(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163089
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】放射線シールド材、半導体装置用シールド材、半導体装置用パッケージ、原子炉用シールド材、原子炉格納容器、原子炉建屋、核融合炉用シールド材、核融合炉、および核融合炉建屋
(51)【国際特許分類】
G21F 1/02 20060101AFI20241114BHJP
G21F 3/00 20060101ALI20241114BHJP
G21F 1/10 20060101ALI20241114BHJP
G21C 11/00 20060101ALI20241114BHJP
H01L 23/02 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
G21F1/02
G21F3/00 G
G21F1/10
G21C11/00
H01L23/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024076771
(22)【出願日】2024-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2023078396
(32)【優先日】2023-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】相澤 駿
(72)【発明者】
【氏名】戸恒 緑
(72)【発明者】
【氏名】八木橋 和弘
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 洋
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛弘
(57)【要約】
【課題】放射線を効率よく遮蔽することができる放射線シールド材を提供する。
【解決手段】放射線シールド材は、放射線を遮蔽する放射線シールド材であって、ホウ化物を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を遮蔽する放射線シールド材であって、
ホウ化物を含有する、放射線シールド材。
【請求項2】
前記放射線シールド材の厚みが0.1cmのとき、1MeVのα線を遮蔽する、請求項1に記載の放射線シールド材。
【請求項3】
前記放射線シールド材の厚みが0.1cmのとき、10.0keVの中性子線を照射した際に二次α線を生成しない、請求項1に記載の放射線シールド材。
【請求項4】
前記ホウ化物の含有量が5質量%以上である、請求項1に記載の放射線シールド材。
【請求項5】
前記ホウ化物がホウ化水素である、請求項1に記載の放射線シールド材。
【請求項6】
シート状である、請求項1に記載の放射線シールド材。
【請求項7】
樹脂を含有する、請求項1に記載の放射線シールド材。
【請求項8】
前記ホウ化物を含有する第1の層と樹脂を含有する第2の層とが少なくとも積層された積層体である、請求項1に記載の放射線シールド材。
【請求項9】
半導体装置に照射される放射線を遮蔽する半導体装置用シールド材であって、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の放射線シールド材で構成されている、半導体装置用シールド材。
【請求項10】
半導体素子を収納する半導体装置用パッケージであって、
請求項9に記載の半導体装置用シールド材で形成されている、半導体装置用パッケージ。
【請求項11】
原子炉で発生した放射線を遮蔽する原子炉用シールド材であって、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の放射線シールド材で構成されている、原子炉用シールド材。
【請求項12】
原子炉圧力容器を格納する原子炉格納容器であって、
請求項11に記載の原子炉用シールド材で形成されている、原子炉格納容器。
【請求項13】
原子炉圧力容器が格納された原子炉格納容器を収容する原子炉建屋であって、
請求項11に記載の原子炉用シールド材で形成されている、原子炉建屋。
【請求項14】
核融合炉で発生した放射線を遮蔽する核融合炉用シールド材であって、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の放射線シールド材で構成されている、核融合炉用シールド材。
【請求項15】
請求項14に記載の核融合炉用シールド材が用いられている、核融合炉。
【請求項16】
請求項14に記載の核融合炉用シールド材で形成されている、核融合炉建屋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線シールド材、半導体装置用シールド材、半導体装置用パッケージ、原子炉用シールド材、原子炉格納容器、原子炉建屋、核融合炉用シールド材、核融合炉、および核融合炉建屋に関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信を支える通信装置は、年々増加する通信トラフィックを処理するため大容量化、高機能化が求められており、使用される半導体デバイスの高集積化、微細化が進んでいる。このような半導体デバイスの高集積化、微細化に伴い、ソフトエラー(半導体デバイスを構成するシリコン(Si)原子核に宇宙からの中性子線等の放射線が衝突し、電荷を持った粒子が発生して半導体メモリのコンデンサ容量がビット反転する一時的な誤動作)が増加する傾向にある。
【0003】
このようなソフトエラーを抑制するため、ハードウエア自律訂正(ECC回路)、装置自律訂正(制御プログラム)などのエラーを訂正する手法がある。しかし、エラーの訂正は、エラーチェックの時間が支配的となり、高速演算や低遅延通信が求められる通信装置や自動運転装置等では、致命的な遅延の原因となる。
【0004】
これに対して、放射線を遮蔽する手法として、半導体デバイスに中性子線等の放射線を減速させる材料を用いること、半導体デバイスの3次元構造化により面積を縮小すること、発生する電荷をダミー回路で吸収すること等がある。
【0005】
例えば、特許文献1、2には、エポキシ樹脂、硬化剤、およびガドリニウム酸化物等の無機充填剤を含む半導体素子封止用エポキシ樹脂組成物により中性子線を遮蔽する技術が開示されている。
【0006】
