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特開2024-163046分析デバイス及び電解質濃度測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163046
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】分析デバイス及び電解質濃度測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/28 20060101AFI20241114BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
G01N27/28 301B
G01N27/416 351A
G01N27/416 351J
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024073960
(22)【出願日】2024-04-30
(31)【優先権主張番号】P 2023078164
(32)【優先日】2023-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】榎戸 風花
(72)【発明者】
【氏名】深津 慎
(72)【発明者】
【氏名】三浦 淳
(72)【発明者】
【氏名】田中 正典
(72)【発明者】
【氏名】前田 晴信
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 啓司
(72)【発明者】
【氏名】山本 毅
(57)【要約】
【課題】電極のコンディショニング時及び電位差イオン濃度測定の際に、参照電極の電位を安定化させるために配置されるClイオン結晶が、作用電極へ逆流し、作用電極における電位に影響を及ぼしてしまう。
【解決手段】基材の内部あるいは上に設けられた疎水性の流路壁で囲まれた親水性あるいは多孔質の流路領域を有する分析デバイスであって、第1の流路領域と、作用電極を有し、前記第1の流路領域は、前記基材上に設けられた参照電極を有し、前記作用電極は前記第1の流路領域外にある分析デバイスを提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の内部あるいは上に設けられた疎水性の流路壁で囲まれた親水性あるいは多孔質の流路領域を有する分析デバイスであって、第1の流路領域と、作用電極を有し、
前記第1の流路領域は、前記基材上に設けられた参照電極を有し、
前記作用電極は前記第1の流路領域外にある
分析デバイス。
【請求項2】
第2の流路領域を有し、
前記第2の流路領域は、前記基材上に設けられた、前記作用電極を有し、
前記第1の流路領域と前記第2の流路領域は互いに前記流路壁で隔てられている、
請求項1に記載の分析デバイス。
【請求項3】
1の前記第1の流路領域に対し、前記第2の流路領域を2以上含む請求項2に記載の分析デバイス。
【請求項4】
前記第1の流路領域及び前記第2の流路領域のそれぞれの一部は互いに距離L以内にあり、Lは導入される検体の液滴の直径以下である請求項2又は3に記載の分析デバイス。
【請求項5】
前記第1の流路領域及び前記第2の流路領域のそれぞれの一部と、それらを互いに隔てる前記流路壁の一部を含む前記Lを直径とする円を含む領域を測定時に前記検体を導入するための、測定時導入部とする請求項4に記載の分析デバイス。
【請求項6】
前記第1の流路領域及び前記第2の流路領域のそれぞれは、さらに、導入部を有する請求項5に記載の分析デバイス。
【請求項7】
請求項5に記載の分析デバイスを用いる電解質濃度測定方法であって、
前記測定時導入部に、前記検体を導入することにより、前記第1の流路領域と前記第2の流路領域のそれぞれの間を電気的に導通させ、前記第1の流路領域の参照用のイオン濃度と前記第2の流路領域の前記検体に由来するイオン濃度との差によって生じる前記参照電極と前記作用電極に生じる電位差を測定する電解質濃度測定方法。
【請求項8】
前記測定時導入部に前記検体を導入する前に、塩化物イオンを含む第1のコンディショニング溶液を前記第1の流路領域に導入する請求項7に記載の電解質濃度測定方法。
【請求項9】
前記測定時導入部に前記検体を導入する前に、前記作用電極で検知するイオンを含む第2のコンディショニング溶液を前記第2の流路領域に導入する請求項7に記載の電解質濃度測定方法。
【請求項10】
前記測定時導入部に前記検体を導入する前に、前記検体を前記第2の流路領域に導入する請求項7に記載の電解質濃度測定方法。
【請求項11】
1の前記第1の流路領域に対し、前記作用電極を2以上含む請求項1に記載の分析デバイス。
【請求項12】
前記第1の流路領域及び前記作用電極のそれぞれの一部は互いに距離L以内にあり、Lは導入される検体の液滴の直径以下である請求項1又は11に記載の分析デバイス。
【請求項13】
前記第1の流路領域及び前記作用電極のそれぞれの一部と、それらを互いに隔てる前記流路壁の一部を含む前記Lを直径とする円を含む領域を測定時に前記検体を導入するための、測定時導入部とする請求項12に記載の分析デバイス。
【請求項14】
前記第1の流路領域及び前記作用電極のそれぞれは、さらに、導入部を有する請求項13に記載の分析デバイス。
【請求項15】
請求項13に記載の分析デバイスを用いる電解質濃度測定方法であって、
前記測定時導入部に、前記検体を導入することにより、前記第1の流路領域と前記作用電極のそれぞれの間を電気的に導通させ、前記第1の流路領域の参照用のイオン濃度と前記作用電極の前記検体に由来するイオン濃度との差によって生じる前記参照電極と前記作用電極との間に生じる電位差を測定する電解質濃度測定方法。
【請求項16】
前記測定時導入部に前記検体を導入する前に、塩化物イオンを含む第1のコンディショニング溶液を前記第1の流路領域に導入する請求項15に記載の電解質濃度測定方法。
【請求項17】
