(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163081
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】糸加熱装置及び糸加工機
(51)【国際特許分類】
D02J 13/00 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
D02J13/00 N
D02J13/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024076593
(22)【出願日】2024-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2023078403
(32)【優先日】2023-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】堀本 尭幸
(72)【発明者】
【氏名】北川 重樹
【テーマコード(参考)】
4L036
【Fターム(参考)】
4L036AA01
4L036MA04
4L036MA33
4L036PA17
(57)【要約】
【課題】消費電力を削減する。
【解決手段】第1加熱装置13には、いずれも延在方向に沿って延びており、且つ、機台長手方向に並んだ2つの糸走行溝56a、56bが形成されている。延在方向に沿って延びており、糸走行溝56a、56bを走行する糸Ya、Ybを加熱する加熱部50と、延在方向に沿って延びており、上下方向において糸走行溝56a、56bの開放端を挟んで糸走行溝56a、56bが位置する側とは反対側に配置された断熱体70と、を備える。断熱体70に、糸Ya、Ybが通過可能であり、且つ、糸走行溝56a、56bにそれぞれ糸Ya、Ybを挿入するための導糸通路74が形成されている。導糸通路74は、糸走行溝56a、56bに共通となっている。導糸通路74は、その幅W1が、2つの糸走行溝56a、56bの幅の合計(W3a+W3b)よりも狭い狭小部分74aを有している。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸が走行する少なくとも2つの糸走行溝であり、それらの延びる方向である第1方向と直交する方向である第2方向に並んだ少なくとも2つの糸走行溝が形成された糸加熱装置であって、
前記第1方向に沿って延びており、前記糸走行溝を走行する糸を加熱する加熱部と、
前記第1方向に沿って延びており、且つ、前記第1方向及び前記第2方向の両方と直交する第3方向において前記糸走行溝の開放端を挟んで前記糸走行溝が位置する側とは反対側に配置された断熱体と、を備えており、
前記断熱体に、糸が通過可能であり、且つ、前記少なくとも2つの糸走行溝のそれぞれに糸を挿入するための導糸通路が形成されており、
前記導糸通路の少なくとも一部は、前記少なくとも2つの糸走行溝に対して共通の共通通路となっており、
前記導糸通路は、
前記共通通路の少なくとも一部として形成されており、且つ、その前記第2方向における幅が、前記少なくとも2つの糸走行溝の前記第2方向における幅の合計よりも狭い狭小部分と、
前記第2方向における幅が前記糸走行溝に近づくほど大きくなる拡大部分と、を有しており、
前記拡大部分は、前記第3方向において前記狭小部分よりも前記糸走行溝側の部分に相当し、前記糸走行溝側の端部が前記少なくとも2つの糸走行溝の全てに対向し、
断熱性を有する部材で形成され、前記第1方向に沿って延びており、前記導糸通路の前記拡大部分において前記導糸通路を前記少なくとも2つの糸走行溝ごとの個別通路に仕切る1以上の仕切部材を備えていることを特徴とする糸加熱装置。
【請求項2】
前記導糸通路における前記狭小部分の前記第3方向に沿う長さは、20mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の糸加熱装置。
【請求項3】
前記断熱体は、取り外し可能に構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の糸加熱装置。
【請求項4】
前記加熱部は、温めた空気によって前記糸を加熱する非接触方式であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の糸加熱装置。
【請求項5】
前記断熱体よりも前記第1方向の少なくとも一方側に配置された案内部材をさらに備えており、
前記案内部材には、前記導糸通路を介して前記少なくとも2つの糸走行溝のそれぞれに糸を挿入する際に糸を案内するスリットが形成されており、
前記スリットは、前記少なくとも2つの糸走行溝に共通の入口部分と、前記入口部分から分岐し、前記少なくとも2つの糸走行溝まで糸をそれぞれ案内する少なくとも2つの分岐部分と、を有していることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の糸加熱装置。
【請求項6】
糸が走行する少なくとも2つの糸走行溝であり、それらの延びる方向である第1方向と直交する方向である第2方向に並んだ少なくとも2つの糸走行溝が形成された糸加熱装置であって、
前記第1方向に沿って延びており、前記糸走行溝を走行する糸を加熱する加熱部と、
前記第1方向に沿って延びており、且つ、前記第1方向及び前記第2方向の両方と直交する第3方向において前記糸走行溝の開放端を挟んで前記糸走行溝が位置する側とは反対側に配置された断熱体と、
前記断熱体よりも前記第1方向の少なくとも一方側に配置された案内部材と、を備えており、
前記断熱体に、糸が通過可能であり、且つ、前記少なくとも2つの糸走行溝のそれぞれに糸を挿入するための導糸通路が形成されており、
前記導糸通路の少なくとも一部は、前記少なくとも2つの糸走行溝に対して共通の共通通路となっており、
前記導糸通路は、前記共通通路の少なくとも一部として形成されており、且つ、その前記第2方向における幅が、前記少なくとも2つの糸走行溝の前記第2方向における幅の合計よりも狭い狭小部分を有しており、
前記案内部材には、前記導糸通路を介して前記少なくとも2つの糸走行溝のそれぞれに糸を挿入する際に糸を案内するスリットが形成されており、
前記スリットは、前記少なくとも2つの糸走行溝に共通の入口部分と、前記入口部分から分岐し、前記少なくとも2つの糸走行溝まで糸をそれぞれ案内する少なくとも2つの分岐部分と、を有していることを特徴とする糸加熱装置。
【請求項7】
前記導糸通路における前記狭小部分の前記第3方向に沿う長さは、20mm以上であることを特徴とする請求項6に記載の糸加熱装置。
【請求項8】
前記断熱体は、取り外し可能に構成されていることを特徴とする請求項6又は7に記載の糸加熱装置。
【請求項9】
前記導糸通路は、その前記第2方向における幅が前記糸走行溝に近づくほど大きくなる拡大部分をさらに有しており、
前記拡大部分は、前記第3方向において前記狭小部分よりも前記糸走行溝側の部分に相当し、前記糸走行溝側の端部が前記少なくとも2つの糸走行溝の全てに対向することを特徴とする請求項6~8のいずれか1項に記載の糸加熱装置。
【請求項10】
断熱性を有する部材で形成され、前記第1方向に沿って延びており、前記導糸通路の前記拡大部分において前記導糸通路を前記少なくとも2つの糸走行溝ごとの個別通路に仕切る1以上の仕切部材をさらに備えていることを特徴とする請求項9に記載の糸加熱装置。
【請求項11】
前記加熱部は、温めた空気によって前記糸を加熱する非接触方式であることを特徴とする請求項6~10のいずれか1項に記載の糸加熱装置。
【請求項12】
糸に加工を施す糸加工機であって、
請求項5~11のいずれか1項に記載の糸加熱装置であって、2つの糸走行溝が形成された糸加熱装置と、
2本の糸を走行自在に支持可能であり、前記第1方向において前記糸加熱装置よりも前記一方側に配置された第1糸道形成部材と、
2本の糸を走行自在に支持可能であり、前記第1方向において前記糸加熱装置よりも前記一方側とは反対の他方側に配置された第2糸道形成部材と、を備えており、
前記第1糸道形成部材及び前記第2糸道形成部材により形成される前記2本の糸道は、前記第1方向から視て前記第2方向において前記スリットにおける前記入口部分の両側にそれぞれ位置していることを特徴とする糸加工機。
【請求項13】
