極の安全性が限られている。また、ポリフッ化ビニリデン(以下PVDFと略す)を代表とした電解液を含有するポリマー電解質は、電解液を多く含有しない限りイオン伝導性が悪くなるため、一般的に電解液を大量に含有している。そのため、電極活物質は発熱反応が起きる200℃以上の高温時に、ポリマー電解質が含有する電解液が大量に蒸発し、電解液が蒸発した部分が空洞になり、電極活物質が露出してしまい、被覆による安全性向上効果が限られている
近年、ポリマー電解質の中で、ポリフェニレンサルファイド(以下PPSと略す)を代表とするポリアリーレンスルフィド(以下PASと略す)を用いたポリマー電解質は、特に優れた耐高温性及び難燃性で注目されている。特許文献6のように、PPSは共役ポリマーであって、電子受容性ドーパントを添加することで電子導電することが可能であることが知られているが、近年PPSとアルカリ金属塩の混合物に電子アクセプターをドープしたポリマー電解質が特許文献7~9で開示されている。さらに、特許文献7~9において、PPSポリマー電解質はPPS、アルカリ金属塩及び電子受容性ドーパント等、各原料を高温で混合させた後に成型する方法で製造されている。また、特許文献10において、メタ共重合PPS及び電離助剤を含有するPPSポリマー電解質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-323121号公報
【特許文献2】特開2013-191391号公報
【特許文献3】国際公開公報2022/244445号
【特許文献4】国際公開公報2014/038535号
【特許文献5】特開2021-197306号公報
【特許文献6】特開昭59-157151号公報
【特許文献7】米国特許出願公開第2018/006308号明細書
【特許文献8】中国特許出願公開第106450424号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2017/0005356号明細書
【特許文献10】特開2022-31092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の電極に被覆したポリマー電解質は、有機電解液を多く含有しており、200℃以上の高温下では蒸発し、蒸発した部分が空孔となり、活物質が露出してしまい、安全性向上効果が十分でない。上記特許文献2、4、5は被覆層に低融点材料が用いられ200℃以上で被覆層の形状を保つことが難しく、200℃以上で被覆層が変形し、活物質が露出することがあり、安全性向上効果が期待できない。また、上記特許文献3は無機固体電解質を被覆層として用いているが、無機固体電解質の成型性及び可塑性が低いため、被覆率に改善の余地があり、安全性向上効果が限定されている。
【0008】
また、特許文献6~9に記載されたPPSポリマー電解質は、耐高温性に優れているが、溶融成型の必要があるため、被覆膜として成型が難しく、高被覆率を有する被覆層を作ることが難しい、さらに300℃の高温で成型する必要があり、活物質に被覆することで活物質が高温によって劣化する問題がある。特許文献10に記載されたメタ共重合PPSを有するポリマー電解質は、メタ共重合を有することで成型温度が低減されているが、それでも200℃以上で溶融成型する必要があり、ポリマー電解質を溶融状態で活物質に被覆させるプロセスでの活物質の劣化が課題になっている。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑み、室温で高いイオン伝導度を示し、高い安全性を有し、且つ活物質の劣化が抑制された電極材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、次によって解決することを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、上記課題を解決するため、本発明は以下の構成からなる。
(1)電極活物質を含むコア部とシェル部とを有し、前記シェル部は、前記コア部を被覆しており、前記シェル部は、ポリマー電解質を主成分として有しており、前記ポリマー電解質は、ポリマーを主成分として有しており、前記ポリマー電解質の25℃におけるイオン伝導度は、10-5S/cm以上1S/cm以下であり、前記ポリマーのガラス転移温度は、40℃以上である、電極材料。
(2)前記ポリマー電解質は、さらに、アルカリ金属塩および電離助剤を含有する、(1)に記載の電極材料。
(3)前記ポリマーが少なくとも1種の有機溶媒に可溶性である、(1)または(2)に記載の電極材料。
(4)前記ポリマーはポリアリーレンスルフィドが式-(Ar-S)-を構成単位とするポリアリーレンスルフィド共重合体であって、
Arが化学式(1)の(A)で表される構成単位および、化学式(1)の(B)~(G)からなる群より選ばれる少なくとも1つの構成単位を有する、(1)~(3)のいずれかに記載の電極材料。
【0012】
【化1】
【0013】
(R1,R2はアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、および水酸基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。R3、R4は、水素、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、および水酸基から選ばれた置換基であり、R3とR4は同一でも異なっていてもよい。Yはアルキレン基、O、CO、SO、SOから選ばれた置換基、または直接結合である。)
(5)前記ポリマーにおいて、全モノマー単位100モル%中に、前記化学式(1)の(B)~(G)からなる群より選ばれるモノマー単位を30モル%以上含有する、(4)に記載の電極材料。
(6)(1)~(5)のいずれかに記載の電極材料を含む電池である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、室温で高いイオン伝導度を示し、高い安全性を有し、且つ活物質の劣化が抑制された電極材料を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態の電極材料が備えるコアシェル構造体の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(コアシェル構造)
本発明の電極材料は、電極活物質を含むコア部とシェル部とを有し、上記のシェル部は、上記のコア部を被覆しており、上記のシェル部は、ポリマー電解質を主成分として有しており、上記のポリマー電解質は、ポリマーを主成分として有している。ここで、上記のコア部が上記のシェル部により略全面的に被覆されてなる構造体をコアシェル構造体と称する。すなわち、本発明の電極材料はコアシェル構造体を備えている。本発明の電極材料は、上記のコアシェル構造体を備えることで、電極材料における活物質の劣化が抑制され、さらに、電極材料の安全性は優れたものとなる。
【0017】
ここで、上記のシェル部が上記のコア部を略全面的に被覆しているとは、上記のシェル部により被覆されている上記コア部の表面の上記コア部の全表面に対する割合(以下、被覆率と称することがある)が85%以上であることを意味する。この被覆率は、電極材料における活物質の劣化がより抑制され、電極材料の安全性がより優れたものとなるとの理由により、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。ここで、コアシェル構造体の被覆率の測定方法の詳細は、以下の「被覆率」の項や実施例の測定方法の項に記載のとおりである。
【0018】
ここで、図1は、本発明の一実施形態の電極材料が備えるコアシェル構造体の模式的な断面図を示す。このコアシェル構造体5は、コア部1とシェル部2とを有し、シェル部2はコア部1を略全面的に被覆しており、このコアシェル構造体5は被覆部3と露出部4を備える。この被覆部3は、シェル部2により被覆されており露出していないコア部1の表面の一部である。この露出部4は、シェル部2により被覆されておらず露出しているコア部1の表面の一部である。