前記測定時導入部に前記検体を導入する前に、前記作用電極で検知するイオンを含む第2のコンディショニング溶液を前記作用電極に導入する請求項15に記載の電解質濃度測定方法。
【請求項18】
前記測定時導入部に前記検体を導入する前に、前記検体を前記作用電極に導入する請求項15に記載の電解質濃度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析デバイスと分析デバイスを用いた電解質濃度測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロサイズの微細流路を利用して、生化学における分析を1つのチップ内で効率的に行うことができるマイクロ分析チップが、幅広い分野で注目されている。具体的には、生化学の研究はもとより医療、創薬、ヘルスケア、環境、食品等の各分野において注目されている。
【0003】
1990年代前半にフォトリソグラフィ法や金型等を用いてガラスやシリコン上にミクロンサイズの微細流路を形成し、サンプルの前処理、攪拌、混合、反応、検出を1チップ上で行うマイクロ分析チップが開発された。その結果、検査システムの小型化や迅速分析、並びに検体や廃液の低減を実現した。
【0004】
電気化学分析は分析対象となる検体に浸漬した電極間の電位を測定するものであり、医療や環境の分野において広く使用されている。従来、電気化学分析は高度な機器を使用し、技術者によって行われる。そのため、電気化学分析を用いるためには、測定を行うフィールドやリソースがある程度制限される。そのため、医療設備の整っていない途上国や僻地並びに災害現場での医療活動や、感染症の広がりを水際で食い止めなければならない空港等での使用のため、安価で取り扱いが容易な、使い捨て可能な電気化学分析用マイクロ分析チップに対するニーズが存在する。
【0005】
溶液内の電解質イオンの定量化等、電気化学分析においては定電位を維持することが可能な安定した参照電極が必要である。従来のガラス体参照電極は高価であり、また内部液を必要とするため、小型化することができない。保存時にはイオンの濃縮溶液内での保存を必要とする等、取扱が容易ではなかった。
【0006】
特許文献1では、多孔質基材を用いた電位差測定が可能なマイクロ分析チップを含むシステムが提案されており、低コストかつ取り扱いが容易で廃棄性の高い電気化学測定を可能にする。このマイクロ分析チップでは、多孔質基材上に1つ以上の作用電極と1つの参照電極を含む。このようなマイクロ分析チップでは、測定時には両電極を流体によって電気的に導通する必要がある。特許文献1には、測定時には参照電極において安定した電位を得るため、KClの高濃度水溶液を参照溶液とし、参照電極を含む参照領域へ参照溶液を導入することが記載されている。
【0007】
また、非特許文献1では濾紙ベースのNaイオン及びKイオン濃度測定デバイスについて提案されている。このデバイスは検体を導入するための導入部を持ち、導入された検体が導入部から作用電極及び参照電極それぞれの領域へと浸透する構成となっている。さらに、非特許文献1では、参照電極における電位の安定性を得るため、KClイオン結晶を参照電極上に堆積させたデバイスが提案されている。測定時にKClが検体へ溶解することで参照電極領域のClイオンを高濃度に保持し、安定した参照電極の電位を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2016033438号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Nipapan Ruecha, Orawon Chailapakul, Koji Suzuki and Daniel Citterio『Fully Inkjet-Printed Paper-Based Potentiometric Ion-Sensing Devices』Analytical chemistry August 29, 2017 Published, 89, pp.10608-10616
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
測定時には参照電極と作用電極は検体により電気的に導通する必要がある。一方、その際に参照電極上のClイオン結晶が溶け出して検体を通じて作用電極領域へと拡散され、作用電極の電位に影響を及し、電位差測定の精度が下がることが課題となっている。
【0011】
また、よりよい精度で測定するために、電解質測定を行う前に、作用電極及び参照電極は電解質水溶液でコンディショニングを行うことが好ましい。イオン交換樹脂は一般的に、不純物を除去する等の目的で使用前にコンディショニングが行われる。イオン選択膜を有する作用電極についても、イオン選択膜を通過するイオンを含むコンディショニング溶液を事前に導入しイオン選択膜を通過させることで、検知精度が向上すると考えられる。
参照電極も、コンディショニングを行うことで、Clを含むイオン結晶が溶かされ、測定の際に参照電極へと到達しやすくなる。
【0012】
このことから、検体の測定前に、作用電極及び参照電極のそれぞれについて適切な溶液を馴染ませる作業(コンディショニング)を行うことが測定精度を上げるために重要である。しかし、前述のようなデバイスでは、参照電極と作用電極は流路で繋がっているため、使用したコンディショニング液、また、コンディショニング液によって溶けた参照電極上のKCl等のClイオン結晶が作用電極領域へと拡散し、作用電極周りに再結晶してしまう可能性がある。そのため、測定時に、逆流した作用電極の周りの結晶が検体に溶け、実際の検体の濃度に比べて電解質の濃度が高くなる可能性があり、電位差測定の精度を下げることが課題となっている。
【0013】
本発明では、デバイスのサイズを変えたり、測定時間を長くしたりすることなく、測定時やコンディショニング時に生じる、参照電極の周囲に配置されたClイオン結晶やコンディショニング液そのものの逆流による作用電極への影響を抑制し、安定したイオン濃度測定が可能なマイクロ分析チップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