前記案内部材は、前記第1方向において前記断熱体の両側にそれぞれ配置されており、
前記第2糸道形成部材は、前記第3方向において移動可能に構成されており、前記第1糸道形成部材との間に形成される糸道が前記糸走行溝において前記第1方向に沿うときの位置である加熱時位置と、前記第3方向において前記スリットの前記入口部分を挟んで前記糸走行溝とは反対側の位置である退避位置と、の間で移動可能であり、
前記断熱体よりも前記第1方向の前記他方側に配置された前記案内部材に形成された前記スリットにおける前記入口部分は、前記第3方向において前記断熱体を挟んで前記加熱部とは反対側まで延びた延長部を含んでおり、前記延長部の前記第2方向における幅は、前記加熱部から遠ざかるほど広くなっていることを特徴とする請求項12に記載の糸加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸を加熱する糸加熱装置及び糸加熱装置を備えた糸加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
合成繊維からなる糸に合糸加工や仮撚加工等の種々の加工を施す糸加工機において走行する糸を加熱する糸加熱装置が、従来から知られている。特許文献1には、2つの糸条走行溝(糸走行溝)が形成されており、且つ、発熱体によって加熱される伝熱体(加熱部)と、断熱材(断熱体)と、を備えた糸条熱処理装置(糸加熱装置)が開示されている。かかる糸条熱処理装置は、各糸条走行溝を走行する糸を加熱する。
【0003】
2つの糸条走行溝は、いずれも第1方向に沿って延びており、且つ、第1方向と直交する第2方向に並んでいる。各糸条走行溝は、第1方向及び第2方向の両方に直交する第3方向の一方側に開放されている。断熱材は、第1方向に沿って延びており、且つ、伝熱体における糸条走行溝が開放される端面に取り付けられている。断熱材には、2つの糸条走行溝のそれぞれに糸を挿入するための互いに独立した2本の糸条挿入スリット(導糸通路)が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような糸加熱装置においては、各糸走行溝に対して個別に設けられた導糸通路を介して、各糸走行溝に空気が出入りする。これにより、温かい空気の流出及び冷たい空気の流入に起因して加熱部及びその近傍が加熱されにくく、糸を加熱するための消費電力が増大する。
【0006】
本発明の目的は、消費電力を削減できる糸加熱装置及び糸加工機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明にかかる糸加熱装置は、糸が走行する少なくとも2つの糸走行溝であり、それらの延びる方向である第1方向と直交する方向である第2方向に並んだ少なくとも2つの糸走行溝が形成された糸加熱装置である。そして、前記第1方向に沿って延びており、前記糸走行溝を走行する糸を加熱する加熱部と、前記第1方向に沿って延びており、且つ、前記第1方向及び前記第2方向の両方と直交する第3方向において前記糸走行溝の開放端を挟んで前記糸走行溝が位置する側とは反対側に配置された断熱体と、を備えている。前記断熱体に、糸が通過可能であり、且つ、前記少なくとも2つの糸走行溝のそれぞれに糸を挿入するための導糸通路が形成されており、前記導糸通路の少なくとも一部は、前記少なくとも2つの糸走行溝に対して共通の共通通路となっており、前記導糸通路は、前記共通通路の少なくとも一部として形成されており、且つ、その前記第2方向における幅が、前記少なくとも2つの糸走行溝の前記第2方向における幅の合計よりも狭い狭小部分と、前記第2方向における幅が前記糸走行溝に近づくほど大きくなる拡大部分と、を有しており、前記拡大部分は、前記第3方向において前記狭小部分よりも前記糸走行溝側の部分に相当し、前記糸走行溝側の端部が前記少なくとも2つの糸走行溝の全てに対向し、断熱性を有する部材で形成され、前記第1方向に沿って延びており、前記導糸通路の前記拡大部分において前記導糸通路を前記少なくとも2つの糸走行溝ごとの個別通路に仕切る1以上の仕切部材を備えている。
【0008】
本発明では、導糸通路の少なくとも一部が、少なくとも2つの糸走行溝に対して共通の共通通路となっている。また、導糸通路は、共通通路の少なくとも一部として形成されており、且つ、少なくとも2つの糸走行溝の幅の合計よりも狭い狭小部分を有している。したがって、少なくとも2つの糸走行溝に対してそれぞれ独立した導糸通路が設けられている場合に比べて、導糸通路を介する糸走行溝への空気の出入りを抑制できる。よって、消費電力を削減できる。
また、本発明では、導糸通路に挿入された糸が、狭小部分を通った後、少なくとも2つの糸走行溝の全てに対向する拡大部分を通るので、少なくとも2つの糸走行溝のそれぞれへの糸の挿入が容易である。
さらに、本発明では、仕切部材により、導糸通路を介する糸走行溝への空気の出入りをさらに抑制できる。よって、消費電力を確実に削減できる。
【0009】
第2の発明にかかる糸加熱装置では、第1の発明において、前記導糸通路における前記狭小部分の前記第3方向に沿う長さは、20mm以上である。
【0010】
本発明では、狭小部分の長さを十分に確保できるので、狭小部分を介した空気の流通を抑制することができる。よって、導糸通路を介する糸走行溝への空気の出入りをより確実に抑制できる。したがって、消費電力をさらに削減できる。
【0011】
第3の発明にかかる糸加熱装置では、第1又は第2の発明において、前記断熱体は、取り外し可能に構成されている。
【0012】
導糸通路の少なくとも一部が複数の糸走行溝に対して共通の共通通路となっているので、導糸通路が形成された断熱体が邪魔となり、糸切れが生じた際の糸の除去作業が困難となる。本発明では、導糸通路が形成された断熱体を取り外すことで、糸の除去作業が容易となる。
【0013】
第4の発明にかかる糸加熱装置では、第1~第3のいずれかの発明において、前記加熱部は、温めた空気によって前記糸を加熱する非接触方式である。
【0014】
非接触方式の加熱部では、加熱温度が比較的高温である。本発明では、加熱温度が比較的高温となる加熱部からの熱の外部への放出を抑えることができる。したがって、消費電力を効果的に削減することができる。
【0015】
第5の発明にかかる糸加熱装置は、第1~第4のいずれかの発明において、前記断熱体よりも前記第1方向の少なくとも一方側に配置された案内部材をさらに備えている。そして、前記案内部材には、前記導糸通路を介して前記少なくとも2つの糸走行溝のそれぞれに糸を挿入する際に糸を案内するスリットが形成されている。前記スリットは、前記少なくとも2つの糸走行溝に共通の入口部分と、前記入口部分から分岐し、前記少なくとも2つの糸走行溝まで糸をそれぞれ案内する少なくとも2つの分岐部分と、を有している。
【0016】
本発明では、案内部材に形成されたスリットの入口部分が少なくとも2つの糸走行溝に共通となっている。したがって、案内部材により、延在方向における導糸通路の端部を介した空気の流通を抑え、糸走行溝への空気の出入りを確実に抑制することができる。よって、消費電力をいっそう削減できる。
【0017】
第6の発明にかかる糸加熱装置は、糸が走行する少なくとも2つの糸走行溝であり、それらの延びる方向である第1方向と直交する方向である第2方向に並んだ少なくとも2つの糸走行溝が形成された糸加熱装置である。そして、前記第1方向に沿って延びており、前記糸走行溝を走行する糸を加熱する加熱部と、前記第1方向に沿って延びており、且つ、前記第1方向及び前記第2方向の両方と直交する第3方向において前記糸走行溝の開放端を挟んで前記糸走行溝が位置する側とは反対側に配置された断熱体と、前記断熱体よりも前記第1方向の少なくとも一方側に配置された案内部材と、を備えている。前記断熱体に、糸が通過可能であり、且つ、前記少なくとも2つの糸走行溝のそれぞれに糸を挿入するための導糸通路が形成されており、前記導糸通路の少なくとも一部は、前記少なくとも2つの糸走行溝に対して共通の共通通路となっており、前記導糸通路は、前記共通通路の少なくとも一部として形成されており、且つ、その前記第2方向における幅が、前記少なくとも2つの糸走行溝の前記第2方向における幅の合計よりも狭い狭小部分を有している。前記案内部材には、前記導糸通路を介して前記少なくとも2つの糸走行溝のそれぞれに糸を挿入する際に糸を案内するスリットが形成されており、前記スリットは、前記少なくとも2つの糸走行溝に共通の入口部分と、前記入口部分から分岐し、前記少なくとも2つの糸走行溝まで糸をそれぞれ案内する少なくとも2つの分岐部分と、を有している。