また、放射線の中でも中性子線は、人に放射されると、人体の70%を構成する水の水素原子核(陽子)に衝突する。中性子線が衝突した陽子は弾き飛ばされ、体内で電離またはイオン化が起こることで、細胞の構成分子が破壊され、種々の障害を誘発する。中性子線に晒される環境としては、原子力発電所、核融合炉、中性子発生機器、宇宙船内などがあり、これらを覆う筐体には、人体へ影響を重視して材料を選択する必要がある。
【0007】
特許文献3には、セメント、砂、ガラスカレットを含有して形成された2枚の同形のセメントモルタル版またはさらに粗骨材を含有するコンクリート版と、セメントモルタル版またはコンクリート版に挟持され略同形のパラフィンの層とを一体化して放射線遮蔽積層材を構成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-178953号公報
【特許文献2】特開2021-181559号公報
【特許文献3】特開2014-137361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の放射線を遮蔽する手法では、放射線を減速させる材料の使用量が多く、部材の厚みを厚くしないと放射線の十分な遮蔽ができない。
【0010】
本発明の課題は、放射線を効率よく遮蔽することができる放射線シールド材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る放射線シールド材は、放射線を遮蔽する放射線シールド材であって、ホウ化物を含有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、放射線を効率よく遮蔽することができる放射線シールド材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】放射線のエネルギーとソフトエラー率の関係を示すグラフである。
【
図2】本実施形態の放射線シールド材の粒度分布を示すグラフである。
【
図3】本実施形態の放射線シールド材の一次粒子の粒径を示すSEM画像である。
【
図4】本実施形態の放射線シールド材の二次粒子の粒径を示すSEM画像である。
【
図5】本実施形態の放射線シールド材を適用した半導体装置の一例を示す図である。
【
図6】本実施形態の放射線シールド材を適用した原子炉設備の一例を示す図である。
【
図7】本実施形態の放射線シールド材を適用した核融合炉設備の一例を示す図である。
【
図8】放射線の線源が0.5eVの場合の放射線遮蔽シミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図9】放射線の線源が10keVの中性子線の場合の放射線遮蔽シミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図10】放射線の線源が14MeVの中性子線の場合の放射線遮蔽シミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図11】放射線の線源が100MeVの中性子線の場合の放射線遮蔽シミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図12】放射線の線源が0.5eVの中性子線の場合の放射線遮蔽シミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図13】放射線の線源が10keVの中性子線の場合の放射線遮蔽シミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図14】放射線の線源が14MeVの中性子線の場合の二次放射線生成シミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図15】放射線の線源が100MeVの中性子線の場合の二次放射線生成シミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図16】放射線の線源が14MeVのα線の場合の放射線遮蔽シミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図17】放射線の線源が0.5eVの中性子線の場合の二次放射線遮蔽シミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図18】放射線の線源が10keVの中性子線の場合の二次放射線生成シミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図19】放射線の線源が14MeVのα線の場合の二次放射線生成シミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図20】放射線の線源が0.5eVの中性子線の場合の二次放射線(α線)生成シミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図21】放射線の線源が10keVの中性子線の場合の二次放射線(α線)生成シミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図22】放射線の線源が14MeVの中性子線の場合の二次放射線(α線)生成シミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図23】放射線の線源が100MeVの中性子線の場合の二次放射線(α線)生成シミュレーションの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照して説明する。
【0015】
本実施形態の放射線シールド材は、放射線を遮蔽する。本実施形態の放射線シールド材は、例えば、半導体装置に照射される放射線を遮蔽する半導体装置用シールド材を構成することができる。
【0016】
放射線は、高エネルギーをもって流れる物質粒子および高エネルギーの電磁波の総称である。物質粒子の放射線(粒子放射線)としては、アルファ線、ベータ線(電子線)、中性子線、陽子線、重イオン線、中間子線等が挙げられる。電磁波の放射線(電磁放射線)としては、ガンマ線、X線等が挙げられる。放射線には、放射線源が直接放出した放射線(一次放射線)と物質との相互作用によって発生した放射線(二次放射線)も含まれる。
【0017】
また、「放射線を遮蔽する」とは、放射線を減衰または吸収することを意味する。
【0018】
放射線の中でも中性子線は、陽子とほぼ同程度の質量をもつ電荷をもたない中性の粒子であり、宇宙線に含まれている。本実施形態の放射線シールド材が遮蔽する放射線が中性子線の場合、中性子線のエネルギー領域は、100MeV以下のエネルギー領域であり、0.1MeV以下の低エネルギー領域も含まれる。