基材の内部あるいは上に設けられた疎水性の流路壁で囲まれた親水性あるいは多孔質の流路領域を有する分析デバイスであって、第1の流路領域と、作用電極を有し、
前記第1の流路領域は、前記基材上に設けられた参照電極を有し、
前記作用電極は前記第1の流路領域外にある
分析デバイスを提供する。
【発明の効果】
【0015】
電解質測定時において、作用電極のイオン選択膜が安定化して測定が完了するより前に、参照電極上に導入された溶液が、又は参照電極上にClイオン結晶等を配置することで作られた飽和イオン液が作用電極側へと逆流してしまうことがある。本発明の実施形態にかかる分析デバイスでは、参照電極と作用電極が設けられた領域は流路壁によって隔てられている。したがって、それぞれのみに溶液を浸透させて、コンディショニングを行うことが可能となる。測定時には、検体を導入することで、作用電極と参照電極を電気的に繋げることができる。その結果、参照電極が設けられた領域に配置された結晶が作用電極へ逆流する、あるいは、参照極のためのコンディショニング液が作用電極へ到達するより前に安定した電位の値を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1における分析デバイスの上面図。
図2図1の一点鎖線での断面図。
図3】流路壁上に滴下した液体の液滴の形状の模式図。
図4】実施例1におけるコンディショニングのイメージ図。
図5】実施例1における測定前検体導入のイメージ図。
図6】実施例1における測定時導入部への検体導入方法のイメージ図。
図7】比較例1における分析デバイスの上面図。
図8】比較例1におけるコンディショニングのイメージ図。
図9】比較例1における検体導入方法のイメージ図。
図10】比較例1における電位差測定のシーケンス図。
図11】実施例1における電位差測定のシーケンス図。
図12A】実施例2における分析デバイスの規制部材30を除いた上面図。
図12B】実施例2における分析デバイスの上面図。
図13】実施例2におけるコンディショニングのイメージ図。
図14】実施例2における測定時導入部への検体導入のイメージ図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
前述した課題について解決するための本発明に関わる分析デバイスについて、以下、本発明の例示的な実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態は例示であり、本発明を実施形態の内容に限定するものではない。また、以下の各図においては、実施形態の説明に必要ではない構成要素については図から省略する場合がある。
【0018】
本発明の第1の実施形態は、
基材の内部あるいは上に設けられた疎水性の流路壁で囲まれた親水性あるいは多孔質の流路領域を有する分析デバイスであって、第1の流路領域と、作用電極を有し、
前記第1の流路領域は、前記基材上に設けられた参照電極を有し、
前記作用電極は前記第1の流路領域外にある
分析デバイスである。
【0019】
本実施形態において、1の前記第1の流路領域に対し、前記作用電極を2以上含むことができる。
【0020】
本発明の第2の実施形態は、
基材の内部あるいは上に設けられた疎水性の流路壁で囲まれた親水性あるいは多孔質の流路領域を有する分析デバイスであって、第1の流路領域と、作用電極を有し、
前記第1の流路領域は、前記基材上に設けられた参照電極を有し、
前記作用電極は前記第1の流路領域外にある
分析デバイスであって、
第2の流路領域を有し、
前記第2の流路領域は、前記基材上に設けられた、前記作用電極を有し、
前記第1の流路領域と前記第2の流路領域は互いに前記流路壁で隔てられている、
前述の分析デバイスである。
【0021】
本実施形態において、1の第1の流路領域に対し、第2の流路領域を2以上含むことができる。
【0022】
また、本実施形態において、第1の流路領域及び前記第2の流路領域のそれぞれの一部は互いに距離L以内にあり、Lは導入される検体の液滴の直径以下とすることができる。
さらに、第1の流路領域及び第2の流路領域のそれぞれの一部と、それらを互いに隔てる流路壁の一部を含むLを直径とする円を含む領域を測定時に検体を導入するための、測定時導入部とすることができる。あるいは、第1の流路領域及び第2の流路領域のそれぞれは、さらに、導入部を有することができる。この導入部は、測定前の、コンディショニング溶液や検体の導入に用いることができる。
【0023】
試験する者が、測定時導入部は測定時に検体を導入するところであることが分かるように、導入部は測定前の、コンディショニング溶液や、検体を導入するところであることが分かるように、それぞれ、印をつける、あるいは、該当箇所に穴の空いたデバイスカバーをつける、等の工夫をすることができる。
【0024】
本発明の第3の実施形態は、第2の実施形態に記載の分析デバイスを用いる電解質濃度測定方法であって、
前記測定時導入部に、検体を導入することにより、前記第1の流路領域と前記第2の流路領域のそれぞれの間を電気的に導通させ、前記第1の領域の参照用のイオン濃度と前記第2の領域の前記検体に由来するイオン濃度との差によって生じる前記第1と前記第2の電極間に生じる電位差を測定する電解質濃度測定方法である。
【0025】
本実施形態において、測定時導入部に検体を導入する前に、塩化物イオンを含む第1のコンディショニング溶液を第1の流路領域に導入すること、作用電極で検知するイオンを含む第2のコンディショニング溶液を第2の流路領域に導入すること、あるいは、検体を前記第2の領域に導入することができる。これらの複数を行ってもよい。
【0026】
本発明の第4の実施形態は、
基材の内部あるいは上に設けられた疎水性の流路壁で囲まれた親水性あるいは多孔質の流路領域を有する分析デバイスであって、第1の流路領域と、作用電極を有し、
前記第1の流路領域は、前記基材上に設けられた参照電極を有し、
前記作用電極は前記第1の流路領域外にある
