(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163032
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】測定方法及び測定システム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/78 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
G01N21/78 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024067026
(22)【出願日】2024-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2023078865
(32)【優先日】2023-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平村 史人
(72)【発明者】
【氏名】小田垣 徹
(57)【要約】
【課題】簡素な構成要素によって、測定対象物の測定に関連する光量ムラを補正する測定方法。
【解決手段】反応試薬が適用されているとともに、該反応試薬と反応する測定対象物を含む試料が導入される試験片に対し、試料が導入される前の試験片の測定領域に測定光を照射した状態で測定前画像を撮影し、撮影した測定前画像における複数の測定部位ごとに発光強度を測定し、測定前画像における各測定部位の発光強度が均一となるような演算値を測定部位ごとに特定し、試料が導入された後の試験片の測定領域に測定光を照射した状態で測定画像を撮影し、撮影した測定画像における、測定前画像の各測定部位に対応する測定部位ごとに発光強度を測定し、測定画像における各測定部位の発光強度を、当該測定部位の演算値で補正する、測定方法。
【選択図】
図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応試薬が適用されているとともに、該反応試薬と反応する測定対象物を含む試料が導入される試験片に対し、前記試料が導入される前の前記試験片の測定領域に測定光を照射した状態で測定前画像を撮影し、
撮影した前記測定前画像における複数の測定部位ごとに発光強度を測定し、
前記測定前画像における各測定部位の発光強度が均一となるような演算値を測定部位ごとに特定し、
前記試料が導入された後の前記試験片の前記測定領域に前記測定光を照射した状態で測定画像を撮影し、
撮影した前記測定画像における、前記測定前画像の前記各測定部位に対応する測定部位ごとに発光強度を測定し、
前記測定画像における各測定部位の発光強度を、当該測定部位の前記演算値で補正する、測定方法。
【請求項2】
前記複数の測定部位は、前記試験片において導入された前記試料が移動する方向に沿って設定される、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記演算値を、前記各測定部位において、前記試料が移動する方向と直交する方向に沿って得られた発光強度の平均値に基づき特定する、請求項2に記載の測定方法。
【請求項4】
反応試薬が適用されているとともに、該反応試薬と反応する測定対象物を含む試料が導入される試験片が内部の測定領域に配置されて前記試験片が測定される測定システムであって、
前記測定領域に配置された試験片の測定領域に測定光を照射する光源と、
前記試験片の前記測定領域の画像を撮影する撮影部と、
前記撮影部が撮影した画像を解析する解析部と、を備え、
前記撮影部は、試料が導入される前の前記試験片の前記測定領域を前記光源から前記測定光が照射された状態で撮影することによって測定前画像を取得するとともに、試料が導入された後の前記試験片の前記測定領域を前記光源から前記測定光が照射された状態で撮影することによって測定画像を取得し、
前記解析部は、前記測定前画像における複数の測定部位ごとに、各測定部位の発光強度が均一となるような演算値を特定するとともに、前記測定前画像の前記各測定部位に対応する前記測定画像の測定部位ごとの発光強度を、前記演算値に基づき補正する、測定システム。
【請求項5】
前記複数の測定部位は、前記試験片において導入された前記試料が移動する方向に沿って設定される、請求項4に記載の測定システム。
【請求項6】
前記演算値は、前記各測定部位において、前記試料が移動する方向と直交する方向に沿って得られた発光強度の平均値に基づき特定される、請求項5に記載の測定システム。
【請求項7】
前記撮影部としてのカメラを有するモバイル装置と、
前記モバイル装置を保持するハウジングと、
前記試験片が挿入されるとともに前記光源が設けられ、前記ハウジングに装着される保持部と、を備えるとともに、
前記モバイル装置の中央演算装置が、前記解析部として機能する、請求項4から請求項6までのいずれか1項に記載の測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物の測定に関連する光量ムラを補正する測定方法及び測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