【0019】
(被覆率)
上記のシェル部による上記のコア部の表面の被覆率の測定は、表層分析手法を用いて測定することが可能である。例えば、X線電子分光(XPS)、二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)、等があげられる。測定方法として、コア部およびシェル部の複合体(すなわち、コアシェル構造体)の組成元素から、コア部に含有され、且つシェル部に含有されない元素Xを一つ選出する。さらにコアシェル構造体の表面の元素Xを対象に上記の分析手法を用いて表面分析を行う。得た元素Xのピーク強度をP1とする。また、同様にコア部のみ有する構造の表面の元素Xを対象に、同様な手法で表面分析を行う。得た元素Xのピーク強度をP0とする。対象の上記のシェル部により上記のコア部の表面の被覆率Aは式1で算出する。
【0020】
【数1】
【0021】
また、コアシェル構造体の組成元素からコア部に含有され、且つシェル部に含有されない元素Xを一つ選出することが難しい場合、或いは上記の表面分析が難しい場合、電極材料断面のSEM-EDS画像解析を用いて行ってもよい。まず、イオンミーリング装置(日立製IM4000)で、複数のコアシェル構造体を含む電極材料の断面出しを実施する。さらに、EDS検出器を備えた電極走査型電子顕微鏡(SEM:日立ハイテク製SU8010、EDS検出器:堀場テクノサービス製X-Max150)により、電極材料の断面の拡大率2000倍のSEM画像を取得する。取得したSEM画像と同じ視野でEDS測定を行い、シェル部由来の元素(例えば、硫黄元素など)とそれ以外の元素を色分けした画像(以下、SEM-EDS画像と称する)を得る。
【0022】
得られたSEM-EDS画像を、画像処理ソフト(例えば、Image-J)を用いて、コア部の上のシェル部由来の元素(例えば、硫黄元素など)を検出し、検出した画像から独立したコア部断面を10個以上ランダムに選出し、それぞれのコア部の断面の最大径R(例えば、コア部断面を10個選出した場合、R~R10)と上記の断面を被覆するシェル部の被覆率A(例えば、コア部断面を10個選出した場合、A~A10)を画像から算出する。ここで被覆率Aは、断面から見るコア部の外周に、シェル部に被覆されている長さとコア部の外周の総長さの比をいう。最後にコアシェル構造の被覆率Aは式2で算出する。
【0023】
【数2】
【0024】
(コア部)
本発明の電極材料が有するコア部は、電極活物質を含有する。ここで、従来公知の電極活物質を使用することができる。さらに、従来公知の正極活物質または負極活物質を使用してもよい。
【0025】
(正極活物質)
例えば、正極活物質としては、LiFePO、Li(NiCoAl)O、LiMn、LiCoO、LiNiO、Li(Ni,Co,Mn)O、LiMnO、LiMnO-LiMO系(M=Co、Niなど)固溶体およびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの等のリチウム-遷移金属複合酸化物、リチウム-遷移金属リン酸化合物、リチウム-遷移金属硫酸化合物などが挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、リチウム-遷移金属複合酸化物が、正極活物質として好適である。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよい。
【0026】
(負極活物質)
負極活物質は、放電時にリチウムイオンを放出し、充電時にリチウムイオンを吸蔵できる組成を有する。負極活物質は、リチウムを可逆的に吸蔵および放出できるものであれば特に制限されないが、負極活物質の例としては、SiやSnなどの金属、あるいはTiO、Ti、TiO、もしくはSiO、SiO、SnOなどの金属酸化物、Li4/3Ti5/3O4もしくはLiMnNなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物、Li-Pb系合金、Li-Al系合金、Li、または天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、コークス、ソフトカーボン、もしくはハードカーボンなどの炭素材料などが好ましく挙げられる。このうち、リチウムと合金化する元素を用いることにより、従来の炭素系材料に比べて高いエネルギー密度を有する高容量および優れた出力特性の電池を得ることが可能となる。上記負極活物質は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。上記のリチウムと合金化する元素としては、以下に制限されることはないが、具体的には、Si、Ge、Sn、Pb、Al、In、Zn、H、Ca、Sr、Ba、Ru、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag、Au、Cd、Hg、Ga、Tl、C、N、Sb、Bi、O、S、Se、Te、Cl等が挙げられる。なお、上記以外の負極活物質が用いられてもよい。
【0027】
(シェル部)
本発明の電極材料が有するシェル部は、上記のポリマー電解質を主成分とし、且つ上記の活物質を有するコア部を略全面的に被覆するイオン伝導性の構造体をいう。ここで主成分とは、上記のポリマー電解質がシェル部全体の質量の50%以上を占めることを意味する。上記のポリマー電解質はさらにアルカリ金属塩及び電離助剤を含有することが好ましい。ポリマー電解質はさらにアルカリ金属塩及び電離助剤を含有することで、本発明の電極材料のイオン伝導度が向上する効果がある。
【0028】
シェル部は、主成分とするポリマー電解質以外にも、さらに導電助剤や添加物を含有してもよい。上記の導電助剤は、電極材料の電子伝導を促進する物質であり、公知のものを使用してもよい。本発明の効果を損なわない限り限定しないが、カーボンブラック、カーボンナノファイバー等があげられる。また、上記の添加物としては、界面活性剤を含有してもよい。ここで界面活性剤とは、分子内に極性部と無極性部を両方有し、極性部が他の極性物質と作用し、無極性部が他の無極性物質と作用することで、極性物質と無極性物質を良好に分散させることが可能な分子のことをいう。例えば、炭化水素や有機フッ素化合物のカルボン酸塩、リン酸エステル塩、スルホン酸塩、および硫酸エステル塩が例示される。シェル部が界面活性剤を含むことで、後述のアルカリ金属塩の分散性が向上する効果がある。
【0029】
さらに、シェル部は、無機固体電解質と併用してもよい。本発明の効果を損なわない限り限定しないが、上記の無機固体電解質として、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質があげられる。
【0030】
(ポリマー電解質)
ポリマー電解質とは、ポリマーマトリックスを有し、外部から電場をかけることで容易にイオンを移動させる物質のことをいう。ポリマー電解質は、主成分とするポリマーを有し、且つ上記のポリマーのガラス転移温度は40℃以上である。ここで主成分とは、上記のポリマーが、上記のポリマー電解質固形の質量の50%以上を占める且つポリマー電解質全体の質量の35%以上を占めることを意味する。また、上記のポリマー電解質は後述のアルカリ金属塩及び電離助剤を含有することが好ましい。
【0031】
ポリマー電解質の主成分となるポリマーは、ガラス転移温度が40℃以上であり、この観点からポリアミド6、ポリアミド66、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアミドイミド、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリーレンスルフィドなどが好適である。その中でも、イオン伝導性に優れるとの観点から、ポリアリーレンスルフィドであることが好ましい。このポリアリーレンスルフィドの詳細については、後述する。
【0032】