【0019】
本明細書において、半導体装置とは、SRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、NAND flash(揮発、不揮発を問わない)等のメモリ、または、これらが搭載されるFPGA(Field Programmable Gate Array)やSoC(System on Chip)等のシリコン(Si)基板に回路が集積された装置を示す。
【0020】
本実施形態の放射線シールド材は、ホウ化物を含有する。ホウ化物は、ホウ素(B)と、ホウ素よりも電気陰性後が小さい元素との化合物を示す。なお、ホウ化物を構成するホウ素は、通常マイナスの電荷をもつ。また、ホウ素は、中性子線に衝突すると、以下の反応を起こし、Li(リチウム)原子とα線に分解することで、中性子線を減衰することができる。
【0021】
【0022】
ホウ化物としては、例えば、ボロファン等のホウ化水素、ホウ化イットリウム、ホウ化チタン、ホウ化クロム等の金属ホウ化物等が挙げられる。これらのホウ化物は1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0023】
ホウ化物としては、これらの中でも、ホウ化水素が好ましい。ホウ化水素は、一般式HnBm(m、nは1以上の整数)で表される、ホウ素(B)の水素化合物を示す。ホウ化水素においてホウ素(B)と水素(H)のモル比は任意であるが、好ましいホウ化水素は、ホウ素と水素のモル比が1:1のHB(ボロファン)である。
【0024】
ホウ化水素を構成する水素は、その原子核(陽子)が中性子とほとんど同じ大きさのため、中性子線と衝突した際に中性子線を減速させることが可能である。また、ホウ化水素を構成するホウ素は、上述のように、中性子線を減衰する。ホウ化水素は、このような特性により、中性子線を効率よく減衰することができる。
【0025】
なお、ホウ化水素は、ホウ素原子および水素原子を含む二次元ネットワークを有し、該ホウ素原子が六角形の環状に配列し、該ホウ素原子によって形成される六角形が連接してなる網目状の二次元ネットワークを有していてもよい。また、該ホウ素原子が五~七角形の環状に配列し、該ホウ素原子によって形成される五~七角形が連接してなる網目状の二次元ネットワークを有していてもよい。
【0026】
本実施形態の放射線シールド材は、このようなホウ化物を含有することで、放射線をより効率よく遮蔽することができる。そのため、本実施形態の放射線シールド材で構成された半導体装置用シールド材は、半導体装置において中性子線等の放射線が照射されることによるソフトエラーを抑制することができる。
【0027】
なお、近年の研究により、0.1MeV以下のエネルギー領域においても半導体装置のソフトエラーが増加する傾向があることが明らかとなっている(
図1、https://pc. watch.impress.co.jp/docs/news/1486438.html参照)。
【0028】
これに対して、本実施形態の放射線シールド材は、放射線を効率よく減衰するホウ化物を含有することで、低エネルギー領域(0.1MeV以下)の中性子線も十分に遮蔽することができる。そのため、本実施形態の放射線シールド材では、低エネルギー領域の中性子線が照射することに起因して増加するソフトエラーも抑制することができる。
【0029】
また、本実施形態の放射線シールド材に含まれるホウ化物がホウ化水素の場合、シールド材の密度を高くすることができる。なお、放射線シールド材の密度は、特に限定されないが、例えば、0.94g/cm3以上であり、好ましくは0.96g/cm3以上、より好ましくは0.98g/cm3以上である。なお、放射線シールド材の密度の上限は、特に限定されないが、放射線シールド材の加工性を考慮すると2g/cm3以下である。
【0030】
放射線シールド材の密度が0.94g/cm3以上であると、放射線シールド材の厚みを厚くしなくても放射線を効率よく遮蔽することができる。そのため、本実施形態の放射線シールド材は、シート状またはフィルム状でも放射線を十分に遮蔽することができる。また、このような放射線シールド材で構成された半導体装置用シールド材は、半導体装置において中性子線等の放射線が照射されることによるソフトエラーを抑制することができる。
【0031】
本実施形態の放射線シールド材の形態は、特に限定されないが、粉末であることが好ましい。放射線シールド材の形態が粉末であると、放射線シールド材の成形が容易になる。
【0032】
また、本実施形態の放射線シールド材の粒径は、特に限定されないが、500μm以下であることが好ましく、より好ましくは400μm以下、さらに好ましくは300μm以下である。なお、粒径の下限は、任意であるが、実施可能な下限は、0.1μm以上であることが好ましく、より好ましくは1μm以上、さらに好ましくは2μm以上である。
【0033】
本明細書において、粒径は、メジアン径(D50)で定義される平均粒子径を意味する。粒径は、一次粒子の粒径または二次粒子の粒径のいずれでもよい。
【0034】
図2は、本実施形態の放射線シールド材の粒度分布を示すグラフである。
図3は、本実施形態の放射線シールド材の一次粒子の粒径を示すSEM画像であり、
図4は、本実施形態の放射線シールド材の二次粒子の粒径を示すSEM画像である。なお、
図2において、P1は、一次粒子のピークを示し、P2は二次粒子のピークを示す。
【0035】
図2、
図3より、放射線シールド材の粉末が一次粒子の場合、一次粒子の粒径は、0.1μm以上100μm以下であり、好ましくは1μm以上50μm以下、より好ましくは2μm以上30μm以下である。また、
図2、
図4より、放射線シールド材の粉末が二次粒子の場合、二次粒子の粒径は、20μm以上500μm以下であり、好ましくは30μm以上300μm以下、より好ましくは50μm以上200μm以下である。
【0036】
本実施形態の放射線シールド材の粒径が500μm以下であると、放射線シールド材の密度を高めることができ、放射線を効率的に遮蔽することができる。
【0037】
本実施形態の放射線シールド材の形態は、特に限定されないが、上述のように、放射線を効率よく遮蔽することができるため、シート状またはフィルム状にすることができる。放射線シールド材の形態をこのようなシート状またはフィルム状にすることで、放射線を遮蔽しながら半導体装置をコンパクト化することができる。
【0038】