【0018】
本発明では、導糸通路の少なくとも一部が、少なくとも2つの糸走行溝に対して共通の共通通路となっている。また、導糸通路は、共通通路の少なくとも一部として形成されており、且つ、少なくとも2つの糸走行溝の幅の合計よりも狭い狭小部分を有している。したがって、少なくとも2つの糸走行溝に対してそれぞれ独立した導糸通路が設けられている場合に比べて、導糸通路を介する糸走行溝への空気の出入りを抑制できる。よって、消費電力を削減できる。
また、本発明では、案内部材に形成されたスリットの入口部分が少なくとも2つの糸走行溝に共通となっている。したがって、案内部材により、延在方向における導糸通路の端部を介した空気の流通を抑え、糸走行溝への空気の出入りを確実に抑制することができる。よって、消費電力をいっそう削減できる。
【0019】
第7の発明にかかる糸加熱装置では、第6の発明において、前記導糸通路における前記狭小部分の前記第3方向に沿う長さは、20mm以上である。
【0020】
本発明では、狭小部分の長さを十分に確保できるので、狭小部分を介した空気の流通を抑制することができる。よって、導糸通路を介する糸走行溝への空気の出入りをより確実に抑制できる。したがって、消費電力をさらに削減できる。
【0021】
第8の発明にかかる糸加熱装置では、第6又は第7の発明において、前記断熱体は、取り外し可能に構成されている。
【0022】
導糸通路の少なくとも一部が複数の糸走行溝に対して共通の共通通路となっているので、導糸通路が形成された断熱体が邪魔となり、糸切れが生じた際の糸の除去作業が困難となる。本発明では、導糸通路が形成された断熱体を取り外すことで、糸の除去作業が容易となる。
【0023】
第9の発明にかかる糸加熱装置では、第6~第8のいずれかの発明において、前記導糸通路は、その前記第2方向における幅が前記糸走行溝に近づくほど大きくなる拡大部分をさらに有しており、前記拡大部分は、前記第3方向において前記狭小部分よりも前記糸走行溝側の部分に相当し、前記糸走行溝側の端部が前記少なくとも2つの糸走行溝の全てに対向する。
【0024】
本発明では、導糸通路に挿入された糸が、狭小部分を通った後、少なくとも2つの糸走行溝の全てに対向する拡大部分を通るので、少なくとも2つの糸走行溝のそれぞれへの糸の挿入が容易である。
【0025】
第10の発明にかかる糸加熱装置は、第9の発明において、断熱性を有する部材で形成され、前記第1方向に沿って延びており、前記導糸通路の前記拡大部分において前記導糸通路を前記少なくとも2つの糸走行溝ごとの個別通路に仕切る1以上の仕切部材をさらに備えている。
【0026】
本発明では、仕切部材により、導糸通路を介する糸走行溝への空気の出入りをさらに抑制できる。よって、消費電力を確実に削減できる。
【0027】
第11の発明にかかる糸加熱装置では、第6~第10のいずれかの発明において、前記加熱部は、温めた空気によって前記糸を加熱する非接触方式である。
【0028】
非接触方式の加熱部では、加熱温度が比較的高温である。本発明では、加熱温度が比較的高温となる加熱部からの熱の外部への放出を抑えることができる。したがって、消費電力を効果的に削減することができる。
【0029】
第12の発明にかかる糸加工機は、糸に加工を施す糸加工機であって、上記の第5~第11の発明にかかる糸加熱装置であって、2つの糸走行溝が形成された糸加熱装置と、2本の糸を走行自在に支持可能であり、前記第1方向において前記糸加熱装置よりも前記一方側に配置された第1糸道形成部材と、2本の糸を走行自在に支持可能であり、前記第1方向において前記糸加熱装置よりも前記一方側とは反対の他方側に配置された第2糸道形成部材と、を備えている。そして、前記第1糸道形成部材及び前記第2糸道形成部材により形成される前記2本の糸道は、前記第1方向から視て前記第2方向において前記スリットにおける前記入口部分の両側にそれぞれ位置している。
【0030】
本発明では、糸がスリットの入口部分を通る際、糸は第2方向においてスリットの外側へ向かうように引っ張られた状態となる。これにより、2本の糸の各々を、第2方向において、各々の糸道に近い側の分岐部分へ向かうよう移動させることができる。したがって、2本の糸の各々が通るべきでない側の分岐部分をそれぞれ通ることを防止でき、各糸が誤った糸走行溝に案内されるのを防ぐことができる。
【0031】
第13の発明にかかる糸加工機では、第12の発明において、前記案内部材は、前記第1方向において前記断熱体の両側にそれぞれ配置されている。そして、前記第2糸道形成部材は、前記第3方向において移動可能に構成されており、前記第1糸道形成部材との間に形成される糸道が前記糸走行溝において前記第1方向に沿うときの位置である加熱時位置と、前記第3方向において前記スリットの前記入口部分を挟んで前記糸走行溝とは反対側の位置である退避位置と、の間で移動可能である。さらに、前記断熱体よりも前記第1方向の前記他方側に配置された前記案内部材に形成された前記スリットにおける前記入口部分は、前記第3方向において前記断熱体を挟んで前記加熱部とは反対側まで延びた延長部を含んでおり、前記延長部の前記第2方向における幅は、前記加熱部から遠ざかるほど広くなっている。
【0032】
本発明では、延長部により、第2糸道形成部材を退避位置から加熱位置に移動させることで、第2糸道形成部材に支持された2本の糸を確実にスリットの入口部分に案内することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる仮撚加工機の側面図である。
【
図2】糸の経路に沿って仮撚加工機を展開した模式図である。
【
図4】
図3に示す第1加熱装置のIV-IV線に沿う断面図である。
【
図5】
図4に示す加熱部のV-V線に沿う断面図である。
【
図6】
図3に示す第1加熱装置を延在方向の一方側から視た図である。
【
図7】
図3に示す第1加熱装置を延在方向の他方側から視た図である。
【
図8】第1加熱装置に糸掛けを行う際の手順を説明する図であり、(a)は撚止ガイドが退避位置にある状態、(b)は撚止ガイドが加熱時位置にある状態を示す。
【
図9】第1加熱装置に糸掛けを行う際の糸の挙動を延在方向の一方側から視た図であり、(a)は糸が切欠に保持された状態、(b)は一方の糸を挿入する際の糸の挙動、(c)は他方の糸を挿入する際の糸の挙動を示す。
【
図10】第1加熱装置に糸掛けを行う際の糸の挙動を延在方向の他方側から視た図であり、(a)は撚止ガイドが退避位置にある状態、(b)撚止ガイドが退避位置から加熱時位置まで移動する途中の状態を示す。
【
図12】比較例及び実施例にかかる各導糸通路を採用した場合の消費電力を示すグラフである。
【
図13】第1変形例にかかる第1加熱装置を示す図である。
【
図14】第2変形例にかかる加熱部を示す図であり、(a)は延在方向と直交する面での断面図であり、(b)は(a)のb-b線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の好適な一実施形態にかかる仮撚加工機1について、
図1を参照しつつ説明する。なお、
図1の紙面垂直方向を機台長手方向とし、紙面左右方向を機台幅方向とする。機台長手方向及び機台幅方向の両方と直交する方向を、重力の作用する上下方向とする。機台長手方向及び機台幅方向は、水平方向と略平行な方向である。
【0035】
(仮撚加工機1の全体構成)
仮撚加工機1は、例えばナイロン(ポリアミド系繊維)やポリエステル等の合成繊維からなる糸Yを仮撚加工可能に構成されている。仮撚加工機1は、糸Yを供給するための給糸部2と、給糸部2から供給された糸Yを仮撚加工する加工部3と、加工部3によって加工された糸Yを巻取ボビンBwに巻き取る巻取部4とを備える。給糸部2、加工部3及び巻取部4が有する各構成要素は、機台長手方向において複数配列されている(
図2参照)。機台長手方向は、給糸部2から加工部3を通って巻取部4に至る糸道によって形成される、糸Yの走行面(
図1の紙面)と直交する方向である。
【0036】