上記のポリマー電解質におけるアルカリ金属イオンの移動しやすさは、25℃におけるイオン拡散係数で判断することができる。アルカリ金属イオンのイオン拡散係数(m/s)は、PFG-NMR(パルス磁場勾配核磁気共鳴分光法)を測定することで求められる。
【0033】
また、PFG-NMRで測定したイオン拡散係数は、同じ温度条件でも複数の値をとる可能性があるため、本発明においてのイオン拡散係数はそのイオンの25℃におけるイオン拡散係数の最大値をいう。イオン伝導度の観点から、上記のポリマー電解質の25℃におけるイオン拡散係数は10-132/s以上であることが好ましく、10-122/s以上であることがより好ましく、10-112/s以上であることがさらに好ましい。
【0034】
本発明のポリマー電解質は、さらに添加物を含有してもよい。例えば、イオン伝導性向上の観点から、無機酸化物粒子を含有してもよい。本発明の効果を損なわない限り限定しないが、Al、CuO、Fe、Fe、SiO、TiO、Y、ZrO等があげられる。また同様な観点から、セルロースや、金属有機構造体(MOFs)などをさらに含有してもよい。
【0035】
(イオン伝導度)
ポリマー電解質は電池用途の電解質としてのイオン伝導度や電池の充放電性能の観点から、イオン伝導度が高いほど好ましい。特に、ポリマー電解質が、電極活物質を有するコア部に被覆するシェル部に含有される場合、上記のポリマー電解質のイオン伝導度がアルカリ金属イオンの放出および吸蔵の効率に直接影響するため、本発明においては重要である。以上の観点から、本発明のポリマー電解質の25℃におけるイオン伝導度は10-5S/cm以上である。また、同様の観点から、10-4S/cm以上であることが好ましく、5×10-4S/cm以上であることがより好ましい。一方で、ポリマー電解質の伝導度は1S/cm以下である。
【0036】
イオン伝導度の測定は次の方法により行うことができる。ポリマー電解質を直径10mmの円形にサンプリングし、測定用の試料とする。この試料の厚さをマイクロメーターで測定後、サンプルホルダーに設置し、高周波インピーダンス測定システム(東陽テクニカ社製4990EDMS-120K)を用いて、100Hz~100MHzの交流電圧を印加し、複素インピーダンス法によるイオン伝導度を測定する。
【0037】
(ガラス転移温度)
上記のとおり、ポリマー電解質に主成分として含まれるポリマーのガラス転移温度(Tg)は40℃以上である。ここで、ガラス転移温度(Tg)は、一般的にポリマーがガラス状態からゴム状態に転移する温度をいう。ポリマー電解質において、ガラス転移温度が低いほど、イオン伝導度が高くなることが知られている。一方、Tgはポリマーの高温下の変形の容易さを示すパラメータであり、ガラス転移温度が高いほど、ポリマーの高温状態での流動性が低く、変形がしにくくなることが知られている。従来のポリエチレンオキシド(PEO)系ポリマー電解質は、Tgが-60℃以下であり、シェル部としての安全性向上効果の観点から、高温下の変形が起きやすくなり、高温下では活物質が露出してしまい、酸素及び電解液と活物質の遮断性が低下することがある。上記の課題につき、本発明は、高いガラス転移温度を有するポリマーを用いつつ、高いイオン伝導度のポリマー電解質で電極活物質を被覆させることで、安全性の高い電極材料を提供する。
【0038】
具体的に、本発明おいてはシェル部がコア部を略全面的に被覆することで、コア部の分解産物の放出を遮断する効果が発現され、電池の安全性向上効果が見いだされる。さらに、シェル部が、高いガラス転移温度をもつポリマーを主成分として有するポリマー電解質を有することで、シェル部の高温下の熱安定性が高まり、変形が起きにくくなり、高温下でも略全面的にコア部を被覆する構造を維持することが可能になる。その結果、コア部の高温下の分解産物の放出を遮断する効果が発現される。上記の遮断効果によって、高温下のコア部の電極活物質の反応進行の抑制ができ、さらにその産物が高温下で電解質と反応することを抑制する効果が見いだされる。
【0039】
具体的なメカニズムは明確ではないが、以下のとおりと推測する。例えば、LiCoOをコア部とする場合、200℃以上の状態から酸素が放出され、さらにLiCoOの結晶格子が変化し、Coが生成されることが知られている。放出された酸素が電解質とさらに反応し、発熱、発火に至ることがある。本発明の電極材料においては、コア部はシェル部により略全面的に被覆されており、このことにより、酸素の放出が抑制され、発熱量を減少させる効果を有する。そして、この効果により、本発明の電極材料は安全性に優れたものとなる。一方、従来のポリマー電解質の主成分となるポリマー、例えばポリエチレンオキシド(PEO)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ(フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF-HFP)など、低ガラス転移温度を有するポリマーは高温状態で変形しやすく、高温状態のシェル構造を維持することができず、上記のコア部からの酸素の放出を十分に抑制することができず、結果として、放出された酸素が電解質とさらに反応し、発熱等に至ることがある。
【0040】
また、例示されたLiCoOは高温状態下の酸素放出反応を伴い、岩塩型構造であるLiCoOから、スピネル構造であるCoに構造変化することが知られている。コア部がシェル部に略全面的に被覆され、さらに高温状態でも略全面的な被覆状態を維持することができることで、上記の構造変化が抑制される効果を有する。その結果、電極材料の高温下の発熱量の抑制効果が発現され、電極材料の安全性はより優れたものとなる。
【0041】
上記の観点から、ポリマー電解質に主成分として含有されるポリマーのガラス転移温度は、40℃以上であり、50℃以上であることが好ましい。
【0042】
ポリマー電解質に主成分として含有されるポリマーのガラス転移温度の測定は示差走査熱量測定(DSC)で測定することができる。具体的に、ポリマーを窒素雰囲気下あらかじめ転移温度より約50℃低い温度で装置が安定するまで保持した後,加熱速度20℃/分で転移終了時よりも約30℃高い温度まで昇温し,ガラス転移温度付近で階段状変化のDSC曲線を描かせる。さらに、ガラス転移が発生する前後の温度範囲にそれぞれにベースラインを引く。ガラス転移温度(Tg)は,各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と,ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度とする。
【0043】
(アルカリ金属塩)
ポリマー電解質はイオン伝導度の観点からアルカリ金属塩を含むことが好ましい。上記のアルカリ金属塩は、アルカリ金属イオンとアニオンが構成イオンとして含まれる塩をいう。
【0044】
アルカリ金属塩としては、例えば、リチウム金属イオン、ナトリウム金属イオン、カリウム金属イオンなどのアルカリ金属イオンを含む金属塩があげられる。一般的に、イオン拡散性の観点からイオン径が小さい金属イオンが好ましい。また、電極活物質との適性の観点から、電極活物質がアルカリ金属イオンを有する場合、電極活物質と同じ種のアルカリ金属イオンを有するアルカリ金属塩が好ましい。
【0045】
上記のアニオンは、イオンへの解離性の高さからHSAB則に基づくやわらかい塩基であることが好ましく、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンや、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンであることが好ましい。すなわち、アルカリ金属塩は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド及びリチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドの少なくとも一方を含むものであることが好ましい。
【0046】