また、放射線シールド材の厚みは、特に限定されないが、好ましくは1nm以上1000μm以下であり、より好ましくは10nm以上800μm以下、さらに好ましくは100nm以上500μm以下である。放射線シールド材の厚みが1nm以上1000μm以下であると、放射線シールド材の使用量を減量することができる。また、放射線シールド材を用いた部材のコンパクト化が図れる。
【0039】
本実施形態の放射線シールド材では、放射線シールド材の厚みが1cmのとき、放射線が0.5eVの中性子線の場合の放射線の減衰率が1e-2以下であり、好ましくは5e-3以下、より好ましくは1e-3以下である。
【0040】
本明細書において、0.5eVの中性子線は、エネルギー量が0.5eVの中性子線を示す。放射線の減衰率とは、中性子線等の放射線がシールド材の厚み方向にシールド材を通過する前の放射線の線量N1に対する該シールド材を通過した後の放射線の線量N2の比N2/N1を示す。
【0041】
なお、放射線シールド材の厚みが1cmのときの、放射線が0.5eVの中性子線の場合の放射線の減衰率の下限は、特に限定されないが、実施可能な下限は、1e-7以上であり、より好ましくは5e-7以上、さらに好ましくは1e-6以上である。
【0042】
また、本実施形態の放射線シールド材は、放射線シールド材の厚みが5cmのとき、放射線が0.5eVの中性子線の場合の放射線の減衰率が1e-3以下であり、好ましくは5e-4以下、より好ましくは1e-4以下である。なお、放射線シールド材の厚みが5cmのときの、放射線が0.5eVの中性子線の場合の放射線の減衰率の下限は、特に限定されないが、実施可能な下限は、5e-8以上であり、より好ましくは1e-7以上、さらに好ましくは5e-7以上である。
【0043】
また、本実施形態の放射線シールド材は、放射線シールド材の厚みが10cmのとき、放射線が10keVの中性子線の場合の放射線の減衰率が5e-3以下であり、好ましくは1e-3以下、より好ましくは5e-4以下である。なお、放射線シールド材の厚みが10cmのときの、放射線が10eVの中性子線の場合の放射線の減衰率の下限は、特に限定されないが、実施可能な下限は、5e-6以上であり、より好ましくは1e-5以上、さらに好ましくは5e-5以上である。
【0044】
さらに、本実施形態の放射線シールド材は、放射線シールド材の厚みが100cmのとき、放射線が14MeVの中性子線の場合の放射線の減衰率が1e-3以下であり、好ましくは9e-4以下、より好ましくは8e-4以下である。なお、放射線シールド材の厚みが100cmのときの、放射線が14eVの中性子線の場合の放射線の減衰率の下限は、特に限定されないが、実施可能な下限は、5e-6以上であり、より好ましくは1e-5以上、さらに好ましくは5e-5以上である。
【0045】
本実施形態の放射線シールド材は、上述のように、放射線シールド材の厚みが1cmのときの、放射線が0.5eVの中性子線の場合の放射線の減衰率が1e-2以下であることで、中性子線を効率よく遮蔽することができる。そのため、本実施形態の放射線シールド材で構成された半導体装置用シールド材は、半導体装置において中性子線等の放射線が照射されることによるソフトエラーを抑制することができる。
【0046】
また、本実施形態の放射線シールド材は、放射線シールド材の厚みが1cmのとき、放射線が0.5eVの中性子線の場合の放射線の減衰率が1e-2以下であることで、エネルギー領域が100MeV以下の中性子線を十分に遮蔽することができる。
【0047】
さらに、本実施形態の放射線シールド材は、放射線シールド材の厚みが1cmのとき、放射線が0.5eVの中性子線の場合の放射線の減衰率が1e-2以下であることで、低エネルギー領域(0.1MeV以下)の中性子線も十分に遮蔽することができる。そのため、低エネルギー領域の放射線が照射されることに起因して増加するソフトエラーも抑制することができる。
【0048】
本実施形態の放射線シールド材は、さらに、放射線シールド材の厚みが5cmのときの、放射線が0.5eVの中性子線の場合の放射線の減衰率が1e-3以下であることで、放射線をより効率よく遮蔽することができる。そのため、本実施形態の放射線シールド材で構成された半導体装置用シールド材は、半導体装置において中性子線等の放射線が照射されることによるソフトエラーを高い精度で抑制することができる。
【0049】
本実施形態の放射線シールド材は、さらに、放射線シールド材の厚みが10cmのときの、放射線が10keVの中性子線の場合の放射線の減衰率が5e-3以下であることで、放射線をさらに効率よく遮蔽することができる。そのため、本実施形態の放射線シールド材で構成された半導体装置用シールド材は、半導体装置において中性子線等の放射線が照射されることによるソフトエラーをより高い精度で抑制することができる。
【0050】
本実施形態の放射線シールド材は、さらに、放射線シールド材の厚みが100cmのとき、放射線が14MeVの中性子線の場合の放射線の減衰率が1e-3以下であることで、放射線をさらに効率よく遮蔽することができる。そのため、本実施形態の放射線シールド材で構成された半導体装置用シールド材は、半導体装置において中性子線等の放射線が照射されることによるソフトエラーをさらに高い精度で抑制することができる。
【0051】
また、本実施形態の放射線シールド材は、上述のように、ホウ化物を含有することで、放射線シールド材の厚みが0.1cmのとき、1MeVのα線を遮蔽することができる。本明細書において、1MeVのα線は、エネルギー量が1MeVのα線を示す。なお、放射線シールド材が遮蔽するα線は、一次α線、二次α線のいずれでもよい。
【0052】
本実施形態の放射線シールド材は、放射線シールド材の厚みが0.1cmのときに1MeVのα線を遮蔽することで、シールド材の厚みを厚くしなくても、中性子線以外の放射線も効率よく遮蔽することができる。
【0053】
また、本実施形態の放射線シールド材は、上述のように、ホウ化物を含有することで、放射線シールド材の厚みが0.1cmのとき、10.0keVの中性子線を照射した際に二次α線を生成しない。
【0054】
本実施形態の放射線シールド材は、放射線シールド材の厚みが0.1cmのときに10.0keVの中性子線が照射されても二次α線を生成しないことで、シールド材の厚みを厚くしなくても、二次放射線の発生を抑制することができる。
【0055】