分析デバイスであって、
前記第1の流路領域及び前記作用電極のそれぞれの一部は互いに距離L以内にあり、Lは導入される検体の液滴の直径以下である分析デバイスである。
【0027】
本実施形態において、第1の流路領域及び被覆膜のそれぞれの一部と、それらを互いに隔てる流路壁の一部を含むLを直径とする円を含む領域を測定時に検体を導入するための、測定時導入部とすることができ、さらに、第1の流路領域及び前記作用電極のそれぞれは、さらに、導入部を有することができる。この導入部は、測定前の、コンディショニング溶液や検体の導入に用いることができる。
【0028】
本発明の第5の実施形態は、第4の実施形態に記載の分析デバイスを用いる電解質濃度測定方法であって、
前記測定時導入部に、検体を導入することにより、前記第1の流路領域と前記作用電極のそれぞれの間を電気的に導通させ、前記第1の領域の参照用のイオン濃度と前記作用電極の前記検体に由来するイオン濃度との差によって生じる前記参照電極と前記作用電極との間に生じる電位差を測定する電解質濃度測定方法である。
【0029】
本実施形態において、測定時導入部に検体を導入する前に、塩化物イオンを含む第1のコンディショニング溶液を第1の流路領域に導入すること、作用電極で検知するイオンを含む第2のコンディショニング溶液を前記作用電極に導入する、あるいは、検体を前記作用電極に導入することができる。これらの複数を行ってもよい。
【実施例0030】
[実施例1]
<流路の構成>
実施例1の分析デバイスP1の概略図を図1図2を用いて説明する。
図1は分析デバイスP1の上面図を簡略的に示したものであり、図2は分析デバイスP1の図1の一点鎖線における断面図を簡略的に示したものである。
【0031】
本実施例の分析デバイスP1は、基材として多孔質基材を用い、多孔質基材内部に、疎水性樹脂からなる流路壁5で囲まれた流路領域を有する分析デバイスであって、第1の流路領域1と、作用電極としてベース電極9aとそれを覆うイオン選択性を有する化合物を含む被覆膜(本実施例においてはイオン選択性8)を含む作用電極9を有し、第1の流路領域1は、多孔質基材上に設けられた参照電極7を有し、作用電極9は第1の流路領域1外にある。さらに、本実施例の分析デバイスは、第2の流路領域2を有し、第2の流路領域は、多孔質基材上に設けられた、上述の作用電極9を有し、第1の流路領域1と第2の流路領域2は互いに流路壁5で隔てられている。
【0032】
本実施例では厚さT1=0.1mm、空隙率が50%の紙製多孔質基材S1上に疎水性樹脂を配置した後、熱定着することによって、検体が浸透不可能な流路壁5として流路パターンを形成した。
【0033】
この流路パターンは、参照電極7を含む第1の流路領域1と作用電極9を含む第2の流路領域2を含む。
【0034】
なお、図において、第1の流路領域は、参照電極7とイオン結晶6を含む流路室1a、流路1b、近接部1cを含むが、第1の流路領域の形状はこれに限定されない。本実施例においては、第1の流路領域1は、さらに、参照電極7の接点部を含む流路室3を有する場合を示すが、流路室3はなくともよい。
【0035】
同様に、第2の流路領域2は、作用電極9を含む流路室2aと、流路2bと近接部2cを含むが、第2の流路領域の形状はこれに限定されない。本実施例においては、第2の流路領域2は、さらに、作用電極9のベース電極9aの接点部を含む流路室4を有する場合を示すが、流路室4はなくともよい。
【0036】
本実施例において、第1の流路領域1が有する第2の流路領域2に最も近い領域である近接部1cと第2の流路領域が有する第1の流路領域1に最も近い領域である近接部2cとは、距離L1で近接する。L1は測定時導入部に導入される検体が、近接部1cと近接部2cの両方に触れる距離であることが好ましく、本実施例ではL1=1mmとした。
【0037】
なお、近接部1cと近接部2cとの距離L1は、導入する検体の液滴の直径以下であることが好ましい。図3は流路壁5に滴下した検体の液滴を簡略的に示したものである。流路壁5上に滴下した検体の液滴の直径を2r1、高さをh1、体積をV1、接触角をθ1とする。液滴が球の一部であると仮定すると一般的に接触角の測定に使用されるA half-angle Methodより式(1)が得られる。
【数1】
また、球の一部、球冠の体積は式(2)で表される。
【数2】
式(1)(2)より検体の液滴の直径は、流路壁上に滴下する液滴の体積と接触角より式(3)で表される。
【数3】
よって、距離L1は式(3)’を満たす。
【数4】
【0038】
本実施例においては、θ1=89.4°、V1=10μLより2r1=7.29mmとなるため、L1を1mmとした。
また、本実施例においては多孔質基材として紙製の物を使用したが、これに限るものではない。多孔質基材は、適度な空隙率を持ち、液体に対し毛細管現象を発生させればよく、内部に連続気泡並びにナノファイバー等、網目状の構造等の多孔質を有するものでもよく、樹脂、ガラス、無機基板、布地、金属紙等を用いてもよい。空隙率は、目的に応じて適宜選択することができるが、20%~90%が好ましい。空隙率が、90%を超えると、基材としての強度が保てなくなることがあり、20%未満であると、試料液の浸透性が悪くなることがある。
【0039】
空隙率(%)は、
空隙率(%)=(真密度-見掛け密度)/真密度×100
で算出される。
【0040】
見掛け密度(g/cm)は、
見掛け密度(g/cm)=坪量(g/m)/厚さ(mm)×1000
から算出される。
【0041】
流路壁を形成する疎水性樹脂としては、特に限定なく、ポリエステル樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン-アクリル酸共重合樹脂等が用いられる。
【0042】