反応試薬が適用されている試験片を用いて、試料中の測定対象物と反応試薬との反応を発光強度で検出する測定システムにおいては、試験片の測定領域に測定光が一様に照射されるとは限らない。このため、試験片の測定領域を一様に照射するか、あるいは照射される光量のムラを補正する試みが種々なされている。
【0003】
下記特許文献1記載の技術では、イメージセンサでの測定に際し、入射光の分布補正及び基準物質の測定結果が均一になるような光量ムラの補正を実施している。下記特許文献2記載の技術では、照明装置による照度が十分か否か、撮影装置における撮影素子の感度に劣化がないか否かなどを定期的に点検するために専用の点検用試験片を用いて精度管理を行っている。下記特許文献3記載の技術では、点灯状態での光量分布を、消灯状態での光量分布及び補正用光量分布に基づいて補正することが開示されている。
【0004】
下記特許文献4及び下記特許文献5に記載の技術では、試料を塗布する前の光学試験ストリップと、塗布した後の光学試験ストリップの両方をスマートフォンのカメラで撮影して、塗布前後の画像を解析する技術を開示している。すなわち、特許文献4では、塗布前後の画像の強度を比較し、周囲の照明条件が時間とともに変化する場合において対応するための技術を開示しており、特許文献5では塗布前後の画像から撮影位置を同じようにすることを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2002/039094A1
【特許文献2】特開2014-190926号公報
【特許文献3】特開平7-332935号公報
【特許文献4】特表2022-506376号公報
【特許文献5】特表2023-503863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の実施態様は、簡素な構成要素によって、測定対象物の測定に関連する光量ムラを補正する測定方法及び測定システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様の測定方法は、反応試薬が適用されているとともに、該反応試薬と反応する測定対象物を含む試料が導入される試験片に対し、試料が導入される前の試験片の測定領域に測定光を照射した状態で測定前画像を撮影し、撮影した測定前画像における複数の測定部位ごとに発光強度を測定し、測定前画像における各測定部位の発光強度が均一となるような演算値を測定部位ごとに特定し、試料が導入された後の試験片の測定領域に測定光を照射した状態で測定画像を撮影し、撮影した測定画像における、測定前画像の各測定部位に対応する測定部位ごとに発光強度を測定し、測定画像における各測定部位の発光強度を、当該測定部位の前記演算値で補正する。
【0008】
本開示の一態様は、反応試薬が適用されているとともに、該反応試薬と反応する測定対象物を含む試料が導入される試験片が内部の測定領域に配置されて試験片が測定される測定システムであって、測定領域に配置された試験片の測定領域に測定光を照射する光源と、試験片の測定領域の画像を撮影する撮影部と、撮影部が撮影した画像を解析する解析部と、を備え、撮影部は、試料が導入される前の試験片の測定領域を光源から測定光が照射された状態で撮影することによって測定前画像を取得するとともに、試料が導入された後の試験片の測定領域を光源から測定光が照射された状態で撮影することによって測定画像を取得し、解析部は、測定前画像における複数の測定部位ごとに、各測定部位の発光強度が均一となるような演算値を特定するとともに、測定前画像の各測定部位に対応する測定画像の測定部位ごとの発光強度を、演算値に基づき補正する。
【発明の効果】
【0009】
本開示の実施態様によれば、簡素な構成要素によって、測定対象物の測定に関連する光量ムラを補正する測定方法及び測定システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態で使用される保持部を上方斜視図で示す。
【
図2】保持部の挿入口付近を下方斜視図にて拡大して示す。
【
図3】実施形態で使用される試験片を平面視で示す。
【
図4】保持部に試験片が装着された状態を上方斜視図で示す。
【
図6】実施形態で使用される載置部を上方斜視図で示す。
【
図9】
図8のハウジングに試験片が装着された状態を上方斜視図で示す。
【
図10】実施形態で使用されるモバイル装置を底面視で示す。
【
図11】実施形態の測定システムを上方斜視図で示す。
【
図12】
図11の測定システムから外壁部の一部を除いた状態を上方斜視図で示す。
【
図14】実施形態の測定システムの機能ブロック図である。
【
図16】実施形態の測定システムにおける測定対象物の測定方法の概要を示すフローチャートである。
【
図17】係数算出の概要を示すフローチャートである。
【
図18】係数補正の概要を示すフローチャートである。
【
図21】測定前画像及び測定画像における補正前の発光強度の一例をグラフで示す。
【