なお、HSAB則(Principle of Hard and Soft Acids and Bases)は、R.G.Pearsonが提唱した酸塩基の強さに関して、かたい、やわらかいという観点で分類したものである。かたい酸はかたい塩基に対して親和性が大きく、やわらかい酸はやわらかい塩基に対して親和性が大きい。かたい酸とは、電子受容体になる原子が小さく、容易に変形する軌道に入った価電子を持たず、大きな正電荷をもつものである。やわらかい酸とは、電子受容体になる原子が大きく、容易に変形する軌道に入った価電子を持ち、電荷がないかあっても小さいものである。かたい塩基とは、価電子が原子に強く結合している塩基であり、やわらかい塩基とは、価電子が容易に分極する塩基である。HSAB則およびHSABの酸塩基の分類は、R.B.HeslopとK.Jones著「Inorganic Chemistry -A Guide to Advanced Study」の9章の酸塩基の15節に記載されている。
【0047】
具体的には、アルカリ金属塩として、リチウム塩類、ナトリウム塩類を含むことが好ましく、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO)、過塩素酸リチウム(LiClO)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、六フッ化リン酸ナトリウム(NaPF)、四フッ化ホウ酸ナトリウム(NaBF)、過塩素酸ナトリウム(NaClO)、ナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NaFSI)、及びナトリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(NaTFSI)より選ばれる1種以上を含むことがより好ましく、イオンの解離性の高さの観点から、LiTFSI、及びLiFSIより得られる1種以上を含むことがさらに好ましい。
【0048】
また、アルカリ金属塩は複数種類の塩を適宜な比で混合して使用してもよい。ポリマー電解質の機械特性及び熱安定性の観点から、ポリマー電解質全体の質量に対して、アルカリ金属塩の質量が50%以下であることが好ましく、40%以下であることがさらに好ましい。
【0049】
イオン伝導度の観点から、ポリマー電解質全体の質量に対して、アルカリ金属塩の質量が1%以上であることが好ましく、5%以上がさらに好ましい。
【0050】
(電離助剤)
ポリマー電解質は、電離助剤を含むことが好ましい。そして、ポリマー電解質に含まれる電離助剤は、溶媒を含むことがより好ましい。そして、アルカリ金属塩の解離及びイオン伝導度の観点から、この溶媒は以下のものであることが好ましい。すなわち、この溶媒は、25℃における式3で得られたイオン解離度(1-ξ)が0.1以上であり、かつ、式4で得られる溶媒拡散係数(Dsolvent)が15以下であることが好ましい。
【0051】
【数3】
【0052】
【数4】
【0053】
式3で得られたイオン解離度(1-ξ)は電離助剤、温度、イオン濃度、イオン種類によって変わることがある。ここでイオン解離度は、温度が25℃、イオン濃度が0.2mol/L、且つカチオンがリチウムイオン、アニオンがN(SOCF である場合のイオン解離度をいう。
【0054】
なお、式3及び式4の表記は下記通りの数値を表す。σimp:イオン伝導度、e:電子電量、N:アボガドロ定数、k:ボルツマン定数、T:温度、DLithium:リチウムイオンの拡散係数、DAnion:N(SOCF の拡散係数、(1-ξ):イオン解離度、Dsolvent:溶媒拡散係数、c:境界条件定数、η:粘度、ra:拡散半径。
【0055】
上記の電離助剤は、ポリマー電解質の界面、または非結晶部分でリチウムイオンと結合し、ポリマーマトリックスよりもイオン伝導性に優れた第三の相を形成することができる。上記の第三の相により、イオン伝導パスが形成され、ポリマー電解質のイオン伝導性を向上させることができる。
【0056】
式3で得られたイオン解離度(1-ξ)は、イオン解離の割合を示す。アルカリ金属塩の解離を促進させる観点から、上記溶媒の式4で得られたイオン解離度(1-ξ)は、0.1以上であることが好ましい。
【0057】
また、式4で得られる溶媒拡散係数(Dsolvent)は、溶媒の粘性を示しており、この数値が低いほどアルカリ金属イオンの伝導度が高くなる傾向にある。上記観点から、上記溶媒の式4で得られる溶媒拡散係数(Dsolvent)は、15以下であること好ましい。
【0058】
上記観点から、上記電離助剤の式3で得られたイオン解離度(1-ξ)が0.1以上、かつ式4で得られる溶媒拡散係数(Dsolvent)が15以下となる溶媒を1つ以上、含有することが好ましい。
【0059】
また、同様な観点から、上記の電離助剤は、水、γブチロラクトン(GBL)、N-メチルピロリドン(NMP)、ブチレンカーボネート(BC)、エチレンカーボネート(EC)プロピレンカーボネート(PC)、メチル-γ-ブチロラクトン(GVL)、トリグリム(TG)、ダイグリム(DG)、炭酸エチルメチル(EMC)、および炭酸ジメチル(DMC)からなる群より選ばれる1つ以上を含有してもよい。なかでも、電解質の電位窓の観点から、上記電離助剤は、γブチロラクトン(GBL)およびN-メチルピロリドン(NMP)の少なくとも何れか一方を含有するものであることがより好ましく、前述のポリマーとの親和性の観点から、上記電離助剤は、γブチロラクトン(GBL)を含有するものであることが最も好ましい。
【0060】
また、安全性の観点から、電離助剤の質量がポリマー電解質の質量の65%以下であることが好ましく、50%以下がさらに好ましい。
【0061】
(電解液)
本発明において用いる電解液は、電離助剤とアルカリ金属塩から構成され、特に限定されることなく従来のリチウムイオン電池に用いられている電離助剤とアルカリ金属塩を使用することができる。前記電解液に含まれる電離助剤としては、前記ポリマー電解質に用いられる電離助剤と同様の化合物が好ましい例として例示される。前記電離助剤は、複数種類を任意の割合で混合して用いても良い。
【0062】
電解液に含まれるアルカリ金属塩としては、前記ポリマー電解質に用いられるアルカリ金属塩と同様の化合物が好ましい例として例示される。前記電解液に含まれるアルカリ金属塩としては、四フッ化ホウ酸リチウムまたは六フッ化リン酸リチウムの少なくとも一方を含むことがさらに好ましい。前記アルカリ金属塩は複数種類を任意の割合で混合して用いても良い。
【0063】
(コアシェル構造体の形成方法)
本発明において、電極材料の発熱量を抑制する観点から、シェル部がコア部を略全面的に被覆することが重要である。さらに、コアシェル構造体を形成する方法は特に制限されないが、公知の方法を使用してもよい。例えば、固相混合法や、溶液法が挙げられる。
【0064】
固相混合法として、物理的にコア部とシェル部とを混合することでコアシェル構造体を得る方法があげられる、すなわち、例えばボールミル、や気流分散ミキサー等を用いて、コア部を構成する材料とシェル部を構成する材料とを混合し、シェル部がコア部を略全面的に被覆するようにし、コアシェル構造体を得る方法があげられる。一方、シェル部がコア部を略全面的に被覆する観点から、溶液法でコアシェル構造を形成することが好ましい。本発明の効果を損なわない範囲内であれば制限しないが、溶液法の例として、まずポリマー及びアルカリ金属塩を溶媒に溶解させる。さらにポリマー及びアルカリ金属塩の溶液に電極活物質を攪拌しながら、少量ずつ添加させ、懸濁液を得る。その後、懸濁液を加熱かつ真空環境で溶媒を揮発させ、コアシェル構造体を得る。ここで、シェル部がコア部を略全面的に被覆するためには、シェル部の主成分となる電解質ポリマーが溶媒に可溶性であることが好ましい。
【0065】
溶液法では、シェル部によるコア部の被覆率を制御することが可能である。例えば、溶液の濃度、粘度を高くすれば、シェル部によるコア部の被覆率を高くすることが可能である。溶液法としては、具体的に、ゾルゲル法、噴霧被覆法などがあげられる。
【0066】
(有機溶媒)