本実施形態の放射線シールド材において、ホウ化物の含有量は、特に限定されないが、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは7質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。なお、ホウ化物の含有量の上限は、特に限定されず、最大で100質量%であってもよい。
【0056】
なお、ホウ化物をホウ素(B)に換算した場合、本実施形態の放射線シールド材に含まれるホウ素(B)の含有量は、好ましくは4質量%以上であり、より好ましくは6質量%以上、さらに好ましくは9質量%以上である。なお、ホウ素(B)の含有量の上限は、特に限定されず、最大で95質量%であってもよい。
【0057】
放射線シールド材におけるホウ化物の含有量が5質量%以上であると、放射線シールド材の中にホウ素原子を多く含むため、放射線を遮蔽する機能の低下を防ぐことができる。また、ホウ化物をホウ素(B)に換算した場合、放射線シールド材におけるホウ素の含有量が4質量%以上であると、放射線を遮蔽する機能の低下を防ぐことができる。
【0058】
本実施形態の放射線シールド材は、さらに樹脂を含有してもよい。本実施形態の放射線シールド材が樹脂を含有すると、放射線シールド材の成形が容易になる。また、シールド材が柔軟性、接着性等を有する樹脂を含有することで、半導体装置におけるシールド材の実装が容易になる。
【0059】
樹脂の材質は、特に制限されず、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、フッ化ビニリデン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、アルキッド系樹脂、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、熱硬化型ポリ(メタ)アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、フェノール系樹脂、キシレン系樹脂、マレイン酸樹脂、塩化ゴムや環化ゴム等のゴム系樹脂、石油系樹脂、カゼイン等の天然樹脂が挙げられる。これらの中でも、放射線シールド材の成形が容易になり、半導体装置におけるシールド材の実装が容易になる点で、ポリエチレン系樹脂、ポリイミド系樹脂が好ましい。
【0060】
本実施形態の中性子線シールド材では、樹脂がポリオレフィン系樹脂であると、ポリオレフィン系樹脂は水素を含有するため、中性子線を確実に減速することができる。
【0061】
また、樹脂がポリイミド系樹脂であると、ポリイミド系樹脂は耐熱性が高いため、ポリイミド系樹脂を用いた中性子線シールド材は高温環境に適用可能である。さらに、ポリイミド系樹脂は熱膨張率が小さいため、ポリイミド系樹脂を用いた中性子線シールド材は熱収縮率を低くすることができる。
【0062】
本実施形態の放射線シールド材において、樹脂の含有量は、特に限定されないが、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは93質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以下である。なお、樹脂の含有量の下限は、特に限定されず最小で0質量%であってもよい。なお、樹脂の含有量が95質量%以下であると、放射線を減衰し得るホウ化物の含有量を確保することができる。
【0063】
本実施形態の放射線シールド材は、このような樹脂を含有する場合、ホウ化物を含有する第1の層と樹脂を含有する第2の層とが少なくとも積層された積層体として構成してもよい。
【0064】
なお、ホウ化物を含有する第1の層に樹脂が含まれていてもよく、樹脂を含有する第2の層にホウ化物が含まれていてもよい。また、第1の層と第2の層とが少なくとも積層された積層体は、第1の層と第2の層のみで形成してもよく、第1の層および第2の層をそれぞれ複数積層してもよい。さらに、第1の層および第2の層以外の第3の層を積層してもよい。
【0065】
本実施形態の放射線シールド材では、このようなホウ化物を含有する第1の層と樹脂を含有する第2の層とが少なくとも積層された積層体として構成することで、第1の層は主に放射線を減衰し、第2の層は第1の層を保護することができる。また、第2の層に接着性を有する樹脂を含めること等により、第2の層を介して放射線シールド材の実装が容易になる。
【0066】
本実施形態の放射線シールド材は、このような構成および効果を有することにより、放射線の遮蔽が必要な用途に適用することができる。本実施形態の放射線シールド材が適用可能な用途としては、例えば、半導体装置、半導体装置を用いた電子機器、原子炉圧力容器、原子炉格納容器、原子炉建屋等の原子炉設備、核融合炉、核融合炉建屋等の核融合炉設備、中性子発生機器、宇宙船等が挙げられる。
【0067】
以下、本実施形態の放射線シールド材の用途の一例について説明する。
【0068】
<第1実施形態>
図5は、本実施形態の放射線シールド材を適用した半導体装置用パッケージを備える半導体装置の一例を示す。本明細書において、半導体装置用パッケージは、半導体素子を収納する筐体(ケース)である。
【0069】
図5において、半導体装置1は、半導体素子2と筐体3とを備える。
【0070】
半導体素子2は、プリント配線基板10、SRAM20を搭載するSoC21~24、ヒートシンク30、FPGAダイ40、光トランシーバー50、ヒートスプレッダ60、伝送ケーブル70を備える。なお、伝送ケーブル70は、光ファイバー、銅線、同軸ケーブル等である。
【0071】
プリント配線基板10は、絶縁材料で形成され、SRAM20を搭載するSoC21~24、光トランシーバー50、ヒートスプレッダ60が配置されている。
【0072】
SRAM20は、プリント配線基板10上に実装されたSoC内部のコア21、22の上部に配置、または内部に並列配置されている。また、SRAM20は、HBM(High Bandwidth Memory)23、24などのDRAMと共にSoCとして実装された状態で、TIM(Thermal Interface Materials)25で覆われている。SRAM20の上方には、TIM25を挟んでヒートシンク30が設けられている。
【0073】
FPGAダイ40は、プリント配線基板10上に配置されたシリコン(Si)ダイ41、42として構成されている。シリコンダイ41、42の上部は、TIM43で覆われている。
【0074】
光トランシーバー50は、プリント配線基板10上に配置されている。光トランシーバー50の上部は、TIM51で覆われている。
【0075】