図22】測定画像における補正後の発光強度の一例をグラフで示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示における実施形態を、図面を参照しつつ説明する。各図において共通する符号は、特段の説明がなくとも同一の部分を指し示す。また、各図に現された各部材や各部位はあくまで模式的に描かれたものであって、実際の製品のサイズ及び位置関係は必ずしも正確には表現されていない。
【0012】
(1)保持部
図1は、本実施形態の測定システム10(
図11参照)で用いられる保持部40を上方斜視図で示したものである。本開示の測定システム10においては、ハウジング20(
図8参照)を構成する部材として、
図1に示すような保持部40を含んでいてもよい。保持部40は箱形の形状を呈し、上面には測定用開口部43及び識別用開口部44の2つの開口が形成されている。測定用開口部43には光学フィルター45が嵌め込まれている。上面にはさらに光を感知するセンサ47が設けられている。保持部40の側面には、後述の試験片60(
図3参照)が挿入される挿入口41が開口している。挿入口41の内部空間は、測定用開口部43及び識別用開口部44とも連通し、試験片60の一部が収容される空間である、収容部46となっている。
【0013】
図2は、保持部40の挿入口41付近を下方斜視図にて拡大して示したものである。挿入口41の内部空間である収容部46の、測定用開口部43の近傍には、前記のセンサ47が設けられている。収容部46の内部に設けられた光源42(
図13参照)からは、測定領域61の撮影に適した波長の光線を含む光が照射される。そして、光学フィルター45は、その撮影に適した波長の光線のみを好適に透過させる光学特性を有する。
【0014】
(2)試験片
図3は、本実施形態の測定システム10(
図11参照)で用いられる試験片60を平面視で示したものである。試験片60は平たい棒状の外形を呈する。試験片60の一端には上面側が窪んだ把持部65が形成され、ここを持って手指で試験片60を把持することができる。試験片60の内部には、試験片60の長手方向に沿った長尺形状の試験紙64が収容される。試験紙64は、試験片60の上面に形成された2箇所の開口において上方に露出している。これら2箇所の開口のうち、把持部65に近い方が試料点着部63であり、把持部65から遠い方が測定対象物の測定が行われる測定領域61である。さらに、試験片60の他端側、すなわち、把持部65から最も離れた箇所の上面には、試験片60に関する情報が記録された、識別領域62が形成されている。以下、試験片60について、把持部65に近い側を「上流側」と称し、識別領域62に近い側を「下流側」と称する。
【0015】
試験紙64は、濾紙のような吸水体、又は、合成樹脂製の基板の表面に吸水層が塗布されたものである。試験紙64には、測定対象物と反応して発色する反応試薬が適用されている。試料点着部63に、測定対象物が含有されると想定される試料が点着される。試料としては、生体から採取される液体検体、たとえば血液若しくは尿又はこれらを適当な溶媒で希釈した希釈液、あるいは、生体から採取された固形物若しくは粘液又はそれらを適当な溶媒に希釈若しくは懸濁した液体検体、等が挙げられる。測定対象物としては、液体検体に含まれる成分、又は、外来の微生物若しくはウイルスに由来する抗原等が挙げられる。
【0016】
図4は、保持部40に試験片60が装着された状態を上方斜視図で示すものである。また、
図5は、この状態を平面視で示すものである。
図4及び
図5に示すように、試験片60は、下流側を先にして、挿入口41から収容部46の内部に挿入される。この状態で、
図5に示すように、測定領域61は測定用開口部43と、また、識別領域62は識別用開口部44と、それぞれ同一の平面位置にある。
【0017】
この状態で、試料点着部63に試料が点着されると、試験紙64を毛細管現象にて,
図20に示す試料の移動方向へ流動していき、測定領域61において試料の点着を示すコントロール反応帯70(
図20参照)が下流側寄りに生ずることとなっている。さらに、試料中に測定対象物が含まれている場合、その濃度に応じた強さの対象反応帯71(
図20参照)が上流側寄りに生ずる。この試験紙64では、対象反応帯71は測定領域における中央部分に位置し、コントロール反応帯70は中央部分を外れた下流側に位置している。すなわち、光源42との位置関係においては、対象反応帯71は光源42から近い位置にあり、コントロール反応帯70は光源42から遠い位置にある。この対象反応帯71に、光源42から発する光を照射して、生じた光の強度を測定することによって、本実施形態の測定システム10は測定対象物の濃度を測定する。前記した識別領域62には、たとえば、この試験片60にはどのような種類の試験紙64が収容されているか、といった試験片60に関する情報である識別情報が記録されている。識別情報としては、バーコードやQRコード(登録商標)等が挙げられる。
【0018】
(3)載置部
図6は、本実施形態の測定システム10(
図11参照)で用いられる載置部30を上方斜視図で示すものである。また、