疎水性樹脂を配置する方法として、電子写真装置を用いて、多孔質基材表面に熱可塑性疎水性樹脂を塗布して、流路パターンを形成し、熱によって溶融して多孔質基材内に浸透させる方法を挙げられる。この場合は、熱可塑性樹脂の好ましい例として、トナー粒子を挙げられる。この方法については、特開2021-37612号公報を参照することができる。疎水性樹脂の配置は、電子写真装置を用いる他にも、インクジェットプリンタや、ワックスプリンタで形成する等、の手法によってもよい。
【0043】
本実施例においては、疎水性樹脂としてトナー粒子を配置したのち熱定着によって流路パターンを形成した。
【0044】
また、本実施例においては、第1の流路領域1が有する近接部1cを第2の流路領域2に最も近い領域としたが、これに限るものではない。近接部1cは第1の流路領域1内でかつ、参照電極7の電解質濃度測定機能を失わない範囲であればよく、また近接部2cも第2の流路領域2内でかつ、作用電極9の電解質濃度測定機能を失わない範囲であればよい。また、近接部1cと近接部2cとの距離1mmとしたがこれに限るものではなく、後述する電解質濃度測定方法によって測定が可能な範囲であればよい。
【0045】
<電極の処方>
本実施例に用いた電極の処方について説明する。
第1の流路領域1はAg/AgClを用いた参照電極7を有する。本実施形態においては、参照電極7はベース電極のみからなる例を示す。参照電極7は測定時の接点として第1の流路領域1から流路壁5上へと電極が連続的に延長する形状である。また、第1の流路領域1内の参照電極7の上流側にNaClイオン結晶6を2.5mg配置した。
【0046】
一方、第2の流路領域2にはPEDOT:PSS(ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の分散体)を用いた作用電極9のベース電極9aを設けた。ベース電極9aは第2の流路領域2内から流路壁5上へと、電極が連続的に延長するように形成した。また、第2の流路領域2内には、ベース電極9aを覆うようにNaを選択するイオン選択膜8を、イオン選択性を有する化合物を含む被覆材として形成した。イオン選択膜8はイオン選択性を有する化合物としてビス12-クラウン-4(Bis(12-crown-4))を3wt%と、アニオン排除剤であるテトラキス(4-クロロフェニル)ホウ酸カリウム(Potassium tetrakis (4-chlorophenyl) borate)を含んだ。イオン選択膜8は、上記のBis(12-crown-4)を3wt%と、Potassium tetrakis (4-chlorophenyl) borateを0.5wt%と、さらに、O-ニトロフェニルオクチルエーテルを64wt%、ポリ塩化ビニルを32.5wt%を含む組成物から形成した。このようにして、ベース電極9aとこれを覆う前記イオン選択膜8を含む作用電極が作製された。
【0047】
また、本実施例においては、参照電極7と作用電極9を上記のような形状と材料で形成したが、これに限るものではない。参照電極7は測定時に常に一定の濃度の溶液が到達すればよく、測定時に第2の流路領域2に飽和イオン液を導入する等すれば、イオン結晶6は配置しなくてもよい。また、イオン結晶6の材料はClイオンを含めばよく、NaClに限るものではない。また、配置するイオン結晶60の質量は、第1の流路領域1の容積と同等の体積を持つ純水に対して、Clイオン結晶を溶かした際に飽和溶液となる質量の範囲であればよく、上記に限るものではない。また、配置する場所は本実施例においては流路A内の参照電極上流部に形成したが、これに限るものではなく、参照電極上部に覆う形でもよい。
【0048】
ベース電極は、Ag/AgCl、PEDOT/PSSの他、カーボンを使った電極等が、特に限定されることなく用いられる。Ag/AgCl、あるいはカーボンを用いた電極の作製については、例えば特許文献1を参照することができる。PEDOT/PSSを用いた電極の作製については例えば非特許文献1を参照することができる。ベース電極には、コストや性能等、デバイスの必要特性に合わせた電極を選択すればよい。
【0049】
イオン選択性を有する化合物を含む被覆材としては、一般的に用いられるものであればよく、目的のイオンに対して感度を持ち、且つ妨害イオンに対し十分な選択性を持つ被覆材であればよい。イオン選択性を有する化合物を含む被覆材は具体的にはイオン選択膜である。イオン選択性を有する化合物は特に限定はないが、好ましくはイオン選択性を示すイオノフォア及びアニオン除剤を挙げられる。イオノフォアとしては、クラウンエーテル構造をもつ12-クラウン4-エーテルを例示でき、アニオン除剤としては、テトラフェニルホウ酸ナトリウム(NaTPB)を例示できる。イオン選択膜に使われる材料については公知のあらゆるものを用いることができ、そのような材料としては、例えば株式会社同仁化学研究所の「イオン濃度を電極で測りたい」の138ページから140ページを参照することができる。
【0050】
また、イオン選択膜は、その構造維持のために、高分子化合物を含むことができる。高分子化合物としてポリ塩化ビニル(略称:PVC)や、塩化ビニルと酢酸ビニルとの共重合体等が例示される。また、イオン選択膜は、イオノフォアを動作可能にするために可塑剤を含むことができる。可塑剤は公知のものが適用可能であるが、イオン選択膜において親油性イオン交換として作用する材料である親油性イオン交換材料がより好ましく、公知の材料として、2-ニトロフェニルオクチルエーテル(略称:NPOE)やセバシン酸ビス(2-エチルヘキシル)(略称:DOS)、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)(略称:DOA)、ジ-n-オクチルフェニルホスホネート(略称:DOPP)等が例示される。
【0051】
以上で述べた各成分をそれぞれ適量混合し、それらを溶媒であるTHFやシクロヘキサノンに溶解あるいは分散させ、得られた液を、NaCl等の中間層を積層したベース電極(Ag/AgCl電極)上に例えばインクジェット法で塗布することにより、イオン選択膜8を作製できる。なお、イオン選択膜8の塗布方法は、インクジェット方式に限らず、ディスペンサーやスクリーン印刷等が適宜用いられる。それぞれの塗布方法に合わせて、溶液の粘度を調整した上でベース電極上にイオン選択膜を積層することができる。