給糸部2は、複数の給糸パッケージPsを保持するクリールスタンド5を有する。給糸部2は、加工部3に複数の糸Yを供給する。加工部3は、給糸パッケージPsから供給された糸Yを仮撚りする。加工部3は、糸走行方向の上流側から順に、第1フィードローラ11、撚止ガイド12、第1加熱装置13(本発明の「糸加熱装置」に相当する)、冷却装置14、仮撚装置15、第2フィードローラ16、交絡装置17、第3フィードローラ18、第2加熱装置19、第4フィードローラ20が配置された構成となっている。巻取部4は、複数の巻取装置21を有する。各巻取装置21は、加工部3で仮撚加工された糸Yを巻取ボビンBwに巻き取って巻取パッケージPwを形成する。
【0037】
仮撚加工機1は、機台幅方向に間隔を置いて配置された主機台8及び巻取台9を有する。主機台8及び巻取台9は、機台長手方向に略同じ長さに延設されている。主機台8及び巻取台9は、機台幅方向において互いに対向するように配置されている。主機台8の上部と巻取台9の上部とは、支持フレーム10によって連結されている。加工部3を構成する各装置は、主に主機台8や支持フレーム10に取り付けられている。巻取部4を構成する各装置は、巻取台9に取り付けられている。主機台8と巻取台9と支持フレーム10とによって、作業者が各装置に対して糸掛け等の作業を行うための作業空間Aが形成されている。糸道は、糸Yが主に作業空間Aの周りを走行するように形成されている。
【0038】
仮撚加工機1は、互いに対向配置された1組の主機台8及び巻取台9を含むスパンと呼ばれる単位ユニットを有する。1つのスパンには、加工部3を構成する各装置を通るように糸道が形成されている加工ユニット(錘とも呼ばれる)が、機台長手方向に複数並んで配置されている。これによって、1つのスパンでは、機台長手方向に並んだ状態で走行する複数の糸Yに対して、同時に仮撚加工を行うことができる。仮撚加工機1は、スパンが、主機台8における機台幅方向の中心線Cを対称軸として、紙面左右対称に配置されている。主機台8は左右のスパンで共通のものとなっている。
【0039】
(加工部の構成)
加工部3の構成について、
図1及び
図2を参照しつつ説明する。第1フィードローラ11は、給糸部2に装着された給糸パッケージPsから糸Yを解舒して第1加熱装置13へ送るように構成されている。第1フィードローラ11は、例えば、
図2に示すように、1本の糸Yを第1加熱装置13へ送るように構成されている。第1フィードローラ11は、隣り合う複数の糸Yをそれぞれ糸走行方向における下流側へ送ることが可能に構成されていても良い。本実施形態においては、撚止ガイド12は、1本の糸Yごとに設けられている。撚止ガイド12は、2本の糸Yごとに設けられていてもよい。撚止ガイド12は、仮撚装置15で糸Yに付与された撚りが、撚止ガイド12よりも糸走行方向上流側に伝播しないように構成されている。
【0040】
第1加熱装置13は、第1フィードローラ11から送られてきた糸Yを所定の加工温度に加熱するための装置である。第1加熱装置13は、例えば、
図2に示すように、2本の糸Yを加熱可能に構成されている。第1加熱装置13のより詳細については後述する。
【0041】
冷却装置14は、第1加熱装置13で加熱された糸Yを冷却するように構成されている。冷却装置14は、例えば、
図2に示すように、1本の糸Yを冷却するように構成されている。冷却装置14は、複数の糸Yを同時に冷却可能に構成されていても良い。
【0042】
仮撚装置15は、冷却装置14の糸走行方向下流側に配置されている。仮撚装置15は、糸Yに撚りを付与するように構成されている。仮撚装置15は、例えば、いわゆるディスクフリクション方式の仮撚装置であるが、これには限られない。本実施形態においては、仮撚装置15は、1本の糸Yに撚りを付与するように構成されている。仮撚装置15は、2本の糸Yに同時に撚りを付与するように構成されていてもよい。
【0043】
第2フィードローラ16は、仮撚装置15で処理された糸Yを交絡装置17へ送るように構成されている。第2フィードローラ16による糸Yの搬送速度は、第1フィードローラ11による糸Yの搬送速度よりも速い。これにより、糸Yは、第1フィードローラ11と第2フィードローラ16との間で延伸仮撚される。
【0044】
交絡装置17は、糸Yに交絡を付与するように構成されている。交絡装置17は、例えば、空気流によって糸Yに交絡を付与する公知のインターレースノズルを有する。
【0045】
第3フィードローラ18は、交絡装置17よりも糸走行方向における下流側を走行している糸Yを第2加熱装置19へ送るように構成されている。第3フィードローラ18は、例えば、
図2に示すように、1本の糸Yを第2加熱装置19へ送るように構成されている。第3フィードローラ18は、隣り合う複数の糸Yをそれぞれ糸走行方向における下流側へ送ることが可能に構成されていても良い。なお、第3フィードローラ18による糸Yの搬送速度は、第2フィードローラ16による糸Yの搬送速度よりも遅い。このため、糸Yは、第2フィードローラ16と第3フィードローラ18との間で弛緩される。
【0046】
第2加熱装置19は、第3フィードローラ18から送られてきた糸Yを加熱するように構成されている。第2加熱装置19は、鉛直方向に沿って延びており、1つのスパンに1つずつ設けられている。
【0047】
第4フィードローラ20は、第2加熱装置19によって加熱された糸Yを巻取装置21へ送るように構成されている。第4フィードローラ20は、例えば、
図2に示すように、1本の糸Yを巻取装置21へ送ることが可能に構成されている。第4フィードローラ20は、隣り合う複数の糸Yをそれぞれ糸走行方向における下流側へ送ることが可能に構成されていても良い。第4フィードローラ20による糸Yの搬送速度は、第3フィードローラ18による糸Yの搬送速度よりも遅い。このため、糸Yは、第3フィードローラ18と第4フィードローラ20との間で弛緩される。
【0048】
以上のように構成された加工部3では、第1フィードローラ11と第2フィードローラ16との間で延伸された糸Yが、仮撚装置15によって撚られる。仮撚装置15により形成される撚りは、撚止ガイド12までは伝播するが、撚止ガイド12よりも糸走行方向上流側には伝播しない。延伸されつつ撚りが付与された糸Yは、第1加熱装置13で加熱されて熱固定された後、冷却装置14で冷却される。仮撚装置15よりも糸走行方向下流側では糸Yは解撚されるが、上記の熱固定によって糸Yが波状に仮撚りされた状態が維持される(すなわち、糸Yの捲縮が維持される)。
【0049】
仮撚りが施された糸Yは、第2フィードローラ16と第3フィードローラ18との間で弛緩されながら、交絡装置17によって交絡が付与された後、糸走行方向下流側へ案内される。さらに、糸Yは、第3フィードローラ18と第4フィードローラ20との間で弛緩されながら、第2加熱装置19で熱処理される。最後に、第4フィードローラ20から送られた糸Yは、巻取装置21によって巻き取られる。
【0050】
(巻取部の構成)
巻取部4の構成について、
図2を参照しつつ説明する。巻取部4は、複数の巻取装置21を有する。各巻取装置21は、1つの巻取ボビンBwに糸Yを巻取可能に構成されている。巻取装置21は、支点ガイド31と、トラバース装置32と、クレードル33と、を有する。支点ガイド31は、糸Yが綾振りされる際の支点となるガイドである。トラバース装置32は、トラバースガイド34によって糸Yを綾振りすることが可能に構成されている。クレードル33は、巻取ボビンBwを回転自在に支持するように構成されている。クレードル33の近傍には、接触ローラ35が配置されている。接触ローラ35は、巻取パッケージPwの表面に接触して接圧を付与する。以上のように構成された巻取部4では、上述した第4フィードローラ20から送られた糸Yが各巻取装置21によって巻取ボビンBwに巻き取られ、巻取パッケージPwが形成される。
【0051】
(第1加熱装置)
次に、第1加熱装置13のより具体的な構成について、
図3~
図7を参照しつつ説明する。
図3に示すように、第1加熱装置13は、機台長手方向と直交する所定の延在方向(本発明の「第1方向」に相当する)に延びている。本実施形態においては、延在方向は機台幅方向と平行である。以降の説明において、延在方向において第1加熱装置13に対して仮撚装置15が配置されている側を「一方側」と称する。また、延在方向において第1加熱装置13に対して撚止ガイド12が配置されている側を「他方側」と称する。延在方向は、機台幅方向に対して傾斜していても良い。