図7は、この載置部30を底面視で示すものである。載置部30は、上面及び下面が開放した略直方体形状の紙箱として構成される。載置部30の4側面は垂直に立設された外壁部34となっている。載置部30の上面には、後述のモバイル装置50(
図10参照)が載置される枠である載置枠32が形成されている。載置部30の内部の一方側(以後、「前方側」と称する。)には、窓31を開口しつつ上面が閉塞し、かつ、下面が開放(
図7参照)した箱状の遮光部33が形成される。
【0019】
ここで、外壁部34の4面のうち、遮光部33が位置している側の面を正面34a、その反対側の面を背面34b、正面34aから見て左側の面を左側面34c、及びその反対側の面を右側面34dとする。また、載置部30の内部は、正面34a及び背面34bと平行な補強部35で仕切られている。さらに、左側面34cの前方側下縁には、矩形の切欠部36が形成されている。
【0020】
(4)ハウジング
図7に示すように、遮光部33の下縁と、外壁部34の下縁との間には間隙が生じていて、この間隙を高さとして、四方を正面34a、補強部35、左側面34c及び右側面34dで囲まれた空間を、収容領域37と称する。この収容領域37に、保持部40が装着されると、
図8に示すハウジング20が構成される。この状態で、載置部30の切欠部36と、保持部40の挿入口41とが一致している。この状態の挿入口41に、
図4及び
図5に示すように試験片60が装着された状態は、
図9に示す上方斜視図に示すとおりである。
【0021】
(5)モバイル装置
図10は、本実施形態の測定システム10(
図11参照)で用いられるモバイル装置50をハウジング20に載置された状態における底面視で示したものである。本実施形態では、モバイル装置50としてスマートフォンが充てられているが、カメラ機能付きのタブレット端末をモバイル装置50としてもよい。モバイル装置50の底面側(いわゆる裏面)には、カメラとして構成された撮影部51と、その脇の可視光を照射するフラッシュとして構成された照明部52とが設けられている。なお、モバイル装置50の天面側(いわゆる表面)は表示部53となっている。
【0022】
(6)測定システム
図9に示すハウジング20の載置枠32の内側に、
図10に示すモバイル装置50を、撮影部51及び照明部52を窓31に一致させつつ、表示部53を上向きにして載置させることで、
図11の上方斜視図に示すような本実施形態の測定システム10が構成される。この状態から、外壁部34のうち正面34a、左側面34c及び右側面34dを除いた状態を示す
図12の上方斜視図に示すように、保持部40の測定用開口部43及び識別用開口部44は遮光部33で覆われ、外界からの光の進入が妨げられている。
【0023】
また、
図12をXIII-XIII断面で示す
図13に示すように、試験片60の測定領域61の上方には測定用開口部43及び光学フィルター45が位置し、また、識別領域62の上方には識別用開口部44が位置している。さらに、測定用開口部43の下方のやや背面側には測定領域61を斜め上方から照射する光源42が設置されている。より詳しくは、収容部46の背面側に当たる収容部背面壁46Aの下縁からは、測定用開口部43の背面縁43Aに向かって、光源設置板42Aが斜めに延設されている。そして、光源設置板42Aの下面側には光源42が設置されることで、光源42は測定領域61を背面側から斜めに(すなわち、光源設置板42Aの延設方向に対し垂直方向に)照射可能となっている。測定用開口部43の真上には、載置部30の窓31が位置しており、ここを通して、モバイル装置50の撮影部51が、測定領域61に加えて識別領域62も視野に収めている。
【0024】
図14は、本実施形態の測定システム10を機能ブロック図で表したものである。モバイル装置50には、
図10に示す撮影部51及び照明部52並びに
図11に示す表示部53、並びにこれらを制御する制御部100が設けられている。制御部100は、後述するCPU110、ROM120、RAM130及び記憶装置150をコンピュータのハードウェア資源として利用することで、以下の各手段として機能する。
【0025】
すなわち、制御部100は、照明部52による照明のオン/オフ(点灯/消灯)を切り替える照明切替手段200として機能する。照明切替手段200は、具体的にはモバイル装置50にインストールされたアプリケーションとして実現することができるが、他にも、保持部40との間の電気的又は光学的なセンシングを利用した手段として、あるいは、保持部40との間の無線通信手段(たとえば、Bluetooth(登録商標)等)として実現することもできる。また、制御部100は、撮影部51による撮影の条件が記憶される撮影条件記憶手段210として機能する。撮影条件として規定される条件には、たとえば、測定対象物と試薬との反応に要する待機時間が含まれる。また、制御部100は、撮影部51を通じて、試験片60への試料の点着を検出する点着検出手段220として機能する。また、制御部100は、待機時間を計測する待機時間計測手段230として機能する。そして、制御部100は、撮影部51によって撮影された測定領域61の画像を記憶する画像記憶手段240として機能する。さらに、制御部100は、撮影部51が撮影した画像を解析する解析部250として機能する。