【0052】
<コンディショニング>
コンディショニングとは、測定精度を上げることを目的に、検体の測定前に、第1の流路領域及び第2の流路領域について適切な溶液を馴染ませる作業をいう。
本実施例で行ったコンディショニングについて図4を用いて説明する。
【0053】
コンディショニングは測定より前に実施された。本実施例では、導入部として、第1の流路領域1内の導入部10と第2の流路領域2内の導入部11を用いた。導入部10と導入部11はそれぞれ第1の流路領域1、第2の流路領域2内であればよく、導入部10は第2の流路領域2へ触れなければ参照電極7の上部やイオン結晶6の上部でもよく、導入部11は第1の流路領域1に触れなければイオン選択膜8の上部でもよい。
【0054】
第1の流路領域1内に導入するコンディショニング液S2としてNaCl 3mol/L水溶液を10μL使用した。また、第2の流路領域2内に導入するコンディショニング液S3としてNaCl 1mmol/L水溶液を10μL使用した。各導入部へ導入後、第1の流路領域1と第2の流路領域2それぞれの流路内にコンディショニング液が浸透した。
【0055】
本実施例においてコンディショニング液S3は上記の組成の溶液を使用したが、使用するイオン選択膜8を通過するイオンを含む材料であればこれに限るものではない。また本実施例においてコンディショニング液S2は上記の溶液を使用したが、測定が可能な範囲でこれに限るものではない。
【0056】
参照電極を備える第1の領域のコンディショニングの例として、Clイオンを含む水溶液を導入することが挙げられ、より具体的にはNaClやKClを含む水溶液を導入することが挙げられ、このようにすることで、Clを含むイオン結晶が溶かされ、測定の際に参照電極へと到達しやすくなる。
【0057】
作用電極を備える第2の領域のコンディショニングの例として、イオン選択膜を通過するイオンを含むコンディショニング溶液を事前に導入することを挙げられる。また、検体そのものを測定に先立って導入することができ(測定前検体導入)、これもコンディショニングの一態様である。
本実施例では、次に説明するように、作用電極9を備える第2の領域に、測定前に検体を導入した(測定前検体導入)。この際、図5に示す第2の流路領域2内の導入部12を用いた。なお、測定前検体導入も、コンディショニングの一態様である。
【0058】
本実施例においては、第2の領域について、上記のコンディショニングと測定前検体導入の両方を2回行ったが、両方を行ってもよいし、いずれかのみであってもよい。また、それぞれについて、異なる導入部を設けてもよい(すなわち導入部11と導入部12が異なってもよい)し、共通する導入部を用いてもよい(すなわち導入部11と導入部12が同一、あるいは重複してもよい)。
【0059】
すなわち、本実施例では、上記のコンディショニングに加え、測定前検体導入として、検体を導入部12へ30μL滴下した。導入後、検体は第2の流路領域2内を毛細管現象によって濡れ広がり、イオン選択膜8へと到達した。イオン選択膜8へ到達すると検体内のイオンがイオン選択膜内部へと取り込まれ、作用電極9と反応した。ただし、この時点においては、第1の流路領域1と第2の流路領域2は電気的に導通していなかった。
【0060】
<測定>
1回目の検体の導入から30秒後、検体を測定時導入部13に10μL滴下した(2回目の検体の導入)。測定時導入部は第1の流路領域1の一部と第2の流路領域2の一部を含むため、測定時導入部13への2回目の検体の導入後、検体は第1の流路領域1内を毛細管現象によって濡れ広がり、また第1の流路領域1と第2の流路領域2の領域は測定時導入部13へ滴下された検体によって電気的に導通した。2回目の検体の導入時に滴下した検体が第1の流路領域1を浸透する間に、1回目の検体の導入時に滴下した検体に含まれるイオンがイオン選択膜8によって選択され、電解質濃度測定に必要な作用電極の測定電位が安定した。その後、測定時導入部へ滴下された検体がイオン結晶6を溶かして参照電極7へと到達すると検体の濃度測定は可能となり、所定の測定時間によって検体の測定が終了した。
【0061】
本実施例では1回目の検体の導入に比べ2回目の検体の導入のタイミングを遅らせることによって、検体がイオン選択膜に到達しイオン選択された後、検体の参照電極7への浸透を行うため、2回目の検体の導入で滴下された検体が参照電極7へ到達した時点で作用電極の電位が安定した状態を実現しやすい。
【0062】
[比較例1]
実施例1の効果をより詳しく説明するために比較例1を挙げる。
<流路の構成>
比較例1に関わる分析デバイスの概略図を図7に示す。本比較例においては、第1の流路領域と第2の流路領域をそれぞれ有さず、参照電極7と作用電極9を単一流路領域14内に持つ以外は、分析デバイスの構成は、実施例1と同じである。
【0063】
<コンディショニングの方法>
本比較例で行ったコンディショニングの方法について図8を用いて説明する。
実施例1と同様にコンディショニングは電解濃度測定より前に実施された。本比較例では、実施例1と同様に導入部として、導入部15と導入部16の2か所設けた。参照電極及びイオン結晶へと作用するコンディショニング液S2はNaCl 3mol/L水溶液を10μL使用し導入部15へと滴下した。また、イオン選択膜へと作用するコンディショニング液S3はNaCl 1mmol/L水溶液を10μL使用し導入部16へと滴下した。この時、両コンディショニング液は単一流路領域14内を浸透し、単一流路領域14で混ざり合ってしまった。また、コンディショニング液がイオン結晶6へと到達すると参照電極7に接するコンディショニング液のみならず、コンディショニング液を伝い作用電極9の領域までイオン結晶由来のイオンが逆流してしまう場合があった。
【0064】
<検体濃度の測定>
本比較例で行った検体濃度の測定について図9を用いて説明する。
本比較例の場合、流路領域は単一であるから、測定時導入部(第1の流路領域及び第2の流路領域のそれぞれの一部と、それらを互いに隔てる流路壁の一部を含む)は有さない。