【0052】
第1加熱装置13には、
図5に示すように、延在方向に沿って延びる糸走行溝56が形成されている。第1加熱装置13は、糸走行溝56において延在方向の他方側から一方側に向かって走行する糸Yを加熱するように構成されている。本実施形態では、第1加熱装置13は、2本の糸Y(糸Ya、Yb:
図4参照)を加熱可能に構成されている。
【0053】
第1加熱装置13は、
図4、
図6及び
図7に示すように、加熱部50、筐体61、断熱体70及び案内部材81、85を主に備えている。加熱部50には、延在方向に沿って延びた2つの糸走行溝56(56a、56b)が形成されている。2つの糸走行溝56の配列方向は、機台長手方向(本発明の「第2方向」に相当する)である。加熱部50は、糸走行溝56(56a、56b)を走行する糸Y(糸Ya、Yb)を加熱する。断熱体70は、加熱部50(糸走行溝56)の下方に配置されている。筐体61は、加熱部50及び断熱体70を内部に収容する。案内部材81、85は、筐体61に取り付けられている。
【0054】
加熱部50は、熱源51、2つの加熱ブロック52(52a、52b)及び2つの接糸部54(54a、54b)を主に有している。加熱部50は、延在方向に沿って延びている。熱源51は、例えば、シーズヒータである。熱源51は、延在方向に沿って延びている。加熱ブロック52及び接糸部54は、熱源51が生成する熱によって加熱されるように構成されている。加熱ブロック52及び接糸部54は、熱源51に沿って延在方向に延びている。
【0055】
加熱ブロック52a及び接糸部54aは、糸Yaを加熱するための部材である。加熱ブロック52b及び接糸部54bは、糸Ybを加熱するための部材である。糸Yaを加熱するための部材と糸Ybを加熱するための部材は、機台長手方向において、熱源51を挟んで互いに反対側の位置に配置されている。
【0056】
糸Yaを加熱するための部材について説明する。加熱ブロック52aは、例えば、黄銅などの比熱が大きい金属材料によって構成されている。加熱ブロック52aは、熱源51に接触するように配置されている。加熱ブロック52aは、熱源51の機台長手方向における一方側(
図4の紙面左側)に配置されている。加熱ブロック52aには、延在方向に延びた糸走行溝56aが形成されている。本実施形態においては、糸走行溝56a全体が加熱ブロック52aによって画定されている。糸走行溝56aは、加熱ブロック52aにおける下方側の端面(下面)において開放されている。すなわち、糸走行溝56aは、その下端が開放端となっている。糸走行溝56a内には、接糸部54aが収容されている。
【0057】
接糸部54aは、例えばSUS製の長尺の部材である。接糸部54aは、加熱ブロック52aと接触した状態で加熱ブロック52aに固定されている。接糸部54aは、加熱ブロック52aを介して熱源51から伝わる熱によって昇温される。接糸部54aは、糸Yを接触させるための接糸面55(55a)を有する。接糸面55aは、下方を向いている。接糸面55aは、
図5に示すように、機台長手方向と直交する断面において、下側へ凸状に膨らんだ略U字状に湾曲している。接糸面55aは、
図4に示すように、延在方向から視たときに、上側へ凸状に膨らんだ逆U字状に湾曲している。
【0058】
また、糸Ybを加熱するための部材について説明する。加熱ブロック52bは、熱源51の機台長手方向における他方側(
図4の紙面右側)に配置されている。加熱ブロック52bは、熱源51と接触している。加熱ブロック52bは、糸走行溝56aと同様の形状の糸走行溝56bが形成されている。糸走行溝56b内には、接糸部54aと同様の構造の接糸部54bが収容されている。接糸部54bは、接糸面55aと同様の形状の接糸面55bを有する。さらなる詳細については省略する。
【0059】
第1加熱装置13内に送り込まれた糸Y(Ya、Yb)は、糸走行溝56(56a、56b)において接糸面55(55a、55b)に接触しつつ走行する。これにより、糸Y(Ya、Yb)は、接糸面55(55a、55b)を介して加熱ブロック52(52a、52b)から熱を受け取り、加熱される。糸Yの種類、糸Yの銘柄(太さ)、糸Yの走行速度及び加熱温度を適切に設定することにより、糸Yの温度を最適な加工温度にすることができる。
【0060】
筐体61は、延在方向を長手方向とする略直方体形状である。上述のように、筐体61は、加熱部50及び断熱体70を内部に収容する。
図4に示すように、筐体61の内壁面と筐体61内に収容された加熱部50及び断熱体70の間を埋めるように、断熱材90が配置されている。断熱材90は、例えばロックウールやセラミックファイバー等からなる。
【0061】
筐体61における下側の壁である下壁61aには、開口68が形成されている。開口68は、延在方向に関して筐体61の全長にわたって形成されている。
図6及び
図7に示すように、筐体61における延在方向の両側の側壁61b、61cには、開口69がそれぞれ形成されている。開口69は、下側が開放されている。
【0062】
断熱体70は、2つの断熱ブロック71、72で構成されている。断熱ブロック71、72は、例えば石膏ボード等からなる。断熱ブロック71、72は、いずれも延在方向に沿って延びている。断熱ブロック71、72は、機台長手方向に沿って並んでいる。断熱ブロック71、72は、それぞれ筐体61に対して取り外し可能に取り付けられている。
【0063】
断熱ブロック71、72は、上下方向(本発明の「第3方向」に相当する)において糸走行溝56a、56bの開放端である下端を挟んで糸走行溝56a、56bが位置する側とは反対側に配置されている。断熱ブロック71は、糸走行溝56aの下方に配置されている。断熱ブロック72は、糸走行溝56bの下方に配置されている。断熱ブロック71、72は、筐体61の下壁61aに形成された開口68と上下方向に対向する領域に配置されている。断熱ブロック71、72は、筐体61の側壁61b、61cに形成された開口69と延在方向に対向する領域に配置されている。
【0064】
断熱ブロック71、72は、機台長手方向においてすき間を空けて配置されている。断熱ブロック71、72の間のすき間は、導糸通路74を構成する。導糸通路74は、糸Ya、Ybが通過可能である。導糸通路74は、第1加熱装置13に糸掛けが行われる際、2つの糸走行溝56a、56bのそれぞれに糸Ya、Ybを挿入するための通路である。本実施形態においては、導糸通路74は、全体が2つの糸走行溝56a、56bに対して共通の共通通路となっている。すなわち、2つの糸走行溝56a、56bにそれぞれ挿入される糸Ya、Ybは、いずれも導糸通路74の一端(下端)から他端(上端)まで通過する。
【0065】
導糸通路74は、狭小部分74a及び拡大部分74bを有している。狭小部分74aは、断熱ブロック71、72の下端部から上方に沿って延びている。拡大部分74bは、上下方向において狭小部分74aよりも糸走行溝56側(狭小部分74aよりも上方)の部分に相当する。
【0066】
狭小部分74aの幅(機台長手方向における幅)W1は、上下方向に関して一定である。狭小部分74aの幅W1は、糸走行溝56aの幅(機台長手方向における幅)W3aと、糸走行溝56bの幅(機台長手方向における幅)W3bと、の合計の幅(W3a+W3b)よりも狭い。なお、本実施形態においては、糸走行溝56a、56bの幅は、いずれも上下方向に関して一定である。糸走行溝56a、56bの幅が上下方向に関して一定でない場合は、上記の糸走行溝56aの幅W3aは糸走行溝56aの開口部(下端部)の幅とし、糸走行溝56bの幅W3bは糸走行溝56bの開口部(下端部)の幅とする。狭小部分74aの上下方向に沿う長さは、20mm以上である。
【0067】
拡大部分74bの幅(機台長手方向における幅)W2は、糸走行溝56に近づくほど(上方ほど)大きくなっている。拡大部分74bにおける糸走行溝56側の端部(上端部)は、2つの糸走行溝56a、56bの両方に対向している。より詳細には、拡大部分74bにおける糸走行溝56側の端部は、各糸走行溝56a、56bの開放端の全体と対向する。
【0068】
案内部材81は、