【0026】
制御部100は、
図15のハードウェア構成に示すように、CPU(Central Processing Unit)110、ROM(Read Only Memory)120、RAM(Random Access Memory)130及び記憶装置150を有する。各構成は、バス190を介して相互に通信可能に接続されている。
【0027】
CPU110は、中央演算装置であり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU110は、ROM120又は記憶装置150からプログラムを読み出し、RAM130を作業領域としてプログラムを実行する。CPU110は、ROM120又は記憶装置150に記録されているプログラムに従って、測定システム10の制御を行う。
【0028】
ROM120は、各種プログラム及び各種データを格納する。RAM130は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。記憶装置150は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)又はフラッシュメモリによるストレージとして構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを格納する。
【0029】
一方、保持部40には、測定領域61を照射する光源42と、照明部52のオン/オフ(点灯/消灯)を検出するセンサ47と、センサ47からの信号が入力されると光源42を点灯させる光源制御部48とを備える。光源制御部48は、モバイル装置50の制御部100と同様に、コンピュータのハードウェア資源として構成される。なお、光源制御部48は、後述の測定領域61の撮影時に光源42を点灯させる制御を行うことができるものであれば、センサ47からの信号の入力態様の如何(たとえば、有線又は無線)を問わずに光源42を点灯させることを実現できる。また、光源制御部48は光源42を消灯させる制御も行うことができる。
【0030】
上述のとおり、本実施形態の測定システム10は、測定領域61及び識別領域62を有する試験片60が挿入される挿入口41と、挿入口41から挿入された試験片60を内部に収容する収容部46と、収容部46に収容された試験片60に対向する窓31を有するハウジング20と、収容部46に収容された試験片60の識別領域62を照明する照明部52及び測定領域61及び識別領域62を撮影する撮影部51を有するモバイル装置50と、で構成される。ハウジング20は、撮影部51及び照明部52を窓31に面する位置に配置した状態でモバイル装置50を外面に載置する載置部30と、収容部46に収容された試験片60を内部に保持する保持部40と、保持部40の内部において測定領域61を照射する位置に設けられた光源42と、を有する。そして、この測定システム10では、後述するように、撮影部51による測定領域61の撮影時には光源42を点灯しつつ照明部52を消灯し、撮影部51による識別領域62の撮影時には照明部52を点灯する。このように構成されていることで、本実施形態の測定システム10では、試験片60に複数の撮影領域(すなわち、測定領域61及び識別領域62)がある場合、撮影領域に応じて適切な光源を用いた撮影を行うことができる。
【0031】
ここで、照明部52による照明のオン/オフ(点灯/消灯)を切り替える照明切替手段200として機能する制御部100は、識別領域62の撮影時には照明部52を点灯させるとともに、測定領域61の撮影時には照明部52を消灯させるように制御することができる。また、光源制御部48は、測定領域61の撮影時には光源42を点灯させるように制御することができる。また、光源42の消耗を防ぐ観点から、光源制御部48は、識別領域62の撮影時には光源42を消灯するように制御することが好ましい。
【0032】
ここで前記したように、測定領域61は、試験片60上の領域であって、試験片60での測定対象物を測定する領域であり、識別領域62は試験片60の識別情報が記録されている領域である。測定領域では、対象反応帯71において測定対象物と特異的に反応する試薬による発色や、測定対象物と特異的に結合する試薬による測定対象物の捕捉等によって、試料中の測定対象物を検出する。識別領域62としては、たとえば、バーコードやQRコード(登録商標)等が付された領域が挙げられる。識別領域62に記録される識別情報としては、試験片60に収容される試験紙64の種類、試験片60に適した測定条件、試験片60のロット情報などが挙げられる。また、光源42は、測定領域61において測定対象物の検出に適した光源である。たとえば、測定領域61の対象反応帯71において測定対象物と反応する物質が紫外光に吸収を持つ場合、光源42は紫外光とすることで適切な撮影を行うことができる。なお、これによって、測定領域61の撮影には、測定対象物に応じた波長の光源42を用い、識別領域62の撮影にはモバイル装置50の照明部52を光源として用いることができる。