【0065】
検体は導入部17と導入部18から導入した。導入部17に導入した検体は、流路室1a内の参照電極7と導入部18側へ浸透し、導入部18に導入した検体は、流路室2a内の作用電極9と導入部17側へと同時に浸透し、一定時間が経過した後、参照電極7と作用電極9へと到達した。参照電極7側へと浸透した検体は、実施例1と同様にClを含むイオン結晶6を溶かし、飽和濃度のClイオン溶液となり参照電極7し電極と反応する。
一方、作用電極9に到達する検体は、検体に含まれるイオンがイオン選択膜8によって選択される。しかし検体が流路室1aを全て満たし、浸透可能な領域が無くなったため、参照電極側から、既に検体が浸透している導入部18側への流れが生じた。その結果、飽和濃度のCl溶液(本比較例においてはNaCl溶液)が作用電極側へと逆流した。
【0066】
<実施例1の検体濃度測定時の効果>
検体の測定の時間的優位性について、比較例1における導入後の検体のふるまいを示すイメージ図を図10を用いて、実施例1における導入後の検体のふるまいを示すイメージ図を図11を用いて、説明する。
【0067】
比較例1において、検体は導入部17に導入された後、参照電極7又は作用電極9へと到達した。検体が両電極へと到達後、測定作用電極側の電位が安定し、電位差測定を開始してから測定が完了するまでは、ある程度の時間を要する。また、検体は参照電極へと到達した後、参照電極上部に備えられたNaCl結晶を溶かし、飽和NaCl溶液となり、第1の流路領域内の未浸透の領域へと浸透を進め、流路室1aを満たした。その後、未浸透部への流れが緩やかになることで飽和NaCl溶液となった検体が作用電極側へと逆流を始め、作用電極へ高濃度の検体が到達した。本比較例では、測定対象はKイオンだが、Naイオンも一部はKイオン選択性の選択膜を通過し、高濃度のNaがあると測定に影響を与えた。
【0068】
実施例1においては、測定前検体導入として、導入部12へされた検体は、作用電極9へ到達した。検体が作用電極9到達後、測定作用電極側の電位が安定したタイミングで測定時導入部へと検体を滴下した。検体は既に作用電極9へと到達しているため、測定時導入部へ滴下された検体が参照電極7へと到達したタイミングで測定を開始することができた。その後、参照電極領域の未浸透部への流れが緩やかになることで飽和NaCl溶液となった検体が作用電極側へと逆流を始めたが、作用電極9が安定した状態で測定が開始できたため、逆流した検体が作用電極9に到達するより前に測定を完了することができた。
【0069】
[実施例2]
<分析デバイスの構成>
図12A及び図12Bを用いて実施例2における分析デバイスP2に関して説明する。図12Aは分析デバイスP2、図12Bは規制部材30の上面図である。図12Aに示すように、本実施例の分析デバイスP2は、多孔質基材内部に、疎水性樹脂により形成される流路壁5で囲まれた流路領域を有する分析デバイスであって、第1の流路領域19と、イオン選択性を有する化合物を含む被覆膜(本実施例においてはイオン選択膜8)で覆われた作用電極9を有し、第1の流路領域1は、多孔質基材上に設けられた参照電極7を有し、作用電極9は第1の流路領域19外にある。作用電極9は、流路壁5上に形成されており、第2の流路領域は有さない。コンディショニング液の導入部と検体導入部を除く流路領域を覆うように規制部材30(濃いグレーで示す)を配置している。
【0070】
本実施例において、第1の流路領域19において作用電極9に最も近い領域である近接部20と、第1の流路領域19にもっとも近いイオン選択膜8を含む近接部21との距離L4が1mmになるように第1の流路領域19と作用電極9は配置されている。
多孔質基材、流路壁の形成方法は実施例1と同じである。
本実施例では多孔質基材5の上部に図12Bに示す規制部材30を配置する。規制部材30は検体等が浸透しない部材として厚さ0.1mmのポリエチレンテレフタレートシートを用い、コンディショニング液の導入部と検体導入部を除く流路領域を覆うように配置する。検体等が流路領域から蒸発を抑制することができる。
【0071】
<コンディショニング>
本実施例で行ったコンディショニングについて図13を用いて説明する。
コンディショニングは電解質濃度測定を行う前に実施された。本実施例では、コンディショニングのための導入部は流路領域19内のコンディショニング導入部22とイオン選択膜8上部であるコンディショニングのための導入部23を有する。ただし、コンディショニングのための導入部はそれぞれ流路領域19、イオン選択膜8上部であればこれに限るものではなく、導入部22はイオン選択膜8へ触れなければ参照電極7上部やイオン結晶6の上部でもよく、導入部23は流路19に触れなければよい。
【0072】
コンディショニング液S4としてNaCl 3mol/L水溶液10μLを導入部22に導入した。また、コンディショニング液S5としてNaCl 1mmol/L水溶液を10μLをコンディショニング導入部23に導入した。各導入部へ導入後、流路領域19にコンディショニング液が浸透した。
【0073】
<検体濃度の測定>
検体濃度の測定方法について図14を用いて説明する。
本実施例では、測定時導入部24は近接部20と近接部21を含む。この時、検体を測定時導入部24に30μL滴下した。検体はイオン選択膜8上に滴下されたため、滴下後すぐに検体内のイオンがイオン選択膜内部へと取り込まれ、電極と反応し電位の安定化が始まった。その後、測定時導入部24へ滴下された検体がイオン結晶6を溶かして参照電極7へと到達したが、作用電極9と参照電極7は検体によって電気的に導通しており濃度測定は可能となり、所定の測定時間によって検体の測定が終了した。
【0074】