図6に示すように、筐体61における延在方向の一方側の側壁61bに取り付けられている。案内部材85は、
図7に示すように、筐体61における延在方向の他方側の側壁61cに取り付けられている。すなわち、案内部材81、85は、延在方向において断熱体70の両側にそれぞれ配置されている。
【0069】
図6に示すように、案内部材81には、スリット82が形成されている。スリット82は、導糸通路74を介して2つの糸走行溝56a、56bのそれぞれに糸Ya、Ybを挿入する際に糸Yを案内する。スリット82は、入口部分83と、2つの分岐部分84a、84bと、を有している。
【0070】
入口部分83は、2つの糸走行溝56a、56bに共通である。入口部分83は、上下方向に沿って延びている。入口部分83は、延在方向に関して導糸通路74における狭小部分74aと対向する位置に設けられている。入口部分83は、導糸通路74における狭小部分74aを通る糸Yを案内する。
【0071】
2つの分岐部分84a、84bは、入口部分83の上端部から機台長手方向の両側に分岐している。分岐部分84aは、糸走行溝56aまで糸Yaを案内する。分岐部分84bは、糸走行溝56bまで糸Ybを案内する。
【0072】
案内部材81は、2枚のサイドプレート81a、81bと、中央プレート81cと、で構成されている。サイドプレート81aは、筐体61の側壁61bにおける機台長手方向において開口69の一方側(
図6の紙面左側)の部分に取り付けされている。サイドプレート81bは、筐体61の側壁61bにおける機台長手方向において開口69の他方側(
図6の紙面右側)の部分に取り付けされている。サイドプレート81a、81bは、いずれも開口69を部分的に塞ぐように配置されている。サイドプレート81a、81bは、機台長手方向に関して離隔して配置されている。中央プレート81cは、筐体61の側壁61bにおける開口69の上側の部分に取り付けられている。中央プレート81cは、開口69を部分的に塞ぐように配置されている。中央プレート81cは、機台長手方向に関してサイドプレート81a、81bにおける上側部分の間に配置されている。中央プレート81cは、機台長手方向においてサイドプレート81a、81bと離隔して配置されている。
【0073】
サイドプレート81a、81bにおける下側部分の間のすき間が、スリット82の入口部分83となっている。サイドプレート81aにおける上側部分と、中央プレート81cと、の間のすき間が、スリット82の分岐部分84aとなっている。サイドプレート81bにおける上側部分と、中央プレート81cと、の間のすき間が、スリット82の分岐部分84bとなっている。
【0074】
サイドプレート81a、81bは、断熱体70の下端部よりも下方まで延びている。すなわち、サイドプレート81a、81bのすき間で構成された入口部分83は、断熱体70の下端部よりも下方まで延びている。サイドプレート81a、81bの下端部には、切欠81a1、81b1がそれぞれ形成されている。切欠81a1、81b1は、機台長手方向においてスリット82の入口部分83の両側にそれぞれ位置している。
【0075】
図7に示すように、案内部材85にも案内部材81のスリット82に相当するスリット86が形成されている。すなわち、スリット86は、入口部分87と、2つの分岐部分88a、88bと、を有している。入口部分87は、2つの糸走行溝56a、56bに共通である。2つの分岐部分88a、88bは、糸走行溝56a、56bまで糸Ya、Ybをそれぞれ案内する。
【0076】
案内部材85は、案内部材81と同様に、2枚のサイドプレート85a、85bと、中央プレート85cと、で構成されている。サイドプレート85a、85bにおける下側部分の間のすき間が、スリット86の入口部分87となっている。サイドプレート85a、85bにおける上側部分と、中央プレート85cと、の間のすき間が、スリット86の分岐部分88a、88bとなっている。
【0077】
サイドプレート85a、85bは、サイドプレート81a、81bと同様に、断熱体70の下端部よりも下方まで延びている。スリット86における入口部分87は、上下方向において断熱体70を挟んで加熱部50とは反対側まで延びた延長部87aを有している。延長部87aの機台長手方向における幅W4は、加熱部50から遠ざかるほど(下方ほど)広くなっている。
【0078】
(糸掛け手順)
次に、
図8~
図10をさらに参照しつつ、第1加熱装置13への糸掛け手順について説明する。第1加熱装置13に糸掛けを行う際には、まず、
図8(a)に示すように、第1加熱装置13にセットする2本の糸Ya、Ybを一対の撚止ガイド12及び一対の仮撚装置15に掛ける。このとき、撚止ガイド12は、後述する退避位置に位置している。
【0079】
ここで、2本の糸Ya、Ybが掛けられる一対の仮撚装置15が、本発明の「第1糸道形成部材」に相当する。すなわち、一対の仮撚装置15は、2本の糸Yを走行自在に支持可能である。なお、仮撚装置15が、2本の糸Yに同時に撚りを付与可能である場合は、1つの仮撚装置15が本発明の「第1糸道形成部材」に相当する。また、2本の糸Ya、Ybが掛けられる一対の撚止ガイド12が、本発明の「第2糸道形成部材」に相当する。すなわち、一対の撚止ガイド12は、2本の糸Yを走行自在に支持可能である。なお、撚止ガイド12が、2本の糸Yごとに設けられている場合には、1つの撚止ガイド12が本発明の「第2糸道形成部材」に相当する。
【0080】
延在方向において第1加熱装置13よりも一方側(
図8の紙面左側)に配置された仮撚装置15は、上下方向において第1加熱装置13の下端部よりも上方において糸Yを支持する。一方、延在方向において第1加熱装置13よりも他方側(
図8の紙面右側)に配置された撚止ガイド12は、駆動機構(不図示)により上下方向に移動可能に構成されている。撚止ガイド12は、上下方向に移動することで、加熱時位置(
図8(b)に示す位置)と退避位置(
図8(a)、
図10(a)に示す位置)との間で移動可能である。
【0081】
撚止ガイド12が加熱時位置に位置しているとき、仮撚装置15との間に形成される糸道が、糸走行溝56において実質的に延在方向に沿う。撚止ガイド12は、加熱時位置から降下することで退避位置に移動する。すなわち、退避位置は加熱時位置よりも下方である。
図10(a)に示すように、退避位置は、上下方向において案内部材85に形成されたスリット86の入口部分87を挟んで糸走行溝56とは反対側である。
【0082】
一対の撚止ガイド12及び一対の仮撚装置15により形成される2本の糸Ya、Ybの糸道は、延在方向から視て機台長手方向において案内部材81に形成されたスリット82における入口部分83の両側に位置する。さらに、退避位置に位置する一対の撚止ガイド12及び一対の仮撚装置15により形成される2本の糸Ya、Ybの糸道は、案内部材81を構成するサイドプレート81a、81bの下端部に形成された切欠81a1、81b1をそれぞれ通る。したがって、
図9(a)に示すように、退避位置に位置する一対の撚止ガイド12及び一対の仮撚装置15に掛けられた2本の糸Ya、Ybは、切欠81a1、81b1にそれぞれ保持される。
【0083】
次に、作業者は、切欠81a1、81b1に保持されている2本の糸Ya、Ybを、スリット82により案内しつつ、導糸通路74を介して糸走行溝56a、56bにそれぞれ挿入する。ここで、上述のように、2本の糸Ya、Ybの糸道は、機台長手方向においてスリット82における入口部分83の両側に位置する。したがって、
図9(b)に示すように、糸Yaがスリット82の入口部分83を通る際、糸Yaはスリット82の外側(機台長手方向の一方側:紙面左側)に向かうように引っ張られた状態となる。そして、糸Yaは、入口部分83を通過した後に、分岐部分84aを通って糸走行溝56aまで案内される。また、
図9(c)に示すように、糸Ybがスリット82の入口部分83を通る際、糸Ybはスリット82の外側(機台長手方向の他方側:紙面右側)に向かうように引っ張られた状態となる。そして、糸Ybは、入口部分83を通過した後に分岐部分84bを通って糸走行溝56bまで案内される。
【0084】
上述のように、延在方向において断熱体70の一方側に配置された案内部材81に形成されたスリット82により糸走行溝56a、56bまで糸Ya、Ybを案内した後、