詳細は後述するが、ポリマー電解質に主成分として含有されるポリマーは少なくとも1種の有機溶媒に可溶性であることが好ましい。そして、上記の有機溶媒は、一般的にポリマーを溶解するために使用される溶媒のことをいう。本発明の効果を損なわない限り限定はされないが、生産性及び保管性の観点から、上記の有機溶媒は常温常圧で液体であることが好ましい。上記の観点から、上記の有機溶媒の融点が10℃以下、沸点が50℃以上であるものが好ましい。また、上記のポリマーを溶解するには、有機溶媒を加熱することが必要な場合があり、この観点から、有機溶媒の沸点は100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。ポリマーを溶解させる観点から、高い極性を持つ有機溶媒であることが好ましい。また、上記のコアシェル構造体を形成する際の観点から、沸点以上の温度にて高い揮発性を有する溶媒が好ましい。公知のものとして、アセトニトリル、アセトン、四塩化炭素、クロロホルム、シクロヘキサン、二塩化エチレン、トルエン、N-メチルピロリドン(NMP)等が上がられる。高沸点の観点から、トルエン、NMPが好ましい。
【0067】
(ポリマーの溶媒可溶性)
本発明においては、ポリマー電解質に主成分として含有されるポリマーは少なくとも1種の有機溶媒に可溶性であることが好ましい。上記のポリマーが少なくとも1種の有機溶媒に可溶性であることにより、シェル部にコア部を略全面的に被覆させ、コアシェル構造体を得ることが容易になる。上記のことに加え、有機溶媒は容易に揮発するものであることが好ましく、有機溶媒は、常圧での有機溶媒の沸点と150℃のいずれか低い方の温度以下での飽和溶解度が5%以上であることが好ましく、10%以上がさらに好ましい。なお、上記の可溶性であるとは、常圧での溶媒の沸点と150℃のいずれかの低い温度以下での飽和溶解度が5%以上であることをいう。
【0068】
(ポリアリーレンスルフィド)
上記のとおり、ポリマー電解質の主成分として含まれるポリマーは、ポリアリーレンスルフィド(以下、PASと称することがある)であることが好ましい。PAS(アリーレン基を「Ar」と略す。)は、式-(Ar-S)-を構成単位とするポリマーである。また、上記の構成単位-(Ar-S)-のArは化学式(1)の(A)の構成単位、および、化学式(1)の(B)~(G)からなる群より選ばれる少なくとも1つの構成単位を有する。融点や分子量を制御する観点で、特に、Arが化学式(1)の(B)の構成単位、または化学式(1)の(C)の構成単位を有することが好ましい。
【0069】
【化2】
【0070】
(R1,R2はアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、および水酸基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。R3、R4は、水素、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、および水酸基から選ばれた置換基であり、R3とR4は同一でも異なっていてもよい。Yはアルキレン基、O、CO、SO、SOから選ばれた置換基、または直接結合である。)
また、上記の式-(Ar-S)-を構成単位とするPASにおいて、全モノマー単位100モル%中に、上記の化学式(1)の(B)~(G)からなる群より選ばれるモノマー単位を30モル%以上含有することが好ましい。一方で、上限としては、上記の式-(Ar-S)-を構成単位とするPASにおいて、全モノマー単位100モル%中に、上記の化学式(1)の(B)~(G)からなる群より選ばれるモノマー単位を70モル%以下含有することが好ましい。上記のモノマー単位の含有量は、35モル%以上50モル%以下であることがより好ましい。上記のモノマー単位の含有量が30モル%以上であることで、主鎖の柔軟性が増加して、PASの溶媒可溶性が大きく増加し、略全面的に被覆されたコアシェル構造の形成が容易となる。一方、上記のモノマー単位の含有量が70モル%以下であることで、PAS共重合体の重合反応終了後の反応液からPAS共重合体を回収する際に、回収を効率的に行えるようになる傾向にある。なお、PAS共重合体中の共重合単位の含有比率は、重合時に添加する式(A’)~(G’)で表されるジハロゲン化芳香族化合物全量に対する、共重合成分として添加する(B’)~(G’)の化合物の添加量の比率、と同じである。
【0071】
上記-(Ar-S)-で表される単位を主要構成単位とする限り、下記式(H)~(J)で表される分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、-(Ar-S)-で表される構成単位1モルに対して0~1モル%の範囲であることが好ましい。
【0072】
【化3】
【0073】
また、本発明におけるPAS共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
【0074】
本発明のポリマー電解質用PAS共重合体の合成方法は特に限定されるものではなく、有機極性溶媒中でスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物を反応させて得る方法や、ジヨード芳香族化合物と硫黄を無溶媒下で溶融反応させて得る方法などが挙げられるが、工業的に生産されている前者の重合方法を採用するのが汎用性の観点で好ましい。
【0075】
(結晶化度)
ここで、ポリマー電解質の結晶化度は、電離助剤を含有しない状態の結晶化度をいう。本発明のポリマー電解質は融点、加工性及び電離助剤の含浸の観点から、本発明のポリマー電解質に含まれるポリマーの結晶化度が10%以下であることが好ましく、完全非結晶、すなわち結晶化度が0%であることがさらに好ましい。
【0076】
結晶化度は一般的に、ポリマー全体における結晶領域が占める割合をいうが、ここでは、電離助剤を含浸する前のポリマー電解質の結晶融解熱量を、パラフェニレンスルファイド完全結晶の融解熱量(146.2J/g)にて除した値をポリマーの結晶化度とみなす。
【0077】
特許文献6等において、ポリマー電解質は結晶化度が高いことがイオン伝導度に重要であることが知られているが、結晶化度を低くすることで、ポリマーの融点が低くなる傾向にあり、電離助剤との親和性が高くなり、イオン伝導パスが形成しやすくなるため、低結晶化度でも高いイオン伝導度に至ることができる。また、結晶化度が低い場合、溶媒に溶解することが可能となり、略全面的に被覆したコアシェル構造を形成することが可能となる。
【0078】
(電極)
電極とは、正極または負極をいう。正極または負極は、一般的に電極材料と集電箔を有する。安全性の観点から、正極または負極の少なくともいずれかに本発明のコアシェル構造体を有する電極材料を含み、正極と負極の両方がコアシェル構造体を有してもよい。集電箔は、公知の方法で正極活物質と負極活物質に合わせて選択してもよい、例えばアルミ箔、銅箔等が例示される。
【0079】
上記の電極は、発明の効果を損なわない限り限定されず、公知の方法で製造することができる。例えば、上記のコアシェル構造を有する電極材料と、バインダーと、導電助剤とを混合し、集電箔に塗布し、得た塗布体を乾燥させて電極を得ることができる。
【0080】
(電池)
電池は、本発明の電極材料を有する電極を含むことが好ましい。電解液を用いた液系電池は一般的に正極と、負極と、セパレーターとを有し、さらに正極、負極及びセパレーターには電解液が含浸されている。電解液は、有機溶媒に支持塩を溶解させたものである。有機溶媒は、通常アルカリ金属二次電池の電解液に用いられる有機溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等を用いることができる。
【0081】
上記の支持塩は、その種類が特に限定されるものではないが、LiPF6 、LiBF4 、LiClO4及びLiAsF6 から選ばれる無機塩、該無機塩の誘導体、LiSO3CF3、LiC(SO3CF32 及びLiN(SO3CF32 、LiN(SO2252及びLiN(SO2CF3)(SO249)から選ばれる有機塩、並びに該有機塩の誘導体の少なくとも1 種であることが好ましい。