ヒートスプレッダ60は、FPGAダイ40および光トランシーバー50の上方にTIM43およびTIM51を介して配置されている。
【0076】
伝送ケーブル70は、光トランシーバー50に接続され、半導体装置1の外部に延びる。
【0077】
筐体3は、半導体素子2を収納して半導体素子2の外周を覆う。筐体3の底部3Aには、半導体素子2が設置され、筐体3の側面には、伝送ケーブル70を挿通する挿通部3Bが設けられている。
【0078】
半導体装置1では、筐体3が本実施形態の放射線シールド材で構成されている。すなわち、筐体3には、ホウ化物が含まれている。筐体3は、本実施形態の半導体装置用パッケージの一例である。
【0079】
なお、本実施形態の半導体装置用パッケージは、
図5に示すように筐体3で構成するものに限定されず、例えば、筐体3を、シールド材とは別個の絶縁部材等で構成し、筐体3が本実施形態の放射線シールド材で覆われたものでもよい。または、本実施形態の放射線シールド材を半導体のダイ表面上部のみに配置することで、一部の方向からの放射線を遮るものであってもよい。
【0080】
本実施形態の半導体装置用パッケージでは、筐体3のように、上述の放射線シールド材で形成されていることで、半導体素子2の外周の全方位を本実施形態の放射線シールド材で保護することができる。そのため、筐体3の内部に入射する放射線が筐体3によって遮蔽されるため、筐体3に半導体素子2が収納された半導体装置1のソフトエラーを抑制することができる。
【0081】
<第2実施形態>
図6は、本実施形態の放射線シールド材を原子炉用シールド材として適用した原子炉設備の一例を示す。本実施形態の放射線シールド材は、例えば、原子炉で発生した中性子線等の放射線を遮蔽する原子炉用シールド材を構成することができる。すなわち、本実施形態の原子炉用シールド材は、ホウ化物を含有する。
【0082】
原子炉設備は、原子力発電用の原子炉を備え付ける設備である。
図6において、原子炉設備100は、原子炉圧力容器110、原子炉格納容器120、および原子炉建屋130を備える。
【0083】
原子炉圧力容器110は、原子炉の炉心部を収容する容器である。原子炉圧力容器110には、シュラウド140、気水分離機150、蒸気乾燥器160が収容されている。原子炉圧力容器110は、水Wと蒸気Vで満たされている。なお、原子炉圧力容器110には、シュラウド140、気水分離機150、蒸気乾燥器160以外の原子炉設備が収容されていてもよい。
【0084】
また、原子炉圧力容器110の上部には、吸水入口111と、排気出口112が設けられている。排気出口112は、吸水入口111の上方に設けられている。吸水入口111では、原子炉圧力容器110内に水Wを供給される。排気出口112では、原子炉圧力容器110内で発生した蒸気が排出される。
【0085】
シュラウド140は、原子炉の炉心部を構成する。シュラウド140には、燃料棒170、制御棒180が収容されている。
【0086】
燃料棒170は、ウラン等の燃料ペレットを燃料被覆管に詰めて密封したものを、複数本束ねた燃料集合体である。
【0087】
制御棒180は、核分裂を制御して原子炉の出力を調節する設備である。制御棒は、ホウ素、カドミウム等の中性子線を吸収する物質で形成されている。核分裂は中性子線がウランにぶつかって起こるが、制御棒の出し入れによって炉内の中性子の数を変え、核分裂の割合を調節することができる。
【0088】
気水分離機150は、シュラウド140の上方に配置されている。気水分離機150は、シュラウド140から出た気水混合蒸気に旋回流を与え、遠心分離作用によって水分を外側に、蒸気を内側に分離することで、気水混合蒸気を蒸気と飽和水に分離する。分離された飽和水は、シュラウド140の上部の水W中に還流される。
【0089】
蒸気乾燥器160は、気水分離機150の上方に配置されている。蒸気乾燥器160では、分離された蒸気が通過することで、蒸気中に含まれる小さな水滴が除去される。水滴が除去された蒸気は、排気出口112から排気され、図示しない蒸気タービンに導かれる。
【0090】
原子炉格納容器120は、原子炉圧力容器110を格納する。原子炉格納容器120の底部には、シュラウド140の下部を固定する支持部材190が設けられている。原子炉格納容器120の底部には、蒸気圧などによる原子炉圧力容器110内の圧力上昇を抑えるための圧力抑制プールPが設けられている。
【0091】
原子炉格納容器120は、例えば、鋼製ライナを内張りした鉄筋コンクリート製である。本実施形態では、原子炉格納容器120に、本実施形態の原子炉用シールド材が含まれている。この場合、原子炉用シールド材は、原子炉格納容器120を構成するコンクリートに混ぜることができる。
【0092】
原子炉建屋130は、地面Eに設置されている。原子炉圧力容器110が格納された原子炉格納容器120を収容する。原子炉建屋130は、
図6に示すように、原子炉格納容器120と一体に構成されている。原子炉建屋130には、原子炉格納容器120以外の原子炉設備が収容されていてもよい。
【0093】
原子炉建屋130は、鉄筋コンクリート製である。第2実施形態では、原子炉建屋130が本実施形態の原子炉用シールド材で形成されている。この場合、原子炉用シールド材は、原子炉建屋130を構成するコンクリートに混ぜることができる。
【0094】
また、本実施形態の原子炉用シールド材は、上述のように、本実施形態の放射線シールド材で構成されていることで、放射線を効率よく遮蔽することができる。そのため、本実施形態の放射線シールド材で構成された原子炉用シールド材は、少ない使用量で放射線による人体への影響を防ぐことができる。
【0095】
本実施形態の原子炉格納容器120は、上述のように、本実施形態の原子炉用シールド材で形成されていることで、原子炉格納容器120の内部で発生した放射線を効率よく遮蔽することができる。そのため、本実施形態の原子炉格納容器120は、原子炉用シールド材の使用量が少なくても、放射線による人体への影響を防ぐことができる。
【0096】
本実施形態の原子炉建屋130は、上述のように、本実施形態の放射線シールド材で形成されていることで、原子炉建屋130の内部で発生した中性子線等の放射線を効率よく遮蔽することができる。そのため、本実施形態の原子炉建屋130は、少ない建材量で放射線による人体への影響を防ぐことができる。
【0097】
<第3実施形態>
図7は、本実施形態の放射線シールド材を核融合炉用シールド材として適用した核融合炉設備の一例を示す。なお、