【0033】
なお、撮影部51による識別領域62の撮影時には、照明部52を点灯しつつ光源42を消灯することが望ましい。これによって、光源42を測定領域61の撮影に必要な際にのみ点灯することができるので、光源42の消耗を防ぐことができる。
【0034】
(7)測定システムによる測定対象物の測定方法
本実施形態の測定システム10による測定対象物の測定方法の一例を、
図16のフローチャートを参照しつつ説明する。なお、このフローチャートでは、モバイル装置50が直接行う動作以外の操作を示す段階については、括弧書きでその概要を表示している。
【0035】
まず、
図11に示すように、載置部30に保持部40を装着したハウジング20に、モバイル装置50を載置した測定システム10を準備し、挿入口41から試験片60を挿入する。この段階で、表示部53(
図11及び
図14参照)の画面が操作されると、モバイル装置50にインストール済の測定用のアプリケーションが起動され、測定が開始される。
【0036】
最初に、S100に示す段階において、照明切替手段200(
図14参照)が、照明部52を点灯させる。この段階では、保持部40の光源42は消灯している。次いで、S110に示す段階において、撮影部51が、照明部52を光源として、識別領域62を撮影する。撮影が完了すると、S120に示す段階へ進む。
【0037】
S120に示す段階では、制御部100は、撮影された識別領域62の画像から、撮影条件記憶手段210(
図14参照)を参照して、当該試験片60による測定に際しての撮影条件を取得する。
【0038】
次に、S121に示す段階において、照明切替手段200が、照明部52を消灯させる。そして、S122に示す段階において、保持部40では、照明部52の消灯をセンサ47(
図1及び
図14参照)を通じて光源制御部48が検知すると、光源42を点灯させる。
【0039】
光源42が点灯すると、S123に示す段階において、撮影部51が、光源42からの測定光で照明される測定領域61を測定前画像として撮影する。この段階で撮影される測定領域61は、たとえば
図19に示すとおりである。この
図19では、測定前画像の試料の移動方向における中央付近で、試料が移動する方向と直交する方向(すなわち、
図19及び
図20に示す幅方向)の下方向(つまり、光源42から近い位置)の発光強度が最も高く、そこから離れるにつれて発光強度が低くなるような光量ムラが生じている。ここで、光量ムラとは、光源42からの光の強さが測定領域61において一様でないことをいう。撮影が完了すると、S124に示す段階において、保持部40の光源制御部48は、光源42を消灯させる。そして、S125に示す段階へ進む。
【0040】
S125に示す段階では、解析部250(
図14参照)が、撮影した測定前画像における複数の測定部位ごとに発光強度を測定し、各測定部位の発光強度が均一となるような演算値が、測定部位ごとに特定される。ここで、測定部位とは、測定前画像及び測定画像を用いて規定される部位であって、測定前画像及び測定画像を基にして、発光強度が測定される部位をいう。
【0041】
測定部位は、たとえば、
図19及び
図20に示す、測定領域61の画像、すなわち、測定前画像及び測定画像を試料が移動する方向に沿って複数の箇所で設定されることが望ましい。この複数の箇所は、試料が移動する方向に沿って等分割される部位であってもよい。また、
図19及び
図20における試料の移動方向に沿って、撮影された画像の個々の画素を測定部位としてもよい。さらに、測定部位ごとの発光強度は、
図19及び
図20に示す幅方向に沿って得られた発光強度の平均値とすることが望ましいが、この方向における任意の位置(たとえば、中央の位置)の発光強度で代表させることとしてもよい。これらは、後述のS200に示す段階でも同様である。
【0042】
具体的には、
図17のS125aに示す段階において、解析部250は、撮影した測定前画像における測定部位ごとに発光強度を測定する。次に、S125bに示す段階において、解析部250は、各発光強度から、基準値を決定する。基準値としては、たとえば、各測定部位の発光強度の数値のうち最大の数値を採用してもよいし、また、最小の数値を採用してもよい。あるいは、各測定部位の発光強度を平均した平均値を採用してもよい。これらの代わりに、各測定部位の発光強度のうちのいずれかの値を選択してもよい。
【0043】
次に、S125cに示す段階において、解析部250は、測定部位ごとに、基準値を発光強度で除して、演算値としての係数を特定する。そしてS125dに示す段階において特定された係数を、各測定部位と対応づけて記憶装置150(
図15参照)に保存する。そして、
図16のS126に示す段階へ進み、照明切替手段200(
図14参照)が、照明部52を再び点灯させる。
【0044】
次いで、S130に示す段階において、測定者によって、試験片60の試料点着部63(
図3参照)に、適量の試料が点着される。点着された試料は、試験片60の内部で試験紙64(