【0082】
上記のセパレーターは、正極及び負極を電気的に絶縁し、電解液を保持する役割を果たすものである。たとえば、多孔性合成樹脂膜、特にポリオレフィン系高分子( ポリエチレン、ポリプロピレン) の多孔膜を用いてよい。
【0083】
電池は、効果を損なわない限り限定されず、公知の方法で製造することができる。また、上記の公知の製造方法は、電解液を用いた電池または固体電解質を用いた電池に用いることもできる。例えば、まず正極材とセパレーター、負極材をコインセルのサイズに打ち抜き、順番に積層させる。その後コインセルの外装に入れ、電解液を添加してカシメてコインセルを得ることができる。他の方法として、セパレーターと正極材、負極材を捲回機で巻き取り、捲回体を得る。その後得た捲回体を外装材で密封し、電解液を注入して、電池を得ることができる。或いは、固体電解質層と正極材、負極材を捲回機で巻き取り、捲回体を得る。その後得た捲回体を外装材で密封し固体電池を得ることができる。
【0084】
(電極材料の安全性)
本発明の電極材料は、コア部がシェル部に略全面的に被覆されてなるコアシェル構造体を有することで安全性向上の効果を得る。ここでいう安全性向上は、電極材料がコアシェル構造体を有することで、本発明の電極材料単独或いは本発明の電極材料を用いた電池の高温時の自己発熱量が減少することをいう。また、コア部がシェル部に略全面的に被覆されてなるコアシェル構造体を有することで、電極活物質と電解液の接触を抑制することができ、電極活物質と電解液の反応を抑えることができる。さらに、コア部がシェル部に略全面的に被覆されることで、コア部が含有する電極活物質の機械的な変形を抑制し、または内部応力を緩和する効果がある。上記の観点から、本発明の電極材料は、コア部がシェル部に略全面的に被覆されてなるコアシェル構造体を有することで、電極活物質自身の高温下の分解を抑制することができる。すなわち、この効果を達成するには、高温状態であっても、コア部がシェル部に略全面的に被覆されてなるコアシェル構造体を電極材料が有することが重要であり、ポリマー電解質に主成分として含まれるポリマーのガラス転移温度は40℃以上であり、かつ、ポリマー電解質のイオン伝導度は10-5S/cm以上1S/cm以下であることが重要である。
【実施例0085】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0086】
[測定および評価方法]
(ガラス転移温度の測定)
本発明におけるポリマーのガラス転移温度の測定は示差走査熱量測定(DSC)で測定した。まず、クライオミルでポリマーの平均粒子径が0.5mm以下になるよう粉砕した。2.5mgのポリマー電解質をアルミ製サンプルホルダーに充填し、サンプル台に設置した。ポリマーを窒素雰囲気下でガラス転移温度より約50℃低い温度で装置が安定するまで保持した後、加熱速度20℃/分で転移終了時よりも約30℃高い温度まで昇温し、ガラス転移温度付近で階段状変化のDSC曲線を描かせた。さらに、ガラス転移が発生前後の温度範囲にそれぞれにベースラインを引いた。ガラス転移温度(Tg)は、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度とした。
【0087】
(結晶化度の測定)
ここでいうポリマー電解質の結晶化度は、電離助剤を含有しないフィルムの結晶化度をいう。本発明におけるポリマー電解質の結晶化度は、示差走査量熱計(DSC)で測定した。まず、クライオミルでポリマー電解質の平均粒子径が0.5mm以下になるよう粉砕した。2.5mgのポリマー電解質をアルミ製サンプルホルダーに充填し、サンプル台に設置した。ポリマー電解質を窒素雰囲気下10℃/分の速度で25℃から120℃に昇温し、120℃にて2時間保持した。その後400℃まで10℃/分の速度で昇温し、得られた吸熱ピークのうち、最も面積の広いピークを融解ピークとみなし、融解ピーク面積より求められる融解熱量(J/g)を146.2(J/g)で除した値を結晶化度(%)とした。
【0088】
(イオン伝導度の測定)
本発明におけるイオン伝導度の測定は次の方法で測定した。ポリマー電解質フィルムの厚みを測定したあと、直径10mmになるようサンプリングし、面積(S)を78.5mmと算出した。ポリマー電解質フィルムを直径10mmのサンプルホルダー(宝泉社製KP-SolidCell)に入れた。その後高周波インピーダンス測定システム(東陽テクニカ社製4990EDMS-120K)を用いて、100Hz~100MHzの交流電圧を印加し、複素インピーダンス法によるインピーダンスを測定した。得たインピーダンスから、抵抗値(R)を算出し、測定した厚み(D)、面積(S)と合わせて、下記の式5でイオン伝導度(σ)を算出した。
【0089】
【数5】
【0090】
(被覆率の測定)
上記のコアシェル構造の被覆率の測定は、電極材料断面のSEM-EDS画像解析を用いて行った。まず、イオンミーリング装置(HITACH製IM4000)で、コアシェル構造体を含む電極材料の断面出しを実施した。さらに、EDS検出器を備えた電極走査型電子顕微鏡(走査型電子顕微鏡:HITACH製SU8010、EDS検出器:HORIBA製X-max)により、電極断面拡大率2000倍のSEM画像を取得した。取得したSEM画像と同じ視野でEDS測定を行い、シェル部由来の元素(例えば、硫黄元素など)とそれ以外の元素を色分けした画像を得た(以下、SEM-EDS画像と称する)。
【0091】
得られたSEM-EDS画像を、画像処理ソフト(例えば、Image-J)を用いて、コア部の上のシェル部由来の元素(例えば、硫黄元素など)を検出し、検出した画像から独立したコア部断面を10個以上ランダムに選出し、それぞれのコア部の断面の最大径R(例えば、コア部断面を10個選出した場合、R~R10)と上記の断面を被覆するシェル部の被覆率A(例えば、コア部断面を10個選出した場合、A~A10)を画像から算出した。コアシェル構造の被覆率Aは式2で算出した。
【0092】
【数6】
【0093】
(ポリマーの有機溶媒への溶解度の測定)
本発明におけるポリマーの有機溶媒への溶解度の測定は次の方法で実施した。25℃、かつ、常圧の状態でNMPとポリマーの質量合計が100部に対して、NMPの質量が95部、ポリマー質量が5部になるようポリマーを添加した。得た混合液を充分に攪拌し、ポリマーが完全溶解するかを目視で確認した。完全溶解しない場合、密閉状態で有機溶媒の沸点と150℃のいずれかの低い温度まで昇温させた。上記の状態で充分に攪拌し、ポリマーが完全溶解するかを目視で確認した。完全溶解した場合、上記のポリマーがNMPに可溶性だと判断した。
【0094】
(電極材料の安全性の測定)
本発明における電極材料の安全性の測定は次の方法で実施した。まず上記の電池の作製方法でコアシェル構造体を有する電極材料を用いてコインセルを作製した。また、参考として、コアシェル構造体を有しない以外は上記の電極材料と同様の構成の電極材料を用いてコインセルを作製した。次に得たコインセルを初期充放電した後に、満充電状態に充電させた。さらに上記の満充電に充電したコインセルを露点―40℃の条件で絶縁状態を保ちながら解体し、電極材料をカルベ式熱量計(Setaram Instrumentation製CalvetCalorimeterC80)で発熱量を測定した。上記のコアシェル構造体を有する電極材料の発熱量W(J/g)とコアシェル構造を有しない電極材料の発熱量W(J/g)を得た。安全性Wは式6で算出した。
【0095】
【数7】
【0096】
なお、安全性Wの値が大きいほど、電極材料の安全性は、より優れたものとなる。
【0097】
(ポリマー1)
全-(Ar-S)-の繰り返し単位100モル%に対して、Arが(A)で表されるパラフェニレンスルファイド構成単位を65モル%と、Arが(C)で表される、且つR1,R2がともに水素であるメタフェニレンスルファイド構成単位35モル%とからなる共重合ポリマー。
【0098】
(ポリマー2)