図7では、一部の図示を省略している。本実施形態の放射線シールド材は、例えば、核融合炉で発生した中性子線等の放射線を遮蔽する核融合用シールド材を構成することができる。すなわち、本実施形態の核融合炉用シールド材は、ホウ化物を含有する。
【0098】
本明細書において、核融合とは、軽い核種同士が融合してより重い核種になる核反応を示す。例えば、水素の同位体である重水素(D)と三重水素(T)の原子核が融合する核融合反応では、ヘリウムと中性子が発生する。また、核融合炉とは、プラズマを超高真空の炉内で超高温状態にして核融合反応を起こし、反応により作り出されるエネルギーを熱に変換して取り出す炉を示す。
【0099】
なお、核融合炉は、磁場閉じ込め方式と慣性閉じ込め方式とに大別される。磁場閉じ込め方式としては、例えば、トマカク型、ヘリカル型、磁場反転配位型等が挙げられる。また、慣性閉じ込め方式としては、例えば、レーザー型が挙げられる。本実施形態の核融合炉では、一例として、国際熱核融合実験炉(ITER、イーター)が採用するトマカク型の核融合炉について説明する。
【0100】
核融合炉設備は、核融合炉を備え付ける設備である。
図7において、核融合炉設備200は、核融合炉本体210、および核融合炉建屋220を備える。
【0101】
核融合炉本体210は、ブランケット211、真空容器212、トロイダル磁場(TF)コイル213、中心ソレノイド(CS)コイル214、ポロイダル磁場(PF)コイル215を備える。
【0102】
ブランケット211は、核融合炉のプラズマPを取り囲むドーナツ型の壁である。ブランケット211は、例えば厚さ約50cmの低放射化フェライト鋼製のブロック約400個で構成され、高さが約7m、外径約16m、体積約800m3である。ブランケット211は、核融合出力を熱に変えて外に取り出すとともに、一部のブランケット(テストブランケットモジュール)では、熱の取り出しと併せて燃料トリチウムの増殖試験が行われる。
【0103】
ブランケット211の下部には、図示しないダイバータが設けられている。ダイバータは、ブランケット211内のプラズマPから高い熱流や粒子の流れを受けとめる部分である。
【0104】
真空容器212は、プラズマPと、ブランケット211とダイバータを囲んで超高真空を保つための容器である。
【0105】
TFコイル213は、真空容器212の外側に設けられた超伝導コイルである。TFコイル213に電流を流すと、磁場Bが発生する。TFコイル213は、1個あたり約300トンで、これを18個丸く並べて、ドーナツ形の空間に強い磁場Bを作ることで、プラズマPが閉じ込められる。
【0106】
CSコイル214は、ドーナツ型のTFコイル213の中心部に設けられた超伝導コイルである。CSコイル214に電流を流すと、プラズマPに大きな電流が流れる。すなわち、CSコイル214は、プラズマPが1回巻回された2次コイルを構成する。
【0107】
PFコイル215は、真空容器212の外側に設けられた円形の超伝導コイルである。PFコイル215は、プラズマPの形や位置を制御するためのものである。本実施形態では、合計4本のPFコイル215が水平に配置されている。
【0108】
核融合炉本体210では、本実施形態の核融合炉用シールド材が用いられている。核融合炉用シールド材が用いられる核融合炉本体210の部位は、特に限定されず、例えば、ブランケット211、真空容器212等である。なお、核融合炉本体210は、本実施形態の核融合炉の一例である。
【0109】
核融合炉建屋220は、核融合炉本体210を収容する。核融合炉建屋220は、
図7に示すように、核融合炉本体210と一体に構成されている。核融合炉建屋220には、核融合炉本体210以外の核融合炉設備が収容されていてもよい。
【0110】
核融合炉建屋220は、鉄筋コンクリート製である。第3実施形態では、核融合炉建屋220が本実施形態の核融合炉用シールド材で形成されている。この場合、核融合炉用シールド材は、核融合炉建屋220を構成するコンクリートに混ぜることができる。なお、核融合炉建屋220は、本実施形態の核融合炉建屋の一例である。
【0111】
本実施形態の核融合炉用シールド材は、上述のように、本実施形態の放射線シールド材で構成されていることで、中性子線等の放射線を効率よく遮蔽することができる。そのため、本実施形態の放射線シールド材で構成された核融合炉用シールド材は、少ない使用量で放射線による人体への影響を防ぐことができる。
【0112】
本実施形態の核融合炉は、上述のように、本実施形態の核融合炉用シールド材が用いられていることで、核融合炉本体210の内部で発生した中性子線等の放射線を効率よく遮蔽することができる。そのため、本実施形態の核融合炉は、核融合炉用シールド材の使用量が少なくても、放射線による人体への影響を防ぐことができる。
【0113】
本実施形態の核融合炉建屋220は、上述のように、本実施形態の核融合炉用シールド材で形成されていることで、核融合炉建屋220の内部で発生した中性子線等の放射線を効率よく遮蔽することができる。そのため、本実施形態の核融合炉建屋220は、少ない建材量で放射線による人体への影響を防ぐことができる。
【0114】
なお、上述した実施形態では、放射線シールド材を半導体装置、原子炉設備、および核融合炉設備に適用する例を挙げたが、本実施形態はこれらに限定されず、輸送用途、医療用途、または産業用途等の種々の用途で使用されることが期待できる。
【実施例0115】
以下、本実施形態について、さらに実験例を用いて説明する。また、各種の試験及び評価は、下記の方法に従う。
【0116】
[中性子線遮蔽シミュレーション]
中性子線遮蔽シミュレーション計算モデルを用いて、下記の条件で、4種の中性子線源(0.5eV、10keV、14MeV、100MeV)の遮蔽性能を評価した。
【0117】
〔シミュレーション条件〕
・核反応モデル:INCL-4.2
・中性子反応データ(断面積データ):JENDL5.0
・中性子輸送計算(計算コード):MCNP Ver6.2.0
・表1の材質で厚みを変化させて中性子個数の減衰率を計算
・表3の材質で厚みを変化させて中性子個数の減衰率および二次放射線フラックスを計算
・二次α線:中性子とボロファンの反応により発生したα線
・二次γ線:中性子とボロファンの反応により発生したγ線
【0118】
実験例1~7の条件を下記および表1に示し、対応する評価結果を表2、
図8~
図11に示す。また、実験例8~9の条件を下記および表3に示し、対応する評価結果を
図12~
図23に示す。
【0119】
[実験例1]
ポリエチレン(材質2)100質量%のシート(密度0.935g/cm3)である。