なお、本発明の流路は、多孔質基材内部に設けられた疎水性樹脂により形成された流路壁で囲まれた流路の例を説明してきたが、基材としてPET等の疎水性シートを用いて、その表面をプラズマ処理、コロナ放電処理、又は親水性ポリマーで表面コート処理して親水性にした流路でも良い。親水性ポリマーは、例えばポリエチレングリコール(PEG)もしくは、エバール(EVOH)、ポバール(PVOH)、ホスホリルコリン基を有するポリマーを成分とするポリマーを用いることができる。親水性無機微粒子、水媒体に分散された重合体微粒子、反応性有機フッ素化合物からなる配合液を塗布、乾燥させたコーティング層でもよい。流路の親水性によって検体は移動することができる。更に実施例2のような規制部材を流路と空隙を有するように流路の上に設けると、流路と規制部材間の空隙による毛管現象も加わるので検体の移動は速くできる。基材として疎水性シートを用いて、シート表面の上に多孔質部材の流路を設けたものでも良い。本発明の流路は、疎水性の流路壁で囲まれた親水性の流路であれば用いることができる。
また、流路領域に導入するコンディショニング液は流路領域のサイズに応じた液量を導入すればよい。
更に、本実施例では作用電極として検知するイオンに応じたイオン選択性を有する化合物を含む被覆膜で覆われた作用電極を説明したが、検知するイオンの種類により被覆膜の有無も決定してよい。
【0075】
本発明に係る実施形態は以下の構成及び方法を含む。
[構成1]
基材の内部あるいは上に設けられた疎水性の流路壁で囲まれた親水性あるいは多孔質の流路領域を有する分析デバイスであって、第1の流路領域と、作用電極を有し、
前記第1の流路領域は、前記基材上に設けられた参照電極を有し、
前記作用電極は前記第1の流路領域外にある
分析デバイス。
[構成2]
第2の流路領域を有し、
前記第2の流路領域は、前記基材上に設けられた、前記作用電極を有し、
前記第1の流路領域と前記第2の流路領域は互いに前記流路壁で隔てられている、
構成1に記載の分析デバイス。
[構成3]
1の前記第1の流路領域に対し、前記第2の流路領域を2以上含む構成2に記載の分析デバイス。
[構成4]
前記第1の流路領域及び前記第2の流路領域のそれぞれの一部は互いに距離L以内にあり、Lは導入される検体の液滴の直径以下である構成2又は3に記載の分析デバイス。
[構成5]
前記第1の流路領域及び前記第2の流路領域のそれぞれの一部と、それらを互いに隔てる流路壁の一部を含む前記Lを直径とする円を含む領域を測定時に検体を導入するための、測定時導入部とする構成4に記載の分析デバイス。
[構成6]
前記第1の流路領域及び前記第2の流路領域のそれぞれは、さらに、導入部を有する構成2から5のいずれか1項に記載の分析デバイス。
[方法1]
構成2から5のいずれか1項に記載の分析デバイスを用いる電解質濃度測定方法であって、
前記測定時導入部に、検体を導入することにより、前記第1の流路領域と前記第2の流路領域のそれぞれの間を電気的に導通させ、前記第1の流路領域の参照用のイオン濃度と前記第2の流路領域の前記検体に由来するイオン濃度との差によって生じる参照電極と前記作用電極に生じる電位差を測定する電解質濃度測定方法。
[方法2]
前記測定時導入部に検体を導入する前に、塩化物イオンを含む第1のコンディショニング溶液を前記第1の流路領域に導入する方法1に記載の電解質濃度測定方法。
[方法3]
前記測定時導入部に検体を導入する前に、前記作用電極で検知するイオンを含む第2のコンディショニング溶液を前記第2の流路領域に導入する方法2又は3に記載の電解質濃度測定方法。
[方法4]
測定時導入部に検体を導入する前に、前記検体を前記第2の領域に導入する方法1から3のいずれか1項に記載の電解質濃度測定方法。
[構成7]
1の前記第1の流路領域に対し、前記作用電極を2以上含む構成1に記載の分析デバイス。
[構成8]
前記第1の流路領域及び前記作用電極のそれぞれの一部は互いに距離L以内にあり、Lは導入される検体の液滴の直径以下である構成1又は7に記載の分析デバイス。
[構成9]
前記第1の流路領域及び前記作用電極のそれぞれの一部と、それらを互いに隔てる流路壁の一部を含む前記Lを直径とする円を含む領域を測定時に検体を導入するための、測定時導入部とする構成8に記載の分析デバイス。
[構成10]
前記第1の流路領域及び前記作用電極のそれぞれは、さらに、導入部を有する構成1及び7から9のいずれかに記載の分析デバイス。
[方法5]
構成1及び7から9に記載の分析デバイスを用いる電解質濃度測定方法であって、
前記測定時導入部に、検体を導入することにより、前記第1の流路領域と前記作用電極のそれぞれの間を電気的に導通させ、前記第1の流路領域の参照用のイオン濃度と前記作用電極の前記検体に由来するイオン濃度との差によって生じる前記参照電極と前記作用電極との間に生じる電位差を測定する電解質濃度測定方法。
[方法6]
前記測定時導入部に検体を導入する前に、塩化物イオンを含む第1のコンディショニング溶液を前記第1の流路領域に導入する方法5に記載の電解質濃度測定方法。
[方法7]
前記測定時導入部に検体を導入する前に、前記作用電極で検知するイオンを含む第2のコンディショニング溶液を前記作用電極に導入する方法5又は6に記載の電解質濃度測定方法。
[方法8]
測定時導入部に検体を導入する前に、前記検体を前記作用電極に導入する方法5から7のいずれか1項に記載の電解質濃度測定方法。
【符号の説明】
【0076】
1 第1の流路領域
1a 流路室
1b 流路
1c 近接部
2 第2の流路領域
2a 流路室
2b 流路
2c 近接部
3 流路室
4 流路室
5 流路壁
6 Clイオンを含むイオン結晶
7 参照電極
8 イオン選択膜
9 作用電極
9a ベース電極
10 参照側コンディショニング導入部
11 作用側コンディショニング導入部
12 導入部
13 測定時導入部
S1 多孔質基材
L1 近接部間距離
L4 近接部間距離
14 単一流路領域
15 導入部
16 導入部
17 導入部
18 導入部
19 第1の流路領域
20 近接部
21 近接部
22 コンディショニング導入部
23 コンディショニング導入部
24 測定時導入部
30 規制部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14