図3参照)により下流側へ展開される。
【0045】
この間、制御部100の点着検出手段220(
図14参照)は、S140に示す段階において、撮影部51からの画像を通じて、測定領域61において、点着が完了したことを示す画像(たとえば、測定対象物との反応で生じたコントロール反応帯70)が検出されたかどうかを監視し続ける。かかる画像が検出されると、S150に示す段階へ進む。
【0046】
S150に示す段階では、S140に示す段階における点着の完了の検出後、制御部100の待機時間計測手段230(
図14参照)が、S120に示す段階で取得した撮影条件のうち、試験紙64における測定対象物と試薬との反応に要する待機時間が経過したかどうかを監視し続ける。
【0047】
S150に示す段階において、待機時間計測手段230によって、待機時間が経過したと判断されると、S160に示す段階で、照明切替手段200が、照明部52を消灯させる。
【0048】
一方、S170に示す段階において、保持部40では、照明部52の消灯をセンサ47(
図1及び
図14参照)を通じて光源制御部48が検知すると、光源42を点灯させる。
【0049】
光源42が点灯すると、S180に示す段階において、撮影部51が、測定領域61において光源42からの測定光の波長で可視化される対象反応帯71を含めた測定部位を測定画像として撮影する。撮影が完了すると、S190に示す段階において、保持部40の光源制御部48は、光源42を消灯させる。そして、S200に示す段階に進む。
【0050】
S200に示す段階では、解析部250(
図14参照)が、撮影した測定画像における複数の測定部位ごとに発光強度を測定し、各測定部位の発光強度を、当該測定部位の係数で補正する。
【0051】
具体的には、
図18のS200aに示す段階において、測定前画像でのS125aに示す段階と同様に、解析部250は、撮影した測定画像における測定部位ごとに発光強度を測定する。次に、S200bに示す段階において、解析部250は、測定画像における測定部位ごとに、発光強度に、S125cで算出した当該測定部位に対応する係数を乗じることによって、測定画像におけるそれぞれの発光強度を補正する。補正された測定画像の測定部位ごとの発光強度は記憶装置150(
図15参照)に記憶され、その後、測定対象物の含有量の計算に供されることによって、測定対象物が測定される。
【0052】
なお、
図17のS125cに示す段階においては、解析部250は、測定部位ごとに、発光強度を基準値で除して、演算値としての係数を特定することとしてもよい。この場合、
図18のS200bに示す段階においては、解析部250は、測定画像における測定部位ごとに、発光強度を、S125cで算出した当該測定部位に対応する係数で除することによって、測定画像におけるそれぞれの発光強度を補正することになる。
【0053】
ここで、測定前画像及び測定画像における係数での補正を施していない未加工データである発光強度の一例は、
図21に示すグラフで表される。
図21では、X軸は測定前画像及び測定画像を320に分割した個々の測定部位を示し、Y軸はそれぞれの測定部位における発光強度を示している。なお、発光強度とは、モバイル装置50の撮影部51において測定された光学的な測定値をデジタル値として表した数値である。図中の破線は、測定前画像の測定部位ごとの発光強度を示す。また、図中の実線は、測定画像の測定部位ごとの発光強度を示す。測定前画像の発光強度は、測定部位の中央付近で最大となっている。一方、測定画像の発光強度では、
図20の画像に示すのと同様、下流側寄りにコントロール反応帯70のピークが見られ、上流側寄りに対象反応帯71のピークが現れる。しかし、測定画像の発光強度は、測定前画像の発光強度が表すように、中央部分の発光強度が中央部分以外の部分の発光強度と比較して高い値になっていると考えられる。これは、たとえば
図19に示すような光量ムラに起因するものと考えられる。そのため、光量ムラの影響によって、中央部分に位置する対象反応帯71の発光強度の値は、光源からの光量が強いため相対的に強めに表されている可能性がある。一方、中央部分以外の部分に位置するコントロール反応帯70の発光強度の値は、光源からの光量が弱いため相対的に弱めに表されている可能性がある。
【0054】
一方、測定画像における補正後の発光強度の一例は、
図22において実線で示すグラフで表される。一方、
図21における測定前画像の発光強度のグラフのうち、最大の発光強度を上述の基準値として、これを一点鎖線で示される一定値のグラフとして示す。すなわち、破線で示す測定前画像の発光強度のグラフが一点鎖線で示される基準値となるように、測定画像の発光強度を上述の係数で補正すると、実線で示すグラフとなる。すなわち、
図21で両端が下がっているグラフが、
図22ではベースラインが平坦化している。この補正後のグラフは、
図19に示すような光量ムラが演算によって解消されることで、発光強度の実態をよりよく現していると考えられる。
【0055】
なお、