【0120】
[実験例2]
ホウ化物としてホウ化水素(ボロファン)(材質1)10質量%およびポリエチレン(材質2)90質量%のシート(密度0.9885g/cm3)である。
【0121】
[実験例3]
ホウ化物としてボロファン(材質1)50質量%およびポリエチレン(材質2)50質量%のシート(密度1.2025g/cm3)である。
【0122】
[実験例4]
ホウ化物としてボロファン(材質1)100質量%のシート(密度1.47g/cm3)である。
【0123】
[実験例5]
ホウ化物でないホウ素化合物としてB2O3(材質1)10質量%およびポリエチレン(材質2)90質量%のシート(密度0.985g/cm3)である。
【0124】
[実験例6]
H2O(材質1)100質量%のシート(密度1g/cm3)である。
【0125】
[実験例7]
Fe(材質1)99質量%およびポリエチレン(材質2)1質量%のシート(密度7.812g/cm3)である。
【0126】
[実験例8]
ホウ化物としてボロファン(材質1)50質量%およびジメチルポリシロキサン(シリコーン樹脂)(材質2)50質量%のシート(密度1.2165g/cm3)である。
【0127】
[実験例9]
ホウ化物としてボロファン(材質1)50質量%およびポリエチレン(材質2)50質量%のシート(密度1.1952g/cm3)である。
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
表1~3、実験例1~9、
図8~13から、ホウ化物を含むシートは、ホウ化物を含まないシートに対して、中性子線の遮蔽率が高いことが分かった。このことから、ホウ化物を適用した放射線シールド材は、中性子線の入射に起因する半導体装置のソフトエラーを抑制することが期待できる。
【0132】
また、ホウ化物を適用した放射線シールド材は、少ない使用量で中性子線による人体への影響を防ぐことが期待できる。さらに、ホウ化物を適用した放射線シールド材は、人体への影響を少なくすることが求められる原子炉設備あるいは核融合炉設備等への適用が期待できる。
【0133】
また、表1、表2、実験例1~7、
図7~10から、ホウ化物を含むシートがホウ化水素シート(ボロファンシート)の場合は、ホウ化水素を含まないシートに対して、中性子線の遮蔽率が高いことが分かった。
【0134】
さらに、ホウ化水素シート(ボロファンシート)は、ホウ化水素を含まないシートに対して、低エネルギー領域(10keV以下)でも中性子線の遮蔽率が高いことが分かった。このことから、ホウ化水素シート(ボロファンシート)を放射線シールド材に適用することで、ソフトエラー発生率が高い半導体装置のソフトエラーを抑制することが期待できる。
【0135】
また、表2、実験例4、5、6から、ホウ化水素シート(ボロファンシート)の理論密度は1.47g/cm3であり、水(1.00g/cm3)や中性子線遮蔽用途で製品化されている酸化ホウ素+ポリエチレン(0.985g/cm3)よりも高いことが分かった。
【0136】
なお、実際にボロファンを油圧プレスで35MPa、15分で圧縮したものの密度は1.23g/cm3であり、理論密度と近い値のため実際の中性子線遮蔽評価でも同様な性能を示す可能性が高い。
【0137】
さらに、表3、実験例8~9、
図14~23から、ホウ化物を含むシートは、中性子線以外の放射線としてα線、γ線を遮蔽することが分かった。特に、
図16から、ホウ化物を含むシートは、厚みが厚くなくてもα線を遮蔽することが分かった。
【0138】
また、表3、実験例8~9、
図14、15、18~23から、ホウ化物を含むシートは、二次放射線の生成を抑制することが分かった。特に、
図20、21から、ホウ化物を含むシートは、10.0keVの中性子線を照射しても二次α線を殆ど生成しないことが分かった。
【0139】
以上に開示された実施形態は、例えば、以下の態様を含む。
【0140】
(付記1)
放射線を遮蔽する放射線シールド材であって、
ホウ化物を含有する、放射線シールド材。
【0141】
(付記2)
前記放射線シールド材の厚みが0.1cmのとき、1MeVのα線を遮蔽する、付記1に記載の放射線シールド材。
【0142】
(付記3)
前記放射線シールド材の厚みが0.1cmのとき、10.0keVの中性子線を照射した際に二次α線を生成しない、付記1または2に記載の放射線シールド材。
【0143】
(付記4)
前記ホウ化物の含有量が5質量%以上である、付記1乃至3のいずれか1つに記載の放射線シールド材。
【0144】
(付記5)
前記ホウ化物がホウ化水素である、付記1乃至4のいずれか1つに記載の放射線シールド材。
【0145】
(付記6)
シート状である、付記1乃至5のいずれか1つに記載の放射線シールド材。
【0146】
(付記7)
樹脂を含有する、付記1乃至6のいずれか1つに記載の放射線シールド材。
(付記8)
前記ホウ化物を含有する第1の層と樹脂を含有する第2の層とが少なくとも積層された積層体である、付記1乃至7のいずれか1つに記載の放射線シールド材。
【0147】
(付記9)
半導体装置に照射される放射線を遮蔽する半導体装置用シールド材であって、
付記1乃至8のいずれか1つに記載の放射線シールド材で構成されている、半導体装置用シールド材。
【0148】
(付記10)
半導体素子を収納する半導体装置用パッケージであって、
付記9に記載の半導体装置用シールド材で形成されている、半導体装置用パッケージ。
【0149】
(付記11)
原子炉で発生した放射線を遮蔽する原子炉用シールド材であって、
付記1乃至8のいずれか1つに記載の放射線シールド材で構成されている、原子炉用シールド材。
【0150】
(付記12)
原子炉圧力容器を格納する原子炉格納容器であって、
付記11に記載の原子炉用シールド材で形成されている、原子炉格納容器。
【0151】
(付記13)
原子炉圧力容器が格納された原子炉格納容器を収容する原子炉建屋であって、
付記11に記載の原子炉用シールド材で形成されている、原子炉建屋。
(付記14)
核融合炉で発生した放射線を遮蔽する核融合炉用シールド材であって、
付記1乃至8のいずれか1つに記載の放射線シールド材で構成されている、核融合炉用シールド材。
(付記15)
付記13に記載の核融合炉用シールド材が用いられている、核融合炉。
(付記16)
付記13に記載の核融合炉用シールド材で形成されている、核融合炉建屋。
【0152】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。