図8(b)に示すように、一対の撚止ガイド12を加熱時位置まで上昇させる。ここで、延在方向において断熱体70の他方側に配置された案内部材85に形成されたスリット86の延長部87aは、撚止ガイド12を退避位置から加熱時位置まで上昇させる際に、一対の撚止ガイド12に支持されている2本の糸Ya、Ybが通る軌跡上に位置している。したがって、
図10(b)に示すように、撚止ガイド12を退避位置から加熱時位置まで上昇させる途中で、糸Ya、Ybは延長部87aの縁に接触し、スリット86の入口部分87に案内される。
【0085】
(糸除去作業)
上述のように、断熱体70は、筐体61から取り外し可能に構成されている。したがって、糸切れが生じた際、第1加熱装置13から糸Yを除去する作業を、
図11に示すように、断熱体70を筐体61から取り外した状態で行うことができる。
【0086】
(比較試験)
本願発明者は、導糸通路における狭小部分の上下方向に沿う長さを7mmとした場合(比較例)と、20mm、35mm、50mm(実施例)とした場合と、で比較試験を行った。
図12は、比較例及び実施例にかかる導糸通路を採用し、加熱部の設定温度を250℃とした場合の消費電力を示すグラフである。
図12のグラフから、狭小部分が長いほど、消費電力が少なくなることが分かる。また、狭小部分の長さが7mmである場合は、その他の場合に比べて著しく消費電力が大きくなっている。したがって、消費電力を削減する観点から、狭小部分の長さは、20mm以上であることが好ましいことが分かる。
【0087】
(実施形態の特徴)
以上のように、本実施形態の第1加熱装置13は、いずれも延在方向に沿って延びており、且つ、機台長手方向に並んだ2つの糸走行溝56a、56bが形成されている。そして、延在方向に沿って延びており、糸走行溝56a、56bを走行する糸Ya、Ybを加熱する加熱部50と、延在方向に沿って延びており、上下方向において糸走行溝56a、56bの開放端を挟んで糸走行溝56a、56bが位置する側とは反対側に配置された断熱体70と、を備えている。断熱体70に、糸Ya、Ybが通過可能であり、且つ、糸走行溝56a、56bにそれぞれ糸Ya、Ybを挿入するための導糸通路74が形成されている。導糸通路74は、全体が糸走行溝56a、56bに対して共通の共通通路となっている。導糸通路74は、共通通路の一部として形成されており、且つ、その幅W1が、2つの糸走行溝56a、56bの幅の合計(W3a+W3b)よりも狭い狭小部分74aを有している。
【0088】
上述の構成によると、導糸通路74が、2つの糸走行溝56a、56bに対して共通の共通通路となっている。また、導糸通路74は、2つの糸走行溝56a、56bの幅の合計よりも狭い狭小部分74aを有している。したがって、2つの糸走行溝56a、56bに対してそれぞれ独立した導糸通路74が設けられている場合に比べて、導糸通路74を介する糸走行溝56a、56bへの空気の出入りを抑制できる。よって、消費電力を削減できる。
【0089】
また、本実施形態の第1加熱装置13では、導糸通路74における狭小部分74aの上下方向に沿う長さは、20mm以上である。したがって、狭小部分74aの長さを十分に確保できるので、狭小部分74aを介した空気の流通を抑制することができる。よって、導糸通路74を介する糸走行溝56a、56bへの空気の出入りをより確実に抑制できる。これにより、消費電力をさらに削減できる。
【0090】
さらに、本実施形態の第1加熱装置13では、断熱体70は、筐体61から取り外し可能に構成されている。導糸通路74が2つの糸走行溝56a、56bに対して共通の共通通路となっているので、導糸通路74が形成された断熱体70が邪魔となり、糸切れが生じた際の糸Yの除去作業が困難となる。本構成では、導糸通路74が形成された断熱体70を取り外すことで、糸Yの除去作業が容易となる。
【0091】
また、本実施形態の第1加熱装置13では、導糸通路74は、その幅W2が糸走行溝56a、56bに近づくほど大きくなる拡大部分74bをさらに有している。拡大部分74bは、上下方向において狭小部分74aよりも糸走行溝56a、56b側の部分に相当し、糸走行溝56a、56b側の端部が2つの糸走行溝56a、56bの両方に対向する。したがって、導糸通路74に挿入された糸Yが、狭小部分74aを通った後、2つの糸走行溝56a、56bの両方に対向する拡大部分74bを通るので、2つの糸走行溝56a、56bのそれぞれへの糸Ya、Ybの挿入が容易である。
【0092】
加えて、本実施形態の第1加熱装置13では、延在方向において断熱体70の両側に配置された案内部材81、85をさらに備えている。案内部材81、85には、導糸通路74を介して2つの糸走行溝56a、56bのそれぞれに糸Ya、Ybを挿入する際に糸Ya、Ybを案内するスリット82、86がそれぞれ形成されている。スリット82は、2つの糸走行溝56a、56bに共通の入口部分83と、入口部分83から分岐し、2つの糸走行溝56a、56bまで糸Ya、Ybをそれぞれ案内する2つの分岐部分84a、84bと、を有している。スリット86は、2つの糸走行溝56a、56bに共通の入口部分87と、入口部分87から分岐し、2つの糸走行溝56a、56bまで糸Ya、Ybをそれぞれ案内する2つの分岐部分88a、88bと、を有している。本構成によると、案内部材81、85に形成されたスリット82、86の入口部分83、87が2つの糸走行溝56a、56bに共通になっている。したがって、案内部材81、85により、延在方向における導糸通路74の端部を介した空気の流通を抑え、糸走行溝56a、56bへの空気の出入りを確実に抑制することができる。よって、消費電力をいっそう削減できる。
【0093】
また、本実施形態の仮撚加工機1は、延在方向において第1加熱装置13よりも一方側に配置された仮撚装置15と、延在方向において第1加熱装置13よりも他方側に配置された撚止ガイド12と、を備えている。一対の仮撚装置15と撚止ガイド12とにより形成される2本の糸道は、延在方向から視て機台長手方向において案内部材81に形成されたスリット82における入口部分83の両側にそれぞれ位置している。本構成によると、糸Ya、Ybがスリット82の入口部分83を通る際、糸Ya、Ybは機台長手方向においてスリット82の外側へ向かうように引っ張られた状態となる。これにより、2本の糸Ya、Ybの各々を、機台長手方向において、各々の糸道に近い側の分岐部分84a、84bへ向かうよう移動させることができる。したがって、2本の糸Ya、Ybの各々が通るべきでない側の分岐部分84a、84bをそれぞれ通ることを防止でき、各糸Ya、Ybが誤った糸走行溝56a、56bに案内されるのを防ぐことができる。
【0094】
さらに、本実施形態の仮撚加工機1では、撚止ガイド12は、上下方向において移動可能に構成されている。撚止ガイド12は、加熱時位置と退避位置との間で移動可能である。加熱時位置は、撚止ガイド12と仮撚装置15との間に形成される糸道が、糸走行溝56a、56bにおいて延在方向に沿うときの位置である。退避位置は、上下方向において案内部材85に形成されたスリット86の入口部分87を挟んで糸走行溝56a、56bとは反対側の位置である。そして、案内部材85に形成されたスリット86における入口部分87は、上下方向において断熱体70を挟んで加熱部50とは反対側まで延びた延長部87aを含んでいる。延長部87aの機台長手方向における幅W4は、加熱部50から遠ざかるほど広くなっている。本構成によると、延長部87aにより、撚止ガイド12を退避位置から加熱位置に移動させることで、撚止ガイド12に支持された2本の糸Ya、Ybを確実にスリット86の入口部分87に案内することができる。
【0095】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0096】
上述の実施形態においては、糸走行溝56が2つ形成された第1加熱装置13について説明したが、これには限定されない。糸走行溝56は、少なくとも2つ形成されていればよく、3つ以上形成されていてもよい。
【0097】
また、上述の実施形態においては、断熱体70が、2つの断熱ブロック71、72で構成されている場合について説明したが、これには限定されない。断熱体70は、3つ以上の断熱ブロックで構成されていてもよい。ただし、断熱体70が3つ以上の断熱ブロックで構成されている場合、そのうちの2つの断熱ブロックの間のすき間が、少なくとも2つの糸走行溝56に対して共通の共通通路を含む導糸通路74を構成する。