図21に示す測定前画像の発光強度のグラフを、適当な関数で近似して、この関数によって演算値を特定し、それにより測定画像の発光強度を補正することとしてもよい。すなわち、
図21の横軸の測定部位をxで表し、縦軸の発光強度をyで表したとき、破線で示す測定前画像の発光強度が、下記式1の関数で近似されるとする。
【0056】
y=f(x) ・・・(式1)
【0057】
このとき、測定部位xにおける演算値はf(x)となる。そして、
図21において、測定部位xにおける測定画像の発光強度をAxとすると、補正後の発光強度Bxは、下記式2のように、発光強度を演算値で除することで求めることができる。
【0058】
Bx=Ax/f(x) ・・・(式2)
【0059】
上述のとおり、本実施形態の測定システム10は、反応試薬が適用されているとともに、該反応試薬と反応する測定対象物を含む試料が導入される試験片60が内部の測定領域61に配置されて試験片60が測定されるものであって、測定領域61に配置された試験片60の測定領域61に測定光を照射する光源42と、試験片60の測定領域61の画像を撮影する撮影部51と、撮影部51が撮影した画像を解析する解析部250と、を備え、撮影部51は、試料が導入される前の試験片60の測定領域61を光源42から測定光が照射された状態で撮影することによって測定前画像を取得するとともに、試料が導入された後の試験片60の測定領域61を光源42から測定光が照射された状態で撮影することによって測定画像を取得し、解析部250は、測定前画像における複数の測定部位ごとに、各測定部位の発光強度が均一となるような演算値を特定するとともに、測定前画像の各測定部位に対応する測定画像の測定部位ごとの発光強度を、演算値に基づき補正する。
【0060】
また、本実施形態の測定システム10によって、反応試薬が適用されているとともに、該反応試薬と反応する測定対象物を含む試料が導入される試験片60に対し、試料が導入される前の試験片60の測定領域61に測定光を照射した状態で測定前画像を撮影し、撮影した測定前画像における複数の測定部位ごとに発光強度を測定し、測定前画像における各測定部位の発光強度が均一となるような演算値を測定部位ごとに特定し、試料が導入された後の試験片60の測定領域61に測定光を照射した状態で測定画像を撮影し、撮影した測定画像における、測定前画像の各測定部位に対応する測定部位ごとに発光強度を測定し、測定画像における各測定部位の発光強度を、当該測定部位の演算値で補正する、測定方法を実行することができる。
【0061】
上記実施形態では、
図11に示すように載置部30にモバイル装置50を装着する度に、載置部30とモバイル装置50との位置が微妙にずれる可能性がある。これに伴い、モバイル装置50の撮影部51と、試験片60の測定領域61との相対的な位置も微妙にずれることになる。すなわち、測定領域61に照射される測定光の分布は、載置部30にモバイル装置50を装着する度に微妙に異なる可能性がある。そのため、
図19に示すような光量ムラは毎回同じように撮影されるとは限らない。しかし、載置部30にモバイル装置50を一旦装着して、その状態からモバイル装置50を動かすことなく、測定前画像と測定画像とを撮影すれば、測定領域に生ずる光量ムラは同じであるから、モバイル装置50の装着位置のずれは発光強度の補正には影響しない。したがって、発光強度の補正のための校正用に特別な作業が不要となり、試験片60の測定と連携した光量ムラの補正が可能となる。これによって、ユーザの手間が簡略化され、コストの低減が可能となるとともに、光量ムラの補正の客観性が向上することともなる。
【0062】
(8)その他
上記の実施形態の測定システム10は、載置部30に別体の保持部40が組み合わされてハウジング20が形成されていたが、ハウジング20は、載置部30と保持部40とが一体となった構造であってもよい。その場合、ハウジング20に挿入口41が設けられ、その奥に設けられる空間が収容部46となる。そして、挿入口41から試験片60が挿入され、収容部46に収容された試験片60の測定領域61及び識別領域62が、上述の実施形態と同様にモバイル装置50の撮影部51による撮影に供されることになる。
【0063】
また、試験片60は、上記の実施形態で記述したような、内部に試験紙64を収容した構造となっているが、たとえば尿試験紙のような試験紙64そのものを試験片60としてもよい。この場合、試験片60としての試験紙64の上に、測定領域61のみならず識別領域62が設けられることになる。またこの場合、試験紙64の材質については、上記の実施形態でも記載したように、濾紙のような吸水体、又は、合成樹脂製の基板の表面に吸水層が塗布されたものを使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、試料中の測定対象物を試験片で展開して光学的に検出する測定システムに利用可能である。
【符号の説明】
【0065】
10 測定システム
20 ハウジング
40 保持部
42 光源
50 モバイル装置
51 撮影部
60 試験片
61 測定領域
110 CPU(中央演算装置)
250 解析部