全-(Ar-S)-の繰り返し単位100モル%に対して、Arが(A)で表されるパラフェニレンスルファイド構成単位を90モル%と、Arが(C)で表される、且つR1,R2がともに水素であるメタフェニレンスルファイド構成単位10モル%とからなる共重合ポリマー。
【0099】
(ポリマー3)
全-(Ar-S)-の繰り返し単位100モル%に対して、Arが(A)で表されるパラフェニレンスルファイド構成単位からなるポリマー(東レ社製ポリフェニレンスルファイド“トレリナ“(登録商標)E2080)。
【0100】
(ポリマー4)
ポリフッ化ビニリデン
(ポリマー5)
ポリエチレングリコール(分子量:500000)
(アルカリ金属塩1)
リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
(溶媒1)
N-メチルピロリドン
(正極活物質1)
Li(Ni0.5,Co0.2,Mn0.3)O
(正極活物質2)
LiCoO
(負極活物質1)
人造黒鉛
(電離助剤1)
γブチロラクトン
(電解液1)
LiPF6(1mol/L)、EC:DMC:EMC(3:3:4体積比)、VC(1wt%)
(導電助剤1)
アセチレンブラック
(バインダー1)
ポリフッ化ビニリデン
(バインダー2)
カルボキシメチルセルロース
(実施例1)
表1が示した通りの原料、すなわち、ポリマー1、アルカリ金属塩1、および溶媒1を溶媒1の1000質量部に対して、表2が示した比率になるよう混合し、140℃、400rpmで攪拌しながら完全溶解させた。さらに、正極活物質1を溶媒1の1000質量部に対して、表2が示した比率になるよう、得た溶液に添加し、正極活物質の混合液を得た。得た混合液を200rpmで攪拌し180℃で完全乾燥させ、コアシェル構造体を有する電極材料を得た。得た電極材料を平均粒子径が200マイクロメートル以下になるよう粉砕し、コアシェル構造を有する電極材料の粉末を得た。得た電極材料の粉末を上記の被覆率の測定方法でコアシェル構造体の被覆率を算出した。結果は、表3に示す。
【0101】
さらに、表1の通り、室温状態で電極材料の粉末に導電助剤と、バインダーとを溶媒1の1000質量部に対して、表2が示した比率になるよう添加し、溶媒1に分散させ、電極材料スラリを得た。得たスラリをアプリケーターでアルミ箔に塗布し、180℃、24時間真空乾燥し、電極1を得た。さらに、得た電極1を14mmΦに打ち抜き、質量を測定し、含有するポリマー1の質量を算出した。ポリマー1との質量比が100:97になるよう電離助剤1を添加し、80℃で10分含浸を行った。
【0102】
さらに、東レ製セパレーター(F12CD1)を19mmΦに打ち抜き、Li金属箔(本城金属製)を16mmΦに打ち抜いた。電極1と、セパレーターと、Li金属箔とをこの順番に積層させ、コインセルケース(20mmΦ、高さ3.2mmのコインセル2032型)に入れ、電解液1を60マイクロリットル添加した。最後に宝泉製コインセルカシメ機でカシメた。
【0103】
得たコインセルを東洋システム製の充放電装置に設置し、充電電圧4.2V、放電電圧3.0V、充電速度が0.05Cになるよう初期充放電し、その後に充電電圧4.3V、充電速度が0.05Cになるように充電した。充電状態のコインセルを絶縁が保ちながらコインセル解体機(宝泉製)で解体し、充電状態の充電電極1を取り出した。
【0104】
充電電極1をカルベ熱量計で30℃から300℃まで1K/minの速度で昇温し、発熱量W1を測定した。
【0105】
また、下記参考例2-1で記載の方法でコアシェル構造を有さない比較用電極1を作成し、比較用充電電極1の発熱量W2を測定した。次に、上記の電極材料の安全性の測定の項に記載の測定方法により、電極1の安全性Wを算出し、その結果を表3に示す。
【0106】
さらに、下記の参考例3-1で記載の方法で電極1に含有される電解質1の室温イオン伝導度を測定した。その結果を表3に示す。
【0107】
また、ポリマー1のガラス転移温度を上記の結晶化度の測定方法で測定した。溶媒1における可溶性を上記の有機溶媒への溶解度の測定の測定方法で測定した。測定結果を表3に示す。
【0108】
(実施例2~3、比較例1~4)
ポリマー種類、アルカリ金属塩種類、電極活物質、導電助剤、及びポリマーとアルカリ金属塩の種類を表1に示すとおりとし、各原料の混合比率を表2のとおりとした以外は実施例1と同様にサンプルを作製し、被覆率と発熱量W1の測定を実施した。また、比較用電極は表1に記載の通りのものを用いた。下記する参考例2-1または参考例2-2に記載の方法にて、表1に記載の比較用電極1および2を作製し、これらの比較用充電電極の発熱量W2を測定し、上記の電極材料の安全性の測定の項に記載の測定方法により、各電極の安全性Wを算出した。各電極が含有するポリマー電解質は表1に示す通りである。また、これらの電解質について、下記する参考例3-1~3-5のいずれかに記載の方法により、イオン伝導度を測定した。さらに、実施例1と同様な方法により、表1に示したポリマーのガラス転移温度と溶媒可溶性を測定した。評価結果を表3に示す。
【0109】
実施例2は正極活物質をLiCoOに変更した以外は、実施例1と同様に電極材料等を作製した。実施例1に使用されたLi(Ni0.5,Co0.2,Mn0.3)Oに対してLiCoO自体の発熱量が高いにも関わらず、コアシェル構造体を有することで、充電電極2の発熱量は比較用充電電極2の発熱量と比較して、大幅に低く、安全性Wの値は23.5%と大きくなり、実施例2の電極材料は高い安全性を示した。
【0110】
実施例3はポリマー電解質の量以外は、実施例1と同様に電極材料等を作製した。ポリマー電解質の量の減少により、被覆率が実施例1に比較して低下したが、それでも85%以上の被覆率を保っていたため、充電電極3の発熱量は比較用充電電極1の発熱量と比較して大幅に低く、安全性Wの値は17.9%と大きくなり、実施例3の電極材料は比較的に高い安全性を示した。
【0111】
比較例1の電極材料が有するポリマー電解質の主成分となるポリマーが、全-(Ar-S)-の繰り返し単位100モル%に対して、Arが(A)で表されるパラフェニレンスルファイド構成単位を90モル%と、Arが(C)で表される、且つR1,R2がともに水素であるメタフェニレンスルファイド構成単位10モル%とからなる共重合ポリマーであり、溶媒非可溶性である。そのため、被覆率は30%と低く、コア部はシェル部によって被覆されておらず、比較例1の電極材料はコアシェル構造体を備えるものではなかった。よって、比較例1の電極材料では、活物質の露出部の割合が実施例の電極材料と比較して多く、充電電極4の発熱量は比較用充電電極1の発熱量と比較して、大きな差はなく、安全性Wの値は5.8%と小さくなり、実施例の電極材料と比較し安全性に劣るものであった。
【0112】
比較例2のポリマー電解質の主成分となるポリマーが、全-(Ar-S)-の繰り返し単位100モル%に対して、全-(Ar-S)-の繰り返し単位100モル%に対して、Arが(A)で表されるパラフェニレンスルファイド構成単位からなるポリマー、溶媒非可溶性である。そのため、被覆率は10%と低く、コア部はシェル部によって被覆されておらず、比較例2の電極材料はコアシェル構造体を備えるものではなかった。よって、比較例2の電極材料では、活物質の露出部の割合が実施例の電極材料と比較して多く、充電電極5の発熱量は比較用充電電極1の発熱量と比較して、大きな差はなく、安全性Wの値は1.2%と小さくなり、実施例の電極材料と比較し安全性に劣るものであった。
【0113】
比較例3は、溶媒可溶性ポリマーを用いており、常温状態では高い被覆率を有するコアシェル構造体をなり得るが、電離助剤を多く含有しており、且つ-30℃と低いガラス転移温度を有するため、高温状態でシェル部が変形し、コア部露出部が増加する。すなわち、高温状態では被覆率が低下し、コアシェル構造体を保てるものではなかった。そのため、充電電極6の発熱量は比較用充電電極1の発熱量と比較して、ほとんど差はなく、安全性Wの値は1.0%と非常に小さくなり、低い安全性を示した。
【0114】