【0098】
さらに、上述の実施形態においては、共通通路(導糸通路74)が2つの糸走行溝56に対して共通である場合について説明したが、これには限定されない。共通通路は、3つ以上の糸走行溝56に対して共通であってもよい。
【0099】
加えて、上述の実施形態においては、断熱体70が取り外し可能に構成されている場合について説明したが、これには限定されない。断熱体70は、必ずしも取り外し可能でなくてもよい。
【0100】
また、上述の実施形態においては、導糸通路74は、その幅が糸走行溝56に近づくほど大きくなる拡大部分74bを有している場合について説明したが、これには限定されない。すなわち例えば、導糸通路74は、その幅が上下方向に関して一定であってもよい。
【0101】
さらに、上述の実施形態においては、導糸通路74における拡大部分74bの糸走行溝56側の端部が、2つの糸走行溝56の両方の開放端の全体と対向する場合について説明したが、これには限定されない。拡大部分74bの糸走行溝56側の端部は、2つの糸走行溝56の一方のみと対向していてもよい。また、拡大部分74bの糸走行溝56側の端部と対向する糸走行溝56は、その開放端の一部分のみが拡大部分74bの糸走行溝56側の端部と対向していてもよい。
【0102】
ここで、
図13を参照しつつ、上述の実施形態の第1変形例にかかる第1加熱装置113について説明する。第1加熱装置113は、導糸通路74の拡大部分74bにおいて導糸通路74を2つの糸走行溝56a、56bごとの個別通路175a、175bに仕切る仕切部材173を備えている。仕切部材173は、断熱性を有する部材で形成されている。仕切部材173は、例えば石膏ボード等からなる。仕切部材173は、延在方向に沿って延びている。拡大部分74bは、仕切部材173により、個別通路175aと個別通路175bとに仕切られている。個別通路175aは、糸走行溝56aへの糸Yaの通路となっている。個別通路175bは、糸走行溝56bへの糸Ybの通路となっている。
【0103】
本変形例においては、導糸通路74における狭小部分74aが、2つの糸走行溝56a、56bに対して共通の共通通路として機能する。上述の実施形態では、共有通路の一部が狭小部分74aである場合について説明したが、本変形例では共通通路の全体が狭小部分74aとなっている。上述の実施形態では、導糸通路74の全体が共通通路となっている場合について説明したが、本変形例のように、導糸通路74の少なくとも一部が共通通路となっていればよい。
【0104】
上述の第1変形例においては、仕切部材173により、導糸通路74を介する糸走行溝56への空気の出入りをさらに抑制できる。よって、消費電力を確実に削減できる。なお、共通通路(狭小部分74a)が3つ以上の糸走行溝56に共通している場合には、2つ以上の仕切部材173により拡大部分74bを3つ以上の糸走行溝56ごとに仕切ってもよい。
【0105】
さらに、上述の実施形態においては、糸走行溝56全体が加熱部50の加熱ブロック52によって画定されている場合について説明したが、これには限定されない。糸走行溝56は、少なくとも一部が加熱部50に形成されていればよい。すなわち例えば、糸走行溝56の底面は加熱ブロック52で画定されており、糸走行溝56の側面は加熱ブロック52以外の部材(加熱部50を構成する部材以外の部材)で画定されていてもよい。
【0106】
また、上述の実施形態では、糸Yは、接糸面55と接触することにより、接糸面55を介して加熱ブロック52から熱を受け取る場合について説明したが、これには限定されない。すなわち例えば、
図14(a)、(b)に示すように、上述の実施形態の第2変形例にかかる加熱部250においては、複数の糸ガイド254が、糸走行溝256内において延在方向に沿って並んで配置されている。より具体的には、糸走行溝256a内には、複数の糸ガイド254aが配置されている。糸走行溝256b内には、複数の糸ガイド254bが配置されている。糸ガイド254(254a、254b)によってガイドされつつ糸走行溝256(256a、256b)内を走行する糸Y(Ya、Yb)は、加熱ブロック252(252a、252b)により温められた空気から熱を受け取る。すなわち、加熱部250は、温めた空気によって糸Yを加熱する非接触方式である。非接触方式の加熱部250では、加熱温度が比較的高温である。具体的には、上述の実施形態の加熱部50の加熱温度は350℃程度であるが、本変形例の加熱部250の加熱温度は600℃程度である。本構成では、加熱温度が比較的高温となる加熱部250で温められた空気の外部への放出を抑えることができる。したがって、消費電力を効果的に削減することができる。
【0107】
加えて、上述の実施形態では、加熱部50は、熱源51と、熱源51により加熱される加熱ブロック52と、を備えている場合について説明したが、これには限定されない。例えば、加熱部は、中空の部材の内部にダウサム等の熱媒体を循環させる構造であってもよい。
【0108】
また、上述の実施形態では、延在方向において断熱体70の両側に案内部材81、85が配置されている場合について説明したが、これには限定されない。案内部材81、85は、延在方向において断熱体70の一方側のみに配置されていてもよい。また、案内部材81、85は、配置されていなくてもよい。
【0109】
さらに、上述の実施形態では、案内部材81、85に形成されたスリット82、86は、2つの糸走行溝56まで糸Yを案内する2つの分岐部分84a、84b、88a、88bを有している場合について説明したが、これには限定されない。スリット82、86は、3つ以上の分岐部分を有していてもよい。
【0110】
加えて、上述の実施形態では、一対の仮撚装置15と撚止ガイド12とにより形成される2本の糸道は、延在方向から視て機台長手方向において案内部材81に形成されたスリット82における入口部分83の両側にそれぞれ位置している場合について説明したが、これには限定されない。一対の仮撚装置15と撚止ガイド12とにより形成される2本の糸道は、延在方向から視て機台長手方向において入口部分83の内側にそれぞれ位置していてもよい。また、延在方向から視て機台長手方向において入口部分83の外側に位置する2本の糸道を形成する部材は、一対の仮撚装置15及び撚止ガイド12に限定されるものではない。かかる糸道は、いずれも2本の糸Yを走行自在に支持可能であり、延在方向において第1加熱装置13よりも一方側に配置された部材と、延在方向において第1加熱装置13よりも他方側に配置された部材と、により形成されればよい。
【0111】
また、上述の実施形態では、撚止ガイド12が上下方向において移動可能に構成されている場合について説明したが、これには限定されない。撚止ガイド12は、上下方向の位置が固定されていてもよい。撚止ガイド12が固定されている場合は、糸掛け棒により撚止ガイド12への糸掛けを行う。
【0112】
また、上述の実施形態では、案内部材85に形成されたスリット86における入口部分87が、その幅が加熱部50から遠ざかるほど広くなる延長部87aを含んでいる場合について説明したが、これには限定されない。すなわち、スリット86における入口部分87は、延長部87aを含んでいなくてもよい。
【0113】
さらに、上述の実施形態では、本発明にかかる糸加熱装置を糸Yに仮撚加工を施す仮撚加工機1に適用する場合について説明したが、これには限定されない。本発明の糸加熱装置は、仮撚加工に限定されず、合糸加工等の種々の加工を合成繊維からなる糸に施す加工機に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0114】
1 仮撚加工機(糸加工機)
12 撚止ガイド(第2糸道形成部材)
13、113 第1加熱装置(糸加熱装置)
15 仮撚装置(第1糸道形成部材)
50、250 加熱部
56、256 糸走行溝
70 断熱体
71、72 断熱ブロック
74 導糸通路(共通通路)
74a 狭小部分
74b 拡大部分
81、85 案内部材
82、86 スリット
83、87 入口部分
84a、84b、88a、88b 分岐部分
87a 延長部
173 仕切部材
175a、175b 個別通路
Y 糸