比較例4は、溶媒可溶性で常温状態では高い被覆率を有するコアシェル構造体をなり得るが、-65℃と低いガラス転移温度を有するポリマーを用いており、高温状態シェル部が変形し、コア部露出部が増加する。すなわち、高温状態では被覆率が低下し、コアシェル構造体を保てるものではなかった。そのため、充電電極7の発熱量は比較用充電電極1の発熱量と比較して、大きな差はなく、安全性Wの値は2.3%と小さくなり、低い安全性を示した。
【0115】
(実施例4)
実施例4は、表1に記載の材料、表2に記載の混合比とし、アルミ箔の代わりに銅箔を用いた以外は実施例1と同様の手順にして、電極材料、コインセル等を作製した。
【0116】
得たコインセルを東洋システム製の充放電装置に設置し、充電電圧0.05V、放電電圧1.5V、充電速度が0.05Cになるよう初期充放電し、その後に充電電圧0.05V、充電速度が0.05Cになるように充電した。充電状態のコインセルは絶縁を保ちながらコインセル解体機(宝泉製)で解体し、充電状態の充電電極8を取り出した。
【0117】
充電電極8をカルベ熱量計で30℃から300℃まで1K/minの速度で昇温し、発熱量W1を測定した。
【0118】
また、下記参考例2-3に記載の方法で比較用電極3を作製し、比較用充電電極3の発熱量W2を測定した。次に、上記の電極材料の安全性の測定の項に記載の測定方法により、電極8の安全性Wを算出し、その結果を表3に示す。
【0119】
充電電極8の発熱量は比較用電極3の発熱量と比較して低く、安全性Wの値は35.1%と大きくなり、実施例4の電極材料は高い安全性を示した。
【0120】
【表1】
【0121】
【表2】
【0122】
【表3】
【0123】
(ポリマーの製造方法)
[参考例1-1]
攪拌機付きのオートクレーブに硫化ナトリウム9水和物6.005kg(25モル)、酢酸ナトリウム0.787kg(9.6モル)およびNMP(N-メチルピロリドン)5kgを仕込み、窒素を通じながら徐々に205℃まで昇温し、水3.6リットルを留出した。次に反応容器を180℃に冷却後、1,4-ジクロロベンゼン3.712kg(25.25モル)ならびにNMP2.4kgを加えて、窒素下に密閉し、270℃まで昇温後、270℃で2.5時間反応した。次に100℃に加熱されたNMP10kg中に投入して、約1時間攪拌し続けたのち、濾過し、さらに80℃の熱水で30分の洗浄を3回繰り返した。これを濾過し、酢酸カルシウムを10.4g入れた水溶液25リットル中に投入し、密閉されたオートクレーブ中で192℃、約1時間攪拌し続けたのち、濾過し、濾液のpHが7になるまで約90℃のイオン交換水で洗浄後、80℃で24時間減圧乾燥し、ポリマー3を得た。
【0124】
[参考例1-2]
参考例1-1を参考としながら、1,4-ジクロロベンゼン3.341kg(22.72モル)及び1,3-ジクロロベンゼン0.371kg(2.53モル)も同時に添加することで、ポリマー2を得た。
【0125】
[参考例1-3]
参考例1-1を参考としながら、1,4-ジクロロベンゼン2.413kg(16.41モル)及び1,3-ジクロロベンゼン1.299kg(8.84モル)も同時に添加することで、ポリマー1を得た。
【0126】
(比較用電極の製造方法及び発熱量の測定方法)
[参考例2-1]
室温状態で正極活物質1と導電助剤1と、バインダー1とを溶媒1の1000質量部に対して、表4が示した比率になるよう添加し、溶媒1に分散させ、電極材料スラリを得た。アプリケーターで得たスラリをアルミ箔に塗布し、180℃、24時間真空乾燥し、比較用電極1を得た。さらに、得た比較用電極1を14mmΦに打ち抜いた。
【0127】
さらに、東レ製セパレーター(F12CD1)を19mmΦに打ち抜き、負極としてLi金属箔(本城金属製)を16mmΦに打ち抜いた。比較用電極1と、セパレーターと、Li金属箔とをこの順番に積層させ、コインセルケースに入れ、電解液1を60マイクロリットル添加した。最後に宝泉製コインセルカシメ機でカシメた。
【0128】
得たコインセルを東洋システム製の充放電装置に設置し、充電電圧4.2V、放電電圧3.0V、充電速度が0.05Cになるよう初期充放電し、その後に充電電圧4.3V、充電速度が0.05Cになるようで充電した。充電状態のコインセルを絶縁が保ちながらコインセル解体機(宝泉株式会社製)で解体し、充電状態の比較用充電電極1を取り出した。
【0129】
比較用充電電極1をカルベ熱量計で30℃から300℃まで1K/minの速度で昇温し、発熱量W2を測定した。
【0130】
[参考例2-2]
参考例2-1を参考にしながら、表4に示す通り正極活物質2を添加することで、比較用充電電極2を作製し、発熱量W2を測定した。
【0131】
[参考例2-3]
表4に記載の材料と比率とし、アルミ箔ではなく銅箔を用いること以外は参考例2-1と同様の手順で比較用電極3を作製した。充電電圧0.05V、放電電圧1.5Vに変更すること以外は同様の手順で比較用充電電極3を得、発熱量W2を測定した。
【0132】
【表4】
【0133】
(電解質のイオン伝導度測定方法)
[参考例3-1]
ポリマー1と、アルカリ金属塩1と、溶媒1とをポリマー1の100質量部に対して、表5が示した比率になるよう混合し、140℃、400rpmで攪拌しながら完全溶解させた。得た溶液を400rpmのスピンコート法で塗布し、180℃24時間乾燥させ、厚み20マイクロメートルの膜を得た。得た膜にポリマー1の100質量部に対して表5の比率になるよう電離助剤1を添加し、容器に入れて、80℃で1時間含浸させて、電解質1を得た。電解質1に対して、25℃のイオン伝導度を測定した。
【0134】
[参考例3-2]
参考例3-1に参考しながら、表5に示す通りポリマー2と、アルカリ金属塩1と、溶媒1とをポリマー1の100質量部に対して、表5が示した比率になるよう混合し、140℃、400rpmで攪拌しながら完全溶解させた。得た溶液を400rpmのスピンコート法で塗布し、180℃24時間乾燥させ、厚み20マイクロメートルの膜を得た。得た膜にポリマー1の100質量部に対して表5の比率になるよう電離助剤1を添加し、容器に入れて、80℃で1時間含浸させて、電解質2を得た。電解質2に対して、25℃のイオン伝導度を測定した。
【0135】
[参考例3-3]
参考例3-1に参考しながら、表5に示す通りポリマー3と、アルカリ金属塩1と、溶媒1とをポリマー1の100質量部に対して、表5が示した比率になるよう混合し、140℃、400rpmで攪拌しながら完全溶解させた。得た溶液を400rpmのスピンコート法で塗布し、180℃24時間乾燥させ、厚み20マイクロメートルの膜を得た。得た膜にポリマー1の100質量部に対して表5の比率になるよう電離助剤1を添加し、容器に入れて、80℃で1時間含浸させて、電解質3を得た。電解質3に対して、25℃のイオン伝導度を測定した。
【0136】
[参考例3-4]
参考例3-1に参考しながら、表5に示す通りポリマー4と、アルカリ金属塩1と、溶媒1とをポリマー1の100質量部に対して、表5が示した比率になるよう混合し、140℃、400rpmで攪拌しながら完全溶解させた。得た溶液を400rpmのスピンコート法で塗布し、180℃24時間乾燥させ、厚み20マイクロメートルの膜を得た。得た膜にポリマー1の100質量部に対して表5の比率になるよう電離助剤1を添加し、容器に入れて、80℃で1時間含浸させて、電解質4を得た。電解質4に対して、25℃のイオン伝導度を測定した。
【0137】
[参考例3-5]
参考例3-1に参考しながら、表5に示す通りポリマー5と、アルカリ金属塩1と、溶媒1とをポリマー1の100質量部に対して、表5が示した比率になるよう混合し、140℃、400rpmで攪拌しながら完全溶解させた。得た溶液を400rpmのスピンコート法で塗布し、180℃24時間乾燥させ、厚み20マイクロメートルの電解質5の膜を得た。電解質5に対して、25℃のイオン伝導度を測定した。
【0138】
【表5】
【符号の説明】
【0139】
1:コア部
2:シェル部
3:被覆部
4:露出部
5:コアシェル複合体
図1